まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

確か、あの世界は水道とかも一般的ではなかったし。
だけどリモちゃんが創造った宮殿がそんなに不便なはずがないっ!(笑
ともあれ、ネオアンの世界はかなりまだ不便、というのは確かです。
何はともあれ、いくのですv

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「か~さま、と~さま。あのね。あんじぇもてつだうのっ!」
幼いながらに両親が人々に頼られ、そして信頼されているのがわかる。
忙しい毎日の中、自分に愛情を注いでくれている、ということも。
だから、少しでもそんな大好きな両親の手助けになりたかった。
「おやおや。これはかわいらしいお医者さんだな」
「アンジェちゃん、いくつになったんだっけ?」
診療所にやってきていた患者たちがそんなアンジェリークの姿をみとめて微笑みながら話しかけてくる。
「んっとね!もうすぐさんさいっ!」
「こりゃまた小さなお医者さんだ。病気も怪我もふきとんじまうよ」
あはははは。
いつも、笑い声が絶えることはなかった。
村の人々、両親の愛情をすくすくうけて彼女、アンジェリークは育っていた。
そう、あの運命の日がくるまでは……

銀花の園   ~陽だまり邸~

不思議な、だけどそれでいてとても懐かしい感覚。
それがどのような懐かしさ、なのかはよくわからない。
目の前で確かに不思議なことが現実として起こった。
それは事実。
自身の目で中庭に倒れている女生徒達の姿をみていたのだから。
タナトスに生気を奪われ、そして元通りに動ける人など…アンジェークは聞いたことがない。
否、今までそんな話を一度も噂でも聞いたことがない。
あるとすれば偶然にアンジリェーク自身が手を握った人々のみ。
「これでおわかりいただけたでしょう?あなたには能力があるのです」
「まだ信じられないんです。どうして私にそんな能力が……」
「しかし。事実は事実だ」
そう。
事実は事実。
「アンジェ。大丈夫?」
「レインさん、でしたよね?そんなにいわなくても、一番戸惑っているのは彼女なんですよ?」
確かに彼がいっているのは事実をいっている。
だけどアンジェリークはたしかに戸惑いを隠しきれない。
それはそうであろう。
いきなり自身にそんな不思議な能力がある、といわれて戸惑わない人がいるはずもない。
だからこそ、不安そうな表情のアンジェリークの手をぎゅっと握るサリーに、
きっとレインをみながらもきつめにいっているサリー。
「まあまあ。お二人とも。確かに無理はないですよ。彼女にとっては大変な一日だったのだから」
「しかし、タナトスは増える一方だ。そんなに悠長に言っている場合じゃないだろう?」
「たしかに。残念ながらレイン君のいうとおりです。
  こうしている間にも、タナトスの脅威になすすべもなく苦しんでいる人がいるかもしれない。
  タナトスに苦しんでいる人々を救うため、あなたの力を貸してほしいのです」
「しかし、ニクスさんのいうこともわかりますけど、だけど、アンジェはまだ十六の女の子なんですよ!?」
たしかに。
アンジェリークはこの間十六になったばかり。
タナトスの退治に加わる、ということは少なからずアンジェリークが危険な目にあうこと。
「大切なお友達の身が心配なのはわかりますよ。マドモアゼル。
  ですけど、彼女の能力は世界を救う能力でもあるのですよ」
「それは……」
そういわれて口ごもるしかない。
おそらく、目の前のこの人物は彼女の能力が何に起因しているか確信しているがゆえの誘い。
「アンジェリーク。あなたはどうしたいのですか?あなたは人々の為に役にたつことをしたい。
  それはあなたの日々の行動をみていても明らかです。
  あなたの心のままに、後悔しないように行動していいのですよ?何も遠慮することはありません」
そんなアンジェリークに安心させるかのように話しかける校長。
校長もまた、窓からではあったがアンジェリークの放った能力を目の当たりにした。
そしてその能力と伝承を頭の中で結びつけて一瞬おもったのも事実。
だけども、彼女は幼いころからこの学園で学んでいる彼女にとっては大切な子ども達の一人。
だからこそ、何よりもアンジェリークの望みを優先させたい。
「あ、あの。もし私がその…協力するとして、どうなるんですか?」
「ああ。それでしたら、私とレイン君で今行っている行動を補佐していただくことになります。
  私たちの攻撃では一時的にタナトスを弱らして撃退はできますが完全に浄化はされません。
  ゆえに幾度も復活してしまうのですよ。
  ですがあなたのその力があれば二度と再生されることなく、人々の苦しみが開放されます」
確かに。
今いる浄化能力者は確かに、タナトスと戦う能力をもっている。
だけどもそれは一時的にタナトスを弱らせて撃退するだけ。
ゆえに、浄化能力者がいなくなり、再び同じ場所が襲われる、ということもしばしば。
「まあ、資金とかは全部ニクスもちだがな」
「おや。レイン君。これは慈善活動なのだから相手から褒賞を受けるなんてするわけないでしょう?」
「まあ、実際にタナトスを一時でも撃退したらやつらはオープを落としていくしな。
  資金はそれでまかなえるのも事実だし」
オーブ。
様々な光を宿した不思議な宝石。
その硬度はとても高く、今ある技術では加工は不可能。
また、タナトスをどうにかできる存在は多くないことからかなりの高値で取引される。
また、オーブが取れる場所ではタナトスの出現が頻繁でかなり危険地帯と認定されている。
タナトスがオーブをつくりだしているのか、はたまたオーブがタナトスをおびき寄せるのか。
それは誰にもわからない。
「確かに。ニクス殿はタナトスを退治して得たオーブを全て被害にあった村や人々に無償で提供していますからね。
  おかげで救われた人々や村もかなりの数にのぼっている、と聞き及びますわ」
レインの言葉にこくり、とうなづき肯定するかのようにアンジェリークを見ながら説明してくる校長。
「おや。私は別に人々を脅かすタナトスをどうにかしているだけで。
  その付属として使えるものは使っているだけですよ?別に感謝されることではありませんよ。
  事実、倒しても、倒してもタナトスはいつか、いずれは復活するのですから」
「確かに。俺たちがいなくなった後でヤツが復活して再び被害がでるのはざらだしな」
どのようにして力を弱めて撃退したはずのタナトスが力を蓄えるのかすらもわかっていない。
わかっているのは、撃退しても、してもいずれは復活して同じタナトスと戦うハメになる、ということ。
さらにいうならば、その数は年々増加を増している。
それは、タナトスの被害の数と比例するかのごとくに。
ゆえにこそ、銀樹騎士団だけでは手が足りずに被害は拡大する。
力技でどうにもできない相手なのだからそれは仕方のないこと。
タナトスと戦う力をもっている、といっても危険でないわけではない。
それでも、人々のため、そしてそれで得られるオーブをも人々の為にと役立てている。
校長先生が肯定しているのだから、それは紛れもない事実なのであろう。
「――わかりました」
「「アンジェ!?」」
しばしうつむき、そして決意したように毅然と前を見据えるアンジェリークに驚きの声をあげるアンナとサリー。
彼女たちからすれば、アンジェリークが出す結論はわかりきっている。
いるが…親友として危険な目にあわせたくない、という思いもある驚きの声をあげる。
だが、おそらく、彼女はいっても聞かないであろう。
その自分自身が信じる信念を曲げたことなど一度たりとて今までないのだから。
「もし、この私の力が人々の役に立てるのなら。喜んでお役に立ちたいとおもいます」
きっと、両親もわかってくれると思うから。
たとえそれが学園を辞める結果となろうとも。
ずっと多くの人々を助けることができるのならば。

「お元気でね」
「うん。アンジェも…」
「さみしいよっ!アンジェ!」
「サリー。笑顔で見送りましょ?」
「無理~」
アンジェリークが決断し、とんとん拍子、というかその日のうちに話はまとまった。
急なこと、といえばそれまでだが。
校長からしても、この学園に彼女をとどめておくのは逆に危ない。
そうおもったのも事実。
彼女の力はおそらく、どこからともなく漏れるであろう。
そのとき、アンジェリークに対して邪な考えをもつ人々がいない、とも限らない。
そして、この学園には彼女を護るほどの力をもった人々はいない。
すくなくとも、ニクスの元にいる限りは、彼女はこのメルローズ女学院にいるよりは遥かに安全。
彼を尊敬し、慕うものは多いにしろ、ねたむものなどは皆無なのだから。
荷物、といってもずっとこの学園で暮らしてきているワリにはアンジェリークの荷物はごくわずか。
それは彼女自身が節約をもっとうとし、自身のことよりも勉学に励んでいたがゆえ。
学院を辞めてもそれでも医者の資格を取る、という夢はあきらめない。
それらの大量ともいえる本の数々は後ほど、校長が責任をもち送り届ける。
そう約束してくれた。
制服から私服に着替え、門をくぐる。
幼少のときより、ずっとこの学園で育ってきたアンジェリークにとっては初めてともいえる外での生活。
見送りにきたのはアンナとサリー、そして校長の三人のみ。
他の生徒達に気付かれては騒ぎになる、という校長の配慮があってこそ。
いまだに生徒たちは先ほどアンジェリークが見せた聖なる力に戸惑いを隠しきれないはずである。
それゆえの配慮。
「手紙、かくからね。絶対に返事ちょうだいね!」
「こっそり学園を抜け出してあそびにいくからっ!」
「サリー。それは問題あるとおもうわよ?」
さりげに、さらっと規則破りなことをいうサリーに対し苦笑しつつ思わず笑みをこぼす。
「アンジェ。何かあったらいつでも私たちをたよってね。あなたは私たちにとって大切な友達なんだから」
「うん。ありがとう」
ほとんど、一人で黙々と本ばかりをよみ、勉強していた彼女に始めて話しかけてきたのはこの二人。
それはついこの間のようでいて、それでもう遠い昔の出来事のよう。
いずれは卒業し、別々の道を歩む、そうおもっていたが。
その道がこんなに早く訪れようとは。
終わりのない挑戦、といえるのかもしれない。
だけども、やるだけの価値はある。
少なくとも、人々の悲しみが少しでも減らすことができるのだから。
レインが乗ってきた馬車にとのり、アンジェは長年育ち勉学した学園をゆっくりと後にしてゆく。
自分で決めた道。
後悔はしたくないから。

「わぁ……」
思わず見上げて感嘆のため息がでてしまう。
リースの郊外にとある屋敷。
だがしかし、この一体は彼の所有す土地であり、全てが私有地。
はっきりいって屋敷、というよりはどこぞの絵本の中にでてくるような宮殿、といっても過言ではない。
背後に見える山もまた彼の一族の私有地らしい。
一族、といっても校長先生がいうことには、彼しか一族の一員はいない、とのことであるが。
この辺りは家もこの屋敷一つしかないがゆえか、タナトスも出現しないらしい。
しかし、これだけの大きな宮殿みたいなお屋敷…いったいどれだけの人が住んでいるのかしら?
そんなことをふとおもってしまうアンジェリーク。
だがしかし、ニクスは基本、人を使うことを好まず、率先して自分自身でするタイプ。
ゆえにこの大きなお屋敷に一人で生活をしているのだが。
この屋敷の中にいる限り、自身に眠る力が表にでることはないがゆえに。
玄関らしき大きな扉をくぐると、そこは吹き抜けの空間となっており、高い天井がかすんでみえる。
らせん状になり、上の階にと続いている階段。
そして、その正面に一枚の、とてもどこか懐かしい感覚をうける肖像画が一枚。
その横には大きな等身大の大きな姿身が見事な装飾が施され設置されている。

何だろう?
この感覚。
どこか懐かしい感覚がふとするのは、アンジェリークの気のせいであろうか。
「今日からここがあなたの家ですよ」
いわれて周囲をみれば何とも高そうな、それでいて自然豊かな絵画の姿が目にとまる。
「わ~。すてき」
ずっと学園の寄宿舎住まいであったアンジェリークにとって信じられない素敵な屋敷。
「気に入っていただけたようで何よりです。さ、あなたの部屋に案内いたしましょう」
きょろきょろと周囲を見渡しながらも、本気で感動しているアンジェリークの姿に思わずくすり、と笑みが漏れるニクス。
心からの笑みを浮かべるなど、永きにわたる時の中でほとんどなかった出来事。
そんなアンジェリークの姿をしばしじっとみつめているレイン。
彼女がこの屋敷の中で今から一緒に生活する。
そうおもうと何だかもよくわからない感情に捉われる。
「え?私の…部屋?」
そんなことをおもっていると予想外のことをいわれて思わず問い返すアンジェリーク。
どうしてそんなものがあるのかわからない。
そもそも、彼女はここに今はじめてきたばかりなのだというのに。
「ええ。二階です。さ、こちらです」
戸惑うアンジェリークの思いは何のその、階段の取っ手すらもがすばらしき絨毯が敷かれているそこを歩いてあがるニクス。
階段にはその中心部分に絨毯が敷かれており、しかも毎日のように手入れが行き届いているのか、
埃一つ見当たらない。
誰がお掃除してるのかしら?
一瞬、アンジェリークがそんなことを思うのは仕方ないであろう。
それは、ニクスの活躍をうけて無償で家の掃除くらいは、と時々やってくる人々がいるがゆえ。
といっても、この屋敷はそういった類のものは実は発生しない、という特性を持ち合わせているのもまた事実。
さらに性格にいうならば、この屋敷に住まう妖精が掃除をしているからに他ならない。
もっとも、ニクスは小さなころにはその妖精の姿を見たことはあるが、ある一件以後は見たことがない。
そして、その姿はレインも数回しかみたことがないほど。
レインがここにニクスと一緒に住みだしたのも、この屋敷そのものが研究し甲斐がある建物がゆえ。
何しろこの建物は嘘か誠か古の伝承の時代よりずっとその外観を変えることなく建っている。
という古文も発見されている。
おおかた、古文を参考にしてニクスのいつの時代かの先祖が建物を建設したのだろう。
そうレインは解釈しているが。
真実は、時として残酷な事実を示すこともあり、そしてまた神秘的な事実を示すこともある。
この屋敷はその典型。
そんなことは当然アンジェリークは知る由もないが。
そのまま、ニクスに言われるまま二階へとついてゆく。
「俺はもういいだろう。研究があるから」
階段の途中、別の方向にといきそっけなくいってくるレイン。
今日はいろいろなことがありすぎた。
何よりも自分らしくない頭の中をどうにかすっきりと整理したい。
その思いもまた強い。
「ええ。おつかれさまでした」
そんなレインの心情をわかっているのか、さほど引き止めることもなくそのまま彼を部屋にと見送るニクス。
「?研究?」
レインの研究、という台詞に意味がわからずに首をかしげるアンジェリークに対し、
「ええ。彼はあの若さでなかなか優秀な科学者なのですよ」
世間のしかも、出るところにでればレイン博士、という名前は有名すぎるほどに有名。
幾度も様々な便利な発明などもしてはいるが、いつも勉強ばかりしていたアンジェリークはそういった世情には疎い。
「へえ。レインさんってすごいんですね」
ゆえに、心からそう思い素直な台詞を口にする。
そんなアンジェリークの判っていないながらも素直に感心している姿をみつつも、
かちゃり。
「さあ。どうぞ。今日からここがあなたのお部屋です」
いって二階の一角にあるとある扉を開く。
その扉には何かの紋様らしきものが細かく刻まれているが、それが何を意味するのかはアンジリェークには判らない。
「わぁ。素敵。かわいい」
扉を開けられて、その部屋の中を具間みる。
まずおもったのは、かわいい。
ということ。
ほとんどが薄いピンクで統一されている、何とも女の子らしい部屋。
余分なものなどは一切ないが、それでも必要なものは全てそろっている。
「私のためにこのお部屋を?」
もしかしたら、私がくる、ともわからないのにこの品々をニクスさんは注文して設置したのかしら?
そうおもうと、一瞬笑ってしまいそうになる。
この優雅なニクスがどのようにして女の子向けの家具を選んだかなんて想像がつかない。
「ええ。必ずきていただける、とおもっていましたから」

どこか含みを含んだその言い方に少しばかり疑問におもうものの、
「ありがとうございます。ニクスさん」
ひとまず素直にお礼をいう。
まさか、こんな部屋まで用意されていた、とはおもわなかった。
真実は、この部屋は当初からあった、というのが真実なのだが。
この部屋はニクスですら入れなかった扉の部屋の一つ。
そう。
実はこの部屋は誰一人とていまだに入ることすらかなわなかったこの宮殿の部屋の中の一つ。
レインの気分があまりよくなかったのもそこにある。
アンジェリークをどこにつれていこうとしているか、ニクスの言葉でわかったがゆえ。
この屋敷には、伝説、と呼ばれている女王にまつわる品々が多く見受けられる。
それもレインの研究の材料の一つに過ぎない。
何しろ使い方すらわからない、レインにとっては魅力的なアーティファクトがこの屋敷にはごろごろしているのだから。
それでも、ニクスが誰も入ったことのない部屋にアンジェリークを案内したのは、
その部屋が窓の外から確認するにあたり、どうやら女性向けの部屋らしい。
ということは昔、屋敷の掃除を頼んだ職人の話によって知っていたがゆえ。
しかし、一度も誰もはいったことのない部屋は、今まさに品々がそろえられたかのように輝きを放っている。
完全に新品、という輝きではないが、とても落ち着く色彩でこの場に住む人は心落ち着くことは間違いなし。
「少し休んでいてください。夕食の時間になったら声をかけますから」
初めて見る部屋の中身。
部屋の中に入ると確かに感じた聖なる力。
どうやらこの部屋を彼女にあてがったのは間違いではないみたいですね。
そう確信しつつ、アンジェリークの手荷物をその場におき、再び扉からでてゆくニクス。
確かに、聖なる力は心地よい。
だがしかし、それはニクスの体に負担を強いものでもあるのだ。
ゆえに、ニクスはあまりこの部屋では長居はできない。
「ニクスさん。あの、よろしくおねがいします」
「こちらこそ」
部屋から出てゆくニクスに向かい、ふかぶかとお辞儀をするアンジェリーク。
そんな彼女の心からの言葉をうけながらも、どこか罪悪感を感じなくもないニクス。
彼は人々の為に活動を行っているのではない。
むしろ、自分の贖罪のために行っている活動なのだから。
そして、その贖罪から逃れるには、どうしても彼女、アンジェリークの力が必要なのだから。

すとん。
ニクスが部屋から出て行き、一人になると部屋に備え付けてある天蓋付のペットに腰掛ける。
普通の細工がとても見事な椅子に座る気分ではない。
ふかふかのお布団からは何ともいえないお日様の匂いがしていてここちよい。
何よりも、この部屋はとてもおちつく。
しいていえば、幼い日、あの子と遊んだ時間と同じように。
しばし、物思いにふけつつも、しばらくしてふとテラスがあることにきづき立ち上がる。
どうやらテラスには出られるようになっているらしく、ちょっとした布団とかも干せそうな広さをもっている。
そもそも、この部屋そのものがアンジェリークが住んでいた寄宿舎の部屋より断然広い。
トイレも、そしてお風呂もおなじ部屋の中にとある。
それなのに部屋自体からしてもともといた場所と比べてかるく二つくらいはすっぽりと収まりそうな広さである。
さらにいえば、普通ならば水を井戸から汲んでお風呂などにためるのが普通のはず。
それなのに、この部屋においてはそれがない。
古代の機械仕掛け、アーティファクト、と呼ばれている品の応用なのかもしれない。
壁に文字がはめ込まれているパネルのようなものに描かれており、
何だろう?とおもい触れればそこに書かれているとおりのことが起こる有様。
まるで空想の世界のごとくに。
あまりにもいろいろなことがありすぎた。
この部屋においてもいろいろ知りたいことは多々とある。
少しでも気分を変えたくて、テラスのほうにと歩いてゆくアンジェリーク。
カチャ。
二階の一角にとあるアンジェリークにあてがわれた部屋。
その窓をあけるとするっと足元をよぎる何か。
「にゅうっ」
そのまま、足元に一度すりよるようにして、そのまま部屋の中に入り込み、
部屋の片隅の中心にとある天蓋付のベットにちょこん、と座る子猫が一匹。
「……あら?」
「にゅっ」
その見間違えのない姿に思わずびっくりする。
「あなた。あのときの…ついてきちゃったの!?」
というか、子猫の足でこんなに早くついてこれるのかがどうか疑問。
可能性とすれば、馬車に紛れ込んでいた、としか到底思えない。
ちょこん、とベットにお座りし、泣き声をあげている銀色の毛並みをもつ子猫。
「にゅぅん」
まるでアンジェリークの言葉がわかるかのように、尻尾をふりながらも一声鳴く。
くすっ。
「私のお友達になってくれる?」
「にゅ」
ベットにちょこん、と座っている子猫をそのまま抱き上げるが嫌がる気配は何もなし。
むしろごろごろとのどを鳴らしていたりする。
アンジェリークの言葉に答えるかのように、すりすりとその小さな体をアンジェリークにと摺り寄せてくる子猫の姿。
そのぬくもりが多少なりとも不安を抱いていたアンジェリークに安らぎを与える。
何しろ彼女は小さなときから学園の外にでたことはない。
初めて、といってもいいであろう。
そんな彼女がいきなり、見知らぬ男性たちと暮らすことになるとは夢にもおもわなかったであろう。
しかし、若い男性がいて、しかも使用人などもいない、という環境でよくもまあ一緒に住むことをアンジェリークも認めたもの。
だがしかし、アンジェリークにいたっては、その類の危険性をあまり認識していない。
何しろずっと女の園である女学院で生活し育ってきているのだからして。
「とりあえず。一緒に暮らすにしても、きちんとニクスさんの許可をもらいにいきましょうね」
ここはニクスの屋敷。
いくら何でも主の許可もなく勝手に猫を飼ったりするのはマナー違反であろう。
それゆえに、そのまま子猫をひょいっと抱き上げて、一階にと下りてゆくアンジェリーク。
しばし、アンジェリークの腕の中。
ごろごろとのどを鳴らし甘える子猫の姿が見受けられてゆくのであった。


                                -第話6へー

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あとがきもどき:
薫:ようやく、エルヴィンことエヴィルがアンジェリークの飼い猫にv
   ちなみに、ゲームの設定にあわせて、子猫、にしてるのはお約束v
   何しろアルフォンシアも宇宙に星星が満ちるまで子どもの姿だったんだし。
   アルカディアのある宇宙空間はまだ惑星、といったものはないですしねぇ。
   そういや、あの世界の人々、自分たちの住んでいる場所が宇宙空間に浮んでいる浮遊大陸、
   とわかってるんだろうか?
   否、わかってないでしょうね。きっと。
   たぶん、他の惑星がまったくないのに無事なのは銀の大樹の力だろうし(確信
   次回で1回目の依頼ですv
   ではまた~♪

2008年5月5日(月)某日

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