まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ちびっこ佐為ちゃんは書いててたのしいv(笑←まてまてv
まあ、これも話しをすすめれば記憶ありの転生ちぴっこ佐為ちゃんでてくるしv
そこまで何話しになることやらv
まあ、あの小話しと違うところは、あちらは塔矢家のお手伝いさん。
こちらは進藤家のお手伝いさん・・という違いくらいか?(だからまてってば
何はともあれゆくのですv
ようやくヒカル対永夏、ですv

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何だかものすごく熱気にあふれてますね。
国際棋戦、ですか。
昨日も思いましたが、ほんと時代はかわってますよねぇ。
さまざまな珍しいものが多々とあります。
そういえばヒカルとともにいたときはこのような場に一度もでたことありませんでしたものね。
ずっと千年以上もこの世にいた私も百年、二百年、五百年・・千年……と。
ずっと碁盤の中から一人っきりで過ごしてきましたが……
虎次郎のときも彼はいろいろなものをみせてくれました。
そしてヒカル。
あなたは私に大切なものをくれた。
私をフジワラノサイ、として一人の人間としてみてくれた。
虎次郎はあの遺言にあったとおりどうも私を神様の使いと思い込んでたようですしねぇ。
あの子が生きていたときもさんざんちがいます!といったというのに。
しかし、実は今日の一局はとても楽しみではあるのです。
話しをきけば虎次郎のことを馬鹿にしたというカンコクという国の子がいるそうなのですが。
しかし、昨日の一局をみるかぎりそれほどねじまがった根性の子だ、とは私的には思えないのですが?
まあ、でも私のため、虎次郎のために怒ってくれたヒカルの気持ちは痛いほどにわかります。
なのでここはヒカルにまかせてみることにしました。
私も、ヒカルの力を見てみたい、ですしね♪
『ヒカル。とにかく固くなりすぎずに、いつもどおりで、ね?』
しかし固くなりすぎて力を出し切れなくてもこまります。
まあ、昨日の一局はそんな堅苦しい考えを吹き飛ばすための一局を幾度もうちましたが。
しかし…やりすぎましたかねぇ?
気付いたら朝、でしたし…
う~ん…ヒカルも塔矢も、睡眠不足で実力がだせなかったらどうしましょう?
…わたし、かなりそれだと自己嫌悪におちいってしまいます……

星の道しるべ   ~進藤光シンドウヒカル 対 高永夏コ・ヨンハ

「…気づいたみたいだな」
「……どうおもうんでしょう?」
韓国の選手たちが名前をみてかたまっている。
ゆえにこそ古瀬村達は心配せずにはいられない。
大将戦の関には、進藤光と高永夏のネームプレートが置かれている。
【オレの相手は塔矢じゃなくて進藤?】
【ええ】
【!韓国語だ。話せるんだ!?】
【少しだけですが】
韓国語で問いかけた永夏の問いかけに答えるアキラ。
そんなアキラの返事に驚きの声をあげている秀英。
『?ヒカル。昨日からおもってたんですけど。みんな日本語で話してますね。ヒカル』

おまえ、何いってるの?全然ちがうぜ?
『??でも私には皆日本語できこえていますけど?…今、塔矢、日本語つかってますよね?』
いや、今塔矢がつかってるのは韓国語だってば。
…と、まてよ?
もしかしたら、お前、本来お前がもってたはずの霊の力をつかいこなしているのかも。
普通は幽霊とかって万国共通でことばとか関係ないらしいしさ。
もともと、魂そのものにも国境はないし。
それでわかるのかも。
『ほ~。そんなことがありえるんですか~』
というかそれしかおもいつかないだろ。
って、当の本人のお前がわかってなくてどうすんだよ……
でも、本当に全部日本語で聞こえるのか?
『ええ。なのでいろんな姿をした人たちが日本語ではなしてるのでおもしろいな~とみてたんです。
  何しろぺるりのときはカタコトの日本語で、しかもよくわからない海外の言葉つかってましたしねぇ』
…そういや、お前、黒舟来航しってたんだっけ。
まあ、それはそれとして。
洪秀英はおまえもしってるよな?
『ええ。彼もおおきくなりましたねぇ』
で、その隣にいる何だか背のたかいやつが問題の高永夏。
『ほぅ。何だか雰囲気的に緑丸どのに似てますねぇ』
…誰だよ。その緑丸ってのは……
『ええ。当時はもう有名なかたでしてね。彼に姫君が寝とられた殿方なども数しれず……』
「・・・・・・・・・・・・・・」
それって、有名の意味がちがうんじゃあ?
『よく彼はわたしにいってたものですよ。少しは囲碁以外にも姫君にも関心しめせ!と。
  私はそれより囲碁をやってたほうがたのしかったんですけどね~』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何だか話題がかなり方向性が違うほうにいってしまったのはおそらくヒカルの気のせいではないであろう。
【…大将が進藤君だって!?…予測はしてたが……】
名前をみて驚きの声をあげている安太善アン・テソン
「え?」
何か自分の名前をいわれたことくらいはわかる。
ゆえに思わず声をあげるヒカルであるが。
【予想していた?】
そんな韓国の団長にと戸惑い君にといかけているアキラの姿。
【昨日の日中戦。倉田さんは進藤君をとても評価していたから。
  ただ、そのとき、進藤君の頑張りは「永夏のおかげ」といわれたんだけど?】
【…中国戦をみて大将をきめる。と倉田さんがいったんです。それで進藤が……】
そんな太善にと説明しているアキラであるが少しだけ、とはいっていたがどうやら結構はなせるらしい。
「?」
なあ、佐為。
塔矢達、何の話してるかわかる?
ヒカルにはまったく意味がわからない。
というかわかろうとすればわかるが、大切な対局を前に精神を疲れさせる方法はまずしたくない。
「…やっぱり。永夏の発言が関係してるんだ……」
何やら秀英がつぶやいているのがみてとれるが。
『ええと。どうやら倉田殿にヒカルが言われたことを塔矢が説明しているようですね』
とりあえずヒカルに問われて佐為が通訳がてらに説明する。
あ。
そっか。
そういや、日中戦の結果で…とか倉田さんいってたっけ?
おまえに俺のことをみてもらいたくて、もうそのこと綺麗さっぱりあの時わすれてたけど。
それほど喜びのほうが強かった。
佐為がもどってきた…というほうが、ヒカルにとっては何よりも。
【永夏の発言がそんなに進藤君をかりたてていたなんて……】
逆をいえば、永夏が煽らなければ怖くバケルこともなかったということである。
「何だ?何はなしてるんや?」
社も韓国語はわからない。
だからこそ何やら話しているアキラたちの会話が気になってしかたがない。
「永夏の発言が許せなくて進藤が大将になったことにみんなあきれてるんだよっ!」
思わずそんな社に叫んでいる秀英。
きちんと日本語で叫んでいるので社にもようやく納得がいく。
「あ~、なるほど」
そりゃたしかにあきれるよな。
自分の立場でもそうおもうし。
それが社の本音である。
【…やけに秀策に肩入れしているようだが。普通じゃないよ。お前、秀策の何なんだ?】
「お前、秀策のいったい何なんだ?」
永夏と秀英の質問はほぼ同時。
「え?何、何って……」
何というべきだとおもう?佐為?
『さあ?』
さあ?って、お前が秀策みたいなもんだろ!?
そもそも残っている公式の棋譜は全部お前がうったんだし。
虎次郎のことはお前から聞かされてるので知ってはいるけど、当人をしっているわけじゃない。
けど、お前のことは俺は俺なりによくしっているつもりだ。
この場合、何とこたえるべきなのかな?
碁を打つ理由ならば、佐為がいなくなってこの一年。
ずっと考えてたどり着いた結論をもっている。
それならばすぐにいえる。
いえるが…何、ときかれて関係を答えられるような簡単なものではない。
弟子、というのは一応すでに百年以上前にしんだ、といわれている人なんだからおかしいし。
心の師?
っていっても佐為は実際に今も昔もいるわけで、心の、というのは何だかおかしいし。
といってもお前は一年間もいなくなってたけど……
『ヒカル…もしかして、案外かなりねにもってます?』
あたりまえだろ!…でも、戻ってきてくれて、本当にうれしい。
それがたとえ一時的なことでも。
佐為がいてくれる。
それだけで、もう。
「なぜ、そこまで?君は……」
秀英の声が耳にと届く。
「なぜ?なぜって…」
なぜといわれれば答えは一つしかない。
佐為が消えてから悩んで出した答えは一つ、なのだから。
「俺は…だって、だって俺が碁をうつのは……」
ヒカルがいいかけたその刹那。
「時間です。対局を始めたいとおもいます。選手は席についてください」
どうやら対局時間が差し迫っているらしい。
ゆえにその話はそこにて打ちきりとなってしまう。
そのままそれぞれ促されるままにと席にとついてゆくヒカルたち、代表メンバー。

昨日、ついつい打つのに夢中になりすぎて気づいたらサイとなのった人物と秀策とのかかわりをききそびれた。
しかも、打ってわかった。
圧倒的な…力の差がそこにあった。
父、いや、父以上の力の壁。
だけども、今は何よりも目の前の一局に集中するべき!
何しろ進藤の元にあのsaiが戻ってきているとなると…精神的にもヒカルは今はかなり強くなっているはず。
ならば、自分も不様な碁は見せられない。
そして、これからもsaiがいるかぎり、進藤はもっと強くなる。
自分とて進藤には負けていられないから――

「え~。大将の高永夏コ・ヨンハ三段と…進藤光初段。ニギリで先番を決めてください」
そりゃ、棋力からいけば桑原本因坊ですら進藤君のほうが怖い。
ときっぱりいっていたほどではあるけど。
だが、彼には名声も実績もない。
しかも去年の春からプロとして活動していても段位は初段。
ゆえに世間はなぜそんな人物を!?
とみるのが必然。
「十、と八。十八。先番は進藤君ですね。では、副将戦は林日煥イム・四段が先番。三将戦は社清治初段が先番です」
しばし会場に開始の合図が響き渡ってゆく……

北斗杯会場、廊下。
「…倉田さん!あのオーダー!あれはどういうことですか!?
  そりゃ、棋院関係者は進藤君のことを知っていますけど!周囲はそうはみませんよ!?
  進藤君を捨て駒にした、とみるでしょう!そして囲碁ファンは倉田さんを非難します!
  彼らは皆、塔矢行洋先生の息子が華々しいデビューを飾った。というのを期待してるんですよ?!」
対局場から検討室にと向かう倉田をつかまえて思わず問いかける。
「・・・は~。渡辺先生。塔矢行洋の息子、じゃない。塔矢明は塔矢明。です。
  もう彼もこうして国際棋戦デビューです。いつまでも塔矢先生の息子としかみないのは塔矢にも失礼でしょ?」
倉田の言い分は至極もっとも。
「いや、でも、しかし!話題性、というものが~!」
そもそも棋院もほとんど出資者などからの善意で賄っているところがあるがゆえにどうしてもそちらを優先したくなる。
「それに、です!進藤君には表だっての実績はプロになってまだありません。
  世間は実力は塔矢明のほうが上なのになぜ!?とみるでしょう」
「そうでないのは渡辺先生だって知ってるでしょ?」
事実、棋院関係者はヒカルが院生時代のころからの棋力をしっているのでわかっている。
いるが……
「それに、です!もしこれで塔矢君がまけたら、囲碁ファンの落胆は激しいですよ?
  せこい小細工をして一勝一敗。優勝を逃した。って!真正面からぶつかっていれば仕方ない。
  とみなおもうでしょう。が、しかし、これじゃぁ……」
どうもきいていていらいらしてくるのは気のせいか。
これだから頭のかたい年齢がいっているものは。
とおもってしまう。
「だ・か・ら!何で進藤が負けることを前提にしてるんですか!?」
「可能性の高さを、私は…進藤君は大会は若獅子戦しか……」
「あのね。進藤のほうが勝算あり、とみて進藤を大将にしたんです。
  3-0のストレート勝ちだって考えてますよ。オレ!その時は渡辺先生にステーキおごってもらおうかな!」
いいすててそのまますたすたと検討室にとむかってゆく倉田の姿。
「倉田さんっ!…おごれるものならばおごりたい。喜んでおごりますよ。私だって……」
そんな倉田をしばしながめつつ呆然とつぶやく渡辺の姿がしばし見受けられてゆく。

「…やれやれ。あのレセプションでのトラブルがずっと尾を引いていたとは…予測はしてたけど・・・」
「それで、進藤君が大将になったのか」
「ええ」
「熱いな~。ま、彼らしいか。彼にとって秀策とはsai同様、尊敬するに値する人物のはずだし」
楊海ヤン・ハイ安太善アン・テソンが会話をしている最中、検討室にと遅れてはいってくる倉田。
「ん?お、倉田遅かったな」
「・・・よし。進藤、昨日に続いていつもの調子だ。うん、立ち上がりも問題なし」
すばやくモニターをみて状況を確認しつつも椅子にと座る。
「しかし、倉田。お前おもいきったな~」
「でもさ。楊海。進藤はきっとこの一局でさらに成長する。それがわかったら戦わしたくなんねぇ?」
「おま、たのむからあいつにあれ以上実力つけさせるなよ~!ま、気持ちはわかるけどな」
しょせんは囲碁バカ。
棋力というか実力があるものは伸ばしてどこまでのびるかみてみたい。
というのが心の底にある。
「さて。今日の一戦、楽しみだ」
どんな碁を全員がみせてくれるのか。
それがとても…楽しみでしかたがない。
進藤は昨日のような落ち着いたそれでいて果てしない強さの一角をみせてくれるのか。
塔矢もどんな碁をみせるのか。
そして社。
昨日もいい勝負をした。
今日こそは一勝くらいはさせてやりたい。
しばしそんな会話をしつつも、検討室においてそれぞれの国の団長、そして関係者はモニターを凝視してゆく。

『ほ~。わざとなのか本気なのか。形が悪い手を平気でうってきてますね~』
ヒカルの背後で一局をみつつそんなことをつぶやいている佐為。
今日はヒカルの肩に手をおくことなく、横にて見守るつもりらしい。
手にした扇で口元を隠しつつもそんなことをいっている姿があったりするのだが。
その姿はヒカルの視界にしか映りこまない。

「渡辺先生。なぜ進藤君が大将なんですか?お客さんからは不満の声があがっています。
  中には大将戦を捨てる作戦だろう、という人もいましたがそうなんですか?」
大盤解説場に向かう最中、今回の大会の主催者というか責任者にと呼びとめられる。
「ちがいます!」
それだけは断じてちがう。
なので即座に否定する。
「策を弄してもし三人とも惨敗、ということになったら……」
なおも決めつけていってくるそんな彼…戸刈に対し、
「まってください!戸刈さん!ちょっと一方的にあなたっ!!何か韓国に勝てない、ときめてかかってますけど!
  いいですか!?倉田さんは塔矢君より進藤君のほうが勝算ありとみて大将にしたんです!
  そりゃ、彼の知名度というか世間の認識度は果てしなくゼロですが!
  彼の実力ははっきりいって塔矢君よりもはるかに上ですよっ!
  彼はネットで中国NO1の王星ワンシンにすら勝ったこともあるんですからっ!
  それに!今回の韓国戦。三戦全勝することも考えていますよ!私は!」
日本国内でしか知らないが、たしかに塔矢明も進藤光もたしかに高段者よりもレベルは上。
確実に。
だが世界に通用するかどうか…といえばよくわからない。
だけどもいわずにはいられない。
たとえ知名度がなくても実力がある子はいるのだ、と。
「…?ワンシン?だれです?それ?」
名前をいわれても囲碁界知識ゼロの戸刈には意味がわからない。
NO1とかいわれてもその意味ものどおりがいかないのも事実である。
「まあ、いい試合になってくれればそれはそれで結構です。時間をとらせてすいませんでした。
  もう少ししたら大盤解説ですね。今日もよろしくおねがいします」
いいつつもその場をあとにしてゆく戸刈。
本当に彼のいうとおりになればいいが、という不安はあるものの、
自分たちでは囲碁のことなど何もわからない。
だがしかし、勝算あり、というのだからもしかしたらそうなのかもしれない。
そう多少きたいしつつも自分は自分で責任者としての仕事にもどってゆく。
……大盤解説…か。
会場の外から中をみればほぼ満員御礼。
先日、韓国で高永夏が塔矢行洋と一局うったことが週刊碁で紹介され、
それゆえに父子対決みたいな感覚でお客の入りは上々。
ゆえにお客さんは何よりも大将戦よりも塔矢君の副将戦の解説を望むだろう。
それはわかる。
だが…しかし…
私はやはり進藤君のことも世界に知ってほしい。
塔矢明と同等、それ以上の力がありながら知名度がほぼなきに等しいせいで使い捨て。
とまでいわれるのは口惜しいことこの上ない。
ゆえに決意して大盤解説をするステージにと上がってゆく渡辺の姿。

「え~。今日の日本チームのオーダーには、きっと多くの人が驚かれたとおもいます。
  塔矢明君と高永夏君。囲碁ファンの方々はきっとこの二人の勝負をみてみたい、とおもうでしょう。
  しかし、倉田先生は進藤君のほうが相性がいい、とみて進藤君を大将に据えてきました。
  彼の実力は私は彼がプロになる前、院生のころからしっております。
  当時よりプロを圧倒する力をもつ無名の子ども。塔矢君とは対局にいた才たる才能の持ち主。
  私は倉田先生の読みはまちがっていない。と確信しています。
  現在のところやはり黒が倉田先生のよみどおり、よい形をなしています。
  が、白もこのままではいかないでしょう。この一局はみなさん楽しみにしてくださっていい!
  彼がまだ初段なわけは不幸にもプロになりすぐ原因不明の病にて倒れ一か月近くも昏睡状態に陥り、
  そのために彼は不本意ながらも二か月近くも入院するはめにとなってしまいました。
  それゆえに昇段のために必要な対局試合の点数が足りないためであり、
  決して実力がおとっているわけではありません!
  しかし!彼の実力は我が日本の桑原本因坊、緒方十段、そして塔矢行洋元名人。
  とした花々しい方々が後押ししているのも事実です!塔矢明、社清春。
  この二人の対局も気になるところですが、この大将戦を中心に大盤解説を始めさせていただきます」
大盤解説が始まる前の挨拶において彼は決して使い捨てではない、といっておく。
この会場の中にいく人彼を使い捨てとみているのかはわからない。
だけどもいわずにはいられない。
彼もまた塔矢明とどうように注目されてもおかしくない若手棋士だ、ということを。
「では、渡辺先生、初手からおねがいします」
ざわざわとする大盤解説の会場にて、初手より大盤による解説が渡辺達によってなされてゆく……

……こいつ…できるっ!!
先を先を読んでくる。
はたからみればたしかに悪手にみえても先をよめばそれは生きてくる。
しかし、その先を読まれてすぐさま殺されてこられては……
わざと挑発しようと誘いこむためにと手をおいてもそれすら見極められてしまう。
先読みは自信があった。
誰よりも。
が、こいつは今まであった誰より…こいつは予想以上!
この感触は、少しまえ韓国棋院で対局した塔矢行洋とおなじ感覚をうけざるをえない。
迷うことなく一手を打ちこんでくる。
それもこれ以上ない、という場所に。
おそらくすべての形の予測をたてて、最善であろう一手の場所へ。
……敵、いや、対戦相手に不足、なしっ!
ぱしっ!
気合をこめた一手。
勝ち負けはどうでもいい。
が!
こいつには勝ちたい。
自分の力を…試したい!

「…若先生を副将にしやがって!倉田のやろ~!」
「北島さん!」
解説場で毒づく仲間をたしなめる。
「若先生の碁は今どうなってるんだよ。甲斐節がないとどっちがいいかわかりゃしねぇ。ちっ!」
たしかにモニターには三面とも示されている。
しかも巨大モニターにもそれぞれ三局の盤面上が示されており、誰もが見れるようにはなっている。
つまり、いいかえればモニター画面、盤面をみただけでは北島にはそこまで詳しくわからない。
碁をうてるとはいえそこまで力があるか、といわれれば彼はそうではない。
しょせんは趣味程度。
ゆえにこそ、詳しい解説がないとよくわからない。
碁会所にいりびたっていても強いものと弱いもの。
その差ははっきりしているのだから。
アマの段位者とてプロ棋士の碁をすべて理解できるか、といわれればそうではない。
それとおなじこと。
「それにしても、日本の選手三人は三人ともレベルが高い!
  進藤君は以前うちの碁会所で秀英とうったことがあるので知ってはいたが…
  まさか他にもこのような打ちてが日本にいたとはっ!
  しかし、あの進藤君にあの永夏がいまのところ手も足もでていない、とは……」
それすらも驚愕である。
そもそも今の高永夏は人気も、実力も韓国でNo1といっていいほどにうなぎのぼり。
その彼が手も足も今はでないでいるのだ。
「ええ。進藤君は実力がありながら周囲の環境のせいか囲碁界における知識もさっぱりな子供、でしたからね。
  院生すら知らなくて塔矢君が教えて無理やりにプロの世界にひっぱりこもうと画策したくらいですから。
  もっとも彼の性格を利用してプロ世界にひっぱりこんだんですけど。
  まあそんなことは一般には知られてないでしょぅしね。
  中国も韓国も今まで日本に注目していなかったぶん、驚いているでしょうね。
  それに社君、ですよ。プロになって間がない、とはおもえません。
  しかも彼、この国際大会がはじめての公の公式戦ですよ?」
椅子に座りつつもそれぞれに会話をしているリュウユン
「ほぉ。それはそれは。社清春、ですか。今後が楽しみな子ですね」
「ええ」
そんな会話をしていた二人の背後にすわっていた男性がそっと席を立ちあがる。
二人は日本語で会話をしていたので周囲の人も理解は可能。
日本に長くすんでいるとどうしても日常会話が日本語になってしまっているのはそれはもう癖である。
「この黒のキリ、ですね。これに白がうつてがない。この石をとりにいこうとすると……」
そんな解説が彼らが会話をしている中、ステージ上ではなされているが。
そのまま誰とも口をきくことなく部屋をあとにし出口へとむかってゆく。
と。
「やれやれ。やっとつきおった。どこまですすんだんやろか……」
いいつつも、ふとすれ違った男性の姿に気づき。
「・・・え!?清春のお父さんやないですかっ!」
驚きのあまり思わず振り向き立ち止まる。
「ああ、たしか清春の師匠の吉川さん」
息子をつれていきなり家にきたときには驚いた。
彼には才能があるからぜひとも弟子にして鍛えさせてほしい、といったときには。
彼には才能があるから、と。
埋もれさせてしまうのはもったいない、としつこくいってきたのは記憶にあたらしい。
それと息子の根気にまけてしぶしぶそれを許したのは数年前。
「以前、一度会うたきりですのに、覚えてくださいましたんか!いやいやいや。そんなことより!
  わざわざ見にきてくれはったんですか!?清春がよろこびますわっ!」
社の家族はいまだに彼がプロになったことを認めていない。
ゆえにこうして父親がこの場にきてくれていることがとてもありがたい。
「……わざわざきたわけではありません。ちょっと東京に用があったので、ついでにのぞいてみただけです」
その用というのがこの息子の大会なのだが。
国際大会というので気にはなった。
ゆえに少しのぞいてみただけ。
囲碁のプロというものはそんなものまでもやっているなど彼は知らなかったのだから、
息子が日本代表として出場する、といわれたときには母親ともども驚いたものである。
まあ、そのあたりはヒカルの家もほぼ同じなのだが……
「ついででも何でもかましまへん!私、清春の碁を集中してみたいよって検討室やなく解説場のほうにきたんです。社さん」
「失礼」
どうやらこのままいけばそのままこの場につかまりそうな雰囲気である。
いまだに自分の中で息子が棋士になることに納得できないでいるのに話しをきくゆとりはない。
「息子さんが棋士の道を歩くことにまだ反対してはるんですか!?
  応援してやったらよろしいやないですかっ!清春は将来有望ですでっ!」
吉川の言葉は本音。
というか彼はまちがいなく世界に名前を知らしめる棋士に育つのは確信。
だからこそ、いわずにはいられない。
家族に同意してもらえないなんてこれ以上さみしいことなどは…ないのだから。
「……では。囲碁界の将来はどうなんです?」
「え?」
いきなり切り返しのように問われ思わず間の抜けた声をだす。
「私は。私の周りで碁のうてるものはほんの数人しかしりません。
  清春にいたっては今まで友達に碁の打てる子は一人もいませんでした。
  そんな現状ではこの先、囲碁のプロ組織もあやうくなってゆくのではないですか?」
まあ、一般的に囲碁の知識というのはその程度。
が、しかし、熱中しているものもいる、ということをこの父親は知らない。
「そんなことは…」
「親が願っているのは子の幸せです。失礼します」
そのままみもふたもなくすたすたと歩き出す。
だが、彼も矛盾に気づいている。
彼もかつて、やりたい仕事があった。
それを親がゆるさずに普通の仕事についた。
そんな不安定なこと、しても将来大変なことになる。
今の世はとにかく安定したサラリーマンになり、安定した家庭を築くことが大切だ。
といわれ。
自分も親になり、そのときの親の気持ちがわかった。
そんな親を振り切って自分の道を進んだ息子を誇らしくおもわないわけではない。
ないが、囲碁界のことを知らないがゆえに不安になる。
そもそも、日本に棋士が、世界に棋士が何人いるかなんて彼はまったく知らない。
まあ、知っているものもほとんどいないだろうが……
トップにたち話題にたつものはどうしても弱肉強食の中では一握り。
その一握りにはいらないものは平凡な人生を歩むほかはない。
今の世の中はその平凡すら一気に崩れてしまうご時世なのだから。
「・・・ふぅ。あいたた。いう感じやな」
とりつくヒマもない。
とはああいうのをいうのかもしれない。
それでも、少しでも見に立ち寄ってくれただけでも多少の進展、とおもうしかない。
まだ、時間はたっぷりとあるのだから。
溜息を盛大につき、とりあえず弟子の初舞台をみるためにと吉川は会場の中にと入ってゆく。
どうして息子は囲碁なんてマイナーすぎるものに興味をもったのか理解不能。
学校帰りにどこかによってお菓子などをもらっているのはしっていた。
てっきり友達の家にたちよっているとばかりおもっていたのに碁会所などといった怪しいところに通い…
さらには……
「・・・ふぅ……」
だからこそ溜息をつかさざるを得ない。
そんなことをおもいつつもロビーを歩く。
と。
「あ、すいません。北斗杯の受付はどこか御存じないでしょうか?」
きょろきょろ。
何とか時間をもらい顔をだした。
ホテルの人々も何だか忙しそうできくに忍びない。
ゆえに聞きやすそうな同じサラリーマンっぽい人物にと声をかけた。
「この先。ですよ。…?…進藤?」
問いかけてきた男性の胸には【進藤正夫】というネームプレートが胸元にとつけられている。
「もしかして、進藤光君のご家族のかた、ですか?」
いきなりいわれて、そのときに社員証をつけたままであることにふと気付く。
「あ、社員証をつけたままでした。ええ。進藤正夫といいます。おたくは?」
あわてて社員証をポケットの中にとしまいこむ。
このご時世名前をさらしてあるくのはかなり危険であるということくらいいくらのんきな正夫とて理解している。
たまたま今日は近くの会社で商談があり、時間がもらえたので立ちよったにすぎないのだ。
「社、といいます」
「ああ!息子と一緒に選ばれた、社君のお父様ですか。…もう、お帰りなんですか?」
どうやらこちらにむかっている、ということは帰るところ、ということなのであろう。
「ええ。私は囲碁に詳しくないのでみていても意味がわかりませんしね」
「ははは。それは私も、ですよ。私も妻も囲碁のことにはさっぱり。知識も皆無ですしね。
  今回の日本代表に選ばれた、というのも寝耳に水でもう何が何だか。
  何しろうちの周りでは、私の仕事場においても一人として詳しい人はいませんし。
  うちで唯一やるのは私の父がすこし道楽でたしなむ程度ですしねぇ。ははははは」
ぴた。
思わず正夫の言葉に帰ろうとしていた足をとめる。
「…あなたも、囲碁に詳しくないのですか?」
「ええもう、さっぱり。意味不明で。
  そもそも囲碁なんてものは年寄りのするもの、とおもってましたし。息子がどうして興味をもったのか。
  そうだ、せっかくですし、そこのロビーででもコーヒーでもいかがですか?」
「……そう…ですね」
囲碁に興味もなく何もわからない。
それは、自分たち家族にも当てはまる。
ならば意見をきいてみるのも…悪くは…ない。

「よろしければパンフレットをどうぞ」
「ああ、ええええ。ほぉ、お客さん、ようけきてはるな」
いいつつも会場にはいってゆく一人の男性。
もう。
何だかパンフレットがもったいないわ。
声をかけてもいらない、というひとが結構いる。
何でいらないっていうのかしら?
そんなことを思って多少むくれてしまう。
まあ関係者であればそんなものは必要ないのであるが。
しかしぱっと見た目だけで関係者なのかどうかはわからない。
「え~と…清春は……」
うんうん。
悪くない。
初めての大会が国際大会なんて大きなことになり心配していたが、気負わずいつもの碁がうててるやないか。
モニター画面をみつつほっとする。
「…アクセス数、以外と多くておどろいたよ。俺」
「ネットでの碁の対局なんか流したってみるひといるのかっておもったけど」
「おもったおもった」
しかも世界各国からアクセスはサッサうしている。
そんな会話が聞こえてくる。
「…囲碁界の将来も、そう悲観したもんでもないかもしれへんな」
ぽそっと思わず独り言。
それにしても、清春のやつ、この大舞台でがんばってる。
ホンマ、大したやっちゃで。
他の二人は……
「……え?」
まっさきに社のモニターだけをみていたので他の二人の名前もモニターもみていない。
ゆえにこそ映し出されている文字をみて驚かずにはいられない。
大将…進藤やて!?
倉田君、これまたえらいおもいきったことしたなぁ~。
おもわず内心そんなことを思う吉川。
つ~か…進藤君、高永夏相手に今のところ圧勝してるし……
アレでホンマに師匠がおらん、いうんだからごつ~こわい若棋士だな。
進藤君は。
塔矢君は塔矢君でいつもながら…いや、それ以上の力をみせとるし。
何だ神田いってもこんな棋士たちが育ってるやないか。
なぁ!
社のお父さんの心配もわからなくはない。
ないが、そう簡単に囲碁の組織がこわれることもまずはない。
そう、おもいたい。
少なくとも私には囲碁界の未来が暗い、なんておもわれへん!
しかし…進藤君…末恐ろしいやっちゃで……
相手の先を、先を読んでいる。
時間は相手の高永夏がほぼつかっている状態で、進藤光のほうの対局持ち時間はそうへっていない。

「北斗杯の大盤解説会場はこちらかな?」
声をかけられてそちらをみれば何となく落ち着いた感じのそれでいて近寄りがたい雰囲気の男性。
結構やっぱり囲碁だから年配の人がおおいのね。
そんなことをおもいつつ。
「はい。パンフレットです。どうぞ」
にっこり笑ってパンフレットを差し出すものの、
「いや、いい」
いってそのまま会場の中にその人物ははいってゆく。
「…もうっ」
何でみんないらないっていうのかしら。
選手の説明とか会社の説明とかスポンサーとかのってるのに。
そんなことを思いぷうっとほほを膨らませる受付の北斗通信システム所属の女性。
会場をのぞくとほぼ同時。
「これは!白、ひっしの反撃!少しは白が息を吹き返したかにみえますが……」
解説者の渡辺の声が会場に響き渡る。
「反撃しようとした手を封じられてしまいましたね。おそらくここにうち、こう、と高永夏選手はよんだのでしょうが」
何やらそんな解説がなされている。
「…進藤…君?大将戦に…進藤君?」
たしかにありえないことではないが。
しかしあの高永夏相手におもいっきりかっている。
以前彼と打ちあったことがあるがゆえに彼とて永夏の棋力はわかっている。
「しかし、白もまだ負けっぱなしではありません!面白くなってきました!」
白がどうにかしてあがいているのがモニター画面からもみてとれる。
しばらくその局面と、他のモニターをざっとみる。
と。
「ん?」
「おい。あれ」
「え?」
「あ」
ふと振り向いた男性がその姿に気づき声をあげる。
「塔矢行洋だ」
ざわっ。
「本当だ。塔矢行洋だ!」
入口にたつその姿をみて会場にあつまっていた人々がその姿に気づき騒ぎ出す。
「え?塔矢先生!?」
おもわずガタっと椅子についていたその身を半分おこす吉川の姿も会場の一部にみうけられるが。
「え?」
ざわざわ。
何やら会場が一気に騒がしくなってゆく。
「ん?どうかしましたか?…って、塔矢行洋先生!?」
会場が騒がしいので彼らがみている方向をみればそこには彼らがもっとも尊敬している人物の姿が。
ゆえについつい口にだして叫んでしまう渡辺の姿。
ざわっ!
その声に会場にいた全員が気づき、いっきに後を振り向き出す。
「せ、先生!とにかく、こちらへ!」
つい渡辺が名前を口にしまたったことにより、会場内部は大騒動。
すばやく立ち上がった吉川があわててそんな行洋のそばにいき、行洋をすばやく会場の外へとつれてゆく。
「イカンな。…あ、吉川さん」
騒ぎになったのをうけてひっこもうとしたところ、ちょうどジャストタイミングで吉川が促してくる。
「先生。こっちへ」
いわれるままにひとまずその場をたちさる行洋。
「…え、え~。こほん。失礼いたしました。先生は検討室のほうへいかれるとおもいますので。
  では、続きを……」
会場からはそんな渡部の声がきこえてくる。
「あ!あれは!」
「塔矢行洋だよ!」
ふと廊下を歩いてきたひと組の男性が行洋に気づいて声をあげるが。
「塔矢先生。塔矢君の国際戦の初陣を見にきたのですか?」
とりあえず大盤解説場の受付の横に移動して行洋にと質問する。
何だか話し中なのでサインをねだろうにもねだれそうにない。
しかたなくしばし先ほど声をあげた男性たちは会話が終わるまでそこでまっていたりするのだが。
何しろ有名人にあえる機会などは…そうはない。
「明だけではないよ。みんなのを、ちょっとね」
そんな会話を耳にとはさみ。
「?塔矢?ああ、もしかして塔矢明君のお父さんですか?」
どうりでパンフレット、この人さきほどいらないっていったんだ。
そうようやく納得し、ぽんっと手をたたく受けつけの女性。
「君。検討室はどこかな?」
そんな彼女に行洋がといかけるものの。
「あ、先生。それなら私が案内しますよ」
かわりに横にいた吉川が申し出てくる。
「あの~?一応関係者以外はご遠慮ねがっているのですが……」
そんな二人の会話に戸惑いつつも口をはさまずにはいられない。
そんな彼女のセリフに目を丸くし、
「君。大会の運営係りなのに塔矢先生をしらんのか?」
そのほうがかなり驚きである。
目をまるくしてといかけてくる塔矢明の父親と話している男性の言葉にさらに意味がわからずに首をかしげる。
政治家か何かなのかな?
などと見当違いなことをおもっていたりするのだが。
「…はぁ。ま、いいわ。私は清春の碁をゆっくりみたくてこっちにきてたんですけど。案内しますよ。先生」
「ああ。そういえば吉川さんは社君の師匠でしたね」
「はは。弟子の初陣をみにきましたわ」
「・・・???」
関係者…なのかなぁ?
でも検討室しってるし。
そもそも師匠って?
会話をきいても彼女には意味がわからない。
でもま、家族だから別に問題ないのかな?
検討室もしってるようだし。
ふつう騒ぎになってはいけないので検討室の場所は一般には教えてはいない。
「あの、ご案内しましょうか?」
「あ~。連絡もらっとるから大丈夫。しかし君。主催者側なんだから、少しは囲碁のこともしっとかないと。
  塔矢先生を知らないっていったら世界から馬鹿にされるよ?」
それはあるいみ事実である。
囲碁に興味がないものでも名前はよく耳にしていたはずなのに。
「吉川さん。私はもう引退してるんですし」
そんな彼の言葉をさえぎるように行洋はいってくるが。
「引退されても先生は、まだまだ世界の塔矢行洋先生ですよ。さ、こっちです」
「???」
そんな会話をきいていても、受付の女性…相川には理解不能。
立ち去ってゆく二人の人物をみつめつつ、
「何?もしかして塔矢明君のお父さんってば芸能関係の人とかなのかな?あんなひと、いたかな~?」
…どこかずれている相川である……

「!塔矢先生!?」
「え?」
「塔矢先生!」
おもわずガタン、とその場にいた全員が席を立ちあがる。
みれば扉からはいってきたのは塔矢行洋と、そしてもうひとり。
「邪魔するよ」
「んでは、私は大盤解説場にもどりますね。あっちでゆっくりと清春の碁をみますわ」
「ああ、ありがとう。吉川さん」
何やら案内をしてきたらしいもう一人の男性がふかく頭をさげてその場を立ち去ってゆく。
「塔矢先生…と、もう一人はだれ?」
楊海の至極もっともなつぶやきに、
「社の師匠の吉川先生」
一応丁寧に答えている倉田の姿。
「へ~」
「先生。中国からはいつもどられたのですか?」
いいつつも席を全員たちあがり、モニター前のイスをさっとひく。
「先生、どうぞこちらへ」
「向こうでちょっとバタバタして予定より一日、帰国が遅れてね。昨夜帰宅したところだよ」
一度家にもどりそのまま家ですこしばかりゆっくりして朝早くまた妻と一緒にこのホテルにとやってきた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
席を進められて素直に椅子にと座る。
この場にいる誰もが塔矢行洋にあこがれと尊敬の念を抱いている。
ゆえにどうしても態度にも表れる。
それほどまでに世界の棋士にとって塔矢行洋、という存在は大きい。
「それより。進藤君が大将とはね。たしかに彼は棋力でいうなら明より上をいっているが。
  しかしおしいかな、明と比べて彼はまだ経験が足りないが。おもいきったことをしたな。倉田君」
それでも惹かれるものがあるのも事実である。
それに何より…かのものと道をつなぐことができるのは、彼しかいない、というのもある。
「ん~、色々ありまして」
たしかにヒカルがいってこなければそのまま塔矢明を大将に二回ともしていたであろう。
そしてまた、韓国の選手の言葉に奮起してヒカルがここまで変化しなければそんなことは思いもしなかった。
「いや。おもしろいとおもうよ。昨日の日中戦の棋譜をみるかぎり、進藤君はさらに一皮むけている。
  …私もうかうかしていられないな。とおもったほどにね。今も永夏君相手に検討してるしね」
何かの変化があったのは棋譜をみれば一目瞭然。
その変化が何か、まではわからないが。
もしかしたら、ともおもう。
だけども自分では何もわからないのだからどうにもならない。
だからこそ、妻・明子を伴ってやってきた。
その当人はこのホテルの売りという露天風呂とエステにとっといってしまったが……
「ええ。白、必至にくらいついてるってかんじ、ですよね」
行洋のセリフにうなづく安太善アン・テソン
「黒もまけてない。というか余裕をもってもいいのに勝負にでてるし」
何しろいきなりさらに白を切りこんでいる。
「しかし、日本チームは皆予想外の強さでしたよ。うちのルーリィは昨日、先生の息子にやられちゃいましたしね」
まあ、彼の噂は知ってはいたが、実力をみるのはこれがはじめて。
明の棋譜はすでに出回り始めてはいるが何せプロになってアキラもまだ二年目になったばかり。
そんな楊海のぼやきとも何ととらえていいのかの台詞にこたえることなく、
「…明は…激しい碁になっているな」
モニターをみつつつぶやく行洋。
みればもはやもう力勝負にもつれ込みまくりちょっとしたおもしろい状況となっている。
「塔矢も日煥イルファンもやりすぎなくらいですよね。
  迫力あるといえばあるんだが。テソン、お前は副将二人の手、どうおもう?」
「厳しく迫れば反動も厳しい。私にはちょっとうてませんね」
検討室においてはモニターをみつつ三つ碁盤をおき、そこにそれぞれの対局を並べていっている。
行洋が座ったのは息子であるアキラの盤面が再生されているその横の席。
「進藤君はネットで視知っているからともかくとして。塔矢もそうだが、イルファンもたいしたタマだな」
こんな国際戦でこんな戦いにもつれこむなどとは。
「ええ。選手三人の中では一番喧嘩好きですからね。
  今は永夏のほうがランクの上目立ってますが、この先彼の巻き返しは十分あるとおもいますよ」
にこやかにいってくる韓国団長・安太善のセリフに、
「くやしいが、日煥イルファンの実力は十分に承知してるよ」
そういわざるを得ない中国団長・楊海の姿。
「塔矢先生。どうです?イルファンをみていると韓国の若手で怖いのは高永夏だけでないってことを思い知らされません?」
韓国で行洋が若手の棋士でうちあったのは永夏がはじめ。
ゆえにこそ多少の意図を含めてといかける。
「だが、この一局は明の勝ちだとおもう」
きっぱりはっきりとそう断言。
「え?何で何で?」
倉田もどうしてきっぱりいいきるのか理解不能。
いくら親の欲目とはいえきっぱり断言するなどとは彼にしては珍しい。
「なぜなら、明は進藤君が絶対!に永夏君に勝つと考えている。そしてこうも考えている。
  ならば自分も副将の林日煥イム・イルファンに負けるわけにはいかない。絶対に!と」
行洋の読みはまさに、その通り、である……
さすがに親子というかこの二人はよく性格は似通っている。
感情には出さないが熱さは二人とも同レベル。
それを父親である行洋はよくわかっているのである……
しばし、行洋を含めた彼らはいろいろな検討をかわしつつも検討室において観戦してゆく――


                                -第78話へー

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あとがきもどき:
薫:うにゅ。棋院サイトさんみてたら竜星さん決勝戦。九月らしい。ふみゅ。
  九月二十六日ねぇ…メモメモ(メモ代わりに記載さん)
  とりあえず、昨年の竜星さんはヒカルは医者からドクターストップかかったことにしておこう(笑
  いあ、何しろ全棋士による勝ち抜き戦トーナメントだし。
  一手三十秒以内という規則だし。
  まだ通院途中のヒカルに対して医者が負担になることはさせないとおもうし(まて
  そのときヒカルは棋戦とかいうのをわかってなくて早碁の手合いとおもってたという感じかな?
  さて。んでは例のごとく小話、いっきます♪


『しかし、ヒカル?お祝って…私には何もできませんよ?』
「いいの♪」
というかこうして佐為と二人っきりでお出かけする、ということが意味があるのである。
伊角との対局のあと、なかなか心の整理がつかなかったが。
佐為、そしてアキラのおかげで何とか持ち直した。
結果はプロ試験、一敗にての合格。
プロ試験がおわったのは九月の半ば。
それにそろそろヒカルの誕生日。
「お母さんがね。今年は私の好きなものかいなさいってお金くれたし。佐為も一緒にえらんでね?」
ヒカルももう中学生。
というか今月の二十日で十三歳。
母親は試験をうけていることを聞かされてもどうせ落ちる、といった感覚で事後承諾したのだが。
まさか、うかるとはおもっていなかったらしい。
ゆえに、囲碁界に詳しいという明子夫人に今日は朝から話をききにいっている、とのことらしいが。
九月十九日の日曜日。
そんな会話をしつつも駅前通りをあるいているヒカルと佐為。
もっとも、周囲からは女の子が何か独り言をいっている、としかみえないが。
『でも、いったい何をかうつもりなのですか?』
「んふふ。えっとね。佐為とおそろいのもの♪」
『おそろい?扇ですか?』
佐為のおそろいとすればいつも手にしている扇であろうか。
でもそれならば棋院でかったほうがはるかに早い。
「違うよ。佐為。前その耳のピアスの意味おしえてくれたでしょ?」
『ああ。今の時代はこれ、ピアスというらしいですねぇ。
  私の時代では子供の健康を願って親が子にはめこんでたのですが』
というかそんなことは史実にはのっていない。
知られればその効力がなくなるから、というので絶対に資料などには残さなかったらしい。
かの時代は陰陽道がかなりさかんであった。
そんな人々の意見となれば都人としても無視はできなかった、というのもある。
「それって、中国からきた人から佐為のお父さんが購入して佐為にくれたんでしょ?」
聞けば佐為は昔、体がよわく、それゆえに仏教などにおいても盛んだという使者にとたのみ、
そしてまた陰陽師にもお伺いをたててその石を購入したらしい。
実際は購入でなく贈答品扱いで無料で佐為の父親はもらったのだが。
『ら、しいですね。私は父と会話をしたことはほとんどないのですが』
それでも息子が天皇の囲碁指南役になったのを何よりも父親は喜んだが。
「佐為のその石ってきれいだな~、とずっとおもってたの。だから。
  私も付けれる年になったらつけたくて。最近、アカリのお姉ちゃんがいってたけど。
  ピアスとかってだいぶ安くなってるんだって。あ、ここだここだ」
そこには、ジュェリーショップ、とかかれている。
銀とかだと人によっては体質であわないひとがあるから、買うならプラチナか金のほうがいいよ?
と一応意見ももらっている。
確かにヒカルは中学生ではあるが小柄な姿から小学生にみえなくもない。
それに、そろそろ母親の誕生日も近い。
ついでに母親のプレゼントを…とおもっているヒカルである。
『うわ~、何かすごいですね~、ここ』
入ると何か空気が違う。
何となくおごそかなイメージが漂う空間。
おもわずきょろきょろと周囲を見渡す佐為とは対照的に、
「いらっしゃいませ。何かおさがしですか?」
ヒカルがはいると、場違いな小学生にしかみえない、というのに定員が声をかけてくる。
「あ、はい。えっと。母の誕生日プレゼントをさがしてるんです。あと、赤い石の小さなピアスを」
「お母さまの誕生日は今月ですか?来月ですか?」
「来月です」
どうやらかうきの客らしい。
ゆえにこそ質問にも力がはいる。
こういう客はいいものをあたえれば母親つながりで他の客もつく、というもの。
「それでしたら、オパール、またはトルマリンですね。それか星座の石というものもありますよ?
  御予算はいくらくらいですか?」
「そんなにたくさんもってないんですけど…知り合いがいまならだいぶ子供でも買える金額のがあるよ。
 と幼馴染のお姉さんがいってたので、みにきてみたんです。できたら金かプラチナで」
「そうですね。ではこちらへどうぞ」
小学生にみえても客は客。
というか最近の子どものほうが下手な大人よりもお金はもっている。
そのことをこういった場の定員はよくわかっている。
佐為とおなじピアスの石、あればいいな~。
女の子、というものは好きな人とお揃いであればそれだけで幸せな気分になれるというところがある。
いつもそばにいるのはわかり、心の中にともにいるのはわかってはいるが。
やはり形としてその証がほしい、とおもうのはやはりヒカルも女の子だからゆえ。
「このあたりがお手頃ではないでしょうか?」
逝って指し示されたのは確かに一万か、そこそこの金額の場所。
「どんな品にするかおきめになってますか?」
「えっと。赤い石のピアスのほうは、ほんの何の飾りもなくていいからただの石だけのが。
  あと、母の指輪のサイズはよくわからないから、ネックレスかなぁ?やっぱり?」
しばし、定員とヒカルによる品定めがその場において執り行われてゆく……

「ふふふ♪」
『今はわざわざ取り寄せなくてもいろいろとあるのですねぇ~』
昔は海外の品などはかなり貴重品だったというのに。
どうやら今の世はお金さえだせばすぐにいろいろと手にはいるらしい。
平安時代ではかなり貴重品といわれてみせられたヒスイなどもまさか簡単にうっている。
とはおもわなかった。
ヒスイで作られた置物などは当時はかなり貴重品だったというのに。
それは江戸時代においては何でも御禁制の品とかになっていたが。
ヒカルが求めていたピアスはそう飾りがあるものではなく、ほんとうに単純な石のみのもの。
なるべく佐為がつけている石とほぼ同じ大きさ、同じ色のを探し出した。
偶然にもぴったし同じ大きさの石がみつかり、それを購入したヒカル。
ちなみに石の大きさの確認は佐為にかごんでもらって照らし合わせての確認よう。
もっとも、定員からしてみれば石をかざして確認しているようにしかみえなかったのだが。
小さな石でも色は濃いい。
母親のネックレスもちょうど資金内でいいのがあった。
あとは来月の誕生日に母親に手渡すのみ。
『そういえば、ヒカル。今日はこれからどうするのですか?』
「ん~と。まだ時間あるし。佐為。どこかいきたいところある?
  いつもはお稽古ごとにいそがしくてどこにもいかれないし」
事実、週七日のうち、ヒカルは週五日は佐為が取り憑いたころからお稽古ごとをこなしている。
お茶にいけばなに着付けにピアノ、六年生ともなれば祖母の意見で英語教室にまで。
ヒカルが自らやってみたい、といったのはこのたび試験に合格した囲碁くらいであり、
ほとんどは親、もしくは祖母のいうがままの人生でもあったのだが。
学校がおわり、宿題をしてお稽古にいき夜になり家にと戻り佐為と打つ。
それがいまのヒカルの日常である。
珠算も一応習っていたのだが、近くにこれ以上教えられる場所がない。
というのでそれはしかたなく近くの高校に相談しそこに放課後通っていたりするこの現状。
何しろヒカルがかよっていた珠算教室はまあある程度は教えることはできても、高段にまでの知識はなく。
基本的なことは教えることはできるが、応用問題などにおいては少しばかり無理があったらしい。
ヒカルが院生順位がなかなか初期のころあがらなかったものそのお稽古ごとでおやすみしたりした。
というのもあるのだが……
何しろ珠算検定などはほとんど日曜日に行われる。
そのほかのお稽古ごとにおいてもしかり。
お稽古ごとなどは通いのものがほとんどだったので、融通がきくものは他の曜日にかえてもらったが。
それでもきちんと文句の一ついうことなくこなし、家の手伝いまでし、
さらにはどうにか時間の都合をつけては自分の時間をつくる。
現代におけるある程度のたくましさをヒカルは家庭環境から培っている。
何しろヒカルの母親はそれほど強くいわないのだが、祖母が情操教育面にかなりうるさく結局そのとおりに生活していた。
そんな中でヒカルは現実から逃れて自分の物語をつくることで心の平穏を無意識的にたもっていた。
そこに現れた佐為。
夢見心地のヒカルにとっては佐為の美貌は圧倒的で、ゆえにこそ彼の望みはすべてかなえてあげたい。
という思いもある。
「佐為とであってもう二年か~。何かあっというまだったね。佐為、これからもよろしくね?」
『こちらこそ。私はヒカルといることが好きですよ?』
「うん。私も大好き」
なにげないぐちも笑顔でうけいれてくれる佐為。
ときどきわがままもいうけども、それはお互い様。
一人っ子のヒカルが望んでも手にはいらなかった環境がいまは整っている。
このままずっと時がとまればいいのに。
とよくおもう。
それでも佐為とすごす日々はいつも新鮮で気付けばいつのまにか二年が経過。
小学五年生だったヒカルは中学生になり、そして今は囲碁のプロ試験まで合格した。
「ん~。じゃあ、どこかの碁会所にでもはいろっか。佐為、うちたいでしょ?」
『いいんですか?ヒカル?』
「このあたりはきたことないし。たぶん顔とかうれてないから佐為がうっても平気だよ」
たしかに、ヒカルではなく佐為がうてばすぐにうわさは広まってしまう。
そう、すでにネットで大騒ぎになっているように。
そんな会話をしつつも、二人して駅前通りを歩いてゆく。


ちなみに、この店のイメージ。
私の行きつけの宝石店です(笑
いくつかあるのですよvいきつけの店vふふふふふv
まあ、かえませんけど、目の保養、目の保養v
こわいことに中学のころから光ものがすきでみてたら、自然と目利き?ができるようになってて。
自然としかもよしあしがわかるようになってて…すきなればこそ、の典型さん?
ちなみに、今はオパールさん・・・希少価値というか発掘量がへってきてどんどん値上がりしてるらしいです(涙
うわぁぁん!私まだ指輪のウォーターオパール手にいれてないっ(涙
でもかなりそれも希少らしくなかなかない(しくしくしく……
ネット伝説saiはいまだにこの時期は健在です(笑
といってもヒカルのお稽古ごともあり、どうしてもはいれるのは夕方、もしくは夜、のみの限定。
もしくはお休みの日、となってますけどね(苦笑
ちなみに、この一年ほど前、アキラもプロ試験うけて合格している、という設定です。
saiのことを夏にしり、それで初日は原作ど~りにやすんでますが(まて
異なるのは家でうってたからネットカフェにおしかけ~というのがなかっただけv(だからまて
何はともあれではまた次回にて~♪

2008年9月30日(火)某日

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