まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
連続打ち込み~。
さって、何話までやったら頭の中がすっきりするかな?
とりあえず、平行してタルトシリーズ編集中v
何はともあれ、いっきますv
原作とアニメ。それぞれに混じっていますので、あしからずv
あと順番なども意図的にかえてありますv
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「へっ。俺たちに逆らうからだよ」
いつものように、切刻み、川にと流す。
簀巻きにして流せばほとんど捕まることもない。
明治の世の中になっても、自分達のような裏に生きる人間は必要だ。
それゆえに……
「人斬りはやめられねぇな」
以前ほど人を斬るのが簡単にはなってはいないが。
裏の世界ではそれは未だに通用している。
だからこそ。
この世界から足を洗う気などは…さらさら…ない。
剣客放浪記 ~誇り高きは志?~
ふわふわふわ。
パチン♪
「おろ?」
「ふふふ。大成功」
「大成功~」
ふわふわと、目の前を動いてゆくシャボンダマ。
目の前ではじけたそれをみて目を点にしている剣心の姿。
そんな剣心にむかい、にこやかな声をかけているのは、
ここ、神谷道場の主治医でもある源才医師の孫娘二人。
「あ。なら次~」
「…菫ちゃぁん、変なことを教えないでござるよ?」
葉の茎をつかった簡単な遊び。
中が空洞になっているそれをつかい、石鹸水を浸して息を吹き込む。
それは、木や他のものでも中が空洞になっている管ならば何でも代用は可能。
「あら?別に変でもないけど?えっとね~次はこんなのね」
いいつつも、シャボンダマの中に、さらに幾つかの球体を作り出す。
久しぶりに子供相手に、子供らしい遊びができるのがうれしいのか、
はたまた、それを逆に楽しんでいるのかはわからないが。
まったくもって違和感がない、というのがあるいみすごい。
そんなことを心で思うが、それは口には出さない。
「これがダメなら他のおしえるけど?いろいろあるし♪」
「だ~か~ら~…ま、言っても無駄であろうが…命に関わることだけは教えないでいてくだされよ?」
彼女が考える遊びなどは、はっきりいって命すらも危険。
というのが多々とある。
というのは剣心は十二分に承知している。
そんなことをいいつつも、ごしごしと手元の粗い桶の中の洗濯物をこすり汚れを落とす。
そして。
パッンッ。
洗い終わった布を伸ばし、
「真っ白」
『真っ白~』
剣心の言葉につづいて、二人が嬉しそうにと声をだす。
雀に菖蒲。
それが源才医師の孫娘たちの名前。
一人はまだ、四・五歳程度。
もうひとりは、七、八歳程度であろうか。
そしてまた、もうひとり。
十歳くらいにぎりぎり満たないような女の子。
見た目でいうならば、近寄った年端の女の子達。
最も、その中で一人ほど見た目と実際年齢がまったく異なっている人物がいる。
というのは、それは剣心のみがしっている事実。
…普通、誰が信じるであろう。
……自分ですら、長い付き合いだからこそ信じざるを得ないのだから……
「どういう意味かしらねぇ。まあ、後でそのあたりはじっくりと問いただすとして……」
「……げっ」
にっこりと笑っていう菫の台詞に思わず冷や汗が流れ落ちる。
こういう表情をするときの菫の台詞は、絶対に。
後から命に関わるほどの特訓がまっている。
というのは十分に承知しているがゆえ。
そんなやり取りを縁側の先に眺めつつ、
「ふ~。何てのどか」
いいながらお茶をすすっている薫の姿。
チチチ……
空はすこやかに晴れ渡り、青空がひろがっている。
だだっひろい道場の広間。
がらんとしてのどかというか静か過ぎる。
「…ふ~。のどか……」
何か最近、こんなにゆっくりしたことがなかったような気がする。
この二ヶ月あまり。
あの辻斬りの一件でどたばたしていた。
今はあの一件もまるくおさまり。
この道場には二人、居候が増えている。
「これこれ。邪魔をするでないでござるよ」
ついつい、自分の服を絞るような感覚で洗濯物を絞ったりすればまちがいなくちぎれてしまう。
力の加減具合もまた一つの修行の一貫。
自分の服は、修行の一貫として、師匠と同じく重りがはいっている。
それゆえに、普通の服とは重みがまったく異なる。
もっとも。
そのことは、いまだにこの道場の主である薫は気づいてないようであるが。
パンッ!
手加減しつつ、先ほど洗濯したものをひきのばし、物干し竿にと吊るしてゆく。
そんな剣心の周りを菖蒲と燕が走り回り遊んでいたりするのだが。
いつもならば、技などを利用して洗濯などをするのだが。
きちんと洗濯板や荒い桶がある状況でそんなことをする必要はない。
ちょこまかと走りまわる二人の子供を優しく見守りつつ、
汚れの落ちた洗濯物を干してゆく。
「のどか……」
庭先で、剣心たちが洗濯をしているそんな中。
「のどか…過ぎるわよぉぉ!」
薫の叫びが静かな空気の中響き渡る。
「おろ?」
そんな薫の声は庭先まできこえ、思わず手を止めて目を丸くする。
「どうして偽抜刀斎事件も片付いたのに!誰一人として門下生がもどってこないのよっ!
普通、十人、二十人とおしかけてくるものよ!弟子も一人もはいってこないしっ!
こんなに…こんなに綺麗でかわいい師範代が手取り足取りおしえあげようっていうのにっ!」
一人、何やらわめいている薫であるが。
「まあ。この明治の世の中。一度離れたらなかなか戻ってこないでしょうね」
くすくす。
いつのまに部屋の中に入ってきていたのか、そんな薫をみてくすくすと笑っている菫をみつつ。
「それとこれとは話は別よ!それに!剣心もまったく剣の稽古手伝ってくれないしっ!」
などと愚痴をこぼしていたりする。
いったい何事かと思いつつも、二人をひきつれて部屋の中に入る剣心にふと気づき、
「剣心。神谷道場はいったいいつになったら再建の道を歩み始めるの!?」
などと問いかけている薫。
「薫殿。そうあせらずとも……」
「それに、剣心だって、どうして一度も稽古の相手をしてくれないのよ」
「い、いや、拙者。竹刀はどうも苦手で……」
というか、その技に竹刀がついてゆかずに壊れるのであるが。
「何やら、私が相手しましょうか?薫さん?」
くすくすと笑いながらも、そんな薫ににこやかに話しかける菫の台詞に、
「ほんと!?」
きらきらと目を輝かせる薫。
「…げっ!?い、いやそれは……菫ちゃん。やめといたほうが……」
そんな菫の言葉におもいっきりあせりながらも、戸惑いの声を発する剣心に、
「こんな小さな子が、こうまでいってくれるっていうのに。でもありがとね。怪我させるわけにはいかないし」
……怪我をさせられるのは薫殿のほう……
いや、怪我だけですむならいいほうでござろうが……
などと思っている、剣心の心は知るはずもなく、くしゃりと菫の頭をなでる薫。
薫は、菫の実力を未だに知らないがゆえ、力のない子供。
と思い込んでいるのもまた事実。
「薫お姉。おなかすいた」
そんな会話をさえぎるように、燕が空腹を訴え、
「すずめたんも」
姉につづいて妹のほうの雀もまた同じように剣心の顔をみつつ訴えてくる。
そんな中。
「わ~しも。っと」
玄関先から明るい声が聞こえてくる。
「あ。源才先生。いらっしゃい」
声のほうをみてみれば、この道場のかかりつけの医者である源才医師の姿が。
「よ。今日は何かの?」
そんな薫の声に明るくこたえ、にこやかにと娘同様に思っている薫にと問いかける。
「ん~と。そうだわ。こういうときは。ぱ~と明るく」
「明るく?」
どうやら話題がそれたことにほっとした声をだしながら首をかしげる剣心の台詞に、
にっこりと。
「ご飯おごって~v」
にこやかに微笑んで言い切る薫の姿が。
「……へ?」
おそらくそんなことをいってくるのではないか。
とおもっていたがゆえに、覚悟はしていたが。
そのまま、おもっていたとおりの言葉を発せられ思わず目を丸くする。
だがしかし、さきほどの菫ちゃんが稽古の相手をする。
という話がぶりかえってくるのを恐れ、
「……ま、まあ仕方ないでござる…な」
いいつつも、こまったように頬をかきながら同意する。
別にお金はないわけではない。
薫は、彼がお金をあまりもっていないようにおもっていたりしたのだが。
実は、使うことがないがゆえに、かなりけっこうもっていたりする。
「やったぁ!」
『わ~い。剣兄のおごり~!!』
ダメもとでいってみたのだが、まさかこうあっさりと許可してくれるとは。
そんなことをおもいつつ、声をあげる薫と同時に、
二人仲良くはしゃいでいる雀と菖蒲の姿がそのばに見受けられていたりする。
そんな彼等の姿をみつつも、
くすくすと、未だにわらっている菫の姿が。
うららかな、青空の広がる日差しの中。
てくてくと歩いてゆく大人三人と子供二人。
「何と幸運な。孫を迎えにいっただけだというのに。」
菫は誰もいなくなったら何かあったときに困るだろうから。
といって、道場にと残っている。
道場にやっかいになるのだから。
といって、道場の庭の一角に畑を作っているのは剣心も薫も知っている。
問題は……その苗などをどうやってもってきたか。
というのは、薫からすればどこかで買ってきたのだろう。
という楽観的な考えだったりするのだが。
事実は違うというのは剣心は身に染みてわかっているがゆえに説明できない。
彼女に関しては、『常識』というのは当てはまらない。
というのはおさないころから身にしみてわかっているがゆえに……
「剣心がどうしてもおごりたいって」
「…うろ?」
拙者は一言もそんなことをいってないでござるが……
にこやかに、源才にと話しかける薫の言葉に、思わず目を丸くする。
「おお。そうかそうか。なら牛鍋か」
「わ~い。牛鍋」
「ぎゅうなべ~」
「……い、いつ牛鍋ということになったのでござるか?」
にこやかにいう源才に続き、間髪をいれる菖蒲と雀の台詞に思わずつぶやく。
だがしかし、どうやらこちらの話は聞く耳もたず。
といった感じでずんずんと進んでゆく薫達四人。
と。
ふと、よからぬ気配を感じ、思わずそちらの方を凝視する剣心。
独特の気というか、よくない気配。
ふとみれば、何やら子供が一人、うつむいてとあるほうにとすすんでいる。
その感覚と雰囲気からして、あきらかに掏りを働こうとしているのは明らか。
思わず表情が険しくなってしまう。
少年が狙っているのは力ない年寄りと孫らしき二人。
もし、このまま彼が擦りを働くようならどうにかしないといけないだろうが。
「あれ。あれ~」
「ん?どれじゃ?」
「あれ~」
店先の奥にとある品物をみて、祖父にとねだっている小さな子供。
「そうか。ほしいのか」
「え?かってくれるの?わ~い!」
シュ。
横にて無邪気に喜ぶ孫の顔をみて笑っている老人の懐から、
うつむいたままで小さなサイフを抜きとるその少年。
そして、そのまま自分の横をすり抜けて通り過ぎようとするものの、
「わ~い!」
無邪気に、サイフがなくなっている。
とは知らずに喜ぶ小さな子供と、そんな孫の姿をほほえましくみている老人をみて、
きゅっと手の中のサイフを握り締め、
そのまま、再びくるりとキビスをかえしてそちらにとむかっていき、
すと。
はしゃぐ子供の手の中に、今掏り取ったばかりの財布を握らせるその少年。
気配からして、好き好んで掏りを働いているのではない。
それはわかってはいたが。
だがしかし、自分からきちにとサイフを戻したのに好感を感じる。
「…おや?いつおとしたんじゃろ?」
孫の手の中に握られている財布をみて、首をかしげている老人の姿がそこにあったりするが。
そして、そのまま何事もなかったかのようにと横を通り抜けようとする少年にむかい、
ぽんっ。
軽くその頭に手をおく。
「…な!?何しやがんだ!」
「いや。優しい子だな。と」
いきなり、頭に手をのせられて驚くものの、
次に発せられたのは信じられない台詞。
ということは、この目の前の男は自分が何をしていたのか見ていた。
ということに他ならない。
グイッ。
「剣心!何してるの!ぼやぼやしてるから、みんなもういっちゃったわよ!とっとといくわよ!」
「うろ?」
目を見開く少年の目の前で、何やらいきなり後ろにひっぱられ情けない声をだすその男性。
見れば、完全に女の尻にひかれているのか。
頭の髪の毛をひっぱられ、ずるずるとひこずられていたりする。
そんな女性にひこずられ、立ち去ってゆく男性をみつつ、
「…たくっ……」
思わず安堵のため息をこぼす。
相手が自分を役人に突き出さない。
とは限らない。
それゆえの安堵のため息なのだが。
と。
「みて。あの人刀を指しているわ。廃刀令がでてもう二年にもなるっていうのに」
「明治になってもやっぱり、武士の魂を捨てられないのね」
自分の背後でなにやら大人の女性たちがそんな彼をみて小さくつぶやいていたりする。
その台詞に、先ほどの男性のほうをみてみると、たしかに。
その腰にはまぎれもない剣の姿が。
……ちっ。
あんなよわっちい男が武士の魂である刀をそのまま携帯してるなんて……
そんな理不尽にもにた思いを抱きつつ。
そのまま、次の標的を彼に定めて彼等を追いかけてゆく少年の姿。
スタタタ…
どんっ。
ぶつかったと同時に腰に入れていた財布を掏り取る。
わざとすられやすい場所にと一つサイフを入れていたのだが。
何も収穫がなければ少年が酷い目にあうであろう。
というのは、今までの経験上わかっている。
だからこその処置。
が。
「…まちなさいっ!」
どがっ。
すばやくそんな走り去ろうとする少年に向かって飛び掛っている薫の姿。
「剣心!このこ擦りよ!あなたのサイフ!」
いいながらも、少年の手の中にある藍色のサイフを取り戻しながらも言ってくる。
……わざと掏り取られやすいようにしてたのでござるが……
などと思うそんな剣心の心は何のその。
「ちくしょうっ!はなせっ!このぶす!」
何やら勝手に盛り上がり言い合っている先ほどの少年と薫の姿が目に入る。
「失礼ねぇ!これでもみんなに剣術小町っていわれてるのよ!」
いいながらも、押し倒していた少年をそのまま持ち上げ、襟首をつかんで抱えあげる。
「うるせえ!どぶすっ!」
だがしかし、ひるむことなく、いまだに言い放っている少年の姿が。
くすっ。
そんな二人のやり取り…主に少年のやり取りをほほえましく見つつ、
「まあまあ。すられたものは仕方ないでござるよ」
いって、ぽっと薫の肩をたたいて彼をしたに降ろすようにと促す。
「あのなあ!」
橋の上におろされたのをうけ、さらに文句を言おうとするものの、
「坊主、次は捕まるなよ」
いって、少年の手の中にサイフを握らせてそのまま、
「さ。いくでござるよ」
後ろを振り返ることなく歩き出す。
「ちょ…ちょっと。剣心」
そんな剣心の後を戸惑いながら薫がついてゆくものの。
ぎゅっ。
自分が哀れみをうけた。
というのは一目瞭然。
それゆえに、手に握らされた財布を握り締め。
スコッン!
思いっきり、力まかせに財布を剣心の方にと投げ放ち、
「オレは坊主じゃねえ!東京府士族、明神弥彦!
他人から哀れみを受けるほどおちぶれちゃいねえんだ!あたまなんかなでやがって。
てめえがいっちょまえに刀なんか挿してやがるから、ちょっとからかってやっただけだ!
勘違いするな!このたこ!」
息を切らせつつも言い放つ。
そう。
他人にこんな哀れみを受けるゆわれはない。
自らの誇りを守るためにも。
その目には光が宿っている。
そのまっすぐな視線をきちんと見据え、
「…坊主」
優しく、少年にと語り掛ける。
「坊主じゃないっていってんだろっ!」
坊主、といわれたことに対しておもいっきり反対意見をいうものの、
「おぬし、なりはまだ子供だが、心根は立派に大人でござるな。
すまぬ、拙者が見くびっていた。その誇り、大切にするでござるよ」
優しい眼差しで少年をみつつ言い放つ。
そんな剣心の言葉に思わず目を丸くする。
まさか素直に謝られてくるなどとはユメにも思わなかった。
ましてや、自分が誇り高くあろうとしていることを見越しているかのようなもののいいよう。
くっ。
この目の前の赤い髪の男性には、何をいってもあしらわれてしまうのだろう。
余計に自分が惨めに感じてしまう。
それゆえに、小さくしたうちしながらも、キビスを返す。
そんなきびすを返す少年の後姿を見送りながら、
「生意気。士族ってことは元武士の子ね。あの意地は武士魂ってことか」
未だに納得いかないらしく、憮然と言い放つ薫に対し、
「世が世なら、立派な武士になっていたであろう」
自分が今の時代を築いた一員だからこそ。
誇りと志をもったままの存在は貴重に感じる。
いって優しい眼差しでそちらをみやりながら、
「さ。いくでござるよ」
「あ。うん」
いって、再び、源才たちが先にいった牛鍋屋『あかべこ』に向かって歩いてゆく。
その誇り、大切にするでござるよ。
先ほどの男性の言葉が頭の中を反復する。
わかっている。
自分でも。
でも……
世の中。
どうにもならないことがある。
ましてや、母がうけていた恩もある。
そんなことを思いつつ、川べりにて川の流れをみつつも自らに問いかける。
と。
ざっ。
背後に響く数名の足音。
それと同時。
「へへへへへ」
「いやがった」
「さがしたぜ。弥彦」
「ほれだしな。今日の稼ぎを」
「さっさとだしな」
どうみても、ごろつきらしき三人の男が少年にと話しかける。
が。
「…ねえよ」
一言のもとにその言葉の返事をかえす少年の台詞に、
「あん?」
眉を吊り上げながら、そのまま。
どがっ!
小さな子供によってたかって大の男が三人がかり。
川辺にてどかばすと殴る音が響き渡る。
「…あと、いくらかえせばいいんだよ……」
こんな生活は自分でも納得していない。
だがしかし。
「さあ。いくらかな。十年…二十年。どちらにしろこの指でかえすんだな」
三人がかりに殴られようが、借金がある現状では。
ここから…逃げ出すわけにもいかない。
そんなことをおもいながら、
悔しさをかみ締めて涙をこらえる少年の姿が、川原の一角においてしばし見受けられてゆく。
『いらっしゃいませぇ!』
元気な声が響き渡る。
ここは、牛鍋専門店の【あかべこ】内部。
ぐつぐつといいにおいが店中にと充満するそんな中。
「…え?じゃあ、あの擦りの子……」
先ほどの話を店の売り子の一人に話したところ、
「弥彦っていう子ですやろ?
確か両親とも早くなくなって、集英組みの組長さんにひろわれたんどす」
どうやら彼女は知っているらしく、薫たちに詳しく説明を始めていたりする。
「集英組み?」
首をかしげてといかける薫の台詞に、
「何でも、お母さんが生きてはったとき、病気でその医者代を組長さんがはらってやったとかで。
結局、弥彦がそのお金を借りたことになってるらしいんどす。」
その説明に、その場にいた全員が思わず無言になっていたりする。
最も、菖蒲と雀のみは意味がわからずに、牛鍋に目を輝かせていたりするのだが。
「……では、あの坊主。その借金を返すために掏りをさせられているのか」
しばし、薫たちが黙っていた中。
ぽつりと剣心がつぶやく。
あの瞳には輝きがあった。
あの輝きはあのまま埋もれる器ではない。
これからの世の中を担ってゆくには、瞳の輝きが生きている子供が何よりも重要。
今起こっている出来事を正しい道にと導いてゆく。
それが自分自身が選んだ人生。
「…かわいそうに」
しばらく黙っていたのちに、ぽつりとつぶやき。
そして。
すくっ。
「許せない!」
『って…』
いきなり立ち上がった薫の反動で牛鍋の鍋がこぼれ落ちそうになるが。
キッン……
「ほぉ」
すばやく、そのゆれを剣の鞘で受け止める剣心。
その反射神経は思わず、源才も感心した声をもらすが。
「間違っているわ!それって!」
いうなり、そのまま立ち上がり草履を履きだす薫にむかい、
「薫殿?どこへ……」
戸惑いつつも問いかける剣心。
「あの子のところよ。ほっとけないわ」
いいながらも、席を立ち上がり店を出ようとし始める薫の姿。
「少しまって……」
そんな薫のポニーテールに結ばれている髪の毛をつかんでとめようとする。
が。
「どうしてとめるのよ!剣心はほっとけるの!」
「そうでは……」
「放してよ!剣心がそんなに冷たい人だとはおもわなかった!」
どすっ。
いうなり剣心に肘鉄をくらわし、そのまま店を出てゆく薫の姿。
薫に突き飛ばされた反動で落ちてきた、招き猫にもおいっきり当たり、
しばらくその場に倒れている剣心であったりするのだが。
薫はわかっていない。
それが、あの少年の誇りを傷つけるようなことになる。
ということを。
剣心としては、彼が自分の力でそこから抜け出すことが必要だ。
と思っている。
彼ならば、それは可能なはずだ。
…そう、普通ならば。
だがしかし。
「…やれやれ。人の話をきかないでござるな…薫殿も……」
今に始まったことではないが。
苦笑しつつも立ち上がる。
「剣兄?大丈夫?」
そんな剣心にむかって心配そうに雀たちが声をかけてくるが。
「大丈夫でござるよ」
「源才殿。これを」
いって、藍色の小さなサイフを手渡し、
「薫殿のこと。馬鹿正直に真っ向からいくでござろうしな。…やれやれ」
相手が極道。
ということは、普通の人間の感覚は通用しない。
それがあの薫はわかっていない。
裏の世界を知り尽くしている剣心だからこそ、それは十二分に理解している。
最も、そんな裏の汚さは、知らないですむのに越したことはないが。
苦笑しつつも、席を立ち上がり、薫を追いかけるべく店の外にと出てゆく。
と。
「……やっぱり。というか……で?今度は何でござるか?……菫ちゃん……」
おそらく、何かしらの考えがあって留守番をわざとしていたのだろう。
というのはわかっている。
そしてまた。
薫が一人、極道の組みにと乗り込んでいったことからも。
店からでたとたん。
その出入り口にてにこやかに笑って立っている菫の姿を確認し、
ため息まじりにと問いかける剣心。
「今回は持久走りの訓練ね♪」
「……え゛?ちょっと…まっ!」
その言わんとするところをさっし、あわてて意見しようとするが。
「いってらっしゃ~い♪」
軽い菫の声とともに、剣心の視界は…反転してゆく……
【関東集英組】。
おもいっきり表にでかでかと掲げられている看板。
そんな屋敷の中の一角において、
「はいりやす」
カラッン。
何やらサイコロを振るっている男たちの姿が見てとれる。
「いいかい?…ほいっ」
幾度やっても、サイコロの目は両方とも1を示している。
「よくできたさいころだぜ。どうふっても、ピンゾロの丁がでやがる」
感心した声をだす男たち。
「これでまたひともうけだ」
「へへへへ。」
おもいっきりイカサマだが。
そのイカサマで彼等は収益を誇っている。
極道。
といっても、正道にのっとったまともな組ならばそんな小細工は、
自分達の質を落とす以外の何ものでもない。
そうわかっているがゆえに行動を起こさないが。
この組はそういった類のものではない。
その様子をみて、何もできず悔しそうににらんでいる弥彦、と名乗った少年の姿があったりするが。
と。
「ここにいたのね!明神弥彦!」
ばんっ
声とともに開かれるふすま。
「…何だ?てめえは?」
ふとそちらをみれば、なぜか場違いな若い女性。
しかも、袴すがたに竹刀を手に持ちある意味臨戦態勢。
「俺たちと遊びにきたのかい?」
ここが自分達の所属する組だとわかってきたのならたいしたものだ。
そんなことをおもいつつも、その女性をにやにやしつつ見やるものの、
きっと、その視線を強い視線で睨み返し、
「あんたたちに用はないわ。弥彦に一言いいにきたの」
いいながら、竹刀を構えたままでずかずかと部屋の中にと押し入り、
「あんたねぇ。いくら訳があったって掏りは掏りよ。今の生活から抜け出すの。心まで腐らないうちに」
などとそんなことをいっていたりする薫。
「お…お前ここは……」
そんな薫の登場に思わず面食らうのは当然といえば当然のこと。
普通、こんな極道の組のしかも、屋敷の中でそんなことをいうなど。
到底考えられない。
というか…こいつ、何も考えてないんじゃぁ?
そんなことが頭に浮ぶのは仕方ないことであろう。
「じょうちゃん。弥彦の友達かい?」
そんな薫の台詞に、にやにやしつつも問いかける一人の男性。
この中では一番、腕が立ちそうな人物であることは一目みただけで薫にも一応理解はできる。
「か…関係ねえ!こいつはただの……」
まったく無関係というか、ある意味無防備すぎるお人よし。
それゆえに、あわてて、薫の前にいき立ちふさがる。
「何よ!?」
そんな弥彦を押しのけようとする薫に対し、
「弥彦には借金があってね。きちんと稼いで返してもらわないとこっちがこまるってもんよ。
それとも、あんたがかわりにはらってくれるっていうのかい?」
にやにやしつつも、背後にいる男たちに目配せをする。
こんなところに単身乗り込んでくるなど、まず自分をどうとでもしてください。
といっているようなもの。
売り飛ばしてもいいし、または全員で遊んでもいいし。
女性ならばどうにでも扱いようはある。
「…いくらなの。その借金って」
そんな彼等の思惑にはまったく気づくことなく、視線をそらさぬままに問い返す。
そんな薫の台詞をうけ。
その場に一枚の座布団が用意され、そのままその場所にとストンと座らされてしまう。
あっさりと腕をつかまれて、座らされていることからして、まったくそういう意味での警戒は皆無。
というのは見てとれる。
ここまで無知というか、無防備すぎる。
というのも、彼女がどれだけ恵まれていた生活をしていたかが伺える。
「…ちょっと。何よ……」
いきなり座布団の上に座らされて、戸惑いの声を発する薫に、
「稼いじゃどうかな?サイコロで」
にやにやしつつも問いかける。
「…さあ」
それをうけて、他の男たちもにやにやしながら様子を伺っていたりする。
相手は小娘一人。
先ほどの実験体にするのにはちょうどいい。
飛んで火にいる夏の虫。
とはよくいったもの。
そんなことを思う組の男たちの思惑にはまったく気づかず、
「わかったわ。うけてたとうじゃない。だけど勝負は1回よ。私が勝ったら弥彦を自由にする」
きっと、男たちをにらみながらもまけずと言い返す。
「なら、嬢ちゃんがまけたら、この集英組みで一生ただ働きしてもらおうか」
「いいわ」
いともあっさりと相手の意見を丸呑みするところも、お人よしすぎる。
というか世間知らずそものの。
いいかもには違いない。
「ば…馬鹿……」
即答する薫の言葉に、弥彦が目を丸くするものの、
他の組員に羽交い絞めされている状態ではどうにもできない。
「さあ!勝負よ!」
いって腕をまくしあげる薫をみて、
このままではこいつが危険。
それがわかっているがゆえ、
あむっ。
「…いてっ!」
羽交い絞めしている男の腕をかんで腕から逃れ、
「まて!オレは何もたのんじゃいねえぞ!お前なんかに恩を売られるなんてまっぴらだ!」
どうにかして薫をこの場から退散させようとする弥彦。
「子供はだまってて!私許せないの!あんたの弱みにつけこむこの人たちが!」
が、しかし。
そんな弥彦の思いは何のその。
自分の信念を曲げることなく言い放つ薫。
彼等が言い出したことだから、正々堂々と勝負をいどんでくるはずだ。
とあくまで信じきっているお人よしであるがゆえの台詞と行動。
「へっ。いい度胸じゃねえか」
きっぱりと言い切る薫の台詞に、思わず含み笑いをこぼしながらもつぶやく組員その一。
「もし負けたら……」
というか、必ず負けるのは判っている。
判っているから、どうにかしてそのことを口にだしたらまず。
自分どころかこのお人よしも殺される。
というのがわかっているがゆえに何とか思いとどまろうとして声を発する。
が。
「負けるわけないって。私。運は最強なの。おみくじはいつも大吉だし。
この前だって、富くじでお米あてちゃったし」
きっぱりはっきり言い切る薫。
はっきりいってそういう問題ではまったくもってない。
ずるっ。
そんな無邪気ともいえる薫の台詞に、その場にいた全員が思わずこけそうになっていたりするが。
まあ、気持ちは判らなくもない。
「いい加減にしやがれ。お前も関係ないならどいてろ」
どうにか体制を整えて、邪魔しようとする弥彦を押しのける。
今だ。
そんなことを弥彦が思い、とある行動にでたのにはまったくきずかずに。
サイコロを手にもち、構える組員その一。
そして。
「偶数が丁。奇数が半」
すぐにでも、相手を斬り伏せられる位置。
即ち、薫の真後ろに立ちながらも、そんなことを言い放つ杖をもっている男の姿。
薫はまったくもって、後ろから攻撃をされる。
という考えを失念している。
彼女の考え方は、正々堂々。
それが全てであるがゆえ。
「承知よ」
その言葉に、きっぱりと答える薫の返答をうけ、
「いくぜ」
いいながらも、
カラン。
構えていたサイコロを入れ物の中にいれてたたみに押し付ける。
「…んっと……」
どちらにしようか薫が迷っているより先に。
「丁」
背後から先にと答える、杖をもった男。
「半」
さきに答えられたのをうけて、きっとそちらをにらむものの、すかさず薫もまた意見する。
にやっ。
そんな薫の返答をうけ、にやりとほくそ笑み、サイコロを隠していた入れ物を外す。
…が。
「ご…五、六の…半」
驚愕に満ちた声が、サイコロをふった男より発せられる。
このサイコロはどうふっても、ゾロ目の1しかでないはず。
なのにどうして他の数字がでるものか。
「六助。…お前」
「?おっかしいな……」
ざわざわとざわめく組員たちの様子を疑問に思うことなく、
「勝った。勝ったわ。さあ。弥彦は自由よ。」
いって、無邪気に喜ぶ薫であるが。
「この姉ちゃんは勝ったんだ。もうかえしてやれ。かえしてやれ!」
いいながらも、薫の前にと立ちふさがり、どうにかして彼女を無事に外に出そうと声をだす。
「?何いってんの?あんた?」
そんな弥彦の行動と台詞に首をかしげまくる薫。
勝ったんだから、あんたも一緒にここをでるのにきまってるじゃない。
と、完全無欠に相手が約束を信じる。
と思い込んでいるがゆえに、彼等が約束を破る、ということなどはまったくもって念頭にない。
「お前はわかってねぇ。こいつらどうせお前を生かしてかえすつもりなんかねぇ!」
そんな薫の様子にいらいらしつつ、叫ぶようにと言い返す。
いくら何でも無知にもほどがある。
普通に考えてもわかること。
「…は?」
そんな弥彦の叫びに間の抜けた声をだす。
裏の世界などまったくしらない純真無垢。
相手がいったことを素直に信じるというのは、ある意味いいことなのであろうが。
だがしかし、こんな裏の世界に生きる人たちにそれを当てはめる。
というのは完全にと間違っている。
それすらも、薫にはわからない。
裏の世界のことなどには一度もふれて育ったことのない彼女だから、
そこまで思いがめぐらない。
というのもあるにしろ。
「ちっ」
がりっ。
いくら何でもおかしすぎる。
それゆえに、今つかったサイコロを噛み砕く。
「…やっぱり掏り替わってやがる」
そこに仕込んでいたはずの細工の姿はどこにもない。
ちっ。
その台詞をうけて、弥彦の手を後ろにとひねり上げる。
「…くっ…や、やめろ……」
あまりの痛さに、しっかりと握り締めて隠していた手の力が緩み、
ぽとり。
その手のひらの中から二つのサイコロが転げ落ちる。
「…あんときかっ!」
先ほど、弥彦を突き飛ばしたあの瞬間。
弥彦は細工が施されているサイコロと、普通のサイコロを摩り替えていたのだ。
それに今さらながに気づいて声を荒げる男たち。
「…ちいっ!」
どさっ。
今までつかんでいた弥彦の手をそのままねじり、おもいっきり横になぎ払い、
そのまま襖のほうにとたたきつける。
「ちょっと!」
その様子をみて薫が抗議の声をあげるものの、
「おっとっと」
笑いながらそんな薫をさえぎる男たち。
「ち。笑わせるぜ」
バシビシ。
そして、そんな薫の視線の先で、男たちによる弥彦に対し、殴る蹴る、が多発する。
「どういうつもりだ?弥彦」
けりながらも問いかける組員の台詞に、いつもならばここでひるむところ。
だがしかし、先ほどの男性の言葉が頭をよぎる。
――その誇り、大切にするでござるよ。
始めて自分を認めてくれてそういっていくれた。
「殴れ。殴りたいだけ。俺はもう、おまえらやくざもんとは縁をきる。
掏りなんて情けない真似はもう今日限りだ。借金は必ず返す。まともに働いてなっ!」
きっと、瞳に光を灯したままで言い返す。
そう。
力に屈してはだめだ。
自分の意思で決めなければ、誇りは守れない。
「…ク…ククク。くはははは!」
そんな弥彦の台詞をきき、一瞬ほうけたようになり、
それと同時にそれぞれに笑い始める男たち。
そして、いかにもおかしくてたまらない。
という口調で、
「借金か。ははははは。馬鹿が。そんなもの元からねえのさ。
おまえを飼い殺しにするための嘘にきまってるだろうが。
そんなのがあろうがなかろうが、おまえは死ぬまで俺たちの犬なんだ。」
いいながらも、弥彦の胸元をつかんでさらに幾度か蹴りなどを叩き込む。
「…え?」
その台詞に思わず目を見開く薫。
つまり、彼等は嘘をついてこの少年…弥彦を縛っていたことになる。
そんなの絶対に許せない。
「くそぉ!」
今さらながらに、彼等にだまされていたことをしり、
弥彦が彼等に対して挑もうとするが。
「ざけんじゃねえぞ!こら!」
あっけなくも、まるで赤子のようにあしらわれ。
そのまま、複数対1で攻撃を受けている弥彦の姿が。
…きっ。
流石にこれ以上は見ていられない。
それゆえに、自分を羽交い絞めにしていた男に竹刀で突きを食らわせ、
「やめなさい!…たあっ!」
まるでモノのように蹴りを加えている男たちにむかって竹刀を構え、
そのまま彼等を叩きのめす。
「大丈夫?あたしがあいてよ!」
いって、弥彦を守るかのようにと構える薫。
「えいっ!」
「たあっ!」
相手は複数だというのに、ひるむことなく竹刀で挑み、
ことごとく彼等を叩きのめしてゆく。
とはいえ、薫の獲物はたかだか竹刀。
それゆえに殺傷力も、ましてや相手を気絶させるほどの力もない。
「このやろぉ!」
「てやぁぁ!」
男たちが一斉に飛び掛ってくるものの。
一応、師範代を勤めていることもあり、
あまり力のない男たちは、もののみごとに薫の竹刀の前にと敗れ去る。
「ふ。少しは腕に覚えがあるようだな。だが、この人斬り佐助が倒せるかな?」
そんな薫に対し、杖をもっている男がトントンとその杖を肩におきつつも、薫に対して言い放つ。
「望むところよ。」
いうなり、そのまま勢いをつけて、一撃を加えるが。
だがしかし、あっさりとその手にもっている杖にと弾き飛ばされる。
「いくぜっ!」
相手の力量はかなり強い。
それはわかってはいるがひるめない。
神谷活心流の名前においても。
向かってくる男の杖裁きをどうにかかわしつつも、体制を整える。
「たあっ!」
そして、相手に隙を与えるためにとさらに切り込む。
その挑発にのってかしらずか、男が自分に対して背を向ける。
「…すきありっ!」
それが好機。
とばかりに一撃を加えようとする薫であるが。
きらっ。
杖がきらっときらめいたかとおもうと、その中から研ぎ澄まされた刃が現れる。
「…仕込杖!?」
それをうけて薫が驚愕の声を漏らしているが。
杖の中に仕込まれた刃。
そんな卑怯な手をつかってくるなんて。
そんなことを薫は思うが。
ここは、極道の組みだということを完全に失念している。
彼等にとって正々堂々。
というのはあまり通用しない。
そのまま、刃によって薫の手にした竹刀が綺麗に寸断される。
刃を使うなんて卑怯よ!
そんなことを薫は思うが、彼等にとってはそれは当たり前のこと。
未だにそれすらも薫は気づいていない。
「お遊びはここまでだ」
いって、ぺろりとその刃を舐めて薫に斬りかかろうとする男に対し、
「やめろ!これは俺だけの問題だ!」
薫と男の前にと立ちはだかる弥彦。
だがしかし。
そんな弥彦はあっさりと男によって壁のほうにと叩きのめされてしまう。
「やめてっ!」
それをみて、薫がそちらに気をとられた隙に、
男の一撃がまともに薫の体にヒットする。
どすっ。
そのまま鞘のほうで一撃を加えられ、その場に襖を倒しながら、倒れる薫の姿。
それと同時。
「待ちな。人斬り佐助よ。飯時に女の血はみたくねぇ」
薫が倒れこんだ襖の奥。
その奥まった場所にて一人何やら座って食事をしている男が声をだす。
「組長」
そんな男の台詞に男たちの動作が止まる。
組員にとって組長の言葉は絶対。
それゆえに一時手を休める。
「弥彦をつれてこい」
いって、かたんと手にもっていた茶碗をしたにおきつつ命令する。
「さあ。侘びをいれろ。組長にな」
その言葉をうけて、男たちが数名、弥彦をひっぱって組長の前にとひこずりだし、
床にと押さえこんでいる弥彦を踏みながらも言い放つ。
「弥彦よ。おまえ、すりをやめてどうやって生きてくつもりだ?
いくら士族だろうが、銭っていうのは生きてゆくのに必要なんだ。
誇りなんていくらあっても銭にすらなりゃしねえ。卑しく生きることを覚えろよ。な」
そんな弥彦にむかって、タンタンといっているのは。
この集英組の組長を務めている、ちょっぴり鼻の頭にできものができている、
小太りといっても過言でないような男性。
「…俺は士族だ。そんなの俺はもうゴメンだ!」
叩きのめされても、踏まれても。
自らのもつ誇りは失いたくない。
それゆえに、自分の意見を曲げずに言い放つ。
「へ。何が士族だ。てめえのオヤジは明治維新そうそう、
明治政府にたてついて殺されたろくでもないやつだろうが。母親もろくでもねぇ……」
そんな弥彦の台詞をあざ笑いつつも、ぐりぐりと弥彦を踏みにじりながら言い放つ。
「うるせぇっ!」
そんな男の台詞に、かっと頭に血がのぼり、
そのまま、力任せに起き上がる。
ガッン。
それと同時に、今、暴言を吐いた男の股間にまともに弥彦の頭があたり、
その男はしばしもんどりうっていたりするが。
「父上は、官軍に組みするのを義とせずに、彰義隊に加わって義に準じた。
母上は俺を育てるために命を削って働いた。二人とも、誇りをもって気高くいきたんだ!
悪くいうやつは俺がゆるさねえ!」
口の中が切れている。
それゆえに流れる血をぬぐいながらも言い放つ。
そう。
両親は誇り高くいきたのだ。
誰にも侮辱されるゆわれもないし、また侮辱するのは許さない。
「組長」
まったく懲りる様子がないそんな弥彦の姿をみて、
先ほど薫を気絶させた男が淡々と言い放つ。
「誰が飼い主か、そろそろ本気で教えてやれ。人斬り佐助」
その言葉をうけ、指示をだす。
この組の中で誰が一番力があり、また逆らえないか。
逆らうものには死を。
それが彼等の流儀。
「わかりました」
組長の言葉をうけて、再び仕込み杖でもある刃を握りなおす男。
「だめぇ!お願いやめて!」
それをみて、ようやく気がついた薫が止めようとするが。
だがしかし。
「うるせえんだよっ!」
そんな薫に他の男たちの攻撃が今にも加えられそうにとなる。
と。
どがっ。
今まさに、刃が振り下ろされようとしているそんな中。
いきなり、横の襖が蹴破られ。
「…!」
「……まにあったか」
男たちが驚愕してそちらをみやると、
なぜかそこには赤い髪の男性が一人。
まったく……
いくら何でもいきなり隣町まで飛ばすなんて…やってくれるんだから…菫ちゃんは……
そんなことを内心おもいつつも、ここまで走って移動してきたその息切れをまったく感じさせず、
ざっと周りをみわたし状況を確認する。
「だ…誰だ!?てめえ!?」
「な、何なんだ!?てめえ!?」
いきなり襖を蹴破ってはいってきた小柄な男性の姿をみとめ、
口々に叫ぶ組員たち。
「殴りこみだ!やろうども、であえっっ!」
そしてまた、その場にいたこの組の組長もまた他の組員に対して呼びかけるが、
「呼んでもこぬよ。なかなか入れてもらえぬので、この部屋以外のものにはしばらく眠ってもらった。
しばらく動くこともまかりならんであろう。」
表情一つ変えることなく、さらっと言い放つ目の前の赤い髪の男性。
その右頬の十字傷が印象深い。
「な…何ぃ!?てめえ、なにものだ!?」
さらっというその台詞に思わず目を丸くする。
もし、彼がもう少し裏の世界のことを詳しく知っていれば、
彼が【何者】であるか、すぐに理解し震え上がるところであろうが。
効果不幸か、ここの組長は彼のことをまったく知らない。
呼び名は知っていてもその容姿までは理解していない。
「流浪人の、緋村剣心。坊主と薫殿を引き渡してもらおうと参上つかまつった。」
二人が無事であることに安堵しつつも、淡々と言い放つ。
「てめえも士族か。ぶっころしてやるっ!」
話の途中で、そんな剣心に剣を抜き放ち挑もうとする人斬り佐助、と呼ばれていた男性。
が。
どがっ!
ちらっと剣心が向かってくる男を一瞥するのと同時、
彼の動きを利用してそのまま天井にと突き上げる。
「話の途中だ。しばらくそこで黙っていてくれ」
剣の柄でただ突き上げただけだというのに、そのまま天井にのめりこんでいる佐助と呼ばれた男。
それをみて他の男たちは身をすくませていたりするのだが。
「どうだろう。組長さん。ここは器のでかいところをみせて、こころよく二人を手放してくれないだろうか。
組員総崩れという恥をさらすより、そのほうがずっといいとおもうのでござるが……」
いって冷ややかに見据えつつも言い放つ。
その視線には感情も何もこもっていない。
逆らえば死、あるのみ。
といったような冷たい視線。
最も、彼は本気でそうする気はさらさらないが。
だがしかし、言い分を聞き入れられないときには、それ相応の行動は伴わせるつもりであるが。
「わ…わかった。勝手につれていきな」
さすがに、その視線がもつ意味合いを計りかね、がたがたと震えつつも、どうにか声を絞り出す組長。
逆らったら命がない。
それは本能がそう告げている。
「ありがとう。無理をいってすまない。」
その言葉をうけて、剣に手をかけていた手を下げて、
未だにうずくまっている薫と弥彦のほうを振り向き、
「すまぬ。おそくなったでござる」
二人に対して話しかける。
「ほんとよ。何やってたの?」
彼…剣心がやってきたことにほっと息をつきつつも、
それでも、彼がやってくるのが遅かった事実は否めない。
それゆえに、剣心にと問いかけている薫。
未だに自分が無茶をやった。
という自覚がまったくない。
というのが彼女らしいといえばそれまでなのだが……
「…大丈夫でござるか?」
未だにうずまくっている弥彦にむかって手を差し伸べる。
が。
「助けろなんて誰がいったよ。俺は一人でも戦えた。戦えたんだっ!」
ばしっ。
その手を片手で払いのける。
自分の力なさが惨めに感じる以外の何物でもない。
ただのいきがりだ。
とわかってはいるが、自分の力でどうにかしたかった。
両親と自分の誇りにかけて。
「そうか。拙者はまた坊主をみくびってしまったでござるか。
ならば、せめてわびのかわりに怪我の手当てくらいさせるでござるよ」
そんな彼の思いがわかるがゆえ。
だがしかし、この場に長いは無用。
というのも判っているがゆえ。
「って、うわあぁ……」
いって、ひょいっと弥彦の首ねっこをつかんで袋のようにと抱え上げ、
「薫殿。かえろう。」
いって、くるりときびすを返し外にとむかってゆく。
そんな剣心たちにむかい、
「やろう!にがすか!」
「よせっ!かまうんじゃねえ!」
追いかけようとする部下たちをあわてて押しとめる。
「ありゃぁ、人斬りの目だ。極道の人斬りなんかじゃねえ。本物の人斬りの……
この明治にまだあんな目の男が残っているなんて……
あいつが本気になったら棺おけや命がいくらあってもたりやしねぇ。
ガキ一匹ですむんならやすいもんよ」
がくがくと未だに止まらない震えをおしとどめながらも部下たちにと言い放つ組長の姿。
あの男の目は、人をかなり斬ったことがあるものの目。
それも、一人や二人、1千人そこらといったものではないはずだ。
裏の世界。
しかも、組という組織をもっているからこそわかる目。
相手にしたら危険だ、というのは十分に理解した。
それゆえの指示。
それは…自分達に気づかれることなく全ての部下たちを倒したことにも伺える。
だからこそ……係わり合いは、即ち、即、死を意味する。
そう判断し、弥彦たちをあきらめて素直に帰してゆくのであった。
すたすたと、弥彦を抱えて外にとでてゆく薫達の目に映ったのは。
完全に気を失い、まったくびくりとも動いていない男たちの累々とした屍もどき。
実際は死んではいないのだが。
一人で、しかも誰にも気づかれずにここまで全員を倒していた。
というのが弥彦にとっては驚愕に値する。
薫からすれば、剣心の真実を知っているがゆえにあまり動じないが。
もっとも、これが剣心の実力…などと内心おもっているものの。
だが、彼が本気になったときはこんなものではない。
というのは薫も弥彦もいまだ知らない。
「ちくしょう…ちくしょう……」
じたばたもがいても振りほどけない力強い腕。
こんな優男がここまで強い。
というのにも驚愕するが、何よりも力のない自分が許せない。
いまだに、荷物のように抱えられたままでその背中で自分に対して悔し涙を流すしかない。
「自分の非力がそんなに悔しいか?坊主」
そんな彼の心情はよくわかる。
かつて、自分も力を求めた。
大切な人たちを守れる強さがほしくて。
あのとき、自分は小さくて、守りきれなかった。
男は自分ひとりだった…というのに。
小さな自分を守って死んでいった三人の女性。
そして…力を得ても、守れなかった大切なヒト。
「ちくしょう…強くなりてえ。お前の助けを借りることなく。
父上と母上の誇りを自分で守りきれるくらいに…ちくしょう……」
涙がこぼれるのは、自分の無力が悔しいから。
力のない自分が無償に腹ただしい。
「そうか」
深く声をかけるわけでもなく、その一言ですませ。
そのまま、すたすたと弥彦を荷物のようにかるったまま、
道を歩いてゆく剣心の姿。
「ちくしょう……」
その背では、しばし。
自分の無力さに涙する弥彦の姿が垣間見うけられてゆく……
「さ。ついた。」
ふと気づけば、何やら表に道場の看板がある屋敷の中につれていかれ、
そのまま、すとんと降ろされる。
「?何だここ?」
きょろきょろと意味がわからずに回りを見渡す弥彦に対し、
「明日からおぬしは、この道場で剣術を学ぶでござるよ」
いって、ぽんっと弥彦の頭に手を置く。
「…剣術を?」
「強くなれ。弥彦。」
戸惑いをみせる弥彦に対して、にこやかに微笑む彼に対し、
「…へん。いわれなくてもなってやら!お前より強くな!」
いって、こんな強いやつものとで修行すればきっと……
そんなことを思いながらも俄然元気を取り戻す。
「ここに立派な先生もいる。神谷活心流師範代、神谷薫殿」
そんな弥彦をほほえましく眺めながらも、勘違いしているのは十二分に承知。
それゆえに、薫の名前をだす剣心。
「…?私がどうかしたの?」
ひょこ。
剣心に呼ばれて顔をのぞかせる薫の姿をみて、
「…ち、ちょっとまてよ。おまえ。剣術習えって。まさかそのぶすからか……」
思わずわなわなわなと震える弥彦。
かちん。
そんな少年の姿に、事情を察し、
「剣心…まさか私をこの子の剣術の先生にするつもりじゃぁ……」
こちらもまた、震える手で少年を指差しながらも剣心に問いかけている薫。
「そ。」
そんな二人ににこやかに、きっぱりと言い切る剣心に対し、
「剣心!いくら弟子がいないからってこんなっ!」
言い寄る薫に、
「へん。俺だって、お前なんかに教わるくらいならタヌキに教わるほうがましだ!」
怪我をしている。
というのに気丈にも言い返している弥彦の姿。
「何ですってぇ!?」
ドドド……
売り言葉に買い言葉。
とはまさにこのことなのでござるかなぁ……
そんなことを思いながらも、何やらおいかけごっこをはじめている二人をみながら。
「どうでもいいけど、怪我の手当ては……」
何やらこの二人。
気がつよいところがよく似てるようでござるな。
そんなことを思いながらも、何やら走り回っている二人に向かって言い放つ。
そんな中。
「あ。おかえり~。源才先生つれてきたわよ♪あら。はじめまして。」
すでに判っていたがゆえに、医者の源才を呼びに言っていた菫がもどってきて、
走り回っている弥彦にむかってにこやかに微笑みかける。
「……うっ……と…え…あの……」
いきなり声をかけられて、そちらを振り向くと。
そこには見たこともないようなかなりかわいい女の子。
年のころは十かそこら。
といったぐらいであろうか。
思わず真っ赤になってしまうのは、純情であるがゆえ。
「ここの道場の新しい門下生さん?よろしくv」
「え…あ、はいっ!明神弥彦といいますっ!」
「……きゅうにしおらしくなったわね。こいつ……」
かちこちに固まりながらも、まっかになって自己紹介する弥彦をみて薫がつぶやくが。
そんな弥彦にたいしてにこやかに微笑み、
「あ。源才先生。この子の怪我の手当て、お願いしますね」
いって後ろにいる源才にと話しかける菫の姿が。
そんな菫の言葉をうけ、
「どれどれ。ほぉう。これは……薫ちゃん。彼を奥に」
「あ。はい」
そういえばまだこの子は怪我をしたままだったんだった。
そんなことを思いながら、源才とともに弥彦をつれて奥の部屋にと入ってゆく。
薫達が奥の部屋に入ってゆくのを見送りつつ、
「…少し遅かったわねぇ。たどり着くの」
「……いきなり隣町。というのはないのじゃないでござるか…菫ちゃん……」
薫達の姿が見えなくなったのを見届けて、にこやかに言い切る菫の台詞に、
情けない声をだしている剣心。
「あら?あれくらいの距離なら、どうってことないでしょ?」
「……しかも、まぁぁた重し…おもくしたでござろう?」
「修行、修行♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
じと目で問いかける剣心の台詞をにこやかに、さらっと交わしている菫に対し、
ただただ無言になるしかない剣心。
わかってはいる。
わかってはいるが……
「…ふぅ。とにかく。何事もなくてよかったでござるよ」
どうにか間に合ったようであるしな。
そう自分自身に言い聞かせ、
「さて。夕飯の支度を始めるでござるか。」
言いながらも夕飯の支度を始めるために、炊事場のほうにと移動してゆく。
「…ってぇ!」
「男の子は我慢、我慢」
しばし。
神谷活心流の道場に、弥彦の小さな悲鳴がこだましてゆく……
神谷活心流道場。
先日の、辻斬りの一件にて門下生が誰もいなくなっていたそんな中。
今ここに、一人。
明神弥彦という少年が加わり、再建の兆しをみせてゆく。
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あとがきもどき:
薫:今回のは、ほとんどアニメ~(笑
原作は、薫があまり活躍しないからね~。
あのアニメの薫の無知さ(まてこら)が何ともいえない。
……ふつ~、少し考えても…単身乗り込んだりはしませんよねぇ…
しかも竹刀のみで(笑
何はともあれ。ようやく次回、山県さん登場ですv
それから佐之助ですvではではvv
2007年1月9日(火)某日
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