まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

う~ん。お庭番衆さん編……2話ではすみそうにないなぁ……
のんびりまったりと打ち込みしながら、届いた(まて)ロスユニ観賞中v
あれもかなりよかったのに、スレほどひろまらなかったなぁ。
当時としてはCG使いのアニメって珍しく、今みても斬新なんだけどなぁ。
最近のアニメのCGっていかにも使ってます、といわんばかりにあってないのが多すぎる……
それはアニメといわず、他のものに対してもですけどね(汗

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「……しかし、隆生殿」
「頼む!緋村抜刀斎殿!」
「・・・・・・・・・・・わかりました。」
維新志士の…桂のもとを去り、そして今。
ここ、会津にやってきているのは、官軍と幕府軍が戦いを始めると聞いたがゆえ。
少しでも、巻き込まれる一般人を助けようと一人の力が及ばない。
そうわかってはいても、それでも行動にでずにいられなかった。
どちらの派閥にも属していないからこそできることがある。
逆刃刀に再びもちかえて、人斬りは自らに禁じている。
それでも、相手を戦闘不能にすることは可能。
混乱の中。
偶然に知り合った医者の家族。
彼等は自らの命を顧みずに被災者を救うためにとやってきたとか。
その気持ちは自分と共通するところがある。
ゆえにこそ仲良くなった。
それは戦乱の中における仲間意識といっても過言ではないのかもしれないが。
赤い髪に十字の傷。
彼が緋村剣心と名乗ったところで、それが緋村抜刀斎だと知られるのは至極当然。
彼を人斬り抜刀斎だとしっていても、それでも彼を彼個人として受け入れてくれた高荷家の一族たち。
そして…彼に託された願いは……傷ついた人々を安全な場所にまで連れてゆくこと。
そして……

剣客放浪記  ~決意と、そして……~

タッン…
「剣心っ!」
外で井戸から水を汲んでいる剣心にと家の中から駆け出すようにと走ってゆく。
「薫殿?」
出てきた薫が涙汲んでいるのをみて心配そうな声をだす。
そんな薫をみて、
「あ。もう峠こえた?二人とも」
にこやかにいっている菫の姿が。
そんな菫の台詞に、涙を浮かべたままこくりとうなづく。
言葉にならない。
とはこのことなのかもしれない。
そんな薫の様子に、ほっとしながらも、
「とにかく。いくでござる」
いって手桶に水をいれて部屋の中にと入ってゆく剣心たち。

「源才先生」
弥彦と左之助の間に座りながら手を拭いている源才にと障子をあけて話しかける。
「もう大丈夫じゃ。こんや一晩養生していれば問題ないじゃろうて。
  もっとも、こっちのほうは火傷のほうがひどいがのぉ。
  まったく。何をやってこんな火傷をおったんじゃか」

「源才先生。本当にありがとう。やっぱり東京一の名医だわ。」
規則正しく寝息を立てている弥彦をみて源才に抱きついていっている薫。
「礼ならこれを書いたひとにいうべきじゃよ。たいしたもんじゃ。
  解毒薬の材料から調合まで完璧に記してある。
  …まあ、菫ちゃんが先に全て材料を用意していた。というのもあるがのぉ。
  どうもその子は何かこう普通と違う力があるのかもしれんの」
普通どころか常識にもあてはまないのでござるが……
そんな源才の台詞に思わず心で剣心が突っ込みをいれるが。
「私は普通だけど。それに、剣心お兄ちゃん。何を考えているの?」
「い。いや、他意はないでござるよ。それより、左之助の火傷の具合はどうでござるか?」
びくっ。
菫に心というか考えていることを読まれたことを察して多少びくりと体を震わせ、
それとなく話題をそらしている剣心。
「まあ手当てはしたが、しばらくはあまり無理はしないほうがいいじゃろうな」
ひとまず、火傷に効く薬草を傷口に塗りこんで包帯を巻いている。
どうやったらここまで火傷をするのかとかなり疑問におもうが。
「まあ、炎の中に手をつっこめばね~。…防御くらいすればいいのに。左之助お兄ちゃんも……」
しみじみとづふやく菫に対し、
「?菫ちゃん。剣心からきいたの?」
あの場に菫がいなかったがゆえに、首をかしげて菫に問いかけている薫。
「薫さん。千里眼ってしってる?」
そんな薫ににっこりと微笑みかけている菫。
「……え?」
そんな菫の台詞に思わず問いかけようとする薫に対し、
「と。とにかく。二人が無事で何よりでござる。
  まあ恵殿ならば薬の調合を正確にいえても当然であるのでござろうけどな」
あわててどうにか話をそらそうとしている剣心。
できれば、菫のことはあまり詳しく薫達には知られたくない。
というか、万が一、詳しくしったら混乱するのは必死。
今までも、知って中には半狂乱になったものもいるのだからして……
そんな剣心の台詞に、
「剣心?恵さんから何か聞いてるの?」
昼間の話し合いで何か聞きだしているのかもしれないと剣心にと問いかける。
そんな薫の台詞に、
「いや。恵殿は自分のことは一切はわなかったでござるが。
  生まれ育ったところの言葉のなまりは、蓮っ葉な言葉遣いにしてもなかなか消せるものでもござらん。
  それゆえに確信したのでござるけどな。恵殿の名前は高荷恵。
  間違いなく、会津の高荷隆生殿の娘さんでござるよ」
そんな剣心の台詞に、ふっと意識を取り戻し、顔を横に向けながら、
「おい。剣心。どういうことだ?お前はあの女のことをしってるのか?」
未だにきちんと起き上がることはできないが、体を半分起き上がらせて問いかける。
「左之助っ!あんた、気がついたの?というかまだねてなさいっ!」
ぼすっ!
「……薫ちゃん。けが人には丁寧に……」
そんな左之助を力まかせに再び布団にと横たえている薫に思わず突っ込みをいれている源才。
そしてふと。
「…緋村殿?今、会津の…高荷…といいもうしたが。もしや?」
医者だかからこそその名前をきいてすぐに心当たりに気づく。
「恵さんは、会津のあの高荷隆生さんの第三子であり、長女ね。
  もっとも、隆生さんは、会津戦争で戦死してるけど。」
そんな源才の台詞に答えるかのように、さらっと説明している菫の姿。
「やはり。そうか。どうりで」
一人納得した声をだしている源才の態度に首をかしげ、
「源才先生?」
「?あの女、会津戦争の生き残りか」
戸惑いの声をだしている薫に、会津戦争という言葉に反応している左之助。
「そっか。薫さんたちは知らないんだ。会津の高荷家っていったら結構その筋では有名なんだけど。
  医者仲間とかでは知らないものはいない、有名な一族よ」
にこやかに、説明する菫の台詞に、
「ほおう。菫ちゃんは知っているのか。たしかに。菫ちゃんのいうとおり。
  会津の高荷家といえば、医者仲間では知らないものがいない一族。
  高荷家は医者として女も男も関係なく代々医学を学ぶ珍しい一族。
  そして何よりも患者はすべて平等にみるという信念で広くしられておった」
しみじみと追加説明する源才。
「まあ、まだ今のこの日本といわずこの星においては、
  いまだに差別って面白いことに落差あるからね。
  でも、そんな中でも高荷家の人々はそういう差別をせずに平等に治療にあたってたのよ」
「「…星?」」
星って…夜空の?
何でここに夜の星がでてくるのか判らずに同時につぶやく薫と左之助。
一人、その菫の言葉をきき、剣心のみが多少冷や汗を流していたりするのだが。
「?まあ。よく今のたとえはわからぬが。たしかに。菫ちゃんのいうとおりじゃの。
  今以上に身分差別のひどい江戸時代において御殿医という高い位にありながら、
  病人とみれば身分に関わらずに全身全霊で看病する。
  身分制度を絶対の秩序とする武士階級の存在たちにとっては何とも厄介な存在じゃが、
  我々医者にとってはまことに【生ける理想】じゃった。中でも恵さんの父、高荷隆生はその極み。
  何しろ蘭学の高い効用のほどを知るや、いきなり脱藩。
  一家総出で長崎にと学びにいくほどじゃった。」
「といっても。今の明治に生きてる若い世代の人や、幕末の頃の人にとっては、
  あまりどれほどの覚悟がいることなのかわからないでしょうけどね。
  まずよくて死刑又は切腹は確実っていう行動なんだったんだけど」
「「…し、死刑って……」」
源才の説明に加え、さらっと何やら重要なとんでもないことをいっている菫の台詞に、
思わず突っ込みをいれている薫と左之助。
もっとも、左之助はといえば未だに布団に横たわったままで話を聞いているのだが。
「まあ。たしかに。つまりそれほどの覚悟がいることじゃったんじゃが。
  じゃが、高荷一家が特別に許され、会津に戻るとほぼ同時。
  幕末維新、天下分け目の戊辰戦争の一つ。会津戦争がはじまったんじゃよ。」
そこまでいって一息つき、
「高荷家は一番したの娘さんだけを残して、皆医者の指名を果たさんと、
  絶望ともいえる戦場におもむき。結果、隆生は戦死。母親と兄二人は行方不明。
  高荷家は幼い娘さん一人がたった一人だけのこされたと聞く」
淡々と薫たちにと説明をしている源才。
そんな説明をしている最中。
がらっ……
「……何で父のことを……」
氷を砕いて部屋にともってきた恵が耳にしたのは家族のことを話している源才たちの姿。
そんな恵の姿をみとめ、
「やはりそうでござったか」
「…では、この子が……、相当な苦労をしたんであろうな。
  だが、それであれほど細かく薬のことを説明できたのであるな」
そちらをみつつも、しみじみという剣心と、同情の意を示しながらも問いかけている源才。
そんな二人の台詞に、ふっとどこか遠くを見つめながら息をつき、
力なくその場にぺたりと座り込み、
「そのころの苦労やつらさなんて……あとのことを思えばずっとましだったのかもしれない」
それだけいって、これ以上彼等に真実をいわないまま迷惑をかけるわけにもいかない。
そう思い、
「家族と離れ離れになって会津から上京し、
  五年前、ある医者のところに助手として住み込んだんだけど。
  ……まさか、その医者が観柳みたいな男と組んで、阿片を作っていたなんて……」
阿片って……
恵のそんな告白に思わず絶句する薫と源才。
「……一年前、その医者が観柳とのいざこざで殺されて……
  私は唯一、その医者が編み出した新しい阿片精製の方法を知るものとして、
  観柳のところに連れて行かれたの……」
そこまでいって、ぽたりと涙を流しながら、
「……まさか、人を苦しみから助ける薬だ。とそう聞かされていたのが、
  まさか、人を苦しめて死に至らしめる阿片だったなんて……知らなかった。
  観柳のところに連れて行かれて始めてその事実を知って……
  父のような立派な医師になりたい。そう思って頑張っていたのに……
  それを知ったとき、死のうかとおもったわ。…でも、死ねなかった。
  生きて…生きて医学に携わってさえいれば、いつか離れ離れになった家族に会えるかも。
  そう思うとどうしても……」
いいながらも涙を流す恵に対し、
「でも。恵さんが観柳さんに追われているのって。
  そのお医者さんが生み出した新しい精製法を唯一知る人だからなんでしょ?
  たぶん、それって一般的に通称、【蜘蛛の巣】っていわれている阿片のことと思うけど。
  従来のものより濃度が高く、依存度も増しているがゆえに今、問題視されてるやつ。
  だけど、その割に市場にまだ少ししか出回っていないから、
  警察などでは警戒を強めているところみたいだけどね。
  それって、今の話を聞く限り、恵さんがそれを自ら作ることをせずに、
  市場に出回らなかったからでしょう?本格的に出回ってたらすぐにこの東京といわず、
  こんな小さな国なんてすぐに阿片で壊れてくし」
さらっと何気にある意味ものすごいことをいっている菫。
「なるほど。つまり恵殿はこれ以上の生産を止めようと、
  精製方法を自分自身の中に封じ込め、観柳のところから逃げ出したのでござるな。
  これまで携わっていた罪悪を放り出すことなくあえて自分ひとりで背負い込もうとしたのでござろう?」
恵の考えは自分の考えと似通っているところがあるがゆえ、的確なことをいう剣心。
菫が的確なことを知っているのは当たりまえであるがゆえに剣心は当然驚いていない。
「観柳って悪い人ね!…まさか、恵さんにそんな……」
まさかそういう理由だったとは。
弥彦がまだ意識を取り戻していないとはいえ、同情を感じ得ざるをえない。
そしてまた、あまりの内容になぜ菫が詳しくしっているのか。
という疑問は完全に吹っ飛び、観柳とかいう男のやり方に憤りを感じている薫。
「……知らなかったとはいえ、私が精製に関わっていたのは事実……それに……
  いつも何か実からその中の液体を精製してるのをみて……
  能率のいいやり方を考え付いて、医者に提案したのは私だもの……
  どう言い訳しても、私が人々を死に至らしめる新薬を作り出した。
  というのは紛れもない事実……。だけど。これ以上……わかった以上。
  これを世間にこれ以上、出回らせるわけにはいかないのよっ!」
ほとんど涙声になりながらも、裾から小さな紙に包んだ薬を取り出して畳の上にとおく恵。
よかれとおもって提案したことが、まさか人々を苦しめる結果になっていようとは。
そのときは夢にもおもわなかった。
あの方法がうまくいったときは、これで少しでも人々が救われる。
と信じていた。
なのに……
そんな恵の告白を横になったまま聞きつつも、その怒りをどこに向けていいのかわからない。
そんな行き場のない怒りを溜め込んでいっている左之助。
自分は目の前の女によって命が助かった。
それは紛れもない事実。
だが……友人を死に至らしめた阿片製造に携わっていた。
というのもまぎれもない事実。
しかも、おそらく、宵太はその新薬の阿片で死んだのであろう。
というのも明白。
だがしかし、恵が始めは人々を助けるためにと頑張っていた。
というのも今のでわかった。
知らないがゆえに、能率のいい方法を考え出す。
それは喧嘩においても、戦いにおいても能率のよさを考えるのはいずこも同じ。
「……なるほど。新型阿片の製造方法を知っているのは恵殿だけ。
  だから観柳はしつこく恵殿を追っているのでござるな。
  ……連中もそうやすやすとは諦めないでござろう。もうしばらくここにいたらいいでござるよ」
いいながらも、がらりと障子戸をあけて縁側にと出る。
「…でもっ!」
そんな剣心の台詞に、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
そう思い思わず叫ぶ恵であるが、
「もう、自分を責めるのは止めるでござるよ。恵殿は十分に苦しんできた。
  それで十分でござらんか。よいでござるな。薫殿」
「いいわよ。一人ぽっちのつらさは私も知ってるし。
  もし、源才先生や、剣心がいなかったら私は今でも一人ぽっちだったとおもう。」
剣心の問いかけと、そして今の恵の告白と彼女の生い立ち。
それを考えるとこのまま関係ないといって追い出すことなどはできない。
彼女はどちらかといえば被害者。
知らないままにたとえそれが阿片製造に関わっていたとしても。
世の中、弱いものを虐げて強いものが利益を得る理不尽がまかりとおっている。
それが何よりも許せない。
そんな二人の台詞に思わず目を見開くしかない恵。
意識しないままにそのまま涙が無言のまま零れ落ちてゆく。
そんな恵の様子をみつつ、そのままぷいっと横をむき、
寝入ったようにと目をつむる左之助。
友人を死に至らしめた阿片。
それの製造に目の前の女は携わっていた。
それが今はっきりとわかったが、何よりも彼女は知らずにやらされていたこと。
そしてまた…それを知ってある意味死を覚悟で逃げ出している。
というのも理解できる。
理性で理解はできても…気持ちがすっきりするわけでもない。
もやもやする気持ちを心の中にと押さえ込んだまま、左之助はそのまま目を閉じてゆく。


薫達が弥彦たちの看病に追われているそんな中。
「そうか。癋見とひょっとこがやられたとは。その男ただものではなさそうだな」
武田観柳の屋敷の一室にて本に目を落としながらも報告をうけ返事を返す。
「はっ。あの太刀筋からみて。そうとうの使い手だとおもわれます」
この自分ですらあの動きは見極め切れなかった。
案にそのことを含めながらも窓の外より報告する。
「よし。その男の正体を探れ。判り次第報告しろ。それよりお前のほうはだいじょうぶなのか?」
報告によれば、癋見とひょっとこはしばらく使い物にならないとか。
特に癋見のほうのダメージはかなりのもの。
ひょっとこは顎の骨にヒビがはいっているらしくいつもの実力の半分もだせないだろう。
という報告。
「は。かろうじて……まさか一瞬の隙をついて、この私にまで一撃を加えているとは。
  しかも、人体の急所である肝臓を……」
あのとき。
癋見がもっているであろう解毒薬を求めてあの赤い髪の男が自分に向かってきた。
ふと気づけば、癋見の服が切り裂かれ、もののみごとに解毒薬は男の手に。
それだけではなくよもや自分にも一撃を加えているなどとは。
あのときは逃げることのみに気がまわっていたのであまり気にしなかったが。
もし、あの男が本気で自分をも倒そうとおもっていれば間違いなく、
自分もあの場に倒れていた。
それが判っているがゆえに油断がならない相手だと身にしみて思う。
「そうか。ともあれあまり無理をせずにあの男の正体をさぐれ」
「…はっ!」
この般若ですら動きが見極められない剣客など…普通いるとは思えない。
そんなことを思いながらもひとまず次の命令を下す。
命令をうけ、その場から遠のいてゆく般若の気配を感じつつ、
「赤い髪。左の頬に十字傷…ひょっとして…その男……」
しばし今の報告の男性の特徴に思い当たることがあり考え込む。
報告を受けているのは黒い髪の短髪の男性。
どこか落ち着いた雰囲気をもっているのは、その若い身で重い役目を負っていたがゆえか。

「わ~。おはぎだ。おはぎだ」
目の前にでんっと積み上げられているおはぎにはしゃいだ声をだす二人の幼子。
「おはぎなんてつくるの。何年ぶりかしらね」
いいながらも、髪をまとめていた布を取る。
さらっと長い髪が布を取ると同時にさらりと流れ落ちる。
「おはぎだ。おはぎだ~」
「すずめ、おはぎ大好き!」
目の前の机の上にとおかれているおはぎをみて目をキラキラとさせているのは、
源才の孫である雀と菖蒲。
ひとまず峠でもあった夜があけ、長い夜が嘘のように晴れ渡った空が広がっている。
「あれ?左之助は?」
「それがいないのよ。たぶん一度家にもどったんじゃない?」
この場に左之助がいないことにきづいて、元気になった弥彦が問いかけるが、
そんな弥彦にといっている薫。
不可抗力…というのか、何というのか。
すくなくとも昨日、この家に泊まり家にもどっていなかったのは明らか。
まあ、左之助は一人暮らしなので何も問題ないであろうが。
「ま。そのうちに顔をだしてくるとおもうし。先に弥彦ちゃんと左之助お兄ちゃんの回帰祝い始めない?」
コッン!
薫達がそんな会話をしている間にそのままそっとおはぎに手を伸ばす二人の孫をどうじにこづく。
「…菫ちゃん。だから、そのちゃんはやめてくれよな…ちゃんは……」
「気にしない。気にしない。それより、早くたべましょ?」
がくっと肩を落として菫に抗議の声をあげてくる弥彦の台詞をさらりとかわし、
にっこりと全員を見渡し話しかけている菫の姿。
「そうでござるな。ではいただくでござるか。」
いってそれぞれにおはぎにと手をのばす。
むぐ。
むぐぐ。
「ん?」
「あ」
「おいしぃ~!!」
そのまま一言二言いいながら、ばくばくとおはぎを食べている薫達の姿が見受けられていたりする。
「これはけっこうおいしいのぉ」
おはぎをたべながら、ひとまず徹夜の看病を一緒にしていた源才もまた、
おはぎをたべつつ恵にと感想を漏らす。
「でも、おはぎなんて誰でもおいしく作れますわ」
そんな源才にといっている恵に対し、
「いやいや。薫ちゃんがつくったおはぎは何というか……」
「かおるねぇのはいつもどろだんご~」
「雀。ほんとのことでもちゃんといったらだめだよ」
「……うっ。言い返せない……」
言葉を濁してちらりと薫を見る源才とは対象てきに、
きっぱりと無邪気にそれでいて悪びれもなくいう雀に、さらにおいうちをかけている菖蒲。
そんな雀と菖蒲の台詞に、おもわずおちこんでいる薫の姿。
「……ど、どろだんごっ…って……」
いったい全体どうやったら小さな子供までもがいうような品ができるのかしら?
恵が思わずそんなことを思いながら薫のほうに視線を向けると、
「こら弥彦。あんたは病み上がりなんだから、そんなに急いでたべないのよ」
ぱくぱくとおはぎを食べながら、弥彦のほうにと向かって何やらいっている薫の姿が。
「へん。そんなこといって。俺の分までたべようだなんてそうは問屋がおろすかっての」
薫の問いかけに答えながらも、両手におはぎをもちながらばくばくと食べている弥彦。
そこまで急いで食べなくてもいいような気もしなくもないのであるが。
「ばれたか。…あ、あの恵さん。こんどおはぎの作り方教えてくれない?」
「いいわよ。簡単だから」
くすっ。
そんなやり取りをみながらも、自分に教えを請うている薫に対しおもわず笑みが漏れる。
心から笑ったのは久しぶりのような気がする。
家族と離れ離れになり、心から笑った記憶は…ほとんど乏しい。
「よおし!今度は私がおいしいおはぎつくってあげるわね」
「げぇっ!?おまえのおはぎはどろだんごよりひどいじゃねえかっ!」
一度、薫が作ったおはぎを食べたことがあるがゆえに、即座に否定の言葉を発している弥彦。
ごしっ。
「まったく。怪我はなおっても、口の悪さは相変わらずなんだから」
そんな弥彦の頭上から薫の拳骨が一撃加えられる。
「やりやがったな!薫!」
そんな薫にくってかかっている弥彦であるが、口のまわりにつぶあんをつけてでは、
まったくもってただのじゃれあいとしか傍目にはうつらない。
「あ。弥彦の顔もおはぎみたい」
「やひこ、おはぎになってる~」
そんな弥彦の顔をみて、正直な感想を漏らしている菖蒲と雀。
「ほんっと。薫さんと弥彦ちゃんって仲がいいわよね~」
「そうでござるな。性格もよく似てるし。まるで本当の姉弟のようでござるな」
そんな二人をみながらも、にこやかにいう菫の台詞に同意している剣心。
「冗談!こんなぶすが姉貴だなんてまっぴらごめんだぜ!」
「こっちこそ!弥彦が弟なんて願い下げですからねっ!」
いいながらも、何やら言い合いをはじめている二人をみて、ふと寂しさにと襲われる恵。
脳裏に浮ぶのは、かつての幸せだったとき。
家族全員で、家族に見守られて薬草の調合をしていたあの懐かしい日々。
「…あ、私。洗い物してきますね」
涙をみせたくなくて、その場をすくっと立ち去る。
そんな恵をみて、
「?恵さん。どうかしたのかしら?」
心配そうな声をだす薫であるが、ふと。
「こらっ!弥彦!一人で四つも手にとらないのっ!」
両手に二つづつ、いじきたなくもおはぎを手にしている弥彦にと注意の声をかける。
そんな光景をみながら、
「ほんっと。仲がいいでござるな」
いってほほえましくもみている剣心。
剣心もまた家族のぬくもりというものをあまり経験してない一人。
それゆえに、ここの雰囲気はとても心地よい。
幼いころに両親が流行り病で死亡し、人買いにつれられ。
さらには、自分の目の前で全員追いはぎにと殺された。
そのとき、師匠である比古に拾われたのだが。
師匠との生活は、家族のぬくもり…というよりは日々鍛錬といっても過言ではなかった。
もっとも、それすらもとてもここちよかったが。
そんなことを思いながらも、庭にと出て行った恵のほうにと視線を向ける。
「剣心お兄ちゃん」
追いかけて外にと出ようと思っていると、ふと剣心を呼んで首を軽く横にふる菫の姿。
そんな菫の様子に何かがあると判断し、追いかけてでてゆくのを思いとどまる。
こういうときの菫に逆らうと後が怖い。
というのを身にしみてわかっているがゆえに。

ごしごしごし。
彼等はああいってくれたけど。
これ以上彼等に迷惑をかけるわけにはいかない。
そんなことを思いながらも、ごしごしと昨夜出た洗い物を洗濯桶にてしている恵。
処置がはやかったことと、材料がすぐにそろっていたことで毒をうけた二人は比較的早くに回復した。
本来ならば二、三日は安静にしないといけないところであるが、
何やら薬草の効能のあるお茶を菫という子供が二人に施し、完全に回復している。
「ハーブとかいってたっけ……」
西洋ではけっこう有名だとかはいっていたが。
自分はそれほど詳しくはない。
昨夜の騒動が嘘のような青空。
とりあえず夜になるのをまってこのままこの家を後にしないと、
さらに彼等に迷惑がかかってしまう。
そんなことを思いながら、洗い物をとにかくすまそうと手を動かす。
と。
ひゅっ。
カッ!
そんな恵の横をクナイがかすめ、地面に突き刺さる。
「!!?」
体を掠めて地面にと突き刺さったそれには何やら手紙が結び付けられており、
おそるおそるそれを手にする。
相手の姿は見当たらない。
それ即ち、お庭番衆の誰かがこれを投げてきた、という証。
震える手で結ばれている手紙を開いて目を通し、がたがたと震えながらも、それでも。
そこに書かれている項目を目にして思わず道場から飛び出してゆく恵。
そんな恵をちょうど一度家にともどってやってきていた左之助が目にし、
そのままそのただならぬ様子から何かがあったと判断しそのまま様子を見ることに。

「まいど、いつもお世話になっています。何かご入用はありませんか?」
「い…いいえ」
急いでいるのに、いきなり目の前に現れる小柄な何か物売りらしき男。
そんな男に戸惑いながらも答える恵に対し、
「そうですか。ですが…そちらにはなくても、こちらにはあるんですよ」
「!?」
言葉と同時に、小柄な男の体が一瞬裂けたかのように見えると同時、
恵の目の前に立っているのはお庭番衆の一員でもある般若、と呼ばれている背の高い男。
その両腕に不自然なほどに赤と黒の縞模様の色彩を施しており、
その顔には般若の面をかぶり表情はまったく読み取れない。
恵がその姿をみて絶句すると同時、
ぐっと恵の口もとをすばやく抑え、そのまま抱き上げて恵をつれてゆく。
「!…ちっ。お庭番衆……っ!」
まさか自分の目の前であの女を連れてゆくとはいい度胸だ。
そんなことを思いながらもそのまま、恵とお庭番衆の後を追いかけてゆく左之助。
さすがに相手はお庭番衆だけあり、すばやいが。
ふと人の気配を感じ取りそちらのほうにと足をむける。

「心配はいりませんよ。そこに書いているとおり、今あなたを傷つけたり、
  無理やりつれて戻ったりすることはしませんから。
  ただ、私はあなたに自分からもどってきてほしいだけなんでよ」
見れば、そこには見慣れぬ優男が一人と、そして先ほどのお庭番衆の一人。
そしてその前に恵の三人の姿が見てとれる。
「…そしてまた私に阿片を作らせる気ね」
恵の態度から相手が武田観柳であることは明白であるが。
警戒しつつも問いかける恵の台詞に、
「当然でしょう?あなた以外に誰がつくれるというのです?
  それにそれがあなたの仕事じゃないじゃないですか。あなたも納得してたんでしょう?」
その手にハマキをふかしながらも、にこやかにと話しかける。
「冗談っ!誰も納得なんかしてなかったわ。まさか阿片だったなんて……
  自分が阿片を実は作っていたと知って、幾度死のうかとおもったか……
  でも、どうしても死に切れなかっただけ。いつか…医学に携わっていれば、
  生き別れた家族にいつか会えるかもとおもうとどうしても……」
そんな観柳の台詞を即座に否定し、そして最後のほうはうつむきながらもつぶやく恵。
そう。
阿片を自分が作っていたと知ったとき、すぐに死のうとおもったのは事実。
だけども…どうしても死に切れなかった。
家族にもう一度会いたかったから。
「それでいいんですよ。恵さん。今にきっとご家族にあえますよ」
その恵の思いがわかっていたからこそ、あの医者を殺しても大丈夫。
という確信があった。
そしてその弱みにつけこんでこれから先も永遠に作らせる気でもあるからして。
「でも、やっと決心がついたわ」
そんな観柳の思惑は当然今の恵には判っているがゆえにきっと顔をあげて、
目の前の観柳を見据える恵。
「ん?」
そんな想像していなかった恵の態度に思わず首をかしげている観柳であるが、
「もう、家族に会えなくってもいい。これ以上、人を死においやる薬を作るくらいなら死んだほうがましよっ!」
きっぱりと観柳の目を見て言い放つ。
「あなた一人では死なせませんよ。神谷道場が原因不明の火事で消失。
  後で子供の死体も一つ二つ混じってる。なんてことになるかも……」
そんな恵の台詞にまったく動じることもなく、にこやかにさらりととんでもないことを言い放つ観柳の姿。
「…何ですって!?」
「どんなに警戒したって無駄ですよ。
  お庭番衆にとって火事の一つや二つ起こすことくらい朝飯まえですからねぇ」
……野郎……
にこやかにいう武田観柳の台詞を聞きながら思わず拳を握り締める。
そんな左之助の殺気に気づき、左之助が隠れている木のほうを見てくる般若であるが。
だがしかし、そのまま取るに足らない相手と判断して放っておく。
「あなたは私から逃げることは愚か、自分勝手に死ぬこともできないんですよ。
  これ以上、あなたも自分のせいで周りに迷惑をかけたくないでしょう?
  あなたと私はもはや一蓮托生。今までも、そしてこれからもね。仲良くやっていきましょうよ。
  これからさきもず~っとね」
その場に立ち竦む恵をそのままに、すたすたとその場を立ち去りながら、
「そうそう。今夜あたりから火事に注意してください」
いって呆然と立ちすくむ恵をそのままにその場をひとまず立ち去ってゆく観柳の姿。
しばし、観柳が立ち去った後もその場に立ち竦み、
「……逃げられない……観柳からも、阿片からも一生……」
その場に力なく崩れて泣き崩れてしまう。
もう、これ以上……
様々な思いをめぐらしながらも泣き崩れる恵の姿がしばしその場において見受けられ、
そんな恵を木の陰から隠れてみつつも、だまってその場を立ち去ってゆく左之助の姿が。

「なぜ、高荷恵をこのまま連れ去らない。
  さすがの武田観柳も、相手に人斬り抜刀斎がいると知って、恐れをなしたか」
恵から離れて少ししったさきの木の陰にて待機していた若い男性が言い放つ。
あの赤髪の男性の身元を調べるのは訳がなかった。
先日の黒笠の一件において、谷のところにおいて彼の正体は幾人かに知られていた。
谷が『緋村抜刀斎』と呼んでいたということも。
そしてまた、念のために今は警察の留置所の中で取り調べ中の谷にも確認したところ、
その剣客が赤い髪に頬に十字の傷のある男だと判明している。
そしてまた、その彼が今は神谷道場に、先日の偽人斬り抜刀斎事件より以後、
居候している、ということも。
だからこそ一晩で正体が判明し、武田観柳にと報告した。
「高荷恵は自分の意志で去っていった。
  ということになればいくら抜刀斎でもこれ以上かかわりはしないでしょう。
  力おしに事を進めて、伝説の人斬りの逆鱗に触れることは避けたほうが得策。
  所詮人斬りじゃないですか。動くわけがありませんよ」
そう。
所詮は人斬り。
そしてまた、そんな伝説になっている人斬りの逆鱗に触れることは避けたい。
まず逆鱗に触れれば命はないであろう。
というのは別に試してみなくてもわかること。
彼は剣心のことを知らない。
それゆえに、人斬りとしてしかみていない。
「…理由……か」
そんな観柳の勘違いに気づいてはいるが、それには今は答えずに小さくつぶやく。
そんな彼をそのままに、
そのまま恵が自分の意志で戻ってきて再び自分の元で阿片を作り出す。
そう確信しながらも帰路にとついてゆく武田観柳。
「お頭。鼠が一匹、迷い込んでいましたがいかがいたしましょう?」
観柳がその場を立ち去ってゆくのを確認し、
そこにいる自分達の頭でもある四乃森蒼紫にと問いかけている般若。
彼等にとって頭の意見は絶対。
また、頭の許可なくいらないことをするなど言語道断。
それは忍びの絶対のおきて。
「ほうっておけ。人斬り抜刀斎、緋村剣心以外気にすることのほどはあるまい。」
そう。
あの緋村抜刀斎以外はどうってことはない。
他はどうにでもなる。
そんな確信があるからこそ淡々と言い捨てる。
「はっ。」
頭である蒼紫の言葉をきき、そのまま再び掻き消すようにと移動してゆく般若。
後には、ただ静かに風が流れてゆくのみ……


「恵さん。お風呂どうぞ。…恵さん?入るわよ?」
時刻は気づけば夕の刻。
とりあえず部屋にいるはずの恵にと声をかける薫。
あまりに返事がないので許可がないけど障子戸を開く。
そこに居るはずの恵の姿はまったく見えず、机の上に手紙が一つおかれているのが目に入る。

それを目にとめてにとり、かさりと中身を開く。
そしてざっと目を通し、
「!?」
思わずそこに書かれている内容に驚愕しつつ、そのまま。
「剣心!恵さんがっ!」
お風呂を炊くのに薪をくべていた剣心がいる庭先にと走ってゆく薫の姿。
「何だ?手紙か?」
薫が何やらあわてながら走ってくる様子とその手に握られた紙をみて弥彦が声かけると、
「恵さん、会津に帰るって。」
息を弾ませつつもその場にいる剣心と弥彦に叫ぶようにと言い放つ。
「え?」
そんな薫の言葉に、思わず薪をくべていた手を止める剣心に、
「ちぇっ。一言くらいいってくれてもいいじゃねえか。俺ちゃんとお礼もいっていないしよ」
いいながら多少いじけている弥彦であるが。
「でも変ね。会津にかえっても、恵さんの家族は……」
「故郷にもどっても家族はいない。恵殿を待つものは一人も……しまった!」
気配が常に感じられていたのをうけて安心していた。
だがしかし、この場に彼女がいない、ということは。
それ即ち……
「……菫ちぁぁんっ……今度は何たくらんでるんでござるかぁぁ……」
がくっとその場に思わずしゃがみこでいる剣心。
そんな剣心の姿をみて、
『?』
意味がわからずに動じに首をかしげる薫と弥彦。
くすっ。
「あら?たくらむなんて。そんなv私はただ、恵さんの意志を尊重しただけよ♪」
「「うわっ!?」」
いつのまに。
というのが薫と弥彦の最もな感想。
いつのまにやってきていたのか、真横にいる菫の台詞に思いっきり驚いている二人であるが。
そんな菫に驚くことなくじと目でみながら、
「……つまり。恵殿も、そしてお庭番衆たちも助けろ。ということでござるか……
  まあ、それには依存はないでござるが…ござるが……
  いくら何でも恵殿がこの道場の中にいるように気配を見せかけるのはいただけないでござる……」
何やらぶつぶつとつぶやいている剣心。
そんな剣心の台詞の意味は薫にも弥彦にもまったくもってわからない。
判らないが……
「つまり。どういうことだ?」
戸惑いの声をあげる弥彦に対してにこやかに微笑み、
「つまり。恵さんは、どうやら武田観柳さんのところに戻っていったみたい。
  たぶん、先刻、武田さんから呼び出しうけてたみたいだから。
  脅されでもしたんじゃないかしら?たとえばこの道場を焼き討ちして、
  さらには、雀ちゃんたちも巻き込む。とかいって♡」
さらっと何気に重要なことを言うそんな菫の台詞に、
「って!菫ちゃん?!どうしてそれ早くいってくれなかったんだ!?」
思わず叫んでいる弥彦であるが。
「弥彦。いうだけ無駄でござる。とにかく。恵殿を救出に向かうでござる。
  ……で、菫ちゃんはどうするつもりでござるか?」
菫の出方次第によっては自分達の行動もまた考えなければいけない。
それは剣心は十二分に承知している。
そんな剣心の台詞に、にっこりと微笑み、
「私は後からいくわv所長さんに連絡して警官隊手配してもらっておくわね♪
  どうせ彼等、あの武田観柳さんの周辺、内定してたみたいだし♡」
「……いや、だから。どうして菫ちゃんそんなことまで知ってるの?」
「……剣心?いったいこの菫ちゃんって……」
さらっという菫に戸惑いの表情を浮かべている薫と弥彦。
そんな二人に対して、ただただ額に手を当てながら、
「……拙者にも詳しく説明しようがないでござるよ……と。とにかく。いそぐでござるっ!」
「よっし!ここで助けにいかなくて何が活人剣の活心流だ!」
「えらいっ!弥彦!よくいったわ!よおしっ!いくわよっ!」
剣心の言葉につづき、弥彦と薫もまた同時に言い放ち、
そのままそれぞれ準備をするために屋敷の中にと入ってゆく。
そんな二人の姿をみつつも、
「というわけで。薫さんと弥彦ちゃんつれて頑張ってね♪
  あ、左之助お兄ちゃんはさきにいってるみたいだから♡」
「……何か他にもたくらんでいるでござるな?」
「内緒♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何やらにこやかにいう菫の台詞の裏に他の意図を感じそれとなく問いただす剣心であるが、
いともあっさりとその問いかけは一言のうちにとうちすてられる。
これ以上いっても無駄。
というのと、そしてまた。
早くしないと恵が命を絶つ可能性がかなり高いがゆえに、
そのまま深く突っ込むことはせずに武田観柳の屋敷にむかって剣心は向かってゆくことに。
武田観柳の屋敷の場所は別に調べなくても、お庭番衆たちが戻っていった方向から、
いわずともなく判っている。
それゆえに、そのまま、急いで仕度をしてきた薫と弥彦とともに。
剣心、弥彦、薫の三人で武田観柳の屋敷にと彼等は向かってゆく姿がしばし見受けられてゆく。


「どうしようってんだ。観柳のところに戻って」
恵がだまって身をひいて観柳のところに戻るのは目にみえていた。
だからこそ先回りしてここでまっていた。
武田邸の門の目の前で。
案の定というか予想通り、日が暮れかける中、一人でやってきている恵の姿を認め
そんな恵にと話しかけている左之助。
「安心なさい。二度と人を殺す阿片なんかつくらないから。約束するわ」
そんな左之助の姿に驚きながらも、ふっと軽く笑みを浮かべて返事を返す恵。
「それじゃ、観柳が納得するはずないだろうが」
相手がそれで納得する相手ではない。
というのは自分もまた裏の世界では多少は名前が知られていたがゆえによくわかっている。
「約束は必ずまもるっていってるでしょ。だから邪魔しないで。急ぐのよ。」
どうやら後遺症もないらしいそんな左之助の姿にほっと安心しながらも、
そのままその横を通り過ぎて屋敷の中に入ろうとしてゆく恵。
「そんなに死にいそぐんじゃねえよ」
ぴくっ。
自分の意図を確実に言い当てられて思わず立ちすくむ。
そう。
もはや道はこれしかない。
観柳を殺して自分も死ぬ、という選択。
これ以上、世の中の人々を死に至らしめる薬を広めないためにも。
自分だけが死んでも観柳が生きているかぎりそれは続くのは明白。
だからこそ……
「嬢ちゃんたちには、剣心も、それにこの左之助もついてるんだ。余計な心配をするんじゃねえよ」
左之助が続けざまに紡ぎだした台詞に、
自分が観柳から脅されていることを、彼が知っていると理解する。
「……あんた」
思わずそんな左之助のほうを驚きながらも振り返る。
「さあ。嬢ちゃんたちが道場で心配してまってるぜ。それにどこかにあんたの家族もな」
友人が死んだのは、たしかに、彼女…恵が作り出した阿片のせいであろう。
それは紛れもない事実。
だけども、自分とて人を死なせたことがない。
といえば嘘になる。
赤報隊の一員として…そして、喧嘩屋として。
人はそれぞれに消せない過去をもっている。
彼女にとってはそれが阿片製造に知らないうちに巻き込まれていた。
ということのみ。
こういう考えが持てるようになったもの、剣心のおかげだよな。
と心のどこかで左之助は思いながらも淡々と恵に対して説得を試みる。
かつての自分からは絶対にそんな考えにはたどり着けなかったであろう。
いつも逃げていた自分では……
「ふ。もういいのよ。万が一家族が見つかったとしてどんな顔をして会えばいいの?
  私は…私は阿片製造の片棒を知らなかったとはいえ担いでいたのよ?
  阿片製造の犯罪者の…薄汚れた過去はどうあがいても簡単に消せるものではないわ」
阿片だと知ったのは、観柳の屋敷にきてしばらくしてから。
それに、あれから数度脅されて普通の阿片製造を行ったのもまた事実。
もっとも、判らないように品質を落として依存性をどうにか落として手渡したが。
それでも罪は罪。
「えらそうにほざくんじゃねえっ!」
そんなさも自分だけが全ての悪を背負い込んでいる。
というような言い草に思わず口調も鋭くなる。
「消したくたって消せやしねえ過去を背負っているのは、何もお前ひとりだけじゃねえんだよ!
  お前が死んだところで死んだものたちが生き返るわけでもねえ。
  生きていれば罪をつぐなうこともできる。……いつかきっと家族にあえる日もくる。
  ……死んだら何にもならねえよ」
そう。
彼女が死んだところで自分の友人が生き返るわけでもない。
それどころか、彼女の優れた医学はより多くの人を救えるはずである。
生きて一人でも多くの人を助けることが贖罪になる。
それは剣心がいっていたこと。
自分がしんでも……死んだものは…そう、生き返らないのだ。
それは命の重みを身をもって知っているものの台詞。
!?
「あぶねえっ!」
そんな会話をしている最中、ちょうど二人がいた位置にと砲丸がなぜか投げられてくる。
その気配に気づいて恵を抱きかかえその場をよけている左之助。
そんな左之助をみて、
「ほおう。俺の一撃を交わすなんか、なかなかやるじゃねえか」
何やら門の上に立ちながらも鎖のついた砲丸を手にしている男が一人。
「江戸城お庭番衆。元本丸警護方『式尉』」
何やら片手に鎖のついた砲丸を一つ手にしながらそんなことを言い放ってくる。
見たところ体にことごとく傷のあとが残っているちょっとした大男のようであるが。
「大人しくその女をわたさねえと、今度は骨ごと粉々になっちまうぜ。おらぁっ!」
いいながらも、そのまま再び手にもっている砲丸を投げてくる。
が。
がしっ!
「!?」
まさか受け止められるとは思っていなかったらしく驚愕の表情をしているその男。
そしてまた、地面にのめりこむほどの鉄の塊の砲丸をそのまま両手で受け止め、
ぐっと力を込めて相手の手から鎖ごともぎとり。
がすっ!
そのまま両手に抱えたそれを地面にとおとし、片足をのせ、
「こんなものつかわねえと、喧嘩もろくにできねえのかっ!この三下やろうっ!」
相手に向かって言い放つ。
そんな左之助の挑発に、
「本丸警護方まで勤めたこの式尉を三下よばわりとはな」
いいながらも、門の上から飛び降りてくる。
身長的には左之助よりもかなり高い大柄の男であるが、
その体格もまたがっちりとした筋肉質といった大男。
じゃらりとのこった砲丸の鎖をそのまま手放し、
「さあこいっ!こぞうっ!」
実力がわからないやつはこれだから。
そんなことを思いながらも笑みを浮かべて挑発する。
「上等だっ!いくぜっ!おらあっ!」
相手が挑発している。
というのは百も承知。
だが、これぞとばかりに相手にたいして連打を浴びせかける。
が。
「痛くもかゆくもないな。お庭番衆、式尉の力を特と味わうがいい」
「何?!」
確かに一撃は入っているはずなのにまったく堪えている様子がないのに驚く左之助。
それと同時に左之助が繰り出している拳をそのまま握り締め、彼の体を持ち上げ、
背後にとある門の入り口にとたたきつける。
相手が壁にたたきつけられて一瞬ひるんだその隙に、
そのまま頭突きを加える様子を目にし、
「!?」
崩れ落ちる左之助をみて思わず絶句する恵。
あの男が頭突きをくらわして今まで生きていた男は見たことがない。
それゆえの当然の恵の反応。
「てめぇ……」
だがしかし、恵の心配をよそに、多少ふらふらしつつも目の前の男をにらみつける左之助。
「よしなって。俺の頭突きをくらっても頭蓋骨が砕けないのはたいしたもんだが。
  中身まではそうはいかねえ。脳みそに伝わった衝撃で指一本しばらく動かせないはずだ」
そんな左之助の様子に半ば感心しながらもつぶやき、そして。
「お庭番衆として鍛えられたこの体。この俺様の体は全身が鎧であり、武器となる。
  この最強無敵の式尉を相手にしたことがお前の不運だったな。
  せめてもの情け。一撃で楽にしてやるぜっ!」
相手の状態を完全に過信してさらにとどめをさそうとするものの、
がしっ!
「……な!?」
繰り出した拳をそのまま両腕とも受け止める左之助に驚愕する。
「…最強だとか。無敵だとか…そんな奴は、この世に剣心だけで十分よっ!」
目の前の男たちは、ただ強いだけ。
力まかせに何とでもなる。
そういう連中。
心の強さからすれば到底剣心には及ばない。
それがわかっているがゆえに、相手の言い分が許せない。
「強さに溺れて武田観柳なんざの手先になったお庭番衆なんかがんなふかしこくんじゃねえっ!」
正確には、強さに溺れてではないのだが。
それは左之助は知らない事実。
だが、その強さも間違った方向につかえばそれはたしかに無用の長物。
「くっ。このやろう。いわせておけばっ!」
左之助の台詞に頭に血がのぼり、そのまま力まかせに拳を繰り出すが、
それこそが左之助の思う壺。
がっ!!
そのまま、相手の顎を懐にと入り込み力まかせに殴りあげる。
「……ぐっ………」
「いくら頭が固くても、中身はそうはいかねえ。だったよな」
おもいっきり顎に入り、そのままその衝撃は脳天につきぬけ脳にと直撃する。
そのまま、後ろにどさりと倒れてゆく式尉と名乗っていたお庭番衆の一人。
目の前で式尉が倒れるのをみて呆然としている恵。
あの式尉が……
昨夜毒をうけて体力が未だに完全に回復している。
とは言いがたいはずなのに。
驚愕し、その場にたちすくむそんな恵に、
「さ。かえろうぜ」
いって恵のほうを振り向きざまにと話しかける。
左之助が恵に話しかけるとほぼ同時。
がすっ!
「…っ!?」
別の場所から二人の戦いの様子をみていた癋見がそのまま立ちすくんでいる恵の懐に入り込み、
そのまま一撃を加えて恵を気絶させ、そのまま門の中にと連れ去ってゆこうとする。
「や…やろうっ!」
隙をうかがってやがったな!?
「けけけ。恵はもらってくぜ」
いって、門にと飛び上がり、屋敷の内部に入ろうとしたそんな中。
「左之っ!」
ちっ。
厄介なやつがきた。
そんなことを思い舌打ちし、即座にそのまま屋敷の内部にと入ってゆく癋見の姿。
「俺より…あ、あの女を…」
道の先からかけてくる剣心、薫、弥彦の三人の姿をみつつも、
連れ去られようとしている恵に視線を向けてつぶやく左之助。
「!恵さんっ!」
左之助の言葉に、恵が気絶させられて屋敷の中に連れ攫われようとしているのを見てとり、
思わず叫んでいる薫であるが。
そんな彼等の目の前で、恵はそのまま屋敷の中にと連れ去られてゆく。

「あいつは…観柳からおどされてやがったんだ。それで嬢ちゃんたちを守るために……」
自分がいたのにむざむざと連れ攫われたのに対して、自分自身に腹がたつ。
しかも、そこにころがっている大男一人にてこずった自分にも。
いくら体力がまだ完全ではないのかもしれない。
とはいえ、喧嘩屋で名を鳴らした俺がなさけねえ。
そんなことを思いながらも、薫達にと説明する。
「やはりでござるか」
そんな左之助をみながらも、低くつぶやく剣心。
もっと自分が気をつけていればまず避けられたはずの恵の行動。
「ここは命がけでも助けにいく!それができなくて何が活人剣の神谷活心流だ!」
自分はあの恵って女に助けられた。
しかも、力まかせに他人を縛りつけようとする武田観柳とかいう奴の行動が許せない。
自分とて、母の借金のため…といわれて、かつては掏りを強制されていた。
それゆえに、彼女の気持ちはよくわかる。
意識はまだ朦朧としていたものの、昨夜の会話は耳にと入っているがゆえ、
恵が置かれていた境遇は一応完全ではないものの理解しているつもりの弥彦。
「弥彦。…そうよ。やってやろうじゃないのっ!」
いつのまにか男の台詞をいうまでに成長していた弥彦に感激しつつも、
薫もまた弥彦の意見に同意する。
彼女をほうっておくなど、人として…また、神谷活心流の師範代としても放っておけない。
「弥彦。薫殿」
そんな二人の台詞をきいて、二人の心の優しさに思わず心がなごむ。
人の過去には捕らわれない、今の当人を見据えて隔たりなく付き合う。
それが当たり前のようにとできる二人だからこそ、守りたいとおもう。
それは真実。
「よっしゃぁっ!」
パッン!
たかがあれしきの攻撃でへばっているわけにはいかない。
それゆえに、気合をいれるためにと顔を自分でたたき立ち上がる。
「さっすが左之助」
「打たれ強いっ!」
そんな立ち上がった左之助に交互に言っている弥彦と薫であるが。
「……そういや、こいつはどうするんだ?」
未だにそこに倒れている大柄な男を指差しふと問いかけている弥彦。
「ほうっときましょ。それより、今は恵さんのほうが先よ。」
「ま。そのうちに菫ちゃんが警察をつれてくるでござるよ。さて。いくでござるか」
薫の言葉にこくりとうなづきながらも、
菫が警察に連絡してからこの場にくるとかいっていたのを思い出し、
淡々といっている剣心の姿。
……絶対に菫ちゃん…何かたくらんでいるのでござろうが……
……今はまだ、薫殿たちにはいわないほうがいいでござろうな……
そんなことを心に思いながらも、そのまま武田邸のほうにと視線をむける。

高荷恵の奪回。
それすなわち、元江戸城お庭番衆たちとの戦いである。
というのは、この場にいる全員がわかっている。
ゆえにこそ、それぞれ気を引き締めてゆく……


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あとがきもどき:
薫:さってと。次回でようやく突入編~。まあ、この剣心は、視野だけでなく気で探ることが可能。
  それゆえに……相手の攻撃などは目をつむってても…わかるんですよね(汗
  ……ちなみに、それは菫ちゃんの特訓のたまものだったり……
  何はともあれ、次回でようやく戦闘?編vではでは~vv
  また次回にてvv

 2007年1月31日(水)某日


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