「偶然だろ?いきなり一部地方だけ雨が降り出すとか。
  部分的のみに雨が降り注ぐとかは。…あ、ほら降ってきたし」
ざぁ……
気づけば、いつのまにか空には黒雲が。
そして雨が降り始めている。
小雨なので気持ちいい。
さっきまであれほど快晴だったのに。
「フォンビーレフェルト卿?これ以上ユーリと言い争ってても雨はますます逆にひどくなるよ?
  それより、とりあえず先に彼を部屋に案内して。体を休めてもらうほうが先じゃないかなぁ?」
アンリの言葉に。
「なっ!?誰とも知らないやつに指図されるいわれなど!」
「ヴォルフラム!失礼であるぞ」
「しかし!兄上!」
今までだまっていたグウェンダル、という人がヴォルフラムに珍しく意見してるけど。
「こちらの御方は双黒の大賢者どのだ」
「なっ!?」
ざわっ!!
??
何か高飛車美少年ヴォルフラムや、たくらみ顔の中高年までおどろいてるし。
周りでは兵士たちのどよめきの声。
「とりあえずユーリ。中にはいろ。四千年前や五百年前ともそう造りはかわってないみたいだし」
そんなアンリの言葉に。
「ご案内いたします。陛下。猊下」
うやうやしくおじぎをして中にといざなう動作をしてくるコンラッド。
その横では。
「兄上!?そんな馬鹿な!?馬鹿なことが!?」
「事実だ。」
何やら言い合っているグウェンダルとヴォルフラムの姿があったりするけど。
オレが城の中にと入ると同時。
カラリ。
とまたまた空は晴れ渡っている。
ここでもいきなりの、突発的な雨ってあるんだなぁ。
ここにくるまでも思ったことだけど。
日本ではたびたびあったけどさ。


二日ぶりに通された部屋はかなりの広さ。
しかも風呂もかなりデカい。
何でも魔王専用風呂だとか何とか……
すぐにアンリの部屋の用意ができないうんぬん、とか何とかいってたけど。
とりあえずアンリと二人で寝泊りしても、はっきりいってこの部屋ならば有り余るほどに余裕がある。
で、結局。
しばらくはアンリと同室で。
と、いうことになり、部屋にと落ち着くオレたち二人。
「…というか専用って……」
「正確にいえば、王の私室だね。でも内装は昔とだいぶかわってるなぁ。って、あ。これまだのこってる」
アンリが壁の端にとおいてある、置物らしきものにふれ、何やら幾度か左右にとまわす。
と。
ガコン。
「うわっ!?」
床にぽっかりと穴があいて階段が……
「非常用の脱出口だよ。なつかしぃなぁ。」
「……いや、懐かしいって……」
アンリの言葉に思わずつっこみつつも脱力してしまう。
この部屋は、城の中。
それもかなり奥にと位置しており。
しかも中庭にも面接している。
ベットルームに普通の部屋。
そしているのかいらないのかわからない部屋が二つに執務室らしき部屋もあったりする。
ちょっとした日本の2DKとか3LDKの部屋より格段に広い。
「とりあえず。長旅だったみたいなモノだったし?風呂にでも入ってまず汚れをおとさない?」
隠し通路らしきものを閉じてからアンリがいってくる。
「それもそうだな」
いいつつも。
「ってアンリ?お前またオレん家で風呂に入る気だったのか!?」
ごそごそと、鞄からお決まりのシャンプーセットを取り出すアンリに思わず問いかける。
「いいじゃん。別に。」
いや、そう開き直られても……
「……そういや、オレ達…帰れるのかなぁ……」
今さらながらにちゃんと家に帰れるのかどうかが、かなり不安。
「その点は問題ないよ。時間と空間はうまつつなげることができるし。
  とりあえずユーリには。というかユーリのすべきことが終わったらエドも道をつなげるよ」
いや、そのすべきことって?
オレがここで産まれたうんぬん、はともかくとして。
オレの実の両親がここにいたのは、紛れもない事実みたいだし……

この部屋にたどり着く少し前。
延々と長く続くのではないか?というような長い廊下。
「陛下。こちらをご覧ください」
オレとアンリを促して、案内をしているギュンターがオレにと話しかけてくる。
コンラッドはオレたちの後ろからついてきている。
つまりは、前後で護衛をつけている…というのは、いくらオレでもわかる。
ギュンターの言葉に左右をみれば、何やらずらり、と肖像画が掲げられていたりする。
思わずぐらり、とめまいがするほどに。
絵姿の格好は描かれている人さまざま。
「新しいものから順番にならんでおります。こちらが……」
いわれかけて思わず絶句。
その示された絵にと釘付けになってしまう。
とても懐かしい……
そこには、オレがペンダントの中で見慣れた…オレの父親とおぼしき人物が。
「彼が陛下のお父君であらせられます。第25代魔王陛下です。
  魔王がその家系で続いて即位、する、ということは今までに滅多とないことなのですが。
  国民からは、変革王。として親しまれています。
  陛下のお父君が旅立たれるにあたり、退位を申し出まして。
  その次に王位につかれたのが、陛下にとりましては上王陛下にあたりますツェツィーリエ様になります。
  まだ彼女の絵は本人が気に入るものが出来ないらしくここにはありませんが……」
「彼女って…そういや、アンリも何かそんなこといってたような?」
オレのつぶやきに。
「陛下。前王ツェツィーリエは俺達三兄妹の母親なんですよ。恋多き女性。とかもいわれてますけどね。
  何しろ魔王の身分でもあったにもかかわらず俺の父親……何のとりえもない人間と。
  その彼と反対をおしきって結婚して俺までつくった人ですからねぇ」
そんなオレにと説明してくるコンラッド。
「ええ!?ってことはおかしくない!?
  だってそれだったらあのグウェンダルとかいう人が王位をつぐはずじゃあ!?」
「ユーリ。だからこの世界、というかこの国の王は世襲制ではないんだってば。
  普通の国民から選ばれることだってあるんだよ?エドのお告げによってね」
「眞王とかいう人の?」
「そう」
オレの叫びにアンリがにこやかに説明してくる。
「眞王といえば、あの山の中腹に見えているのが眞王を祭っている眞王廟です。
  眞王の御魂はあの神殿の奥深くに眠りにつかれておりまして。
  我等眞魔国の国民をみちびいてくれてるんですよ」
オレとアンリの会話に、まどを指差し説明してくるコンラッド。
「ええ!?死んでまで働かされてるの!?」
「ユーリ。驚くポイントが違うって。
  ま、もともとエドがこの地上に降りてきてのも。ある方のためでもあるしね」
?ある方?
何やらわけしり顔のアンリ。
「この地を任されたはずの創主達が、負の心にひきづられたのか、好き勝手なことしだしてねぇ。
  で、この地は消滅の危機に陥っちゃって。
  で、エドが地上におりて、自然と共にいきていた当時の人々や魔族たちと共に。
  創主達と戦って安定をもたらしたんだよ。当時はまだ差別なくみんな平等にくらしてたんだけどね。
  僕はそんなエドの手伝いをかねておりてきたんだけどさ。
  その後、人間たちが強大な力をもつ魔族を恐れて迫害はじめるまではね。
  こわかったんだろうね。きっと」
アンリがよくわからない説明をしてくれる。
「そもそも、シルが転生している間に好き勝手しようだなんて……シルの気も知りもしなくてさ」
とかいってるし。
いやだから?
その昔からよくアンリの口からよくたまぁに聞くけど……その、『シル』って…誰?
いくら聞いても教えてくれないし……
「双黒の大賢者たる猊下がいらっしゃらなかったら。
  眞王も創主との戦いにやぶれ。我等魔族の今もなかったことでしょう。
  それいぜんに世界や星そのものがなくなっていた可能性も否めませんが」
アンリをみつつ、うやうやしくお辞儀をして言ってくるギュンター。
…何かそれ聞いたらアンリってここではかなりの大物なんだなぁ。
生まれ変わってるとはいえ、記憶もってるかぎり当人、といっても過言でないし。
「僕は少し手をかしただけだよ」
そんなギュンターの言葉に苦笑いしているアンリ。
「陛下。こちらが二十四代、魔王陛下です。彼は獅子王。とよばれていました。」
話をさらり、と変えて別の絵をみて説明を開始しはじめるコンラッド。
「コンラート!説明はわたくしが。陛下、そしてこちらは……」
長々と続く廊下をあるきつつ、歴代の王だ、という肖像画を示しつつ説明してくるギュンター。
両手を広げても、横幅に足りない、という大きさの絵画。
どれも実写的で精密に、目に痛いほどに細かく描かれているそれら。
オレの父親らしき人は、なぜかその手に本を掲げて描かれている。
「獅子王って……どこの世界でもにたようなあだ名をつけるんだなぁ……」
しばし、父さんの絵にみとれていたオレはコンラッドの言葉にはっと我にともどる。
色つきでみる父さんの絵はとても何か感慨深い。
というより言葉がでない。
「こちらがフォンカーベルニコフ・ヤノット陛下。厳格王ともよばれていました。
  そしてこちらがロベルスキー・アーセニオ陛下。武豪王として名高かったお方です。
  こちらは殺戮王、フォンロシュフォール・バシリオ陛下は残虐王……」
「……な、何かさあぁ。だんだんとやばい呼び方になってない?
  もっとこう気楽な。石油王とか新聞王とかブランド王とかいないの?」
オレの最もな意見に。
「陛下。ここには石油はありませんよ。新聞といえば眞魔国日報がありますけどね。
 そういう呼び方の人はいらっしゃいません」
首狩り王に流血王。
何だかギュンターの説明はどんどんさらにやばくなってるし。
なんだかここの魔族の国民性がみえてきた。
という感じだ。
椅子に座って台の頭に手をやっている人もいれば。
地面に突き立てた剣によりかかっている人。
棹立ちになった馬上で討ち取った敵の首を掲げる、これぞ魔王。という絵もある。
三人ほど女性もいたし、中には少年、としかいえない年恰好の王も。
髪の瞳の色の違いこそあれど、いずれの人物も美しさではひけをとらない。
逆に古くなるにつれ、ますます人間離れした美形さんにとなっている。
昔にさかのぼるにつれ、マントや甲冑。という姿が多くなっている。
「昔はRPGみたいな格好してたんだな。やっぱり剣と魔法の世界はああでなくちゃ。
  なんかあんたたちの軍服って今風すぎるし。あ、この人。
  あのグウェンダルとかいう人にそっくり。ゴットファーザーじゃん」
ひとつの絵をみて思わずつぶやく。
「ゴットファーザーって……。ああ、いわれてみれば確かに似てるかもしれませんね。
  なるほど。それは気づかなかったな」
一人オレの言葉にうなづいているコンラッド。
「?何ですか?それは?」
首をかしげているギュンター。
「この方はグウェンダルの先祖にあたる人です。」
首を傾げつつギュンターが説明をしてくれる。
う〜ん……
何かよくわからないなぁ……


戻る  →BACK・・・  →NEXT・・・