黒曜の宝石 ~別れの序曲~
きゃぁぁぁぁぁぁ!
響き渡る悲鳴は間違えようもない。
「何事!?」
公式行事を終えて。
サイラーグにと戻るさなか。
道の先から聞こえてくる悲鳴の声。
「エミーリアさま!」
東のサイラーグの神官長の妻でありそしてまた、巫女たちの長。
彼らが護衛についているのは。
万が一、東と北。
その神官長の家計に何かあれば町が滅ぶと。
昔から伝わっている伝説にのっとり護衛についているに他ならない。
「みなさん、悲鳴の主を!」
森の奥から感じるのは。
あきらかに異なる気配。
悲鳴に導かれるように。
従者たちをつき連れ。
あわてて悲鳴がした方向にと走ってゆく彼らたち。
彼らがみたのは。
横たわる死体と。
そして・・・・その横で泣きじゃくっている一人の子供。
黒い髪が印象深い。
「えぐ・・・えぐ・・・・・おめめさまして?ねえ?」
などとなきつつ横たわる女性の体をゆすりつつも。
その体にある紛れもないほどの大きな傷。
その傷から大量に血を流している女性の下から、その女性をゆするようにしてないている一人の子供。
「・・・・・・エミーリア様・・・・」
一人のつぶやきに。
そっと倒れている女性にと近づき脈をとる。
見ただけでももう事切れているのはわかっている。
周りには彼らが乗っていたであろう馬車と。
そして横たわる死体の山。
ぎゃぁぁぁ!
ふと何かの叫び声に振り向けば。
「な゛!?これは!?」
茂みの奥からおそらく彼らを護衛していた人たちなのか。
人間を片手でわしずかみしてたっている・・・・レッサーデーモンの姿が。
ぐしゃ・・・・ばしゃ。
鈍いいやな音をたてて。
つかんでいたその頭がはじけ飛ぶ。
「くっ!エルメキア・ランス!」
バシュ!
エミーリアと呼ばれた女性の一撃がそれを無とかしてゆく。
そこにいるのはあきらかに・・・レッサーデーモンと呼ばれる魔の一種。
「・・・・他の者はまだデーモンが生き残っていないか確認!それと生存者がいないかも確認を!」
てきぱきと指示をとばしつつ。
いまだに死体にすがり付いている子供にそっと手を伸ばす。
?
一瞬子供が笑ったような気がしたのは。
おそらくは気のせいであろうが。
そのつややかなまでの黒い髪に黒い瞳。
歳のころは五つか六つ程度のまだ幼い・・・・女の子・・・
「ねえ?どうしたの?どうしておきないの?」
涙でぐしゃぐしゃになった顔でエミーリアにと聞いてくる。
「・・・・・あなたのお母さんは眠ったのよ。」
「・・・・?じゃ、いつおきるの?」
おそらくは子供をかばって背後から攻撃を加えられたのであろう。
その証拠に子供には傷ひとつすらない。
親と・・・・特に母親というものは子供のためならば命を投げ出す。
それは実の娘ではないが娘をもっているエミーリアにはよくわかる。
「・・・・もうおきないのよ。」
「何で?ねえ?さっきまでヘルの誕生日のお祝いの話してたのよ?」
どうやらこの子供の名前はヘルというらしいが。
そんな涙で顔をぐしゃぐしゃにしている子供にそっと手をのばし、やさしく抱きしめる。
「・・・・・ヘルちゃんを守ったのよ。あなたのお母さんは。」
血にまみれた女性はこの子供によく似ている。
間違いなくこの子供の母親であると一目でわかる。
「・・・・いらっしゃい。」
そういって唯一の生き残りである子供にと手を差し伸べる。
「・・・・エミーリア様・・・」
そんな彼女の元に生存者などがいないか確認していた従者が声をかけてくる。
「・・・・どうだった?」
無言で首を横にふる。
あたりに立ち込めるのは・・・・血のにおい。
そして・・・・散らばるかつてはおそらく人であったであろう・・・・肉の破片。
おそらくは。
旅のさなかにレッサーデーモンに襲われ。
そして・・・・生き残ったのは・・・・この子一人。
奥から父親らしき人物も見つかった。
・・・・・その足と両腕がない状態で。
あたりに散らばる四肢をつなぎ合わせ。
丁寧にと埋葬する。
それしか彼らにできることは・・・・もはやない。
「ねえ?パパたちどこにいったの?ママは?みんなは?」
きょとんとして話しかけてくるその子供をそっと抱きしめ。
「・・・・・もういないの。でもあなたは生きている。」
「?みんないつもどってくるの?」
理解していない幼子の様子にその場の全員が涙を誘われる。
そんな子供を抱き上げ。
「・・・・エミーリア様?」
「この子は連れて戻ります。―依存は・・・ないですね?」
『御衣』
エミーリアの決断に全員が頭を下げる。
「えっとヘルちゃんっていったわね?おばちゃんたちといっしょにいこ?」
「??ママは?パパは?ねえ?」
首をかしげるまだ幼い女の子。
そのまま少女をつれて、サイラーグにと戻ってゆく。
ぽう。
映し出される光景は。
馬車にと揺られある女性の中で眠っている少女の姿が。
「・・・・・やっぱり幼子は・・・・扱いやすいよね。」
くすり。
その横には・・・・黒髪の少女の姿のクリスタルが置かれている。
そこは暗いどこかの部屋らしき場所。
ちょうど自分が好んで姿をとっている人間と同じ容姿に近い人間。
あの地に自分が出向けば逆にあれがはぜ割れるなどして、正体はすぐに知れてしまう。
それだと下手をするとあの人間をも殺されかねない。
くすくすくす。
「人間・・・・って、慈悲深いよね。」
そのことが破滅をもたらす駒となりえるなどとは夢にも思わず。
くすくすとわらいつつ目の前にあるチェスの駒を動かしているのは。
暗闇にと浮かび上がる・・・・エミーリアが保護した少女と同じ容姿をしている一人の子供。
「せっかくお父様の力の欠片、持っている可能性の高い人。見つけたんだから・・・逃がさないよ?ふふ。」
そういいつつ。
「・・・・チェックメイト。」
目の前にあるチェス盤を詰めてゆく。
あとは。
あの人間が成熟し目覚めるのを待つばかり。
かつてあの地に封じられし魂とそして力。
それぞれの血筋に分けられ封印されたその事実。
それを知っているのはもはやいない。
それでも力と魂を受け継ぐ子供はことごとく今まで闇から闇へとあの地では殺されていた。
だがしかし。
ここにいたりようやく世間をだまして一人の人間が今生存している。
そのことが何よりも重要。
「・・・・お父さまには目覚めてもらわないとねぇ。僕達のためにも・・・・くすくすくす。」
一人、ほくそえんでいる少年の姿が。
とある神殿の中の一室で見受けられているのであった。
「え?シルフィールの姉妹!?」
それは彼女にとってうれしい話。
母が出かけた先で保護してきた女の子。
身寄りがないらしくここ、シルフィールの家で引き取るらしい。
年齢的にはシルフィールよりも少し上。
シルフィールは一人っ子であるがゆえに姉妹が切実に幼心にもほしかった。
「ええ。シルフィール。ヘルちゃんっていうの。ヘルちゃん?この子私の子供のシルフィール、仲良くしてあげてね?」
そういいつつ娘であるシルフィールにと顔をあわせるエミーリア。
ふとシルフィールをみたときにヘルの目が怪しく光ったのには誰も気づかない。
「うん。えっとよろしく、シルフィール。」
「うん!おねーちゃんってよんでいい!?」
「いいわよ?」
「じゃ、この町あんないしてあげる!おねーちゃん!」
シルフィールはまだ三歳。
甘えたい年頃ではあるのだが大人たちは忙しく、なかなかに彼女にかまって入られない。
だからそのこともあり、彼女が一人で郊外にあるルシェールの元にいくのを誰もとがめない。
「わぁぁぃ!シルフィールのおねーちゃん!わぁぁぁぁぁぃ!
あ、おねーちゃん!シルフィールのね!ひみつのばしょ、おしえてあげる!」
そういいつつヘルの手を引っ張ってぐいぐいと外にでてゆくシルフィールをみつつ。
「これで少しはシルフィールも寂しくはないかしら?」
「そうだな。」
そのことが。
後にどのような結果をもたらすのかなど・・・彼らは知らない。
そして…
はぁはぁはぁ。
「・・・・・エミーリア・・・・・」
彼女が倒れた。
という知らせを聞いたのは。
彼女が少女を保護した・・・・と聞いて数ヵ月後のこと。
それでもやはり女では必要。
だという言葉に従いエルクの家にてシルフィールの面倒や、そしてヘルの面倒をみつつ。
病でとこに伏せているエミーリアの看病をしているルシェール。
「エミーリア、がんばって。あなたが死んだら・・・・」
残されたあの子は・・・いやあの子たちはどうなってしまうのか。
間違いなく家を町を守るためにエルクには新たな後妻が迎えられるであろう。
それが神官長の本家の勤めであるがゆえに。
そしてまた。
まだ幼いシルフィールには・・・・そのような事実を耐えられるはずもない。
シルフィールのことを心配しつつ看病しているルシェール。
今やほとんど寝泊り状態。
看病してもしても病は回復することなく・・・いやむしろ悪化している。
―原因は・・・・不明。
息も苦しい息の下より。
「・・・・ルシェール・・・・私ね。北と東の長老に。お願いしていたことがあるの・・・・」
そういいつつやせこけた手をそっと伸ばす。
やつれてゆく母親の姿を見せたくない。
その思いからシルフィールとそしてヘルは。
親戚筋にとあたるセイルーンのグレイの元にと今は預けられている。
万が一伝染する病などの場合に子供たちを守るためという目的もあるのだが。
手をのばしてくるエミーリアの手を握り締めるルシェールの手の感触を確かめつつ。
「・・・・私が死んだら・・・・今度こそ・・・本当の意味であなたとエルクが・・・・」
「何をいってるの!?エミーリア!?そんなこと!?弱気にならないで!?」
悲鳴に近い声をあげるルシェール。
「・・・・だい・・・・じょ・・・・ぶ。あなたが・・・・シルフィールを産んだとき・・・・
あのときにあの子を守るために何も手段の方法をとらなかったあの病気のせいで・・・
・・・・もう子供が産めないのは私・・・・知っているから。」
四年前。
シルフィールをセイルーンで産み落としたルシェール。
それはグレイとそしてエルク、エミーリアの協力によって世間には知られず。
シルフィールを産んだのはエミーリアである。
ということに世間では完全に信じられている。
その事実を知っているのは・・・・この関係者のみ。
そのとき。
ルシェールはとある病気にかかった。
それは早期発見と治療で助かるものではあったが。
それだとお腹を切らねばならず・・・そのためには。
宿った子供を殺すという選択を迫られ。
選んだ選択は・・・・病気をそのままに子供をうむ。というもの。
そのときに悪化した病気のために彼女の子供をうむ機能は完全にとたたれた。
ちなみに世間には病気で子宮を摘出した・・・ということになっているのだが。
「・・・・子供ができないのなら・・・問題ない・・・といわれたの・・・。
それに・・・・あの子を任せられるのは・・あなたしか・・・実の母親であるあなたしか・・・」
「弱気にならないで!お願い!あなたがいたから!あの子は!」
もしあのとき。
エミリーアが自分の運命を犠牲にしてエルクと結婚し、そしてまた、シルフィールを実の子とする。
と言い出さなければ・・・間違いなく。
あの子は・・・シルフィールは今までの事例どおりに闇から闇へと殺されていた。
だからあの子の命を守るため、絶対に自分が実の母親だと名乗ってはいけない。
あくまでもシルフィールの母親はこのエミーリアなのだから。
そう言い聞かせつつ遠くで見守ってきた、わが子の成長。
あの子がここまて大きくなれたのは・・・他ならないこのエミリーアのおかげ。
そんなルシェールの言葉に笑みを浮かべ。
「・・・・・わかってたのよ。ルシェール・・・・私の命が・・・短いことは。」
「・・・・・エミーリア?」
わかっていた。
生まれたときよりエミーリアには人にはない力があった。
それは未来を見通す力。
そして・・・それゆえに自分の最後も。
自分が何歳で死ぬのか。
ということも。
だから・・・・だからこそ。
大切なそして大好きな人たちのために何かをしたかった。
だからこそ。
エルクとルシェールの間に子供ができている、そう知ったときに決心した。
世間を欺くことを。
二人のために人肌脱ぐことを。
自分の力はちっぽけだけど自分の一人の人生で子供の命が助かるのならば・・・と。
「・・・・ゴメンネ。世間を欺くためとはいえ・・・・エルクと結婚し・・・て・・・・」
そのまま声から力がなくなり。
ぱたりとその手がベットにと落ちてゆく。
「!!!!!!エミーリア!!!!しっかりしてぇぇぇぇぇ!」
「!ルシェール!?・・・・っ!エミーリア!?」
おけの水を替えにいっていたエルク。
その間に。
娘を守るためという理由で結婚することを提案してきた・・・エミーリア。
そのエミーリアが静かに・・・・静かにラーダ家の彼女の寝室にて。
今まさに、息を引き取ったのであった。
くすくすくすくす。
「??おねーちゃん?どうかしたの?」
「ううん、何でもないの。ただちょっとね。」
きょとんとした表情を向けてくるシルフィールの問いかけにかるく交わす。
ここならば。
別にあの死んだ少女の意識化に自分の意識をもぐりこませていることはない。
そう、あせらない。
「それより今日はシルフィール、呪文教えてあげる。」
「ほんとー!わぁぁぁぁぃ!おねーちゃん、ありがとー!」
周りから壊していけばいい。
この少女には幾重にも大切に思われているという厄介な想いが結界となり。
少女の精神を保護している。
ならば一つ一つ壊していけばいいだけのこと。
そのために。
ちょうど自分と同じ容姿をもっているこの少女の一家を皆殺しにし、ヘルという一人の少女に成りすましているのだから。
ヘルの瞳に宿る闇に・・・・今はまだ誰も・・・・気づかない。
東のサイラーグ。
神官長の家系。
東のサイラーグ巫女頭、エミーリア=トゥエル=ラーダ。
彼女の死亡は・・・数刻もしないうちに、東と北、両のサイラーグにと伝わってゆく。
子供が産めない。
そのことで東と北の長老はひとつの結果を導き出した。
血縁がなされないのであれば東と北。
互いの神官長の家系。
これほど封印を強めるためのよい血縁は・・・ない。
数年前からもし自分が死んだら・・・・と。
前々から夫や親友であるルシェールには気づかれないようにと交渉していたエミーリアの思い。
それは。
今まさにエミーリアの死という現実をうけ。
・・・・かつては町を守るために引き裂かれた恋人たちを。
また町の都合で・・・縁を結ぶことを。
議会の一致で承認するここ死霊都市サイラーグの人々。
「・・・・・ひとつの駒はこれでチェックアウトv後は・・・・これからだよね。」
あとは。
ゆっくりと何も疑うことを知らないこの少女に教えていけばいい。
そう、あせらない。
あせりは禁物。
それでもし気づかれてまた人間にこの人間を殺されては、この計画がすべて水の泡。
くすくすと。
横で無防備に眠るシルフィールをみつつ。
笑っているヘル。
それは・・・・その表情は・・・まるでゲームを楽しむかのごとくに微笑んでいる。
「はやく目覚めてよね。僕たちの魔王様。ね?お父さま?」
くすくすくす。
寝室に。
ヘルの忍び笑いが・・・・響いてゆく姿が。
エミーリアが死亡したその日。
まだ知らせをうけないここグレイの家にて見受けられているのであった。
―誰も知らない。
・・・・・東と北。その血が混ざったときに・・・その血と魂の中に何がよみがえるか。
それは・・・・。
―かつて七つに分けられた・・・・ひとつの闇の欠片・・・・・。
-続くー
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まえがき:
ふふ。この回で多分今後のネタバラシv
何はともあれ、いっきます!(まてまて!笑)
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あとがきもどき:
薫:・・・・・さて、ヘルの正体、わかった人は挙手!(もろばれです!)
策士ですねぇ・・・・ヘルマスター(こらこらこら)
次回で一気に年代とびですね。
でシルフィールの家出v
あこのあたりは考えてもらったプロットですけど。はい(こらこら)
まあこの話。
実はとある小説に応用したから。
わかる人はもうネタわかったでしょう。ええ絶対に。
一応こっちの話が先にできてたのよ?(笑)
であっちはただ何となく違う形で思いついただけで(だこらまてってば)
ガウリイの登場・・・シルフィールの家出の後ですね・・・・。
まあ何はともあれ完全にオリジナルですけど。
よければシルフィールの過去話まだまだお付き合いくださいなv
それではvまたいつかv
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