まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやく今回、左ノ助登場v
原作とかぁぁなり設定が多少関わり方的に異なります(汗
それでもいいかな?というひとはどうぞv
って気づいてるひといないでしょうねぇ…これに(確信犯……
と~たるこれのみで103K……(タグ含む……滝汗……

#####################################

「十年…長いようで短かかったな」
しみじみと、縁側にて星空をみつつぽつりとつぶやく。
「そうでござるな。でもだいぶ世の中はかわったでござる」
そんな彼の言葉をうけて、こちらもまたしみじみとつぶやく。
かつての幕末の動乱が嘘のような今の世の中。
この平和がずっと永遠に続き、さらにはもっと世の中が平和になればいい。
それが自分達の望み。
剣心をたずねてきていた山県。
剣心たちが道場にもどると、菫とともに先に道場に戻っていたのだが。
積もる話もあるだろうから。
というので、食事をともに、気づけばもう夜も遅い。
というので、この日は道場にと泊まることにしている山県有朋。
すでに夜もかなり更けていることもあり、薫たちは先にと休んでいる。
ここしばらくずっと西南戦争の事後処理でばたばたしていたがゆえに、
こうもゆっくりとしたのは久しぶりのような気がする。
「それに緋村。お前もかわってないしな。……彼女にはたまげたが……」
多少ひきつりつつも苦笑する。
「……山県さん。菫ちゃんに関しては、常識的にあてはめたらこちらが負けでござるよ……」
ふうっ。
長くため息をつきながらも、そんなかつての同士に対して返事を返す。
「……まあ、あの子は昔からそうだったからな……」
そんな会話をしつつも、二人して静かな夜空を見上げてかるく互いに酒を飲み交わす。
しばし、そんな光景が、ここ神谷活心流道場の一角においてみうけられてゆく……

剣客放浪記  ~過去の懺悔を背負うもの…~

どがっ!
ばぎめぎゃっ!
「ひ…ひぃい……
「強い…つよすぎる……」
一人対複数。
だというのに、その一人に徹底的にと叩きのめされている男たち。
「わ…わかった。俺たちの負けだ。あんた強ぇ。もう勘弁してくれ。」
体型的には、泣き言をいっている男のほうが遥かに体格もいい。
というのに、目の前の男性に対して懇願するようにと言い放つ。
「けっ。いわれなくてももう止めだ」
虫唾がはしる。
まさかここまで弱いなど。
「?」
そんな彼の言葉に戸惑いを隠しきれない。
「弱すぎるんだよ!てめえらっ!これ以上は弱いものいじめになっちまうだろ」
吐き捨てるようにと言い放つ。
喧嘩をふっかけてきたのは今倒れている男たちのほう。
少しは期待したのにこのざまだ。
戦いの中において自分の中にある理不尽さをどうにかしたい。
というか、戦いの中に身をおかないと自分自身が許せない。
ある意味現実逃避をしている。
というのはわかっている。
わかってはいるが……どうしようもない。
自分ひとりがどうあがこうと、終わってしまったことはどうにもならない。
ある意味あきらめの境地。
それをごまかすために喧嘩に興じている。
というのは自分自身でよく理解している。
いるが…だが、それ以外に過去の出来事を少しでも忘れられる方法がない。
「……ったく。つまらない喧嘩かっちまったぜ」
どこかにいい猛者はいないものか。
そんなことを思いつつも、布でまいたちょっとした大きな包みを肩にのせ、
そのままその場を立ち去ってゆく一人の男性の姿がしばし見受けられてゆく。



「……うろ?」
「……いやあの……」
戸惑いを隠しきれない。
それは、薫のほうとて同じこと。
十年ぶりにあったというかつての同士同士。
いくら政治家に片方がなろうとも、同士には違いない。
それゆえに、積もる話もあるだろうから。
と引き止め、さらに夜も遅いから。
というので話をした。
そこまではいいが……
「とにかくっ!いくら何でも二人とも徹夜っていうのは体によくないんだからっ!少しでもねるっ!」
朝方、いつものように早くおきてみれば、未だにおきて縁側にと座っている二人の姿。
どうやら昨日の夜から一睡もせずに話し込んでいたらしく、
おもわず、おせっかいというか、至極当然な反応をしている薫の姿。
相手は一応明治政府のお偉いさん。
だというのに、そのまま、二人をずるずると部屋の中にと押し込めて、ぴしゃりと言い放つ。
「…いやあの、薫殿?」
「とにかく、ねるのっ!!!!!」
『は…はいっ!』
戸惑いの声をあげる剣心に対して、ものすごい剣幕でいう薫に押し切られ、
そのまま素直に二人してそれぞれの敷かれている布団の中にと入ってゆく。
「いい?きちんとねるのよ!」
いいつつも、そのまま、部屋からでてゆく薫であるが。
「……何かかなり気がつよい娘さんだな」
「……まあ、いうことをきかないと後がこわいでござろうから。少し眠るとするでござるか」
そんな会話をしつつ、二人して軽く目をつむる。

「?薫さん?どうかしたの?」
何やらぶつぶつといいながら、廊下を歩く薫の姿をみてふと声をかける。
「あ。菫ちゃん。…って、菫ちゃんもまさかねてないの?」
「も。って、あ。やっぱりあの二人ねずに話してたのか~」
そんな薫の台詞に思わず苦笑する。
「まったく。いくら話しが積もったからって寝ないで徹夜なんて……」
ぶつぶついう薫に対し、思わず笑みがこぼれる。
たしかに、体にはそれは悪いことなれど。
はっきりいって、あの二人は徹夜など。
というのはかなりもう慣れっこになっているのが現状。
「ん~。なら。二人によぉぉく寝れるようにおまじないかけとくわv」
「そう?お願いしようかな?」
菫のいう、【おまじない】とはただ、そういっているだけで強制的な眠りを誘う。
ということなのだが、その事実を薫が知るはずもない。
「まっかせて。薫さんもまだ早いからもう少しねてたほうがいいわよ」
「そうね。菫ちゃんもはやく部屋にもどりなさいね」
「は~い」
おまじない、というのはよくわからないが。
まあ小さい子供のすること。
それに、何やら少し裏庭で何かを栽培している。
というのを知っていることもあり、それも関係しているのかな?
などとおもいつつ、薫は自分の部屋にと戻ってゆく。
そんな薫を見送りつつも、
「さってと。…とりあえず……くすっ♪」
時間的に促したとおりになっている。
あとは昼近くまで彼等を眠らせておけばそれで解決。
「……いまだに、自分が許せなくて逃げてるからねぇ~……」
くすりと笑いながらも、そのまますたすたとその場を立ち去ってゆく菫の姿が見受けられてゆく。



「……やられた……」
「……なっ!?」
ふと目を覚ますと、すでに太陽が頂上近くにとなっている。
少しの間仮眠をとるだけ。
と思っていた二人にとってはそれは驚くべきこと。
だがしかし、普通よりも深い眠りに落ちていたことが判るがゆえに、
それが菫の仕業だと理解して思わずうなっている剣心に、
かなり時間が経過していることに驚きを隠しきれない山県。
そんな二人がおきると同時。
ひょこりと、
「あ。二人ともおきた?」
襖の向うより声をかける菫の姿。
そんな菫の声をきき、
「……菫ちゃん、何をしたでござるか?」
おもわず襖から少しのぞいて話しかけてきている菫に対して問いかける。
「あら?別に何もしてないけど?剣心お兄ちゃん。山県さんも。すこしは疲れとれたでしょ?」
くすくす笑いつつもさらっと答える菫。
だがしかし、二人とも、ここまで爆睡することなどは考えられない。
それゆえに、何かしたのであろう。
というのは漠然と判っている。
「…すっかり長居をしてしまったな」
ため息とともにつぶやく山県。
そんなことをつぶやきつつも起き上がる。
ここまでゆっくりと眠ったのはかなり久しぶりような気がするのは気のせいではない。
「さ。二人とも、ちゃんとおきてね♪」
そんな二人の反応は何のその。
にこやかに二人に言い放ち、その場を後にしてゆく菫。
そんな菫の後姿を見送りつつ、
「……ほんっとぉぉにあの子はかわってないな……というか…あれは絶対に驚くとおもうのだが……」
かつて出会ったときからまったくもって変化がない姿。
「…山県さん。以前にもいいましたけど、菫ちゃんに関しては常識的なことは通用しないでござるよ」
「だな」
そんな会話をしている剣心と山県の姿が、一室において見受けられてゆくのであった。


「いやはや。すっかりお世話になってしまったな」
「いえ。何もおもてなしできませんで」
ひとまず身支度を整え、薫達のいる部屋にと移動する。
おきてきた山県に対して恐縮しつつ薫が返事を返すが、
「ってもう昼ちかいぞ?」
そんな薫の台詞に、何やら突っ込みをいれている弥彦の姿。
「もうそんな時間なのか……。あまり長居をするわけにもいかぬが。
  どうでしょう?宿を借りたお礼をかねて今日のお昼は私に奢らせてもらえませんかな?」
ちょうど時刻的に昼近く。
この家にきたときも手ぶらできたので何やら後味が悪い。
そんな彼の言葉にぱっと目を輝かせ、
「お、俺!牛鍋がいいっ!」
「こらっ!弥彦っ!」
すかさず片手を挙げて提案する弥彦に対して思わずたしなめる。
そんな弥彦と薫の対応を微笑ましくも見ながら、
「では。お礼をかねて牛鍋をおごらせていただきましょう」
「え…でも…そんな。悪いですよ」
相手は政府のお偉方。
そんなことをしてもらったほうが恐縮してしまう。
そんな戸惑いを隠しきれない薫の台詞に、
「なに。緋村がお世話になってるそのお礼をもかねてますからな」
「……山県さん。どういう意味でござるか……」
にこやかにいう山県の台詞に、思わず突っ込みをいれる剣心。
「そうはいうが。お前は剣の腕は一流だが、他のことはお人よしすぎてどこかずれてるからな」
「「……いえてる……」」
しみじみという山県の台詞に、うんうんうなづきながらも同意している弥彦と薫。
「では。準備が出来次第いきましょうか」
「……いいのかしら……」
にこやかにいう山県の台詞に、しばらく戸惑いの声をはっする薫に対し、
「ま。きにしない。気にしない。薫さん。さ。早く用意しましょ♪」
かるく言い放ち、その場を切り上げてゆく菫の姿が。
一人、牛鍋が食べられる、とはしゃぐ弥彦とは対照的に見受けられてゆく。


「いらっしゃい。…あら、薫ちゃん。今日は見ない顔のひとつれてるわね」
いつものようにと通いなれた牛鍋専門店、【赤べこ】にと移動する。
そこの経営者であり女主人である妙という女性が薫達に対して話しかけてくる。
「お世話になります。席はあいてますかな?」
そんな彼女に対してにこやかに微笑みかけて問いかける山県。
「へえ。五名様ご案内どす~」
全身というか体をすっぽりと覆うマントを羽織っているので身なりはよくわからないが、
それでも、みたところどこかのおえらいさんのような感じがするのは。
何も気のせいではない。
こういったお店をやっていればおのずと人をみるめはできる。
まさか、この人物が明治政府の山県陸軍卿だと気づくはずもなく。
そのまま彼等五人をあいている座敷にと案内してゆく。
まあ、一般的に政府の上層部の人たちの姿かたちなど。
普通の人が知っている。
というのがまずありえないことではあるがゆえに、妙が気づかないのも道理。
「こういった場所は久しぶりだな。」
マントを外せばおのずと服装から官僚だとわかりかねない。
という判断に基づき、そのままの格好で座敷に上がり座る。
「たまにはこういう場所もいいでござろう?いろんな人の嘘偽りのない話がきけるでござるよ」
嘘偽りのない民間の声は、館の中に閉じこもっていては判らない。
政治というものは、民間の声を反映して築き上げてゆくものでなければならない。
そんな剣心の台詞に、多少苦笑し。
「そうだな」
そんな会話をしつつも、運ばれてきた鍋を囲み食べ始める。
ぐつぐつと、店の中に他の人たちが煮込む鍋のいい匂いが立ちこめる。

「弥彦。そんなにがつがつたべたら体に毒よ」
がつがつと、息をつくまもなく肉を口にとほうばる弥彦。
「わかってる」
そう答えるとともに、むせこんで思わず咳き込む。
「ほんとにもう。世話がやけるんだから」
そんな弥彦の背中をさすりつつもたしなめる。
「まあまあ。そうあせらなくても」
そんな弥彦の様子をみながら苦笑しつつも話しかける山県。
自分に対して畏怖するわけでもなく、普通の大人のようにと接してくるこの少年。
間違いなく、よく意味がわかっていないのだ。
というのは理解できるが、それでも新鮮にはかわりがない。
もくもくと、牛鍋を囲みつつ、そんな会話をしている最中。

「なっちょらんっ!」
「そんなやり方では自由民権の世はきやせんっ!もっともっと過激に!」
「しかし。それでは板垣先生を死地へ追うも同然!」
そうや。内務卿の大久保は、大西郷にさえ容赦せんやった男やで!」
「大久保結構。死んで星になれるなら先生も。」
「馬鹿いえ!星になるなどそんな浪漫チズムに何の意味があるっ!」
「板垣先生がしによったら自由も死ぬんだぜっ!」
向かい側の席にて何やら三人の男たちがいきなり声を荒げて言い合いを始める。
そんな彼等をちらりとみて、
「どうやら。自由民権の壮士のようでござるな」
いってため息をかるくつく剣心。
「?何だ?それ?」
意味がわからず首をかしげる弥彦に対し、
「今の政府は一部の存在たちが実権を握って政治を動かしている現状であるがゆえ、
  一般人も政治に参加してもっと自由に、という運動をしているものたちのことだよ。
  最も。彼等は大久保卿の考えはわからずに騒いでいるだけのようだがな」
苦笑しながらも説明する。
「たしか。大久保さんの信念は。十年で国の基礎を作り出し、
  次の十年で改革を行い、次の十年で全ての国民が平等に生きる世界にする。
  というのでござったな。そういえばあの人は未だにその信念のもと頑張っているのでござるか?」
「あの当時からあの人の信念はかわってないよ。
  最も、今は大分一部のものたちが腐りだしたことに対してそろそろ次の改革の時期だ。
  と行動する気のようだがな」
「……大久保…って……」
まさか…今の政府の一番えらい人のこと?
そんなことを思いながらも、詳しく聞くのがためらわれ、小さくつぶやく薫。
向かい合わせの席の男たちの会話を聞きながら、彼等がそんな会話をしていると、
ぴくっ。
鍋にと具をいれていた剣心の動きがとまる。
「緋村?」
そんな剣心に対して戸惑いの声をかける山県。
「あ。いや。すこし頭が……」
にこやかにいいながら、そのまま片手を頭の後ろにと回してかるくかく。
それとほぼ同時。
ひゅっ!
ぱしっ。
背後から飛んできたお猪口を振り向くことなく受け止める。
違和感がないように、頭をかくフリをしてそれが飛んでくるとわかったがゆえに、
あえて目立たないようにとすばやく受けとめたのだが。
ぴくっ。
そのすばやい動作に少しはなれた場所にすわっていた一人の男性が、
その動作に気づいて反応していたりするが。
「あれ?剣心?それどうしたんだ?」
「おろ?いつのまにでござるかな?」
手を頭の後ろから戻した剣心の手に握られていなかったはずのお猪口をみて、
問いかける弥彦に対し、のほほんと答える剣心。
「……なるほど。考えたな」
一人、どうして剣心がそのような行動をしたのか理解ししみじみとつぶやく山県。
これで落ち着くとは思えないでござるな……
剣心がそうお猪口をみながら心配するのとほぼ同時。

「何だと!貴様!」
「おうっ!もう一度いってやらっ!」
「そもそも、自由民権とはなっ!」
「お前などただのでくの坊だ!」
更に声を荒げて立ち上がり、その場において胸倉をつかみ始める男たち。
ぶちっ。
そんな大人たち三人の姿をみて、
「あなのっ!あんたたち!他の客に迷惑だろうがっ!この酔っ払いっ!」
今にも騒ぎ出しそうな彼等に対してガタンと立ち上がり意見する。
いい大人が酒によって騒ぎを起こすなど情けないにもほどがある。
そんな弥彦に注意に自分達の非を認めるではなく、
『うるせえ!ガキの分際で我等自由民権の壮士に意見するなど百年はやいわっ!』
三人同時に言い放ち、そして。
「こぞう!我等自由民権党の壮士に意見するつもりかっ!」
「うるせえ!誰だろうが酔っ払えば酔っ払いに決まってるだろうがっ!
  あんたら、いい大人のくせに周りに迷惑かけてるのがわかんねえのかよっ!」
お酒を飲んで議論するのは確かに自由。
だがしかし、それは他人に迷惑をかけない範囲でのこと。
「ガキの分際でっ!」
言いながらも、手にもっている杖にと手をかける一人の男。
そんな言い合いをしている最中。
「お客さん。騒ぎさったらこまりやす」
流石にこれ以上は他の客の迷惑になる。
それゆえに、戸惑いながらも止めにとはいる妙。
が。
「…黙れっ!女はひっこんでいろっ!」
ばしっ!
いうなり、無防備な妙を殴り飛ばす。
さすがにこれ以上の行き過ぎた行動はいさめるべき。
そう思いつつ、すっと立ち上がり。
出てゆこうとする山県を片手で制する。
今彼が出てゆけば、彼等はさらに血が昇って騒ぎ出すのは明らか。
「……しかし……」
菫のいわんことを察し、戸惑いの声をあげる山県に対し、
「ま。みてなさいって」
今彼がでたらせっかくこの場に全員を連れてきた意味がなくなる。
「きっゃ!」
「妙さん!」
ぱしっ。
殴り飛ばされた妙がそのまま反動で倒れそうになるものの、
そんな彼女の後ろにと回り支える人物が一人。
頭に赤いハチマキをしばり、腹にはさらしがまいてある。
そのくせのある尖った頭が印象深いが。
目つきからして何やらぎらぎらしている印象をうける。
「…うろ?」
彼は……
多少成長していても、かつての面影は残っている。
そしてまた……
その姿をみて剣心が小さくつぶやくが。
「大丈夫かい?」
「あ。はい」
妙を受け止め優しく話しかけ、そして視線を三人の男たちにと移し、
「おい。自由民権っていうのは弱いもののためにあるんだろ?それとも何か?
  お前等のいう自由民権っていうのは酔いに任せて力のない女子供に暴力を振るうのが自由ってか?」
至極最もなことを言い放つ。
「何だと!?貴様!」
「我々に喧嘩を売る気か!?」
自分達が悪い。
とは微塵にも思っていない。
そのことがわかり、よけいにいらいらする。
「そうだな。たまには売ってみるか」
「あん?」
まさかそんな反応が戻ってくるとは思わずに間の抜けた声をだす男たち。
「俺は普段は買い専門なんだがよ。弱いものいじめは、するのも見るのも大っ嫌いなんだ。
  得に、自由だ、正義だ平等だのという偽善者野郎のイジメはむかついてたまらねえ」
それで自分達の隊長も、その正義の名のもとに処刑された。
悪いのは新政府のほう。
だというのに。
全ての都合のわるいことをかつての自分が所属していた部隊に押し付けて、
何事もなかったかのように正義づらをしている今の政府。
ぶちぶち。
男たちにとっては彼の事情などは知る由もない。
図星をいわれ、さらに頭に血が昇る。
「ぬううっ!表にでろっ!」
彼のほうが彼等を表に出させて店にと被害を出さないようにと仕向けた。
それにすら気づくことなく、そのまま吐き捨てるようにと言い放ち、
表にと駆け出すようにと出てゆく男たち。
そんな彼等の後にとつづき、その男もまた表にでてゆくが。
「…何か面倒なことになったんじゃあ……」
「妙さん。本当に大丈夫?」
彼等が出てゆくのを見届けて、つぶやく弥彦に、妙に心配そうに声をかけている薫。
「…あの彼は……」
いいながらも、表のほうをじっとみる剣心に対し、
「緋村?もしかして知り合いなのか?」
その様子がいつもと違うことにと気づいて問いかける。
「山県さんもしってるでござろう。確か…あれから相楽左ノ助と名乗ってるはずでござるよ」
「相楽…そうか。彼はあの……」
あの、赤報隊の……
あのときの最後の言葉。
それを受け止め、政府にと伝えたのは他ならぬ剣心当人。
そしてまた……彼に…剣心に、そういった意見が出ていることを彼等に伝えるように指示したのは、
紛れもない、桂とそして…当時指揮をとっていた自分達。
『?』
そんな二人の態度に意味がわからずに顔を見合わせる薫と弥彦。
くすっ。
「とりあえず。様子みにいかない?剣心お兄ちゃんたちも、彼のこときになるでしょ?」
微笑みながらも、にこやかにと話しかける菫に対し、
「…なるほど。菫ちゃんが拙者たちを昼近くまで眠らせていたわけがわかっただござる」
「あら?何のことかしら♪」
そんな会話をしつつも。
「ひとまず。一度火をとめて、事がおわったあとにまた続き食べましょ♪」
言いながらも、一度火の始末をして外にと出てゆく。
そしてまた、うなづきあいながらも外にとでてゆく剣心と山県に続き、
薫と弥彦は意味がわからずに首をかしげながらもひとまず店の外にと出てゆく。


「何か妙なことになったけど……剣心も、山県卿も彼のことを知っているんですか?」
どうやら先ほどの口調からして、二人とも彼のことを知っているのは明らか。
「……彼は、もと赤報隊、一番隊に所属していたのでござるよ」
「?赤報隊?」
「何だそりゃ?」
剣心のためらいがちな台詞に同時に首をかしげる薫と弥彦。
「世間ではニセ官軍って呼ばれてる人たちのことよ。事実は異なるんだけど。
  慶応四年、鳥羽伏見の戦いの折に結成された草莽部隊のことよ。
  あ、草莽っていうのは、民衆や農民といった人たちの間から結成された人たちのこと。
  江戸に攻め上る維新軍に先行して沿道諸藩を探り、また協力を促す先鋒隊の役割も担ってたんだけど。
  彼が所属していたのはその中の一番隊。相楽総三さん率いる部隊。
  彼等は、【年貢半減令】を唱えながら、各協力を仰いでたんだけど。
  それが流言、予迷いごとで人々を混乱させた。としてニセ官軍として処刑されたのよ」
にこやかに説明する菫の台詞に、
「それって、でもその人たちがわるいんじゃぁ…つまり嘘をついていたわけでしょう?」
説明をうけて問いかける薫の台詞に、
「いや。そうではござらん」
「彼等は誠実に、維新政府が布告した総督府からの命令。その旨を伝えていたに過ぎない。
  だが……当時の維新政府はその案を財政難から実行できない」
「……ゆえに、彼等に全ての罪をなすりつけ、全てをなかったことにしようとしたでござるよ……」
「「なっ!?」」
山県と剣心の説明に思わず絶句する薫と弥彦。
「もっとも。拙者はそれを知り、彼等に接触をとったでござるがな。
  そのときにあの彼とも出会っているでござるよ。彼のほうは覚えてないようでござるがな」
彼に全てを伝え、そして彼等の意見を聞くために。
そしてまた…問答無用で彼等を処刑しようとしていた一部の存在を牽制するために。
「……だがしかし、一番隊隊長、相楽殿は。
  自信が罪をかぶることで、新しい世界が民間達に受け入れられ、
  全ての人々が平和に暮らせるよになるなら…と。全てを知りながらも極刑を受け入れた。
  ……そういう人々の犠牲のうえに、今の世の中は成り立っている。
  だからこそ……我々は今のような形だけの世の中ではない。
  本当の意味での平等の世の中になるために…努力している最中なのだよ……」
まだ、その方向性はなかなか見えないが。
だが…それでもできる。
そう信じている。
維新を成し遂げられたと同様に。
……世間がいっているように、権力に溺れているだけじゃなく。
きちんと上の人たちも考えてまだ戦っているんだ。
そんな山県の説明に内心薫は感心し、そしてまた感嘆する。
自分達がやり始めたことは最後まで。
それは武士道や、剣の心値にも通ずること。
ざわざわざわ。
集まってきた人々は、彼等がそんな会話をしているのには気づかずに、
何やら騒ぎがおこりそうなのでそちらのほうに気をとられ、
いつのまにかぐるりと取り囲んで輪になっていたりする。
もしここで、山県の正体が知られれば大騒ぎは間違いないであろうが。
だが、民衆たちの…集まった野次馬たちの関心は、
何やら今から始まるらしき喧嘩の行く末。
見たところ、一人対三人。
好奇心がそそられるのも仕方のないこと。

「泣いてもゆるさねえからな」
「まずは。あんたの力試しだ。ここに一発、ぶちこんでみな」
「くそぉ!やってやるっ!」
いいながら、殴りかかるようなふりをしてその手の中にと隠し持っていた寸鉄をすかさず取り出し、
無防備な男性の額にと直撃させる。
「卑怯!寸鉄を隠し持つなんて!」
それをみて思わず薫が叫んでいるが。
「吠えるな」
「寸鉄はもともと隠し武器だろうが。」
野次馬というか回りの観衆から聞こえたその声に即座に言い捨てている男の仲間たち。
「そいつらの言うとおりでござるよ。けれど…効果はないな」
一方で冷静に受け止めて淡々という剣心であるが。
ぼぎっ。
「…ちっ。寸鉄つかってこんなもんかよ」
「腕が…腕がぁぁ!」
寸鉄をつかったというのに逆に男の額に一撃をくらわせた男のほうが、
そのまま指先ごと骨が折れて捻じ曲がる。
「てんで話しになりゃしねぇ。全力だしたら弱いものいじめになっちまう。指一本で相手してやらあ」
いって、未だに相手の力がわかっていない男が向きになってにらんでくるのをうけ、
そのままズボンのポケットから左手を出し、そのまま軽く男の額をはじく。
そのまま、たかが額を指ではじかれただけでその場に倒れて気絶する。
「吠えるものほど弱いっていう典型よねぇ」
それをみてにこやかに菫が何やらいっているが。
「ちっ。つまらない喧嘩、うっちまったぜ」
気絶した男をみて吐き捨てるようにいうその男性の台詞に、
「…でこぴん一発」
「…すげっ」
思わず感嘆した声をもらしている薫と弥彦。
「…くっ……」
たかが、指の一撃で仲間が倒された。
このままでは自分達の名が廃る。
そんなことを思いつつ、自分がもっている杖の中の仕込み杖を抜き放とうとする。
が。
チャ。
その額に剣の柄が押し当てられる。
「酔った上での乱行なれば大目にみていたが。そんなものを振り回すとなれば拙者も容赦しないでござるよ」
気配すら感じなかった。
いきなり背後から自分にと向けられたつめたい殺気。
動くことすらままならない。
本能が動くことを拒否している。
「自由民権。大いに結構。しかし、お前たちの場合。
  政府を正すまえに、まず己を正すべきでござるな。……勘定はらって、とっとと帰れ」
背後から冷たく言い放たれる。
ここで断ればまず即座に自分の命がなくなる。
というのはいくら世間に疎い人物だとて、自身にむけられている危機はわかる。
「あれ?剣心のやついつのまにあっちに移動してたんだ?」
ふと、今さら剣心が横にいなくなっているのにきづいて声をあげている弥彦に、
「情けないわねぇ。ほんっと。菫ちゃんのいうとおり。
  弱いものほどよく吠える。というのは確かにことわざどおりかもしれないわね」
うんうん。
しみじみという薫の台詞に集まっていた野次馬たちもうなづき、
「…く。くそっ……」
自分達に分がない。
しかも、このまま騒ぎを大きくしたら間違いなく自分達の命すら危険。
そう判断し、そのまま倒れた男を残りの二人で支えながらその場に勘定分の代金を投げ捨て、
逃げるようにと立ち去ってゆく。
騒ぎが収まったことをうけ、集まっていた野次馬たちもばらばらと散らばってゆくが。

「ち。楽しくもねえ喧嘩をかっちまったな」
そんな彼等を眺めつつ、そしてふと剣心のほうにと目をとめ。
「――何だか世話になっちまったな」
「何のことでござる?」
一人が仕込み杖を持ち出して挑んでこようとしていたのは判っていた。
だがしかし、彼がその男を止めたのは明らか。
それゆえに声をかけたのだが、にこやかにあしらわれてしまう。
「ふっ。まあ、後ろから飛んできたお猪口をすばやく振り向かずに捕らえる剣客さんには、
  今のはどうってないことなんだろうがな」
「…え?」
そんな彼の言葉に首をかしげて剣心とその男性を交互に見る薫。
「さっきあんたがあいつらが投げたお猪口を頭をかくふりをしてつかんだりしなければ、
  そこのお嬢ちゃんの顔は今ごろ血まみれだろうな」
多少、その飛んでくる位置にあわせて体を動かしたのも目にしている。
「偶然でござるよ。拙者はあたまをかいていただけでござるしな。買いかぶりでござるよ」
だがしかし、にこやかにその指摘をさらりとかわす。
「謙遜するねぇ。気に入ったぜ。あんた。俺の喧嘩をかわねぇか?楽しい喧嘩になりそうだ」
見た目はっきりいって優男なのに、先ほどの対応といい今の対応といい、かなりできることは明白。
「遠慮するでござるよ」
だがしかし、そんな彼の言葉をにこやかにと笑みを浮かべて交わす剣心。
そしてまた。
どうやら、拙者のことは覚えておらぬようでござるな……
あれからずっと自分を責め続けているでござるか………
彼の態度と、そしてまたその行動からしてもその事実は明らか。
彼が未だに過去をひこずっている。
ということは。
そんな剣心の思いは何のその。
「まあ。気が向いたらいつでもかってくれや。俺は町はずれのごろつき長屋にいるからよ」
いってくるりと向きをかえ。
「じゃあな」
いってその場を立ち去ってゆく。
くるりと背後を振り向いたその服の背には真ん中に【悪】の一文字が刻まれていたりする。
「……何あれ?」
「…悪趣味の悪だな。ありゃあ」
その姿をみて思わずつぶやく薫に、しみじみという弥彦。
そしてまた。
「ともあれ。あまり騒ぎにならずにすんだでござるよ」
にっこりといいながら。
「さて。まだ牛鍋が途中でござったな。仕切りなおすとするでござるか」
いってにこやかに再び店の中にと入ってゆく剣心に続き、薫達もまた店の中にと戻ってゆく。
そして、ふと。
そんな店の中に入っていった剣心たちにと続いて妙もまた店の中に戻るが、
ふと、
「そういえば…あの人、お勘定もらってないどすわ」
こけっ。
その台詞に思わずこけそうになっている薫と弥彦。
「…く、食い逃げか!?」
「……あ゛~」
そういえば…一つの事に集中したら他のことが見えなくなり忘れる傾向があるとか……
以前相楽殿がいってたでござるな……
まだ彼が子供のころのクセを聞いたことを思いだし、短く声をあげる剣心に、
「私が彼の分まで払いますよ」
多少苦笑しつつもにこやかにそんな妙にといっている山県。
「え?いやでも……」
「いえいえ。気にしないでください。これも何かの縁ですし」
にこやかにいいながらも、懐から巾着を取り出し銀貨を数枚手渡す。
「え?こんなにいただけませんですわ」
その小さな銀貨を目にして戸惑いの声をあげる妙に、
「いや。このお店に迷惑をかけた迷惑料もはいっていますしな。
  彼等の無体はきちんとそれなりに対処いたしますので」
「?まあ、別に官憲にいうほどでもことではないとおもいますけど」
当然といえば当然のことで、山県の台詞に首をかしげながらも答える妙。
「いいじゃねえか。くれるっていうんだからもらっとけば」
「あのね。弥彦!」
「あまったものは皆さんで何か食べてくださいな」
さらっという弥彦をたしなめて叫ぶ薫を見つつ、笑いながら答える山県。
「……だ。そうでござるよ。さ。あまり時間をおいていたら。鍋の中の具がふやけてしまうでござるよ」
いいつつも、自分達が座っていた座敷にと戻ってゆく剣心に、
「もらっててもいいとおもうわよ?妙お姉さんv」
にこやかに妙に対していっている菫。
「へ…へぇ。ありがとうごございます。…そういえば。あと何人分か追加しますか?」
それならばそれほどもらったお金は余ることはない。
とりあえず念の為にと確認する。
「あ。それはいいです。というか剣心お兄ちゃんたちは用事があるし♪」
「?」
「所長さんが用事があるって♪」
首をかしげる剣心と山県ににこやかにと説明する。
その言葉に顔を見合わせ。
「……どうやら。菫ちゃんのその口調からして…急いだほうがいいでござるな」
ため息とともに、つぶやき立ち止まる。
「……そ~いえば。いつも何か楽しそうな口調のときには、必ず。
  何か面倒なこととかが起こっていたな……緋村。少しつきあってくれるか?」
かつての菫の態度を思い出し、必ず。というところを協調していっている山県。
「仕方ないでしょう。あ。薫殿。弥彦。拙者たちは先においとまするでござる。
  二人はゆっくりと食事をしてかえるでござるよ」
いいながら、二人顔を見合わせて。
「とにかく。いこう」
「でござるな」
……所長…って、誰のことでっしゃろ?
山県のことを知らない妙はそう首をかしげるが。
だがしかし、まさか目の前のこの薫達とともにいる見知らぬ男性が、
政治政府の陸軍卿を勤めている人物だとは夢にも思うはずがなく。
二人して店をでてゆく姿を首をかしげながらも。
「……あ。ありがとうございました」
一応、お客さんでもあることもありお礼をいっておく。
「?何かあったのか?」
「まあ。昨日はあの人うちにとまったし。そのあたりのことじゃない?」
とりあえず、先に支払いも済ませられているというのもあり。
そしてまた、残したらもったいない。
というのもあって、そのままもくもくと食事の続きをしてゆく二人の姿が、
しばし、ここ赤ベコにて見受けられてゆくのであった。


ワンワン!
澄み切った夜空に犬の鳴き声が響き渡る。
「……何?始末してほしい?」
「はい。是非。あなたなら始末できるとおもいます」
町外れにある長屋の一角。
その表の襖に大きく、【左】の文字が描かれているその部屋の中。
行灯の光の中で何やら向かい合って話している男が二人。
「ちょっとまて。人を殺し屋みたいにいうなよな。死ぬ死なねえは相手の運次第。
  俺がどうこうする理由はねぇ。俺は喧嘩を楽しめればそれでいいんだよ」
喧嘩をしている間は全てを忘れられる。
そんなことを思いつつ、
「しかし。あんたよく脱獄してこれたなぁ」
苦笑しつつも感心した声をだす。
こんな雑魚ですら脱獄を許すような警察署はあてにはならない。
という証拠ではある。
「それだけ恨めしい。ということですよ。…まあ邪の道は蛇。
  出すものをだせば、融通を利かせてくれる人はどの世界にもいるんですよ。
  そう。あなたのようにね。喧嘩屋斬左さん。あの男さえいなければ全てうまくいったのに……」
そういう目の前の初老の男性の言葉に一瞬虫唾が走る。
「逆恨みもいいところだねぇ。みっともない」
彼が弟の逆恨みの片棒をかつぎ、なおかつその対象となっていた道場の権利を欲し、
少しまえ辻斬り騒ぎを起こしていたのは知っている。
もぐもぐと、サンマの炭火焼と白いご飯を食べつつも、そんなことを言い放ち。
「で。それで。だ。どうでもいい依頼はお断りだぜ。
  こちとら昨日、今日とつまらない喧嘩をして、かなりいらだってるんだ。
  その剣心ってやつは強いのかい?」
そんな彼の言葉ににっと笑みを浮べ、
「ええ。その剣心という男。実は……」
ワンワンワン!
外から犬の声が響いてくる。
目の前の初老の男から発せられた台詞に思わず目を見開く。
「…本当かよ!?それは!」
「いかがです?相手にとって不足はないとおもいますが?」
不足どころか、申し分なき相手。
「ああ。何年ぶりかに、相棒をつかえるにたる相手だ!
  伝説の人斬り、緋村抜刀斎!喧嘩屋斬左、そういう猛者をさがしていたのよ!」
それと、伝説最強といわれた維新志士。
その彼を倒すことで自分があこがれていた相楽隊長の名誉を守ることにもつながる。
そう。
「まあ。あなたが断るわけはありませんよね。赤報隊出身のあなたが」
ぎろっ。
びくっ。
それが判っていたがゆえにこの男に持ちかけた。
必ずのってくる。
と確信して。
彼が勝てるとは絶対に思えないが、それでもあの道場から遠ざけることはできるはず。
あとは、残されたあの小娘一人くらいならばどうとでもなる。
あの新しい弟子とかいう小娘一匹くらいはどうにでもなる。
自分には、【これ】があるのだから。
そんなことを思っているとぎろりとにらまれて思わずその場に固まってしまう。
「ま…まあ。よろしくおねがいしますよ」
そのまま立ち上がり、出かけてゆく姿を見送りつつもほくそえむ。
喧嘩屋斬左。
東東京の裏社会にすらその名をとどろかせる喧嘩代行人。
喧嘩料は自分が楽しめたかどうかで決める一匹狼。
だが、彼の喧嘩をうけたものは、
そのあまりの強さにその背中の悪一文字を夢に見るまでうなされるという。
だがしかし、所詮はたかが一介の喧嘩屋。
あの伝説の人斬り抜刀斎に勝てるはずがない。
ならば…利用させてもらうしかない。
そうおもいつつも、懐にしまっていた筒を取り出してにっと笑う。
「――今にみていろ。あの土地屋敷は必ず儂がもらう」
未だに動けない弟のためにも。
はっきりいってかなりの逆恨みにもほどがある。
そしてまた……彼は知らない。
そんなものが通用する相手ではない…ということを……

ぴくっ。
山県を送り届け戻ってきて一息ついていた。
すでに日が沈み、あとはお風呂に入って休むのみ。
だがしかし…おそらくは……
コトッ。
「?剣心?」
のんびりとお茶を飲んでいる最中、やはりというか……
そんなことを思いつつ、コトリと手にもっていた湯のみを静かに置く。
そんな剣心をみて多少首をかしげてといかける薫。
「来客でござる」
いって横にとおいてある剣を手にとり立ち上がり、そのまますたすたと表のほうにと歩いてゆく。
「ち…ちょっと。剣心?」
「どうしたんだ?いったい?」
そんな剣心の様子に首をかしげながらも、その後をあわてておいかけてゆく薫と弥彦。
「気を感じたでござるよ」
いって草履を履いて外にでる。
そのまま表門のほうにと歩いていき、道場の表門のほうにと足をむける。
すでに夜独自の暗闇が押し寄せ、空には星が輝いている。
「気を感じたでござるよ」
「「……気?」」
その意味がわからずに首を同時にかしげる薫と弥彦。
「まったく隠そうとしない、馬鹿正直な、闘気。」
ある意味すがすがしいほどに。
最も、一般的に気を抑えていてもそれはあくまでも通常のことゆえ、
剣心にとっては完全に気配を絶つなどしなければ動きは丸判りなのだが。
剣心の説明をうけても二人には意味がわからない。
ギィ。
閉じている門の扉をゆっくりと開くとそこには何やら長いものを両肩に背負っている一人の男。
さあっ。
雲に隠れていた月が顔をだし、門の前にといる男性の顔を照らし出す。
尖ったクセのある黒い髪に額に赤いハチマキ。
そしてその他の上下の服はしろで統一されている。
「……喧嘩。しにきたぜ」
「あの人。昼間の!」
「あ。でこぴんいっぱつ。」
わかってはいたが、やはりというか何というか……
そんなことを思いつつ、薫と弥彦が声をあげているのを背後で聞きながら、
「やはりおぬしか。喧嘩は遠慮する。といったでござるよ」
にこやかに言い放つ。
無意味なことはしたくはない。
彼の腕では自分に勝てないのは明白。
かといって彼をこのまま過去のしがらみに捉えさせているまま。
というわけにもいかない。
「そうはいかねぇんだ。これは喧嘩屋としての喧嘩。こっちもひくわけにはいかねぇ。
  まして。相手が維新志士、人斬り抜刀斎ならなおさらだ」
多少うつむき加減に言い放つ。
そう。
相手が最強といわれた維新志士だからゆえにひくことはできない。
「…え?」
「…どうしてそれを……」
そんな彼の言葉に同時につぶやく弥彦と薫。
そしてまた、薫の台詞をきき思わず薫の顔を見上げる弥彦。
……抜刀斎…って、やっぱり…剣心が…あの?
昼間の会話から、まさかとはおもってはいたが……
だが。
ある意味、剣心が鬼のように強くてもそれでだと納得する弥彦。
今の今まで確信がもてなかった弥彦ではあるが、今の薫の台詞で確信がもてた。
「長州派維新志士、緋村抜刀斎。またの名を人斬り抜刀斎。使うは、飛天御剣流。」
うつむきながら説明しつつ、そのまま開かれた門から道場の敷地内にと入ってくる。
「よく調べたでござるな。それも喧嘩屋としての仕事のうちでござるか?」
そして、少し離れた場所で立ち止まり後ろをむいたままの彼に対して語りかける。
そうではないのはわかってはいるが、あくまで確認のための語りかけ。
「これくらい調べるまでもねえ。だが…俺もしらねえことがある。
  飛天御剣流というのはどんな剣術なのか。非情の人斬りが殺さずの流浪人になったのか。
  とかは一切わからねえ。わからねえからこうして、真っ向勝負にでたわけさ」
維新政府に敵対するものは全て切り捨てた。
真実なのか噂なのかはわからないが、たったひとりにて、政府側の一個大隊を壊滅させた。
という話もあるくらいの伝説の人斬り。
そんな人斬りがどうして今は殺さずの流浪人として、しかも逆刃刀などを持っているのか。
「拙者にもわからぬ。弱いものいじめが人一倍嫌いなはずのおぬしがなぜ喧嘩屋などをする。
  なぜこれみよがしに悪の一文字を背負ったりする。
  なぜおぬしはそこまでして過去に捕らわれて自分の楔に縛られているでござるか」
彼はそんなことをしてほしくて、彼等を残したのではない。
というのに。
「何を……ちっ。やめた。喧嘩のまえにしけた話は似合わねぇ。
  俺はただ、でえっ嫌いな維新志士の中で最強といわれた、伝説の維新志士を……
  心底、ぶったおしてみたいのよっ!」
それが彼等が属していたものたちへの自分達が正しかった。
という世間への知らしめとなる。
正義という名前のもとに、好き勝手自分達の都合のいいようにいじくっている今の政府。
邪魔者は真実をゆがめてまでおとして叩きのめす。
それが彼にとっての今の明治政府の実体の真実。
そんな彼のことばに思わず無言になってしまう薫。
薫達は昼間、彼が昔所属していた赤報隊のことを聞いているがゆえに、
彼の気持ちはわからなくはない。
わからなくはないが……間違っているのは明白。
ざわざわ。
そんな会話わしている中、風がでてきてあたりを吹き荒れる。
「そういえば。自己紹介もしてなかったな。俺の名前は相楽左之助。
  裏世界での通称は斬左。斬馬刀の左之助。略して斬左だ!」
言いながらも、背負っていた長居槍のようなものに巻きつけていた布を剥ぎ取る。
そこには一振りのちょっとした長さの槍のようなものがひとつ。
「あ…あれは!」
「何だ。ありゃ?」
それをみて驚愕の声をだしている薫に、意味がわからずに目を見開いている弥彦。
「斬馬刀。戦国時代以前に、敵将を馬ごと倒すのを目的として作られた刀よ。
  今のこの時代の中でいえば、世界中においても一応指折りの数にはいる。
  ちょっとした大きさで有名な刀よ。なぜかあの程度の大きさと重さで、
  使いこなせたものがいない。とかいわれてるはっきりいってあまり役立たない刀」
ちょこん。
いつのまに表に出てきていたのか、弥彦の隣にたちながらにこやかに説明している菫。
「うどわっ!?」
まったく気配も感じなかったのをうけ、何やら驚きの声をあげている弥彦ではあるが。
「殺さずなんて甘い考えは今すぐ捨てな。でないと…死んぢまうぜ」
いいながらも斬馬刀を振りかざし剣心にと突進してゆく左ノ助。
「早い。あんな重い武器をもっているのに。」
それをみて薫が驚愕した声をだすが。
「…遅っ!…あれで当人…走ってるつもり…なんだろうなぁ」
それをみてあきれたような声をだしている菫。
「…菫ちゃん。重いのあの人もってるのよ?」
「?剣心お兄ちゃんにつけてるやつのほうが重いし。あれよりは遥かに」
『……は?』
そんな菫をたしなめるように説明する薫の台詞に、さらっと何やら意味深なことをいう菫。
そんな菫の台詞に、薫と弥彦が思わず目を丸くするが。
彼がそのまま刀を振りかぶった直後にかるく飛び上がり、
壁際にと生えている木の枝にと飛び移る。
飛び移ったと同時、瞬きする一瞬よりも早く剣を抜き放ちその枝を一閃しておく。
そして再び彼が斬馬刀を振りかぶる左ノ助の少し前にと着地する。
そんな剣心の動きをみて、
「あんたの動きは見切らせてもらった!こんどは逃がさねえ!」
などといっている左之助。
「……あれで見切った。なんていえないとおもうけど……とりあえず」
「…あ、あれ?」
「あれ?菫ちゃん?」
何やら横で菫がつぶやくのをうけてふと横をみれば。
そこにいたはずの菫の姿がみえない。
思わず菫の姿を探してきょろきょろとする薫と弥彦。
それとほぼ同時。
ぼぐっ!
「~~~~~~っっ!!」
何やら鈍い音が二度、周囲にと響き渡る。
みれば、なぜか斬馬刀を地面に突き刺し両手で頭を押さえてうずくまっている左ノ助の姿と。
そしてまた。
「…す、菫ちゃん…いきなり何をするでござるかぁ……」
こちらもまた頭を抑えながらも何やら抗議の声をあげている剣心の姿が。
そんな二人のほうをみてみれば、二人の間にたたずむ菫の姿。
「何をする。じゃないでしょ?まったく。今何時だとおもってるの?二人とも?
  ここでやったら近所迷惑でしょう?それとも何?私に異空間つくらせるき?
  まあ別にそれでもいいけど。どうせなら人気のない川原にでもいってからやってよね♪」
軽やかに言う菫のなぜかその片手には、ハリセンが一つ。
「それはわかってるでござるが。いきなりハリセンでたたくことはないでござろうに……」
何やら泣き言らしきことをいう剣心に対し、
「あら?そうでもしないと、そこの左之助さんも落ち着かないだろうし♡
  そ・れ・にv今剣心お兄ちゃんは威嚇のために切り戻しできるように枝切り落としただけだし」
どさっ!
「……ひっ!」
菫がそういうと同時。
先ほど剣心が飛び乗った枝が時間をおいて枝元から木の幹から離れ落ち、
そのまま真下にと落ちていたりする。
それと同時、その近くから男性の声がきこえていたりするが。
「まあ。あそこに隠れていたのは比留間喜兵衛であろう?
  しかもその片手に拳銃を手にしてこちらの隙をうかがっていたようでござるから忠告をかねたでござるよ」
「「…いや、拳銃片手…って…それに比留間喜兵衛…って……」」
そもそも。
いつのまに菫ちゃんはあそこに移動してたの?
薫と弥彦が同時につぶやき、ふと疑問に思う薫であるが。
「ともかく。剣心お兄ちゃんたちは、ここでやらないの。
  どうせあの左之助さんは喧嘩を受けないと納得しない口だしね~。」
「…どうやらそのようでござるな。……しかし、拙者はともかく。
  左之助までハリセンで叩かなくてもよかったのではござらんか?
  拙者はなれてるからいいものの……」
「あら?だぁぁぃぶ手加減してるもの♡」
「………いっても無駄でござるな。……左之、とりあえず動けるでござるか?」
ため息をつきつつも、未だに頭をかかえてうずくまっている左ノ助のほうにと歩いていき、
心配そうにと声をかける。
「…つぅっ。今のは何だ!?」
打たれ強いはずの自分がここまで立てなくなるほどの痛みを感じるなど。
何がおこったのかまったくわからない。
「……気にしないほうがいいでござるよ。それより。
  ここでは周りに迷惑がかかるかもしれぬでござるから。人気のない場所に移動しないでござるか?
  ……どうやらこの喧嘩。受けてたたないとおぬしも抜け出せないようでござるしな」
気にしないほうがいい。
といわれても、気にならないほうがどうかしている。
今の剣心と薫の会話は、あまりの痛さに耳には言っていない彼なのであるが。
「…何を……」
そこまでいいかけてようやく、目の前にいる菫の姿にと気づく。
思わず一瞬、その姿に惚けるものの。
「……ふっ。確かに。本物の喧嘩っていうのは女子供に見せるものじゃねぇな。
  ましてや周りに迷惑になってもいけない…か。わかった。ついてきな」
未だに頭ががんがんと痛むが片手で頭をさすりつつ、
もう片手で地面にと突き刺している斬馬刀を手にして立ち上がる。
そしてそのまま門のほうにと歩いてゆく。
「すまぬでござる。すこしでてくるでござるよ」
未だに唖然としている薫と弥彦にむかってにこやかに言い放ち。
そんな左之助に続いて道場からでてゆく剣心の姿が。
二人が門からでて外にでてゆくのを見届け。
はっと我にと戻り。
「あ。まって!」
「あ。おいっ!」
そんな剣心を夜だというのにあわてて追いかけてゆく薫と弥彦。
そんな二人を見送りつつ、
「さってと♪」
一人残された菫が何やら楽しそうな声をだしつつも。
先ほど木の枝が落ちた方向の柵のほうにと向かってゆく……


ほ~、ほ~。
ザワザワザワ。
梟の鳴き声と、そして風が木々を吹き抜ける音のみが静かに響く。
サラサラサラ……
周囲からは川の流れる音が心地よく響く。
「さて。そろそろおっぱじめるとするか。抜刀斎さんよ」
「流浪人。緋村剣心。この刀で相手をするでござる」
「逆刃刀か。ふっ。あんたもこの斬馬刀の威力を一度目にしたはずだ。
  それでもまだ殺さずを貫くっていうのが通じると思っているのか?
  ま、死ぬ死なないは別にあんたの勝手。俺の…しったことじゃねえ!」
いいながらも、そのまま有無を言わさずに剣心に向かってかけてゆく。
が。そのまま微動だにすることなくそんな左之助の動きを見ている剣心。
彼が斬馬刀を振りろすとほぼ同時。
ふいっ。
そのまま軽く横に移動する。
斬馬刀が振り下ろされるのと、剣心が左之助の斜め後ろに移動するのとほぼ同時。
正確にいえば振り下ろしかけたその直後に剣心は移動したのだが。
重さに気をとられその動きにまったくついていっていない左之助も左之助なのだが。
「…な!?」
シュ!
……どさっ。
刃が地面にめり込んだのと、自分のわき腹に一撃を感じそのまま弾き飛ばされるのとまったく同時。
そのまま、その反動で少しばかり後ろに倒れこむ左之助の姿。
何のことはない。
剣心が軽く左之助の横腹をたたいただけなのであるが。
「やりい!剣心の圧勝!いくら奴の斬馬刀がつよくてもあたらなきゃ意味がねえ!」
そんな二人の戦いぶりを少しはなれた場所でみつつも、ガッツポーズを繰り出して、
思わず叫ぶ弥彦だが。
「…く。さすがに強いな。伝説になるわけだ。」
相手が思いっきり手加減していたなどとは夢にも思わず、
「だがよ。抜刀斎さんよ。喧嘩っていうのは真剣での斬りあいと違って、剣に強いものが勝つんじゃねえ。
  倒れないものの勝ちなのよ!」
いいながらも立ち上がる。
ふう。
そんな左之助の態度をみてため息ひとつ。
「…どうやら。しばらくつきあってやらないと、おぬしのしがらみは取れそうにないでござるな」
そんな剣心の台詞に、こんなものならば確実に勝てる。
そんな勘違いしまくったことを思いながら、
「しがらみなんかねえ!いくぜっ!うおおっ!この勝負もらったっ!」
いって再び斬馬刀を振りかぶる。
が。
しかし。
今まで目の前にいたはずの剣心の姿がみえずに思わず斬馬刀を振り下ろすのを止める。
「ここだ。」
「……な!?」
何やら自分の頭上のほうから声が聞こえ思わず驚きの声をあげる。
みれば自分が手にしている斬馬刀の上にとちょんっと乗っている剣心の姿が。
重さすら感じさせないのはそれが彼がかなりの使い手であるが証拠。
「斬馬刀はその超重巨大さゆえに、どうしても通常攻撃の型が限られる。
  もっとも。通常が当てはまらぬものもいるにはいるでござるがな。
  通常の人々が使う攻撃は、打ち払うか、なぎ払うか。二つに一つ。至極読みやすい」
彼の力量からすれば一般的な通常攻撃のこの二つしか使えないであろう。
というのは明白。
最も、彼女がかなり特別だ。
というのは剣心は身に染みてよくわかっているがゆえに、彼女…菫を基準にはしないが。
それだけ言い放ち、
すとっん。
少し離れた場所にある枯れ木の上にと移動し、
そしてそのまま体制を整え、左之助の前にと移動する。
「おぬしのそのしがらみ。少しばかり砕くでござる」
そう言い放ち、
ひゅっ。
「……っ!?」
まったく動きが見えなかった。
いや、斬馬刀を振り下ろす間もなかった。
気がつけばいつのまにか懐…即ち、自分の目の前にと入り込まれており、
そして風が切る音がいくつかすると同時。
「……がっ……っ!!!」
どがどがどがっ!
剣の打撃の速さすら見極められない。
剣が夜の闇に月に照らされて閃光を放つ残像が見えるのみ。
どさっ……
「飛天御剣流。竜巣閃りゅうそうせん
倒れた左之助の耳にそんな剣心の声がかろうじて聞こえてくる。
体に力がはいらない。
逆刃刀で連打をうけたのだというのは理解はできるが。
……強え。
段違いってもんじゃねえ。
桁が違う……まさかここまで強いとは……
ごふっ。
息をするのに口の中が血の味で充満する。
もっとも、彼としてはまさかかなり手加減されている。
というのは気づいてないが。
……かてねえ……
そんな思いというか当たり前のことが左之助の脳裏をよぎる。
「もうこれで無意味な戦いは終わるでござるよ。
  何よりもこれ以上。おぬしに剣を向けたくはござらん。大人しく負けを認めるでござるよ。
  まだ幼かったおぬしたち子供を残した相楽総三殿の気持ちを無駄にしないでござるよ」
ぴくっ。
相楽の名前に反応する。
「…う、うるせえっ!てめえら維新志士が隊長の名前をいうんじゃねえっ!
  相楽隊長に…俺たち赤報隊に悪の一文字を背負わせ、正義面している維新志士なんかに……
  絶対に負けるわけにはいかねえっ!」
自由にならない体を気力で無理やりに立ち上がる。
そして。
斬馬刀を地面に突き刺し、きっと剣心をにらみつつ。
「俺はまけねえ!負けてたまるかっていうんだよっ!
  赤報隊と相楽の名にかけて維新志士なんかに負けるわけにはいかねえ!」
体全体が立っているのがやっとなほどにずきずきと痛むが、
「いくぜっ!うおりゃぁ!」
いいながらも、頭上で斬馬刀を振り回す。
この斬馬刀の重さと回転力。
それを上乗せすれば少しはこの緋村抜刀斎に太刀打ちできるはず。
赤報隊が崩壊してから、喧嘩屋になった。
喧嘩をしている間は全てを忘れられた。
そして…つよくなった。
「この十年喧嘩で強くなったこの力で…最強の維新志士!お前を倒すっ!」
無駄な動きをしている。
というのにまったく気づくことなく叫ぶ彼に対し、
「そんなしみったれた強さでは拙者はたおせぬよ」
淡々と言い放つ。
「うおお!」
斬馬刀を振りかぶりつつも、剣心に向かっていこうとする左之助に対し、
きっんっ。
それが振り下ろされると同時に飛び上がり、かるく刃を一閃させる。
それと同時に斬馬刀が根元近くから綺麗に斬り折られ少し離れた場所にと飛んでゆくが。
「飛天御剣流、竜槌閃りゅうついせん
すでに左之助は気力で立っているのがやっとであるがゆえ、
別にスピードを出すこともなくとっんと空中にと飛び上がり、
そのまま頭上より一撃を加える剣心。
折れた斬馬刃が地面に突き刺さるよりも早くに頭上から一撃をくらい、
何がおこったのか一瞬理解できないが。
それでも、斬馬刀が折られたことと、一撃を受けたのはその痛みで理解できる。
倒れそうになるものの、何とか気力でどうにか立ち止まる。
今ここで負けるわけにはいかない。
そんなことを思いつつ。
そんな彼の耳に、
「手加減したがゆえに大丈夫であろうが。だがもう立っているのがやっとでござろう。
  今医者を呼ぶからまってるでござるよ」
手加減した。
という何とも理不尽な声が届いてくる。
冗談じゃない。
相手が本気にもなっていないのにも関わらず、負けるわけには絶対にいかない。
「まだだ…まだ倒れてねえ。まだまけちゃいねえ!
  赤報隊と相楽の名前にかけて、維新志士なんかにまけられねえ!」
維新志士にここでまければ、自分達…隊長がまた負けることになる。
そう思い、気力のみでたちながら叫ぶ彼に対し、
ふぅ。
ため息ひとつつき、そしてそのまますたすたと彼の元にと近づいてゆき、
ばしっ!
おもいっきりその左の頬をはたき、
「喧嘩の相手が違うのではござらぬか!?
  赤報隊の相楽殿がおぬしに教えたのは、維新志士を倒すことか。
  それとも維新を達成することか。」
未だに過去の呪縛に捉えられている左ノ助を一喝する剣心。
「うるせえ!偽りの新時代をでっちあげ、ふんぞりかえってる手前等維新志士がいうんじゃねえ!」
自分達に全ての悪いことを押し付けた今の政府。
その政府を作り出した最も最強と呼ばれている目の前の維新志士。
緋村抜刀斎。
それゆえにこそ譲れない。
「違うわ!剣心はそんな維新志士じゃないわっ!
  政府の偉い人の誘いにも目もくれず、自由に人々を剣で守りつづける流浪人よ!
  剣心を人斬り抜刀斎としてしか知らずにかってなことばかりいわないでよっ!
  自分で勝手に喧嘩をふっかけておいて、好き勝手なことばかりいわないでよっ!
  剣心を他の人たちと一緒にしないでっ!」
「そうだぜ!剣心は剣一本で人々を守ろうとしてるんだ。
  これだけいっても判らない判らずやなら、この明神弥彦が剣心に変わって相手になってやるっ!」
彼は今の剣心のことを知らない。
知っているのは、話に聞いた過去の剣心の姿のみ。
その理不尽さと、あまりのいいように思わず言い返す。
彼の置かれた境遇は、剣心と山県有朋から聞いて知っている。
知ってはいるが……何もしらないのにすき放題いうこの目の前の男性が許せない。
それは、薫も弥彦も同じこと。
そんな二人の言葉にはっとする。
確かに。
もし、腐りきった政府の一員ならば剣客などやっているはずがない。
ましてやあんな名もない道場に居候しているわけがない。
つまりは…何の役職にもついていない証拠。
「左ノ、維新はまだ終わっておらぬでござるよ」
その言葉に思わず目を見開く。
「たしかに。形だけの維新は十年前に成立し、新明治時代となった。
  だが本当に虐げられた人々はいまだ弱者が虐げられた古い時代の中にいる」
いってひたりと自分のほうを見つめつつ、
「維新を主に勧めた彼等の言葉でいえば、維新達成まで三十年はかかる。
  そういっているでござる。…まだ維新は始まったばかりでござるよ。
  国は一石二鳥ではたちあがらぬ。だが…そのために人々が忘れ去られてしまうのは。
  だからこそ…だから、拙者は及ばずながらそういう人たちのために力及ばずながら、
  この刀を振るっているでござるよ。本当に維新はきちんと達成されるのか。
  十年…二十年後に全ての人々が平等に暮らせる世の中がくるのか。
  それは判らぬでござるが。判らぬでござるが…それを信じ、少しでも人々のために。
  ……そうすることが、明治維新の犠牲になった人々の供養になる。
  そう思っている。……人斬り抜刀斎が斬り殺した人々に対しての償いになる。
  そう思っているでござる」
人斬り抜刀斎とよばれ、人々から畏怖されていた目の前の人物。
その彼からその思想も同じく、尊敬する相楽隊長と同じ台詞を聞くなどとは。
根性と意思のみで気力を保ちつつも、意識を保ちどうにか立っている状況。
そんな彼の状況はよくわかっているがゆえに、
「それと…もうひとつ。相楽殿は全てをしって。それでも自分の身一つで人々が守れるのなら。
  と承知の上で自分が悪者の汚名を着ることを納得の上、極刑に準じた。
  彼が拙者に頼んだのは隊の皆の身の安全。だが……
  相楽殿の隊の人々はその事実を知っても、彼と共に行動を最後まですることを決められた。
  そして…左ノ。お前とそしてもうひとりいた子供二人。
  未来を担うお前たちを巻き込むわけにはいかぬ。と下諏訪の本陣にお前たちを拙者に託し、
  そして出かけていき……そこで殉じたでござるよ……」
「……何…を……」
目の前の抜刀斎が何をいっているのかわからない。
「おぬしと、もうひとりの子を近くの村に預けたのは拙者でござる。
  …相楽殿の最後の言葉を今こそ伝えるでござる。
  『いつかくる本当の新しい世界で自分達の分まで生きろ。』
  ……相楽総三殿のお前たちにむけた、最後の言葉でござるよ」
『自分のかわりに人々を守ってほしい。』
それが彼の最後の言葉。
それもあり、彼の意思を尊重し、そしてまた自身の意思もあり、
あの戦いののちに、志士をぬけて流浪人となり人々を剣一つで守ってきた。
政府の目にとどかない人々と、いまだ虐げられている人々を守るために。
立場は違えど、その思いと願いと信念は共通していた。
それは彼にもわかっていたらしく、だからこそ剣心に願いを託したのだから。
――本当の維新を成し遂げるために。
「まだ思い出せぬでござるか。
  あの日の前日。拙者はおぬしたちが陣営していた場所にたずねていったでござるがな」
戸惑いの表情を浮かべている左ノ助に対して多少罰が悪そうに微笑みながらも説明する。
―――助けられなかった負い目は未だにもっている。
それが彼等が選んだ道だとわかっていても、後悔だけはどうしようもない。
「……おまえ…まさか……」
ちらりと見えた後姿。
何やら大切な話があるから、と人払いをされてたずねてきた少年と話し込んでいた隊長の姿。
その姿を思い出す。
あのとき自分がみたのは…蝋燭の明かりに灯された…赤い…髪。
「拙者はあのとき。政府側の理不尽な決定が下されそうなのをうけ。
  相楽殿に説明をかねて上層部の意志を受けて、たずねたでござるよ。
  あと、もうひとつ。政府の決定がないままに暴走しようとする輩がいたのでその牽制をかねて」
まだあの当時はこの左之助はほんの子供であった。
だからこそ、大人たちは子供に未来を託し…彼等を置いて出かけていった。
彼等に一服もり…そして、彼等を再び訪ねてきていた剣心に預け。
あの一件の後、剣心は志士を抜けた。
同士の一人から手渡された新しい逆刃刀一つのみをもち。
「おぬしたち、まだ子供まで巻き込むのは忍びない。そうおもい、
  相楽殿たちがおぬしたちに一服もって、眠ったおぬしたち二人を拙者に預けたでござる。
  ……彼等は、汚名をきても、新時代が必ずくる。そう信じていたでござるよ」
自分も今でも信じている。
本当の意味での維新が成り立つことを。
それは昨夜の山県の話し合いにおいても、彼等がまだあきらめていない。
というのはよくわかった。
かつての当時のままに抱いている…理想と信念。
「……ふっ。なるほど……な」
つまり、この男は全てを知っていながら自分の理不尽な喧嘩を受けたわけだ。
自分がいかに未だに精神的に子供であったかが否が応にも突きつけられる。
自分は勝手に、政府に使い捨てにされた相楽隊長たちは政府を憎んでいた。
そう思っていた。
だが…彼等は全てを知りながら…それでも、新しい時代のため。
あえて自分達が汚名をきることで世の中の平穏と新しい政府の安定を願った。
新政府が嘘を唱えていた。
となればついてくる民衆などいない。
そうわかっていたがゆえに。
自分は全てにあきらめてしまって喧嘩に逃げていた。
だが…この目の前の最強の維新志士と呼ばれたこの男は。
今もなお、単身一人戦い続けている。
……自分の卑小さがいやでも身に染みる。
……すいません…相楽…隊長……
維新志士たちに対する恨みと怒りのみでその気力を奮い立たせていた。
だがそれは、全ては自分の至らなさが招いていた驕り。
俺は…この男に……完全に負けちまいました…それとすいません……
そんなことを思いつつ、張り詰めていた気がほどけ。
そのままその場に倒れ伏す。
どさっ。
「左之!!?」
「デコビン一発!?」
「ちょっと!大丈夫!?」
その場に気を失い倒れた彼に向かい、同時に叫ぶ剣心、弥彦、薫の三人。
と。
ひょっこり。
あわてた様子の剣心の後ろからいつのまにやってきたのか菫がひょっこりと顔をのぞけ、
「あ。ようやく決着ついたみたいね~。で?どうする?剣心お兄ちゃん?
  このまま、この彼移動させる?それとも私治そうか?」
さらりと何でもないように言い放つ。
「「……治す…って…菫ちゃん?」」
そんな菫の台詞に二人して戸惑う薫と弥彦。
というか、いったいいつのまにやってきていたんだろ?
という疑問は二人の脳裏にわくものの、何か聞くのが怖いような気がするのは気のせいか。
「……菫ちゃん。普通の人はどちらも驚くでござるよ。…とはいえ、もう夜も遅いでござるしな……
  まあ、内臓や骨などには異常ないように筋肉や神経のみに打撃がいくようにしたでござるから……
  少し休めば元のように動けるとおもうでござるが……
  とりあえず。彼を運ぶでござる。…薫殿。すまぬ。道場を借りてもよいでござるかな?」
『いや、骨や内臓には異常がないようにした…って……』
そんなことができるの?
そんなことができるのか?
剣心の言葉に互いにつぶやき、二人して同じようなことを思っていたりするが。
それは技を極めている剣心だからこそできる技。
普通の人ではその手加減具合がまず判らないであろうが。
「薫殿?」
「え。あ。うん」
「かたじけないでござる」
言いながらも、気絶している左ノ助をその背中にと抱えるようにと背負う。
「あ。ならこれは私もってくわね」
にこやかにいいながらも、折れた斬馬刃を手にしている菫。
「重くないのか?…まあ、半分おれちまってるけど。それ」
菫がかるがるとそれを手にしたことをうけて弥彦が首をかしげるが。
「別に?」
まるでそこいらの木の枝を持つかのように持ち上げてとてとてと歩き出す。
「と、とにかく。いそぎましょ。もう夜も遅いし」
どれだけの刻限が過ぎたのかはわからないが。
短いのかもしれないし、また長いのかもしれない。
昼間にこの左之助という男の素性と、そしてまた、維新志士を憎んでいる経緯。
それらは山県たちから聞いて知っているがゆえに気が気ではなかった。
そしてまた、剣心が彼を過去の呪縛から解き放とうとしてあえてこの喧嘩を受けたのだ。
ということも知っているがゆえに手出しはできなかった。
そして、ふと気づき、
「そういえば。あの喜兵衛はどうしたの?」
そういえば、あのとき。
柵の向うにいるとかいう喜兵衛を放っておいて屋敷をでた。
その後は菫ちゃんが一人残っていたはずだけど……
そんなことを思いながらも、菫にと問いかける。
「あ。かれ?ちょこっとお灸すえといてから、あるべき場所にもどしといたけどv」
ぴくっ。
お灸を据えておいた。
という言葉で剣心がピクリと反応したのを弥彦が見咎め一瞬首をかしげるが、
剣心のやつ、どうかしたのかな?
どうして剣心が反応したのかは弥彦にはわからない。
世の中、わからないほうが幸せ…ということもあるのだが。
「そうなんだ。なら警察に引き渡したのね」
その菫の台詞をそう捉えて納得しそのまま、左ノ助を背負っている剣心とともに、
道場兼屋敷にと戻ってゆく彼等の姿が。
すでに夜も完全に更けかけている夜の道において見受けられてゆく……


チチチ……
「……う?……っ!」
体がものすごく痛くて起き上がろうにも起き上がれない。
「……俺は……」
ふと見上げれば、何やらいつも見慣れた低い天井ではない。
多少高めの天井。
「あ。おきた?」
何やら鈴を転がしたような、それでいてどこかできいたような気がする声が聞こえたのをうけ、
かろうじて動かせる唯一の目玉を動かして声のしたほうをみる。
どうやらどこかの部屋の中心にぽつん、と自分は布団にと寝かされているのだ。
とそこでようやく理解する。
「……えと。たしか……」
一度みたら忘れられないような美少女。
とはこういうことをいうのかもしれないな。
思わず左ノ助はそんなことを思うが。
ここまでまるで人形や絵のごとくに整った顔立ちの女の子をみたことがない。
そう。
それはまるで幻かとおもえるほどに、思わず見とれてしまうほどの容姿。
「とりあえず。はい」
「……?」
何やらその手に湯のみが一つ握られているが。
変わった匂いがその湯のみの中からしてきているような気がしなくもない。
「……なん……」
「とりあえず。体力つけないとね。まあ骨とかには異常ないし。
  ただ筋肉痛になってるだけというのもあるから。とりあえず飲み物もってきたのよ」
いいつつも、未だに自由にならない左之助のほうにと近づいてきて、
そして、ちょこんとその顔の真横に座るその子供。
年のころならば十になっているかいないか。
というようなまだ幼さがのこる子供。
「う~ん。自力で飲めそうにないか。なら♪」
いってそのまま口元にそれを運ぼうとしてくる。
「…って。ちょっとま……むぐっ!」
そのまま、何やらいきなり息苦しくなり、どうにか息をしようと大きく口を開く。
それをまっていたかのように、そのまま湯のみの中の液体が口の中にと注ぎこまれる。
「…げほっ。げほげほっ!」
いまだかつて飲んだことのないような独特の味。
しかも、寝ているのに口に液体が注ぎ込まれ思わずむせこんでしまう。
「そのミックスハーブティはよくきくから♪あと少しねてたらもう動けるようになるわよ。それじゃ♡」
意味のわからない言葉をいうだけいって。
そのまま、何やら不明な液体を左ノ助に飲ませ、再び部屋からでてゆくその少女。
いうまでもなく菫なのであるが。
それは左之助にはわからない。
「……ミッ…?ハブ?」
まったくもって今あの子供がいった言葉の意味がわからない。
唯一判るのは、自分が何か得たいの知らない液体を飲まされた。
ということのみ。
何やら今まで食べたことも感じたこともない味だったのがかなり気にかかる。
そんなことを思っているとなぜか眠気が襲ってくる。
そのまま、睡魔に襲われ眠りについてゆく左之助の姿が見受けられてゆく――。

「しかし。ほんっきで骨とかには異常なかったな~。あいつ」
あれほど剣心に打ちのめされたというのに。
骨な内臓にはまったく損傷はない。
と、打撃をうけた場所を見ながらも、ここまで上手に手加減できるとはすごい。
と褒めていた源才の言葉を思いだし、そんなことをいっている弥彦。
どうやってそんなふうに手加減ができるのか。
そんな神業ともいえることをやってのけた剣心に対してさらに尊敬の意を深くする。
「剣心。でもよくあそこまで上手に手加減できるわね」
「う~ん。これはある意味、経験がモノをいうでござるからな」
弥彦に続いてしみじみと剣心にと語りかける薫の台詞に苦笑しながらも答える剣心。
「そんなものなの?あ。でもあの人一人のこしてきたけど大丈夫かしら?」
「まあ当分は動けぬでござるよ。……菫ちゃんが何かした場合は別でござるが
最後の台詞は小さくぽつりと言い添える。
「とにかく。これで一件落着よね。牛鍋でも食べてぱ~とやりましょ。
  もちろん。心配かけた剣心のおごりね♪」
そんな最後のほうの剣心の台詞に多少首をかしげつつも、
ぽんっと手をうちにこやかに言い切る薫。
「またかよ。ブスでブタなんてみっともねえぞ?」
そんな薫にぽそっといっている弥彦。
「あら?つり目のチビ助よりはよっぽどましよ」
「何だと!?シメテやるっ!つりめのチビはもてるんだぞっ!」
「やってみなさいっ!それは強ければの話でしょっ!」
思いっきり人目がある街中だというのに、何やら二人して騒ぎ出している弥彦と薫。
そんな二人を苦笑しつつ見つめながら、
「…やれやれ。拙者はさきにいって席をとっておくでござるよ。気がすんだらくるでござるよ」
ほんとうに、あの二人は姉弟のように仲がいいでござるな。
そんなことを思いつつも、少し先にとある牛鍋専門店、赤ベコにと向かってゆく剣心。
と。
どごっ!
「……おろ?」
まさか……
気のせいではない、間違いのないこの気は……
はたっと果てしなく様々な予感が脳裏を駆け巡る。
今入ろうとした店の中から男が一人、扉を破って道路にと投げ出されてくる。
そしてまた。
「「ひ…ひいいっ!」」
何やらいいつつも、どこかでみたような二人の男が続けざまにその入り口から出てくるが。
「おろ?おぬしたちはこの前の……」
どこかでみたことがあるような男たちだとおもえば。
昨日、酔って騒いで左之助と戦って負けた男たち。
びくっ!
「うひゃぁ!こっちもまたいるぅっ!」
そのうちの一人が、剣心に気づいて何やら悲鳴に近い声をあげているが。
それとほぼ同時。
「……ったく。酔って喧嘩をまた売ってくるのはかまわねえけど。
  ちったあ鍛えて強くなってからにしてもらえてえもんだな。
  こちとらろくに体が動かないのに弱すぎるにもほどがあるぜ。」
何やらいいつつも、店の中からでてくる人影一つ。
「…って!ああっ!あんた!寝てなくていいの!?」
その姿をみて思わず叫ぶ薫に。
「……えっと。単刀直入に聞くでござる。菫ちゃんに何をされたでござるか?」
思わずコメカミに手を当てながらも、そんな目の前の人物…いうまでもなく左之助にと問いかける剣心。
「…?スミ…?ああ。あのかわいい女の子のことか?
  何か人がねてたらいきなりきて、のんだこともない液体口の中に無理やり注ぎ込んできたが」
あの子の名前は菫というのか。
などと思いながら。
そして。
「そういえば。そっちのお嬢ちゃんの妹かい?あのこは。まったく似てないが」
ふと疑問に思い問いかける左之助。
「え?いや、菫ちゃんは……」
そういえば…いまだに菫ちゃんと剣心の関係…きちんときいてない……
薫が言葉につまりかけると。
「…体に異変はないでござるか?
  …まあ、いくら何でも免疫のない人に、いきなり毒とかは飲ませない……
  ………とは菫ちゃんだから言いがたいでござるしなぁ……」
うなるようにいう剣心の言葉に。
『ど…毒ぅぅ!?』
当然のごとくに声を重ねる薫と弥彦と左之助の三人。
「剣心。冗談きついぜ」
「ほんっと。剣心ったら」
「…?冗談ではござらんよ?毒の体制をつける訓練だとかいって、
  よく食事とかに気づかないうちに盛られたりしてたでござるしな……」
どこか遠くをみつめつついう剣心の台詞に。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
思わず黙り込んでしまう三人であるが。
そんな剣心の様子をみて、今の言葉が真実だと確実に理解し、
「…お、俺…大丈夫…だよな?」
ものすごく不安そうにつぶやく左之助。
「飲ませるときに何かいってなかったでござるか?それがわかれば……」
「ハブとかスペとか何とかいっていたようだけど」
「ああ。なるほど。スペシャルミックスハーブティでござるか。
  それなら大丈夫でござるよ。…何を混ぜたのかにもよるでござるが……」
「うおいっ!その最後にぽそっといった言葉は何だ!?」
そんな剣心と左之助のやり取りを眺めつつ。
「…ま、まあ大丈夫なんじゃねえのか?今の剣心の台詞が冗談か真実かどうかはおいといて。
  まあ、それに。あの菫ちゃんがそんなことするはずないし」
いや、する。
確実に突っ込もうとするが、それはあまりに怖いので口にはださず、
しずかに首を横にふるのみの剣心。
「そういえば。菫ちゃん、薬草とかにも詳しいって源才先生が褒めてたしね。
  まあ、そのスペ何とかっていうのはわからないけど。
  きっと薬湯だったんじゃない?だからあなたも動けるようになってるんでしょうし」
ときどき薫にはわけのわからない話で盛り上がっている菫と源才。
後で源才先生にきいたところ、菫ちゃんはかなりの博学で驚愕せざるをえない。
といってたことを思い出し、そんなことをいっている薫。
「そ。そうか。薬湯か……そうだよな。うん」
どうにかそう自分自身に言い聞かせるようにとつぶやく左之助。
そんな左之助をみてふと、
「?左之?背中の悪一文字はとらぬでござるか?」
未だに悪一文字が書かれている服を着ているのをみて問いかける。
まあ、彼はおそらくこれを脱ぐことはまずないであろう。
わかってはいるけど確認をこめて問いかける。
そんな剣心の問いかけに、
「…ああ。赤報隊は、俺にとってもう忘れられない過去だからな。この悪一文字ははずせねえよ。
  今さらこの性格を直そうにも齢、十九になっていたらどうしようもねえ。
  それに、昨日お前がいっていたことだって口では何とでも言えるとおもっちまうしな」
「うろ?」
拙者は十九で流浪に旅立って今のようになったでござるが……
そんな左之助の台詞に思わずきょとんした声をだす。
「ま。そんなわけで。お前が口先だけのイカサマ維新志士とどう違うか、
  この先ずっとお前につきまとって真偽を確かめてやるぜ。
  喧嘩屋も斬馬刀もなくしちまったし続けてく意味ももうねえしな。」
いいつつも、振り向きざまににっと笑い、
「今の俺はただの相楽左之助だ。今のお前が人斬り抜刀斎ではないようにな」
いって。
「と。というわけだから。俺の許しなしで勝手に流浪にでるんじゃねえぞ!剣心!」
そのまま何事もなかったかのようにとその場を離れてゆく。
「……やれやれ。何やらまた妙なのが増えたでござるな。
  でもまあ。相楽殿の気持ちは彼につたわったでござるかな?」
すくなくとも、過去に捕らわれ喧嘩に逃げていた彼を現実に戻すことはできた。
あとは彼次第。
まだ彼の人生はこれからなのだからいくらでも取り返しはきくはずだ。
そんなことを思いながら、苦笑してつぶやく剣心に対して、
「『また』っていうのが聞き捨てならねえな!」
「一番妙なのはあんたでしょうが!」
それぞれ、口々に剣心にむかっていってくる薫と弥彦。
「あ。ちょっと!左之助はんっ!」
そんなやり取りをしている最中。
店の中からあわてて出てくる一人の女性。
「あ。妙さん。あの人ならもうあっちにいっちゃったわよ」
そんな女性に対して薫が指をさしつつも、左之助が立ち去った方向を指し示し説明するが。
「…そんな…左之はん。またくいにげ……」
ごげっ!
その台詞に思わずその場にこけている弥彦の姿。
「…おろ?……またでござるかぁ!?」
どうやら…一つのことに夢中になると他のことが見えなくなる…ということは。
勘定などの面においても随時発揮されるらしい。
そんな妙の台詞に思わず叫び、そしてため息一つ。
「…し、仕方ないでござる。今回のあの左ノの分は拙者たちのと一緒に払うでござるよ……」
別にそこまでしなくてもいいような気がするけど……
薫はそう思うが、剣心の気持ちを考えるとそこまでは強くいえない。
「え?そりはうちらは助かりますけど……ま、とりあえずどうぞどす」
戸惑いながらも、三人を店の中にと案内する。
そのまま店の中にはいってゆく三人であるが。
そんな三人の姿を少しはなれた場所で眺めつつ、
「さってと。次は…っと♪」
一人にこやかに楽しそうに笑っている菫の姿が見受けられていたりするのは……
当然。
剣心も誰も知らない事実……

彼との出会いは必然であり、そしてまた。
そのように仕向けたのもまた自分。
彼が加わることによって…これから後の出来事もまた……楽しくなるがゆえに……


                 ―――GO TO Next?

Home    TOP     BACK    NEXT

######################################

あとがきもどき:
薫:ちなみに。一人のこってた菫ちゃん。何をしているかというと。
   喜兵衛相手にそれは気の毒なのでは……
菫:あら?何が?別にただ銃口に指をいれてそのまま引き金を引いてみたりしただけじゃないv
薫:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・菫ちゃんは何ともないでしょうけど……
菫:あら?あれくらいどうってことないじゃない?
   何でか腕が一本、あの喜兵衛さんなくなってたようだけど。どうってことないし。
薫:・・・あと、魂に実体もたせて恐竜時代に送り込んでいたりしたのは……
菫:あら?少しはお灸すえとかないと♪
薫:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・も、い~です・・・・・・
菫:しかし。まだまだ剣心お兄ちゃんの重しは増やしても大丈夫そうね♪
薫:・・・・・・・・・・・・・・せ、せめて・・・床抜けないようにそのあたりはしといてくださいね(汗
菫:ま。ある程度になったらねv
薫:(・・・あ、ある程度……汗)
   ともあれ。ようやく左ノ助の回は終了です。
菫:つぎはようやく鵜堂刀衛さんの回よね♪
薫:・・・・あるいみ、谷さんも気の毒かも……
菫:何やらぶつぶつ言い始めた薫さんはおいといて。
  それでは、また次回にね♪

2007年1月20日(土)某日

Home    TOP     BACK    NEXT