まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて。そろそろニクスの回想や、偶然という名前の必然。
といった過去の出会いをちまちまとあっぷ~(こらまて
何はともあれ、今回ようやくニクスの登場ですv
何はともあれ、いっきますv
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「ねえ?だいじょうぶ?おに~ちゃん?」
雨の音は海の音とかぶり、精神力で封じていたはずのまがまがしい力がよみがえる。
その場にうづくまり、どうにか抵抗するしかすべはない。
なのに。
ふと、その苦しみがやわらいだ。
ふと顔をあげたその視線に映りこんだのは青い髪に緑の瞳の小さな女の子。
「アンジェ~。そろそろいくわよ~」
「は~い!あ、おに~ちゃん、これあげる!」
つい、と差し出されたのは四葉のクローバー。
邪気のないその笑顔。
そのまま、ぱたぱたと両親、と思わしき方向に幼い少女は駆け出してゆく。
「…今のは……」
少女が立ち去ると同時に、今まで暴れていたまがまがしい力の波動が綺麗に消えているのに気づく。
雨音はいまだに強く、不快感はあるものの。
だがしかし。
「……こんどこそ…なのでしょうか?」
あの力を抑え込める存在など、彼が知っている限りはただ一人。
そう、自らが求めてやまない聖なる存在のみ。
ずっと探していた。
あのとき、たしかに感じた聖なる力。
赴いていったはいいが、すでにその痕跡は判らずじまい。
十数年の月日を得てやっとたどり着いた。
この長い永遠の呪われた楔を解き放つ、聖なる存在に。
すでにもうあきらめそうになるほどに永い時。
人目から逃れるように生きているその永遠の時間。
その永き苦しみから解放されるそのときを求めて――
銀花の園 ~訪問者~
「あ、あの?校長先生?私にお客さまって…?」
もしかしたら、あの子があいにきてくれたのかな?
ときどき誕生日祝い、といって品物は贈ってきてくれてはいるが、あれから当人にあったことはない。
相手にお礼の手紙を出してはいるが、
住所がどうもセレスティザムになっていることから確かに遠いこともあり届いているかさえも不明。
覚えているのは自分と同じ緑の瞳。
ふわふわのウェープのはいった金色の髪の女の子。
そんな期待をこめつつも、疑問に思い問いかける。
「いえね。ぜひともあなたに会いたい、といわれている方がみえられているんですよ。
あなたの活躍を聞いてぜひとも、といわれましてね。この学園の代々理事の一員を勤めている方なんですが……」
「理事?そんな人がどうして私に?」
そもそも、この学園の理事長、という存在にあったことすらもない。
昔から資金援助などはきちんとしているらしいが。
当の本人にあった人々はあまりいない。
だからこそ首をかしげるアンジェリーク。
「それは当人からきいてくださいね」
「は、はぁ」
確かに、相手が理事の一人なのだとすれば、この学園を任されている校長の立場からいえば断れないであろう。
相手が理事の一員だからこそ、おそらくわざわざアンジェリークの部屋まで迎えにきたのであろう。
それか人に伝言を頼むよりは自分で動いたほうが早い、と思ったのかもしれない。
そのあたりのことはアンジェリークにはよくわからないが。
カチャッ。
「お待たせいたしました。ニクス殿」
さわっ。
校長室の扉をカチャりとあける。
部屋の中にむけて何やら話しかけている校長の姿が目にとまる。
扉をあけると同時に顔に感じるさわり、とした風のにおい。
ふとみれば、校長室の窓のそばにたたずんでいる一人の男性の姿が目にとまる。
左目に片方だけ片眼鏡をしている柔らかな表情をしている黒い髪の男性が一人。
顔立ちはおもわず一瞬見とれてしまうほどに整っている、といっても過言ではない。
実際におそらくは、その気品と優雅さに思わず誰もが見惚れてしまうであろう。
窓辺にたたずむその姿は、まるで一枚の絵といっても過言ではない。
「あ、あの……」
「アンジェリーク。こちらがあなたへのお客様です。このメルローズ女学院の理事のニクス殿。
あなたに特別なお話があるそうですよ」
一瞬見惚れるものの、すぐにさまに我にと戻り校長にと確認の意味を込めて問いかると、
にこやかにそんなアンジェリークに答えるかのように答えてくる校長の姿。
そのまま、アンジェリークを応接用の椅子に腰掛けるようにと仕草で示す。
「どんなお話でしょうか?」
校長室にとある応接用の椅子にとかけて、運ばれてきた紅茶を前に改めて問いかめる。
「そう硬くならずにきいてください。まず私の仕事についてお話しましょう。
ここ数年、タナトスの被害が著しく増大しているのはあなたもご存知ですよね?」
ゆっくりと紅茶をかき混ぜながら、その動作もどことなく優雅さを感じるのは気のせいではないだろう。
「は、はい」
つい昼間もタナトスに出くわしたばかり。
ゆえにこそ、ニクス、と紹介された男性の言葉にこくり、とうなづく。
「昔はこれほど頻繁ではありませんでしたよ。銀樹騎士団だけでは手がまわらないほどです」
そんなアンジェリークの言葉に同意しつつ、かるくうなづき、ため息まじりに話す校長の姿。
その温和な顔が何ともいえない怪訝そうな顔に染まっているのがよくわかる。
ここ十数年、その被害が異様に増えてきているような気がするのはおそらく気のせいではないであろう。
「助けを求めても救われない人々がたくさんいるのです。
私はこの事態を何とかしたいと、タナトスを退治する組織をつくることにしました。
援助だけでは被害が拡大している今、まずその被害をどうにか事前に縮小させるのも手ですからね」
援助?
その台詞に少しばかり首をかしげながらも横の校長にと視線をむける。
「このニクス殿は昔から、そう曽祖父の代から、
タナトスに襲われた人々に対して慈善活動をおこなっているのですよ。それも無償で」
アンジェリークが何がいいたいのかを悟り、丁寧に説明している彼女の姿。
たしかに、彼の一族は昔からタナトスの被害にあった人々や村などにたいし支援をしている。
それももう、本当に何の見返りもなく。
だが、それは彼としては当然の思い、であり必然的な行動。
「そうなんですか。とてもすばらしい家系なんですね。でもそんなに簡単に退治する組織なんてできるんですか?」
確かタナトスは普通の武器などではどうにもならないはず。
ゆえに、普通なら一般のしかもお金持ちの道楽…もとい慈善活動でどうにかできるものでもない。
「確かに。タナトスを退治できる浄化能力者はわずかしかいません。
ですが、このニクス殿はその貴重な能力をもつ浄化能力者なのですよ?」
「浄化能力者……」
こんな優雅なかたが浄化能力者なんて…
でも、この人、どこかであったような気がするのは気のせいかしら?
ふとどこかで懐かしいような感覚に陥り、
おもわずじっくりと目の前のニクス、と紹介された男性の顔をくいいるように見つめるアンジェリーク。
「そんなに珍しそうにみないでください。別に珍獣、というわけではありませんよ」
くすっ。
そんな彼女の様子に軽く微笑み、両手をかるくあげて朗らかに微笑むニクス、という人物。
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
思わず相手を食い入るように見ていたことに気づいてあわてて謝るアンジェリーク。
「いいんですよ。そう。今はもう一人の浄化能力者と活動を行っています」
それほどまでに浄化能力をもっている人物は少ない。
いたとしても、ほとんどが銀樹騎士に幼いころに入団してしまうのだから。
「タナトスに対抗する力を持ち合わせた以上。人々が苦しむさまを黙って見過ごすわけにはいきません」
優雅な手つきで紅茶を口に含みつつもそうきっぱりと言い切るその内容は、とてもすばらしいもの。
「すばらしいです」
それゆえに、心から感動して素直な言葉をつむぎ出す。
「ありがとうございます。私の考えに賛同していただけるのでしたら話が早いですね。
今日、私がここにきたのは、あなたにも協力していただきたい、そうおもったからです」
……は?
「?おっしゃっている意味がよくわかりません」
目の前のニクス、という男性が何をいいたいのかわからない。
それゆえに、頭の中に?マークを浮べて首をかしげて逆に問いかけるアンジェリーク。
そんな彼女の様子をみて再び軽く微笑み、懐から何かを取り出し、彼女の前にかざすニクスの姿。
「そ…それは…」
戸惑うアンジェリークの目の前で、懐から何か一枚の新聞らしきものを取り出すニクス。
それをみて思わず驚きの表情を浮かべてしまう。
「校長先生からこの学園新聞を送っていただきまして。非常に興味深いことが書かれていましたよ」
そこには、ベットに横たわる患者の前にアンジェリークが座っている様子が映し出された写真と。
細かくそこに記載されている文字の表紙。
「タナトスに襲われ、昏睡状態に陥っている患者の手をアンジェリークが握ると、
ほどなくその患者は目を覚ましたのである。まるで奇跡をみているかのようだった。と」
それも一度や二度ではなく、必ず昏睡状態の患者は目を覚ます。
噂は噂を呼び、どこまでが真実かはわからないものの、それでも藁にもすがりたい人々は、
この学園のボランティアの看護団にと依頼をしてきているのが今の現状。
新聞にはそこまで詳しいことは書かれてはいないが。
「それで、あなたに会いにきたのですよ」
にっこりと、微笑みながらもじっとアンジェリークの瞳をみながらも答えるニクス。
「偶然です。たまたま私が手をにぎったときに患者さんが目をさましただけです」
偶然がいくら何でも十数回以上も続くものではない。
それでも、偶然、と思っているのは。
彼女の周りでそういう似通ったことが昔からときどきあったがゆえ。
まさか自分にそんな不思議な力があるなど一体誰が想像するであろうか。
「いえ。偶然ではありません。あなたには浄化能力があるのです。
あなたの体には大いなる力が秘められている。まだ自分の力に気づいていないだけなのです」
自分の力。
その言葉にはっとなる。
昼間に感じた自身の中にある暖かな光。
気がついたらタナトスは消えており、そしてまた倒れていたはずの人々もまた元通りになっていた。
だけどそれが自身の力だとは到底おもえない。
「私はリース郊外にある陽だまり邸と呼ばれている屋敷で暮らしています。
今すぐ、とはいいません。ですけどあなたの力をどうしてもお貸しいただきたいのです」
ゆっくりと立ち上がり、窓のそばにいき外をみつつもアンジェリークに意図を伝えるニクスではあるが、
「そんな……ですけど、私は……私は医者になりたいんです。人の役にたつ。
そのために私は今まで勉強してきました。だから勉学に影響があるようなことはお受けできません」
彼が何をいいたいのかよくわからない。
そもそも、自分にそんな力があるなどと思えない。
それに。
タナトスと戦う。
それはおそらく通常の学生の生活ではやっていかれないであろう。
そもそも、タナトスの被害はいつどこでおこるかわからないのだから。
彼女はこの間十六歳になったばかり。
この世界で医者の資格を持つための年齢まであとわずか。
「なくなったご両親が医者だったから。ですか?」
「そ…それは…」
いきなり死んだ両親のことをいわれ、おもわず目を見開き言葉につまるアンジェリーク。
たしかに、彼のいうとおりではある。
人々に信頼され、そして人々の為になることを行う人になること。
それこそがきっと亡き両親も望んでいることだろうから。
あのとき、小さな彼女には何もできなかったせめてもの償いに。
「あなたのことは少々調べさせていただきました。
医者になり病に苦しんでいる人たちを救いたい。なるほど。立派な心がけです。
ですが今のアルカディアではタナトスを退治するほうがよほど多くの人々を救える。そう私は思いますがね」
「そ…それは……」
確かに簡単に調べようと思えば調べられるであろう。
この世界にはタナトスに親を殺された子どもなどは数え切れないほどいるのも事実。
彼女がこの学園にまるで厄介払いのように遠い親戚の叔父にいれられたこと。
そしてまた、彼女が親戚に預けられることになったフルールの街でのタナトスの襲撃の一件。
そう。
彼はあのときに噂を頼りに、そしてまた、内に眠る力が感じたその波動を頼りに、
今まで十数年間、ずっと彼女を捜し求めていたのだから。
だが、そんな事実をアンジェリークが知るはずもなく、ニクスの言葉に対し、ただただ歯切れがわるくなってしまう。
彼のいうことは確かにもっとも。
医者ではできることとできないことがある。
それでも、人々のためにできることがあるかもしれないから、と出かけていって命を落とした両親。
その人としての、立派な心がけであり崇高な意思をアンジェリークは誰よりも尊敬している。
だがしかし、大切な人を失う悲しみは誰にも負ってほしくない。
その思いも十分に理解している。
いくら人々に感謝される行動をとったとしても、死んでしまえば、残されたものが悲しむのだから。
「人を救える力があなたにはある。それこそ世界を救える力が。それなのにあなたはそれを使わない、というのですか?」
いきなりそんなことをいわれても、何とこたえていいのかがわからない。
「で…ですけど……」
バタンッ!
「おいっ!ニクス!何無理強いいってるんだよっ!」
アンジェリークが言葉につまっていると、バタン、と校長室の扉が開き、扉から入ってくる赤い髪の男性。
「あ、あなたは」
ふとみれば、その後ろにはハンナとサリーが心配そうに立っている。
ハンナとサリーがアンジェリークを心配して部屋にいったところレインに話をきき、
そして彼とともに校長室に向かってきたのだが。
ちょうど彼らがたどり着いたとき、
扉の向こうより聞こえてきたニクスがアンジェリークをまるで問い詰めているかのような口ぶり。
それゆえに思わず扉を勢いよくあけて部屋にと飛び込んだレイン。
その言いようはまるでアンジェリークを非難しているようにも聞き取れたがゆえに。
普通いきなりそんなことをいわれ、はいそうですか。
とすぐに返事ができるものなどいるはずかない。
ましてや、彼女は自分の力のことを知らなかったように見受けられた。
ならば余計に。
そもそも、女性の浄化能力者など、過去全てを見渡しても一度たりとていなかったのだから。
「どなたですか?」
どこかで見たことがあるような気がしますけど。
そんなことをおもいつつ、いきなり扉を開けて入ってきた赤い髪の男性にと問いかける校長。
「おや。レイン君。どうして君がこんなところに?」
そんな彼にと話しかけているニクスの姿。
「え?」
この人と、このニクスさん、お知り合い?
じゃぁ、さっきニクスさんがいってたもう一人の仲間ってレインさんのことなのかしら?
アンジェリークがそんなことを思っていると、
「ニクス!その言い方だとまるで彼女を非難してるようじゃないかっ!」
「おや。珍しいですね。あなたが他人の肩をもつなんて。
しかし、ノープレス、オブリージュ。力があのにその力を行使しないのは罪。そう思いませんか?レイン君?」
「それはあんたの口癖なのはよくわかってるけど!だけど、彼女はっ…!」
自分のように自覚しているものならまだいい。
しかも自分はある意味自業自得ともいえるのだから。
「しかし。リーズの庭に買い物にでてたあなたがどうしてここに?しかもここは女学校ですよ?
もしかしてようやくレイン君も研究以外にようやく異性に目覚めて忍び込みましたか?
いやはや、しかし、いきなり女の園に偲びこむのはどうかとおもうのですが……」
「って、誰が忍び込んだ、だっ!誰がっ!」
にこやかにそれでいてどこか楽しんでいるのか、本気なのかわからない口調でレインにといっているニクス。
「俺は、ただ。リースの庭でタナトスと遭遇して、怪我をしてるからって彼女たちにつれてこられてるだけだ」
いいつつも、扉の向こうにいるハンナとサリーにちらり、と視線をむける。
「まあ!?あなたたち、タナトスと遭遇したのですか!?どうしてすぐに連絡を……」
彼女たちが今日、買い物に出かけていたのは知っていた。
だがまさか、そんな危険な目にあっていたとは、初めてきいたがゆえに本気で驚き驚愕の声をだす校長。
「す、すいません。校長先生。心配かけては。とおもいまして。それに被害はなかったですし」
そもそも、レインのおかげで死者も誰もでずにタナトスは退治された。
そうアンジェリークはいまだに思っている。
「…リースの?…では、もしかして、レイン君がそこまで彼女の身をかばうのは、もしかして……」
ここにくるまでに感じた聖なる力。
そしてまぎれもなくリースの庭の上空にのみ輝いた光のカーテン。
馬車を止めて空を仰ぎ、その光景は直接に目にして確認している。
その光のカーテンはしばらくすると何ごともなかったかのように掻き消えたが。
その輝きはほんの一瞬。
気づいたものは、気づいたであろうが、気づかないものも多々といた。
常に空を気にしているのもならば気づいたであろうが。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!』
ニクスが何かを言いかけるのと同時。
まるで耳を突き破るかのような悲鳴が学園内部にと響き渡る。
それは、学園の中庭にタナトスが出現したことにより生徒があげた悲鳴である。
というのをアンジェリークたちが知るのはこのすぐ後。
-第4話へー
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あとがきもどき:
薫:ちなみに、アニメ&ゲーム&小説など。
ゲームに忠実にアンジェリークがレインを部屋に怪我の手当てのために招きいれ、
ハンナとサリーから隠すためにクローゼットの中に押し込んだ。
その設定はこちらでは変えております。
つまり、ハンナ、サリー、アンジェリークの三人でとりあえず彼を学園内部へ招き入れてたりv
自分たちを守って怪我をした、というのもあるし。
何よりも、彼をあのままあの場においといてアンジェリークの身に危険が及ぶような結果にならない。
とも限らない、というハンナとサリーの機転がきいた理由から。
アンジェ自身はそんなことは知らずに、ただ彼の怪我を手当てしないと、という思いのみv
ではでは、次回で陽だまり邸に移動の回にいけるとおもいますv
ではまた次回にてv
2008年5月4日(日)某日
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