まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
今回は全体的に客観的にさらっとながしていたりします。
アニメと原作では原作の設定のほうが面白いとおもいますし(こらまてや
まあ、虚言に惑わされてすぐに何でも信じないように、という典型的な例ですね(何が?
何はともあれゆくのですv
#########################################~第23話~
噂というか内容はすばやく浸透する。
特にほとんどの生徒がよく思っていない教師である。
抜き打ちテストがあるかもしれない。
そうきき行動しない生徒はまずいない。
いつのまにやら、遊戯の指摘した教科書の○Pというコマカイところまでが教室内部にひろまり、
それぞれがその指摘されたページを独自に丸暗記。
中には覚えきれないものもいるにはいるが、それでも何もしないよりはましである。
外れてだめもと。
あっていたら歴史の教師の鼻をあかすことができる。
そんな思いをもって挑んだ昼からの午後の授業の五時限目。
「…しかし、遊戯のいったところドンピシャ、だったな」
このあたり、と指摘された場所がことごとく出てきたのにはたまげたが。
「え?でもあれを教えてくれたのはお兄ちゃんだもん」
遊戯が兄、と呼んでいる人物は確か遊戯の中の別人格だ、そう把握している城之内。
まあ一概に間違っている、とはいえない解釈なのだが。
「…もうひとりのお前って……」
さらっという遊戯の言葉に思わず絶句。
そういえば眉唾の噂とばかりおもっていたが遊戯は海外の大学卒業試験すらうかっているとか何とか。
そんなことがふと頭をよぎる。
つまりはその気になれば高校程度のテストなどは何でもないのかもしれない。
…ハタメにはまったくそのようにみえないが。
五時限目もおわり、次の時間は体育。
女子と男子はそれぞれにわかれて着替えを行い休み時間中に着替えて教室の外へ。
「そういえば。男子は柔道ってきいたけど。どうなるんだろ?」
「どうなるって、いいよな~。女子は。テニス、だなんて」
女子は別の部屋にて着替えている。
遊戯の言葉の意味がわからずにはき捨てるようにといっている城之内。
何しろ柔道着ははっきりいってきているだけでも蒸し暑い。
それでなくても体育館の中は冷房がきいているとかではなく、来ているだけでも汗だくになってしまう。
それぞれが授業で使う、ということもあり各自で柔道着は購入するようにとなっている。
それゆえに肩に丸めた柔道着をもちつつもおもわず愚痴る。
「そうか?柔道はいいぞ?男子たるもの強くなければいけないしな」
授業程度の柔道で強くなれるかどうかは疑問がある。
城之内のぼやきを訂正するかのようにこたえている本田。
と。
「何をぼやいてるのよ。城之内」
「あ、杏達も着替え終わったの?」
みれば別の教室で着替え終わったらしい杏と美穂がこちらにと歩いてくるのが目にとまる。
杏達も遊戯に気付いたらしく愚痴をいっている城之内にと語りかけている杏の姿。
ちらほらと他の生徒もそれぞれに校庭にとむかっているのが目にはいる。
「遊戯君、今度は別なの占ってね♪」
語尾が弾んでいるのはおそらく誰の気のせいでもないであろう。
「別にいいけど。だけど美穂ちゃん、占いはただの道しるべであって自分の未来は自分で切り開いていくものだよ。
まあ危険を避けるために占いを活用する、という方法もあるけど。何事もほどほどがいいんだよ」
でもそれで行動を左右されていればどうにもならない。
占いに気をとられて身動きができなくなっている依存症の人間がいるのが何よりの証拠。
「そうそう。遊戯のいうとおり。結局いきつくところは自分の未来は自分で切り開くもの、だしね」
その時々に進む方向に迷ったときなどに占いなどにたよったとしても結局決めるのは自分自身の意思の力。
どのような選択をするにしても結局は自分の意思で選ばなければ絶対に後悔してしまう。
廊下にて彼らがそんな話をしているそんな最中。
「ねえねえ、きいてきいて!男子の今日の柔道、中止になって急遽バスケットだって」
一人の別のクラスメートが何やら息せき切って走ってくる。
「?何で?」
そんな彼女の言葉に思わずきょとん、とした声をだしている美穂であるが。
「それは私が説明しましょう」
そんな彼らの背後から聞こえてくる声がひとつ。
みればいつのまに教室からでたのか、女生徒達を従えた狐倉乃の姿が目にはいる。
「私の予言が的中したのですよ」
「「予言?」」
その言葉に顔を見合わせている城之内と本田。
そんな彼らをさくっとムシし、
「真崎杏さん。あなた、自分の未来に興味はないんですか?」
「は?」
いきなり杏を名指しして問いかけている狐倉乃であるが。
「いえね。女子生徒の中で私のところにこないのはあなたと野坂美穂くらいですからね。
まあ人生をなめきっている野坂美穂は仕方ないとして。なぜあなたがこないのかちょっときになったものでね」
ものはいいよう。
正確にいえば取り巻きの女性達にあきたので杏にちょっかいをかけようとしているのだが。
「何で、っていわれても。悪いけど私、そういうの信じないんだ。未来は自分でつくるもの、でしょ?」
それに信じられる忠告をしてくれる存在がそばにいる。
ゆえに怪しげな占いに頼る必要はまったくない。
昔から常に危険なときには必ず助けてくれた存在が近くにいればなおさらに。
「無礼な!狐倉乃様の力を疑うというのか!?さきほども狐倉乃様の予言が的中したというのにっ!」
杏の言葉に抗議の声をあげようとする生徒を制止しつつも杏を見据える狐倉乃。
「あのねぇ。信じる信じないは勝手でしょ?人の概念を人に押し付けないでよね」
杏の意見は至極もっとも。
そもそもそんなものは他人におしつけられるものではない。
「それに!そういう安易な心酔ばかりしてるとへんな宗教団体とかにひっかかるわよ?」
そもそも世の中には人の不安をあおりまくってお金を巻き上げる宗教団体が多数ある。
変な洗脳を施し、人を傷つけたりする宗教もあるのだからたまったものではない。
しかし信じ切っている人に何を意見しても人は聞く耳をもたない。
馬の耳に念仏、とはよくいったもの。
つまりは自分が目を覚ますしか方法はないのだから。
「ねえねえ。このマントの下ってどうなってるの?ねえねえ?せっかくだからみせてよ」
そんな中、いつもマントを羽織っている、といわれる狐倉乃のマントの下が気になりめくろうとしている美穂。
昼休みにマントの後ろに隠してあった紙のほとんどは生徒達にと見つかった。
それらの切り抜けをするためにあの予言をいってそれを実行した。
ゆえにこそ彼の予言がインチキだという疑念は一度は晴れているらしい。
「よ、よさないか!人生をなめきっているものに用はないっ!」
さり気に本音が漏れだしていることに彼を取り巻く女性たちはまったくもって気付いていない。
「真崎さん。あなたの知らないところであなたを見守っている男性がいますよ。
詳しく知りたければ私のところにいらっしゃい。あなたは私にその身をまかせることになるでしょう」
自分に興味を示さない女性などはありえないしありえてはならない。
女性、というものは占いとかそういった分野が好きなはずなのだから。
ゆえにこそ思わせぶりなことをいって杏の興味を引こうとする。
そういわれて興味を示さない女性はいない。
そう狐倉乃は信じている。
それが人にもよる、というのを彼は気づいてすらいない。
「ねえ、ちょっとみせてよっ」
相手が隠そうとすればするほど興味がでる。
ゆえにマントの下をまくろうとしている美穂の姿。
何とも無邪気といえば無邪気な行動。
「ええい!狐倉乃様に触れるでないっ!」
とりまきの側近きどりの女性がそんな美穂を払いのけようとしていたりするのが目にはいる。
「美穂ちゃん!そんなやつをかまわないで、みたいのなら俺のをいくらでもっ!」
「って、お前はあほかぁっ!廊下で体育着を脱ごうとするやつがいるかぁぁっ!」
美穂が狐倉乃をかまうのをみて、ばっと自分の服に手をかけて脱ごうとしている本田。
そしてそんな本田に突っ込みをいれている城之内。
何やら狐倉乃の周りが騒がしい。
「…あほくさ。ばかばかしい。いこ、遊戯」
「あ、うん。外に集合だよね」
説明されてないのにこたえる遊戯。
「そうなの?」
「だってさ」
「へ~」
遊戯が聞いてもいないことを言い当てることなどはザラ。
遊戯いわく、何でも彼とともにいるマハードさんなどが教えてくれるらしい。
昔からのことなので杏は別にそのことに驚きもしない。
「でもどうして男子の柔道は中止になったのかしら?」
「そういやどうしてだろ?何で?お兄ちゃん?」
二人して靴箱にむかっていきつつもそんな会話をしている遊戯と杏。
本田達はどうやらきそうにない。
いまだに後ろのほうで狐倉乃と騒いでいるのがみてとれる。
『誰、とはいわないが馬鹿なやつが体育館の照明を落としてな』
ちなみに彼の様子を視ていたマナが懲らしめるために、とばかりに体育館の防犯カメラの向きを変えているのはユウギのみが知る事実。
それゆえに誰が照明を切り落としたのか、というのがばっちり映っていたりするのだが。
「お兄ちゃんがいうには誰かが体育館の照明を切っておとしたんだって。危ないことをするよね~」
「誰よ。それ、そんなことをするのは」
遊戯の言葉に思わず立ち止り唖然として思わず問いかける。
というか危ないことこの上ない。
確か前の時間もどこかのクラスが授業をしていたはずである。
けが人がでなかったのが奇跡である。
もっとも、人にあたらなかったのは様子をみていたマナが手を加えたから人には当たらなかったのであるが。
それはユウギのみが知る事実。
「お兄ちゃんの様子からして知ってるみたいだけど。まあ犯人はすぐにつかまるんじゃないの?」
そもそも最近いろいろあったことから外部の侵入に関しては学校関係者はビンカンになっている。
それに何よりも体育館には防犯カメラも備え付けてある。
それはよく体育館の窓ガラスが割られるためにと設置されているものなのだが。
「まったく。先生達がみてみぬふりをするからつけ上がる人はつけあがるのよね。うちの学校って」
入学してさほどたたないが、通学していてわかるものもある。
先生達はあまりに悪い生徒はほうっておき、あまり文句を言わなそうな生徒ばかりを注意している。
このご時世、注意をして逆切れされて怪我を負う、という事件が日常化していることからして先生達の気持はわからなくもないが。
しかし、高校、という学びの場としてその態度はよくはない。
自由な校風がウリといえば聞こえばいいが、やはりルールは大切、である。
「そうだ。そういえばさ。遊戯。今日一緒にかえろ」
「え?バイトは?」
確か以前のバーガーワールドはやめて別の場所でアルバイトを始めた、とはきいている。
それゆえの問いかけ。
アルバイトは原則禁止、ではあるがきちんと許可をとれば可能となる。
ちなみに杏はただいまそのアルバイト許可を申請中。
いまだに結果はでないものの、ものはいいよう。
学費を稼ぐため、という名目を付け加えたところ学校的にはお目こぼし扱いとなっている。
ちなみに、その理由で城之内のアルバイトも許可はされている。
彼の父親が働いておらず自力で働きながらも中学の学費を賄っていた。
というのは問診票にも中学の担任がひとこと書き添えてくれている結果、特別許可が下りている。
「今日はお休み。帰りに買い物につきあってくれる?」
「うん」
たわいのないかいわをしつつも二人は校庭にと出向いてゆくことしばし。
少し遅れて城之内達もまた外にとでてきているのが目にはいる。
ざわざわざわ。
校庭にでればすでに前の時間の出来事の話題で持ちきり。
「そういえばきいた?前の時間体育館の照明がいきなりおちたんだって。
昼休みに狐倉乃様が予言した『おそいくる光に注意しろ』っていう予言がまたあたったって騒ぎになってるんだって」
「上級生の子があやうく大けがをするところだったんだって」
「まさか、偶然でしょ」
「これってまさかこの町でエジプト展示会をしたその呪いの延長かな」
「ってそれってこわ~い!」
どうやら昨日の美術館館長の変死と今回の一件を結び付けて考えている生徒がいるらしい。
生徒達のそんな会話が耳にと届いてくる。
「はいはい。騒がないで。男子は本来は柔道でしたがバスケットボールに変更します」
すでに六時限目のチャイムはなっている。
騒ぐ生徒達をかるくいなして体育の担当の教師がそんなことをいってくる。
ちなみに他の職員達は体育館の点検を行っている今現在。
「う~。バスケットかぁ」
あまり目立つ行動はしたくない。
運動音痴、というわけでもないが何となくだがあまり目立つ行動をしないほうがいい、と何となくだがおもっている遊戯。
その気になれば遊戯の運動神経もユウギと同等なのでかなりの運動神経を誇っているのであるが。
無意識に本気をださない遊戯はそれを知るよしもない。
何よりも遊戯の体そのものの成長はユウギの力により止められている状況。
ゆえに反射神経なども多少なりとも抑えられている。
それらはすべて遊戯の体に負担をかけないがための処置。
「遊戯は優しすぎるんだよ。相手に遠慮して率先して行動してないだろ?」
そんな遊戯にいっている城之内。
あるいみその通り、ではある。
「でも怪我したらいたいよ?」
相手を傷つけたくはない。
「でも遊戯。オマエかなり運動神経はいいとおもうぞ?」
そもそも今まで彼が入ったチームは確かに負けてはいる。
いるが彼がボールなどを受け止められなかったことなど一度足りとてない。
ほとんどが相手にボールをすぐにとられてしまうがゆえに負けてしまう。
「そんなことないよ」
すぐに謙虚にでるのも遊戯のいいところ、といえばいいところなのではあるが。
それが逆に彼をさらに目立たなくさせているのもまた事実。
「さあ。チーム分けをするぞ!」
そんな会話の最中、教師の声が校庭にと響き渡ってゆく……
放課後。
「杏の買い物っておじさんの誕生日の買い物の相談かなぁ~?」
『たぶんそうだろうな』
たわいのない会話をしつつも帰り支度をして教室の外へ。
アレがアンズを狙っていることは判っている。
ゆえに待ち合わせ場所は門のところにと変えている。
そのかわりにマナに杏に変幻してもらい相手の動向をみることにしているユウギなのだが。
そのやり取りは遊戯は知らない。
「あれ?」
ふと廊下の真ん中にぽつん、と落ちている本が一冊。
「何でこんなところに本が?あ、これ資料室の本だ」
みれば資料室のタグがついている。
周囲をみても誰もない。
「しょうがないなぁ」
このままおいておく、というわけにはいかないであろう。
資料室には基本、いつでも生徒が誰でもはいれるようにとなっている。
それらは進学にしろ就職にしろ生徒の未来のためにと集められている。
この童美野高校は基本、ほとんどのものが進学を選ぶ。
進学して手堅く資格をとっておく。
このご時世、何があるかわからないが資格があってこまるものではない。
たしか資料室はとなりの棟。
渡り廊下を歩いてとなりの棟へ。
「え~と…このあたりかなぁ?」
いくつもある棚を調べながらも場所を探す。
『遊戯。気をつけろ』
「え?」
遊戯の背後から狐倉乃がついてきているのはわかっている。
すでにこの資料室には狐倉乃が仕掛けをほどこしている。
ワイヤーを利用して一気に棚の資料をしたにと落とす。
という何とも基本的な仕掛け。
ユウギが注意を促すと同時。
ぐらっ。
資料の数々が一気に雪崩のようにと崩れ落ちるものの、
ぴたっ。
そのままそれらの資料のすべては空中にて制止する。
「あ、マハードさん」
ふとみれば横に出現しているマハードが杖を構えているのが目にはいる。
『遊戯殿。御怪我はありませんか?』
「うん。大丈夫」
『御師匠様。罠の仕掛けはすべてとりおえました~』
視ればマナの手には仕掛けられていたとおもわしきワイヤーらしきものが握られている。
「でも一体何で?」
どうしてこんな場所にそんなものが仕掛けられているのであろう。
それゆえに首をかしげている遊戯。
遊戯は基本、人を疑うようなことはまずしない。
よもやあの狐倉乃が仕掛けた、などとは夢にもおもわない。
『とりあえず。あいつにはちょっと御仕置きが必要のようだな。遊戯。少しかわるぞ』
「え?あ、うん。杏のおじさんのプレゼント選ぶのもお兄ちゃんがする?」
自分よりはるかにユウギのほうがセンスがいい。
ふっ。
何か少しばかり勘違いをしている遊戯の台詞をきいてふっと笑みを浮かべた後、すっと意識を集中する。
カッ。
それと同時に遊戯の体が一瞬光にと包まれてゆく……
「さってと。あの人間がここにくるまでに間に合った」
罠を取り外して渡した後にそのままこの場所にと移動した。
そのまま幻影をまといある人物にと変化する。
はたからみればその姿は真崎杏そのもの。
「王子達に害を及ぼそうとしてたんだから容赦はいらないとおもうんだけどな~」
マナからすればおもいっきり仕置きしてもいい、とおもう。
しかし『王』からの頼みごとは杏の姿になって狐倉乃をひきとめておく、ということ。
本物の杏に害が及ばないようにするための処置。
杏にはちょっとした術をすでにかけており、他人の目からは一時みえないようにしていたりする。
ゆえに門のところで遊戯をまっている杏の姿は誰の目にもとまっていない。
「ヒヒヒ。真崎杏……ボクの予言した未来が今、訪れるのだ……」
資料室から走って教室にとやってきた。
すでに瞑想するから、といって取り巻きの女たちは先にと帰している。
真崎杏が校門からでていないのはひとまず確認済み。
それに何より、真崎杏と同じクラスメートの自分の信者に確認をとり教室で待ち合わせている。
というのは把握ずみ。
帰りの間近に待ち合わせ場所を変更したのでそのことは狐倉乃には伝わっていない。
案の定、教室には一人であの遊戯をまっているらしき真崎杏の姿。
用意しておいたクロロホルムの瓶を懐からとりだしてハンカチにその液体をしのばせる。
「真崎さん。…誰かと待ち合わせ、ですか?」
きた。
しかしこちらが待っていたことを気づかれてはならない。
もっとも幻影をまとっている以上、その表情の変化も術次第。
「狐倉乃くん。え、ええ……」
あくまでも杏らしく。
もっとも、この幻影はみるものがそのものがこうあるべき、という姿に視える、という形のものを多少アレンジしたもの。
「ひとつ予言をしましょう。その待ち人はここにはあらわれませんよ。でもね……
もっと素敵な人があらわれる。覚えているでしょう?さきほどの予言ですよ」
ふいっ。
そんな彼の言葉を無視してそっぽをむく。
顔をみていたらどうも【願い】に背いて自分で裁きたくなってしまう。
「ボクの予言は確実なんですよ。ほぉらあなたはこのボクに身をまかせることになる、といったでしょ?」
ぐっと【杏】の口元にとクロロホルムを押し当てる。
精霊である【マナ】に人間界の物質は関係ない。
ないが【アンズ】の姿を幻影としてまとっている以上、崩れ落ちるようにみせかけなければならない。
「ひ~ひっひっひっ!ボクに超能力がある限りどんな女だってボクのものだっ!永遠に人気者なんだ~!」
一人そんな自分に悦にひたり高らかにといいはなっている狐倉乃の姿。
「それはどうかな?」
「…何!?」
きいたことのない声。
しかし周囲には人の気配などなかったはずである。
周囲に人がいなかったのは確認済み。
声がしたほうをばっと振り向く。
「おまえは…遊戯!?」
…だよな?
何かが違う。
だけども何が違う、とはわからない。
わからないが何か知っている【武藤遊戯】とはどこか違う。
しかしその違いが狐倉乃にはわからない。
「残念だったな。俺への予言は外れたようだぜ。狐倉乃」
予言、という名をかりた予告。
「お前の予言はすべてインチキだ。火事も体育館の照明も全部お前が自分が演出していたに過ぎない。
超能力者をきどりたくて、な」
低く、それでいて有無を言わさない口調でいってくる。
ぐっ。
「な、何のことかな?」
そこまで見破られているとは。
しかしそれを認めるわけにはいかない。
そもそも自分は本当に超能力をもっているのだ。
「とぼけるならそれでもいいさ。狐倉乃、ゲームの時間だ」
「?ゲーム?だとぉ?」
どうも知っている武藤遊戯とは確実に違う。
しかし容貌はどうみても遊戯である。
遊戯はこんなに自身に満ち溢れた行動をとる人物ではなかったはずである。
目立たずおとなしい、いじめられ役がぴったりのようなそんな生徒であったはず。
「お前がもっていたクロロホルム。ま、これもお前からすればお前の超能力の一種、なんだろうが。
ゲームにはこれを使うことにする。オマエが勝てばお前が超能力者、だと認めてやるよ」
いわれてはっと懐をさぐる。
先ほどたしかに懐にしまったはず。
それなのにどうしてあの瓶が【遊戯】の手の中にあるのやら。
「ゲームのルールは至って簡単。机の上に何枚かの紙を重ねそのうえにクロロホルムの瓶をおく。
プレイヤーである俺とお前とが紙を交互に抜いてゆく。当然、瓶に触れてはならないぜ」
ふと気付けば先ほどまで気絶していたはずの真崎杏の姿が見当たらない。
しかも他に誰もいないはずなのにどうしてクロロホルムをおく机がすでに用意されているのやら。
何のことはない。
【王子】の役に立つことを何よりも喜びとしているマナである。
率先してそれらの用意をしたに他ならない。
精霊の姿は普通の人の目には視えるものではない。
それなりの魔力、もしくは霊力をもつものでなければ視ることは不可能。
いつのまにやら目の前に用意されているクロロホルムの入った瓶が置かれている机。
その瓶の下には数枚の紙がしっかりと置かれている。
「どちらかが床に瓶を落としたほうがまけ、だ。ま、その瞬間、敗者は無様にも眠りについているわけだが……」
もっとも、ユウギに至っては耐性があるのでそんなもので眠るなどはありえない。
闇のゲームは人の心の欲望を暴きだす。
「ふふふ。ボクにはみえるぞ~。君が床にはいつくばる姿が~」
『何をいってるのかしら?王子にかてると本気でおもってるの?こいつ?』
そんな狐倉乃の横であきれつつもそんなことをいっているマナ。
―マナ。手をだすんじゃないぞ?
精神のみでそんなマナにと話しかけるユウギ。
『は~い……』
釘をさされれば素直にいうことをきくしかない。
『あ。私アンズのところにいってきま~す』
相手に姿は視えないまでも声を伝えることは可能。
もしくは心の中に直接姿を視せることも可能ではある。
このままここにいたら絶対に何か手をだしたくなる。
それゆえにそのまま窓から外にとでてゆくマナの姿。
「ふっ。なら俺からやるぜ」
「おちろ~、おちろ~」
自分を馬鹿にした人物がその場で無様な姿をさらす。
それほど愉快なことはない。
ゆえにこそユウギに対してそんなことをいっている狐倉乃であるが、彼からすれば念をおくっているつもり。
しかし彼の力は妄想により生み出されたもの。
ゆえに本当に【力】をもつ【ユウギ】にかなうはずもない。
シュッ!
ユウギが紙を引くと同時、瓶はぐるぐると回りはするが机の上に安置されている様子はかわらない。
これらもすべてユウギの計算のうちであることに狐倉乃は気付かない。
「次はオマエの番だぜ」
「ふん。ボクが瓶を落とす光景はみえないよ」
いいつつも、しゅっと紙を引き抜く。
ぐるぐると瓶はまわるものの、机の上にあるままで落ちてはいない。
「ヒヒヒ…みろ!これも僕の超能力なのだ~!」
何やらそんなことをいっていたりするのだが。
彼は気付いていない。
すでにもう自分の心の欲望が表に表れている、ということに。
「次は俺の番、だな」
シュッ。
ぐらぐら…ピタリ。
ユウギが紙をひき、瓶がぐるぐると回転し机の端にと移動する。
狐倉乃は気付いていなかったが少しづつ机の端に瓶が移動していっていたことに。
少しでも力が加わればまちがいなく瓶は床にと落ちる位置。
「…!?」
そんな位置でぴたり、ととまるなどあり得ない。
ゆえにこそ目を見開き驚愕する。
「さぁて。どうする?これ以上紙を引き抜くことは不可能。だがひとつだけ紙を抜き取る方法はある。
オマエが本当に超能力者なら瓶を浮かせて紙を抜き取る、という手段があるはずだ」
ユウギからすればそんなことはたやすいこと。
ここで狐倉乃が自分の非を認めればまだ救いはある。
が、
「よ…よ~し!みせてやる!ボクの超能力をっ!!」
いいつつも瓶の前で力をためる。
目をつむって精神を集中する。
それは彼の心の闇を形にしだす。
彼の目には自分の妄想が現実と映り、真実を見極められなくなってゆく。
見える。
ボクには見えるぞ。
瓶が空中にうく光景が!
狐倉乃の脳裏には瓶がふわふわと机から浮かんでいる光景が現実のものとして映し出される。
ふふふ、そ~ら浮いてきた。
超能力者であるボクが負ける、などありえないのだ!
「ふはは!おまえのまけだ!お前にもみえるだろ!瓶がボクの超能力で浮いているのがっ!」
狐倉乃の開いた目には虚偽が真実として映っている。
それは真実をみようとしない彼の心の闇をそのまま表している。
「それはオマエの妄想さ。試しに紙をひいてみればすべてわかるぜ」
「まけおしみを!ボクは超能力者なんだ~!!」
ぐっ。
確かに空中に浮かんでいるのに何をいっているのやら。
それゆえにそのままぐっと紙にと手をかける。
「…闇の扉が…開かれた……」
ユウギがそうつぶやくとほぼ同時。
ガシャァァッン!!
音とともにクロロホルムの入った瓶が机から落ちる。
それと同時に狐倉乃の体もまたそれに飲み込まれるようにと落ちてゆく感覚に襲われる。
床は確かにそこにあるのにそこが見えない。
ずぶずぶと視えないそこに飲み込まれてゆく感覚と同時に意識までもが沈んでゆく。
「さて、と」
すっと床の上に落ちている割れていない瓶を拾い上げる。
瓶が割れた、それは狐倉乃の心の闇が見せた幻。
しかし彼にとっては幻が現実。
この瓶は保健室から狐倉乃が盗み出したもの。
「あ…あ…うわぁぁっ~~っ!!!?」
そこのみえない闇。
どこまで自分は沈んでゆくのか。
それゆえにはためには何もない教室で騒いでいる狐倉乃の姿が写り込む。
彼からすればそこそれないそこのみえない闇に飲み込まれている感覚に襲われているのだが。
そんなことはハタメにはわからない。
心と肉体は常に表裏一体。
しばらくすれば見回りの教師が彼をみつけるであろう。
そろそろ防犯カメラの映像から狐倉乃が体育館の照明に細工している様子が確認されているはずである。
教師達は事情をきくために彼を探し始めるであろう。
そのまま彼をその場にのこし、ユウギはその場を後にしてゆく。
後には一人で何やらわめく狐倉乃の姿がその場においてみうけられてゆくのであった――
「遊戯。遅かったのね」
「うん。ちょっとね。まった?」
「そうでもないわよ。さ、いこ」
遊戯に会うことにより杏にかけられている術が解けるようにとなっている。
狐倉乃の用事を済ませて外にと出る。
門のところでは待ち合わせをしていた杏が門によりかかるようにと遊戯をまっていた。
もっとも、時間的にはさほどそれほど経ってはいない。
「おじさんのプレゼント?」
「それもあるけどね。何だかいろいろとユウギお兄ちゃんにもお世話になったからお礼をしようとおもって」
そもそもこの間の脱獄犯から助けてもらったお礼もまだしていない。
「なるほど。んじゃ、お兄ちゃんにかわるね~」
「って!遊戯!こらっ!!」
いきなりぱっと体の主導権を渡されて一瞬戸惑いの声をあげるユウギ。
周囲に人がいないからいいものの、いきなり変われば問題がおこらない、とも限らない。
体の主導権を強制的に移動するのは至って簡単。
自分が意識の中に引っ込みひっぱりだせばいいだけのこと。
「…思うけど。ほんっと遊戯とユウギお兄さんって身長からすべてが異なるから何よね~」
昔はさほど感じなかったが、今はかなりの身長差があるようである。
昔はユウギに変化しても身長の差はっきりいってなく雰囲気だけの差、というだけだったのであるが。
以前にユウギに変わっている姿を視たがゆえの杏の感想。
どこかずれているのでは?
と第三者がみれば思わなくもないが、それでも違和感を感じないのは魂の記憶がなせる技…なのかもしれない。
「そういえば。久しぶりにマナちゃんと話せて面白かったけど。何かあったの?」
マナから直接に話しかけてくるなどめったとないこと。
というかかなり特殊。
「暇してたんじゃないのか?」
『王子…ひどい……』
さらっというユウギの台詞に思わずぼやいているマナであるが。
『しかし本当のことをいうわけにはいかないだろうしな』
冷静にそんなマナにといっているマハード。
ちなみに二人してユウギを守るように背後に控えているような格好で姿を現しているのであるが、
当然のことながら杏にはその姿は視えてはいない。
「とりあえず。買い物にいくか。…ついでにアイツ用の何かをかっとくか。
あいつは自分からなかなかモノをかったりしないからな~」
闇の波動が強くなれば封身すらをも解かなければならない現状となりかねない。
もしくは遊戯自らが自分の力で解く可能性もなくはない。
封身が解ければ普通に遊戯の肉体も成長する。
それはすなわち、『王』のかつての肉体における力が復活することを意味している。
「そのかわりゲームにかけるお金は半端でないわよね~」
お金に困っていないのがすごいといえばすごいところ。
ゲームにかけるお金はかなりハンパではない。
もっとも、大概のゲームは双六が仕入れるのでほとんど無料、という事情もあるが。
「あ、なら。服もかわない?遊戯、いつも制服なんだもん。私服を揃えとくべきだとおもうのよ。私はっ!」
そこにしっかりと力をこめて力説する。
遊戯が制服を常にきているのは小学生に間違われないため、とはわかっている。
いるが一緒に行動するのにあたり制服ではちょっと問題があることもある。
「面白がってアセトがいろいろと服は創ってはいるんだがな……」
思わずため息。
オシリスの妹にあたる彼女はそういったことを結構好む。
ちなみに現代における解釈では彼女はオシリスの妻、もしくは妹、と解読されていたりする。
一般的にはイシス、という名称で現代においては広く知られているらしいが。
妹、というのが実情なのだがそれを人は知るよしもない。
別名、台地の女神、ともいえる存在。
豊饒の女神、とも呼ばれることもあるのだが、その名前は現代においては様々な形に姿を変えて伝わっている。
何でも彼女いわく、小さい『彼』がかわいいから、という理由らしい。
そもそも彼女は古代においても彼の服や装飾品などを率先して創っていた存在でもある。
そのときも何やらそんなことをいわれはしたが。
その理由は『彼』にもよくわからない。
「アセト?」
何やら聞いたことのない名前である。
それゆえに首をかしげる杏であるが。
「とにかく。いくか」
「うん。お兄ちゃん、何かいるものある?」
「…杏。その『お兄ちゃん』というのはやめないか?前からいってるが……」
―ユウギちゃん!
そういっていたかつての彼女の姿がおもいっきり重なる。
始めはチャンづけであったがそのうちに呼び捨てになったかつての『アンズ』。
確かに歳の差はありはしたが、ちゃんづけしていたのはおそらく彼女くらいであろう。
「そう?区別したほうがわかりやすくない?」
「…俺もまたユウギ、でいい」
『でも僕はお兄ちゃんって呼ぶからねっ!』
とりあえずそんな彼にと突っ込みをいれている遊戯の姿。
ちなみに、ユウギと杏が並んで歩き、その横にユウギ、そのユウギと遊戯の後ろにマハードとマナ。
視る人がみればそのような形で歩いている彼ら達。
おそらくすべてを理解したときにその呼び方はかわるであろう。
だが、今はそれでいい。
「とにかく。いくか」
「うんっ!」
何だかこれってユウギお兄ちゃんとデートみたい。
昔から彼にあこがれていた。
ゆえに多少うきうき心が浮足立ってしまうのは仕方がない。
なぜか小学生の高学年のころからぴたっと成長のとまってしまった遊戯。
普通に成長していればおそらく目の前のユウギと同じくらいに成長していたのであろう。
どうして成長しないのか、と以前に双六に問いかけたことがあるがその返答は濁された。
おそらくひとつの体に二つの心があることに何か関係しているのかもしれない。
杏的にはそうおもっている。
「それで。アンズは何をおくるつもりなんだ?」
「そうね~」
たわいのない会話をしつつも二人の姿は人ごみの中にとかき消えてゆく――
翌日。
朝、講堂で行われる緊急全校集会。
何だか教師たちもまた憔悴しきっていたりする。
「やはりここは校則を強化したほうがいいのでは?」
何やら一人の教師がそんなことをいっているのが目にとまる。
「え?あの狐倉乃君が?」
「何でも防犯カメラにしっかりとうつってたんだって」
ざわざわざわ。
いきなり午前中の授業を中断してまでの全校集会。
すでに噂は広まっているらしくざわざわと講堂の内部は騒がしい。
「この前は牛尾先輩のこともあったし。何かいろいろとあるよね」
「というか、表にでなかっただけじゃないの?」
「これってもしかしたらこの町で古代エジプト展が開かれてるせいかな~?」
「え~!?それってこわ~いっ!」
どうしてこうして、そうオカルトというか超常現象に結び付けるのやら。
何やら生徒達のそんな会話も聞こえてくる。
どうしてこの春からいろいろとあるのであろうか。
今まであまりひどい生徒にはかかわらないようにしていたツケが一気にきているような気がひしひしとする。
まじめな生徒はまじめなのだがそれ以外の生徒もいるのも事実。
かといって素行の悪い生徒などを退学にしたりするとその報復がかなり怖い。
最近の子供は切れると何をするかがわからない。
かといって強くでるとそれこそすぐにその親が告訴をしたりする今の世の中。
教師としても生徒の扱いに困るところではある。
すでに昨夜、狐倉乃は警察にと連れていかれている。
何でも先だっての放火で彼の姿が映し出されていたらしい。
まだ未成年、ということもあり名前はでないが噂はすぐにひろまるもの。
『何だかなぁ~』
『最近闇の鼓動が強くなっているからな。弱い心の人間はどうしてもそれにつられてしまうんだろう』
あまりに長い教師たちの演説。
ゆえに退屈しのぎに心の中においてユウギと話している遊戯。
はたからみれば目をつむって聞き入っているようにしか見えないゆえにできる技。
狐倉乃の予言が実は予言したことを自分が実行していた。
そのことは体育館に設置されていた防犯カメラと、そして先日起こった放火事件。
その家をたまたま映し出されていた近所の防犯カメラの映像にしっかりとその光景はうつりこんでいたらしい。
学校側としてはたまったものではない。
恐喝に麻薬販売、挙句は今度は放火犯。
学校の責任自体も追及されて上のものたちは四苦八苦状態。
そもそも今まで見て見ぬふりをしていた教師たちが一番悪い、といえばそれまでであるが。
入学したばかりともいっても過言でない遊戯達からすればどうしても実感がわかないのも事実。
『そういえば、あの子達どうにかならない?お兄ちゃん?』
登校したと同時に思わず固まってしまった。
なぜかずらっと並んだ女生徒達。
確か昨日までは狐倉乃に群がっていた主要人物ともいえる女生徒が遊戯をまっていたのだからたまったものではない。
『そうだな。たしかにアレは困るな』
そもそもそのせいで自分たちの力が知られればそれこそ面倒。
一時間目はまるまる全校集会に時間を割き、二時間目は教室内でホームルームが行われる。
すでに高校生が放火した、というのを嗅ぎつけたテレビ局などが校門のあたりに集まってきている今の現状。
ゆえに、あまり騒ぎが大きくなる前。
つまり本日は午前中で授業は打ち切るらしい。
何しろ犯人とおもわしき狐倉乃がわけのわからないことをいっている以上、正確な発表も警察からなされてない。
『とりあえず。彼女たちは俺が何とかする』
『うん。…でも闇のゲームはなし、だからね?』
『心配ない。そもそも他人に頼ろうとするその心は心の弱さがまねくもの。それらを強くすれば問題はないだろう』
心が弱く不安定であるからこそ何かにすがりたくなる。
人はどこかに心の隙間を抱えている。
その隙間をみたそうとあからさまにアヤシイ事を信じたりするのも人の心理。
『心の弱さ、かぁ。たしかにそれはいえるかもね』
遊戯の心の支えはいうまでもなくユウギの存在。
そして家族、そして仲間たち。
『遊戯。そろそろ集会がおわりそうだぞ。そろそろ意識を戻しとけ』
『は~い』
ユウギにと促され、そのまま意識を表にむける。
ちょうど遊戯が目を開くと同時にすべての話しが終わり緊急の全校集会が終わりを告げる。
朝から長たらしい話しをきいていればどうしてもねむくなってしまう、というもの。
中にはショックをうけている生徒の姿も垣間見える。
受け取り方は人様々。
それぞれの思いを抱きつつ、生徒達はそれぞれ自分の教室にと戻ってゆく……
「未来を予言する武藤様!」
「げっ!カンベンしてよ~!僕にそんな力はないよ~!!」
狐倉乃がつかまり、そして遊戯がテストのヤマをあてた、という噂がいつのまにか伝わったらしく、
ついこの間まで狐倉乃を取り巻いていた女性たちが今度は遊戯をまつりあげようと群がってくる。
当然遊戯にはそんな気はさらさらないので逃げまどう羽目になっているこの現状。
休み時間のたびにこれでは身がもたない。
『遊戯。彼女たちをとりあえず屋上にでもさそいこめ。あとは俺が何とかするから』
ユウギからしても付きまとわれてはたまったものではない。
何しろ朝からこれである。
これ以上長引いても困る、というもの。
「うん。わかった」
ユウギにいわれ、そのまま逃げるようにと屋上にと向かってゆく遊戯。
「って、遊戯のやつは!?」
「またおいかけられてぜ?」
「ったく~。あの狐倉乃がだめなら今度は遊戯って何考えてるのかしら?あの子たち?」
杏達に迷惑をかけないように隠れまわっている。
というのは嫌でもわかる。
しかし友達として助けたいのも本音。
「まあ、遊戯君のことだからきっと大丈夫よ」
何となくだが確信がもてる。
そもそも彼女たちはこれ以上、遊戯をつけまわさないような気がする。
なぜ?
といわれればこたえようがないが、美穂の勘はこういうときはよく当たる。
「とにかく。私遊戯をおいかけるわ」
「武藤君なら屋上のほうにいったわよ?」
「ありがと」
クラスメートの一人にいわれ、杏もまた屋上にとむかってゆく。
「…そういや、遊戯のやつ、宝くじとかも占えるのかな?」
もしもあたるのであれば少しでもいいから教えてほしい。
それでなくても日々借金は増えていっている。
日々の生活費をまかなうだけでやっとのこの現状。
いくら稼いでもふまじめな父親がすべて使いこんでしまう。
それでなくても妹のために、とこっそりとお金を送っている。
何しろあの父親に養育費を送るような甲斐性があるはずもない。
しかし妹にはそんな心配はさせたくない。
それにはどうしても、今ある借金の返済が必要不可欠。
小学校のときからずっとそのような生活におわれている。
いい加減に逃れたい、とおもってもそれは人として当然、であろう。
「いでよ。タリス」
カッ!
ユウギの言葉に従い、その場に出現する四枚のつばさをはやした人物が出現する。
『お久しぶりでございます。聖なる王よ』
その名前が伝承されもじって様々な地区により呼び方はことなるものの、かの存在は自由な意思を守る存在。
ユダヤ・キリスト教においては神秘主義の伝承等にタブリス、という名の天使として伝わっている。
「久しぶりだな。タリス。元気そうだな」
『タリス?タリスって確か存在の自由な意思を守ってるっていう天使?』
ユウギの傍に姿を表せてそこにいる存在をみて問いかけている遊戯の姿。
『…本当に聖なる王は無茶をされてるのですね……』
その姿をみて思わずため息が漏れ出てしまう。
そもそもそれでなくても人、として誕生したときも無茶だ、とおもったものである。
さらに次は自身の魂を二つに分ける、など。
普通の存在ならばそんなことをすれば消滅してしまってもおかしくはない。
もっとも、『聖なる王』に関しては絶対にそんなことはあり得ないが。
『?』
意味がわからずに首をかしげる遊戯とは対照的に、
「そういうな。いきなり呼び出してわるかったな」
『いえ。我々はあなた様の手足となるべき存在。何なりと用を申しつけくださいませ』
そのために自分たちは存在している。
自分たちがいるのはすべては目の前の御方の意思なのだから。
『それで、わたくしは何をすればよろしいのでしょうか?』
「どうもこの学園には悪しき力が働きだしているからな。タリスの力により人々の意思を強めたい。
悪しき力のすべては俺が引き受ける」
『承知いたしました』
ユウギの言葉にふかくお辞儀をし、ふわり、と空にと舞い上がる。
舞い上がると同時にばさり、とつばさを大きく広げる。
つばさを広げると同時に、淡い光が上空から学園に向けて降り注いでゆく。
それとともに、学園すべてから淡い黒いもやのようなものが雪のようにとふわふわと舞い上がり、
それらはユウギの身につけている千年パズルの中にと吸い込まれてゆく――
その光はすべての生き物の心を照らし出す。
光は希望。
そしてまた、希望は個々の意思を強くする。
「?あれ?私たち、何をしてたのかしら?」
「さあ?」
心の奥底に巣くっていた負の心。
それらもすべて光とともに心の奥から追い出され、長き夢から覚めたような不思議な感覚。
今まで自分たちが何をしていたかがよく思い出せない。
先ほどまで遊戯をおいかけていた女生徒達は、それぞれ顔をみあわせつつもそのまま教室へともどってゆく。
自分をおいかけてきていた生徒達がいなくなるのをうけて、今までいた屋上のタンクの上から飛び降りる。
「悪かったな。手間をかけさせて」
『いえ。それよりお気を付けください。ネクロディアスの力が強くなっております』
「わかっている」
二人がそんな会話をしている最中。
「遊戯?遊戯、どこ~!?」
杏の声が二人の耳にと聞こえてくる。
『それでは、わたくしはこれにて。何かありましたらまたおよびくださいませ』
「ああ。他のみなによろしくな」
『それでは』
ふわっ。
言葉とともに現れたときと同じくかき消える。
「さて、と。なら遊戯。かわるぞ?」
『あ、は~い』
ゆらっ。
それと同時に遊戯の姿が揺らぎ、ユウギから遊戯にと変化する。
「そういえば。お兄ちゃん、何か無茶してない?」
『なぜだ?』
「だってさっきのタリスさんがそういってたし。それに。今負の力をとりこまなかった?」
何となくだが判る。
ユウギが負の力を取り込んだ、ということが。
『ああ。そのことか。タリスの力にのせてこの学園に運びり出していた闇の力を浄化するために吸収しただけだ』
取り込むと同時にそれらの力はすでに昇華されている。
それと同時に自分自身の力もまた強くなっている。
闇を昇華するごとに自身のもつ力が回復しているのが感じられる。
そしてそれらの力は肉体にも蓄積されているはず。
何かのきっかけで封身がとければ『瞳』の力すら使いこなすことが可能なほどに。
「あ、いた。遊戯!さっき女の子達が下りてきたけど、何かあったの?」
屋上にでてみればぽつん、と立っている遊戯の姿が目にとまる。
何かつきものがおちたように女の子達の顔つきがかわっていたのも気にかかる。
「僕にはよくわかんない。お兄ちゃんが何かしたらしいけど」
「そ、そう……。とりあえず教室にもどろ?みんなも心配してるよ?」
「そだね」
『りとあえず遊戯。オレはちょっとすることがあるからひっこむな』
「あ、うん」
そういうと同時に姿を現していたユウギの姿がその場からかききえ遊戯の心の奥にともどってゆく。
「いこ。遊戯」
「あ、杏。まってよ~」
おそらく遊戯に聞いても何をしたのかはわからないであろう。
あのユウギが不可思議な力を使うことは杏は身をもって知っている。
だからこそ深くは追求しない。
世の中、聞いてもわからない、ということはあるのだから……
…あれ?
俺、遊戯に何かきこうとしてたんだけど、何だったっけ?
先ほどまで何かきこうとしていたはず。
なのにそれが思い出せない。
ま、いっか。
「そういえば遊戯。おまえんちデジタルペット入荷する予定あるか?」
「え?あ、うん。明後日はいる予定になってるよ?」
「よっしゃっ!一個のけといてくれないか?」
「別にいいけど?」
明後日新発売されるデジタルペット。
以前とあるメーカーから販売されたタマゴッチと似通ったものではあるが今回のはどうやら異なるらしい。
ちなみに発売メーカーは海馬コーポレーションだったりするのだが。
教室に戻ってきた遊戯に問いかけている城之内。
「あれって何だかタマゴっチ以来のブームになりそうな予感だよね」
遊戯もまた楽しみにしているうちの一人。
自分の個性にあわせてデジタルではあるが自分のペットを育成するゲーム。
「遊戯君、美穂のもおねがい~」
「爺ちゃんにいってみるよ」
小さな店にわざわざ予約をいれて買いに来るものなどまずいない。
双六は新製品などを率先してすばやく入荷するように手続きを踏んでいるので珍しいものがすぐに入荷する。
誰もが気づいてはいない。
先ほどまで数多とあった不安などがすべてとり除かれている、ということを。
それらはすべてはユウギの力とタリスの力によるものであることは、誰も知るよしもない――
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あとがきもどき:
今回のは意味不明、というか支離滅裂?という自覚あり。
でもまあ、何となくだけどいいたいことは伝わる・・かな?という感じかな?
いろいろといれたいけど、でもそれをしたら今後のネタバレ云々になるし。
まあ、そもそもすでにばらしているので問題ない、といえばそれまでだけど。
ちらっとだしました、城之内家の借金問題。
かなりの高金利のところから父親が借りており、日々借金とりにおわれている、というあの設定。
そ~いやアニメのDM編ではそのあたりだしてなかったよな……
原作ではちらっとはでてましたけどね~。
そういうのってやはり必要、だとはおもうんですけどねぇ。
ようやく次回で四天王vv
さくさくっと四天王は流しますよ~♪ふふふふふ♪
ではでは、また次回にて♪
2009年7月4日(土)某日
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