「そもそも!いくら入場料未払いだからって! 基本的にサービス業の就業者にとってはお客様は神様だろうが!!」 それがいくら理不尽さに満ちていようが。 常々義父はいってるし。 とりあえず、文句をいいつつ立ち上がる。 ――と。 なぜか村人役の人々の尋常ではない叫び声。 「魔族が立ち上がったぞ!?」 「もう一人の黒をまとう魔族も立ち上がったわ!!」 「早く子供を家の中へ!」 「二人もいたら間に合わないよ。 もうダメだ。もうこの村も焼かれちまうんだ。20年前のケンテナウみたいに。」 いや、確か地球では一般には魔族の存在は知られてないってば… そうボブおじさんいってたし? うちの義理の父親はその魔族だ、というのには違いないけど。 知ったときにはいやほんと。 驚いたの何のって…って今はそれは関係ないか。 何やらわけのわからないことをいってるし。 「まちなよ。だが見ろよ?二人とも双黒だぜ?しかも二人とも丸腰だ。 髪の瞳も黒い双黒の者を手にいれれば不老不死の力を得るって。 西の公国では懸賞金をかけてるらしいぞ?」 「ああ。それはオレも聞いた。小さな島のひとつや国くらいは買えちまうような金額だった」 そんな会話が聞こえてくるけど。 ?? オレの横では。 「……まだそんなことをいってる国がやっぱりあるのかぁ〜……」 何やらため息をついて、何かつぶやいているアンリだし。 「気をつけろ。いくら丸腰だからってこいつらは魔族だ。魔術を使うはずだ」 「いや、こっちにはアーダルベルト様がついている。アーダルベルト様。この村をお守りください。 魔族をどうにか神のお力で我々に害の及ばぬよう封じ込めてください。」 そんなことをいっている村人役の人々。 ……えっとぉ……これって本当にテーマパーク…だよね? 何か自信なくなってきたぞ…オレ…… だって、何か村人役らしき人々…本気でそんなこといってるんだもん…… そんな人々の会話を聞きつつ。 「というか……。 この男自体が眞魔国のグランツ領を継ぐはずだった正真正銘の魔族なんですけどね…… でもともかく、先ほどもいいましたけど…ユーリに危害を加える気であれば……」 いいつつ、オレとアーダルベルトとか呼ばれているアメフトマッチョの前にとアンリが割り込み。 「このアンリ・レジャン。本気でお相手しますよ?」 いつのまに? というか、いつどこから拾った?のかアンリの手にはなぜか一振りの棒。 というか杖のようなものが握られてるし。 というか『アンリ・レジャン』って…… 確かアンリの。 つまり、村田健の過去の名前。 つまりはこいつの膨大な前世の名前の中のひとつじゃなかった? だからオレはアンリって呼んでるんだし…… ざわっ!!! 「何!?」 なぜかそんなアンリの言葉に村人たちが一瞬ざわめき。 そしてあろうことかアーダルベルトとかいうやつまであとずさる。 「――まさか……そんなわけ……」 何やらよろけながらいってるし。 それと同時に。 「『アンリ・レジャン』…ってもしやあの?双黒の大賢者の?……まさか……」 「いや。それよりアーダルベルト様が魔族だなどと……」 村人さんたちは何やらざわざわとざわめいている。 「とにかく。今世でも彼女にしたようにユーリを苦しめるのなら……僕は容赦はしないよ?」 いやあの…アンリ? めずらしく目がまじなんですけど?? と。 そんな会話をアンリたちがしている最中。 背中を向けている遠くのほうから何やら聞き覚えのある規則的な音が聞こえてくる。 急速に大きくなるその音にオレも含めて全員が戸惑いうろたえる。 といってもアンリだけはそっちをみて…… 聞き覚えがある。 と思ったのは間違いではなく複数のひづめの音。 伊達に子供のころから数ヶ月に一度、乗馬教室に通っていたわけではない。 地響きにもにた力強いひづめの音。
「ユーリ!!」 と、その音がしている方向から名前をよばれ思わず振り返る。 もしかして、オレの好きな時代劇の暴れん坊将軍よろしく白馬にのった上様がオレを助けに…… そう思いつつ振り向くと。 「……がっ!?」 「骨飛族!それにウェラー卿!!」 いやあの…アンリ?アレをみて、感想…というか何かわけのわからないことを冷静にいえるのか!? 駆けつけてくる三騎は白馬でも上様でもなかったし。 しかもちょっと目線を上に向けるととんでもないものが一緒にせまってきてるし…… 産まれて十五年と九ヶ月あまり。 見たことも想像したことも、いやアンリの話の中にときたま出てきたような物体が。 使い決まれて薄茶色くなった骨格見本に竹ひごに油紙を貼り付けたような翼。 昔、まだ小学校低学年のころ。 アンリの話を基にして同じような同じような小さな骸骨模型を作り上げ。 こっそりと音楽室に一日おいて次の日に取り除いたり。 という経験を持っていたりするオレたち。 面白いことにそれを数日繰り返したら、音楽室に骸骨の霊が出る。とか騒ぎになったりしたのは。 楽しい子供のころの思い出ではある。 あのとき創造った模型のいわゆる人型等身大。 それが……本当に浮いてるし…… えっとぉ〜…?ピアノ線…はなさそうだし…… 「離れろ!アーダルベルト!!」 『なっ!?ソフィア様!?』 ちょっとまて。 どうして今やってきた、兵隊さんらしき二人がオレの顔をみてオレの実の母親。 つまり母さんの名前を叫んでいるのやら。 「離れろ!アーダルベルト!」 駆けつけた三騎はいずれも額に星のある栃栗毛に近い馬で、 抜き身の剣を構えた兵隊らしい男たちを乗せている。 その中の二人がどうしてオレの顔をみて何で母さんの名前を? オレが疑問を口にするよりも早く。 リーダーらしき青年が顔が見えないけど続く二人を制し 「住民には剣を向けるな!彼らは兵士じゃない!」 「ですが閣下!」 「ちらせっ!」 「ウェラー卿!」 「――猊下!?」 …あれ? どうやらアンリとこの人知り合い? ……って『げいか』って?? アンリが叫ぶと、驚いたような男性の声。 そして。 そのまま三頭の馬は村人役の人々に割って入り、一声いなないて前脚をあげる。 ごほほっ! あまりの砂埃りにおまわずハンカチをだし…ってぬれてるし。 仕方ないのでしまって口を手で覆う。 馬が駆け回るのと同時に起こる砂埃り。 ベージュの霧の中で青とオレンジがスパークしているような、そんな光景。
「フォングランツ・アーダルベルト!何のつもりで国境に近づく!?」 「相変わらずだな!ウェラー卿コンラート。腰抜けの中の勇者さんよ!」 何やら二人して剣を抜き放ち、互いに馬上で名乗りあってるし。 あ、わかった。 このアトラクシュンは戦国時代の合戦の決まりみたいに、 『やあやあ、われこそは何々の何たらなぁり。』 と名乗ってから出ないと勝負できないルールなんだな? そんなオレの心を見越したのか。 「……残念だけどユーリ。これはアトラクシュンでもテーマパークでもないんだ。 ……コッヒー!ユリティウス陛下を!!」 ばさっ!! はい? 珍しくアンリが真剣な顔をしてぽん、とオレの肩に手を置いたと思うと同時、 天空を見上げて飛んでいる骸骨に叫んだかとおもうと。 バサッ!! 「うわっ!?」 羽音とともに、オレの身体はゆっくりと地面からもちあげられてゆく。 ……つぅかオレだけ運ばれてる!? …ん?ちょっとまて。 今アンリ、オレのこと何か変なように呼んだような気がしなくも……ま、気のせいか? とりあえず、今がいったい全体どうなっているのか。 という状況把握をするのが先決だ。 高々と運ばれて持ち上げられたオレの視界の下では、 埃の晴れた斜面にて騎兵に追われた村人が家を目指して入り、 馬から飛び降りたアーダルベルトとか呼ばれてた、 たぶんこのテーマパークの責任者か何かの一人が、馬から飛び降りた青年と剣をあわせていたりする。 しっかし。 これ本当によく出来てるなぁ〜…… 仕組みのわからないほどの精巧な骨格見本。 …というか、これってもしかして、 アンリから前世の記憶のひとつとして聞かされたことがある……例の骨の生命体? …あのとき、それをきいてあのイタズラを決行したわけで…… って!? あ。 もしかしたらオレ夢をみてるのかな? よく物語などで普通の人間が異世界に流される。というようなのは多々とあるけど。 ……ま、まさか自分が…なんてことはない…と思うし。 そりゃあオレには左腕に何か意味があるかのような不思議なあざが物心ついたころからあるけど。 それはたぶんファンタジー好きの育ての母のせいだとおもうし。 絶対に。 事実、妹のスピカなどは赤ん坊のころに母親がかわいいからvとかいって。 胸の少し上にハートマークを油性マジックで書いたら…… ……それが大きくなってもアザとしてのこっていたりする。 という事実があるから。 ちなみに、兄貴は油性マジックで星マークを右腕の肩のあたりにつけられているらしいが。 これまたうっすらとアザのような跡としてのこっていたりする。 ……頼むから子供でイタズラはやめてくれ……という心境は切実でなのであるけども。 何はともあれ。 「…えっとぉ。何かどうも…」 真下から見上げても脊椎の先にあるのは表情の作りようのないあご骨と頭蓋骨。 うつむいた顔の目の部分には暗い空洞があるだけ。 何かものすっごく無理して一生懸命バタバタと羽を動かしてオレを浮かせてるし。 思わずお礼をいいたくなるほどに。 ちらり。 とオレのほうをみたアーダルベルトが、兵士のリーダー格らしいウェラー卿とチャンバラしながら。 「うまく仕込んだものだな!骨飛族に人を運ばせるとは!」 などと言い捨ててるし。 ……あ。 …というか、アンリ?お前危ないぞ? 気づかれないようにしているのか、いつのまにやらアンリがアーダルベルトとかいう人の背後にまわってるし。 あいつは結構怖いもの知らずのところがあるからなぁ〜…… 「彼らは我々に忠実だ。私怨にとらわれて自分を見失うこともない」 「貴様はどうなんだ?ウェラー卿。おっと」 アーダルベルトと呼ばれたミスター肉体派は、 ウェラー卿というリーダーの切っ先をすんでのところでとびずさっているようだけど。 その目前にはアンリの姿が……
戻る →BACK・・・ →NEXT・・・
|