黒曜の宝石 ~和解と新たな激動の始まり~
「え?聖花祭?」
ふと伝言を伝えにきた人物に確認の言葉を問いかける。
「はい。それで、シルフィールさんに戻ってほしいと。正式にサイラーグより要請がありました。」
シルフィールがこの地。
ディルスのガイリアシティに来てより、はや数年。
当時四つでしかなかった女の子は。
もう十二歳にとなっている。
後に巫女頭となり、東のサイラーグの巫女長を継ぐものとして。
形的にはここで修行をしている。
ということに表向きはなっている。
実際は家出以外の何者でもないのだが。
八年。
その年月はシルフィールをある意味成長させるには十分すぎるほど。
何しろこの場所では絶えず権力争いなどが巻き起こり。
そしてまた、耐えず近くにあるカタートの脅威とそして襲撃。
そんな状態の中、心身と精神ともども成長しない。
というほうがどうかしているが。
「そろそろ戻ってもいいんじゃない?シルフィール?」
こちらはシルフィールとは違い巫女の能力はないにしろ。
その魔力の大きさとそして力を認められ。
今では王室お抱えの魔道士となっていたりするヘル。
「そうね。」
当時は認められなかったが。
でもあれからわざわざルシェールがやってきて。
結婚はしない。
とどこで知ったのかシルフィールの思いをきっぱりと否定し。
自分の役目はあくまでもシルフィールが一人前になるまでの代理。
そういってほぼ毎日、ここ八年間。欠かさずずっと手紙は続いていたりする。
そしてまた。
どうして周りが父に結婚を強制するのかも。
この地に残っていた資料にて。
どうやらかつてあの地にまがまがしい何かを封じ。
それがかつての百年前のあの事件により解き放たれそうになり。
二つの血筋と力とで押さえ込んでいるからに他ならない。
というのも勉強の過程でそれは突き止めた。
長く伸ばした髪がふわりと揺れる。
そして、かつて本当に愛し合っていたのに、家をそしてサイラーグを守るために、互いが互いに結ばれなかった。
ということも。
幼いときにはそんなこと理解などできるはずもなかったが。
年齢を重ねるごとにそれはようやく理解ができてくる。
すでに体の弱かったアレクサンドラの母親は他界し。
そしてその後には王家から使わされた別の人物。
といってもアレクの父親であるガイルスの妹なのではあるが。
そんな彼女が家にと居座っていたりする。
そして今ではシルフィールがお世話になっている家にはもう一人。
彼女の一人息子のクロウヴェル。
形式的にはアレクは彼女の養子扱いとなり。
まだ未成年だから、という理由でこうなったのだが。
本来の正統なる跡継ぎであるのにもかかわらずに。
義理の母親にあたるイザベルはわが子にこの家を継がせたがっていたりする。
この八年。
いや、アレクの母親が死亡したのはシルフィールがやってきてから二年後。
つまりは六年前。
この家にとやってきたのはイザベル=クレッセント=ガイリア。
アレクの父親であるガイルスの妹。
という形になっているのは何のことはない。
その血にはかのエルメキアの血が濃く流れていたりする。
それは実はアレクの父親であるガイルスの父親が。
かのエルメキア皇帝の隠し子であったことからに寄るのではあるが。
それゆえに幼く生まれながらに当時世継ぎがいなかったエルメキアに引き取られ、皇女として生活していたのであるが。
近年皇太子が生まれたことにより、
エルメキア王国がディルス王国との血縁を、さらに結びつかせるために政略結婚のこまとして送り込んだ人物。
それが、今のアレクの仮の母親。
そんな母親に、毎日のように命を狙われてもまったくそれに屈しないその心。
そしてそんな彼をサポートしている。
そんな状態で育っていけばおのずから、人の汚さなどはいやでも目に付いてくる。
そして処世術なども。
最近では女になってきたシルフィールにイザベルの息子がちょっかいをかけだしている。
といううわさすら立っているほど。
…実際にちょっかいをかけているのだが。
それは何なくアレクやそしてセルシウスの作った罠や道具により、すべて未遂に終わっているのだが。
それすらもイザベルとしては面白くないらしく。
彼女としては無理やりにでもシルフィールとそして息子をくっつけて。
そしてシルフィールにより強い力をもつ男の子を生ませること。
正妻ではなく妾として目をつけているのだからたまったものではない。
その事実はシルフィールはいまだに知らないのだが。
「うん。確かにそろそろ戻るいい時期かもしれないね。もうシルフィールも十二歳になるんだし。」
当時まだ本当の子供であった少女は。
最近どんどんきれいになってきている。
このままここにおいておけば間違いなく、馬鹿クロの餌食になりかねないし。
などと思いつついっているアレク。
「それにもう立派にシルフィールは巫女の地位を継げる年齢だからね。そろそろこのあたりで家に戻れば?」
ちょうど戻ってほしい。
という懇願とそして時をまるであわせたかのような。
十年間に一度百年前からの恒例となっている聖花祭。
これは花とはいっているものの実際には北と東。
それぞれの巫女頭が互いにとある儀式をし。
かつてサイラーグに封じられた魔獣の瘴気を浄化させる。
という神聖なる儀式。
それもあり。
仮に巫女頭代理をしている自分ではそんな大役は勤まらず。
また血筋のものがそれを行わないといけない。
という決まりもあり、ここ最近ひっきりなしにこうして使者や手紙が来ている状況。
セルシウスのその言葉に。
「そうよ。シルフィール。そろそろ戻ってもいいんじゃない?
それとも、シルフィールが戻らなければ戻らないで面白いことになるかもね。」
などとくすくすと笑っているヘル。
「ヘル姉さん、どういう意味ですか?」
そんなヘルをみて聞き返しているシルフィール。
ヘルもまたここ八年で見違えるほどにきれいに成長を遂げている。
が、怪しいまでのその美しさというか綺麗さというか、
とにかくその身にまとう雰囲気から、言い寄る男性がいない。というのもまた事実。
いや、いるにはいるのだが。
そんな彼らはことごとく不思議と行方不明となっていたりする。
だが別にヘルが何かしている。というわけでもなく。
行方不明になっている彼らはみな。
ちょっと出かけてくる。
といって町から出て行き…そして二度と戻らない。
さすがに続いていたせいかヘルも疑われはしたものの。
だが、ヘルには王室で仕事をしていた、という列記としたアリバイもあり。そのまま無罪放免された。
という出来事もあったりしているが。
かつては肩の辺りまであったその髪はウェーブのかかったまま、腰の辺りまで伸び。
しなやかな四肢。
そして透き通るまでの白い肌。
そしてほのかにぴんく色に染まっている唇をすこし緩ませ。
「この前書庫で面白いものをみつけたのよ。
何でも聖花祭りに一度、直系の血筋でないものが進行したことがあるらしく。
そのとき、あのザナッファーが復活しかけて大騒動になったんですって。」
くすくすとにこやかに、さらりといっているヘル。
というか、あれは僕がたくらんだんだけどね。
あれの確認をするために。
それはちょうど約百年前の出来事。
ザナッファーが封じられ。
三度目の当時は一年ごとにやっていたその儀式でのこと。
「そのときに何でも二百人が犠牲になったって書物にのってたわよ。
シルフィールが戻らなかったら今度はいったいどれだけの、犠牲者がでるでしょうねぇ?
しかも今は十年に一回という形式的な儀式になってるようだし。」
くすくすと笑うヘルに。
「…ヘルちゃん、何か楽しんでないかい?」
じと目でそんなことをといかけているセルシウス。
「あら、面白くないですか?何しろ何が起こるかわかりませんのよ?」
にっこりと微笑むのその顔は。
まるで何かいたずらを思いついた子供の顔のごとくに無邪気に笑っていたりする。
それはそれで面白いかも。
そんなことを心の奥で思っているヘル…もといヘルの姿とそして彼女の意識を操っている、とある少年。
「そうよ。シルフィールお姉ちゃん、戻ったほうがいいよ? 私の占いで…気になることがでたの。」
そういいつつひょこんとなぜか窓から顔をのぞけている一人の少女。
イザベルの夫であるセオード。
その彼が別の女性に産ませた娘。
いうなればアレクの義理の今は兄弟となっているクロウヴェルの異母妹。
だがしかし、その生ませた相手というのがこれがまた問題で。
前々国王の隠し子であったりするものだから、たまったものではない。
その血の濃さから王家に引き取られそして当然のことごとくに、アレクたちとは顔見知りなっているのだが。
ルセット=ツォン=ガイリア。
ただいま八歳。
そんな彼女にため息つきつつ。
「ルシー。何度いったらわかるんだい?木登りして窓から入るの…やめよ~ね?」
ため息をつしているもののくすくすとその口調はどこか笑っているアレクに。
「…アメリア姫の真似しなくても…」
どこかそういいつつため息ついているセルシウス。
なぜか彼、セルシウスの父親、グレイ。
その彼が息子に会いにくるのに
『世間を知るための修行です!』
などといい護衛もつけずに幾度かやってきているセイルーン王国、第二皇女。
ちょうど回りに同じ歳ごろの女の子がいないせいかこのルシーと呼ばれた、
ふわふわの栗毛の金色の髪に碧眼の持ち主。目鼻はくっきりと整い。
このまま成長すれば間違いなく美人さんになるであろうとお墨付き。
そんな少女、ルシーこと、ルセットにといっているセルシウス。
「でも、アメリアもそれにグレイシアお姉さんも窓から入るのはこの方法が正統方法だって。」
『・・・・・・・・』
にっこりと微笑みつつがさりと木の葉を鳴らしてひょいと飛びつつ窓から入ってくるルシーの言葉に。
思わず無言になっているセルシウス。
セイルーン王家…大丈夫なのかなぁ?(汗)
と彼が一瞬心配になってしまうのも当然なのかもしれないが、そんなことを思いつつ。
「それよりシルフィールお姉ちゃん、かえっちゃうの?」
そういいつつ服をつかんでくるルシーに。
「戻らないほうが面白くなるかもよvシルフィールv」
くすくすと笑っているヘルの言葉に。
「戻ります!戻るわよ!」
きっぱりと言い切っているシルフィールの姿が。
確かに大好きな姉ではあるが。
時々その表情が怖く感じることがある。
それはたまに人が死んでいたりしても、何の感情なども示さずに。
まるでそれを楽しんでいるかのごとく。
そんな風に感じてしまう自分がおかしいのだろうけど。
だがしかし。
大体、ヘルのいうことは冗談。
で済まそうにも、ほとんどの確立でそれはあたる。
実際にこの八年間。
地震などもヘルが言い当てたりしたこともあり。
そしてまた、デーモン襲撃なども。
それゆえに王室からの信頼も高いのだが。
以前などは町ひとつ滅びるくらいの人間が死ぬわよ。この数日に。
などと王室に招かれ、そして何か変わったこと話とかはないか?
そう聞かれた席で答えたヘルの言葉。
その言葉どおりに実際にその次の日に町から少し離れた、カタート山脈を拝む位置にあるそれまでは結構持ちこたえていた町が。
一夜のうちに大量デーモン襲撃を受けて消滅した。
という事件があったりもした。
それ以後、ヘルの信頼は高まった、ともいえるのだが。
―未来予知。
人々は彼女の能力をそう判断していたりする。
事実はまったく異なるにしろ。
「そう?ま、そのほうが楽しくなるでしょうからいっか。ふふ。」
などとどこか含み笑いをしているヘルに。
「…ヘルちゃん、いったい全体何を隠してるの?」
問いかけているアレク。
「ふふ。内緒。いったら面白くなくなるからね。」
そういってにっこりと微笑み口にと手を当てるヘル。
いってしまっては面白くない。
まあ別に彼女が戻らなくても行動を起こし。
彼女の中の力を目覚めさせるきっかけを作ればいいだけのこと。
だが、それよりは。
せっかくだから。
富と名声にのみくらんでいるあの人間を利用したほうが、もっと手っ取り早く覚醒を果たすことが可能。
それにはまずはシルフィールには戻ってもらわないといけない。
すでにこの八年の間に回りの布石は整えているのであるから。
結局どうやって説得したのかしないのか。
シルフィールがサイラーグに戻るというその日。
ヘルもまたサイラーグにと戻ることが許可され。
二人してサイラーグにと旅立つシルフィールとヘル。
この八年。
この地でいろんなことを学ばせてもらった。
巫女としての力もそして思考力も以前のような子供の考えではもはやない。
そんなことを思いつつ、与えられた巫女服を着こなして町を後にしてゆくシルフィール。
そしてまた。
僕の勘では何となくガーヴがここで何かしそうだから。
ちょっとした仕掛けはもう張り巡らせて置いたし。
などと心の奥深くで思いつつ。
「さて、それじゃ、シルフィール。もどろ?」
「そうね。」
何ともあっさりした会話をしつつ。
二人して帰路にと着いてゆく。
この先に待ち受けるのは。
これからがシルフィールにとってまさに修練の時だということは。
このときのシルフィールには知るはずもない。
「なぜだ!」
なぜ、なぜ。なぜなぜなぜ。
納得がいかない。
なぜに自分でなく剣はあんな甥っ子を選んだのか。
納得がいかない。まったくもって。
あれさえ手にいれること、それすなわち。
一族の長になれる。ということなのである。
にもかかわらず、確かに本家の血筋ではあるものの。
どうして二男である彼が後継者にと選ばれないといけないのか。
しかも、先祖がえりというべきか。
その金色の髪。
それゆえに実の子ではあるというのにまっとくもって邪険に扱っている母親に。
そして穢れをみるかのように扱ってきた父親。
両親ともその髪の色は黒色と紫色であるがゆえに。
金色の髪は曽祖母が確かそうなのではあるが。
それゆえに一族から孤立され、母親すらも育成を放棄し。
曾祖母に育てられたような、そんな次男が。
よりによってどうして剣に選ばれないといけないのか。
納得がいかない。
まったくもって。
「取り返す、何としても。絶対に。」
剣をもち家を出て行った甥。
あれを持つのは自分こそふさわしい。
そんなことを思い巡らせていた彼に。
「―協力してもいいですよ?」
にこやかに話しかけてくる人物が一人。
?
誰だったか思い出せないが何となく知り合いのような気もしなくもない。
「僕と契約してくれるのならねv」
にっこりと。
まるでいたずらを思いついた無邪気な子供のように微笑んでいる、
銀色の髪に黒い瞳の動きやすい旅人服の男性が。
いつのまにか彼の目の前にと立っているのであった。
―計画は。
・・・・・・・・・今ゆっくりとあせらずにめぐり始めてゆく
-続くー
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まえがき:
こんにちわ。
とうとうようやくクライマックス近し。
というわけで(何が?)
一気に年代突破です。
ではいくのですv
2003年10月2日某日
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あとがきもどき:
薫:えっと。考えてももらった設定はイザベルとアレクは親子。
だったんですけどこっちの方が脚色つくので(まてまて)
少し設定かえてます。
ちなみに設定に乗せてるのが本来考えてもらったプロットですv
えっと。
ひとまず混乱しかけているので(自分も含む)
リナとシルフィール。二歳違い。
ルナとリナ。五歳違い。
ガウリイとリナ。七歳違い。
リナとアメリア。二歳違い。
ルセットとシルフィール。四歳違いです。(ルセットはアメリアと同い年)
年齢の誤差一覧です。あしからず(こらこら)
さてさて、次回で祭りです。
そして?
でも祭りには間に合わず…?
北のサイラーグ。寿命、残りわずか。
ガウ君・・・・そろそろ登場できるかな?
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