晩餐会。
というのは、便利な裏技を紹介することでも。
元プロ野球の超一流投手がゲストのワインのうんちくをたれる番組でもなく……
「魔王陛下と近しい血族の方々だけで囲む、高貴で特別な晩餐のことです。」
いや…高貴って……
なぜか鼻の穴に綿をつっこんだギュンターは、妙にテンションも高く、胸を張りながら先導してくれる。
「……ま、薄いみたいだし…別に害はない…かな?」

アンリが何やらぶつぶつつぶやいているけど。
何でもアンリ…というか、『双黒の大賢者は特別』。
ということで一緒に食事に参加するらしい。

「失礼。遅れまして」
大急ぎで着替えにもどっていたコンラッドが小走りで追いついてくる。
ギュンターもまた、僧衣に似た服を着こなして、髪は後ろできっちりと束ね。
前面には金糸の見事な刺繍がほどこしてある服をきていたりする。
「一応、これが俺の正装なのでね」
いいつつ、コンラッドはウィンクひとつ。
長く続く廊下を、いったいどれくらい歩いただろうか。
やがてたどり着いたのはひとつの部屋。
そのままその部屋の中にと入ってゆく。
…というか、これは本当にお食事会なのか!?
乳白色の石の円卓に歩み寄りながらも、自分で緊張からか手足が強張るのがわかる。
「晩餐会…というよりは、どっちかといえば、軍事会議に見えるんだけど……」
「ユーリ。この程度で気後れしてどうするんだよ?
  そもそも、エドのときの本当の軍事会議とかなんてこんなもんじゃなかったよ?」
緊張しているオレの横でそんなことをアンリがいってくるけど。
「昔と比べるなって。アンリ。小市民として育ったオレにはすごく緊張するんだよ!」
「僕だってただの市民だよ〜。ただ、昔のことを四千年ばかり覚えてるってだけだし」
部屋にいたのは、長男と三男で。
彼らは二人とも当たり前のようにと制服姿だし。
デザインは似通っているけども色が異なる。
グウェンダルはくすみのないビリジアンでヴォルフラムは青の強い紺色の服。
進学クラスと普通クラスの差で、制服が異なるオレとアンリに似たところがあるのかもしれないが。
部署ごとに、色が異なることは多いい。
うちの学校…というか高校がそうなように。
また、確か陸海軍も色で区別をつけてたはずだ。
とりあえずギュンターが下げた椅子にとアンリとオレが腰をかける。
う〜。
何かきまづいよぉ〜……
盆をもった、給仕係りらしい男性がアンリとオレに深々と頭を下げてくる。
だが、長男も三男もシャンパンらしきグラスを手にしたまま、挨拶のアの字もしてこない。
「こ…こんばんわ」
「ふっ」
うわっ!?
オレの言葉にグウェンダルはかるく鼻で笑い。
ブォルフラムは無視。
逆にアンリはといえば。
「へ〜。この部屋まだあったんだぁ。あ、でも壁の絵とかはかわってるね。
  なつかしいなぁ。よくここで簡単な会議してたらエドが脱走してもう大騒ぎでさぁ」
…などといって部屋を見渡してるし。
な、何かいま、気になることをいってたような……
エド…って、確か眞王とかいう人のこと…だよな?
あ、アンリの言葉にグウェンダルのオーラに多少変化がみられてる。
そんなアンリとオレをみて、にこにこしつつ。
グウェンダルの背中に左手をおき。
「陛下。猊下。さきほども説明いたしましたが。
  彼は俺の兄のフォンヴォルテール卿グウェンダル。で、こっちが」
金髪少年の肩に手をおくと。
「触るな!」
コンラッドの手をぱっとふりはらっている金髪美少年。
「弟のフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。
  二人ともついこの間までは殿下、と呼ばれる立場でしたけど、今は閣下。
  もちろんお二方よりも数段格下だから気軽に呼び捨てでかまいませんよ」
「僕にさわるなっ!人間の指で触れるなといってるだろう!?
  僕はお前を兄とおもったことなど一度としてないからなっ!」
…兄弟喧嘩?
しかも、一方的に毛嫌いしてるようだし。
「はいはい。わかったから飲み物をかけないでくれ。
  お前たちのと違って地が白いから。しみになっちゃって大変なんだから」
コンラッドのほうはといえば、いかにもなれている、という様子だし。
「というかさぁ。エドも当時から苦労してたけど?というか、あの戦い以後からかなぁ?
  差別と偏見が大きくなってったのは。あのときまではどうにか共存してたからねぇ。
  すべての種族は。で、いまだに健在のようだね。激しい人種差別は。
  下手したらまたこの地、消滅の危機におちいっちゃうよ?改めないと?
  あのときは、シルの慈愛の心でこの星どころか宇宙空間たすかったけどさぁ」
??
あきれつつ、よくわからないことをアンリがつぶやいてるし。
いや、人種差別って?!
何だか美少年からまわらり。
オレにも覚えあるなぁ。あ〜いうこと。
意味もなく兄貴に対抗しようとして反発してさ。
「父親が違う。というのは説明しましたよね。
  俺だけがウェラー卿コンラートで十貴族の一員じゃないのもお気づきでしょう。
  俺の父親は素性も知れない旅人で、剣以外は何のとりえもない人間だったんです」
何かそ〜いや、さっきコンラッドがそんなことを説明してたような?
人間と魔族って。
ま、まあオレも天空人とかいう母さんと魔族の王だったとかいう父さんとの子らしいし。
そんなコンラッドの説明に、
ヴォルフラムが不愉快そうな顔をして、グウェンダルはいつものこと、という感じで無反応。
「じゃあハーフ?あ、それいったらオレもか?ハーフとかクウォーターとかはここではいわないのかな?」
そんなオレの言葉に。
「ユーリはソフィアさん…すなわち、天空人と魔族の間に産まれた子だからねぇ」
アンリがオレをみつついい。
「俺の父親は人間だったんですよ。薄茶の髪と目で無一文の」
「そりゃ、シマロンからにげてくればね……」

コンラッドの言葉にアンリが小さくぽつり、といってるけど。
…は?シマ?何だって?
オレがアンリに問いかけようとすると。
「そして、とってもいい男だったのよ」
まったく別の声がして、その場にいる全員の視線が声がしたほうにと向けられる。
「母上!!」
「ああ!風呂場のセクシークイーンさん!?」
オレとコンラッドたち三兄弟の誰が叫んだのかはわからないが、
とにかく誰かの声とオレの声が重なると同時。
へそまで届くかというような切れ込み。
脚線美丸見えのスリッド。
つや消し素材の何とも目のやり場に困るドレスを身につけている女性。
って、本当に目のやり場にこまるんですけど……
間違いなく、彼女はさきほどの風呂場のセクシークイーンさんだ。
って、彼女がコンラッドたちの母親!?
見た目、三十にならないかそこらなのに……
えっと、カケル五、ということは……
「……百五十歳前後!?うわっ!?見えないっ!!」
「ユーリ。だから見た目で判断したらダメだってば」
オレの叫びに苦笑しつつ、アンリが突っ込みをいれてくる。
というか、オレはそんな年上の人にときめいていたんですか?
……年上好みにも限度があるよな……
セクシークイーンさんは、とりあえず、手近にいた息子にだきついてるし。
「久しぶりねぇ。コンラート。ちょっとみない間に父親ににて、ますます男前になったわね」
「母上こそ。いつにもまして麗しい。」
「やぁん。そんなこと他の娘みんなにいってるんでしょぉ」
……これが母と子の会話かいっ!
「グウェン。あなたまた眉間にしわがよってるわよ。そんなんじゃ女の子に敬遠されるじゃない。
  それでなくてもあなた父親ゆずりの顔立ちなんだからぁ」
そんなセクシーな母親の言葉に。
グウェンダルはただただ無言。
そして。
「きゃぁ!ヴォルフ!ヴォルフ!あいかわらずあたくしにそっくり!」
いって、コンラッドの次にグウェンダルに近寄っていっていたその身をはなして、
三男にと走りよっていたりする。
そして。
そのままヴォルフラムにとだきついていたりする。
むぎゅっ。
あ、何か胸に埋まる音がしたぞ……
「本当っ。これじゃあ殿方がほうっておかなくってよ!」
豊満すぎる胸に息子の顔を地からづくでうずめさせ、そんなことをいってるし。
「……母上。今朝方お会いしたばかりです。それに男に好かれてもうれしくありません」
そりゃそ〜だ。
「そうなの?男の子ってそういうものなの?
  これだから年頃の男の子の気持ちはよくわからないっていうのよねぇ。
  ああ、どうしてわたくしには女の子ができなかったのかしら?
  男の子なんてがさつなばかりですぐに母親を疎んじるんだからっ!」
「そんなっ!僕は疎んじてなんていませんよ!母上!」
「そぉお?ほんとぉにぃ?」
「本当ですとも!」
……馬鹿親子?というか親子漫才?
それに、何かうちのおふくろと同じようなことをいってるよぉ…この人……
待望の女の子、つまり妹のスピカが生まれても、かわんなかったけど…おふくろの対応は……
そのおかげで毎月趣味につき合わされ……それは今は関係ないか。
そんなことをおもっていると。
すぐにセクシークイーンさんの視線の矛先はすぐにオレにとむけられてくる。
「きゃあっ!陛下ぁ!」
「ひゃぁ!?」
あのスタイル抜群の肉体がオレにと押し付けられ体全体が熱くなる。
ええっと……
「湯殿でおあいしましたわね。きゃぁ!本当にソフィアお姉様そっくり!
  なのにもったいない。男の子になられたっていうのは本当なのですわね。
  ねえ、新王・ヘ・い・かv」
いや、その…胸をオレにおもいっきりくっつけて、しかも耳元でささやかないでください……
「湯殿でお会いしたときもだったけど。こんなに緊張しちゃって本当にかわいらしいおかた。
  わたくし、あなたが王位をついでくださるのをずっとまってたんですのよ?」
いや…だからぁ。顔をすり寄せないでくださいぃぃ〜!セクシーさぁん!
「アンリィィ〜……」
とりあえず、アンリに助けを請うと。
「ま。まあ。とりあえずそんなにくっついてたらユーリ…いや、ユリティウスも話すに話せないとおもうよ?」
苦笑しつつも、アンリが助け舟をだしていってきてくれる。
そんなアンリの声にアンリのほうにと視線をむけて。
「まあ!本当に双黒の大賢者様もいらしておられたのですわね!
  昔、コンラートから陛下のおそばにいらっしゃる。というのはきいていたけど。
  ねえ?陛下?猊下?恋人はいらして?」
「そこまでですっ!」
オレとアンリの間にわって、オレたち二人を引き寄せて、ささやくセクシークイーンさんの言葉に。
ギュンターがオレたちから彼女を引き剥がす。
た…たすかったぁ〜……



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