まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
とりあえず、このたびはゲーム内部であった傲慢な男性さん。
あれをモチーフにしてのお話です。
世の中、自分の間違いを棚にあげて他人に命令し、また他人のせいにする。
そんな人たちもいるのも事実なわけで……
そういう人にはきちんとぴしっといえる人が必要、なんですけどいないのもまた事実なんですよね…
#####################################銀花の園 ~傲慢が生む結果~
む~……
手元にある手札をみつつも、どうしても顔がしかめっ面になってしまう。
「アンジェリーク。手が全部顔にでてるよ?」
「お前、カードゲームとかはまったく向いてないな~」
そういえば彼女を含めてゲームをしたのはコレが始めて。
それゆえにここまで表情に出るとは思ってもいなかった。
「少しはすぐに顔にだすのを抑える訓練が必要かもしれませんね」
御車台ではヒュウガがいまだに馬車を操っている。
メルローズでレインが変わる、と申し出たのだが、ヒュウガがまだそれほど操っていないから。
といってガンとして聞き入れなかった。
馬車の中でぼ~としている、というのも退屈なのでカードゲームをしましょう。
というニクスの提案によって、アンジェリークでも知っている遊びを始めている彼等達。
とはいえ、アンジリェークが知っているカードゲーム、といえば七並べかもしくはばば抜き程度。
あとは神経衰弱くらい。
ゆえに、ババヌキをしているのだが、いかんせん、アンジリェークは表情にすぐに表れる。
自分がババをひいてしまったときにはおもいっきりしかめっつらをし、
そしてまた、他人が引こうとすればものすごく悪いことをしているような表情になってしまう。
ゆえに、彼女の手元にババはいまだに残っているまま。
「とはいえ、このままではアンジリェークが負けてしまいますね。では、私が」
アンジリェークの手札の中でどれがババなのか全員がすでにわかりきっている。
それなのにそれをわざわざひくニクス。
「あ…」
「さて、これで全員に回ることになりますね。ふふ」
ババをわざとニクスがひいたのをみて止めようと声をだすアンジェリークとは対照的に、
どこか含んだ笑みを浮かべているニクス。
「…し。ちょっとまって」
そんな会話をしている最中、ふとジェイドが全員に静かにするようにと指示をだす。
「?ジェイドさん?」
あなた!
俺にかまわずにげろっ!
そんなことできるはずが…っ!
危ない!
きゃぁ!あなたっ!
ジェイドの耳に届いてくる叫び声。
だがその声はアンジェリークたちの耳には届いていない。
「誰かがタナトスに襲われてる」
ぴくっ。
その言葉に反応するレインとニクス。
ジェイドがいうのならば真実なのだろう。
自分たちに聞こえずとも彼の耳ならば遠くの音ですら捉えることが可能である、そう彼等は理解している。
一人、アンジリェークのみは理解していないが。
「どのあたりかはわかるか?ジェイド?」
「うん。ちょっとまって…声からしてこの道をこのまままっすぐ。
少しばかり急いだほうがよさそうだ。どうも誰かがタナトスに襲われて倒れたみたいだし」
「ふむ。ヒュウガ。すいません。どうやらアクシデント発生です。
この先でタナトスが出た可能性があります。馬を早めてもらえますか?」
カタンと小窓をあけて御車台にいるヒュウガにと語りかけるニクスであるが。
「心得た」
確かに何となくだが叫び声のようなものが聞こえたような気もしなくもない。
銀樹騎士団に配属されるにあたり、遠くの物音の聞き分け方、という訓練も経験している。
だからこそ普通の人々よりは多少銀樹騎士団にいる人々は耳がよい。
それはい何どきどこに出現するタナトスをすぐさまに排除できるか、という切実な問題から。
ジェイドの耳がよい、というのは陽だまり邸にいるときに外の馬車の音を聞き分けていたり、
ということもあるのでヒュウガとて理解している。
もっとも、まだヒュウガはジェイドの事情までは知らないが。
「はあっ!」
ばしっ。
ヒュウガが強く手綱を握ると同時に、普通に歩いていた馬が一斉にと走り出す。
ガラガラガラガラ。
馬が走り出したことにより馬車もまたスピードをあげてものすごく音をにぎやかにと立ててゆく。
「さて、それでは私たちも準備をいたしますか」
「アンジェリーク。あなたはいつでも浄化ができる体制を整えていてください」
「は、はい!」
私には何もきこえなかったけど、ジェイドさん、ものすごく耳がいいのね。
そうおもい、すぐさまに臨戦態勢にはいっているニクスとレインをみて思わず尊敬してしまう。
彼等はこういうことによくなれている、というのがよくわかる。
それがたとえ遊びの最中でも常に緊張感をもっている、という証拠。
がたがたと異様に馬車の中で揺られることしばし。
「こんな街道沿いに、ですか」
街道沿いにたたずむ異形の姿が二つ。
馬のような形をしてはいるが、体全体が光を帯びていることから普通の生き物ではない、と判る。
「とにかく、いくぜっ!」
ニクスがため息とともに小さくつぶやき、そしてまた、馬車を勢いよく飛び降りるレイン。
そしてまた。
「大丈夫ですか?!」
その場に倒れている男性にとかけよってゆくアンジリェーク。
みれば女性のほうは顔色もわるくぐったりとした子どもを抱きかかえていたりする。
「子どもが…主人が……」
半ば呆然としながらいっているその女性。
どうやら女性も少しばかり襲われたのか手と足が異様に干からびていたりする。
「アンジェリーク!」
「はい!」
ふとみれば、さすがに四人対二。
つまり一体のタナトスにつき二人がかり。
タナトスが弱るのもまた早い。
タナトスが弱ってきたのをうけて、倒れている人々のほうにと駆け寄っているアンジェリークにと声をかけているレイン。
それをうけ、しゃがみこんでいたアンジェリークだが、すくっと立ち上がり、すっと胸の前で手を組み、
「浄化の力よ。世界を優しさで満たして」
静かに祈りをささげタナトスを浄化してゆく。
それと同時にタナトスに襲われていたとおもわれし男性と子どもの姿が元通りにと変化してゆく。
だがしかし、男性のほうは何がおこったのかわからない呆然とした表情で目を見開くものの、
子どものほうは目を開く気配がない。
「あ…あの」
「私は……そうだ、ルカは!?」
意識がはじめからあった女性のほうはその光景を目の当たりにしただただ驚く以外の何ものでもない。
そしてまた、目を覚ました男性のほうは、はっと子どもの名前らしきものを叫んでいたりする。
「お疲れ。アンジェリーク。その人たちも無事みたいだね」
そんなアンジリェークの元にとかけよってきているジェイド。
「あ、あなたたちは……それより、この子が目を覚まさないの…あなた……」
骨と皮だけの姿から普通の姿に戻ったものの、子どもの顔には生気がない。
「な、なんだって?!」
母親というか妻らしき女性からその言葉をきき、子どもの手をあわてて握る夫とみられる男性。
「すいません。ちょっと失礼します」
子どもの血の気のない表情。
タナトスの被害にあっただけ、とは到底思えない。
それゆえに、子どもの脈をとり、額に手をあて静かに子どもを診察しはじめる。
「あ、あんたたちはいったい?それよりこの子はどうして目をさまさない!?」
何やら自分がタナトスに襲われたことまでは理解しているらしいが、八つ当たりに近い叫びをあげてくる男性の姿。
「というか、どうしてこんな小さな子どもつれでしかも徒歩でこんな場所をあんたらはあるいてたんだ?」
普通ならばタナトスの脅威が頻繁になっている今日この頃。
子ども連れでしかもたったの三人だけで移動する、とは理解できない。
レインの疑問は至極もっとも。
「これは……もしかして、この子、心臓が弱いんじゃないですか?」
脈拍の乱れと、そしてか弱い心音。
しかもその心音すらも不定期に脈打っている。
それらの簡易的な表情からある子ども特有の心臓病を連想して問いかけるアンジリェーク。
母親が妊娠中にタナトスに襲われたりした場合、小さいときにそのような症状がでる子どもは多々といる。
有効なのはとにかく、体力がつくある程度の年齢までひたすらに安静にしておくこと。
見た目一歳にも満たない小さな子ども。
そんな子どもを連れ歩くなど自殺行為もいいところ。
「え。ええ。ルカは私が妊娠中にタナトスに襲われたために心臓がとても弱くて……」
「だったら!どうして連れ歩いてたりするんですか?!」
思わずアンジェリークが叫んでしまうのは仕方ないであろう。
そんな子どもを連れ歩く、など、子どもが死んでもいい、といっているのと同意語。
「そういうあんたは何なんだ?!医学の知識があるならそのこをなおせっ!」
むかむか。
「あのな。あんた。助けられた立場でそういうか?
そもそも、こんなところを子ども連れで歩いてたあんたらに責任があるだろうが。
俺たちがこなかったらあんたら、ぜったいに死んでたぜ?」
レインの言葉はあるいみ事実。
ここか街道、とはいえ滅多と人通りはない。
男性の傲慢すぎるその言葉に苛立ちを隠しきれずに思わず言っているレインであるが。
「湖にいきたくなったから子どもをつれてきただけだ。おまえらに言われる筋合いはない!」
「……おやおや。つまり子どもの命はどうでもいい。それゆえの行動ですか、いやはや」
叫ぶ男性の言葉をきき、あきれた口調でつぶやくニクス。
確かに、あきれる以外の何ものでもない。
ふとみれば、女性のほうはものすごく悲しそうな表情をしているのが見て取れる。
おそらく彼女は夫である彼の言葉に逆らうことができずに子どもをつれてきたのであろう。
しかも、額に手をあてれば熱がものすごく高い。
「とにかく、応急処置はします。レイン、そのあたりにウスバサイシン生えてない?
とりあえず解熱だけでも簡単に応急処置をしないと」
ウスバサイシンの地下茎や根には鎮静、鎮痛、解熱の効果がある。
「わかった」
アンジェリークの言葉をうけて、その付近を捜索しはじめるレイン。
「ヒュウガさんは毛布を馬車の中にひいてもらえますか?この子を寝かしますので」
「了解した」
一応、数日がかりのたびになるので人数分の毛布は馬車にと積み込まれている。
それゆえに馬車の中に毛布をしき、簡単な寝床をつくりそこに子どもを寝かせるアンジェリーク。
母親らしき女性はただただ戸惑いながらうろうろするばかり。
「あとは、根っこを摩り下ろす道具があればいいんだけど……」
「それならその辺りの岩で簡単につくってくるよ」
周囲に岩はごろごろしている。
岩をくりぬいて無理やりにすり鉢を作ることは可能。
それゆえに、だっと駆け出して手ごろな石を探しにいっているジェイド。
「やれやれ。それで、あなた方はいったいどちらに向かうおつもりだったのですか?
このご時勢、ご家族だけでのお出かけはずいぶんと無謀とおもいますが?」
それぞれにアンジリェークにいわれた事柄をしている中、ニクスがやんわりと夫婦にと問いかける。
「ふん。貴様のような凡人には理解できまい。ただ湖がみたくなっただけのことだ。
せっかくだから寝ているばかりの息子をつれてきていたまでだ」
「あなた…何度もいうけど、ルカは安静にしてないと命が危ない、そういってるのに…」
「私の子どもだ。そんなにやわなわけはないっ!」
どうやらこの男性は聞く耳持たず、というタイプらしい。
「やれやれ。いつの時代にもあなたのような頑固ものはいるのですねぇ。
あなたのような人がいるから悲劇もなくならないのでしょうね」
ある意味、こういう無謀ともいえる馬鹿な人間が行動をして命を落とす人々は少なくない。
当人たちは自分は悪くない、といいはり他人のせいに責任を押し付ける。
「おまえのようなただの一般人に何がわかるっ!」
相手が普通の一般人。
そうおもっているからこそ強気にでるその男性。
「アンジェリーク。あったぜ!」
「アンジェリーク。とりあえずすり鉢はこんなものでいいかな?」
ちょうどいいタイミングでレインとジェイドがもどってくる。
みればジェイドの手には石の中心部分をくりぬいた簡単なすり鉢状の石が握られている。
「ええ。十分よ。とにかくその茎を煎じて子どもに飲ませて。あとは家で安静にしていれば何とか」
とにかくこの高すぎる熱だけでもどうにかできれば。
「忠告しておく。タナトスの脅威があるのに子どもをつれて出かけるのは無謀としかいいようがない。
それに人に対する感謝という言葉を知らなければその報いは自分自身にふりかかってくるぞ?」
そんな男性に淡々と表情一つ変えることなく言い放っているヒュウガ。
と。
「ニクスさん!とりあえずこの子とその両親を家のある場所まで送り届けたいんですけど。
下手に移動するより馬車での移動のほうがこの子の負担は軽くなりますし」
「……ニクス?」
アンジェリークの言葉をきき、小さくつぶやき、そしてみるまに顔色を変える男性の姿がそこにあったりするが。
陽だまり邸のニクス氏。
それは彼にとってとても大切な投資家の一人。
彼の寄付金がなければ街はたちゆかない。
そしてまた、彼にはむかうようなことをすれば一族からつまはじきにされる可能性は高い。
「やれやれ。余分な時間を取られることになってしまいましたね。
しかし、あなたがそうしたいのでしたら、そういたしましょう」
レインがひたすらにほうっておけばいい、みたいなことをいうものの。
アンジェリークからすれば子どもをこのままこの両親に預ければそれこそ命にかかわる。
そう判断し自分たちで両親ごと家に送り届けることを決めてニクスにと提案していたりする。
たしかに、このような父親ならば子どもの体調など気にすることなく自分の意見を優先させることは明白。
結局のところ、子どもと、そしてその両親をつれて彼等の家があるとおもわしきヴォードンの西に位置する郊外の街へと一時、彼等はたちよることに。
「まったく。安静にしてないといけない子を無理やりに連れ出すなんて信じられませんっ!」
どこか怒る場所が違うのではないか?
という思いにもならなくもないが、たしかにそれもあるだろう。
一番怒る場所は自分の行為は棚にあげて、アンジリェークたちを責め立てた、というところだろうが。
自分の息子にわけのわからないものを飲ますな、とか。
あげくはやすっぽい毛布の上にねかせるな…とか。
そんな夫の横で必死に妻が謝っていたのが印象深い。
「世の中にはあのような輩も多々といる、ということですけど。
ですけど全てがあのようなものばかりではない、ということをお心にとめおいてください」
そんなアンジェリークにヒュウガが淡々といってくる。
結局のところ何か馬車の中でじっとしていたら怒りが収まりきらない。
というのでヒュウガとレインが馬車の操縦をかわり、今はヒュウガが馬車の中にと入ってきている。
まあ自分勝手な行動から家族を危険にさらしたあの男をほうっておくことなどニクスはしようとはおもわない。
ああいう輩を懲らしめる手段はいくらでもあるのだから。
もっとも、それをアンジェリークが知ればそんなことは無意味です、と確実にいうであろうが。
「まあ、でも。あのままきちんと安静にしていればあの子は大丈夫なんだろ?アンジェリーク?」
「ええ。とりあえずかかりつけのお医者さんもいるようですしね」
彼等がすんでいたのはそこそこに広い屋敷。
しかしどうやら主人である男性の言葉はぜったいらしくて彼の言葉には逆らえない。
というのがあったらしい。
まあ、その男性の父親にニクスが何やら言付けにいき男性がおとなしくなったのも事実だが。
とりあえずアンジェリークからすればできることはやるだけやった。
少しでも負担を軽くするために、と子どもに浄化の能力をも試みた。
子どもの病気がよくなるように祈りをこめて。
そこからはおそらく、子どもの体力と運次第。
「しかし。ずいぶんと時間をとってしまいましたね。今日のところはこの先にある村で休ませてもらうとしましょうか?」
街道沿いから少し離れた場所にある小さな地図にものっていない村というか集落。
すでに気付けば日は暮れかけ始めていたりする。
余計な時間をあの家族のために裂いたために予定より進みは遅くなっている。
「そういえば、この先の少し街道から離れた場所に小さな集落があったな」
ニクスの提案にしみじみうなづきながらつぶやくヒュウガに対し、
「ええ。たしか宿もあったとおもいますし。今日はそこで一泊、ですね」
自分たちだけならば別に野宿でも何でもかまわない。
かまわないが、アンジリェークが一行にいる。
野宿、というわけにはいかないであろう。
野宿となれば何がおこるかわからないのだから。
ともあれ、一行はその街道のはずれにある、という集落にむけて馬車を進めてゆく。
-第39話へー
Home Top Back Next
#####################################
あとがきもどき:
薫:薬草さんは実際の薬草を元にして構成しておりますv
そのほうも読み手にも判りやすいですしね。
ちなみに、ウスバサイシンの葉はご存知v徳川さんの家紋の葉っぱですよ~♪(実話)
ではでは、次回でようやく集落の話にはいりますv
ではでは~♪
2008年5月22日(木)某日
Home Top Back Next