そんな会話をしているオレ達の後ろからちかづいてきて。
「それはそうと?僕達用の馬を調達にいった兵士たちっていつごろもどってくるの?
 人の後ろにのってるのと、自分で手綱をもって馬をあやつるのとではだいぶ違うんだけど…」
ずるいことに、あたまにタオルをのせているアンリがこちらに向かって歩いてきつつ聞いてくる。
「…アンリ…オレのタオルは?」
「ない。」
「……ケチ……」
「だって一枚しかいれてなかったし」
そんなアンリの言葉にはっとして。
「もうそろそろ届くはずですが」
にっこりといっているコンラッド。
って、馬!?
もしかして。
コンラッドの言葉に目を輝かせ。
「白い馬!?」
「いいぇ〜。陛下にばっちりお似合いの黒い淑女をご用意してますよ。
  産まれるときからオレが手がけて今日まで丹精こめて育てた愛娘たちを」
にこにことそういってくるコンラッド。
「…オレ白い馬がよかったのに……」
「…ユーリは暴れん坊将軍…好きだもんねぇ〜……」
「そう!やっぱり上様は。こう白馬にのってさっそうと登場しなきゃ!!」
「・・・・・・・・うえさま?」
意味がわからないらしいギュンターはオレとアンリをみて首をかしげ
コンラッドはといえば、なぜか笑いをこらえていたりする。
「あれってまだやってたんですか?たしか八代将軍の話の番組でしたよね?」
「そう!あれっていいよなぁ。…ってコンラッド?しってるの?」
「陛下は覚えてないでしょうけどね。十年前、陛下が七つになる前。
  つまりは陛下にとっては、義妹のスピカちゃんが産まれてからまもなく。
  オレは再び地球にといってますからねぇ。で、陛下があの番組が好きだ。
  と渋谷夫妻からお聞きして。一応研究してみました」
「……いや、研究…って……」
思わず突っ込みをいれてしまう。
「せめてビデオとかでてればよかったんですけどね。当時なかったですし。
  しかたなく、渋谷夫妻が
  『陛下が大人しくなるから』、とかいって録画してたテープを、夫妻から借りて観賞しましたけどね。」
「もう全滅しちやってるけどね。そのテープ…今もまだ市販されてないしね……」
出てもおかしくないのに……
というか第一話をみのがしてるんだよなぁ…
かなりきになるし。
脚本集にものってなかったしなぁ〜……
記念すべき第一話……
「ああ!陛下!コンラートだけにおわかりになる話をなさらないでください!!」
一人なぜか泣きそうになっているギュンターだけど。
?何で泣きそうになってるんだろ?
「ま。ユーリ。あきらめるんだね。白い馬にのった上様は。一応ユーリは魔王なんだしさ」
「・・・・しくしくしく……」

そんな会話をしつつも、しばしのときが経過する。

やがてコンラッドたちがいったように本当に真っ黒な馬が二頭。
届けられてくるし……
やっぱり白ではないのね……


「とりあえず、ウェラー卿とフォンクライスト卿がユーリをはさんで。僕はその後ろにつくから」
馬をのりかえしばらくすすむと。
やがて、かなり頑丈な門構えがみえはじめ、アンリがそんなことをいってくるけど。
なぜかアンリはフードをかぶってるし。
どうやら兵士たちにたのんでもってきてもらったらしいけど。
「ええ!?オレが先頭なの!?」
そんなオレの言葉というか叫びに。
「いえ。陛下。前にて兵士たちが僭越ながら先導させていただきます」
いってかるくお辞儀をしてくるギュンター。
「あ。ユーリ。いちいち頭さげてたらキリないから。
  どっかの王室パレードとかみたいに、にこやかに手をふる程度でとどめとけよ?」
「……キリがないって……」
「野球の勝利凱旋。とおもえば気が楽だろ?」
アンリの指摘に、思わず。
なるほど、そりゃそうだ。
と納得してしまう。
なるほど、たしかにそれも一理ある。
一度やってみたかったしね。勝利凱旋。
……馬の上、というのと車の上、という差がこれにはあるけど……
やっぱり馬は自分が手綱を操るほうがいい。
このちょっとしたここちよい緊張感。
近づくにつれて、頑丈な壁に囲まれた町並みがみえてくる。
よく小説とか映画にでてくる、ほとんど中世のような町並み。
小高い丘の上らしき場所にでん、とそびえている城。
町をとりかんでいる壁の門をくぐると、おもわず唖然。
道並み兵士や人々が並んでおり、さらには何やらファンファーレらしきものまで鳴り響く。
「さ。陛下。まいりますよ」
カッ。
馬のひづめの音がひびく。
コンラッドたちに促されるまま、とりあえず、オレは馬を操りつつ、
何やらお祭り騒ぎと成り果てている町の中にとはいってゆく。
町の規模はちょっとしたハウステンボスの豪華版。といったところだろうか。
今まで見てきた村々よりは、ここは目にした限りでは裕福そうにと見えるけど。
「ほら。ユーリ。しっかり。」
後ろから声をかけられ、思わずわれにともどる。
普通こんな光景にでくわしたら呆然とするってば。
だがしかし、とりあえず……信じがたいけどオレを歓迎しているらしく……
道を進む馬上のオレをみて、キャーキャーと湧き上がる歓声の数々。
しかも中には。
『ソフィア様に瓜二つでいらっしゃる!!』
とかいう声も聞こえてきたり……
結論。
どうやらオレの両親というか母親だけは、確実にこの国にいたことは確かなようである。
ドッキリにしてもここまで手間隙かけてまで、一人をだまさないだろう。
いやまてよ?…ボブおじさんならやりかねないかもしれないけど……
まあ、とりあえず。
夢にしてはつねってみたら痛い。というのもあるし。
横ではギュンターが何やら歌うように。
「お帰りなさい。ああ……」
何やらながったるしいことをいっている。
国歌でもうたっているのかな?それにしては曲になってないけど?
そんなことをオレがおもっていると。
「…王国。王都にようこそ」
といってくる。
「国名だったの!?…な…長い……」
おもわずその長さにびっくり。
えっと…ああ、偉大なる…何だって?眞王と何たらかんたらいってたし。
そんな長い国名って……まるでどこかの国の正式名称並みに長いの!?
思わず驚き叫びつぶやくオレに。
「略して眞魔国といいます」
ギュンターに代わってコンラッドが説明してくれる。
そっちだけ覚えとこう。
「というかさぁ。結局トッシュは国名…かえなかったんだねぇ。
  僕当時、さんざん反対したんだけどなぁ。あれから誰か変えてくれるかとおもったのに……」
後ろで何かぶつぶつとつぶやいているアンリ。
いや、トッシュって?
何かまた知らない名前がでてきたぞ?
そんなことをつぶやきつつ。
「もともと。エドがこの地にこの国をつくったときにはこの長いまだるっこしい名前じゃなかったんだけどねぇ」
追加説明を入れてくるアンリだし。
「……そうなんだ。とりあえず、長い名前のほうはともかくとして。短いほうだけ覚えとくよ」
アンリもまだるっこしい名前、と思っているのか。
とあるいみ共感してしまうけど。
ま、確かにさっきのギュンターの何かいってた長い国名…覚えられない。
というか長すぎるって……

そんな話をしつつも、よくテレビでみるような王室などのパレードごとく。
左右に手をかるく掲げてふりつつも、城のほうにとむけてすすんでいくことしばし。

「?…アレ、誰?」
道をふさぐようにいるちょっとした中年の美形男性さん。
だがしかし、表面上では笑みを浮かべているものの、当人から出ているオーラに問題あり。
ああいう色のオーラの持ち主はといえば。
必ず何か自分本位、というか自分勝手。
思い通りに他人を巻き込んでまでも突き進む……しかも悪い意味で。
そんな感じをうけるオーラの特性を色濃く表してるし。
しかも、何かものすっごい怨みの気らしきものまでまとってるぞ…この中年さん……
近づいたらたぶんオレ、絶対に吐くぞ…アレは……
「――フォンシュピッツヴェーグ・シュトッフェル。
  前魔王の…上王陛下にあたる兄君で、摂政を務めていた男です」
「ここにいる。ということは。彼女の説得に失敗して、次は新たな魔王に取り入ろう。ということでしょう」
「二度とやつの思い通りにはさせません」
「ああ。それはグウェンダルもヴォルフラムも同じ思いだろう」
二人して何やら話しているギュンターとコンラッド。
……というか……
「何かものすっごい鈍い人?…もしかして……」
おもわずあきれてつぶやいてしまう。
彼の背後といわずに、周りには何やらその彼の周囲に恐ろしいまでの怨嗟の気がただよっている。
かろうじてもう一人いる男性のもつ力なのか。
もう一人の力でその彼に害が及ぶのを防いでいる、という感じである。
両方ともどうやら無意識でまったく気づいていないらしい。
霊感とかはそれほどないオレにすらはっきりわかるアレはかなりひどいとおもうぞ……
別のよくわかんない力はオレはもってるらしいけど。
ひとつの例を挙げれば生物の生まれながらにもっている力のようなものを読み取る能力。
生きているかぎり、その生体エネルギーは常に発せられているわけで。
その違いによって、いい人とか、悪いひととか判断することが可能。
ちなみに、受ける感覚や見える色でその人の本質がわかったりすることもあり。
「…う〜ん…アレは確かにひどいね……」
後ろでアンリもまた、その彼をみて同意してくる。
「あそこまで誰が…というか。おそらくアレの影響うけてきづかなかった彼も彼だけど。
  ま、ひっぱられて行動したのは彼自身だろうけどさ」
「何か変な力が影響してるみたいだよなぁ。あの人に。
  それはそうとさ。あそこまで数が半端じゃない恨みをうけてて平気なんて。
  何をやったんだか……あの中年さん……」
しみじみというアンリとオレの言葉に。
「陛下?あの男が何をやったのかご存知なんですか?」
目を見開いて聞いてくるギュンター。
「ギュンター!陛下にいらない気苦労をさせる必要もないだろう」
そんなギュンターを珍しく強い口調でおしとどめるコンラッド。
過去にもしかしたら何かあったのかもしれない。
あの怨嗟の気といい……
う〜ん……
と。
横のほうから、女の人が数名かけてきて、何やらオレにと花束をさしだしてくる。
「……オレに?」
おもわずびっくりして聞き返すと。
ぱあっ!
となぜか顔をあからめている女の子たち。
というか、オレって女の子から花束なんてもらった経験なんてうまれてこのかたないし。
…女の子に間違われて告白うけて…ということはあったけど。
勘違いするほうがわるいって。
いっつもオレは、ズボンはいてたし……外では。
家ではおふくろの趣味の関係でちょっとなぁ……ふぅ……
「ありがとう」
お礼をいって受け取ると、女の子たちはうれしそうに走り去ってゆく。
しっかし…この大歓迎ぶりっていったい?
そのまま道の真ん中に立ちふさがっている前魔王の摂政だった、という人のところに近づいたその刹那。
「ひひぃん!!!」
「うわっ!?」
見れば手にした花束に、花アブがとんできて、馬の耳にとはいっていたりする。
『陛下!!』
「ユーリ!!」
コンラッドとギュンター。
そしてアンリの声が重なるが。
って馬あばれてるしっ!?
というか馬はパニックにと陥っていたりする。


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