まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて。今回、再び(笑)闇遊戯こと王様の復活ですv
1話でも触れてたとおり、以前一度は復活していたけど、
とある事情からまた自分でパズルを壊して遊戯に枷をかけてた王様です(笑
何はともあれ、いくのですv
これからものがたりはすすんでく~v
しかし…これの過去編というか王様、幼少編…考えてはいるけどどうするかな??

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  ~第2話~

ふと気づいたら自分の部屋だった。
祖父である双六がいうには誰かが遊戯を家につれてきてくれた。
ということらしい。
目覚めた後もやはり体がずきずきと痛む。
「いたた……」
だがそれよりも……自分のせいで友達が怪我をさせられた。
それに対するよくわからない感情が自分の中でうずまいている。
理不尽な何かが。
「どうしよう。二十万なんてそんな大金……」
貯金を使えばあるにはあるが、あれは自分のものであって自分のものではない。
そもそもあれは、現代の仕組みを理解してみたい。
という彼の意思で行い、利益がでているだけのこと。
それも数年だけやってすぐに手を引いた彼。
なんなんだろ?
この気持ち……
何となくまんじりとする気持ちのままに、無意識にとパズルにと手がのびる。
「…お兄ちゃんならこんなときどうするんだろ……」
カチャカチャカチャ……
相談しに心の中にいきたいけど、だけど彼に心配をかけたくない。
という思いもある。
これは僕の問題なんだから。
僕が何とかしないといけない問題。
「……あれ?」
いつも途中でとまっていた箇所がいつものようにとどまることなくそのまま進む。
「そっか。そういえばこれって確か一度はめてから回転させるんだった…あれ?なら……」
回転させる。
その可能性が今までどうしても脳裏に浮ばずに実行できなかった。
なのに今は無意識でするっとそれができた。
それに対して多少の疑問を抱くものの、
「もしかしたら……」
こんな気持ちの状態なのに、もしかして、もしかすると…という気持ちが先立つ。
気分は今まで感じたことがないほどに最悪なのに。
この気持ちは以前にも感じたことがあった。
そのときより強い理不尽な気持ち。
それが何を意味しているのかはわからない。
カチッ。
「…も、もしかして!?」
ふと気づけば最後のパーツはあと一つ。
あと一つで再び千年パズルは完成する。
「最後の…ウジャト瞳のパーツをはめたら完成だっ!」
はやる気持ちを抑えきれずに、パーツが入っているはずの箱にと手を伸ばす。
が、しかし。
「……え?…う…うそ!?」
な…ない!?
いつもそこにあるはずの最後の見慣れたパーツがない。
一番彼とつながりが深いその部品が。
「どこかにおちてるの!?…というか…お兄ちゃんっ!どこいったのぉぉぉぉおおおお!?」
思わず心から叫ぶ。
今まで気分が最悪であったがゆえに気づかなかったけど、そういえば……
学校からお兄ちゃんの気配が小さかったような……
ようやくそのことにと思い当たる。
あと一つのパーツを組み込めば完成する逆ピラミッドにと手をかけて、意識を集中する。
心の中にいるもう一人の自分と話すために。
『お兄ちゃん…どこにいるの?』
一つでも部品がかければ彼と再び現実で会話することが不可能。
それがわかっているがゆえにあせりが隠せない。
『……遊戯……』
はっ!
心の中にと響いてきたその声におもわずはっと我にと戻る。
どこか悲しそうでもあるその声。
その声の響きがもつ意味は遊戯にはわからない。
「学校っ!」
脳裏にと浮んだのは学校の風景。
すでに日は完全にと暮れている。
それでも、大切なもう一人の自分との絆でもある部品を求め、
そのままある程度完成させているパズルを手にとり家を飛び出してゆく遊戯の姿。


「……くそっ」
自分の情けなさに虫唾が走る。
ただ、むしゃくしゃして遊戯の大切なものをこの場にと投げ捨てた。
そんな自分を遊戯は信じ…そして、今まで散々いろいろとしていたというのに。
『友達にそんなことができるはずがないだろっ!』
と、しかも自分達をかばって自身が殴られた。
自分を犠牲にしても他人を助けたいというその心。
心のどこかでざわめきが大きくなる。
――二度と、誰も犠牲にはしない……
そんな思いが脳裏をよぎる。
それが昔、両親の離婚とともにひきさかれた妹のことを指しているのか、それとも別の何かを指しているのか。
それすらも判らないこのもどかしさ。
だけども一つだけ確実にいえることがある。
それは……
「くそっ!どこにおちてやがるんだっ!!」
「おい。城之内……」
ざぶざぶと、幾度も学校のプールにとその体を服をきたまま沈んではあるものを探す城之内。
そんな彼を心配しつつも、ほっとけずにプールサイドで見守る本田の姿。
万が一、先生などがきたときに対処するために。
二人で探せばプール内のどこかに落ちているアレを見つけ出すのも早いだろうが。
それよりも先生に見つかったほうがかなり危険であるのも承知している。
それゆえの見張り役。
気絶している遊戯を家にと送り届けた後、学校にと舞い戻り、そのままプールの中にと飛び込んだ。
それは昼間、自分自身が投げ捨てた遊戯が大切にしていたパズルの部品を探し出すため。
すでに日は暮れて視界も悪い。
唯一、本田が照らしている懐中電灯の明かりが鍵。
こぽっ…
キラリッ。
自分以外には人がいないので気泡など他にありえるはずもない。
それなのになぜか一箇所に浮かび上がってくる気泡と、その下からきらめく金色の光。
「…あれはっ……」
なぜ気泡が浮んだのかは判らない。
だけども、こんなプールの中で光を放つものなどは…一つしかない。
そのまま、光っているその場所にむかって城之内はざぶざぶと泳いでゆく。

ふっ……
産まれかわろうとも、魂に宿りし光りはかわらない。
そういうことなのだろうな。
彼が自分を手にしたあのとき、感じたあの感覚。
まさか彼もまたこの時代に転生してきていたとは。
かつて、自分を王子としてでなく、一個人として扱ってくれた大切な友達の一人。
『カツヤ……』
自分をこの場…即ち、プールに投げ捨てたのも彼ではあるが、
それでもそんな自分を拾いにきてくれたのもまた彼。
彼を信じているがゆえに、何もしなかった。
別の悪意などがあるのならば、自身の力で何とかしていた。
それらをしなかったのは…彼を信じているがゆえ。
自身が一番強く宿っているウジャト瞳の部品に触れたときに感じた魂の光。
それでわかった。
彼はかつて共に過ごした友人の『カツヤ』である、ということが。
そしてまた…ともにいるもう一人は……
『ファラオのいわれたとおり…ですか……』
友や仲間を信じる心。
その絆が千年アイテムすべての力を増幅する鍵でもある。
そしてまた、それらは各自の力をも増幅させる力をももつ。
おそらくは、遊戯もまた無意識に彼を信じていたのだろう。
かつて命を問わず自分を助けようと尽力してくれた友の姿。
それらは魂の奥底の記憶に刻み込まれている。
『絆は時がたとうとも、断ち切れるものではない。そうだろ?マハード?』
『ですね』
そんな会話を交わしながら、ブールにもぐってくる城之内の姿を視ながら時をまつ。
彼の思いはわかっている。
自身…即ち、ウジャト瞳が描かれているこのパーツを拾い遊戯に届ける。
というその思いは……


きっと絶対に学校にあるんだっ!
脳裏にと浮んだ学校の風景。
一つ肝心なパーツがなくなっているのに気づかなかった自分のうかつさも情けなくなる。
今日は学校から戻ってくるときそんなことを考えている余裕などなかったからかもしれない。
というか気がついたら家だったのだから。
誰かが気絶している自分を家まで運んでくれたらしいが、それが誰かはわからない。
そのとき家にいた祖父は今は用事があるとかで出かけている。
そのまま、完成しかけているパズルを手にして家を飛び出す。
「ちょっと!遊戯!?どこいくの!?」
「学校っ!!」
すでに日も暮れているというのにいきなり家を飛び出した遊戯に母親があわてて問いかけてくるが。
そんな母親の制止は何のその、そのまま遊戯はその身を薄暗くなりかけている闇の中にと投じてゆく。
いつも通いなれた童美野高校への道。
この高校を選んだのはただ単に家から結構近かったから。
という至極最もな理由から。
歩いて三十分くらいかかる距離ではあるが、だがしかし、
生徒のために朝などは学校行きのバスもきちんとでている。
それは様々な場所から高校に通う生徒に対しての学校側の配慮の一つ。
いつもはこんな夜に出歩くことなどはまずしない。
というか絶対にしないけど、今はそれをいっているときではない。
とにかくただひたすらに、最後のパーツを求めて遊戯は学校に向かってかけてゆく――

「……あれ?あいてる?」
こんな時間だというのに未だに門が開いている。
まあ、こっちは裏門だからかもしれないけど。
絶対にあいてないだろうから門か壁を乗り越える気でいたというのに。
「まだ先生か誰かいるのかな?」
それにしても門が開いているままなんて無用心だな~
まだそんなに夜遅くないからかな?
時計をみればまだ時刻は七時をまわっていない。
だからまだ職員室に先生たちがいるのかもしれない。
とにかく、先生がいるのならば見つかったりでもしたら怒られるのは確実。
まあ、忘れ物をした。
といえばどうにかなるであろうが。
忘れている品物が品物である。
「とにかく……あれ?」
とにかく門から学校の敷地内にと入り、教室のほうにとむかってゆこうとする。
と。
目の前のほうから何やら歩いてくる人影が目につき思わずたちどまる。
どうみても見覚えるあのシルエット。
よくよくみればこちらのほうに歩いてくる人影が二つ。
「「…って、遊戯!?」」
「あれ?城之内くん。それに本田くんも。あ、二人とももう怪我大丈夫なの?」
どうしてこんな時間に二人がいるのかはわからない。
だがしかし、学校の校舎の表のほうから歩いてきたのは他ならないその二人の姿。
「え?あ…ああ……」
自分の心配よりも他人を心配するそんな遊戯の台詞に思わずくちごもる。
そして。
「…あ。そうだ。遊戯…これ……」
いいながら、ぎゅっとその手ににぎっていたとあるモノを遊戯の前にと差し出す城之内。
その手の中には瞳の紋様が描かれている家のような形の品が一つ。
「あ!僕の千年パズルのパーツ!」
城之内の手の中ににぎられているそれをみて、ぱっと目をかがやかせて思わず叫ぶ遊戯であるが。
「あ…あのな…遊戯……」
そんな遊戯に対して自分がしたことに対して謝ろうとどうにか声を出そうとする城之内であるが、
「ありがとうっ!城之内くんっ!みつけてくれたんだっ!」
ぎゅっとそんな城之内の手をにぎりしめて、瞳をきらきらさせて本気でお礼をいっている遊戯。
……やっぱり……

ふと遊戯の心を通じ、もう一人の自分でもある『ユウギ』の声がしたような気がするが。
何がお兄ちゃん、やっぱりっていうんだろ?
そう疑問におもいながらも、城之内の手の中から部品をうけとり、
「ほんっとにありがとっ!」
さらにぺこりとお辞儀をする遊戯。
そんな遊戯のまったく自分を疑うことない態度に戸惑いながら、
「え?い…いや、えっと……」
見つけたというより自分が投げ捨てたものである。
それゆえに戸惑うしかない城之内。
本田もまた何といっていいのかわからないらしくそんな遊戯と城之内を見比べているのみ。
「本田くんも一緒にさがしてくれてたの?でもよく僕のってわかったね。
  あ、もしかしてあの箱にかかれてた紋様とこれ同じだから?」
二人が一緒にいる。
ということは、何かしらの用事か何かあってのこっていて、
そしてふと、何らかの形で部品一つが落ちているのに気づいたのであろう。
教室には落ちていなかったから、たぶん別のどこかで落としたのかもしれない。
まあ、お兄ちゃんの場合は…自力で光って自分の位置とか教えられるし…それでかな?
そんな多少見当違いのことを思っている遊戯。
だがよく自分のものだとわかったよね。
そう思いながらも、ふとその部品の中央部分に描かれている紋様と、
そして昼間、城之内たちにみせた箱の紋様が同じなのに気づいたから僕のってわかったのかな?
それゆえに素朴な疑問を込めて問い返す。
「……あ…あのな……遊戯……」
「ほんっとおおにありがとう!これとっても大切なものなんだ。
  あれ?そういえば城之内くん?びしゅぬれだけど、雨でもふったの?
  風邪ひいちゃうよ?大丈夫?」
自分が悪いのに、そんな自分を疑うこともなく、純粋にお礼の言葉をいってきて、
さらには自分を心より心配している遊戯の姿をみて心が痛む。
ここできちんと本当のことをいわなければ、自分はきっと一生卑怯者のままのような気がする。
それは絶対にいやだ。
そう意を決し、
「あ…あのなっ!遊戯っ!」
「何?城之内くん?」
いきなり叫ぶ城之内の声にきょとんとした声をだす遊戯であるが。
それとほぼ当時。
「ほお。もうもってきたのか?遊戯?何か聞き覚えのある声がしているとおもったら」
校舎裏の一角の闇の中から遊戯たちのほうに向けられてくる声が一つ。
まるで闇を背負ったがごとくに現れてくる大柄な人影。
「う…牛尾さん……」
その姿をみて思わず後ろに一歩さがる遊戯。
だけども、ぎゅっと手にしている部品に力をこめてにぎりしめ、
「あ、あの。牛尾さん、言われたお金なんだけど…僕、そんな大金用意できないんですけど……
  僕はただ、忘れ物をとりにきただけで……」
勇気を振り絞り、それでもいわなければいけないことを言い返す。
昼間というか放課後、牛尾に言われたのは二十万をもってこい。
という理不尽な請求。
「あん?もう一度いってみろっ!」
どっ!
「……ぐ……」
遊戯が勇気を振り絞っていうと同時、
近づいてきた牛尾の蹴りがおもいっきり遊戯のみぞおちにとヒットする。
「おい!てめえ!牛尾!!」
「牛尾さん、あんたって人はっ!!」
止めるまもない出来事であったがゆえに、そんな牛尾に対して抗議の声をあげる城之内に、
そしてまた、拳をわなわなと震わせて叫ぶ本田。
無抵抗な人を傷つける。
それは喧嘩などにおいても一番卑怯なやりかた。
それゆえに怒りは隠しきれようもない。
「なんだ。またお前らか。お前らとうに下校時刻はすぎてるだろうが?
  それに、何だ?そのびしょ濡れの服は?まさか服をきたままプールで泳いだわけじゃ…
  ないだろうなっ!!」
がすっ!
足を蹴り上げると同時に懐より小さなナイフを取り出して振りかざす。
それゆえにナイフをよけようとしてそのままおもいっきり足蹴りされる城之内に、
「飛び道具とは卑怯だろっ!?」
思わず叫ぶ本田であるが。
「うるさいっ!!」
ひゅっ。
そのまま牛尾のもっているナイフはそのまま彼ら二人にむけて振り下ろされる。
「や…やめて~!!」
友達が傷つけられるのはみたくない。
それゆえにそんな二人と牛尾の間に飛び出る遊戯。
ガッ……
「「遊戯!!?」」
振り下ろされたナイフがそのまま横腹に突き刺さり、鈍い音が響き渡る。
それはまるでスローモーションのような一瞬のできごと。
城之内たちが止めるよりもはやい出来事だったがゆえに防ぎきれなかった。
城之内達ならばそのナイフをそのまま振り払ったりもできたであろうが、
遊戯に関してはそんなことはまったくおもってもおらず、
それゆえにそのままナイフを直接うけてしまったのである。
「ふ。馬鹿が。この俺に逆らうからだ」
遊戯のわき腹を刺したナイフをそのまま抜き去り、ぺろりとナイフについた血をなめる。
「き…きさまぁぁ!」
「遊戯、大丈夫か!?」
怒りに燃える城之内に、うずくまる遊戯を抱き起こそうとする本田。
「二人とも…にげ…て……」
これは自分の問題。
無関係な二人をこれ以上まきこみたくない。
それゆえに、自分が刺されて怪我をしたというのに、
他人の…つまりは、本田と城之内の心配をしている遊戯の姿。
鈍い痛みが体につたわってくる。
僕…どうしたんだろ?
そんな疑問も浮ぶが、まさか自分が刺されている。
などとは未だに遊戯は気づいていない。
鈍い痛みが体に伝わると同時に意識がやがて朦朧としてくる。
『――遊戯っ!!』
心の中で自分を呼ぶ声がしてくるが、それにこたえる気力もなくなってくる。
「城之内くん…本田くん……」
そのまま、ゆっくりと遊戯の意識はかすれてゆく……

遊戯が一時、その痛みから気絶している最中。
二人して遊戯に怪我を負わした牛尾にとむかってゆくが。
相手は有段者。
城之内たちも喧嘩などには強いものの、それなりの対処を学んでいる存在と、
そしてまた飛び道具をもっている存在とでは結果は歴然。
そのまま二人は牛尾によってかなり痛めつけられてゆく……

「…う……」
――遊戯…遊戯っ!!
ずっと心の中で名前をよばれ、意識がかろうじて浮上してくる。
ぼんやりと瞳をあけたその視界にうつるのは、二人を足蹴りにしている牛尾の姿。
城之内くん…本田くん…やめて…牛尾さん…お願い…やめて……
そう声をだしたいが、声にはならず遊戯の中に何ともいえないもどかしさが広がってゆく。
うごきたいけど動けない。
それどころかまた意識が遠のきかけている。
視界がかすんでくるそんな遊戯の意識の中。
『遊戯っ!パーツを!!』
遠のく意識の中で聞こえるもう一人の自分の声。
「…お…お兄…ちゃ……」
自分をまもり、再び暴力をふるわれ気絶している大切な友たち二人。
その姿が意識がもうろうとしてくる視界にとうつりこむ。
『あとはまかせろ』
「……お……」
お兄ちゃん。
そう声をだしたいのに声がでない。
頭の中に心から響いてくる声。
先ほど城之内からあずかった最後のパーツ。
それを目の前にころがっているバズルの未完成の部分にと最後の力をふりしぼりはめこむ。
自分の力で友達を助けたいのに。
だけども意識がとおのいていき、体に力が入らない。
かっ!!!!!!!
遊戯が最後の力をふりしぼり、穴の開いた部分に最後の部品。
ウジャト瞳の紋様が描かれているそれをはめ込むと同時、
千年パズルがまばゆいばかりの光を発する。
それは…再び封印が解かれた。
という証。
それとともに、傷ついていた体もまたたくまにと回復する。
ざあっ!!!!
立ち上る光とともにまきおこる風。
ゆっくりと目を開く。
心の中にと意識をむけると気絶している遊戯の姿。
「…マハード、遊戯をたのむ」
『はっ』
心の中にといる信頼できる彼にともう一人の自分。
即ち遊戯をたくし、ゆっくりと立ち上がる。
今まで表にでていたのは遊戯の魂。
だが今、遊戯の魂というか意識は気絶している。
そして…今、表にでてくるための条件はすべてそろった。
千年パズルが組みあがるとき、
パズルの中にと封じられている彼の魂は現世にとよみがえることができる。
そう。
パズルを解きし存在…即ち、自らの魂の半身であり片割れでもある『遊戯』の肉体を借りて。
ゆっくりと瞳を見開いた彼の額に浮かび上がる第三の瞳。
彼本来がもっている力の象徴。
いつも心の中で遊戯が話している彼とは姿は異なるものの。
それでも基本はほぼ同じ。
心の中での彼の姿は浅黒い肌に黄金の装飾品などを施している服装。
そしてその額には金でできたウジャト瞳の紋様のサークレット。
それらは今の彼にはないものの、遊戯と彼との容姿はまったく同じであるがゆえに違和感はない。
光とともに、力が復活したのを表すかのごとくに遊戯としての肉体は、
彼の本来の肉体のそれにと変化する。

ザアッ…
「…ん?」
風もないのにいきなり巻き上がる木の葉。
この時期、枯葉などはないはずである。
思わずその違和感に気づいてたちあがる。
「…さあ、ゲームの時間だ」
「…な、何!?」
聞きなれない声に思わず背後を振り返る。
まだ誰かいたのか!?
声に聞き覚えはない。
振り返ると同時、彼の視界は一瞬真っ暗にとなり、次に気づいたときには、
なぜか自分の体にロープがまきつき、どこか高い場所にいる。
「うわっ!?な…何だ!?これはっ!?」
さきほどまで校舎裏にいたはずである。
こんな場所に一瞬でたどりつけるはずも、こんな格好をしているはずもない。
校舎の鐘つき塔。
自分自身が置かれた状況に思わず叫びをあげる。
真っ暗な空間の中、金色の光が視界に飛び込み、そちらにと視線をむける。
光とともにうかびあがってくるのは、さきほど叩きのめしたはずの遊戯の姿。
「き…貴様!?遊戯!?」
何か違和感を感じるが、その姿は遊戯の姿そのもの。
たしかにさっき、意識不明にしたはずなのに。
「やあ。牛尾さん」
鐘つき塔の上にとある柱にと捕まり見下していってくる『遊戯』の声に驚愕をかくしきれない。
そんな彼に対し、
「あんたがほしがっているのはここにあるよ」
屋根の上からロープ一つでかろうじてもちこたえている牛尾にと言い放つ『遊戯』の姿。
「何!?金のことか!?なんだもってきたのか。
  ならばあんな目にあわなくてすんだものを。さあ、早くわたせっ!」
よくよく目をこらしてみてみれば、鐘つき堂の上にとある柱にとたしかに何かがはりつけられている。
自分が置かれている状況よりも、二十万というお金が手にはいる。
そのことのみが先立ち、にやりと笑みを浮かべて言い放つ牛尾。
気をぬけば、ロープから手がはずれおそらくはこのまま地面にまっさかさまであろう。
というのも何となくであるが理解はできる。
というかロープ一つで自身の体を支え切れられるほどに自分の体重は軽くない。
「そう簡単にわたしちゃつまらないな」
そんな牛尾に対し、今まで牛尾がみたこともないような笑みを浮かべて言い放つ。
そんな『遊戯』の姿にやはり違和感を感じるものの、お金のことが脳裏に先立ちがゆえ。
「何だと!?」
あまりきにせずに自分が絶対優位、という立場の声で叫び返す。
「どう?俺とゲームしようぜ?」
まっくらな空間の中で遊戯の姿のみがまるでそこだけ明るいかのように
くっきりと牛尾の目にとびこんでくる。
はたはたと風になびく、前ポタンをはずしている学ランと、
首からさげている変わった逆三角の金色に光る何かと。
「ゲームだと?」
ゲームという台詞をきいて思わず眉をひそめる牛尾。
何だ?
これがあのおとなしかった遊戯のやつか?
というかあいつはさっきたしかに俺がわき腹をさして怪我してるはずでは?
ただかすっただけだったのか?
そんな牛尾の思いは何のその、
「そう。それもただのゲームじゃない。闇のゲームさ」
淡々と牛尾を屋根の上から見下ろしつつも話しかける。
他人の痛みをもいとわないその傲慢さ。
だからこそ許せない。
こういう輩には自分自身の心と見つめなおすための制裁が必要。
いまだに『遊戯の意識』は気を失っているまま。
この空間は自身の力で作り出した闇の空間。
「はっ。面白い。この牛尾、今までどんなゲームにも負けたことはない。うけてやるぞ!」
とにかく今は金を手にいれることが先決。
なぜこのような格好をして屋根の上になどいるのかはいまだに理解できない。
だけども二十万という金を奪える。
という事実が目の前にある。
「ふっ。さすが牛尾さんだ。そうこなくっちゃ」
そう言うとどうじに、牛尾と同じく体にまいているロープを握り締め飛び降りる。
それと同時に手にもったトランプを屋根の上にとならべてゆく。
飛び降りると同時に彼が首からさげているみたこともない変わった形のペンダントと、
そしてボタンをはめていない学生服が風にとなびく。
……?
たしかに遊戯のはずである。
だが何か違和感を感じる。
いつものおどおどした雰囲気ではなく、まるで別人。
牛尾の真横に飛び降りてきた『遊戯』の姿をみてそんなことを思うが、
今のこの状況と、そして二十万、という大金が手にはいる。
というその思いからその違和感は頭から牛尾の頭の中から消し去られる。
もしここで彼が通常に彼を観察していれば、いつもと雰囲気どころか身長も異なっている。
というのに気づいたであろうが。
牛尾とほぼ真横に並び、
「ルールは簡単だ。そのトランプを交替でめくって出た数だけ上にのぼる。
  もうひとりはそのぶん下がってしまう。早く上にのぼったほうが賞金を獲得できるってわけさ」
二人の体は一本のロープのみでつながっている。
片方が上にのぼればそのぶん、もうかたほうが下にと落ちてゆくのは明白。
いったいいつのまにこんなまねを自分にしたのかはわからない。
だが、いえることはただ一つ。
こんなふざけたまねをした遊戯をこのままこの場から落として金をうけとる。
それにつきる。
遊戯の説明ににやりと笑い、
「よおし、わかった。ならば俺からだ。…ダイヤの十。はは。どうだ、遊戯、勝たせてもらうぞ」
自分の絶対優位を核心しつつ、ロープをしっかりとにぎりしめ、
カードをめくって出た数だけ屋根の上にとのぼってゆく牛尾。
だがしかし、
「こっちは十三」
牛尾が十三歩、のぼった直後にひいた『遊戯』のカードはダイヤの十三。
つまりは牛尾より三つ多い数字。
「何?!」
自分のほうに掲げられてみせられたそのカードをみて思わず驚きの声をだす牛尾。
「スペードの二。どうだ、すぐにおいつくぞ」
だがしかし、すぐに気持ちをきりかえて次のカードをひく。
普通に考えれば屋根の上にただ並べただけのカードがなぜにおちないのか?
などという疑問が普通はおこりえるだろう。
だが、今の牛尾にはそういった疑問はない。
欲にかられた人間はそのような常識的なことはみえなくなるもの。
そして…これは、『闇のゲーム』。
古来よりうけつがれてきたそのゲームは人の心を試し…そして裁くもの。
「そうはいかないね。スペードのクイーン」
「何だと?」
牛尾がめくるカードよりも確実に数段上の数のカードをめくってゆく遊戯。
さすがの牛尾の声にもあせりがみえはじめる。
「ダイヤの三」
「ハートの九」
「クラブの六」
「スペードのジャック」
延々とカードをめくっては頂上めがけてのぼってゆくが、
すぐさま自分はどんどんと屋根の下にとおいやられてゆく。
今はまだ、円形の屋根という足場があるが、これ以上さがれば足場はない。
それはすなわち、ロープだけで自身の体を支えなければならなくなる。
ということ。
「どうした。牛尾さん。もう後がないね。こっちはあと一歩で頂上だ」
そんな牛尾とは対象てきに、あと一歩で完全に屋根の頂上にとたどりつく『遊戯』。
「うるさい。次に俺がいいカードをひけばあっというまに逆転………っ!?ジョーカー!?」
自分の不利な状況をどうにかやせがまんで罵倒をあびせ、
そのまま近くにある一枚のカードをめくる牛尾。
だがしかし、最後に彼がめくったカードの絵柄はジョーカー。
つまりは番号などはついていないカードトランプ。
「残念だったね。牛尾さん。ジョーカーはハズレだ。俺の番だ」
「何だと!?ふざけんなっ!?貴様最初から仕組んでたな!?」
仕組んでいるもなにも。
普通にカードを屋根にそって並べただけなのだから仕組みようがない。
イカサマとかをしていれば話しは別であろうが。
『遊戯』にとってはそのようなことをする必要はまったくない。
叫ぶ牛尾をまったく無視し、最後の一枚のカードをめくる。
「ダイヤのエース、俺の勝ちだ」
彼が最後に引いたカードはぴったし『1』のカード。
それはつまり、このゲームは遊戯の勝ち。
というのを意味し、牛尾は金を手に入れられない。
ということにほかならない。
「貴様…ゆるさんっ!」
そんなことはゆるせるはずがない。
自分がまけるなどあってはならないこと。
ましてや金は絶対に手にいれる。
それゆえに、ルールも何もそのまま屋根をよじのぼり、遊戯にと近づいてゆく。
「ルールを破るのか。そんなことをするととても恐ろしい目にあうぞ?」
そんな牛尾に表情一つかえることなく淡々と言い放つ『遊戯』。
「黙れっ!」
叫ぶと同時に自身もまた頂上にたどりつき、懐にしのばせていたナイフでローブを切り裂く。
「落ちろっ!…はっはっはっ!」
ローブを切り裂き、そのまま屋根の上から遊戯を地面にむけて突き落とす。
「やはりルールを守ることが出来ないようだな」
ロープがきられて、屋根の上から突き落とされてゆく遊戯は別に動じるまでもなく、
そんなことみをいいながらあわてることなく落ちてゆく。
「やったぞ!はははっ!…っ!?何だこりゃ!?金じゃない!?」
落ちた遊戯にはまったく気もとめず、そのまま柱にはりつけられていた束にと手を伸ばす牛尾。
だがしかし。
頂上の柱に貼り付けられていた束。
それが要求していた金だと思い込んでいたがいざ手にしてみればそこにあるのはカードの束。
驚愕する彼の耳に、
「闇の扉が…開かれた」
地面にたたきつけられたはずの遊戯の声が聞こえてくる。
遊戯の額に浮ぶ第三の目。
光の力と闇の力。
それら両方を司る存在。
それが彼。
そしてまた…闇のゲームとは罪人を裁くための心の天秤。
「…な、何!?」
その声と同時に自分がいた足元の屋根が崩れてそのまま大地にむかって落ちてゆく。
「闇のゲームは人間の本性をあばきだす。あんたは自分の欲望の中にのみこまれていくんだ」
静かに牛尾に対して語りかける。
「何?…大丈夫。下は川だ。死にはしない」
そんな遊戯の言葉の意味は当然理解できるはずもなく、いっゅん顔をしかめるものの、
視界にはいってくる自身が落ちている真下は川。
このまま川に落ちても命の別状はないはずだ。
だがしかし。
牛尾がそう思うとほぼ同時、
その川の中からこの世のものとは思えない蛇のようなものが湧き出し向かってくる。
「…な、何!?…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!」
がばっと口をあけた魔物のようなその中に飲み込まれてゆく牛尾の姿。
そのまま蛇のような怪物の中に飲み込まれて牛尾の姿は掻き消えてゆく。
彼の姿が飲み込まれたのを確認してすっと意識を集中させる。
それと同時に、彼がつくりだしていた闇の空間が掻き消える。
そこにあるのは先ほどの空間とはまったくことなる、初めと同じ場所。
即ちは、校舎裏そのものの風景。
「ふっ…愚かだな……だが、安心しろ。牛尾。心の中に光りがあればもどってこれるさ」
人は、その心に闇をいだくが、それを乗り越える力をももっている。
闇を振り払うのは光の力。
その光がない存在は、どんどんと闇にとのみこまれてゆく。
そしてそれは取り返しのつかない結果を招く。
さわっ。
久しぶりに感じる現実の風。
その風がとてもここちよい。
「遊戯は……まだ気絶しているまま…か」
意識を心の中にむければ、遊戯の状態が伝わってくる。
まだ遊戯の意識そのものは気絶しているまま。
すでに遊戯の肉体の傷は自分が表にでたときに『力』でもって治癒している。
「そうだ。カツヤ!ヒロト!」
一瞬、肌に感じる風の力を心地よく感じるものの、すぐさまに二人のことを思いだし、
未だに倒れている二人のもとにとかけだしてゆく。
二人の側にとかけより、状況をみる。
「…大丈夫だ」
命に別状はないらしい。
だが、それでもかなりのダメージをうけている。
ならば……
すっ。
制服の内ポケットにいれておいたカードの一つを無言でとりだす。
「出でよ!!」
カッ!!
遊戯の声に伴い、カードの中より湧き出るように実体化する一つの人影。
今、この世界によみがえっているかつての石版と同じ効果をもつカード。
その真意というか真実の力を知るものはほぼいないであろうが。
カードをつうじ、精霊世界と意志をかよわせ、この世界に召喚することが可能。
やがて、姿をあらわしたまるで古代の神話にでてくるような格好をしている女性がゆっくり瞳を開き、
『…わたくしを呼び出したのは聖なるファラオよ。あなたでしたか』
古代においても、そして現代においても彼とは面識があるがゆえ、
その姿が多少昔と異なっていてもその魂の力と輝きにて誰かを理解し話しかける。
「久しぶりだな。他の存在達も元気なのか?」
『ええ。聖なるファラオは……いえ、聞くまでもないですね……』
自らの力のすべてを使い、すべての世界を救った聖なる王。
今の状況を聞きかけて、思わず口ぐむ。
「まあな」
『ところで…わたくしを召喚した理由は?』
とりあえず目的を問いかける。
彼が無意味に自分を呼び出すことはありえない。
それが判っているがゆえ。
「手をわずらわせてすまないとおもうが。この二人の傷を治してやってほしい」
今の自分の力では完全には治せない。
それがとてももどかしい。
いや、治そうと思えば治せるが、それで闇の鼓動が濃くなってはもともこもない。
『わかりました…あと、このものたちはどこに休ませますか?』
「それは俺の家に」
そう言うと同時に別のカードを取り出し、空にと掲げ、
「召喚っ!天馬!!」
カッ!!
遊戯の声と同時にその場に真っ白い羽をもつ白い馬が出現する。
その羽はその馬の意志により、出現させることもしまいこむことも自由。
彼が昔、愛用していた馬である。
ということを、召喚された精霊の女神は知っている。
古においてもその事実を知っているものは一部のものだけであったが……
「ヒヒ~ンっ!」
カツン、というひずめの音とともにその場にありえないはずの馬の鳴き声が響き渡る。
それを傍目にみつつも、手をくみ、祈りの力を倒れている人間二人にと注いでゆく。
それとともに、二人の体がほのかに光りにつつまれ、怪我が見る間にと癒されてゆく。
完全に癒したのでは後々不思議がられるのは必死。
それゆえに命に関わるほどではない傷などはひとまずのこしておく。
今、この世界に完全に癒しの力を使える存在などは存在しない。
それがわかっているがゆえに。
『お二人の治療は終わりました。後、わたくしにできることは……』
「いや。大丈夫だ。手間をかけてわるかったな」
『いえ。用があればいつでも申しつけくださいませ。それでは……』
うやうやしくお辞儀をし、その場から出現したときと同様に掻き消えるようにと姿をかきけす。
そんな彼女を見送りつつ、
「さて…と。あとはこの二人を安全な場所につれていかないとな」
一番安全なのは自分…即ち遊戯の家に他ならない。
千年パズルの力を使えば、自分達の姿を他人に見せないようにするなどたやすいこと。
それゆえに二人をそのまま馬の背にのせて、街中をかけてゆく。
後には…完全に精神錯乱している牛尾の姿が校庭に取り残されていたりするのだが、
それは遊戯にとってはどうでもいいこと……

                                    ――GO TO NEXT

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あとがきもどき:
薫:うわっ!?アテム復活(?)までやったらかなりの容量に…(汗
  ちなみに、この回は初代アニメの1話よりv
  原作はナイフで現金をつきさす・・というものでしたけどね。
  あれよりアニメの1話のほうがすきなのでv(笑
  何はともあれ、次回で祖父でもある双六の登場ですv
  ではまた次回にてv

2007年8月13日(月)某日

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