「とにかくっ!これってものすっごい貴重な品なんだかんなっ!
  メジャーリーガーのサインイリボールなんてっ!」
「そんなものなんですか?」
へ〜。
という感じのコンラッド。
……う〜ん…そ〜いえば……
「そういえば。この世界って野球ってひろまってない。とか以前アンリがいってたなぁ」
ここに流されてきて、というか川から移動してから、もう大分たつ。
その初日にアンリから聞かされたようなきがするが。
何か遠いことのような気がするのも、また事実。
そんなオレの言葉に。
「あんまり。というより俺と子供たちしかしりませんし」
さらり。
と肯定してくるコンラッド。
「なるほど。んじゃ、王国でチームをつくるっていうのもあるよな。うん」
何かいい響き。
王国チームってさ。
ぽつり、と思いついてつぶやくオレの台詞に。
「ユーリが作った場合は、確実に。選手兼コーチ兼オーナー兼監督だからねぇ。
  だってさ。国営っていったらオーナーは王様がチームのオーナーだもん」
横から口を挟んできているアンリ。
「なるほど。それもいいかもな。オーナーかぁ」
野球少年の夢のひとつがチームのオーナーになってみたい。
という夢は絶対にあるとおもう。
「って本当にオレが王なのかもわかんないけどね。
  でももしそうなら、国営チームっていうのもいいなぁ〜……」
でもって、この世界の野球を始めた人、とかいうので有名になって。
あの子たち、ブランドンたちをチームにいれてさ。
世界中の人々と野球を通じてなかよくなって。
そうしたら、あんな偏見とか差別とかなくなるきっかけになるとおもうし。
ん?
あんな偏見?…オレ、今何おもったんだろ?
まあ、人間にしろ魔族にしろこの世界では何かそういうのがある。
というのは何となくわかってきたけどさ。
でも、肩書きが魔王じゃなぁ〜……
「とりあえず、ユーリ。外にでよ?」
「あ。うん」
アンリとコンラッドに促され、ひとまずと中庭にと出てゆくオレ。

中庭は四方を建物にか決まれていて、すべての窓からやわらかい光が降り注いでいたりする。
空には着きがでており、地上には明々と燃えるたいまつが黄色い円を描いている。
「陛下とこうして野球をすることができるなんて。夢のようです。
  陛下は覚えていらっしゃらないでしょうけど。
  よくソフィア様はまだ産まれて間もない陛下をつれて。
  夜などはこの中庭やあの見張りの塔の上であやされてたんですよ」
とりあえず、気分を落ち着けるためにとキャッチボール。
ボールをもつ手が震えるのは仕方がない。
絶対に。
「そうなの?」
「ええ」
そういや、この人がオレの名づけ親だっけ?
「でもさ。コンラッド。陛下なんてよばなくても。
  義母さんたちからあんたがオレの名付け親。というのは聞いてるしさ。
  ユーリって呼び方も、あんたから聞いたから。
  今のオレの名前、渋谷有利になったみたいだし。ユーリでいいよ」
そんなオレの言葉に、ふっと微笑み。
「それじゃあ、お言葉に甘えまして。
  といっても癖になってますけどね。陛下っておよびするのは。
  それじゃ、二人のときや猊下や陛下とがそばにいるときは気をつけますよ」
にっこりと、そういいつつも、ボールを投げ返してくるコンラッド。
「出来たらいつもユーリでいいんだけど。何はともあれ、さ!かる〜くいってみようっ!」
オレの掛け声に。
「で。その後、ユーリ。剣の練習だねv」
「…アンリ……」
こいつ、何か楽しんでないか?

そんな会話をしつつも、やがて夜は更けてゆく────



「エンギワルーッ!!」
うわっ!?
思わずびっくり。
朝方、窓をあけて空からそんな声がしてくれば、誰だってびっくりする。
結局オレがどの方法で勝負するか、というのを決めてコンラッド達にと伝えると、
彼は何ともオレらしい。とわらってたけど。
アンリはアンリで悪乗りして、道具までつくる!とかいいだす始末。
「あ。目覚まし鳥だね」
アンリがオレの後ろから窓際にやってきつつも、空を眺めていっている。
「……なんつ〜なきかた……」
美しい姿の鳥なのに。
サファイアブルーの羽とオレンジ色の長い尾をもっている。
なのに鳴き声があれでは……
朝食は各自でとってもいいらしく。
うちなんか、必ず毎日家族と一緒だけど。
ともかく、部屋にと運ばれてきたパンやチーズをアンリと一緒に平らげる。
どうやら、さすがにパンなど、といったものは世界各国。
異世界といえども共通らしい。
「で?まわしもつくったけど?」
「……ま、まわしまで?と、とりあえず。昼前になったら着替えるか」
「でもユーリらしいよねぇ。」
そんな会話をしつつも、二人で五六人前ほどのパンなどを気づいたら食べてたり。
何かけっこうおいしいぞ。
ここのパン。
ちょうど朝ごはんも終わりかけたころ。
ジャストタイミング、とも思えるタイミングで、ギュンターが部屋にとやってくる。
なぜかげっそりした顔をしてるけど。
髪も服もかれらしくきっちりとているが、赤くなった目の下には隈ができている。
四杯目の紅茶に牛乳をいれながら、
「おはよう。ギュンター」
いいつつも右手をあげる。
「おはようございます。陛下。そして猊下。ごきげんうるわしいようで何よりです」
「あんたはごきげんうるわしくなさそうだね。何かろくに寝てないみたいだし?」
そんなオレの言葉に。
「はい。本日の決闘のことで。
  そのことを考えておりましたらよい案がうかばぬままに夜があけてしまいました……」
どうやら、一晩中、考えてくれてたようだ。
別にそこまで気にてくれなくてもいいのに。
「それならもう決めてるよ。な?アンリ。」
「うん。道具もバッチリだしね。うちわはこんなものだよね。土俵は線でかくだけにする?」
「そだね。塩あるのかな。塩。やっぱり土俵に塩はつきものだし」
そんなオレたちの会話に。
「は?塩?塩はありますけど?それより陛下?いったい?決められたとは?
  ヴォルフラムはああみえて、兄二人に及ばないながらも、かなりの使い手ですし。
  それに魔術に関しても上王陛下の血のためか、炎系統が最も得意ですし」
とまどいつつも、いってくるギュンター。
「ま、とりあえず大丈夫だって。オレだって死にたくないし。それより?アンリ?
  一番目・二番目・でもって三番目の鳥が大体十時ごろだって?」
「だいたいそうだとおもうよ?それか正午に時計あわせをしたほうが確実かもよ?」
何やら心配性な教育係をそのままに。
とりあえず、腕にとはめているアナログGショックの時計を合わせることにと専念する。
だってこればっかりは、やってみないとどうにもなんないしね。
時計を合わせ終わり、次には決闘の会場にとむかう。
まだ時間前だけど、準備することがある。
綺麗な円を直接、地面に描くことはなかなか難しいので、木の棒と紐とで舞台をつくる。
「陛下?あの?」
一人、おろおろと心配顔のギュンターがとまどっているけど。
そんなことをしていると。
とりあえず用意するものがあるとかいって町にと出ていたコンラッドがもどってきてしばらく。
やがて、正午を知らせる鳥がなく。

「よっしっ!」
きちんと、これを期に正確にと時計をあわせ、何やらハラハラしているギュンターと、
かなり乗り気のアンリと共に外にとでる。
まわしをつけてやってみたかったものはあるけども。
たぶんあいてが相手なので、
ひとまずはズボンひとつで、ということで、アンリとはすでに打ち合わせている。
約束どおり、中庭にとでると、兵士たちは最小限にと減らされて、
プライベートな勝負の様子がもれないようにか、中庭に面した窓まできっちりと閉められている。
横にはツェリ様が陣取り、オレたちにとにこやかに手を振っていたりする。
どうでもいいけど、ここにもビーチパラソルってあるんだ……
ツェリ様の頭上には、どこからどうみても、
ビーチパラソル、としかいいようのない代物が、日よけ、として使われていたりする。
グウェンダルは腕をくんで、壁にとよりかかり、
決闘の相手であるヴォルフラムはといえば、椅子に座ってふんぞり返っていたりする。
そして、オレの顔をみると立ち上がり。
「お前が僕に打ち据えられて泣きながら許しを請う姿を想像してみた。
  そうなると待ち時間も楽しいものだな」
とか歩きながらいってくる。
「オレが負けるってきまったわけでもないだろ?」
いいつつも、パサリ。と上着を脱いでアンリにと預ける。
「なっ!?なぜ服をぬぐ!?」
そんなオレの行動に、あからさまに驚きの声を上げるヴォルフラムの姿。
「何いってんだよ。お前もぬげ」
「僕が!?」
何やら混乱してるようだし。
「え〜。穂区実の決戦の種目は。日本の伝統文化の一つである。
  相撲、でとりおこなわれます。すでにあらかじめ土俵は大地に描いて作っておりますので。
  両者はすみやかに移動ねがいま〜す」
アンリが何やらのりのりで、司会役まで進行してるし。
そして。
「そもそも相撲とは、男と男がまわしひとつでぶつかり合う、超重量級格闘技。
  土俵から一歩でもでるか、足の裏以外が大地についたほうがまけとなります。
  なお、まわしがはずれても失格となります。
  これは日本において数百年以上にわかって継がれている伝統的スポーツです。
  進行役はこの僕が勤めさせてもらうます」
アンリの言葉に。
「まわし?どひょう?」
とまどっているギュンターに。
「ほんと。陛下らしいですよねぇ」
いって苦笑いしているコンラッド。
「ほら。早くぬげよ」
オレの言葉に。
「男と男がは…裸でぶつかりあうだとぉ!?」
「そ。弾む肉体。飛び散る汗」
「ふ…ふざけるなっ!そんな野蛮でみだらな競技を僕に挑もうというのか!?」
「別にみだらでも何でもないよ?変な想像してるのは君のほうじゃない?」
アンリにと突っ込まれているヴォルフラムだし。
「まあっ!わたくし、その競技だぁぁいすき。素敵じゃないv」
いって、ツェリ様はなぜか熱い投げキッスをしてきてるが。
「とりあえず、その線でみあうんだけどさ。
  しょうがねぇな。だったら服きたままでもいいよ。早く円の中にはいれよ」
オレの言葉にしぶしぶながらも円の中にと入ってくるヴォルフラム。
「はい!みあってみあって〜!!」
「のこった。の合図で合戦だよ?
  ってユーリはわかってるけど、フォンビーレフェルト卿は説明しないとわかんないからね」
いって、その手に大きな昨夜つくったうちわをもって待機しているアンリ。
「アンリが『のこった。』っていったら開始だかんな。いいな?一度っきりのガチンコだぞ?」
そう説明しおわり。
そして、構えをとる。
「のこった!!」
「うりゃっ!」
こけっ。
・・・・・・・・・へ?


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