まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

とりあえずわけたけど。
かなりはしょってる部分あり(自覚あり
いあ…どの視野でうちこみしよーかなー。
とか迷ってたりして…そ~したら。主たる視野の展開でいいかな~とか(陳謝
なので、このたびはいろんな視点さいどがいりまじってますv
何はともあれ、支離滅裂になってるとおもわれる(汗)刃衛編の完了ですv

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あの速さ……
見極められなった。
あのくさった男に気を取られていたからといって、気づかないなどと。
「うふ…うふふふふ♡」
楽しくてしかたがない。
噂でしかきいてことがなかった人斬り抜刀斎。
まさかこの明治の世の中で、彼と戦うことができるなど。
噂では、彼は感情が高ぶれば高ぶるほどその速さも腕も格段に飛躍した。
そう伝え聞いている。
だから、激情化。
という話もまた伝わっているのだから。
今の彼からは、かつての人斬りとしての面影はまったくないが。
もし、かつての人斬りに戻らすことができたなら…それこそ楽しい戦いはない。
わき腹にくっきりと残っている一撃のあと。
もしこれが真剣ならば確実に命を落としていた。
内臓も少しやられているのが自分でわかる。
それでも……
「うふふふふ。緋村抜刀斎。楽しくなりそうだ♡」
相手が強ければ強いほど燃えるのは、自分の性分。
いつもものたりなかった。
だが…彼ならば……
「うふ。うふふふふ♡」
一人、傷の手当てをしながらも不気味な笑いをする男の姿が一人、見受けられてゆくのであった……

剣客放浪記  ~思いの強さと……~

「しっかし。あの署長さんもおどろいてたぜ」
思わず感心した声をあげてしまうのは仕方ないだろう。
あの短い時間にいったいどうやってあの谷の不正の証をもっていき、さらにはそれを実証させたのか。
それは左之助には判らない。
「まあ。ほとんどの人たちは菫ちゃんがどこかにやっていたでござるしな」
あの場に基本的にいたのは、ほとんど人型の式神。
それにどうやら相手はきづいていなかったようであるが。
「…で。だ。菫ちゃん。あんたはいったい何者なんだ?」
とてとてと自分達と同じく歩いている菫のほうをみつつ確認をこめて問いかける。
「あら?私は私よ。そういう左之助お兄ちゃんは自分が何なのかって説明できる?」
逆にそう問いかけられて思わず言葉に詰まる。
名前とかそういう意味合いの問いかけではないであろう。
世の中で一番困る問いといえば問いかもしれない。
「……ま、どうやら答える気はなさそうだしな。また俺が聞いてもわからねえとみた」
谷の反応や、剣心の反応。
普通のただの力のない子供ではない。
というのは理解はできた。
どこまでの実力を持っているのかはわからないが、あっさりと。
自分達を金縛り状態にしたのもまた事実。
いって苦笑し、
「しかし。黒笠…鵜堂刃衛か。元、人斬りで、なおかつ今は見たところ精神に異常をきたしている。
  けどま。こっちには最強の男がいるんだから何とかなるってもんよ」
バッン!
いいながらも剣心の背中を軽く叩く。
「そうでもござらんよ」
そんなあまりに楽天てきな左之助の台詞にひとまず訂正をいれておく。
「拙者は、維新後十年。人を斬り殺すことを自らに禁じた。
  だが、やつは進んで逆に斬り続けてきた。人斬りとしてこの大きさはかなり大きい」
人を殺す執念にかけては彼のほうが上であろう。
だがしかし、人は生きる執念のほうが遥かに上回っている。
「まあ。その十年もほぼ毎日、きちんと訓練はしたけどね~。」
「……死ぬかとおもうような訓練ではござるがな」
そんな剣心に続いてにこやかに言う菫の台詞に、ため息まじりにつぶやく剣心。
……何か口調からして、その当時からこの子がいたような口調なんだが……
そんなことを思うものの、
もしかしたらこの子は十歳を越えて、剣心のように、もう少し歳がいっているのかもしれない。
そんなことをおもってしまう。
菫にとっては歳などはまったく関係ないのだが。
「で。けっきょく。あの刃衛ってやつは結局素性はどんな奴なんだ?」
どうやら、剣心は昨日のやり取りからして彼のことを詳しく知っているらしい。
そしてまた…菫ちゃんのほうも。
そんなことを思いながらも、二人に問いかける。
「刃衛がどこで二階堂平法を極めたのかは拙者は詳しくはしらないが。
  始めて奴が現れたとき、奴は新撰組の隊士だったそうだ」
「新撰組っていったら、維新志士の宿敵じゃねえかっ!」
「そ~いえば。斉藤さんも今は藤田さんってなのって警察にいるっけ」
「まあ。斉藤はどこでもあの性格はあのままであろうがな」
悪、即、断のまま。
自らの信念のままに。
「まあ。話がずれたでござるが。実際やつは維新志士たちを幾人か斬った。
  だがそれ以上に、無関係の人々など、不要の殺人を繰り返し、
  その挙句、新撰組の内部で粛清されそうになったところを逆に返り討ちにして、そのまま逃走。
  それから数ヶ月後、今度は人斬りとして維新志士側に登場したでござるよ」
彼と直接対決することはなかったが。
もし当時対決していたら、今のようになるまでにどうにかおしとどめることが可能であったであろうに。
そういえば、意図的に菫ちゃんが会わないようにしていた可能性も否めないでござるな。
そんなことを思いながらも説明する剣心に、
「佐幕の次は勤皇かい。思想も主義もありゃしねえな」
思わずあきれた声をだす。
「刃衛にあるのは、人を斬りたい。という欲望だけでござる。殺人欲だけで動く極めて危険な人斬り。
  幕末の人斬りとして拙者。奴を放っておくわけにはいかぬのでござるよ。これは拙者の戦いでござる」
そんな剣心の台詞に、
「どうやら。俺の出る幕はなさそうだな」
自分がいたら足手まといになるであろう。
あの戦いの動きにすら自分はついていけなかった。
自分はまだまだなのだ。
と嫌でも思い知らされてしまう。
「まあ。左之には他に頼みたいことがあるでござるよ」
いってにこやかに左之助のほうをみながらも話しかける。
「ま。とりあえず。その重さでも彼と戦うのは十分だろうし。ま、頑張ってね。剣心お兄ちゃん♪」
「…菫ちゃん。何か他にたくらんでござらぬか?」
「あら?何のこと?」
何かたくらんでいるのはわかるが。
それが何かはわからない。
ともあれ、今は……
「では。後は頼むでござる」
左之助に伝言を頼み、そのまま一人はなれて進みだす。
そう。
一人で全ては決着をつける。
そのために自分のほうに彼の意識をむけたのだから。


くか~。
まったく、これは問題あるんじゃねえのか?
目の前で、縁側で爆睡している薫をみて思わずそんなことを思ってしまう。
「…ったく。だらしねえ顔をしてねやがって。年頃の娘がよだれたらして寝るなよな」
おきる気配すらなく完全に爆睡している薫をみてつぶやく左之助に、
「何か昨夜、心配で一睡もできなかったみたいだぜ」
薫が寝ているので稽古もないがゆえに、暇をもてあましまくっていた弥彦はというと、
左之助がもどってきたのをうけて、嬉々として迎えに出ていたりする。
「ふうん。なるほどね」
いいつつも、つんつんと薫の顔をつつき、
「おい。嬢ちゃん。おきな」
「……ん……」
左之助につつかれてもまったく目を覚まさない。
それゆえに。
「おきろってば」
むにゅ。
寝ている薫の口を左右に大きく指をいれて開く。
「ぶっ。あはははは!」
その顔をみて弥彦が思わず笑い出すが。
ばごっ!
どごっ!
「オカエリナサイ」
さすがにそこまでされれば目がさめ、横においてあった竹刀で二人の頭を思いっきりたたく。
「おう。ただいま」
薫に頭をたたかれながらも、一応返事を返す。
「…って。あれ?剣心は?」
一緒に帰ってきているはずの剣心の姿がどこにもみえない。
きょろきょろと視線をさまよわせ剣心を探す薫に、
「剣心ならかえらねえよ」
「……え?」
そんな左之助の言葉にいっしゅん血が冷え切ったような感覚をうけてしまう。

「…つうわけで。今度は剣心のやつが相手に狙われることになっちまってな。
  周りに迷惑をかけないようにしばらくここには戻らないってさ。
  で。留守の間は俺がここの守りを預かるように頼まれたったわけだ」
あと何かぼそりと、菫ちゃんが何かしないように見張っていて欲しいでござる…
とかいっていたが。
その何かというのがよく判らない。
彼女に関しては、未だにその奥行きが見えないがゆえに対応もまた仕切れない。
「で。剣心はどこにいったの!?」
二度と戻ってこないのではないか。
という不安が薫の脳裏をよぎる。
「さあな。とりあえず。河原にいくってさ。剣心がいうには、
  『幕末の人斬りは攻めやすいよう、かつ逃げやすいように川を拠点とすることが多い。
   河原なら刃衛もみつけやすかろう。』といってたしな」
そんな左之助の台詞をきき、
だっ。
そのまま門のほうにと走り出す。
「おいおい。どこにいく気だ!?」
「きまってるじゃないっ!剣心のところよっ!剣心を探すのよっ!」
不安が体を蝕んでゆく。
そんな薫の叫びに、
「馬鹿をいうなっ!刃衛は並の敵じゃあねえんだっ!
  あんたがいってもかえって剣心の足手まといになるだけだ!
  かえって剣心を困らせるだけだってわかんねえのかっ!ここで大人しくまっているのが一番……」
言いかけた左之助であるが、薫の表情をみてそれから先の言葉を思わずつまらせる。
瞳に涙を浮ばせて、
「じゃあ…じゃあ、刃衛と戦ったあと、
  剣心がもしもそのまま帰らないで、また旅にでちゃったらどうするの!?」
――流浪人ゆえ、いつまたどこに流れてゆくかわからぬでござるよ。
それが初めの剣心の台詞。
「父さんに死なれて……喜兵衛に裏切られて…そのうえ、また剣心までいなくなっちゃったら。
  また私一人ぽっちになっちゃうっ!それくらいなら危険な目にあうほうがいいわっ!」
源才も毎日のようには尋ねてはこなかった。
菖蒲と雀も同じく。
剣心がきてから、寂しくなかった。
まるで父親が生きていたときとおなじようにこの道場に活気がもどっていた。
「…おま……」
いいかける左之助の声をさえぎり、そのまま再び走り出す。
が。
「はい。まってね。薫さん。」
そんな薫の前にいつのまに戻ってきていたのか菫が立ちふさがる。
「どいてっ!菫ちゃんっ!」
そんな菫を追い越して剣心を探しにいこうとするが。
「今。いっても。剣心お兄ちゃんの足手まといになるわよ?」
「それでもっ!」
わがままだというのはわかっている。
だけども、この不安はぬぐいきれない。
そんな薫の気持ちがわかるがゆえに、
「なら♪これ、自力で解けたら考えたげる♡」
「……え?」
トッン。
くらっ。
とっと菫が足をけり、自分の額に指を置いたかとおもうとくらりとしてしまう。
「って!?薫!?」
「菫ちゃん!?おいっ!?」
そのまま、どさっと倒れる薫を支える菫をみて驚愕した声をだしている弥彦と左之助。
そんな二人に対して動じることはなく。
「大丈夫。すこし、このままいったらどうなるか。夢みせてるだけだから。
  ま、夢の中であれを自力で解けたら目覚めるわよ」
あれ…というのは……
左之助は何となくその言いようから、昨日の出来事を思いだし。
「……心の一方……」
たとえそれが夢だとしても、うけることにはかわりがない。
「そ。このままいっても。薫さん、刃衛に人質にとられて。
  さらには、心の一方をさらに強力にかけられて。
  彼を殺さない限り、薫さんの術が解けない。というのを剣心お兄ちゃんが聞いて。
  また人斬りにもどっちゃうからねぇ。自力で解けない限りは、術者の気を絶つ。
  それが彼がつかってる術の正体でもあるし」
さらっと何やらとんでもないことを説明する菫の台詞に、
「…心の一方を強くかけられる…とはいったい?」
「かけられる予定というか、このままだとかけられるであろう術は。
  肺機能が麻痺する程度の力加減かしら?もって二分くらいかな?
  そのまま、呼吸困難になって窒息死しちゃうっていうほどのつまらない術だけど」
「十分だろうがっ!ってそんな細かいところまであの刃衛は指定できるのか?」
「?剣心お兄ちゃんもできるわよ?私もできるけど」
『……!?』
問いかける左之助の台詞に、さらっと答える菫の台詞に思わず絶句する左之助と弥彦。
「…薫のやつ。だいじょうぶなのか?」
いまだに気を失っている薫をみて、戸惑いの表情を浮かべつつも問いかける弥彦。
「ま。だいじょうぶよ」
精神面的にも少しは、自分のわがままがどういう結果を招くのか。
彼女も少しは知ったほうがいいしね~。
そんなことを思いつつも弥彦に答える。
そしてまた。
「もし、俺が出向いてもやっぱり剣心の足手まといになるのか?」
自分の力のなさはよくわかっている。
だけども聞かずにはおられない。
「おもいっきり人質を提供するようなものね♡」
ぐさっ。
さくっとあっさりといわれて思わず落ち込んでしまう。

……あれ?
私…どうしたんだろう?
さっき菫ちゃんに止められたような気がするけど。
そんなことをふと思うけど、いつのまにか自分がいるのは河原の一角。
そして、その先に見慣れた赤い髪をみつけ、
「け~ん~しぃぃ~ん」
思わず怒りを押し殺したような声をだしてしまう。
どうして自分がここにいるのかはわからない。
だけども、目の前にいる剣心をほうっておくことなどはできない。
「みぃつけたぁ~」
「じ…刃衛よりおっかないでござるなぁ~……」
何やらそんなことを剣心がいってはいるが。
そんな剣心の横にすとんと腰を下ろし、
「左之助に聞いたわ。しばらく道場に戻らないつもりだって。…私も道場に残らない。一緒にここに残るわ」
剣心がいなくなってしまわないためにも。
「……薫殿。左之と喧嘩でもしたでござるか?それとも弥彦?」
「違うわよっ!」
「……刃衛のことはきいたであろう?」
即座に否定する自分にと、しばらく無言になった後で問いかけてくる。
「聞いたわ。だけどかえらない。」
「…誰かを守りながらの戦いになると、刃衛には到底かなわない」
その言葉に寂しさを感じるのは気のせいではない。
自分がここにいれば…たしかに、剣心の足手まといになるのだ。
というのは、剣心の言葉からも案に物語っている。
だけども…彼をこのまま旅立たせないためにも。
すくっと立ち上がり、するっと自分が髪の毛を結んでいたリボンを取り去り、
「一番気に入っている藍色のリボン。剣心に貸すわ」
いって無理やり剣心の手にと握らせる。
「おろ?いや、借りたところで拙者……」
「いいから、借りるのっ!いい?あくまで貸すだけだからねっ!ちゃんと返すのよっ!
  だから…刃衛と戦ったあと、それを忘れてまた旅にでたら絶対に許さないからねっ!」
必ず戻ってくる。
という証がほしい。
そうでないと不安でたまらない。
そんな自分の不安がわかったのか、くすりと笑われ、
「わかった。必ず返しにもどるでござる」
「…よし」
その言葉に安心する。
と同時。
ふっ。
背後に何やら気配を感じるとどうじ、口がふさがれる。
そして。
「薫殿!?」
剣心の驚愕した声が身動きできない体に聞こえてくる。
「ふはは!みたぞ!みたぞ!抜刀斎!この小娘お前の女とみた!」
自分が誰かに後ろから羽交い絞めにされ、しかも川の中を動いている。
と理解するのはそうは時間はかからない。
視線を下げればどうやら小さなイカダの上にたっている人物に自分は拘束されている。
「刃衛!きさまっ!」
そんな剣心の言葉に、
…こいつが!?
思わず驚愕してしまう。
「怒れ、怒れ!どんどん怒れ!さすればお前は十年前の…幕末の人斬り抜刀斎に立ち戻る!
  俺が殺してみたい最強無比の伝説の人斬りになっ!俺を憎め!抜刀斎よっ!」
「…け…剣心っ!」
どうにかふさがれていた口が自由になり声をだすのがやっと。
違う。
自分は剣心の足でまといになるためにやってきたんじゃない。
ただ不安だった。
だけど…この現状は。
左之助の、足手まといになるだけだ。
という言葉の意味を今さらながらに理解する。
相手が人質を取る、ということはまったく念頭にいれてなかった自分の愚かさ。
「ふはは!ここで待つぞ!抜刀斎!」
いって何やら紙切れのようなものを剣心のほうに投げ渡しているのが垣間見える。
「放してよっ!剣心っ!」
「おっと。お前は大切な抜刀斎を元にもどすための切り札だ。しばらく眠ってろ」
どすっ。
その言葉とともに、そのまま意識を失ってゆく。
次に気づいたときにはすでに夜。
手足を拘束されて言葉のみがでるようにされている。
どこかの小さな社の中に入れられている自分に、そしてまた。
少し前のちょっとした小さな岩の上にこしかけている男の姿。
きちんとは昼間はみえなかったが、おそらくこの男が黒笠なのであろう。
というのは理解できる。
「んふふふ。そうにらむな。何もお前をとってくおうってわけじゃない」
「卑怯者!まともに戦ったら剣心に勝てないからって私を人質にとるなんて!」
「わかっちゃいねえな」
…え?
「今の抜刀斎は抜刀斎ではない。
  お前を人質にすれば抜刀斎は怒る。怒りはやつを人斬り抜刀斎に立ち戻らせる。
  今の抜刀斎は昔のやつとはちがう。俺が倒したいのは人斬り抜刀斎だ。
  今のやつに勝手も何の嬉しくもない」
「卑怯者のうえに、ほらふき?あなた、剣心の強さをまさか知らないわけじゃないでしょう?」
この男が何をいっているのかわからない。
「ふ。お前こそ知らないのさ。あいつの本当のすごさを。
  幕末の…人斬り抜刀斎の本当の鳥肌のたつほどのすごさをな」
剣心は剣心には代わりがないじゃない。
こいつ何をいっているんだろう。
そんなことをおもうが、身動きできない身ではどうしようもない。
「人振りで十数人を瞬時に斬り殺した…あの。あのころ俺も新撰組の一員として京都にいた」
「新撰組の?」
新撰組。
その名前はきょうび、子供でも知っている。
「同じ京都で戦っていた、あのころの抜刀斎と、ぎりぎりの一線で殺しあう。
  面白い。こんなに面白いことがあるかい?」
そんな彼の言葉にむかむかする。
まるで剣心が人殺しを楽しんでいたかのようないいかたをしているのも許せない。
「剣心は…剣心は、にどと人斬りにはもどらないわっ!」
そんな薫の言葉に、目の前の男は不気味に笑うのみ。
その笑みが何を意味しているのかわからない。
だが…果てしなくいやな予感がするのは気のせいではない。
「さってと。ちょうど零時。たのしい時間の始まりだ。…なあ、抜刀斎」
「剣心!」
近づいてくる姿を認めて思わずさけぶ。
が。
ぞくりとするほどの雰囲気をやってきた剣心はもっている。
「うふ。いい目だ。かなり怒っているな」
「ああ。薫殿を巻き込んだ貴様と…それを阻止できなかった俺自身にな」
…俺?
違う。
いつもの剣心じゃあない。
言葉遣いから雰囲気からまるで違う。
そんな剣心の変わりように戸惑うしかない。
「上等、上等。言葉遣いが幕末に戻っている。んふふ。なかなか心地よい殺気だ。
  あとはそのけったいな刀を返せば、伝説の人斬り様の復活だ」
何やら楽しそうな黒笠の声。
「……黙れ」
そんな会話とともに、二人して剣を抜き放ち、目の前で切りあいを始める。
いつもの剣心の動きとはまったく違う。
何というのか…気迫がまったく異なっている。
しばらく呆然としてみている最中。
ざくっ…
「…っ!?剣心!」
切りあいの最中、肩を指されて目の前で倒れる剣心の姿。
「……ぐっ!」
「剣心!剣心…っ!」
倒れた剣心に必死に声をかけるが、自分は動くことができない。
今すぐに剣心の側にかけよっていきたいのに。
「俺の動きを読んでいたようだが。どうやら読みきれなかったようだな。
  まだまだだな。まだ貴様は完全に幕末のころの人斬り抜刀斎にはもどっていない。
  今のお前ならば、タバコ三本すう間に軽く殺せる」
笑いながらもそんなことをいっている黒笠の姿。
「あなたは…あなたは、こんなことをして何がたのしいの!?
  とても正気じゃない。あなたは魔物よ!人じゃないわっ!」
「うふふ。もっともっと怒ってもらおう」
「……え?」
黒笠の声とともに、何やら視線に貫かれる。
それとともに、まったく体の自由も、そして息すらもできなくなってゆく。
「か…薫殿!?」
「うふふ。心の一方を強めにかけたんだ。肺機能まで麻痺する程度にな」
息が苦しく、それでいて瞬きすらできない。
目の前の光景をただ凝視するしか自分にはできない。
「もってせいぜい二分。強めにかけたから昨晩のようには簡単にはとけん。
  解く方法は二つに一つ。一つは自力でとくか。もう一つは俺を殺して剣気を完全に絶つか。
  もっとも、前者は絶対にその女には無理だろうがな」
そんな台詞が聞こえてくる。
……何?
何をいってるの?
意味がわからないが、息苦しいのは理解できる。
「……刃衛……」
「おっと。長くおしゃべりしている時間はないぞ?いいたいことはその剣でいえ!」
がっ!
黒笠がそういうと同時、目の前の剣心の姿が掻き消え。
次の瞬間、黒笠の…刃衛の顔に一撃を加えている剣心の姿が目に入る。
「う…うははは。今のは…今のは!今のは剣閃も、身のこなしすらみえなかった!
  これぞ飛天御剣流!これぞ人斬り抜刀斎!」
歓喜にみちた黒笠の声。
「おしゃべりの時間はないんだ。殺してやるからとっととかかってこい」
……剣…心?
まったく、雰囲気がまたまた変わっているのがはっきりとわかる。
「殺してやる。か。いいぞ!人斬りにふさわしい台詞だ!」
――剣心!
自分のせいで……彼が言っていた意味が今さらながらにわかった。
そして、黒笠が自分を人質にとった理由も。
今さらながらに自分の考えのなさを悔やんでしまう。
「もどったな!幕末のおまえに!人斬り抜刀斎に!ここからが本当の勝負だ!いくぞ!抜刀斎!」
すでに息が続かない。
だけども、自分には見届ける義務がある。
ましてや…何もできない自分がもどかしい。
キッン。
ゾクッ。
離れていてもはっきりと判る…殺気。
気迫が違う。
それは薫にすらわかる。
「どうした?」
「ふふふ。さすが伝説の人斬り様。殺気がこもると違うねぇ」
後ろに飛び退いた彼に対し、
「命がおしくなったのならば薫殿にかけた術をとけ」
「無駄だな。さっきもいったとおり。もはや俺ではとけん。さっきいった通り、二つにひとつだ。」
「ならば、おまえを殺すまでだ」
「それも、不可能だ」
いって、すっと剣を目の前にと掲げる黒笠。
「人なんて生き物は、案外思い込むことにもろい。
  病になったと思い込めば本当に体調が悪くなり、呼吸ができないと思い込めば本当に息が苦しくなる。
  心の一方はその脆さをついて高めた剣気で相手をいすくませ、不動にする技。
  思いこむことは実際に体に作用する。」
そんな台詞が遠のきかけた意識のもと、耳にと聞こえてくる。
「そして…それは、術者とて例外ではないっ!」
何やらいって何かしているようであるが。
薫自身には、何をしているのかはわからない。
すでに、台詞も途絶え途絶えにしかきこえなくなっている。
「かまわん。どんな技でも好きなだけ使え。だが。俺が殺すといった限りはお前の死は絶対だ」
いって剣を鞘にと治めて構える剣心。
あの構えは…抜刀術の構え。
それは理解できる。
「こい。抜刀斎の志士名の由来、とくと味あわせてやる」
そんな剣心の言葉が聞こえてくるが。
「いざ!勝負!抜刀斎!」
剣心にむかってゆく黒笠の姿が視界に入る。
もはや、少し気をぬけばこのまま倒れて死んでしまいそうなほどに苦しくなっている。
剣心!
剣心の放った剣はすんでのところでかわされる。
「俺の勝ちだ!抜刀斎!」
剣心がまける!?
そう自分が思うよりも早く、
ごぎっ……
鈍い音が周囲にと響き渡る。
みれば、剣をもっているとは別の手に握られている鞘が黒笠の腕を完全にとたたきおっている。
「飛天御剣流。双龍閃。抜刀術が本来、己の一撃必殺であることも。
  逆刃刀が抜刀術に向かないのも百の承知。
  抜刀術の全てを知り、極めた男。それが抜刀斎の志士名の由来だ」
そんな剣心の台詞が耳にと入ってくる。
「肘の関節を砕いて筋をたった。お前の剣の命はこれでおわった。
  そして…そしてこれで命もおわりだ。死ね」
感情が一つもこもっていない冷たい声で言い放ち、すっと刃を返して刃衛の頭上にと掲げる剣心。
「どうした。抜刀斎。何をためらっている?心の一方を解くには俺を殺すしかない。
  俺を殺して小娘を助けるか。殺さずに小娘を見捨てるか。二つに一つ。簡単すぎる選択だろう?
  ためらう時間もない。またその時間もない。
  伝説の人斬り様の凶刃。冥土の土産に一撃、ここにくれよ」
いってとんとんと自由になるもう片方の手でわざわざ頭を指している黒笠。
「…そうだな。お前に土産などもったいなさすぎるが。だが。薫殿を守るため、俺は今一度人斬りに戻るさ」
!!
感情のこもっていない、冷たい瞳と表情。
剣心の台詞に心臓が止まりそうになってしまう。
違う。
私は…私は……
自分のせいで…剣心が……
脳裏に浮ぶのは。
始めてあったときの剣心の台詞。
「それでいい!おまえのその凶刃をこの俺にあじあわせてくれっ!」
「しねっ!」
刃衛にむかって振り下ろされてゆく剣心の刀。
『剣は狂気。剣術は殺人剣。どんなきれいごとを並べても、それが真実』
剣は人を守るもの。
自分がいっていたのはたしかに、誰も人を殺めたことも、また、苦しめたこともないものがいう台詞。
それが今さらながらに身につまされる。
だけども。
『だけども。拙者は真実よりも、薫どのがいう戯言のほうがすきでござるよ』
そういってくれて微笑んだ剣心の姿は…今の剣心には見当たらない。
だめ……だめっ!
私は…私は、剣心に人殺しをさせるために、彼をおいかけてきたんじゃないっ!
彼をまた過去に引き戻すために、おいかけていったんじゃないっ!
「ダ…だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
バァン!
声がだせないはずなのに、苦しい中命の限りさけぶ。
「…人斬りに…戻らないで……殺人剣をふるったら…だ…メ……」
剣心には、いつも笑っていて欲しい。
あののほほんとした笑顔で。
冷たい顔の剣心は、剣心ではない。
「薫殿!?」
「薫殿!しっかり!大丈夫でござるかっ!」
ござる……
言葉遣いがもとにもどってる……
そのことにほっとする。
意識を保つのがやっとなほどの中、自分をうけとめてくれた暖かい腕。
ふとみあげれば、見慣れた優しい剣心の顔。
「大丈夫で…ござるよ……」
「おろ?」
「言葉遣いが…もとに…もどってる……」
そこまでいって、安心しきったのか完全に意識が遠のいてゆく。
私は…私は、剣心に人殺しをさせたくは…ない。

「……おる。薫っ!」
「…え?」
ぼんやりと目を見開くと、夜であったはずなのに明るい空が目に入る。
「大丈夫か?いきなり叫んでいたけど」
「…え?…あ?私…?」
ふとみれば、横に弥彦とそして左之助の姿。
そして、目の前にはにこやかにたっている菫の姿が。
「どうやら。夢の中で自力で解けたようね。心の一方。
  どう?あのままいってたらあれが現実になってたわよ?薫さん?」
菫の言葉の意味を理解するのにしばらく時間がかかる。
「……え?……あれ?剣心…そうだ。剣心は!?」
たしか、今まで剣心は黒笠とたたかっていたはずだ。
ふと見渡せばなぜか自分は自分の家の敷地内にいるようであるが。
「何いってんだよ。薫。剣心はもどらねえ。ってさっき左之助が教えてくれたばかりだろうが」
「……え?」
「剣心お兄ちゃんは、今は黒笠と対決するために、一人で行動しているところよ。
  今まで、薫さんが見ていたのは、ありえたはずのもうひとつの未来。
  つまり、あのまま何も考えずにいってたら、ああなっていた。という現実よ。
  薫さんって、ほんっとぉぉに世間知らずよねぇ。自分が人質にとられたりする。
  という可能性考えずに、感情だけでつっぱしったりするし。
  ま、そのあたりは剣心お兄ちゃんも感情でつっぱしるところはあるから。
  人のことはいえないけどね」
交互にいわれる台詞に、ようやく。
たしか、剣心を追いかけていこうとして気が遠くなったのを思い出す。
……今までのは…夢?
あまりにリアルすぎるほどの夢。
「だから。夢というか。ありえるはずのもうひとつの現実だってば。薫さん。
  ま、一度あれを解く感覚をつかめたら、二度目はもっと楽かな?で。どうする?
  自力であれをかけられても解く自信があるなら、剣心お兄ちゃんのところにつれてくけど?」
『?』
薫がどんな夢をみていたのかは判らない。
判らないが…おきる直前。
薫が、ダメ、と叫んでいたのと。
人斬りに戻らないで…といっていたのは聞いている。
いったい全体どんな夢をみていたのか。
それは想像するしかないが。
今の菫の台詞からして、おそらくは薫が人質にとられ、
それをうけて剣心が黒笠を殺すような選択にしかもっていけない状況に追い込まれた。
そういう理解は何となくではあるができる。
その内訳まではわからないが。
「……つれてって。お願い」
人質にとられる以前に、万が一。
剣心に二度とあんな行動をさせたくない。
それが本音。
冷たいまでの剣心の表情。
見ているだけでぞくりとするほどの。
あんな剣心は見たくない。
もし、自分がゆくことでそれが防げるならば……
夢だといわれても、あのかけられた術をといたときの感覚は漠然と理解している。
いわば、気の持ちよう。
それが何よりも重要。
「まあ。よくわかんねえが。嬢ちゃんだけつれてってもらったら。俺が剣心にどやされるしな。俺もいくぜ」
「俺もっ!」
そんな薫の台詞に続き、左之助がにっと笑いながらいっくてる。
それに続いて即座に弥彦も即座にいっくてるが。
「…おまえ、おもいっきり足でまとい……」
「何ぉぉ!?」
そんな言い合いをしながらも、左之助に対して突っかかっていっている弥彦の姿が。
くすっ。
そんなそれぞれ三人の姿をみつめつつ。
「なら。いきましょうか♪今いったら面白いものが見れるとおもうしね♪」
にこやかに笑いながら。
三人を先導し、そのまま道場を出発してゆく菫の姿が見受けられてゆく……


上流で降った雨のために川かさは増している。
もし、この濁流に人が落ちればまずひとたまりもないであろう。
濁流のあしらい方をしらぬものならばなおさらに。
町から少しはなれた場所にとある小さな森。
その横に流れている川は、町のほうにまでつながっている。
ここならば、隠れるのも絶好の場所。
それに何よりも……
「ほおう。よくここがわかったな。抜刀斎」
今は人すらこない、見捨てられた祠。
軽く雨風をしのぐ程度はできる大きさ。
さらに、ここは人がこないし、川も近いこともあって移動にもことかかない。
気配すらまったく感じさせずに近づいてきた人物のほうをみて、にっと笑みを浮かべて話しかける。
「少し考えてもわかるでござるよ。それに何より。おぬしの気はいたく独特で遠くにいても感じやすい。
  おぬしはわざと気を隠したりしてないでござろう?」
そんな彼にと淡々と話しかけているのは、いうまでもなく剣心なのであるが。
「さすがいうことがちがうねぇ。伝説の人斬り様は。
  だが、今のお前でこの俺に勝てるかな?剣気もずいぶんと落ちてるんじゃないのか?
  十年も人斬りが人を切らなければ、おのずと剣気も落ちる。それはわかっていよう?」
噂にきく、近づくことすらままならない冷たい殺気も今の抜刀斎からは欠片も感じられない。
すでに日がしずみかけ、うっそうとした森の中は薄暗く二人を包み込んでいる。
そんな刃衛の台詞に、
「鵜堂刃衛。今からでもおそくはござらん。きちんと罪をつぐなうでござるよ。
  おぬしに暗殺を依頼したものの目安は拙者には大まかついている。
  この平和な世の中になっても人斬りという暗殺者をやとって、私利私欲を求めようとしている輩がいる。
  というのもな。だが……それはただ、そのものの権力争いに利用されているだけ。
  それはむなしくはござらんか?」
すくなくとも、かつての幕末のころはそれぞれの志のもと、信じる信念のもとに戦っていた。
それは人斬りだとて同じこと。
「確かに。今の政府の内情は幕末のころと同じく様々な出来事があるであろう。
  ましてやこれからは特にそういうごたごたが増えるでござろうが。
  そんな中、自分達の利益を求めるためだけのものたちに味方し、人を斬る。
  というのは間違っているでござるよ。今は明治。刀がものをいう時代であってはならぬのでござるよ」
そんな剣心の台詞に、
「ふ…ふはは!俺は別に修羅道から抜ける気もないし、また抜けられるわけもない。
  俺はただ、人を斬れればそれでいいのよ」
自分を説得しようとやってきたのを理解して思わず笑ってしまう。
あの伝説となっている人斬りがそのようなことをいうなどと。
それも笑える要素ではある。
「…ならば。拙者はおぬしを止めるまでだ。
  これ以上不幸な人々をつくらぬためにも。そして…おぬしのためにもな」
相手が言っても聞かない。
というのは今ので十分にわかった。
ならばできることは、彼を止めることのみ。
「できるか?貴様に?人斬りでなくなった人斬り様に俺が倒せるとおもうのか?ふはは。面白い。勝負だ!」
すらりと剣を抜き放ち、目の前にといる抜刀斎にとむかってゆく。
キッン!
カンキンキン!
繰り出す一撃のその全てをかるく剣において受け流される。
自分は必死に繰り出しているというのに相手は息すらも乱してはいない。
ばっ。
しばらく剣を交えたのちに、後ろに飛び退き、そして。
「さすがだな。……だがしかし。おまえは俺にはかてん」
いってにっと笑い。
すっと自らの剣を目の前に掲げる。
「心の一方は、心の弱さをついて、高めた剣気で相手をいすくませる技。
  思い込む。ということ。それは…術者とて例外ではないっ!」
高々と言い放ち。
そして、
ギッン!
剣にむかって自らの技をかけ、その反射で自分にと技をかける。
ドクッン。
この感覚は久しぶりだ。
体全体に力がみなぎってくる。
「うおおお!我!不敗なりっ!」
そういう刃衛の姿形は、筋肉などが多少もりあがっていたりする。
彼の気も格段に跳ね上がっていたりするが。
それをみても、別に動じることなく淡々と、
「なるほど。自分自身に強力な暗示をかけ、潜在している全ての力を発揮する気か」
そんな刃衛をみながらも言い放つ。
「我!無敵なり!我、最強なりっ!」
叫びとともに、刃衛の周囲から何やら気迫のようなものがあふれ出ていたりするが。
「心の一方。影技。憑鬼の術。これを使うのは新撰組を抜けるとき以来、やく十五年ぶりだな」
にっと笑うその姿は、先ほどの刃衛とは多少ことなっている。
顔立ちも、先ほどのすこしやつれた感じではなく、若々しい感じにとあいなっている。
体つきも、その筋肉のつき具合がくっきりとわかるまでに変化していたりするが。
そして、
ひゅっ。
がん、ガカガガガ!
手にした刀をその近くにとある岩にと連打で打ちつける。
「卑怯といえば卑怯な術だが。使わせてもらうぞ」
彼が打ち付けた岩は、まるで木の葉のごとくにぼろぼろに成り果てていたりするが。
だがそれでも原型をとどめている。
ふっ。
「かまわん。どんな技でも好きなだけつかえ。
  だが。拙者はおぬしを止める。それはゆるぎない事実でござるよ」
肉体を変化させるということは、それすなわち。
全ての神経や運動能力など、どこかにひずみが生じる。
自分自身では全ての能力を最大限に発揮したつもりでも、実はそうではない。
その事実にすらどうやらこの刃衛は気づいていないらしい。
「行くぞ!抜刀斎!」
自分の優位を確信して剣心にとむかってゆこうとする。
この技をかけた自分に、いくら抜刀斎といえどもかなうはずがない。
という、あるいみ自分に対する絶対的な自信。
その自信もまた全ての能力を上げたということもあり、無謀な自信とあいなり、
ありえるはずの防御手段すらおろそかににっている。
ということにすら気づいていない。
刃衛が、剣を構え、剣心にむかって走り出そうとしたそんな中。
「あ。いた。ほらね。やっぱりここだった♪」
「剣心っ!」
「あ。あいつが黒笠か?」
「ん?昨夜と何か感じがちがうぞ?あいつ…何をしやがった?」
何やらとても場違いな声が四つ。
「な!?菫ちゃん…それに、薫殿に弥彦に左之助!?どうしてここに!?
  …って、菫ちゃん、どうして皆をつれてきたでござるか!?」
思わずそちらを振り向き驚愕した声をだすのは仕方がないであろう。
菫がいる、ということはそれ即ち。
彼女が三人を連れてきた、という証拠。
「見物vあと、どうしても皆いきたいっていってたし」
「しかしっ!」
「あら?剣心お兄ちゃんは、相手がべつに憑鬼の術をかけてても。
  問題ないでしょ?重さに耐えるいい特訓にもなるし♪」
菫が彼等をつれてきた理由の一つにそれがある。
だれかを守りたいという思いは何よりも強い。
特に剣心の場合は人一倍、その思いは遥かに強い。
それゆえに、早く増やした剣心の肉体にかけている重さに慣れさすためにとつれてきた。
このほうが一番手っ取り早く、その重さを自分のものとする。
「そんな理由で……」
自分をほうっておいて、何やらやってきた子供二人に女一人に昨夜の男が一人。
そんな四人組と放している剣心をみながら、にっと笑う。
今のこの、人殺しはしない、といっている元抜刀斎を倒しても何の意味もない。
自分が戦いたいのは…昔の抜刀斎。
それゆえに、その昔に立ち戻させるために必要なのは…彼を怒りに満ちさせること。
「う…うふふふふ。いいねぇ。いい観客がきたことでもあるし」
キッン。
にやりと微笑み、剣心が話している四人のほうこうをみて視線に気を込める。
「しまっ!」
ドクッン。
そのまま、その視線に射抜かれて、その場に一瞬固まる左之助たちの姿が見てとれる。
が。
「うりゃぁぁっ!」
「馬鹿にしないでよねっ!」
相手の視線に込められた気。
それは気力の強さで弾き飛ばせる。
というのは、左之助は昨夜の経験で。
そして薫は夢の中の経験で理解している。
それゆえに、刃衛がかけてきたわざを掛け声と、叫び声とともにどうにか断ち切る。
最も。
多少菫が干渉しているがゆえに、あっさりと技を断ち切ることができているのであるが。
それは薫たちはしらぬこと。
何やら気合と叫びとともに、一度かかるものの、それを自力で解除している左之助と薫。
そんな二人の姿をみてほっとしつつも。
…どうして薫殿までが?
左之なのわかるでござるが……
などとおもい、ふと、菫が何か薫にしたのではないかという不安がよぎる。
ある意味、その通りであるといえばそうなのであるが。
「…ほう。かけ具合が浅かったかな?だが……」
自力でどうやら自分がかけた術を、今やってきたうちの二人が解いたことを理解し、
そんなことをふともらす。
が。
「弥彦!?」
「って。おいっ!しっかりしろっ!」
そんな彼等の声もまた、刃衛と、そして剣心の耳にと届いてくる。
みれば。
「…がっ……ぐっ……何…だ?…これ……」
いきなり体が重くなり、その場に座り込むようにして、喉を押さえている弥彦の姿が。

弥彦からすれば、何が何だかわからない。
いきなり、体全体を黒笠の視線が貫いたような感覚が襲ってきたかと思うと。
次の瞬間。
体全体がまるで金縛りにかかったかのように動かなくなり、自由がきかなくなる。
声もかろうじてだせるかだせないかといったような感じである。
薫と左之助が心配した声を自分にかけてきているのはわかるが。
だが、今はなによりもこの状態をどうにかしないと、というのが優先されるのは彼とてわかる。
「弥彦!?」
そんな弥彦の変化にと気づき、思わずそちらのほうを振り向きざまに叫ぶ剣心であるが。
「どうやら。もうひとりのあのガキにはかかったようだな。
  抜刀斎。本気になれ。幕末のあろころのお前ににな。そうでなければ面白くないっ!」
自分が憑鬼の術を使っていることにより、圧倒的に自分が有利。
そう思い込んでいるがゆえに、剣心を挑発するためだけに術をつかっているこの刃衛。
いってにやりとわらい、剣心のほうにと向き直り、
「憑鬼の術がかかっている、今の俺のいすくみの術は通常ではとけはしない。
  ましてや、おれ自身にすらもうとけもしない。方法は二つのみ。
  自力でとくか、それともこの俺の剣気を完全に絶つか。二つに一つ」
びくっ。
その台詞に、先ほど菫に見せられた夢のことを思い出す薫。
夢の中では自分が術をかけられた。
そして……
「弥彦!根性だしなさいっ!男の子でしょぅっ!」
半ば、あせなりがらもうずくまっている弥彦にと叫んでいる薫の姿。
そんな薫の姿を遠めにみつつも、
「無駄だ。無駄だ。そんな子供に解けるものか。
 おそらく、おまえは俺の目をみていなかったからかからなかったのだろう」
まったくもって勘違いをしている台詞をのたまいつつ、
「さあ。抜刀斎!勝負だ!」
最強の維新志士を倒せることに喜びを感じながらも、嬉々とした表情で叫ぶ刃衛。
そんな刃衛と、そしてうずくまっている弥彦の姿をちらりとみて、ため息ひとつ。
「刃衛。つくづく救えぬやつ。無関係なものを巻き込むことはなかろう」
「無駄口たたいている暇があったらこちらからゆくぞ!抜刀斎!」
いいながら、剣を片手に剣心にと突進してゆく。

本来、この術をかけていて自分を止めるものなどは今までいなかった。
そう。
あの新撰組を抜けるときも誰も自分にかなわなかった。
だがしかし……
最強、と自分自身に暗示をかけ、全ての力を出し切っているのにも関わらず、
全ての剣戟が、ことごとく止められるのはどうしたことか。
ガガガガガ……
速度を速めても、まったく息一つ乱すことなくその剣を全てさばいてくる目の前の抜刀斎。
ならば……
キッン。
いくら何でも至近距離で、ましてや憑鬼の術をかけている自分の技。
それをまともにくらえば、いくら抜刀斎といえどもいすくむはず。
そんなことを思いながらも、術を繰り出す刃衛。
が。
「小ざかしいっ!心の一方は通じないといったでござろうっ!」
パアッン。
術を放った直後に、その気は剣心の気合によって霧散させられる。
だが、今のはほんの小手調べ。
それゆえに、そのまま切り込んでゆく。
片手平刺突が初めにくるのは一目瞭然。
相手の体制からしてもそれくらいは簡単に読める。
飛天御剣流とは、相手の動きを正確に読むことでも知られている。
だが…予想外の動きまでよめるかな?
そんなことを思いながらも、ことごとく、剣心が予測したように寸分たがわずに動くがゆえに、
あっさりと全ての技を交わされている刃衛であるが。
横一文字の凪ぎのあと、十字の型の唐竹割りがくる。
ならばそこで崩すのみ。
そのまま、読みのとおりに繰り出してきた刃衛の刀をその場で崩す。
「…うっ……」
まさかここまで正確に読まれるとは。
そんなことを思いながらも、体制をくずしながらにっと笑い、
そのまま、背後に手をまわし、すっと刀をもう片方の手にと持ち帰る。
そして。
そのままいっきに左手に持ち替えた刃を剣心のほうにとむかって突き出してゆく。
…が。
「……なっ!?」
自分がいま、体制を崩していた間にいつのまにか間合いに入られており、
そのまま、剣をもった手ごと。
ごぎっゅ……
鈍い音とともに、剣心の放った一撃が左手を捉えおもいっきりねじまがる。
「ぐ…ぐぁっっ!!」
完全にねじれた左手をそのままに、剣をあまりの激痛のあまりに地面に落とす。
本来、ありえるはずのない方向にと左手が、肘からねじまがっている。
「背車刃がくるのはわかりきっていたでござる。刃衛。今一度いう。
  とっとと弥彦にかけた術をといて罪をつぐなうでござるよ。」
そんな痛みにもんどりうっている刃衛に対して淡々と言っている剣心であるが。
「…そうか。ならしかたない。お前の剣気を完全に絶つまでだ」
殺さずとも、剣気を絶つ方法は他にもある。
それはあまり知られてないにしろ。
そんな剣心の台詞を少し離れた場所で耳にし。
ぞくっ。
このままじゃぁ…剣心が…っ!
不安にさいなまれ。
「弥彦!がんばって自力でときなさいっ!でないと剣心がっ!」
弥彦の肩にと手をおき、弥彦に語りかけている薫。
「弥彦ちゃん。がんばらないと。ほうっておいたら筋肉が硬直していって下手したら死ぬよ~?
  それくらいの術というか相手の気迫くらいは押しのける気力はもたないとね。」
のほほんと、まったく動じることなく、そんな弥彦にといっている菫の姿。
「……つ~か。菫ちゃん。まったくどうじてないだろ?」
思わずそんなことをいっている菫をじと目でみつつも問いかけている左之助。
普通あせるであろうに、まったくもって動じていない。
それは昨夜においてもおもったことであるが。
「動じる必要ないし。これくらいとけないとこれから後、やってけないし?
  まさか。弥彦ちゃん。そこまで軟弱じゃないでしょうしね~」
「…ちゃ…んってよぶなっ!…それに…俺は…軟弱じゃあ…ねえっ!」
そんな菫の台詞に、思わず苦しい息の中でも抗議の声をだす。
そんな彼等のやり取りをちらり、と垣間見て、
……まだ弥彦にはあれを自力でとくのは不可能であろう。
ならば、仕方ない。
そういいつつも、剣をちんっと鞘に収める。
そんな剣心の目の前では、
ごぎっ…という音とともに、ねじれた腕を自力で元通りにしている刃衛の姿が。
「ふはは。いいねぇ。その台詞。もう少しで伝説の人斬り様の復活かな?」
ぞくぞくする。
噂でしか聞いたことのない伝説の人斬りの実体をこの目でみることが何よりも。
そんなことを思いながらも言い放つ刃衛の台詞に、
「無駄口をたたいている暇はないでござる。拙者が、剣気を絶つといったからには、確実に絶つ。
  …こい。抜刀斎の志士名の由来を説くと教えてやる。」
相手が自分を人斬り抜刀斎とみている以上、それに答えて完全に気力を削ぐのが一番。
しかも、どうやら相手は自分自身に術をかけて最強になったと思い込んでいる。
その思いあがりを正すのもまた剣気を削ぐのには十分に役立つ。
ぞくっ。
その場にて剣をしまい、構える剣心の姿を目にし思わず全身に鳥肌が走る。
間違いようのない、自身に向けられている殺気。
微動だに動くことすら、まるでためらわれてしまうほどの。

「?剣心のやつは、何をする気なんだ?ありゃあ」
「…あれは。抜刀術の構えよ。刀剣の刃を鞘の内部で走らせ抜き放つことによって、
  剣速を、二倍にも三倍にもさらに加速させ、相手に攻撃の間を与えずに切り込む。
  流派によっては、居あいぬきとか、抜きともいわれている技よ」
剣心の構えをみて、戸惑いの声をあげる左之助にひとまず説明している薫。
このままでは、剣心がいなくなってしまう。
その不安は捨てきれない。
「あ。あれつかう気なんだ。どうせなら奥義つかえばいいのに」
それをみて、のほほんといっている菫の台詞に、
「奥義?」
「そ。ぜったいに仕掛けられたらまず、通常でいえば逃れることのできない、飛天御剣流の奥義v」
左之助の台詞に、にこやかにさらっと返す菫。
そして。
「さ。弥彦ちゃん。がんばって気合で解こうね♪」
未だに、うずくまり苦しがっている弥彦にむかってにこやかに続けざまに言い放つ。

……これは。
抜刀術の構え。
それは見ただけでわかる。
しかも、飛天御剣流は神速剣。
すなわち、それは最速を意味している。
だがしかし、本来の抜刀術は一撃必殺技。
その一撃をはずせば仕掛けたほうは無防備となり隙ができる。
普通ならば交わせないだろう。
だがしかし、今の自分は術により全ての力が発揮されている。
それがたとえ片手が思うようにつかえなくとも。
腕を折られたほうは利き腕ではない。
それゆえに問題はない。
痛みなどは気力でどうにでもなるものだ。
さらにいうならば、目の前の抜刀斎がもっているのは逆刃刀。
すなわち、抜刀にはあからさまな不利な代物。
十分に鞘の中で速さがのらずに、わずかばかりに遅れが生じる。
それゆえに。
「勝負だ!抜刀斎っ!」
自分の勝利を完全に確信し、そのまま構えている彼のほうにと向かってゆく。

ヒュ。
間合いに踏み込むと同時に、目の前に見える剣閃。
それをどうにかすんでのところでかわしきる。
ピッ…
完全に交わしきれずに、どうやら顔の一部が斬れたようだがそれはどうってことはない。
勝った!
「俺の勝ちだ!抜刀斎っ!!」
『!?』
剣心が抜き放った一撃が交わされたのを目の当たりにし、思わず息を呑む薫達三人。
だがしかし。
ゴギャメギャュ!!
次の瞬間。
何とも鈍い音が、再び。
先ほどよりも高らかな音をたてて周囲にと響き渡る。
「知らなかったのかなぁ?飛天御剣流の技って全部全てにおいて二段構え以上になってるっていうの」
それをみながら、のほほんといっている菫の姿がその場にそぐわず何とも違和感ありまくりであるが。
どしゃぁぁ!
思わず目を見開いてしまう。
たしかに、剣の一撃は交わした。
だがしかし…、まさか剣と鞘の二段抜刀がくるなどと。
目を見開くのと、再び腕に激痛が走るのと。
そしてまた、その衝撃で後ろに倒れ伏すのは全て同時。
完全に、その場に倒れうごくことすらままならない刃衛に向かい、
「飛天御剣流。双龍閃そうりゅうせん
  抜刀術が本来、己の一撃必殺であることも、逆刃刀が抜刀術に向かないのも百の承知。
  抜刀術の全てを知り、極めた男。それが抜刀斎の志士名の由来でござるよ」
両腕が使い物にならなくなった刃衛に向かって淡々と言い放つ。
「肘の関節を砕いて筋をたった。これで二度とお前はどちらの手でも、二度と剣は振るえない。
  お前の剣の命はこれでおわった。観念するでござるよ。」
淡々と、自らを見下ろしつつも言ってくるそんな彼の台詞に、
「ふ…ふはは。まさかそういう意味であったとはな……
  もはや貴様に両腕を砕かれ、二度と剣は振るえぬ。さあ!殺せ!
  剣が振るえぬ体で生きていてもしょうがない!伝説の人斬りの剣をこの俺にお見舞いしてくれっ!」
勝負にはまけたが、だがしかし。
伝説最強といわれた伝説の人斬りの凶剣を身にうけて死ぬなのらば本望。
そんなことを思いつつも、叫ぶ刃衛の台詞に、
「冥土の土産にも何もする気はござらんがな。だが…貴様の剣気は一度、完全に…絶つ!」
いって、ちゃきっと剣を構えなおす。
――弥彦。強くなれ。人を守るために。
そんな剣心の姿を少しはなれた場所で動けないままにみつつも。
彼からきいた台詞が脳裏をよぎる。
そしてまた。
――弥彦。どんなことがあっても誇りはすててはならないぞ。
父の台詞もまた脳裏をよぎる。
自らの信念と、そして理想。
「剣心っ!だめぇぇ!」
「……っ!だめだっ!!!けんしんっっっっっっっ!」
薫の悲鳴と、そしてまた。
剣心に自分のために人殺しをさせたくない。
という思いの一身でどうにか叫ぶ弥彦。
それと共に。
パッン。
軽いはじける音のようなものがして、どさっ。
弥彦の体が自由になり、そのまま前にと崩れ落ちる。
「あ。ようやく自力でといた。おそかったな~。弥彦ちゃんは」
そんな弥彦をみながら、のほほんといっている菫に、
「弥彦!?」
自力であれを解いたとなれば、かなり精神的にも負担がかかっているはずだ。
そんなことを思いながら、剣を治めてそちらにと走りよってゆく剣心。
「お。おい!」
「弥彦。大丈夫でござるか!?」
「弥彦!?」
全身に汗をびっしょりとかき、倒れ崩れた弥彦に交互に声をかけている左之助、剣心、そして薫。
「…へ。へん。どうってことないやい。」
未だに体全体が何やら悲鳴を上げているようではあるが、それでも気力で何とか答える。
そんな弥彦をみてほっとしつつ、
「…菫ちゃん。いくら何でも弥彦にはこのやり方はまだ早いのではござらんか?」
「あら?でも剣心お兄ちゃんは、弥彦ちゃんの年齢のとき、もうこれの修行やってたけど?」
一応抗議の声をあげる剣心の言葉に対し、にこやかにさらっといっている菫の姿。
「もし、万が一のことがあったらどうするでござる?」
「あら?何かあれば蘇生するし♪」
「そういう問題では……」
「「…いや、蘇生って……」」
そんな二人の会話をききつつ、思わず同時につぶやく薫と左之助。
そしてまた。
未だに動けないまでも、意識はあるがゆえ。
「…ふ。どうやら…腑抜けていたのは…抜刀斎。貴様のほうではなく…俺のほうだったようだな……」
十年。
人を斬らずにいた人斬り抜刀斎をすでに剣気が落ちて腑抜けきっている。
と自分では思っていた。
だがしかし、現実は。
自らが最強と信じる術をかけてまで挑んだ結果がこれ。
さらには、その状態で技をかけたほんの子供にまで自らの技がやぶられた。
それすなわち、自分の力が劣っていた。
ということに他ならない。
そんな刃衛の台詞に、弥彦の命に別状はない。
というのを見届けたうえ、未だに横たわったままの刃衛の方にと向き直り、
「ともかく。これで終わったでござる。刃衛。すなおにお縄につくでござるよ」
すでに、両手とも使い物にはならない。
あとは彼に命令を下していたとびとを彼の口から暴いて、きちんとした処理で裁くのみ。
「そうはいかん。自らの始末は…自らでつける」
そう言い放ち。
そのまま。
動く足にて、横に転がっている自らの剣を蹴り上げて自らの胸の上にと落としてゆく。
「「「…なっ!?」」」
どしゅっ。
寸分たがわずに、その剣の刀身は刃衛の胸の上にと落ちてその胸を貫いてゆく。
鈍い音が周囲に響く。
が。
「……無駄なことを」
ふぅ。
軽くため息をついて小さくつふやいている剣心。
そんな彼の言葉の意味を捉え違え、
「ふ。人を斬れないのに生きていてもしょうがないじゃないか。え?抜刀斎さんよ。
  人斬りは自分の意思で人をきる。だが相手を選びはしない。が人斬りの従来の基本。
  …まあ、それを無視してあんたに勝負をいどんじまったからこの結果だが……
  自分の力なさがよくわかったさ…きさま、息をひとつも乱していないしな……」
自分はかなり必死にやっていたのに、相手のほうは息の一つも乱していない。
それ即ち、完全に実力を出し切っていなかったのだと案に物語っている。
つまりは、自分が今まで独りよがりであっただけ。
という証。
「……刃衛。おぬしには悪いが…おそらく、おぬしの思い通りにはいかぬよ」
そんな刃衛の気持ちはわかるものの、だがしかし。
簡単にこのまま死なせてはもらえない。
というのは剣心は百も承知。
「あら?さすがね。剣心お兄ちゃん♪」
いつのまに、ちょこんと刃衛の隣にいったのか誰にも気づかれることもなく。
ふと気づけば倒れている刃衛の真横にと座っている菫の姿。
そして。
トッン。
かるく刃衛の胸に突き刺さっている剣を指ではじく。
さらっ……
それと同時に、なぜかそのまま塵とかし、霧散してゆく剣の姿が目に入る。
『!?』
それを目の当たりにして、思わず目を見開いている薫・弥彦・左之助の三人であるが。
すでに見慣れているのでまったく動じることもなく、
「菫ちゃんがこの場にきた。ということは。すなわち。簡単には死なせてはもらえぬ。
  ということでもあるのでござるよ」
多少、同情を含みながらも、刃衛のほうに歩いていきながらも説明する剣心。
なぜか、貫いたはずの胸の傷も剣が消え去ったのと同時にふさがっている。
「さってと♡えいっ♡」
ぼごっ。
いったいどこからもってきたのか。
そのまま倒れている刃衛の頭に、おもいっきりちょっとした大きさの岩を投げ落とす。
「…ぐぇっ」
小さな何やら何ともいえない声をだし、そのままあまりの衝撃に気を失う刃衛。
「……相変わらず、というか。何というか……わざわざ岩をおとさなくてもよいでござろうに…」
そんな菫の行動に苦笑しつつも、ひとまず突っ込みをいれている剣心ではあるが。
「気絶させるのにてっとりばやいし。さってと。あとは彼を警察にはこびみしょ♪」
何がおこったのか理解ができるはずもなく。
唖然としている薫達の目の前において、何やらそんなやり取りをしながらも。
何やらごそごそと、懐から紙のようなものをとりだして。
ふっとそれを空中にと放り投げている菫。
それと同時。
紙がゆらりと揺らめいたかとおもうと、それは瞬く間になぜか手押し車にと変化する。
「式神の手押し車版~。さ。剣心お兄ちゃん。これ、はこんでってね~」
「…そうくるとおもったでござる……。あ、すまぬでござる。薫どの。左之、弥彦。
  拙者。この刃衛を警察にひきわたしてくるでござるよ」
「と。いうわけで。私たちはさきにもどってましょ♡ね?」
あまりの展開といえば展開に、ただただどこからどう突っ込みをしていいものか。
また聞いていいものかわからずに、ただそのまま促されるようにとこくり。
と薫たち三人はうなづく以外にないのであった……


「……で?あんた。いったい何なんだ?」
何やら質問攻めにしてくる薫と弥彦をにこやかな笑みで交わし、
とりあえずすでに夜もふけかけているから。
という理由で話をはぐらかし、そのままはぐらかされたまま部屋にもどった薫と弥彦とは対照的に、
夜の闇のなか、庭にでていた菫にと問いかけている左之助。
陰陽道がよく使うといわれている、式神とかいうものをいともたやすく使うことといい。
剣心のあの態度といい……
さらには、さきほどの剣をさわっただけで無とかした。
あの技は……通常の人間ではできうるはずもない。
「あら?私は私よ♪」
そう。
自分は自分。
そして何ものでもない。
それでも納得しそうにない左之助をくすりと笑いながら垣間見て、
「ま、見守り役。ってところかしらね。」
それだけいって庭さきをいじりだす。
「見守り…役?」
「そ♡」
そんな会話をしている最中。
「もどったでござるよ。…ん?左之。まだいたでござるか?薫殿と弥彦はもう寝たでござるか?」
警察に刃衛をつれていき、一応簡単な説明と、彼の今後の対応の仕方。
それらの注意などをし終えて、今もどってきている剣心。
いくら両手がつかえなくなったとはいえ、いまだに心の一方はつかえる。
ゆえに、刃衛の取り扱い方は十分に気をつけなければ、あるいみ危険。
それを十分に警察のほうにも伝えたのではあるが。
「弥彦ちゃんはかなり疲れてたから、も、爆睡してる。
  薫お姉さんのほうは、ねないから無理やり寝かしてるけど」
正確にいうならば、眠気を引き出して眠らせたのだが。
そんな菫の説明に、
「……左之ももう遅いから、どうするでござるか?とまるでござるか?何ならおくっていくでござるよ?」
左之助がすんでいるのは町外れの長屋。
今から戻ればかなりさらに遅くなる。
一時言葉を失いながらも、傍目からもわざとらしく話しをそらしている剣心。
そんな剣心の態度をみつつも。
「そうだな。今日のところはもどるわ。」
おそらくは、今から二人に問い詰めても、はぐらかさせれるは目にみえている。
それゆえに、一度ひきさがり、再び聞き出してやる。
そんなことを心に秘めて、そのまま帰路にと左之助もまた戻ってゆく。
やがて、左之助が遠のいたのを見届け、
「さってと。剣心お兄ちゃん。どうやらあの動きじゃ、まだなれてないみたいだから。今から特訓ね♪」
「やっぱりでござるかぁ~!?
  というか、薫殿や弥彦を巻き込むのだけはやめてほしいでござるっ!菫ちゃぁぁん……」
なぜか、夜空に、うきうきとした菫の声と、情けない声をだしている剣心の声が、
しばし響いてゆくのであった……

薫達は知らない。
菫が……実は、剣心より、そしてまた彼の師匠より。
さらにいうならば、飛天御剣流の開祖にあたる当時より…この姿のままである。
ということを……

黒笠、鵜堂刃衛。
彼の逮捕は……一般に知られることなく、今まで箝口令をひいていたこともあり。
警察、そして政党内部において取調べが進んでゆくのであるが。
彼は取り調べの最中、自ら暖をとるためのかまどの中に飛び込み、自らの命を絶ってゆく。
それは…後日、神谷道場にやってきた警察署長の口より彼等に知らされてゆく……


                  ――Go To Next


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あとがきもどき:
薫:何か支離滅裂な終わり方だな?ま、様々な分野は想像力に読み手にまかせるとして(まて
   ちなみに。薫と弥彦はあの性格上。詳しくきこうとしてもいいようにあしらわれてます(笑
   全部うちこみしてたらそれこそかなり長くなる……
   そこはかとなくにおわしてるから、たぶん裏で何がおこってるかは想像つく…はず。
   つかなければそれはそれで、それが今後の鍵になる部分もあるからそれでよしv(こらこら
   何はともあれ。ようやく鵜堂刃衛編。完了。次はお庭番衆だ~
   個人的には、隠密とか忍者とか、ああいうのは大好きですv
   なので、これにもそれの私の趣味?がくわわって、あるいみ救いはあるとおもいますv
   何しろ、死ぬべきひとたちしなないしねv何はともあれ。
   ではまた次回にて~

  2007年1月22日(月)某日

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