まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
警官隊とのいざこざv
すこしばかり菫ちゃんがあそんでたり(まてこら…汗
ま、周りにはわかってないからよしとしようv
ようやく山県さん登場ですv
何はともあれ、いくのですv
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数からすれば、自分達は圧倒的にと不利であった。
だがしかし、志はみな同じ。
全ての人々が平和に平等に暮らせる世界のため。
今の幕府にはそんな力はもう残っていない。
ならば。
諸外国のいうなりになってゆくよりは、自らの手で未来を切り開いてゆく。
だからこそ…決起したのだから。
「………ふぅ」
維新を成し遂げ、時代は新しい時を紡ぎだした。
だがしかし…未だに完全に維新は成し遂げられていない。
そしてまた。
その一番の功労者ともいえる彼の所在すら……
この十年。
主たる場所に伝令を飛ばしているものの。
未だに逃げられてばかりいる。
同士は皆、彼の帰還を待ち望んでいる…というのに……
剣客放浪記 ~過去と現在……~
「ん~……」
ぽろっ。
一生懸命、オニギリをつくろうとして努力している雀の姿をみて思わず微笑む。
「えっと。あまり強さをいれずに、こうやってごらん?」
そんな雀にと丁寧に教えている菫の姿。
こうやってみていれば、どうみても菫ちゃんも普通の子供なんでござるがなぁ……
などと剣心が思うものの、
「あら?どういう意味かしら?剣心お兄ちゃん?」
にっこりとそんな剣心にと微笑む菫。
「…うっ。」
その笑みに思わず固まってしまうのは仕方ないであろう。
ついうっかり、いらないことを考えてしまったでござる……
そんなことを剣心が思っていると、
「剣兄~。みてみて」
いいつつ、同じくおにぎりをつくっていた菖蒲が今つくったオニギリをさしだしてくる。
彼等四人がオニギリをつくっているそんな中。
「さ。稽古三日目。今日もまず、深呼吸からはじめるわよ。目を閉じて。神谷活心流の第一歩よ」
がらんとした道場の中。
その中心で、精神統一を始めつつ、瞳を閉じて深呼吸をしつつ、
目の前の弥彦に対して指導する。
「い~!!」
だがしかし、弥彦としてはそんなまだるっこしいことはもううんざりとばかりに、
おもいっきり口を開いて嫌だとばかりに薫に対して言い放ち、そしてそのまま稽古場から走り出す。
「弥彦!まちなさい!」
そのまま、渡り廊下を走り、稽古場から走り去る弥彦を追いかける。
「もううんざりだぜ!活心流なんて、いつになったら敵の叩きのめし方を教えてくれるんだよ」
毎日、毎日深呼吸。
剣の技など一つも未だに教えてもらっていない。
そもそも、自分は強くなるためにここにきた。
なのに……
「そういう考え方が間違っているの。活心流は人を守る剣だっていってるでしょ?」
そんな弥彦に対し、追いかけながらも説明する。
この三日。
毎日のように同じことを言い聞かせていた。
が、一向に判っていない様子。
「人を守る?」
何を馬鹿なことを。
剣は人を倒すためにあるはず。
そんなことを思いつつ、思わず振り向きざま。
ばぎゃっ。
剣心がいると思われる炊事場の引き戸にと思いっきり体ごと倒れこむ。
そして。
「剣心。俺、強くなるためにここにきたんだ。人を守る剣じゃない。おまえに、敵を倒す剣を教わりたい」
そこにいる剣心にむかって言い放つ。
彼が自分に強くなれ。
といったのだ。
自分も強くなりたい。
だからこそ、彼に剣を教わりたい。
「拙者の剣は後世に残す気はないでござるよ」
そんな弥彦の言葉に軽く微笑み、そのまますくっと立ち上がる。
飛天御剣流は、諸刃の刃。
生半可な思いなどで習おうものならば、まず習う当人の命すら危うい。
それが判っているからこそ。
「どうして?」
どうせ習うのならば剣心のような剣の強いやつに。
とおもうのは、自然の道理。
不満げに問いかける弥彦をそのままに、
「弥彦の先生は薫どのでござる」
いって立ち上がり、その場から離れてゆく。
「ま、まてっ!…わっ!」
そんな立ち去ろうとする剣心を追いかけようとするものの、
そのまま、足をもつれさせその場に倒れこむ。
「はい。おにぎり」
「おにぎり」
そんな倒れている弥彦に、にっこりとオニギリをそれぞれ差し出している雀と菖蒲。
そしてまた。
「弥彦ちゃん?大丈夫?」
すこし腰をかがめて弥彦に問いかけている菫の姿。
「……だから。ちゃんはやめてくれっ!」
そんな菫の台詞に、抗議の声を出しながらもあわてて起き上がる。
女の子の前でみっともないところは見せられない。
しかも、自分より年下なのにちゃんづけで呼ばれる。
というのも情けなく感じる。
そんな弥彦の台詞は何のその、そのままにこやかに。
「さ。弥彦ちゃん。まだ修行の途中なんでしょ?途中でなげだしたらだめじゃない?」
にっこりと微笑みながら言う菫の台詞に、
「だ…誰もなげだしてねぇ!」
思わずむきになって言い返す。
そんな根性がない男だと思われるのははっきりいって嫌だ。
「ですって。さ。薫さんがまってるわよ」
そんな弥彦の答えをきいて、にっこりと微笑み、倒れた引き戸の向うにとたっている薫にと視線をむける。
「……くっ……」
ここでまた逃げ出したら男がすたる。
そう思いながらも、小さくしたうちしながらも、渋々ながら。
そのまま、薫とともに再び稽古場にと戻ってゆく弥彦の姿。
そんな弥彦の姿が遠のいてゆくのを眺めつつ、
「さ。雀ちゃん。菖蒲ちゃん。オニギリの続きつくろ?」
いって何事もなかったかのように、のこりのご飯全て、オニギリにしてゆく菫たちの姿が見受けられてゆく。
チチチ……
小鳥のさえずりが静かな空にと響き渡る。
あむっ。
とりあえず一時の休憩をとっている薫と弥彦。
昼時前の簡単な間食。
一応これが今日の朝ごはんになるのだが。
どうみても形が不揃いのオニギリたち。
その中でも何やらきちんと形になっているものばかり二人は手にとり食べているが。
『……ったく。剣心のやつ』
ものの見事に同じ台詞を同時に吐き出す。
「ひどいよなぁ」
「ほんと」
「人に強くなれっていっといて」
「こぉんな性格の悪い子、私に押し付けるんだから」
あむっ。
「自分がつくったほうほ食べればいいだろう!?」
「だって、剣心達がつくったほうがおいしいんだもん。」
「まったく。あんたって勝気なところが恐ろしいくらいに私に似てるわね。
ほんと、出来の悪い弟をもった気分よ」
「そりゃ、俺だって、お前を強いとおもうけど。だけどあの剣心をみてから……」
組に単身乗り込んできたときの剣心の強さが目にと焼きついている。
微動すら動かずに、あの佐助をあっさりと天井にのめりこました。
「だけど、不思議だな。あんな強いやつがどうしてこんな名もない道場でぶらぶらしてるんだろ」
…ぎくっ。
弥彦のそんな台詞に思わず硬直する薫。
「なあ。薫。剣心ってなにものだ?」
「そ…それは……」
答えられるはずがない。
というか剣心が自分の過去をあまり知られたくない。
というのはよくわかる。
「あの戦い方。たくさんの人を斬ってきた感じだ」
薫が固まっているのにまったく気づかずに、一人何やら考え込みつつ、
「わかった。あいつの正体、ひょっとして昔は……山賊だったんじゃあ!
きっと今も警察に追われてるんじゃあ。格好いいぜっ!」
一人で勝手な想像に浸る弥彦の姿に思わずこけそうになる。
いわれてみれば、たしかに。
どうして流浪人などをしているのかは不明。
明治維新を成し遂げた類をみない最強の志士。
幕末の動乱の後、抜刀斎がなぜ姿を消したのかそれは誰にも知られていない。
噂では、斬ってはならない人を斬ったから。
とか。
または、秘密を知りすぎたから逆に明治政府から命を狙われている。
などといった噂は様々。
当人はまったくそんな気配を微塵もみせないが。
維新志士を成し遂げたほとんどの存在は、今では剣をすて、権力をほしいままにしている。
それが今の現状。
聞きたいけど、だけども。
人には触れられたくない過去がある。
ましてや、剣心にいたっては……
「?薫?お~い」
だまりこんだ薫に戸惑いを感じつつ、手をひらひらと薫の前でさせる弥彦。
「え?あ。ああ。そういえば、今日のお昼は何だろ?ちょっと様子みてくるね」
いって立ち上がり、炊事場のほうにと移動してゆく薫をみつつ、
「変なやつ」
などといって首をかしげながら、ぱくり、とオニギリを口にと運ぶ。
弥彦が縁側にて、剣心たちのつくったオニギリを食べているそんな中。
「あ。いた。弥彦ちゃん」
がくっ……
「…だから。菫ちゃん…ちゃんはやめてくれ……」
「あら?だって剣心お兄ちゃんも【ちゃん】って呼んでるんだから、いいじゃない♪」
脱力しつつも抗議の声を発する弥彦に対し、にこやかに笑みを崩さずに言い放つ。
ふとみれば、何やら小さな袋をもって出かける用意をしている菫の姿が。
その姿にふと首をかしげ、
「?どこかに出かけるのか?」
「ちょっと買い物に。剣心お兄ちゃんは、雀ちゃんたちとお豆腐かいにいったし」
にこやかにいう菫の台詞に、
「ちょっとまて。まさか一人でいくつもりか?」
「うん」
思わずあわてる弥彦の台詞に即答する。
彼女にとっては別にどうってことがないのだが。
だがしかし。
「俺もいく。一人でなんてあぶなくていかせられるかよ」
いって立ち上がり、すでに殻にとなったお皿をひとまずさげておく。
そして。
「で?どこにいくんだ?」
出かける用意をしてそのまま菫に対して問いかける。
そんな弥彦ににこやかに微笑み、
「とりあえず。八百屋さんとあとは呉服屋さんv」
「ならいくか」
一応、源才先生や、薫もいるから問題ないだろう。
そんなことをおもいつつも、菫とともに出かけてゆく。
「そうか。やはり偽者だったか……まあ、わかってはいたが。
彼は確かに多くの人を斬った。だが私利私欲で人を斬ったことは一度もない。
全ては新時代。明治のため。……それで?」
偽者であろう。
というのはわかっていた。
彼はそんな非道なことをする男ではない。
「ええ。それなんですが。実は、捉えたもの達の話からすると。
何でもそちらから以前から言われていた人物の容姿と似通っているような気がいたしまして。
それに。唯一、まともに口が聞ける首謀者の兄の言葉をかりますと、
彼等は本物にやられた…といってまして。まあ真の置けぬ凶族のたわごと。ともとれますが……」
「…なるほど。だがしかし、確かめてみる必要はあるな。
彼は多くの維新志士の命をその剣で救った英雄。
こちらとしても是非に彼を探し出して帝国陸軍の大幹部に加えたい。
その思いは未だに誰一人とて代わりはない」
もし、彼が近くにいたならば。
偽者の出没をほうっておかないはずである。
たしかに、凶族のたわごと。
ともとれるかもしれないが、彼の性格からして一概にそうとは言い切れない。
そこまでいって軽く息をつき、
「して。その道場というのは?」
偽者抜刀斎事件において、被害をこうむった道場。
もし彼ならば、その性格として放っておくことなどはしていないはずである。
彼の優しさはよく理解しているつもりだ。
「はっ。東京下町に位置します。神谷活心流。という小さな道場です。
このたびの偽者の一件において、名前をかたられていた道場なのですが。
昔、その偽者はそこの門下生だったらしくて、逆恨みの犯行ですな」
いいつつもその額に浮んだ汗をぬぐう。
「とにかく。案内していただけますかな?浦村所長?」
「…はっ!」
目の前にいる威厳あふれている男性の台詞に敬礼する。
まさか陸軍卿自らが出向いてくるなど。
それほどまでに彼等があの伝説の抜刀斎を探している。
と確実に物語っている証拠。
そんなことを思いつつも、馬車を用意し。
下町の一角にとある神谷活心流の道場にむけて出かけてゆく二人の姿が。
「剣兄。お豆腐かえてよかったね~」
「これこれ。あぶないでござるよ」
桶を手にして帰路にとつく。
子供の相手はほっとする。
この子たちが未来を築いてゆく、とわかっているからなおさらに。
この子たちが大人になるまでに、本当の意味で誰もが平和に暮らせる世の中を。
それが切なる願い。
以前のように理不尽に力ないものが虐げられ命を落とす。
そのような世の中はもう二度と訪れてほしくはない。
足元にまとわりつく雀に対して苦笑しながらも話しかける。
とりあえず豆腐は購入した。
あとは、崩れないようにもってかえるのみ。
そんなことを思いながら、道を歩いていると。
「のけのけぇ!」
何やら威張りまくった声が聞こえてくる。
ふと道の先をみてみれば、何やら腰に帯刀している警官隊が三人ほど。
道ゆくひとを押しのけつつ歩いていたりする。
そして、ふと彼らが目の前の自分たちにと気づいたらしく、
「ん?おいみろよ。こいついい根性してるぜ。われわれ剣客警官隊の前で帯刀してるなど」
などと、一人が剣心のほうをみていってくる。
そんな一人の台詞に続くように、
「ほおう。いい度胸だ。この東京府内で帯刀するからにはよほどの腕とみた。
抜け。勝てばみのがしてやらんこともない」
いうなり、腰の刀に手をかけていたりする。
そんな彼らの挑発にはまったくのることなく、
「子供たちもいる。遠慮ねがうでござる。そもそもこれは逆刃刀」
いって軽く帯刀している刀の刃を鞘から少し抜き放ちみせておく。
「逆刃刀だぁ?」
「わはは。そんなものではネズミ一匹斬ることなどできぬわっ!この腰抜け!」
ひゅっ。
笑いながら言い放ち、そのまま挑発するかのようにと刀を抜き去り斬りつける。
バシャアン……
それに応じて、剣心が手にもっていた桶が地面に斬られて落ちるが、
「わはははは!」
「まったく。腰抜けが!」
「はむかってもこぬとは!話にならぬわっ」
いいながらもそのままそのまま、すれ違いざまにと立ち去ってゆく警官たちの姿が。
「けんに~」
心配そうによってくる雀に対し、
「大丈夫でござるよ。」
いってにこやかに微笑む。
「悪いひとたちね。悪いことしたら謝らないといけないんだよ!」
いいながらも、地面におちた桶を拾う菖蒲の台詞に、
「そうでござるな」
いつつも、菖蒲がひろってくれた桶の中に、その手にもっている豆腐二丁を収める剣心。
今の一瞬において、桶が刀で振り落とされたそのせつな。
桶から落ちる豆腐をすばやく受け止めたので豆腐はまったく崩れてもいない。
もっとも。
剣心が、豆腐を受け止めたことすら、先ほどの警官たちは気づいてすらいなかったのだが。
「さ。かえるでござる」
剣客警官隊…か。
そんなことをおもいつつ、神谷道場にむけて、菖蒲と雀とともに剣心は戻ってゆく。
「只今でござる」
「あ。おかえりなさい。あ…あの……」
豆腐を手にして、雀と菖蒲と戻ってきた剣心にほっとしつつも、
先ほどまで抱いていた疑問を問いかけようとする。
「?どうかしたでござるか?」
「い…いえ。何でもないの」
そんな薫の態度に首をかしげて問いかける剣心の台詞に、あわてて言い直す。
人の過去をとやかく聞くべきではない。
それはわかってはいるが…気になるのは事実。
「?…そういえば、弥彦と菫ちゃんの姿がみえぬが?」
菫の気配は捉えることは出来ないが、弥彦の気配がこの道場の中にないのはわかる。
それゆえに、何やら嫌な予感を抱きつつもつぶやく剣心の台詞に、
「え?あ。ああ。今何か菫ちゃんが買い物があるとかで、弥彦がつきあって出かけてるわよ」
「……え?」
さらっという薫の台詞に思わず固まってしまう。
……絶対に何かあるでござるな。
一人ででかけずに、わざわざ弥彦をつれてゆくなど……
「ほうってはおけぬでござるな」
それが何よりの本音。
いいながら、豆腐をきちんと台の上にとおき、そのまま再び出かけようとする剣心に対し、
「そんなに菫ちゃんが心配?」
多少笑いながらも問いかける薫。
そえいえば、剣心と菫の関係はいまだに聞きそびれている。
剣心の年齢から子供だとしても不思議はない。
ないが…どうみても親子にはみえない。
くすりと笑いながらも問いかけてくる薫の台詞に、
首を軽く横にふり、
「心配なのは弥彦のほうでござるよ」
「……え?」
いいつつも、そのまま、再び出かけてゆく剣心の言葉に思わず首をかしげる。
まあ、たしかに。
あの弥彦はあぶなっかしいところはあるだろうけど、
だけどどうして、力のない菫より弥彦のほうが心配だ。
というのだろうか。
そんなことを薫がおもっていると、
「薫お姉~」
「おね~」
何やらいいつつもまとわりついてくる菖蒲と雀の姿。
くすっ。
そんな二人の姿をほほえましくみつつ、
「二人は、薫どのとまっていてほしいでござる」
いって再び出かけてゆく。
「ん?」
ドガシャ!
「万引きめ!観念しろっ!」
何やら何かが壊れるおとと、大人の男性の叫ぶような声。
そしてそれに続き、
「ゆ…許してください。つい出来心で……」
か弱い声でかろうじて聞こえてくるかこないかといった声。
「だまれぇ!」
いったい何事かと思いながらも、
人だかりが出来ているほうにと歩いてゆく。
「もう勘弁してあげてください。盗られたといっても手前どもの被害は手ぬぐい一本」
見れば、何やら一人の男に対し警官たちが群がり、
さきほど反物を購入した店の主人が警官に対して申し訳なさそうに話しかけている。
「わざわざ剣客警官隊の皆さんの手を煩わさなくても、ここは我々が……」
そしてまた、そんな警官に別の警官が恐る恐る話しかけ、
「たかが。町の三等巡査。俺たちに物申すのか?」
そんな警官をぎろりとにらむ。
見れば、何やら騒ぎをおこしている警官たちはその腰に剣を帯刀している。
「俺たちが薩摩のものとしってのことか?」
意見してこようとした警官に向かって、自分の手柄ではないであろうに。
いかにも、自分達のほうが偉いとでもいうかのように言い放つ警官その一。
「い…いえ、私は……」
薩摩、長州の二藩はこの明治の世の中にとって、官憲にとってもかなりの権力を誇っている。
それゆえに、下っ端のこんな警官たちにも他の警官たちは文句がいえない。
彼等は彼等で自分達が何をした。
というわけでもないのに、一部のものたちの手柄をうけ、
いかにも自分達もが偉い、と思い込んで横暴を働いているこの現状。
「うせろっ」
いって剣を抜き放ち、手加減なしに目の前にいる警官の顔面を剣の柄で叩きのめす。
どさっ。
「だ…大丈夫か?」
そのまま、倒れた警官をあわてて仲間の警官が支えおこし、
横暴をはたらいている目の前の剣客警官たちをにらみ返す。
「ほおう。何かいいたげだな」
そんな町の警官たちの態度に笑みを浮かべつつ、
「我々剣客警官隊は、選ばれた精鋭部隊。お前等雑魚と違って帯刀を許されている。
即ち、人を斬ることを政府に許されているんだ。」
いってにやりと笑い、
「さあ。はむかえ!斬りすててやるぞ……」
いいながら、剣を片手にぺろりと舐める。
どうみても狂っている。
それは周りにいる人々の目からも、そしてまた警官たちの目からも明らか。
このような横暴がまかり通っているのが許せない。
だがしかし…彼等のほうが身分が上のこともあり。
そしてまた、斬られてはかなわない。
というのもあり逆らえない。
「へ。腰抜けが…たてっ!」
そんなはむかってこない町の警官たちに吐き捨てるように言い放ち、
そして今まで構っていた盗みを働いた男を引っ立てる。
そして、それと同時に、その店の主人すらも引き立てる。
「…ま、まってください!どうして父まで!」
それをうけて、戸惑いながらも抗議の声をあげてとめようとする。
その店の一人娘の台詞に、
「犯罪者をかばい立てした」
むげもなく言い放つ。
「お父さん!」
「ええい!邪魔だ!」
相手は丸腰の女性。
何も武器すらももっていない。
それなのにおもいっきり蹴り飛ばしている警官の姿。
「ど…どなたか助けてください。父は無実です!」
「娘も逮捕しろ」
……ぷち。
「やめろ!」
誰も行動を起こさないのか。
それすらに憤りを感じる。
何やら騒ぎが起こったので来て見れば、何やら思いっきり横暴な警官たちの姿が。
どちらに非があるのかは明白。
それゆえに、背に背負っていた竹刀を構えて止めにはいる。
「お前たち警官だろ!それなのに、なにめちゃくちゃやってんだよっ!」
いうなり、
「てやっ!」
無法なことをしようとしている警官にとつきかかってゆく。
だがしかし、そんな弥彦の行動をみてすかさず腰に挿していた剣をすらりと抜き放ち、
そのまま、剣で弥彦の竹刀を受け止めながらそのまま蹴りを加えて壁にと叩きのめす。
「だ…大丈夫?」
そんな弥彦に先ほどの女性が心配そうに声をかけるが。
「…くそっ……」
言いながらも体制を整えようとするが体に力が入らない。
「見せしめだ。全員処刑する」
その台詞にその場にいる全員が息を詰まらせる。
「剣客たるもの。たまには勘を鈍らせぬように人をきっておかぬとな。」
完全に権力と暴力を履き違えている。
「処刑だって…まさか、何の罪もない人たちばかり……」
「この町の治安のためだ。悪い目は小さいうちに摘み取ることが犯罪の防止につながる」
「悪はお前たちだ!」
「そうだそうだ!」
「やめな。あんた殺されるよ」
民衆から非難の声が立ち上る。
と。
「そうね。悪い目は小さいうちに。それはいえてるわねv
ってことは、あなたたちのような横暴な人は早めに摘み取るのが正解よね♪」
ちょこん。
と何やら場違いな軽やかな子供の声がしたほうを見てみれば。
一瞬目を疑うようなとてもかわいい女の子。
「…何だ?お前は?我々にはむかう。というのか?」
相手は小さな、十歳にも満たない子供。
それゆえに、にやにや笑いながら、その子供のほうにと近寄ってゆく大柄な警官が一人。
「あら?どっちがはむかってるのかしら?」
にこっ。
「きさまっ!」
まったく動じることなくにこやかに言い放たれ。
こんな子供に馬鹿にされてたまるかっ!
そんなことを思いながらも、すらっと剣を引き抜く。
「に…にげ……」
相手は大人。
しかも剣をもっている。
菫ちゃんにかなう相手じゃない。
そんなことを思いながらも、いまだに自由がきかない体で何とか声をだそうとする弥彦。
が。
「そんなヘビもってて大丈夫?」
くすくすくす。
「…我々にはむかったこと後悔させて…な…!?」
しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
確かに自分は剣を持っていた。
そのはずなのに、振り下ろそうとしたその手には。
腕に巻きついているちょっとした大きさの蛇が一匹。
だがしかし、そう見えているのはその当人のみ。
周りの人間達にはいきなり剣を何やらぶんぶんさせて叫んでいる警官の姿としか映らない。
「何をしている。やれっ!」
剣を抜き放っているのに一向にむかっていこうとしない部下の姿に苛立ちを感じる。
くすくすくす。
そんな彼の様子をくすくす笑いながらみつつ、
「んっと。ニシキヘビさんv」
にっこり。
聞きなれない台詞を少女がいったとおもった直後。
ぎゅっ。
何やらものすごい腕に違和感を感じる。
ふとみれば。
「……なっ!?」
なぜか自分の体とほぼ等しい大きな蛇が腕にと絡み付いている。
めきめきと腕が押しつぶされるような感覚。
だがしかし。
周りの民衆たちの反応からしても、それが現実ではない。
と理解はできる。
「…くっ!」
幻覚か!?
この子供…何者だ!?
幻覚とわかっていても、死に至ることがある。
というのは一応知識として知っている。
ましてや、自分が一度幻覚を認識してしまっている現状ではなおさらに。
唇を咬み、痛みで正気に戻ろうとするものの。
だが、めきめきと体を締め付けられてくる感覚はまぎれようもない事実に感じる。
「…き…きさまぁ……」
かろうじて声がでるものの。
体全体が蛇に絡まれてどうにもならない。
おそらく、部下たちも全員同じような幻覚にさいなまれているのであろう。
剣を片手に、何やら苦しそうな声をだしている部下たちの姿が視界にと入る。
「?……いったい?」
いきなり、何やら苦しそうな声をだしてもがきだす警官たちの姿をみて。
しばし呆然としながらも体制を整える弥彦たち。
しばし、弥彦や、店の主人たちがその光景を呆然と眺めてゆく。
弥彦たちが呆然とそんな警官たちの姿を見ていると、
「…お。おい。」
「おい。あんた…やめとけ!」
何が起こっているのか民衆たちにはわからない。
小さな子供に何やら戸惑っているようにしかみえない警官たち。
それでも、いまだに処刑を止めようとしていないのは明らか。
そんな騒ぎの中、民衆を掻き分けてその中心にと入ってゆく一人の人物。
「……ふう。やっぱりでござるか。……何やってるでござるか………」
完全にからかっている。
というのはおのずと明らか。
それゆえに、その光景をみて思わず額に手をあてて菫に対して問いかける。
「……剣心?」
人ごみを掻き分けてやってきたのは、見覚えのある姿。
それゆえに、弥彦が思わずつぶやくが。
「あら?一応お灸すえてたのv」
そんな剣心の言葉に悪びれもなくにこやかに言い放つ菫の姿。
「……まあ、無茶はまだしてないようでござるな。」
どうやらまだ無茶をしでかしていないことにほっとする。
「…何者だ?この子供の知り合いか?名乗れ」
小さな子供にいいように自分達があしらわれている。
というのは明白。
理解不能な変な力をつかっているらしく、幻覚にさいなまれ思うように剣が振るえない。
自分達にはむかう人物だろう。
というのは、どうやら話し方からしても明らか。
それゆえに、どうにか平常心を保ちつつも問いかける。
「流浪人の、緋村剣心。…菫ちゃん、あとは拙者にまかせてくれないでござるか?」
ため息とともに、これ以上騒ぎを大きくしたくない。
というのもあり、とりあえず自分から率先して提案する。
「ま。お兄ちゃんがそういうなら」
「感謝でござる」
あっさりと納得した菫の台詞にほっと一息つき、
そして、くるりと向きをかえ、この警官たちの上官であろう人物のほうにと向き直り、
「……さて、ここにいるものたち、本当に罪を犯したのならば拙者が代わりにつぐなおう」
淡々と何事もなかったかのようにと言い放つ。
「ほおう。つまりお前も不服がある。と。この東京下で帯刀するなど。腕によほど自信があるとみた」
さきほどまで自分の体を痛めつけられていた感覚が綺麗さっぱりと消え去った。
やはり幻覚だったのだ…とわかるものの。
体の節々が未だに痛いような気がするのは…気のせいか。
そんなことを思いつつ、目の前の赤い髪の男性に対して気丈にも言い放つ。
「こいつはただの腰抜けだ!」
先ほどまで自分達の腕から絡まってきていた無数の蛇。
それがこの目の前の赤い髪の男性の登場と、女の子のやり取りの後。
綺麗さっぱりと消え去った。
それが即ち、確実に幻影であった。
というのは考えなくてもわかる。
息を未だに乱せながらも、先刻剣心とすれ違った警官の一人がすかさず言い放つが。
「いや。どうかな………この男、血の匂いがする」
いって、すらっと剣をぬき剣心の切っ先にとぴたりと構える。
普通ならばこれで反応を示すはず。
だがしかし、目の前の男性は一寸たりとて動く気配はない。
それ即ち、かなりの使い手だ。
という証拠。
しかも、この男の視線には恐怖などといったものは存在していない。
感覚でわかる。
この男からは死臭がする。
というのは。
最も、彼は目の前の人物が誰かとはわからずに無謀なことをいっているのだが。
彼が趣味で人を斬る人物と、幕末の動乱の最中、人を無数に斬った人物と。
どちらが修羅場を潜り抜けているのかは…明白。
「ん?何じゃ。おぬしたちは」
何となく道場の周りを散歩していると、門から入ってくる二人の男性。
その姿をみとめ問いかける。
「この道場の代表を呼んで来い」
そんな源才の台詞に、鷹揚に言い放つその男性たち。
「人にものを頼むときにはまず名乗るもんだ」
至極最もな意見を言いながらもひるむことなく問いかける。
「き…きさまっ!」
そんな源才の台詞に、腰にさしている棒に手をかけようとする警官姿の男たち。
何やら話し声がして奥から出てきた薫がそれを見て、
「わ、私です。神谷活心流師範代、神谷薫。何事なの?無礼じゃないの」
あわてて、源才の横にいき問いかける。
「我々は警察だ」
そんな薫に対して鷹揚に言い放つ警官たちに対し、
「そんなのその格好をみれば赤ん坊だってわかるわよ」
あきれたようにと言い放つ。
「お前たち!態度をつつしめ!」
そんな先にと道場の中にはいった部下たちの様子を眺めつつ、
たしなめるように叱咤し、馬車からおりて道場の中にと入ってゆく別の男性。
「「所長!」」
門から入ってきたもう一人の男性の台詞に、初めにいた二人の警官が敬礼する。
「失礼しました。ここに緋村剣心。…抜刀斎殿がおられますかな?」
初めの二人の警官とは打って変わり、丁寧に問いかける何やら、身なりのいい警官らしき人物。
びくっ。
「……え?」
その台詞に、思わず体が硬直する薫。
「偽抜刀斎事件で捉えた複数の者の証言と。
主犯格の兄の説明によれば、この道場に本物がいる。とのこと。どうなのですかな?」
先ほどまで抱いていた嫌な予感が頭をよぎる。
「剣心が…剣心が何をしたっていうんですか!?」
狼狽した表情で、だがしかし、それでいて毅然と問いかける薫の台詞に、
「それは、表でお待ちのお方のみが知りえる政府の機密だ。話すことはできぬ。
で、おられるのかおられないのか?どっちなのですかな?」
「そ…それは……」
「隠せば!国家には向かう犯罪となるぞ!」
言葉に詰まる薫に対し、背後に控えてる警官たちがそんなことをいっていたりするが。
「お前たち!」
「…はっ。し…失礼しました!」
そんな警官の台詞に、たしなめるように背後を振り向きつつも叱咤する。
ふむ……
そんな彼等の様子をみつつ、
「緋村殿なら、今は留守じゃよ」
「源才先生っ!」
剣心が心配なあまり、相手の態度などには気づくことなく、叫びにも近い声をだす薫。
普通に冷静に考えれば、態度からして悪い意味で彼等が剣心を尋ねてきたのではない。
と判るであろうが。
「ふむ。では待たせてもらってもいいですかな?」
そう言う【所長】、と呼ばれた警官の台詞に戸惑いを隠せない。
「剣心が…剣心が何をしたっていうの!?今の剣心はただの流浪人よ!それなのにっ!」
「薫ちゃん。おちついて」
「だけどっ!」
薫の狼狽振りから、薫が彼の過去を知っていた。
というのは判る。
なるほど。
それであの強さか。
只者ではないとおもってはおったが……
緋村抜刀斎。
その名前は、はっきりいって知られすぎている。
その無類の強さと、非情な人斬り…として。
だがそれは、幕末。
そしてまた、明治初期までのこと。
維新を成し遂げている最中の出来事。
まあ、過去はどうあれ、今自分が知っているのは今の剣心。
それが判っているからこそ、薫をたしなめる。
そんな会話をしている最中。
「い…いました!みつけました!赤い髪。頬に十字の傷。
緋村殿らしき人物が今、剣客警官隊を相手に……」
「…っ!」
「あ。まてっ!」
「ちょっと痛いわよ!」
「まて、こらっ!」
「剣心は…あんたたちなんかにわたさないっ!」
その場にいる警官三人を突き飛ばし、そのまま表にと駆け出してゆく薫の姿。
「ま…まてっ!」
そんな薫を止めようとするものの、だがしかし。
彼等の腕では薫にはかなわない。
そんな様子をみつつ、
「…どうやら。薫ちゃんは勘違いしているようじゃのお。
それはそうと。あんたたちは緋村殿に何のようなのかの?」
相手に敵意がない。
というのはおのずと明らか。
それゆえに、残された警官たちににこやかに問いかけている源才の姿が見受けられてゆく。
「さあ。抜刀しろ」
未だに切っ先を突きつけられても微動だにしない男に対して言い放つ。
だが、まったく身動き一つせずに、
「断る」
淡々と断る剣心。
彼としては少しくらい抵抗してもらわなければ楽しくない。
久しぶりに手ごたえがありそうな人物が斬れる。
それがうれしくてたまらないのに。
「…ふ。一人づつ処刑しろ。…その子も含めてな」
それゆえに、相手を挑発する意味をこめて部下たちにと命令する。
「はっ!」
隊長の台詞をきき、残りの部下たちが一斉にと返答し。
「さっきはよくもわけのわからん技をかけてくれたなっ!」
いまだにリアルに恐怖がよみがえってくる。
腕をはいのぼってきてからだを絡めとろうとしていた無数の蛇の感触。
いって真っ先に菫にむかってゆこうとする帯刀している警官たち。
『横暴だ!』
『官憲だからってやっていいことと悪いことがあるはずだっ!』
『無抵抗なものに刃をぬけるなんてっ!』
人々の目からすれば、勝手に警官たちがそれぞれもんどりうっていただけ。
あの女の子は別に何もしていない。
というのは全員見て判っている。
もっとも、精神面的に何をしていたか…というのは誰も気づいていないが。
「我々剣客警官隊に罵声を浴びせるとはいい度胸だ。
官吏抗拒罪適応。一人のこらずしょっ引け。抜剣許可!」
「抵抗するものはかまわん。斬れ。」
『うわぁぁ!』
『きゃぁぁ!!』
警官たちが剣を抜き放ち、人々にむかって向かっていこうとしたその刹那。
すらっと閃光がきらめく。
「罪もない人に、切っ先一寸たりとも触れるな。相手なら拙者がいたす。
地べたを舐めたいものはかかってくるがいい」
みれば、赤い髪の男性が剣を抜き放ち構えていたりする。
「これで正当防衛成立」
いって久しぶりに人が斬れる。
そんなことを思いつつも、抜き放っている刃を舐める。
そしてまた、相手が手にしている獲物をみて思わずほくそえむ。
あんな刃が逆についている刀など、はっきりいって意味がない。
「…斬れ」
部下たちに指示をだし、一斉に向かっていかせるが。
ひゅ。
軽く向かってくる男たちにむかって歩みを進める。
剣心にとっては多少早歩きをした程度の速さ。
だがしかし、この程度のものたちを相手にするにはそれで十分。
カンキンッ!
キッ…ンッ!
剣先の動きはまったくみえず、ただ閃光が残像として見えるのみ。
「……いぃ……」
まさかここまで強いとは。
剣心の息はまったく乱れてすらもいない。
たかが一振り。
おそらく一振りのはずである。
なのに。
どさささ。
剣心に向かっていった剣客警官たちの面々はそのまま地面にと倒れ伏す。
そんな比類なき強さを目の当たりにして思わず小さく息をのむ弥彦。
見た目と実力は伴わない。
というのはこういうのをいうのかもしれない。
彼が強い。
というのは三日前の一件で知ってはいたが、まさかここまで強いとは……
「残るは一人」
「……くっ」
「もう二度と、町の人たちに横暴を働かない。と誓うでござるよ。
さすればそれでお終い。あとは廃刀令違反でも、傷害罪でも。
好きなように拙者を逮捕すればいいでござるよ」
「ふ…ふざけるなっ!そんなみっともないまねができるかっ!」
それ即ち。
自分が彼より力がないのを認め、権力にたよって解決した。
と民間人たちにも自分の力なさを認めるようなもの。
剣心を探して騒ぎが起こっているこの場にようやくたどり着いた薫はといえば、
その場に倒れている警官の姿と。
そして、剣心に向かっていこうとしている警官の姿をみて、
「…あの構えは!」
警官の構えをみて思わず驚愕する。
「あれは…薩摩の最強剣、二ノ太刀いらずの示現流!」
一応、父から様々な流派は習っている。
それゆえに、父亡きあと、師範代が勤まっているのだから。
「よさんか!宇治木!そのおひとは……っ!」
赤い髪に右の頬に十字傷のある男性。
それはまさに、伝説のその人以外の何者でもない。
それゆえに、一撃を加えようとしている剣客警官の体調をいさめようと声をだすが、
そんな上司の声はその警官の耳には届いていない。
そんな光景をみながら、やっと探し当てた。
という安堵感とともに、
「…馬鹿な男だ。確かに示現流は、類なき豪剣。だが……」
思わずあきれた声をだすもう一人の男性。
「チェストォォ!!」
ドウッ!
掛け声とともに、剣を振り下ろす。
が。
トッン。
「飛天御剣流の前ではまったくの無意味だ」
身なりのいい男性の言葉を指し示すかのごとく、
いとも鮮やかに、まるで舞うようにその一撃を交わし、一瞬のうちに背後に回りこみ、
ゴッ!!!!!!!!
そのまま壁伝いに背後に回りこんだその反動を利用し、
地面に着地するより早くに目の前の警官にと一撃を叩き込む。
チッン。
そして、そのまま何事もなかったかのように剣を鞘に収めるが。
『わっ!!!!!!!!!!』
「すげえぞ!あんちゃん!一人も殺さずに全員やっつけちまった!」
「ねえ、どこの剣客さん!?」
「兄ちゃん、一杯のもうぜっ!」
あっという間に集まっていた民衆たちから歓声が沸きあがり、
そのまま剣心を取り囲んでゆく。
「…おろ?」
いきなり取り囲まれて目を丸くしている剣心は何のその。
はっと我にと戻り、
「剣心!早くにげて!」
「…おろ?あ、薫殿」
なにやらあわてているような薫の姿をみて思わずきょとんとする。
「あ。そうだよ!早く逃げないと!」
いくら何でも、相手に非がある。
とはいえ、官憲を叩きのめしたのは間違いのない事実。
それに気づいて弥彦もまた声をあげ、人ごみから剣心をつれて抜け出そうとする。
が。
ざ。
ふとみれば、人垣の周囲に警官の姿が。
「…ち。おそかったか!」
弥彦が思わず身構え、そしてまた、薫もまた身構えるが。
「緋村抜刀斎殿ですね。お探ししておりました!どうやら剣客警官隊がご迷惑をおかけしましたようで!」
いって、びしっと敬礼する一人の男性。
「「……え?」」
その台詞に、薫と弥彦が一瞬戸惑う。
……抜刀…斎?
弥彦には、一瞬、その意味がわからない。
今、この警官は、この剣心のことを抜刀斎といわなかったか?
緋村抜刀斎といえば……明治維新を成し遂げた伝説といわれている人斬り抜刀斎を指している。
ふう。
そんな彼の台詞にため息一つつき、
「……どうやら。先日の一件でわざわざ出向いてきたようでござるな。……お久しぶりですね」
いいながらも、その背後にいる人物にむかって苦笑しながら話しかける。
「さすがだな。緋村。…久しぶりだな」
言いながらも、一歩前にとでてくるのは、何やら身なりのいい男性。
そんな出てきた男性の姿をみて微笑みつつ、
「ヒゲをはやしたんですね。……山県さん」
いってにこやかに話しかける剣心の姿。
そんな剣心の言葉に苦笑しながらも、
「とりあえず。民衆の様子をみても、どちらに非があったかはあきらか。あのものたちの非道、厳重に罰せよ」
いってその場にいる警官たちにと指示をだすその男性。
そして、剣心のほうにと向き直り、
「緋村。やっと会えたな。十年間ずっと探し続けていた。」
優しい眼差しで話しかける。
「……山県?」
剣心と、身なりのいい男性を見比べつつも小さくつぶやき、
そして。
「まさか…山県…って…山県…山県有朋!!?」
驚愕した声をだす薫。
「?何?ようするにあれか?どえらいおっさんなんか?」
どうやら剣心とは知り合いのようだけど。
そんなことを思いながらも、首をかしげて驚愕の声をだしている薫にと問いかける弥彦に対し、
「あ…あんた知らないの!?明治政府陸軍卿、山県有朋!
元、維新最強軍隊、奇兵隊軍監!日本の頂点にたつ政治家よ!」
横にいる弥彦のくびねっこをつかんで言い放つ薫。
「ふ~ん……」
そういわれてもいまいちぴんとこない。
というか、どうしてそんな大物が剣心と……
先ほど警官がいった言葉も気にかかる。
弥彦がそんなことを思っていると、
「向こうに馬車を待たせてある。ぜひとも話したいことがあるんだ。」
いって向きを変えようとする山県、と呼ばれた人物の台詞に、
「ここではいけませんか?」
のんびりとそんな彼に対して言い放つ。
そんな剣心の言葉をうけ、
「ふっ。お前らしいな。緋村。お前がいなければ維新はなりたたなかったろう。
この国をつくった一人として、お前を帝国陸軍の幹部に迎えたい」
ひたりと剣心を見つめつつもきっぱりと言い放つ。
「…え?」
「……え?」
そんな彼の台詞に戸惑いの表情と声を発する薫と弥彦。
そんな二人に構うことなく、
「維新の仲間がお前の帰参を待ち望んでいるんだ。是非とも明治政府に力をかしてくれ!緋村!」
力強くもさらに言い放つ。
そんな彼の台詞をきき、しばしうつむき、
「……あいにくですが、人斬りの手柄で政府の要職につく気は毛頭ないんですよ」
きっぱりと、顔を上げながらも返事を返す。
その言葉に思わず目を見開く山県。
そして。
「……やはり。お前が姿をけしたのは、二度と人を斬りたくない。という決意の現れだったか」
ため息一つとともに、つぶやきともとれる言葉を発し、
「人を殺した。といっても維新の大業の立派な一部。それを認めようとしないような輩はこの私が……」
続けざまにどうにか説得しようと言葉を続けようとする。
が。
「権力でねじふせる」
言葉を最後まで言い切ることなく、剣心にと指摘される。
その言葉にはっと目を見開く。
「そういう考え方が、ああいう思いあがった連中をのさばらせてしまうんですよ」
そんな彼をたしなめるように、にこやかに言い放ち、
そして。
「我々はかつて、剣をとって戦った。
権力や栄光のためではなく。人が幸せに暮らせる世の中を創造るために。
それを忘れてしまったら……我々はただのなりあがり者ですよ」
視線をそらさぬままに、かつての同士に対して語りかける。
確かに、彼のいいたいことはわかる。
だがしかし。
「……だが、緋村。時代は変わった。廃刀令が敷かれ、侍は滅んだ。
今は明治。権力なくしてこの明治の世に剣一本ではもはや何もできないのだぞ?」
ため息を軽くつき、それでも曲げようのない事実を突きつける。
「そうでもござらぬよ。剣一本でもこの目に留まる人たちなら、何とか守れるでござるよ。
それに…まだ維新は完全に成り立ってはいない。そうでござろう?」
維新の目的は、人々が差別なく平和に暮らせる世の中だったはず。
今の世の中はまだその意味では維新はいまだ達成されていない。
強い光を帯びたそんな剣心の台詞に、さらに目を丸くする。
「だからか。お前が姿を消したのは……目に届いていない人々を助けるため……」
その台詞には答えずににこやかに微笑む。
と。
「…ん?ちょっとまて!ってことは何か?!剣心って…元、維新志士!?
つまりは幕末の志士!?…おまえ、いったいいくつだ!?」
ふと、あることに気づいて弥彦が驚愕した声をだす。
剣心の見た目の年齢はどうみても二十歳には届いていないようである。
「拙者でござるか?今二十八でござるよ?」
『二十八ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!?』
そんな剣心の台詞に、周りにいた野次馬たちからも驚愕の声がもれる。
驚く場所がかなり違うような気もしなくもないが。
「っておまえどうみても十代後半だろうがっ!」
「…そうでござるか?」
「……そういえば。お前、まったくかわってないな。あの当時から……」
そんな弥彦の台詞に、そんなことをぽつりとつぶやく山県であるが。
「若作りの秘訣は何なんだ!?」
「ええ!?絶対にみえない!詐欺よっ!」
何やらそんな声が周りから聞こえていたりする。
まあ、気持ちは…判らなくもないであろう……
「山県さんたちは、山県さんたちのやるべき事があるでしょう。
拙者は拙者の考えで人々を守るために行動するでござるよ。
それが…拙者が殺めた幾多の人々の供養になる。そう拙者は思っているでござるよ」
そんなざわめきの中、山県に対して自分の考えを披露する。
殺めてしまった命は戻らない。
その剣をもって、それ以上の人々を助けるために生きてつぐなう。
それが彼なりの考えであり真実であり理。
そういいながらも、そのまま、その脇をすり抜けて立ち去ろうとする剣心を眺めつつ、
「……緋村……」
さらに名残惜しそうに声をかける。
そんな山県にむかい、優しく微笑み、
「しばらく拙者は薫殿の道場にやっかいになってるでござるよ。
そういう勧誘とかでなく、昔話とかならつきあうでござるよ」
いってそのままその場を立ち去る。
そして。
ふと。
「…そういえば、菫ちゃんの姿がみえないようでござるが……」
立ち去りつつも、剣心に続いて戸惑いつつその場を立ち去ろうとしている弥彦にと問いかける。
たしか、弥彦は菫とともに行動していたはずだ。
あの剣客警官たちに先にちょっかいをかけていたのはほかならぬ彼女なのだから。
「…あの人ごみの中にうもれてるんじゃないのか?」
心配そうな声をだして、そちらに戻ろうとする弥彦であるが。
「…ま、菫ちゃんなら問題ないでござろう」
それですまして、そのまますたすたと道場にむかって歩いてゆく。
言葉にはしないものの。
おそらくは……
あの剣客警官たちに対して何かしらの対応をするためにわざと姿を消しているのだろう。
というのは、長年の付き合いもあって理解している。
それゆえに、あまり考えては危険。
というのも判っているがゆえに、的確な判断を下している剣心なのであるが。
ゆっくりと、その場を立ち去ってゆく三人の姿を眺めつつ、
「…ふぅ」
さらにため息をつく。
未だにざわざわと、この場にいる野次馬であつまっていた人々はざわめいているが。
抜刀斎。
という名前でざわついているのではなく、その外見と年齢の落差についてざわめいている。
ある意味、そのことがあって、先ほど警官たちや、
目の前にいる山県卿がいった台詞があまり深く考えられていないのは不幸中の幸いであろう。
維新志士、緋村抜刀斎の名前は、無敵の類なき強さゆえに伝説となっている。
それゆえに、その事実に気づいたときにはその騒ぎは非でもないはず。
それが騒ぎにならないのは…外見から、どうみてもそんな人物像に結びつかない。
という現実もある。
「……所長」
彼を説得するのは今はまだ無理。
それもあり、ため息とともにその場にいる警察署長にと声をかける。
「わかっています。どちらに非があったのかは民衆の反応をみても一目瞭然。
刀も仕込み杖より安全すぎる代物。不問にいたします」
そういいながらも、剣心たちが立ち去ったほうをみやり、
「しかし…偽者の一件もあって、私は人斬り抜刀斎を凶悪な危険人物。とばかり思っていましたが……
やはり、本物は違いますなぁ」
さすがに、維新を成し遂げた最強の志士。
と呼ばれることはあり、非道なことは許さない。
その気質も、そしてまた、その気高さも。
偽者などとは到底比べようがない。
「……弥彦。おどろいたでござるか?」
おそらく、先ほどの騒ぎで自分が【誰】なのか知られたであろう。
それゆえに、確認をこめて歩きながらも問いかける。
「驚いたもなにも。お前どうみても十代後半だろうがっ!」
「…おろ?…いや、そういう意味で驚いたのでござるか?」
即座に言い返してくる弥彦の台詞に目を丸くする。
「他に驚くことがあるか?」
「…いや、あるか…って……」
気づいているのかいないのか。
だがしかし、その瞳には自分に対する恐怖心はまったくない。
ふっ。
くしゃ。
「何すんだよっ!」
そんな弥彦の頭をくしゃりとなでる。
「いや。弥彦はいい子でござるな」
「あのなっ!どういう意味だよっ!」
すかさず言い返してくる弥彦の台詞にさらに苦笑してしまう。
「いい子だからいい子だといったでござる。それに菫ちゃんを止めてくれてたみたいでござるしな」
もし彼女が少しばかり別の遊び方をしていたら、まずとんでもないことになっていた。
というのは十二分に判っている。
「?そういえば。あの警官たち、いったい何だったんだ?何か勝手にもがいてたけど……」
首をかしげる弥彦の問いかけに、
「おおかた。菫ちゃんに精神的な攻撃か何かうけたでござろう。
……その程度ですんでよかったでござるがな」
ため息とともに説明する。
「……いや、ちょっとまて。精神的な攻撃…って……」
「?剣心?」
「ま。菫ちゃんにとってはどうってことないことでござるよ」
戸惑いの台詞をいう弥彦と薫に対し、軽く微笑んでごまかす剣心。
詳しく話しても…まず、信じてもらえないのは…明白……
剣心たちがその場を立ち去り、残された人々はといえば。
未だに先ほどの剣心の年齢でざわめいていたりする。
それと一人で剣客警官達を相手に殺さずに倒した剣客の話でその場は持ちきり。
そういった嬉しい話はすぐさまに広まるのは世の中の常。
「ひとまずは……一度この場を立ち去りませんか?」
いつ何どき、興味が自分達にむかってくるかはわからない。
それゆえに、
「そうだな。…しかし、あいつはかわらないな」
いいつつも苦笑する。
「閣下。ひとまず馬車へ」
未だにざわめく民衆をその場にのこし、少し離れた位置にととどめておいた馬車のほうにと移動する。
カチャ……
馬車の扉をあけその中に入ろうとするものの。
「…ん?何だ?……きみきみ、何勝手にはいりこんでるのかね?」
そこにいるはずのない小さな子供の姿をみとめ思わずたしなめた声をだす。
そんな彼に対して、にっこりと微笑み、
「勝手でもないけど。山県さんにお話があって♪」
にこにこと、吸い込まれそうな笑顔でいってくるその少女。
………ん?
どこかで聞いたことがあるような気がするのは…気のせいか?
山県がそんなことを思いながらも、馬車の中を覗きこむと……
「あ。ひさしぶり~。山県さん♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・ええ!?」
そこに、かつてよく見慣れていた少女の姿を目にし。
滅多に狼狽しない彼ですら思いっきり驚愕した声をあげて思わず叫ぶ。
「?閣下?」
「まさか…まさか!?」
「そのまさか♪ひさしぶり~。約十年ぶりですね♪」
思いっきり楽しんでいるその口調に。
「…閣下?お知り合いですか?」
十年ぶり…といまこの子はいったが。
どうみても十歳より年下にみえるのだが……
そんなことを思いながらも問いかける、警察署長のその台詞に、
「まさか…まさか、菫ちゃん!?どうして当時のままの姿で!?」
面白いまでに驚愕した声をだしている山県有朋の姿。
さもあらん。
普通驚くであろう。
幕末、そして明治初期。
緋村剣心とともに行動していた小さな少女が。
……当時のままの姿で目の前に存在しているとくれば……
くすくすくす。
そんな彼の驚愕は何のその。
「以前いったとおもうけど。ま。それより。まだ剣心お兄ちゃんとお話あるんじゃない?」
くすっ。
そんな彼の狼狽振りを楽しみながらも、悪戯っぽく話しかける。
「…閣下?あの?」
一人、未だに理解できず戸惑いの声をあげる警察署長の姿がしばらくの間見受けられてゆく……
戸惑いを隠しきれない彼をつれ、
先にと道場に菫が戻ってゆくのは…まだ剣心たちの知らない事実……
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あとがきもどき:
薫:ちなみに。菫ちゃんがおこなったのは。剣が蛇。しかも主に毒蛇。
有名なマムシや、ちょっとした大蛇で有名なニシキヘビなどに見えるようにしてたりします(笑
普通、驚きますよねー。いきなり腕に絡み付いてる蛇…
それも一匹や二匹ではない(笑
失神寸前になったり、気が狂っても不思議ではない(笑
ちなみに。弥彦は綺麗さっぱり。
剣心が抜刀斎。とよばれたことを失念してます。
それほどまでに剣心の年齢に驚愕してます(笑
さってと。次回ですこしこのあとの出来事を回想みたいにして触れて。
ようやく佐ノ助登場ですv
んではではv
2007年1月11日(木)某日
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