確かに。
オレはこの風景を知っている。
居心地が悪くなるような兵士たちの……
途中かなりの美形集団さんもいたりするけど。
そんな前を通り過ぎつつ、やがて、城の前の門にとたどりつき。
その門が音をたてて開け放たれる。
まるで時代劇の『開門!』よろしく。


「うわぁ!?」
中にと入り、しばらく進み、思わず驚き馬をとめる。
そこにはずらっと横一列に並んだ兵士たちの姿と。
その中央に濃い灰色の長い髪を後ろでまとめた、見た目はいかにも恐そうな人物が。
その人はオレをみて、何やらふっと鼻で笑ってるし。
一瞬だけだったけど。
って?
…あれ?この人って……確か、水鏡というか水面に映ってた……
オレがそんなことを思っていると、馬の横に数名の兵士たちがよってくる。
どうやらもう降りてもいいらしい。
動作からして、おそらくは納屋に馬を連れてゆく係りの人達だろう。
オレが馬からおりると、その兵士たちは馬の手綱をひいて、馬を奥のほうにとつれてゆく。
おそらく、奥のほうに納屋があるのだろう。
「陛下」
それと同時にコンラッドとギュンターもまた馬からおりて、馬をひきつれつつオレのそばにとよってくる。
アンリはといえば……
何やら彼の周りの兵士たちが驚いて固まっているようだ。
勝手知ったる何とやら。
とばかりに。
「馬を納屋というか宿舎の中にいれてくるね」
そういって、そのまま馬に乗ったまま奥にとむかっていってるし。
「ふっ。なるほど。これが新たな魔王陛下。というわけか」
ムカッ。
ちょっぴりどこかであったことのあるようなすごみのある大柄な体格の男性がいってくるけど。
というか、絶対にこの人、あのとき水面に映ってた人だよなぁ?
「これとは何だ!これとは!!えっと。そうだ。
  たしかフォンヴォルテール卿とか。昔水鏡となったらしい水面の中ではよばれてたやつ!
  初対面の人に向かって、コレとはないだろ!?これとは!?」
そんなオレの言葉に、なぜか目を見開くその人物に。
「陛下?名前はまだお教えしていないのになぜにグウェンダルの名前を?」
驚きで目を見開いているギュンター。
「そういえば。猊下や育ての親である渋谷夫妻が、水鏡のことはいってましたね。
  確か小学一年のときの社会見学のときでしたっけ?
  とりあえず、陛下。ご紹介しますね。彼は俺の兄のフォンヴォルテール卿グウェンダル。
  そして……」
コンラッドが俺の横にときて、相手の説明をしてくれる。
兄って…に、にてないし!?
と。
「そいつがあのときの新たな魔王だ!というのか!?」
何やらは以後から、ちょっとばかり甲高い、ソプラノのような声が。
振り向くとそこには、先ほど道にと並んでいた美少年軍団さんの一人の姿が。
「兄上。こんな男とも女ともつかないヤツが本当に魔王としてふさわしいとお思いですか?
  顔はそれこそあの方に瓜二つですけど。他人のそら似。ということも。
  そもそもウェラー卿がつれてきた相手です。信用できるのですか!?」
などといってるし。
「ヴォルフラム!何ということを。陛下をお疑いになるのですか?!
  それにコンラートのことを悪しくいうのはおやめなさい。
  あなたの悪いくせです。コンラートはあなたの兄なのですよ?!」
そんな美少年にと何やらいっているギュンター。
って…ちょっとまって?
このあからさまに、魔王、といっても差し支えのない外見の人が、コンラッドの兄で?
で、ヴォルフラム、と今呼ばれたこの美少年が、このグウェンダルとか言う人を兄とよんでて?
でもって……
「ええぇ〜!?三兄妹!?に…にてないしっ!?」
思わずもれる本音。
まったくもって似てないし!?
そんなオレの叫びと同時。
「それは仕方ないよ。ユーリ。彼ら三人はそれぞれ父親が違うからね。
  以前僕はウェラー卿から聞いてるし」
「アンリ!」
『猊下。』
『・・・げいっ!?』
オレの声とコンラッドとギュンター。
そしてグウェンダルとヴォルフラム、と呼ばれていた人たちが顔を見合わせる。
兵士たちなどは何やら短くさけんで固まってるし。
「……双黒?…もしや……」
アンリをみて、グウェンダルが何やらつぶやき。
「馬鹿な!?黒髪、黒瞳が二人も!?」
面白いまでに驚いている金髪美少年。
「?アンリ?父親が違うって?どういう?」
そんなオレの問いかけに。
小さく。
ゴットファーザーのテーマ曲が絶対に似合うグウェンダル、と呼ばれた人物が。
「やはり……」
とか短くつぶやき、コンラッドに視線をおくり、それをうけてコンラッドがうなづいていたりする。
そして。
「似てないのも当然。といえば当然なんですけどね。俺たち三兄妹はそれぞれ父親が違いますから。
  ま、似ていようが似ていまいが血のつながりを無効にすることはできない。
  グウェンダルは俺の兄で、ヴォルフラムは弟です。
  おそらく二人ともそんなこと口にもしたくないでしょうけどね」
いって苦笑するコンラッド。
そんなコンラッドの言葉に。
「僕はこんな…こんな人間もどきを兄だとはみとめていない!
  それより!みたところ、そいつは確かに見た目はいいけど。
  知性も威厳もかんじられないじゃないか!世の中には似たものなんていくらでも……」
そういいかけるヴォルフラムを。
「ヴォルフラム!何と畏れ多いことを!
  陛下が広いお心をお持ちでなかったら今ごろあなたは命を落としているところですよ!?」
なぜかギュンターがそんなことをいって止めてるし。
えっと?
「…もしかして…心が広いって…もしかしなくてもオレのこと?」
「みたいだね。」
オレの素朴な問いかけに、ただアンリは笑ってるし。
「口をつつしみなさい。陛下を畏れぬ物言いは。
  たとえ王太子のあなたといえどゆるせません。しかも陛下と猊下のごぜんで!」
何やらヒステリックにいってるし。
「……えっと?」
「くすくすv」
とまどうオレとは対象てきに、ただただアンリは笑ってるけど。
…楽しんでるな……こいつ……
そんな会話をしている最中。
「新王陛下!!」
あ。
さっき馬が暴れたとき、腰ぬかしてたおっさんだ。
見た目は五十代程度、といったところかな?
くすんだ金髪と青い目の中年さん。
……どうでもいいけど、たのむから。
あんたの周りに張り付いている怨嗟の気をどうにかしてくれ…おっさん……
近くでみると、瞳の奥の隠し扉に卑劣な作戦を練りこんでいる影あり。
「私は前王であり、上王となるフォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエの兄で。
  この国の繁栄のため、摂政として働かせていただきました。
  フォンシュピッツヴェーグ・シュトッフェルでございます。
  陛下のご無事なご到着を心より歓迎いたします!」
いって、オレとアンリの前でひざまづいてくるし。
というか。
繁栄。
という言葉の部分で、
この人にまとわりついている怨嗟の気がいっそうにその負の気配を増したんですけど……
しかも、逆に混乱に導いた!とか戦争を起こした!とか訴えてきてるんだけどなぁ。
まとわりついている『気』からそんな声が聞こえてるし……
これは、霊、というよりはどちらかというと残留思念とかに似たものかもしんない。
中には本当に霊体さんもいるようだけどさ……
「あのさぁ?フォンシュピッツヴェーグ卿?
  あんたはオレとあんたの兄妹とどっちに魔王でいてほしいの?
  というかそんなに怨みの気をまとっててつかれない?
  あんたについてる怨嗟の気たち。何か戦争がどうだのいってるよ?」
ざっ。
面白いまでにオレの言葉に顔色を変えているこのおっさん。
何かコンラッドたちまでびっくりしてるけど。
そして、なぜか顔色をわるくして。
「――は?」
と何とも間抜けな声しかだしてこないし。
というか、即答できないなんてこと自体、わが身がかわいい証拠だっての。
それに、これほどまでに強烈な恨みを買っている…というのがあからさまにオレでもわかる。
というのに、本人気づいてないし……
う〜…何かあまり近くによられたら気持ち悪くなってくるぞ……
「…いやあの。えっと……。はっ。もちろん新王陛下にございます!
  王室の時期を見計らった交代はすべての民の利ともなりましょう。
  新王陛下はすべての救い主。
  この国の将来をおつくりになる偉大なる魂の持ち主だとも聞きおよんでおります。」
「人違いだとおもうな。オレ。そんなオレたいそうな人でも魂でもないって」
……たぶん。
そんなオレの言葉に。
「ご謙遜を!すべての民が存じております。天空人ソフィア様に生き写しのそのお顔。
  その漆黒の御髪に闇衣色の瞳!陛下こそすべての頂点に立たれるおかたです」
だから近づかないでってば…それ以上……
「というか。黒髪。黒瞳は日本人ならほとんどだよなぁ?アンリ?」
「まあ、たしかに。そもそもこの地に黒い髪に黒い瞳、という人物が滅多と産まれない。
  というのは、そもそもこの星を…というかこの銀河そのものを新たに生成させたとき。
  彼女がこの地というか星を見守るためにとある決断したからだしねぇ。
  だからすぐに見つけられるように…って……
  でもさすがに彼女もやるもので、外見もかえてたからねぇ。
  本当に見つけるのに苦労するったら……」
??
「?彼女?」
アンリの何やらしみじみとしたその物言いに首をかしげて問いかけると。
はっと何なら口をつぐんで。
そして、ぱたぱたと手をふりつつ。
「あ、気にしないで。気にしない。気にしない」
とかいってくるし。
何かまずいことを聞いたとき、聞かれたときのアンリの癖だ。
これは。
「なっ!?」
今頃になって、このシュトッフェルとかいう人は、アンリの髪の色にも気づいたようで驚いてるし。
遅いってば。
「そいつが本物だという証拠は!?
  そもそもこの世に双黒のものが二人も現れるなんて滅多とないはず!
  それにそんな子供があの方の御子だというのか!?
  証拠を確かめるまではそいつが魔王だって認める気はないからな!」
何やら叫び、高飛車にいってくる金髪少年、ヴォルフラム。
「子供って!?そりゃ、オレはまだ高校にはいったばかりだけど!
  だけどお前だってオレと同じくらいじゃないか!」
オレの叫びに。
「だからぁ。ユーリ。この世界の魔族は見た目と年齢が違うんだってば。
  大体見た目×五で実年齢をみたら正解だよ。
  本来ならば君もソフィアさんの術がなかったら成長スピードは彼らと同じ。
  もしくは、それよりもかなりゆっくりでウリちゃん並みなんだけど。
  地球で人らしくすごすにはそれだと問題あるからね。
  ソフィアさんはとりあえず、この国では十六で大人の扱いをする。というのと。
  地球では大体基本的に十八で自立するひとはするからって。
  そんな理由から十六から十八の間にかけて。
  君の体を産まれたままの肉体、つまり元通りにするように術をかけてるからねぇ。
  でもって、ユーリはまだ十六の誕生日も迎えてないからねぇ。
  それにさ?あまりムキになってたらまた濡れるよ?」
「??何だよ?その濡れるって?」
「君はいつも偶然。でかたづけてるけど。本当に偶然とおもってるの?あのこと?」
あのことって、突発的な雨とかのこと?


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