まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回、日韓戦、完了ですv
対局風景がないのは私の囲碁の知識のなさではおかしなことになる。
と自覚しているがゆえに皆さんの創造におまかせすることにしております(まて
何はともあれいくのですv

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幾度みても対局中の空気の心地よいこと。
この空気はとてもここちよい。
この空気だけは今も昔もかわらないから。
都においても江戸においても…そして今の世においても。
それにしても、ヒカル。
よくここまで成長しましたね。
私がいない間にあなたもあなたなりに心が成長した証なのでしょうね。
…人は、わかれを経験することによりさらに成長することがある。
あのとき。
私は自分のふがいなさ、そして自らの命をたってしまった。
きちんと自ら勝って潔白を証明しなければならなかったのかもしれない。
虎次郎といたときはそういう思いになったことはないけども、ヒカルといてそのような思いを抱いた。
自ら命を絶つことは罪。
日々、誰かが命を落としているこの時代。
それがよくわかったから……
こうして死してなお、二度も現世に蘇ることのできたこの奇跡。
そしてまた、私のわがままをきいてくださったあのかた。
意図はともあれ、私はこうして今、再びヒカルのもとにいる。
彼の…ヒカルの成長を今後も見守るために……

星の道しるべ   ~終局、そして……~

カチャ。
パチっ。
碁盤に碁石が打ちつけられる音が響く。
ここの攻め合いは僕の勝ち。
これでこの一体の黒はつぶした。
だけど…変わりに厚みを持たれた上に左辺は生きられた。
勝ってはいる、いるがさっきの攻め合い…ただとらされただけなのか?
だけど、そっちがそのきならっ!
ぱしっ!
狭い場所だが勝算がないわけではない。
勝ってみせる。
生きてみせる!
そう、その自信は昨夜、ついた。
だからこそ…っ!…勝負だっ!!

「白、打ち過ぎだろ?コスミでいいんじゃないか?」
「いや、その前の黒がそもそも打ち過ぎだろ」
倉田の言葉にすかさずつっこみをいれている楊海。
どちらもどちら、というほうが正しいとおもえるのではあるが。
「難しいな…白黒、どううっていいのかわからない」
テソンとてどううっていいか悩む局面。
「しかし、ここの戦いで決着がつきますね」
たしかにここの戦いに決着がつけばおのずと勝敗は明らか。
「ふむ。明…進藤君にあてられたかな?力強い碁、になっている。いつも以上に。
  力勝負か。実に面白い」
いままで息子にはここまで力つよく攻める傾向があまり見られなかったので親としてもとてもうれしい。
「日本が勝つためには塔矢に負けてもらっちゃこまるんだよな~。社は…今ちょっと苦しそうか。
  進藤のほうはあいかわらず突き進んでるな~」
しかも勝っているのに白を切断にはいった勝負手。
妥協など一切しない。
突き進む手。

つぅ……
背中に汗がつたってゆく。
相手の力をみたいがゆえに挑発したのにまさかこうなるとは夢にもおもっていなかった。
だけども、まだ終わっていない!
それは意地。
いってしまった言葉はとりけせない。
韓国棋院の電話にも勝てば発言の有無はあまりいわれなくなりますよ。
そういって電話を切った手前…ひっこめない。

何でこんなやつがいままで無名でいたんだ?
というそっちのほうがはるかに驚きではあるのだが。
「このままでいけば、コミをいれて進藤君の五目半勝ちだな」
たしかにこのままでいけばそうなるであろう。
そんな行洋のつぶやきに、
「つうか。進藤君。ネット棋士laitoとしていたときよりさらに育ってるし。
  塔矢といいいつのまにこんな棋士たちが日本にそだっていたんだ?まったく」
塔矢明のほうは塔矢行洋が二歳のころから碁を教えている。
という事実はすでに世界も承知していた。
ゆえにそこそこの強さであることは誰もが認識していたが。
進藤光の名前はどの国にすら知られていなかった。
楊海とて伊角からきいて初めて知ったくらいなのだから。
そんな楊海のつぶやきに、
「育ってた。というか進藤に関しては今、また育ってるんだよ。更に。高永夏への敵愾心のおかげでさ」
進藤をやはり大将にもってきて正解だったな。
そんなことすらおもえるばけぶりである。
「?敵愾心?」
倉田の言葉に首をかしげざるをえない行洋。
行洋はまだ永夏がレセプションの場で発言したことを知らない。
聞かされていない。
「高永夏が本因坊秀策の悪口をいったんです」
げっ!!
さらっという倉田の言葉に韓国側としてはあわてざるを得ない。
「ご、誤解!誤解なんですっ!」
ゆえにあわてて訂正をいれる。
が。
「?秀策の悪口?」
彼をよくいうひとはいれども悪口というのははっきりいってきかないが。
そもそも彼は人格においてもかなり評価されている人物である。
「秀策なんかたいしたことない。みたいなことをね。レセプション会場で。それで進藤がおこっちゃって」
・・・・・・・・・それは確かに怒るであろう。
もし、自分のおもっている通り、あのsaiが秀策とかかわりある存在ならばなおさらに。
「で、ですから~!」
韓国側の通訳としてはどうにかして訂正したい。
「ふぅ。子供の喧嘩。ですよ。塔矢先生。詳しくはしりませんけど。
  しかし、あのときの永夏君。わざと進藤君を怒らせたくていっているようでしたしね」
そのせいで自分の国は大変な目にあったのだが。
もっとも、彼だけでなく会場にいた人々が全員理解不能ないきなり聞こえてきた声に戸惑ったりもしたのだが。
楊海はそのあたりのコトは家庭の事情もあり認識が深いがゆえにあまり驚いていない。
「そ、そう!そうなんですっ!」
楊海の言葉に激しく同意する。
「?相勲サンフンさん?」
何やらおもいっきり挙動不審ともとれるそんな通訳である相勲の言葉に戸惑いの声をあげる別の棋士。
「永夏はですね!もし今、本因坊秀策が現代に現れたとしたら、
  今いる棋士たちにひけをとらないどころかものの半年で世界のトップにたつといっていますっ!」
それは事実なのだが。
「今さら繕おうったってそうはいくかっ!」
そんな彼の言葉をきいて思わず口を挟んでいる古瀬村。
というか未だに彼は自分のせいだ、とはわかっていない。
日日を間違えた、とは夢にもおもっていないのだから。
通訳が容易されていなかったのは韓国の落ち度。
そうおもっているのも事実である。
しかも、高々に高永夏は各国の人々の前でそのように発言した。
という事実はとりけせない。
ゆえにこそ、通訳がカタコトだった、といわれても信じられないのも事実である。
「古瀬村さん!もうやめてくださいっ!」
なおもいいつのろうとする古瀬村の口をあわててふさぐ同部所の職員。
「それは。私も以前、言われたことがある。
  もしこの世に秀策がよみがえったら。私とどちらが強いか弟子たちが話していた」
現実に負けたが。
実際に。
「ははは。存在しない人間との力比べ、ですか」
「存在…しない?…いや……」
(これってあるいみ本因坊戦よね。)
(年期が違うもの。)
(だって時代を超えた対局ですものね♡)
(…佐為は…ネット碁しかできないから……)
明子やヒカルのいった言葉が行洋の中にと蘇る。
よくよく考えてみればいくつもヒントはあったのだ。
ひとつの糸をつなぐための。
そう、あのとき、妻・明子ははっきりと【本因坊戦】だといいきったのだから。
その意味することは……
「……いや。まさにそのような人物がいる。そうだ。まさに……」
もしも、saiが自分のおもっているとおり…あの本因坊秀策本人ならばうなづける。
しかし、それでも名前が違うのがきにかかっている。
彼のどの時代における名前においても【サイ】という名は使っていないのだから。
「ああ!いけない!そこで塔矢にトバれては…いきられてそこまでだ!」
アンテソンが紅葉のつぶやき途中で思わず叫ぶ。
どうやら対局に何やら変化があったらしい。
「だめだ!割り込んでももうおそい!」
みれば副将戦が決着がつきそうである。
「お!塔矢のほうだな!よっしゃ!形にしたじゃん!いきのびたなっ!」
これでもう勝負はきまった。
「よっし!先はみえた!イルファンが投了するだろう。
  社の三将戦。これも終局が近い。社は残念ながら一目半ほとの負けだな。
  あとは進藤!どんだけ差をつけてくれるかたのしみだ!」
いいつつも、がたんと席をたちあがり、行洋に一礼してそのままだっと駈け出す倉田。
「倉田さん?」
「対局室にいくきですよ!」
その行動の意味をさとり倉田につづいてテソンもかけだす。
「テソンさんっ!」
サンフンがそんな彼らに思わず叫ぶが、彼の言葉に立ち止まる彼らではない。
バタバタとそれぞれ行洋に一礼し部屋をかけだしてゆく男たち。
「古瀬村さん!僕たちも!」
「ああ!」
取材がまっている。
ゆえにこそ、出版部の彼らまた検討室をあとにする。
「え、えっと…楊海さん!?」
気付けばいつのまにか全員が対局場のほうにむかってしまい、残されているのは趙石チャオ・シィのみ。
ゆえに、その場にのこっている楊海に戸惑いつつも問いかける。
「いけよ。オレはモニターでみている」
どちらにしてもここにいてもみられるのであれば同じこと。
それに何より誰もいない場所で行洋に聞きたいこともある。
楊海の言葉を受けて一礼して彼もまた部屋を飛びだし対局場にとむかってゆく。
検討室に残されたのは塔矢行洋と楊海の二人のみ。
「さぁて。進藤君はどこまで力をみせてくれるか。しかし永夏もバカだねぇ。
  あおらなくてもいい、寝た獅子をおこしちまった。子供の喧嘩の軍配は目にみえてるな」
雉もなかずば撃たれまいに。
まさに日本のことわざどおりの結果、なのかもしれない。
「所で。先生。先ほど【まさに秀策がよみがえったような人物がいる】といわれましたね。
  それって…ネットのsaiのことですか?」
ずばっと誰もいなくなったのをうけて行洋に切りだす楊海。
この場に誰もいなくなったからこそいえること。
「…saiを…しっているのか?楊海君?」
「ボクの姉が導師の力をもっていましてねぇ。それでピンときたんですよ。
  当然、正体はしりません。ただ対局はネットで何度もみました。
  やはりsaiのことでしたか。去年の…ちょうど先月あたりですか?
  ちょうど春先にtoya koyoと対局しているのをみて驚きましたよ。ははは」
しかも持ち時間は八時間、である。
驚かないほうがどうかしている。
「そうか、君もみていたか。韓国のチャンウォンさんもあの一局を知っておられた」
「あの一局はちょっとどころかかなり噂になりましたしね。今もなお。
  しかもご丁寧に一柳先生が棋譜表を動画サイトにアップしてくださりましたし。
  それゆえに棋譜をみた棋士はかなりの数に上るでしょう。でも…そういえば、あれから現われませんね。sai」
それに進藤君のあのいいようも気にかかっている。
だからこその問いかけ。
おそらくこの目の前の塔矢行洋は知っている、とおもうから。
「強さだけを見せつけて、今だに正体は不明。秀策が蘇ったような、か。
  実は私もそうおもっている一人でしてね。あのsaiは…本当に秀策の亡霊だ、と」
きっぱりそういいきられ、多少とまどいつつ、
「楊海君。何もわたしはそんな……」
それは行洋ももしかしたら、とおもっている。
が、確証がない。
「そうですかね?」
これは一つの意地悪というかひっかけ。
「実際、塔矢行洋先生を打ち負かしているし。先生以外の棋士にも佐為は負けなしだ。ただものじゃありませんよ」
「…強さだけなら、たしかにそうだ」
「ネットから出てこれないのは、でてこられないから、ですよ。何せ亡霊、ですからね。生身がありませんし」
「…ネット碁しかうてない…か・・・」
肉体がない以上、誰かに代わりに打ってもらわなければならない。
が、その霊の姿が視えない以上、変わりにうっているものが打っていると誤解される。
はじめての対局のとき、塔矢明が、進藤光にたいしてそのように勘違いしたように。
「しかし。亡霊ならばもうこの世から消えてしまった可能性もありますね」
あの進藤君の言い回しはもう会えない過去けいのようにもとらえられた。
それにあの一瞬、たしかに感じた彼からさみしさともいえる表情。
それは、すなわち……
伊達に彼の家系は実は昔から導師の血筋を伝えているわけではない。
そのあたりの勘もまた楊海も生まれ持ってもっている。
もっとも、霊がみえるところまではいかないのだが……
何でも家族いわく、彼のそばからは霊が逃げる体質、であるらしいが。
「それは困る。私はもう一度。いや何度でも彼と打ちたい」
そのために引退までもした。
彼にまけず、誇れるように。
「はは。先生らしい、ですね。ただ一つ、疑問がのこるな。何のためにこの世に現れたんだろう?
  秀策が死んでもう百年以上たっているのに。なぜ、今ごろ?何かわれわれに伝えたいことがあったんでしょうか?」
あるいは…進藤君に……
彼の才能は稀有だ。
百年に一度、いや千年に一度あらわれるかどうかの、稀なる天才。
それはわかる。
これは勘でしかないが、彼はかつては囲碁にまったく興味がなかった、という。
そんな彼が囲碁を始めたのは、その亡霊がらみだ、と楊海の勘は告げている。
「おっと。先生にはつまらない話でしたか」
「何の為に今の世に現れたかって?それは私とうつためだよ」
そしてまた、進藤君に囲碁の道をゆかせるために、おそらく彼は現れたのだろう。
だがそれをいうわけにはいかない。
だから前者のみを口にする。
「見事なおこたえ。おっと…終局しますね」
モニターをみればどうやら副将戦は終局をむかえたらしい。

「…負けました」
よっしっ。
ぐっ。
おもわず膝に置いた手を握りしめる。
昨日のあの二面打ちのあの指摘はかなり痛いところを付かれたが自分の手の甘さもわかった。
……あんな人物に毎日のように教わってたんだったらそりゃ、常識しらなくても強くなるよ…進藤は……
勝ちを収めて余裕がうまれたがゆえにふとおもう。
姿からしてかなり昔の碁打ちであることはわかった。
そして現代の定石はおそらくネットで学んでいったのであろう。
かつて、和谷という人物がアマチュア大会で指摘していたように。
ならば今の囲碁界のことをヒカルが何もしらなくても当たり前ともいえる。
そもそも、棋力はすごくても彼に教えている師匠はどちらにしても現代の存在ではなかったのだから……
秀策とのかかわりは今をもってしてもアキラはわからないままなのであるが……
「黒九十五目。白九十目。コミをいれて白の一目半勝ちです」
「・・・・・・っ!」
全力を出し切った。
が、負けは負け。
コミ、六目半はかなり痛い。
それでも今の世界ルールのコミはそうなのだからしかたがない。
そのコミをも上回る力がなければつまりは世界ではやっていかれない、ということなのだから。
だけども、これで終わり、とはおもわない。
そう。
今回の大会の対局で社もまた大切なものを学んだ、とおもうから……

「…おい、終局まで解説やるのか?解説時間とっくにオーバーしてるけど」
事実、すでに時間はかなり予定よりも大幅に遅れている。
「こまったな。すぐに片づけて表彰式の準備をしないといけないのに」
とはいえここで解説をうちきっても客もまた納得しないのもあきらか。
いまだに大将戦はおわっていないのだから。
「これは、こまかくなりました。これは…白、ひっしにくらいついて反撃しています。
  局面はこまかく、視野のみでは目差がわかりませんが。黒が勝っているのは間違いありません」
解説しつつも会場にむかって説明している渡辺。
「整地しなくても勝ってるんだったらいいだろ!?え!」
「河合さん!だからおちついて!」
院生のころからヒカルのことは知っている。
いまだにヒカルが大人と対局するのに慣れていないころから。
ゆえにこそ力もはいる。
ほんの二年たらずにここまできた。
成長をみまもっていたがゆえに力もはいる、というもの。
何よりも目の前で力をめきめきとつけてゆく様をみていれば先を楽しみにするのはひとというもの。
碁会所・石心の人々の想いはみな同じ。
それを態度にどのように出すかは個々次第。
「さぁ…どうなりますか……」
白がどこまで番回してゆくのかきになる局面。
それでも圧倒的なまでの力の前に、白もまたあがきあがねる。
それこそが、それぞれの力をさらに引き出す原動力。

ガタ。
「さて。塔矢先生。われわれも対局場にいきましょう」
いいつつもそろそろ大将戦も終局ちかし。
ゆえにモニターをみていた楊海が椅子から立ちあがる。
「いや。このまま私は家に戻るよ。明子もおそらくそろそろロビーでまってるだろうしね」
「息子さんによくやった。の一言もかけずに、ですか?」
「台湾に非常に才能のある子供がいる、とシンセンで聞いたものでね。早々に台湾にむかおうとおもう」
「――先生からはもう日本を感じさせませんね」
世界中を飛びまわり新たな原石を発掘しては、今いる棋士たちをより高みへと導いている。
強い棋士は誰もがあこがれる。
そしてその対局をつうじて得るものがたしかにある。
「国を感じさせないのは、外国語を自在にいくつも操る君のほうだよ」
「とんでもない。食いもんは四川が一番、とおもってるやつですよ。オレは。失礼します」
いいつつも、席を立ちあがり扉のほうへとむかってゆく。
そんな彼を視線でちらりとみおくりつつも、モニター画面に視線を戻し、
「――…成長、したな。また一回り…進藤君も私とおなじ。か。saiの強さを…おっている……」
おもわず我知らずつぶやく行洋。
「と。先生。言い忘れてました。十五目ハンデを相手がおったsaiとの一局、お見事でしたよ」
扉のまえでぴたっと立ち止まりにこっと笑って言い放ちそのまま扉に手をかけて外にとでてゆく楊海。
がたっ!?
てっきり外にもう出ていたとおもっていた楊海のいきなりの爆弾発言。
ゆえにこそびっくりして思わず椅子から立ち上がる。
「…ヤ…!?」
あの一局のハンデの数はわかっていないはず。
十五目。
saiとの一局。
それがあらわすこと、すなわち、それは…それは――!!
「実は、進藤君から送ってもらったsaiの棋譜の中に先生との新初段シリーズのものが混じってましてねぇ。
  そこには、はっきりと、sai逆ハンデ十五目の一局。とかかれてましたよ」
「・・・・・・や・・・・・・・・」
声にならない、というのはこういうことなのかもしれない。
行洋もいきなりのことで声がでない。
「誰にもいってませんよ。では」
「まっ!!」
バタンッ。
いうだけいって扉をあけて外にとでてゆく楊海。
しばしその場に呆然と立ちすくむしかない行洋。
…進藤君からもらった…棋譜に?
ひっかけかもしれない、という問題ではない。
そもそも、あの一局。
あの一局を表だって打ったことになっているのは…なっているのは……
「・・・つっ!!」
ガタン。
そのまま帰ろう。
そうおもっていたが、彼が…楊海がどこまでつかんでいるのかが…気にかかる。

ざわざわざわ。
「十三目。コミを入れて六目半勝ち。いやぁ、高永夏、ねばりましたねぇ」
整地をすませてみれば、コミをいれてその目差。
ゆえにこそ、感心した声をださざるをえない渡辺。
何しろ途中までは圧倒的なまでに何十目以上も差があったのだから。

「…高永夏コ・ヨンハもよくがんばったな」
対局場にとつくとちょうど大将戦の整地がすんで結果がでた直後。
「楊海さん」
そんな楊海に気づいて声をかけているチャオ。
しかし、勝負がついた、というのにしばしじっと局面をみつつ、
「「…永夏。お前…秀策の棋譜をさんざん並べている、とみた。違うのか?」」
彼が反撃してきた手はかつて、佐為が秀策時代によく打ちだしていた手と重なった。
だからこそ聞かずにはいられない。
「「だったら、何で…」」
つまりそれは彼の力を…佐為の力を認めているからに他ならない。
ならばなぜあのような発言をしたのか。
それが…わからない。
わからないからこそ問いかける。
直接、彼にのみ聞こえるように【力】をコントロールして相手に直接声をたたきこむ。
「…ふ…ふはははははっ!!」
「よ…永夏!?」
ヒカルの問いかけをうけ、いきなりしばし局面をみていたかとおもうといきなり椅子に背をもたれつつ笑いだす。
「ははは!まさかこれほどとは…な!秀英!おまえのいっていたとおり、こいつはただものじゃないぜ!はは!」
負けはしたが悔いはない。
今までここまでもうちるすべての力を出し切ったことはなかった。
すがすがしい負け。
「ヨ…永夏?」
いきなり笑いだし、さらには韓国語でそういったのち、しばらく笑う永夏に戸惑いをかくしきれない秀英。
「?負けておかしくなったのか?」
いきなり笑いだした彼をみて他の者たちがそんなことをいっていたりするが。
いきなり笑いだした高永夏に対し、誰もが唖然とせざるを得ない。
進藤光という人物の力を見たかった。
だから、あのようにちょっかいをかけた。
その結果、自分と対局が組まれ、こうも力の差を見せつけられるとは……
だからこそ、笑わずにはいられない。
世界は広い。
だからこそ…碁、はやめられない。
そんな思いを抱きつつ。

「え~、韓国。破れましたとはいえ、まさしく大将戦にふさわしい一局でした!
  高永夏君!圧倒的二十目以上の差から十三目差。
  結果は三目半の進藤君の勝ちでしたがすばらしい戦いをみせてくれました!」
わっ!
パチパチ。
渡辺の解説に会場から拍手がまきおこる。
「というか。高永夏ってやつ、実はそんなにつよくないんじゃないのか?」
「でも、大将だろ?」
「さあ?」
知名度からしてもどうしても塔矢明のほうがはるかに実力は上だ。
と一般の人々は思っている。
ゆえによく囲碁を理解していないものはそのような発言をしてしまう。
「いやぁ。白熱してましたね!」
中にはそんな興奮気味にいっている人もいるにはいるが。
「??ねえ、アカリちゃん?どういうこと?」
終局した、といわれても、美津子にはまったくよく意味がわからない。
そもそも何目差、とかいわれてもまったくもってわからないのだから仕方がない。
「もう!おばさんったら!ヒカルが勝ったんですっ!」
のどおりがいってないらしい美津子に横からアカリが説明する。
アカリとしても信じられない。
そもそも、ヒカルが囲碁に興味をもちだして、まだたったの数年しかたっていない。
それなのに…
とてもとおくになってしまった、そんなさみしい感じはするものの素直におめでとう。
といえるようなきもしなくもない。
だけども、おいていかないでほしい。
というのが朱里の本音。
「進藤君……」
まさかここまで力をつけていたとは…
あのとき、君を無理に小学生の君を大会にひっぱりだしたのは…間違いじゃなかった。
そう、間違いじゃなかったんだよね?
あの大会からヒカルは囲碁への道を進み始めた。といっても過言ではない。
実際当人もそういっていた。
それゆえに感慨もひとしおの筒井。
「…ま~た力をあげてやがるよ。あいつ」
おもわず毒づいてしまうけどそれも誇らしくもある。
「だな」
「だけど、僕らもまけちゃいられない」
解説をききながらそれぞれ素直なつぶやきをもらす、和谷、伊角、越智の三人。
本田はしばらくモニターを凝視して何もいっていない。
と。
「何だかなぁ。十三目?六目半?高永夏ってやつ大したことなかったかもしれないな」
「それか相手が塔矢明でないからなめられてたか」
「はは。ちがいない。何せ相手が塔矢Jrじゃなけりゃ力もぬくわな」
後にいる何もわかっていない大人たちの会話が聞こえてきて思わずぷちっと切れ宗になる。
「お、落ち付け!和谷!」
おもわずくってかかろうとする和谷をすばやく横から伊角が押しとどめるが。
何ぶん、和谷には前科がある。
若獅子戦のときに真柴になぐりかかった、という前科が。
「あなたたち。何も知らずにそんなことをいうのはすべての棋士に対しての侮辱ですよ。
  いい歳をした大人がなさけない」
そんな和谷にとかわり、なぜか越智がメガネをあげつつ背後を振り向き言い放つ。
「な、なんだとぉ!?」
子供にそんなことをいわれる筋合いはない。
それゆえに怒りをあらわにしておもわず叫ぶバカをいっていた大人たち。
「越智…お前…」
自分がいおうとしたことをまさか越智がいうとはおもわなかった。
ゆえに和谷の気がそれる。
「ただの名声だけしかみえていない大人では、何も学べませんよ。
  人生においても、それ以外のことについて、すべて」
かつての自分が強さだけしかみえずにそうだった、ように。
院生となりヒカルと出会い、たしかに越智もまた変化していっている一人である。
さらにどとめとばかりにいわれ、その大人が立ち上がりなぐりかかろとしたその刹那。
「何だとぉぉ!?てめぇ、今、何ていった、ああん?!
  相手が弱いだぁ、手加減してたにちがいないだぁ!?馬鹿も休み休みいえっ!」
別の方向から何やらどなり声が聞こえてくる。
「あ、あの人…」
「院生のとき幾度も碁会所でうってた人だ」
たしか今もときどきヒカルはよく顔をだす、といっていた。
タクシー運転手の男性が知らない男性のむなぐらをつかんで立ちあがっているのがみてとれる。
「わ、私はただ、大将戦なのに差がひらきすぎてるから、そうにちがいない、と…
  何しろ相手は名前もしらない子供ですし。だから……」
「囲碁のことを何もわからないやつが適当にきっぱりと何もかもわかったようにいいきるんじゃねぇっ!」
「か、河合さんっ!!」
その横では同じ碁会所であった覚えがある男性がひっしで河合をなだめているのが視界にはいる。
どうやら和谷達のほうでも、そちらのほうでも同じようなことをいった人がいるらしく、
それで喧嘩がぼっ発しかけているようである。
「ち、ちょっと!?」
いくら何でもステージからはそんな会場の様子はまるわかり。
ゆえにあわてる渡辺であるが。
「先生!私たちがとめますから!それよりおねがいですから!大盤解説をおわってください。
  表彰式の準備ができませんので」
「あ……」
いわれてようやくそのことに思い当たる。
ついつい対局解説に熱中して時間のことなどすっかりわすれていた。
係りのものがそれぞれにそんな河合達をとめるごとくにかけだしてゆく。
しばし、ざわざわと大盤解説会場はざわめきをましてゆく――

「永夏?」
「まったく。子供だな。何があったか今秀英からきいたが……」
呆れる以外の何ものでもない。
「永夏!まったく。進藤!こいつは子供だ!
  僕の話をきいて、君をたきつけるためだけにあんな発言をレセプションのときに。
  だけど、本当は誰よりも永夏は勉強かで秀策のこともとても評価してる!
  韓国棋院のことは通訳のトラブルで……」
まさか彼に説明する前に永夏がレセプション会場であんなことをいうなどおもわなかった。
「秀英。負けは負けだ。いうな」
説明したとしても負けは負け。
そう、しかも大差をつけられての負けである。
ゆえにそれはいいわけともとられかねない。
「「そんなのどうでもいい。が!レセプションのときに発言した秀策を貶める発言!
  あれだけはきちんと自分で公式の場で自ら訂正しろっ!!」」
それだけは頑固として譲れない。
佐為のためにも、そして虎次郎のためにも。
秀策として名前がとおっているのは佐為であり、虎次郎の人格はすぐれていた。
だからこそあのような場であの発言は絶対にゆるせない。
「…お前のその秀策のこだわりよう。訂正してやってもいいが……」
あくまで上から目線のように言い放つ。
とはいえ日本語ではないので韓国語がわからないものにはわからないが。
が、今のヒカルは彼に力の波長を一時あわせているので言葉の理解は可能。
「もう、永夏!何でそうつっかかる言い方を!!」
秀英としては気が気でない。
「お前、秀策の何なんだ?」
何、といわれればどちらかといえば虎次郎からしてみれば弟弟子になるのかもしれない。
しかし、秀策の何、といわれれば弟子、という言葉がぴったりくる。
「……秀策は…俺が、碁をうつ、理由。だから。
  遠い過去と未来をつなげるため。そのためにオレは…俺達はいるから。
  だから、昔のなくなった人達のことを悪くいうのは許せない。すべてはつながっているのだから。
  それはすべて今をいきる人々にとってすべて……」
すべてはつながっている。
遠い過去から現代に。
そして、未来、へと。
想いはつむがれ未来にむけて昇華され、その昇華された想いはさらなる別の想いを紡ぎ出す。
棋士も、国籍も何もかもかんけいなく。
遠い過去がありそして遠い未来があるように。
「まったく。お前、みかけによらずくさいな」
「もう!永夏!何をちゃかして…っ!」
「…次に対局するとき。オレはもう負けない。お前のそのザレごとがどこまで通用するものかみせてみろ」
「永夏っ!!」
そんな会話をしている最中。
「団長、ならびに選手の方は大盤解説場へきていただけますか。
  すぐに表彰式を始めたいとおもいますので」
すでに時刻は五時をとっくに過ぎている。
対局場にいる人々にかかりのものからそんな声がなげかけられる。
「何?」
「今から表彰式だそうです」
翻訳されたその言葉をきき、
「いくぞ。秀英!」
別に前言を撤回するとも何もいわずにその場を立ちあがり扉のほうにとむかってゆく永夏。
負けはしたが悔いはない。
自分がまだまだだったことがわかっただけでも収穫。
それで十分。
「日本チームの皆さん。お疲れ様でした。表彰式が始まります。
  倉田さん、お疲れさまでした。みなさんには来年も期待していますよ。
  ぜひまた選抜予選を勝ち抜いてあがってきてください」
そんな彼らのもとにこの大会の責任者でもある戸刈がちかづき声をかけてくる。
「?あれ?来年?」
「ええ。今回の選手の皆さんにはぜひまた代表選抜をかちあがってきてほしいものです」
それは本音。
「あれ?今年だけの棋戦ときいているけど?」
その言葉をきいて楊海が首をかしげつつも日本語でといかける。
「社長に来年の開催を先ほど進言してきました。
  大盤解説会は上々の人で。ネット中継は好評。何より韓国と中国。
  二カ国を問わず世界中のメディアが予想以上に注目してくれました。来年もやらない手はありません。
  表彰式で社長から正式に発表されます」
つまりこの大会の名前がうれることはすなわち、主催者側の名前もうれるということ。
しかもご丁寧にメディアは会社の概要まで何もいわずに説明してくれるのだ。
これほどおいしいことはない。
「?楊海さん?何の話です?」
日本語でいわれているので日本語がわからない中国の選手たちは意味がわからない。
「・・・来年、十九になるお前には関係ないよ。さあ、いくぞ」
「いきましょうか」
しかし、先生、何かいってくるかな?
去り際に爆弾発言ともいえるきになっていたことをぶつけてみた。
「しかし、進藤君のあの言葉。いいですね。遠い過去と未来をつなげるために自分たちはいる。
  すべての先人を指していったんでしょうかねぇ」
「あれは秀策一人にこだわった言葉ではないとおもうけど」
古瀬村達のそんな会話に、
「ま、本当にガキのセリフさ。遠い過去と未来をつなげる。それは今きいているやつらなら誰だってそうだろ。
  棋士も囲碁も国籍も何もかも関係なく。なぜ碁をうつのかも。なぜ生きているのかも。みんな一緒じゃないか」
そんな会話をしつつも大局場をあとにする。
「お、お前らさきいってろ」
ふと視界のすみに待っていた相手をみとめて思わず立ち止まる。
みればこちらのほうに歩いて来る塔矢行洋の姿が視界にはいる。
どうやら、先生、いてもたってもいられなかったようだな。
さて、先生の反応は?
半ば意地がわるい。
そうとらえられてもいい。
とにかく彼…楊海とてsaiの強さに心髄している一人、なのだから。

「おれ、帰るよ」
「今から表彰式だぞ?」
しかも初の国際大会で日本優勝。
別に表彰式は一般人は観戦できないというわけではない。
「アパートにもどって日韓戦の検討をする」
「オレもいこう。みんなは?」
「表彰式には興味ない」
どうせおきまりのごとくにながったらしい話しがつづくのだ。
日本はたしかにかったが、彼らにとっては勝ち負けよりも大切なものがそこにあった。
だからこそ。
そのまま和谷達は会場をあとにしてゆく。

「進藤、いこう」
『ヒカル?』
しばらく座ったままのヒカルに声を交互にかけるアキラと佐為。
「ああ、いこう」
『ヒカル。終わりは始まり。今があるから未来も、先もあるのですよ。それを忘れないでいてください』
佐為……
そっと手を握ってくれた佐為の気持ちがとてもうれしい。
佐為の言葉がその姿が何よりもヒカルの心の支えになっている。
それでもまだ、伝えていないことはたくさんあるのだからヒカルとしては時間がおしい。
また、後悔するような別れ、だけは絶対にしたく、ないから――


                                -第79話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、ようやく日韓戦も完了ですv
  あとは表彰式~それからのちは完全完璧オリジナル(笑
  これから先はいちいち原作の言葉確認しなくてすむから楽かな?
  まあ、棋士の名前確認くらいはひつようだが(汗
  では、次回につづきますv
  さて……そういえば、この小話で慶長の花器はまだやってなかったな…
  ふとそんなことをおもったり。
  なので今回はそれにいこうとおもいますv(笑


「さ、いこ」
ぱっと顔を輝かせている女の子の顔をみて、こちらまでうれしなくなってくる。
でも、すごいね~。佐為、この花器。
それは本音。
ヒカルとて生け花の師範免許をすでに所得しているので多少の知識はある。
『ええ。また現世でその花器に出会えるとは……』
横をみれば感慨深そうな懐かしそうな佐為の顔。
…そうだよね。
もう、この時代は佐為の生きていた時代の面影はまったくない。
空だって夜満点の星がみえていたであろうに東京の空ではそれもない。
「そうだ。ねえ。そのお爺ちゃんのために、私もお線香あげたいから、寄らせてもらってもいい?」
「え?」
花器を盗まれたのだ、といっていた女の子は小学三年生。
自分とは三年違い。
「だめかな?」
「ううん。おねがい。お姉ちゃん」
ズボンをはいていても同じ小学校。
ゆえにヒカルのことを知っている子も多々といる。
ヒカル自信は知らないがけっこう下級生や同級生からも人気があるのだが。
当の当人がきづいていない、というだけで。
「いやぁ、しかし。君、よくこれがあの慶長の花器だとわかったね。いいものみせてもらったよ」
ほうっ。
さきほどのこの目の前の少女の囲碁の打ちまわしといい、そしてそのあとの水をいれた花器の変貌。
「しかし、私ももう少しでまがい物を買わされるところだったこともあるし。
  私も何か君にお礼できないかな?」
しかもものすごい神がかり的な対局をみせてもらった、という思いもある。
「う~ん…あ、じゃぁ、この子と私をこの子の家までつれてってもらえますか?
  そこの人が何してくるかわかんないし。もっともさらにいってくるようなら投げ飛ばしますけど」
「はは。いさましいねぇ」
「空手も柔道も黒帯ですからv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・げっ」
ヒカルの言葉に客の男性が一瞬目をテンにして、何やらうなだれている店主が短い声を上げている。
「あ、それと。この近くにお花屋さんないですか?」
「?お姉ちゃん?お花やさん?」
「うん。花器は花をいけてこその花器。だからね。葵ちゃんのお爺ちゃんにお花みせてあげるの。だめ?」
「ううん!うれしい!」
『そういえば、ヒカルは生け花の師範免許をもってるとかいってましたねぇ。
  私もたしかに、千年ぶりにこの花器に花がいけてあるものがみたいです』
ねえ。佐為。
『はい?』
その宮廷でみた花の種類とかおぼえてる?
『それはもう、とてもすばらしいものでしたから』
虎次郎とともに出向いた皇居においてみかけたという慶長の花器。
「ああ、花ややら近くにあるけど。案内してあげるよ。
  ねえ、君。私も一緒にそれをみてはだめかな?私も是非ともこの花器に花がいけられるのをみてみたい」
「うん。じゃぁ、おじちゃんとお姉ちゃん、一緒にうちにくる?きっとおばあちゃんもよろこぶよ。
  おばあちゃん、お爺ちゃんが死んでから元気なくて……」
だから、祖父が大切にしていた花器をみつけてどうしても取り戻したかった。
「きまりね。さ、いこ。葵ちゃん。おじさん」
「そういえば、君の名前まだきいてなかったね。この子の名前はきいたけど」
でも苗字をそういえばきいていない。
「私は楠葵。お姉ちゃんは進藤光先輩、だよね?」
「葵ちゃん、しってるの?」
「私、お姉ちゃんと同じ小学校だもん」
「そうなんだ。ならしってるかな?」
何しろ全校集会でヒカルが師範免許をとったときや、いけばなの部で大会に参加したときなど。
必ず入賞したりするのでよくヒカルは表彰をうけている。
もっとも、それらはすべて家にはおかずに、祖母のおかげ。
とばかりにすべてヒカルは祖母宅にとおいているのだが。
『しかし、この子供。本当に葵の君によくにています』
佐為の大切な人だったの?
『というか、幼馴染というか懐かれてた子ですね。本当の妹のようにかわいがっていましたから』
それをきくとちょっぴし焼き餅やくかなぁ。
私。
『ヒカル?』
何でもない。それより、佐為。
今からいくお花やさんでお花がどんなものだったのか教えて?
佐為がみたものとおなじ形にはできなくてもお花が同じならそれだけ感慨深いでしょう?
そんなヒカルの言葉に自分のことを思いやってくれているのだと痛いほどに理解する。
『ありがとうございます。ヒカル。きづかってくれて。でも私はヒカルがいける花ならばすばらしいとおもいますよ?』
実際にこれまで幾度もヒカルとともにお稽古ごとに顔をだし、ヒカルの生け花は目にしている。
佐為ですらおもわず感嘆のため息がでるほどのヒカルはどこか落ち付いた、それでいて趣のある生け花を好む。
ここ最近はとくに落ち着いた趣のものを好んでいる。
それはすべて佐為にみせたいがための変化でもあるのだが。
そんな会話をしつつも、ヒカルと佐為。
そして楠葵となのった少女と骨董店に買い物にきていた男性。
佐為の姿は視えていないがゆえにはたからみれば大人一人と子供二人にて花やへと進んでゆく。
はたからみれば年の離れ具合からみてまず親子にみられる三人組、である。

ふと、この花器に初めて出会った去年のことを思い出す。
「ごめんなさいね。ヒカルちゃん。また今年もきてもらっちゃって」
「ううん。でも葵ちゃんが百合さんのお孫さんってしったときびっくりしちゃった」
しかもヒカルがかよっている生け花教室の通い弟子。
弟子というよりは生徒というほうがしっくりくるのだが。
「それに、私もこの花器は何度でもみてみたいし」
いいつつも、いつものようにパチパチとみつくろってきた花を剣山にといける。
「しかし…進藤さんって、おはな、やってたんだ……」
なぜか花をかって移動している最中、アキラに声をかけられて一緒にくることになっているヒカルである。
「うん。三歳のころからね。うち、お婆ちゃんがいろいろとそういうのにこってるから」
そのあたりはアキラも同じなのかもしれない。
最も、明に関しては二歳のころから囲碁、であったが。
『しかし、いつみてもこの花器は美しいですよねぇ。ヒカルが生けた花がより美しくひきたちます』
佐為にそういってもらえたらうれしいな。
おもわず佐為の言葉ににっこりほほ笑む。
「そういえばね。ヒカルちゃん。ずっとこの一年考えてたんだけど。この花器、いわば国宝級、でしょ?」
「そうなる…のかなぁ?」
ねえ、佐為?
『まあ、弥衛門最後の傑作ですからねぇ。この花器は』
「それでね。葵とも相談してたんだけど。うちにおいていたらいつまた誰かに盗まれるとか。
  もし地震とかでわれてもしてもねぇ。きちんとしたところに寄贈しよう、といってるんだけど。
  どこか、心当たりない?ヒカルちゃん?」
「そういわれても、私もそっち方面には詳しくないし…そうだ。塔矢君、くわしいんじゃない?」
「え?ぼ、僕!?」
「うん。だって塔矢君、前はなしてくれたじゃない。塔矢君家っていろんな人が出入りしてるって。
  何となくだけど塔矢君家ってつねに何か生け花とかありそうなイメージだし。
  きいてみてくれないかな?」
うっ。
すこしばかり首をかしげてきょとっといわれて思わずうなってしまう。
どきどきする。
何だろう。
この気持ちは?
そうおもうがよくわからない。
とにかく彼女に言われるといつもこう。
どこかこう…全身が紅潮してくるようなそんなくすぐったいような、そんな感覚。
「わかった。父にきいてみるよ。たぶん父の関係者でそういうの詳しい人いるだろうし」
「へぇ。おじさんってそんな人に心当たりあったりするんだ」
「…進藤さん。君、ぜったいに僕の父がだれか、いつもおもうけど失念してない?」
そんなヒカルの言葉に苦笑せざるを得ない。
いつも、自分のことは誰でも父の子どもという視線でしかみないのに目の前の彼女だけはちがう。
彼を彼自身とみてくれていることにどれだけ救われているか彼女はおそらく気づいてはいない。
『あのもの、塔矢行洋殿は名人といわれてるらしいですからねぇ。
  いつか本気の対局をしてみたいものですvこの前の対局は途中からヒカルの指導になっちゃいましたしね』
だって。
佐為はきっとあれより綺麗にうつんだろうな。
そうおもったら、おじさんにきいたほうがはやいかな?
とおもったんだもん。
せっかく佐為がうつんだもん。
綺麗にうってあげたいし?
それはヒカルの本音。
「だけど名人とかいわれても私よくわかんないし」
まあ、普通はそうであろう。
しかし、しかしである。
「……何で進藤さんはあそこまで打てるのに囲碁界の知識がからっきしなのかなぁ~……」
思わず遠い目をしてつぶやかずにはいられないアキラである。
「よっし、と。できた。葵ちゃん、いつものようにお水いれるのは葵ちゃんにおねがいね?」
「うんっ!」
いつもヒカルが花をいけては、水をいれるのは葵の役目。
毎月一度はかならず来てはこうして花をいけている。
それは佐為に見せたい、という思いからでもあるのだが。
あれから一年。
ヒカルももう中学一年生。
「さてと。これおわったら午後からは今度は英語の塾だ~」
「…進藤さん、週に毎日のように習い事してたら…体、こわさない?」
「ん~。でもこれでもへってるほうだよ?院生というのになってから、減らしてもらったし。
  それでもどうしても院生手合いとかと他の習い事の大会とかが重なるのはしかたないよね。ふふ」
そのせいで順位がなかなかのびていないのだが。
「だけど、絶対に多すぎるとおもうけど。お茶にいけばなにピアノに塾。
  珠算だって今でも高校に習いにいってるんだろ?お習字だって……」
それでいつ囲碁の勉強をしているのかきけば夕方、もしくは夜に基本的にやっているらしい。
…いつか、絶対に体を壊す。
それがアキラからすれば心配でたまらない。
「大丈夫だよ。昔ほどじゃないから。前はね。塔矢君。学校がヒルまでなんかのとき。
  本当に時間刻みのスケジュールでいろんなおけいこごとならってたんだよ?今はだいぶゆとりあるもん」
いや、それはゆとり、とはいわない。
絶対に。
それでも、佐為がともにいることでヒカルは忙しさから精神的な面でも解放されているところはある。
「それより、塔矢君。この花器のことについては、おねがいね?
  百合おばさんの気持ちもわかるから、できるだけきちんとしたところを紹介したげて?」
「…わかったよ」
どうやら説得しても無理そうである。
おそらくヒカルも父とおなじで回りがいくらいっても自分の信念はまげないであろう。
…何かが、おこらないかぎり、は。
しばし、そんな会話がその場においてくりひろげられてゆく――


こんな感じでv
ちなみにすでにアキラはプロ棋士です(笑
ヒカルは院生生活中~。
この夏に試験うけて合格しますがね(苦笑
ヒカルが院生手合いの日、というのでストーカーのごとく(笑)に棋院にいって待ち伏せ(まて)してたアキラですv
しかしヒカルはとっとと退出して花を棋院近くでかっている最中アキラと合流し、
そのまま一緒についてきてたり、という設定さん(笑
しかし、骨董屋のあの店主、原作ではヒカルという男の子にまけましたけど。
こちらはかなりきついかも、何しろお人形さんなみの女の子にまけたんですし(爆
髪を伸ばし始めて数か月たっているのでちょうどそのころはおかっぱあたりかな?
何はともあれではまた次回にて~♪

2008年10月1日(水)某日

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