まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
よっし!ようやく冥王フィブリゾの拠点?にたどりついた!
ここまでかかった話数は74(汗)意味のない普通の日のもいれすぎたかな?
まあ、あとはさくっと冥王とのカタがついて、それからリナ達が元通りの日常に~
でこのパラレルも完成だ!(こらこら
ちなみに、題名のとおり、あくまでパラレル。
エピローグでもう一つの世界、すなわちレナ達のその後をやる予定。
…80以内で収まる…かな?
ともあれ、いくのですvまたまたエル様視点ですv
途中までは客観的?とおもわせるかきかたを目指してみましたv(こらこら
ちなみに、副題から察するとおり、暗いです。おそらく間違いなく感情面からすれば暗いです。
それでもよければお付き合いください……
#####################################○パラレル・トラベラーズ○~冥王宮~
「…あれ?」
「…あいかわらず、趣味がわるい……」
ドーム型のような建物に入って歩くことしばし。
ふと全員の足が思わず立ち止まる。
先ほどまで周囲にあった水晶のような品は今この場にはない。
目の前に広がるのは先ほど抜けてきた街並みとほぼ同じ光景。
先ほどまでの光景と異なるのはそこに多々とした人々がいる、という点。
「なあ。リナ?なんでこいつら死んでるのにいきてるんだ?」
そんな光景をみて多少首をかしげつつも横にいるリナにと聞いているガウリイ。
「…なんだ、これは……」
気配でわかる。
ここにいる人々は『生きて』はいない。
だけども普通に目の前に生きているときのように動いている。
感覚でわかってしまうがゆえに顔をしかめるしかないラウリィ。
「…幻影…か?」
見上げる空も青く広がっており、先ほどまでの光景が嘘のよう。
ここが砂漠の中だ、ということすら忘れてしまう。
しかし油断はできない。
そもそも相手は伝説級といっても過言でない相手。
一筋縄でいくような相手ではないのを自覚しているがゆえに顔をしかめてつぶやくゼルガディス。
「なんか予想していたよりほんわかしてますね」
そしてまた、周囲をみわたしきょろきょろしてそんなことをいっているアメリア。
周囲をみわたせど緊張感も何もない。
あるのは普通のどこにでもあるような生活空間。
それゆえに戸惑いを隠しきれないのも事実。
「ようこそ。名物はいかが?」
そんな彼らにまだ若い女性が籠をもち近づいてきてにこやかに何かを差し出してくる。
見た目は普通の果物。
甘い香りが周囲に漂う。
「あ、ありがとうござい……」
素直にそれを受け取ろうとするシルフィール。
「ってまった!」
そんなシルフィールに対し、あわててまったをかける。
女性のほうは果物を差し出したままでさあどうぞ、とばかりに笑みを浮かべている。
この光景は覚えがある。
それはもう嫌というほどに。
あのときと異なるのは『彼女』にとっての知り合いではない、ということくらいか。
産まれ慣れ親しんだ人々が目の前によみがえっていたあのときの彼女の心境。
そして突きつけられた真実。
あのときのことをリナは忘れてはいない。
否、忘れられない。
「リナさん?親切な人に対してそれは失礼ですっ!」
相手が親切に果物を渡そうとしているのにそれを止めるなど相手を傷つけることに他ならない。
ゆえにこそそんなリナに対して文句をいっているアメリア。
アメリアはかつての出来事を知らない。
ゆえにリナの心情をしるよしもない。
「アメリア。あんたここがどこか忘れてない?用心にこしたことはないのよっ!」
そんなアメリアにひとまず注意を促しているレナ。
確かにここは紛れもなく冥王の拠点に他ならない。
そのことは先ほどまでの光景で嫌、というほど味わった。
「あんた達の目的は何?いっとくけどあたしたちはアレの欠片なんて口にしないわよ?」
油断することなく身構えたまま目の前の女性に対して表情を崩すことなく言い放つリナ。
相手が望むもの。
おそらくは以前のときと同じであろうことは容易に想像がつく。
ここにあるものを口にすること。
すなわちそれは、冥王の力というか彼の欠片を体内にいれることに他ならない。
体内にはいったそれはやすやすと人の肉体などならば容易に破壊する。
「欠片?」
よくわかっていないらしく戸惑い気味に問いかけるアメリアに対し、
「おそらく。ここはあたしたちを混乱させるべくあいつが造った空間よ。
まったく、どこにおいても趣味がわるいったら……
ここにあるのはすべて、あいつの魔力によって作り出されたもの。食べ物にしろ、何にしろ…ね」
人を油断させておいて餌をまく。
それが冥王のやり方だ、とリナはかつての経験で学んでいる。
「…魔力によってつくりだされた?それは……」
シルフィールの問いかけと、
「…すごいですねぇ。これをみただけですぐさまにそこまでいいあてるなんて。
普通のひとたちならあっさりと陥落してしまうんですけどねぇ~」
普通ならばこのあまりにも平和な光景にだまされてそのまま先にすすむことなく命を落とす。
否、命を落とすだけならまだしもそのままいいように駒としてつかわれる。
しみじみと感心したようにつぶやくゼロスの言葉はほぼ同時。
こんがりとしたいい匂いが鼻につく。
「と、とにかく!特にガウリイ!あんたもお腹すいたからって手をだすんじゃないわよっ!」
一番の問題はこいつだし。
以前のことを経験していないがゆえにあえて強い口調で注意する。
「いくら俺だって魔族をたべようとはおもわないぞ~?」
そんなリナの言葉に心外、というような顔でぼそっといっているガウリイ。
そんな彼らのやり取りをみつつも、
「いつまでそう虚勢を張っていられますか?冥王様がおられるのはこの奥、ですよ?」
くすくすくす。
あくまでもにこやかな笑みを浮かべたままの表情でくすくすと笑いつつ、
果物らしきものを手渡そうとした女性がとある方向をすっと指し示す。
すっと指差されたそこは露天商が立ち並ぶ道沿い。
その奥にたしかに何か奥につづいているような建物のようなものが垣間見える。
「…冥王…さま……って……」
魔王を信仰しているのならいざしらず。
普通、魔族に対して様をつけるものなどそうはいない。
当人が魔族であるならいざしらず。
リナ達の周囲にも露天商からであろうおいしそうな匂いが漂ってくる。
ここにくるまで確かにかなり疲労がたまっている。
お腹がすいていないわけではない。
おいしそうな匂いにつられ誘惑にまけてしまうこと。
すなわちそれは即死を意味する。
それをリナはかつての出来事で理解している。
だからといってこの場にいる皆にそれを説明する気は到底ない。
そうすることでこの世界のシルフィールを悲しませてしまうのはわかっている。
だからこそ説明しない。
せっかくあの悲劇はこの世界では回避されたというのにわざわざ教える必要性などはない。
あの痛みは自分に課せられた罪でもある、そうリナは思っているのだからなおさらに。
「とにかく!ここを走り抜けるわよっ!」
リナの言い分はもっとも。
詳しく説明はされないが何となくだが理解ができる。
「…ちっ。こそくな手をつかってくるとは。魔族ってこうも露骨なのか?」
むかむかしてくる気持ちはおそらく間違ってはいないであろう。
ゆえにこそ吐き捨てるようにと言い放つ。
「とんでもない!冥王様がただ楽しんでおられるだけですっ!ゼルガディスさん。勘違いしないでくださいっ!」
姑息、といわれて抗議の声をあげているゼロス。
「僕らは普通こんな周りくどい真似なんかしませんし。邪魔ならさくっと消せばいいだけですし」
「ゼロスさん。それも正義ではありませんっ!」
何やら至極魔族としては当然のことをいいはなつゼロスにすかさず突っ込みをいれているアメリア。
「あ、あの?リナさん?それにラウリィ様?ガウリイさん?いったい何が……
レナさん。いったい何がどうなってるの?」
一人よくわかっていないシルフィールはといえば戸惑い顔。
それゆえに戸惑いつつもレナにと問いかける。
「とにかく。これらは敵が用意していた誘惑ってわけよ。人の生理現象の一つである食欲を利用した…ね」
何となくだが理解した。
否、してしまった、というほうが正しいのだが。
ここにいる存在達はすべて『命』が正しく起動していない。
『リナ』の視点でみればそれぞれに魔力が重なっているのが見て取れるがゆえに判ってしまった。
ここにいるものたちすべてはかりそめの肉体を与えられているに過ぎない…と。
彼女が見た目ほど弱くない、というのはレナとて理解しているつもり。
しかし、わかっていても悲しませたくなどはない。
彼女は優しい。
ここにいるものすべてがすでに死んでいる者たちであり、利用されている。
そう知ったとき彼女はきっと悲しむ。
それがわかるからこそ詳しく説明することなく多少言葉を濁して説明するレナ。
「とにかく!みんな!いくわよっ!」
「あ、みなさん、まってくださいっ!」
すうっと息をすいこみそのまま脱兎のごとくに駆け出してゆく。
そんなリナに続いてレナやアメリア、といった彼らもまた駆け出してゆく。
わいわい、がやがや。
周囲にいる人々はリナ達一行にたべものを渡そうとあれやこれやの勧誘の声を投げかけてくる。
中には走っている彼らにたべものを差し出すものの姿も多々といる。
それらを回避するには何も考えずにひたすらにとにかくこの場を走り抜けるのが良策。
いくら相手が死んでいる、と頭ではわかっていてもどうみても普通の人達を傷つけることはしたくない。
それゆえの判断。
いい匂いにつられてお腹がなってしまう。
何かを口にしたい思いをどうにかこらえ、
どうにか道の先にあるぽっかりと黒くみえる出入り口らしき場所にそのまま駆け込むリナ達七人。
「やっと抜けた……」
ぐ~きゅるる……
誰ともなく盛大にお腹の音が鳴り響く。
どうやら誰も追いかけてはきていない様子。
「とりあえずここでひとやす……」
まずは一息つかなければ身がもたない。
それゆえに少し休もう、と提案しようといいかける。
が。
「リナさん!?これって…何がどうなっているのですか!?」
リナがいいかけるより早く、悲鳴にもにたシルフィールの声が響き渡る。
周囲は薄暗く、ほのかな明かりのみが彼らを照らし出す。
ふと見上げる空にはぽっかりとした月らしきものが垣間見えている。
が、問題なのはそこではなく。
「ようこそ。おつかれでしょう。食べ物でもいかが?」
聞き覚えのある声がする。
声のほうをみてみれば先ほど籠をもってきていた女性と瓜二つの女性の姿。
そしてまた、目にはいる光景もまったく先ほどドーム型の建物らしきものにはいったときとほぼ同じ。
異なるのは…周囲が暗闇に…しいていうならば夜の闇に包まれている、ということくらいか。
夜だ、というのにほのかな明かりのもと屋台は同じように開かれておりいい匂いが周囲に充満している。
「お疲れでしたらそこの宿屋にとまってはいかが?おいしい食べ物もありますよ?」
にこやかにそういってくる女性は笑みを浮かべているまま。
さらにいうならば先ほどと同じように果物らしきものを差し出したままで笑みを浮かべていたりする。
「…やってくれるわ……」
これが意味すること。
それが何を意味するのか瞬時にさとり、思わずつぶやくレナの姿。
「どういう…ことだ?」
全力疾走したがゆえ、疲れてはいる。
いるが目の前の光景が先ほどと同じ、ということはすなわち、まだ何か理由があることに他ならない。
それゆえに警戒しつつもつぶやくゼルガディス。
「…無限…空間………」
少しばかり空間をいじることにより、終わりのない空間を創ることは可能。
紙をすこしねじりその中心をきったときに途切れることなく輪は広がる。
原理はまさにそれと同じこと。
一度踏み入れれば終わりのない空間。
おそらく幾度この場を抜け切ったところで同じような現象が起こるであろう。
それを瞬時に悟り、にがにがしく再びつぶやくリナ。
ここから抜け出すにはここを創りだしている魔力以上の魔力をぶつける。
もしくはすべてを無に還す、そのどちらかの方法しかあり得ない。
それが人にできる精一杯の方法。
「…もしかしてまた全力疾走…ですか?疲れました……」
何が何だかわからない。
わからないが普通でないことくらいはいくら何でもわかる。
そしてまた、先ほどと同じような光景が広がっていることから思わずつぶやいているアメリア。
ここにくるまでもろくに休んでいない。
そんな中でおいしそうな匂いが充満しているのに何も食べずにひたすらに走る。
それは精神的にかなり苦痛となる。
「竜破斬を放ったらこの空間突破できるかしら……」
「リナさん。なんてことを。ここには普通に生活している人達がいるんですよ!?」
おもわずぽそり、とつぶやくそんなリナの言葉をうけ、何やら抗議の声をあげてきているシルフィール。
「これって普通なのか?死んで生活してるのに?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』
そんなシルフィールに対して首をかしげつつさらっといっているガウリイ。
そんなガウリイの言葉の意味を捉えかねて思わず間の抜けた声をだしているシルフィールとアメリア。
たしかに目にみえている人々は普通に生活しているようにみえる。
しかしそれはかりそめにしかすぎない。
そのことをリナはかつて身をもって経験している。
そしてまた、ガウリイとラウリィはその天性における勘によって理解している。
この場にてきちんとよく理解できていないのはアメリアとシルフィールの二人のみ。
「召喚術で空間を正常に戻す、とかは無理か?」
そんな中でゼルガディスがつぶやいていたりするが。
「冥王の魔力に人の魔力が勝てる、とおもうわけ?」
「・・・・・おもわない、な」
どうしても人、と魔の魔力容量の差は歴然としている。
下手にいじれば余計にややこしいことになりかねない。
ゼルガディスの提案に即座にこたえるリナに対してこたえようがないのも事実。
『…ここでとまっていてもどうしようもないし。レナ。竜破斬唱えるからかわって』
戸惑いを隠しきれないそんな中、レナに心の中で話しかけている『リナ』。
ここで『リナ』がどちらにしろ術を唱えたとしてもそれは逆に冥王が目をつける結果になりかねない。
そもそも自分が何かをしなければ後がこわい、という思いがひしひしとする。
「え?でも、リナお姉ちゃん?」
言外にいいたいことを察して思わずレナがつぶやくものの。
『ここを突破するにはこの方法が一番…みたいだしね。とにかくかわって』
しかしここで変わる、ということは相手にその内なる存在を教えることになりかねないのではないか。
そんな不安がレナの脳裏に浮かぶものの、
『このままだと、皆の精神がもたないわ』
このままほうっておけばおそらくここに住まう人々は間違いなく刺客となり襲ってくる。
それだけは確信がもてる。
それならば先手をうつより他はない。
「…黄昏よりも暗きもの 血の流れより紅きもの……」
「レナさん…でなくて、リナさん!?」
すっと目を閉じたかとおもうと次の瞬間、混沌の言葉を唱え始めているレナ。
その雰囲気からレナではなくリナに変わったのだ、と理解して思わず声をあげているシルフィール。
シルフィールもまたレナとリナが一つの肉体を共有しているのを知っている。
ゼフィール、そしてルナからそのあたりのことの説明をうけている。
それゆえに驚くことはないのだが、驚いたのは別の意味。
ここでその呪文を使うこと。
すなわちここにいる人々を巻き込むことに他ならない。
それゆえの叫び。
それと同時。
今まで普通に生活していた人々の動きがぴたっととまる。
そしてそのまま彼らはそれぞれにリナ達のほうにむかってにじりよってくる。
それぞれの手に持たれているのは…どうみても凶器になりえる品々。
小さな子供から大人、あげくは老人に至るまですべてが様々な武器を手ににじりよってきているのが目にとまる。
人々の目にみえるのは、まぎれもない…殺意。
「皆、結界をはって!空間がねじれるわよっ!」
『リナ』が何をしようとしているのか。
それをすばやくさとりすばやく風の結界を張り巡らせるリナ。
いくら相手が本来死んでいるとはいえやはり戦いたくなどない。
彼らは普通に生きているときと同じように痛みを感じれば血も流す。
あのとき、ちいさな子供を手にかけたあの感触をリナはいまだに覚えている。
リナの言葉に瞬時に悟り、あわてて風の結界をさらに張り巡らせているゼルガディス。
彼らが風の結界を張り巡らせるのとほぼ同時。
「竜破斬!!」
ドォォッン!!!!!!!
周囲に群がる人々を巻き込んで、『リナ』の放った竜破斬が…炸裂する――
「…これって……」
「って、さっきまでいた人達はどうなったんですか!?」
よくわかっていないのか叫んでいるアメリア。
一方では一人状況を把握しようとしばらく考え込んでいるゼルガディス。
先ほどまでこの場にあった街並みはことごとく消え失せ、この場にあるのは無機質、ともいえる空間。
「魂そのものは冥王のやつが捕えてるから解放は無理みたいだったけどね」
そもそも、力加減を間違えればこの場所ごと破壊してしまう。
ゆえにあの場を構成していた魔力よりも少しばかり多めの魔力をぶつけた。
「ちょっとまて。普通の人間にまがりなりにも高位魔族の造り出してる空間を壊せることができるのか?」
しばらく考え込みつつもそんなことを『リナ』に向かって問いかけているゼルガディス。
「細かいことはきにしたらだめよ」
「…あの。その…大丈夫、なのですか?」
『リナ』の中に何がいるのはシルフィールは知っている。
一応、彼女も知っておいた方がいいであろう、というのでルナ達から説明がなされている。
そして、協定を結んでいる、ということも一応正確ではないにしろ聞かされている。
しかし知っているがゆえに心配しつつも問いかける。
「大丈夫よ」
というかあいつも率先して協力してくれてるし。
…ま、そりゃそうよね……
というか、あたしだって『彼女』の矛先はむけられたくないし。
そんなことを内心思いながらもそれを表情に表すことなくそんなことをいっている『リナ』。
・・・・・・・・あとでどつく・・・・・
「とりあえず、先に進みましょ」
何か詳しくききたいような気がひしひしとするが、聞くのも何だか怖いような気がする。
こういうときは何もきかないに限る。
そのことをリナは身にしみてわかっている。
「とりあえず気配が強い方向にすすめばいいんだろ?」
「この下のほうから強い気配はしてますね」
何やら二人してそんな会話をしているガウリイとラウリィ。
もやもやとした霧のようなものに足元は包まれているものの、先ほどまでの気配はまったくない。
先ほどまでこの場にいた魂達は一度元の場所にと戻っている。
すなわち、彼らの魂の本体が閉じ込められているその場所へ。
「じゃ、この下にいけばいいわけね」
とりあえず先に進まなければ話しにならない。
それゆえに。
「魔王剣!!」
キッン!
『リナ』の言葉をうけて『リナ』の手の中に紅い刃が出現する。
「使えるんだ…それ……」
この技を使っていた人物のことを思い出し少しばかり声が沈んでしまうリナ。
「そういえば、いつのまに、レナとリナが入れ替わったの?」
ふといまさらながらにそのことに気付いてといかけているアメリアの姿がみてとれる。
彼女も一応、リナとレナが一つの体を共有している、というのは聞いているので知っている。
しかしアメリアは彼女達がもっている事情は知らされてはいない。
「気にしない。きにしない。とにかく、まずはあいつの勘違いをとめてからすることをするわよっ!」
そもそも、このままアレを利用しようとするなり、またかの力を利用しようとするなり。
本来のあり方を勘違いしている以上、こちらが動くしかないのが現状。
かといって大っぴらに動けないのも事実。
そんなことを思いながらもまずはできることを。
それゆえにおもいっきり手にした刃を足元にむけて振り下ろす。
「いや、普通きになるとおもうぞ……」
いくら魔王の力をかりた刃といえども人間の魔力容量には限度がある。
しかし今、『リナ』が使っている刃はやすやすと冥王が造り出した空間を切り裂いている。
それが金色の王の力ならばわかりもするが……
そんなことをおもいながらぽそっと突っ込みをいれているゼルガディス。
「とにかく!先にいきましょう!」
そのままふわり、とぽっかりと空いた足元の空間に身を躍らせる。
空間が多少いまだに不安定であるがゆえに上下、という概念はない。
概念はないものの感覚的には落ちてゆく感覚のそれとかわりはない。
「あ、まってください!」
ふわり、と先に降りた『リナ』に続いてあわてて追いかけるように穴に身を躍らせるシルフィール。
とりあえずこの場にいつまでいて仕方がない。
それゆえにそれぞれ『リナ』の開いた新たな道へと身を投じてゆく――
「へ~…面白いね。あの人間……」
自分の造った空間を人間ごときが壊せるはずもない。
しかしあの人間はそれを壊した。
いくら姉が姉だといって普通の人間にそんな真似ができるはずもない。
もっとも、かの御方の力をつかったならば話しは別だが。
あの人間の輪廻を見通すことができないのも気にかかる。
おそらくそれはかの赤の竜神達が何らかの手をうっているからに他ならないのであろうが。
自分とて、赤の竜神や水竜王と喧嘩する気はさらさらない。
が、しかしそれでも『欠片』が目覚めれば少なくとも勝機はあるというもの。
「これと彼女達の力を利用したら、世界を無に還すことも夢じゃないよね」
くすくすくす。
くすくすと笑いながらもその視線の先にあるのはゆらゆらと大きくなったり小さくなったりしているとあるもの。
その形も様々な形に変化しつつも時折魔方陣のような形式をとっているのが見て取れる。
本来ならばきっちりと境界があるべき世界。
その世界の理がこの【扉】には通用しない。
裏をかえせばこれを使えば異界の力すらこの世界に引き込むことも可能。
水晶に映し出されているそれは彼自身が座っている場所からさらに地下に存在しているもの。
下手に近づけば自分の力すらそがれかねないその感覚。
それが『あのおかた』の力に関係しているものだ、とすぐに理解した。
自分が動けないので駒にしている生き物達の魂を使いどうにか様子だけはみれるようにしている今現在。
これが出現したのは少し前。
目をかけていたはずの欠片が目覚めたあたりから。
気配が消えたことによりこれに気付いた、というのはあるにしろ。
しかし完全に手がだせるようになったのはガーヴを殺してから。
どうやらガーヴのやつが何か最後の力でちょっかいかけたからみたいだけど。
そうはおもうがどちらかといえば自分にとっては有利にことははこんでいる。
「そういえば他にも何か鼠がはいりこんでたようだけど…気配ももうないし。
何かにとりこまれたかな?ま、いいけどね」
人の魂を好物にしている輩もいる。
そんな生き物に人の魂ごときが喰われようが何をされようが彼からしてみればどうでもいいこと。
「まずは、久しぶりのお客さんだし。楽しませてもらおうか」
くすくすくすくす。
ちょうどいいものもみつかったしね。
どうやら久しぶりに楽しめそうである。
それゆえにくすくすと笑わずにはいられない。
しばし一人くすくす笑う少年の姿をしたフィブリゾの姿は次の瞬間、周囲にとけこむようにかききえる。
――次なる舞台の用意をすべく……
「……え?」
思わず茫然とした声が漏れ出してしまう。
見慣れた光景が眼下にひろがっていればなおさらに。
「……まさか、ありえないっ!」
そう。
ありえない。
あの悲劇はたしかに自分達が回避したはず。
ならばあの出来事は『ここ』ではおこりえるはずもない。
だがしかし、ゆっくりと降り立つその眼下に見えるのは見覚えがある景色。
「……これは……」
見覚えがある光景。
異なるのは目立つ『樹』の姿の変わりにそこにドーム型の建物がある、ということ。
「あの悲劇はここでは回避したはずよっ!」
悲鳴に近いリナの叫び。
「リナ。落ち着け!」
リナの心情はわからなくもないがゆえに狂わんばかりに叫ぶリナを必死で後ろから抱き締めているガウリイ。
あのとき自分が捕らわれたばかりにリナをつらい目にあわせた、
という思いはガウリイからしても忘れられるはずもない。
「これは…サイラーグの…街並み…か?」
さきほどの街並みとはまた異なる光景。
しかも今度はゼルガディスも幾度かみたことのある街並み。
先ほど異なるのは人の気配がまったくしない、という一点のみ。
眼下に見えるサイラーグの広場。
その中央に垣間見えるのは人影一つ。
果てしなくいやな予感がリナの脳裏を駆け巡る。
たしかに、たしかにあの悲劇は回避したはずなのに。
神聖樹がハゼ割れたというのは確かにきいた。
がしかし、街全体が消滅した…とは聞いてはいない。
ゆえに一瞬、リナの思考が混乱する。
そしてまた……
その人影の姿をその視界にとらえ、シルフィールの目が大きく見開く。
口元がわなわなとふるえているのはおそらく誰の気のせいでもない。
「……お父…さま……」
シルフィールのかすれたつぶやきはその場にいた全員の耳にとどきゆく。
視界にはいるその姿は紛れもないシルフィールの父親の姿。
ゆえにこそおもわず声が漏れる。
「サイラーグの神官長!?今度は知り合いをだしてくるとは。卑怯ですっ!」
いくら本人でない、とわかっていても知り合いが相手だと人はどうしても油断をしてしまう。
それが身内ならばなおさらに。
こんな場所にそんな人物がいるはずがない。
可能性とすればただひとつ。
冥王が何かをまた仕掛けてきている、というこの一点。
魔族はどこまで卑劣な手をつかってくるんですか!?
アメリアの心の葛藤はすでに限界を超え始めている。
それでなくても魔族に身内を利用された、という点でいえばアメリアとて同じこと。
それゆえの叫び。
ゆっくりと彼らが降り立った場所は人影がみえた位置。
サイラーグの中心に位置しているちょっとした広場。
その中央にある噴水の横に神官の服をまとった男性が一人たたずんでいる。
「…どうし…て……」
ここにいるはずのない父親の姿。
ゆえにシルフィールは混乱しきっている。
理性では魔族が仕掛けた罠だとわかっていても感情がおいつかない。
「…あんた、死んだ…のか?」
かつてあったときと気配が違う。
「…エルク殿…いったい……」
かつて出会ったあのときと明らかに気配が異なる。
『……アレ、に近づいた…のか?』
しばらく沈黙をまもっていたゴルンノヴァの内部にいる『ガウリイ』もまた思わずつぶやきをもらす。
あのとき、冥王が干渉してきたことをうけてその旨は確かにスィーフィード達にも伝えたはずなのに。
だがしかしそれは遅かった、ということなのか。
それゆえのつぶやき。
「……シルフィール……」
少し低い聞きなれたその声。
「お父…さ…ま?」
ありえない。
ありえない。
父はサイラーグにいるはずである。
なら自分がいまいるここはサイラーグだ、とでもいうのか。
見慣れた光景。
見慣れた街並み。
ふらり、と足元が崩れ落ちそうになるのをかろうじてゼルガディスが受け止める。
「どうして……」
かつて聞かされた、リナ達の世界においての悲劇。
ここではそれは回避されていたはずなのに。
なのに、どうして。
ゆえにこそ、どうして、という思いのほうがゼルガディスからしても強い。
「…ようこそ。みなさん。そしておひさしぶりです。リナさん方。
…このような形でみなさんに再びお目にかかるとはおもってもいませんでした……」
思ってもいなかった。
それは事実。
「……やってくれるわね……フィブリゾが何かしたのね?」
それは確信。
それゆえの『リナ』の問いかけ。
「こんなところで立ち話も何です。みなさん我が家へどうぞ」
確かにここで止まっていても仕方がないといえば仕方がないが。
「ここで聞かせてもらえないかしら?」
そんな『リナ』の言葉にしばし黙り込んだのちにこくり、とうなづき。
「…そうです。ね。あなた達には…真実をお知らせする義務が私にはあるでしょう。
…私はすでに御察しのとおり、生きてはおりません」
「お父様っ!!?」
沈んだ声でそれでいてはっきりとそういいきるサイラーグ神官長、エルクの言葉にシルフィールが叫ぶ。
聞きたくない。
聞きたくないの。
お願い。
誰か…これも魔族の幻影だ、といって。
シルフィールの心の中でそんな思いが駆け巡る。
「許されていないことはお話しすることはできませんが。…ですけど、娘には知っていてもらいたいのです。
そして今後の娘の行く末を皆さまにお願いしたいと……」
「嫌っ!!」
ふるふると首をふるシルフィールをただただ抱きしめることしかできない自分がとてもはがゆい。
ここのシルフィールには悲しい思いはさせたくなかったのに。
でも、いったいどうして……
そんな思いがリナからすればかなり根強い。
「すべては、いきなり我が街の象徴たる神聖樹がいきなり消滅したことにあります」
淡々とした口調でゆっくりといきさつを語りだす。
いきなり消えた、としかいいようのない神聖樹。
街の象徴たる樹が消えるなど前代未聞。
ゆえにこそ神官長であるエルクを含むいく人かがその様子を確認しに向かった。
辺りに立ち込めている瘴気。
それらは何とか風の結界を張ることにより近くに近づくことができた。
かつて神聖樹があった場所にはそこがみえない深く暗い穴が開いており、
そこを覗きこんだその刹那。
黒き穴から『何か』がでてきた。
それは真っ黒な手のような触手のような、『何か』。
咄嗟に近くにいた街のものを突き飛ばしたものの、エルクはそのままその『何か』に捕らわれた。
そしてそのまま穴の中へと引きずりこまれ…
気がついたときに自分がすでに『死んで』いることを知った。
冥王の命令に逆らうことすら許されない我が身。
そして生前の姿を保ったまま娘達を出迎えるように命令を下した『冥王』。
伝説だ、とおもっていた。
神に使える身とはいえ本当に存在している、とは夢にも思ってはいなかった。
ましてや自分が娘を悲しませる存在として利用されようとは夢にも思っていなかった。
それでも…逆らえない。
自らの魂はすでに冥王の手のうちにある以上、彼としても身動きがとれない。
今ある現実。
自分自身の身におこった真実。
それを語りおえたエルクの瞳は果てしなく悲しみの色にと捕らわれている。
「どうか…私を解放してください。このまま魔の手先として存在しつづけるのは……
……私は望んでなどいないのです」
解放される手段はただ一つ。
目の前の人物はその方法を持ちえている。
冥王フィブリゾの目的もそれだ、とは理解している。
いるが解放してほしい。
下手をすれば自分の手で故郷の人々をも手にかけるハメになってしまうかもしれない。
冥王に捕らわれているであろう魂を解放する手段は確かにある。
そしてその手段をレナもリナも持ち合わせている。
だからこそつらいことを頼んでいるのはわかっている。
判っていてもどうしても懇願せずにはいられない。
「――…わかったわ」
「リナさんっ!」
シルフィールの悲鳴に近い声。
「リナさん。わざわざあなたがしなくても……」
『リナ』の言いたいことはわかる。
わかるが、しかし。
「あなた達に苦しい思いはさせたくないの」
それはリナの本音。
重すぎる枷を担うのは…自分だけでもう十分。
「何か、何か方法があるはずですっ!ね!?そうでしょう!?」
アメリアとしても何とかしたいのが本音。
何か絶対に方法があるはず。
目の前の人物はどうみても生きているようにしかみえない。
だとすれば何か絶対に方法があるはず。
「残念ですが…私のこの肉体もすべて。冥王様の手により魔力でつくられたもの。
私の肉体はすでに魔物達の餌として存在しておりません。
ここにいるのは私であり私ではないのですよ。アメリア様。
…シルフィール。お前は強い子だ。この現実を…うけとめれるね?」
「嫌ですっ!!」
自分は父親が死ぬのをみるためにサイラーグを出てきたわけではない。
父親が死んでいる、と聞かされても目の前にいる以上、信じられるはずもない。
だけどもそれが真実だ、とシルフィールに残酷な事実をつきつける。
シルフィールの手を握ったエルクの手は果てしなく冷たく命の鼓動がまったくもって感じられない。
「…どうか。母なる加護を……悪夢の王の一片よ 凍れる黒き虚ろの刃よ……」
「やめて…やめてください。リナさん!いやぁぁっっっっ!」
「リナさんっ!!」
シルフィールの叫びと、アメリアの叫びはほぼ同時。
自分でも体が震えているのがわかる。
知り合いを手にかけるのは初めてではない。
しかも、彼をあるいみてにかけるのは二度目…否、三度目、といっても過言ではないのだからなおさらに。
コピーレゾの戦いにおいて命を落とし、冥王の魔力によって復活していた彼らを再び消滅させ…そして、今。
おそらくリナがしていることは正しい。
それ以外に方法はないのだ、と理性では理解している。
「よせっ!」
「シルフィール!」
止めようとするアメリアをゼルガディスが制し、シルフィールをラウリィが制する。
人の身で虚無の刃に触れればどうなるのか。
それは嫌でも想像がつく。
「リナ」
そんなリナの横手からそっとガウリイが手を添える。
「自分一人で何でも背負おうとするな」
ガウリイの台詞をとても心強くかんじつつ、
「……神滅斬」
目をつむったエルクに対し…リナの虚無の刃が振り下ろされる。
闇の刃に触れると同時。
笑みを浮かべシルフィールに向かいかるくさよなら、と言葉をかけながらエルクの体はまたたくまにとかききえる。
闇の刃に飲み込まれるかのごとくに。
虚無の刃は無の力。
混沌へと通じている力。
すべての力は『我』の前では無と化す。
すべてはあるべき元へ…我が元へと還るがゆえ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!!!!」
辺りにシルフィールの何ともいえない叫びが響き渡ってゆく……
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あとがきもどき:
薫:…え~と…回避されたはずなのでは……(滝汗
L:ああもう!どうしてこうもこのあたしの気配にすらきづかないのよっ!
薫:・・気配を隠している時点で何ものも無理だとおもうのですけど(ぽそっ……
というか、なぜにどうしてサイラーグ!?
L:サイラーグの巫女頭がいるからってフィブリゾがちょうどいいからって利用してるだけよ
薫:・・『だけ』って……
L:まあでも、エルクだけしか利用されてないからね。サイラーグの人々はエルク以外は無事よ?
薫:・・・そういう問題では……
L:そんなことより!あたしの活躍は!?あたしがまったくでてないのはどうしてよっ!
薫:…って、エル様一人称にしてるんですけど……
L:あたしの活躍~!!
薫:ってんきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
L:あら?何かちょっと叫んだだけでなんかどこかにいってるし。
さってと。どこかに消えた薫はおいといて。
ようやく!このあたしが出てくる回に次こそいってくれるはずよっ!
というかそこまでいかないと全員お仕置き決定よね。
それでは、みなさま、また次回にて♪
2011年1月22日(土)某日
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