「陛下!!」
バタン!!
と扉が勢いよく開かれ。
思わずオレとしては口をあんぐりあける。
薄い灰色?のような長い髪とスミレ色の瞳。
背筋の伸びた九頭身。
はっきりいって、その背後に花でもあれば、絵的には申し分がない。
というか。
花があってもおかしくない超美形。
どうみても、日本人…というよりは、
うちの養母が、妹のスピカと一緒に結構はまってる某ネオロマンスゲームの守護聖達のごとく。
といってもまず過言ではない。

ウェラー卿の後ろで馬上に揺られて半日あまり。
こんなに長く馬にのっていたのは、はっきりいって初めてといっても過言ではない。
初めの村よりかは、いくらか規模の小さな木造建築の村の姿。
家の数は十五件くらいで、村、というよりはちょっとした家々の集まり、といっても過言ではない。
驚いたことに少し離れた森の入り口付近には、武装した兵たちが次々と戻ってきており。
それぞれのパーティーには【骨飛族】。
愛称コッヒー。アンリ談。がついていたりする。
兵士たちとは離れて村の中をつっきり。
どうでもいいが、兵士たちの中にはオレをみて、
またまたソフィア母さんの名前を挙げている人がいたりするし……
あとはアンリをみて、黒髪がどうだの陛下以外の黒髪がどうだの。
と何やら話しているらしい。
ここに来るまでにアンリから聞いたところによると。
アンリはこの世界で生きていたことが、最近でいうと五百年ばかり前にあったらしく。
つまりはこの国で転生していたことがあるらしく。
この世界では、【黒】というのはいろんな意味をもっているらしい。
ちなみに、髪と瞳が黒。
というのは双黒といわれ、大変に貴重であるらしい。
というか日本では黒髪黒瞳って一般的なんだけど……

そんな、まず女性たちがみたら失神してもおかしくはないだろう。
という美形さんは、オレをみて。
何やら瞳をうるませつつも。
「何と。本当にソフィア様に生き写しでいらっしゃる……」
などといってきてるし。
そして。
「コンラート。早く陛下に手をお貸しして……」
「はいはい。って。陛下。こちらに体を傾けて降りてください。
  といっても陛下は乗馬教室に通われていたから大丈夫ですよね?」
などといってくる。
「だからぁ?あんたはオレの名付け親なんだろ?ユーリでいいって。」
ここに来るまでに、どうやら彼が本当にオレの名付け親であることは間違いないらしい。
というのは判明したし、アンリも会ったことがあるらしい。
夢かと思って思いっきりつねってみたりもしたけどいたかったし……
とりあえず、こうなったら何が何だかよく理解できない…というかしたくない。
オレがまがりなりにも国王候補……いや、候補どころか決定事項なんて……
とにかく、ゆっくりと馬から降りる。
自分が馬を操っているのとはちょっと違う感覚の降り方。
何かまだ自分の体が上下に揺れてる感じがするよぉ〜……
「ああ。陛下。ご無事で何よりです!
  このフォンクライスト。お会いできる日をどんなに待ち望んだことか!
  あの赤ん坊であった陛下がこうしてご立派にお育ちになっておられまして、
  何とも感激でいっぱいでございます!」
何やら感極まった声をだしつつも、地面にひざをついていってくる。
って!?
あまりの動作というか行動に思わず後ずさると、急な動きに多少でん部が痛んで舌打ちする。
ずっと馬にのってたからなぁ〜……
すると美形さんは顔色をかえ。
「陛下!?どこかお怪我でも!?コンラート!あなたがついていながら!!」
何やら顔色をかえてそんなことをいってるし。
「というか。あまり長い時間の乗馬になれてないからじゃないかなぁ」
そんなオレの後ろからにこやかにアンリがいってくる。
どうやらアンリも馬をおりたらしく近づいてくるし。
「アンリ?お前は平気なのか?…ってまだそのかばん…もってたの?」
見ればアンリの方にはちょっとした大きさのかばんがかけられているまま。
川に落ちたときと同じくぶらさがったままだし。
「一応ボブから送ってきたグローブとかも見本も入ってるしね。
  まさかこっちにくるとは夢にも思わなかったしねぇ」
ポンポンと鞄をたたきながら言ってくるアンリ。
そんなアンリのほうにきづいたのか。
「なっ!?陛下の他にも双黒のお方が!?コンラート!?これはいったい!?」
何か驚いている美形さん。
「前、話しただろう?陛下のそばには猊下の生まれ変わり。というか猊下ご本人がいるって。
  …そんなことより。そんなことを言ってる場合じゃないようだよ。ギュンター。
  フォングランツに先をこされかけた」
「猊下って…ええっ!?アーダルベルトに!?陛下!?何かされませんでしたか!?」
目を驚きで見開きつつオレにと聞いてくる美形さん。
たぶん姓がフォンクライストで名前がギュンターだろう。
「何か頭つかまれて力を入れられたけど……」
オレが答えるのをさえぎり。
「というか。無謀にもあのアーダルベルトは。
  ユーリの前世における蓄積言語を無理やりに引き出したんだよ。
  まったく、危険なまねをしてくれるったら……」
そんなアンリの言葉に。
「ええ!?何と無謀な!?……ですが。なるほど。それで。
  陛下のお言葉がご堪能なわけです。あ、ご挨拶が申し送れました。
  まさかあの大賢者様にお目にかかれるなど恐悦至極に存じ上げます。
  猊下におかれましては、異界の地にて陛下をお守りになってくださっていたとか。
  何ともお礼のしようがございません」
アンリにそういいつつ、うやうやしくお辞儀をしている美形ギュンターさん。
アンリが苦笑するのと同時に。
はっと姿勢をただし。
「とにかく、陛下。猊下。こんな場所ではお話もできません。むさくるしいところですがどうぞ中に」
他人の家だろうに、何やら勝手なことをいいながらオレとアンリを促してくるギュンターさん。
ふと振り返ると木造の質素な家々の曇った窓に、
この村の住人であるらしい人々が張り付いてこちらの様子を伺っているようだけど。
何かどこも同じような光景??


部屋は暖かく、薪ストーブに火が入っていて湿った学ランのままだったオレたちにはありがたい環境。
さっきまでは日本の五月だったのに。
いったいオレはどこにやってきてしまったのやら……
アンリ曰く、ここは地球ではなくてオレの産まれた場所だというが……
まあ、今の家族構成からして何があっても不思議ではない…とはおもうけど。
養母の自称ジェニファーなんかは、
オレに始めてあったときには、かわいい羽がついていたのに!
ゆ〜ちゃん!うちにくるときはもったいなくも羽がなくなってたのよ!?もったいない!
とか口癖のようにいってたけど……
いや、羽の生えた人間っているはずないじゃん?
と、ファンタジー好きな養母のこと。
ただ聞き流していたのだが。
もしこれが現実だったとしたら…ありえるかもしれない…などと思ってしまうけど
とりあえず、川と雨の水に濡れて気持ち悪いことこの上なし。
風呂でもあればひとっ風呂あびたいところ。
とりあえず、アンリは肩からぶらさげていた鞄をその辺りのテーブルにおき。
学ランを火の近くに広げようとしているのでオレも習って同じことをする。
それをみて。
「陛下も猊下も普段から黒や黒に近い色を身に着けていらっしゃるのですね。
  すばらしい。すばらしくお似合いになります!
  平素から黒をまとわれるものは、王か、それにごく近い産まれの存在のみです。
  その高貴なる黒い髪に黒い瞳。本当にお母君によく似ていらっしゃる。
  たしかに。まちがいなくあなた様は我々の陛下です」
またまたうやうやしくお辞儀をしていってくる美形ギュンターさんに対し。
「……って?ギュンターさん?」
「ギュンター。とお呼びください。陛下」
「じゃあギュンター?ギュンターもオレの産みの親しってるの?」
オレのそんな素朴な疑問に。
「ええ。あのときの赤子がこのような立派にご成長あそばされておりまして……
  さぞやご両親が生きていらっしゃったら大変に喜ばれたことでありましょう」
とかいってくる。
やっぱり死んでる…というのは事実なわけね。
オレの実の両親は……
「ま、でもさ。とりあえず。この黒髪と黒瞳は日本人ならほとんどそうだからねぇ。
  あ、あとあれは僕達がかよっている集団で学んでいる館の場の制服だからね」
そんなギュンターにちゃっかりと訂正をいれているアンリ。
学校。
という単語はもしかしたらここにはないのかもしれない……
なら義務教育は?ねえ?
「ついでにいえば工場でこの服は大量生産。
  三年間きられるようにって現在の体格よりもかなり大きいけどね……」
窓の外からは少し翳り始めた太陽の光がさしこんでいる。
腕時計はすでに夜の時刻を刻んではいるが。
太陽の位置と、木々の陰の長さから、おおよそ今は四時か五時、というところだろう。
「陛下。寒いとお思いかもしれませんが。この国ではこれでも春なんですよ?」
コンラッドがそういって戸口の脇に陣取ってるし。
おそらく見張りのつもりなのだろう。
剣を立てかけ、腕組みしたまま、頭を壁にと預けてこちらを見ていたりする。
「というかさぁ。できたら夢オチとか。テレビによくあるサプライズ企画とか。
 テーマパークのアトラクションだったら、オレとしてはものすっごくありがたいんだけどなぁ?
 ……何かそうでないような気がしたきたし…というかそうじゃないようだし……」
夢にしてはリアルすぎる。
普通夢なら、あなたは勇者です。とかだろう。やっぱり。
いくら何でも魔王です。はないだろう。
魔王は。
ため息まじりにつぶやくオレの言葉に。
「というか。フォンクライスト卿?
  どうしてユーリがまだ十六にもなっていないのにこっちに戻されたのか?
  その辺りのことを詳しくはなしてくれる?」
ギュンターにそう問いかけているアンリ。
オレはそれも気になっていた。
アンリによれば、本来ならば十八の時に母さんがオレにかけている封印とかいうのがとけて。
こちらのことをある程度思い出してから、そしてこっちに戻す。
という予定だったらしいし。
何でも血の記憶として覚えているとか何とか…よく難しいことはわからないけど。
オレが覚えていないはずの両親の夢を見るのもその血の記憶によるものだとか。
よく理解不能な説明ではある。
そんなアンリの質問に。
「はっ。申し訳ありません。
  ご立派にご成長あそばされている陛下を目にして肝心なことを。実は……」
いってギュンターが語りだす。
よくわからないけど、要はオレの父親の後に国王になってた人が。
生まれる前…というか。
生まれながらに眞王とか言う人のお告げをうけたオレに早いところ王位を譲って退職したい。
といいだして。
しばらく説得していたものの、聞き入れられず。
まだ十六になっていないだろうけど。
アンリ…つまり、
『双黒の大賢者がそばにいる』
というのが伝わっていたらしく。
ならば大丈夫だろう。
というのでオレを呼び戻すことになったとか……
オレはそんなわがままのせいで川からここに引っ張り込まれたのですか?ねえ?
アンリの道すがらの話すによると、ここの人たち…
…というか、魔族の年齢は見た目×五が実年齢に相当するらしく。
その辺りの肉体の成長速度を調整するために、オレの実の母は何らかの封印をオレにかけているらしい。
ここまでこったドッキリもまずないだろうから、希望としては夢オチであること希望。
オレとしては切実にそれを希望する……というか夢であってください……


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