「新魔王陛下や猊下と恋に落ちるのはおやめください!上王陛下!」
いや、恋って…オレ、いままだ彼女いない暦十五年なんですけど……
女に間違われることは多々とあっても。
「いやねぇ。ギュンター。ひがみっぽい恋女房みたいにきこえてよ?」
「恨まれようとも、ののしられようともかまいません。
  とにかく、わたくしは前魔王陛下が新王陛下や猊下…双黒の大賢者様を愛人に……いえ失礼。
  恋人にする、というような不適切な関係を避けたいのです。」
そんなギュンターの言葉に。
「なるほど。あなたがツェツィーリエ陛下ですか。
  何か彼女の記憶の中のイメージと大分違ってますけどね」
苦笑しながら言っているアンリ。
「あら?猊下はわたくしをごぞんじなのですか?」
「ええ。ユーリの前世である彼女の記憶を視させてもらいましたし。」
その言葉に、なぜかはっと動きをとめているコンラッドとなぜかグウェンダル。
「って!?ちょっとまって!?前魔王?誰が?この彼女が!?
  ええぇ〜!?ってことはこのセクシークイーンさん、本物の女王さまぁ!?」
そういえば、コンラッドが魔王なのに人間の父と結婚したとか何とかいってたような……
驚くオレに。
「眞魔国へようこそ。ユーリ陛下。あ、ユーリ陛下でいいですわよね。
  陛下がうまれたときからわたくしたちそう呼んでたんですし。
  あなたの先代にあたる、フォンシュピッツヴェーグ・ツェツィーリエよ。
  ツェリってよんで。あたくしが王位を退く、といったから陛下をおよびすることになったの」
「というか?えと?ツェリさん?どうして今?
  ソフィアさんやウェラー卿からきいてなかったとはいわせませんよ?
  そもそも、今はまだユーリの体はソフィアさんの術で地球人のそれとかわりなくなってるんですから」
そんな彼女にアンリが聞いてるけど。
「だってぇぇ!陛下は何といっても。
  ソフィアお姉様が身ごもられたときに、すでに眞王陛下から認められた立派なお人だしぃ。
  それに!何より!あれからもう十八年はたってますでしょう?
  コンラートだけ成長した陛下にお会いできた、というのがずるいもの!!
  わたくしたちだって陛下におあいしたかったんですもの!
  あの赤ん坊であらせられた陛下がどのように成長なさっているのか。
  それをおもうと、いてもたってもいられなくってよ?コンラートの話をきけばなおさらに。
  男の子になってしまわれてる、というのがもったいなく感じたけど。
  でもそれは今後どうにでもなるでしょうし」
「…ユーリの負担……考えなかったんですか?というか思い立ったら即行動って……
  …その辺りの性格はエドによく似てますね……ユーリにもですけど」
なぜかじと目でオレをみつつ、ため息をついていっているアンリ。
「ええ!?そうなの!?きゃあ!何てすてきっ!」
アンリとツェリ…様の二人で何やら会話は弾んでるし……
えと……
「……本当の母親?父親の連れ子…とかでなく?」
オレの言葉に。
「ええ。俺達三人は確かに。あの人から産まれています」
「…に、似てないし……」
コンラッドに問いかけるとにこやかにと肯定される。
一方では。
「というか下手に力が覚醒したらどうするつもりなんですか?!」
「あら。いいじゃない」
「よくないですって!」
力って…何のこと?
二人してそんな会話をいまだにしているアンリとツェリ様。
「?えっと?何の話をしてるの?二人とも?力って?」
オレの問いかけに。
「陛下はお気になさらなくても大丈夫ですよ」
「ちょっとした赤ん坊の力の暴走の話でしょう」
「……山ひとつ、なくなったがな」
――は?
オレにいってくるコンラッドに、付け加えるように説明してくるギュンター。
そして、横でぽつりとではあったがグウェンダルが何やらいってるけど。
山ひとつなくなった…って……
「とりあえず。そろそろお食事の用意ができたようなので」
いって、さらっと話題をかえるかのように、扉のほうをみていってくるギュンター。
見れば、何やら数名の侍女らしき人たちがお盆に料理をもって待ち構えていたりする。
それとも給仕係の人たちなのかもしれないけど。
「……とりあえず、話はあとで」
「そうですわね」
それをみて、アンリとツェリ様も一時会話、というか言い合いをやめてるし。
そして。
何ごともなかったかのように、再び席につく二人の姿。
いやあのぉ?
オレとしては何かいろいろと気になるところがあるんですけど?
ま、全員が席にとつくので、オレもそれ以上はつっこめないし。
そのまま、目の前にと何やらかちゃかちゃと並べられるのをじ〜と見つめていると。
「あ。ユーリ。ここのマナーはフランス料理のマナーではないからね。それお酒だから」
「ええっ!?じゃあ食べる前の手洗い水は!?手拭もないぞ!?」
目の前にある大きなボールの中のがてっきり手洗い水かとおもったのに。
「お手元になれてるらねぇ。僕達は。」
「だって、食べる前にはきちんと手を洗う。もしくは消毒する。なんて常識じなないか!
  万が一、ばい菌が食べ物と一緒に体にと入らないように。食中毒を防ぐためにさ」
そんなオレとアンリの言葉に。
「陛下。手を清めるときには申し付けてもってきてもらうんですよ」
苦笑いしつつ、コンラッドが教えてくれる。
「というかさ。だったらはじめから出しとけばいいじゃん?水」
オレのそんな最もな意見に。
「間違えて飲む人が多発したからやめたみたいだよ?」
「・・・・・・・・・・・納得」
とりあえず、控えていた女の人に頼んで手を清める水をもってきてもらう。
それと一緒に手をふくふきんも。
そして。
「あ。オレお酒はやらないから」
いって、酒だ、というボールをさげてもらう。
「ふっ。酒ものめないのか。貧弱だな。」
オレの前のヴォルフラムがそんなことをいってくるけど。
「オレはまだ身長の伸びる可能性が残っているかぎり。
  絶対に成長をさまたげるブツはやらないってきめてるの。
  それにお酒は二十歳になってからって法律できまってるし!!」
オレの横には、時計回りの順番で。
アンリにグウェンダルにそしてコンラッド。
そしてヴォルフラムにセクシークイーンさんことさん兄弟の実の母親だというツェリ様。
食卓のテーブルにはこの六人がついている。
ギュンターは魔王の血縁ではない、とかいうので食卓にはついていない。
まあ、つい先日まで王子様。だったというのだから、オレにつっかかってくるのはわかるけどさ。
わかりやすく、世襲制にしとけば問題ないのに。
いや、その場合も跡継ぎの自覚にもよるけど。
やっぱ選挙が一番だよね。
「えっと?お茶ないの?それかミネラルウォーターとか、ジュースとかあったら。
  お酒よりそっちがいいんだけど」
オレの言葉に。
「僕とユーリにはお酒のかわりにキュリッシュを」
アンリの言葉にうやうやしくお辞儀をしている給仕係らしき人物。
そして、何やら別の人に託して、しばらくして何やらオレンジいろの飲み物らしきものをもってくる。
そして、それをオレたちのグラスにと注ぎ、給仕係がかるくかがんで、機内食みたく尋ねてくる。
「陛下。魚と肉。鳥類と哺乳類と両生類のどちらを?」
「へ?」
ここの食事事情なんて知らないんですけど?
はっ!?
まさか、魔族の国だっていうんだから、どっかのグロテスクな映画みたいに、
生きたままの動物の脳みそとか食べたりする…とかじゃないだろうな!?
猫や犬、といった動物もご遠慮願いたい。
「とりあえず牛で。あとは任せるよ。それでいいだろ?ユーリ?」
「あ。ああ」
アンリの助け舟にうなづくオレ。
というか牛かぁ。
ま、無難だろう。
「ちなみに。牛といっても、こういう場で使われる牛は、胃袋が八つで角が五本の種類だけどね。
  ちなみに、遺伝子操作とかじゃないよ?」
にっこりと、オレの心の中を見越したようにと説明してくるアンリ。
「……つうかさぁ。ここの世界の生き物事情って……」
オレの素直な感想に、ただただコンラッドは笑ってるし……
ま、とりあえず、気をとりなおして。
とりあえず食事をするとしますかね。

「でも先割れスプーン…何かなつかしいなぁ。小学校の給食以来だ。
  合理的っていえばこれ合理的だけどさ」
運ばれてきて、ならべられたのは、なつかしの先割れスプーン。
「そうだ!せっかくだし。ユーリ。写真とろ。写真。
  ジェニファーさんに頼まれて、コンパクトサイズのデジカメもってきてたんだ。防水タイプの」
何っ!?
ぽん。
と思い出したように手をたたいていってくるアンリ。
「って!?ちょっとまて!?アンリ!?おふくろにたのまれただって!?まさかまたなのか!?」
オレの叫びに、にっこりと。
「その気だったんじなやい?いいじゃん。勝利さんはともかく。ユーリは女装、似合うし」
「よくないぃ〜!!何だって趣味で毎月女装につきあわなくちゃいけないんだよ!?
  しかも、写真まで毎回とられてさ!?おふくろは女の子がほしかった。
  とかいってたけど!今はもうスピカがいるんだしさっ!」
「まあいいじゃないか」
「だからよくないってば!!」
そんなオレとアンリの会話に。
「?猊下?その?デジカメとは?使い捨てカメラとかでなくて?」
首をかしげて聞いてくるコンラッド。
「ああ。あれよりまた進んだ品かな?その場で映像の確認ができて。
  気に入らなかったら取り消せるの。で、同じように写真にすることもできるし。
  パソコンに取り込むこともできるし」
簡単にアンリが説明してるけど。
「へぇ。かなりそちらの技術はまた発達したもんですねぇ」
そんなアンリとコンラッドの会話に。
「?コンラート?猊下?それはいったい?」
首をかしげているツェリ様と。
だまって首を自分もわからない、とばかりに、ヴォルフラムにみられて首を横に振っているグウェンダル。
「ああ。見たほうが早いですよ」
いって、アンリはポケットからコンパクトサイズのソレを取り出して……って!?
「ここまでもってきてたの!?」
部屋にあるんだとばかりおもってたけど。
「せっかくだしさ。もってきたんだよ。」
「…何のために!何の!?アンリぃぃ〜……」
そんなオレの抗議の声は何のその。
「ま、とりあえずこんなモノですよ」
いって、いきなりアンリが、ツェリ様にとカメラをむける。
カシャッ!
「きゃっ!?」
『なっ!?』
一瞬、きらめくフラッシュ。
普通オートでつくからなぁ。
フラッシュは。
「あ。すいません。灯りがたりなかったら自動的に勝手に光るもので。ほらとれたv
  これでOKというか問題なかったらこのボタンを押すんですよ」
アンリが席をたってツェリ様にと画面を見せてるし。
気になったのか、あのグウェンダルとヴォルフラム。
そしてコンラッドとギュンターまで、小さな確認画面を覗き込んでいたりする。
「まあ!みてみて!わたくしだわ!わたくし!ね!」
それをみて、目をきらきらさせていっているツェリ様。
「これは…一瞬で精密な絵姿を?実に興味深い…まるで生きている、というか生き写し。
  としかいいようが……」
関心した声を上げているギュンター。
「現像はこの世界ではできませんけどね。
  この世界にはまだない、科学が生み出した生活の品のひとつですよ。これ」


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