「アンリ!?」
思わずオレは上空から叫ぶが。
だがしかし。
「君ほどじゃないと思うよ?
  というか君は本当に彼女を心から想ってはいなかった。証拠に気づいてないし」
いって手にした杖のようなものをアーダルベルトに向けて何やらわけのわからないことをいっているアンリ。
「猊下!それは!!」
そんなアンリの言葉に何やら叫んでいるウェラー卿。
……それはそうとして、あのウェラー卿とかいう人って会ってるような名前を聞いたことあるような…?
肩をつかまれて浮かんでいるので両手は自由になる。
しばしあごに手を当てて考える。
たしかどこかで……
「どういう意味だ?それに……げいか……だと?」
「いっとくけど久方ぶりに力を使うと手加減できないよ?この世界にきたのは五百年ぶり以来だし」
何やらうろたえているアーダルベルトに、にこやかに杖を構えて何やらいっているアンリの姿。
……というか五百年前って……
以前アンリから聞いたことがある、剣と魔法の世界に彼が転生してたとき?その世界?
……まじですか?
いや、でも口からでまかせ言って時間を稼ぐ…という手段も……
『閣下!!』
三人がそんな会話をしていると。
村人を残らず追い払ったほかの二人がかけもどってくる。
彼らがウェラー卿の元に近づくのと、アーダルベルトとウェラー卿が剣を引くのはほぼ同時。
そして、そのままアーダルベルトは馬にと飛び乗り、木々より高い位置にと浮かんでいるオレにと叫んでくる。
「少しの間の辛抱だぜ。すぐに助けてやるからな!」
とかいってくるし。
??
「お前の助けるは殺す。という意味だろうが。フォングランツ卿アーダルベルト」
「ちっ!!」
……げっ!?
もしかしてまじですか!?
アンリの指摘に上空からでもはっきりとわかるほどに顔色をかえ、
そして傍目にも舌打ちしたのがわかる動作をし、そのまま馬を走らせていくアーダルベルト。
「……えっとぉ?…アンリの知り合いのほうが善の組織だろうなぁ……」
彼らからは悪い感じは受けないし。
アーダルベルトとかいう人はよくわからない、もやもやした感覚をうけてたけど。
わけのわからないままに殺されたくはないぞ……
眼下では、
「よせ!深追いするな!」
敵を追おうとした兵士が茶髪のウェラー卿と呼ばれていた人物に止められてるし。
「ですが。閣下。やつは一騎です。
  分が悪いとおもったからこそひいたのでしょう。今おいつけばおそらくは」
「今は何よりも陛下の御身をご無事にお連れするのが最優先だろう!」
ぴしっと兵士…たぶん部下。達にとそんなことをいってるし。
かっこい〜。
と、オレが思うと同時。
「そうそう。今は何よりもユリティウスの身の安全が最優先だよ。
  ……というかさぁ?ウェラー卿?どういうこと?
  ユリティウスが…ユーリが完全に思い出すのは18歳になってからだけど?」
ざわっ!
そんなウェラー卿にと話しかけているアンリに今さらながらに気づいたのか何やら驚いている兵士たち。
何やら。
「双黒!?」
「陛下の他に双黒といえば!?」
…?などと何やらいってるし。
「それが……ツェツィーリエ陛下が退位を表明しまして……」

「ええぇ〜!?あのツェリさんとかいう人が!?
  というかソフィアさんや、それにウェラー卿から、すべて元通りになる年齢は聞いてるはずじゃあ!?
  教えてなかったの!?」
ざわめく兵士二人をそのままに、何やら話し始めているアンリたち。
いやあの……母さんの名前がどうして?
って……
「ああぁぁ〜!!思い出した!確か聞いたことあるオレの名付け親の名前と同じなんだ!
  ウェラー・コンラートというかコンラッドという名前!!」
何でもオレの母親の家系に仕えていたらしい人がオレの名前をつけてくれたとか。
その人の名前が、たしか……そう。
ウェラー・コンラート…とか、確かいってたはずだ。
思わずポン、と手を上空でうつオレに対し、思わず見上げるその場にいる全員。
そして。
「……あ?ユーリ?まだ飛んでたの?」
がくっ……
きょん、とした視線でそんなことをいってくるアンリだし………
「…そりゃないよ…アンリ……」
きょん、として言ってくるアンリの言葉に思わずオレは脱力。


「陛下を下に」
カタカタカタ。
ウェラー卿…オレの名付け親と同じ名前の人が、
アンリがコッヒーと呼んだオレを抱えている骨格標本にというと。
ゆっくりとオレは地面にむけて下ろされてゆく。
オレが地面に足をつけると。
「お怪我はありませんか?陛下?」
何か心配そうに言ってくるウェラー卿とか呼ばれていた人物。
近くで顔をみると名付け親だという人の写真の人物と瓜二つ。
「ああ!?うそ!?本当にオレの名付け親とかいう人と瓜二つ!?」
何でも義母さんが隠れて撮ったという、オレの名付け親の写真に瓜二つだし。
…偶然ってこわいなぁ〜。
「そ〜いやジェニファーさん…ウェラー卿の写真を隠し撮りしてたっけ……」
ぽつり、とつぶやくアンリの言葉に。
「……いや。猊下…まじですか?」
何やら固まっているウェラー卿。
「ウェラー卿もジェニファーさんの性格…理解してたんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
あ、アンリの言葉にだまってるし。

「アンリ?もしかしてこの人、オレの名付け親の家族の人?」
とりあえずアンリは何か知っているようなので聞いてみる。
「というか本人。」
・・・・・・・・・・は!?
「・・・は!?ちょっとまて!アンリ!どうみてもその人二十代前半だろ!?
  オレが赤ん坊のときの写真が二十歳前くらいだったぞ!?」
まったく何をバレバレの冗談を……
「この世界の魔族はかなり長命だからね」
「――は?」
……い、今魔族っていった?
いや…魔族って……
「でぇぇぇぇ〜!?」
この人から、人の気配というかオーラに混じって感じてるのが魔族のオーラ?!
だってオレの知ってるのと雰囲気というか感じが違うよ!?
でも……もしかして。
この人もそれじゃ、義父さんと同じなの?

義父が実はそれまでどこにでもいる典型的な『父親』と思っていたのが魔族だ。
と知ったのは妹が産まれたとき。
そりゃ、人とは何か雰囲気が違うなぁ…とかは思ってたけど。
けどさ……
義母さんが、また羽がついていない!!とあろうかとかかなり残念がっていて。
……で、聞いてところでは、何でも羽の生えた子供が見たいのが最優先し義父さんと結婚したらしい……
う…うちの育ての親っていったい……
基本的には、【魔族】も普通の人と変わりなく、ちょっぴし寿命が長かったり。
ある分野において抜群に飛びぬけていたり…という程度らしい。
若干当時において七つ直前だったオレとしてはあまりのことに思わず呆然……
しかも、よく出先で出会っていたとある人物が【地球の魔王】だと知らされて……
いや、ともかく今はそんなことよりも。

「……あ、あの?アンリさん?まじですか?」
思わず丁寧語になってしまう。
なぜか横にいる兵士二人は首を傾げてるけど。
「ともかく…まさか写真を隠しどられていたとは…うかつでしたね。
  何はともあれ陛下。お久しぶりでございます。といっても陛下は俺のことは覚えてないでしょうけど」
うやうやしくお辞儀をしていってくるウェラー卿。
「まあ、あのときというか前回ユーリは寝てたからねぇ〜……」

何やらしみじみといっているアンリ。
「あ…あの?閣下?いったいどちらの言葉でお話されているのですか?」

日本語にきまってるじゃん。
兵士の一人が何やら不可思議なことを聞いてくる。
「ああ。すまん。今のは陛下がお育ちになった異界の地球。と呼ばれている星の。
  その中の日本、という国の言葉だ」
丁寧に説明しているウェラー卿。
いや、だから…皆さん日本語で話してるじゃん!?
何やら律儀にそんなことを答えてるし。
「あ。いっとくけど。ユーリ?今の会話は日本語と。それとこの国の言葉で話していたけど……
  …ってやっぱりわかってなかったみたいだね。
  というかあんな方法で魂の中から蓄積言語を引っ張り出すなんて……
  あのアーダルベルトとかいうやつは何て危険なことを……」
アンリがそんなことをいってくる。
「だから!意味のわかるように説明してくれぇぇ〜〜!!」
オレの叫びは何のその。
「ともかく。こんなところでずっと話していては。いつ陛下の御身に危険が及ぶやもしれません。」
ウェラー卿の言葉に何の気にしにふと周りにある家々をみれば。
メルヘンチックな質素なつくりの家々の曇った窓に、この村の住人らしき人々が張り付いて、
こちらの様子をうかがっていたりする。
「ま。たしかに。ウェラー卿のいうとかり。ひとまずここを離れよう。ユーリ。道々おいおいと説明するから」
そういってくるアンリの台詞に。
「…是非そうしてくれ……」
理解不能な状態に…何かオレ…巻き込まれてない?
いったい何がどうなっているのやら……


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