「何かよくわからないなぁ。選挙とかならともかく」
オレの言葉に。
「簡単にいったら。十二国記の王の選び方に似ているだけだよ。麒麟がいないけどさ」
「あ〜…何となく納得。」
アレもかなり理不尽だ。
『?じゅうに・・?』
アンリとオレの言葉に顔を見合わせているギュンターとコンラッド。
そっか。
コンラッドはあれを知らないのか。
結構面白い、といえば面白いのに。
「まあ、異なる世界で十五年も育ってきたんですしね。
  ま、おいおいわかってきますよ。一年もいれば魔王らしくなりますって」
「ちょっとまて!?一年!?」
そんなに長く!?
コンラッドの言葉に思わず叫ぶ。
「大丈夫だって。ユーリ。しばらくはあっちとこっちを行き来しつつの行動になるとおもうよ?
  君の体は今はソフィアさんの術の影響で、ほとんど地球人のそれと変わりなくなってるし。
  まあ、二〜三年くらいまでなら向こうではつなげられる時間は一時間以内だし。
  状況とかそのほかの事柄でかわってくる場合はあるとしてもさ。
  一日、とまではいかないよ。数日とかさ。それを見越してつなげてるしね」

アンリの説明はよくわからないけど。
でも、とりあえず。
「そうなの?」
「そうでなかったらエドに文句をいうから」
「ならよかったぁ。だって来月。初の公式試合だよ!?
  やっと合格した高校だしさぁ。いきなり家族と離れるっていうのはねぇ」
たとえ、オレが本当にこちらの産まれだ、としてもだ。
そんなオレたちの会話に。
「……眞王陛下に文句をいうって……」
「まあ。彼だし」
何やらうろたえているギュンターに苦笑しているコンラッド。
「あ。ユーリ。彼が初代国主でもあるエドワード。この国では神様扱いになってるけどね」
アンリにいわれてそちらをみると。
「へぇ。あの高飛車美少年にそっくり」
「…猊下。みだりに御名をお口にされましては……」
「いいじゃん。別に」
とまどいつつ言ってくるギュンターに、さらり、とアンリはかえしてるけど。
「?あれ?ひょっとして…これって…アンリ?」
その少年のような初代魔王だ。
という彼の後ろに黒髪に黒瞳の少年が。
何となくだが雰囲気がアンリに似ているような気がするのできいてみる。
「うんそう。このときの僕の名前がアンリ・レジャンっていったんだけどね。
  双黒の大賢者。と呼ばれ始めたのもこのときからだし」
何かものすごいシンプルな格好だぞ。
この絵の中の人物は。
「もうすこし、着飾って書いてもらえばよかったのに」
他はけっこう着飾ってるというのに、アンリだけはかなり地味だ。
「堅苦しいのは今も昔も嫌だからねぇ。じゃあ、ユーリ?聞くけど、君は好き?」
問いかけられ、一瞬。
おふくろにさせられている、毎月恒例の着せ替え大会が頭をよぎり……
「……嫌です」
おもいっきり素直な感想を即座にいうオレ。
「しかし!ああ。このたびの魔王陛下にあらせられましては。
  かつての眞王陛下と同じく、友に双黒の大賢者様をそばに従え!何とすばらしい!
  光と闇。眞王が闇とあらば、賢者は光。
  彼らは互いにあこがれて、それぞれの色をその身体に宿してうまれてきたのです。
  つまり、闇は光を!光は闇を!」
うっとりしながら何やら言い出すギュンター。
「…それ、君たちが勝手に考えた偶像……」
アンリのつぶやきも何のその。
何やら一人、自分の世界にと入り始めているギュンターの姿。
あ、みれば何でか鼻血までだしてるぞ?
そこまで興奮しなくてもいいだろうに。
「ほっときましょう。いつものことです。
  さ、陛下。この先が私室ですので。もう少しがんばってくださいね」
何やら絵の前で歌うようにいっているギュンターをそのままに。
オレとアンリとコンラッドの三人で魔王の部屋がある、という一角に足をすすめていく。
どうやら口調からしてギュンターのアレは日常的にいっていることらしい。

そんなことがあったのが、少し前。
「でも、やっぱりテレビもゲームもMDもない……」
「ここは電気がまだないからねぇ」
いいつつも、アンリはその手に簡単お泊りセットをもっている。
つまりシャンプー&リンスとポディソープ。
それと身体を洗う布。
とりあえずオレもあれを借りることにしよう。
二日、きちんとお風呂にはいっていない、というのも事実なので。
アンリと共に、個人の専用風呂だ。という風呂にとむかっていくオレたち二人。


「……って!?修学旅行の大浴場よりおおきいじゃん!?」
馬鹿でかいし!?
おもわず風呂場に入ってみて素直な感想。
クリーム色を基調とした石造りの浴室。
どうやらここは、魔王のプライベートバス、ということらしいが。
というかこの浴槽……これ、絶対数M以上はあるんじゃあ……
角が五本の牛らしき彫像の中からごぼごぼとお湯がながれでている。
とりあえず、桶らしきものがあるので、それでざっとかけ湯をし。
浴場、というよりは、はっきりいってプールともいえる大きさのコースのはじっこにとりあえずつかる。
しかし……オレ、どうなるんだろ?
見れば、アンリはごしごしとしばらく風呂に浸かった後に、身体をあらっている。
アンリが終わってから次にオレもそれを借りて身体を洗う。
こういう貸しっこするのは昔から慣れてるし。
「?あれ?アンリ?シャンプーがもうないぞ?」
シャンプーしようとして、中身をみれば、すでに空。
「ああ。ごめん。えっと…あ、多分これだ。はい」
何やらピンクの入れ物にと入ったものを手渡される。
「……ま、しょうがないか」
リンスなしかぁ。
ま、仕方ない。
おそらく、この風呂の備え付けなのだろう。
シャンプーらしきものを手にとり、ガシャガシャ髪につけて洗う。
体や髪をあらいつつ、オレは今までのことを振り返ってみる。
アンリと一緒に川にとおちて。
何やらテーマパーク風の異世界にほうりだされる。
いきなり頭をボールよろしくつかまれる。
実はオレはこっちの産まれで、しかも魔王だっていわれる。
アンリの、その名前で生きていたときの世界だって聞かされる。
恐い名前の城につれてこられる。
これが魔王?お前なんか魔王として認められないっていわれる。
まあ、それはオレも同感。
第一、オレ、魔王って感じじゃないし。柄でもない。
皆さんの実年齢は、見た目カケル五だといわれる。
二つ心臓がある馬に、緑の髪の人間……
アンリも一緒に出てくる夢…だとしてもリアルすぎる。
実際に、つねってもいたいし。
部屋数は二百五十二程度あるらしく。
城の構造的には、二・三階だて。
一部五階建ての建造物あり。
天井がサーブが不可能なほど高く。
まずゴジラでさえ手をやくであろうほどの頑丈なつくり。
息切れするほどに長い階段。
城内で働く人の数は百九十よりも上らしい。
馬やの向こうには、簡素だが、巨大な宿舎。
常勤の兵士の数は四千五百あまり。
別の方角にある宿舎は現在、グウェンダルとその隊が使用しているらしい。
彼は兵を自分の領土からつれてきているとか何とか。
部屋は部屋でバスケのコートより広いし……
以外なのは、部屋の隅になぜか観葉植物。
しかも見たことない種類のやつでなくて見慣れたもの。
アンリ曰く、コンラッドが昔、地球でかってきたやつだろう。とのこと。
……どうりで部屋に日本独特のキュウスがあったりしたわけだ……
オレの育ての親からきいて、
渋谷家で愛用されているお茶の苗を買ってきて、彼が何でも育てているらしい。
やっぱり日本人っていったらお茶だし。
新芽がでてはつんで、干してつくっているとか。
何とも手間隙をかけることで……
というか、よくそこまでやるなぁ。
というのが心境ではある。
風呂にも当然、というかびっくりすることに、何とお背中流し係なるものがいて。
ご丁寧にご辞退願ったのもまた事実。
「ふぅ……」
とりあえず、体と髪をあらい、ちょっぴしお茶目にお風呂の中で手足をばたつかせてみる。
というかさぁ……
「何でこんなところにプラスチック製のアヒルが?」
何やら見慣れたアヒルがお風呂の横にとおいてあるし?
しかも、そのアヒルの裏には、消えかけたような文字で。
『しぶやゆーり。』とかかれてる。
ってオレの!?
「昔。君がウェラー卿にあげたったやつじゃない?それ?
  彼が少しでもユーリにリラックスしてもらおうとおもってもってきてたんだとおもうよ?きっと」
アヒルを手にとり、驚くオレにといってくるアンリ。
「赤ん坊のころって……」
覚えてないって。
そんなのは。
「僕そろそろ出るけど。ユーリはどうする?」
「あ。オレもうちょっとつかってくわ」
何やら頭の中も整理したいし。
「了解。それじゃ、僕は先に部屋にもどってるよ」
いって、アンリが浴槽からあがり、部屋からでてゆくと。
部屋の外に控えていたらしい人がアンリにとバスタオルを手渡している光景が。
う〜ん…何だかなぁ……


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