まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

前振りは簡単にすますとしますかね(こらまて)
ひとまずこんな感じでカツヤやヒロト達、つまりは城之内達との前世とかかわりを持ち始めたアテムですv
さてさて、いい加減に本格的に本編をすすめなければ美希ちゃんがいつでてこれるやら(汗
さてさて、さらっとシャーディー再び登場は流しつつ、大予言さんの話にいくのですv
ちらほらと遊戯に関する裏設定さんもさらさらっと出てきてたり。
何しろもともとは神様(こらこら)であることから現在、過去、未来すべてをつかさどっているのも事実なわけで。
それらを象徴して、光と闇、としているわけですし。
何はともあれゆくのですvv

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「まったく、王子!一人で勝手に外出されてはこまりますっ!!」
聖なる力が召喚されたのを感じ取りようやくこの場を突き止めた。
アンズ達を避難させてすぐにやってきた兵士達。
彼らが駆けつけた時にはすでに一味の者たちであろう人物はことごとく気絶しており解決された後。
何が起こったのかは意味不明。
その場にいた旅人のような格好をしている少年に気付いて声をかけた彼らはさらに硬直。
何しろフードの下からでてきた姿はどうみても地位のある人物に他ならない。
何しろ額といわず首などにも金を身に着けていればいやでもわかる。
そんな兵士達にてきぱきと指示をだしている少年の技量もさることながらそんな中でやってきた高官達。
下っ端に位置している一兵士達からしてみれば何が何だかわからない。
「しかし王宮の中にいたのでは民の様子はわからないぞ?」
「「王子っ!!」」
たしかに的を得ている、といえば的を得ている発言ではあるが。
次期国王である人物がほいほいと外にでていいわけは…ない……
 

~第22話~

「あれ?」
駅前にとたどり着き、バス乗り場に向かうとそこに見慣れた姿が四人みてとれる。
「あ、遊戯!」
「って、杏?それに城之内君に本田君、美穂ちゃんも。みんなどうしたの?」
確か彼らは先に家に戻ったはずである。
なのにどうしてここにいるのであろう。
「もう。遊戯ったら。いくら携帯に電話してもでないんだもん」
いわれて、
「…ああ!?美術館で電源きったまままだった!」
美術館にはいるときに電源をきったままでほったらかしにしていたことをようやく思い出す。
彼らがここにいる、ということは彼らもあの人間の死を知った、ということか。
一人そんな彼らを視つつそんなことを思っているユウギではあるが。
「もう。そんなことだろうとおもった。家に連絡したら大学にむかったっていうからここでまってたのよ」
そんな杏の説明に、
「?何で?」
意味がわからずに問いかける。
「遊戯はまだ知らないのか?さっきニュース速報ではながれてたぜ?
  あの美術館のオーナーの金倉って人が死んだらしいんだよ」
首をかしげる遊戯に対して説明してくる本田の姿。
すでに夕方で日曜日、ということもありバス停乗り場には人はまばら。
「まさか呪いとかじゃないよな…」
「もう。城之内、あんたはびくびくしすぎ。そんなことありえないって」
びくびくしている城之内に対してばんっと背中を叩きながらもきっぱりはっきりいいきる杏。
「死んだ…って…」
お兄ちゃん?
ちらり、と横に出現しているユウギにと視線を向ければ軽くうなづいているユウギの姿。
もしかしたらパズルに触れてそれゆえに自身の心の闇に飲み込まれた可能性もありえる。
それゆえに、たらっと汗を流しつつも、
「そ、それで死因は?」
「さあ?そこまではニュースでもいってないし」
「俺達も本田からの連絡で知って携帯テレビでみたくらいだしな」
しかし今はまだ現場検証の真っただ中。
テレビ局などはこぞってそのニュースを流しているが。
何しろ死にかたが死にかた、である。
しかも死体が同時に二体もでればなおさらに騒ぐというもの。
ちらり、と杏が手にしている携帯電話の液晶画面をみてみれば、
携帯電話に映し出されているニュース番組が流れている。
何だかレポーターらしき人物がいろいろといっているらしいがそこまで詳しく聞く気はなし聞く必要もない。
「しかし、驚いたわよ。あの館長さん遺跡の密売をしていた疑いもたれてたんですって」
疑い、というか真実なのだが。
「今回の展示も金にものをいわせて無理やりに日本で開いたらしいな」
自分達も見に行ったので何ともいえないがまさかそのような事情とは知らなかった。
「遊戯君。遊戯君パズルを返してもらったとき何か気付いたこととかなかった?」
「え?ぼ、僕は……」
そもそも遊戯は金倉にはあってない。
金倉がもっていたはずのパズルをユウギいわく【シャーディー】というらしい人物がもっていたということ以外は、
遊戯は知らない。
『バスが来たようだぞ』
そんな会話をしている最中、ふとユウギが声をだす。
みればどうやらバスがやってきたらしく停留所にと停車する。
「とにかく。さきほど吉森教授には連絡はしたから、ひとまずいってみるとしようかの。
  杏ちゃん達は何かあるかわからないから戻ったほうがよくないかの?」
もしものあの精霊が墓を暴いたものに裁きを与えにきたのであれば巻き込まれる可能性はなくはない。
それゆえの双六の言葉。
が、しかし。
「気になるからいや」
「美穂も気になるし」
即座にきっぱりと否定する杏と美穂。
「吉森教授ならば詳しいことが何かわかるかもしれないしな」
呪いとかではない、と確信を得たい。
それゆえの城之内の言葉。
『…は~……』
いってきくような彼らではない。
それは今も昔も変わらない、というのはよ~くわかっているつもり。
つもりではあるがさすがにため息がもれてしまう。
彼らはどうして自分達から危険に身を投じようとするのであろうか。
そんなユウギの心は何のその、
「そうだね。僕もちょっときになるし」
彼のもっていたのが千年アイテムならば何かがある。
それゆえに動かずにはいられない。
そんな会話を交わしつつ、彼ら六人はそのままバスにと乗り込んでゆく。

童美野大学。
その中の一室にある考古学研究室。
チッチッチッ……
時計の針の音だけが異様に大きく部屋の中にと響き渡る。
……馬鹿な。
呪いなどあるはずもない、ないが……
夕刻、いきなり警察から電話がかかってきた。
聞けばあの金倉がオーナー室で死んでいたらしい。
しかも変死としかいいようのない死にかたで。
そしてもう一人、部屋の中で死んでいた人物がいたらしい。
大学の研究室に刑事が二人ほどやってきて彼…吉森にも事情を聴きに来たが、
吉森はときどきその死んだ男性をみたことはあった。
発掘作業現場にときどき金倉とともにいた男性。
金倉いわく、協力者の一人、といっていたが。
確か名前はロバート、と説明をうけていた。
何をしている人物なのかはわからない。
テレビではそのニュースが流れると同時にこぞってやれファラオの呪いか!?
などと騒ぎ立てているようである。
関係者だから、と吉森には金倉の死体写真を提示して警察は話しをきいている。
その表情が何とも言い難い恐怖に彩られており、何かがあったのは明白。
しかし死因が特定されないので死亡解剖に回される、とのこと。
再びまた話しをききまきます、何かあれば警察のほうへ。
そういって先ほど帰っていった警察達。
部屋に一人になるとどうしても不安になってしまう。
ファラオの墓を暴いたものには呪いがかかる。
それは考古学に携わる者たちの間では昔から言われていること。
しかし今までそんなことは一度もなかった。
かのツタンカーメンの呪いについても科学で解明できる、という節もあるほど。
しかし人、というものは未知なるものに不安を覚え恐怖を覚える。
それは本能的なものでどうにもならない。
カタっ…
「!?」
小さな物音に反応して思わずばっと振り向く。
が、そこには当然誰もいるはずもなく見慣れた部屋の様子が広がるのみ。
すでに暗い、というのに電気も付けずに机に座っているのは金倉の死因が不可解なものであったがゆえ。
「気のせいか…今日はいろいろとあって疲れているようだ。もうすぐ武藤さん達がお孫さんをつれてやってくる。
  …今日ほど友人を待ち遠しく想える日はない……」
双六もまたそういう形式…古代の風潮を大事にしている人物だ、とは理解している。
墓を発掘するにしてもそれらはきちんと保存管理をし朽ちていかないための処理を施すため。
そのような観念を双六はもっている。
彼曰く、偉大なる王が安らかに眠る聖域を冒すことと保存することはまた別、とのこと。
何よりも人々が忘れ去ってゆくほうがはるかに罪、とも彼はいいきっている。
それは彼自身が王の名前すらをも封印されてしまったことと、何もできなかった後悔。
それらゆえの言葉なのだが、吉森はそんなことは知るよしもない。
つぶやきつつも机にひざをついてしばし再び考え込む。
思い出すのはかの墓を発掘したときのこと。
まったく荒らされていない墓であった。
台地の奥に眠っていた古代の王の墓。
すでにかの場所には保存のための工事申請がエジプト政府の内部においてなされているはず。
ゆら…
ひざをついて考え込むそんな吉森の背後の闇がゆらり、と揺れる。
闇から先ほどまでそこにはいなかったはずの男性が突如として出現する。
が、吉森はそのことにまったくもって気付いていない。
自分の真後ろに誰かがいる、というのにもかかわらず…である。
― 王家の谷ピパン・エル・ムルクを神の領域を荒らしたもう一人の罪人よ、これよりアビヌスの命により裁きを与える……
心の中で呟きつつも目の前にいる人物を見下ろすその人物。
真っ白い服に真っ白いターバン。
そしてその手にもたれているひとつの天秤。
死を与える前に千年鍵でこの存在の心の部屋を垣間見る。
願わくば罪の意識の欠片が少しでもあることを信じて。
墓を暴く行為は許されることではない。
が、何事も例外、ということがある。
その行為がその『墓』を後世にまで保存し、生前の王のことを記憶するためであればイチガイに罪とはいえない。
人々が記憶しつづけることにより王の魂は永遠に生き続け不滅することはない。
そうかつては信じられていたのだからなおさらに。
いまだに吉森は彼の存在に気付いてはいない。
そのまま意識を集中すると同時、彼の身につけている千年鍵がほのかに光りを放つ。
そしてその光は吉森の心の中に彼の精神をいざなってゆく。

ところせましと並んでいる様々な文書や遺跡の数々。
棚にぎっしりと並べられている本のすべてはことごとく考古学に関するもの。
そして今まで遺跡で発掘されている出土品の数々。
よくよく注意を凝らしてみればその中に見覚えのある品があることにシャーディーもまた気付いたであろう。
がそこまで注意を凝らしては確認しない。
彼の目的はあくまでも、吉森、という人物の善悪を見定める、という一点のみなのだから。
「最初に目につくのは棚にぎっとりと並べられている本。それのどれも考古学に関するもののようだな。
  あとは発掘された遺跡の数々。やはりこのもののこころの大半は考古学に関する固執観念が占めている」
思わずそんな心の部屋の様子をみてつぶやきつつも、つぶさに観察を忘れない。
その片隅には埃りにまみれた家族の写真立て。
それらは仕事に追われ家族をないがしろにしている後ろめたさの心の現れでもある。
部屋全体は薄暗い。
心の部屋はその持ち主の心をそのまま反映する。
美術館のオーナー金倉が不審死を遂げたことをきき不安にさいなまれているがゆえに部屋は薄暗くなっている。
「…ん?」
そんな中にあるわずかな明かり。
薄暗い部屋の中でそれが燦々と輝きを誇っている。
どうやら友をまっているらしい。
それらはその光から伝わってくる。
友が訪れる、という安心感からそれらが希望の光、としてこうして形となって表れているようである。
しかしここまで安心感を与える人物とはいったい誰をまっているのか。
普通ただの友人がくる、というだけでこれほど希望に満ちた光を発した形をとるはずもない。
それゆえにその光にと意識をあてて光の内部を探り始める。
光の中にと浮かび上がったのは一人の初老の男性と、そして……
「!!」
その姿を確認して思わず息を詰まらせる。
ここにこようとしている一人は彼が昼間試された人物。
確かユウギ、とかいったはず。
千年パズルを解いた少年。
そして…心に二つの『心の部屋』をもちえていたかの少年がここにこようとしている。
これは……
こんなチャンスはめったとない。
このものをさばく前にこのものを利用すれば彼の真偽が確かめられるかもしれない。
彼の『力』を試すことができるかもしれない。
となればすることはただ一つ。
今よりこの人間の心の部屋を模様替えして自在に操れる人形、に変えるのみ。
玩弄模様。
それは千年鍵に備わっている力のひとつ。
人の心の部屋を自在に模様替えすることにより、我が意のままに操れる人形と化すもの。
人形と化していたときの記憶はその当人にはまったくもって残らない。
さあ、くるがいい。
今度こそ見極めさせてもらう。
かの存在があの御方、なのかどうか、を。

「すっかり日がくれちゃったわね~」
さすがに夜の七時近くともなれば暗くなる。
月もまだのぼっておらず、かといって大学の周辺には家屋はさほど存在しない。
唯一ある高層アパートなどの明かりがほのかにあり、街頭の明かりが周囲を照らし出している。
「すいません。吉森教授にあいにきたのですが」
門の横にとある警備室にといき話しをしている双六。
今のご時世、いろいろと何かあるかわからない、というので大抵の大学などはこういった警備室を設けている。
「ああ、話しは聞いております。ではこちらにサインを。少々お待ちください」
いいつつも内線電話をとり連絡をし、二言三言話したのちに、
「研究室でお待ちしているそうです」
「どうもありがとうですじゃ。じゃ、いくかの」
どうやら吉森教授は研究室にといるらしい。
警備員から連絡をしてもらい、彼らは夜の大学にと入ってゆく。
すでにもう夜も遅い、というので大学生の姿もなく明かりも消されている状態。
こつこつと彼らが歩く音のみが廊下を響き渡る。
「なんか夜の学校って不気味だぜ」
「そう?美穂はこういうの何かたのし~。何だか肝試しみたいね」
何だかとてもドキドキする。
何かあるのではないのか、というドキドキ感。
もっとも本当に何かあってもこまるのだが。
「美穂ちゃん。興味本位でそういったことはしたら危険だよ?」
「そうじゃぞ?視えて対処ができるのならいざしらず。念とは生きてるときも死んでる時もその執着によって強さを増すからのぉ」
そんな美穂の言葉にすかさず突っ込みをいれている遊戯と双六。
現世に残っている死者の念にとらわれ、それがしかもよくないものだとすればまちがいなく影響がでる。
下手をすれば命を落としかねないこともざら。
今の世の中、そういった『魂』をほとんどのものが視ることのない時代。
ゆえにそれらのリスクも大きくなる。
「城之内。あんたさ~。そんな顔して教授にあったら余計におちこませるわよ?」
何だか新しい一面を発見したようでおかしくもあり面白くもある。
入学当初はよくいる悪ガキ、くらいにしかおもっていなかったのに知れば知るほど人間味が増している。
「そうだな。きっと美術館の館長のことで気がめいっているだろうしな」
そんな杏の言葉に同意するようにうなづきながらもいう本田の言葉に、
「そ、それもそうだな。よぉし。ここはいっちょ明るくいくか!」
びくびくしていてもしょうがない。
人間、気の持ちようでどうにかなるものである。
それゆえに恐怖心を払しょくしつつもあえてあかるく振舞う城之内。
が、しかし本当に恐怖が消え去っているわけ、ではない。
「吉森教授。お邪魔するぞぃ~」
がらっ。
そんな会話をしていると、やがて彼らは考古学研究室の部屋の前にとたどり着く。
そのままがらっと扉をあける。
「吉森教授。すまんすまん。遅くなってしまって。このこらは途中で一緒になっての~」
そういいかけてはっとする。
彼の表情が彼のものではない。
これは……
すぐに意識を集中させてみれば隠れているつもりであろうがその気配はまるわかり。
すでに事前に気配を察していたのか【王】もそういえば大学近くから姿を消していた。
「やあ、よくきたね~」
何だかハタメには明るいようにも視えなくもないが、視る人がみればおかしい、とすぐにわかる。
その顔には感情、というものが一切現れていないのだから。
「失礼しま~す。あ、教授、これ土産っす。昼間はいろいろと世話になりましたから」
片手にもっていたビニール袋を前にだして何やらふらふらとたっている吉森のほうにと差し出す城之内。
「…吉森教授?」
何だかおかしい。
遊戯、気をつけろ。
心の中からユウギの声が聞こえてくる。
「馬鹿。城之内。昼間のことは美術館を思い出すから…!」
そんな城之内にあわてて突っ込みをいれる本田であるが、
「そうそう。美術館でね~……」
「城之内のアホ!蒸し返してどうすんのよ!」
背後をむいた吉森の行動を落ち込んだ、ととらえた杏が思わず抗議。
が、しかし。
「殺されちゃったね~。館長さん。ヒヒ……」
まるでどこぞの映画のゾンビのごとくに言ってくる。
「な、何!?」
「え~?何かおかしくない?」
さすがにこれにはおかしい、と気づいたらしく杏と美穂が声をあげるとほぼ同時。
「…教授!?一体!?」
「近づいてはなりませんっ!!」
そんな彼の近くに近寄ろうとする遊戯をあわてて喰いとめる双六。
ついつい敬語になってしまうのは仕方がない。
今の遊戯は確かに双六の孫ではあるのだが、シモンが敬う聖なる王当人、でもあるのだから。
「…!シャーディーって確かいったよね?教授に何をしたの!?」
闇に隠れていたはずである。
なのにその自分の姿を見出したのか自分のほうをむいていきなり話しかけてくるこのユウギ、という少年。
つまりは少年にはそれらを視る力がある、ということなのか、それともそれは千年パズルの力なのか。
「って、だからいきなり話しかけてはっ!…ええいっ!仕方ないっ…
  【わが古における契約よ 我が意にこたえて汝の力を指示さん】」
何!?
なぜこの目の前の初老の男性は古代エジプト語を話せるのであろう。
それにも驚くが、それに呼応するかのように首からさげている千年鍵が反応する。
淡く光るその光は部屋全体にひろがっていき、
ばた。
バタバタッ。
そのままその場に倒れてゆく四人の姿。
そしてゆらり、と揺らめいてその場に崩れ落ちるように倒れる吉森の姿。
一体何がおこった、というのか一瞬理解できないが。
「さて、と。これで関係のないものは巻き込まれなくてすみますじゃ。
  さて。と、吉森教授を使って何をしようとしていたのか聞かせてもらえますかのぉ?」
「じ、爺ちゃん?」
「いいから、ここは儂にまかせてくだされ」
まだ、王の存在を知られるわけにはいかない。
遊戯の肉体もまだ完全に目覚めてはいない。
何よりも自身の役目は今度こそ彼を守り通すこと。
「なぜ……」
あきらかに、目の前のこの人物は千年鍵を今、使った。
触れてもいないのに千年鍵が反応したことなどいまだかつて一度もない。
「きさま…なにものだ?」
「その台詞、そっくりおかえしいたしますじゃ」
しばしのにらみ合い。
「爺ちゃん。それより吉森教授、元にもどさないと」
力を一時遮断したのみで人形化はいまだにといてはいない。
そこまではわからないが何となくいまだに元通りでない、ということくらいは遊戯にもわかる。
ふっ。
「よもや千年鍵を操れる存在がいたとは、な。だが……」
キッン!
今現在手にしているのは自分自身。
ゆえにこそそれらは意志力の勝負ともなりえる。
気絶している状態でも人形と化すレベルを上げれば意識のないままでも操れる。
それゆえに鍵にと手をかけ力を発動させようとする。
まったく……
『遊戯、少しかわるぞ』
「え?」
カッ!
ユウギが話しかけるのとほぼ同時、遊戯の体が光に包まれる。
「って、出てこられてはなりませぬっ!」
それに気付いてあわてて双六が声を発するが、時すでに遅しとはこのこと。
「いい加減にしろっ!!」
【ユウギ】の一括と同時にびりびりと部屋の中の空気全体が一気に畏縮する。
「俺に用事があるのなら第三者を巻き込むな。民を巻き込む方法はどんな理由があれ許されるはずもない」
びりびりと空気が振動する。
「吉森の玩弄模様を解け。シャーディー」
有無を言わさずその口調。
気圧される。
まさか…そんな、そんなまさか…本当…に?
しかし体は正直。
その言葉に逆らうことなどできはしない。
そのまま素直に意思とは裏腹に吉森教授にと鍵をあてる。
この術は鍵を術をかけた相手にふれさせることにより解除することが可能。
「忠告しておく。周囲のものを巻き込むな。もし関係のないものを巻き込む方法をとれば容赦はしない。いいな」
威圧されるこの空気は気のせいではないであろう。
「お気持ちはわかりますが、そうほいほいと表にでられてはこまりますっ!」
そんなユウギに対して何やら懇願している人物の姿も異様な光景。
一体全体何がどうなって…
「そうはいうが。こいつはアンズ達をも傀儡にしようとしていたからな。
  まったく、昔も今も役目を重んじて大切なことをないがしろにする輩がいるから困る」
それは本音。
そもそもこの千年アイテムもまた人の犠牲の上に創り出されたもの。
神の力を扱う、それすなわちそれ相応の犠牲を伴うという結果でもある。
「そういう貴方様は何でもかんでもおひとりでかかえこみですっ!」
思わずそんなユウギの言葉に抗議する。
『そうです。シモン様の言うとおりですよ』
いつのまにか現れたのかそんな彼の横にはローブを着込んだ男性が一人現れている。
しかしその姿は紛れもなく彼…シャーディーには見覚えのある姿。
それにシモン。
それはたしか…主の側近と同じ名前ではなかったか?
何が何だか理解不能。
『それより。警備員のひとが見回りにきますよ~?シモン様。王子』
ひょこっと扉の向こうから顔をのぞかせてくる女の子が一人。
体が扉をすり抜けて体半分をだしている格好、というのは何も気のせいではないであろう。
「マナ。どこにいっていたのかとおもったら見回りしていたのか……」
道理で大学に入ると同時に姿を消していたはずである。
ため息まじりにいうそんなユウギの言葉に。
『でもでも~。私だって心配してたんですよ~?もしも悪意をもった相手だと危険じゃないですか~』
「しかし、相手も視える相手だとお前の身も危険になるんだぞ?俺は自分でどうにかできるが」
『大丈夫ですっ!魔術のひとつやふたつかませばどうにかなりますからっ!』
「「そういう問題では」」
きっぱりといいきるそんなマナ、と呼ばれている少女の台詞に思わず同時に突っ込みをいれている少年と男性。
『とにかく。このままでは第三者がきたときに説明にこまりますでしょう。
  私が彼らを目覚めさせますので後はお任せください』
「それと、気配をこの部屋だけにおそらく限定して多少解放されてるようですが、無理はなさらないでくださいませ」
この感じる威圧感はここちよくもありなつかしくもある。
もし彼がその気になって完全に気配を解放すれば立っていることすらもままならない威圧感、であろう。
それで闇の存在に今気付かれてはもともこもない。
もっとも神々のカードがなくても彼はそれらを呼び出すことは可能、というのは知ってはいるが…
やはり何事においても負担は少ないほうがいい。
『何なら王子、私がやってきてる人固めてこよ~か?』
『マナ。毎回いうがそうたびたび金縛りの術をつかうでない』
『ならお師匠様。眠らせるのなら問題ないの?』
『そういう問題ではないっ!』
何やら話しの展開がずれているような気がするのはシャーディーの気のせいだろうか?
そんな言い合いというかじゃれあいというか、とにかく話をしている人あらざる存在達。
彼らはどうみても精霊、であるのが見て取れる。
『お兄ちゃん?』
「…は~…。二人とも、毎度毎度よくあきないな」
ため息をつくユウギに対してきょとん、とした口調で戸惑いながらも問いかけている遊戯。
そもそも同じ人間が二人。
先ほどの少年もまた魂だけの存在となりて表にでてきているのが見て取れる。
そんなことが可能なのか。
答えは…否、のはず。
なのに目の前の少年は…
「後は我々にお任せください」
そこまでいわれてなおかつ強くもいえない。
「仕方ない、な。シャーディー。忠告はした。夢夢忘れるな」
それだけいってすっとその手をパズルにと手をかける。
せつな、淡い光とともに少年の姿が一瞬揺らめく。
先ほどは気付かなかったがあからさまに雰囲気だけでなく身長からすべてが異なっているのがよくわかる。
こう変わるところを目の当たりにすればなおさらに。
と。
コンコン。
「吉森教授。まだおられるのですか?」
扉をノックしてくる音が。
『レハ』
パチン。
藍色のフードで身を固めた男性がそうつぶやき軽く指を鳴らす。
せつな、今まで気絶していた杏達を含めた五人が一斉に目をさます。
「…今日のところはひきましょう。…またおあいしましょう」
人に自分の姿を視られるのは極力避けたい。
それゆえに彼の正体は気になるもののそのまま姿をかき消すシャーディー。
「う…ううっん…あれ?って、え?何でわたしたおれてるの?」
確かさっき部屋の中にはいって、そして……
頭を振りかぶりつつも目を覚ます。
「…あれ?…って、武藤さん?それにみなさんも。いつこられたのです?」
何だか記憶があいまいになっている。
何だか体が重く感じるのは気のせいか。
「っつ~…って、ああ!吉森教授っ。て何ともないか。…あれは夢だったのかな?うん、そうか。夢だな。うん」
何やら頭をふりかぶりつつも、一人自分に納得させるようにいっている城之内。
「?しかし何で俺、床にころがってるんだ?」
その疑問は至極もっとも。
見れば自分達のみがどうやら床に転がっていたらしい。
「え?っと……」
まさかいきなり爺ちゃんがみんなを眠らせました。
とはいえないし。
そんな遊戯の思いは何のその。
「ほっほっほ。みんな躓いてこけてしまったんじゃよ」
「そうなの?お爺さん?あれ?でも何か入ったとき吉森教授が普通でなかったような気がしたんだけど…」
「?私が?」
そもそも彼らはいつ部屋に入ってきたのであろうか。
「何をいっとる。みんな入ると同時に躓いてこけたんじゃろ」
「そうだっけ?」
「ん~。美穂よくわかんない」
しかしそういわれてみればそう、なのかもしれない。
記憶がなぜかそのあたりがとても曖昧で、何だか白昼夢でもみたいた感覚。
…爺ちゃん、さすが。
歳のこう、というか嘘も方便、とはよくいうがよくもまあさも真実のようにさらっといえるものである。
嘘はよくないが、しかし真実がどうしてもいえないこともある。
机に向かって考え込んでいたところまではおぼえている。
しかし彼らがここにいる、ということは警備室から連絡があったはずである。
でなければ彼らは大学の中にはいることすらできていないはず。
なのにその連絡の電話をうけたかすら記憶にない。
「と、とにかく。みなさんよくきてくれました。…もうこんな時間ですか。
  遅くに来ていただいたこともありますし。夕飯でもいかがです?」
「まじ!?」
「いいの?!きゃ~!美穂、うれしいっ!」
何だかその夕ご飯、という言葉に即座に反応している城之内と美穂。
「…二人とも現金なんだから……」
そんな二人の姿をみていれば何だか自分が抱いていた疑問が吹き飛んでいく。
まあお爺さんがそういうんだから、そう、なのかな?
それですまし、
「でもご迷惑なんじゃ」
「何の。今日は家内は子供をつれて旅行にいってますしね。一人はさみしいものですよ」
町内会の旅行で子供をつれて参加しているので家にもどっても一人のみ。
こんな日は誰かとともにいたほうがいい。
「あのね、あのね美穂、フルコースがいいな~」
「ってあんたは遠慮ということばをしりなさいっ!」
わきあいあい。
何だかさきほどまでの緊張感はどこにやら。
しばしそんな光景がその場において見受けられてゆく――


「で。結局展示品とかはどうなるんだ?」
何しろ不審死である。
テレビではこぞってこれこそファラオの呪いだの何だの、と騒いでいる今の状況。
一夜明けた今朝はもうそのことで話題はもちきり。
「昨日爺ちゃんがエジプト政府の偉い人と話しをしたらしいけど。
  一応契約は契約だからって、契約を交わした十日間のみはそのまま展示されるらしいよ」
昨日の食事においてそれらのことも双六は吉森と話し合った。
彼とすれば考古学に興味はあるものの、そこはやはり日本人。
死者を弔う、という感性がないわけではない。
警察からしてみれば現場となった場所はそのまま保存しておきたいのは山々なれど、
しかし死因がはっきりしない以上強制もできない。
副館長がしばしの間とりしきり、美術館の今後の話し合いもすることになるらしい。
もっとも有力なのは町か市が買い上げて個人の美術館でなく公共の場にする、という意見もでているらしい。
「へぇ。遊戯のところの爺さんってそんなお偉いさんと面識があるのか?」
どうみてもそのようにはみえないが。
「爺ちゃんの知り合いには結構いるよ?」
というか遊戯の知り合いもそうそうたるメンバーだったりするのだが、遊戯はそのことに気付いていない。
童美野高校の一年B組。
それが遊戯達のクラス。
ざわざわとクラスの中も昨日の事件のことで噂はもちきり。
何しろ最近いろいろなことが続いている。
中にはそれらの事件をもふくめたすべてが発掘された王の呪いでは、という人物まで出ている始末。
確かにいろいろと物騒な事件が続きすぎているのも事実。
脱獄犯に麻薬密売などなど。
昔からそのような事件はちまちまとありはしたがここまで続けて起こるのは初めて。
闇は光に引きつけられて集まってくる。
闇は光をかき消そうとし、そして光はまたそんな闇を打ち消そうとさらに輝きをましてゆく。
闇と光、それぞれの性質がそのように古より闇と光が誕生したときよりそれらは続いているのだから……
「あ、新しい情報がでたみたい」
休み時間まいに携帯でテレビをチェックしている生徒達。
ほとんどの生徒が今はこの話題に夢中。
中には授業中にもきいていて怒られる生徒もでるほどに今、この話題は誰もが興味をもっている。
死因はショックによる心臓破裂。
が、しかし通常そのようなことはありえない、との検視報告。
何しろ外側には何の異常もないのに内臓のみが破裂するなどあり得ない。
ゆえにこそマスコミもこぞって騒ぎ立てる。
これぞ現代の『エジプトの古代ファラオの呪い』、と。
「呪いって本当にあるのかな……」
ぶるっ。
そんなことをいいつつもおもわず身ぶるいする。
「呪い、というか人の心の闇はいつでもあるけど。一番怖いのは人の心だよ。城之内君。
  そしてまた一番美しいのも人の心、でもあるけどね」
人の心は天使にもなれば悪魔にもなる。
心の持ちようで聖にも邪にもなりえるもの。
それが人、という種族。
悪意はやがて意思をもち、その当人すらをもむしばみ始める。
それこそその当人のきずかぬままに。
そして強く思いをかけるものがあればあるほどにそれに対する念もまた強くなる。
それらの念もまた個々の個体として独立する。
そしてそれらを昇華するのもまた人、という存在の心次第。
「ねえねえ。A組の超能力少年に占ってもらわない?今度の事件の真相」
そんな会話をしている最中、瞳をきらきらさせつつも何やら横からいっくてる美穂の姿。
「?超能力?」
そういわれても遊戯にはピン、とこない。
まあ常に物心ついたころから精霊などに囲まれて育っている遊戯からしてみれば遊戯にとって不思議なことでも何でもない。
超能力、と呼ばれているものにも様々ある。
しかしそんな噂など聞いたことがない。
「何それ?美穂?」
首をかしげてといかける杏の台詞に、
「え~!?知らないの!?うそ~!!今有名よ!?」
しかも何やら女生徒を従えてわがもの顔のような形で校内を歩きまわっている。
と。
ザッ、ザッ……
何やらぞろぞろと人数が廊下を歩く音が廊下の窓のほうから聞こえてくる。
「あ、ほら。噂をすれば」
あいている廊下に面している窓をみてみれば何やらぞろぞろと女生徒が一列になり歩いているのが目にとまる。
「この間、上級生の家の子が家事になって、それをウラナイであてたんだって。
  未来が見通せるっていって今かなり有名なんだよ?結構あたるって」
よくよくみれば女子生徒の間に一人の男性が歩いているのが目にとまる。
『というか。俺がいうのも何だが。ここの学校、生徒に甘くないか?』
その格好をみて思わずつぶやいているユウギの姿。
その格好はさすがに学校にそぐわない、というか何というか。
制服の上にマントを羽織っている姿すら認めているのは多少問題あるような気もしなくもない。
「ふぅん。でもすぐにちょっとしたことで信者ができるこの学校の体勢にも問題あるわよね」
『確かに。変な教えで洗脳されても気づかないだろうな。すぐに影響されていれば』
杏の言葉に遊戯の横に姿を表ししみじみといっているユウギの姿。
事実、今のこの時代。
変な宗教は多々とある。
中には自分こそが神、といいきり他人を害しても問題ない、という信仰を唱えている場所もある。
罪を憎んで人を憎まず。
それこそが本来の精神であろうに。
「お、俺、占ってもらおうっ!」
きらり、と目を輝かせそんなことをいきなり言いだす城之内。
『部屋でゆっくりしといたほうがいいとおもうが。あと少しで地震があるんだが……』
空気の変化でそれらはわかる。
というかそれらの変化もわからない現代人のほうがユウギからすれば不思議で仕方がない。
「…それっておおきいの?」
『いや。震源地は遠いようだな。震度でいうならば三くらいだな』
「?遊戯?」
「部屋でおとなしくしといたほうがいいって。それにさ本当に未来がわかる人とかって吹聴なんてしないよ?」
遊戯のいうことは至極もっとも。
「そうそう。遊戯のいうとおり。そういうのを吹聴する輩にはろくなやつはいない」
ある宗教団体の洗脳事件でもわかるようにそういうのを表だって吹聴する人物にまずロクな人物はいない。
「あたるもはっけ。当たらぬもはっけ。それがウラナイってもんだろ?
  素人ウラナイのほうが結構あたるかもしれないぜ。遊戯、俺達も占ってもらいにいこうぜ!」
「僕はいいよ。というか必要ないもん」
それに遊戯は占いをしようと思えば自力でできる。
遊戯の扱うタロット占いはまず百%確実に当たる。
それは当然、といえば当然なのであるが。
「まあまあ、そういわずに。いこうぜ!」
「そうだ。そんな胡散臭い言動で人民を惑わすなど言語道断!美化委員として見逃すわけにはいかんっ!」
『確かに。人民を惑わす言動は見逃すわけにはいかないな』
「お兄ちゃんがそういうんだったらいってもいいけど……」
「?」
がしっと遊戯の手をつかむ城之内に何やら握りこぶしをつくって力説している本田。
遊戯のつぶやきに美穂が首をかしげるものの、
「ああ!ちょっと!もうっ!」
気付けばほとんど強制的に連れられていっている遊戯の姿が目にとまる。
それゆえにそんな彼らをみて思わず声をかけている杏の姿。
そしてふと、
「?美穂。あんたはいかなくてもいいの?」
「美穂、興味ないもん。美穂の未来は遺産たっぷりの叔父様と結婚するってきまってるし~」
「はぁ。あんた、長生きするわ」
悪気もなくそれでいてさらっと本気でいっているのだがどこか憎めない。
それゆえに美穂の言葉にため息まじりにつぶやく杏。
「まてまてぃ!それって美化委員の仕事じゃないだろうが。
  何だかんだっていってもお前も美穂との相性を占ってもらいたいんだろうがっ!」
「何をいう!これ以上学園の平和を乱させないためにも見極める必要があるっ!」
『というか、カツヤの意見のほうが正しいな。ヒロトの本音はそれだろう』
さくっと本音を見透かしてさらっといいきっているユウギ。
彼らはみていて本当にあきない。
そのままA組にと向かってゆく遊戯達。
すでに美術館の事件のことは彼らの頭には…ない。
このあたりの切り替え、それらは若さのなせる技、であろう。

「ただいま狐倉乃様が到着された」
何やらいわゆる宗教っぽくなっている。
しかしあっさりとだまされるほうもだまされるほうだとつくづく思う。
ざわざわとA組の教室内部は女生徒達で満ち溢れている。
『…ものすごい負の気配だな』
ちらっと見ただけでわかるほどの欲と虚栄心。
それらすらをも見極められない、とはかなり情けない。
「なんか女子ばっかり…」
『まあ今も昔も女性はそういうのがスキだからなぁ。しかしそれであっさりとだまされるのも問題あるぞ?』
ぽそっという本田の台詞にしみじみうなづきつつもいっているユウギ。
一目みればその人物の力の真偽は一目瞭然。
そもそも【気】がかなり曇っている。
何か女子ばっかりでかっこ悪いかも。
よし…ここは……
「まいったなぁ。本田の占い好きにつきあわされちゃってよぉ」
「き、きさまどこまで卑怯なやつっ!」
わざとらしく大声でいう城之内にすかさず突っ込みをいれている本田。
「そこ!うるさい!」
確かにざわめいてはいるが大声をだしているものなどはいない教室。
ゆえにそういう大声はかなり目立つ。
「す、すいません」
確かに騒ぐのはよくない。
それゆえにかわりに謝っている遊戯であるが。
『それより遊戯。揺れるのがいやならどこかにつかまっといたほうがいいぞ?そろそろくるぞ?』
「そうなの?ねえ。とりあえずどこかにつかまっといたほうがいいかも。ここ一階だからあまり問題ないだろうけど」
「「?」」
ユウギにいわれて二人に話しかける遊戯の言葉の意味がわかるはずもなく首をかしげる本田と城之内。
そんな中。
「狐倉乃様は全神経を集中して御力を高めていらっしゃるの!
  あなた達のようなもののもつ負のエネルギーが御力の妨げになるのよ!騒ぐのなら出て行ってもらいます!」
完全に心酔しきっているらしき女性との一人がそんなことをいってくるが。
「あはは。わりぃわりぃ。そんなこといわないでさ。ちょこっと占ってよ」
「君、それはちょっと違いますよ」
「は?」
「私は占い師ではない。確かに占いには手相・易学・四柱推命・気学・風水・占星術などがあげられるが…
  それらは過去の統計学上のものにすぎない、過去、のね。
  しかし私の力は未来を見通すものなのだ!」
何やら高々にいっている狐倉乃、と呼ばれているその男子学生。
『遊戯。揺れるぞ』
「城之内君も本田君も震度三程度の揺れがくるから何ならどこかにつかまっといたほうがいいよ?」
さらっという遊戯の台詞。
「?オマエ、何いって……」
遊戯の言葉に首をかしげるとほぼ同時。
グラ…グラグラグラっ!
突如としていきなりガタガタと机が揺れ始め部屋全体が揺れ始める。
「震源地はどこだろ?」
一人わかっていたので驚いてない遊戯とは対照的に他の生徒達はいきなりの地震でざわざわとざわめいている。
「お、おい、遊戯?オマエ今……」
今、たしかに遊戯は地震がくる、といわなかったか?
その直後に確かに地震がきた。
これはいったいどういうことなのか。
「って、まてまてまてぃ!それよりそれはどういうことだ!神聖なる掃除道具入れをそのように使うとはっ!」
みれば狐倉乃の後ろにある掃除道具入れがなぜか幕つきのちょっとした祭壇のようにと飾られている。
「美化委員として見過ごすわけには…っ!」
注意を促そうとする本田の言葉をさえぎり、
「おやぁ。あなたには意中の女性と幸せな結婚をしているビジョンがみえますよ」
「…え?」
いきなりいわれて思わず固まる。
そのまま妄想の世界では美穂との結婚式が執り行われていたりする。
「狐倉乃様。大丈夫でしたか?」
地震がおさまりとりまきの一人がそう問いかけるが、
「何とも。私にはわかっていましたからね。これは今朝私の力で見通した未来のビジョンを見通したものです」
いいつつもマントの下から一枚の紙を取り出す狐倉乃の姿。
そこには
【今日、じしんくる】
とかかれている文字がひとつ。
「さすが狐倉乃様!」
何だかそれで盛り上がっている取り巻きの女性や周囲に固まっている女性達。
「す、すげぇっ!」
「手品でもよくあるよ?そういうのは。あらかじめねいろいろなことを書いといた紙を隠しといて。
  ことがおこってからそれらを取り出していかにも、という形で取り出すのは定番中の定番だよ?」
何やら本気で勘当している城之内にひとまず訂正をいれる遊戯。
「ぶ、無礼な!狐倉乃様の予言がそんなインチキだ、とでもいうのか!?」
取り巻きの女性がそんなことをいってくるが。
「本当にわかるのならもう少し丁寧にかいとかないと意味ないよ。何時何分に震度いくら、とか」
「…そういえばそうだな。遊戯、そういうネタはだいたいどういう形をとるんだ?」
「あらかじめ、そうだね。目につかない場所に紙を隠してたりするのがあるね。
  視界から外れる位置にある場所から取り出せばいかにも今選んだようになるしね。
  そうだね。たとえばマントの後ろとかに隠してそれに符号した紙を取り出せばいいんだよ」
「そんなことは絶対にありえません!狐倉乃様は放火すらをも予言されました!」
その放火が当人がやった、とは夢にもおもわない。
心酔しているとき、というのはその人物を疑うことなどしやしない。
「あなた、狐倉乃様の予言が信じられない、というの?!」
一人の女性とがヒステリックになっていってくる。
「う~…みえる、みえるぞ!お前の未来が!天より無数の文字が降り注ぎお前に災いをもたらすであろうっ!」
そんな遊戯の言葉に意味深な言葉を投げかけてくる狐倉乃。
『遊戯。こういうやつは言っても無駄だ。…少しばかり試してみるか』
「え?お兄ちゃ…?」
グラッ。
「…な!?」
言葉と同時に彼の座っている椅子がいきなり揺れる。
正確にいえば背後にいきなり引っ張られ、体勢を崩した狐倉乃はそのまま前にとつんのめになる。
それと同時に身につけているマントがはぐれ、そのしたからいくつもの紙が見え隠れする。
「?こ、狐倉乃様、大丈夫ですか!?」
あわててそんな彼を抱き起そうとするものの、
「…何、これ?」
一人の女生徒がマントの後ろに張り付けてある紙に気付いて声をあげるが。
「な、何でもありませんっ!と、とにかく注意することですね」
あわてて身を立て直しマントをばっと直して立ち上がる。
「狐倉様、何かおちてますが……」
ひらり、とおちている紙を拾う。
「そ、それは…っ!」
あわててそれを取り戻そうとするものの、
「……え?狐倉乃…さま?」
思わずそこにかかれている文字をみて固まってしまう。
そこには”今日事故る”という文字が描かれている。
「狐倉乃様、これは誰のことなのですか!?」
「な、何でもありませんよ。今それに私は予言しましたしね」
即座に機転を利かせていいつくろう。
もしも外れた紙が他のものならばいいつくろうのも難しかったであろう。
「あれ?何かここにも紙がおちてるぞ?え~と…何何?日本沈没?…映画の宣伝か?」
「あ、こっちにも何か紙がおちてます。えっと阪神優勝ってこれにはかかれてますけど」
「ここにも紙が…これには巨人優勝ってかかれてますけど……」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
何ともいえない沈黙が教室の中を支配する。
というか、お兄ちゃん、今何やったの?
『ただ、あいつのマントの後ろに隠していた紙についてる安全ピンをすべて外しただけだ』
「いや、だけって……」
おもわずぽそっとつぶやく遊戯。
「狐倉乃様、何かおちましたが……」
彼が動くたびに安全ピンが外れた紙はそのまま床にと落ちて床にと広がってゆく。
それとほぼ同時。
ぶわっ。
教室内部に風がいきなり舞い込んでくる。
いつのまに誰かがあけたのか窓が全開になっており教室の中を風が吹き抜ける。
当然、狐倉乃のマントもその風になびきいまだに隠れていた紙が周囲に舞い散ってゆく……

あ~む。
「あ、かえってきたわよ」
今は昼休み。
のんびりと教室にてお弁当を開いてそれぞれに向かい合ってお弁当を食べている杏と美穂。
口をあけて目玉焼きをぱくり、と口を運んでいる最中、教室にもどってくる遊戯達。
「どうだった?どうせあたりさわりのないことをいわれたんでしょ?」
美穂の言葉にみてみれば教室の中にと入ってくる遊戯達三人の姿が。
「いや、というか何だかな……」
何だか騒ぎになったので戻ってきたというほうが正しいのだが。
彼のマントの下にはいろいろと書かれている紙が隠されており、それらの説明に狐倉乃はしばし翻弄されている。
「そういえば遊戯。お前さっき地震がくるっていってすぐにきたけど」
「ああ、あれ?お兄ちゃんが忠告してくれたから」
「あ~。ユウギお兄さんならありえるわね。
  というか城之内達も占いとかが好きなら遊戯に占ってもらえばいいのに。遊戯のタロット占いは百発百中よ?」
それはつまりそれにさえ気を付けていれば危険をもさけられる、ということでもある。
「なにぃ!?遊戯、それ本当か!?」
「偶然だよ~」
それは偶然でなく必然なのだがそれは遊戯にわかるはずもない。
「面白そう。遊戯君、美穂のこと占ってよ~」
そうといわれて興味をしめさずにはいられない。
「え?いいけど。何占うの?」
タロットにも力が宿っている。
ゆえにユウギにもいわれて常に身につけるようにしている遊戯である。
「まてまて。美穂ちゃんが占う前にこのオレが代表となる。
  全員の代表として当たり障りのない占いならば問題ないだろう」
先ほどの占いがもしかしたらインチキかも、という心のどこかで疑心暗鬼が生まれているがゆえの本田の台詞。
あのような多数の紙にかかれている様々な言葉をみれば狐倉乃の占いはあてになるかどうかはわからない。
「じゃぁ、次の時間の授業でさ。何かあるか占ってもらおうぜ。あのせんこー、抜き打ちテストとかスキだしなぁ」
それで補修とかいってくるのだからたまったものではない。
「?それなら今日は抜き打ちテストあるよ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「何(ぃ)(ですってぇ)~~!!?」」」
「ええええ~~!?」
さらっという遊戯の台詞に異口同音で城之内、本田、杏の声が一致する。
それと同時に美穂の叫びもまたこだまする。
「ちょ、ちょっと遊戯、それ本当なの!?」
「うん。えっとねぇ。テストにでてくるのは…」
ごそごそいいつつ教科書を取り出す遊戯。
このあたりも事前にちゃっかりとユウギが指導しているので遊戯は成績はわるくない。
かといってあまり目立つのも好ましくない遊戯の性格上、そこそこの点で抑えているのも事実である。
いやしかし、でもまさか。
ついつい聞き耳を立てていた他の生徒達も思わずそんな遊戯の指摘の箇所をのぞきこむ。
外れてだめもと。
もしも事実ならば抜き打ちテストであの教師をギャフンといわすことも可能。
何しろあの教師は生徒を見下している節がある。
そして習ってもいない場所から出題したテストを抜き打ちで行い予習をしてないのがわるい。
といって成績にひびかせる。
何とも性質の悪い教師。
歴史の問題。
それゆえに抑えるところは限られている。
A組とは別の意味でB組でもしばしの間ひと騒動が巻き起こってゆくのであった……


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あとがきもどき:
さてさて、さらっといっている遊戯にはもちろん悪気はありません。
ないので余計に性質がわるい、ともいえるのですが(笑
さらっという遊戯の台詞に当然のことながらその横では姿を現していたユウギがコメカミを抑えていたりするのはお約束v
さてさて、次回でまともな大予言の罠の本編にはいりますv
ではでは、また次回にて~♪

2009年7月3日(金)某日

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