「というか!何だよ!?それ!?平手うちが求婚行為!?んな馬鹿なことってある!?
  というかそもそもオレたち男同士だし!?腹がたったからたたいたらそれが結婚の申し込みぃぃ!?
  んなのきめたのだれだよ!!」
「エド」
オレの叫びになぜか即答してくるアンリの姿。
オレの叫びはどこにやら。
「こ、こんな屈辱的なことはゆるせるものかっ!」
ようやく自分を取り戻したらしいヴォルフラムが叫んでくる。
「しょうがないだろうっ!?殴るときは拳でなぐれって誰も説明してくれなかったんだからさっ!
  中学のときの野球の監督はおもいっきり拳でなぐったけどなっ!
  綺麗な顔にアザでもついたらっておもって平手にしたんだよっ!
  それがどうしてそんなことになるわけっ!?オレが叫びたいよ!」
もう叫びまくってるけど。
「黙れ!こんな辱めをうけたのは生まれてはじめてだっ!」
顔を真っ赤にしていってくるヴォルフラム。
「へぇ。そうなの。そりゃまたずいぶんと恵まれた人生を送ってきたもんだねぇ。
  オレなんかこの十五年間。母さんそっくりのこの顔でよく女の子に間違われたり。
  野球なんかポジション取られた後輩に靴下洗っといてっていわれたときとか。
  チームの鈍足にスチールきめられたときとかのほうがよっぽど屈辱的だったね!
  見た目カケル五ってことは、約八十年近くいきてて、まったくそんなことがないなんて。
  だから他人のことを思いやることをしない。とか自分本位になったりしてるわけ?お前?
  どうみたって、今のはお前がわるいだろうがっ!
  そんな伝統なんてオレがしるはずないんだから!親の悪口いったお前がわるいっ!
  お前だって以前母親のことを何かいわれてて、
  烈火のごとくに怒ってたことがあるんじゃないのかっ!?ツェリ様のせいじゃないってっ!」
何かそんなことがあった…と何となく思ったし。
今。
「…あ〜…やっぱりアーダルベルトのせいで記憶封印までちょっとゆるくなってるよぉ……」
そんなオレの言葉にアンリが盛大にため息をついていたりする。
「っ!」
ガッシャン!!
かなり興奮しているのか、ヴォルフラムは、唇をかみしめて、卓上で腕を払うし。
皿やグラスが床におち、銀のナイフがオレの足元で跳ねおちる。
「って!あぶねえなっ!食べ物を粗末にするなよっ!
  米粒ひとつにいたるまで、作ってくれた人に感謝しろっ!ってお前はおそわらなかったのか!?
  世の中には食べ物がなくて飢え死にする子だっているんだぞ!?」
いいつつも、とりあえずかがみ、ぶちまけられたお皿やナイフ、そして食事をひろおうとすると。
「あ。陛下っ!拾ってはっ!」
しゃがんでナイフを拾おうとするオレに、コンラッドがいいかける。
と。
今度こそ。
あたぁ〜……
という感じで顔に手をやっている。
「拾ったな」
口元に笑みを浮かべるヴォルフラムに。
「……教えとくべきだったかなぁ…まさかこうなるとはなぁ……」
意味不明なことをいって盛大にうなだれているアンリ。

「拾ったな。よし。時刻は明日の正午だ。武器と方法はお前にえらばせてやる。
  何しろ戦場にもでたことないような腰抜けだからな。
  せめて得意な武器を使って死ぬ気で僕に挑むがいい」
「?…な、何?武器って?」
見れば、ヴォルフラムは不適に笑い。
コンラッドとギュンターは途方にくれたような顔をしている。
「覚悟しておけ。ずたずたにしてやる」
そこまでいい、冷酷に笑うと。
彼は長兄と母に食事の途中で席を立つ非礼をわびてから部屋からでていってるし。
えっとぉ?
「何?何だっていうの?」
オレの問いかけに。
「以前エドが面白がって作った作法なんだけどね。あの様子だと今も受け継がれてるみたい…」
「だから何なの?」
アンリの言葉に、何やらまたまたイヤな予感が……
「故意にナイフを落とすのは決闘を申し込む。という無言の行為でして……
  で。それを向けられた相手が拾うのは受けてたつ。という返事になるのですよ」
ため息をはきながら、コンラッドが説明してくる。
「けけけけ。けっとうぅぅ〜!?ナイフを拾っただけで!?」
驚くオレとは対照的に。
「エド…面白がってその決まりつくったんだよねぇ。何かそれに付随してさ。
  他にもいろいろとあったりするけどね……」
「いやあの…そのエドとかいう眞王っていったい……」
アンリの言葉に思わず驚愕しながらも問いかけるオレの言葉に。
「けっこうお茶目なところがあったからねぇ。彼は。もっとも、シルには頭があがらなかったけどさ」
いや。
だから…シルって?
「でもまさか。ちょっとした香り程度であそこまでなるなんて……
  あのフォンビーレフェルト卿ってソフィアさんに何かあこがれとかでももってたのかな?」
そうつぶやくアンリの言葉に。
「あら。猊下。猊下はお使いにならなかったのですの?
  風呂場の洗髪水。あれに微香蘭をまぜてたのよねぇ」
「……母上……」
「……それはまさか……」
にこやかに何やらいうツェリ様の言葉に、何やら汗を一筋流している長男と次男。
「薬剤師に頼んでつくらせた、魔族にしか聞かない貴重なものよ。
  その香りを放つものに少しでも好意をもっているなら、いっそう情熱的に大胆になるようにって」
「……つまりそれって、嫌っていればより険悪に……
  ヴォルフラムが逆上するわけだ。あいつはもともと感情を制御できないやつだから」
コンラッドがため息つきつつ、額に手をあてて何やらいっている。
「へえ。昔よりあの微香蘭の効能って増えてるね。さすが日々研究熱心だよねぇ」
一人関心した声を出しているアンリ。
「というかっ!?アンリ!?知ってたのか!?」
「いやぁ。もともとあれって、嫌い…というかさ。気に入らない者とか。
  そういったものたちが命とか狙わないように、近づくだけで気分を害するものだったし」
あっけらかんとアンリはいってくる。
「だぁぁ〜!?けっとう!?冗談っ!どうすりゃいいんだよぉ!!
  オレ流血なんていやだぞ!そもそも日本では喧嘩は禁止!」
たぶん、ジャンケンで平和的に…というものでもないだろう。
昔の中世みたいな立ち合い…ということだろうし。
「まあ?昔はそうでしたの?それは興味深いですわ。
  あ、グウェン。あなたもアニシナと二人っきりのときにためしてみたらどう?」
「……まだ命はおしいので……」
オレそっちのけでそんな会話をしている親子の姿。
だぁぁ〜!!
「髪なんてあらうんじゃなかったぁ!というかボディーソープで髪もあらっとけばよかったっ!」
などと叫んでも後の祭り。
「ま。ユーリが選んでもいいみたいだし。どうにかなるよ」
「……アンリィ〜……」

そんな会話をしつつ、とりあえず、中途半端なまま、晩餐会はおひらきに。
ということに……

本当、そんな作法つくったっていう眞王…恨むよ……


信じられない。
どうしてこんなことになるんだろう。
平手、すなわちパーで叩いたら求婚で、ナイフをひろっただけで決闘だなんて。
というか、求婚は手袋か赤い薔薇だろ!?
あれ?
手袋を投げるのは決闘だったっけ?
「だぁぁ!ねられないっ!」
アンリは用があるとかいってもどってこないし……
広すぎるベットに、一人ごろごろする。
というか、十回転してもまだまだ広いベットって……
とりあえず、外にでて空気でもすってこよう。
先刻、ギュンターが涙と鼻水で苦しみながら教えてくれたところによると。
敵の死をもって勝ちとする決闘は、何百年も前に廃れているらしい。
現在の決闘は、ただ単にプライドの問題のみで、命を落とすことは滅多とない。
と。
そう滅多に。
つまりいえば例外もあり、だ。ということ。

とりあえず、外にでると、なぜかそこにはアンリとコンラッドの姿。
「あ。ユーリ」
「陛下」
見れば、何やら二人とも抱えてるし。
「やっぱりまだ寝てなかったね。さ。ユーリ。練習。練習。」
いって、革の盆と棒を渡される。
「それでも一番かるいのだし。使い勝手としては剣道ににてるよ」
いやそりゃ、小さいころ、精神を鍛えるためだとか何とかで、かよいましたよ。
ええ。
盆は裏を握ると盾となり、棒は鞘から抜くと訓練用の剣となる。
「利き腕に剣をもってください。
  そうこれは片手剣なので左には軽めの盾をもつんです」
「グリップ部分がバットみたいだな。でも重さは金属バットどころかプロの木製並だけど。」
コンラッドの説明にオレが答えると。
「だから使いやすいだろ?」
アンリがいって薄く笑う。
「そういえば。陛下。ご自信で野球チームを作られたそうですね」
「まあね…とりあえず。建物の中ですぶりするのはやばくない?」
今いる場所は部屋の扉のまん前だ。
「それもそうですね」
「あ。ユーリ。ウェラー卿のこれで、気休めもできるよ」
アンリがいって、取り出したのは、どうみてもグローブと硬球。
ちなみに、グローブのマークはナイキのマーク。
「あれ?これって?」
「ええ。地球で買い求めたものです。渋谷氏のおかげで俺、野球が好きになっちゃいましてね。
  ちなみに、好きなチームはボストン・レッドソックスです」
……そ〜いや、このコンラッドという人…オレをつれて地球にいたことがあるんだっけ。
「なるほど〜。ってつもり、それで子供たちにも野球をおしえていたわけだ」
なるほど道理。
だけど何だかこちらでナイキのグローブにさわれるとは感激だ。
決闘かぁ。
オレの好きな種目でいい…ってことは、悩む必要はないじゃん。
日本には血を流さずに決着をつける競技はいくらでもあるんだし。
そう思うと、少しは決闘が何だか小さなことにおもえてきたぞ。
さすがグローブ効果。
オレってやっぱり根っからの野球少年だよなぁ〜……
ん?
「あれ?でも名前がかいてあるよ?油性ペン?」
何やら硬球には薄くなっている文字がかいてあるし。
どうやら英語か何かのようらしいが、薄くなりすぎて判別不能。
「ああ。それは俺の名前じゃありませんよ」
「何っ!?」
まさか……いや、あの義父親ならば、ありえないことじゃないかも……
「グローブなどは持ち帰ろうとして自分でかったものですけどね。ボールは球場でもらったんです」
やっぱりかっ!?
って!?
「別に頼んだわけじゃないんですけど。
  遠征できていた敵チームの若手がサインしてやろうかっ。っていって、ぱっと球をとって、さっと……」
「何ぃぃ!?って!!
  お前偉大なるメジャーリーガーのサインボールでオレとキャッチボールしようとしてたのか!?
  誰!?誰のサイン!?」
オレの叫びに。
「さあ。僕も詳しくは。確かロドリゲスが僕をもっているときにいってたときの話だったけど。
  興味なかったからねぇ。そのとき僕はまだ産まれていない魂の状態だったし。
  だから、寝てたしねぇ。意識を閉じて」
アンリが腕をくんでそんなことをいっている。
「何ですか?あの彼って陛下よりえらいんですか?」
「あああああ、あたりまえだろうっ!?」
思わずボールを握る手が震えてしまう。
とりあえず、このボールは大切にしてもらうことにしよう。
うん。


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