まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて。
今回は、テラ、王様の能力というかその実力というか。
部下?さん達までぼちぼちでてきますv
何はともあれ、ゆくのですvv

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「ここか」
王都から少し離れた場所にとある小さな村の外れ。
「うん。ここも隠れ家の一つだよ」
「でも、リョウくんっていったっけ?よく知ってるわね?」
とりあえず、ピム…つまりは天馬にのったままでは目立つ。
すでに夜の帳がおちてきているのが幸運といえば幸運。
闇に紛れ、白き天馬をとある建物の屋上にと着地させる。
すでに夜の闇が迫ってきているせいか、村の通りや広場などには人の気配はあまりない。
いや、あまりというかほとんどない。
といったほうが正しいが。
「え?…えっと…それは……僕は、もっとしっかりしてないといけなかった立場なんだ……」
本当のことをいえば、この人たちはどんな反応をするだろう。
それが不安。
「それは俺にもいえる立場だな。…よっし。とりあえず、アンズたちは危ないからここでまっていたほうがいい」
何があるかわからない。
自分ひとりならば何とかなる。
いざとなれば使える【力】も。
だからこそ、彼女たちを連れてゆくわけにはいかない。
そうおもい、ピムと一緒に待っているようにいうものの、だがしかし。
「冗談っ!あたしだっていくわよっ!あの子達が心配だもんっ!」
あのとき、助けられなかった負い目と、そして助けられた負い目がある。
だからこそ、こればっかりは譲れない。
そしてまた。
「お願い。僕にも対応させて。…いつ何どき僕が僕でなくなるかもしれないから。
  そうなったらすべてが手遅れだから。だから……」
ぴくっ。
その台詞に思わず目を見開いて反応する。
感じていた違和感は……そうか。
その言葉ですべての違和感が納得できた。
このリョウ、という少年から感じていた…あの波動は……
「……冥界の扉にかかわってたのか?リョウは?」
冥界にいるはずの、邪神ゾーク・ネクロファデス。
その波動によく似ている。
そのことにようやく思い当たる。
別にあのゾークを知っているわけではない。
だが…物心ついたころから、そういった知識はすべて【眼】の影響かすべて知っている。
「冥界?…もしかして、クルエルナ村の地下にあった死者の扉のこといってるの?」
「何それ?クルエルナ村…って、たしか別名、盗賊村とかいって。
  昔、討伐隊によって全員処罰された。とかいう、今では廃墟の、あの?」
伊達に、巫女を目指していたわけではない。
そういう知識は一応は知っている。
「なるほど……な。最近の闇の鼓動の濃さはあいつの影響か……」
これは、早いところ何か手をうっておかないと後々面倒なことになるかもしれないな。
そんなことを思いながら、ぽつり、とつぶやき。
「…とりあえず。二人とも。一緒にいくのはいいが……何をみてもあまり騒がないでほしい」
とりあえず、二人にひとまず念を押しておく。
……彼にとっては出来て当たり前なのに。
なぜかよく、いきなり精霊などを召喚したら騒ぐ存在達もいるのを知っているがゆえの彼の言葉……

  ~第16話~

……う…ん……
……あれ?
『遊戯。気がついたか?』
「あれ?お兄ちゃん?」
気づけばいつのまにか見慣れた部屋の中。
「僕…いつのまにお兄ちゃんの心の部屋の一室に?」
たしか、あの時計を盗んだ男の人に、僕お腹を蹴られて……
あまりの痛みに意識が遠のいていったまでは記憶がある。
だがその先の記憶はない。
「そうだ!あの人から時計返してもらわないとっ!」
おもわず、がばりと飛び起きる。
どうやらいつものようにもう一人のユウギの心の部屋のベットに寝かされていた様子。
そんな遊戯の姿に苦笑しつつ、
『それなら、もう返してもらってるぞ?』
とりあえず事実をいっておくユウギ。
「そなの?…あの人、わかってくれたの?」
『いや…まあ、それはそれなりに……』
「?お兄ちゃん?」
まさかレベルの高い闇のゲームを仕掛けて罰を与えたなどと。
遊戯が知れば間違いなく延々と何かをいってくるのは明らか。
それゆえにひとまず言葉をにごしておくユウギ。
『それより。今現在は俺の力で周りから視えないようにはしてるが。遊戯。もう大丈夫か?』
今現在のユウギそのものは、階段から店にでたすぐのところにある椅子に座っている状態。
もっとも、ユウギが力を使っているがゆえ、その姿は他の誰にも見られることはないのだが。
「え?あ。うん」
『なら。はやいところヒロトに時計をとどけてやれ。あいつたぶんまだ探してるぞ?』
そんな苦笑まじりのユウギの言葉に。
「あ。うん。そうだね。えっと。ありがと。お兄ちゃん。それじゃ、僕、表にでるね」
首からさげている千年パズルに手をかけて、今表にでているユウギの人格と交替する。
人格交替の光りとともに、ユウギがかけていた術も解かれ、
ざわざわと店内のざわめきが遊戯の耳にも届いてくる。
それと同時に、未だに何やらわめいている本田の声も。
「ありがと。お兄ちゃん」
とりあえず今は早くこの時計を本田くんに渡さないと。
そう思いながら座っていた椅子を立ち上がる。
注意しているものがみれば、いきなりそこに子供が一人出現したように見えたであろうが、
こういう場所でそんな場所を注意深くみているものなどはいない。

「えぇ!?あったのか!?」
「うん。はい。本田くん」
店員にしこたま注意をうけても、懲りずに時計を探していた本田。
そんな本田のもとにとかけてゆき、手にもっている時計を手渡す。
「本当だ。やった!みつかったぜっ!ありがとなっ!遊戯っ!」
時計をみて感極まり、すりすりと遊戯をいきなり抱きしめて頬すりしてくる本田。
そんな彼にかなり困ったような表情を浮かべる遊戯。
「どこにあったの?いったい?」
自分達が散々さがしてみつからなかったのに。
遊戯が一時どこかにいってたのと関係あるのかしら?
そんなことを思いながらも問いかけてくる杏子。
「え?あ。えっと。トイレの奥にある階段の下のほうに……」
盗まれて、その人と交渉にいって気絶させられました。
などとは絶対にいえない。
お兄ちゃんがどんな交渉で取り戻してくれたのかはわからないけど。
まさか…闇のゲーム…しかけたのかな?
相手の心に闇がある。
そう彼はいっていた。
その闇をきちんと当人に理解させるに、闇のゲームは最適らしい。
もっとも、それは個人個人の格差があるにしろ。
人によってはそれで精神崩壊をおこしたり、そのまま闇に捕らわれ行方不明になるものもいる。
という現実もある。
そのあたりのことはぼやかして、とりあえず杏子の質問に答える遊戯。
「階段の下のほうにあった。だって?」
遊戯の返事をきいて、時計と本田。
そして遊戯とを見比べつつ、ひとしきり首をかしげている城之内。
「え?あ。うん」
ようやく本田から開放され、ほっと一息つきながら、城之内の問いかけにこくり、とうなづく。
『というか。本当のことはいわないんだな……遊戯は』
そんな遊戯の様子を心配して表にでてきたユウギがため息まじりにつぶやくが。
だって。
心配させたくないし。
ため息まじりに突っ込みをいれてくるユウギにと心の中で返事を返す。
「でも。何だってそんなところにあったんだろうな?」
どう考えてもおかしすぎる。
トイレで落としたにしても、なぜに階段?
本田のやつ…階段で叫んだか何かしたのか?
いろいろなことを考えめぐらせながらも一人つぶやくようにいう城之内に対し、
「さ。さあ?それは僕にもよくわからないけど……」
そうとしかいいようがない。
今朝あったことを彼に説明でもするものならば、まず彼のこと。
烈火のごとくに怒りをあらわにするに違いない。
できれば城之内くんには心配をかけたくないし。
心よりそうおもうがゆえに、きちんと説明をしない遊戯。
怪我でもしていれば、問い詰められることは請け合いだが、自分の怪我はユウギがすでに治している。
だからこそ、心配をかけないためにと言葉を濁す。
時としてそれは余計に心配をかける結果となるのであるが……
「ま、あってよかったじゃない。本田」
遊戯の態度がいつもと違うわ。
もしかして、ユウギお兄ちゃん絡み?
遊戯がいつもと違って言葉を濁しているのをみてとり、心の中でそうはおもうが、
遊戯がいいたくないのであれば、それは自分が追求することではない。
そう判断し、バンバンと本田の背中を叩きながらいいきる杏子。
「よかった…こ、これで美穂ちゃんに顔向けできる!ほんとうによかった~~!!
  これで美穂ちゃんに嫌われなくてすんで、美穂ちゃんにあえる~!本当によかった~!!」
「って!本田くんっ!もういいってば~!!」
感謝の気持ちをこめてまた抱きついてこようとする本田をあわてて回避し、
その場にてぐるぐると逃げ回りだす遊戯。
そんな二人をあっさり無視し、
「しかし。本田のせいで大分時間くっちゃったわね。どうする?海馬くんち今からいったら遅くなるけど?」
「だよな~。しかしあのおぼっちゃん。転校早々ずる休みなんて、さすがだよな~」
杏子の台詞に、しみじみといっている城之内。
あの海馬が病気などして休むたまではない。
そう城之内は確信しているからこその台詞。
「だけど、プリントとかも渡さないといけないし。とりあえずいくだけいってみるよ」
お礼にキスをしようと迫ってくる本田をどうにか手でおしのけつつも杏子の質問に答える遊戯。
「あ。俺は美穂ちゃんにこれ、とどけるから海馬の家はパスな」
片手で遊戯に制されていた本田であるが、二人の会話をきいてふと姿勢をただし、
そして、遊戯がほっとして手を下ろすと同時。
「しかし、遊戯。ありがとなっ!!感謝感激っ!」
がばっ!
「って、うわっ!?本田くんっ!?」
「おいおい…本田。遊戯のやつ、窒息するぞ?」
ばふっと遊戯を抱きしめる格好でぎゅっと抱きしめている本田に思わず突っ込みをいれる城之内。
じたばたとただただ、力がないがゆえにもがくしかできずに苦しがっている遊戯には本田は気づいていない。
もがもがもが。
じたばたとあがく遊戯に対しては何のその。
そのままただひたすらに、抱きしめているままの本田であるが。
「そんなことより。本田?はやくそれ、美穂にかえしにいったほうがいいんじゃない?」
これはどうやら話題を変えたほうがよさそうね。
そう判断し、未だに遊戯を抱きしめて感激の表現を表している本田にと話しかける杏子の姿。
「おっと!そうだった!それじゃ、俺はここで失礼するなっ!遊戯!ほんっとにありがとなっ!
  うお~~!!美穂ちゃん、時計、あったよ~~~!!!」
杏子の台詞に、遊戯を開放し、ばんばんと遊戯の肩をたたいた後、
そのまま、すちゃっと片手をあげて挨拶し、そのまま外にむかって走り去ってゆく。
そんな本田の姿をしばし、唖然として見送りつつ、
「ふう。死ぬかとおもった~……」
ほっと胸をなでおろしてつぶやく遊戯であるが。
『遊戯も強くいわないとキケンだぞ?
  あいつは周りが見えないときにはとことん見えないからな。昔も…そして、どうやら今も』
何気にお兄ちゃん、本田くんに対して手厳しくない?
でも…そうなんだ。
ユウギの忠告に思わず納得する遊戯。
「とりあえず。とっとと用事をすませましょ。海馬くんの家にいくんでしょ?」
「あ。うん。そうだね。すっかり遅くなっちゃったけど」
本来ならば昼ごろにここを出てから海馬の家に行く予定であった。
だが、すでに時刻は四時に近い。
「ま。どうせズル休みだとはおもうがな~」
「ひど~い。本田くん。そうとは限らないじゃない。もしかしてかなりひどい状態かもしれないじゃない」
お兄ちゃんに海馬くん……精霊界に生身ごと放り込まれた。
って聞いてるし……
「とにかく。いきましょ」
とりあえず、店の人に迷惑をかけたこともありひとまず謝り、探し物が見つかった。
というのもひとまず報告し、杏子、遊戯、城之内の三人はそのままゲームセンターを後にしてゆく。

「し…章太郎!?しっかりっ!どうしたっていうの?!お母さんがわかるかい?し…章太郎~!!!」
ガシャン。
ガシャ!
何やら部屋の中で物が壊れる音がした。
それゆえに怒られるのを覚悟で部屋にとはいった。
そこでみたのは、暴れて棚という棚を壊して中身の時計をも壊している息子の姿。
確か今日は朝から出かけていたはずなのに、いつの間にもどってきたのかもわからない。
だが、それよりも、なぜ今まで法をも犯してまで手にいれたものもある品々を壊しているのか。
ほしいものは何でも買い与えてきて、何かあれば裏から手を回してもみ消してきた。
というのに。
とにかく、傷つけないように、傷つけないように育ててきた。
その彼が今、なぜかコレクションルームとして作り変えたその彼の個室にて暴れている。
だからといって警察などに通報するわけにはいかない。
かわいいわが子が警察の厄介になるなどとあってはならないこと。
それゆえに、一人暴れるわが子を必死になだめようとする母親の姿が、
しばし、とある家の一室において見受けられてゆく……


「か~。あいかわらずでけえ屋敷だぜ」
思わず悪づく。
「まあまあ。こればっかりはしょうがないわよ」
私もこんな家に住んでみたいけど、きっと掃除とか大変だろうな~。
現実的なことが先に浮ぶのはそれは仕方のないこと。
「えっと。とりあえずならすね?」
ビ~……
こんな時間になっちゃってわるいかな?
時刻はもう少しで六時近い。
すでに日はかげり、周囲は日暮れ状態。
表門の前にとあるインターホンを鳴らす。
と。
『はい。どちらさまでしょうか?』
聞きなれない女性の声が聞こえてくる。
おそらくはこの家で働いている人物の声であろう。
「え。えっと。あの、遅くにすいません。
  僕、海馬くんと同じクラスの、童美野高校の武藤遊戯っていいます。
  海馬くんがここ二、三日お休みしてたので。
  学校でもらったプリントとかもってきたんですけど……海馬くん、大丈夫ですか?」
インターホンに向かい、ひとまず用件を伝える。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少々おまちください』
何やらしばらく無言のあとに、そう一言いわれ。
 「家がひろすぎて、連絡もすぐにつかないってか?はっ」
「城之内。そうひがむことないでしょ?もしかしたらどこにいるのかわからないのかもしれないし」
「…杏子。それってフォーローになってないような…?」
『魔力の波動からしてセトはこの中にいるにはいるぞ?』
しかもこちらを伺っているのもわかるが。
それはあえて口にはださない。
「海馬くん…大丈夫かなぁ?」
城之内と杏子のやり取りをききながら、門の外より屋敷の中をうかがう遊戯。
そんな遊戯に対して横で話しかけているユウギ。
ユウギからすれば、遊戯がそこまであのセトを心配する必要もないとおもうが……
そういう気持ちのほうが強い。
というかあのセトのこと。
おそらく学校を休んでいるのは別の意図か意味があるはず。
それは今の彼をよくはしらなくとも、魂の色が同じであるということは、
すくなくとも基本となる性格はかわっていない。
そう確信しているがゆえの、あるいみ信頼。
『精霊界でおそらく、キサラにあってるはずだしな。そんなに心配する必要はないとおもうぞ?』
それは本音。
彼の魂の光りを支えていたのは、彼女の存在。
だが…今のセトに彼女の光が届くかどうかは疑問だがな……
その不安はたしかにある。
あのとき垣間見た彼の魂はそれほどまでに憎しみや負の感情に汚染されていた。
もし、今の彼を闇に染まったままのかつての父親でもあるアクナディンに引き合わせでもしたら、
今度こそ間違いなくセトは闇に連れて行かれてしまう。
それだけは何としても阻止しなければならない。
その前に、セトの魂に光を取り戻さなければ。
そう固く決意しているユウギ。
そんなユウギの心情は、説明をうけていないがゆえに遊戯には判らない。

「……やはり……か」
使用人からクラスメートが来ている。
ときいて、名前をいってきた。
それゆえに、ちらりと門にとつけている防犯カメラをみてみれば、そこに映っているのは遊戯の姿。
他にもオマケで二人ほどいるようだが。
「あ…あのがき……」
先日の一件のことを思い出し、おもわず歯軋りする。
「もう一度きくが。あのとき誰も屋上にあがってこなかったんだな?」
そんな歯軋りして何やら顔をゆがめている後ろにいる男性。
彼自身のボディーガードの一人にと確認する。
「は。それは間違いありません。あのとき……」
海馬が遊戯がもってきていた祖父のカードを奪ったあのとき。
たしかに彼らは遊戯を気絶させた。
それなのにいきなり雰囲気から何から何まで一瞬にしてかわり、
自分達をあっさりと倒してその後のことはあまり記憶にない。
気づけば、いつのまにか屋敷に戻ってきており、そしてまた彼らが仕えている海馬も。
一時錯乱したような感じに朝方なったものの。
それはすぐに収まった。
「わかった。とりあえず……僕は今はいない、そういっておいかえしてくれ」
『かしこまりました』
ピッ。
部屋にとかかってきていた内線を切る。
あのときのカードが実体化したことといい。
自分と対決したあの遊戯の雰囲気の変わりようといい。
だがしかし、自分自身を比類なきほどに負かしたのはあの彼が始めて。
それゆえに、心の中にくすぶる気持ちはどうにもできない。
「武藤遊戯…か。ふっ。このオレに恥をかかせたままですむと思うなよ……」
映像に映っている遊戯の姿は、まぎれもなくあの夜の遊戯ではない。
教室で始めてあったときのままの、何とも気弱そうな小さな少年。
…小さな?
そこまで思い、ふと気づく。
「……身長?」
今までずっと感じていたもう一つの違和感。
そういえば、授業中座っていた遊戯の座高と、あのときの遊戯の座高は遥かに異なっていた。
どうして今までそのことに気づかなかったのかも自分で不思議だが。
「ともかく。…例のものをはやく。それと、四天王に連絡しろっ!」
「「はっ!!」」
四天王。
そう彼が呼んでいるのは、海馬コーポレーションが誇るゲームの達人たちのこと。
部屋にいる部下たちにと命令し、そして。
「オレはこれから開発部にむかう。車をだせっ!」
「かしこまりました」
そのまま、くるっとむきをかえ、部屋を後にしてゆく瀬戸の姿。

キィ……
「あ。海馬くん…じゃない。あの?」
待たされること数分以上。
とはいえ十分もかかってはいないが、待っているとき、というのは時間が長く感じてしまう。
しばし待ったのちに、門の横の小さな扉が開きそこから人影が一つでてくる。
それゆえに、一瞬、海馬がでてきたのかとおもい、声をかける遊戯であるが、
出てきたのはまったく別人というか使用人らしき一人の女性。
「瀬戸おぼっちゃまのクラスメートの方たちですね。
  瀬戸おぼっちゃまは只今とてもご多忙ゆえ、しばらく学校にはいかれないかと存じます」
かるく頭を下げながら遊戯たちに向かってそういってくるその女性。
そんな彼女の台詞に、
「?多忙…って?」
おもわず首をかしげて城之内と顔を見合わせている杏子。
遊戯もまた首をかしげてはいるものの、だがしかし、どうやらアレが原因ではない。
というのが何なくではあるがわかってほっと胸をなでおろす。
「瀬戸おぼっちゃまは、ただいま海外にいかれておられる社長にかわり、
  この地の海馬コーポレーションを任されている身。何かとご多忙なのですよ」
事実、今ではこの日本における海馬コーポレーションは瀬戸が取り仕切っている。
といっても過言ではない。
まだ十六歳だ。
だというのに…である。
「そうなんだ。海馬くんってすごいんですね~」
そんな彼女の言葉に本気で心から感心する遊戯。
上にたつ。
ということの難しさや、そしてその責務。
といったものは、何となくであるが理解できる。
それは、おそらくはユウギの存在があるがゆえであろうが。
何しろ彼においては、エジブトの地といわず、かつての古代。
歴史上の史実には残っていないにしろほぼ世界を統一していた。
という実績がある。
それは彼がもつ力に人々が頼ってきた結果。
上にたつものは、常に民の…自身が治めるすべての命のことを優先しなければならない。
それは自身の身などにどのようなことが起こっても、常によりよい方向に導かなければならない。
上にたつものの、たった一つの行動や言葉で未来といわず多数の運命を変える結果となる。
もっとも、他人などを巻き込むのが嫌であるがゆえに自分で常に行動していたのはユウギだが。
「けっ。おぼっちゃんどころかあるいみ、すでにもう社長かよ。
  でも何だってんなやつが普通に高校にかよってるだ?そもそも、かよう必要があるのか?」
城之内にとってはそれは最もな疑問。
というか、そんなお金持ちが何だって普通の自分達が通っている県立高校にきているのか。
というのがわからない。
「でも、それは遊戯にもいえる……」
「あ。それより。なら、これ海馬くんに渡してもらえますか?
  えっと、プリントに、それと今日までの授業内容をしたためたノートです」
遊戯だって似たようなものよね。
何しろユウギお兄ちゃんのほうは、小さいときにアメリカの大学卒業試験…突破してるし。
それゆえに、遊戯にもそれはいえるとおもうけど。
と言いかけた杏子の台詞をあわててさえぎり、
出てきた使用人の女性にと鞄の中から取り出したプリントやノートを手渡す。
あくまでも、あの偉業を成し遂げたのはユウギお兄ちゃんであって自分でないし。
それゆえに、あまりそのことは他人には知られたくない遊戯。
それでなくても、どうしても自分がそのような目で見られてしまう。
というのがとても心苦しくなってしまう。
「海馬くんにあまり無理しないように。それと身体に気をつけてね。と伝えてもらえますか?」
ノートなどを手渡しながらも、それとなくお願いする。
「わかりました。お伝えいたします。たしかに瀬戸お坊ちゃまは結構無理しますしね」
そんな遊戯の台詞に思わず苦笑しつつ答えてくる使用人。
瀬戸が童美野高校に転入してからまだ数日。
それでも、このように彼のことを判ってくれるクラスメートがいる。
というのは何だかとてもいいことのような気がする。
彼にはそういう友達、というものがまったくいないのだから。
父親も彼には厳しく、彼が唯一心許せるのは弟くらいであろう。
それがわかっているからこそ、思わず笑みがもれてしまう。
「海馬くんによろしく伝えてください」
「あ、何か先生とかに伝言あったらいっときますよ?」
ぺこり、と頭を下げる遊戯につづき、ふと思いだしたように言ってくる杏子。
そんな杏子の台詞に、
「いえ。それはこちらから学校側に連絡いたしますので。
  みなさんもわざわざありがとうございます」
そんな遊戯や彼女達たちの会話を一通りききながら、
「ま。とりあえずはこれで用事はすんだ。というわけか。
  それより、早くかえらないと、ほんきでかなり遅くなるぜ?」
話し込んでいる最中にも時間はどんどん過ぎている。
まだ季節はあと少しで五月にはいるか。
という時期。
ゆえに、日はそんなに長くない。
「あ。ほんとだ。それじゃ、よろしくおねがいいたします。それじゃ、失礼します」
「お邪魔しました~」
「んじゃな」
とりあえず、その場に出てきている使用人にそれぞれが軽く挨拶し、
手渡すものは手渡したがゆえに、
それぞれ再び元来た道を戻ってゆく三人の姿がしばし見受けられてゆく――


う~う~う~……
「?何だろ?」
「何か騒がしいな?」
『……何か火の気配がするぞ?』
海馬の家をある意味そのまま追い返され。
とりあえず、それぞれ家にと戻るためにと駅にと向かっていた。
童美野駅を降りてしばらく歩くと、何やら騒がしい音が聞こえてくる。
聞こえてくるだけでなく、ひっきりなしにと道路を走ってゆく消防車の数々。
「って。あ。あれ。みて?!」
ユウギの指摘をうけて、きょろきょろと周囲を確認する遊戯がふと空に立ち上る黒い煙を発見する。
「どうやらどこか火事みたいだよ!?」
「「火事!?」」
遊戯の声にまったく異口同音に叫ぶ本田と杏子。
たしかに、みれば、住宅街のほうから不釣合いな黒い煙が立ち上っている。
すでに夜の帳がおりてきて、周りは大分暗いというのに、その煙りはしっかりと見える。
「とにかく。いってみようぜっ!」
「あ。まって!!」
だっとその煙りをみて駆け出してゆく城之内に、それに続く杏子。
「えっと……お兄ちゃん……」
『わかってる。とにかくいってみてから…だな』
遊戯のいいたいことはわかる。
ゆえにこそ、ため息ひとつつき答えるユウギ。
「あ。まって!二人とも!!」
ユウギのその言葉をうけ、こくっとうなづき、あわてて二人を追いかけてゆく遊戯であるが。

パチパチパチ……
「そんな……」
う~う~う~……
半ば呆然と燃え広がってゆく火を見つめるしかない。
そもそも、どうして火の気もない倉庫から出火したのかすらわからない。
「どいて、どいてっ!」
ザァァッ…
込み入っている住宅街である。
迅速な消火活動をしなければ炎が燃え広がってしまう。
それゆえに、消防自動車も一台ではなく数台やってきている。
「って。何がどうしたんですか?」
すでに集まっている野次馬という人だかり。
遊戯たちが燃えている場所にたどりつくと、どうやら家が一件。
燃えているらしい。
「いや。それがさ。不審火らしいんだけど……」
「怖いわよね~。ほら、あそこにいる子がこの家の子よ?」
「今日は両親が旅行にいって一人で留守番してたらしいけど。災難というか、何というか……」
みれば、呆然と燃える家を眺めている男性の姿が目に入る。
「って、あれ?あれ、うちの高校の制服じゃない?」
呆然として消火活動を見守っている男性が着ている服はまぎれもなく童美野高校の制服。
「あ。ほんとだ。…っと、ごめんよ。おい、おまえ、何がどうしたっていうんだ!?」
並み居る野次馬をかきわけて、男子生徒のほうにと近づいてゆく城之内。
「あたった…あたんったんだよ……」
「あん?どうしたってんだ?」
何やら炎をみながらそんなことをしばしつぶやく彼には城之内の言葉は届いていないらしい。
「でも、なかなか消火されそうにないわね……」
ここ数日、晴れの日が続いており、空気も乾燥していたがゆえに大気自体が燃えやすい環境となっている。
このままだと、他の家々に延焼する可能性も否めない。
「お兄ちゃん……」
杏子と城之内は燃えている家の子であるらしい生徒のほうにといっている。
遊戯はやじうまたちに埋もれるような格好で後ろのほうで人ごみにまぎれている。
少し、後ろに下がり、横にいるユウギにと話しかける。
『しかたない…な。遊戯。やるぞ』
「うんっ!」
杏子たちには気づかれないように……と。
ユウギの台詞に、ぱっと顔を輝かせ、こっそりとその場から離れる遊戯。
きょろきょろと周囲を見渡しながら、燃えている家より一つ向こうの小さな路地にと入り込む。
周囲を確認し、人の気配がないのを確かめる。
「うん。大丈夫。ならお兄ちゃん、お願いね」
『仕方ない…な』
このままでは、他の家などにも燃え広がる可能性は高い。
それにより困る人たちが増えるのは明白。
まだ今ならばあの家もそれほど被害はなくてすむのは明白。
ちらっと視た限り、外のほうは結構燃えているが中のほうまではあまり炎症は広がっていない。
カッ!!
遊戯が千年パズルに手をかけて、目を瞑ると同時、パズルから金色の光りがあふれ出す。
ふわっ。
光りとともに背伸びするかのごとくに遊戯の全身がふわりと光の風にとなびく。
「さて……いくか」
ゆっくりと目を開く。
いつもの遊戯の姿ではなく、もうひとりのユウギとしての姿。
雰囲気、そして身長。
そして周りに及ぼす威圧感すらも遊戯とはまったくことなるその容姿。
たっ。
少し上をむいて、そのまま地面をける。
トッ…ン。
『さすが、お兄ちゃん』
地面をけると同時に飛び上がり、横にある塀に一度足をつき、そのまま屋根にと飛び上がる。
そんなユウギに感心した声をだしている遊戯であるが。
いつもと違い、今はユウギが表にでているがゆえ、遊戯のほうが霊体となり横に出現している状態。
よくこんなに身軽に行動できるよな~。
いつも思うけど。
そんなことをしみじみ思う遊戯。
「さて……」
力を使って雨を降らすことは可能だが、今はそれよりもいい方法がある。
すっと手をかざすと同時に、ふわり、とそこに出現する一枚のカード。
「発動!恵の雨!」
かっ!!
かざしたカードから光が発せられ、その光は天を貫く。

ポッポッ…ザァァ……
「あれ?雨?」
「って、…空晴れてるぞ!?」
晴れているのにも関わらず、なぜか一帯に降り始める雨模様。
それゆえに、集まっている野次馬たちが別の意味でざわめきはじめる。
天気雨はよくあることとはいえ、タイミング的にうますぎる。
人々の視線は、燃えている家からふと一時、空にとむけられる。

「いでよ。アクアル」
静かに次なる言葉を紡ぎだす。
それと同時に空中にふわり、と一枚のカードが出現し。
そこから水の柱が一瞬立ち上る。
それと同時、その水の柱は一箇所にかたまっていき、やがてそれは一つの人影となる。
『お久しぶりです。ファラオ
その水が固まり人影となったそれは、女性の姿を成し、ユウギにと話しかけてくる。
カード上では、アクエリア、と呼ばれる水の精霊。
として今の世には知られているが。
真実の名前は水の精霊の一人、アクアル。
それが彼女の本来の名前。
「久しぶりだな。いきなり呼び出してすまないな」
まったく古代においても、現世においても変わらない彼らの姿に懐かしさすら感じてしまう。
ふっと微笑み、語りかけるユウギの台詞に、
『いえ。私達はあなた様の僕でもあります。何なりと、いつでもおよびくださいませ』
事実、ユウギの前においては、全ての精霊王ですら従っている。
その事実を知っているのはごくわずかなものしかいないが。
『ほんと、お兄ちゃんってすごいよね……』
そんな様子をみつつ、しみじみと素直な感想を漏らす遊戯。
そんな遊戯と、そしてユウギをみながら、すこし微笑み、
『それで?わたくしを呼び出したのはどういったご用件でしょうか?』
この二人が元々は一つの魂であり、自分達の主でもある。
それはこのアクアルは知っている。
かつてユウギが呼び出したときに、シモンこと双六から聞いたがゆえに。
「そこの燃えている家の火を消してほしい。どうやら不浄の炎のようだしな」
炎から感じる闇の気配。
これは独特な人の心より産まれ出でる気配。
『かしこまりました』
ひゅっ……
ユウギの頼みをきいたその直後。
その場から瞬時に姿を掻き消す、水の精霊、アクアル。

『さあ。おいきなさい。わたくしのかわいい子供たち』
家の中に降り注いでいる雨にまぎれて入り込む。
ふわり、と両手を広げると同時に、幾人もの水の精霊の子供たちが出現する。
いわく、水の踊り子。
とも呼ばれることもある、水の精霊の子供たち。
アクアルの言葉をうけて、水の子供たちは家の中全体にと移動してゆく……

「……あれ?遊戯は?」
「うん?そういや?」
ふと気づいたら遊戯がいない。
ふと気づけば一時降った雨はすぐにやんで今は完全なる晴天。
雨が降った形跡すら空には見当たらない。
「お。みろ。火が!」
誰が叫んだのかはわからないが。
とにかく、集まっている野次馬の誰かが家を指して叫ぶ。
ふとみれば、あれほど燃えていた炎が沈静化をはじめている。
先ほどの雨が功をそうしたのか。
消防車もまた、沈静化してきた炎をみて、さらに放水を強くする。
彼らは知る由もない。
まさか家の中から消火されている…ということは。
プス……
「お。火がきえたぞ!!」
「やった!延焼はふせげたぞ!」
「よかったな!坊主っ!家が完全に焼け落ちてなくてっ!」
「中まではたぶんこりゃ、火はあまりまわってない口だな」
わいわい、がやがや。
いきなりの天気雨から一時もせずに、あれほど手がつけられないほどに燃え上がっていた炎が、
まったくまにと沈静化する。
やがて、完全に火の気がなくなり、煙りだけがくすぶりだす。
それをうけて、家の住人である男子の背中をばんばん叩く見物者たち。
みれば、どうやら完全に家は燃えたわけでなく、みたところ外装が焦げた程度くらいであろう。
中身のほうもちょっぴり多少燃えたりしているかもしれないが、
そのような気配は見当たらない。
「って、遊戯のやつ…どこいったんだ?」
「ほんと。遊戯~??」
あとは、ともかく。
現場検証をする警察や、消防隊員たちの邪魔になる。
それに濡れた服をも早く着替えたい。
それゆえに周囲を見渡し遊戯を探す杏子と城之内。
わらわらと、集まっていた野次馬たちは次第に散らばり始めている。
この人ごみの中、遊戯がつぶされているのではないか?
などといった非常識的なことを一瞬思ってしまっている杏子。
「お~い。遊戯~。火事はどうやら消えたぞ~??」
一人で帰る。
などといったことを遊戯がするはずがない。
やはり人ごみに流された可能性のほうが高い。

「あとは任せたからな」
すっ。
「あ!お兄ちゃんっ!」
タッン。
水の精霊を召喚し、炎が完全に消火されたのをみてとり、ふわりと屋根の上から降り立ち、
そのまま遊戯にとバトンタッチする。
いきなりユウギと表の人格を交替され、あわてた声をだす遊戯であるが。
ざわざわと、火事が無事に消えたのをうけ野次馬たちはこちらには気づいてはいない。
それが幸いかもしれないが。
遊戯がユウギに対して叫ぶのとほぼ同時。
「遊戯!あ、いた!」
「何だ。おまえ、もしかして人ごみにこんなところまで流されたのか?」
杏子たちが遊戯の姿を見つけて駆け寄ってくる。
「え?あ…えっと……」
まさかお兄ちゃんが消火活動をしていました。
といえるはずもなくただただ苦笑いするしかない遊戯。
「え。えっと。とりあえず、火事も無事に収まったみたいだし。もどろ?ね?」
とりあえず無難に話題を変える。
そんな遊戯の言葉に、
「それもそうね。でもさっきの雨、何だったんだろ?」
「ものすごいタイミングだったよな~」
「そ…そだね……」
杏子や城之内の台詞に乾いた笑いをかえす遊戯。

ともあれ、このままここにいても何だ。
というのと、あまりこれ以上のんびりしても遅くなる。
というので、それぞれ家路にと着くことに……

【童美野町にて不審火!放火の可能性!】

翌日の新聞に、その火事のことがのり騒ぎになるのは、それは遊戯達はまだ知らない……


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あとがきもどき:
薫:さてさて。何やらちらっとでてきだした、王様の部下さんたちv(こらまてや
  ちなみに、これにでてきた精霊さん。
  精霊カードの、精霊アクエリア。ですv
  水の踊り子。というカードもありますよ~v
  古代の水の精霊神いこうかとおもったけど、一応カードから拝借をばv
  名前が異なるのは、まあ二次さん、というのもあり、ちと設定をば変えている。
  というのもありますけどv
  ちなみに、【水の精霊アクアル】という名前にした理由は。
  水竜王アクアとかからもじってたりv(こらまて
  何はともあれ、ではまた次回にてvv

2007年9月6日(木)某日

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