先刻の夕暮れどき。 先ほどの子供たちのうちの一人である母親が、子供とともにオレのいる小屋にとやってきて。 オレの顔をみて少し微笑み、何でも夕食をご馳走してくれるとか。 そういってくるので、オレとコンラッドの二人でその子の家にとお邪魔することに。 ギュンターは反対したけど、別に何かたくらんでいるとかではなさそうだし。 それに何より、子供…ブランドン。 という子供の母親はオレの顔をみて、小さくオレの母さんの名前を呼んだのだ。 それがどうも木になって……反対してくるギュンターの抑止をアンリにと頼み。 アンリは面白がってかそれを引き受けてくれ。 で、オレとコンラッドは外に見張りの兵士が数名いるにしろ、ブランドンの家にとお呼ばれになることに。
「くぅぅ!おいしい!」 出されたスープに思わずスプーンを握り締め、感激の涙を流す。 そういや、今までこんなわけわからない状況に陥ってのち、まともに食べてなかったような気がする…… 「お母さんの料理。最高でしょう?」 小さな妹らしき女の子は兄の横でちょこん、と顔をのぞかせているが。 「うん。すっごくおいしい。うちのおふくろ…っていうか育ての親ではあるけど。 オレにとっては家族に違いないし。とにかくおふくろの料理はよく失敗があるからなぁ〜……」 しかも、失敗作をもったいないからたべてね。 とくるもんだ。 もったいないから食べるけど…… おいしさをかみ締めつつ食べるオレに。 「そういえばあのジェニファーさんはよく塩と砂糖を間違えてましたね。あとみりんと酢とか」 「そうっ!でもって残したり捨てたりするのはもったいないからって。 残さず食べろ。というのが教育方針なもんで、そりゃもう……」 しょっぱいカレーを食べさせられて涙ながらにもくもくと食べたのも記憶に新しい。 ん? 「ってコンラッド?オレのおふくろの料理…食べたことあるの?」 「ええ。あなたをあちらにお連れして彼らにと引き合わせてからのち。 しばらくはお世話になっていましたし。それに十年前には数日滞在しましたしね。 あなたの家に。あなたはずっとねたましたけど」 いって苦笑いするコンラッド。 「う…お、覚えてない……」 そんなことがあったんだ。 まあ、深くはきかないほうが自分のためだろう。 確かにあれは、苦笑いするしかない。 うん。 「お口にあうようで何よりですわ。これでソフィア様に少しはご恩がお返しできたでしょうか?」 いっておかわりをついでくれるブランドンの母親。 「ソフィアって……やっぱりえと…ブランドンのお母さん?オレの実の母親しってるんですか?」 オレの質問にやさしく微笑み。 「やはりそうでしたのね。ソフィア様のお顔は今でも忘れません。 あのかたがいなければ、今の私もこの子もこの世には……」 そういう彼女の言葉に、思わずコンラッドをみるオレ。 そんなオレに気づきやさしく笑い。 「ユーリ様。彼女は昔。ソフィア様とあなたのお父君とのお二方に助けられたことがあるらしいのです。」 「――え?」 思わず聞き返すオレに。 「ええ。昔母と旅をしていたときに。あなた様のご両親に助けられたことがあるんです。 黒髪には驚きましたけど…何よりもその背の白い羽は今でも脳裏に焼きついておりますわ」 「羽!?オレの母親って羽があったの?!」 思わずびっくりするオレに。 「ありましたよ。…といっても自らの意思で自由に出したり引っ込めたり出来るようでしたが。 へ……いや、ユーリ様が御生まれになったときにはその背に小さな銀色の羽がついていましたけどね。 ソフィア様の術以降はその羽もまた消えたようですけど」 いや……さらっといわないでくれよ……コンラッド…… 「…ちょっとまて。もしかして…羽が生えてたって…本当だったの!? まさか!?…だからあんなにおふくろがもったいないってしょっちゅういってたの!?」 思わず叫ぶオレに対し。 「大人たちはみんな魔族だ。とこわがっていましたけど。 私たちは彼女のおかげで助かりました。それに彼女は魔族ではありませんでしたし。 彼女の夫は魔族でしたらしいですけどね。つまりあなた様の父君ですね。 ……この村の幾人かはそのときに助けられた子供たちが少なからずいるのです。 ……なので昔。国王様に村を焼かれ、夫や子供の首をはねられ逃げるとき…… この地…つまりは魔族の地にくることをきめたんです。 あのような人たちがいる地ならば、きっと他の皆さんも周りがいうほど怖くはない。 …と話し合いまして」 住み慣れた土地を離れるのには勇気がいっただろう。 ましてや、それが自分たちを守護してくれるはずの国王の仕業で離れざるをえない。 となれば。 彼女たちの苦しみはいかばかりか。 たしか…コンラッドがいってたけどこの人の夫もそのときに…… 「そうだったんですか……。 あ、出来たら母さんや父さんの思い出話とか何でもいいから教えてもらえませんか? ……オレ、実の両親のことまったく覚えてないし…思い出といったらこれだけですし……」 しゃらり。 と首にかけているロケットペンダントを握り締めつつ服のしたから取り出してみる。 昔、ある遺跡の中で視た光景が頭から離れない。 その遺跡の中の水面に……あったことのないはずのオレの両親と…そして…… 「ええ。わかりましたわ。」 そんなオレにとやさしくほほえみつつ。 彼女は昔話をかたってくれる。 オレの知らない両親の話を……
「ああ…陛下。ご無事でしょうか……」 「大丈夫だって。それにユーリとしてはあの母親がソフィアさんの名前を呼んだのが気になったんでしょ。 でもこれ……何だかなつかしいなぁ〜…」 ユーリたちが民家で食事をご馳走になっている同じころ。 残された小屋の中ではそんな会話が繰り広げられていたりする。 というのは当然ユーリは知らないこと。 何らかの肉を干したそれをかじりつつ、そんなことをいっているアンリ。 非常食用の乾燥した十数回以上はかまないとやっていられないそんな干物。 「……あ?あの……」 アンリが、いったい『誰』なのかを知らされた兵士たちは、ただただとまどうばかり。 彼らにとって、アンリ…つまり、双黒の大賢者は、神にも等しい存在だからして。 兵士の幾人かは、馬を二頭、調達しに先に王都にともどっている。 王が帰還したという報と、猊下が帰還した。 という報と共に。
彼らがそんな会話をしていることなどつゆしらず。 しばし、とある一軒の家の中では、会話にはずむユーリたちの姿がみうけられてゆく。
「ただいま〜!!」 って、家じゃないからただいま。 というのは変だけど。 いちおう、まあそれは今夜の宿にもどった、というのにはかわりがないだろうし。 オレの知らなかった両親の話。 あと、彼女たちの昔の話。 ブランドンの母親の言葉が頭を離れない。 「きっとあなた様なら平和に……」 ってだからオレは、まだ即位するとかそんなの考えてないんだってば。 ……でも断れなそうにないよなぁ〜…… ていうか、オレとしては平和が第一! とはそりゃあ切実に思うけど。 だけどささやかな平和な暮らしを守りたい。 とおもうのもまた事実。 あちらの生活を捨てて、こちらで……までも思い切れない。 まあ、いきなりいろいろいわれて万が一、夢の中だとしても決められないのもまた事実なわけで…… 夢でないような気がする理由もまた、あったりするのも現実。 「陛下!」 「あ。お帰り。ユーリ。ソフィアさんの話きけた?あと、まってる間、簡単に服あらっといたよ?」 指し示す先にはかるく洗ったらしい制服が。 あんりはそういえば、家事もこなすからなぁ〜…… まあ、オレも簡単なことなら出来るけど。 コンラッドと共に小屋にともどると、なぜか瞳を潤ませて声をかけてくるギュンターの姿が。 すでに周りは完全に闇にと包まれ、外の様子は家々からのランプが漏れる程度の明かりのみ。 「サンュー。って…で?これ……何?」 アンリから手渡された何とも粗末な毛布?のようなもの。 それを手渡され思わず聞き返す。 兵士たちは何やらそれを床にとひいているが。 「……これってまさか寝袋とか?」 オレの素朴な疑問に。 「そ。襲撃とか暗殺の可能性が捨てきれないからね。 ユーリがこっちの世界にもどってきたのがあのアーダルベルトから、 ユーリの存在を疎んじて危ぶんでる人たちに話がいってる可能性もあるしね」 そんなことをさらっといってくるアンリ。 「って!?ちょっとまて!?何だよ!?それ!?その危ぶんでるって!?」 「君が魔族と天空人のハーフだからだよ。 天空人といえばこの星では絶対神ともいえる創世神に仕えている神聖な種族とされてるからね。 その子が人にしろ、魔にしろ。 どちらの王になったりするのを好ましくないと思っている人って多いんだよ。 それに古からの伝説にそういう子が現れたらこの世界は平和に導かれる。 ってことわざ、というか伝説というか言い伝えがあってね。 で、それを面白くないと思う存在いるわけで。たとえば戦いによって利益もうけたり。 戦いによって権力拡大しようとしてたりするような輩とかね」 いや……産まれうんぬんで命狙われるって…… 何か頭いたくなってきた…… 「だからって…もしかしてここでねるの?」 窓すらもない納戸。 用意されていた寝室には何でもオレのおとりとして兵士がベットに入っているらしい。 当然、それじゃあ兵士の身が危険だし、抗議するものの。 『陛下の御身の安全が第一です!!』 などと美形ぞろいの兵士たちやギュンターにとすごまれ。 それでも抵抗しようとしたら……アンリにおもいっきりチョップをくらって。 情けなくもオレは気絶…… アンリィィ〜!! アンリ曰く。 彼らのように整った顔達の中では寝付かれないだろうからてつだってやったんだ。 っていうけども。 ……それにしても、チョップはないだろ…チョップは…… 気絶したオレを取り囲むように周りを兵士たちが固め。 ひとつしかない出入り口にはコンラッドが立ったまま休んでいたりする。 気づけば翌朝になっていた……ふ…不覚……
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