まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて。今回でカプセルの回、いけるかな?
いけたとしてもかなり長くなるかもしんない(汗
何はともあれ、ゆくのですv
まえぶりさんのお話もなかなかすすんでないし……あうっ……

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パウッ。
とりあえず明かりがなくても自分は問題ないが、他の二人はそうもいかないだろう。
そう判断し、軽く頭上にほのかな明かりの球体を出現させる。
「…あの?それって…精霊術…?」
そういう術を使えるのはたしか、かなり高度な実力を要するはず。
かなり地位のある神官や巫女がそのようなものを扱える、というのは聞いたことがあるが。
「?そういえば…気にしたことなかったな?気づいたら使えてたし」
指摘されてふとつぶやく。
物心ついたころからこの程度の力は扱えていたがゆえに、あまり力の意味を考えたことはない。
というか、他の人たちが使えない。
というのを知ったときには驚いたものである。
「「いや、気にしたことがない。しかも、気づいたら使えてた。って……」」
そんな彼の台詞に思わず突っ込みをいれる男女の姿。
「そういえば。まだ君の名前聞いてなかったけど……」
「え?…ん~。あまり名乗らないように、っていわれてるし」
自分の名前に力があるのは知っている。
だからこそ、そう簡単には名乗れない。
「名乗らないように…って、それって、いったいどういう……」
「しっ。誰かいる」
建物にはいってすぐの部屋にといた人々はなぜかいきなり気絶した。
一瞬、強い風のようなものが吹き抜け、目を開いたらすでに全員が気絶していた。
目の前にいる全身をマントやローブで覆っているこの子供が何か知っているとはおもうのだが。
どう聞けばいいのかもわからない。
そもそも、何でこんな暑いのにそんな暑ぐるしい格好をしているのか。
という疑問も捨てきれない。
当人いわく、『家のものにみつからないため』とかここにくるまでに説明していたが。
それから推測するにあたり、どこかいいところの子供であろう。
というのは推測はできるが……
ふっ。
地下に続く階段を降りつつそんな会話をしている最中。
ふと彼ら以外の第三者の気配を感じ、足元を照らしていた明かりをふっと掻き消す。
何やら下のほうから多数の人の気配が感じられる。
ともかく、この場所が悪人たちにとっての、何らかの用途がある建物であるのは明白。
静かに数名の気配を感じ取り、思わず顔を見合わせる三人。
キラッ。
近くでみれば何となく目の前の子供の額に何かキラリと光るものがあるような気もしなくもないが。
明かりがないとよくわからない。
近くでまじまじとみれば、額に目の紋様がついている額飾りをしている。
というのが見て取れるであろうが。
そこまで近づいて顔をまじまじとみる必要はないがゆえに、
彼と共にこの場にやってきた二人は気づいていない。
もし、気づいていれば彼が王家に関わる人物だ。
と用意に想像はついたであろう。
何しろ額の第三の眼の紋様は…神を指し示すシンボルなのだから……

  ~第19話~

「荷物もってもらうのについてきてもらえばよかったかな~?」
それでも、道々五月蝿いことをいわれるのも好きではない。
「というか。美穂が誰と文通しようが本田くんには関係ないのに」
ぷうっ。
思わず一人で歩きながら、むくれてつぶやく。
遊戯は放課後、先生に呼ばれて別行動。
杏子は今日はアルバイトがある日だというので早くもどったし。
城之内もアルバイトがあるとかで別に先に戻っている。
未だに昼間の一件、というか自分が文通している相手のことを考え直したほうがいい。
としつこくいってくる本田に対し、
「しつこい人は、美穂、だいっきらいっ!」
そういってその場に立ち竦む本田を残して一人で家路にとついている美穂。
だがしかし、やはり教科書が入っている鞄を持つのは結構つらい。
学生だから仕方がない。
といえばそれまでだが。
それでも、本田ならば少し、疲れた。とでもいえばすぐさまに持ってくれる。
というのがわかっているからこそ少し後悔している美穂。
そんなことをつぶやきつつも、帰路につくべく道をすすむ。
家々が立ち並んでいるどこにでもある路地。
車や自転車の姿が見受けられないのは、ちょうど今時間がそれらが通る時間帯ではないがゆえ。
路地の一つを曲がり、しばらく進むと、
「?あれ?…僕達、何してるの?」
なぜか道をふさぐようにして立っている子供が数名。
しかも、おもいっきり手をひろげて通せんぼといった形をとっていたりする。
くすっ。
何かの遊びなのかな?
だけどもこれだと通るに通れない。
「えっと。君たち、お姉ちゃんを通してくれるかな~?」
少しかがんで子供たちにと話しかける。
そんな美穂の声と姿をみて、それぞれなぜか頭に目隠ししているつもりなのか、袋をかぶっている子供たち。
そんな彼らは顔を見合わせ、
「えっと。お姉ちゃん、美穂っていう人?」
一人が何やら聞いてくる。
「?そうだけど。美穂に何か用なの?」
私の知ってる子?にしては声に聞き覚えないけどな??
美穂が首をかしげていると、
「やっぱりっ。えっと。お姉ちゃんを足止めしろっていわれてるんだ」
「あのおじ…いや、お兄ちゃんがくるまで、足止めしたらいいものもらえるんだ」
「というわけで、お姉ちゃん、ここはとおさないよ~」
いいながら、ぐるっと美穂の周りを取り囲む。
足止め?
美穂がその言葉の意味を自分の周りを取り囲んだ子供に詳しく聞こうとかが見込む。
と。
「こら~!!きみたち!何をしているっ!」
何やらいきなり声がしてくる。
……何で塀のうえ?
みれば、なぜか道の横の塀の上に人影がひとつ。
しかもどうみてもいい歳をしている男性である。
子供とかならいざしらず…見た限り…どうみてもいい年をしている男性。
自分達よりも年上であろうことは明白。
「きた~!にげろ~!!」
「おじちゃん。約束のもの、もらいにいくからね~!!」
「やり~!これでカプモンのレベル五がいくつか手にはいるっ!」
その声と同時に美穂の周りを取り囲んでいた子供たちが一気にと走り出す。
「とうっ!」
唖然としている美穂の目の前に、何やら掛け声とどうじに塀の上の人物が飛び降りる。
そして、すちゃっと美穂の前にと着地して、
「もう、大丈夫だよ。危ないところだったね。野坂美穂さん。
  何という運命の偶然。危ないところに出くわすなんて」
「……はぁ?」
くいっと飛び降りてきた人物がかけている眼鏡をあげながら美穂にといきなり話しかけてくる。
何でこのひと、美穂のことしってるの?
というか…この人…変。
思わずその人物から距離を置くべく後退する。
そんな美穂の様子に気づくことなく、
「僕だよ。童部紀和未だよ」
にっと自分ではカッコいい。
とおもっているポーズ。
つまりは、眼鏡を片手であげながら、片手を腰にあてて美穂にとはなしかけているのは、
いうまでもなく美穂の文通相手の童部。
「…え゛?」
こ…この人……や…やぱすぎ~。
どうみても、普通じゃない格好のような気がする。
スーツ姿はともかくとして、なぜにズボンを折っているのか。
しかも、現れ方もはっきりいって狙っていたかのような現れ方。
つまりは、先ほどの子供たちをけしかけたのはこの人物だ。
というのは子供でも考えなくても想像はつく。
「さあ。迎えにきたんだ。一緒にいこう。二人の愛の世界へ」
じりじりと後退する美穂の様子に気づくことなく、両手を広げてそんなことをいってくる。
「はあ?」
何をいってるの?
この人?
あまりといえばあまりの言葉に思わず目が点になりその場に一瞬立ち止まる。
「カプモンが僕達をまってるよ」
「ちょ…ちょっと何なの!?」
何が何だかわからない。
というかかなりヤバイような気がひしひしとする。
じりじりと後ずさりながらも、やがて壁にぶつかり後ろがなくなる。
「恥ずかしがることはないんだ。さ」
そんな美穂の手を掴んで、無理やりにどこかに連れて行こうとする童部。
ぞわっ。
さすがに身の危険というか何でこんなことになっているのかわからない。
「い…いやぁぁ!」
バシッ!
全身に鳥肌が立つと同時、おもいっきり手にしていた鞄を振り上げて相手にむけて振り下ろす。
「やあっ!やあ、いやぁぁ!!」
バシバシバシッ!
とにかく、この男から逃げ出したい。
というか、はっきりいってキモすぎる。
力任せにとにかく、必死で鞄を相手にとたたきつける。
学生鞄とはいえ、中身には教科書がはいっているので結構な重さになる。
それに力を加えて振り下ろしていれば多少というかかなりの衝撃が相手に加わる。
「ああ。僕の女神っ!」
「いやぁぁ!!放してっ!」
美穂に鞄でたたかれながらもさらに手に力をこめて美穂をひっぱる。
照れちゃって、僕の女神は何てかわいいんだ。
などと勘違いも極まりないことをこの童部は未だに思っているのだが。
そんなことは美穂は知る由もない。
「き、君もカプモンを愛しているんだろ?」
たたかれながらも美穂の手をさらに掴んで言い放つ。
「いやぁぁ!カプモンなんて美穂、しらないもんっ!!」
ブッン!
バシッ!
このままでは危険すぎる。
それゆえに、とにかく力のかぎり鞄を振り上げ振り下ろす。
その反動で手を掴んでいた童部が一瞬美穂の手を離すと同時。
「うわぁぁんっ!変態っ!!!おまわりさぁぁんっ!!」
なきながら、そのまま力の限り走り出してその場を逃げ出す美穂。
「ど…どうしたんだっ!僕の女神っ!ベイビー、なぜなんだ~!!!」
力任せにおもいっきり重さがある鞄をたたきつけられたがゆえに地面に転がるしかない。
ようやくおきあがろうとした彼の目に映ったのは、その場から走り去ってゆく美穂の姿。
何がどうなったのか理解不能。
そもそも、自分の計画では悪者に囲まれていた彼女を助けた自分とともに運命を受け入れて自分と結ばれるはず。
なのに現実は……
「嘘だぁぁ~~!!!」
しばし、その場にて地面にころがり泣き叫ぶ童部の姿が見受けられてゆく――

カプモンなんて、美穂しらないもんっ!!
「う…嘘だ!嘘だ!野坂美穂は僕のものなのにっ!僕のカプモンの女神なのにっ!」
ガシャッ!!
ガシャガシャァァン……
はあはあはあ。
ふらっとようやく立ち上がったのはすでに完全に日が暮れてから。
それから無意識のうちにこの場にやってきていた。
家に帰る気力もない。
この場がすべて。
それなのに……
ありえない。
ありえるはずがない。
ゆえに、八つ当たりだとはわかっていても、何かにあたらなければ気がすまない。
並べているカプセルモンスターをとにかく床にと散らばしてゆく。
「おかしい。運命の糸で結ばれているはずなのに。あんなこというなんて。それに遊戯くんも……」
遊戯くんは僕と野坂美穂を結びつけるために、カプモンの神がつかわした友達のはずなのに。
しばらく一人で考えていても、やはりおかしいことばかり。
「そうだ。これにはきっと何か原因が……」
いくら考えても、絶対にありえるはずがないことがおきている。
ならば、その原因となったモノがどこかにあるはずだ。
「つまり、その原因を取り除かないと運命どおりにいかない……ということか…ふふふ……」
しばし、真っ暗な倉庫の中。
一人で座り込む童部。
自分が悪い、という考えに至らない、というのが彼の悪いところであり、
そしてまた…そんな彼を今の今まできちんと注意するものがいなかったゆえの現実――

チチチチ……
窓の外からは小鳥のさえずりが開いている窓から聞こえてくる。
そんな小鳥のさえずりを中断するかのように、
「ぶ…ぶっはははっ。いまどき女引っ掛けるのにそんな古典的な技つかうやつがいるとはなっ!」
高らかな城之内の笑い声が教室内部に響き渡る。
翌日の朝。
昨日の出来事を美穂から聞き、お腹を抱えて笑いまくっている城之内。
そんな城之内とは対照的に、
「遊戯もとんだ災難ね。友達は選ばないと」
いって、遊戯にと話しかけている杏子。
「あの童部くんって、自分の世界に浸っちゃったら人の意見聞かないらしいんだよね……
  でも、そんなに悪い人じゃ…ないんだよ?僕も知り合ってまだ間がないけど」
昨日の今日。
というのもあり、朝早くに本田を呼び出して念の為にと一緒に登校してきている美穂。
朝早くから美穂に呼び出され、文通相手にひどい目にあわされかけた。
というのでかなりテンションが上がっている本田。
遊戯もまた、学校にきて美穂や本田から昨日のことを聞き、何といっていいのかわからない。
とりあえず基本的には多分悪い人ではない、ということを美穂にいっておく。
…というか、あの童部くん……考え直してくれなかったんだ……
そんな寂しい思いが脳裏をよぎる。
『そこまで常識がなくなっていたとはな……』
ふぅ。
美穂たちの説明をきき、表というか横に出現していたユウギもまた溜息をつく。
「いいや。悪いっ!だいたい、美穂ちゃんと文通するだけでもいかんっ!いかんといったらいかんっ!」
一通り説明を終えた後、沈み込んでいる美穂に変わり、きっぱりいいきっている本田。
「何だ、こいつ。昨日まで死にそうな顔してたくせに」
確かに昨日までは死にそうな表情をしていたが、今朝方美穂に頼られたこともあり、
すっかりそのあたりのことは回復している本田。
「でも、一番わるいのは美穂よ。それだけ思わせぶりなことをしてれば誰だって誤解するわよ」
それでなくても、男というものは、よく勘違いをするものがよくいる。
というのはよく聞くこと。
例えば昔付き合ってた女性を結婚式にと招待したとする。
その場合、大抵の女性は、なめられたくないので綺麗に女性が着飾り、化粧もぱっちりきめて出席する。
だが、その招待した男からすれば、まだ自分に気があるから着飾ってきた。
と勘違いするものも多々といるのである。
全員が全員そうだ。
とはいわないが……
しかも、美穂が文通していた相手はどうも、その思い込みの激しい一番厄介なタイプ。
と確実に断言できる。
しかも、美穂が書いた手紙の内容を聞けば、たしかに誤解を招きかなねないようなことを書いていたらしい。
それゆえに、美穂に注意する杏子であるが。
「え~。美穂、ただのペンフレンドと思ってたのに~」
ただの文通相手で、顔もわからない相手でもある。
ただ、相手を喜ばそうと書いただけ。
それなのにどうしてそんなことを言われないといけないの?
美穂は自分が悪いことをした。
とは夢にも思っていない。
このあたりが天然、といえば天然なのだが。
たしかに悪いことではない。
ないが…物には書き方というか限度。
というものがあるのも事実。
時と場合、臨機応変が何においても必要とされる。
「そう。美穂ちゃんは悪くない。
  安心してくれ。美穂ちゃん。そんなカプモン男、二度と君には近づけさせない」
どんっと胸をたたきつつ、きっぱり言い切る本田の胸にすっと飛び込む形をとり、
「わ~。ありがと。やっぱ本田くんって頼りになる~」
いいつつも、顔をすりすりさせている美穂。
「まったく。美穂~。少しは反省しないとだめよ?」
「とりあえず。童部くんには僕からももう一度話しをしてみるよ」
そんな美穂をあきれてみつつも、言っている杏子に。
話し合いで正気にもどってくれるはず。
そんな期待をこめながらも言っている遊戯。
「しっかし。いまどき…ぶはははっ!」
ガラッ。
「こらこら。おまえたち、もう始業のチャイムはなってるぞ?」
そんな会話をしている最中。
がらり、と前方の引き戸が開いて担任の教師が入ってくる。
「あ、ほんとだ」
バタバタバタ。
担任教師が入ってきたのをうけ、それぞれ席から離れていた生徒達が自分の席についてゆく。
「え~。では出席をとる」
教壇につき、先生が名簿の名前を読み上げる。

そんな様子を外から眺めている人影一つ。
「そうか…運命の糸をもつれさせていたのは…あいつらか」
遊戯達の教室は学校の一階部分にあたる。
ゆえに、校庭側からも中を覗くことは可能。
原因はわかった。
ならば……
「パグは取り除かないとね……ふふ……」
意味ありげな笑いを浮べながら、その場を後にしてゆくその人影。
関係者以外、立ち入り禁止だというのに裏門からこの学校の中に入り込んでいるこの彼。
すでにこの時点でも常識的に考えても通常でない…というのは一目瞭然。
だが…今の彼を止める第三者はこの場にはいない……


「けど。俺もみたかったぜ。例のカプモンやろう」
「ふつう、ベイビー、なんて言葉、でてこないわよね」
トッ。
トッ。
「あ?」
「?」
席についてなぜか運ばれてくる水。
いつもはこんなサービスはないのに。
「ん?あ、ありがとう」
学食にて並んでいたらなぜか自分のトレーのみに水が置かれる。
不思議に思いながらもとりあえず御礼をいう。
そのおいた人物もまた見たことがない人物なのも多少は気にかかるが。
よくよく見ようとしても並んでいる状態ではそうじろじろ正体を見極めることは困難。
水をおいてすぐにその場から立ち去っているのだからなおさらに。
「え~。三人ともずるい!美穂のは~?」
「そういや、何でオレたちだけなんだ?」
見れば並んでいる誰も水などおいてもらっていない。
「これからはこんでくるんじゃない?」
一人で運べる水というものは量が限られている。
なぜ途中あたりにいる自分たちに先においたのかは不明だが。
「み、美穂ちゃん!ならオレのを!!」
「う~ん……ぬるくなってそうだからいい」
がくっ。
そんな美穂の言葉に答えるかのように本田が自分のトレイに置かれたコップを美穂に渡そうとするが。
いともあっさっさりと美穂に却下される。
「それより、テーブルについたら汲んできてね。本田君♡」
一人、美穂にたよられた、というので舞い上がる本田であるが。
そんな本田をまったくきにすることなく、
「み、美穂ちゃんのためなら喜んでっ!」
「そういえば。遊戯くんまだかな?」
そんな会話をかわしながらも、ふと遊戯がまだなことが気にかかりつぶやいている美穂。
「先生に呼ばれてたからもうすこしでくるんじゃないの?」
どうった用件かは杏は知る由もないが。
「しかし。早くしないと学食うりきれちまうぜ?」
しばしそんな会話をしていると、やがて並んでいた順番がきて、学食をトレーにと乗せてゆく彼ら四人。
彼らが席についてしばらく。
「ごめ~ん。おそくなっちゃった」
ぱたぱたと混雑している学食にと走ってくる人影がひとつ。
といってもかなり背が小さいがゆえに人ごみにもまれて今にもこけそうにみえるが。
「あれ?武藤?センコ~の呼び出しは何だったんだ?」
そんな遊戯に気づいて声をかけてくる別の生徒。
「え?あ。うん。ちょっと」
しばらく休んでいる海場くんのことだったんだけど。
そんなことをおもいながらも、
「杏たちは…あ、いたいた。そういえば学食、あと何がのこってるだろ?」
ふと遅くなったのでお目当てのものはないだろう。
そう思いながらも杏たちのほうに向かってゆく遊戯の姿がしばし見受けられてゆく。


ぐっ……
な、何なんだ?これは……
昼休みもおわり、教室にもどった。
それはいいのだが、脂汗がにじみでる。
言葉にすらできない痛みがおしよせる。
「?真崎さん?城之内君?本田君?顔色がものすごくわるいけど……」
そんな三人の様子に気づいた教科の担当の先生が教壇の上から声をかける。
あからさまに三人の様子がおかしい。
それでなくてもここ最近、いろいろなことがおこっているので生徒たちの様子にはきをつけるように。
そう申し送りがあったばかり。
それもあって珍しく生徒たちの異変に気づいた。
一瞬、自分の授業に対してのあてつけか。
ともおもったがどうやら様子からしてそうではないらしい。
城之内克也や真崎杏はともかく自分に対して生意気な口を良くきくが、
本田ヒロトはまじめ一筋。
もっともそれがゆきすぎ、という面も否めないが。
そう教師が話しかけたその直後。
バタッ……
「あ…杏!?」
いきなり杏が椅子から転げ落ちるようにその場に倒れる。
「わ~~!!?」
「きゃ~~!?」
それをうけて生徒達がおもいっきり騒ぎ始めるが。
「みんな、静かに!先生は杏さんを保健室につれていきます。
  保険係りはあとの具合がわるそうなそこの二人をつれてついてきてください。しばらく自習にします」
自分の時間に自習など、本来ならばありえない。
ありえないが……倒れた生徒をそのままほうっておいた。
と噂がひろまれば自分の信用にもかかわる。
それゆえの判断。
ガラッ……
立つのもつらそうな城ノ内や本田。
そして意識を失っている真崎を連れて教室をでてゆく教師や保険委員たち。
「杏……」
いきなりのことで戸惑うしかない遊戯。
『毒…とかの影響ではないようだが……』
「ど…毒って……」
横にいつのまにか出現していたユウギの台詞に思わず戸惑いの声をだす遊戯。
いまだに教室内は騒がしいのでそんな遊戯のつぶやきに気づいたものはいない。
先刻まで元気だった三人。
特に城ノ内に関しては、病気で倒れる、ようなタマにはみえない。
それゆえに生徒たちの動揺は必然。
『遊戯。杏たちは何か変なものとか食べたか?』
「う。ううん。食べてないとおもうけど……」
学食でさきほど食べたのは一緒。
遊戯は知らないが、遊戯が戻ったときにはすでにのどが乾いていたがゆえに三人とも水を飲んでいた後。
その後、再び水を汲みなおしたのだから遊戯は知るはずもない。
もし、その水をまだ飲む前であり、水を汲む前ならばユウギが異常に気づいたであろうが。
三人に共通するのは今日の学食くらい。
それゆえに騒然となっている教室内。
同じクラスの中にも学食を利用しているものも多々といる。
万が一、食あたりとかだとすればそれが自分たちにふりかからない、とも限らない。
『あのオーラの色からして、何かにあたったような感じだが……』
遊戯の横で腕をくむユウギ。
ちなみに、万が一を考えてかいつもの格好ではなく彼もまた学生服の姿になって姿を現していたりする。
かなり霊感が強いものならばその姿が視えたことだろう。
今、彼はパズルの力も何も使っていないがゆえに。
だが、そこまで強い力をもつ存在など、このクラスには存在しない。
ざわざわざわ。
教室内部がざわざわとざわめいているそんな中。
「こらっ!お前たち!静かに自習をせんかっ!」
なぜかクラス担任がガラっと扉を開けてはいってくる。
それは連絡をうけて自習監督、として時間が空いていた彼が出向いてきたに他ならない。
そして。
「あの三人は安静にしていればとりあえず大丈夫だそうだ。とにかく静かに自習をするように!」
下手に騒ぎを大きくしたらそれこそ一大事。
それでなくてもここ最近、いろいろとあった。
もし、あの三人が食中毒とかならばそれこそマスコミなどのいい餌食。
学校、というものはとにもかくにも対面を気にする。
それが義務教育とかではない高校ならばなおさらに。
教員の立場からすれば、下手な噂や中傷がおこるほうがはるかに怖い。
それゆえに生徒たちを黙り込ませる。
「先生!まさか食中毒とかじゃないですよね?」
ざわっ。
杏たちが学食で昼食を取っていた。
というのを知っていた一人の生徒がそう手を上げて席をたち問いかける。
その言葉にまたまたざわめく教室内。
「ならもっと被害がでるはずだが、今のところそれはない。
  ともかく!お前たちはお前たちの仕事でもある勉強をきちんとしろっ!」
きちんと説明するのが教員の義務のはずなのであるが、
今の彼らにはそれがない。
とにかく、続いている不祥事に続いてまた不可思議なことがおこった。
というのがどうにか外部に知られないようにすることに必死。
そんな担任教師の発言に、かなりブーイングが巻き起こるものの、
だがしかし、これ以上きいてもおそらく理由はわからない。
それゆえに心の中に全員がもやもやを抱えつつ、それぞれ与えられた課題をこなしてゆく――

お…お腹…いた……
放課後。
三人の様子を見に来ている遊戯達。
結局五時限目に保健室送りになった三人は授業の終わりまで戻ってはこなかった。
今日の授業は六時限。
それゆえにしばらく様子をみたのちに、自力で帰れるようなら自力で。
そうでない場合は家に連絡して。
ということで教員会議で落ち着き、そのまま保健室で休んでいる三人。
「全然大丈夫。生水にあたっただけよ?心配いらないわ。
  ……でも、なぜ三人だけなのかしらね?他の生徒は何ともないし……」
心配して保健室にときた遊戯達にと説明している保険医。
鎮静剤か何かが効いたのか三人はベットの上で瞳をしっかりつぶって眠っている。
杏子…城之内くん…本田くん……
そんな三人を心配そうに説明をうけつつも見守るしかない遊戯。
こういうとき、何の力もない自分がうらめしい。
お兄ちゃんなら何かできるかもしれないけど……
だけども遊戯とて先生たちの前でユウギの存在をおおっぴらにすることはなるべくさけたい。
そんなことになればユウギの身に危険が及びかねない。
というのもよくわかっている。
「それじゃ、先生は会議があるから。君たちも遅くならないうちにかえりなさいよ?
  彼らは目が覚め次第、先生がおくってくから」
今出ている案は自分たちで帰ってもらえれば、みたいなこともいわれたが、
だがしかし、保険医としてそんなことはできない。
三人が目覚めたら自分が家まで送り届けるつもりの保険医。
この学校の中、数少ない良識をもっている先生でもあるがゆえに。
「あ。はい。ありがとうございます」
「あ、美穂。杏子たちの荷物とってくるね」
やさしくいってくる先生に対し、ぺこり、と頭を下げている遊戯。
そしてまた、一人バタバタと杏たちの荷物をとりに教室に戻ってゆく美穂であるが。
「……?」
保健室から自分たちの教室に戻るまではわたり廊下を進む必要がある。
だがしかし、そのまま一階から玄関口を通ればその必要もない。
ゆえにこそ、玄関口を横切ろうと駆け出す美穂。
すでに他の生徒たちの姿は見えない。
と。
ふと、自分の靴箱が開いているのに気づいて近づき、閉め直そうとする。
と。
何か自分の靴箱の中に手紙のようなものが入っているのに気づいてそれを取り出す。
何だろ?
宛名がない手紙。
ラブレター…にしては質素すぎる。
首をかしげながらその手紙をその場で開く。
模様も何もない普通のレポート容姿。
そこには……中央に一文。
【運命を邪魔するやつには天罰が下りました。安心して僕の胸へ 童部】
「これって……。美穂、怒ったっ!!」
ぐしゃっ。
靴箱に入れられていた紙をぐしゃりと握りつぶす。
つまりは、杏たちのアレは……
いくら日々温厚な美穂とて許せることと許せないことがある。
そりゃ、自分も悪かったのかもしれないけど、だけども杏たちは何の関係もないのにっ!
こうなったら…っ!
思いを新たに、そのまま手紙をぐしゃり、と握りつぶしたままいまだ保健室にいるであろう遊戯の元にと戻る美穂。

「遊戯くんっ!」
「うわっ。美穂ちゃん。…どうしたの?」
杏たちのことが心配ではあるがどうにもできない。
ちょうど先生が部屋からでていったその直後。
いきなり美穂がなにやらいつもと違う雰囲気で強い口調で声をかけてきた。
たしか、杏たちの荷物を取りにいったはずじゃぁ……
遊戯がそんなことをおもうよりも早く、
「童部くんのところに案内してっ!」
「……え?いったいどうしたの?」
いきなり遊戯にいってくる美穂。
そのただならぬ様子に尋常でない雰囲気を感じる。
それが何なのかは遊戯にはよくわからないが。
『どうやら何かあったようだな』
そのただならぬ様子に何か感じたらしく横に出現していたユウギが腕をくみつつつぶやくが。
「え?」
遊戯がどういう意味か問いかけるよりも早く、
「これよっ!」
ばっ!
「…え?これって……」
美穂からぐしゃぐしゃになっている紙らしきものを手渡される。
不思議におもいつつも、その紙を開いた遊戯は思わず絶句。
そして、いまだに横になっている杏たちにと目を移す。
つまり…杏達に……童部くんが何かしたってこと?
信じたくはないが、だけどもこの文面からいくと……
心の中がなにやらもやもやする。
感じたことのない、何ともいえない他人への怒りというか寂しさ。
とにかく、本人にあってきちんと追求しないと。
今、自分に何ができるか。
何が杏達のためにできるか。
またしなければいけないのか。
そしてまた、彼のためにも。
「……わかったよ。美穂ちゃん。…あ、その前に杏たちの荷物は?」
「あ。まだとってきてない」
手紙の内容に頭がか~となり、本来の目的をわすれていた。
たしか自分はそういえば、杏たちの荷物を教室にとりにもどっている途中だっけ?
遊戯の指摘にそのことをようやく思い出す美穂。
「とりあえず。杏たちの荷物をもってきてから。それから案内するよ。
  たぶん童部くんのいる場所はあそこに違いないから」
まちがいなく、彼はあの倉庫にいるはず。
そう確信がもてる。
そんな遊戯の台詞に、
「わかったわ。…杏、まっててね!今美穂がきちんと始末つけるからっ!」
始末って……
そんな美穂の台詞に内心思わずつっこむ遊戯。
『しかし、素直にあいつが話しをきく、とはおもえないがな』
「……それは……」
確かに、思い込みが激しい童部のこと。
話し合いにいっても自分の世界に浸って何をいってくるか…また、してくるかわからない。
その危惧はある。
だけども、ここで何もしないわけにはいかない。
自分のためにも。
そんな遊戯の想いはユウギにも当然のことながら何もいわずとも伝わる。
『わかった。だけど、何か不都合そうなら俺がでるからな』
「うん。わかったよ」
とりあえず二人して教室にと戻ってゆく遊戯と美穂。
その間、遊戯達がそんな会話を交わしているのに頭に血が上っている状態のままの美穂は気づかない。
とりあえず、二人は三人の荷物を保健室にともっていき、先生が一度もどってきたころあいを見計らい、
それぞれ学校を後にして目的地に向かって進んでゆく――


「よっし。いくわよ。遊戯くん」
「うん」
ガララ……
遊戯と美穂。
童部が借りている倉庫がある一角にきているこの二人。
すでにもう夕刻、というのもあり辺りに人気もあまりない。
それでもここは倉庫が密集している場所、というこもあり作業員らしき姿もちらほらとみえている。
倉庫の扉が半開きになっているのをみて、おもいっきりそれを持ち上げる。
もっとも、けっこう扉の重さはあるのだが、それはそれ。
左右から同時に持ち上げればその重さはあまり負担にならない。
扉をあけはなつと、内部にたたずむひとつの人影。
その人物は、はいってきた人物。
すなわち、美穂の姿を認め、
「マイ、スイートハート。ついに僕の胸にとびこんできてくれたんだね」
座り込んでいたその腰を持ち上げて両手を広げていけしゃあしゃぁと言い放つ。
自分がしたことをまったく悪いことだ、ともおもっていないのがその様子から見て取れる。
「冗談いわないでっ!美穂だってちょっと悪かったけど、杏子たちをあんなひどい目にあわすことないでしょっ?!」
そんな童部をきっとにらみながらも、強い口調で言い返す美穂。
そしてまた。
「美穂ちゃんから聞いたよ。というか、何で!?童部くん、まさか君がそんなことするなんてっ!
  ひどいよっ!どうして!?杏子たちは何もしてないのにっ!」
いくら思い込みが激しい性格だ。
とはいえやっていいことと悪いことがある。
それてなくてもこの前の襲撃に関しても然り。
自分の注意で目が覚めてほしかったのに、さらに行動をエスカレートさせるなど。
「仕方なかったんだ。彼らは僕と君たちの運命を邪魔したんだ」
そんな二人の抗議の声をにこやかに、まったく悪びれもなくさらっといいきる童部。
彼の中には自分こそが正しい。
それ以外のものはすべてどうでもいい事柄。
こういうように躾けた両親等にかなり問題があるだろうが。
それでも、普通は周囲をみて子供は育つ。
両親やかかわっていた教員達だけの問題ではない。
周囲の環境においても性格の成長はかなり重要。
この彼は、両親や周りが甘やかしまくった結果。
それこそ善悪の区別がつかない大人として成長しているのだが。
「運命なんてないの。美穂、今日は怒ってるんだから!!」
「童部くんっ!」
それでも、きちんと注意をすれば自分で考え、間違いを正すのがそれが人。
それがまったく無関係な第三者を巻き込んだ犯罪行為に関係していればなおさらに。
強く叫ぶ美穂と遊戯の声にもまったく意に介することもなく、
「素直じゃないな。マイハニーも。遊戯くんも。
  遊戯くんはマイハニーと僕を結びつけるために使わされた存在だろ?」
さらっと自分の中での真実を言い放つ童部。
それらはすべて自分の思い込みだというのに、自分がおもえばそれはすべて真実だ。
それが彼の今のところの人格。
「って、何それ!?」
あまりといえばあまり、それでいて的外れもいいところ。
さらに自分の世界に浸ったようなそんな彼の台詞に思わず叫ぶ遊戯。
きちんとこの間、はなしたから判ってくれたとおもってたのに……
遊戯の中に悲しく、それでいてもどかしい思いが去来する。
「遊戯くんもあの彼らによって自分の使命がわからなくなってるんだね。
  でも、マイハニー。そこまでいうならゲームできめよう」
あくまでも自分の意見が正しい。
それは曲げることなく、さらに場違いなことをいってくる童部。
「ゲーム?」
いきなりといえば、いきなりの童部の提案に戸惑いの声をあげる美穂。
「カプモンだよ。君も練習していたみたいだし。もし、君がかったら、僕はもう君に近づかない。
  だが、もし僕が勝ったら…君は運命にしたがうんだ」
その瞳はあからさまに何かたくらんでいるのが見て取れる。
薄暗い倉庫の中なので童部がかけている眼鏡ゆえに完全には読み取れないが。
「…いいわ」
「って、美穂ちゃんっ」
絶対に何かある。
というか、美穂ちゃんはカプモンのことなんてまったくもってわかってないのに……
それをしっているがゆえに遊戯が引き止めるために声を上げるが。
美穂としては頭にほとんど血がのぼっているのでそこまでは考えていない。
ただ、相手の提案にそのままあるいみのせられた。
ということすら気づいていない。
「ふっ」
美穂のその返事をきき、口元に笑みを浮かべる童部。
彼女が勝てるはずはない。
つまりは、これで彼女は自分のもの。
そしてまた、遊戯くんも本来の役目を思い出してくれるはず。
そんなことをおもっている童部。
そんな彼の内心の思いはユウギにはあからさまに視てとれる。
それゆえに遊戯の横で盛大にため息をついているユウギの姿。
ユウギのそんな様子から、童部が何かをたくらんでいるのが嫌でもわかる。
だけども、遊戯としては信じたい。
童部の良心、というものを。
「フィールドはバージョン七。クライシスの丘。君のために初心者向けのものを用意しておいたよ」
いったいいつの間に用意していたのか。
提案してすぐにフィールドが用意されているテーブルをもちだしてくる童部。
どうみてもあらかじめセッティングしていたのは明白。
「初心者向けじゃないとおもうけど…それ……」
遊戯のつぶやきは何のその。
「後悔したってしらないんだからねっ!」
とにかくこの男をぎゃふん、といわさなければ気がすまない美穂。
こういう思い上がったり、独りよがりの男は美穂は根本的に好きではない。
それが他人に迷惑をかけるような人であればなおさらに。
「何て強気なんだ。さすが僕の女神。それじゃ、順番にカプセルをひいていこう。
  レディーファーストだ。どうぞ、さきに」
ご丁寧にカプセルがはいったままのガチャガチャカプセルが用意されている。

それだけみてもおかしい。
とめったに人を疑うことがない遊戯ですらその思いにとらわれる。
彼がカプセルモンスターをガチャガチャカプセルの中にいれているままにしている。
とは到底おもえない。
それはすなわち、前もってそれに入れた。
としか到底おもえない行動。
「…レベル一……」
童部の台詞をうけて、意を決してガチャガチャをまわす美穂。
本来ならばお金をいれればでてくる品なれど、
改造がなされているので普通にとってをまわすだけで品物はでる。
カプセルに書かれている文字をみて静かにつぶやく美穂。
「残念だったね。次は僕だ」
簡単な説明は遊戯から受けているので一応はしっている。
レベルが低いほどにその威力も小さい。
ということも。
それゆえに残念そうな、それでいて硬い声をあげる美穂とは対照的に、
そのままガチャリと取っ手を回す。
そのまま幾度か続けてゆくことしばらく。
『これは……』
「うん。……まさかとは思うけど……」
ここまであからさま。
というのはどう考えてもおかしい。
美穂がガチャボックスで引き出したカプモンは三つがレベル一。
残りの二つはレベル二と四。
それに対して、童部がひいたものはすべてがレベル五と四。
だがしかし、美穂のカブモンでも勝てない手ではない。
だがしかし、遊戯が気になったのは別のこと。
あからさまなイカサマ…としか思えない偶然。
これほどまでに確実にレベル一とそれ以外の品がそろうなど普通ありえない。
「何か悪いな。これじゃ、やるまえから勝負がみえてるね」
いけしゃあしゃあといいはなつ童部。
「そんなこと!やってみないとわからないでしょっ!」
たしかに、レベルが低いモンスターでも勝てる方法はある。
あるけど……美穂ちゃん、その方法…というか、仕組み…知ってるのかな?
「その意気だ。それじゃ、ゲームスタート」
美穂が取り出したカブセルの中のモンスターと、そして童部のカプセルに入っていたモンスター。
やり方によってはたしかに勝てる。
だが、その方法を美穂が知っているとは遊戯は思えない。
事実、美穂は知らないのだが。
童部がひいたカプセルモンスターの種類はといえば、
ダイナソーウィング、レベル五。
ヘッド・ザッカー、レベル五。
ガンボ、レベル五。
ドクラー4
コブラーダ4
この五点。
対する美穂のひいたカプセルモンスターはといえば、
デビルキャッスル、レベル一。
フラワーマン、レベル一。
アイマウス、レベル一。
グレートパー、レベル四。
トリガン、レベル二。
この五点。
レベルの格差と戦闘能力からいけばあからさまに勝ち目はない。
そのモンスターの属性や技を熟知していれば別だが。
相手のあるいみ挑発にのり、この勝負をうけたはいい。
だがしかし、
どうしよ?
あんなこといったけど、全然わかんないっ!
内心あせる美穂とは対照的に、
「それじゃ、お先にどうぞ」
確実に自分が勝てるのがわかっているがゆえに余裕をもって宣言してくる童部。
「美穂ちゃん、頑張れっ!」
この手なら勝てる方法はある。
でも、美穂ちゃんがそれに気づくか……
『遊戯も気づいたようだな。たしかに。この手なら美穂も勝つ手段はあるが……』
美穂の手をみて勝てる方法に気づいて美穂に声援を送っている遊戯。
そしてユウギもまたその方法に当然ながら気づいてつぶやくものの。
その方法に美穂が気づいている…とは到底思えない。
もう…やるしかないわ。
一か八かよっ!
そんな遊戯達の思いを知るはずもなく、ぶっつけ本番。
けっこう素人でもマグレがおこることがある。
ビギナーズラック、という言葉もあるくらい。
うん。
美穂って運がいいし。
そう自分にいいきかせ、
コッ。
ゲーム版のフィールド上に並べているモンスターを動かす美穂。
「う~ん。いい手だね。じゃ、こちらはガンボで。はい。一匹撃破」
まったくもっていい手、ではない。
ただ、相手に対してのお世辞みたいなもの。
当然のことながら美穂のモンスターではガンボにかなわない。
それゆえに美穂のモンスターはゲーム版の上から取り除かれる。
「も~!!むかつくっ!…いけっ!レベル四、グレートバー!!」
とにかく、強そうなやつで攻撃!
そう思い、一番レベルのたかかったソレを次にだしている美穂。
戦術とかは何も考えていない。
「う~ん。これはどうみても勝負にならないね。はやくギブアップしたほうがいいよ?マイスイートハニー」
あからさまに自分が有利。
そうおもっているがゆえにそんなことをいっている童部。
だが、彼はゲーム版上の自分のモンスターの位置がどうなっているのかに気づいていない。
「もうっ!五月蝿い、五月蝿い、五月蝿いっ!!早くやってよっ!」
ガタッ!
相手の挑発をうけ、がたっと椅子を立ち上がる。
その弾みで美穂の後ろにあったガチャボックスが後ろにと倒れ、そのまま中身がこぼれだす。
「…って……あれ?」
ふと、ガチャガチャカプセルの機械の中に見慣れないモノを見つけてふと声をあげる美穂。
「これって……まさか……」
ガチャ。
美穂のその言葉に遊戯もまたその中身をのぞきこみ、念のために幾度か取っ手を回してみる。
中に仕掛けられている仕掛けは区分けされてその区分け別に交互に品物が外にでてゆく。
というもの。
確認のために二度ほど取ってをまわすとやはり左右交互に中にはいっているカプセルが表にと出てくる。
「…あれ?中に変な仕掛けが……まさか、童部くんっ……これってインチキじゃあ!?」
念のために確認した後に、ばっと背後を振り向きながら叫ぶ遊戯。
信じたくはないけど、だけどもあからさまにインチキ以外の何ものでもない。
できればそんなのは知らなかった。
といってほしい。
というかしらなくて使ったのであってほしい。
「そうだよ。低いレベルと高いレベルが変わりばんこにでるようになってるんだ」
遊戯のそんな思いをあっさりと打ち砕くように当たり前のように言い放つ童部。
「なんですって!?」
あっさりと認めたその台詞に美穂が驚きの声を発する。
その声はあきらかに怒りに震えている。
「君に長く苦しい戦いをさせたくなかったんだよ」
いけしゃぁしゃあといってくるが、そんなの言い訳にも何にもならない。
「言い訳は止めなさいよね!これで反則負けは決まりよっ!
  さ。遊戯くん、いきましょ。私達の勝ちよ。かえろ」
くるっと向きをかえてそのまま出入り口のほうにと歩き出す美穂。
「それはダメだよ」
だが、そんな美穂や遊戯をひきとめるかのようにそう言い放ち、
ばさっ。
背後においていた布をかけていた大きな何かの布を取り外す。
みればそこには巨大な、ちょっとした人一人くらいはいれる大きさのカプセルが。
「ここに入った君はきっと最高だよ。君はもう、僕の、僕の僕のものだっ!」
完全に美穂…否、人とカプセルモンスターを同一化して考えている。
人の人権などは完全に無視。
そもそも、そんな中で人がずっと生きていられるはずもない。
それすらもわかっていないこの童部。
彼はあくまでも美穂はカプセルモンスターの女神であるがゆえに、カプセルの中にはいっているのが当たり前。
そう解釈していたりする。
まだ大学生だからどうにかなっているのもあるだろうが、
このような人物は確実に世の中に出てもやっていけないのは明白。
もっとも、彼の場合両親が両親なので使えないまでも彼の親の経営する会社に入るこも可能だろうが。
「童部くんっ!!」
彼が何をしようとしていたのか察して抗議の声をあげる遊戯。
まさかここまで病んでいるとはおもいたくなかった。
だけども現実は目の前に突きつけられている。
「な…何なの!?こいつ、遊戯くん、いこっ!」
さすがにここにいたり、こいつ…絶対におかしい!
まともにとりあっても無駄!
そう判断し、そのままだっと遊戯の手をにぎり駆け出す美穂。
「あ、まって。美穂ちゃんっ!!」
美穂にまるでひきづられるかのように遊戯もまたこけそうになりながら駆け出してゆくが。
「逃げられないよ。マイハニー」
ぐっ。
そんな二人の後姿を動じることなくながめながら、
手近にとあったヒモをぐいっとひっぱる童部。
と。
ガラガラ…
ガシャ。
童部がヒモをひっぱると同時に倉庫の出入り口にと鉄柵が天井から降りてくる。
が。
…バギャッ!
きちんとしたしつらえではないし、さらにはその重さに耐えかねて鉄柵を支えていた梁がめきり、と壊れる。
そのまま、鉄柵や梁ごと真下にいる遊戯と美穂にむかって落ちてくる。
「…あっ!」
『遊戯っ!!』
がっしゃぁぁっん!!
遊戯がそれに気づいて声をあげるのと、ユウギが声をだすのとほぼ同時。
だが、そんな彼らの声は鉄柵が落ちた音によってかき消される。
パラバラと天井からいまだにおちてくる梁の残骸。
「……まいったな。壊れちゃった……」
普通、常識から考えてここで驚いてあわてて救急車。
もしくは安否を確認するのが常人のすること。
だが、童部はまったく悪いことをした、という自覚はない。
ただ、遊戯達が壊れた、というのを残念がっているだけ。
人の命を命ともおもっていない証拠。
いまだに鉄柵が落ちた影響で倉庫内にもくもくと立ち込めている煙。
だが、そんな中、ありえるはずのない人影が土煙の中から浮かび上がってくる。
シルエットからして遊戯のようではあるが、何かが違う。
童部がそれに気づき首をかしげるよりも早く、
「童部。ちょっと悪戯がすぎたな」
完全に怒っている状態のユウギが姿を現す。
その両手には美穂が気絶したまま抱きかかえられている。
遊戯の慎重からして、美穂を抱きかかえる。
なんてことはできない。
身長差からしてもそれはありえないこと。
だがしかし、現実にそこにたたずんでいる遊戯は美穂を抱きかかえている。
「遊戯…くん?」
しかもいつも聞いていた遊戯の声とはことなる、低く、それでいてどこか逆らえないような声。
さすがの童部も一瞬ひるんでしまうかのような、そんな声。
戸惑いながらもそんな『遊戯』にと声をかける童部。
確かに、外見上は遊戯。
さらにいうならば、この場には自分たち以外はいないはずなのだから。
「ゲームの時間だ」
そういってくる遊戯の言葉に、ああ、やっぱり遊戯くん?
でも何か雰囲気が違うような気がするけど。
たぶん気のせいだろうな。
それで済まし、
「ゲームかい?じゃ、初めからやりなおそうか」
とにかく、決着がつかなければ美穂は素直に自分のもとにきそうにない。
女神が壊れていなかったことに満足しつつもそんなことをいってくる童部。
普通ならば、気遣った言葉の一つでもかけて救急車でも呼ぶであろうに。
この彼にはそういった常識すらもがかけている。
「いや、このままでいい」
抱えていた美穂を何やら台の上らしき場所にそっと横たえる。
あんな台あったっけ?
童部はおもうが、だがそれはあまりきにしないことにする。
あったも何も、もう一人の遊戯、すなわち【王】が姿を現したときに具現化させた簡易式のベット。
ゆえにそこにはじめからあったものではない。
「このまま?こんな不利なモンスターで?」
カタン、とそのまま美穂を横たえてさきほどまで美穂が座っていた椅子に座るユウギに対し、
面白そうにいってくる童部。
「不利かどうかは試してみろ。俺は美穂の作戦をそのまま引き継ぐ」
「ははははは。作戦?初心者の彼女にそんなものあるはずないだろ?」
ユウギのその台詞に笑うしかない。
遊戯くん、何いってるんだ?
さっきの彼女の続きからいくとなると、勝ち目はないにきまってるじゃないか。
そんなことをおもいながらも笑いながらいってくる。
だがしかし、そんな彼の言葉をそのまま軽くかわし、
「とにかく、始めようぜ。…ただし、これから始めるゲームは、闇のゲームだ」
淡々と言い放つユウギ。
すでにこの空間は【王】の力の支配下においている。
もっとも、そのことには童部は気づいてないようであるが。
「はっ。まあ、とにかく始めさせてもらうよ」
遊戯が何をいってるのかまったくもって理解できない。
まあ、このまま続きをやるならすぐに決着はつくからいいけどね。
そんなことをおもいながらも、何も考えずに自分のこまを動かす童部。
と。
「…あ?」
思わず目を点にする童部。
フィールド状にとおいてある、ゲームのコマがまるで生きているようにと動き出す。
ただのボードゲームのはずなのに。
そんな仕掛けなどは何もないはずなのに。
どういった仕掛けなのかはわからない。
判らないが、ユウギのコマと童部のコマは相打ちで二つとも消滅する。
「へぇ。おもしろいじゃないか。でも、相打ちだったね。
  僕が優勢であることにかわりはないようだ。いけ、ダイナソーウィング」
普通、少し考えれば何かがおかしい。
とおもうであろうが、今の彼は女神である野坂美穂が手にはいる。
ということからもその光景を疑問におもっていない。
何か遊戯くんがどうせ動いているようにみせかけてるんだろうし。
それですませていたりする。
「やっぱり、レベルが違うよ。遊戯くん。これでもう君のモンスターは二匹しかのこってないじゃないか」
すでに美穂が二度ほど攻撃をしかけていた。
遊戯の今の一回の攻撃で、残りのコマはあと二匹。
「ふっ。そうだな」
トッ…ン。
かんぜんに小ばかにしたような口調でいってくる童部の言葉を気にすることなく、
そのまま自分の番であるがゆえに、とんっとひとつのコマを進めるユウギ。
「あ~あ。だめだよ。そこはこの、ヘッドサッカーがいるんだから」
そんなユウギの手におもわずあきれた声をだしなからも、
そのまま誘導されている…と、当然気づくこともなくその場に自分のコマを進める童部。
攻撃力や防御力。
確実に童部のコマでもあるヘッドサッカーが勝っているがゆえにユウギが今動かしたコマは掻き消える。
「残念だったね。遊戯くん。のこった君のモンスターはレベル二が一匹だけ。僕の勝ちだ」
遊戯の手持ちのコマはあとひとつ。
対する童部のコマはあと四つ。
つまりは、どうかんがえても僕の勝ちだし。
そう確信しつついいはなつ。
だがしかし、
「さあ、どうかな?」
完全に余裕ぶっているユウギの言葉におもわずいらっとする童部。
素直に負けを認めて僕と女神を祝福してくれればいいのに。
そんな見当違いなことをおもいつつ、
「へえ。まだあきらめないつもり?」
小ばかにした口調で話しかける。
「フィールドのおまえのモンスターたちの配置をよくみてみろ」
いまだにそのことに気づいていない童部に笑みを浮かべながらも言い放つ。
力のみを重点においていたがゆえに、本来の能力を駆使する、という点を忘れている戦法。
それがすべてのきっかけ。
「ん?…ぼ…僕のモンスターが斜めに一列に並んで…い、いつの間に……!?」
遊戯の言葉にきづけば、遊戯の残っているモンスターと並ぶように、
ずらり、と童部のモンスター達は一列に斜め一直線に綺麗に並んでいる状態。
「そして。俺の最後のモンスター。トリガン。こいつはレベルが低くて小回りが聞かない。
   接近戦には向かないが、一つ隠し技がある」
腕をくんだまままったく動じることなく淡々と説明するユウギ。
「たった一度だけ、レベル五の敵を倒す。斜め一直線の一撃必殺技が」
ユウギに指摘され、初めてそんな技があったことにおもいあたる。
そもそも、強さのみしかみていなかった彼は技の種類などははっきりいって覚えていない。
だからこその驚愕。
そ…そんな!?
あの不利な体制から一発逆転を狙って自分のモンスターを四匹犠牲にしたなんてっ!
狼狽を隠しきれない童部を傍目に、
「いくぜ。疾風一斬っ!」
ぴっと指をたてて、フィールド上のコマであるモンスターに号令を出す。
ユウギの号令をうけ、のこっていたコンドル型の鳥の形をしたそれは、
その体全体に何やら炎のようなものをまといつつ、そのままいっきに斜めに突き進む。
それにともない、童部のモンスターにことごとくダメージを与え、
一番端にたどり着くと同時、斜め一直線にいた童部側のモンスターはすべてがその場から消滅する。
「っ…ぼ…僕のモンスターがっ!!」
それをみて何ともいえない声をあげている童部。
信じられない。
確実に野坂美穂の手は不利にしていた。
というのに。
しかも、遊戯くんは彼女の手をそのままひきつぐ。
とかいっていた。
まさか、彼女もこれをねらって!?
様々な思いが彼の思考をがんじがらめる。
「童部。カプモンの醍醐味っていうのはな。ただがむしゃらにモンスターを集めることじゃない。
  手にはいったモンスターをつかって、どうやって勝つか。ということさ」
童部はともかくモンスターを集めて収集していたにすぎない。
それに関してどのようにすればゲームで勝てるか。
などといったことまで調べたこともない。
ゲームとは、すなわち、一種の戦闘のようなもの。
司令塔が何もわかっていなければいくら部下たちがよりすぐりでも負けるのは明らか。
「負けた…僕が……」
がしゃっ!
自分の負けは認められない。
ゆえに証拠隠滅ともとれる行動にでる童部。
すなわち……
「うわぁっ!嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁ!野坂美穂は僕のものだぁぁ!!」
机ごと上においてあったゲームの台をおもいっきりひっくり返す。
そして、自分もまた椅子ごとひっくりかえり、いきなり駄々をこね始める。
自分の思いとおりにならないことはない。
そう育ってきている一人の人間のその末路。
自分から提案したことすらうけいれない。
自分の有利になること以外は何も。
「……闇の扉が…開かれた……」
まったく反省することもなく、なおかつ自分の意見を押し通そうとする童部。
そんな彼に向かい静かに言い放つユウギ。
その言葉と同時。
ドッン!
童部の頭上から、さきほど童部が美穂を入れようとしていた巨大カプセルがいきなり落ちてくる。
気づけばいつのまにか童自体もカプセルの下の台の上に乗っている状態。
そのままふたが頭上から落とされ、カプセルの中に閉じ込められる。
「…!?暗いよせまいよぉぉ!!」
童部が特注で作ったらしい、等身大のカプセルにとユウギの力によって入れられている童部。
最も、ユウギの力によって、その中に彼は移動したのであるが。
彼自身の心の闇が作り出すカプセルに入れるのも一つの手ではあるが。
生きた人をカプセルの中に入れようとしていた。
という点を踏まえて、あえて彼が美穂にしようとしていたことを自身をもって経験させる。
それにより、反省を促す。
そういった目的もあり、そちらのカプセルを使用した。
「ちょっとしたお仕置きだ。カプモンはコレクションじゃない。バトルゲームだってことを覚えておくんだな」
わめく童部に対して淡々と言い放つユウギ。
『いやあの…お兄ちゃん?それはそうと、あれじゃ、自力ででれないんじゃないの?』
そんなカプセルの中に入れられて、何やら叫んでいる童部をみて思わずつっこむ遊戯。
「人がくれば出してもらえるさ。それまでには少しは反省するだろ」
『まあ、そうかもしれないけど……あ、それより、美穂ちゃんっ!』
確かに、お兄ちゃんの言うとおりかもしれないけど……だけど、いいのかなぁ?
そんなことをおもいながらも、はっと美穂のことを思い出す。
たしかあの一瞬で遊戯は【王】とその魂を交換したがゆえに運動神経や反射神経。
それらがとびぬけて向上した。
ゆえに、そのままユウギが美穂を抱きかかえて落ちてくる鉄柵から逃れたのだから。
美穂はあまりのショックに気絶していたようだが。
はっと気づいて美穂のほうをみれば、美穂はどうやら気絶しているだけらしい。
そのことにもほっとする。
遊戯も先ほどまであまりのショックにより気絶していた口。
ふと気づけばユウギと童部がゲームで対決をしていた。
そして、その結果がこれ。
「以前創造り出したことがある擬似世界に送り込む、というのも手だとはおもったんだがな……」
これだけでほんとうにこの人間が更正できる、とは到底おもえない。
彼からすればこのお仕置きはまだ生ぬるい。
だからこそ、そんな可能性も考えたのではあるが。
だがしかし、美穂がいる手前…気絶しているにしろ万が一目覚められて人が消えている。
と騒がれでもしたらそれこそ面倒ごとになるのは明白。
『……お兄ちゃん、いったい昔、いくつそんな世界つくってるの?』
「さあな。自分でもよく覚えてないしな」
ユウギのそんなとんでもない告白に、それらは祖父である双六からも聞いていたがゆえにあまり驚かず、
それでも気になったことをといかけている遊戯。
傍目からみれば、独り言をいっているようにしかうつらないであろう。
何しろ遊戯は今は精神体…つまり零体のみで表にでてきている状態なのだから。
『お兄ちゃぁん……』
覚えてない。
といわれてあきれたような声をだしている遊戯。
彼らがそんな会話をしている最中。
う…ううん……
今まで完全に気絶していた美穂がゆっくりと意識を向上させる。
ぼんやりと瞳にうつりこんでくる景色は様子からしてさきほどの倉庫の中らしい。
えっと……
いまだに意識がなにやら朦朧としている。
そんな中、瞳に移りこむのは遊戯の姿。
だがしかし……
あれ……遊戯…くん?
何かがいつもと違う。
たしか、天井から柱とかが落ちてきて…そして……
光りに包まれたまでは覚えてる。
ぼ~としながらも考える。
何がどうなったのかわからない。
わからないが…あの鉄柵などが落ちてきた真下にいた自分がどうして無事なのかも不明。
私…生きてるの?
天井から柱や鉄筋が落ちてきたのは見えていた。
あまりのことにその場を動けなかったけど。
どうやって助かったのかすらもわからない。
ふと気づけば何かの台らしき上に寝かされている自分。
『あ。お兄ちゃん。美穂ちゃん。気がついたみたいだよ?』
遊戯の声にふと横のほうをみれば、頭を抱えながらも起き上がっている美穂の姿。
「それじゃぁ、遊戯。交代するぞ?」
いって奥に再び入ろうとするユウギであるが、
『って、お兄ちゃん。僕じゃ、美穂ちゃん。運べないよ?』
あのとき。
美穂は天井から鉄柵が落ちてきたときにとっさの行動でよけようとして確か足をひねったはず。
それは覚えているがゆえにあわてて引き止める遊戯。
足をひねり、横たわった彼女の上から鉄柵が降り注ぎそうになったその直後ユウギが表に出てきて、
美穂をかっさらうようにしてその場から逃れたのだから。
ふう。
目覚める前ならば足のくじきくらいは治すことは可能。
だが、目覚めている後でそんなことをすれば、あの美穂のこと。
どのように騒ぐかは…何となくではあるがはっきりと目に浮かぶ。
怖がる類の騒ぎ方ではなく…きゃいきゃいと騒ぐ類の騒ぎ方になる。
ということも。
「うっ…ん。あれ?…えっと…遊戯…くん?美穂、いったい……」
そこまでいって、何やら
『出して、出してよ~~!!』
わめいている童部の声がどこかくぐもったような感じで聞こえてくる。
どこから?
きょろきょろと周囲をみてみれば、さきほど自分を入れようとしていたカプセルの中に入っている童部の姿。
カプセル自体が透明の素材でできているので中身は見える。
だからこそ中にいるのが理解できたのだが。
「えっと…遊戯くん…よね?…あ!わかった!」
遊戯とは雰囲気からしてまったく異なる。
しかも身長も異なっている、となればなおさらに。
「君っていつも遊戯くんがいってる『お兄さん』でしょ?
  えっとえっとえっとぉ。はじめまして。私、野坂美穂っていいます。
  って、遊戯くんはどうしたんですか?…まさか!?」
自分はこうして無事にいるが、もしかしたら遊戯はあの鉄柵の下敷きになったのかもしれない。
そうおもい、ばっと出入り口のほうにと視線をむける。
そこにはたしかに、天井から崩れてきた元鉄柵の無残な形が見て取れる。
あんなものの下敷きになればまず助かっても無事ではすまない。
いまさらながらにぞ~としてしまう。
もしかして、美穂が気絶している間に遊戯くん…救急車ではこばれたとか…?
美穂のせいで、遊戯くんまで?
そんな自責の念が美穂の中に去来する。
「立てるか?」
「え?…っ痛っ!」
いわれて立ち上がろうとするが足に力が入らない。
どうやらひねっているらしい。
「しかたないな。ほら」
「え?あ。…えっと…あの……」
その場にしゃがみこんでくる遊戯の動作に戸惑いを隠せない。
姿形は遊戯くんそっくりなのに、格段に違う。
これが遊戯くんのいってたお兄さん?
遊戯くんはどうしたんですか?
そう聞きたいのに怖くて聞けない。
そもそも、どうしてあの童部があのカプセルの中にはいっているのかすらも判らない。
「足をくじいているらしい。まともにあるけないだろ?とりあえず家まで送っていくから」
そういわれ、相手が何を言いたいのか察して戸惑いながらも出されている背中にゆっくりとのっかかる。
そして。
「あ…あの、遊戯くん…は?」
怖いけど、真実はしらなければならない。
勇気をだして問いかける美穂。
そんな美穂の台詞に多少苦笑しつつも、
「あいつなら大丈夫だ」
今、この場でまさか肉体を共有している、と説明すれば混乱するのは必死。
それゆえに、
『後の説明は遊戯。お前に任すからな』
『え~~~~!!?ずるいっ!お兄ちゃん!』
心の中にて遊戯にと語りかけるユウギ。
当然そんなユウギに抗議の声を発している遊戯であるが。
いったい全体どうなったのか。
聞きたいことは山とある。
山とあるのに……背負われている彼の背中がとても温かい。
「とにかく。もうあれ以上童部のやつも何もしてこないだろうしな」
そう説明してくるユウギの台詞をききながら、その背中のぬくもりに思わず意識が遠くなってくる。
何だかこの背中はとても安心できる。
それがなぜかはわからないが。
いまだに意識ははっきりせずに思考からしても混乱しているせいかもしれない。
美穂がそんなことをおもうのは当然。
さすがのあの騒ぎ。
鉄柵が崩れ落ちたときにはかなりの音がしている。
もっとも、どの倉庫から音がしたのか。
までは理解できないだろうが。
騒ぎに巻き込まれるのは好ましくない。
ゆえにこそ、美穂と遊戯の荷物は少し違う空間にとおいてある。
それができるのはユウギだからゆえ。
当然美穂はそんなことを知る由もない。
おもわず、美穂は背中のぬくもりにうとうとしてしまう。
と。
何か浮遊するような感覚が襲ってきたような気もしなくもないが、きっと眠気のせいかな?
そんなことをおもう美穂。
事実は、そのときにユウギが何の言葉をも発せずに空間と空間をつなげたがゆえ、なのだが。

うとうとすることしばし。
「美穂ちゃん。ついたよ?」
「…え?あれ?」
ふと気づけば、いつのまにかもう家の前で。
しかもあのかっこいい遊戯の兄らしき人物はいない。
目の前にいるのはいつも見慣れた遊戯の姿。
「…え。えっと。遊戯…くん?」
「はい。美穂ちゃんの荷物。家までは一人ではいれる?」
いったい自分はどれくらい眠っていたのか。
それすらも美穂にはわからない。
事実はほんの十分も眠っていないのだが。
多少混乱気味の美穂にとってそこまで気がまわるはずもない。
「え。あ。うん」
「それじゃ。美穂ちゃん。またね。それと美穂ちゃん、お疲れ様!
  でも今後はきをつけてね!」
何がお疲れ様なのかもよくわからない。
そもそも、遊戯くん…どこにいたんだろ?
もしかしたら近くにいたのに美穂がきづかなかっただけなのかな?
そう自分なりに解釈しつつも、
「ただいま~」
あれ?
さっきまであんなに足がいたかったのにいたくない。
ふと不思議におもいながらもそのまま家にと入ってゆく美穂。
当然、美穂の捻挫はユウギがすでに完治済み。
それをただ美穂には伝えてないだけ。
美穂が無事に家にはいってゆくのを見届けた後、
「もう~。いきなり門の前でかわらないでよね」
美穂がいなくなったのでとりあえず文句をいう。
『そのほうがあとあと問題がないだろ?』
「そういう問題?」
あのとき。
美穂の家の近くに移動した後に、美穂の家の目の前で、周囲に人がいないのをいいことに、
いきなり遊戯といれかわった【王】。
そのほぼ直後に美穂が目覚めたのであるが。
それゆえに遊戯のぼやきももっともといえよう。
『とにかく。遊戯。俺たちももどるぞ』
「は~い」
そんな会話をかわしつつ、遊戯達もまた帰路にとついてゆく――


「でもよかった。杏達が早く治って」
翌日。
心底安心したように学校にいきすがらはなしかけている遊戯。
杏達はひとまず一晩、ゆっくりと養生した為か全員元気になっている。
もっとも、それは夜にユウギが彼らの元にでむいて治した。
という事実があるのだが、遊戯はそれをしらない。
「しかし、いったい何だったんだ?」
今朝のニュースで倉庫の内部で自分で特注したとおもわれる巨大なカプセルの中にはいっている男が保護された。
というのは聞いた。
カプセルから出されても、いまだに何やら意味不明なことをわめいている。
ということも。
名前からして、例の美穂の文通相手だ。
というのは理解できたが。
大学生であるがゆえに、二十歳過ぎているのでニュースにもしっかり名前はでる。
少し調べれば彼が常軌を脱したことをしていたのは一目瞭然。
そんなに警察は甘くはない。
彼の親がお金をつんで黙らせていたとある事柄も明るみになり、刑事告訴は免れない。
という新聞記事が小さく社会欄の隅にのっていたが。
遊戯というか美穂に関してのことはまったくもって触れられていなかったのは不幸中の幸いか。
「うん。心配かけてごめんね」
ほっとした声をだしている遊戯にと話しかけている杏。
とりあえず心配した遊戯が杏の家にいき、杏とともに学校に向かっている途中、
一緒になった城之内と本田。
それゆえに四人で学校にむかっている朝のひと時。
「しっかし。何でオレたちだけだったんだ?」
「あんたは日ごろの不摂生がたたったんじゃない?」
「いや!城之内はわかるが!この俺はいつも品行方正!不摂生などありえるはずもないっ!」
「なんだと!てめえっ!」
「ちょっと!やめなさいよ。本田も城之内も!」
きっかけ、というか話をそのようにふったのは杏にもかかわらず、
二人して言い争いを始めた本田と城之内をたしなめる杏。
と。
「みんな~~!!!」
何やら元気そうな声が聞こえてくる。
ふと声のしたほうに視線をむければ、
「ああ!美穂ちゃん!」
ぱっとその姿をみて顔を明るくさせている本田。
みれば、四人のほうにと何やら紙袋らしきものをもってかけてくる美穂の姿が。
「きいてよ!美穂ね。あれからカプセルモンスター、すっかり好きになっちゃった!」
あんな目にあった、というか。
美穂が好きになった理由は他にある。
夜になり、童部の両親が美穂の家にとやってきて多少の心ばかり、といってお金をおいていったのである。
それは、童部が最近美穂という女の子をカプセルモンスター同様に閉じ込めたい。
といっていたのを両親とも実は把握していたからに他ならない。
つまりは口止め料。
しかも、少し調べてみれば息子が高校に不法侵入して薬を盛った。
ということも。
そもそも、あの薬は息子にせがまれて両親が用意したもの。
その用途を聞くこともなく。
せがまれれば、何でも善悪に関係なく与える親。
あの性格になった一旦ともいえる原因。
それとは別に息子が子供たちから脅し取った…もとい、もらったというカプセルモンスターの数々。
そんなものをずっとおいておいたら、いつ息子の罪が増えるかわからない。
だから、口止め料として美穂の家におしつけた彼の両親。
美穂はそんなこと知るはずもないが。
そんなことをいいながらかけてくる美穂であるが。
道にあった少しの段差に思わずつまずく。
そのまま。
こけっ。
お約束にもその場にこける美穂。
それと同時にもっていた紙袋から昨晩もらったカプセルモンスターの数々が転がり出る。
「…はぁ~……」
「…こりてねえな。ありゃ」
そんな美穂をみて額に手をあてて盛大にため息をついている杏に、
唖然としながらもつぶやいている城之内。
そしてまた。
「ああ!美穂ちゃん!」
いいつつも、こけた美穂のほうに駆け出していっている本田。
「もう。美穂ちゃんったら……」
だが、それが美穂のいいところでもあるけどな。
どこか憎めない。
それが美穂の魅力。
それはかつてにおいても、今においても変わることがない、魂の輝き――
ともあれ、しばらく美穂のカプセルモンスター熱はあと二、三日は続きそうである。


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あとがきもどき:
薫:ようやく打ち込み完了~
  というか、まえがき打ち込んだのがしたの日付。
  完全に見直しも完了して完全UPしたのはすでに年がかわってたり(汗
  ともかく、ようやぁぁくシャディーのサラダ館v(まて)にいけそうですv
  何はともあれ、それではまた次回にて~♪

2007年9月13日(土)某日

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