黒曜の宝石    ~忍び寄る闇の影~



デーモンの襲撃。
それは人々にさらなる恐怖を与えた。
かつても同じような出来事があった。
それはほんの百年ばかり前の出来事。
それだけではなくほんの五十年前にも似たような事件が発生し。
当時の北と東。
それぞれの神官長と巫女頭がその事件のせいで命を落とした。
というのも人々の記憶に新しいところ。
さすがにデーモンが発生した。
ということもありこのたびの祭りは警備はものものしくなったものの。
予定通りに一般公開され。
そして、その大任を見事果たしているシルフィール。
ディルスで伊達に八年、過ごしているわけではなく。
あの地で聖なる踊りなどもまた彼女は習っていたのである。
まだ幼いながらもそれでいて完成されたその踊りに観客たちは満足し。
そして。



「いいえ。それは断ります。」
首を絶対に縦に振らないルシェールに。
長老たちが説得に当たる。
「いや、しかし、ルシェール殿。」
町の中では東の神官長の家系が夫婦そろっていないからこのたびの出来事。
つまりはデーモン大量発生につながったのではないか。
といううわさがまことしやかにと流れている。
事実、五十年前のあの事件のときにも片方の家系が夫婦そろっていない時期に発生した。
その事実が人々の記憶にはまだ新しい。
「町の規則です。万が一、いくらわたくしに子供ができない体だ。
  としましても、もし、それが北と東、互いの家系が結びつく。その伝説にあうこととなりましたらどうするおつもりですの?」
二つの血、結ばれしとき、滅びを迎えん。
それはこの町、サイラーグに古より伝わっている伝説。
それがいったい全体何を意味するのかはわからないが。
「ですが今は適任者はおりませんのですじゃ。」
そういう互いの町の長老たちを前にして。
「あと数年我慢いたしましたら立派にシルフィールちゃんも巫女頭として勤められます。
   いえ、それよりもう勤めてもおかしくはない年齢です。
   まだ幼い、という意見もあるかもしれませんが。彼女がこの家系の時期長です。」
それがたとえ自分の本当の娘だからとしても、もしエルクと結婚して。
万が一シルフィールが自分とエルクの子供だとわかれば。
何が起こるかわからない。
最悪、シルフィールの存在は闇から闇へと葬られる可能性すらもあるのだ。
-今回のデーモン発生の原因の存在、として。
人は流言にとだまされる。
もし、誰かどこからか今回の原因はシルフィールが二つの町の血を引いているから。
彼女が原因だ。
とでもいおうものなら…まちがいなく人々はいまだにデーモンの恐怖もさらぬ今では。
理性も何もなく、それを信じて彼女を殺すであろう。
それだけは何としても避けねばいけない。
いくら説得しようにもぜったに首を縦に振らないルシェール。
だが、周りはそうはいってはおられず。
このまま彼らが結婚、もしくはエルク神官長がきちんとした相手と所帯を持たない限り、またデーモンたちが襲ってくるのでは。
という不安は町全体をどんどんと覆いつくしてゆく。

町の人々の声とそして、長老たちの意見のもと。
二人の了解を得ないままに。
戸籍上、許可もなく二人が夫婦の手続きをされていたのは。
ルシェールとエルクの元にその話が舞い込み。
そしてシルフィールが二人にかわかって許可を出してから。
二ヵ月後のことであった。



「ほう、わざわざ調査に。」
彼が光の剣を受け継ぐ一族のものだと。
説明し、かつての先祖の功績とそして封印を確かめるために、調査に入りたい。
そう申し出ている一人の男性。
「それはかまいませんよ。ラグル殿。あなたの先祖には私たちは救われてますから。あの、何かあるのですか?」
先祖の遺言により少し調べたいことがある。
―ただ、それだけで十分であった。
彼が剣を持っていないのはそれは騒ぎを大きくしたくないがため。
その言葉を真に受けて-旅の途中によったという、とある男性を泊めている、北の神官長。
彼はその男性を熱くもてなし、そしてまた。
地下にあるかつての地下道の地図を彼にと手渡す。
それが-自分たちの首をしめている。
ということには気づかずに。
「いったい調査とは?」
そう不安そうに問いかける神官長の言葉に。
「ちょっと気になる書物を発見したんですよ。かつての魔獣が残した意識、あれは完全には消滅していない。
   ―という内容の一文をね。もしそれが本当ならばそれは先祖の遣り残したことは、それは子孫である私たちの役目。
  ですからこうして私が非公式に訪れたわけです。」
少し前にデーモン大量発生があったばかり。
普通ならば疑問に思うその言葉はすんなりと信じられてしまう。
「それで。確かフラグーンの地下には。
  神官一族の血筋でなければ入れない。聖なる空間。がありますよね?そこに案内してほしいんですよ。」
そういっていかにも真剣にいう男性。
かつてこの地を救ったといわれている光の勇者。
その子孫。
その一族が今もこうしてこの地を気にかけてくれている。
それだけでもう彼らはその裏の意味を何も考えることもせずに。
すんなりと彼の意見にと乗ってしまう。
人は、苦しいとき、何かそんなときにすがれるものがあれば、何も考えずにすがってしまう弱い生き物。
ましてや、かつてのこの地の救世主であるその子孫、となのるものの言葉であれば、疑うすべはなく。
「わかりました。ご案内いたします。こんな私でも平和の…この町の、
  いや、世界のためになるのでしたら、たとえ何人も立ち入らせてはならない。
  そういわれているあの地に何か不都合が起こっているのならば、それを取り除くのも私、北の神官長の使命です。
  ―ご案内いたしましょう。」
東の地で。
エルクとルシェールの婚儀が、書類上、正式に認められたその日。
北の地では一人の人物が。
今まさにこの地の均等をみだそうとしているその矢先であるのであった。



神聖樹フラグーン。
その地下深くに誰もしらない空間がある。
そこにはかつての勇者が封じ込めたという魔獣のザナッファーが眠っている。
とすらいわれているその空間。
この場所を代々守ることも互いの二つの神殿を司る長の家系に宿命として義務付けられている。
そこは特殊な呪で封印されており、その血筋のものでなければ入ることは不可能。
何人も立ち入らせてはいけない。
そう呼ばれている禁断の地が。
いまだに瘴気をはき続けている百年前の魔獣。
この樹はそんな瘴気をすって成長する神樹。
その神聖なる場所に何か異変が起こっているかもしれないから調べに来た。
そういわれ断るものがどこにいようか。
確かに何かが起こっているのは一目瞭然。
何しろこのフラグーンの結界にと阻まれて魔などは、入り込めるはずもないのに、
町を襲った大量のデーモンの軍団。
それはまぎれもなくフラグーンの瘴気を吸収する、という能力に何かあったのではないか?
そう人々が不安をもってもそれは自然の成り行き。
促されるままに、全は急げと。
次の日、すべての行事を妻や子供にと任せて。
フラグーンの中にと案内してゆく北の神官長の姿が北のサイラーグの地で見受けられているちょうどそのころ。



がさり。
ザシュ。
あたりに血しぶきが飛び散ってゆく。
いつものこととはいえうんざりする。
そのまま剣を抜き身で構えたまま。
「いえ、誰に頼まれた?」
野宿をしているといきなり襲ってきた刺客たち。
彼らはそこにいるはずのターゲットを見失い、一瞬躊躇している間に。
一人の頭が彼らの目の前で飛んでゆく。
ゴロン。
その直後に地面に何かが転がる音と。
ブシュゥ・・・ドサリ。
何かが大量に噴出しつつ鈍い音をたてて大地に倒れ付す音。
それは。
彼らの一人が思わず茂みを鳴らしてしまったのとほぼ同時。
ほんの一瞬にも満たない出来事。
剣を一振りするとその剣についていた血のりがきれいにと飛んでゆき、
月の明かりに鈍く銀色に輝く抜き身の刀身をもった金色の長髪の男性が一人、森の中にとたたずんでいたりする。
「くっ!死ね!」
「ふっ。馬鹿が。」
ぎりっと歯軋りをしつつ、それでも依頼は遂行するのも。
そう思い襲い掛かってくる数十名の刺客たちに対して不適に笑い。
そして、次の瞬間には。
ドササッ。
一人を除き、その金色の髪の男性が少し移動した。
そう思うと同時に、後にはただのものいわぬ肉体が転がるのみ。
「ひっ!」
一人残された刺客の一人がその光景に悲鳴を漏らすが。
「さて、話してくれるかな?なぁに。女の口を割らす方法なんて山とあるさ。」
いいつつ、その彼、年のころは十六か七。
まだ若い青年だというのにその瞳には暗い光が宿っている。
そういいつつ、一人刺客たちの中にターゲットを絞り。
話を聞きだすために生かしているその青年。
「ひっ!」
まさかここまでの実力をもっているとは。
うかつだった。
人数が多ければまだ青い青年のこと。
簡単に始末できる。
そういわれ、今回の依頼をうけた。
なのに、実際にはことごとく仲間は殺され。
そして-今。
自分もまた生死の境に立っている。
「たっぷりと聞かせてもらうさ。なぁに、絶対に話したくなるさ。これからのことでな。」
暗い笑みを浮かべる碧い瞳に暗い光を宿した青年の声が。
刺客であった彼女の耳にそれは死神のようにと響いてゆく。



「いったい、何を!?ラグル殿!?」
聖なる場所。
その地に納められている水晶らしきものを取り外している彼にとむかって、あわてて止めようとしている北の神官長。
「これにあれの一部が封印されているのですよ。―そして、あれはよりしろさえあれば何度でも復活は可能。」
そういってその鈍く銀色に輝くそれを高く掲げるラグルと呼ばれたその男性。
ラグル=タミール=ガブリエフ。
それが彼の本名。
案内してほしい、言われるままにこの場所にと彼を案内してきた。
が。
絶対に触れてはならない。
と代々の長が守ってきたそれを手にし高々と掲げるラグルに。
一抹の不安を覚える。
先刻までは気づかなかった怪しい笑みがラグルから感じ取られ。
今さらながらに長-カイルの不安が大きくなってゆく。
そんな彼にむかって怪しく微笑み。
「なぁに。ですからこういうことですよ。」
そう言い放ち。
無造作にその水晶をカイルに向かって投げ放つ。
「な゛!?」
あわててそれをつかもうとするが。
次の瞬間に。
「解除(リリーズ)。」
ラグルの口からとある【鍵】たる言葉が発せられる。
次の瞬間には。
キィィィィン!
あわててつかもうとするカイルの目の前でその水晶ははぜわれ。
そして、そこから出現してゆく銀色の霧。
「な゛!?うわぁぁぁぁぁぁあ!!?」
その霧に包まれ。
カイルが絶叫を上げてゆく。
「第一段階、突破。」
にやりとその光景をみつつ笑みを浮かべるラグル。
これに蝕まれて生きられるはずもない。
これこそが、かつての伝説の魔獣ザナッファー。
その精神体。
その一部。
かつてこの地に確かに魔は封印された。
だがそれは完全ではなく、一部はこのように水晶にと封印されるにとどまったのである。
その理由は当時の光の剣の所有者の力量ではそこまではできなかったことによる。
何しろこれは、あきらかに魔に近いようでそうではない異なる精神生命体。
かつてはこれがよろいの姿などをとり、そして、装着者を食べて成長する。
という魔兵器にと発展し、それが今で伝わる伝説の魔獣、ザナッファー。
銀色の霧に包まれ。
その黒い髪がめきめきめと音を立てそして肉がはぜわれ。
そしてまた。
その体からは無数に何かつるのようなものが出現し。
やがてくつうと悲鳴を上げるその声は。
一匹の獣の声にと変わりゆく。

「グルルル……」

やがて。
ほんの数分もしないうちに、かつてカイルと呼ばれていた北の神官長は。
もはやその原型すらもとどめておらず銀色にと輝く、人獣の姿、否、すでに何ともいえない異形の姿の獣にと成り果ててゆく。


「たつんだ。」
昨夜、話をするときに進めていた飲み物。
それに自分の意思のままにコントロールできる薬を混ぜ込んでいた。
獣となったこれに通用するかどうかは賭け。
だが。
その言葉に従い、銀色の獣は、ラグルの言葉に従い、四本の足をゆっくりと立ち上がらせ、その場にすくっと立ち上がってゆく。



この霧の形を借りた精神体のいいところは。
都合のいいときに、素材になった人間の不利をして自らの主の命令のままに行動することが可能。
という利点に尽きる。
かつて暴走したのは素材になった人間が強力なる魔力をもっていたからにほかならず。
主たる命令主の命令が完全に伝わることなく命令系統が破壊され、暴走したことも原因のひとつ、ともいわれていたりするのだが。
事実は今では知るものなどは一人も人間ではいるはずもなく。
「たて。そしてカイルの姿となり混乱をこの地に。そして、この地にあるという魔の力をわがものに。」
そう命令するその言葉に。
「ヴヴォォォォ!!」
上をむき一声高くほえたかと思うと。
その姿は一瞬銀色にと揺らめき。
次の瞬間には異形と化す前のカイル神官長の姿がそこにあったりする。
「お前はとにかくいけにえを用意しろ。」
「わかりました。わがマスター。」
すでに意識はカイルのものではなく封印されていた、とある魔にと体も精神ものっとられている。
そもそもこれに乗り移られた時点でもはやカイル自身は死んでいるのだからして。
ただ、違うといえば、それはひとつ、ラグルが勘違いをしている。
ということ。
カイルに乗り移ったこの精神生命体は、確かにかつてのザナッファー。
ではあるが、彼のしっているザナッファーのそれではない。
ということ。
知られてはいない事実ではあるのだが、実はザナッファーは一体ではなかったのである。
このザナッファーを封印していただけの処置を施したのもそのあたりに原因があるのだが。
命令されるがままに人を殺し、そして取り込む。
または周りの力を取り込みその力を倍増させ。
そして取り込んだその力を我が物、もしくは仲間に分け与えることができる。
-それがこのザナッファーの能力であり、それは逆に、力を高める、という利用方法にもつかえるがゆえに。
この魔をオーブの中にと封印し。
この地の封印増強の役割を与えていたのである。


ザワッ。
ひとつの封印は今とかれた。
ザワザワザワ。
フラグーンがあからさまな瘴気をその体内にうけて、誰の目にもあきらかなまでにと急遽、成長をし始めたのは。
ザナッファー、かつては二号、と呼ばれていたそれが目覚めたのとほぼ同時刻のこと。


異変はすぐに人々の知るところとなり。
急激に成長をはじめたフラグーン。
その枝は町の中にまで及びかけてゆく。
「な!?いったい!?って…きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
まずはじめに異変が起こったのは。
その日の夜の出来事。
道を歩いていた人間が。
いきなり何かに襲われたのである。
そして。
後にのこるは赤い水溜りとその人物が身につけていた飾りもののみ。


北のサイラーグ。
その日から、毎日のように行方不明者が続出し。
国からも調査員が派遣されてくるにはくるのであるが。
そのことごとくが原因不明の生物に返り討ちにあい。

-そして。

サイラーグの町は、恐怖と混乱にと陥ってゆく。



手始めに東のサイラーグで一番美人と評判の娘を手に入れろ。
その言葉をうけ、東のサイラーグ、その地へ。
すでに人でなくなったカイルは。
カイル神官長の振りをして、尋ねてゆく。




「大変です!神官長!ヘルちゃん…が!」
いつものようにお使いにでたまま戻らないヘル。
それでなくてもここ最近、行方不明者が続出し。
そしてまた。
危険だから、夜には出かけないように。
といっていたのに、シルフィールが熱を出したから、薬をもらいにいく。
といって、北よりにある町から少しはなれた薬剤師の元にと夜出て行ったヘル。
一人では危険だ。
そういう判断でヘルに数名の神官をつけて送り出したものの。
その中の一人が息も絶え絶えに体半分を焼け焦がし、エルクの家にと駆け込んでくる。
見ただけで何があったのかは判断は不可能ではあるが。
よくないことが起こったのは明らか。
「な゛!?何があった!?」
その様子にあわてて、おきてまっていたルシェールもまた玄関先にとやってくる。
「リザレクション。」
とりあえずこのままでは詳しい話を聞くことは不可能と判断し。
高位の回復呪文を神官にとかけ。
彼の体の怪我を癒してゆくエルクとルシェール。
二人係で術をかけないと回復しないほどに、その神官は、
すでに体の半分以上を失いかけ、意識があるのが不思議な状態であるがゆえに。



「これで、シルフィール様の病気はよくなりますね。」
ここサイラーグの薬剤師。
薬草を各種ブレンドし、そして薬を作り出している人物のことをそう呼ぶ。
中にはそれに魔力を加えてさらに薬の効能をアップさせている人物もいるが。
無事に薬を手に入れて。
帰路にとついていたその矢先。
ざわり。
すでにこの場所にまで広がってきているフラグーンの葉が揺れる。
「-っ!危ない!よけて!」
その言葉と同時にばっとその場からヘルが飛びのくのと同時。
ヒュン!
今までヘルがたっていた場所に銀色の何かの触手のようなものが伸びてくる。
そして、その後ろにいた一人の神官の胸をその触手がまるで串刺しにするかのように、おもいっきり突き刺してゆく。
「ガ‥はっ!」
叫びを上げる間もなく、口から大量に血を吐き、銀色のそれに胸を貫かれたままま、ぐったりとそのまま動かなくなるその神官。
「何ものだ!?」
のこりの数名の神官が身構えると。
闇から出てくる一つの影が。
そこには体つきはおそらく人間の大人程度の大きさであろうか。
人に近い形をしているものの、どちらかといえばよくみるレッサーデーモン、などの形に近い異形の存在が闇の中にたたずんでおり。
特質すべきはその体が銀色のような白い肌で覆われており、その体が無数にでている触手のようなものと。
そして、それが二足歩行をしており、足の付け根からは数本の、鋭いとげのついた尾らしきものが伸びている。
そんな-異形の姿をしているものが、そこにはいた。
「くっ!エルメキア・ランス!」
まず一人が先制攻撃。とばかりに仕掛けるが。
バシュ。
それが直撃するその瞬間。
その攻撃はその鋭くとがり伸びたつめを四本もつ四つの手のうちの一つ、
それにあっさりと握りつぶされる。
ぽん。
「これもって逃げなさい!シルフィールに!」
それだけいって、だっと駆け出してゆくヘル。
相手の動きは明らかにヘルを狙っている動きをしている。
それは誰の目にも明らか。
それをわかってか、いきなりヘルがだっと駆け出したのである。
―神官たちとは逆方向、そしてまた、町外れの方向に。
「ヘル様!」
あわてて数名がそんなヘルを追おうとするが。
カッ!
その直後、その白い魔獣の口から何かわからない光のブレスが吐き出され。
次の瞬間には。
そこにいた残りの神官、すべてがその光にと飲み込まれ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ…」
まるで炎に焼かれるがごとくに塵と化してゆく。
ドン!
一人、薬を投げられた人物を一人の別の神官がその場から押して逃がしたために。
一人は直撃を免れるが。
だがそれでも片腕を半分、その光に飲み込まれ墨と化してゆく。
「ともかく!それをシルフィール様に届け…ぎゃ…ぎゃぁぁぁ!」
光の中でもがきつつも消えてゆく神官たち。

そして、ふと気づけば。
逃げたヘルの方にと向かって追いかけてゆくその獣の姿が。

確かに、早くシルフィールに薬を飲まさないと。
シルフィールの熱はここ数日、高いまま。
このままでは命にかかわる。
とすら医者に言われ、そして、様々な術も彼女には効果がなかった。
かつてその病気にかかり、とある薬で治ったという前例がある。
そうきき、その薬をとりにいっていたその矢先の出来事。
どっちを優先するか。
それは決まっている。
確かにヘルは気にはなる。
なるが。今は。
「くっ!ヘ…ル…様…ご無事…で!」
足も半分もっていかれ、片足とそしてもう片方のひざより下がなくなった常態で。
かろうじて残る力のすべてを降り注ぎ。
「レイ・ウィング!」
術を唱え、急いで神官長の家にと戻るその神官。

そして。
彼は息も絶え絶えに薬をシルフィールの元に届けることを優先し。
ヘルが襲われて、そして逃げた。
というのをエルクたちに伝えたのである。



もたらされた薬はよく効き。
今まで苦しんでいたシルフィールはようやく深く落ち着いた呼吸を取り戻し。
静かに寝息を立て始める。
「みなのもの!何としても!ヘルを」
エルク、そしてその報告を早馬でしった北の町の神官やそして警備兵などは。
総力をあげてヘル救出舞台、そしてまた、その魔獣を討伐する組織を作り上げ。
夜であるというのにもかかわらず。
町は騒然とした気配にと包まれてゆく。




すでに町から離れてしばらく。
いったい全体普通の人間ならば息を切らせてもおかしくない距離を。
ペースを乱すことなく走り続けているヘル。
町で一番美人と評判であったのは、それはエルクの養女となっているヘル。
彼女ならばいけにえにもっともふさわしい。
そう判断したラグルは彼女を生きたままさらってくるように。
そう、元カイルである魔獣にと命令を下したのだ。
ぴたり。
町から離れた場所にて足をとめる。
「さて。このあたりまできたらもういいでしょうね。」
などといいつつ、逃げるのをやめ立ち止まる。
そのまますぐに捕まえて主のもとに。
そう思い、足を一歩踏み出そうとした魔獣を。
ピシッ。
その本能が押しとどめる。
そこにはただ腕を組んでたっているだけのヘルの姿が。
たかが、人間の少女。
「さて。―百年ぶり。かな?シルバート?」
その口から今までの口調とは異なる少年のような声が漏れ。
思わず目を見開く。
「―ま、まさか…」
その声には聞き覚えがある。
間違えようもなく。
ラグルは知らない、よもやみずからが手足とつかっているその獣が、人の言葉を話し理解しうる、ということを。
彼の名前を知っているものなどは限られる。
かつて四体いた彼らはすべて、今では人々にザナッファー。
そう呼び証されているだけなのだから。
「―そのまさか。さ。で?何君は人間なんかに使われてるのかな?」
圧倒的なまでの力の差。
動けない、否、そんなことはしてはいけない。
目の前にいるのは人間の少女。なんかでは…ない!
がくがくと体が震える。
「ま、いいさ。それより君には役目を与えよう。
   あの愚かな人間にあれ存在を教えるといいよ。―血の贄をもち、あの方の意識は再び目覚める。」
体が震えるのが止まらない。
この少女…否、この存在は!
シルバートと呼ばれたその存在、ザナッファーの精神生命体。
「な…ぜ。あなた様がそんな姿で…」
震える声に。
「ああ。これ?以前死んだ人間の少女の体を借りているだけだよ。
  まさかこの僕があの地に出向いたりしたら、その反動で、フラグーン。はぜ割れちゃうからね。
  遠くからこの体を遠隔操作してるのさ。」
そういい自らの体を指差すその声はあきらかにヘルのものではない。
そもそも、ヘルの声は、とある存在に操られ、そしてまた、その体、すべてが。
ヘル。という意識は残っているものの、すでにそれはヘルではなく。
ただの冥王の操り人形の駒のひとつ。
「いっとくけど。あの人間。シルフィールとかいう人間に手を出したら。いくら君でも滅ぼすよ?
  あの人間はお父様をよみがえらす鍵。だからね。」
そういってにっこりと微笑むヘルの姿が。
町外れで見受けられ。


そんな会話がなされているころ。
北と東。
共同の討伐部隊が組織され。
ヘル救出とそして魔獣討伐に向けて、動き出してゆく。


今まではその姿がわからなかったが今回は目撃者がいることもあり。
ターゲットを捕獲、確認するには、十分すぎるがゆえに。



「おやおや、面白いことを冥王様、なされてますねぇ。ゼラスさまのお土産にちょっとのぞいていきますかv」
ひとり場違いな黒い神官服をきたにこ目の男性の姿が旅の途中。
北の町にて宿をとっているその部屋からくすくすと外を見て笑っている様子が。
みうけられているのであった。



                                      -続くー

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  ・・・・ちょっとまてぃ!
  ドラゴン・オールスターズ。
  話はまあ面白いからよしとしても!ドラグスレイブの詠唱がちがうぞぉぉぉ!!!
  お゛い゛!(汗)笑えました、ゼロスFC・・・(笑)
  でも、だから詠唱がちがうぞぉぉぉぉ・・・・・。
  フリガナもちがってるし(汗)かくんだったらもっときちんとかいてくれぃぃ!
  ちなみに、角川書店。定価本体900円(税別)
  番号:ISDN4-04-926234-7
  問題は・・・あれで思いついた小説。
  またまた気がむいて打ち込みするかも(まてまてまて)

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  あとがきもどき:
      薫:さてさて。暗躍、開始です。
        フィブリゾ君。
        シルフィール、このとき病み上がりで臥せってます。
        ちなみに、ラグル氏…利用されてゆくことにまったくもって気づいてません。
        (ま、自業自得)
        次回。
        討伐対、壊滅。
        登場、光の勇者の末裔!?…にまでいけるかな?
        それでは、またv


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