まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて。
今回はカプモンというか、カプセルモンスターの美穂の回v
これがおわってから例のシャーディー(のサラダ館)の回にゆくのですv
って、上のネタ…わかる人はお仲間ですv
そーいや、あのサラダ館の宣伝…いつのまにかみなくなったなぁ…(しみじみ……
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「大丈夫?」
「う。うん。あなたのほうは?」
ここがどこなのか皆目検討はつかない。
いきなり村が襲われ、そして攫われた。
それは理解できるが、すでに視力がなくなっている視界においては事態の把握は不可能。
かろうじて、周囲の音や感じる感覚や雰囲気で何とか情報をつかんでいる。
「私は平気」
一緒の石の牢獄に入れられているのが不幸中の幸い。
というのかもしれない。
歳のころは同じくらいの少女が二人。
だが、暗闇の中でも片方の少女の肌の色が異様なまでに白いのは見て取れる。
そして、その瞳の色もまた空の青さや海の青さをたたえた色で、
まずこのあたりではお目にかかれない色である。
ということも。
髪の色も銀色に近い白色。
こんな容姿の人などまずこのあたりでは探しても一人たりとてみつからない。
あるいみかなり目立つ風貌をしている少女と。
そしてまた、どこか視点が定まっていない瞳を一点のみに向けたままで話している少女。
成長とともに視力が低下し、今でははっきりいって視力は完全にとなくなっている。
医者や神官ですらも彼女の目を治す。
というのは不可能。
そういわれ、生きていくのは難しい。
そう宣告されていた。
それでも今まで生きてこられたのは家族の支えがあってこそ。
「とにかく。どうにかしてあなただけでも逃がさないと……」
自分の容姿が目立ちすぎる。
そう判っているからこそ、この子だけでも助けたい。
それは切実なる願いであり、また思い。
自分自身がもつ力が自分の意思で自由に操作できればこんな場所からの脱出もたやすいであろうが。
だけど、自分で操作することはできない。
自分の中に【何か】がいる。
というのは判っていながら……
「キサラさん?」
「とにかく。貴女だけでもぜったいに助けてみせるわ。シズカちゃん……」
最後のほうの台詞はよく聞き取れにくいほどに小さいもの。
それもそのはず。
何やらいきなり上のほうが騒がしくなったがゆえ。
『?』
しばし、外にいる見張り同様、二人してその中で首を傾げてゆく少女の姿が二つ……
「何だろ?」
「……この感じは……」
近づいてくる。
漠然とというか感覚的に判る。
自分と同じ…いや、それ以上に何やら強く、それでいて聖なる力をもった存在が。
身体の中にいる自身の精霊の白き竜が呼応しているのがわかる。
「キサラさん?どうかしたんですか?」
何やら呆然とつぶやくキサラ、と呼んだ少女に対し不安そうに話しかけるシズカ、と呼ばれた少女。
シズカには判らない。
目が見えない彼女が感じるのは、ただ横にいるキサラが何やらしばし呆然としている感覚のみ――
~第17話~
「何それ?美穂?」
「んふふ。プレゼント。さっき届いたの~」
ダンボールの箱に元々はいっていたが、その中身はすでに取り出し、
中の包装してある箱のみ教室にともってもどっている。
念のためにダンボールの箱は後ろにおいてあるので、
もし品物が多いようならばその中にいれて帰る予定。
「あ。それでさっき美穂ちゃんに呼び出しがかかったんだ」
昨日の騒ぎはどこにやら。
きらりと、美穂の腕には昨日のDショックが光っている。
学校にしてくるのはどうか、ともおもうが、彼女にとっては日常的な時計であるがゆえに問題ないらしい。
時計騒動の翌日の昼休み。
今日は朝から何やら学校内が騒がしかったような気がするのは、
おそらくは、昨夜学校の生徒の家が放火された。
ということにあるらしい。
やはり昨夜の火事は放火であったらしく、先生たちからも気をつけるように。
と注意があったばかり。
放送で呼び出しがあり、戻ってきた美穂が教室に持って入ってきたのは、
何やら緑の包装紙で包まれているプレゼントらしきもの。
それゆえに、不思議に思い問いかけていた杏子。
「ま、待つんだ。美穂ちゃん。爆弾かもしれない」
大きさ的には抱きかかえられる程度。
高さもさほど高くもなく、低くもなく、といったところか。
それゆえに、にこにことしてそれを手にしている美穂にとありえないことをいっている本田。
「ば~か」
爆弾とかならもっとこう、こんなかわいらしい包装にはしねえってば。
しかもこんな大きいやつはねえってば。
そんなことを心に思いながらも本田にと突っ込みをいれている城之内。
「んふふ♡プ~レゼント~。オ~プン♡」
がさがさがさ。
机の周りに集まってきている遊戯、杏子、城之内、そして本田とは対象的に、
にこやかに席についたまま、がさがさと包装紙を取り外す美穂の姿。
「…あ」
「ん?」
「あ?」
「…これって、ガチャボックス…だよね?」
美穂ががさがさと包装を取り除くとそこにはちょっとした一抱えより少し小さなボックスが一つ。
それゆえにその場にいた全員の目が点と成り果てる。
「…?」
予想外の品物に目を点としてそれをみている美穂とは対象的に、
「うん。カプセルモンスターが入ってるみたいだけど……
お店に設置されてるのと違って、少し小さめのボックスだね」
杏子の問いかけに答えている遊戯。
店の軒先などによくおいてある大きさのそれではなく。
家庭用などに玩具として売られている大きさのガチャボックス。
それゆえにあまり大きな箱ではなかったようであるが。
『とりあえず。最近のカプセルのやつだな。これは』
初期に発売されたものは、主にデュエルモンスターを模したカプセルであるがゆえ、
レベルなどが判らないようなカプセルに入って売られていた。
それでは、集めたりするのに困るから。
というので新たに販売されているのが、レベルが書かれたカプセル入りのもの。
美穂の机の上に広げられているガチャボックスを取り囲むようにしてみている遊戯たち。
ユウギもまた表にでてきてそれを眺めているのであるが、
当然、それは杏子たちにはわかるはずもない。
「カブセルモンスター?何だ?そりゃ?」
遊戯の説明に、首をかしげて問いかける城之内。
「通称。カプモン。今小学生の間とかで流行ってるんだ。
カプセルの中にモンスターが入ってて。それを使ってチェスみたいにゲームをするんだ。
敵を全部倒したほうが勝ちだよ。
面白いのはゲームを開始するまで、相手のモンスターのことはレベル以外には判らない。
ってことなんだ。ほら、カプセルに文字がかいてあるでしょ?それがレベルをあらわしてるんだ。
これもあのデュエルモンスターズを生み出した会社と発売元は同じだよ?」
「ふ~ん」
ガチャボックスの中に入っているカプセルの表示を指差しながら丁寧に説明する遊戯。
とりあえず、出してみよ。
そんな遊戯の説明は何のその。
そのまま、ガチャリ、とボックスの中にとはいっているカプセルを取り出している美穂。
業務用のではないがゆえに、別にお金を入れる必要はない。
つまみを回すだけで中身はでてくる。
ガチャガチャ……
コロッ…ン……
「けど、美穂がこんなもの喜ぶわけじゃないじゃないか。どうせごみばこに……」
学校にんなもん送ってきたやつ、何かんがえてるんだ?
そんなことを思いながら、あきれた口調で言い放つ城之内であるが、
「うわ~♡ティファニーのプロードハートとりどりイヤリングとかだ~♡私のほしかったものばっかり♡」
イヤリングにネックレスにブレスレット。
一見、玩具に見えなくもないが、わかる人にはわかる。
すべてが本物だということが。
どうでもいいが、カプセルの中にそのまま品物を入れるのはどうか…という疑問点も否めないが。
何が送られてきたのかは興味があるがゆえに、カプセルの中身を確認した美穂。
その中身には美穂がほしかったアクセサリーなどがカプセル一つにつき一つづつ。
すべてがかぶらないように色々な品物が入っていたりする。
「す…すげ~」
今美穂がいったアクセの種類とかはわからないが。
それでも、ブランド品の名前くらいはわかる。
玩具でないとしたら、かなりの値段になるのも明白。
うったら…これらいくらになるだろ?
心の中でそんなことを思いながら素直な感想をつぶやく城之内に、
「み…美穂ちゃん……」
カプセルの中に入っていたアクセサリーを嬉しそうに手にもっている美穂をみて、
戸惑いの表情を浮かべている本田。
彼にとっては何がどういいのかはわからない。
わからないが、美穂にこんなものを送ってくる相手がいる。
というのでショックを隠しきれない。
「ち。ちょっと。美穂。誰なの?学校にこんなの送ってくるやつ?」
常識的には考えられない。
そりゃ、家とかを知らなかったら学校に…かもしれないけど。
いくら何でも高価な品ばかりだし。
…しかも…ガチャボックスの中のカプセルに入れて……
それゆえに、美穂を心配しながらも問いかける杏子。
「え?えっとね。最近文通してる大学生の童部君」
にっこりと、杏子の問いかけに差出人の手紙を取り出して答えてくる美穂。
そんな美穂に対し、
「「「え~!?」」」
同時に叫ぶ、杏子、本田、城之内の三人に。
「……え?…あ…あはは……」
『?それってたしか、あいつじゃないのか?』
うん。
何考えてるんだろ?
あの童部くん……
乾いた笑いをあげている遊戯に、そんな遊戯に対して問いかけているユウギ。
ユウギの問いかけにはひとまず心の中で答える遊戯。
童部、という人物には遊戯たちは心当たりがある。
それゆえの反応。
「うれし~。だふんこの調子だとみんな美穂の好きなものばかりよね♡」
いいながら、ガチャガチャと数回、ガチャボックスをまわすものの。
ふと。
「そういえば。それより、この中身ごと取り出したほうがはやいかな?
えっと。遊戯くん。これってどうやって取り外すの?」
遊戯くんに聞けばたぶん判りそうだし。
そう思い、何やら乾いた笑いをあげて何ともいえない表情をしている遊戯にと問いかける。
そして。
「?どうかしたの?」
その表情の違和感に気づいて美穂が問いかけるが、
「え?ううん。何でもない。えっと、これはね。ここをこうして……」
軒先や店内に設置されているものならば鍵が必要であるが、これは家庭用のガチャボックス。
ゆえに中身は自由に入れ替えることができるようになっている。
「あ。誰か袋もってな~い?」
「あ。袋ならあるけど……美穂、どうする気?というかこんなもの学校におくってくる相手…やばくない?」
「え~。杏子の心配しすぎだよ。あ、これもういらない。誰かいる?」
必要なのは、中にはいっていたアクセ入りのカプセルのみ。
ゆえに、こんな大きなガチャボックスはいらない。
「遊戯。もらったら?」
「み、美穂ちゃんっ!ぜひとも俺にっ!!」
遊戯ならこれを有効活用しそうだし。
それに、遊戯の家ってゲーム屋だし。
そう思い遊戯に話しかける杏子であるが、がばっと身を乗り出し美穂に懇願している本田。
「あん?おまえがもらってもしょうがないだろうが。こんな玩具で遊ぶ歳か?お掃除委員は」
「お掃除委員ではないっ!美化委員だっ!ね、美穂ちゃんっ!ぜひとも俺に!!」
そんな本田に突っ込みをいれる城之内の台詞をいつもながらにさらっと受けて、
そのまま美穂にと懇願している本田の姿。
「本田くん、ほしいの?ならいいわよ?」
「ありがと~!!!美穂ちゃんっ!!」
美穂の言葉をうけて、何やら舞い上がり一人喜ぶ本田をみつつ、
「んなもんもらって何するんだ?こいつは?」
「さ…さあ?」
唖然とつぶやいている城之内と杏子。
一方で、
……童部くん、こんなことして……何か一人で盛り上がりすぎてるようなきがするのは気のせい?
『いや、気のせいじゃないとおもうぞ?』
心の中でつぶやく遊戯にすかさず突っ込みをいれてきているユウギ。
と、とにかく。
今日の放課後、童部くんのところにいってみるよ。
たぶん、童部くんのことだから、ガチャボックスがあるところにいるとおもうし……
杏子たちには聞こえないよう、心の中で会話を交わす。
「他には何がはいっているのか、ゆっくりとあとで確認しよっと♡」
がさがさ、ごそごそ。
とりあえず、遊戯に外してもらったボックスの上部分。
そこから中身をごっそりと取り出し、中にはいっているカプセルのみを全部外にと出す。
そして、中身がなくなったガチャボックスはとりあえず後ろにそのまま置いているダンボールにと片付ける。
カプセルだけならば、そんなにかさばらない。
「今日は数学の授業なくてよかった~」
もし、あれば確実にこれらの品は没収である。
それゆえにそんなことをいいながらカプセルを杏子からもらった袋に詰め替える美穂。
「ま、今日は午前中にあったしね」
数学の担当教師は何かと難癖をつけて生徒を退学にする。
というもっぱらの噂の教師。
ちなみに、常に生徒の粗を探している部分があるのか、突発的な持ち物検査などをする。
暗黙の了解で認められている携帯なども彼女にかかれば没収…ということにすらなりかねない。
携帯は一応、持込みしてもいいが、マナーモード、もしくは電源をきる。
授業中は使用しない。
というのが一応、校則にはないものの口頭注意にて決まっている。
「美穂、頑張ってお礼の手紙かかなきゃっ!」
「み…美穂ちゃん。まさか、そんな物でつられ…ないよな?」
「残念だったな。お掃除委員の本田くん。美穂のやつは聞いてないようだぞ?」
「そ…そんなぁ~~!!」
そんな彼らの会話をききつつ、
「美穂。まさかそのままもらったまま。とかにしたらだめよ?
高価な品がいくつもあるようならかえしなさいよ?」
「え~?」
「え~?じゃ、ないでしょっ!?相手の顔もしらないのに、そんなに大量にもらって、何ともおもわないの?」
杏子の心配はしごく当然。
というか、不思議というか疑問に思わないほうがどうかしている。
「だ…だよね……あ…あはは……」
杏子の台詞に、横でただただ乾いた台詞をいっている遊戯。
「でも、これには全部美穂にあげるってかいてあるし……」
キ~ン…コ~ン……カ~ン……コ~ン……
「あ、始業前のチャイムだ」
「お。ほんとだ」
「いっけない。はやくかたづけとかないと」
ガヤガヤガヤ。
チャイムをうけて、教室の外にでていた生徒達もまた教室内にと戻ってくる。
それゆえににわかに活気付くクラス。
後ろのほうにと置いてあるダンボールに幾人かのクラスメートが気づくが、
それにあまり突っ込みするものはいない。
何しろ後ろのほうにはそれ以外にも様々なものが置かれている。
五月にそろそろ突入する。
ということもあり、五月の大型連休。
それにあわせてある行事などで使う部活動の品などが、
各自それぞれ練習のためなどに置かれている現状がそこにある。
楽器類などは部室に全部おけないので、各自のものは各自で保管するように。
という名目のもと、各自が教室に持ってきているのであるが。
だからこそ、美穂のダンボール箱一つくらいでは誰も気にしていない。
「授業おわったら、即効で童部くん、探しにいこうね。お兄ちゃん」
自分の席につき、横にいるユウギにとぽそっと話しかける遊戯。
今日もまた海馬瀬戸は登校してきておらず、遊戯の隣の席はいまだに空席のまま。
『それしかないな』
あんなものを学校に送ってくる。
ということ自体が常識から外れている。
それは古代エジプトにおきかえたとしても常識的に考えられない。
だからこそ、あの人物の真意を測る必要性はある。
たしかに、あの男の心には闇が多少くすぶってはいたが…まだどうにかなりそうなレベルだったしな。
そうは思うがそれは口には出さない。
それを口にしてあまり遊戯に心配をかけたくない。
いつ、何のはずみで遊戯が自分の存在意義を知るきっかけになるとも限らないのだから。
今の遊戯はまだ、その理由を知る必要性は…ない。
ともあれ、午後からの授業を開始するチャイムが鳴り響き、
そのまま遊戯たちは午後の授業タイムにと突入してゆく――
キ~ン、コ~ン、カ~ン……
「んふ♡」
落としたりでもしたら大変だもん。
そんなことを思いつつ、両手にカプセルをいれた袋を抱きかかえ、
学校の鞄はそのまま置いておく。
後でもう一回、とりにこよv
今はさきにこれを家に持って帰るのが優先だもんね。
それか紙袋…ないかな?
紙袋があれば、それにいれて、片方で持ち運びができる。
そんなことをおもいつつ、廊下を歩いてゆく美穂。
「いっちゃダメだ。美穂ちゃん。物で君を惑わすような男は……
美穂ちゃん?美穂ちゃぁぁ~~んっ!!」
そんな美穂に追いすがるようにして廊下にでて叫んでいる本田の姿。
彼の中の妄想では、美穂が品物のお礼に…といって文通仲間だという童部。
という大学生のもとに頬を染めて駆け寄ってゆく様。
がくり、と膝をついて美穂を見送る格好になっている本田に対し、
「あきらめろ。今のおまえは一個百円のカプモンより価値がない男なんだ」
冗談半分、まじめ半分に本田の肩をぽんとたたいていっている城之内。
「うっ…美穂ちゃぁぁん……」
城之内の言葉をきき、さらに脳内でありえない妄想を展開させ、
その場に半ば泣き崩れる本田であるが。
「ちょっと。止めなさいよ。城之内」
完全に本田を城之内のやつ、からかってるわ。
それがわかるからこそ、そんな城之内を止めに入る。
と。
「…あら?遊戯はもうかえっちゃったのかしら?」
いつもなら、こういうときは遊戯も止めにはいるであろうに。
そういえば、遊戯の姿は見当たらない。
「そういや。遊戯のやつ、授業が終わってホームルーム終了後にすぐに用事があるとかでかえったぞ?」
遊戯にしては珍しく急いでたようだけど。
そんなことを思いながらも杏子の疑問に答える城之内。
「そうなの?…まさかまたゲームセンター…かしら?」
遊戯は双六の影響なのか、はたまたもうひとりのユウギの影響なのか、とにかくゲームには目がない。
彼が主にお小遣いを使う理由は、ほとんどがゲームに関して。
最も、それらはユウギの影響で極力最小限の資金に抑えられているにはいるのだが。
「ま、とりあえず。だ。諦めろ。本田。所詮財力のないおまえには無理な話だ」
「美穂ちぁぁんっ!!」
杏子の素朴な疑問に答えつつ、ダメオシとばかりに本田にといっている城之内。
この反応が何だか面白くて止められない。
いつも結構冷静沈着な本田が美穂の事になると常識外のことをするのもまた然り。
「もうっ。…ほんっと、遊戯…どうしたのかしら?」
昨日の事についてもちょっと聞きたかったのにな。
そんなことをおもいつつ、しばし校舎の窓の外を眺める杏子。
時刻はまだ五時前だというのに、多少ばかり夕焼けがはじまりだしている。
そろそろ五月、といってもまだ日は短い……
えっと……こっちかな?
タタタタタ。
とにかく、ひたすらに町の中を駆け抜ける。
『気配はこっちからだな』
「ありがと。お兄ちゃん」
少し目をつむり精神を集中させれば相手がどこにいるのかはユウギにはわかる。
その芸当は遊戯には出来ないが。
というかよくそんな芸当できるよね。
お兄ちゃんって。
と常々昔から遊戯は思っているが、それはまあお兄ちゃんだし。
で済ませているこの現状。
「いい加減しにろよっ!」
「いい大人が子供の邪魔するなよなっ!」
童美野町の中にはいくつかの店などが軒並み存在している。
その中にガチャボックスを設置している店も多数とある。
中にはデバートの中とかにもあるが、ああいう場所はあまりいいのを入れない。
それがわかっているからこそか、彼がよく出没するのは……
その予測と、そしてユウギの導きにより、幾つ目かの路地を曲がりきる。
「ちっ。またレベル一か……」
ガチャガチャガチャ。
「でない……でろ…でろ、出ろっ!…やった!でた!レベル五だっ!」
「えっと…童部くん?」
予測道理というか、何というか。
また迷惑かけてる……
そんなことを思いながら、恐る恐る声をかける。
「ん?やあ、遊戯くん」
振り向いた並んでいる子供たちとは対照的に。
どうみても大人にしかみえない男性。
なぜかその口にチュパチャップスという飴玉を銜えているのも気になるが。
「また皆の邪魔してる……それより、聞きたいことがあるんだけど……」
「何?いいよ。レベル五が今でたところだしね」
少し申し訳なさそうに問いかける遊戯の言葉に、なぜか口にチュパチャップスというアメを銜えたまま、
背後を振り返り返事をしてくる童部、と呼ばれた男性。
歳のころはどうみても二十歳を過ぎているようにみえるのは気のせいではない。
「やっとか」
「まったく。いい大人が子供の邪魔をするなよなっ!」
そんな彼の台詞に後ろにいる子供たちから盛大に抗議の声が巻き起こる。
たしかに。
小さな子供を押しのけて、財力にまかせて延々と大人がガチャガチャカプセルをやっている。
というのはあまりというかまず褒められたものではない。
その場に彼が出し終えたカプセルをそのまま残し、その場を立ち去ろうとするそんな大人に向かい、
「あ、これどうするの?」
後ろに並んでいた子供の一人が問いかける。
そこにはかるく数十個以上のカプセルが無造作に地面に置かれているまま。
そのまま出し終えたカプセルも地面にそのままおいている。
というのも常識的にかけ離れている行為であるが。
「そんなのいらないよ。いこうか。遊戯くん。ここじゃゆっくり話せないしね」
あっさり後ろにいた子供たちにいい放ち、遊戯を促しその場を後にする。
そんな彼の言葉をうけ、
「あ、なら、オレ達も~らいv」
「でも、これらレベル低いぜ?」
「でも、レベル低くても、ただだし」
「それもそうだ」
わいわいと、その場にかたまり、誰がどれをもらうか相談を始めている子供たちの姿。
子供にとってはガチャガチャカプセルの一回につき百円。
というのはおこづかいなどをもらっている身としてはけっこうな大金。
ゆえにこそ、無料で手にはいる。
というのであればそれは歓迎すべきもの。
童部が出し終えてそのまま破棄しているカプセルに群がる子供たちの姿をみつつ、
「いいの?童部くん?」
一応念のために問いかける。
かるくみつもってもあれに使っているお金は、
かるく五千円はいっているようにみえるのは気のせいではないであろう。
「いいんだよ。あれは全部レベル低いのばかりだしね」
遊戯がいいたいのはそこではないのだが、さらっと答え、ひとまず近くの公園にと向かってゆくことに。
「彼女、よろこんでくれたかい?」
「え?…うん……だけどね……」
公園につき、歩きながら問いかけられ、ひとまずうなづく遊戯。
学校にあんなの送ってくるのってちょっとどうかとおもうんだけど……
そう心ではおもうが中々それを口に出すタイミングが難しい。
遊戯がその次なる、学校に送ってくる云々という台詞と、その真意を問おうとした問いかけよりも先に、
「本当はカプモンそのもののほうがいいとおもったんだけど。
君に以前聞いた忠告に従って正解だったみたいだね」
何やらまったく見当違いなことをいってくる童部の姿。
いや、まさか美穂ちゃんにああいう形で上げるとは僕もおもってなかったんだけど……
数日前、たしかに彼に聞かれて、女の子ならカプモンよりアクセサリーとかのほうがいいんじゃない?
とはたしかに答えた。
すっかり、杏子の人質事件とかが重なって忘れていたが。
「いや、あのね?童部くん?あの……」
とりあえず、ああいうのはどうかとおもうんだけど。
そう忠告しようとした遊戯の声は何のその。
「だが!あの程度では僕の野坂美穂の愛は語りきれないっ!」
まったく遊戯の声は聞こえていないらしく、何やら勝手に一人自分の世界に浸り始め、
いきなり叫んでいる童部。
『…遊戯、友達は選んだほうがいいんじゃないのか?』
「悪い人じゃ…ないんだけどね……」
人の話しをきこうともせずに、自分の世界に浸っている彼の姿をみて、
あきれたようにつぶやくユウギに、ため息まじりに答える遊戯。
遊戯たちとて彼のことをまだよく知っているわけではない。
それでも、短い付き合いにおいても大体の性格はわかる。
悪い人ではない…んだけど、問題はあるよね。
それは遊戯にもよくわかっている。
判っているからこそ、忠告しようと今日は学校帰りに彼を探しだしたのだから。
「あの、衝撃的出会いから募る、この思いをっ!」
そんな遊戯たちのつぶやきはまったく気にもとめず。
というかはっきりいって童部は遊戯の言葉をきいていない。
「あれは、カプモンの新種をゲットしようと奮闘しているときだった。
あのとき、ショーウィンドゥ越しに見えた、あの彼女の微笑み!あれこそポケモンの妖精。
いや、女神っ!その野坂美穂と、カプモン仲間の君が友達だったとは幸いだったよ」
一人で、自分の世界の空想、そして回想世界に浸りながら悦に入って何やら力説している童部。
そんな童部をみてさらに再びため息を深くつき、
というか、童部くん…童部くん、かなり極端なところがあるからな~。
まだ付き合いは短いけど……
『というか。こいつのほうから近づいてきた。というほうが正解のような気がするんだが……』
遊戯が心の中でつぶやくと同時にそれに対して突っ込みをいれてきているユウギ。
「……あ…あはは……」
たしかに、ユウギの言うとおりではある。
それゆえに、ただただ乾いた笑いをあげるしかない遊戯であるが。
「しかし…それも…彼女と僕が運命の糸で結ばれてる証拠っ!
今は新種のカブモンより野坂美穂をゲットしなければならないんだ~!!」
一人、何やら盛り上がっている童部に対し、
「いや、それ絶対違うから」
即座に突っ込み訂正をいれている遊戯。
「だが、それも遠い先のことではない。
今や僕と彼女の愛は深まるばかりなんだからね。そうだろ!?遊戯くんっ!」
だがしかし、そんな遊戯の言葉は聞いてはおらず、一人で勝手にさらに盛り上がる。
「あの…、だから……童部くん、もうすこし冷静になったほうがいいよ?
何かちょっとというかかなり一人で盛り上がりすぎてるし……」
まったく人のいうことを聞かずに盛り上がりすぎるそんな童部の目の前で、
ひらひらと手を振りながらも注意を促す遊戯であるが。
『というか。こいつ、人の話し…聞いてないとおもうぞ?』
昔から、この手のタイプの奴はいたけどな。
自分の世界に浸って人の意見をまったく聞かずに暴走する輩は。
ため息まじりにそんなことをいっているユウギ。
「童部くん、極端なところがあるからね……心配だな……」
ユウギの台詞に続いて、心配そうにつぶやく遊戯。
そんな二人の会話というか、はたから見れば遊戯の独り言にもまったく気に留めることもなく。
というよりは、遊戯の台詞などはまったく聞いてもいない。
「おお!わが運命の女神よ~!!!」
「・・・・・・・」
『・・・・・・・・』
一人盛り上がる童部に対して、ただただ無言で顔を見合わせ同時にため息をつく遊戯たち。
そして、ふと。
「おや。もうこんな時間か。それじゃあね。遊戯くん」
「え?あ、ちょっと!童部くん!?」
まだ肝心なことをいっていないというのに、ふと腕時計の時間を確認し、
そのまま立ち去ってゆく童部に対し、あわてて呼びとめる遊戯であるが。
そんな遊戯のひきとめは何のその。
そのまま童部は走り去っていってしまう。
「…もう。でも、ほんと…何もなければいいけど……」
『ま。しばらくは様子をみるしかないだろうな……』
そんな彼の後姿を見送りつつも、しばしそんな会話を交わす遊戯たち。
「…とりあえず、かえろっか」
『だな』
追いかけていってもおそらくムダ。
というのは判っている。
それゆえに、今日のところは家にもどることに――
「なるほど。それはたしかにちと心配ですの~」
「もう。爺ちゃん、人事みたいに~」
『ま、シモンだしな』
家にもどり、ひとまず店先にて童部のことを祖父である双六にと話している遊戯。
ほっほっほっ、と笑いながらいうそんな双六に対してぼやく遊戯とは対照的に、
苦笑しながらも答えているユウギ。
今も
だからこそ苦笑するしかないユウギ。
「とにかく。その童部くんっていう人、ちょっと思い込みとか激しいから心配なんだ。
爺ちゃん、何かいいアイデアない?」
あのままでは自分の世界に浸りこんだあの童部が何をするかわからないところもある。
それゆえの相談。
双六はカウンターの中、そして遊戯は店の方側。
つまりはカウンターを挟んでの会話。
『ああいう性格のやつは自分の身をもって経験しないとわからないとおもうぞ?』
「たしかに。
のう、遊戯?しばらく様子をみてみたらどうじゃ?
美穂ちゃんのことは遊戯が気にかけていればそれほど問題にはならないじゃろうしの」
何しろ遊戯と
ゆえにこそ、遊戯が気にかけること、すなわちユウギもまた気にかけているということに他ならない。
『シモン。遊戯。…人がくる』
「「え?」」
そんな会話をしていると、ふと外のほうを振り向いて二人にといってくるユウギ。
そんな彼の声に二人が出入り口のほうを振り向くと同時。
カララッン……
「こんにちわ~」
店の出入り口の扉が開き、そこから聞き覚えのある声とともに見慣れた姿の人物が入ってくる。
「あれ?美穂ちゃん?」
「おや。いらっしゃい」
声の主は、今話題に上っていた人物のうちの一人でもある野坂美穂当人。
それゆえに、多少驚いたように声をだす遊戯に、店の主として声をかけている双六。
「美穂ちゃん。どうしたの?」
美穂が自分からゲームがほしいとかそういうタイプでないのはよく知っている。
ゆえにこそ首をかしげながら問いかける遊戯。
「遊戯くん。カプモン一個、あまってないかな?」
そんな遊戯の問いかけに、すこし首をかしげて遊戯にと問いかけてくる美穂。
「カプモン?あるけど。けどどうするの?」
カプセルモンスターの種類は山とある。
それゆえにあるといえばあるのだが。
「うん。ちょっとね。一個もらえないかな?」
遊戯の質問には答えずに多少はにかんだままで、にっこりといってくる。
「いいよ。えっと。ちょっとまってね。どんなのがいいの?」
種類は膨大。
それゆえにどんなのがほしいのか問いかける。
「ん~と。どんなのでもいいの。とにかく一個ほしいの」
「?いいけど…んと、今もってるのはこれかな?」
どんなものでもいい。
というのがかなり気にはなるが。
それゆえに、ひとまず今もっているカプセルをポケットの中から一個ほど取り出す遊戯。
鞄はすでに部屋にもってもどり、教科書などもしまっている。
童部を探すのに一度だけ今日やったガチャカプセルから出した一個。
それのみがポケットの中に入っていたがゆえにそれを取り出したのだが。
「はい」
「ありがと。…何かあまりかわいくない。これあつめて何が面白いのかな?」
美穂が手にしたのは花のモンスター。
遊戯から手渡され、カプセルを開けて中身を確認した美穂の第一声。
手のひらにころころさせながらそういう美穂の台詞をきき、
「かわいいのもあるけど?かえようか?」
美穂好みであろう、カプセルモンスターも多々とある。
それゆえに他のにするかどうかを問いかける。
「ううん。これでいいわ」
そんな遊戯の申し出を首を横に振りながら、またまた手の平にある花の駒を転がす美穂。
「ほほほ。美穂ちゃん。カプモンはね。コレクションするものじゃないぞ。
カプモンの醍醐味はな、バトルにあるんじゃ。どうじゃ、ちょっとやってみるか?」
そんな美穂を眺めつつ、にこやかに言い放ち、ごそごそとカプセルモンスターズのゲーム盤でもある、
ボード版をカウンターの上にと取り出して美穂にゲームをしないかと促している双六。
『というか、シモン…それ、売り物じゃぁ……』
そんな双六に対して突っ込みをいれているユウギ。
双六がカウンターの下から取り出したのは、まぎれもなく売り物の一つ。
カプセルモンスターのゲーム盤のうちの一つ。
「ほほ。細かいことはきにしない、気にしない。どうじゃな?美穂ちゃん」
『いや。細かくないとおもうんだが……』
「爺ちゃん。売り物を使うのは細かくないとおもうよ?」
そんな双六に対して二人してつっこみをいれる。
そんな彼らの会話をききつつも、
「ううん。美穂、カプモンのバトルとかには興味ないから。あ。じゃあね。遊戯くん。お爺ちゃん、またね♡」
いうだけいって、そのまま手をひらひらさせつつも後退きながらくるり、と向きをかえ、そのまま、
カララッン……
「まったね~♡」
いってそのまま店の外にとでてゆく美穂。
「あいかわらずにぎやかなことじゃ」
何やら台風のごとくにいきなりやってきて、いきなり出てゆく。
唖然としつつもつぶやく双六に対し、
「でも、美穂ちゃん、何につかうんだろ?」
『ミホのことだからな…何となく想像はつくが……』
だがしかし、それをすればあの童部がどうでるのかはあからさまに明白。
というか、あの性格は今も変わってないよな。
あのミホも……
アンズにしろ、カツヤにしろ、そしてまたヒロトにしろ。
人の本質というか魂の本質はそうは変わらない。
という典型的なことなのかもしれない。
それは彼らの心の奥底に【ユウギ】に対する強い思いがあってこそ。
「?お兄ちゃん?美穂ちゃんが何につかうかわかるの?」
『……まあな……』
「ずる~い。お兄ちゃん、教えてくれてもいいじゃない」
ぷうっ。
どうも教えてくれそうにないユウギにたいして思わずむくれる遊戯。
「まあまあ。
ところで、遊戯?宿題はおわったのかの?」
「あ。まだだった。それじゃ、僕ちょっと宿題片付けてくるね。えっと…お兄ちゃんはどうする?」
あまりはなれない限り、幽体として表にでていることは可能。
つまりはこの家の中くらいは別々に行動することもまた然り。
『俺はもうすこしシモンと話しがあるから。あとで戻る』
「うん。わかった。それじゃ、僕、先に部屋にいってるね~。それじゃ、爺ちゃん。またあとで!」
いって、そのまま二人に手をふりひとまず二階にある自分の部屋にともどってゆく。
そんな遊戯を見送りつつ、
「さて。それで?
『ふっ。さすがシモンだな。話しが早い』
遊戯の姿がみえなくなり、横にいるユウギにと話しかける双六。
そんな双六に対して多少笑みを浮かべてこたえるユウギ。
しばし、双六とユウギ。
はたからみれば双六の独り言がしばしその場にて繰り広げられてゆく――
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あとがきもどき:
薫:さてさて。何やら最近打ち込みスピードが落ちてきてるかな?と実感中。
最近パソに向かい合うのがかなりきついです。
何かすごく眠いというか、横になりたい…というか。
なので横着して横になりつつキーボードを膝の上においての打ち込みです。
ノートにすれば少しは楽かな?でもあっちのほうが体制的にきつそうだしな…
なのでしばらくはデスクのほうで対応打ち込みv
ともあれ、次回で多少話しは進展…するかな?
ではでは、また次回にてv
2007年9月8日(土)某日
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