まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

何かきりのいいところまでやってたら。
どんどん容量が増えてゆく……どこかでキリわるいけど区切るかなぁ(汗
……何Kになるかな…この回(滝汗……
ともあれ、ぼやきながらもいくのですv

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………徳川慶喜公のような裏切りは自分はしたくない。
だからこそ。
「……いいのか?おまえたち?」
「自分達は戦いの中でしかいきられませんし」
「それに、俺たちがここにのこったら葵屋に迷惑がかかりますしね」
「こんな俺がここにいるわけにもいきませんし」
「いきましょう。お頭」
とりあえず、残っていた仲間たちは翁にと預けた。
そしてまた…先のお頭の忘れ形見である少女も……
あとは、行き場のない仲間たちの居場所を自分の責任でつくるのみ。
それが…彼等の上にとたち、そしてまた彼等を育て上げたものの…自分の使命。
そんなことを思いながら、眠っている幼女をその場に預け、
彼等は世の中の闇の中にと消えてゆく……

剣客放浪記  ~お庭番衆~

キッン……
誰もこの屋敷に忍び込んでくるばか者はいない。
そうは思っていても雇われている以上、警備は必要。
正面の門の出入り口をうろうろとしていると、
なぜか門の扉から聞きなれない音がしてくる。
ふとみれば、門にバツ印のような傷ができたかとおもうと同時。
ばぎゃっ!
頑丈なはずの門の扉がなぜか壊れ、そこから人影が四つ、飛び込んでくる。
少数での奇襲は何よりも速さがモノをいう。
それは常識であるがゆえに、そのまま真正面から挑んでいる剣心たち四人。
「恵さんはあの中ね」
門を入ったその先に見えている大きな屋敷。
その中に恵が連れて行かれていると確信して声をだす薫に、
「さあ。玄関までいっきに駆け抜けるでござるよ」
いいながら、未だに何が起こったのか理解できずに呆然としている男たちをそのままに、
玄関にとむけて駆け出してゆく剣心たち。
「な…何ぼさっとしている。やっちまえ!」
彼等が駆け出してゆくのを見てとり、はっと我にと戻り全員に号令をかける見張りの一人。
その号令をうけて、はっとそれぞれに我にと戻り、行く手を阻む男たちであるが。
「どいたどいた!剣心組みのお通りだ!」
弥彦が何やら張り切りながらも竹刀を片手に男たちを倒しながら叫んでいるが。
先陣をきって、剣心と左之助が先を進んでいるがゆえに、
道をふさいでいた男たちをいともたやすく蹴散らしてゆく。

「ほほほほほ。お帰りなさい。恵さん。必ずもどってくると思っていましたよ。
  さっそくですけど早速、新型阿片をつくってもらいましょうか」
癋見につれられて観柳の目の前にとつれて来られている恵。
そんな恵に対し、にこやかに椅子に座ったままで話しかけている観柳の姿。
そんな観柳をきっとただただ睨み返している恵に対し、
「反抗的な人だなぁ。その覚悟をしたからもどってきたんでしょう?」
席を立ち上がりながらも恵に近づき彼女の顎を持ち上げて言い放つ。
そんな観柳の台詞に、ふっと微笑み、
「覚悟はしてるわ」
いって静かに目を閉じる。
恵の脳裏に、左之助の台詞が再びよぎるが。
生きていれば罪を償うこともできる。
だがしかし……
「それでいいんですよ」
恵の言葉の意味をまったく理解しておらずに、恵が素直に阿片を作ろうと決意した。
と信じてにこやかにいう観柳に対し、
「武田観柳を殺して私も死ぬ。その覚悟が!」
ザシュ!
高々と言い放ち、懐から取り出した懐刀の鞘を外して武田観柳にと切りつける。
「…ひぃっ!?」
まさかいきなり斬りつけられるとは思っていなかったらしく、情けない悲鳴をあげている観柳。
「安心しなさいな。あんたと私は一蓮托生。あんたを殺したあと、私も死んであげる。
  いったでしょう?ここに戻るくらいなら死んだほうがましだって。
  もうこれ以上、罪を重ねていきる気はしないのよ」
傷つけられた腕を押さえながらも扉のほうにとじりじりと退きながら、
淡々という恵を恐怖の目で見つめる観柳。
彼女が本気だというのは目をみればわかる。
窮鼠猫をかむ。
との言葉どおり、追い詰められたものは鼠でも猫をかむことがある。
しかも、恵は自分の命をかけて彼をしとめるつもりであるからして、その決意は揺るがない。
がくがくと震える観柳を目の前にして、
「一緒に地獄に落ちるのよ。それが人々を阿片で苦しめたせめてものつぐない……」
いいながらも、観柳の心臓にむけて懐刀を振り下ろす。
「……そんな!?」
確かに振り下ろしたはずの短刀が握られていない。
そのことに気づいて驚愕の声をあげる恵であるが、そんな恵の耳に、
「そこまでにしておけ……」
静かな感情のこもっていない声が背後から聞こえてくる。
みれば、恵が手にしていた短刀は、背後にやってきた若い男性の手により奪われている。
ぜいぜい……
「こ…このあまぁぁ!」
がぎゃっ!
命拾いをした、というのが理解できると同時。
自業自得の結果であるというのに、恵に対して怒りを覚え、
そのまま無防備になっている恵に殴りかかっている観柳。
「前の医者のときには、ごりおしして失敗したから、てめえは優しく懐柔しようとしてやってたのにっ!
  ことごとく逆らいやがって!!この俺をなめるなっ!!」
何とも第三者でなくても、どう考えても身勝手なことをいいながら、
倒れた恵に蹴りを連続で入れる観柳の姿。
そのまま観柳に攻め立てられて気絶した恵を目の前にして、
「私兵団をよべっ!拷問にかけて新型阿片の製造方法を聞きだしてやるっ!」
恵にあれが阿片だと知られてからは一切阿片を製造されていないがゆえに、
すでに在庫はつきかけている。
阿片がもたらす利益は観柳にとっては資本金。
ゆえに、諦めることなどはできない。
息を切らしながらいう観柳の台詞に、淡々と、
「小姓隊以外はではらってるさ」
「……何?」
淡々と動じることなくいってくる目の前の若い男…お庭番衆の頭である四乃森蒼紫の台詞に、
思わず眉をひそめる観柳。
こいつ、きづいていなかったのか。
そんなことを思いながらも口調を変えず、
「耳をすませてみろ」
――ピィ~……
いわれるままに耳を澄ますと、外から聞こえてくる笛の音。
「こ…これは、非常用の呼子!?」
それにきづいて思わず驚愕した声をだす観柳に、
「あの男が…きた!」
いって外に視線を向けながらも淡々と言い放つ蒼紫。

『うわぁぁぁ!?』
もはや、叫ぶしかない。
というのはこういうことをいうのかもしれない。
相手はたかが数人。
いや、正確にいうならばたかだか二人。
それなのに、人数からいえば多いはずの自分達があっさりと壊滅状態に追いやられている。
剣を構えた赤い髪の男が走りぬけた後には、累々と横たわる完全に気絶している男たちの群れ。
しかも、走り抜けると同時に攻撃を仕掛けているらしく、その剣裁きすらも目に見えない。
「は…はやい。人間技じゃねえ……」
そんな彼の動きをみて至極当然のことながら思わずつぶやきをもらしている他の男たち。
「おらおらおらっ!余所見してっと怪我するぜっ!!」
どがっ!
そしてもう一人の背中に悪の一文字を刺繍している服を着ている男のほうが、
剣をもった剣客がうちもらした仲間のことごとくを殴り倒していたりする。
「つ…つよい。何なんだ!?この二人組は……」
殴られた男たちのほうはかろうじて意識があるものもおり、
起き上がりながらも思わずつぶやきをもらす。
ばこ!
ぽこっ!
「四人組みだ!ば~ろっ!」
「舐めるんじゃないわよっ!」
そんな彼等の背後から、それぞれに頭上に加えられる竹刀の一撃。
彼等は気づいてはいなかったがもう二人ほど仲間がいた。
ということに。
薫と弥彦は剣心と左之助がうちもらした相手を気絶させるのが役目。
最も、剣心が一撃を加えた男たちはことごとく意識不明になっているので気づくことなどはないのであるが。
左之助のほうはやはり、まだ体力が完全にもどっていないのか、
多少意識を保っている男たちもいたりする。
そんな男たちを薫と弥彦が気絶させているのであるが。
「銃志隊、撃ちかたよ~い!!う……」
雇われているごろつきたちでは役に立たない。
そう判断し、銃を手にした私兵隊員たちが剣心たちの行く手をさえぎり、
そのまま銃口をむけてくる。
が。
ひゅっ!!
『がっ!?』
撃てと命令を下すよりも早く、走ってきていた赤い髪の男性がスピードをあげ、
そのまま彼等のほうにと切り込み、銃を手にしていた男たちのほとんどがそのまま気絶させられてしまう。
「……くっ。これだけの銃口を前にして、ひるむどころか加速しやがったっ!」
かろうじて横にそれたがゆえに一撃を食らわなかった号令をかけていた男が、
信じられない、といったように思わずつぶやいていたりする。
そして、ふと切り込んできた男が動きを止めているのに気づき、
「いまだ!動きがとまった!う……」
相手が動いていないときが絶好のチャンス。
それゆえに、残った数名の男たちに再び号令を下す。
「飛べ!弥彦!活躍して…こいっ!」
「…って、うわっ!!?」
そんな光景をみて、真横に並んで走っている弥彦の首ねっこをつかんで、
銃を構えている男たちのほうにと投げる左之助。
そのまま、左之助に投げ飛ばされるまま、号令を下していた男の頭上からまともに着地する弥彦。
「…ぐ…こ…この……貴様ぁ……」
ふらふらする頭を抑えながらも、手に持っている銃にと力を込める。
…そう、力を込めたつもりであったが、そこにあるはずの銃がない。
みれば、今飛んできた子供の手に、今まで自分がもっていた銃が握られていたりする。
それと同時。
「おらあっ!」
どぎばぎゃっ!
かろうじて残っていた他の男たちが掛け声とともに、二人の男にあっさりと倒される。
「…あ…あ……」
子供が手にしている銃と、そして仲間全てが倒された。
というので半ば放心しかけている号令を下していたその男性。
「ん?何だ?これ?」
などといいながら、銃を多少いじっている弥彦だが。
「えいっ!」
ぱこっ!
ふらふらと、後ろに退きながら足元がおぼついていないそんな男の背後から、
ぽかりとしないが炸裂する。
たかがそれだけでその場に倒れている男であるが。
「大丈夫?弥彦?」
「もちろんだ。ほらよっ」
薫の一撃であっさりと気絶した男も情けないといえば情けないのかもしれないが。
この状況で正気を保てる存在はそうはいないであろう。
弥彦を心配して声をかける薫に対し、あっさりと答えて立ち上がり。
そのまま、気絶している男の横に銃を放り投げる。
「こら!左之助!さっきはよくもほうりなげやがったな!」
「おめえの出番をつくってやったんだ。感謝しな。」
「ばあろうっ!」
「二人とも、元気そうね。」

「……わからん。なぜなんだ?なぜ……なぜ、あの緋村抜刀斎が……
  一体、何の理由があって…何の得があってあの女のために動くというんだ!?」
窓から見えるのは殴りこみを仕掛けてきている剣心たち四人。
赤い髪の男があの伝説の緋村抜刀斎であることは、お庭番衆の報告で知っている。
それゆえに驚愕を隠し切れない。
ふっ。
そんな自分の物差しでしか考えずにいっている観柳の台詞に軽く笑みを浮べ、
「人斬り抜刀斎が損得で動くような男ならば、今ごろやつは陸軍の幹部にでもなってるさ」
「!?」
蒼紫が何をいっているのかわからない。
蒼紫は情報を集めている中、山県陸軍卿が彼を陸軍の最高幹部に…と誘いをかけていた。
というのまで突き止めている。
もっともそこまでこの観柳に報告することでもないので報告はしてないが。
「利益のみを追求する、実業家のあんたには理解できないだろうがな。
  維新志士とは、我々とは立場は違えど、己の理想に殉じていった。そういう連中だった。
  ……明治になって多くの志士たちは、見る影もなく腐っちまったが。
  どうやらあの男はまだまだ生きがよさそうだ」
ぞくぞくする。
しかも相手があの最強といわれた伝説の維新志士であるがゆえになおさらに。
「十年ぶりの大物が、エサにつられて姿を現した。あの男は、俺たちお庭番衆の獲物だ」
「じ…冗談じゃない。あの伝説の人斬りを敵に回すなんて、そんな危ないまねができるかっ!」
伝説では、たった一人で幕府軍の一個中隊すらをも壊滅させた経歴の持ち主。
しかも、壊滅させるのにそう時間はかかっていない。
そうまことしやかに噂されている。
当時のことを知るものがいれば、それが噂ではなく事実だとすぐに判明するのだが。
「そういうな。俺たちは戦いたいんだ。」
戦いこそ自分達の全て。
戦いすらもさせてもらえなかった、江戸城お庭番衆としての誇り。

ぴたっ。
「?剣心?どうした?」
全ての私兵団を叩きのめし、正面玄関にと向かってゆく最中。
ぴたりと足を止める剣心を疑問に思い問いかける左之助。
そのまま、きっと頭上を仰いでにらんでいる剣心につられそちらにと視線を向ける。
「……ひっ!」
窓からのぞいていた観柳と剣心の視線が思わず交わり、冷や汗を流す観柳であるが。
「年貢の納め時だ。武田観柳。恵殿をつれて降りて来い。」
淡々と、それでいて言葉に有無を言わさない殺気を含めて言われるその言葉の重みは、
さすがの鈍い武田観柳ですら理解できるほど。
全身から冷や汗が吹き出るが。
それでも。
「く…くくく」
解決策を模索していた中、とてもいい案が思い浮かびそのまま笑い出す。
そんな観柳の姿を窓際にみて、
「…何だ?」
「いかれたのか?」
「あれが、武田観柳」
口々にそんなことをいっている左之助に弥彦に薫の三人。
そんな彼等三人の反応は何のその、
「すばらしい!私兵団数十人ばかりか、銃士隊の全てを息もつかぬまに倒すとは!
  さすがは伝説の人斬り、緋村抜刀斎!」
ぽん、と手をたたきながら高々と言い放つ。
ぴく。
そんな観柳の台詞に剣心の眉がぴくりと動く。
彼はあまり抜刀斎という名前は好きではない。
自分の志士名が様々な悪事に利用されることもたびたびであるがゆえに。
「……あの男、剣心のことを」
観柳が剣心のことを知っているのに驚きながらも思わずつぶやく薫に、
「どうせお庭番衆がしらべたんだろうぜ」
あっさりと図星をいっている左之助。
「見事です。その剣腕、気に入りましたよ。
  お庭番衆に加え、あなたが私の配下に加わってくれればまさに最強!
  私兵団、五十人分の報酬を払いましょう。どうです。私の用心棒に……」
何やら自分勝手なことをいっている観柳の台詞に半ばあきれつつも、怒りを押し殺し、
「降りて来るのかこないのか。どっちなんだ」
淡々とにらみながらも言い放つ。
「…ひっ!で、では百人分っ!」
五十人分では足りなかったか。
まったくもって勘違いもはなはだしいことを思いながらも人数を上乗せして叫んでいる観柳。
「に…二百人分っ!」
ふう。
「…わからん奴だな。金で懐柔しようとしても無駄だ。
  緋村抜刀斎は損得で動く男じゃない。と今もいっただろう」
わかっていない観柳に対してため息まじりに言い放つ蒼紫。
金で動かない人間がいるなどとは信じられない。
られないが……どうやら、蒼紫がいっているのは事実のようである。
このままでは確実に殺される。
そう判断し、ぎゅっと窓枠を握り締め、
「わ…わかった!私の負けだ!降参する!高荷恵は手放そうっ!」
その場しのぎの嘘を言う。
そんな彼の言葉をきき、正面玄関前にて思わず足を止める剣心たち。
「だ、だが!一時間だけ時間をくれ!こちらも何かと準備がいる!
  一時間後に必ず送り届ける!頼むっ!この場はおとなしくひいてくれっ!」
一時間もあれば恵を拷問して、新型阿片の製造方法を聞きだすことは可能。
あとは機会をみて恵を始末すればいいだけのこと。
そしてまた、抜刀斎ともども焼き討ちでもして始末すれば全ては闇にと消されてゆく。
「いきなり何を言い出すかとおもえば。そんなの信用できるかっ!このたこっ!」
この男は救いようがない。
今の台詞ではっきりと判った。
それゆえに。
きっん。
抜き放っていた剣を鞘にと収め近くにある手ごろな物体の下にと向かってゆく剣心。
「あ。剣心」
「…ちょっとまて!剣心!お人よしにもほどがあるぞっ!おいっ!」
剣を鞘にと収めて移動してゆく剣心に思わず叫んでいる弥彦。
そんな弥彦の台詞に反応することなく、手近に建っている街頭のしたでピタリと足をとめ、
そのまま、剣にと手をかけ抜き放つ。
かっ!!!!!
剣心が剣を一閃させると同時。
綺麗に該当の根元から切り取られ、観柳の真横の壁にと反動で飛んでゆき突き刺さる。
「ひゅ~」
まったく寸分たがわずに真横に街灯を直撃させる剣心の技に思わず口笛を吹く左之助。
そしてまた、そんな剣心の技に驚愕している薫と弥彦。
今の技は簡単にできるものではない。
というのは剣術をやっているものだからこそわかること。
どがっ!!!!!
「…ひ…ひぃぃ……」
少しずれていればまちがいなく自分に直撃していた。
それゆえに、その場に思わず腰を抜かしてへたり込む観柳。
「一時間以内にそこにいくっ!心してまっていろっ!観柳!」
腰を抜かした観柳に間髪いれずに叫ぶ剣心。
そんな剣心の台詞をきき、さらに冷や汗が全身を駆け巡る。
ふっ。
「姑息な奸計は火に油か。なるほど。たしかに激情化だ」
そんな剣心の表情の変わり具合と気の変化。
それに気づいて思わず笑みをもらいながらもつぶやく蒼紫。
話には聞いていた。
緋村抜刀斎は、その感情の激情とともにさらに力が増してゆく…と。
どこまで真実なのかはわからないが、今の変わりようからしてもそれは間違いなく事実なのであろう。
というのは用意に想像ができる。
がくがくと震えながら、完全に人斬り抜刀斎の逆鱗に触れたのを理解し、
「お…お頭……お庭番衆の配置……」
こうなれば、ダメもとで抜刀斎を返り討ちにするしかない。
そう思い、震えながらも振り返る。
「もうすませた」
さらっとさも当然のように言い放つ、そんな彼の言葉に、
「い…いいかっ!癋見やひょっとこのような役立たずの屑はもう真っ平だぞ!
  高い給金に見合う働きをせんやつは、この私が許さんからなっ!」
ぴく。
そんな独りよがりな観柳の台詞にぴくりと反応し、
「……この私が許さん。とはどういうことだ?」
冷たい殺気を観柳に向けながらも、未だに腰が砕けている観柳の元にとあるいてゆき、
そしてそのまま彼の襟首をつかみ上げ、
「勘違いするなよ。お庭番衆を束ねるのは。お前じゃない。
  俺のお庭番衆だ。何人たりとも卑下することはゆるさんっ!」
殺気をこめて言い放つ。
そんなお庭番衆お頭、蒼紫の言葉に額に脂汗を流しながら、
そのまま硬直する観柳をそのままどさりと床にと落とし、
「説明の続きだ。連中の狙いは高荷恵だ。この女は三階の展望室に閉じ込めておく」
いいながらも、気絶している恵を抱えあげる。
「そ…それでは、私の守りは……」
そんな蒼紫の台詞に多少声を擦れさせ問いかけるが、
「お前のような屑、どうなろうとしったことか」
いともあっさりと自分の身の安全の保証は却下される。
「…な、何!?わ…私はどうするんだっ!」
そんな蒼紫の台詞に思わず叫ぶ観柳。
「ここで大人しく、金勘定でもしているんだな」
未だにへたり込んだままの観柳をそのままに、恵を抱えて部屋をでてゆく蒼紫の姿。
観柳からすれば、お金を払って彼等を雇っているのにどうして自分を守らないのか。
という理不尽もはなはだしい思いに捕らわれしばしその場で震えていたりする。
全ては自分の身から出たさび。
とは思わずに、全て相手が悪い、そう思っているのだから救いようがない。
「お…おのれ!四乃森蒼紫っ!」
一人部屋に取り残され、叫ぶ観柳の姿がしばし見受けられてゆく。


う…ん……
「……!?」
私…いったいどれくらい気絶していたのかしら。
観柳を殺そうとして、お庭番衆のお頭に邪魔されて、殴られたところまでは覚えている。
「……ここは……展望室?いったい……」
部屋の様子から観柳の部屋でも、執務室でもないのも明らか。
狭い部屋の内装からして、そこが展望室だと理解するのにそうは時間はかからない。
「気がついたか」
「……!?」
ふとぐるりと部屋の中を見渡せば、唯一の出入り口である扉の目の前に、
見慣れた男性が一人立っており、思わず言葉を失う恵。
「神谷道場のものたちが、お前を奪還するために攻めてきた。」
「……な!?剣さんたちが!?…う…そ……」
「嘘をいってどうする。現に私兵団は全てすでに壊滅させられた」
「……馬鹿。せっかく私から身を引いたのに……何で……
  ……何であそこの人たちはそろいもそろって馬鹿ばっかりなのよ……」
これ以上、巻き込みたくないから一人で覚悟をきめて戻ってきたというのに。
あの左之助という男性にしろ、剣客の剣心という男性にしろ……
そしてまた、あの道場の主である薫という少女にしろ……
自分のせいでさらにはとばっちりをうけて攻撃に巻き込まれ、
毒をうけたものもいるというのに。
そんな自分を助けるために…どうして……
他人の優しさなど長らく触れていなかったがゆえにとても心苦しい。
ましてや、あんないい人たちが自分のせいで危険にさらされるなど耐えられない。
カツッン……
「!」
人の人情に触れて知らず涙を流していた恵の目の前に、
先ほど蒼紫に奪われたはずの懐刀が投げられてくる。
「お前の短刀だ。返しておく」
なぜこの状況で彼がこれを返してくるのかが判らない。
そんな恵の戸惑いは何のその。
「下手な希望はもたないほうがいい。どうせ奴等はここまでたどり着けはしない。
  一時間後。お前をまつのは救済などではなく、観柳による拷問死だ。
  苦痛の生か、安息の死か。せめて自分の望むほうを選べ」
そんな蒼紫の言葉に凍りつく。
「観柳がもとめている、阿片や金など俺たちにはどうでもいいこと。
  俺たちお庭番衆が求めているのは戦いそのもの」
だからこそ、阿片販売で何やら戦いの匂いをさせていた武田観柳のもとにとやってきた。
戦いを求めて。
「お前のおかげで至高の敵とめぐりあえた。それはその礼だ」
至高の敵。
という意味はわからないが、だが彼が観柳の意志ではなく、
自分に独断でこの懐刀を手渡しているのは明らか。
「…お前の幸薄い人生には同情する。…だが、それもどうでもいいことだ」
言い捨て、ぱたんと扉を閉める蒼紫。
おそらくは鍵を表からかけて中からは外せないようにしているであろう。
苦痛の生か、安息の死か……
震える手で床にと落ちている懐刀を拾いながら、しばし固まる恵の姿が。
観柳邸の二階にとある展望室においてしばし見受けられてゆく。


「ここから先はおそらく、お庭番衆たちが待ち構えているはずよ」
「おうっ!気をひきしめていこうぜっ!」
「お前が仕切るなっ!」
武田邸の正面玄関。
すでに外にいた観柳が雇っていた男たちはことごとく気絶し使い物にはなっていない。
正面玄関の前にとたち、緊張しながらもいう薫に対し、気合をいれて叫ぶ弥彦。
そんな弥彦にすかさず突っ込みをいれている左之助の姿。
そんな三人の姿をほほえましくみつつも、
「どうやら。中で待ち構えているでござるな」
あからさまな気配と殺気を感じ取り、未だに玄関の扉を開いていないのにつぶやく剣心。
「とにかく!いこうぜっ!」
どごっ!
いうなりそのまま扉を蹴破る左之助であるが。
もし相手が扉の向こうで待ち構え、攻撃などをしてきた場合のことなどは。
左之助はまったくもって念頭にすら置いていない。
玄関から屋敷の中にと入るとそこには少し広い廊下が広がっており、
その廊下を中心にしてどうやら左右に移動可能となっている構造になっているらしい。
ただっ広い廊下の中心に、ぽつりとたたずんでいる男が一人。
「…あ、あいつは……」
先日、恵を襲ってきたときに、癋見たちを保護して逃げていった男に間違いはない。
その異様なまでの姿は忘れようにも忘れようがなく思わずつぶやいている左之助。
まあ、たしかに、一度みたら忘れられない容姿ではあろう。
得に両腕の黒と赤の横の縞模様は忘れようにも印象深すぎて忘れられない。
弥彦のほうはそこまで詳しく覚えている気力がなかったので覚えていないが、
左之助のほうは毒をうけながらもそのあたりの気力は保っていたので相手の姿を見知っている。
「江戸城、お庭番衆、般若!お頭の命令によりこの場を死守するっ!」
いいながらも身構えてくる般若の面をかぶったその男性に向かい、
「不要の闘争はできれば避けたいでござる。そこをどいてはくれぬか?
  そもそも、昨夜の傷もまだ完治してないはずでござるが?
  手加減したがゆえに、内臓を多少圧迫した程度ではござろうが……
  それでも、肝臓に圧力を加えたがゆえに、ダメージは受けているでござろう?」
いともさらりと話しかけている剣心。
「何だ?あいつ。お庭番衆、といってるわりに、何かものすごい目立つ格好だけど」
そんな般若と名乗った男の姿をみて弥彦がそんなことをつぶやいていたりするが。
「そうでもござらぬよ?弥彦。いい機会だから覚えておくがいいでござる。
  ああいう横じまの模様などは、人の目の錯覚を引き起こす。
  人というものはどうしても目に惑わされる生き物でござるからな。
  目に頼ってばかりでは剣術もまた成り立たぬ。
  その男のその腕の目立つ模様は、相手に目の錯覚を起こさせ、
  実際よりものを太くみせたり、短くみせたりするでござるよ」
さらっといい機会だからと弥彦に説明をしている剣心を目の当たりにし、
「……ふっ。さすが抜刀斎。…すでに見破っていたとはな。
  この私の伸腕の術の正体を戦う前に見極めたのはさすがというより他にはない。
  だが!この俺の武器はそれだけではないっ!」
まさかあっさりと見破られているとは夢にも思っていなかったがゆえに、
驚きながらも、それでもまだ他の技があるがゆえに戦闘意欲を保ち言い放ってくる。
見た目に惑わされては物事の真髄が見極められない。
というのは、身にしみて剣心はよぉぉく理解している。
「ゆくぞ!抜刀斎!」
言い捨てそのまま、いくら術の正体を見破っていれども交わすことができるかは別。
そんなことを思いながらも攻撃を繰り出してゆく般若の姿。


「どうやら始まったようだな。」
外の騒ぎが一段落したのは静かになったことでもわかっている。
あとは彼等が建物の中にはいってくれば、おのずと。
大廊下に配置している般若との戦いになるのは明白。
まだ般若の実力は完全ではないものの、それでも彼は自分から志願して先駆りを勤めている。
万全の体調でないがゆえに、心配は残るが、だがしかし。
「……般若は手ごわい。ただでさえ卓越した拳法家であるうえに、さらには伸腕の術を使う。
  …術の正体を見極めないかぎり、抜刀斎に勝機はない」
などと、二階の大広間にてそんなことをいっている蒼紫。
彼は知らない。
剣心が一度目の邂逅のときからすでに術の正体に気づいている。
ということを。


直線で繰り出されてくる般若の拳。
視界にのみ惑わされれば、おのずとその目測と実測の誤差が生じる。
だがしかし。
ふっ。
……何っ!?
本来ならば、普通はかわすことは不可能のはず。
いくら頭で理解していようと、それと行動とは別のはず。
そう。
自分達がそうであったように。
だがしかし、般若の思惑とはまったく異なり、そのまますんでのところで一撃は交わされ、
さらには、連続して繰り出した裏拳までいともたやすくかわされる。
それと同時。
ドメギャ!
鋭い痛みが脳天から直撃してくる。
何がおこったのか理解するよりも早く、振動が全身にと伝わってゆく。
目の前の男…抜刀斎が自分が繰り出した技をやすやすとかわして、
さらにはその攻撃の隙を見つけ隙ができている頭にと攻撃を仕掛けてきた。
そう気づくのにそうは時間はかからない。
「……ぐっ……」
あまりの衝撃に思わず後ろによろめきながらも顔を抑える。
ピシピシと顔にとつけている面が割れる感覚が顔を抑えた手の平から伝わってくる。
……パキッ……
カシャ…ン。
よろめいて後ろにと退いた彼の顔より般若の面が割れて床にと落下する。
「……な、何だ?あいつの顔……」
般若の面が割れてその下からのぞくその素顔に思わず驚愕の声をだす弥彦。
「……え?」
さすがの薫もその素顔に思わず絶句する。
「おぬし、その顔……自分でやったでござるか?」
そんな般若にと淡々と表情一つ変えることなく問いかけている剣心。
「いかにも。私は密偵方。第一の任務は戦闘などではなく主に諜報工作。
  ゆえに、いかなる顔にも変装できるよう自分で唇を焼き、耳を落として鼻を削いで頬を砕いた」
そんな剣心の問いかけに答える般若。
ぞくっ。
自分でそんなことをした、と淡々と語る般若の言葉に思わず背筋が凍りついている弥彦と薫。
「まさか、自分で…何のために?」
そんな般若にと問いかける左之助の台詞に対し、
「……お前たちがどこの生まれかは知らないが。私が生まれた地方には貧しい村が多い。
  そういった村ではくいぶちを減らすため、親が子を殺す裏の風習が今でもある。
  私の生まれた村では、それを『子返し』といっていた」
そんな……親が子供を殺す…なんて。
生まれたときから両親の保護のもとに育っていた薫にはその感覚は理解できない。
この場でそれを理解できているのは、左之助と剣心くらいであろう。
「……まさか、おめえ……」
彼が何を言いたいのか薄々察知し、確認を込めて問い返す。
そんな左之助の台詞をうけてか知らずか淡々と、
「かろうじて死を免れても、もう家にはいられないし、もどれない。子返しをうけた時点で人生は終わり。
  それから先は犬猫のようにと徘徊し、孤狼のように殺して奪う獣道だけ」
全てのものがそうではないにしろ。
彼はそれしか方法がない。
とおもっていたのもまた事実。
「だがっ!」
いうなり、再び身構え、鈎爪を表に取り出し左右のそれをあわせてガシャンと鳴らし。
「そんな孤狼と化した私を蒼紫様は拾ってくださり、一流の隠密に育てあげてくださった!
  そして、私に江戸城お庭番衆という、同胞と生きがいを与えてくださった!
  蒼紫様のお役に立てるならば、顔も命も、私には無用っ!
  お庭番衆の誇りにかけて抜刀斎!きさまを倒すっ!」
だっ!
そういい捨て、今までのやり取りからも無謀とはわかってはいても、そのまま剣心にむかって突き進む。
「剣心!」
「気をつけろ!剣心!そいつはやべえ!
  こいつは、お頭に…お庭番衆に全てをささげた、狂信の化け物だっ!」
剣心を心配して叫ぶ薫と、そしてまた。
命をささげることなどは怖くはない、という般若のその思いを見越して思わず叫んでいる左之助。
全てをかけてまで守りたいもの。
その思いの強さは、それぞれの力の強さにも起因する。
というのは、左之助はかつて赤報隊に所属していたときに所属していた部隊の隊長より学んでいる。
だがしかし……
「……般若。恵殿を人質にして何が誇りでござる。
  一つだけ答えろ。おぬしは恵殿の過去をしっていたでござるか!?」
彼の境遇は同情する余地はある。
自分とて…あのとき、比古に出会わなければ生きてはいなかったかもしれない。
自分の過去に思いをはぜながらも、微動だにせず問いかけるそんな剣心の台詞に、
「みくびるなっ!お庭番衆密偵方に知らないものなどは…ないっ!」
相手がまったく微動だにしないのをうけて、今が好機とばかりに鈎爪を剣心に向けて繰り出す般若。
もらった!
彼がそう思うとほぼ同時。
がっ!
今繰り出したはずの両手の鈎爪が何かにおし戻される感覚が。
ふとみれば、一振りの剣において両の鈎爪をいともあっさりと受け止めている剣心の姿が。
両手に力を込めているのにまったくもってそれ以上は繰り出せない。
いや、それどころか両手が力に押されてしびれてきている。
こんな華奢な男のどこにそんな力が潜んでいるのか。
などと般若が思うものの、
「……般若。おぬしは人一倍、孤独のつらさをわかっていたはずなのにっ!
  どうして恵みどののことを考えてやれなかったっ!」
キィッン……
「…ぐっ!」
剣心の叫びとともに、いともあっさりと般若の一撃はおし戻される。
だがしかし、
「うるさいっ!私にはお頭が全てっ!」
そのまま体制を整えながら、横の壁を蹴って剣心に再び挑みかかってくる。
「…はあっ!!!!!!!!」
カッキィィン!!
そんな般若の一撃をそのまま剣心もまた横の壁をけり、空中にて合間見える。
周囲に金属がかち合う音が響くと同時。
すたりと二人同時に床にと着地する。
「……さすが…だが、お頭には…かなわ…な…い……」
パッキィィン……
着地すると同時、両腕の鈎爪が全て両断され床にと零れ落ち、
そしてまた、般若もまた前のめりにと倒れ伏す。
空中にて般若の両手の鈎爪をいともあっさりと斬り捨て、そのまま般若に一撃を加えただけ。
先日のダメージも完全に回復していないがゆえに、それほど力を込めなくても相手を気絶させることは可能。
完全に気絶した般若の姿を呆然とみつつ、
「……や、やった…のか?」
何かものすごくあっけなかったような気が……
などと思いながらも問いかけてくる弥彦。
「というか。こいつ見た限りかなりの使い手だったようだが……」
左之助とて相手の実力はそこそこわかる。
それゆえに、剣心がいともあっさり撃退したのをみて思わずつぶやきをもらす。
「まあ、この般若という男。昨夜、拙者が繰り出した一撃の余韻がまだのこっていたようでござるしな」
「あ。そういえば、剣心。何か昨夜この人にむかっていってたっけ。…何をしたのかみえなかったけど」
ふと、剣心が癋見を抱えたこの男にむかっていっていたのを思い出し、
そんなことをいっている薫であるが。
「別にたいしたことはしていないでござるよ。
  ちょっと動けなくなる程度に、肝の臓がある場所に多少連打を加えただけでござるしな。
  もっとも、それでも逃げたこの男は流石でござったけどな。」
『……それって、たいしたことなんじゃぁ……。というか、それでも逃げたって……』
肝臓。
といえば一応は人体の急所。
それは薫とて弥彦とて知っている。
それゆえに、同時に弥彦、薫、左之助の台詞が重なっていたりするが。


しかし……こいつほどのやつがここまで心酔する四乃森蒼紫ってやつは……
いったい全体どれほどのやつなんだ?
走りながらも気絶している般若を振り向きざまにみつつもそんなことを思う左之助。
先ほどの、式尉にしろ、般若にしろ、並大抵の実力者ではない。
そんな思いをめぐらせている左之助に向かい、
「左之助?どうかしたのか?」
走りながらも弥彦が問いかける。
「いや、いったい、さっきの式尉といい、今の般若といい。
  奴等があそこまで心酔して従っている、お庭番衆の頭の四乃森蒼紫ってやつは、
  どんな奴なのかとおもってな」
そうつぶやく左之助の台詞に、
「拙者も当人とは直接に戦ったことはないでござるが。
  すくなくとも、一部の者には一目おかれていたでござるよ。蒼紫は。
  かつて薩摩藩の隠密だった男が、江戸城に侵入して、当時十三歳であった蒼紫に倒され、
  そのまま、彼に言い含められて江戸城お庭番衆の仲間に入った維新志士もいたでござるしな」
さらり、と何やらものすごいことをいっている剣心。
それは剣心が長州藩側から抜ける二年前の出来事。
「…いや、ちょっとまて。剣心。ソレは本当なのか?」
そんな剣心の台詞に思わず突っ込みをいれる左之助だが、
「薩摩藩の中ではきっての超人離れした筋肉をもっている隠密として、
  かなり名前は知られていたらしいでござるよ。まあ、話を聞けば。
  彼は強さを何よりも求めていたらしいでござるから。
  おそらくは、お庭番衆に伝わる筋肉増強剤の話でも持ちかけられて仲間になったのでござろう」
『筋肉増強剤…って……』
そんな剣心の台詞に同時につぶやく左之助たち三人。
「まあ。所詮薬で筋肉を鍛えたとしても、それはまがい物。…どこかにひずみは生じるでござるよ。
  そもそも、見えるように筋肉を鍛えたのでは動きから何から何まで鈍くなるでござるしな」
見た目はかわることなく筋肉を鍛えることも飛天御剣流にとっては何よりも重要。
「見えないように筋肉を鍛えるなんて方法はあるのかよ?」
ふと至極当然な疑問をもった弥彦がそんな剣心にと問いかけてくるが。
「……あるでござるよ?もっとも。慣れるまではかなりきついでござるけどな。
  そもそも、拙者のこの服とか、この手足につけてる青い布もその一貫でござるし。
  常に筋肉を押さえて、さらには重量を化すことによって常に筋肉を鍛える。
  ……飛天御剣流はそもそも、その速さゆえに瞬発力などといった筋肉が何よりも重要でござるからな」
さらっと何でもないように、左手の手首に巻かれている青い布を指差して説明している剣心。
「…そういや、以前、何か重しがどうのこうのって……」
左之助が何か言いかけるよりも早く。
『ここから先は通行止めだ!!』
廊下の先にとある二階にと続いている階段の下。
数名の男たちが何やら手に武器を持ちながら剣心たちのほうにとむかって言ってくる。
「けっ。腰がひけてるぜ。こいつら!」
弥彦がそう言うとほぼ同時。
ひょいっ。
ぶっん!
「うわっ!?」
そのまま弥彦をまたまたつかみ上げ、階段の下で道をふさいでいる男たちのほうにと投げ飛ばす。
左之助に投げ飛ばされ、まともに男たちの中心に弥彦は落ちてゆくが。
びくっ!
外の腕利きの仲間たちがすでに壊滅させられた。
というのがわかっているがゆえに、弥彦のような子供ですら腰が引けている男たち。
「剣心たちは、早く恵さんを!」
見ただけで、彼等がそれほど使い手でないのは明らか。
「よっしゃ!こいつらなら任せて大丈夫だなっ!」
「薫殿。弥彦。あとはたのむでござるよ!」
階段の下にといる男たちを二人に任せ、そのまま階段を駆け上がる左之助と剣心。
この場にいる男たちははっきりいって二人の相手ではないほどに腕は劣っている。
それがわかっているからこそ二人にと任せられる。
「おうっ!」
そんな剣心たちの台詞に快く応じる弥彦に、
「小娘と子供のくせになまいきなっ!」
あいてがどうみても強い男二人ではなく自分達の相手が小娘と子供としり、
俄然何やら元気になりさけんでいる観柳が雇っている用心棒たち。
「何だとぉ!?」
「あなたたちこそ、神谷活心流をなめないでよねっ!」
「てめえたちなんか俺たちで十分だっ!」
そんな用心棒たちにとむかい、きっと構えて言い放っている弥彦と薫であるが。
弥彦はまだ成長途中とはいえ、薫のほうはこれでもいちおう活心流の師範代を勤めている腕の持ち主。
この場にいる彼等の腕では到底及ばない……


カチャ……キィィ……
ゆっくりと階段の上にとある扉を開く。
広い部屋の中央にたたずむ一人の男。
「てめえか!四乃森蒼紫ってのはっ!」
ここにいるのは、お庭番衆のお頭以外にはありえないゆえにその姿をみて叫んでいる左之助。
この男が…江戸城お庭番衆のお頭、四乃森蒼紫…か。
現実に、当人に会うのはこれが始めて。
それゆえにそんなことを思いながら、その男性を眺めている剣心であるが。
「観柳と、恵殿はどこにいる?」
そんな彼に向かって淡々と話しかける。
「二人の居場所が知りたいのなら、その逆刃刀で問うのだな。抜刀斎。」
ゆっくりと、扉から入ってきた剣心たちのほうを振り向きながら、
まったく表情一つかえることなく脇にと挿している刀を抜き去り言い放ってくるその男。
「てめえ。脇挿し一本で剣心を相手にしようってか。ざけんじゃねえぞ」
蒼紫が手にかけた刀をみて何やら叫んでいる左之助。
彼は彼が手にしているそれがただの脇挿しだと思い込んでいたりする。
あまり剣の種類に詳しくないがゆえの台詞であろうが。
「俺の獲物はあくまで抜刀斎ただ一人。雑魚はひっこんでいろ」
蒼紫にとっては緋村剣心こと緋村抜刀斎が獲物。
それ以外はどうでもいい。
それゆえに、淡々と言い放つ。
「何だと!?てめえなんざ、この俺が一人で倒してやらあっ!式尉のようにな」
自分が雑魚扱いされたことに対して頭に血が昇り、そのまま蒼紫にと向かってゆく。
「!左之!まつでござる!」
「おらぁっ!」
そんな左之助を制する声をだしている剣心であるが、そんな剣心のいうことなどは聞くことなく、
そのまま拳を繰り出し蒼紫にと殴りかかってゆく左之助。
「……なるほど」
どうやら力だけはあるようだな。
だが、動きに無駄が多い。
そうおもい、向かってくる左之助をすっとかわし、その首筋に一撃を加え、
そのまま剣心のほうにむけて蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
そのまま相手に一撃をも与えることもなく蹴り飛ばされて床にと倒れる左之助の姿。
バタン!
それと同時。
「……こいつが。四乃森蒼紫か?」
「左之助。大丈夫?」
雑魚ともいえる男たちを完全にとのして剣心たちの後から入ってきている弥彦と薫。
それと同時に扉のほうにと吹き飛ばされてきた左之助に声をかけていたりするが。
「忠告は素直に聞くもんだ。」
蹴り飛ばした左之助のほうをちらりとみて淡々と言い放ち、そして。
「次はお前の番だ。抜刀斎」
ふたたび剣心に視線を戻してすちゃりと刀を構えて言い放つ。
「あれは……小太刀?」
「そう。刀と脇差の中間の剣。刀より短い分、攻撃力に劣るけど、
  軽量で小回りがきくので、防御力は非常に高い。盾とつかえる刀よ。」
お庭番衆の頭である蒼紫が手にしている獲物をみて、思わずつぶやく弥彦。
そしてまた、そんな弥彦に答えるようにと説明している薫。
一応、弥彦は薫の弟子でもあるがゆえに、そういった知識を教えるのも薫の役目。
「なるほど。小太刀…でござるか。小太刀で守りをかため、それでいて拳法で攻撃をする型か。
  確かに、通常ではそれで敵は倒せるでござるな」
!?
説明もしていないのに、見ただけで自分の技の特製を言い当てている剣心に驚きつつも、
だが、その驚きは表面にはださず、
「抜刀斎。お前に私怨はないが、最強の維新志士としてここで死んでもらうぞ。」
淡々と剣心にむかって言い放つ蒼紫。
「……どうやら。武田観柳のために戦っているわけではなさそうでござるな」
やはりでござるか。
この男はあの観柳のために戦っているわけではないのでござるな。
そんなことを思いながらも、とりあえず確認のためにと問いかける。
「あたりまえだ。あんな男どうなろうとしったことではない」
そんな剣心の問いかけをあっさりと認める蒼紫に向かい、
「……江戸城お庭番衆として、つぶれた徳川幕府のためでござるか?」
彼はそのようなことに執念を燃やす人柄ではないであろうが、
だがしかし、その誇りというものはもっているであろう。
というのは明らかに明白。
そんな剣心の問いかけに、
「……お前もしっているだろう。鳥羽伏見の戦いでの徳川慶喜の振る舞いくらいは……」
小太刀を身構えたまま言い放つ蒼紫。
「ああ。徳川最後の将軍、徳川慶喜公は、
  幕府軍の劣勢を知るや否や、自身と重臣たちだけで大阪城にと逃げ出し、軍艦で江戸へと逃亡した。
  戦場で命をかけて戦っている万を超える兵士達を見捨てて……な」
官軍…すなわち、自分が所属していたほうの部隊は人数はすくなくも、
だがしかし最新兵器などを用いていた。
そしてまた、自分もまた…いくつかの幕府軍を一人で壊滅した。
という経験があるがゆえに、そのことはよくわかっている。
彼がいなければまず、幕府軍は劣勢にならなかったであろう。
とまことしやかに噂されているのもそのため。
事実その通りであるのだが。
「江戸へ逃げ帰った後は、絶対恭順を決め込み、上野の寛永寺にとたてこもり。
  そして、全権を任された勝海舟と、西郷隆盛との会談によって江戸決戦は回避され。
  そして…王城、江戸城は無血開城となった……そして、お庭番衆は戦うことなく幕末を終えた……」
すでに鳥羽伏見の戦いがおこるその昨年に政権を形だけは天皇に返上してはいたが。
それでもそれは形式だけのものであった。
「腑抜けの徳川などはもはやどうでもいい。
  ……だが、戦えなかったことのみが俺たちお庭番衆たちにとっては無念。
  歴史の流れにもしもはないが……もし、あのとき。
  江戸決戦があれば、――俺たちが戦っていれば、維新の勝利は幕府側であったはず」
当時のことに思いをはぜて淡々と話す蒼紫。
「江戸中に火を放ち大火を起こし、その混乱に乗じて、西郷、桂、大久保等の官軍を担う、
  中枢の志士を俺とお庭番衆たちが出向いて殺す。そうすれば、残りはほとんどが能無しの集団。
  そこで数で勝る幕府軍が一気にたたき潰す。それで終わりだ」
そのために、町の人々がいくら死のうが、それでもかまわなかった。
当時の自分達はとにかく、江戸城を守ることが何よりの使命。
「馬鹿か!てめえ!そんなことできるはずがないだろうがっ!」
「できるさ。何なら今から実践してみせようか?この東京でな。」
こ…こいつ……
さらっと表情一つ変えることなく言い放つ蒼紫の台詞に思わず怒りがこみ上げてくる。
こいつ、それがどういう結果をもたらすのかわかっていってるのか!?
などと左之助は思っていたりするのだが。
「……なあ。一つきいていいか?薫」
剣心たちがそんな会話をしている最中。
未だに扉からさほど離れた場所ではない場所にと立ちすくみながら、横にいる薫にと問いかけている弥彦。
「何よ?」
そんな弥彦の問いかけに、思わず反射的に答えている薫。
「あいつ、幕末の江戸城お庭番衆だってんなら、いったいいくつなんだ?」
一目お庭番衆のお頭だという四乃森蒼紫をみてからおもっていた疑問を投げかける。
「さあ?」
そういえば、いくつなのかしら?
薫もまた弥彦の疑問をうけ、首をかしげるが。
「蒼紫は、今は二十四のはずでござるよ」
そんな二人の会話を耳にとはさみ、後ろにいる二人にとさらっと説明している剣心。
「二十四~!?…剣心。お前やっぱりばけもんだろ?!」
そんな剣心のさらっとした説明をうけ、おもわず叫んでいる弥彦。
「うろ?」
そんな弥彦の叫びに思わず間の抜けた声をだしている剣心。
「どうみても、お前のほうがあいつより年下じゃないかよっ!お前絶対に二十八にはみえねえよっ!」
そんな剣心にとむかい、叫ぶようにと言い放つ弥彦。
どうみても、蒼紫のほうが剣心と見比べれば年上に見えてしまう。
そもそも、剣心が二十八歳というのもいまだに信じられない事実なのだから。
『……確かに。』
思わず正直な感想を叫ぶ弥彦の台詞に、その場にいる全員。
即ち、蒼紫すらをも含めた全員がこくりとうなづいていたりする。
「たしかに。その子供のいうとおり。貴様はどうみても十代後半にしかみえないが。
  だが、きさまが真実、最強の維新志士であるには変わりがないこと。
  今さら、この東京を火の海にかえたとて何にもならない。
  今重要なのは何よりも、幕末維新における最強がお庭番衆であった。という証だ」
ふう。
そんな淡々という蒼紫の言葉に思わず軽くため息ともつかぬ息をつき、
「……あの時代。維新志士側も、幕府軍側もどちらをも問わず多くのものが戦いに投じた。
  それゆえに敵対もした……だが、それはそれぞれに信じる道のため。
  どちらが正しく、どちらが間違っている。とかではなく。
  ただこの国の未来を憂い、人々の幸福と安息のためにと命をかけた。
  それはおぬしたちとて同じ事であろう。おぬしは未だに幕末の呪縛から逃れられぬであるな。
  他者を巻き込む戦いは、当時としても今としても最もあまり好まれるものではござらんよ」
いって、きっと正面の蒼紫を見据え、
「その呪縛に捕らわれ、今をももって観柳に加担することによって人々を苦しめている。
  維新志士としても、そして流浪人としても、拙者、きさまをみすごすわけにはいかぬでござるよ。
  おぬしたちのためにもでござる!」
翁からも、彼等のことは聞かされている。
未だに幕末の後悔をひこずりそしてまた、彼等を束ねる立場ゆえに見捨てることをしないその心値。
それがわかっているからこそ、間違っていることからは引きずり戻したい。
「何とでもいえ。こないのならこちらからゆくぞ!」
だっ!
いうなりそのままダッシュをかけて剣心の間合いにと入り込む。
キッン!
もらった!
小太刀の攻撃が防がれるのは百も承知。
体を使い繰り出す技が相手にはいればそれでよし。
だがしかし。
ひゅっ。
「…何っ!?」
普通の刀では、小太刀を防ぐことはできても間合いに入り込むことは不可能のはず。
なのに、いともあっさりと小太刀をかわし、さらには繰り出した足の一撃すらをも交わしている剣心。
「って!?剣心!?」
「おい!それ…っ!」
「……なっ!?」
ふと剣心の手元に気づいてそれぞれに声をあげている薫に弥彦に左之助。
剣心が手にしている逆刃刀はいつももっている刀の柄ではなく、鍔元を握っていたりする。
それでも、血が一滴たりとも流れていないのが彼等の目には不思議に映るが。
「心配は無用でござるよ。相手の獲物は小太刀。それゆえに間合いを同じにしただけでござるよ。」
そんな彼等の心配した声に淡々とこたえている剣心であるが。
「なるほど。…これを見ただけですぐさまそのような判断をしてくるとはな。
  さすがは伝説といわれた男だけのことはある。
  日本刀は、斬るか押すかにして斬ることによって初めて真の斬れ味がわかる。
  握るだけでは、ましてや切味の最も悪い鍔元ならば骨に食い込むまではいかない。
  しかしそれでも手が斬れるはずだが……骨を切らせて肉を絶つ…か。
  人斬りの真髄、しかとみせてもらったぞ。」
自分の獲物を一目みただけで、すぐさまに間合いまで考えて身構えるその判断力。
それは驚愕せずにはいられない。
「でもないでござるよ?間合いは何よりも重要。それに。
  蒼紫。おぬしとて拳法を極めているのであれば気の扱いかたくらいはわかっているでござろう?」
「……なるほど。どうやら、きさま。ただ剣技のみが優れている。というわけではないようだな」
さらっといとも当然のように言い放つ剣心の言葉に、
自分が彼を剣の腕のみが優れていると勘違いしていたことにようやく気づく。
「動きを少しみただけでもわかるでござるよ。
  あの般若に拳法を教えたのはおぬしであろう?ゆえに、動きもまたほぼ同じ。
  気の扱いかたによっては、素手でもこうして刃を直接に握ることも可能でござるしな」
刃をもつ手にのみ多少気を集中して、軽い気の手袋をしているようなもの。
普通の手袋などではどうしても摩擦が生じるが、自らの気の膜ならばそんなものはおこらない。
どうやら……こいつは伝説の男といわれているだけあって普通の剣客ではない。
今さらながらにそれに気づき、
「では、こちらも本気でいこう。返礼としてお庭番衆お頭の真髄でしとめてやろう」
いうなり小太刀を構え、そしてゆっくりと動き始める。
流動的なその動きの遅さに普通なら惑わされ、そのままなすすべもなく今までの敵は倒された。

「……何?あの動き……」
「ゆっくりだけど隙がないわ。」
そんな蒼紫の動きをみて何やらいっている弥彦と薫。
流れるようでいて、それでいて目の錯覚を起こすかのような計算された動き。

「なるほど。拳法の動きと小太刀の特製をあわせた実践的な剣舞でござるか。……だがっ!」
目に映る動きに惑わされるがゆえに、間合いも鈍る。
それゆえに、空気の動き具合で相手の動きを探ることさえできればどうってことはない。
「飛天御剣流、竜巣閃りゅうそうせん
ドドドドド!!
「……何っ!?」
鋭い剣の連打。
普通ならばゆっくりと動くこの流水のごとくの動きにその技があたるはずもないのに。
自分の動きを読んだかのように、その連打の一撃は少しずつ空間をづれて炸裂してくる。
「……くっ!!」
下手に動けば必ずどこかに剣技があたるのは明らか。
それゆえに、その場にとどまり小太刀にてそれらの繰り出された技をどうにか受け止める。
と。
未だに剣技が正面から加えられているというのに、ふと気づけば剣心の姿が目の前に見当たらない。
「……まさか!?」
ふと上を振り仰ぐのとほぼ同時。
竜槌閃りゅうついせんっ!」
「…ぐっ!」
いつのまに上空に飛び上がっていたのか頭上より剣心が剣を振りかぶり降りて来る。
当人は頭上にいるというのに未だに術が正面から加えられているような錯覚に陥るのは、
それ即ち。
光速ともいえる打撃によって生じた空気の抵抗を利用しているがゆえ。
キィン!
かろうじて体にくわえられるであろう攻撃よりも頭上攻撃のほうを重視して、
頭上にと小太刀をもっていきそれを防ぐ。
それと同時に体に空気の塊ともいえる打撃が加えられ思わずよろけてしまう。
と。
「…がっ!」
それと同時に喉に鋭い痛みが走り思わず声が擦れる蒼紫。
みれば、剣心の剣の柄による一撃が自らの喉に直撃していたりする。
「……さ。さすがだな」
ごふ。
あまりの衝撃に思わず口から血が吹き出るが、それはどうでもいいこと。
「だが。次は同じ手はくわない」
常に攻撃を仕掛けながらゆっくりと動いていけばいくら抜刀斎とて攻撃をかわうことを優先し、
今のような攻撃を繰り出す暇はなくなるはず。
そんなことを思いながら再び身構え動き出す。
カンキンキンッ!
ガッ!
腕や足で繰り出した攻撃はことごとくあいているもう片方の手や、
それぞれの両足でいともあっさりと防がれる。
小太刀によって繰り出した技もまた、同じ間合いにしている逆刃刀によって防がれる。
だが、この状態を保てば守りに徹するあまりに隙ができる。
その一瞬の隙に仕掛ければ全ておわる。
そう判断し、
「……死ね」
いいながらも、相手の動きが止まった一瞬を見計らい、回転しつつも斬りつける。
「回転剣舞」
完全にこの技で勝利を確信している蒼紫。
この技を繰り出してよけきれたものは今だかつていない。
が。
ひゅっ。
がきっ!!
手ごたえがたしかにあった。
そう思うのとほぼ同時、自分の目の前に浮んでいる見慣れた鞘。
「……何!?」
カララン……
蒼紫が驚愕の声を漏らすのと、今蒼紫によって切刻まれた小太刀の鞘が床にと落ちて音を立てる。
「動きを見極めるために、利用させてもらったでござるよ。」
彼が繰り出してくる技の隙をつき、無防備にとなっていた脇から一瞬のうちに、
そこにあった小太刀が収まっていた鞘を引き抜き上空にと放り投げていた剣心。
それゆえに、蒼紫の小太刀の鞘が剣心と蒼紫のちょうど中間にと放り投げられ、
今蒼紫が放った技は、鞘を切り裂くことによって攻撃の威力はいともあっさりとそがれていたりする
ばっと後ろに飛び退き、そして自らの腰にあったはずの鞘を確認し、
「……たいしたもんだ。
  今の一瞬の間にこの俺から鞘を引き抜いて、術の威力をそれにより半減させるとは…な。
  最強の男といわれるわけだ。」
いくら術を繰り出していたとはいえ、自分の体から鞘が引き抜かれていたことにすらきづかなった。
すなわち、それほどまでにすばやい動きであったのは明らか。
しかも、あいては息一つすら乱していない。
その事実に気づいて驚愕しながらも、額に一筋汗を流し、それでも。
「きさまが最強の男だというのはこの俺自身、認めよう。だが!
  それゆえに、最強の称号をお庭番衆、俺たちのものにしたくなった!」
これほどまでの男を倒せば、彼等とて生きる意味がまた出来上がる。
それゆえに蒼紫としてはひくことはできない。

『剣心っ!!』
キッン。
……何!?
再び繰り出した回転剣舞。
それが抜刀斎を捉える直前、なぜか彼は握っている刀を鞘にと納めた。
この一瞬で抜刀術を使われれば間違いなく自分は直撃される。
そんな時間があるかどうかはふめいだが。
彼の抜刀術は神速といわれている速さ。
だが、術を止めることなどはできはしない。
パシッ!
「……な!?」
そのままとどまることなく術を繰り出す蒼紫であるが、自らの動きが止められたことに思わず絶句する。
ふとみれば、自分が繰り出した小太刀を両手で挟んで白羽取りを行いとめている抜刀斎の姿が。
「蒼紫。回転剣舞。たしかに見事。目にみえる動きに惑わされれば間違いなく勝機はないでござろう。
  だがしかし、回転剣舞で攻撃に転ずる一瞬。動の動きが生じるでござる。
  剣術、五百余流派、通じて唯一の徒手空剣技。拳法だけが徒手空剣技ではない。
  ということでござるよ」
剣を動かそうにも強い力で抑え込まれているのか微動だにできない。
「白羽取り!?」
あの一瞬のうちにあいての剣を捉えた剣心のすばやさに思わず驚き声をあげる弥彦。
そしてまた、蒼紫とてその驚愕は隠し切れない。
ほんの一秒たらずの隙を目の前の男は見逃すことなく剣を捉えた。
即ち、その直前に剣を鞘にと収めたのはこれを行うため。
そう理解するのに時間はかからない。
「蒼紫。最強の称号など、ほしくばいくらでもくれてやる。
  そんなもの拙者にはうざったいだけ。今の拙者には、拙者の助けをまつものと、
  そして喜びや悲しみを分かち合える仲間のほうが何十倍も大切でござるっ!」
ごっ!!
未だに驚愕して固まっている蒼紫にむかって白羽取りしている小太刀をそのまま握ったまま返す。
それと同時に、小太刀の柄が蒼紫の喉を直撃する。
「…ごふっ……」
先ほどの喉にうけた衝撃の痛みもさめやらぬなか、さらなる強打が加えられ、
口からおもいっきり血が吐き出される。
負ける?この俺が?
「無理するな。ひけ。蒼紫」
「…ま、まだだっ!」
こん身の力を振り絞りどうにか刀を握ったままの剣心に拳を繰り出す。
「くっ!」
彼が一撃を加えてくるその動きをみてとり、そのままぱっとすばやく刀を手放し、
後ろにと飛び退く。
どさっ。
最後の力を振り絞って拳を繰り出したがゆえに、そのままその場所にと倒れこむ蒼紫。

「剣心!」
「剣心、大丈夫か?!」
「……というか、おめえやっぱりばけもんだろ」
後ろに飛び退きながらもきちんと体制を整えている剣心の元にと駆け寄る薫に弥彦に左之助の三人。
「化け物とは心外でござるな。…それより、蒼紫……」
そんな左之助の台詞に苦笑しながらも、倒れている蒼紫に視線をうつす。
「…そういやあいつ…しんだのか?」
剣心が彼の喉元に剣の柄を突き返したのはかろうじてみえた。
喉にあれほどの一撃を加えられれば普通は死んでもおかしくはない。
「いや。気絶しているだけでござるよ。二度におよぶ強打で完全に喉を痛めたにも関わらず、
  すぐさまあんな呼吸の溜めを必要とする一撃を放てば強烈な激痛と呼吸困難を伴うことは必死。
  結局…決してひこうともしない、自らの闘争心が、自らの敗北を招いたでござるよ」
「よっしゃ!とにかく後は恵を助け出すだけだなっ!ど~んとこいってんだ!」
バタン!
弥彦が言うと同時に、扉が開かれそこから顔を覗かせてくるお庭番衆たち四人。
「…うっ……」
彼等の気配を感じ取り、気力で何とか立ち上がり、すっと片手で彼等を制し。
そのまま剣心のほうを見据え、
「…なぜ、とどめをささない」
未だによろける体を何とか気力で保ちつつも剣心に対して問いかける。
「今の拙者は流浪人。人斬りではござらんよ。蒼紫。なぜ最強などにこだわる。
  今の時代、最強などたいした意味はござらんのではござらんか?
  おぬしほどの腕があるのなら、他に生かすみちもあるであろう」
お庭番衆のお頭を勤めたほどの男を維新政府などがほうっておくはずもなく。
仕官の話も多々とあったであろう。
それでも、彼がその話にのらずに残されたお庭番衆たちと共にこのような場に身を置いたのか…
何となく予想はつくが確認のためにと問いかける。
「……我等のためだ」
そんな剣心の問いかけに、多少したにとうつむきながら、
「仲間の中には新しい道をみつけたものもいる。だが、我等をみろ。
  戦うことしか能のないこんな俺たち四人を受け入れてくれる場所などはどこにもない」
傍目にも、自分達のお頭が負けたのは明白。
それゆえに、うつむきながらも剣心の問いかけに答える般若。
「そんな俺たちをお頭は見捨てず、自分の仕官の道を断ってまで。
  俺たち四人に新しい行き場所を与えてくれたんだ」
般若の台詞に続いて、式尉がうつむきながらも答えてくる。
それゆえに、彼等にとっては蒼紫が全て。
自分達のために自らを犠牲にしてまでつくそうとしてくれる頭だからこそ。
「…お前たちをお庭番衆として育て上げたのはこの俺だ。
  せめてだからお前たちに最強という名前の華を添えて誇りにかえてやりたかった。
  俺は最後の将軍徳川慶喜公のような醜い裏切りはごめんだ」
そう。
あのような裏切りは許せない。
それこそ自らの誇りにかけて。
そんな蒼紫の台詞に、
「蒼紫。徳川慶喜公は……」
彼のあの判断は、人々を守るにはあの当時としては最善の方法。
それゆえにこそ言いかける剣心。
「わかっているさ。徳川慶喜がした絶対恭順。
  それはこれ以上の国力を低下させないための高度な政治判断だろう。
  それでも…俺はごめんだ」
新時代、明治の世の中に放り出されたお庭番衆たちの行く先を見守りながら、
幕府がなくなったあとも彼等の面倒をみていた。
そして残ったのはこの四人。
異能技に秀でたものや、寝返ったものを好き好んで受け入れる組織などはどこにもなかった。
だが、彼等を育てて率いていたのは自分。
それゆえに、彼等に対しては蒼紫は負い目を感じている。
ゆえにこそ、彼等には苦労をかけたくなかったのも事実。
「抜刀斎。とどめをさせ。」
様々な思いをめぐらせつつも、すっと目をとじ、そして澄んだ瞳で剣心を見据え淡々と言い放つ。
「おかしら」
そんな蒼紫の台詞に、彼の背後にいる四人が目を見開いて呼びかける。
が。
「よい。…いいんだ」
そんな彼等の思いがわかっているがゆえにこそ、それでも。
負けは負け。
事実は事実。
情けをうけてまで生き恥をさらしたくはない。
「とどめをさすんだ。抜刀斎。でなくばこの先何度でもお前を狙うぞ」
最強という名前を彼等に捧げる。
その信念は一度負けても譲れない。
「かまわぬ。幾らでも気のすむまでいどんでくるがいい。
  だが他の者を巻き込む戦いは決して許さぬでござるよ」
そんな蒼紫に淡々と答え。
そして。
!?
「よけろっ!」
しばし蒼紫と見詰め合っている最中。
ふと別の位置にとある扉のほうにと気配を感じ、全員にむかって注意を呼びかける。
それと同時。
ドドドドド!
扉の向こうから、なぜか連続した銃弾とともに、部屋の中に打ち込まれてくる弾丸。
すばやく、ばっと弥彦を抱え上げ、着弾点からよけている剣心に、
剣心の言葉をうけてただ事ではない、と判断し横にいる薫を小脇に抱きかかえて退いている左之助。
「んふふ。私がとどめをさしてあげますよ。時代遅れの剣客に、お庭番。みんなまとめてね」
それとともに聞こえてくる観柳の声。
「……まさか、そんなものまでもっていたとはな。観柳!」
吹き飛ばされた扉の向こうにみえている人影にむかって叫ぶ剣心に、
「な…何だ?ありゃぁ?」
見たこともない装置を眼にして目を丸くしながらいっている弥彦。
「回転式機関銃。ガトリングガンですよ。
  しかもこれは、どの世界の軍にも紹介されていない最新式の横流し品!
  幕末のときのものとは比べ物にならないほどの高性能。試してみましょう。
  もう刀なんか振り回す時代じゃないんですよ。それを今から証明してあげましょう!」
そこには、何やら見慣れぬ何かを手にしている観柳の姿が見受けられていたりする。

ズガガガガ……
「!?」
あの音…まさか!?
観柳がガトリングガンを裏で購入していたのは知っている。
偶然にも地下に隠されているそれを目にしたことがあるがゆえ。
展望室でその間違えのない銃の音をききつつも思わず凍りつく恵。

回転式機関銃。
それは連続して銃弾を打ち出すことができる、甲鉄艦。元込式施錠砲と並ぶ、
幕末における三大兵器のうちの一つといわれている品物……

                             ――Go To Next

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あとがきもどき:
薫:とりあえず、回転式機関銃の追記説明~(こらこら
  機関銃の前進ともいえる武器です。終了!(こらまて
  というのは冗談として、1861年にアメリカの医師、ガトリングによって開発された武器です。
  連続して火縄などをつかわずに銃弾を飛ばせることからも脅威とされていた品もの。
  この当時に流通していたものは、かなり多きめのちょっとした大砲程度のものが主流で、
  手の平サイズの開発はいまだにされていなかったと思われます。
  …資料ものこってないしね(汗
  ちなみに、戊辰戦争の第三戦になる、北越戦争において、
  越後長岡藩が購入し、家老、河井継之助自らが操縦して官軍を翻弄したらしいです。
  あしからず……
  何はともあれ。ようやく次回で菫ちゃん…かな?
  んではでは~vv
  また次回にてv

2007年2月3日(土)某日

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