そんな会話をしている最中。
と。
コンラッドが何やら気配を感じたのか、剣に手をかけつつも、そっと入り口の扉をあける。
そこには五・六名の子供たちが。
「コンラッドさん!遊ぼう!」
何やらコンラッドにいってるし。
なるほど。
大人たちにとっては兵士たちは怖いものかもしれないが、子供たちにとっては関係ない。
それはどの場所でも共通しているものなのかもしれないな。
「いや。今日は……」
コンラッドが断ろうとするが。
子供たちもまた引き下がらない。
「この前の続きやろうよ!」
「野球やろうよ!」
「え!?野球!?」
子供たちの言葉に思わず目を大きくする。
「ここにも野球があるの!?ねえ!?」
そんなオレの興奮気味な言葉に。
「たぶんウェラー卿くらいしかしらないんじゃないかな?」
苦笑まじりにいっているアンリ。
そして。
「あ?ユーリ?もし子供たちに教えがてらに野球やるつもりなら。
  そこの鞄の中にグローブとボールがはいってるよ?
  小さい子用のやつはスピカちゃん用にってボブが送ってきたやつだけど」
いって机の上の鞄を指差すアンリ。
「サンキュー!アンリ!」
さすが親友。
よくわかってる。
『いやあの…陛下?』
そんなオレとアンリの会話に戸惑いの声を上げているコンラッドとギュンター。
んふふふふ。
野球ときいてだまっていられますかっての!
「あ。オレ外にでてちょっと子供たちと遊んでくるわ」
「え!?あの!?お待ちください!」
「あ…あの!?」
ぐいぐい。
驚き戸惑うギュンターを無視して、アンリの鞄の中からグローブなどを取り出し。
ひとつをコンラッドにと投げ渡してボールをもってコンラッドを押し出しつつ外にでる。
何やらギュンターは叫んでるけど。
そんなギュンターに。
「無駄だって。ユーリ……筋金入りに野球が好きだからねぇ……」
苦笑まじりにそんなことをいっているアンリの声。

「コンラッド?この人は?」
「だぁれ?」
「みたことないひと?」
口々に子供たちがオレをみていってくるけど。
「君達野球するんだろう?だったらオレもまぜてよ。これでもキャッチャーだけは自信あるんだぜ?」
見たところ十歳かそこら。
それ以下くらいの子供たちがざっと六名ばかり。
「……いやあの?ヘイ…でなかった?ユーリ様?あの……」
戸惑い声をかけてくるコンラッド。
「?キャッチャー?…って何?」
ずるっ。
「ちょっとまて!?まさかキャッチャーしらないって…どういう野球の仕方を!?」
思わずこけそうになるが気を取り直してっと。
「野球は球をとる人がいなくちゃ。一人がボールを投げて一人がとる。
  でもって別の一人がボールを打つ努力をする」
いって。
「たとえばこんなふうに…っと!」
いいつつ、手近にある木をめがけてボールを投げる。
こちらに跳ね返る角度を計算しつつ。
ビュッ!
コ〜ン!
狙い通りに投げたボールは木にとぶつかり、そのままこちらにと戻ってくる。
パシッ。
それをそのまま手で受け止めると。
『わぁ〜!!お姉ちゃんすごい!!』
ごけけっ!
尊敬に満ちた顔の子供たちがそんなことをいってくるし。
「あ、あのねぇ!オレはこんな顔でも男なの!」
…子供にいわれたら結構落ち込むぞ……
「しょうがないなぁ?コンラッド?子供たちにきちんと野球教えてないの?」
アンリがいうにはコンラッドしか知らないみたいな口ぶりだったし。
そんなオレの問いかけに。
「オレはきちんとはならってませんので。それに大人がはいったら不公平ですし……」
とまどいぎみながらも、返事をかえしてくる。
「そんなことないって!よっし!今日はオレが野球のすばらしさを教えてやる!
  とりあえず怪我でもしたらいけないから。
  普通のボールでなゆくてゴムボールでいっちょいきますか!」
そんなオレの言葉に。
「へい…いや。ユーリ様。この世界にはゴムボールなんてものは……」
コンラッドが戸惑いつつ途方にくれたようにいってくるけど。
「ふふふ。スピカ用にゴムボールはきちんとあったりするんだよね。これが」
『ゴムボール?』
オレの言葉に子供たちは全員顔を見合して不思議顔。


ポーン!
「ほらっ!そっちいった!」
ワーワー!!
『・・・・・・・・・・・・・・・』
オレと子供たちとで野球を始めることしばし。
はじめはグローブの使い方にすらと惑っていた子供たちではあったけど。
とりあえずキャッチャー役の子供を決めて、その子に子供用のグローブを手渡して。
球のとりかたや、球のなげかた。
そして、他の子供たちにもボールの投げ方や打ち方などをおしえていくと。
さすがに子供は飲み込みが早い。
一時間もしないうちにルールややり方を破格して、結構上手に遊んでいたりする。
そんな光景をなぜかとまどいつつ見ている兵士や。
ほほえましくみている兵士たちの姿とがあったりする。
戸惑い気味の兵士たちはなぜか周囲にて固まったようにと無言になってるけど。
逆にすっかり打ち解けたオレと子供たちはといえば。
「お兄ちゃん。上手だねぇ」
「これでも草野球だけどチームのキャプテンやってるからね」
まだチームを作って一ヶ月あまりだけど……
何でもここは難民の村らしく。
この子たちは昔、彼らが住んでいた国の王の焼き討ちにあい、ここ魔族の国に避難してきたらしい。
というか王が焼き討ちって……
そんな国王なんて絶対に天罰がくだる。
というかここには罪を裁く機関はないの!?
行政機関は!?いくら国王、といえどもやっていいことと悪いことがあるのは当然だし。
教えたとおりにやればやるほど上手になるのが自分たちでもわかるので、
子供たちもどんどんと熱中している。
何よりオレも子供たちが熱中して楽しんでいるのが楽しいし。
なぜかギュンターなどはハラハラ涙をながしつつ、扉の入り口付近にたって、アンリと話しているけども。
あとは、ボールをとったり投げたり、または打ったりする順番で喧嘩になりそうになったりするので。
じゃんけんできめれば?
といえば子供たちはじゃんけんの定義もわからなかったりしたけども。
これは簡単に説明したら子供たちはかなり気に入ったらしく、思いっきりはしゃいでいたりする。
……でもじゃんけんすらしらないなんて……
ただ。
グー。チョキ。パー。
この三つだけなのに。
グーは石でチョキははさみ。パーは紙。
と例えて説明したらなぜかものすごく関心したような子供たちの顔が印象深い。
いや、だから…普通それくらい誰でもしってることじゃないの?
あとヒットしたのはあみだくじ。
……コンラッド曰く。
娯楽なんてものはここにはないも当然だとか……

結局のところ、暗くなるまで子供たちと遊んでいたら。
なぜか子供たちの親が彼らをよびにきて、なぜかオレをみて驚いてたけど。
黒!?とかオレみて叫んでたし。
日が沈みかけたころ、子供たちと別れて再び小屋の中にともどっていく。
ボールやグローブといったものもロクにない。というので。
アンリに断ってボールやグローブは子供たちにプレゼント。
だって道具がないと遊びも楽しくないしね。
うん。

「お帰り。ユーリ」
「ただいま。アンリ…あれ?ギュンター・・・ どうしたの?」
みれば、がっくりとうなだれているギュンターの姿が。
小さく自分は聞いていない、聞いていない…とか何やらつぶやいてるし。
???
「さあ?ユーリが子供たちに野球を教えて遊んでたじゃない?
  それみて魔王陛下が下々のものと…とかいうから。エドのエピソードとか話したらこうなった」
しれっというアンリの言葉に。
「エド?というのはもしや眞王陛下のことですか?」
結局のところ、野球に参加しつつも、ほとんど周囲を警戒していたコンラッドが問いかける。
「うんそう。彼もよく国土を平定してからは、城からでては。というか城から抜け出してさぁ」
「……ききたくなかった。というかわたくしは何もきいていません……
  ……ああ。お許しください。眞王陛下……」
ぶつぶつ病人のようにつぶやいているギュンター。
コンラッド曰く、眞王はここ、魔族の国では神様のような存在だ。ということ。
その実態をアンリから聞かされて、おそらく混乱しているのだろう。
ということらしい。
アンリからそれをきいて。
「…どうりでギュンターが陛下をとめにこなかったわけだ」
とかつぶやいてるコンラッドだし。

オレ別に止められるようなことしてないじゃん?
それはそうとして。
「で?コンラッド?さっきの話だけど……。あの子達自分の国の国王にひどいことされたって本当?
  ここ悪いことをした人を裁く行政機関とかないわけ?」
そんなオレの至極最もな質問に。
「トップを裁く権限は誰にも……。それをいいことに悪いことをするものもいるのもまた事実です。
  ……もっともそんな人々ばかりではないですけど」
「ま、どこの世界にもいい人や悪い人はいるけど。
  悪いことをしても誰も止める人がいないなんて…どうなってんの?この世界?」
何か絶対にそれっておかしいし。
普通王様とかが悪いことしたとしても、身分に関係なく裁くのが行政機関ってものじゃない?
地位がどれだけ高くても、罪は罪だ。
地位などを気に留めずにきちんと罪を裁く。
そういう何らかの組織があってもいいはずなのに。
日本にだって、アメリカにだってあるぞ?
「ユーリ。それが今のこの世界の現実なんだよ」
アンリが静かに、オレの考えを読んだかのごとくにいってくる。
「……絶対におかしいって……」

いまだにどこか目が虚無なギュンターと共にと小屋の中にともどり。
日が暮れる、というので今日のところは休むことに。

さえぎる明かりが何もないゆえに、空には満点の星空。
見たことないような星空の配置。
当然ネオンもコンビニも街灯もあるはずもなく……
「……何かものすごぉく夢であってほしいんだけど……」
扉をあけてつぶやきつつも空を見上げるオレに。
「でもここがあなたの世界ですよ。お帰りなさい。陛下」
いって横で笑っているコンラッド。
「ま、そのうちになれるって。ユーリ。気にしない。気にしない♪」
「気にするって!!」
アンリのやつ…何かたのしんでないか?
お〜い………

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