まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
数日連続してともかくもどったらそのままバタンキュ~……
疲れがたまってるのか、はたまたいまだに体調もどってないせいか…
ともあれ、続きをゆくのですv
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「…うわ~。すごい。これ、あなたの精霊?」
思わず感心してしまう。
というかこんな小さい子なのに……
というのが彼女の本音。
「俺の…というか。精霊界からたしかにきているけどな。ピムは」
「へぇ。この子、ピムっていうんだ。羽の生えた馬なんてあたし始めて」
「いや。普通誰でも始めてだとおもうよ?えっと、アンズちゃん。だったっけ?」
そんな馬を操る子供の台詞に感心した声をだすアンズに突っ込みをいれるリョウ、と名乗っていた少年。
「アンズ、でいいわよ。そういえば、君の名前は?」
「…え?俺?…俺は……それより、こっちのほうこうでいいのか?リョウ?」
名前をあまり滅多と人前で名乗ることはしたくない。
というか出来ない。
下手に名乗ったりでもしたら名前がもつ力にて相手にどんなダメージを与えるか。
それは皆目検討がつかない。
闇を滅する光の言葉。
それゆえに言葉を発するだけでも威力がある。
「え?あ。うん。まちがいないはずだよ」
名前を聞かれてはぐらかされた。
とは思わずに、問いかけに素直に答える。
自分の中にとある闇の心。
その心が示す場所。
闇の波動が拠点にしているいくつかの施設。
そのうちの一つに今彼ら三人は向かっている。
「なるほど。たしかに……聖なる強い力を感じるから間違いなさそうだな」
自分とは異なる、それでいて似通った力。
神の力でも、闇の力でなく、聖なる力を宿し存在。
その力の波動がひしひしと感じられる。
それは身体で感じる、とかでなく額を通じて魂全体に伝わってくる波動。
「よっし。あたしももっと頑張って修行しないとっ!自力で精霊呼び出せるようにならないとねっ!」
伊達に巫女見習いをしているわけではない。
目標は自分で精霊を呼び出し、使役する立場になること。
力がつけば、精霊を実体化することも可能である。
そう習っている。
「?アンズは巫女見習いか何かなのか?」
「うん。そうよ?みえない?」
「では、やはり人攫いの一味の一部が神官団の名を名乗った…というのは……」
「そうっ!はらたつぅぅ!まったく。こんなこと、おえらいさんたち、何みのがしてるのかしら?」
うっ。
それをいわれると思わず言葉に詰まってしまう。
「それはきちんと対処させる。いや、しないといけないことだしな。
上にたつものは、民の暮らしをまもること。それが勤めだしな」
「あはは。別に君をせめているわけじゃないし」
バサッ……
目の前の少年が誰なのか知らないがゆえにパタパタと手を振りながら答えるアンズという少女。
しばし、そんな会話が白き馬の上。
つまりは空を飛んでいる馬上の上にて繰り広げられてゆく……
~第15話~
感じる……美穂ちゃんのぬくもり。
幸せ~。
すりすりすり
「…本田くん。さっきからずっと時計に頬擦りしてる……」
スロットマシンをやっている遊戯の横で、ただ何かのゲームをするわけでなく、
ただただ自分の世界に浸っている本田の顔の前でひらひらと手を振りながらつぶやく遊戯。
「というか!遊戯!おまえ、さっきからスリーセブン連続じゃねえかっ!そのコイン俺にもまわしてくれ!」
ざらざらざら……
遊戯がやっているスロッドマシーンからはこれでもか。
というほどコインがあふれ出している。
この店においてはゲームの基本に使うものはコイン。
お金とコインが併用できる仕組みになっているが。
どちらかといえば先にコインを用意していろいろなゲームをしたほうが資金的にも余裕がでる。
だからこそ、百円ほどいれて先にスロッドマシンでコインを稼いでいる遊戯なのだが。
「うん。いいよ。というか、皆でわけようよ♡」
でもこれ…実は僕がやってるわけじゃないんだよね。
お兄ちゃんが実はこのスロッド…押してるんだし。
霊体の姿のままでも物にさわったりすることはユウギは可能。
遊戯はただ第三者の目もあるがゆえに押す格好をしているだけ。
『さっきからあいつはあいつでじっとこっちを伺ってるしな。遊戯。ヒロトに気をつけてろよ?』
「わかってるよ。お兄ちゃん」
少し離れた場所のクレーンゲームの後ろにてじっとこちらをうかがっている朝の男の姿が目にはいる。
それゆえに、ユウギが注意を促してくる。
ということは相手の心に闇があり悪意をもっている証拠でもある。
それゆえに、美穂の時計を身につけている本田を常に気にかけている遊戯。
「ほんとか!?らっきー!!これで金がうくぜっ!」
「きゃ~。もらっていいの?これ?うれし~」
何しろクレーンゲームなどもコインはIOKという店である。
コインがあればあるほど助かる。
というのは誰でも思うこと。
ただ、この店ではコインを預けて次回にとっておく。
というシステムが仕えない変わりに様々なゲームが併用可能になっている。
という現実があるのだが。
わいわいと騒ぎながらもコインの入れ物にとジャラジャラとスロッドマシンより溢れているコイン。
それらをいくつかの箱にと分けてもらった城之内と美穂がそんなことを言っているが。
「遊戯ってほんっとゲーム強いわよね。
そういや、昔ラスベガスでもかなりもうけたとかいってたじゃない?」
そんな二人を苦笑しつつみて、遊戯とコインの数を見比べて遊戯にと話しかけてくる杏子。
「え?…あれやったのお兄ちゃんだし……僕あのとき眠くてねてたもん」
それは事実である。
あのとき、双六とともにラスベガスのカジノにてちょっとした騒ぎを起こしたのは、
他ならないもう一人のユウギのほう。
何しろ七歳かそこらの子供が大の大人たちをかるくあしらいながら圧勝してゆく様はかなり見物。
遊戯は疲れから爆睡していたのでそれらは話しでしか聞いていないのだが。
「ユウギお兄ちゃんの強さはみとめるげと。でも十分に遊戯も強いわよ」
「そ…そうかな?」
杏子に褒められれば悪い気はしない。
照れながらも頭をかいて答える遊戯。
一方で、
「よっし!俺はあれをやってみるぜっ!」
資金の心配がなくなったこともあり、かたっぱしから様々なゲームを手がけようと、
気になっているゲームのほうにと向かってゆく城之内に。
「美穂もやろっと♡」
遊戯からもらったコインがぎっしりとつまった箱をもち、
面白そうなゲームのほうにと歩いてゆく美穂。
杏子に褒められて照れながらも、ちらちらと隠れてこちらの様子を伺っている男の方にと視線をむける。
「?どうかしたの?」
「え?あ。何でもない」
杏子たちには心配かけちゃいけないし。
というか、何ごともありませんよ~に……
そんな願いをこめながらも、
「あ。杏子。対戦ゲームしてみない?」
「あ。いいわね。やろやろ」
とりあえず話題を変える。
できればあの男性の視界から離れたほうがいい。
というのは遊戯ですら何となく理解できる。
それゆえに、
「本田くんもやろうよっ!」
いまだに時計に頬擦りしている本田をひっぱりながら、位置を移動してゆく遊戯の姿。
ちっ。
気づかれたか?
ひとまず位置を移動するか。
ちらちらと、自分のほうを意識しつつも移動したのが見て取れる。
あまり下手に相手に意識されては、奪うものも奪えない。
遊戯たちのほうを気にしながら前をよくみずに横にと移動する。
と。
こっ。
自分自身が前をみていなかったのもあり、すれ違った客の鞄と彼自身の腕がかする。
「…!?…おいっ!」
軽く触れただけではあるが、だがしかし。
自分が悪いとは彼としてはまったくもって思わない。
それゆえに、鞄が少しかすった程度であるがゆえに、なぜ呼び止められたか理解不能。
そもそも、鞄が腕にかすった、ということすらわからない程度である。
「……え?」
いきなり呼び止められて、ぎろり、と睨まれその場に思わず立ち竦むすれ違った男性。
ぐいっ。
有無をいわさずに鞄がぶつかった男をひっつかみそのまま店の奥のほうにと連れてゆく。
どがっ!
めぎゃっ!
いきなり奥にと連れ込まれ、奥にとあるトイレにと放り込まれた。
なぜ自分が?
というか怖くて逃げ出すにも逃げ出せない。
最近は理不尽な事件が多発している。
下手に刺激しないほうがいい。
だからといって何もせずにやられる。
というのもはっきりいって理不尽極まりない。
そもそも、何で因縁をつけられているのかすらも判らない。
戸惑い混乱している中、がすがすとお腹をけられ、殴られそのまま個室の中にと投げ込まれる。
「時計に傷がついてなくてよかったな。少しでも傷がついてたら命はなかったぜ」
個室の中の洋式トイレに倒れこんだ男をみてけっと唾をはきすて言い放つ。
命をうばっても俺には関係ないしな。
後始末はあのくそ親たちがしてくれるし。
昔から自分が何かしでかしてもいつも後始末をしたのは両親たち。
それゆえに彼自身はまったく悪いことをした。
という自覚のないまま成長している。
そもそも、傷がついたらいやだ。
というのならば身につけなければいいだけのこと。
というか腕に巻きつけるような形であれば、時計自体にも負担がかかり、早く老朽化してしまう。
というのすらこの男には理解できていない。
相手が死んでいようが、どうなろうが知ったことではない。
そうおもい、その場を立ち去ろうとするその耳に、
「いや~。まいった。まいった。やっぱりゲームは性にあわんな」
一番狙っていた人物の声が聞こえてくる。
みれば、一人でどうやらトイレの中にとやってきたらしい。
これは…ラッキ~だな。
手間がはぶけた。
そんなことを思いながらもひとまず様子をみる。
ここでもし、そこの個室に倒れている男をみつけられ騒がれたりしたら面倒。
というのもある。
彼の中にはきちんと、防犯カメラにきっちりと映りこんでいる。
という自覚はまったくない……
「…おっと。こいつを水にぬらしたら大変だ」
別にトイレにきたかったわけでなく。
ただ、ちょっと気持ちを落ち着かせるために顔と手を洗いたかった。
何しろコインはけっこうさわっていれば手が汚れる。
それゆえにその汚れが万が一、時計につきでもしたら。
という懸念もある。
わざわざ水を使うからといって時計を外して後ろポケットにと入れる本田。
知っていればわざわざ時計を外すなどはしないであろうに。
水深○メートル以上でも耐えうる防水加工はかなり有名。
それすらも本田は知らない。
簡単にいいなおせば、たかが水道の水程度で壊れることはない。
それなのに、そのままズボンのポケットにいれて、バシャバシャと手を洗い始める。
そして、そのまま顔を洗うために備え付けの鏡から視線を外し、目を閉じる。
「ふっ。手間がはぶけたぜ。ありがとよ」
相手に気づかれずに掏り取るなどお手のもの。
本田が顔を洗うためにと目をつむっている隙にとすばやく掏り取る。
未だにあの学生はズボンの中より掏り取られた、ということは気づいてないようだ。
掏り取った時計を片手ににやりとほくそ笑む。
だがしかし…先刻うけた屈辱は忘れていない。
さっきのお返しはしてやる。
はっきりいって、今も少し前も自分が悪いのに。
まったくそういう自覚がない。
それは今まで彼をきちんと諌めるものがいなかったがゆえの性格形成……
「ふ~。さっぱりした。よし。もう一勝負!」
いいつつ、顔をあげ、ふと時計に手を伸ばそうとするが、やはりやめる。
「またコインさわるし。汚したら大変だしな」
そうおもい、確認することなくそのままトイレから再び店の中にと戻ってゆく本田。
そんな彼を個室の影にかくれて、にやりと笑いながら見ている朝の男の姿には気づくことなく……
そのまま、店の中にともどってゆく。
「え?もう?」
またまだコインは多少残っている。
だがしかし、
「うん。うち門限はやいから。早くいかないと海馬くんちもいけなくなっちゃうし」
戸惑いの声をあげる城之内に対し、ちらりと店内に備え付けられている時計をみながら言ってくる美穂。
たしかにそろそろ時刻はもう少しでお昼になるところ。
昼食もどこかでたべなければいけない時間ではある。
「それもそうね」
そんな美穂の台詞に同意してうなづく杏子。
そんな会話をしている最中、固まって話している彼らの元に本田が戻ってくる。
そして。
「え。そうか。じゃ、あれかえさないと」
約束はこの店の中にいる間。
まだ手が汚れていないうちに先に美穂ちゃんに時計をかえしておこう。
「あれ?本田くん?時計は?」
本田がそんなことをおもいつつ、ズポンのポケットに手を入れると同時。
ふと先ほどまで本田が腕にとつけていたはずのDショックの姿がかげも形も見当たらない。
それゆえに不安に思いながらも問いかけている遊戯。
「ああ。さっき水つかったから後ろのポケットに……あれ?」
そんな遊戯の心配した声をさらっと受け流し、ごそごそとポケットの中を探る。
……が。
「どうしたの?」
「…おい。まさか…なくしたんじゃないだろうな?」
いきなり必死にポケットの中身を探り出し、何やらあわてる本田をみて戸惑いの声をあげる杏子に、
あきれたようにそんな本田をみつめる城之内。
そもそも、水を使うから、といって外すか!?
普通。
あれはかなり防水加工とかもしっかりしている。
というのは普通常識だぞ!?
そんなことをおもっているがゆえのその言葉。
まさか名前がいえないだけでなく、そんな常識的なことまでこいつはしらないのか?
そう思うとあきれる…というより、ニュースとかこいつみないのか?
という別なところの疑問に陥ってしまう。
「ま。まさか。…あ、あれ?何で?さっきたしかにこの中に…そんなわけない。…あれ?」
たしかに、今さっきいれたはずのポケットの中にあるべきものがない。
たしかにポケットの中にいれたのに。
落としてなんかはいないはずなのに。
それゆえに、かなりバニックになり慌てふためく本田。
やがて、服のポケットまでもまさぐり探し始めだす。
「…あれは……」
本田が必死に時計を探しているのを離れた場所からほくそ笑んでこちらをみている今朝の男。
「だ…だぁぁっ!ないっ!どこへ消えたぁぁ!?」
遊戯が今朝の男がこちらをみているのに気づいて、つぶやきをもらすと同時。
ふと気づけば、いきなりその場にてズボンから何から何まで。
下着一枚になるまで脱ぎ去り、ぱさぱさと服をし始めている本田の姿。
「って、あんた何服全部ぬいでるのよっ!?」
いきなりといえばいきなりの本田の行動に思わず顔を真っ赤にして抗議の声をあげる杏子に。
唖然とするしかない城之内。
そして。
ひゅぅぅ……ばしっ!!
風をきるおとと、こぎみよい何かをたたく音が周囲に響き渡る。
「ほ…本田くんの馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁぁ!大っ嫌いっ!もう絶好よっ!わぁぁぁ!!」
おもいっきりそんな本田を躊躇することなく前降りをつけておもいっきりたたく美穂。
美穂のこぎみよいまでの平手打ちが本田の頬を直撃する。
そのまま、本田を平手打ちすると同時に叫びながらも店から走って出てゆく美穂。
なくすなんてひどいっ!
それに女の子に裸をみせるなんてっ!
その両方の思いがあるがゆえの美穂の行動。
「み…美穂ちゃん……」
がくっ。
美穂が泣きながら走り去ってゆくさまをただただその場に膝をついて追いすがるように呼び止める本田。
だが、そんな本田の声に当然、美穂が耳をかたむけるはずもない。
そのまま、彼らをその場にのこしたまま、美穂は一人店の外にと走り去ってゆく。
しばし、そんな美穂と、そして本田の姿を見比べ、
「もしかして……」
『もしかしなくても。だろうな』
こちらをみてほくそ笑んでいる男のほうをちらっとみてユウギにとつぶやく遊戯。
そんな遊戯の台詞に、あっさりと肯定した答えを返すユウギ。
「でも…証拠はないし……とりあえず、探してみようよ。ね?」
できるなら疑いたくない。
まさか人のものを盗むまでするなどと。
今朝のこともあるがゆえに、そう強くは絶対に違う。
とは言い切れないが、とりあえず、小さくつぶやいたのちに、杏子や城之内たちにと提案する。
「しかたねぇな~」
「とにかく、手分けしてさがしましょ」
本田をこのままにしておくわけにもいかない。
それゆえに、ため息まじりに頭をかりかりかきなからつぶやく城之内に、
こちらもまたため息とともに遊戯の提案を呑んでいる杏子。
「ね?本田くん。皆でさがせばみつかるよ。だから服…きてね?」
このまま、まさかないとはおもうが、下着まで脱いで探し出されてもかなり困る。
それこそ確実に通報されるのは間違いなし。
ともあれ、遊戯、城之内、杏子…そして本田の四人において店内を時計を求めてくまなく探すことに――
ごそごそごそ……
「ない…ない。ここにもない。ないいぃぃ!?美穂ちゃんの時計はどこにいったんだぁぁ!?」
いったい何をやってるんだ?
そんな怪訝な表情をむけてくる客たちの姿もいるにはいるが、そんな彼らをあっさり無視し、
とにかく床をはいつくばるようにして時計を探している本田。
時々はそのあたりにいる人に時計をみなかったかどうかも確認する。
だがしかし、当然のごとくに返事はみていない、との返事。
徹底的に探しているはずなのに見つからず、その場にて叫びだす本田であるが。
「本田。やっぱりみつからないよ」
「なくなっちまったんだよ。いい加減、あきらめろよ」
というか、まずあんなレアな品物。
ひろった奴なら間違いなく、届けることをせずに自分の物にするってばよ。
Dショックの価値がわかっているものならばなおさらに。
何しろたしかあれは、中古屋…つまり、質屋などに持ち運んでも結構な金額になる。
そう城之内は聞いたことがある。
そしてまた、杏子も城之内とは感想は違えども、やはりあんな時計を拾ったとしたら。
まずここまで出てこない。
ということは間違いなく拾ったひとがネコババした。
としか到底思えない。
だからこそ、諦めた口調で本田を諭すようにと話しかける。
「あきめられるか。俺のせいなんだぞ!俺がうっかりしたせいで美穂ちゃんの大切なD何とかを!!」
床にぺたりと座り込んだまま、いい年をした男性が半ば涙声で叫ぶのはあまりみられたものではない。
「だから、Dなんとかじゃなくて。Dショックだってばよ」
未だにきちんと名前をいえていない本田のその台詞に、完全にあきれて突っ込みをいれる城之内。
と。
がっ
「…ってぇぇ!!」
「!!」
床に這い蹲るようにして時計を探していた本田の手を、いきなり誰かの足が踏みつける。
「おっと。悪い。雑巾かとおもったぜ」
「…き…きさまっ!」
ふとみれば、にやにやと笑いながらわざとそんな本田の手を踏みつけている今朝方の男性。
こんな名前もいえないような奴があれをつける資格はねぇ。
それにあまりにしつこく探してるからここいらでちとヤキをいれとくか。
そんな思いから本田の手をわざと踏みつけているのであるが。
自分の手を踏みつけた人物を見上げて思わずすっと顔を険しくする。
こんなところにいるずがないはずの、今朝方の限定時計のコレクター。
となのっていた男。
見間違えるはずもない。
「何しやがんだ。てめえ!」
確実に今のはわざと。
悪意が目に見えている。
それゆえに本田の手をぐりぐりと踏んづけた男性にむかって拳を振り上げようとする城之内であるが、
「やめろ。城之内。そんな馬鹿につきあってる暇があるんなら時計さがすの手伝ってくれ」
こんな馬鹿なやつに何をいってもムダ。
そもそもコイツには常識、というのもがない。
それが今朝のあれでわかっているからこそ城之内を止めてその場を離れる本田の姿。
手を踏まれた当人の本田がそういうので、城之内も仕方なく拳を下げるが。
杏子は杏子で、この人…今、わざと本田の手を踏んだわよね。
何かあったのかしら?
本田もこの人のことしってたみたいだし?
などといろいろ頭の中で思っているがゆえにその場にただただ立ち尽くす。
そんな彼らを下卑た笑いを浮かべてみながらも、笑いながら店の奥にと立ち去ってゆくその男。
一方。
でも…あいつがとったっていう証拠は何もないし…だけど……
『俺からみればあからさまだがな』
とにかく、あの人に確認してみる。
心の中でそんな会話をしつつ、男が向かった店の奥に向かいかけると、
じりりりり……
「おい。何やってんだ!」
「ばかっ!やめろっ!」
店の中に鳴り響く警報音。
警報をききつけ、店員が換金機を持ち上げている本田を取り押さえる。
「は、はなしてください!探し物をしてるだけなんですっ!はなしてくださいっ!」
「「本田!!」」
二人がかりで取り押さえられても、本田としてはいたって本気。
ここまで探してない、となれば機械などのしたに入り込んでいる可能性も否めない。
それゆえの行為。
だがそれは、はっきりいってハタメイワクどころか下手をすると通報沙汰になる行為。
それゆえに、そんな本田をあわてて止めにむかう城之内と杏子であるが。
そんな二人とは対象的に、
『遊戯。ひとまずあいつは店の裏階段にむかったぞ』
「うん。いこ!お兄ちゃんっ!」
杏子と城之内が店員に取り押さえられた本田のほうに向かっていったのとは別に、
そのまま男が消えていった階段のほうにと駆け出す遊戯。
いつまでも本田くんをあのままにしてはおけない。
まず、今一番疑わしいところから探さないと。
そう決意し、そのまま遊戯は店の奥にと向かってゆく。
えっと……
とりあえず相手が上にいったか下にいったか確認するために手すりを乗り出し確認する。
一つしたの階段の踊り場にて笑みを浮かべながらも、
その手に見覚えのある時計をしている男の姿が目にはいる。
しかも、わざと遊戯と目があったのがわかっても見せびらかすように時計をみせてくる。
「……って、やっぱり…かえしてもらわなきゃっ!」
そのまま見せびらかしたのちに、どんどん地下にと進んでゆく男を追いかけて、
遊戯もまた階段を下りながら思わず叫ぶ。
『話して通じる相手だとは思えないがな……』
そんな遊戯の叫びに至極もっともな意見をいってくるユウギであるが。
「とにかく。お兄ちゃん。僕が先に説得してみるから。…あまり無茶しないでよ?」
人のものを盗んだり、他人に迷惑をける行為をする輩。
そういう輩は一番ユウギが嫌うところ。
遊戯とてそういう輩は嫌いであるが。
二人の異なる点といえば、遊戯はまず説得でどうにかしよう。
という点があるが、ユウギからすれば先に心の闇を覗き見て、それから判断する。
という誤差がある。
もっとも、かつての王たる彼は説得と心の闇を垣間見る。
というのは同時にほぼ行っていたのだが……
『おまえに何かあったらすぐにでるからな』
すでにあの男性に宿る闇は説得などでどうにかなるものではない。
それがわかってるがゆえにのユウギの台詞。
「…う…で、でもきちんと話せばきっと……」
だが、それでも人を信じたい遊戯としてはやはり説得を優先したい。
それですべてが解決するわけではない。
とわかっていてもなおさらに。
人を信じていたいのは、それはユウギも遊戯も共通する思い。
それは…今も、昔も。
そして彼自身の魂の本質がもつ願いでもあるがゆえ……
「あん?何だ、今朝のガキじゃねえか」
追いかけてきていたのはわかっている。
だが、店では面倒ごとになりかねないのでひとまずここまで誘いこんだ。
今のところ自分が彼らを追いかけていたのをしっているのはこのガキのみ。
ここには滅多と人がくるはずもない。
ゆえにここで別に殺そうが何をしようが自分に嫌疑が向かうことはない。
それゆえにこの場に誘い込んだ。
「…あの?それ。かえしてもらえませんか?それ、だって美穂ちゃんの……」
わざとらしく未だに手にもっている時計。
それゆえにその時計をみながら交渉する遊戯。
「あん?何だって?これは元々オレんだ」
「でも、それっ!」
「うるせえんだよっ!もともとあんな女のもとにあるより、オレのもとにあるほうがいいんだよっ!」
どがっ!
遊戯の説得をあっさり無視し、答えとばかりに遊戯のお腹に足蹴りを一撃食らわす。
「…グッ……」
あまりの痛さにその場にうづくまりそうになるものの。
「おねがい。かえしてっ!どうしてそんなひどいことするの!?」
「うるせえっ!」
バッン!
ドガッ!
とりあえず、階段で騒いでいると声がどうしても響く。
それゆえにそこにある地下にとあるとある一つの扉を開け放ち、その中に遊戯を蹴り放り込む。
そして、そのまま扉をしめ、外に声が漏れないようにし、
「これは元々オレのなんだよっ!」
未だに衝撃で動けない遊戯を軽々持ち上げ、今度は拳でみぞおちに一撃を食らわす。
あっけない。
こんな弱いガキ、すぐに始末してやる。
だが、こんなガキたちに時計を手にいれるのを邪魔された。
という時間を無駄にしてしまった。
というその思いの先の鬱憤はこいつの体で払ってもらうか。
そう思いつつ、遊戯がいくら彼を説得しようと言葉を発するものの、
連続して殴る、けるを繰り返す。
「おねが……かえし……」
「うるせえんだよっ!!!!!!!」
幾ら蹴りを入れようと、殴ろうとまったくもって飽きらめる。
ということをせずに話しかけてくる姿にいらいらする。
それゆえに、今度は手加減することなく力一杯みぞおちに一撃。
「……っ……」
声にならない声がもれる。
意識が遠のいてゆくのがわかる。
どうしてわかってもらえないの?
この人…僕達より大人だよね?
どうして?
何ともいえない理不尽な感情。
そんな感情に飲まれながらも、どんどんと遊戯の意識は遠のいてゆく……
『遊戯っ!!』
カッ!!
男にお腹を思いっきり蹴られて胃液をはいてその場に崩れ落ち意識が遠のいてゆく遊戯。
そんな遊戯の精神をまず保護するためにと千年パズルを起動させる。
心の中にて遊戯の精神を支える。
遊戯の精神というか意識は完全に気絶しており、すぐには目を覚ましそうもない。
まったく…だから、説得してもムダだ。
といったのに……
それが遊戯の優しさである。
というのは判っている。
自分ならば…いや、かつての自分ならば一通り説得してもムダならば確実に次なる手段をとる。
それが遊戯には欠けている。
その部分における力はすべて遊戯ではなく自分に残してある。
それゆえだ。
とはわかってはいるが……
永きにわたる封印を維持できないがゆえの決断。
優しさは時としてつけこみを与える結果となる。
だからこそ【分けた】のだから……
「マハード。遊戯をまかせたぞ」
『はっ』
気絶している遊戯の魂をマハードにまかせ、この部屋全体を闇の空間にと閉じるユウギ。
千年パズルが光りを発すると同時に立ち上がるユウギ。
それと同時にふわりと身長から雰囲気すべてがユウギのそれにと変化する。
がちゃがちゃ……
「あ、あれ?あかない。どうしたっていうんだ?いったい?」
明かりもないはずなのに扉に浮かび上がる影に気づくことなくつぶやく限定コレクターを名乗る男。
まったく……
遊戯の優しさにつけこんで、ける、殴るとはいい度胸をしている。
話せばきっと判ってくれる。
そんな遊戯の心を踏みにじったこの男の心は許せない。
「ゲームの時間だ」
ん?
いきなり背後から声がして振り向けば、たしかにおもいっきり蹴り倒したはずのガキの姿。
?
だが…何だ?
何かが……
何か違和感を感じるものの、まだこいつ立ち上がる元気があったのか。
そんなことをおもいつつ、
「て、てめえっ!」
再び痛い目をあわせないとわからないみたいだな。
そう思いながらも拳を振り上げユウギにと近づいてゆく。
が。
「おっと。危ないぜ」
ぶっ……ん……
そこは地下倉庫であったはずなのに。
なぜか視界に入るのはあたり一面に動いている歯車の姿。
そして、目の前の先ほど気絶させたはずの学生服をきている子供と自分の間。
その間を定期的に振り子らしきものが左右に動いている。
「!?な…何だ?こりゃ、いったい??」
下手に動けば振り子にあたり、大怪我するのは明らか。
「俺とゲームをやってもらう」
何が何だかわからない。
というかいつのまにこんな部屋の中に?!
男が動揺しているのもお構いなしに何やらいってくる先ほどの子供。
違和感は感じまくるが、この場にはあのガキと自分しかいなかった。
それがわかっているがゆえに、目の前の少年…遊戯の劇的な変化を見逃している。
「な、何だと?」
こいつ…さっきとまったく雰囲気が違うぞ?
何だ?
違和感を感じながらも自分が何やら恐れている。
というのを相手に知られないように虚勢をはる。
「ただし。闇のゲーム。だ」
闇…?
どこかできいたようなそのフレーズ。
もし、今彼が少し冷静でいられれば、先日のニュースなどを思い出すであろうが。
今の彼にはそんな余裕はない。
「おまえには盗んだDショックをかけてもらう」
「ふ。ふざけるな。こりゃ!」
しゅっ。
いきなり訳のわからない空間に部屋が変化し、目の前のガキも何かおかしい。
そもそも、こんな部屋があるはずがない。
自分がいたのはただの地下室。
そのはずなのに、足元からいきなり機械仕掛けの鳩が飛び出し、男の手にしているDショックを奪い取る。
そしてそのまま、足元にいつのまにあったのか扉らしきものの中にと時計ごと姿を消す。
「お…オレの!オレのDショック!」
足元の扉の中に消えた時計をおって思わずその場に這いつくばる。
「おまえのじゃないだろ。ただしこのゲームにおまえがかったら俺もあれがおまえのものだと認めよう」
そんな男に対して、淡々と、それでいて冷静に言い放つユウギ。
「な…何だとぉ?!」
認めるも何も。
あれはオレんだっ!
そう自分で独りよがりな確信しているがゆえにユウギの声に叫び返す。
「どうだ?うけてたつか?」
そんな男をみながら、ふっと笑い淡々と問いかける。
どちらにしても、ゲームをうけないと、扉の中に機械の鳩がもってはいった時計はもどってこない。
今自分に必要なのは、時計を奪い返すこと。
そう自分の中で判断し、
「…ああ。どんなゲームをやろうっていうんだ」
闇のゲームとはどんなものなのか。
ましてやこの空間の意味をもまったくもってまともに考えることもなくあっさりとうなづく。
「ふっ。そうこなくっちゃ」
相手がゲームをうけた。
ということは、それすなわち、その相手の心を試すこと。
当人はそれには気づくことがない。
それが闇のゲームのいくつかある中の本質の一つ。
「ルールは簡単だ。ゲームスタートと同時にさっきの鳩が扉からでてくる。
Dショックのストップウォッチが作動するから、それを止めて十秒調度に近い数字を出したほうが勝ちだ」
「何だ。そんなことか」
淡々と説明するユウギの台詞に、このガキ…何をそんな簡単なことを。
などと思いながら笑みを浮かべる。
少し考えれば、扉から出てきた時点でなぜストップウォッチが作動しているのか。
という疑問がわくのが通常であろうが。
今の彼の心の中を占めているのは時計に対する執着心のみ。
その執着心はこの部屋に確実に現れている。
だからこそ…気づかない。
このゲームの真実の意味に。
「ただし。十秒をすぎればさっきの振り子がDショックすれすれを通り過ぎる。
少しでも遅れればどうなるか…わかるだろ?やるのか。やらないのか?章太郎?」
「なめんじゃねえっ!!やってやろうじゃないかっ!」
名前を呼ばれ、さらには馬鹿にされているように感じて思わず言い返す。
そもそも、彼は一度とて目の前の少年…即ち、ユウギに名乗ったことはない。
それなのに、名前を呼ばれた。
というその疑問点すら浮ばない。
「よっし。それじゃ、どっちからやる?」
どちらにしても、闇のゲームは心の弱いものが負ける。
それがルールであり掟。
心に闇がある限り、それに光の心が負けている限り抜け出すことは不可能。
「オレからだ」
このガキ…今にギャフン。
といわせてやる。
初めに十秒近い数字をだせばすぐにあきらめて時計をかえす気になるだろうしな。
その後はまたじっくりとかわいがってやる。
さっきは手加減したつもりはないが、動ける。
ということはまだまだ殴ったり蹴ったりしても平気だろうしな。
自分の鬱憤をはらすために、他人を傷つけるのはゾクゾクする。
その光景を思い浮かべてにやりと笑みを浮かべる、章太郎、と呼ばれた男性。
「わかった。それじゃ、ゲーム…スタート」
ユウギの声をうけ、足元の扉から鳩時計であろう。
その口元に時計を銜えている鳩がとびだしてくる。
チチチチ……
たしかに、扉から出てくると同時、ストップウォッチが作動している様子が文字盤からも見て取れる。
「っ!」
ぶっんっ!!
「…へ。どうだい」
少しでもタイミングを逃せば、大怪我する。
だが、早く時計を取り戻したい。
それゆえに、心に浮ぶ恐怖心を押し殺し、ストップウォッチのボタンを押した。
タイムウォッチのタイムは九秒七。
自分がだした記録に満足し、勝利の笑みを浮かべつつ言い放つ。
だが、そんな記録に驚くでも、騒ぐでもなく。
淡々と、
「ふっ。やるな」
それだけいいはなち、立ち位置を少し変える。
けっ。
今以上の記録がだせるもんか。
そんなユウギの姿をみつつ、完全に勝利の笑みを浮かべる章太郎に対し、
「それじゃ、俺の番だ。…スタート」
スタート。
というと同時にゆっくりと目を閉じる。
「…な!?」
こ…こいつっ!
目を閉じたユウギをみておもわず驚愕した声をあげる。
つまりは、目をつむって秒数を数えている。
ということなのだろう。
彼の想像もあたらずとも遠からずではあるのだが。
スタートというと同時に目をつむり、回りを一切気にすることなく精神を集中させる。
ぶっ…
振り子が動く音と同時に目を開き、手を伸ばしてストップボタンにと手をかける。
そのまま振り子すれすれにと手をかわす。
振り子と、ユウギの手が時計から離れるのと。
振り子がその後を過ぎるのとほぼ同時。
ユウギの出した時間は……
「き…九秒九五だと!?」
Dショックのタイムは十秒にかなり近い数字。
それゆえに驚愕の声をあげる。
「俺の勝ち。だな」
淡々と喜んでいるでもなく、相手をけなしているわけでもなく。
ただ事実を淡々と述べるように言い放つユウギ。
冗談じゃないっ!
このガキ…っ!
「や…やってやるっ!今のはテストだ!次が本番だ!」
ぎりっと歯軋りを一つして、目の前のユウギをにらみながら叫び返す。
「ふっ。テストか。なるほど。いいだろ。じゃぁ」
相手が何を思っているのかはすぐに判る。
そして、相手が何をしようとしているのかも。
どうせ幾らやっても結果は同じこと。
「ま。まて。次はオレがそっちでやる」
「わかった。…スタート」
章太郎の位置交代の要請をうけ、あっさりと位置を交替するユウギ。
そして、位置を交替し、スタンバイしおえてゲーム開始の合図を出す。
読めたぜ。
こいつのせこい作戦が。
立つ位置が、もともと優位だったんだ。
こっちのほうがぎりぎり手を逃がす方向にあうんだ。
さかさまだから数字が見えにくいとおもったが、スイッチの位置が関係していたとはな。
今にほえずらかかせてやる。
そんなことを思いつつ、
よっし。
今だ!
そのまま時計にと手を伸ばす。
が。
……まて。
何かがまちがってるぞ!?
さっきは……
時計に手を伸ばした時点でようやくその違和感にと気づく。
少し冷静に判断していればわかったであろうに。
勝利を早くしたいがゆえの慢心。
ぶ…ん……
彼が戸惑っている間にも、どこからともなく巨大な振り子が彼の手めがけて向かってくる。
し…しまった!
振り子の位置が逆だ!
これだったら順番もあとにやらなきゃ、方向が…っ!
めぎゃっ……
手をその場からのける。
という選択は彼の中にはない。
それこそが闇のゲームの本質。
彼が時計に対して執着しているかぎり、行動はその本能のままにと現れる。
それゆえに、周囲ににぶく、それでいて何ともいえない不気味な音が響き渡る……
「う…うわぁぁ~!!」
そのまま振り子に腕がもっていかれて手が異様な形に折れ曲がる。
腕が、というよりは手首から先が。
といったほうがいいのであろうか。
さらにいえば、振り子の先でおもいっきり腕の肉までもがもっていかれ、
中身…即ち、赤身と骨が垣間見える。
血が周囲に飛び散らないのが不思議なほどに。
ただ、無意味なまでに見えている赤身と骨。
あまりにひどい怪我のときにはすぐには血はでない。
最も、この闇のゲームにおいてそれをいうのはどうか。
という疑念はあるのだが。
そんなことは、この男性が知る由もない。
「残念だったな。これはやっぱり返してもらう」
手首を押さえ、その場に声もなくうづくまる男を別にいたわるでもなく、
淡々といいながら、鳩が持っている時計を取り外す。
だがしかし、
「ま…まて!こいつは渡すもんかっ!こんなゲームはいんちきだ!このDショックはオレんだ!!」
声にならないほどの痛みがあるにしろ、このまま時計をわたしてたまるか!
という思いのほうが強い。
だからこそ、ユウギの手を残った片手でがしっとつかみ阻止しようとする。
こんなゲームはインチキだ。
これは…もともとオレんだっ!
痛みでそれ以上の声がでないが、心の中では思いっきり叫ぶ。
「…哀れだな……」
そんな男性を静かに、それでいて冷静にと見つめながらも淡々と言い放つユウギ。
「……な…お…おまえは……」
見上げる少年の額に光る第三の眼。
今さらながらに気づくが、先ほどのあの気弱な少年とは身長も異なっている。
ここにきて、初めに感じた威圧感と…恐怖感が男の中にと蘇ってくる。
「闇の扉が…開かれた」
静かに…静かに語られたユウギの言葉をうけ。
ユウギの額に浮んでいる金色の第三の眼から光が発せられる。
「…な、何?」
ユウギの台詞の意味は彼にはわからない。
コチコチコチ……
「う…うわぁぁ!?…な、何だこれはっ!?」
振り子によってたしかに骨が見えていたはずの手の中にみえるのはなぜか歯車の姿。
ふと気づけば、腕にはめていた腕時計全てが自分の体の中にめり込んで一体化している。
闇のゲームは心の闇を暴きだす。
この男の心に巣食っていたのは異様なまでのDショックへの執着心。
ふっ。
そんな男をそのままにし、Dショックを片手にその場を後にしてゆくユウギであるが。
少し考えればこの空間からして異常である。
と判るであろうに、その執着心ゆえに平常心が失われていた。
最も、ユウギとしては遊戯をひどい目にあわせたこの男を許す気などはさらさらないのだが。
コチコチコチ……
「な、何だ?!これは、オレは…オレはそんなのいやだぁぁ!た…たすけてくれぇぇぇぇ!!」
体をさわってみても、自分の体がすべて時計仕掛けになっているのがいやでもわかる。
自分の目や耳すらも。
両目そのものが時計の文字盤と化しているのすらも。
「自分そのものをコレクションするんだな」
とりあえず、あのままあの場所においておいて他の第三者などに傷をつけてもたまらない。
それゆえにあの空間が消えるとともに、彼の部屋にと空間をつなげるように闇のレベル空間は設定してある。
あの空間は彼の心そのもの。
時計に捕らわれていた彼の心の闇。
だからこそ、名乗られてもいないのにユウギは彼の名前をいっていたのに。
限定時計コレクターの章太郎はそのことにすら気づかなかった。
そのまま、闇の空間で作り出したその部屋に男を置き去りにしたまま、
ユウギはその心の部屋より外にと出てゆく――
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あとがきもどき:
薫:さてさて。王様に闇のゲームしかけられてもそれをあっさりと承諾したらダメでしょう(笑
というか、闇のゲームってそんなものなんでしょうけどね。(しみじみ……
つまり、心に闇があるかぎり、断る手段を持たないゲーム……
ともあれ、次回でようやくこの時計の回もおわりですv
落ちがいくつかあるのはお約束v
あのアニメの香水のオチもいれますよ~vv
何はともあれ、それではまた次回にてv
ではではvv
2007年9月5日(水)某日
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