まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

失血死、というので吸血鬼ネタ、というのはあらかじめ決めている事項ではありますが。
実は黒幕さんをダレにしようか?とまだ決めかねながらの打ち込みだったりするのです(かなりまて
妖怪にしよーか、それともまともに神話のせかいからもってこようか。
はたまた悪魔とかの系統にしようか、といろいろと悩み中。
面白いまでにいろんなパターンが浮かんでいたりするこの話。
メジャーな人物?をやっぱり黒幕にするべき…ですかねぇ?
まあこんな話をみているひとはまずいないでしょうけどね。
そもそもこのうちこみは自己満足でもあるわけで。
何しろツボにはいる小説さんがあるサイトがことごとくみつからないからなぁ・・・くすん。
ツボにはいるサイトさんがみつかる人がうらやましい。
まあ最近はウィルスのこともありネットサーフィンをあまりしてない、というのもありますがね。
何はともあれ、黒幕を決めないままにうちこみ、いくのですv

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「きゃ~!!!」
闇の中、女性の悲鳴が響き渡る。
闇といってもそんなにくらいわけではない。
たまたまきもだめし、と称して明かりのないトンネルの中を歩いていた。
たしかに後ろからついてきていたはずなのに。
振り返れば仲間が一人、その場にて倒れている。
恐怖に見開かれたその瞳はいったい何をうつしたのか。
「き…きゃぁぁぁっ!!」
仲間たちからもその姿を確認し悲鳴がおこり、静かな山の中に響き渡ってゆく……

Begin To Science-Ragnarok ~第2話~

「しかし…光ちゃん、ほんっと勘いいよね……」
まさか別の土地でこの探偵社をみつけられるとはおもってもいなかった。
「つうか。海外にいったんじゃねえのか?おまえら?」
「あ~。え~と。いろいろとあるんだよ」
そもそも日本各地にその網を広げ、さらにはこの地上すべてに窓ともいえる空間を創った。
そのひとつを見つけ出したのがほかならない目の前にいる人間の青年。
そもそも、活動するにおいて大人の姿では何かと都合がわるいというか自由がきかない。
何しろ自由行動なんてできやしない。
その容姿からどうしても女性にほうっておかれずにつきまとわれてしまうのだから。
「しかしあのメガネの子。オマエの身内だったのかぁ。なあ紹介してくれよ?な、な?」
「…光ちゃん。あのこにちょっかいかけたら許さないよ?殺すよ?」
その目が本気だということを物語っている。
「しかしお嬢さんもかわいらしい」
むか。
「話はないんならかえってよ。口説きにきたんなら窓から投げ捨てるよ?」
その目がほんとうに笑っていない。
そばにいるスピカの手をとり口づけしようとした彼をすばやく制しながらも低い声で言い放つ。
「まあそういうなって。かわいいこを口説かないなんて男がすたるし」
「それはそれ。これはこれ。僕の家族に手をださないで。で、その依頼内容なんだけど?」
「おまえ子離れしたほうがいいんじゃねえか?」
ぎくっ。
「って冗談だけどな」
さらっと子離れとかいわれてぎくりとしてしまうロキの心情を知ってか知らずかからからと笑いつつ、
「何か父親が娘を他人にやりたくない雰囲気だったぜ?オマエ。
  ま、とりあえず俺ん家がもってる養生施設なんだけどさ。さいきんその周辺で変死事件がおこってるんだ。
  こちらも商売がてら悪い風潮がついてもなんだし。探偵のところにいこうとしたら引っ越したってあいつはいうし。
  ここで出会えたなんて運がいいぜ。それともおまえらがそういうようにしてたりして、な~んてな」
「…この人間、本当に勘がするどいね。ダディ」
おもわずぽそっと膝の上にいたフェンリルが言葉を漏らす。
ときどきいる、こういう鋭い人間が。
どこまでわかっているのかわからない。
「失血死。ねぇ」
「おまえむき、だろ?」
「さあね。まあ依頼はうけるよ」
そもそもここに窓をひらいたのは悪意ある邪気を感じたがゆえ。
「サンキュー。あ、ついでにこれわたしとくわ」
いいつつも机の上におかれたのはいく枚かの券らしきもの。
「それうちの保養所のパスポート、な。家族専用だから家族なら何名でもいけるぜ?
  ちなみに当然うちの保養所はニーズにあわせてペット同伴も可。んじゃたのむな。
  しかし、あのこ、もどってこないな~……」
彼の女癖のわるさというかその性格はある程度は理解している。
ゆえに彼がやってきてすぐに闇野が姉を台所につれていったのもお約束。
「はいはい。用事がすんだらもどってね。外までおくるよ。スピカは闇野君の手伝いでもしてて」
こくり。
その言葉をうけてそのまま部屋から外にとでてゆく。
ちなみに、ロキもスピカも子供の姿になっており、大人の姿ではないのだが。
「あ、マミィ。僕もいくよ」
にこり。
息子であるフェンリルにいわれてにこりと微笑みすっと抱き上げ部屋から外にとでるスピカの姿。
「んで、失血死のハンニンの心当たりがオマエにはあるんじゃねえのか?探偵?」
「さあね。調べてみないと何もいえないよ。どうして光ちゃんは僕に依頼しようとそもそもおもったわけ?」
「さあな。何となくオマエムキだ、とおもったしな。他じゃおそらく解決なんかできないだろうしな」
この人間はほんとうに鋭い。
もしかしたら自分たちが人でないことを感じ取っているのかもしれない。
まあそれを吹聴するような人間でもないようなのでその点は安心だが。
そのままおいやるようにと玄関、そして門の外にとおいやり一息つく。
「…すこしばかり見回ってくるとしようか」
その前に。
「その前にお茶、だよね」
そもそもせっかくのお茶の時間が近いというのにやってきた客である。
まさか知り合いの人間だ、とは思わなかったが。
そもそもよくもまあ空間をつなげているとはいえ完全に姿を視せてなかったのに見つけ出したものである。
たしかに求めるものには視えるようにしてはいれども、誰でも見つけられる場所ではない。
光太郎をおいやったのちにそのままくるりと向きをかえそのまま屋敷の中にとはいってゆく。
その直後屋敷が揺らめきその場から屋敷はかき消える。
そもそもこの屋敷は異空間に属しているゆえに求めるものがいなければ人の視界にはみえない。
それがこの洋館。
だからこそ地上においてかききえたようにと垣間見えるのだから……

やっぱりタダものじゃないよな。あいつら。
確信したのは大人の姿の彼をみたとき。
同じ雰囲気をもつ人間などいるはずもない。
それにあの犬。
普通のイヌでは絶対にない。
歌のようにきこえるあれは何か確実に話している。
こっそりと以前トイレにいったフリをして聞き耳をたてたときに確実に話していたカレラ達。
しんでいる存在ではない。
かといって人でもない。
人あらざる存在がいることは彼は祖母の影響で一応は知っている。
とはいえ妖怪のようなたぐいでもない。
認識不可能な存在。
それが彼ら。
もっとも、神の術を人が見破られるはずもなく、ゆえに確信にまでは至ってはいないのだが。
振り向いたそこには先ほどまであったはずの屋敷の姿がみあたらない。
かなり実力がある、と豪語してやまない祖母ですら彼等のことを見通すことはできなかった。
何かしらの力をもっている存在であることはそばにいるかわいらしいウサギのような物体からして理解はできる。
「しかしあいつ、また雰囲気かわってるよな~」
初めてあったときとそして今。
あからさまにその感じる雰囲気が異なっている。
しいていえば力が満ちたようなそんな気配。
そうおもうのは以前のように彼のことを感じることができなくなったから。
それは裏をかえせば彼の力が強くなり力を隠すことがうまくなったのであろう。
そう彼なりに解釈している。
事実、そうなのだが。
彼、光太郎が感じていたのはロキにまとわりついていた邪気の気。
完全に邪神として覚醒したロキには邪気の気配などは関係ない。
邪気をつかさどる存在としてそれらを無にするにも有にするのも彼の意志ひとつなのだから。
あの洋館の敷地内は神聖な空間のように感じた。
悪意あるものは一切受け付けない、そんな神聖な空間。
昔からある有名な神社などよりもかなり聖なる空間のような気がするのはこれいかに。
「ま。とりあえずあいつにたのんどけばどうにかなるだろ」
深く考えていても仕方がない。
彼らはたしかにそこに『いる』のだから。

「は~。しかし光太郎さんの家ってはばひろく事業展開してるんですねぇ」
いくつものゲームセンターやビルをもっているのはしっていたが。
このような温泉保養施設までもっているとはおもってもいなかった。
「一応図書館のパソコンで調べてみたわ。お父様」
「ありがとう。ヘル」
ぱらり、と娘のもってきた印刷プリントされた資料をめくる。
「被害者の人間たちは冥界にはきていないのでそのままとらわれている可能性がたかいです」
伊達に冥界の監視者というか管理人をしているわけではない。
この屋敷の中にはそれぞれの階層にとつながる鏡の扉がありいつでも出入りは自由。
どうもそれらはロキがつくったのではなく、気が付いたら設置されていたこともありあの少女の仕業なのだろう。
というのは容易に想像はつく。
つくが…よもやまさか伝説上としかおもっていなかった存在が実在していたことにたまげもしたが。
さらにいえば昔家族ででかけたときにたまたま助けた蝶がその関係した存在だったとは。
世の中、何がおこるかわからない。
とはまさにこういうのをいうのかもしれない。
「垣野内家の人たちはどうも勘が鋭いから気をつけないとね。
  あと光ちゃんは女の子に目がないから、ヘル、十分にきをつけないとだめだよ?」
「大丈夫。私の理想はお父様だから!」
「嬉しいこといってくれるねぇ。とりあえず…資料をみるかぎり、やっぱり何かが関係してるのは間違いないね。
  たぶん第二層世界で発生してる別次元の存在だね。ミドガルドの存在によっていろいろと誕生してるからねぇ」
一度、かの地上すべてを浄化したのは他ならない自分自身。
オーディーンにいわれ、地上が死に絶える前にと手をうった。
「では悪魔系統か妖怪系統ですかね?やはり」
人間界でいろいろといわれている数多の存在はすべてほとんどが人間たちの精神力によって生み出された存在。
中には人の魂が闇にと染まりその姿を変えたものも多々といる。
それらすべては彼ら、神々とは異なる存在。
もっとも、彼ら神々もそれぞれの世界でいろいろな解釈をされて、
一人の神からもたくさんの伝説と名前がうまれていたりするのも人間界の特徴。
妖精界から出向いた存在が人間界においていろいろな伝説になっていたりするのもうなづける。
だからこそのヨムンガルドの問いかけ。
「まあどちらにしろ下級の存在であることはまちがいないだろうね。
  おそらく今表立って動いているのはあくまでも下っ端だろうから。うごいてるやつを捕まえて聞き出すのが一番てっとりばやいかな?」
失血死はこの日本だけでなくイギリスなどでもおこっているようである。
「特に若い女性が狙われている、か…ここにヒントがありそうだね」
「お父様、わたしおとりになりましょうか?」
「そんなのは絶対にだめ!!大丈夫。おとりは僕がなるから」
娘をそんな危険な目になんて絶対にあわせられるはずもない。
「ダディ。もしかして女性体になるつもり?」
「そのほうがてっとりばやそうだしね。だけど温泉かぁ。よっし。
  せっかく光ちゃんからチケットもらったことだし。家族全員で温泉旅行としゃれこもうか?」
フェンリルのことばにさらっとこたえ、ぱたん、と資料の束を机の上において全員を見渡し問いかける。
「ロキ様が女性にならなくても私でもおとりになれますけど」
「スピカ。無理いわないでよ。というかそんな危険な目にあわせられるとおもう?
  とりあえずこの保養所そのものには結界はっとくからヘルもスピカも外にでたらだめだよ?」
自分たちを心から心配してくれるのはわかる。
わかるがやはり力になりたい、とおもうのは間違ってはいないだろう……

★ ☆ ★ ☆

「あなたがおぼっちゃまがいわれていた探偵社のかたですか。我々としてもとてもこまっているのですよ」
とりあえず垣野内光太郎より預かった紹介状をもって問題の保養所へ。
保養所、といっても様々な施設がありちょっとしたテーマパークといっても過言ではない。
説明をうけている応接間の扉の外では数多な女性が人目姿をみようとひしめきあっていたりする。
何しろロキの本来の姿は男女問わず虜にするほどの美青年。
神界においても常に彼をめぐって女性たちの騒ぎがおこっていたりしたのはお約束。
「できるかぎりやってみますよ。こちらこそすいません。家族でおしかけまして」
「いえいえ。今はこんな状況ですからね。部屋はいくらでもあまっておりますから。
  もっとも、騒ぎをきいて野次馬根性でやってくるお客様方も多いですけどね」
まだこの宿泊施設の泊まり客から被害者はでてないとはいえ近くの宿泊施設の泊まり客からは被害者はでていたりする。
ゆえにこそ油断はできない。
「しかし、お父様もお母様もお若いですね。あんな大きなおこさんがおられるようにはみえませんよ」
「よくいわれます」
ヘルがお父様、お母様、と呼んでいることから青年と女性が両親であることは間違いはないのだろう。
よもや一緒にいる犬とそして二十歳そこそこの青年までもが子供である、とは夢にも思わない。
「あの子はとても体がよわいもので。ここの温泉の成分が体にいいもの、とききましたのでつれてきたんですよ」
神界に属している自分たちに人間の間で通じる常識が通用するはずもないのだが、
ものごとには何事も理由をつけていたほうが問題なく進む。
「なるほど。しかし外にでかけられるときには必ずご一緒になさってくださいね」
「ええ。それはもう釘をよくさしていってますから」
素直にいうことをきくかどうかはともかくとして。
念のために家族全員に保護を施すルーンをかけてはいる。
ちらり、と視線を扉のほうにとむけると、その直後。
『きゃぁっ!こっちみたわっ!』
何やら女性従業員達のかなぎりごえがきこえてくる。
そんな彼女たちにむかってかるくウィンク。
その刹那、のぞき見していた女性陣達はこぞって腰が砕けてその場に倒れこむ。
「しかし…あなたがおられたら女性陣は仕事になりませんな……」
そんな彼女たちの姿をちらりとみておもわずため息。
どうにかしてほしいのは山々なれど仕事にならないのもまた困る。
何しろ彼ら家族をもてなす係りをきめるのに争奪戦すらおこっていたりするのだ。
まあ逆にすこしでも気に入られようとサービス精神が向上している、という利点もあるのだが。
「みなさんよくお仕事しておられるとおもいますよ?では、これから周囲を探索してみますので」
「あ、誰か説明係りをつけましょうか?」
いいつつも立ち上がった青年にとといかける。
ちなみにロキは名前を名乗ってはいない。
下手になのれば子供の姿のときと今の本来の姿の自分が同一人物だ、とばれかねない。
説明している人物のほうも名前をきくことをすっかり失念していたりする。
というのもそれらはロキの魔力によってそれらを失念するように仕向けられていたりするからなのだが、
そんなことは当然、この施設の支配人が気づくはずもない。
「いえ。こちらにはこちらの調べ方がありますから」
いいつつもかるく会釈をしていまだに女性陣がわんさかと山盛りになっているでいりぐちのほうにと歩いてゆく。
完全に覚醒しているがゆえにこういった感覚は神界においても慣れっこなので違和感はない。
それが彼にとっては常に日常、だったのだから。
自分をその容姿だけで判断しなかったのが他ならない彼女だけ、だったのだから。
自分の容姿にひかれてあつまってきている女性たちの対処方法も慣れたもの。
かるく笑みをかえすだけで女性たちはこぞって再起不能となり果てる。
これは彼のもつ魔力云々、というのではなく彼そのがもつ雰囲気と容姿ゆえ、であろう。

「ヨムンガルドばっかりやっぱりずるい」
む~。
とてもおおきな大浴場の露天風呂。
おもわず愚痴をいうのは仕方がないであろう。
「ダディはヘルがとても心配なんだよ。それにマミィのことも。以前のこともあるからね」
伊達に犬、しかも子犬の姿ではない。
周囲の客にも違和感がない、というので彼女たちの護衛をかねて一緒にはいっているこのフェンリル。
当人は外でまつ、といったのだが母親であるアングルホダのひとことで一緒にはいるハメにとなっていたりする。
やはり小さいときとはちがい恥ずかしいものは恥ずかしい。
自分たちを守ろうとオーディーンにいわれて雌馬の姿に身をかえて子供をうんだことまであった父親。
それでも父親を自分たちのもとからおいやり、目がとどかないうちにと自分たち三人をおいやったオーディン神。
フェンリルがオーディーンをよくおもっていないのも仕方がないであろう。
そのときに生んだこどももまたオーディーンの愛馬として使用されヴァン神族との戦いのときに死亡した。
あのときの父親の沈んだ様子を今でもフェンリルはよく覚えている。
おそらくまだ幼かったヘルはあまり覚えてはいないであろうが。
それからしばらくしてヨムンガルドが誕生した。
そのときの喜びようも昨日のことのように思い出される。
「だけどヨムンガルドだけのお父様じゃないのに……」
「それはヨムンガルドもわかってるよ」
くすくすくす。
そんな子供たちの会話をききつつおもわずくすくすとわらってしまう。
彼の不器用な愛情表現は彼女なりによく理解している。
「あの人はあなたたちをとても大切におもっているのはまちがいないから心配しなくても大丈夫よ。
  ただちょっと不器用なだけだもの」
くすくすくす。
人に愛されることを知らなかった。
オーディーンの気まぐれで神となったのちも、異種的存在、として他の神々から忌み嫌われていた。
その容姿がきれいであったことからも他の神々の嫉妬をかった。
だからこそ自分たち家族ができたことをどれほど彼が喜んでいたのかをスピカ…アングルホダはよく知っている。
家族をまもるために理不尽な要求を多々とのむことがあっても、それらすべては家族…自分たちを守るためであったことも。
それでも自分たちには心配かけまいとして気丈に振舞っていた大切な人。
「僕としてはダディにたよってもらいたいよ。ダディ。いつも一人でかかえこむんだもん」
「あのひとはあなたたちに心配をかけたくないのよ」
それは自分にもいえること。
自分にも子供たちにも心配をかけまいといつも一人で何とかしようとする。
それが彼、ロキ、という存在。
広い露天風呂なのに今この場にいるのはスピカとヘルとそしてフェンリルのみ。
何しろここは女フロ。
ゆえにほとんどの女性客はロキの姿を探し歩いてフロにはいるどころではない。
何しろロキの姿はみるだけでもかなりの目の保養、ともいえる姿なのだから。
もっとも携帯で写真をとろうにも携帯がうごかずに写真がとれないのもまたお約束。
本来、神々といった存在をカタチあるものにとどめることなどはできないのだから。
繭良のデジカメに残っていたのはあくまでもとある干渉があったからに過ぎないのだから。

「しかし。ロキ様。女性体になられてもさすがですね」
「そう?」
「はい!さすがロキ様ですっ!」
おもわず力説。
父親が女性に変化することに驚きはない。
そもそも彼は主神オーディンと同等の力をもつ神なのだから。
そしてまた父の得意技は様々な存在に変化することでもあるのだから。
「きづいてます?さきほどから背後に男性陣までもがついてきてますよ?」
一緒にあるいている自分に羨望と嫉妬のまなざしが向けられているのも何だかとてもここちよい。
これが自分の尊敬する父親です!
と声を大にしていいたい気分。
ふわり、とクセのある髪質をカタまでのばしたスタイル抜群な美少女。
歳のころは二十歳そこそこかその前後くらい。
ロキの本来の姿が二十歳前後くらいにしかみえない姿であることから年相応、ともいえるのかもしれないが。
「ほんっと、鬱陶しいよね。まあ別に害はないからいいけど。しかし釣りをするのにはジャマ、だよね」
くすくすと笑いながらもそんなことを言い放つ。
「手をつなごっか。ヨムンガルド」
「え?は、はいっ!」
父親からそういわれて舞い上がらないわけはない。
しかも人のときの仮のなでなく本名で呼ばれればなおさら舞い上がる、というもの。
このあたりが兄や姉にファザコン、といわれるゆえんなのだが姉も兄も似たり寄ったりだということをロキの子供たちは気付いていない。
「そういえばまだ君が小さいころよく自分もみんなと手をつなぐ~!ってさわいでたよねぇ」
くすくすくす。
生まれたときはちいさな、ちいさな蛇だった。
とてもかわいい、とおもったのを今でもよく覚えている。
そして弟がうまれたことを二人の子供がとびあがらんばかりに喜んでいたことを。
「うっ。…ロキ様、いつの話ですか。昔の話をもちださないでくださいよ……」
漠然とだが記憶している。
まだ幼き日。
家族ででかけるときにいつも手をつないでいる姉がうらやましかった。
兄は常に父親、もしくは母親にだっこされており、姉は姉で常にどちらかと手をつないでいた。
それで自分の身体をひっしにのばし、父や母、そして兄たちとつながろうとしたのを漠然とだが覚えている。
とても幸せな日々。
成長するに従い、マフラーのごとくに全員の首にまきついてお出かけていた記憶もある。
父がいないとき、体の腐食を痛がる姉を兄といっしょに痛みをやわらげようとなめていた日々。
そんな日々が一転、ある日をさかいに一人さみしい海の底にとなげやられてしまった。
自分のときの理由はその姿が神々に恐怖をあたえる、という不可解な理由で。
冷たくくらい海の底でもそれでもさみしくも必死に耐えたのは他ならない父親の存在があったからこそ。
絶対にオーディーンを説得して助け出すから。
その言葉があったからこそ頑張れた。
両親がいて兄と姉がいて、全員がそろっていた大切な時。
いつかは再び家族全員が暮らせるその日を夢にみて。
その永い、永い手のとどかなかった夢が今では現実になっている。
姉であるヘル、そして母が死んだときにその夢は二度とかなわない。
そうおもっていた。
だけども奇跡がおきた。
まあ、あのとき自分を刺したのが姉のヘルとはすぐにはきづかなかったが。
気がついたのは父親であるロキがさみしそうな表情をしていたとき。
そのときすとん、と理解してしまった。
姉はさみしさのあまり体に負担がかかるのをおして人間界にきたのだ、と。
母もすでに亡くなっておりその魂をオーディーンに利用されたのだ、とスピカがきえてしまったときにわかってしまった。
だからこそいまのこの現実が夢ではないか、とおもうことがある。
そもそもかの冷たい海の底から父親が救い出してこの人間界につれてきてくれたときから夢はずっと続いている。
何よりも望んでいたもの。
それは家族がそろって幸せであること。
それがヨムンガルドの望み。
そしてその望みはロキの望みでもある。
前世であるウードガルザロキの記憶までよみがえっている今としては余計に家族を大切にしたい、とおもう。
かつての自分はひとりっきり、だとおもっていた。
オーディーンに拾われたあともとてもさみしくてさみしくて…
そしてそのさみしさを共有する大切な人ができた。
その大切な人との間に子供が生まれたときの喜びようは言葉にいいあらわせるものではない。
ロキにとってはどんなに大きくなってもやはり子供たちは大切なかわいいまだ小さいわが子。
その実力が神界の上位を占めるほどに強大であろうともロキにとっては保護すべき大切な子供。
「だけど、ほんっと大きくなったよねぇ。まだまだ子供だけど」
「ロキ様ぁぁ~……」
くすくすくす。
息子のそんな姿をみておもわずくすくすと笑みがもれる。
いいつつもちらり、と後ろをむいてかるくパチン、と手をならす。
それにともないついてきていた男たち全員が幻術にととらわれる。
ヨムンガルドにとっても、つながれた手がとてもここちよい。
「さて、と。そろそろ本格的に釣りをしよっか」
「はい」
かすかに感じる悪意。
邪気に近いが邪気とはことなる、しいて言えば瘴気にちかいもの。
もっとも、瘴気よりも邪気のほうがタチがわるいのだが、それらの邪気の主ともいえる存在がロキである。
ゆえに恐れる必要性などはまったくない。
あえてそれらが感じる方向にと進んでゆく。
背後の男たちはロキの創り出した幻術にあっさりとだまされてあさってのほうにとむかっていっている。
「今までの出来事を統合すると男性づれの女性がよくねらわれているっぽいからね」
おそらく『それ』は男性がパニックになるのを見て楽しむ性質をももっているのかもしれない。
もしくはそのときに発生する人の心の負の感情を喰らっているか。
負の力は生の力よりもたしかにかなり力をももってはいるが使いようによってはその魂そのものがひこずられてしまう。
ロキがそれらの王ともいえる邪神でいられるのは他ならないオーディーンの血をあたえられているがゆえ。
無から有をつくりだす創造の力をもつ血を備えているからに他ならない。
「しかし。この二層世界も混雑してきてますよねぇ」
人間たちがさまざまな存在を生み出してしまったがゆえに様々な場所との壁が薄くなっているのも事実。
真実、第二層に属している小人の国、黒い妖精の国、巨人の国との境目はあってなきがごとし。
ゆえにその壁があるときつながってしまい人間界にそれらの存在が現れることもしばしば。
人間たちが悪魔、と呼び称している中の大半は黒い妖精の国の存在であることを人々は知らない。
また、黒い妖精の国の中に魔界なども存在していたりするのであるいみ人間たちの言い伝えも馬鹿にはならない。
また精霊界、というのもたしかに存在してはいるのだがそれらは肉体の束縛から解放された存在が精霊として世界を作り上げた、ともいえる。
「この調子で人間がおごりたかぶってこの地上をまた傷つけるようだと以前のように浄化しないといけないかもね」
それでなくても以前のようにヴァルキュリアに導かれる心強き人、というものが今の地上には見当たらない。
まあもうわざわざミドガルドから戦士を選び出す必要性もさらさらないであろうが。
天界の再生と同時に冥界にいた彼らの魂をも輪廻の輪にのせて解放したことをロキはヘルからきいて知っている。
それで数多の命が失われるとしてもこのまま世界樹の一部がダメになるよりはるかによい。
世界樹と地球は密接なかかわりをみせているのだから。
知識が自分たちと結び付けて考える前に手をうたねば面倒なことにもなりかねない。
人の欲望ははてしなく広い。
まあロキからしてみれば数億という人が定めた歳月などまったくもって関係ないのではあるが。
なすがままにしておいても人類はこのままだとかってに滅びる。
それから地上を浄化しても問題はない。
そう、今のところは。
「まあラグナログによって壁が壊されたのも事実だけど、その波動で大多数の存在も死に絶えたからねぇ」
あまりに冥界がいっきに溢れたこともありヘルはそのまま輪廻にとのっけたらしい。
自分の勉強の時間を割くのがいやでじぶんなりに冥界の仕組みはすでに整えている。
もっともその仕組みをつくるのにも父親であるロキの力をだいぶかりて創り出していたりするのだが。
ロキの中にある創造の力は伊達ではない。
あのとき自分が世界樹をささえなければ全体的に大打撃をうけてたであろう。
そうしたのは子供たちを、家族を、大切な人達を守りたかったから。
オーディーンの死亡とともに流れ込んできたオーディーンのもつすべての知識。
そしてその力を自分がうけついだ、ということも理解した。
だからすばやくその力を発動させた。
神界のバランスが崩れておしつぶされそうになっていた子供たちを助け出したのも他ならないロキ自身。
見守る位置に人間界を選んだのは上も下をも見通せしかもあまりいても問題にならない場所だったから。
かの地では不思議なことがあっても人というものは信じようとしないので隠れ住むのには都合がいい。
それがながきにわたる人間界…ミドガルドの生活の中でロキが学んだ真実。
「あ。たしかロキ様。この先にお店があるみたいですよ。何かのまれますか?」
「そうだね。しばらく歩きまわるし、何かかおっか」
「では私がかってきます。ロキ様は何がのみたいですか?」
「まあどんなものがあるのか、によるしね。じゃ、いこっか」
「はい。あ、姉さんや兄さんやスピカさんにもお土産かわないと」
「…それはあとでいいとおもうよ」
つくづく思う。
ほんっとこの生真面目さは誰ににたんだか、と。
自分はここまで生真面目ではない、とおもう。
そうおもっているのはあくまでもロキであり、スピカにいわせるとロキはかなり生真面目なのだが。
裏表のある性格もまた確実に子供たちは父親からしっかりとその二面性を受け継いでいることをロキは気付いていない。
心を許しているものにとことん甘くなる面とそして敵対してくるものへの非情なまでの面。
その二面性をしっかりと子供たちがうけついでいることをロキは気付いていない。
何しろ当人ですらそんな二面性をもっている、などと無自覚なのだから気付かないのも当然。
とはアングルホダの言い分。
「あ、おみせあった。すいませ~ん」
そんな会話をしつつも歩いている最中、やがてその先にちょっとした小さな露店のようなお店を発見する。
今まで森の中の道をあるいていたのだが視界も開け、そこはちょっとした公園のようにとなっている。
「おや。いらっしゃい。この時期にカップルとは珍しいねぇ。最近はこのあたりはめっきりすくなくなってるのに」
商売あがったりだよ、と言外にいいつつもにこやかに対応してくる店の店主。
「あ。アイスクリームがある。闇野君は何がいい?」
「え?ロキ様。私がはらいますから」
「いいからいいから。え~とバニラとストロベリーをお願いします」
この息子は小さいころからかなり苺が大好物。
もっとも天界におけるそれと人間界のそれとでは味はことなるが。
天界で彼がスキだった果物に味にそれがよくにているからに他ならない。
ぱっとみため、ヨムンガルドこと闇野もロキほどではないにしろかなりハンサム。
人間界においてはかなり美青年、の部類にはいるであろう。
そしてロキの女性体。
これもやはり男性のとき同様にかなりの美女。
あるいみかなり美男美女のカップルで第三者からみればかなりの目の保養。
かつて天界においてフレイヤがロキに告白しなかったのもまた女性になったロキが自分より美人だった。
という理由からプライドがジャマをして告白できなかったのだが。
そのことをロキは知るよしもない。
「はいよ。おまけしとくね」
「ありがとうございます♡」
よもや本当の親子とはおもいもせずにほほえましくみつつも、いいつつ機械を操作してソフトクリームを絞り出す。
「はい。闇野君」
「すいません。ありがとうございます」
何だか男性のほうがかなり丁寧語でしかも女性のほうは君づけ。
何ともほほえましい初々しいカップルさんだねぇ。
そんなことをおもい目を細めつつも、
「今の時期ならこの先の湖がとてもきれいだよ。でも暗がりには近づかないようにね。
  カレシ、こんなかわいらしい子、しっかりとそばでまもってあげるんだよ?」
「?彼?そ、そんな私とロキ様はそんな関係では!」
一瞬、何をいわれたかわからずに、その言葉を理解しておもいっきりあわてふためく闇野の姿。
うろたえている様もとても初々しい。
「かわいいねぇ」
「あ、そうおもいますよね?闇野君、とってもかわいいでしょ?」
おもわず親ばかモードぶりを発揮するのは仕方がないのかもしれない。
「ロキ様~」
くすくすくす。
情けない声をだしている息子がとても愛らしい。
はたからみれば何とも初々しいばかっぷる、にしかみえないのも事実なのだが……
「はい。闇野君。闇野君はこっちね」
「ロキ様。あ、ありがとうございますっ!」
「あとでスピカとフェンリルとヘルにもお土産にアイスクリームかってかえろうね」
「はいっ!」
自分だけ父親に何かかってもらう、というのも何だか姉や兄たちに悪い気がしていたのでその言葉に大きくうなづく。
「暗くならないうちにもどるんだよ~」
にこり。
そういう店主に返事のかわりににこやかにほほ笑み返すロキ。
そのままソフトクリームをそれぞれ手にもちいわれた湖のほうにと歩きだす二人の姿。
そんな二人の姿をみおくりつつも、
「今のご時世にもあんな初々しい男の子がいたんだねぇ」
様づけをしているのがかなり気にはなるが。
どうみても歳は男性のほうが上であった。
服装もかなりこざっぱりとした執事のようなスーツ姿でもあることからどこかいいところのおぼっちゃまなのかもしれない。
何しろこのあたりはお金持ちなどがけっこう集まる穴場、でもあるのだから。
たがいにたがいを思いやっているのは視線でわかる。
よもやそれが親子であるがゆえ、などとは当然彼女は夢にも思わない――

あむあむ、ぺろぺろ。
くす。
にこにこしつつもソフトクリームをほうばるすがたは幼い時を連想させる。
そんな様子におもわずくすっと笑みがもれる。
「?ロキ様?」
「何でもないよ。あ、こら。口元についてるよ?」
いいつつハンカチをとりだして口元についているソフトクリームをかるくふいてやる。
ほんっといつまでたっても子供だよね。
どれだけ体がおおきくなろうとも、やはりロキにとっては子供、なのである。
ざわっ。
「ロキ様!」
「釣れたかな?」
ロキが闇野の口元についたソフトクリームをぬぐうと同時、瞬間周囲の空気が変化する。
殺気とはちがう別のもの。
どちらかといえば嫉妬にちかい感情がむけられている。
「闇野君。打ち合わせ通りにね」
「は、はい」
その変化にまったく気づいてるそぶりを見せないようにし、
「じゃ、そこでまっててね」
その先にある公衆トイレのほうにむかって一人歩きだすロキの姿。
しっかりとのこっているソフトクリームを闇野に預けるのは忘れない。
はたからみれば女の子が男の子にたべかけのアイスを預けて移動しているようにみえる。
この先にあるトイレは薄暗い位置にとあり、ここ最近は利用者はかぎりなくなきに等しい。
この付近で事故が多発したこともあり街頭をつけてはいるがそれほどまだ暗くはないので街灯も点灯していない。
そもそも時刻はまだ四時過ぎ、なのだから内臓されている機械が反応するはずもない。
大体、不思議と人間の女性、というものは生理現象がおこったときに一人で行動するか、もしくは連れ添って行動する。
それが異性と行動しているときは大体一人で行動する不可思議なところがある。
それは照れと恥ずかしさからゆえの行動。
雰囲気の変化にまったくきづいてないそぶりをしてその公衆トイレのほうにとむかってゆく。
ここのトイレはちょうど木々にはばまれて公園の小道の一角からは死角になっている位置にとある。
とはいえそれほど離れておらず走ればすぐに整備された小道にとでれる。
設計者いわく、自然の中での自然な状況で、という概念のもとこの公園はつくられたらしい。
とりあえず相手の目をくらますためにひとまず個室へ。
異なる存在は確実にこの作戦にひっかかって近くまできているのが感じ取れる。
気配はあくまで人のそれとして弱者を装うことが何よりも必要。
もっともロキのような神格の高い存在が気配を解放したらとんでもないことになる。
そのことをよくよく理解しているから常に気配は人のそれとかわりなくしているのも事実。
少しのバランスの狂いでもこのミドガルドの世界は確実に反応する世界なのだから。
「ロキ様。大丈夫でしょうか?」
父の提案は自分がおとりとなり、このあたりに巣くっている輩をおびき出し黒幕を聞きだすこと。
かよわい女性のふりをしていれば確実にくらいついてくる。
さらにいえばスキをみせれば確実に。
父親の力を信じていないわけではない。
むしろ父親にかてるものなどいない、そう断言できる。
が、子供としては心配なものは心配なのである。
何よりも怖いのは父を…家族を失うこと。
ロキは絶対にそんな心配させるようなそぶりを子供たちにはみせることはない。
それでも、自分たちも父親を助けられるのだからたよってほしい、と強くおもう。
父が自分たちを愛してくれているのと同様に自分たちもまた父を愛しているのだから。

ばさっ。
鏡の前にたつと同時に聞こえる背後の羽音。
鏡には何もうつってはいない。
が、しかしこのトイレは合わせ鏡のような構成になっており合わせ鏡をおもわせる壁にうつった景色が鏡に写りこむ。
そこには黒き羽をもった二本足の何か、がうつりこんでいる。
そのまま表面上はおびえたように向きをかえて後ろに数歩退くロキ。
こういうときのひと、というのはいきなり声がでなくなる。
状況が理解できなくなったとき、人は判断力をうしない思考力を停止する。
それらは自分なりの努力でどうにかできるのだがそうしている人間などほんの一部にすぎない。
「人にしてはすんだ魂の持主だ。さぞかしあのお方もよろこばれることだろう」
くぐもった声なき声でそんなことをいってくるそれ。
おそらく人には聞き取れない言葉であろうが、神界に属し、しかも神であるロキに通じない言葉などない。
確実に餌を演じるためにあえて澄み切った魂のようにみせかけていたのはほかならないロキ自身なのだから。
ゆっくりと後ろに下がるロキに近づくようにそれもまたロキのほうにと近づいてくる。
もうすこし。
すでにこの場所にはロキの仕掛けた罠がはってある。
やがてソレがさきほどまでロキがたっていた位置にと移動し、ロキはハタメには壁際に追い詰められたような格好にとなってしまう。
しかしそれらすべては計算のうち。
というかこうあっさりとだまされるかなぁ?
すこしばかり拍子抜け。
ま、いっか。
『…な!?』
ロキがつぶやくと同時、建物そのものが輝き…実際にはそのようにソレが感じただけなのだが。
その輝きは瞬く間にソレ自身を飲み込みやがて気付けば鏡の中に押し込められていたりする。
それらはほんの一瞬の出来事。
ゆえに異形の存在が驚愕の声を発したときにはすでに遅し。
「ほんっと下っ端だったんだね。まあゆっくりとこれから黒幕を聞き出すからいいけど」
空中に浮かぶ形のそれを手にとりおもわずつぶやくロキ。
「ロキ様。大丈夫ですか!?」
ロキが周囲に結界を張っていたことに気がついていなかったのがソレの運のつき。
一体何がおこったというのだろう。
目の前の女性は何ごともなかったかのように淡々と何やらいっているのが見て取れる。
周囲をみわたせども何かに閉じ込められたように身動きすらままならない。
ロキがつぶやくとほぼ同時に建物の中にとはいってくる青年、闇野の姿。
「下級悪魔シギュだったよ。こいつは確か不死者のエリジェベートにつかえていたはずなんだけどねぇ」
人間界では流血の伯爵夫人としても名前がとおっている人物である。
彼女は死後はその執着心から不死者となりしばらくは地上をさまよっていた。
「だけどオーディンにいわれてヴァルキュリアの手伝いで彼女は封じたはずなんだけど?」
そう、たしかに封じたのは他ならない自分自身。
人間界の中においては冤罪説など面白い節がながれていたりもするらしいが、真実は一つ。
ルーマニアのあの地で何かがあったとしか思えない。
「たしか人間界では数百年マエのことでしたっけ?」
「三百年ばかり前のことだね」
そんな会話が聞こえてくる。
そもそも一体この女性は『何』なのか理解不能。
こんな技、聞いたことも見たこともない。
そもそも悪魔である自分をこのように封じることなど普通の人間ができるとはおもえない。
よくて何かを媒介にして封じたりするのはできるとしても、何もない空間に鏡のようなものをつくりだし、
そこに封印する、などとは。
そういえば、ヴァルキュリアも最近何かがおかしい、とはいってたよな。
そんなことをふと思う。
今おもえばすでにあのとき、オーディンはバルドルと精神面で戦っていたのであろう。
あの後、オーディンにいわれてヘイムダルの右目を奪いオーディンに献上した。
そして自らもまた人間界にと追放された。
同じ容姿で歳をとらない存在がずっと存在しているのは人間世界においてはありえないこと。
ゆえに定期的にその位置を変えて人間界において魔を落としていたロキ。
もっとも、封印された悪魔シギュはそんなことを知るよしもない。
「そんなにたってるんですか?」
「みたいだね」
何だか途方もない会話をこの二人はしてないか?
おそらくシギュだけでなく第三者がきいてもそう思うだろう。
そもそも、数百年マエのことを経験しているかのようにいっているのはこれいかに。
さらにいえば自分の主をしっているこの女性はいったい全体何なのか。
「海の底では時間の概念なんてものはありませんでしたからねぇ。父上がきてくれるのだけが唯一の楽しみでしたし」
どれだけの時を過ごしていたのかなんてわからない。
気付けば自分の体は大地を取り巻くほどにと大きくなっていた。
そんな自分を退治しようとしてくる神々から身を守る力をいやおうながらに身に付けたかつての自分。
だけども今の自分はかつての自由の利かない自分と異なり自由に動ける。
しかもずっと望んでいた家族も今は共にいる。
「大きさが問題ならマホウで姿かえるから、と幾度も提案したんだけどうけいれてもらえなくて。
  さみしい思いをさせてごめんね。ヨムンガルド」
「いえ!ロキ様がわるいのではありませんからっ!」
それだけはしっかりといえる。
絶対に。
「とりあえず。何でこいつがこんなところにいるのかを聞き出さないとね」
『…大人しく話す、とおもってか?』
悪魔のなにかけてそんなことは絶対にありえない。
本能的にもかなわない、と警告が発せられている。
だがしかし主を裏切るなどとは自分の存在を否定するようなもの。
ゆえにこそ震える声をどうにかころし気丈にも鏡の中から言い放つ。
「ダレも君が素直に話す、とはおもってないよ。聞き出す以外にも知るのは方法はあるんだから」
そんなソレにむかってにこやかにほほ笑みかけているロキ。
そう、言わないのならば『知れば』いいだけのこと。
その方法もロキにとっては数多とあるのだから……


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あとがき:
さて、さらっとロキが暴露している今回の事件の黒幕さん。
ひとまずここに注記をば。(参照wikiより)
バートリ・エルジェベート(1560~1614)
パプスブルク家の血筋をうけている女公爵。
トランシルヴァニアの裕福なバートリ家の女主人。
当時、オスマン帝国と戦争状態にあり、彼女の夫は出撃などで留守がちであった。
その当時から様々な残虐行為をしていた、といわれている人物。
夫の死後、チェイテ白(スロバキア領)にその居住を移した。
当初は領内の農奴の娘を誘拐したりして惨殺していたが、やがて下級貴族の娘を「礼儀作法を習わせる」と誘い出し、
残虐行為は貴族の娘にも及ぶようになった。
残虐行為は惨く、歳若い娘を鉄の処女で殺しその血を浴びたり、
拷問器具で指を切断し苦痛な表情を見て笑ったり、使用人に命じ娘の皮膚を切り裂いたり、
性器や膣を取り出し、それを見て興奮しだすなど、性癖異常者だったといわれている。
地元のルター派の牧師の告発により発覚。
役人達は薄々事態に気付いていたが、バートリ家の名誉を考慮し、内密にしていたようである。
しかし貴族の娘に被害が及ぶようになると、ハンガリー王家(ハプスブルク家)でもこの事件が噂され始め、
1610年に監禁されていた娘の1人が脱走したことにより、ついに捜査が行われることになった。
城に入った役人達は、多くの残虐行為が行われた死体と衰弱した若干の生存者を発見した。
また、城のあちこちに多くの死体が埋められていることも後に明らかになった
1611年に裁判が行われた。
なお、これらはすべて当時は女性の地位などは認めない存在も多々といたこともありすべては冤罪では、
という説もある。
何しろ魔女節などをでっちあげては女性たちの財産を教会がらみで搾取していた時代であるので
イチガイにどちらが真実か、とは言い難い。
が、裁判が行われ彼女という人物が存在した、というのは事実である。

以上、説明をばv
ではまた次回にてvv

2009年6月2日(火)某日

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