まず!今回の話については注意事項です!
必ず!前半部分というかほとんど、得にお食事中の人は読まないでください!
気分がわるくなった、吐き気とかした、むかむかした。
などといった非難、抽象などは一切受付いたしません。あしからず。
・・・・まあ、表現は(たぶん)そんなにグロテスク、ではないと思います。・・・多分・・・
・・・・・・・・さて、これを今度は中心的に終了させますか・・・・。
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黒曜の宝石 ~光の勇者の末裔…~
ざわっ。
あたりがはっきりと自覚ができるほどにとどよめいた。
「「こ…これは!?」」
思わず叫ぶもの。
その場にうづくまるもの。
目をそむけるもの。
今までは位置すら把握できなかった、魔獣ではあるが。
かろうじて息が残っていた生き残りなどから襲ってきたそれが異形の獣である。
ということまでは突き止めていたサイラーグの町の人々。
ここしばらくの原因不明の行方不明事件。
そして突如として発生したデーモン大量発生事件。
それらの鍵を握っているのではないか。
といわれているその魔獣。
だが、今回はちょっと今までとは赴きが違う。
今までは位置すら把握できなかった魔獣ではあるが、東の巫女・ヘルが近くに、または側にいるとなれば話は別。
この地、サイラーグの巫女や神官には、国より特別な防御アミュレットが支給されており、
その特定の魔力波動をたどることによりその持ち主がどこにいるのか探し出すことが可能。
連絡のつかない北の神官長カイルの不在のまま、魔物を倒すべく、ヘルの持っているアミュレットの魔力波動をたどりつつ、
彼らがついた先は北のサイラーグの町から少しはなれた森の中。
このあたりの木々はフラグーンの小枝で形成されている森ではなく、昔からあったもの。
このあたりにはかつて栄えていたという文明の忘れ形見。
遺跡がごろごろと存在していたりする。
そして、二つの町の合同討伐隊の人々が目にしたものは。
幾多もある遺跡のうちのひとつ。
そこの中から魔力波動を感じ取り、その遺跡に足を踏み入れた。
ヘルの生死は定かでないにしろ。
-まではよかったのであるが。
足を踏み入れた彼らが感じたことはそれはまず第一に狭い。
ということ。
何しろ昔はきちんとした何らかの建物であったのであろうが。
今ではところどころに崩れ、道も瓦礫で埋まり、足元が不安定。
当然遺跡の中であるがゆえに薄暗い。
そんな遺跡の中で当然といえば当然のことごとくに。
明かりをとるために、『明かり(ライティング)』の術を唱え、その光を用意してあった、たいまつや品物にと灯し。
幾人ものそんな彼らが持つその明かりによって遺跡の中は赤々と照らし出されている。
だからこそ、彼らはそれを目にすることとなったのであるが。
彼らが遺跡の中にはいりしばらく進み。
―そこで彼らがみたものは。
石畳の上に累々と…まるで足の踏み場もないほどに転がっている何かの物体の山。
森に棲んでいるウサギ、狼、クマ、ドワーフ、コルボックル…etc。
は当たり前。
あたりに漂う、何ともいえない臭い。
彼らが目にしたものは、顔の半分がとけ、目などはどろりと液体にとなりはて、
そんな肉体の上を肉食の小虫たちがそこらに転がっている-
―…死体を。
ぴちゃぴちゃ。
ずずっ。
など音を立てつつ食べている…そんな光景。
中にはその体に白いうぞうぞしたものが湧き出ているものもあれば。
逆にその肉片をずるずると運んでいるねずみのような生き物もいたりする。
あたりに充満するは、まるで生ごみを夏の暑い盛りの日に外に出しておき。
その密封された袋を一日以上たって開いたときと同じ臭い。
何ともいえない悪臭、としかいいようのない臭いが立ち込めており。
それに混じり、鉄さびのような臭いと、間違えようもない死臭。
一歩足を踏み入れた先の遺跡の道は。
そんな無数ともいえる、『元、生きていた生き物』の死体の数々で道は埋め尽くされているのである。
だがしかし、魔力波動を感じるのはこれよりまだ先、つまりは遺跡の奥深く。
この道を先に進まないことにはたどり着けないのもまた事実。
「―うぐっ。どうされますか?隊長?」
ハンカチなどで口と鼻を押さえるものの圧倒的な死臭とそして臭いからはのがられるはずもなく。
中にはあたりにそのまま吐き気を催し、あわてて外に駆け出しているものすらもいたりする。
まあそれが当然の反応であろうが。
ここしばらく連続して発生していた行方不明事件。
その被害者と間違いない身元が判断できる死体もまた、ここには存在しており。
それが何を意味するのかは、一目瞭然。
「とにかく!道をつくれ!」
このままでは動くにも動けない。
というかこの死体の道を通って奥にゆく勇気は、はっきりいってあるはずもなく。
まるで生きているようにうごめいている死体も少なくない。
まあそれらの大半は内部に侵入している虫のせい。
というのが頭では理解はできていても、感情とでは話は別。
圧倒的なまでの死臭があたりにと立ち込めている。
それでなくても遺跡、というほとんど密閉に近い空間である。
その臭いの圧倒的な濃度は…押して知るべし。
そうはいうもののいったいどうやって奥にいく道を開けばいいものか。
そんなことをほとんどのものが思っていると。
そんな中。
すっとそんな彼らの前に歩み出る人影が一つ。
「ルシェール殿?」
出てきた人物にふと問いかけている一人の兵士。
一歩前に歩み出たのは他ならないルシェール、その当人。
まだ病み上がりであるシルフィールをほかの巫女にと任せ、ヘルを助けるために彼女もまたこの討伐隊に参加しているのである。
アレクはルシェールの意向もあり、残ってシルフィールの側にとつきながら。
水晶玉でこちらの様子を随時見ていたりする。
「―皆さん、風の防御結界、できる方はお願いいたします。」
そういいつつついと前にとあゆみでて、精神を集中させてとあるカオスワーズをつむぎ始めるルシェール。
「ラクト・セプト・ラド・アドナ・ライト・アレイル・アクアル……」
?
その言葉にそこにいるほとんど全てのものが首をかしげる。
それは誰も聞いたことすらもない言葉。
だが、次の瞬間には。
「聖水浄霊(アクイル・フォースウォータ)!」
まったく聞いたことすらもない言葉がルシェールの口から、力ある言葉として発せられ。
そのルシェールの力ある言葉に従い、ルシェールの前にと突き出しかざした手から、水が。
否、まるで空気が水のようにとうねり…いや、こういう表現は好ましくはないであろう。
まるでそれは自在に操れる空気の青く澄み切り光る青い光、というか空気の水。
そんな水のような光の帯がルシェールの手の平より出現し、それは長く続く廊下、そして曲道などもあるその先全ての道にと回り込み。
それは累々と続くであろう廊下を沿って光の帯は突き抜けてゆく。
ルシェールには術者特有の魔力障壁ができているので何ともないが、
後ろにいるほかの比土人はその水にしかみえない空気の塊らしき光の帯が、
あまねく物体-つまりは死体を飲み込んでゆくたびに、
その身のどこかに恐怖すらおぽえるような、それでいて包み込まれるような安心感をもたらすような。
そんな水気を五感の鋭い者たちは感じ取る。
これは一部の者にしか知られていない事実。
それゆえに彼女をかつてきたの巫女長にしよう、という話も出ていたほどに。
彼女がそれを了解せずにそしてまた、長女が、姉がいるから、という理由で辞退したという経緯が以前はあったりするが。
-彼女、ルシェール=ラナ=ノース。
今は本人の意志はそっちのけでいきなり籍に入れられたがために、ルシェール=ネプト=ラーダ。
という名前になっているが。
彼女、ルシェールの中にはかつて滅びたとされる水竜王の力の一部。
…それが眠っているのである。
いうならば、ルシェールは水の祝福、神の祝福を受けている巫女、といっても過言ではないであろう。
ちなみに一般には巫女は純潔なる乙女でないが勤めることはできない。
などとよく言われていたりするが、ここサイラーグではそうでもない。
そんなことは関係ない。
とにかくその能力が全て。
特にこのようなあるものを町ぐるみで封印している結界の役割を果たしている地においては。
ルシェールの言葉とともに生まれでた青いどうみても空気の束。
それは水のようにうねり、実際に水気すらも感じ取れる。
水はどんな入れ物にもしっかりと収まるように、無数にあるとおもわれる全ての道にその光は床を這うようにして広がってゆき。
そのたびに床上に転がっている物体をその光の中に取り込み、
そして、その光の中でまるで浄化されるがごとくにそれは一瞬のうちに青い光の中にと書き消えてゆく。
そして。
そんな数分もたたないうちに。
やがてその水としかみえなかった光の帯は掻き消え。
後には。
そこに何もなかったかのような瓦礫まできれいに取り除かれた回廊が、目の前にと続いていたりする。
「ル、ルシェールどの?今のは…いったい?」
そにこあったはずの異臭全てすらもがなくなり。
後にのこるは水のすがすがしい気配のみ。
今の術でどうやら空気すらも浄化されたようであるが。
問いかけてくる一人のその言葉に。
「このあたりいったいの不浄なるものを浄化しだけですわ。さ、とにかく早く先を急ぎましょう。」
それだけいい、奥に続く道をずんずんと進み始めてゆくルシェールの姿が。
聞きたいことは山とはあるが、それより今は確かに。
おそらくさらわれたであろうヘルの行方を捜すことと、魔獣の退治が優先。
後で詳しく聞けばいい、そう思い直し、ほかのメンバーたちも、ルシェールに続いて奥に、奥にと進んでゆく。
「な゛!?カイル神官長!?」
奥に進み、彼らが目にした姿は。
連絡をつけようとして、まったくつけられなかった北の神官長、カイルの姿。
その長い黒髪が風もないのにふわりとなびく。
「カイル義兄さん!?」
カイルはルシェールの姉の夫。
つまりは彼女にとっては義理の兄。
だがしかし。
その気配が違うことにいち早く気づき。
「いけない!みなさん、離れてください!」
北の町の人々はその中央にいるカイルにと駆け寄っていたちょうどその刹那。
何かがおかしい。
カイル義兄さんの気配じゃ…ない!
それは勘。
家族だから働く勘なのか、はたまた彼女の中にある力がそういっているのか。
ともかく、近づいてはいけない。
そう警戒音が頭の中でと鳴り響いていたりする。
「「え゛?」」
ルシェールの叫びに近いその声と同時に。
ドシュ!!!
鈍い音が…遺跡の奥深く。
おそらくはまだこの先に奥があるのであろう。
先に扉らしきものが壊れた後がみえており、どうやらここは奥に続く道の中間部屋。
広い空間にぽっかりと天井まで突き抜けている高い天井。
何もない、ただあるのは壁にと描かれている何らかの絵のみ。
それとヘヤを支えている数本からなる柱の姿のみ。
そんな部屋の中、数十人の悲鳴が…部屋の中にとこだましてゆく。
それはほんの一瞬の出来事。
自分たちの町の神官長の姿をみとめ、駆け寄る町の人々や警備兵、そして用兵、魔道士、勇士参加の討伐隊員。
そんな彼らが神官長の元にいきどうしてこんな場所にいるのか問いかけようとしたその矢先。
部屋の中央にたたずむ、白い、といっても少し灰色がかった色ではあるが。
その白いローブとマントを羽織ったその人物は。
走りよってくる人々の姿をみとめ、にやりと笑みを浮かべ。
ある程度の距離に彼らが近づいているのを確認し。
一瞬のうちにと勝負をきめた。
ポタ。ボタボタ。
シュゥゥ……
彼の元に駆け寄らなかった人々の目に移ったものは。
自分が目撃したのでないことには信じがたいもの。
何しろ、カイル神官長の体から無数の白く鈍く輝く何かが出現したかとおもうと。
次の瞬間にはカイルの体から数多の触手なのか何なのかわからないが。
ともかく、まるで鋭いいうならばまるで植物のつる。
のような形でいながらそれはカマキリの鎌のごとくに鋭く。
それが一瞬のうちに近づいてきている人々の体を串刺しにとしたのである。
それだけならまだしも。
さされた人間たちはまるで全ての力を吸い取られてゆくがごとくに。
というかその血を抜き取られてゆくがごとくにどんどんと干からびてゆく。
しばし、その場に沈黙が訪れる。
人間、理解不能なものをみたとき、一瞬ではあるがパニックになるよりも前に、あきらかに硬直する、という時間が起こるもの。
その例に漏れずに辺りに一瞬静寂が訪れる。
『-悪いですけど、これから先には行かせるわけにはいきません。』
カイルの声とも、違うとも、何ともいえない声が触手をその体から、うねうねと、無数にはやしたカイル神官長の口から発せられ。
次の瞬間には。
「―いけない!」
あわてて、ルシェールが術を唱えようとするが、すでに遅く。
『まさか、水竜王の力をもっているものがいたのは誤算でしたけどね。―邪魔はさせません。』
すっとその瞳が今まで閉じられていたというのにも開かれる。
その瞳は、人のそれではなく。
白一色。
「皆さん!退避し…!」
ばっと振り向きほかの人々に避難を呼びかけるが。
『-滅せよ!!』
カッ!!!!!
その刹那。
天を突き抜けるほどの光が。
その場より天にむけて放たれてゆく。
すでに遺跡にはいり、時間が経過していたころから。
時刻はちょうど朝方。
ようやく日がのぼるかどうか。
そんな時刻。
森の近くに住んでいた町の人々は、眠りについているそのうちに。
その光にと巻き込まれ。
次の瞬間には。
ドォォン!!!
後から何ともいえない…破壊音と、爆風が辺り一帯にと吹き荒れる。
かさり。
「派手にやったな。」
元遺跡の奥。
探し物を探していたものをみつけたその矢先。
いきなりの衝撃派。
とっさに持っているとある石版を使い防いだが。
その中央にあるのは、ひとつの影と。
そして、何もなくなった半径一キロ四方には及ぶであろう、巨大なクレーター。
声の方を振り向き。
『我が主、探し物はみつかりましたでしょうか?』
獣特有の何ともいえない、人ではない声にて話しかける。
「問題はない。これで、この私も!」
そういいつつ、手にした石版をみてにやりとほくそえむ。
「あと、必要なのは、力ある穢れなき乙女の血だ。それさえそろえば!この力は我のものとなる!」
高らかにそう宣言し、石版と。
そして、もう片方の手には古びた書物を掲げて高らかにと笑う黒髪の男性。
その様子をみつつ。
―おろかな人間。あの方に利用されている。ということも知らないで。
贄は、乙女ではない。
おもわずその赤い唇がゆがみ笑みを浮かべるが。
それらは気づかずに。
男性-ラグルはただのクレーターと化した何もない場所の中央で、 ただひたすらに勝利を確信し、高笑いを挙げてゆく。
シュ…ン。
「はぁ、はぁ。はぁ。」
助けられたのはごくわずか。
あの一瞬の判断。
彼女の周りにいた数名の人物のみ。
それすらも、いまだに意識を失っている。
「…もう、うごけ……」
文字通り、力を使い果たした。といっても過言ではない。
衝撃派が及ぶ直前、光が彼女たちを覆いつくすその直前に。
彼女の転移呪文が完成し。
だがしかし、一瞬のことであったがゆえに範囲は狭く。
彼女の周りにいた人々しか助けられなかった。
もうもうと上がる煙が。
何が起こったのか容易に硬くない。
がさっ。
朦朧とする意識の中で、何かが近づいてくる音がする。
もし、これで敵であった場合は彼女やほかの人々の命は…もう助かる見込みは…ない。
「ちっ。叔父の仕業か。」
深く、それでいて鋭いような声が倒れている彼女-ルシェールの耳にと届く。
そして、そこに転がっている五人の人影をみつけ。
「とりあえず、情報はあったほうがいいな。」
そういいつつ倒れている彼女たちにと近づいてくるその人影。
「あんた、どこの誰だ?」
その声を遠くにききながら。
「…東の神殿……」
すでに意識を失いかけるその瞳に最後に映ったものは。
暗く澄み切る碧い瞳と、そして-金色の残像であった。
敵か味方か。わからないまま。
ルシェールの意識はそこで完全にと昏倒してゆく。
ざわざわざわざわ。
衝撃派はサイラーグ全土に及び、否、サイラーグ以外にもおそらくは。
衝撃は伝わっているであろう。
天を突き抜けるようにもくもくとあがる煙と。
そして。
朝方のいきなりの揺れ。
地震かともおもったが地震ならばそんなことは起こらない。
しかも、その位置が。
「な゛!?ルシェール!?」
思わず駆け出しそうになるエルク。
煙が立ち昇っているその先は。
あきらかに、ルシェールたちがヘルを助けにいく。
といって出かけた方向にほかならない。
あわてて家の中にとかけもどり。
寝巻きの上にマントを羽織り。
あわててそちらにと向けて駆け出してゆく。
「―そん…な。」
煙の立ち上る方向。
ベットからそれをみつめ、思わずつぶやく。
父がいっていたが…確かルシェールが向かった先がその方向ではなかったのか。
まさ…か。
反発は確かにしていた。
結婚を許したのは、町のために他ならない。
どこかで母とは絶対に呼べなかった。
ずっと母をエミーリアをだましていたかもしれない。
という思いが支配して。
だが、こうして。
もしかして、ルシェールが死んでしまったのでは?
という状況になれば話は別。
「な゛…ルシェール…お母さん!」
まだ完全ではないというのに。
シルフィールもまた、寝巻きの上に服を羽織り。
あわてて外にと駆け出してゆく。
朝日が東の方向から立ち上り。
その反射の照り返しがまぶしく思える。
そんな光の中に近づいてくる人影ひとつ。
ゆっくりと近づいてくるその人影は何かを抱えているようにも見える。
ちょうどエルクが走っている方向とそれと向かい合わせの方向。
やがてその人影の趣が彼の目にも確認がとれるまでにと近づいたとき。
「な゛!?ルシェール!?」
エルクはその人物が抱きかかえている姿をみとめ。
エルクの叫び声があたりにと静かにこだましてゆく。
長髪、ストレート金髪のまだ若い男性。
その腕の中、ルシェールはぐったりと抱きかかえられてる。
その光景をみて思わずその男性の元にとかけよってゆく。
「ルシェール!?」
彼の元にと駆け寄るエルクのその言葉に。
「あんた、この女性の関係者か?」
どこかまるで冷たいようなそれでいて有無を言わさない声がルシェールを抱きかかえている、青年の口から発せられる。
年のころはおそらくは十七か、八くらいであろう。
年のわりに落ち着いた、それでいて隙のない雰囲気をかもし出しているその青年。
「ほかの四人の連中はこの先の役所に預けてきた。この女性は神殿の巫女だから届けたほうがいい。そういわれてな。」
そういいつつ、ルシェールをエルクにと手渡すその男性。
「よかった。無事だったか。」
よくまあ何があったかはわからないが、ともかく無事でいてくれてよかった。
安堵のため息を漏らすが。
「あ、あの。ルシェールを。妻をどうもありがとうございます。あなたのお名前は?」
そう問いかけるエルクの言葉に。
「なぜ名前が必要だ?」
ぴりっ。
その声に殺気がこもっている。
思わず体が硬直してしまうほどの、精錬された-殺気。
「命の恩人の名前を知りたがらない人がどこにおります?」
脂汗をながしつつ言葉を選んで問いかける。
その言葉に。
しばらく考え。
「―ガウリイだ。ガウリイ=ガブリエフ。」
それだけいってきびすを返そうとする。
タタタ。
何かの予感がする。
それがいったい何なのかはわからないが。
と。
ルグワァァァ!!!
町のあちこちから、鈍い叫び声とうなり声が響き行く。
「な゛!?」
みれば。
ようやく朝もあけたというその時刻に。
町のあちこちの小動物が、いきなり震えだし。
次の瞬間には。
犬、猫、鳥。
すべてのものが、異形と化し-デーモンと化してゆく。
「くっ!」
思わず歯軋りをし。
「エルメキア・ランス!!!!」
シルフィールはとりあえず。
ルシェールを探しにゆくのは後回しにし。
目下のところいきなり行く手を阻んだデーモンたちの駆除にと明け暮れてゆく。
「な゛!?結界が!?」
何らかの方法なのかとにもかくにも。
フラグーンの聖なる結界が作動していない。
というのは明らか。
驚きの声を上げるエルクの周りで巻き起こるうなり声。
見れば、町のいたるところにいきなり炎の手があがり。
いかないでもわかる。
悲鳴とそして叫びがサイラーグの町を支配していっている。
ということくらいは。
そして、彼らがいる場所も例外でなはく。
かといって、今エルクは術が使えない。
ルシェールを抱きかかえているので両手がふさがっているのだ。
「ちっ。雑魚が。」
それだけ言い捨て、そのまま。
すらりとエルクには目も留めずに。
腰にさしてある剣を引き抜き。
ふっと。
ガウリイ。
と名乗った男性の姿がエルクの視界から…消えた。
いや、消えたように見えた。
それと同時に。
それはほんとうにまるで金色の残像が残るか否かというスピードで。
彼らの周りに出現した無数のレッサーデーモンたちは。
瞬く間に何かを斬る音がしたかと思うと。
それらはすべて掻き消える。
それがガウリイが剣を振るっている音だと理解するのには。
少しばかりの時間を要するエルク。
完全に人の技をかけ離れているほどのスピード。
まず普通の剣でデーモンを倒せるか。
といえばまあそれは半分正解。としかいいようがない。
ある程度のダメージは与えられても。
それに精神世界に通じる術か力がないと致命的な攻撃にはならないはず
レッサーデーモンというものは、一般には下級魔族が憑依した、亜魔族。そう分類されている。
当然普通とは違い、物理攻撃は有効は有効ではあるが。
かといって普通の一般人の力で倒せるものではない。
「おやおや。これはまた。ラグル殿がいっていたのがあなたですか。確かに人間にしてはやりますねぇ。」
ぱちぱちぱち。
どこからともなく響く声。
「魔族か。」
まったく動じずに言い放ち。
声のした方向にむかってその辺りに転がっていた石を投げる。
「な゛!?」
事態についていけないエルクはただただ絶句するのみ。
そこには。
いるはずのない……異形のもの。
としかいいようのない姿のものがそこには空にと浮かんでいるのである。
だらりと伸びた四本の腕。
腰から下はなぜか一本の太いおそらくは胴体なのであろう、
そこから伸びている十本の足のような、いってみればまるでそれは、蛸のような足。
それがうねうねとうごめいている。
その色は黒。
のっぺりとつややかなまでのただの黒。
色も何もあったものではない。
そして、手の上にある、ものはすぐに丸い何か。
おそらくはそれが頭…なのであろう。
その丸くつややかに不気味に黒く光るそこにぼっかりと浮かんでいる、 白い三つの目とそして赤い口。
その口は笑みの形に固定されている。
あきらかに-それが人であるはずもない。
「―それで?人に使われるような低級な下級魔族風情が。ラグルに使われてオレを抹殺に。か?」
ふん。
あきらかに小ばかにしたような口調のその言葉に。
「ラグル殿の手を煩わすまでもない!貴様はここで死ねぇぇ!」
そういいつつ、だらりと伸びた腕と十本の細い足…なのであろう。
そういうが否や。
ガウリイむけて一気に間合いをつめて向かってゆく。
「危ない!」
思わずエルクが叫ぶとほぼ同時。
「ふっ。」
ふと目にうつったのは軽く笑みを浮かべるガウリイと。
そして、懐から何か、そういえば声がしたと同時に何かで剣の柄の部分をつついていたが。
そのまま剣をすらりと抜き放ち。
ふっと横にと振る。
それと同時に柄から剣の刃がゴトリ。と地面に落ちる。
「馬鹿め!刃のない剣で何ができる!」
楽勝だったな。
どうしてあの我を召還したあの人間がこの男を恐れるのかは知らないが。
完全に勝利を確信するその存在の目の前から。
ふっと。
ガウリイの姿が掻き消え。
次の瞬間には。
「―光よ!」
ヴン!
その声とともに、刃のない剣の柄から青白い光の刃が出現し。
あわてて振り向いたその先に。
いつのまにか後ろに回りこみ、そしてそれの上空の真後ろにと移動しているガウリイの姿が
ザン!
そのまま光の刃は振り下ろされ。
「な゛!?馬鹿な!?ゴル…ヴァ…だ…と!?」
最後に彼が目にしたものは、人にしておくには惜しいまでの黒い光を宿す碧い瞳-。
ザァ……
見せ場も何もなく。
一瞬のうちに、魔族-しかも、亜魔族ではなく、純魔族。
人が対峙して勝てる相手では、まずはない。
それを一瞬のうちに滅ぼしている金色の髪の青年。
「………光の…剣。」
おもわずつぶやくエルク。
それは伝説の光の剣に間違いはない。
かつてこの地をすくったという光の勇者。
光る刃の剣をもち、後に魔獣の瘴気を抑えるために竜族より、この地に神聖なる苗をもたらし、神聖樹フラグーンを植えた。
伝説の光の勇者。
その人物がもっていたものこそ。
-ガウリイと名乗った青年がもっている光の剣。
それに他ならないのである。
「ちっ。魔族まで借り出してきたか。あの馬鹿は。」
そういいつつ転がっている剣の刃を拾い。
一瞬のうちに柄と刃を元通りに普通の剣の状態にと戻す。
「あ、あの?あなた…様…は。もしかして光の勇者の末裔。ですか?」
声が震えるのが自分でもわかる。
その声に振り向き。
「オレはそんなものじゃない。―ただ、オレの身内が馬鹿やってるらしいから止めにきただけだ。」
腰のさやに剣をおさめつつ言い放つガウリイに。
「―身内?」
思わず繭を潜める。
「ああ。ラグル=タミール=ガブリエフ。何をおもったのかは知らないが。この地に眠る紅い魔の力を手に入れるために。
この地にやってきている馬鹿な身内をな。このオレを倒すためだけに。」
そういいつつ
チン。
剣を鞘にと収める。
「―あんた。この町の神官長か?」
そう言い放つガウリイは彼の方を振り向いてすらもいない。
「え。ええ。あ、どうでしょうか?せめて妻を助けてくれたお礼に。食事でも?」
そう提案するエルクのその言葉に。
「変な行動したら即殺すぞ?」
冷たいまでのその台詞。
まったく回りに心を許していないのがよくわかる。
いったい全体何がこう彼をここまでかたくなにさせているのか。
「いえ、そんなことはいたしません。この地の救い主である勇者様。その末裔の方にそんなことをいたしますか。
つたない家ですが、せめて食事と寝床くらいは提供させてくださいませ。」
ルシェールを抱いたままガウリイにと向かって語りかけるエルクの言葉に。
しばらく考え。
「―では。言葉に甘えるとしようか。-あんた、名前は?」
そういいつつ振り向くその姿は。
どうみても普通の、しかも整った顔立ちの青年に過ぎないが。
その構えも何もかもまったく隙がない。
「私は、この町。サイラーグの東の神官長を務めております。エルクともうします。」
召還した魔族がやられたことにより。
そのまま大量にと発生していたデーモンたちもまた。
そのまま同時に掻き消えてゆく。
「いったい?」
何がどうなったのか理解するよりも先に。
「はっ!こうしてはいられませんわ!」
あわてて駆け出すシルフィールの姿が。
後には。
デーモンたちに破壊された町並みが残るのみ。
「お父様!ルシェールさん!」
走るシルフィールが目にしたのは。
ルシェールを抱きかかえている父の姿と。
そして、その後ろに。
見たこともない一人の青年。
?
どこかで出会ったことがあるような気がしなくもない。
―デジャヴ。
シルフィールは気づいてはいない。
この彼が雰囲気的には親戚のセルシウスによく似ている。ということに。
「あの?お父様?そのかたは?」
問いかけるシルフィールの言葉に。
「ああ。シルフィール。ガウリイ様。こちらが私の娘。シルフィールです。
シルフィール。こちらガウリイ=ガブリエフ様。しばらく私の家に滞在していただくことになった。
……くれぐれも粗相のないように。彼はあの光の勇者の末裔ですからね。」
そういう父の言葉に思わず絶句する。
「光の勇者…って、あの伝説の!?」
思わず口を押さえて叫ぶのは当然の反応なのであろう。
その言葉にむっとし。
「オレはオレだ。そのような呼び方はやめてもらおう。」
まるで何ものも信じないようなその声。
声のひとつをとっても周りを拒絶する音が響いている。
すでに太陽は完全にのとぼり。
道にいるのは彼らのみ。
ほかの町の人々はさきほどのデーモン襲撃の後始末に追われているのが現状。
「―それでは、ガウリイ様。そうお呼びしますわ。
私は東のサイラーグ、時期巫女頭。エルクとエミリーリアが第一子。シルフィール=ネルス=ラーダ。と申します。」
「―好きにしろ。」
その言葉にちらりとエルクが抱きかかえている女性をみて。
…なるほどな。つまりはこの娘には事実を伝えていない。というところか。
一目みただけでこのシルフィールに何の力が宿っているのか。
彼-ガウリイにはわかった。
そしてその気配から、この娘-シルフィールがエルクとルシェールの娘である。
ということも。
ルシェールから感じるのは北にある魔力の力。
エルクから感じるのは東にある魔力の力。
その二つを併せ持っているこの少女。
「二つの血、混ざりしとき。か。なるほど。な。」
小さくつぶやくガウリイの言葉は。
幸運ににもエルクたちの耳には届くことはなく。
「それでは、ご案内させていただきます。」
そういい歩き始めるエルクの言葉に。
「あ、お父様。わたくしヘルお姉さんが気になりますから。あの煙の方向にいってみますわ!」
それだけいいはなち駆け出すシルフィール。
「まっ!シルフィール!」
あわてて止めるエルクの言葉すらきかず。
しかたなしにエルクがガウリイを家に案内し終えたちょうど同時刻。
ぺたん。
その場にしゃがみこむシルフィールの姿が。
すでに人々がざわめき立ち、必死で家族の名前を呼ぶもの。
知り合いの名前を呼ぶもの。
―そこには。
ただのクレーターと化した、何もないむき出しの地面が横たわっているのみ。
「な゜!ヘルお姉さぁぁぁぁん!!」
シルフィールの悲鳴と叫びは、ただただ青空にと吸い込まれてゆく。
「-きたか。ガウリイ。だが。ふふ。」
すでにもう拠点は定めた。
誰にも知られずにすでにこの地はもう自分の思い通り。
この場所、神殿の地下を利用し、後は魔法陣を完成させ。
鍵となる聖なる純潔なる乙女を差し出すのみ。
それであの力が、魔王の力が手に入る。
一人ほくそえんでいるラグルの姿が。
崩壊を免れた北のサイラーグ。
その中心の一角にある神殿にて見受けられていることは。
誰も知る由もない-。
-続くー
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あとがきもどき:
薫:シルフィール。
これから不幸どん底です。
ええ(汗)
次回、少しばかりシルフィールの手料理やって。
それから崩壊、北のサイラーグ。かな?
さてさて、ま、この辺り。
とある私の短編の話でこれ元にしてばくって作ったから、
ネタはわかる人はいるでしょう。(笑)
それでは、また、次回でv
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