「っ!」
こういった経験は初めてではない。
なのでおもいっきり手綱をひっぱる。
よく小さなころから義母さんに、オレには花が似合う。とか、写真に花をいれたい。
とかいってオレを花もぐれにした経験が、まさかこんなところで役にたとうとは。
驚いて、パニックに陥っている馬を手綱をさばきつつも、やさしくなでてやりとにかく落ち着ける。
なぜか道のところ…というか、
目の前にいたシュトッフェルとかいう中年男性さんは、馬に驚いたのか、腰を抜かしてるけど。
今はかまっている暇はないし。
「とうどう。おちつけ……。そう。そうそう」
しばし、馬と格闘することほんの数分。
馬はやがて落ち着きを取り戻し、大人しくなったものの。
まだ耳の中にアブがはいっているらしく、激しく首をふっていたりする。
「……やれやれ。お〜い?アンリ?懐中電灯とかもってたらかしてくれ。
  明かりをあててから耳の中にはいったアブだすから」
馬をおりて、すぐ後ろにといたアンリにと声をかける。
そんなオレにあわてて、ギュンターが。
「陛下。馬をお降りになられることは……」
などといってくるけど。
「アブださないと危険だし。馬もかわいそうじゃん?」
「OK。ちょっとまって。」
オレとアンリの声はほぼ同時。
いいつつも、アンリもまた馬をおり。
そしてフード付きマントの下にと隠されていた鞄のファスナーを開き。
その中からコンパクトサイズの懐中電灯をとりだしている。
大概、アンリはオレの家にくるときは懐中電灯持参だし。
遅くなるからって。
「ごめんだけど馬を抑えててくれ。オレはこいつで……っと。」
ちかっ。
ざわっ!!
??
カチリ、と懐中電灯に明かりをつけると何やら回りでざわめきが。
言葉なくして明かりを扱えただの、見たことのない灯りだの。
「よ〜し。よ〜し。今、耳の中にはいった虫だしてやるからな?」
首を下げてもらい、ちかちかと、数回、馬の耳の中にと灯りをともす。
と。
……ブゥゥン〜…・・・ 
耳の中からまるで何ごともなかったかのようにとアブらしき虫がとびだしてくる。
「よ〜し。もう大丈夫だぞ。ちょっとおどろいちゃったな」
アンリに懐中電灯をお礼をいいつつもどしつつ、馬の頬をもっと語りかけると、
馬もわかったらしく頬ずりしてくる。
ちなみに、この馬はオレの馬らしく。
オレが名前をつけてもいい。
とかいうので、名前は『アオ』にしてみたり。
しばし、一時の間をおいて。
『わっ!!!!!!』
??
なぜかさわら歓喜の声を大きくしている国民らしき人々の姿。
何やら兵士たちまで一緒になって歓喜してるし。
????
「陛下?大丈夫ですか?お怪我は?」
いってオレに近づいてくるコンラッド。
「別にないよ。……それはそうと。うわっ!?緑の髪の人が?もしかして宇宙人!?」
ふと横をみれば、何やらみたこともない緑の髪の人間が。
いや、人間、というかここは魔族の国だから、魔族の人、というべきか?
「ああ。彼らは癒し手の一族です。彼らは血の色が少々独特なために、肌も青白くなるのですが。
  患者の治癒力を向上させる。特殊な能力の持ち主なのです。
  二千年ほどまえに人間たちが彼らを迫害したためにこの地に逃れてきたようで。
  まあおかげで現在の我々の長命があるわけですが」
オレに説明しつつも、コンラッドは片手を上げる。
どうやら『オレは大丈夫だ。』という意味合いの合図らしい。
「さ。陛下」
「あ。うん」
コンラッドに促され、再びアンリと共に馬にとまたがる。
いまだに人々は熱気、ともいえる歓喜につつまれたまま。
だからなんでそんなに熱狂してるのやら。
オレ達が馬にまたがったのを確認してから、再び兵士たちもまた進み始める。
馬にまたがり、すすみつつ。
「んじゃあさ?あの紫の髪の人は?さっきの女の子もそうだったけど?」
とりあえず、目についた気になったことを問いかけてみる。
「湖畔族です。生まれつき魔力の強いものが多く、王都では教員や保安に携わってます。
  お気づきかもしれませんが、陛下。わたくしも湖畔族の血をうけついでおります」
ギュンターがオレにと説明してくれる。
なるほど。
スミレ色の瞳がそうなのか。
「心臓が二つの馬に。空を飛ぶ生きた骨格標本。緑や紫の天然色の髪…かぁ。
  日本では絶対に見られないな。染めてるとか、というのなら髪の色はわかるとして。
  まさかこれ以上はでてこないだろうな?たとえば神話の中のメデューサとか。
  ミノタウルスとかさ。はたまた目が三つある鳥人とか。なんかサンドワームとかでてきそう……」
そんなオレのつぶやきに。
「ユーリ。最後のはFF。というか、ミノタウルスはいるよ?」
「いるの!?」
思わず振り返り、アンリにと問いかける。
「うん。半魚人とかも」
「……まじで?」
そんなオレをみつつ、笑いをこらえながら、コンラッドはギュンターにと目配せし。
「この国には信じられない数の種族がいます。
  長く生きている俺やギュンターばかりか、学者たちですらでも確認できていないようなものたちも。
  その数はいまだに正確には確認されてはおりません。
  それに魂だけの生物。という生命体という種族も存在いたします。
  それらを踏まえていいいますと、魔族はありとあらゆる場所にと存在することになります。
  陛下。あなた様に従う意思はこの国のあらゆるところにちらばっているんですよ」
オレにと説明してくるギュンター。
「というか、ユーリに関しては全部が従うけどねぇ」
「?」
ぼつりとアンリがつぶやき、コンラッドはそれをきき苦笑し、
「今の言葉は?何とおっしゃったのですか?」
などといっているギュンター。
「今の言葉は、猊下は日本語でいわれたんだよ。ギュンター」
そんなギュンターに説明しているコンラッド。
オレとしては……今のアンリの意味深発言はかなり気になるんですけど…
って、今の日本語でいったの?アンリ?
オレ的にはやっぱり、どっちも同じに聞こえるんですけど??
そんな会話をしていると。
やがて、今度こそ本当の城壁にとたどりつく。
重い音をたてて扉が開かれる。


「うわぁ〜……」
思わず頭の中で世界遺産の音楽が反復する。
白い石畳の直線道路が遠くにまで続き。
両脇には、とうとうと流れている水路。
二手に分かれた水の行方は街の東と西にと向かっているようだ。
正面を見上げるとヨーロッパ城物語でよくみかけるような。
イギリスのどっかのお城のようなモノが左右対称に、で〜んとそびえたっている。
背後には緑豊かな山があり。
水路はみればその山腹にあるトンネルから始まっているようだ。
「?あれ?」
一瞬、どこか懐かしい光景のような感じがするが。
だがしかし。
「……もう、オレ何をどういったらいいのか……」
いいことばが出てこない。
「何もおっしゃらずとも。ここが魔王陛下の王城。血盟城ですよ。」
そんなオレにと説明してくるギュンター。
「…何かぶっそうな名前だし…まさか、血塗りの天井板とかあるんじゃないだろうな……」
それとかつり天井とかそういった類の仕掛け類とか……
何しろ魔王の城、というのだからなにがあっても不思議じゃない。
はっ!?ま、まさか!?
「ホーンテッドキャッスルじゃないだろうな!?ココ!?」
何らかの意思を城そのものから感じるし……
城といわず、この城壁の中身全体に。
そんなオレの叫びに。
「大丈夫だよ。ユーリは正統なる主だから。そもそもここは。
  エドがこの地を王都に選んだときに、地の精。というか。
  彼らを傷つけないことを約束して建立したものだからね。シルの名のもとに。
  でもって、正統な主。もしくはエドが選んだ後継者。
  それ以外のものがこの城を占拠した場合、
  エドと地の精霊アスラの意思によってその血をもってあがなわせることを誓っている。
  いってみれば、血の盟約。この城は正統なる主。
  すなわち魔王となったもの、もしくは創世神にしか従わない。
  簡単にいえば、難攻不落の城って所だからね。ここは」
アンリが長々と説明してくるけど。
「ちょっとまて!血をもって罪をつぐなわせるって何よ!?ねえ!?」
何やらものすごぉくイヤな考えがよぎったんですけど?
「気にしない。気にしない。アスラもきっとよろこぶよ。あ、アスラっていうのは地の大精霊ね」
「気にするって!…というか大精霊って……」
何かRPGらしき単語がでてきたぞ?
アンリとそんなやりとりをしていると。
コンラッドがとても楽しそうに門の先に続く通路をあごでと示してくる。
それにうながされて、何の気なしにとふりむけば。
…道の両サイドには、はるか先まで直立不動の兵士たちの姿が……
「……げっ!?」
きっとオレが通ると、スタジアムの逆ウェーブみたいに頭を下げてゆくのだろう。
はっきりいって心臓に悪いぞ…これ……
どこからか、何やら音楽らしき曲までも聞こえてきてるし。
オレとしてはどうせならドラクエの城の音楽を期待したい。
「とりあえず。先に陛下と猊下がお進みください。我等は後ろからついてまいります」
いって、馬をとめ、オレと後ろのアンリにいってくるコンラッド。
そんなコンラッドの言葉に。
「え〜?もしかしてこのフードとマントをはずしてってこと」
不満そうなアンリの声。
「できましたら。」
即答するコンラッドの言葉に。
何やらしぶしぶと。
「……何かさぁ。僕ってわかったら扱いが堅苦しくてイヤなのにさぁ……」
何やらぶつぶつアンリはいいつつも、
その身にまとっていたフード付きマントをはずして、肩掛け鞄の中にとしまっているけど。
……というか、アンリ?
つまり、お前は自分が目立ちたくないから、そんな格好をしてたのか?!
……そのおかげでオレが目立ちまくってたんだな……
だって、アンリだってオレと同じく黒髪に黒瞳だしね。
オレだけが目立つのは、わりにあわないとおもうぞ。
絶対に。

兵士たちが先行しつつ。
そしてそんな道の中央にオレとアンリが並んで、ずらっと並んだ兵士たちの前をとおってゆく。
何やら二人が並んで通っていくとものすごいざわめきがおこってるし。
双黒のものが二人だの、何だのと。
「・・・・そんなに黒髪ってめずらしいのかなぁ?日本では当たり前なのに?」
そんなオレの当然なつぶやきに。
「この世界には黒。という色は魔族にしか出ないからね。
  というか黒い髪をもつものはいつも決まってるけど。
  ちなみに、この国の初代王となったエドは金髪だよ?」
横でオレにといってくるアンリ。
「眞王、とかいう人のこと?それにしても……なにかこの風景……」
何かなつかしく感じるのはなぜだろう?
昔、温かな腕に抱かれ、この風景を眺めたことがあるような……
「たぶんユーリはこの道。両親と赤ん坊のころに通ったことがあるとおもうよ?」
そんなアンリの言葉に。
「陛下のご両親はよく。まだ首すらもすわってなかった陛下をつれて。出かけられていましたからね」
そんなアンリの言葉を肯定するかのようなギュンターの台詞が。


戻る  →BACK・・・  →NEXT・・・