「…ふぅ……」 ごぼこぼ。 とりあえず、気分を落ち着かせるために、何か歌でもうたっとこう…… 歌、といってもオレは上手でないけれど。 自分的にパニックになりかけている脳を落ち着かせるためのいい方法のひとつらしいし。 しばらくくちずさんでいると。 うん。 少し落ち着いてきたのが自分でもわかる。 風呂の中を泳ぎつつもやってみる。 一度はやってみたかった大きな風呂の中でおもいっきり泳ぐこと。 道徳的に普通は許されてないからねぇ。 本来なら。 でも、ここは個人風呂だっていうし。 やってみたって誰かに迷惑もかからないし、やってみたっていいでしょう。 誰もとがめるものなどはいない、広い風呂。 少し泳いでそしてまた、隅っこに背をもたれかけ、口から歌をくちずさむ。 こうなりゃ、とことん付き合うしかないでしょう。 そう自分の中で結論を出し始めたころ。
「コンラート?その歌はコンラートね?」 「うわっ!?」 誰もいないはずなのに、なぜに女の人の声がするのやら。 「ラブミー何とかって打てでしょ?その歌はわたくしも好き。 でも異国の言葉は意味がわからないのよねぇ」 「うわぁ!すいません!すいません!ここが混浴だとはしらなくてぇ!!」 みれば、思い切り、セクシーな女性。 長い金の髪に澄んだ青い瞳。 しかもスタイルは抜群で、体に巻いているバスタオルの下の脚線美がはっきりとわかる。 しかも、ものすっごく胸…大きいし…… 「あら。いいのよぉ。ここは魔王陛下だけのお風呂ですもの。 わたくしは、ちょっといつもの癖ではいってきちゃっただけ。お気になさらないで。新王陛下」 いいつつ。 うわっ!? ジャブジャブ風呂の中にとはいってくるし!? 「奇遇だわぁ。こんな所でお会いになれるなんて。 まあ本当に昔の面影がそのまま。ソフィアお姉様そっくりでいらっしゃるのね」 「いいいいいいやあの?何でソフィアって母さんの名前を…… って!?そうでなくて!かけゆしてお風呂ははいんなくちゃっ!でなくてっ! バスタオルを巻いたまま風呂に入るのは公衆浴場ではマナー違反… とかでもなくて!ああ!近寄らないでくださぃぃ!」 何か自分でも何をいってるのかわかんなくなってきたぞ。 ほとんど声が裏返っているのは仕方ないと思う。 一応、オレ、全うな思春期を迎えてる真っ最中だし。 「あら?ごめんなさい。殿方とお風呂にはいるのなんてすごくひさしぶりだから」 って!? だから、いいつつ近づいてこないでくださいってば! 固まって動けないオレをみて。 「くすっ。かわいいv」 って!! 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」 ざぶざぶ近づいてきてオレの顔に手を当ててくるセクシークイーンさん。 自分でもわからない叫び声とも、泣き声とも悲鳴ともいえない叫びをあげながら。 とにかくその場から逃げ出すオレ。 かわいいってオレのことですか!? というか、セクシーさん、どうして王様風呂に入ってきたんですか!? って結局母さん知ってるあなたは誰だったんですか!? セクシークイーンさぁん!?
とにかく。 腰にタオルを巻いただけ、という格好で突っ走り。 教えられた自分の部屋にととびこむと。 「〜〜!!??」 何でこんなところに女の子が!? なぜか部屋の中に若くてかわいい女の子がいるし。 「?ユーリ?」 そのまま、とにかくベットの中にとうづくまる。 「?ユーリ?どうしたんだ?」 何かアンリの声が遠くに聞こえるような気がする。 何で女の子が部屋の中に? いや、それもあるけど、あの女の人何!? わけがわからないぃぃ〜〜!! 「ユーリ。とにかく。おちつけ?な?」 目の前にぼんやりとしたアンリの姿が。 「ってアンリぃ!いったいどうなってんだよ!?女の子が!女の人がぁぁ!!」 「…パニックになってるな。こりゃ。君、とりあえず外にでてくれる?」 「はい」 アンリの言葉に女の子が部屋から出てゆく音がする。 「とにかく。おちつけ。な?息をすって。はいて」 スーハー。 とにかく、落ち着くためにと深呼吸。 まだかなりオレとしては混乱してるけど。
「どうなさいました!?陛下!」 「どうかしたのですか?!」 どうやらオレ派と見られる二人が駆けつけてきたときには、アンリが少女を部屋の外にとだし。 とにかく深呼吸をし終えて、パニックになりつつも、意味不明なことをアンリにいってる最中。 「女の子は好きだ。好きなんだけど見られていいかっていうとそうでなくて。 見られんのは規格外ってことで……」 「だから。おちつけってば。ユーリ!」 目が虚無なまま、何やらぶつぶつとつぶやいているオレがいるし。 アンリがコンラッド何かいって、コップにお茶をいれてもらい。 それをオレにと手渡してくる。 それを一気に飲み干すと、多少むせたものの、どうにか落ち着きが少しはもどってくる。 「って!この国にはプライバシーはないのかよ!?」 そんなオレの言葉に。 「ユーリ。王に従者や侍女がいるのは当然だろ?それにいちいち驚いてたら……」 アンリがそういってくるけど。 「部屋はともかく!風呂の中にまではいってくるのはあんまりだろ!? それじゃこの国ではどこにエロ本とか点数低いテストとか隠せばいいんだよ!? それに!風呂場で全裸の美女にナンパされかけたらどこに逃げ込んでハアハアすればいいわけ!?」 「風呂に?」 オレの言葉にアンリが首を傾げてるけど。 一方では。 「…あたぁ〜……何てこった…やってくれるよ……」 オレの言葉に顔を覆って天井を見上げて言っているコンラッド。 「で?その美女から逃げてきたの?ユーリ?せっかくだからせめて誰か聞けばよかったのに。 あそこは魔王専用風呂なんだしさぁ。可能性としては……」 いいつつ、コンラッドをみているアンリに、なぜかうなづいているコンラッド。 「そんなにオレ度胸すわってないよ!彼女いない暦十五年だぜ!? アンリだって全裸の美女がバスタオル一枚で近づいてきたら動揺するだろうが!!」 「それ、ものすごいいいじゃんっ!!」 「よくないぃぃ!!」 「それに、ユーリはよく女の子に間違われてもててたじゃない。ラブレターとかきてたしさ」 「それとこれとは違うだろうが!」 いって、息をつき。 「とにかく、あわてて逃げてきたんだけど。ダレ?あの金髪セクシークイーンさんは!?」 オレの叫びに。 ため息をつきながら。 「……上王陛下…ですね」 いって天井を見上げているギュンター。 「よかった。陛下の理性に感謝します。」 何やらギュンターがつぶやき、コンラッドはほっと胸をなでおろしたような口調でいってくる。 「なるほど。でもユーリも気がちいさいなぁ」 「アンリぃ!お前だって絶対に逃げ出すとおもうぞ!?」 オレとアンリがそんな言い合いをしていると。 「と、とりあえず。陛下。こちらをおべじにっ。」 ギュンターが、ふとみればなぜか涙目にとなって鼻をぐずぐずといわせている。 手には何か黒い布をもってるけど。 「あれ?どうしたの?急に?花粉症?」 「あれ?この香り……?何か微香蘭のような気が……」 オレの言葉と同時。 何やら小さくアンリがつぶやいているけど。 「すいません。習慣も何もかも違う場所で、けなげにがんばっている陛下を見ていると…… 急にいとしくて……くしゅんっ!」 いや。 くしゃんっ…って…やっぱり杉花粉にやられたか。 オレにそういいつつも、布を手渡しつつ、くしゃみをしているギュンター。 あれは、一度かかるともう、一生ものだからなぁ〜…… オレはまだなってないけど。 「どうした。ギュンター。お前らしくないな」 そんなギュンターにと言っているコンラッド。 「花粉症だったら鼻うがいがいいよ。鼻うがい。 あとは杉花粉なら薔薇科の甜茶をのんだらだいぶ症状楽だよ?」 布と服を取ろうとした拍子に、オレの指がギュンターにと触れて。 彼はものすごいスピードで壁まで後ずさる。 熱まででてきたか? 顔あかいし…… となると、杉花粉でなくてもしかして風邪かな? 一番上にあった、つやのある布を持ち上げると、それはどうやら下着の一種らしい。 らしいが…… 「んなっ!?パンツまで黒!?しかもツヤツヤで…紐パン!?」 驚きの声をあげるオレに。 「それが一応、一般的な下着なんですよ。」 「うそっ!?」 そんなコンラッドの説明におもわず絶句。 「とりあえず、簡単にトランクスもどき、今つくったけど…ユーリ?これはく?」 いって、アンリがもっていた布を投げ渡してくる。 「さっき風呂場からでて、布もらって簡単に縫ってたんだけどさ」 とかいってくる。 そういやアンリ…手先も器用だからなぁ。 「これよりこっちがいい!ってこれってトランクス…というより、紐で結ぶ短パン?」 「この国、まともなゴムないもん。」 そんなオレとアンリの会話に。 「身持ちの硬いご婦人のようなことをおっしゃってわたくしを困らせないでください。陛下。 脱がせやすい下着をさける、ということは、……はっ!?今わたくしは何てことを!?」 深紅の薔薇でも差し出しそうな雰囲気だったギュンターが、ひとりでぼけて突っ込み我にともどる。 「も。ぼうじわけありませんっ!わたくしふらきなそうぞうをっ!」 「?生理食塩水で鼻うがいしてみたらいいよ?…ん?ふらちってなに?」 「頭を冷やしてまいります」 いって、そのまま駆け出しているギュンター。 やっぱり熱もあったのか? ま、あれだけ顔を赤くしてたしなぁ。 「とにかく。熱は冷やさないといけないけどさ。鼻うがいだよ〜!!」 そんなギュンターに一応さけんでおくけど、きいているのかどうなのか。 「?ユーリ?それはそうと。微香蘭つけた?」 「?何それ?」 「だよねぇ〜……?」 アンリはアンリでオレに変なこときいて、首をかしげてるし。 「ま。日本だって伝統的な下着はふんどしなわけだし。 即席だけどそれでもよかったら使ってもいいよ。 というかさぁ。ここの貴族の下着、どうも昔からかわってなさそうだから縫ってたんだ」 さらり、といっているアンリだけど。 「…昔からそ〜なのか……」 アンリの言葉に思わずがくっと肩を落としてしまうのは、やっぱり仕方ないとおもう。 とりあえず、アンリが創造っていた簡易的な短パンもどきをはいて、紐を縛って前でとめる。 手渡された黒のツヤツヤ紐パンよりは数段ましである。 「はい。陛下。次はこれを。猊下は……」 「あ。僕は自分の服洗って乾かしてたから。そっちきるよ」 「了解しました」
そんな会話をしつつ。 何やら学ランによく似ている服を手渡され、とりあえず服をきがえてゆく。
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