まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ
さてさて、ようやく残りのノートのページ数もあとわずかv
6か7あたりで完了しそうです。はい。
何はともあれ、予定ではSの復活直後までいく予定。
何はともあれいっきます♪
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リトル・スレイヤーズ ~黒幕と真実~
あたしは人よりもやや小柄なぶん、瞬発力とスピードには自信がある。
その分、逆に体力や持久力に関しては普通の戦士などに比べてかなり見劣りする、と自覚している。
かなしいかな、女と男では根本的に体力の差、というものが存在するのも事実。
ふっとその気配にて目を覚ます。
昔の姉ちゃんの特訓でどんなに爆睡していても、意識の一部が覚醒しているので危ない気配などには敏感に反応する。
そして目が覚めたのも先に述べたとおり、
あきらかにこちらに対して隠しようのない敵意が向けられているのが感覚でわかる。
眠ってからそれほど時間はたっていないっぽい。
あたしの横ではいつ用意したのかちゃっかりと、
ふかふかなまでの草を平な石の上にしきつめ、そしてそれをペットにして眠っているエルちゃんの姿。
だふんガウリイあたりが用意したんだろう。
殺気の数は一人や二人の比ではない。
十人ちょいくらいまでならばあたしも正確に数を言い当てれられるが、どうやら数はそれ以上っぽい。
「囲まれたな~」
「だな~。じゃないっ!何のための見張りなのよっ!!」
おもわずのほほんというガウリイに突っ込みをいれる。
見張りをやっていたはずなのになぜにいわないっ!!こいつは!!
「でもトロルが三十匹程度だぞ?」
「あのね~……」
こいつと話していると何か脱力してしまうのは気のせいではないだろう。
「たしかに。トロルがニ、三十匹ってところだな。レゾはきてないようだし。何とかなるだろうさ」
こちらもまた気楽にいってくるゼルガディス。
まったく、もう少し女の子はいたわってほしいものである。
もうすこしくらいゆっくりと休ませなさいよねっ!
「出て来いよ。気付かれていない、とおもっているわけでもないだろう?」
ゼルガディスの声と。
「決着をつけようぜ。ゼルの旦那よ」
何か聞き覚えのある声はほぼ同時。
と。
「お~ほっほっほっ!よくもやってくれたわね!リナ!」
・・・・・・・あ゛~、またまたやっかいなやつが…ひとまずきかなかったことに、みなかったことにしよう。
「ディルギアか」
ゼルガディスのセリフに一匹の獣人がゆっくりと森の中から姿を表す。
ほんっと二本足でたってる犬といっても過言ではないわ。
「ディルギアよ。きさま、この俺に忠誠を誓ったのではなかったのか?」
冷たく低い声で問うゼルガディスの台詞に対し、
「おれが忠誠を誓ったのは”ゼルガディス”に対してでなく”赤法師レゾがつくった狂戦士”に対してだ。
きさまがレゾ様を裏切った以上、もはやおれにとっては敵以外の何ものでもない!」
つ~か、この犬、何も考えてないんじゃぁ?
あたしやガウリイがいるのにあっさりとレゾが黒幕だって暴露してるし。
いるのよね~。
どこにでも一人は。
あっさり重要なことをいわなくてもいい相手にいばっていうやつって。
「・・・・あれ?」
ふと気付くと寝ていたエルちゃんの姿がみあたらない。
・・・・・・・・・・・あ~もうっ!
あんな小さな女の子、トロルの一撃でもくらったらわやばいわよっ!
「ガウリイはトロル達をまかせたわよ!あたしはエルちゃんを探すからっ!」
何かゼルガディス達のほうはほうで勝手に盛り上がってるし。
「おう!」
ガウリイにトロル達をまかせ、あたしはいなくなったエルちゃんを探すことに専念する。
ちらり、と滝のほうをみれば犬もどきとゼルガディスは戦いの真っ最中。
しかし、見る限りやっぱりあの犬もどき…考えがない、としかいいようがない。
派手っぽいことをして自分で自分の首を絞めている。
・・・・・何だかなぁ~。
ひとまずあたしはエルちゃんを探すのに専念するとしますか。
しばらくのち。
「・・・エルちゃん。そんなところで何やってるの?」
「見物」
「・・・・・・・・納得」
エルちゃんをみつけたのはみつけたが、
ちょうど滝の中ほどにある木の枝にすわってちょこんと眼下の様子を眺めていたりする。
つうか、よくこんな小さな子がこんなとこまでのぼれたな~、と一瞬おもうが、
その木から地面にむけて蔦のようなものが生えている。
子供の体重くらいならば支えられそうな代物である。
きっとこれをみつけてのぼっていったのだろう。
まさか小さな子供が高い場所にいるなどと誰もおもわないだろうから、たしかに安全地帯ではある。
ふわり、とエルちゃんを抱きかかえて保護するあたしの耳に、
「…お前もわすれていたようだな。この俺も三分の一は石人形だ、ということを。
もしも剣で俺を倒したいんだったら赤竜の剣か、光の剣でももってくることだな。
まあ、どうあがいてもおまえに俺は倒せんということだ」
何でかそんなことをいっているゼルガディスの声が聞こえてくる。
あたしの耳はエルフ並みに性能がよい。
しかもその中に聞き捨てならない言葉があったので敏感に反応してしまったのだが。
アレは姉ちゃんにしか扱えないとおもうぞ……
アレをつかったときの郷里の姉ちゃんは…お、思い出すまい。
トラウマになっている過去の一幕を思い出し思わずぶるりと身震いしてしまう。
何かそのあとにいいあいつつも、犬男は何かを去り際に投げ放ち、そのまま、
「覚えているがいい!」
・・・・・・・何とも月並みな捨てゼリフを残して森の中にと消えてゆく。
・・・・・・・・何しにきたんだ?あいつは?
そういえば、独特の高笑いもいつのまにかきこえなくなっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ま、いっか。
どうやら上から見た限り、トロル達もすべてやっつけられた模様。
そのままあたしはエルちゃんをだっこして、滝のふもとにゆっくりとおりてゆくことに。
「麗和浄」
淡い、浄化の術が川面に広がってゆく。
何かやたらと地面がでこぼこになっていたりするが別にきにすることでもなし。
川にて手を洗おうとかがんだところ、ぴくりと反応するあたしの勘。
先ほどと何かが違う。
決定的なのは魚が水面にぷかぷかと浮かんでいる所。
おそらくあの犬もどきが去り際に投げた小瓶かよくわからない何からしきものの何に毒か何かが仕込まれていたのであろう。
しかし、見境がなさすぎる。
他の動物さんたちや周囲の自然を何だとおもっているのやら。
毒をもちいたいのなら目的のものだけに限定して使用しろっ!
まったく。
無関係な殺戮だけは絶対にしてはいけない。
まあ、術のはずみとか術の影響で偶然にもまきこまれたりするのはのぞく。
世界は調和によって保たれているのだから、それが壊れるととんでもないことになる。
とは小さいころからあたしは郷里の姉ちゃんに聞かされて育っている。
予断ではあるがあたしは毒の味を姉ちゃんに覚えこまされる訓練をうけているので少量の毒には免疫もある。
「さってと。じゃ、これからのことを話しあいましょうか」
浄化の呪文で川を元通りにして、目的通りに手をあらい気分を整える。
どちらにしてもレゾはあきらめたりはしないだろう。
その前に。
「少しきくけど、この前、村にドラゴンとかつれてきた?」
きになっていたことを聞いてみる。
「?何のことだ?あのときはあのままひいたぞ?途中で何か大きな音をきいて気になって戻ってみたが。
そういえば村人の姿がみえなかったが……まさか、な」
…本気で知らないらしい。
「あのあと、村をドラゴンが襲ってきて。さくっと倒したはいいけど村人たちが消えたのよ」
しかもゾンビのように体が崩れはて。
結果としてレゾの術で彼らは浄化した。
…まあ、本当に浄化されたのかは怪しいが。
「・・・・きえた?まさか、ヤツが何か……。いったい、ヤツはどうしたっていうんだ……
……昔は自ら動くなんてことはしなかったのに……」
憎んでいるとはいっても憎みきれないのだろう。
言葉に何ともいえない気持ちがありありとみてとれる。
「サイラーグのことは?」
「アレ、か。俺はヤツにまかせてほしい。といったのだが。ヤツは神官長に近づき情報を聞き出し、
そして万が一にも情報がもれることを恐れてか一夜のうちに町を壊滅しやがった。
・・・それが俺のせいになっているのをきき驚いたがな。
あいつは神官長一家を始めから殺すつもりだった。
たまたま、その話をヤツがしているのを耳にしてな。
エルグ神官長に進言しにいったが聞き入れてはもらえず…
救いは俺をおいかけて瘴気の森にはいったシルフィールだけは助かった、ということくらいだが……」
・・・・・って、それって・・・・・
つまりは、こいつはレゾの行いを止めようとしていたのを逆手にとられ、さらには犯人、と思われているわけ!?
…それでか。
この男のシルフィールをみる憐みの目は。
彼女に真実をいっても信じないであろう。
あたしがレゾを信用しないほうがいい、といったときですら彼女は頑固としてその可能性を否定したのだから。
ゼルガディスを含めた逃避行。
目指すはひとまずアトラス・シティ。
追撃はこう何といったらいいのやら。
午前中に二回、昼食中にも一回。
午後からは三回以上。
いい加減にうんざりしてしまう。
まったく、それだけの数をいったいどこから用意しているのやら。
トロルにコブリン、サイクロプスに狂戦士などなど。
おちおち襲撃のおかげでふかふかのお布団で寝られやしない。
そして…今。
あたしたちの目の前には見慣れた顔ぶれが。
中には初めてみる顔もいくつかある。
まっくろいローブか何かで顔を覆っているのか、
目だけをこちらにむけた少しばかり手の長いぼろぼろの布をまとったような老人も初顔見せである。
あとは、昆虫人間にデュラハン、死霊騎士。
ちなみに、このデュラハンに指をさされると死の呪をうける。
という何ともポピュラーすぎる闇の生き物。
それ以外にトロルやオーガを含め、およそ約五十。
けっこうおおがかりな待ち伏せである。
「たいそうなお出迎えね~」
おもわず呆れてしまう。
道中、ゼルガディスがいっていたが、自分を合成獣にしたのはレゾなので嫌でも目印になる、と。
あたしは一応、魔法探査を封じる術を使えはするが、
それをやるにはまず対象となるものの魔法的な仕組みがわからなければいけない。
つまり、ゼルガディスをレゾの目から隠すには、彼自身がどのような形で合成されたのかを知る必要性がある。
さすがの天才のあたしでも、おそらくオリジナルの術であろうそれをさくっと解明することなどできはしない。
時間と余裕があれば別なのだが。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
「ちょっと!ナーガ!何であんたそんな連中と一緒にいるのよ!」
そう!
問題はデュラハンたちの中におもいっきりなじんで混じっているナーガのみっ!
「お~ほっほっほっ!しれたことよ!彼らはこころよくこの私に協力してくれているのよ!
これぞ人徳のなせるわざね!お~ほっほっほっ!」
あ……
「あほかぁぁ!つうか!あんた本っ気でそっちにいて金貨をもらえるとおもってんの!?」
というか、デュラハンたちに通じる人徳っていったい……
「お~ほっほっほっ!愚問ね!そんなのもらえるものもらって他のアジトも聞きだして、
そこからもすべてお宝を没収するにきまってるじゃないっ!そしてとんずらするのよ!」
「『おい』」
何かあたしとナーガの言い合いにゼルガディスと犬もどきの声が同時に重なり何かいってくる。
「何ですってぇ!?あんたお宝を一人占めにする気!?」
「お~ほっほっほっ!それはリナ、あなたでしょう!?」
しかし、レゾのほかのアジト…たしかに見入りはでかそうである。
「・・・いっとくが。レゾのほかのアジトに金目なものないぞ?
あいつは全部研究にそそぎこんでいるはずだ。合成獣の実験の設備、とかにな」
呆れた視線をナーガにむけつつも、ご丁寧に説明してくるゼルガディス。
けっこう律儀者のようだ。
「・・・・・・・え?」
「あたつは他人を治すときも無償でやっているからな。いつも余分な金などもってないし。
だいたい、村とかでも全部村人の善意で衣食住がまかなえているしな」
そういえば赤法師レゾって世間一般での噂では見返りももとめずに善行してるってことだっけ?
「え?」
あ、ナーガがさらに戸惑ってる。
「そもそも、取引をもちかけたのは俺であいつではない。ゆえに何も払わないとおもうぞ?
よくて洗脳されて手下にかえられるのがおちだ。もしくは実験材料にされるか」
何かさらっと何かひどいこといってない?
ねえ?
しかし、ナーガを洗脳…あるいみ、世の中のためにはいいかもしんない。
「・・・・・・・・お~ほっほっほっ!私が裏切ったようにみせていたのは作戦よ!
見事にひっかかったわね!リナ=インバース!!」
・・・・やっぱしそ~きたか。
「この世ならざるものよ 歪みし哀れなるものよ 浄化の光もて 世界と世界を結ぶかなたにきえさらん
浄化炎!!」
そしてそのまま呪文を唱え始めるナーガ。
ナーガの言葉に従い紅蓮の炎が出現する。
悪意や敵意をやわらげ害意をもつ低級霊などを退ける術である。
ちなみに、炎、といっても人間にはまったくもって影響はない。
動物たちにしてもしかり。
「ひどい!姉さん!話しがちがいますっ!」
何かデュラハンから抗議の声があがってるぞ~、お~い。
しかし、チャンス!
「すべての力の源よ 輝き燃える紅き炎よ 炎の矢!!」
ドッン!
あたしはすばやく術を唱え力の限り解き放つ。
う~ん、絶好調♪
ようやくあの日も終わりお腹もいたくない。
今までふつふつ鬱積してたまったストレス解消にはもってこいのこのシュツエーション。
炎の矢は雨のようにいくつも横なぎに降り注ぐ。
つまりは、四方八方に炎の矢が飛び交っているこの現状。
「むちゃくちゃするなぁっ!」
何か犬もどきが尻尾をこげさせながら何だか抗議の声をこちらにむけてくる。
ふっ。
何ごとも先手必勝。
それに何もむちゃくちゃなことなんてしてないし。
そんな中、たった一人だけ逃げることをせずにたたずんでいる全身黒づくめの老人。
炎にてらされて気づいたが、黒、とみえたのは実は濃い緑色の服だったらしい。
鼻から下は白いひげのようなもので隠れている。
ついでにいえばその瞳には黒眼がなくぽっかりとあいている二つの虚ろな目。
・・・うげっ!?
「お~、どうやら魔族の人もいるっぽいな~」
さらっとガウリイがそんなことをいってるけど。
んな問題かぁぁっ!
な、ならばこれならどうだっ!
「烈閃槍!!」
そのまま口の中で次なる呪文をとなえ、老人魔族とおぼしきほうにとおもいっきりしかける。
が。
それは銀のムチのようなモノでかき消される。
どうでもいいけど、ながひょろい手がさらにのびてそのままムチになってるようなんですが……
こいつ、自分が人間ではないって隠すきはさらさらないようである。
もっとも、魔族にそんな概念があるかどうかは不明だが。
「このゾロムにちょっかいをだすとは。いやはや元気のいいお嬢ちゃんじゃ」
しれっとそんなことをいいつつ、ふわりとそれは浮かびあがる。
ちっ。
「このリナ=インバースを相手にするなんて、そっちこそ命しらずよ!」
まけずといいかえしつつも警戒を怠らない。
相手が何であろうとひるんだら負けである。
「全ての力の源よ 輝きもえる紅き炎よ 我が手に集いて光となれ!」
そのまま相手のぎんっぽい手がのびた状態のムチをさけつつ次なる術を唱え、
手の平を胸の前であわせとびのきざまにチャンスをうかがう。
「まさか。ファイアーボール、とかいうのではなかろうの?このゾロム相手に通用するとおもってか?」
魔族のゾロムとなのったそれは完全に見下している。
が、あまいっ!
「火炎球!!」
そのまま術を解き放ち、
「ブレイクっ!」
「何!?」
魔族の驚愕にもにたような声。
いくつにも炸裂した炎はゾロムの周囲に炸裂し、そしてそれの視界を一時的にふさぐ。
よっし!
狙いどおり!
相手が炎と爆煙に包まれたのをみてとり、ざっと間合いをとる。
それでもムチはのびてきてあたしの足元をねらってくるが、あたしはそれをなんなく飛び越えてかわす。
幼いころの”なわとびのリナちゃん”の名は伊達ではない。
このスキに次の術を!
ラティルトはつかえない。
エルメキアフレイムも通用するかは不明。
ならば魔竜烈火砲のあたりが適切か。
紅蓮の炎に眠る暗黒の竜よ……
そう思い次なる呪文詠唱を口の中で唱え始めるとほぼ同時、
煙の中からいくつかの銀光があたしに向かってはしってくる。
まずい、今呪文詠唱をとめるわけには!
キィン!
おもわず身構えるあたしの目の前で、銀の針らしきものが乾いた音とともに地におちる。
「またせたな。お嬢ちゃん」
みれば剣を片手にしたガウリイがあたしの前にとたっている。
こいつはたしか、他の襲撃者とやりあっていたはずだが?
あたしが魔族と対峙するのとほぼどうじ、ゼルガディスと犬。
そしてガウリイとそのほかもろもろ。
ついでにナーガのやつは途中で血をみて気絶中。
いやまあ、被害が拡大するからそのほうが助かったりするんだが。
ふとみれば、他の襲撃者たちは、皆累々と倒れており、いまだにやりあっているゼルガディスと犬もどき。
つまりは、あたし達しかこの場にたってはいない。
ということは、あの短い間にこいつが全部たおしたかどうかまではあたしもいちいち確認していないのでわからない。
ないが……
「お主もこのゾロムに逆らうか」
ゆっくりと煙の中より再び姿を表すそれ。
ちっ。
おもったより目くらましの役にたたなかったか。
まあ、基本彼らは精神世界に属しているからそれもまあ当たり前、といえば当たり前かもしれないけど。
「わるいが。オレはこのお嬢ちゃんたちの保護者なんでね」
たち?
ふとみれば、いつのまにかあたしの横にはエルちゃんが。
い…いつのまに……
つうか、よくこの戦いのさなかで平気なもんだ。
小さい子供ならもっと騒ぐとかしそうなのに。
それとも、昔のあたしのように楽しんでるのかなぁ?
もっとも、昔のあたしの場合は、その楽しみがすぐに恐ろしい訓練にとかわったが……
それ以前に今日は高いところに移動してなかったんだ。
「しかし。若いの。それでこのワシをきることなどできんぞ?」
小馬鹿にしたようにいってくる。
実際、馬鹿にしてるんだろうけど。
言い放つと同時、魔族ゾロムから繰り出される炎のムチと銀の針。
だが、それらをたやすくかわし、一気に間合いをつめるガウリイ。
そしてそのまま剣が一閃する。
早い。
ハタでみていて太刀筋がみえない。
ガウリイの剣技をそういやこれまでじっくりみるの初めてだったわ。
しかし、これほどの腕をもっているとは。
あたしがいままで太刀筋がみえなかったのは郷里の姉ちゃんとその友達くらいである。
「みたいだな~」
ゾロムの言葉を何でもないようにかるくうけながしつつも、
「でも斬れるさ」
あっさりと言い放つガウリイ。
おいおい、わかってるのか?
この兄ちゃんは。
相手は魔族。
しかも一般に知られている亜魔族とかのレッサーデーモンやブラスデーモンとは違い純魔族。
あたしは実は純魔族をちょっぴりしっていたりするのだが。
その能力は洒落になんない。
…まあ、あいつはどこか抜けていた、というか人間の常識がわかっていないからあんなだったんだろうが。
まあ、とにかくとして。
通常、魔族とはその身…というか、本体を精神世界にとおいている。
核ともいうべきだろうか?
とにかくそれゆえに普通、物理的ダメージを与えても意味をなさないのである。
レッサーデーモンなどの知られている小物に関しては、それらが物質世界。
つまりは、あたし達がすんでいるこの世界において器となりえる何かを得ているからに他ならない。
たとえるならば、何の命令もださずに作れ出したゴーレムが命令をうけて動き出すかのごとくに。
もしくは、空の器に中身をいれることにより、その器もまた生きてくる。
そんなようなもの。
しかし、純魔族となれば格が違う。
ヤツラは自らの力のみで精神体を一時的に具現化させてそこに存在しているにすぎない。
つまりは、実体のある幻のようなもの。
そんな代物に通常の攻撃なぞききはしない。
破魔の護符をおもいっきり組み込んだそこそこの魔法剣なら純魔族相手でも少しは役にたつかもしれないが。
・・・・・・しかたない。
ドラスレ一発でケリをつけるか。
そう決意して呪文を唱えようと身構えるとほぼ同時。
「なら、きってみてくれるかの?できるものなら、の」
「では、お言葉にあまえて」
何かそんな会話をしているガウリイ達。
…何も考えてない、というかわかってないよ、あの兄ちゃん……
だがしかし、あたしは次の瞬間、唖然としてしまう。
ガウリイは何をおもってか剣をパチンと鞘にとおさめ、かわりに懐から一本の針を取り出している。
おいおい!
「まさかその針でワシを倒す、などといいだすのではなかろうな」
・・・・・・・いくら何でもそこまで馬鹿ではない、と思いたい。
「まさか。針で斬る、なんてことできるわけないだろ?」
うちの姉ちゃんあたりはできるぞ?
まじで。
「なるほど。理屈じゃのぉ。ではそれでどうするつもりじゃ?」
「こうする」
?
つんっと、右手にもった針で左手で支えた剣の柄の部分をつつくガウリイ。
たしかあのあたりは刀身を柄に固定する留め金がある場所のはず。
もしかして柄と刀身を分解しようとしている…ことになるのだろうか?
何かんがえてんだろ?
何かよくわからない行動をしているがゆえに、思わず呪文詠唱すら忘れてしまう。
そしてそのまま針を懐にしまい、
「わかってもらえましたか?」
「・・・・・・・・・・・・」
わかるかっ!!
魔族のほうもあきれてる。
何がしたいんだ!?本気で!?
「お若いの。おぬしのいうことはどうもいま一つ、ワシにはわからんのだがな……」
あたしにもわかりません。
「なら、これで!」
いってガウリイが手にしたのは…剣。
しかもその剣の柄の部分だけで刀身はなしっ!
あ・・・アホかぁぁ~~!!
「黄昏よりも暗きもの 血の流れより紅きもの 時の流れに埋もれし……」
こいつははやいところケリをつけたほうがよさそうである。
ガウリイはガウリイで剣の柄部分のみをひっつかんで、何か魔族のほうにむかって突進してるし。
ゾロムの放った十数本の炎の矢をすべてよけて間合いをつめている。
その反射神経はすごいとはおもう。
おもうが…
その様子をあきれつつ見ながらも呪文詠唱をつづけるあたし。
それと同時、ガウリイは間合いを一気につめ――
「光よっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・え?
え?
えええええええ!?
ガウリイがひと声吠える。
思わず呪文詠唱を中断し、あたしも思わず目をみはる。
ゾロムが硬直し、そのまま真っ向から両断された。
悲鳴すら上げるいとまもなく、きれいさっぱりと。
ガウリイが右手にもった剣…柄の部分しかなかったそれに光の刃が生まれている。
「光の…剣……」
あたしの目の前。
ガウリイが手にしているそれは、まぎれもなくあの伝説の光の剣!!
かつてサイラーグを滅ぼした魔獣ザナッファーすらをも倒した伝説の剣である。
「お宝!?」
がばっ。
あ、ナーガが起きた。
しかしっ!今はそれよりもっ!
「が…ガウリイ……」
あまりのことに呪文詠唱をやめて思わずつぶやく。
「大丈夫だったか?二人とも」
いいつつも剣を鞘におさめてこちらを振り向いてくる。
そんな彼のもとにだっとかけよっていき、そのままガウリイの顔を見上げて立ち止まり見上げ…
「ガウリイ…その剣。ちょうだいっ!!」
こけけっ。
なぜかガウリイがかなり大袈裟にその場につっぷした。
そんなことはどうでもいい。
今はとにかく光の剣を手にいれることのみをかんがえねばっ!
「ね!お願い、それちょうだい!ね、ね!」
「お~ほっほっほっ!ぬけがけは許さなくてよ!リナ!それは私のものよ!」
気絶から立ち直ったナーガまで参加してくる。
しかぁっし!
「ガウリイ!ナーガなんかにあげても無駄よ!ちゃんとお金は払うからっ!五百!五百でそれうって!!」
「お~ほっほっほっ!なら私は五百十よっ!」
「何の!五百五十!!」
あたしの値段交渉にナーガが割ってはいってくる。
つうか……
「あんたはお金もってないでしょうがっ!ええいっ!おもいきって五百五十五!!」
う~ん、あたしって太っ腹。
「あ…あのなぁ。そんな金額じゃ細剣一本かえないだろ!?」
あたしのだした値段にそんなことをいってくる。
「んじゃ、五百六十!」
「あのな~……。それに、どこの世界に光の剣をそんな値段で売り渡す馬鹿がいるっていうんだ……」
いって何か溜息ついてるし。
「ここにいる」
「おまえな~」
何をいう。
自分の払うお金はたとえ銅貨一枚でも大金である。
まだ銅貨ででもそれだけ払う、といっているのだからあたしとしては大譲歩。
別に誰も、金貨で、とはいっていないので別にだましてなどはいない。
「ちょっと!リナ!ずるいわよ!」
「はやいもんがちなの!」
「だってお宝よ!お宝!」
それもとびきりの、がつく。
「あ~の~な~!あたりとも!とにかく、これはオレの家に代々伝わる大事な家宝の剣だ。
いくらお前たちがお金をつんだって売ってやるわけにはいかん!」
ふむ。
「じゃあ、あたしん家で代々伝えてあげるから!タダでちょうだい!それならいいでしょ!ね!ね!」
ないすアイデアv
我ながらさすがと褒めざるを得ない。
「お~ほっほっほっ!リナの家なんかより私の家のほうがはるかにましよ!ありがたくもらってあげるわっ!」
「ナーガの家のほうがあやしいでしょうがっ!だからあたしにちょうだい、ね!」
「あほかっ!どういう理屈だぁ!?とにかく売らないし、やるわけもないだろ!?」
ちっ。
なかなかしぶとい。
しかぁっし!
あきらめてはリナ=インバースの名がすたるっ!
「お~ほっほっほっ!光の剣が家宝ってことはあなた、ガブリエフ家のものでしょう?
光の剣を巡ってお家騒動が絶えないっていうじゃないの!
そのゴタゴタで本家の後継ぎの長男が死に次男が嫌気をさして剣をもって飛び出した。
それくらいの常識、誰もがしっているわよ!
私の家のようなしっかりした場所で管理すればそんなこともおこらないわよ!お~ほっほっほっ!」
…出た。
ナーガのよくわからん情報網の知識。
これが正確だったりするんだよなぁ。
怖いことに。
「ちょっと!こいつの家なんて絶対にまともじゃないわよ!
そのてん、うちは商売をやってて女王様の信頼もあるわっ!!」
いいつつ、がしっとガウリイのソレをつかむ。
まけずとナーガもつかんでくるが。
まだきちんと刃と柄をひとつにしていないらしく光の剣の本体ともいえる柄の部分をあたしとナーガが奪い合う格好になる。
そんなあたし達の間に割って入り、
「い…いい加減に…」
ガウリイの声と。
「ガウリイ様!!」
うや?
何か聞き覚えのある声が。
「って、リナさん!?何をなさっているんですか!?それにそっちのあなた!
さてはゼルガディスの仲間ですね!ガウリイ様に危害を加えようとは許せません!」
「お前らいい加減にしないかっ!!」
え~と、何だかおもいっきりはやとちり?
何か頭上でガウリイがわめいているけどさくっと無視。
「・・・やれやれ。おまえら。いい加減にしとけ」
何かそんなあたしたちにあきれた声が投げかけられてくる。
みればゼルガディスの後に二人ほど新たに加わり人数が増えていたりする。
その声をきき、シルフィールはきっとそちらに顔をむけ、
「リナさんを助けて…罪の償いのつもりですか?たくさんの人を傷つけ優しかったわたくしのお父様の命を奪い。
サイラーグの町を滅ぼして罪のない村人たちを殺して…っ!!」
そういうシルフィールの表情はいかにもいたいたしい。
え~と……
「ナーガ。ひとまず休戦よ」
「ふ。仕方ないわね」
さすがのナーガも少しは場の雰囲気がわかったのかあたしの休戦申し出に同意してくる。
その背後から近づいてきている気配にナーガも気づいたのかもしんない。
今はどちらが所有するか、よりも先にどうにかしなければいけないことができた。
それゆえの協定。
「別に。自分の罪から逃れようとはおもわない。憎いのならば俺をどうする?」
こらこら。
ゼルガディスのやつもかなり投げやりだし。
「あなたはっ!!」
そんなゼルガディスの声にさらにシルフィールが何か言いつのろうとしてるけど。
「やれやれ。ようやくおいつきましたよ」
シルフィールの声をさえぎり聞こえてくる別の声。
シルフィールの背後にたたずむ紅き影。
くっ。
「「「レゾっ!!」」」
あたしとゼルガディス、そして新たに加わった二人の男性の声が重なる。
ついに黒幕の登場…ってか。
「シルフィール!こっちへ!それに誤解してるようだけど、
サイラーグの事件もあの村のこともこいつの仕業じゃないわよ?」
「嘘ですっ!」
やっぱし聞く耳なんぞもっちゃいない。
思いこみもここまでくると……
しかし、今何より危険なのはシルフィールである。
「それがどうやら嘘じゃないみたいなのよね。ねぇ?赤法師レゾ?」
「・・・・・え?」
シルフィールはあたしの言葉が理解できないのかかるく戸惑いの表情を浮かべる。
「おやおや。さすがは噂に名高いリナ=インバース殿。いつから気付いていました?」
否定もせずににこやかにこちらに向かっていってくる。
「あからさまに怪しすぎるのよ。あんたは。それに毎回襲撃をうける前後にいなくなっていたしね」
おそらく何か指示をだしていたのだろう。
「レ…ゾ…さ…ま?」
状況がわかっていないらしいシルフィールの戸惑いの声。
「レゾ。どういうつもりだ?何で自分で手を下したサイラーグの神官長エルグの娘と行動をともにし旅をして、
どうしてこいつらに近づいた?この俺に女神像を奪うように命令しておきながら」
ゼルガディスが警戒を解かずに固い声でといかける。
「ああ。そのことですか。だって自分たちが本当は何をもっているのか教えてさしあげないとかわいそうでしょう?
リナさん達は女神像の中に賢者の石がはいっているとは知らなかったようですしね。
それに、死にゆくものに正確なことを最後におしえてあげるのは悪いことではないですしね」
さらっと何ごともないように何かとてつもないことをいっているレゾ。
つうことは、やっぱりレゾはことがすんだらあたし達も始末する気だったわけか。
予測はしてたけどね……
「ゼルガディス。力を与えたこの私を裏切り私を倒すためにあなたが賢者の石を狙っていたことくらいお見通しなのですよ。
ですから、あなたにはこのシルフィールさんに大人しく捕まってもらおうとおもったんですけどねぇ。
そのためにあなたがやったように思いこませたんですけどねぇ」
おいおい。
未だに理解できないのか、シルフィールは固まったまま。
すっとシルフィールの真後ろにいつのまにか移動したレゾが手を動かす。
その手はシルフィールの首元に。
キラリ、と光る何かがみえる。
ということは、おそらく針か何かがシルフィールの首元に付きつけられているのだろう。
「レゾ!おまえはどうかしている!
俺は…俺達はお前の目が視えることにより、よりたくさんの人々が救われる。
そう信じて悪事も率先して、自ら手を汚してきた!しかし、きさまは…っ!」
ゼルガディスの血を吐くような叫び声。
「レ…ゾ…様?嘘。ですよね?冗談だといってくださいっ!!」
シルフィールはもはや涙声。
「だってあなたはわたくしを助けてくださいました。悪い冗談だ。そうおっしゃってください!」
どこまでもシルフィールはレゾを信じたいらしい。
ほんっと根本的に人を疑うことのないお嬢様だったんだな…この人……
「そういえばいっていませんでしたっけね?
あなたを本当の意味で助けたのはそこのゼルガディスですよ。
私はエルグ殿を始末したあとサイラーグの人たちすべてを滅するつもりでしたからね。
それにこの子は反発しましてねぇ。こともあろうに私のことをエルグ殿につげたり、
町の人たちに手のものを使って避難を進言したり…と。本当、ききわけのない子ですよ」
やれやれ、といった風に何゛てもないことのようにそんなことをいってるし。
こ…こいつっ!
「ああ。動かないでくださいね。それと。呪文を唱える気配をとらえたら私はこのシルフィールさんを殺しますよ?
ああ、でもそのほうが彼女にとっては幸せかもしれませんねぇ。
何しろ父親を殺した同じ人物に殺されるのですから」
にこやかな笑みを崩さぬままでタチのわるいことをいってくる。
「それのどこが幸せなのよっ!!」
今のあたしにできるのは言い返すことだけ。
「モノは考えよう。ですよ。彼女にはもう帰る場所もないのですよ」
彼女の故郷のサイラーグはすでに壊滅状態、とはきいたが……
「それはあんたがサイラーグを滅ぼしたからだろうがっ!!」
「私もたかが爆裂陣一発で綺麗にカタがついて楽でしたけどね」
ゼルガディスの叫びににこやかに答えるレゾ。
つまり、爆裂陣一発でサイラーグを壊滅させたわけだ。
こいつは。
やはりこいつはケタが違う。
魔力の桁が格段に違うのがその言葉でもわかる。
「そんな…そんな……」
がくり、とシルフィールの体から力が抜けるが、それを片手で支えるでもなく、
そのままシルフィールの体をふわり、と何も唱えずに浮かばせる。
そしてあたしたちにもはっきりわかるように、
シルフィールの首筋にハリのようなものをつきつけているのをよくみえるようにと見せてくる。
「どうして…では。ではどうして!
途方にくれてサイラーグの跡地で呆然としていたわたくしを助けてくださったんですか!?
どうしてっ!お父様や町を滅したのに…どうしてわたくしだけっ!!」
さすがのシルフィールも当人の口からここまであっさりと肯定されれば認めざるを得ないらしい。
…だから信じるなってあたしは忠告したのに。
シルフィールの叫びはもはや血の叫びに近い。
「簡単なことですよ。
女神像を手にいれるのに”サイラーグの巫女頭”であるあなたがそばにいると誰も私を疑わない。それに」
?
それに?
「それに。何なのよ。あんた最低ね」
ナーガもあまりの身勝手さにむなくそわるくなっているのか声に怒りを含ませつつもいっている。
「ひとは、信用している人に裏切られたときに強い感情を向けてきますからね。
私にとってそれはとてもここちいいんですよ。視えない目でもわかるほどの強い思い、ですからね」
感情、がここちいい?
何かがひっかかる。
「ほんと、最っ低ね」
ナーガがいうが、それはあたしも今回ばかりは同じ意見。
「残念なから。楽しいお仲間ごっこはもうおしまいです。さあ女神像をこちらへ」
いつのまに取りだしていたのか、エルちゃんの手にしっかり握られている女神像。
シルフィールをこのまま見捨てるのも後味がわるすぎる。
エルちゃんから像をあたしがうけとると、
「よせっ!」
強いゼルガディスの制止の声。
「おやおや。ゼルガディスにしてはずいぶんと冷たい言葉ですね。
せっかくあなたが助けた命ですよ?このシルフィールさんは」
レゾは淡々と言い放つがシルフィールの心情を思うと何といっていいのやら。
だから!
あたしはあれほどレゾを信用するなっていったのにっ!!
きちんと忠告したのにっ!
これだから世間知らずのお嬢様は…ほんっとに……
「ふざけるなっ!女神像を渡せばお前は魔王をよみがえらせる!
予言が伝わっていたから、というだけの理由でお前はサイラーグを滅ぼした!」
・・・予言?
「像をもって逃げてくださいっ!」
そんなことを思っていると、シルフィールが声をかすれさせつつも、
それでいて何か決意をこめた力づよさをこめていってくる。
「ほう。自分はどうなってもいい。と。いやはや。
あなたは本当にエルグ殿ににていますね。知っていますか?
彼も私に殺されるその直前まで『世界を闇に閉ざすくらいならば死を選ぶ』といっていたんですよ?
まあ、あまりに強情なので洗脳して聞きだしたあと、始末しましたけどね」
にこやかに笑顔でいう台詞かっ!
本っ当、腹がたつ。
もし人質になっているのがシルフィールでなくてナーガとかなら問答無用で攻撃呪文をたたきこむのにっ!
「・・・わたくしは、自業自得です。そこのリナさんが忠告してきたときもきく耳をもちませんでした。
わたくしは予言の”力あるものの心闇に堕ちるとき”という言葉を、
ずっとゼルガディスのことだとおもっていました。でも……」
うや?
どっかで聞いたようなフレーズ。
はて?
「レゾ。聞いてもいいかしら。あなたはいつでも女神像を奪えたはずよね?
たとえばあんたを頭っからしんじきっていたシルフィールを利用でもしたら」
実際、シルフィールと同室のときもあったりもした。
「確かに。力づくで奪うこともできたのでしょうけど。それではあまり面白くありませんしね。
私とすればあなたと表きってやりあうのは避けたかったですし」
・・・・・・・あたしの家族のことを言外にいっているのかもしんない。
「それに。共に行動していれば、時が満ちたときに得られる”心”がより大きいですしね。
知っていますか?信頼のあとにくる絶望と虚無感。そして恐怖。
それらを感じるのがどれだけ視えない私の目にすらわかるほどくっきりとその光景を視させてくれるのか」
心?
またまた何かがひっかかる。
絶望と恐怖ってまるで…まるで……
「どうして…どうしてなのですか!?どうして!赤法師レゾ様は人々のためその力を役立ててきた。
そんな立派なあなたがどうしてっ!」
どこかですべてが嘘、といってほしいと願うシルフィールの気持ちがその声にも現れている。
「・・・・・・・うんざり。なんですよ」
うんざり?
「・・・私はかつて、私の目を開かそうといろいろやりました。そしてその実験として多くの人々を救ってきた。
結果として、多くの人々を私は救った。そして人々に感謝されるすばらしさを知り、
私の目がみえればもっとたくさんの人々を救える。世の中を正しく導くことができる。
・・・・そう、本当に私はかつてはおもっていたんです。
しかし、そのためには…大いなる善のためには小さな悪も必要となってくる。その矛盾……」
綺麗ごとだけでは生きてはいかれないのが世の中。
「・・・俺達は、常にレゾには聖者でいてほしかった。だから必要悪の部分をうけもっていたんだ……」
蚊のなくようなゼルガディスの声。
彼にとってレゾはとても偉大で、しかも自慢できる存在だったのだろう。
あたしの郷里の姉ちゃんとおなじくらいに。
「しかし!現実はちがった!私が苦しんでいる人々をすくっても、金持ちは貧しい人々を踏みにじり!
権力者は力なき人々をしいたげる!武器を持たぬものたちは力をもたぬ人々を傷つける!
こんな…こんなくさった世界は滅ぼすべきなんですっ!
だからこそ、私は…私は魔王を復活させ一度世界をまっさらな状態にして誰もが幸せで暮らせる理想郷をつくる。
そして、その為にどうしても必要なのが賢者の石なのですよ」
そういう…ことか。
「こんな世界。たしかにそれはみとめる。力をもとめて身うち同士ですらいがみあい、
血をみることもよくある世の中だ。だけど、だからといって世界すべての人々がみなそうじゃないだろ!?」
珍しくガウリイが会話に割って入ってくる。
「そうよ!力あるものはその力を正しくつかわねば、力によってその身を滅ぼす。
私のお母様がいっていた言葉よ。。そしてお父様は力をもつものがもたざるものと協力し、
本当の意味で弱い人々が平和に暮らせる世の中をつくる。そのためにいきている。
生き続けるのはその目的の向けての戦いという名の旅だって、そういっていたわ。
あきらめたら何もかもおわりってね!」
へ~。
ナーガの両親にしてはかなりまともなことをいいきかせていたんだ。
呪術の基礎や毒の味など教育の一環として教えていた親の言葉とは思えない。
しかもこんな娘に育てた親の言葉とはとうてい信じられない。
「あなたたちにはわからないでしょうね。心から絶望したことなどない人には。さあ、女神像を渡してください」
「渡してはだめですっ!」
つうっと、シルフィールの首元に流れる紅い筋。
「・・・・っ。わかったわ」
「リナさん?!」
「おいっ!!」
このまま見殺しに、なんてできはしない。
いくら世間知らずのお嬢様でも、彼女には罪はないのだから。
彼女もまた被害者、なのだから。
彼女の行動がその被害を拡大した、としていたとしても、である。
今は人質を解放させるのが何よりも優先!
「ナーガ。しかける準備しといて」
「まかせて」
こういうときのこいつのはちゃめちゃぶりは役にたつ。
ナーガの術で混乱した隙ならばこちらにもまだ勝機はあるっ!
「像はここにおくわ。シルフィールと交換よ」
「いいでしょう」
「おい。よせっ!」
ゼルガディスが止めてくるが、今はシルフィールの安全が優先事項。
シルフィールの首から長い針のようなものが引き抜かれるのと、
あたしが像を手渡しシルフィールをぐっとひっぱるのはほぼ同時。
針はどうやら親指とおなじくらいの長さでシルフィールの首の中にもぐりこんでいたらしい。
よくこれであれだけ話せた、ともおもう。
それだけの技量をレゾを持ちえている、という証拠である。
「氷の矢!!」
それとほぼ同時。
背後からきこえてくるナーガの声。
どうやら相手を氷づけにするつもりらしい。
ナーガにしてはめずらしくまとも!
…あたしとすれば、爆裂陣か石霊呪あたりを期待したのだが。
もしくは魔王竜召喚か。
こ~いうときに限ってまともな術をつかうなよな……
しかし、その氷はレゾにたどり着く前にばちんとはじけ消える。
「たしかに…たしかに間違いないっ!」
一瞬、おもわず目を疑ってしまうのは仕方がない。
レゾの手にした女神像はいともたやすく砕け散る。
魔力を封じる効果をもつオリハルコンが、である。
「おお!これよ!まさしくこれよ!」
レゾの口調が何やらかわる。
その中に邪悪な歓喜がみてとれる。
オリハルコンの像の中からでてきたのは一つの小さな黒い石っぽいもの。
石炭の親戚?
ともおもえる小さなソレがどうやら賢者の石らしい。
どうやら石の力がレゾの魔力に呼応して魔法では砕けるはずのないオリハルコンをも砕いたらしい。
くっ!
「光よ わが身に集いて 閃光となりて 深遠なる闇をうちはらえ!烈閃咆
すかさず呪文をとなえてレゾに解き放つ。
「総ての命を育みし 母なりしこの無限の大地よ 我が手に集いて力となれ 地撃衝雷!!」
ナーガも続けざまにとなえているが。
ナーガの言葉に従い、大地が脈動する。
大地が水面のごとくに揺れ動き、激しくなみうつ。
そして大地は無数の錐と化し、そのまま針山のごとくに波となりレゾのほうにとむかってゆく。
が。
ピタリ。
あたしの術もナーガの術もレゾにたどり着く前に寸止めされそのままそれらは霧散する。
それらをレゾは何の呪文を唱えることもなくやってのけているのだ。
いや、レゾの魔力にこちらの魔力が及ばずにかき消されているのだろう。
「――まさかっ!?」
ふと横からきこえる短いシルフィールの悲鳴にも近い叫び。
みればレゾは迷うことなく手の中のソレを飲み下す。
…何を?!
ごうっ!
突然、強い風が吹きつけてくる。
思わずマントで顔を覆う。
それと同時にこみあげてくる何ともたまらない吐き気。
風、ではない。
吹き付けてきたのは物質的な力さえ伴った強い瘴気。
その瘴気の渦の中心に一人、
レゾが立ちすくみずっと嘲笑している。
それに対し、何かナーガがしかけたのか青白い光がレゾを包み込むる
が、ただそれだけ。
「おお!見える!みえるぞ!」
歓喜もにたその声。
そして。
「…今こそよみがえれ!赤眼の魔王・シャブラニグドゥよ!!」
レゾの高々とした声が周囲に響き渡ってゆく……
-続くー
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あとがきもどき:
薫:さってと。ようやくSさんの復活ですv
あと面倒なのは戦闘シーン。でもまあエル様いるし(まてこら
一番気の毒なのは誰、なんでしょうねぇ?
心を裏切られたという点ではシルフィールかもしれませんけど。
しかし、ひとの忠告をきかなかったのもまたシルフィールなわけですし。
やはり、かの御方にきづいていないSでしょうねぇ…きっと(苦笑
何はともあれ、ではまた次回にて♪
2009年5月1日(金)某日
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