まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

う~ん。このお庭番衆編……2話では収まらないかな?
どうも3話以上になるかもしんない……
ともあれ、ようやく高荷恵さんの登場ですv
蒼紫はもーちょいあとですvんではではvいっきますv

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ザッシュ……
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
お使いを頼まれ外にでていた。
今日は大切なひとたちがくるから。
と。
おそらくは、資金援助をしてくれているひとなのだろう。
そう判断し、少しばかりゆっくりとしてきてほしい。
そういわれ、言われたとおりにゆっくりとして戻ってきた。
目の前に見えるのは、自分が手伝っていた医者が部屋の中に横たわっている姿。
「……あ…あ……」
そしてまた、その場には見慣れない男たちが数名。
思わずその場にぺたん、と腰を抜かしてしまう。
そんな彼女にと気づき、
「おや?もうもどってきたんですか。いえね。彼があまりにも理不尽な請求をしてきましてね。
  まったく。誰が資金援助をしていたとおもっているのやら……」
にこやかに、横にいる男性が血のついた剣を握り締めているのにもまったく動じずに、
にこやかに自分のほうに向かって話しかけてくる。
そして、にっこりと。
「彼にはかなりの貸しがあるんですよ。とうぜん。あなたにもね」
「・・・・・・・?」
何が何だかわからない。
判らないが……身寄りのないこの身で、彼の申し出を断るわけにはいかず。
そのまま、彼のいうがまま。
彼女は…そのその場にいた、何やら胡散臭いような感じのする男性につれられ、
彼の屋敷にと移動してゆく。
なぜ、あの医者が殺されなければならなかったのか。
また、どうしてそれが問題にならないのか。
そういった疑問を抱きつつ……

剣客放浪記  ~逃亡美女?~

「剣心~!剣心ったらぁ!」
バン。
ガラッ。
ひょこっ。
井戸端も、庭先も、縁側も、ましてや部屋として提供している場所にも。
そしてまた、菫に提供している部屋にも、稽古場の中にも姿が見当たらない。
「剣心~??」
コンコンコン。
あとは残った場所は厠のみ。
それゆえに、たたいてみるが反応はない。
「どこにいっちゃったんだろ…まさか……」
朝から菫の姿も見当たらないこともあり、不安がよぎる。
先日、菫が自分に見せた夢の内容を菫が剣心に話していたところ。
剣心の表情が険しくなったのも気にかかる。
もうひとつのありえたはずの現実と菫ちゃんはいってたけど。
その意味あいがいまいちつかめない。
そんなことを思いながらも、だがしかし、あのときから抱いている不安は払拭されない。
「何やってんだよ。薫。剣心ならさっき左之助が用事があるとかいってつれてったぜ?」
そんな薫にと話しかけている弥彦。
「…本当?」
「嘘いってどうする?信用してねえなぁ」
そんな薫の心配そうな声に思わずあきれた声をだす。
「だって……。でもよかったぁ。てっきり今度こそ流浪の旅にでたのかとおもったわ。
  菫ちゃんの姿もみえないし」
ほっと胸をなでおろしつついう薫の台詞に、
「前からおもってたけど。おまえちょっと心配性じゃねえか?そんなに心配なら剣心に首輪でもつけとけよ」
「……いやんvいいかもvそれ。」
「…まじにうけとるなよ。おい……」
剣心に首輪をつけて、自分が手綱を握っている様を想像し、多少顔を赤らめている薫であるが。
そんな薫をみてあきれた声をだしている弥彦。
「菫ちゃんは、源才先生のところにいってるぜ。あと剣心は、左之助といっしょに友達の家にいったぜ。
  左之助がいうのは、そこで何でも仲間内で賭場をひらくんだってよ」
・・・・・・・・・・・
「と…賭場ぁぁ!?」
そんな弥彦の説明に、
思わず驚愕の声をだしている薫の姿がしばしここ、神谷道場において見受けられてゆく。

コロッン……
「さあさあ。次は半、丁どっちだ!?」
お茶碗に二つの小さなサイコロを入れてその目をみる。
部屋の中にいるのは数人ほど。
すでに幾度かもう勝負はついており、悔しがるこえと、歓喜の声が同時に入り混じっている。
「で?今度はどっちだ?」
ふぅ。
トントンと肩をたたいて問いかけてくる左之助の台詞にため息ひとつつき、
「五・六で半」
あきれつつもひとまず答える。
「よっしゃぁ!半っ!」
剣心の言葉をうけ、手持ちのお金がわりの札を半にとかける。
「いきやすっ!」
コロッン……
「五・六の半!」
「おっしゃぁ!」
剣心の読みどおり、そのままの数が面白いまでにくるがゆえに、嬉しがらずにはいられない。
「さっすが。飛天御剣流!読みのきれが一味ちがうぜ!」
おもわずガッツポーズをとりながも叫んでいる左之助に対し、
「まったく。一大事だというからきてみれば。左之。賭博はご法度でござるよ?」
ため息をつきながらも、横にいる左之助にと話しかける。
そんな剣心に対し、
「何いってんだ?お前のその逆刃刀だってご法度だろ?廃刀令違反」
いいつつも、剣心が肩に掲げている刀をつつきながらも逆に問い返す。
「まあ、そうでござるが……」
さらっと逆に指摘されて言葉を濁す。
「ま。そんなに心配することはねえさ。ここにいる連中は皆気のおけない奴等ばかりだしな。
  それに、仲間うちだけでこづかいをかけて楽しむ遊びだ。
  全員むかしっからのダチでよ。ま、柄はわるそうだけどな。気のいい連中ばかりだぜ」
にっと笑いながらもいう左之助に対し、
「一言よけいだぜ。左之さん」
「どうみても。一番悪そうなのは左之さんじゃないか」
周りにいるほかの男たちが笑いながらも話しかけてくる。
「それもそうでござるな」
そんな台詞にあっさりと同意を示す剣心に対し、
「あのなっ!」
いいながらも左ノ助の顔は笑っていたりする。
「ま。とにかく。お前はどうも何ごともまじめに考えすぎていけねえ。
  少しはもっと気楽にやらねえと人生全然たのしくねえぞ。しけた気分は今日でぱ~と晴らしちまいな」
いって、ばんっ。
軽く剣心の背中を叩く。
「…左之…おぬし……」
昨日の夜。
菫に特訓をうけていたのを見られていたのは知ってはいる。
左之助も、少しきになり道場にもどったのであるが。
稽古場の中において、菫が作り出したとおもわれる式神の剣心と、
つまりは自分自身と戦っていた剣心。
自制心がなくなっている状態の自分との戦いは、すなわち自らの持てる力を全てだしきらないと、
逆に自分の身が危険になる。
という稽古方法。
あんなのを毎日うけていればまず、気がやすまることはないだろう。
というのは何となくわかる。
今日、菫にあの方法を自分にも頼もうとおもっていたが、道場を尋ねたときすでに菫はいなかった。
それゆえに、先に剣心を気晴らしをかねて連れ出したのだが。
「そんなことより。次だ!次!」
「ふぅ。…ピンゾロの丁でござるよ。」
自分の肩に手をまわしていってくる左之助の態度に思わず笑みがこぼれる。
本当に楽しそうでござるな。
そんなことを剣心は思うが。
「はいりますっ!」
カララン…
「またまたビンゾロの丁!」
「よっしゃぁぁ!」
カラン、と空の茶碗の中に転がされた二つのサイコロの目は、
ことごとく剣心の予測どおりに目が出ている。
再びガッツポーズをとる左之助をみながら、
「左之さん。今日は絶好調ですね」
「というか。久々なんだから手加減してくださいよ」
「何か今日はやけに気合はいってますね」
口々に左之助にと話しかけている左之助の仲間たち。
「あたぼうよ。今日は秘密兵器がいるからな。それに、飴売りの宵太にちょっとした借りがあってよ。
  今日は利子をつけてかえしてやろうとおもってやってきたんだ。
  そういや、宵太はどうしたんだ?博打ときけばいつもとんでくるのに」
いつもいるはずの、友達の一人がいないのに気づいてきょろきょろと回りを見渡す。
そんな左之助の言葉に全員が下をうつむき。
「…左之さん。知らなかったんですか?宵太は…死んだっすよ」
ガタッ!
「あんだとぉ!?死んだって病気か!?それとも事故か?!
  あの元気だけがとりえのやろうが…まさかっ!」
目を見開いて驚愕しながら立ち上がる。
「…阿片…です。」
「……何?」
「誰から手にいれたのかわからないんですが。体にいい薬だってそそのかされて。
  阿片だって気づいたときには……もう……」
そのまま、本能がもとめるままに大量の阿片を吸い死亡した。
そんな彼等の説明に、力なくその場に座り込む。
……どこのどいつが……宵太に阿片なんかを……
もっとはやくに自分が気づいていれば防げたかもしれないのに。
そんな自分を責める思いが脳裏をよぎる。
「阿片……一般人には高価すぎてなかなか手がでない代物のはずでござるが……」
簡単に生成できるわるには高価として扱われている。
というのは、一応菫の特訓をうけているのでしっている。
もっとも、毒やそういった代物に関する知識と対応もまた叩き込まれているのだが。
そんな会話をしている最中。

バタバタバタ。
「まちやがれっ!このあまっ!」
「もうにがさねえぞ!」
何やら外が騒がしい。
と。
ガラっ!
勢いよく出入り口の引き戸がひらかれる。
みれば、息を切らしている腰のあたりまで髪を伸ばしている女性が一人。
……彼女は……
剣心がその姿をみて、思わず目を見開くと同時。
はっと、その女性の視線が剣心の横に置かれている剣にと目をとめる。
そして。
「たすけてっ!」
いいながらも、草履をそのまま吐き捨てるようにして部屋の中にと入り込み、
「助けてください!悪い人たちに追われているんですっ!お願い…助けて……」
剣心に抱きつくようにして懇願する。
それと同時。
「こら恵!」
「てめえ!もうにげられねぜ!」
いいながらも、人の了解も得ずに人の家の中に踏み込んでくる男が二人。
「…今度はやろうどもか。何だ。てめえらは」
うつむきながらも、そんな彼等にとつぶやくようにと問いかける。
「うるせえ!俺たちが用があるのはその女だけだ!てめえはひっこんでろっ!」
そんな左之助の台詞の裏に隠されている感情を読み取ることもなく、
「その女、さっさとわたせっ!でないとっ!」
交互に叫ぶようにと言い放ち、これみよがしに剣を抜き放ったままで部屋にと上がりこんでくる男たち。
そしてそのまま、一人が今、入ってきたばかりの女性の肩をつかむ。
「…いやっ!」
男の手が肩に触れたのをみて悲鳴をあげるその女性。
それとほぼ同時。
どがっ。
「俺はいま、気がたってんだ。口の利き方に注意しなっ!」
ふりむきりざまに、その男に一発右ストレートパンチを繰り出す左之助。
そのままよけることなく、左之助に殴られて吹き飛んでゆく男が一人。
「て…てめえ!こんなことをしてただですむとおもってるのか!?
  俺たちゃ、観柳さんの私兵団員だぜっ!?」
めしっ。
「注意しろっていうんだよ。」
虎の意を狩る何とやら。
何やらわめく男の顔をそのまま、めりっと足蹴りする。
「武田観柳。まずいよ。あの観柳の手下どもか。いくら左之さんでも。相手が悪すぎる」
そんな左之助に対して心配したような声をあげている左之助の友人たち。
「武田観柳…でござるか?」
そんな彼等のほうにと向き直り、問いかける剣心に対し、
「町外れに住んでいる青年実業家。だがしかし、青年実業家、とは表の顔。
  裏ではかなりの私兵団をもち、かなり悪どいことをしている。っていうもっぱらの噂だ。
  ここ数年で財力をつけた胡散臭いやつさ。この町のものはみな。
  やくざから政治家までこいつとの争いをさけてやがる」
淡々と説明している左之助。
そして。
「あんた。奴とはどういう関係だ?」
飛び込んできた女性にと問いかける。
「わ…私は何もしらないんです。ほんとうにっ!」
そういいかけると同時。
「嘘はいけないな。高荷恵。」
玄関先の隅より聞こえてくる別の声。
そこにいるのは少し小柄な男性が一人。
ちょこんと部屋の隅に座っていたりする。
「な!?いつの間に?!」
「何だ!?こいつ?!」
などと、その男の姿をみて何やら驚きの声をあげている左之助の友人たち。
…先ほど男たちと一緒にはいってきていたでござるけど……
そんな彼等に対し、内心突っ込みをいれている剣心。
「いたいけな女を装って同情をかおうなんざ、たいした女だぜ。
  監視役が二人だけだとおもって逃げたみたいだが。
  お前は常に日常的に、お頭の配下のものに見張られてるんだよ。
  お前の担当がこの癋見べしみというのを忘れてもらっちゃ困る」
そんな剣心たちの反応は何のその。
恵、と呼ばれた女性にと淡々と何やらいっている癋見となのったその男性。
ふっ。
そんな彼の台詞に、ふっと笑みを浮べ、ぱさりと髪をかきあげて、
「帰って観柳に伝えな!私はどんなことをしても絶対に逃げ切ってみせるってねっ!」
一歩足を前に踏み出して、その男性にと決意をこめて言い放つ。
「くくく。かわいいね。逃げ切れるとおもっているところなんか。特に……」
いいながらも、すっと片手を前にと出す。
ぴくっ。
彼が何をしようとしているのかは、気配でわかる。
それゆえに、すっとそのまましゃがみこみ、恵や自分達の前の畳の端にと手をかける。
それと同時。
ビュビュッ!
バッン!
「……なっ!?」
自らが放ったその小道具が、なぜかいきなり畳にと埋まりこむ。
「!?」
その場にいる全員が、男が何やら投げたものを剣心が返した畳で防いだ。
というのを理解するのに一時有して一瞬硬直していたりする。
そんな中、淡々と、
「よく事情はわからぬが。拙者、悪戯に人を傷つけようとする輩は見過ごせぬたちでな。
  しかも、きさま、今後ろの二人をねらっていたであろう?」
今までそこにあったはずの畳の端にと手をついて淡々と言っている剣心であるが。
「な…なめるなっ!螺旋鏢らせんびょうを畳一枚で防ぎきれるとでも!?
  お仕置きをかねて、全員の足を射抜いてやるっ!」
いって再び身構える。
ぷち。
「貴様っ!俺のダチたちにまで怪我をおわすきかっ!」
それでなくても、宵太が死亡した。
というので気がたっているところに、他の仲間まで傷つけるようなことをいわれれば。
そのまま、感情のままにと男のほうにと拳を振り上げつつ走ってゆく。
「え?…あ、いっ!?」
身構えるのとほぼ同時。
左右から左之助と、そして剣心が自分のほうにとむかってきて、
思わずどちらに攻撃を仕掛けようかと一瞬迷う。
その迷う時間は二人にとっては十分すぎるほど。
ごっ!!!!!
剣心の逆刃刀と、左之助の拳とが同時に癋見べしみと名乗った男を直撃する。
どごっ!
その反動で男はそのまま、道の向こうの家の中にと飛び込んでゆくが。
ほっ。
あっさりと追っ手が撃退されたのに思わず胸をなでおろす。
ざわざわ。
「やばいぜ。左之さん。あの観柳の手下を三人ものしちまってよ。」
左之助の友人たちが何やら騒いでいたりするが。
「けっ。しったことか。それより、あんた!何でこんな奴等におわれてるんだ?」
未だに怒りの矛先をどこにむけていいのかはわからないが、今のですこしは気がまぎれた。
そんな左之助の問いかけに、
「あら。女に過去を聞くなんてやぼよ。それより、あなたたち強いわね。特に剣客さんのほうは無敵そう」
いってにこりとし、
「どう?坊やたち、私を観柳から守って逃がしてくれないかしら?
  報酬は出来うるかぎりはずませてもらうわ。ね?」
二人に対して微笑みかける。
そんな恵に対して、先ほどの一瞬、よろけた拍子に袖から落ちていたらしい、
紫の紙にと包まれた小さな包みを手にとりながら、
「その報酬というのは、もしかしてこの阿片のことでござるか?」
サラサラサラ……
その小包の一つを開いて、中の粉を確認しながら問いかける。
「…え?…あ…」
いつのまに落ちたのかしら。
などと一瞬戸惑いながらも。
「違うっ!それは二度と世の中にでまわってはいけないものよっ!」
いって思わずはっと口をふさぐ。
「…阿片…だと?!」
宵太の死亡の原因の大元。
そんな剣心の台詞に思わず叫ぶ左之助。
「とりあえず。こいつらをよそに運ぶでござるよ。
  それにいつまでもここにいたら新たな追っ手がきかねぬでござる」
確かに剣心の言うとおり。
「ちっ。仕方ねえな」
ひょいっ。
そこに転がっている男二人を抱える左之助に、
「…あの男はどうやら逃げたようでござるな……」
正確にいうならば、仲間が連れていったようでござるが。
向かい側の家のほうをみながらそんなことを言っている剣心。
そして。
「すまぬでござるな。他の皆はまだ楽しんでくだされ」
にこやかに左之助の友人たちにと話しかけている剣心の姿。
「いや。左之さんは……」
「おりゃ。この女についていく。
  阿片の出先を聞き出して、宵太を殺したこいつを食い止めるためにもなっ!」
バシッ。
いって両手を力づよくあわせる左之助。
そんな彼等の姿を見ながらも。
ずきんっ。
その胸のうちが鋭く痛む。
それゆえに戸惑いぎみの表情を浮かべる恵に対し、
「とにかく。ここからでるでござるよ。ひとまず道場にもどるでござる」
「だな」
いいながら、未だに気絶しいる男たち二人を抱えたまま。
剣心は恵をつれ、そして左之助は男たちを抱えてそのまま長屋を後にしてゆく。


えいっ。
えいっ。
えいっ。
「遅いな。剣心のやつ。よっぽどもうかってるんだな」
「何いってるのよ。賭場遊びなんて不良のすることよ。帰ってきたらただじゃおかいんだから」
庭先で二人ならんで素振りの稽古をしながらそんな会話をしている弥彦と薫。
「おお。血の雨がふりそう。」
そんな薫の台詞をきいて、弥彦がつぶやくと同時。
「ただいま~」
玄関のほうから噂をすれば何とやら…ということわざが示すとおり、剣心の声が聞こえてくる。
「あ。かえってきたv」
剣心の声をきき、ぱっと表情をかがやかせ、軽い足取りで玄関先にと向かってゆく。
「まったく。わからねえ女だな」
そんな薫をみて思わずあきれた声をだしている弥彦であるが。
弥彦にはまだ、女の子の気持ちは判らないらしい。
ぱたぱたと、足早に門のほうにと移動していき、
「剣心、おかえり。…って……」
いつものように出迎えようと声をかけると、そこに見慣れない女性が一人。
「いやぁ。遅くなってすまないでござるよ」
「ずいぶんしなびた家ねぇ。ここって剣術道場?」
少し困った表情でいっている剣心の後ろでそんなことをいっている見慣れない女性。
「何?このひと?」
いきなり失礼なことをいってくるし……
そんなことを思いながらも、剣心と左之助にと問いかける。
「ああ。こっちの人は高荷恵殿。恵殿は悪者に追われていて……」
そんな薫の問いかけに、完結に説明しようとする剣心であるが。
「そこを剣さんが助けてくれたの。」
その言葉をさえぎり、剣心の背後から抱きつくような格好で、
わざと薫に見せ付けるようにしていっている恵。
「早い話が、助けた女をナンパしてきたってわけだ。ひひ。スミにおけねえな。剣心も」
そんな光景をみて、弥彦もまたやってきてそんなことをいっていたりする。
「いや、そういうわけでは……」
「じゃぁ、どういう訳よっ!」
詳しく説明するよりも早く、何やら薫がすごい剣幕で剣心にとせまってゆく。
「だ、だからぁ」
「あのときの剣さん、とっても素敵だったわ。」
そんな薫の反応が楽しくて、さらにべたべたとし始める恵であるが。
「不潔っ!」
ぼごっ。
「何よっ!すっかり鼻の下のばしちゃって!
  みっともないったらありゃしないっ!見損なったわ!剣心の馬鹿っ!」
いうなり、そのまま拳を繰り出し剣心をたたき、
ぽかぽかと手にしている竹刀で剣心をたたき出す薫の姿。
「おろぉぉ……」
相手が薫というのもあり、また別に痛くもないがとりあえず素直にたたかれるままになっておく。
こういう場合は下手に逆らわないほうがいい。
というのは、経験上、剣心は知っている。
「まあ。驚いた。乱暴な人ね。大丈夫。剣さん」
薫に気の澄むまでたたかれた剣心に駆け寄って心配そうな声をだす恵に対し、
「ちょっとあなた!うちの剣心とどういう関係なのよっ!」
息をつきながらも叫ぶ薫。
「あら。剣さんは私を守ってくれる大事な人よ。あなたこそ剣さんのなあに?」
くすっ。
どうやらこの子、この坊やのことが好きみたいね。
そんなことを思いながらも、素直にひっかかって反応してくるので面白い。
ここまでからかいがいのある人はそうはいない。
「な…何って……」
「恋人じゃないことはたしかね。だってこんな汗臭い小娘。剣さんの好みとはおもえないし。おほほほほ」
わざと挑発するようにと言い放つ。
「わ…わるかったわねっ!汗臭い小娘でっ!」
いいながらも、竹刀を片手に振りかぶっている薫は自分がからかわれているのに気づいていない。
「お…おちつけ!薫!」
今にも殴りかかりそうな薫を背後から必死に弥彦がおしとどめていたりするが。
「おいおい。あんまりからかうんじゃねえよ。
  この嬢ちゃん。かなりすげえ単純なんだからよ。どっかの雌狐さんとちがってな」
そんなやり取りを見ながらも、多少あきれながらも話しかけている左之助。
まあ、気持ちはわかるけど。
ここまで素直に単純にひっかかる奴はそうはいないからな。
そんな左之助の言葉は何のその、
「……!」
ふと気配を感じ、視線を門の上にと走らせる剣心。
そこには気配を隠しているつもりらしいが、くっきりと人影がひとつうつっている。
どうやら…完全にまききれなかったようでござるな。
そんなことを剣心が思っていると。
だきっ。
「ん…おろぉぉ……」
いきなりそんな剣心を胸にと押し当てるようにして抱きしめてくる恵。
「こんな乱暴な娘より、私のほうがよっぽどいいわよね。剣さん」
そして、薫に見せ付けるようにと言い放つ。
ふるふるふる。
そんな恵と剣心の姿をみて、体を震わせ、
「剣心~!!!」
面白いまでに相手の意図にとはまり、叫んでいる薫であるが。
そんな叫ぶ薫をそのままに、
「と。とりあえず。薫殿。部屋を一つ借りるでござるよ。
  ……左之。どうやら奴等に気づかれたようでござるから、見張りを頼んでもよいでござるか?」
気配を完全に絶ち、尾行をもまきながら移動していたが。
どうやら左之助のいきり立った気配でこちらの動きが読まれてしまったようでござるな。
そんなことを思いながらも、左之助のほうを真剣な表情でみながら話しかける。
「ちっ。しつけえやつらだ。わっかった」
今すぐにどうこうしてくる気配はないようだが。
だがしかし、詳しくこの女から話しを聞きださないことにはどうにもならない。
そんなことを思いながらも、ばしっと手をたたきながらも軽くうなづく左之助。
そして。
「あと。あんた。いい加減にからかうのはやめときなよ。
  まあこの嬢ちゃんをからかうのはたのしいだろうけど」
淡々と未だに薫をからかいがてらに剣心にまとわり突いている恵と名乗った女性にと話しかける。
「あら?でも片時も離れたくないっていうのは本当よ?
  だってこの人、めっぽう強いクセして随分人がいいから。側にいれば襲われても必ず守ってくれそう」
くすっ。
いってくすりと笑うそんな恵に、
「あ~。たしかに。剣心は人がいいからなぁ」
「ちょっと!あなたっ!」
「まあまあ。とにかく。屋敷の中に入るでござる」
あまり長く庭先にいると相手に隙を与えることになる。
ましてや、何も知らない薫や弥彦を巻き込むことにもなりかねない。
それゆえに、軽くそんな会話を交わしながらも道場の奥の部屋へ恵を伴い入ってゆく剣心の姿。


「や…やめろぉ」
「違うんだよ。たのむ…頼むっ!」
「見逃してくれぇ!何でもいうことをきく!だからっ…!」
『うわぁぁぁぁぁ!』
夜の帳がおち、周りに静けさが満ちている。
そんな中、大勢の男たちにと囲まれて、何やら刃を振り下ろされている男が二人。
そんな彼等の悲鳴を離れた場所で、それを食事時の歌に聞きながら、
「これも実業家としての性分なんですかねぇ。
  役に立たない輩はすぐに排除しないとおちつかないんですよ。
  その点、おかしらさんは我慢強いかたですね。ほほほほ」
いって、建物の屋上においてなぜかステーキを食べている男がひとり。
「癋見たちの頭はあくまでこの私だ。余計な口出しはつつしんでもらおう」
そしてまた、そんな食事をしている男の横に、静かにたたずんでいる青年が淡々とそれに答え、
「もちろん。わかってますよ。ともかく私は恵さえ戻ってきてくれれば問題ないんですから」
いって、かるく口元をナフキンで拭いてにやりと笑う。
大事な金の卵を生み出す小鳥。
絶対に逃がすわけにはいかない。
「般若、高荷恵はどこにいる?」
そんな男の台詞は何のその、淡々と静かに背後に向けて語りかけているその青年。
と。
「はっ。恵を助けた男がすこぶる勘の強いやつで尾行に骨が折れましたが何とか……」
夜の闇の中に浮かび上がる人影がひとつ。
「よし。癋見の高荷恵の奪回の仕事。お前もてつだってやれ。それと【ひょっとこ】にもそう伝えろ」
「了解しました」
青年の言葉をうけ、ふっとそのまま掻き消える。
その人影が掻き消えたのを確認し、
「いいか?癋見。助っ人を二人つけてやる。これ以上の失敗は許さん」
いいながも建物の影にと控えている小柄な男を横目でにらみながらも話しかける。
「き…肝に銘じておきます……」
自分達には失敗は許されない。
それは当たり前のこと。
それゆえに、覚悟を決めながらも、その声に含まれている静かな怒りを感じつつ、
そのまま、ふいっと姿を掻き消す。
後には、庭先において男たちに囲まれたもの言わぬ物体が二つと、
そして、もくもくとそんな光景を見下ろせる場所で食事をしている男が一人……


「観柳の私兵は約六十人。だけどもっとも恐ろしいのはお頭ね」
ひとまず恵と二人っきりで話しを聞きだす。
肝心なのは相手の出方とそして組織の仕組み。
「お頭?」
「明治維新寸前、齢十五にして江戸城お庭番衆のお頭となった天才隠密。四乃森蒼紫。」
やはり…あの蒼紫か。
あの気配からして、相手がお庭番であろう。
というのは判断できていた。
そしてまた…かつて【視た】もうひとつの人生においての出来事においても……
ほぼ基本はあれと同じように人生は進んでいる。
違うのは、菫がいるかいないか。
自分の技とそして速さ。
そういった細かい部分の誤差はあるものの。
「でも、剣さんが一緒にいてくれればあんな連中がたばになってかかってきても安心だわ」
「さ。さて。そ…それはどうでござろう?」
にこやかにいっくてる恵の台詞をそれとなくおどけた口調でかわしておく。
そんな剣心のおどけた様子をそのままの意味で捉え、
でも、本格的に彼等が動き出したらこの人たちでは太刀打ちできないわ。
戦いがはじまったら、その隙に逃げ出すしかないわね。
ここも長居は無用ね。
そんなことを思っていたりする恵なのであるが。
「で。恵殿。」
「あのことなら話さないわよ。女の過去を詮索するなんてやぼよ?」
剣心が続けざまに聞いてくるのをうけ、先に牽制しておく。
だがしかし。
「いや。そうではござらん。では。観柳の私兵団の構成は、だいたいこのような形でいいのでござるか?」
何やら筆をもちながらも、紙にと構成を書き出している剣心。
「ふむ。おそらくお庭番衆の数はたしか……蒼紫を含めて五人でござるな」
かつて翁から聞いたことがあるがゆえに、そのあたりのことは知っている。
もっとも、蒼紫のほうは自分のことは知らないであろうが。
「…って、どうして剣さん、人数を言い切れるの?」
さらっと人数を指定した剣心の言葉に思わず問いかける。
「ちょっと昔にきいたことがあるでござるよ」
そうさらっとかわし、そして軽くため息をつき、
「……どうやら。菫ちゃんが朝からもどらぬのはこの一件のためでござるか」
小さくそんなことをつぶやく剣心。
未だに菫はもどってきていない。
そしてまた…この後、どのようなことがおこるのか、剣心は大体のところは理解している。
いや、経験している…といっても過言でないのかもしれない。
それに……この恵殿を放り出すわけにはいかない。
そう。
あの高荷隆生殿のためにも。
恵が誰の娘であるかわかっているがゆえに詳しくは問いかけない。
剣心が自分のことを知っているとは知らず、
「?」
ただただ首をかしげている恵の姿。

どきどき。
みしっ……
二人がいる部屋の外の廊下から聞き耳を立てる。
「……盗み聞きはよくねえなぁ。嬢ちゃん」
ぎくっ。
「活心流師範代の名がなくぜぇ」
そろそろと部屋に近づいていた薫は左之助の台詞に思わず固まり立ち止まる。
左之助はとうと部屋の外で周りを警戒しているのであるが。
「だって…だってだってだって!剣心ったら、帰ってくるなり二人っきりで部屋にこもってさぁ!ううっ…」
あの高荷恵と紹介をうけた女性が剣心に何をしているのか気が気ではない。
「よしよし。嬢ちゃんが心配するようなことじゃねえから安心しな。嬢ちゃんも知ってるだろ。
  剣心ってやつは剣術はめっぽう強いくせに、人には滅法弱いからなぁ。
  困ってるやつや、訳有りのやつをみると力にならずにはいられない。流浪人の性分さ。
  女子供には特に」
「…それはいえてる」
左之助の台詞に思わず相槌をうつが、それで不安が払拭されるわけではない。
「もっとも。人がよすぎるのも限度ってものがあるがな」
あの女は阿片をもっていた。
その出先はおそらくは…観柳の元のはず。
どういうかかわりがあるのかはわからないが、友の死亡とかかわりがあるのは明白。
「……え?」
「ま。まあ剣心なら大丈夫さ。…多分」
「多分じゃだめよぉ~」
そんな会話をしていると。
がらっ。
今まで閉じられていた障子が開かれ、
「左之。異常はないでござるか?」
いって部屋からでてくる剣心。
剣心はといえば、何やら話しが外でこじれているようなので顔をだしたのであるが。
「おう。今のところはな」
そんな剣心に対して軽く返す左之助であるが。
「観柳一派の組織図でござるよ。目を通しておくといいでござる。
  それと、向こうには元江戸城お庭番衆がついているようでござる。
  それゆえにこの場所ももう知られてしまっているようでござるしな。油断はできぬでござるよ」
ぴくっ。
お庭番衆。
そんな剣心の台詞にぴくりと反応する。
「それって忍者でしょう?」
一瞬、きょとんとした表情を浮かべたのちに、剣心と左之助を見渡しながら薫が問いかける。
「…こいつはただじゃすみそうにねえな……」
「薫殿に迷惑をかけたくはなかったが。
  訳あって騒動のひとつや二つはおきてしまうかもしれないでござるよ。
  だが、薫殿たちは拙者が必ず守る。」
「…剣心……」
「剣心。…お前って字、下手だったんだな」
「え?あ。ほんと。和月なみだわ」
「…は、話の腰をおらないでほしいでござる。ともかく……」
「ふふふふふ。聞いたぞ。剣心。一騒動あるかもしれないんだって!?」
ぱしっ。
いいながらも、庭先に降りかけている剣心の足首を軽くつかむ。
「おろろろっ……」
「弥彦!姿がみえないとおもったら、いつからそこに!?」
「夕方から。それより、俺だけ仲間はずれはないだろ!?俺だって剣心組の一員だぜ!?」
「剣心組?何だそりゃ。」
「いつそんなのができたでござるか?」
「子供の分際で生意気いうなって。」
「何だと!?左之助の分際でへらず口をたたくなっ!しめてやるっ!」
げしっ。
とっん。
「百年はやいって」
とび蹴りをくらわそうとした弥彦の足をそのままつかみ、ぶらぶらとぶらさげる。
にぎやかなそんな光景をみていて、ふと昔の光景を思い出す恵。
父と、母と兄二人と自分とで……
父は誇り高い、そして立派な医者であった。
自分もそんな父を目指していたのに…だけど……
そんな会話をしている最中。
びくっ。
「…薫殿。弥彦。こっちへ」
外にある気配に気づき、警戒の声をだす。
「来たか」
そんな剣心の変わり具合に気づいてこちらもまた臨戦態勢を整える左之助。
「え?あ。うん。さ。弥彦」
二人のあまりの真剣さに素直にうなづき、ひとまず縁側のほうにと移動する。
と。
ズドォンッ!
けたたましい音が周囲にとどろきゆく。
「どうやら。お出ましのようだぜ」
「……何も壊さなくてもようでござろうに……」
ばしっと手を鳴らしながらいう左之助に、ため息とともにどこか違うことをいっている剣心。
みれば、屋敷を囲む壁の一部が破壊され、そこかに何やら入ってくる壁より大きな男が一人。

「大人しく恵を渡しな。そうすりゃあちったあ手加減してやるぜ」
などといいながら壁を崩しながらも庭先にと入ってくる。
「……ちときくが。その壁の修理代は誰に請求すればいいでござるか?」
「おいっ!剣心っ!そういう問題じゃねえだろっ!」
「そうはいうでござるがな。左之。重要なことでござるよ?ここは薫殿の道場なのでござるし」
菫ちゃんに頼んだら後が怖いでござるしな……
などと思いながらもどこかずれた会話をしている剣心たち。
「っておいっ!おまえら!無視するなっ!」
そんな剣心と左之助の会話をきき、何やらいらだった声をあげているその大男。
「ま。まあたしかに。嬢ちゃんに請求されても払えねえけど……
  ま。とにかく。あれも一応お庭番衆なんだろうな」
剣心の台詞に、多少困った声をあげながらも、さらっと話を元にもどしている左之助。
「元、お庭番衆、火術つかい。ひょっとこ。でござるよ。
  奴はその体内に油袋を飲み込んでいて、それに油を注いで火を扱うでござるよ。
  着火するのは、歯に仕込んでいる火打石でござるよ」
さらっと何気に相手のことを正確に説明している剣心の台詞に、
「…何ものだ?てめえ……」
まさかそこまで自分のことをさらっと正確に説明できるなど。
そんなことを思いながらも。
だがしかし、目の前にいるのはただの優男。
そして。
「名もない剣客にも俺様の名前が知られているとは光栄だねぇ。
  さあて。まずはどっちが相手だ?両方相手でもかまわんぞ?」
完全に自分の優位を確信して何やらいってくる、お庭番衆が一人、ひょっとこ。
「名もない…って。どうやらこいつ、お前のことしらないらしいぞ?」
「まあ、当事者たちとは剣を交えたことはないでござるからな」
そんなひょっとこの台詞に、ぽそりと耳打ちしている左之助に、苦笑しながらも答えている剣心。
「なるほど。ま。とにかく。こいつは俺にまかせろ。
  見たところ、徒手空拳のごうりき自慢でもあるようだしな。
  その口から吐かれるとかいう火に気をつければいいんだろうが」
「?火気は気合ではじきとばせるでござるよ?」
「…そりゃ、てめえだけだってば」
「?菫ちゃんなどは、何もせずに火そのものを無とかすでござるが……」
「…おひ。だから、あの菫ちゃんって子は何なんだ?」
「何といわれても…拙者も詳しく説明しかねるでござるよ」
「てめえらっ!無視するなっ!」
そんな、自分そっちのけで会話している二人に、しびれを切らして叫んでくるひょっとこ。
「ま。とにかく。おまえはみてなって。とにかく!
  売られた喧嘩はかうまでよっ!生け捕って観柳のことを聞き出してやるっ!」
いいながらも、ざっと一歩を踏み出す左之助。
「まずはこっちか。」
最近暴れたりないからな。
そんなことを思いながらも腕をぼきぼきとならし、目の前の左之助を眺めるひょっとこ。
そして。
ふっんっ!
気合とともに腕をつきだし、左之助にと殴りかかる。
が。
「おっ。らあっ!!」
どすっ!!
ひょっとこの一撃よりも強い衝撃の一撃が、まともにひょっとこのみぞうちをヒットする。
「いくら剛力でも、あてなきゃ意味ないんだぜ?」
いつもならこの一撃で相手はおちる。
にやっと笑いながらもみぞうちを食らわせた大男にと言い放つ左之助。
ごぷっ。
思わずその衝撃に耐えかねて口から泡をふくものの、
「ぐふっ。ありがたいことだ。わざわざ射程距離にはいってくれるとはな」
にやっと笑い、
がちっ。
ゴオオオッ!
ひょっとこの口から炎が左之助にむかって放たれる。

「左之助っ!」
「なっ?!」
いきなり男の口から火が吐かれたのをみて、驚愕の声をあげている弥彦と薫。

「ちっ。あぶねえな。このたこやろ」
完全にしとめた。
とおもっていたのに、真横から聞こえてくる左之助の声。
「なっ!?」
自分の火炎吐息を今までかわした奴はいない。
それゆえに、そんな左之助を驚きの表情でみているひょっとこであるが。
「…ちっ。すこしばかりどじっちまったぜ」
交わしたつもりが、交わしきれず、片足の一部に火があたった。
それゆえに、多少いまだにずきずきとする。
「ほほう。必殺。火炎吐息。よくよけたな。だがその足では今度は完全によけ切れまい」
左之助の左足は炎によって感覚が麻痺しているはず。
それゆえに、にやりとわらいながらも言い放つ。
そして、そのまま再び炎を吐こうとするが。
「いい歳をして、火遊びはほどほどにやめておくでござるよ」
そんなひょっとこに対して淡々と横から言い放つ剣心。
「火遊びだと?」
そんな剣心の言葉に一瞬むかっとするが。
「そんな小細工では拙者の髪一本すらもやせぬでござるよ」
淡々と言い放しながらも剣を抜き放つ。
そんな剣心の台詞に、
「ええい。きさまからやきつくしてくれるわ。」
多少図星をつかれて振るえながら裂けび、
同時に、ひょっとこの口から炎が剣心にむけて放たれるが。
ヒュルヒュルヒュルっ!
その炎を逆刃刀を旋回させて疾風の盾を作り出し、炎をことごとく蹴散らしてゆく。
「馬鹿めっ!そんなその場しのぎがいつまでももつとおもうなっ!」
いいながらも、さらに炎の勢いを増してゆくが。

そんな光景をみつつ。
今ならば誰にも気づかれずに逃げられる。
そんなことを思いつつ、裏の出入り口にむけて移動しようとするものの、
こつっ。
「どこいくのよ?」
そんな恵にと振り向きもせずに話しかけている薫。
「あの男は前の癋見とはわけが違う。どうあがいても勝てるわけないわ。
  相手はお庭番衆の中位隠密なのよ。勝てるわけがないじゃない」
ここで自分がこの場から逃げれば、すくなくとも彼等の命は助かる。
そんなことを思いつつうつむいてつぶやく恵の台詞に、
「剣心は、あなたのために戦っているのよ。その隙に逃げ出すなんて卑怯だわ」
振り向くことすらせずに淡々と言い放つか薫であるが。
「お庭番衆は、人の命なんか何ともおもっちゃいない。人殺しも何ともおもっちゃいやしない。
  たとえそれが女だって容赦しないわ。あなたたちだって殺されるわ」
そう。
だから今ここでこの場から逃げ出すのが他の人の立ちのためにも得策。
「どんなに強い相手でも剣心が守ってくれる。剣心は約束を破ったりするような人じゃないわ」
半ば諦めきった恵の台詞に、それでも迷うことなく確信を込めて言い放つ薫。
剣心とは出会って間がないが、人柄的にもそれはわかる。
そんな会話をしている最中。
だんだんと大男が口から吐く炎が少なくなっていき、やがてぱったりと炎が途切れる。
「!?」
それをみて思わず驚愕の視線で剣心を眺めている恵。
普通、できる業ではない。
刀の旋回だけで炎をさえぎるなど。
そんな剣客など聞いたことがない。
驚愕の表情で剣心をみている恵とは対照的に、
「どうやらネタ切れのようでござるな。火遊びは終わりでござるよ」
淡々と、目の前の大男…ひょっとこと名乗った男にいっている剣心の姿が。
……馬鹿な。
五升もの油の火炎を刀の旋回だけですべてさえぎり霧散させるとは。
しかも、目の前の相手はまったくもって疲れてすらもいない。
息一つすら乱していない。
そんなことを思いながらも驚愕を隠しきれないひょっとこ。
「おのれっ!まだまだぁっ!」
いって、ばっと背中につんでいる油を補充しようとするが。
すっ。
仕方ないでござるな。
そんなことを思いながら、ひとまず背中の桶と相手を分離しようと動こうとする。
が。
ぴくっ。
「まて。剣心!」
「左之」
ざっと一歩前にと出てくる左之助の気配を捉え、左之助のほうを振り向く。
「こいつは任せろっていったはずだぜ」
いいつつ、
「助太刀ありがとうよ。だけど、こいつの相手は俺だ。ここは悪いが仕切りなおしさせてもらうぜ」
「……わかった。後は任せるでござるよ」
ここで自分が出ていっても左之助の気はすまないであろう。
それが判るからこそ、そのまま左之助にと戦いをゆだねる剣心。
「何左之助のやつはかっこつけてるんだ。足怪我してるみたいなのに」
そんな左之助をみてぽそりとつぶやいている弥彦ではあるが、
相手の大きさと、今の剣心の技に圧倒されて多少いすくんでいたりする。
ガシャ。
そんな会話を剣心と左之助がしている間に、背中に背負っていた桶を口にと運び、
そのまま空にとなった桶を地面にとたたきつけているひょっとこ。
そして。
「油の補充完了。間抜けな男だ。こんどこそ火あぶりにしてやるっ!」
などといって、目の前に立ちふさがる左之助にといっていたりするが。
「間抜けはてめえだよ。種のきれた手品が何度でも通用するとおもっているのか?」
ぼきぼきと手を鳴らしながらにやっと答えている左之助。
ぶちっ。
そんな左之助の台詞に、
「燃やしてやる……この俺様の技を火遊びだの手品だというやつは…………火葬してやるっ!」
相手が挑発してきている。
ということすらにも気づくことなく、いってそのまま真正面から左之助にと向き直り、
かっと口を開くひょっとこ。
今度こそ真正面からの攻撃。
避けられるはずがない。
そんなことをひょっとこも、そしてまた、それを見守っているほかの仲間たちも思うが。
だがしかし。
「しゃらくせえっ!こっちだ!」
「なに!?」
そのまま真正面から炎の中にと突っ込んでいき顔面にと突き進んでゆく。
そんな左之助の行動をみて、
「いい判断だ。下手に避けようとするより、そのまま懐に飛び込んでいくほうが、
  怪我の具合が少なくてすむ。それに最低限の防御…は左之はしてないようでござるな」
ある程度体に気をみなぎらせ、防御などを強めて飛び込んだのではなく、
その天性の打たれ強さにたよった攻撃。
う~ん。
左之も少しは防御を考えたほうがいいのでござるが……
などとはおもうが、そう簡単にいうことを聞く相手ではない。
というのもよくわかっている
そのまま炎の中を突き進んでいき、大きく開かれている口の中にと手を突っ込む。
「おらぁっ!」
「ふぐっ!?」
まさか炎の中をつっこんで口の中に手を突っ込まれるとは思っていなかったらしく、
驚愕の表情を浮かべて何やらうなっているひょっとこの姿。
それと同時に口の中に奥深く手をつっこみ、そこから見えている仕掛けをぐいっとつかむ。
何のことはない。
ひょっとこが火を口から吐くのは、口の中に油袋を仕込んでいるから。
その油袋から外にと吐き出す管をつかみ、そのまま勢いにまかせて外にと引っ張り出す。
「えぐっ…っ!?」
そのまま、抵抗することもなく口の中よりずるりと仕掛けが引っ張り出され、
何やら呻いているひょっとこの姿がその場に見受けられていたりするのだが。
だむっ。
そうこうしているそんな一瞬の合間に、
ずるりとひょっとこの口からちょっとした品が引きずり出される。
「ちっ。自慢していたわりにはずいぶんとちゃちな仕掛けだな。これが手品のタネってわけか」
口からひきづりだした油袋をみてそんなことをいっている左之助。
「…ぐ…う……」
まさか、正面からきて仕掛けを口からひっぱりだすとは。
そんなことを思いながらも思わずうなる。
「もうお前に勝機はねえ。おとなしく降参しな」
うなりなからも左之助の言葉をきき、そしてふと左之助の手の様子にようやく気づく。
防御をきちんとしていなかったがゆえに、左之助の腕は多少の火傷を負っている。
そのことに気づき、にやりと笑い、
「ぐふふ。馬鹿めっ!その火傷した両手ではさっきのような拳打は打てま…い゛っ!?」
ガゴッ!!
そのまま、素手で左之助に殴りかかっていこうとするものの。
そのまま、相手の間合いに完全に入っている。
というのにも気づいていなかったらしく、おもいっきり顎を蹴り上げられる。
「喧嘩は蹴りだってありなんだぜ?もっとも、短足のお前には思いつきもしないだろうがな」
のそまま、左之助に顎を蹴り上げられて倒れてゆくひょっとこに言い放つ左之助。
どどっ……
そのまま音とともに、後ろに倒れてゆくひょっとこであるが。
「楽勝」
そんなひょっとこの姿をみて、にっと指を一本たてて言い放つ左之助に、
「…の、割りには満身創痍でござるな」
苦笑しながらも話しかける剣心。
「って、何だとぉ!?」
そんな剣心に思わずつっかかっている左之助であるが。
そんな二人の様子をみつつ、
「…つよい。何てもんじゃないわ。あの二人…いったい何者なの?」
あのひょっとこをまさか倒すなんて……
そんなことを思いながら驚愕してつぶやく恵。
そんな恵に対し、
「だからいったでしょう。私の自慢の…仲間よ。」
恵のほうにと向き直り、にっこりと笑い、そして。
ととと。
「ちょっと。大丈夫?二人とも。」
いいながらも二人のほうにとかけてゆく薫。
「うわ。何か本当に傷だらけね。何か辛勝って感じ」
「何だとぉ!?」
「左之。少しは防御を覚えたほうがよいでござるよ」
「うるせえっ!」
そんな会話をしている薫を含めた剣心たち三人を見ながらも、
「…仲間……か。」
自分にはそんなに心ゆるせる人はいなかった。
そんなことを思いながもつぶやく恵に、
「俺も。その一員だからな」
そんな恵の横に移動して、にっと笑いながらもいっている弥彦。
さて……様子を伺っているこいつらの仲間がどのようにでてくるでござるか……
じゃれているように見えていても、警戒はといておらずにそんなことを思っている剣心。
剣心が自分達に気づいているとは露知らず、

「…くそ。これじゃあまた失敗じゃねえかよ……」
おもわずぎりっと庭を見下ろせる木の上から歯軋りする癋見。
そして。
いや…元はといえば高荷恵!
あいつが逃げさなきゃぁ……
「…武田観柳がなぜてめえにこだわるのかしったこっちゃないが……
  こうなったら、あの女め。俺をこんな目にあわせたてめえは…ぶっころすっ!」
いって。
ひゅっ!
その手の平の中に懐から取り出した小さな粒を握り締め、恵に向けて投げ放つ。
ひゅっ。
殺気とともに、恵にむかて投げられてくる小さな粒のようなものの気配。
ざっ!
その気配をすばやく感じ、ざっと体制を整え、
「竜吐壁!!」
いいながらも目にも留まらぬ速さで剣を抜き放ち虚空を斬る剣心。
ごっ!!
癋見が投げたものがたどり着くより先に、剣心が光速で抜き放った剣圧により、
その速さによって生じた空気の歪みが壁となり恵たちの前に壁となって地面よりつきあがる。
キッン。
気圧の差によって生じているその壁は、癋見が放った螺旋鏢らせんびょうをものの見事に二つに絶ち割る。
「…な…にぃ!?」
自分の技が防がれた…というか、わけのわからない技によって断ち切られた。
というのに驚きを隠せない。
が。
そんな驚愕している最中。
「おそいっ!」
「…なっ!?」
自分のすぐ頭上からありえるはずのない声が聞こえ、見上げるよりも早く。
がっ!!!!!
そのまま頭上より耐え難い衝撃が癋見にと加えられる。
何のことはない、すばやく剣心が行動を移し、癋見に攻撃を仕掛けただけなのであるが。
その動きを彼等は捉え切れていなかっただけということ。
ぐらっ。
そのまま気を失い、木の上からそのまま地面に落下してゆくものの。
がしっ。
そんな癋見を地上で受け止めている別の般若の面をかぶっている男が一人。
「お庭番衆の仲間でござるか」
そんな彼に驚くことなく淡々とすとっん、と地上に降り立ち剣を構えたまま言い放つ。
そんな剣心に対し、
「まさかこの時代にお前のような剣客がまだ残っていたとはな」
自分も今の動きは見極められられなった。
できたのは、地面に落下してくる癋見を受け止めるのみ。
そんなことを思いながらも、警戒をとくことなく目の前の剣心にと淡々と語りかける。
剣心が新しいもう一人のお庭番衆と思われる般若の面をかぶっている男と対峙しているそんな中。
「……い、今のは……」
いきなり目の前に何かまるで風が吹き上がったかのような壁が出来上がった。
それとともに、何かが断ち切れる音。
何がおこったのか理解できずに戸惑いの声をあげている恵に、
「飛び道具か。ちっ」
いいながらも、何が投げられたのか確認しようとして落ちている茶色い粒のようなものにと手をかける。
「…左之っ!まつでござるっ!」
剣心がそんな左之助に気づいて思わず振り返りざまに制止の声をかけるものの、
そのまま、ひょいっとそこに転がっている茶色い粒のようなものを手にとり、
「…こりゃ。長屋でなげてきたやつと……」
それが昼間に長屋で投げてきた品と同じだと気づいて思わず顔をしかめ、そして。
「ちっ!また同じネタでくるとはいい度胸じゃねえかっ!」
いって、そのままそれを手の中に握り締めてぐしゃりと握りつぶす。
ちくっ。
それとともに手の平に鈍い痛みが走るが、左之助にとってはそれはどうでもいいこと。
「おい?左之助?いったい……」
そんな左之助の様子に戸惑いながらも、恵の側から数歩、足を前にと進める弥彦。
それと同時。
「いてっ!!」
ちくっ。
何やら何かを踏んだらしく、足から鈍い痛みが全身を駆け巡る。
「?弥彦?それに左之助?どうかしたの?」
何がおこっているのかわからずに、薫が二人に問いかけるとほぼ同時。
ぐっ。
そのまま、ぐらりと足を押さえるかのようにと倒れそうになってゆく弥彦に、
「…なっ!?こ…こいつぁ……」
腕より伝わってくる紛れもない痛み。
気力でどうにか意識を保つが、弥彦のほうはすでに意識がなくなり白目をむいている。
「…ちっ。しまったでござる」
相手が投げてくるモノに毒が仕込んであるのは定番。
それゆえに直撃する前に断ち切ったであるが。
まさかそれを左之助が握りつぶし、また弥彦が踏んづけるなど。
剣心とて想定外の出来事。
「弥彦!?ちょっと!何!?何なの!?」
いきなり倒れた弥彦をみて狼狽しつつ叫ぶ薫に、
「…のいてっ!」
その様子にただ事ではない。
とすぐに理解しすかさずそんな弥彦を抱きかかえ、草履を脱がせて傷を調べる。
そしてそこに小さな傷がついているのを確認し、すっと弥彦の瞳孔などを即座に調べ、
「……微熱に昏睡。何よりも瞳孔が開いている…これは…曼荼羅場の毒!」
症状から何の毒をうけたのかをすかさず判断している恵。
「…ちっ。まさか毒が仕込んであったとは……」
ぜいぜいと息がくるしい。
気をぬけばすぐにおそらく意識がなくなる、というのは自分でわかる。
そんな二人の様子を眺めつつ、
「どうやら。癋見の毒殺螺旋鏢らせんびょうの毒をうけたようだな」
淡々と片手に未だに気絶している癋見を抱きかかえていってくる般若の面の男。
解毒治療は時間との勝負。
それはよく身にしみてわかっている。
それゆえに。
「…そいつはおいていってもらおう。二人の解毒のためにもな」
剣の柄にと手をかけて目の前の男に対して言い放つ。
そんな剣心の台詞に、
「敵方にそうまでする義理はない。それにこの場で戦っても高荷恵の奪回は無理とみた。
  私としてはそこの倒れているやつとこいつを連れて一刻もはやく戻ってお頭に報告したい」
感情すらまったく読ませることのない淡々とした声で答えてくるその男。
「…ならば。力づくでもおいていってもらうまで」
毒を扱う。
ということは少なくとも、解毒薬を常にもっているはず。
それは長年の経験からよくわかっている。
ひゅっ。
「…なっ!?」
言い放つと同時に、目の前から男の姿が掻き消える。
…馬鹿な。
この私が…動きを追えない!?
そんな戸惑いよりも早く。
ごがっ!!
鋭い痛みが横腹を突き抜ける。
「…がっ…ぐっ……」
よろっ。
「瞬時に体に力をいれて防御を強めただござるか。…だが、次で終わりでござる」
相手の動きが見えないものの、おそらくは攻撃をしかけてくるであろう。
というのはわかったので体に力をいれて防御を強めたと同時に体に入れられた一撃。
それゆえに、どうにかよろけるだけで事なきをえるが、それでも。
そんな中、仲間をその手から離すことはしない。
というのはあるいみ立派。
が、しかし。
ばらっ。
「……どうやらこれが解毒薬でござるな」
小さな瓶が癋見の懐に入っていた。
それを癋見の服を瞬時に切刻み、隠しているはずのそれを手にしている剣心の姿が。
「…くっ!?いつの間に!?」
あの一瞬で自分に一撃を加え、なおかつ抱きかかえている癋見の服を切刻むなど。
普通の剣客にできる技ではない。
そんな剣心たちがやり取りをしているそんな中。
「そんなことよりこっちを手伝って!!解毒治療は時間との勝負よ!!
  早くしないと、この子も…こっちのどうでもいい男もっ!」
「ま…て。こら。…そのどうでも…というのは…ききずて…ならねえっ……」
全身に毒が回っていきかけている。
というのに気力でどうにか意識を保ち、なおかつ恵に対して突っ込みをいれている左之助。
左之助の毒が回りが遅いのには理由がある。
先ほど、ひょっとこの火炎吐息をまともにうけて腕が中度の火傷を負っているがゆえ、
血液のめぐりが滞っており、それゆえに完全に毒が回っていないがゆえ。
「!?」
その台詞に、剣心がそちらを振り向くと同時。
今がチャンスとばかりに、そのままばっとその場を退き、倒れているひょっとこを抱え上げ、
「いずれお前とも勝負をつけなければな。高荷恵をかくまう以上、それは避けられぬ」
それだけいって今は逃げる以外に手はないゆえにと二人を抱えたまま壁の上にと飛び上がり、
そのまま夜の闇の中にと掻き消えてゆく。
「ちっ。逃げたでござるか。…だが、今はそれよりも。弥彦!左之っ!」
今は何よりも、二人の症状が気にかかる。
いって剣を治めて二人のほうにとかけてゆく。
「恵殿。これがたぶん解毒薬ではないかとおもうのでござるが…どうでござろう?」
いって、未だにこん睡状態にとなっている弥彦と、そしてまた。
気力でどうにか意識を保っている左之助の腕の様子を見ている恵にと話しかける。
「みせてっ!」
解毒治療は時間との勝負。
それゆえに、もしこれが解毒薬ならば与えるのは早いほうがいい。
そうおもい、瓶の中にとはいっているその液体をすこし手にこぼして一舐めする。
「まちがいないわっ!だけど、これじゃあたりないっ!」
確かにそれは解毒薬であるが、だけどこれだけでは足りない。
それゆえに。
「嬢ちゃん。必要な薬剤を書くから医者に来てもらって!
  剣さんは湯を沸かして手ぬぐいと置き薬を用意して。そして氷屋で氷をありったけ買ってきてっ!」
「……え?」
未だに何が起こっているのか理解できずにおろおろと戸惑う薫に対し、
「何をしているのっ!解毒治療は時間との勝負!急いでっ!!」
「…は、はいっ!」
恵の気迫に押されて思わず立ち上がる薫。
「とにかく。二人を横にしないと!」
いって、すくっと弥彦を抱えて部屋の中にとはいっていき、薫がすかさずに部屋の中に二組の布団を敷く。
剣心は剣心で、
「大丈夫でござるか?左之?…握りつぶすなどむちゃなまねを……毒とかおもわなかったでござるか?」
半ばあきれながら、それでいて心配しながらも左之助を背負うような格好で建物の中にと入ってゆく。
「…けっ。んなの……しったことかっ!」
「……左之ぉ~……」
どうやら懲りてないらしい左之助の台詞に思わず苦笑するしかない剣心。
とりあえず、そのまま二人を布団に寝かしつける。

タタタタ……
恵が書いてくれた処方箋を片手に、源才の元にと夜の道を走ってゆく。
横にしたとたん、左之助の症状もまた悪化した。
どうやら横になったことで気力が緩んだらしく、弥彦と同じく危険な状態。
剣心があの男から奪った解毒薬は一人分に足りない量であったらしく。
とりあえず、それを二人分にわけてひとまず体内にと入れて症状を抑えている。
だがそれはいつまでももつものではない。
だからこそきちんとした薬が必要。
というのはあまり知識のない薫でも理解はできる。
左之助のほうは体力てきにどうにかなるであろうが、問題なのは弥彦のほう。
まだ子供であるがゆえに、体力てきに毒に耐えられるかどうか。
早く…早く、源才先生のところにいかないとっ!
薫がそんなことを思いながら走っていると、
「ん?薫ちゃん?薫ちゃんじゃないか。こんな夜にどうしたんじゃ?」
前のほうから聞きなれた声が聞こえてくる。
「源才先生!?」
ふとみれば、偶然というか何というのか。
夜だというのに道場があるほうにと歩いてきている源才の姿が。
「あ。薫さん。急いでる…ってことは、ちょうどいいころあいかな?」
「?」
そんな源才の横に、菫がちょこんと歩いていたりするのだが。
そんな菫の台詞に首をかしげながらも、
「源才先生っ!弥彦が…弥彦がっ!それに左之助もっ!」
何やらオマケのように左之助の名前を付け加える薫。
「?どうかしたのかの?」
そんな薫のただならぬ様子に首をかしげながらも問いかける。
「それがっ!…二人が毒をうけてっ!」
「毒じゃと!?…それで!?」
薫の台詞に、源才の顔に緊張の色が走るが、
「あ。これ……」
とりあえず、恵から預かっていた処方箋が書かれているとかいう紙を源才にと手渡す。
「…ん?…こ、これは……」
かさりと、その紙を開いて中身に目を通す。
満月に近い月明かりであるがゆえに、夜でも紙にかかれている内容は手に取るようにと読める。
そして、ちらりと菫のほうにと視線を走らせ、
「……これ、今朝から菫ちゃんがそろえてた材料じゃないのかの?
  ……今ももってかえっておったよな?たしか……」
いいながらも、多少戸惑いながらも菫にと声をかけている源才。
「だってわかってたし」
「「……『わかってた』…って……」」
そんな源才の質問に、さらっとにこやかに答える菫に対し薫と源才同時に声をだす。
「ま。とにかく。道場に早くもどりましょ?曼荼羅場の毒は時間かかると危険だしね」
そんな二人の戸惑いは何のその、
そんなことをいいながらも、そのまま道場にむけて進もうとする菫に対し、
「……まあ、詳しいことは後からきくとして。たしかに、急いだほうがいいであろう」
恵がそこに書いているのは、二人が今陥っている症状も書かれている。
そしてまた、その解毒薬に必要な材料から調合法まで事細かく。
菫に対して聞きたいことは山とあるものの。
とりあえず、急がないと二人の命が危険だ。
というのは確実。
それゆえに、薫に連れられ菫と源才とともに道場にと薫は戻ってゆく。


「氷はこれで足りるでござるか?」
やはり…菫ちゃんは知っていたでござるか。
そんなことを思いながらも、薫達に心配をかけたくないがゆえにそれは口にはださない。
ひとまず、恵と源才とともに、二人で手分けして持ち込まれている薬草を調合し、
きちんとした分量の解毒薬を作り出した。
一人でやるよりは二人でやるほうが手際もいい。
薫は薫で、お湯を沸かしたりできることを率先してやっているが。
細かく斬られている氷の塊。
時間的に氷を買いにいく間があったかどうか。
という疑問が通常の思考ならば思い至るであろうが、毒に犯されている二人が心配であるがゆえ、
そこまでは恵も気がまわっていない。
薫が出て行き、ほとんど時間の間をおかず、医者をつれてもどってきた。
さらにいうならば、必要な薬草など全てをもって。
どうしてそんなに早くに材料がそろったのかは気にはなるが。
だが、それは医院なを開いているのならばそろっていてもそれは道理。
「まだまだ必要よ」
とにかく、今は二人の体力を信じるのみ。
「わかったでござる」
いって井戸がある庭先にと出てゆく剣心。
薫も、そして恵も源才も家の中で弥彦と左之助の介護をしている中。
「しっかし。つめがあまいわよね~。剣心お兄ちゃんも。
  相手の毒殺攻撃を防いだはいいけど、その道具を消滅させないなんて」
井戸から水をくみ出して、その水をいれた桶に手をいれ、
ぴしっ。
それと同時に氷を作り出しながら、横にいる剣心にと話しかけている菫の姿。
何のことはない。
体温…正確にいうならば、手を零度以下にしその冷気で氷を作り出しているのであるが。
もしここに、剣心以外の者が居ればまず絶句するか目を疑う光景であることは間違いはない。
「……面目ないでござる」
それ以外にいう台詞はない。
相手が毒攻撃をしてくるのは、わかっていた。
相手が恵を狙っているのも。
だから、剣圧を利用して空気の壁をつくり、その攻撃を防いだ。
それなのに。
その空気の壁で断ち切られた毒が盛られている螺旋鏢らせんびょうをよもや、左之助が手で砕き。
さらには弥彦が踏み砕くなど。
そこまで気が回らなかった。
すぐに断ち切った後で回収していれば、二人は毒には冒されることはなかった。
それゆえに自責の念がわいてくる。
「ま。いいけどね。そのほうが今後のためにも」
「?」
そんなあっさりとした菫の台詞に思わず首をかしげる剣心。
くすっ。
そんな剣心を眺めつつ、
「とにかく。剣心お兄ちゃんはやれることを。いいわね?」
「わかっているでござる」
くすりと笑いながらも剣心にと話しかけている菫。
そんな菫にこくん、とうなづきながらも神妙な面持ちで答えている剣心。
剣心たちがそんな会話をしているとは夢にも思わず、
部屋の中では、未だに毒と格闘している恵たちの姿が、しばし見受けられてゆく……


                ――Go To Next

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あとがきもどき:
薫:今回は歴史のおさらい~(かなりまて
史実:
鳥羽・伏見の戦い。
慶応四年。1868年、一月三日のとある押し問答から始まった戦い。
幕府最後の15代将軍、徳川慶喜よしのぶ上洛の先発隊を率いる大目付滝川具拳ともあきと、
薩摩藩指揮官、椎原小弥太の押し問答から。
翌年の函館五稜郭の戦いに至るまで一年半にわたる内戦、戊辰戦争へと続いてゆく。
戊辰戦争は明治二年まで続いた内戦。(1868~1869年)
鳥羽・伏見戦争を皮切りに、江戸への進軍、北越戦争&会津戦争とつづいてゆく。
特に、会津戦争。
一般に戊辰戦争の第四段階目とよばれているこの戦いにおいては、
かなり悲惨な状況に一般人なども巻き込まれ、死屍累々とした光景が広がっていた。
と史実にも残っているほど。
こちらも同じく慶応四年。1868年の出来事であるが、
月日は四月二十一日に、新撰組に会津への入り口である白河口へ出動命令が下された。
新政府軍の奥羽鎮撫総督府参謀、世良修蔵が仙台藩士に暗殺されたことによって、
会津戦争の火ぶたが切って落とされる。
二十五日早朝、白河城をめぐる攻防戦が行なわれ戦乱の幕が開いてゆく。
つまりは、この年はかなりの動乱であったということですね。
※ちなみに、大政奉還は、1867年です。(江戸幕府政権を天皇に戻した時期)

ちなみに、剣心が維新志士を抜けたのは、鳥羽伏見の戦いの後。
つまりは1868年。当時19歳のことですねー。
恵は当時でいえば13歳なのですが、昔は数え年でゆくので今でいえば11歳。
つまり剣心は17歳……。

ま、そんなちょっとしたことを説明しながら。
ひとまず次回で恵の過去にいけるかな?
ではでは~
また次回にてv

2007年1月26日(土)某日


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