まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
表彰式、はい。綺麗さっぱり飛ばします!(まてっ!!笑
延々とながったるしい祝辞とか打ち込むのは私もいやですしねぇ。
ほんっとああいう場での祝辞とかはながいですからね……
学校行事においてもしかり、ですけど(涙
そもそも、昔はよくあれで倒れる生徒があまりでなかったもんだ(気分悪くなった生徒は多々といた
何はともあれ、ようやく落ち着く北斗杯編、ゆくのですv
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そういえば、表彰式のあとの予定どうなってたっけ?
佐為のこともあって、その前には高永夏の発言があり。
はっきりいって覚えてない。
「ねえねえ。倉田さん。表彰式のあと…まさか、打ち上げとかない…よね?」
何となく嫌な予感がするのは気のせいか。
「何いってんだよ。進藤。あるにきまってるだろ?ま、かくごしとけ」
「いや、覚悟したくないから。というかオレも塔矢も明日手合いはいってるんだけど…?」
五月六日の金曜日には手合いがはいっている。
それは本来ならば五月の五日は学生もお休み。
ゆえに院生手合いに先心の間が解放されたためなのだが。
その理由は今回の北斗杯。
ネット中継もされるそれは、何よりも院生たちにとって励みになる。
ゆえに、ネットを通じて本日は院生たちはそれぞれに検討会をかねた対局日となっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうやかして断る理由…ないかなぁ?
それでなくても土曜日はめんどくさいであろう検査がはいっているというのに。
「…は~……」
せっかく佐為といる時間。
そんなくだらないことで失いたくはない。
ゆえに溜息が自然にもれだしてしまう。
…なにか抜け出すいい口実ないかなぁ?
とおもいつつ……
星の道しるべ ~新たなつながり~
…どうしよう。
本当にどうしよう?
息子がかった。
ときき係りの人に対局場の前まで家族のものなんですが……
と申しでて案内してもらった。
そこまではいい。
…が、中にはいる勇気はない。
案内してきたものも、進藤光の母なのですが…といわれて、家族ならば問題ないだろう。
という認識でここまで案内してくれたのだが。
『?ヒカル。あそこ。あれはヒカルの母君とアカリちゃんではないですか?何だかなつかしいですね~』
ふと視界にはいるのは、懐かしい顔。
それゆえに思わずヒカルに問いかける。
「え?」
佐為にいわれて扉の先のほうをみてみれば、そこにはなぜか確かに母とアカリの姿が目にはいる。
「あ。オレ、ちょっとごめん」
これは天の助けかも!
「?進藤?」
戸惑い気味の声をかける社をそのままに、そちらのほうにと駈け出すヒカル。
「何?母さんもアカリもきてたの?」
そこにいる戸惑い君の二人に駆けより声をかける。
「あ。ヒカル。あの。おめでとう。かったね。あ、でも私何ももってきてないや……」
花とかもってくればよかったかな~?
ぶつぶついっているアカリの姿に先ほどまで抱いていた永夏に対する気持ちがゆるゆると氷塊する。
くすっ。
「いいよ。来てくれてうれしい。母さんときたのか?」
「ううん。おばさんとはここであったの。一緒にきた久美子たちさきにかえっちゃって……」
がんばってね~!
とかいいつつそれぞれに笑みを浮かべて帰っていったのだが。
「ふ~ん。母さんは?」
「私はお義父…お爺ちゃんと。あの人もこれたらくるっていってたけど」
『ああ。平八どのと。そういえば、ヒカル。お元気なのですか?』
もう、元気も元気。
『そうですか。そういえば他のみなさんもあいたいですねぇ』
佐為…
その言葉から佐為もいつまた自分が逝くのかわからない、というのが伝わってくる。
「そうだ。母さん。明後日精密検査があるよね。俺」
「あら、珍しい。きちんとおぼえてたの?」
『精密検査?ヒカル?何ですか?それ?』
あ~、えっと、明後日病院にいく予定になってて。
『病院!?ヒカル、どこかわるいのですか!?』
いや、ちがうちがう。
そんなに心配そうな…ああ!泣きそうになるなっ!
ただ、検査にいくだけ!検査!
…こりゃ、こいつと別れたあとに倒れて一か月昏睡状態だった、というのいわないほうがよさそうだな…
佐為の泣き顔はかなりこたえる。
そう固く決意し。
「うん。それでさ~。できたらながったるしい面倒すぎる長話をあまりききたくないから、話あわせてくれないかな~?」
「ヒカル」
は~
何となくヒカルのいいたいことがわかり思わずため息をついてしまう。
「…ダメかな?」
ふ~。
「いいわよ。どちらにしてもあなたの体も心配ですものね。それよりヒカル。がんばったわね」
「さんきゅ~!」
よっし、これで時間大幅短縮だ!
『ヒカル?いったい何を…?』
母さんが迎えにきてるから、という理由で早々にとんずらっ!
『……ヒカル。そりゃ、私だって意味不明の長話をききたくはないですけど。だけど、いいんですか?』
ならおまえは延々意味もない話しをききたいのか?
『いえ…』
ならきまり。
「じゃぁ、今から表彰式だからさ。母さんたちもくる?」
「え?でも場違いじゃぁ…」
「何いってんだよ。母親なんだし、それにアカリだって幼馴染だから十分関係者だろ?
…あれ?あ、塔矢のおじさん!きてたんだ!」
ふと、そんな会話をしているとその視線の先にうつる行洋の姿。
「お父さん!?」
「げっ!ほんまもんの塔矢名人やっ!?」
そんな行洋に気づいて思わず叫ぶアキラとおもいっきり固まる社の姿が目にとまる。
「んじゃ、アカリ。母さん。またあとで。あ、何だったら部屋から荷物とってきといてくれないかな~?」
それだとすぐにおさらばできる。
「はぁ~…あんたらしいわ。…部屋はどこなわけ?」
「えっと~……」
とりあえず、溜息をつく美津子にルーム番号を教えておく。
おそらく母は文句をいいつつも荷物を部屋からとってきてくれるだろう。
そういえば、碁盤がそのまま自分の部屋に二個おいたままのような気もしなくもないが。
まあ、それはあとからホテルの人が片づけそうである。
「あ、塔矢くん。おつかれさま。えっと、ヒカル。この人が塔矢君のお父さん?」
「うん。そういやアカリ初めてだっけ?」
「うん」
母親がヒカルから部屋をきいてとりあえずフロントのほうに向かったがゆえに一人残されるアカリ。
「はじめまして。ヒカルの幼馴染の藤崎朱里といいます」
とりあえずぺこりと頭をさげてごあいさつ。
『…行洋殿……』
佐為……
佐為がつぶやくその名前にすべての想いが込められているように感じるのはおそらく気のせいではないだろう。
だけども、あのとき。
あのとき行洋と対局させたために佐為は消えてしまった。
それがヒカルの心の中に大きく傷となって残っている。
もし、またそのためだけに現世にもどってきているのならば?
それでまた佐為がきえたら?
ともおもうが、もし、たったの数日のみしか滞在を許されていないのであれば…
佐為にまたアキラの父親と打たせてやらねばきっと一生後悔する。
「おじさん。いつ中国からもどったの?」
「昨日の夜にね。アキラ。それに進藤君、それに社君、だったね。お疲れさま」
「は、はいっ!」
ひゃ~!!
あの塔矢先生に声かけられてもうたぁぁ!
そんなことを内心思い、半ば社はほぼ舞い上がり中。
「そうだ。せっかくだし。先生も表彰式でてくださいよ~。先生がでたらもりあがりますよ~」
「倉田君。それはもしかして自分が挨拶するのが面倒だから私におしつけてないかな?」
「あははは。でも先生が話しされてたら俺のほうは後々のミーティングでも食事に専念できますしっ!」
そこでぐっと力をこめていいきることだろうか?
おもわずヒカルがそんなことを思ってしまうのは仕方がない。
絶対に。
「あ。そうだ。倉田さん。俺、塔矢もだけど明日対局はいってるんだけど。
表彰式おわったらとっととかえっちゃだめかなぁ?
母さんもきてるし、おれ、明後日精密検査のために病院いかないといけないからあまり疲れることしたくないし」
「精密検査?そっか。去年のこともあるしな。たしかに。つかれただろうしな。お前も。
まあ、先生次第かな?先生がいればお前ら二人くらいいなくても誰もきにしないだろうし」
それはそれでどうかともおもうが。
「あ、あの?」
何だか二人、という言葉をきき嫌な予感がするのは社の気のせいであろうか?
「まあ、たしかに。二人ともそういえば名人戦、本因坊戦の三次予選だったかな?」
一応手合いの日は欠かさず忘れずチェックしているのが彼らしい。
「まあ、たしかに。どうでもいいことで疲れを残すのはよくないな。大事な一局だ」
「でしょ?というわけで、塔矢はどうする?
お前も一緒にとんずら…もとい、明日の対局に供えて用事すんだらとっととかえるか?」
今、何か微妙にヒカルの本音が垣間見える言い回しであったような気がしなくもない。
「いや、ちょいまて!おまえら二人おらんよなったらオレは!?」
「社。お前もこういったばになれとくのにちょうどいいぞ~!どうもお前、カメラ慣れしてないみたいだしな!」
「って、倉田さんもんなこといきなりいわれても!」
しかも二敗の自分が表だってそういうのを受けれといわれても素直にはい、そうですか。
とは言いにくい。
「いや、オレも明日は高校ありますよってにっ!」
何しろ明日は普通の平日の金曜日なのである。
ゆえにちゃんと授業はある。
二敗もしてしまったのでかなりいきたくないのは山々だが、こればかりはどうしようもない。
「何だ何だ。日本チーム。付き合いわるいぞ~」
ふっ。
そんな彼らのやり取りをききつつふっと笑みを浮かべ、
「では、明たちの代わりに私が出向きましょう。こういうときでないと親の役目はたせませんしね。
最近では明をほっぽりだして海外にばかりに私もでむいていますし」
「お父さん、でもお父さんにも用事が…」
くしゃっ。
「明。明子も来てる。何かエステと露天風呂にいくとかいってたからロビーでまってるとおもうから。
あとから明子とともに帰りなさい。明日も大事な対局があるのだろう?」
あれだけの碁をうって疲れていないはずがない。
そんなアキラの戸惑いの声をききつつも、ぽんっとアキラの頭に手をのせていいきる行洋。
「やりっ!おじさん、はなせるっ!じゃ、塔矢。ふたりでぬけよ~ぜっ!」
「…いいのかなぁ?」
「ちょいまて!オレもぬけるからなっ!一人であんなややこしいのにつきあわされてたまるかっ!」
それでなくても昨夜も二人がいなかったせいでかなり大変な目にあったばかり。
あんな目にあうのはもうごめん、である。
「でも、ひかる。いいの?」
そんな会話を横でききつつも思わずおもいっきり第三者であるがゆえに至極まともな問いかけをしているアカリ。
「いいんだよ。よくわからないおえらいさんとかの長話とかきいてたら気分わるくなるよ」
「…まあ、君の場合はその長い演説のさなかにねちゃいそうだよね…
それがもしテレビ放送でれされたら、日本のイメージがかなり悪くなるから臨機応変といえるのかな?」
実際、ヒカルならばやりかねない。
ゆえにこそのアキラのつっこみ。
「んじゃぁ、アカリ。またあとでな。一緒にかえろうぜ」
「あ、う、うんっ!」
そんな会話をしていると係りのものがなかなかこない選手たちを迎えにくる。
『で?ヒカル?アカリちゃんとは何か進展あったんですか?』
・・・・・・ずるっ!
「進藤!?大丈夫?」
「おまえ、何なにもないところでこけてんねん?」
そんなヒカルとアカリのやり取りをみつつも、にこっとわらってさくっと爆弾質問をしてきている佐為。
いきなりそんなことをいわれればおもわずこけそうになるのは仕方がない。
「へ…へ~き」
って何お前いきなり関係ないこときいてきてるんだよ!?
『関係なくないですよ?私もきになってたんですし。どうみてもアカリちゃんとヒカルは相思相愛なのに。
そもそもですね。ヒカル。平安の世では小さなころからすでにお輿入れとかは当たり前で…』
今は、今!
ったく、おせっかいなところもそのままだよな。
ま、お前らしいけど。
はたからみればいきなりがくっと体が崩れ落ちたようにみえなくもない。
ゆえにこそ去年のことを知っている存在は心配してしまう。
それはアキラや倉田とて同じこと。
「ま、あれだけ集中した一局うったんだ。お前、今日はゆっくりやすんだほうがいいな」
どちらにしても未成年の彼らを取材の渦にまきこむわけにはいかないのも事実。
つまりは団長をひきうけた自分がすべての取材をうける覚悟はすでに…できている。
「ふ~。つかれた~」
「でも、いいのかな~?」
『ですよね~……』
そもそも表彰式がすんだのち、それぞれの役目がおわった。
とばかりに、さっさと退出した日本メンバー。
その理由は明日もまた対局があることと、そしてまた一人は明日も学校があることから帰らなければならないこと。
ということからも、ジュニア大会という言葉がいまさらながらに重みをましてくる。
まあ、対局のほうは十八以下の子供の大会という言葉に当てはまらないのではあるが……
アカリと佐為のつぶやきは至極当然といえば当然であろう。
とりあえず、社も明日学校があるから、というので荷物をまとめて駅にとむかった。
いつか関西のほうによることがあればたちよって顔をみせてくれ。
と言い残し。
アキラのほうは明子とともに先にひとまず戻るらしい。
ちなみに行洋はやはりああいった場に顔をだしたが最後。
どうやらかなり引っ張りだこになっている模様。
何だか楊海と深刻そうな話をしていたような気がするのが気にならなくもないが。
しかしまあ、子供をひきとめてもイメージがわるい。
逆に都合にあわせて融通をきかせる。
というほうが主催者側としてもイメージは外部にはよくとらえれられる。
ゆえに日本代表チームの三人が三人とも途中退席するのを許したのだが……
それはそこそこの大人の事情、というもの。
ちなみに、ヒカルたちは美津子の運転する車にと乗っている。
社を駅にまで送り、そのまま帰路にとついている最中。
後部座席に座っているのはヒカルとアカリ、そして佐為。
アキラも何かいいたそうだったけど。
あれから詳しい会話をすることなくさっさと帰る支度をしたのも事実。
たぶん、明日棋院でいろいろきかれるだろうな~。
という覚悟は一応はしてはいる。
「ヒカル。今日はあなたの好きなものでいいわよ?何がたべたい?夕食?」
「え。ん~と、じゃ、ラーメンっ!」
「ヒカル。それ、お祝になってないんじゃない?」
即答するヒカルのセリフに思わず突っ込みをいれるアカリであるが。
「そういえば、ヒカル。このパンフレットに賞金がかかれてるけど、この賞金ってどうなるの?」
たしかに北斗杯ノパンフレットには一位、二位、三位までの賞金額までもが記載されている。
「?国際大会でしかも団体戦だから国にはいるんじゃねぇのか?」
ヒカルもまたその仕組みを知らずに大会に参加しているのが丸わかり。
まあそれはヒカルらしい、といえばヒカルらしいのだが。
「そんなものなのかな?」
「じゃないのか?だって主催者がホテル代とかだしてんだし。それでチャラだろ?」
…違うと思うのは私の気のせいかしら?
そんな二人の会話をききつつも美津子ですら思わずそんなことを思ってしまう。
「…そういえば、ヒカルの通帳。まったく記入してなかったわ。明日にでも記入しにいっとくわね」
考えてみれば作成しっぱなしで美津子はまったく通帳記入をまったくしていない。
このたびの確定申告は塔矢邸がヒカルのものも一緒にしてくれる。
というので佐為の喪失からあまり立ち直れていないヒカルは素直にお願いしたのだが。
おそらくそのとき預けた通帳が記入されているていどであろう。
何しろヒカルは貯金を下ろす必要性がまったくないのでカードもそのまま預けっぱなし。
めったとつかうことなどない。
「まあ、お寿司とじゃあ、ラーメンでも出前とりましょうか?」
「うん。あ、母さん、もどったらちょっと出かけてきてもいいかな?何か甘いものたべたいし」
正確にいえば佐為にたべさせたい。
このたびはどうやら味もしっかりと以前とくらべはっきりと感じるらしい。
そう昨日聞かされていればなおさらにたべさせたくなってくる。
「じゃあ、帰りにケーキ屋さんにでもよりましょうか」
「うん。お願い。でもさ。夜は自分の部屋でたべるから。明日に供えて打ちたいしさ」
「ヒカル。そういえば、明日は何の手合いなの?」
「本因坊戦、第三次予選。あと少しでリーグ入り!本因坊戦だけは落としたくないんだ」
それは佐為が消えたときにヒカルが密に決意したこと。
しかも今、佐為がもどってきているとなればここはやはり佐為に以前いったように打たせてやりたい。
…明日まで、佐為がいるかどうかという不安はあるにしろ。
…なくなった人は仏教などにおいては四十九日までは現世にとどまる。という。
そしてお盆の期間は迎え日と送り火、というものがある。
それでも命日に戻った霊がいつまでとどまるのか、というようなどこにも資料はない。
『ヒカル。あいかわらずラーメン好きですよねぇ。でもわかります。おいしそうでしたもんね。夜泣きそば』
…そういえば、お前よく虎次郎と夜泣きそばよってたとかいってたな。
『ええ。私はたべることはできませんでしたけどね。虎次郎も対局中何も口になかなかしなくて。
とにかく何かたべないと!とせっつかしてたら手軽にたべられる屋台によく……』
おそらく、そんな本因坊秀策こと虎次郎の実情を知っているのは佐為だけであろうけども。
それらが資料としてのこっていれば人々は何とおもったかは…おしてしるべし。
「ラーメンとお寿司か。何かヒカルらしい組み合わせ」
「わるかったなぁ!」
しばしそんなじゃれあいともいえるような会話をしつつも、ヒカルたちは美津子の運転する車で帰路にとついてゆく。
「は~……何だかな~」
全力をつくしたが、負けは負け。
きっとクラスメートたちからはバカにされるであろう。
そもそも囲碁のことなんて何もわかっていないクラスメートたちである。
このたびの社の選手決定においても、ただ、国際大会だ、というだけで盛り上がったにすぎない。
しかも彼らは幾度も新聞やニュースやテレビなどで聞きおぼえのある塔矢明、という人物だけを視ていたにすぎない。
社君でもそんなのに参加できるんだったら自分も国際大会に参加できるね。
とか何もしらない生徒たちはいっていた。
彼がどれほど努力をしてきていたのか同級生たちは知らない。
しろうともしない。
ただ、うわべの結果しかみない子供たち。
それでも持ち前のその顔がどちらかといえば怖い分野にはいるせいかぎろりと睨めば口を閉ざすが。
しかしそれでも前にすすんでゆくしかない。
関西には囲碁に寛容な高校があるわけではない。
ヒカルたちの通う高校のように囲碁に関して深くかかわり寛容な処置をほどこしている学校のほうがめずらしい。
結果的にはたしかに自分が所属して参加した日本チームの優勝。
だが、個人的にかんがえれば、塔矢明は二勝、進藤光は二勝、たいして自分、社清春は二敗、である。
関西棋院の中では自分はかなり有望だ、やれ神童だ、ともいわれていた。
しかし、世界は広い。
自分より小さな子供のあのチャオを始めとし。
同い年だというのに海外の棋士を相手にどうどうと勝ちを収めるものもいる。
社とて自分がまだまだだ、と自覚している。
ゆえにひび精進を重ねているのだから。
「ま、気弱に考えてもしゃ~ないかっ!」
とにかく高校を卒業すること。
それが絶対条件でプロにさせてもらったのである。
家族に認められなければ意味がない。
それに何よりこの合宿で進藤光より親の説得材料を一つゲットした。
親はいつも平凡なサラリーマンに、といっていたが。
このご時世、サラリーマンほど危険な就職はないといっても過言でない。
アメリカの市場もかなりあやしく、サプラ…何とかという彼にもよくわからない問題で今や大混乱。
日本もいまだに不景気のまっただなか。
求人倍率が一人につき一つなく常に0%をきっているこのご時世。
格差も叫ばれるこの時代において、無事な職業といえばたしかに彼のいうとおり、
公務員、というくらいしかないであろう。
その絶対安心とおもわれていた公務員ですらついこの間、郵政が民営化してしまった。
日々、世界の情勢はかわっていっている。
また、プロとしてやっていきたくても力がおよばずにあきらめる人たちも多々といる。
そのことを社は師匠にきいて知っている。
だからこそ、試したい。
自分の力がどこまで世界に通用するのか、を。
新幹線にゆられながらそんなことをふとおもう。
どちらにしろ、もどったらまずは棋院に顔をだしそれから気がおもいが自宅へかえらなければならない。
おそらく、まったくもってテレビも何もみなかったであろう、家族のもとへ。
「明さん?」
ヒカルに聞きたいことがあったが明子とて行洋の関係者につかまってしまい声をかけられなかった。
ちらりと視えた。
たしかにヒカルの隣に以前よくみていたまばゆき光。
このたびはよくよく視ないとわからないほどに、さらにその光すら隠れているような感じをうけた。
すなわち、もう他の位の高い霊と変わり映えしていない、ということをそれは指し示しているような気がひしひしとする。
それが佐為なのかどうかは明子にもぱっとみただけではわからなかった。
しかし、一緒にタクシーにのっているアキラの様子がどこかおかしい。
ゆえにこその問いかけ。
一人で考えてみればいろいろと不自然なことばかり。
というかあの服装。
しかも千年云々といっていた。
ということはつまりはそのまま信じるとするならばsaiは…
フジワラノサイ、となのったあの華麗なる人は、つまりは千年前の碁打ちであり…
記録にものこっていないうち手、ということになる。
まあ、千年も昔ならば記録がのこっていなくても不思議ではないが。
鳥帽子とかもきにはなるが、あれが正装という形ならばそれも納得はゆく。
何となく雰囲気的に一瞬かの人を始めて視たとき思い浮かんだのは、真夜中の月。
そこに静かにありながら、誰をも照らし道を指し示すような感覚。
お母さんは知っているんだろうか?
しかし、第三者がいるところで聞けるような内容ではない。
「お父さん、大丈夫かなぁ?」
しかも、韓国、中国の関係者がたしか打ち上げには集まってくるとかいっていた。
以前も付き合いなどで大変だったのを知っているがゆえにとりあえず二番目に気になることをつぶやくアキラ。
「でも。珍しいわね。あの人が打ち上げ会にまで顔をだす、なんて。
あの人、北斗杯見終わったらすぐに台湾にいくんだ~とかいってたのに」
「…韓国、中国の次は台湾…ですか。お父さん…何だかほんとおいてかれたなぁ~……」
父は、かわった。
引退してから。
今まではどっしりかまえているイメージがあったが今はちがう。
自ら動いて世界に活気というかさざ波をおもいっきり与えている。
実際に彼が動くことによりニュースにもなり、囲碁の知名度もだんだんと上がってきているこの一年。
「明さんはその後かわりないの?」
「え。はい」
「そろそろ私も家にいようかな?とおもってるから少しまってね」
「お母さん?」
「何となく、勘なんだけど。家にいたほうがいい、とおもうのよね。今まではあの人と一緒に海外とびまわってたけど」
おそらくこれから何か、がおこる。
世界を巻き込んで。
それは予感。
とりあえず夫には守りのものをつけていれば問題ないはずである。
まあ、一年もほぼアキラは一人暮らし状態であったことも否めないが。
どうも母のいうことはよくわからなくて、だけどもいつも当たっている。
そんな母のもとで育っていたがゆえに、ヒカルのそばにいたあの彼にもさほど驚かなかったのかもしれない。
世の中には、科学的に証明できないことがある。
と一応しっていたアキラだこそ臨機応変がきいたのであろう。
しばし、塔矢母子はそんな会話をしつつも帰路にとついてゆく。
「しかし、日本の代表チームの子どもたちが全員戻ってしまったのは残念ですが。
打ち上げ会も盛り上がりをみせており何よりです」
何しろ頑張った子供よりも、世界の塔矢行洋が参加する。
というので会場は異様な盛り上がりをみせている。
ある意味、行洋はりっぱに目くらましの役目をはたしている、といえるであろう。
この場にいる人の誰もが一度は塔矢行洋の名前くらいはきいたことがある人ばかり。
しらなかった受付をやっていた女性が珍しすぎるほど。
「しかし、先生。今度は中国にいかれていたのですって?」
大盤解説をしていた渡辺がそんな行洋にと問いかけてくる。
「ええ。本当は今日も対局だけみてもどってそのまま次の台湾にいこうとおもったのですがね。
まあ、アキラも進藤君も明日も手合いがありますし。最近は父親らしいこと何もしてませんからね」
「はは。あいかわらず子煩悩ですな。塔矢先生。しかし先生、引退されてもお元気ですね」
普通引退すればどの棋戦にも参加したりしないのだが、目の前のこの塔矢行洋は違う。
日本の棋士、というしがらみを捨てただけでその心は依然棋士のまま。
海外の棋戦や大会にも積極的にと参加しており、さらには参加資格を得るためにアマの打診をしたほどである。
それほどまでの情熱をもっていてどうして引退したのか?
という疑念はつきないが。
まあ、たしかに。
日本の囲碁は今だに閉鎖的なところもあるがゆえに形にとわわれているだけでは、とおもったのかもしれない。
実際に行洋が海外で活躍しているのをうけて、名人戦などにおいてはフリー参加にしてはどうか?
という棋院の重役会議からもあがっているのが実情である。
今の日本棋院の規約では、関西、もしくは日本棋院の棋士でなければほとんどの棋戦はうけられない。
しかし、アマ、プロとわず解放した棋戦にすることにより日本に塔矢行洋あり。
とみせつけることも可能といえば可能のはず。
それが上の意見。
「しかし。うちのものが先生に対して失礼をしたようで。囲碁に無知な私でも塔矢先生の名前くらいはしっておりましたのに」
「だって。室長~…」
そういわれても文句をいうよりほかにない。
そもそも、○冠タイトルホルダーとかいわれてもまったく意味がわからないのであればなおさらに。
てっきり、政治家、もしくはどこかの俳優か何かだとおもっていたのも事実である。
「先生。食べてますか~」
「倉田くん。君はあいかわらず、だねぇ」
「はは。でもおいしいですよ。さすが北斗通信システム主催のパーティーですよ。これ」
どこか褒めるところが絶対にちがっている。
行洋のまわりには常に数十名がたむろするようにかたまっておりなかなか話すこともできない状況。
そもそも、塔矢行洋の棋士のレベルは世界一、といわれていた人物である。
そんな彼と一言でも話して話しのタネにしたい、とおもう投資家たちも多々といる。
「塔矢先生。どうぞ」
「すいません。私は前に発作で倒れてお酒は極力やめているのですよ」
「おやまぁ」
勧められたお酒をやんわりと断る。
それでも彼に無理に進めようとしないのは、やはり相手が塔矢行洋だからゆえ、であろう。
「こういう場ではついつい飲み過ぎたりしてしまいますからね」
たしかに場の空気にのまれてしまうという意味ではそのとおりかもしれない。
が、勧められたお酒をきっぱりとことわれる意思をもった人間がこの世界に何人いるか。
といわれればそれはおそらくごくわずか、であろう。
「それに、酔い潰れたら明日、台湾にいけなくなってしまいますよ」
「おお。中国の次は台湾ですか。引退してからのほうがお忙しいのではないのですか?」
「いえ、好きなことをしているだけですから。気が楽ですよ」
こういった会話を交わすのはなれている。
それこそもう何十年来つきあってきたのだから。
楊海とどうにか話しをしたものの、彼はやはり誰にもいう気はない、ということと。
おそらく進藤君も気づいてないのでしょうけどねぇ。
いったでしょう?
うちの家計は導師の力をもっている、と、それでビン、ときましてね。
そうとしかいわなかったが、妻のこともありそれでいくばくかの納得はいった。
きけば、かれ楊海はその棋譜のデータなどをもとに最強に近い囲碁のプログラムを作成しているらしい。
興味があるのでぜひともに試作品ができたらおくってくれ、とはたのんだが。
先生、ゲームなんてしたことあるんですか?
といわれて言葉につまったのも事実である。
そういわれてふと気付いた。
明も進藤君と出会う前までは囲碁ばかりで子供らしい遊びの一つ。
今の時代ではゲームの一つもしたことがなかったのだ、ということに。
まあ、ゲームあたりは弟子の芦原君がものすごく詳しいらしいからどうにかなるかな?
といったら楊海は笑っていたが。
世界の塔矢行洋をまじえた北斗杯の打ち上げ会は異様なまでの盛り上がりをみせ、静かに時刻は更けてゆく――
「…なあ、佐為。お前、今日だけ、ということもありえるのか?」
『それはたぶん、ない。とおもうのですが…』
「たぶん…ね。つまり、わからないってわけか……」
『何だか今回、私今までと自分の感じがまったく違ってますからねぇ。
何しろヒカルと意識を共有していた前の状況でもないですし。自由行動もききますし。
でも心と心では前と同じく会話は可能ですし。でもそれもヒカルのみにつけている私の石つながりかもしれませんし』
ヒカルからとわれても、佐為とて説明の仕様がない。
すでに時間は夜の九時を回っている。
午前0時で解ける魔法なのか、あるいは……
「…明日、もこれからもいるようなら、前の約束。
俺としてはお前に果たさせてほしいのはあるけど。お前はどうおもう?」
あのとき、決意していたのに。
あのときはまさか佐為がいなくなるなんて夢にもおもっていなかった。
佐為の影を背負う覚悟はできていたのに。
ヒカルのいいたいことは佐為にもその意味はすぐに理解でき思わず目を丸くする。
『申し出はものすっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉくありがたいですけど。
私としてはやはり自分の手で石をもてるならばそうしたいですけど。
しかし、ヒカルはそれだと困るのでは?』
「おれはもう、前。お前の影を負うことは覚悟きめてたしな~。
だけどまあ桑原の爺ちゃんとはたしかに一度くらいは本気で戦ってみたいのはあるけどな。
でもさすがに人前でかってにふよふよお前が石もつのはなし、な?
下手したら相手が心臓麻痺おこすかもしれないし」
その危険性もあることだけはよくよく認識していないといけないであろう。
碁盤をかこみつつもパチパチうちあいながらも会話する。
対局だけに本来ならば互いに集中するのだが、少しでも何か話していないと不安でもある。
『心臓麻痺?』
「だってふつうおどろくだろ?誰もいないのにいきなりものがうかんだりしたら」
『都ではよくありましたけどねぇ。陰陽師どのたちが式神つかって』
「・・・・ど~いう世界だよ。ほんきで。平安時代って……」
どうも歴史認識で知っている世界とは果てしなく異なるような気がするのはヒカルの気のせいではないであろう。
それは佐為とくらして昔のことをきけばきくほどになぞはふかまっていたりする。
まあ、そんなことを発表しても何をばかなことを、で一笑にふせられるであろうが。
『今の世が私からすれば不思議ですよ。平安の世であれ、江戸の世であれ。
人々は目にみえない存在を信じていましたが。今の世はそれがないようですしね』
「まあな。視える人は排除する傾向があったりするしな。しかし…わからない、というのは何だかな……」
『大丈夫ですよ。たぶん逝く直前くらいにはわたしにもわかりますし』
「直前じゃ意味ないだろ!直前じゃ!…しかし…う~ん。佐為。ちょっとタンマ、な」
『ヒカル?』
もしも、もしも本日のみでいなくなってしまうのであれば。
そしてまた、塔矢行洋はまた明日から台湾にいくとかいっていた。
チャンスは…今、しかないかもしれない。
悔やむ結果になるかもしれない。
それでも、対局させないままにまた逝かしてしまうのはヒカルとしても心苦しい。
「え~と…おばさん、まだおきてるかな?」
いいつつも、戸惑い気味に携帯を開く。
『ヒカル?何を?』
「だって、お前、塔矢のおじさんと打ちたかったんだろ?あのとき、お前の声や表情みてて痛いほどわかったもん。
もし、時間限定だったら…俺、また後悔だけは…したくない。お前にまた何もしてやれないままに。って」
あのときも必至でいろいろと試みたが何もできないままに佐為は消えてしまった。
同じ後悔するならば佐為に少しでも喜んでほしい。
それはヒカルの本音である。
ゆえにこそ、携帯に手をかけた。
プルル…
「はい。あら、進藤君?どうしたの?こんな夜に。…え?」
「佐為、が、今、もどってきています」
完結なヒカルの言葉。
その言葉にやはりというような表情を浮かべる明子。
「そう。…行洋さん、ね?」
こちらから何もいわずにわかってくれる相手がいるということはとてもうれしいこと。
ヒカルの言葉からいつまた佐為が消えてしまうかもしれない、という不安と恐れは感じ取れる。
それでも、なお、彼の望みを果たそうとしている。
何も行動せずに後悔するよりも行動して後悔するほうがいい。
そう考えた末にこんな時間になったのであろうことも用意に推測がつく。
「まだあの人はもどってきてないけど……まってね。ホテルに連絡してみるわ。
…今日中、のほうがいいのよね?」
「はい。佐為も自分がいつまでいられるのかわからないみたいなんです。
もしかしたら普通の命日のように数日のみもどってきているのかもしれませんし……
それともお盆のように四日間だけ、なのかもしれない。わからないんです。何もかも……」
わからないから不安になる。
不安になるから口数も多くなる。
少しでも佐為の存在を確認していたいから。
「…ホテルに連絡して、行洋さんのほうから進藤君のほうに連絡いれさせるわ。携帯のほうがいいわね?」
「はい。おねがいします」
「わかったわ。じゃぁ。…佐為さん、今もそこにいるの?」
「はい」
『?ヒカル?明子殿ですか?』
ヒカルの口調をきけばヒカルがいつ自分が消えてしまうかもしれないという不安をずっともっている。
それが痛いほどつたわってくる。
たったの一年、されど一年。
ヒカルの夢枕にたってからもだいぶたった。
「…佐為さんによろしくね」
おそらくもう、あの裏ワザをつかっても明子は佐為の姿を目視することができない。
そう直感的に理解している。
神格の高い霊というものは本来、その姿をきちんと認識できることなどありえないのだ。
消えるまでの佐為が明子の裏ワザ使用で視えたこと自体がそもそも奇跡的なことだと明子もおもったほど。
電話をきり、互いに同時に息をつく明子とヒカル。
『ヒカル?あの…いったい?』
「今。おじさんに連絡いれてもらってる。…おじさんが都合がつけば。佐為。
夜中すぎるけど、お前にネットでだけど対局をさせてやれる。…どうする?」
『ヒカ…』
「だって、お前だってせっかくもどってきたのにおじさんと打てないまま。
もしまた逝くことになったりしたら、心残りありまくりだろ?俺もきっと後悔する。
自分のことばかり優先してお前のことをどうしてもっと…って」
そういうヒカルの表情は、とても痛々しくて、ずっと心に佐為との別れをしまいこんでいたことが痛いほどわかる。
「まあ、おじさんがホテルらしいからどうなるか、わかんないけど・・・・・・」
それが危惧されるところ、ではある。
「先生」
「うん?…わかった。失礼。妻から電話がはいっているようですので」
夜も更けてきたというのにいまだに打ち上げはつづいている。
一応、この会場の貸し切り時間は十一時までになっているらしい。
ゆえに十時半ごろに主催者側としてはきりあげるつもりらしいが。
行洋はいくらいっても機械に疎いから、という理由で携帯電話をもたない。
まあ、今のご時世、もっていなくても誰かに借りれば事足りるといえばそれまで、だが。
ホテルのものから連絡をうけてフロントへとむかう。
「明子。何かあったのか?」
妻がこうして電話をかけてくるのはかなり珍しい。
何か急ぎのようでなければ決してない。
もしかしたら久しぶりに家にかえったら家に何かあったのだろうか?
そんなことをもふとおもうが、しかし行洋達とて一度家にもどりこのホテルにきた。
そんな痕跡などは見当たらなかったが…
「あなた。進藤君のところに電話してくれる?佐為さんのことで話しがあるそうだから」
どくっん。
「あきこ!?」
おもわず心臓が高鳴る音をたしかに自分でも自覚した。
「進藤君の携帯番号、あなた覚えてるかしら?」
「いや、ちょっとまて、明子、いったい…!?」
「――今、進藤君から電話、があってね。あなたと打たせないとまた後悔することになるから。って」
つまり、それが意味することは……
「彼は…もどって…きている…のか!?」
思わず声がうわずってしまう。
ずっと、いつかきっともどってきてまた打ちあえる日を夢見ていた。
「詳しいことはわからないけど。聞けるようなことでもないしね。進藤君の声からしても」
おそらく彼は迷っている。
迷いながらもそれでも戻ってきた彼が望むであろう対局をあのときのように仲介しようとしている。
この対局でまた消えてしまうかもしれない、ともおもっているだろう。
しかし対局させなくても今回もどってきたのがちょうど逝った一年目、ということもある。
だから、迷っている。
命日に死人が現世に一時でも戻ることはよくあるが、だがその期間はとても短いものなのだから――
「番号を、いうわね」
「ちょっとまて、明子。かくもの…」
「どうぞ。先生」
ふとみればいつのまにか横には楊海が。
何かピンとくるものがあった。
塔矢行洋先生に奥様からお電話がはいっています。
と係りのものがつたえにきたあのときに。
だから、あのあと、楊海もことわって会場をあけた。
「楊海君?…ああ、こっちのことだ。…たのむ」
なぜ彼がここにいるのかわからない。
が、ここは素直に好意をあまんじてうけることにする。
明子のいう電話番号を楊海がさしだしてきた紙にと書きなぐる。
そういえば、とおもう。
自分の手帳には進藤君の自宅の電話番号はあっても携帯電話をいれてなかった。
と。
「あとは、あなたの判断にまかせるわ。じゃあね」
いって切られる明子からの電話。
しばし、その番号をみつめつつも、目をつむり一息深呼吸。
進藤君から連絡があった、ということは、すなわちそれが意味していることは…
心臓がとてもどきどきする。
ちらり、とすばやく時計を確認する。
時刻はすでに十時近い。
「…君。今日、このホテルでインターネットができる部屋はあいているか?ランクはどの部屋でもいい」
時間が、おしい。
「先生。何なら俺の部屋きますか?一応インターネットは設備されてますよ?」
楊海の勘がただしければ、おそらく、今の電話は。
それゆえの彼の提案。
「楊海君?」
「電話も必要でしょ?俺のをつかってください」
いいつつも、すっと差し出される携帯電話。
彼の意図がよくわからない。
わからないが今はとにかく時間が一秒でもおしい。
ゆえに、
「ありがとう」
一言お礼をいい、携帯電話を手にして、ヒカルの電話番号をプッシュする。
…この電話で、待ち望んでいたあのものとの対局ができる。
そう、確信をこめて……
-第80話へー
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あとがきもどき:
薫:何だか今回支離滅裂?ま、いいのさvうん(よくないってば
それぞれの試合の後の断片みたいなのをとりいれてみましたのですv
さて、次回からやはりヒカルサイドに重点をしぼりますよvふふふふふ♪
何はともあれではまた次回にてv
さて、今回の小話をば♪
↓
五月、三日、四日の泊まりがけの指導碁の講習会。
「…こんなときに泊まりがけの仕事なんて……」
『ヒカル。いけませんよ?前から依頼をうけていた仕事を断るのは』
たしかにこの仕事はかなり以前から受けていたものであり佐為のいうことも一理ある。
とはいえ今は状況が違う。
佐為が、いなくなってしまう。
そう聞かされたのは、塔矢行洋に佐為がネットで勝ったのち。
翌日、家にもどった佐為はきちんとヒカルに向き直り、つげたのだ。
自分の時が、止まっていた時が動き出した…と。
そんな中で塔矢行洋の引退騒ぎ。
佐為が、いなくなる。
そうきかされ、気が動転し、もう囲碁どころでなくなったのも事実である。
佐為からみてもあまりに気の毒なほどにヒカルは狼狽し、憔悴しきっている。
棋院のほうには佐為にいわれてとりあえず連絡はいれている。
すでに受けている仕事は責任があるからどうにか出ますが、それ以外は…と。
大切な人が、しにかけている中で、囲碁をうてる気持ちにはなれません…
何よりもまともな精神で打てるはずもない。
佐為に打たせたとしてもきっとヒカルは泣きながら打ってしまうであろう。
今でも、事実半ば涙をどうにか気丈にこらえつつも指導碁の仕事をこなしている。
女の子、ということで棋院からも連絡があったのであろう。
ヒカルの部屋は他の女流棋士の桜野という人物と同室で。
それでもまだ中学生のヒカルのもとには物珍しさから男性たちがたむろしてきているのも事実である。
何しろヒカルはだまっていればかなりの美少女。
男というものはどうしてもかわいい女の子などにちょっかいをかけたくなるもの。
もっとも、たしかに座っているのはヒカルではあるが、
ヒカルはとにかく佐為が消えてしまう、ときいてからはずっと佐為にと打たせている。
もしかしたら打っていることによって佐為の時間がまたとまってくれるのではないか。
と少なからず期待しての行動。
それでも、佐為の中のすなどけいは止まることなく……
『ヒカル。ありがとう。たのしかった。あなたは私のぶんまで…』
「佐為っ!!!!!!!」
伸ばしたその手の先から淡い光の粒となりきえてゆく。
「い…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!!!!!」
?
「ヒカル?!どうしたの?」
いきなり聞こえてきた娘の悲鳴。
ゆえにあわてて部屋にと駆け上がる。
「お母さ…」
「ヒカルっ!!!!!」
目の前で失うつらさ。
何もできなかった自分。
母の顔をみたとたん、今まで抱いていた不安も何もかもすべてが一気にあふれ出た。
自分は何も、できないままに…佐為を、あの人を…けしてしまった…
その思いはヒカルの精神に多大なショックをあたえ、そのままその場に崩れ落ちる。
部屋には打ちかけの一局がその場にのこるのみ。
その場に崩れ落ちた娘をかろうじてあわてて抱き起こす。
真っ青な顔をして意識のない娘。
心配してといかけてみれば、何もいわずにただただその瞳に悲しみをたたえていた娘。
何があったのかはわからない。
だけども、そばにころがる携帯電話。
そして、どうみても誰もいない部屋。
倒れた娘の目からながれている涙。
とにかくこのままではどうにもならない。
医者にみせなければ。
そうはっときづき、あわてて母、美津子は救急車を呼びにゆく。
しばらくのち。
住宅街に救急車の音が響き渡ってゆく……
↑
たぶん、まだこれやってなかった、とおもうんだが?はて?
ちなみに、本来ならば五月、四、五の泊まりがけの指導碁イベントでしたが。
こちらの小話しはあえて三、四としております。
理由は、最後のいつかくらいはゆっくりと二人っきりにさせてあげたかった(こらこら
という理由からv
四日は佐為とともに秀策ゆかりの地めぐりにそのまま移動。
(指導碁イベントがちょうど広島という設定です)←因島の企画関連で
五月五日に倒れて救急車で運ばれるものの原因不明。
おそらく精神的なものであろう、と判断され数日様子をみたのちに家にとかえされます。
ちなみに、母も動転しまくってるのでとうぜん棋院になんて連絡はいってません(まて
何の異常もないので退院は早いですけどね(汗
今の病院さん、おそらく何の異常もないひとをいく日も入院はさせないとおもうのです。ペット数的にも。
ゆえに、しばらくぼ~と魂がぬけたようになってしまうヒカルなのです。
きちんとお別れをいわれても、できるだけのことをしまくっても救えなかった。
自分がいらない対局の橋渡しをしたせいで・・とずっと心に傷をおってるという感じで。
まあ、細かな設定はこのあたりにしてではまた次回にて~♪
しかし、この小話しだけで一つの連載量にそろそろいくな(苦笑
2008年10月2日(木)某日
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