まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

対局風景、ぜったいに表記してたら細かなミスなどですぎるとおもいますので、
ハネとか何とかいろいろと(笑
なのでそれらは割愛しております(かなりまてっ!
何はともあれいっきますv
佐為ちゃん、復活編第二陣v

北宋(960-1127)
中国にあった実際の国名。
花山天皇にしろ、一条天皇にしろ、その時期の中国さんはこちらですv
その少し前には唐があります、あしからずv

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名前を呼んだのはただの一度。
そのままあとは声にはならない。
そのまますがりつくようにと服をつかむ。
ひんやりとしたその感覚がとても懐かしく、また独特の彼独自のにおいが漂ってくる感覚。
佐為は霊なのでにおいなどはない。
そう当人もいっていたが、ヒカルは常々感じていた。
満月の夜の空気のような、そんな静かな穏やかなそんな匂い。
次に声をだしてしまえばこの幻が消えてしまいそうで、とても怖くて…
声にならないままにそのまますがりつくしかできない。
『ヒカル…いきなり逝ってしまってすいませんでした…でも、私はもどってきましたよ?あなたのもとへ』
さまざまなヒカルの想いが佐為にも流れ込む。
それゆえに、そっとすがりつくヒカルの髪をなでる。
別れたときから少しやつれている。
それが佐為がまずいだいた感想。
だけどもあのときよりもかなり大人っぽくなっている、というのもわかる。
子供というものは少し見ない間に急激に成長するものですよね。
「…佐為…本当に佐為…なの?」
むにぃっ。
「さ、さひ?」
いきなりヒカルのほほをむにっとつかみ、にっこりとほほ笑みつつ、
『ほら、しゃんとする!ヒカル。とりあえず泣いていては話もできませんよ?』
「だひゃらってほふひっぴゃるな~!」
だからってほほを引っ張るな!
そう言おうとして思わず笑みがこぼれ出す。
そういえば、佐為はよくこのようにして自分の意見がままらないとき、二人っきりのときにはちょっかいをかけてきていた。
それが佐為をさらに子供っぽくみせていたのだが。
懐かしいその行動。
ゆえにこそ、涙が、止まらない……

星の道しるべ   ~真実は夢幻のごとくに~

『うわ~!うわ~!すごい人、ね、ねっ!ヒカルっ!』
きらきら、そわそわ。
目をきらきらさせて、そわそわし、落ち付きもなくヒカルの肩に手をおいてそんなことをいってくる。
くすくすくす。
目がふと覚めればかたわらに、この一年ずっと求めてやまなかった姿がある。
それが何よりもうれしくついつい顔がほころんでしまう。
佐為に高永夏のことを伝えるかどうかは迷ったが。
だけども言葉にならなかったのも事実である。
『成長したヒカルの碁を楽しみにしてますよ♡ヒカル、私にみせてくださいね。あなたの碁を』
佐為に昨日、たしかにそういわれた。
佐為においつくために、おいこしたくて、認められたくて…今まで必至にやってきた。
永夏に対する怒りは胸の内に静かに今もヒカルの中に燃えたぎっている。
でも、それ以上に今は……佐為に褒めてもらえる碁を、一局を打ちたいから……
「緊張してないだろうな」
「ぬかせっ!」
何やらアキラと社がそんな会話をしているが。
『ヒカル?彼が社ですか?初手五の五をうってきたという?』
どうやら佐為はそちらのほうにも興味があるらしい。
一年もいなかったのにこうして今そばにいるとそれが嘘だったかのようにすら思えてしまう。
うん。
心の中で思っただけで会話が通じる。
昔はそれがやっかいで面倒だ、とおもったことはあるが、今はそれが何よりもうれしい。
「それならいい」
社の言葉をうけてアキラがそういい放つが、どうみても社は緊張しているように垣間見える。
『しかし、一年、ですか……みんな、かわりましたね……は~……
  しかし、この倉田という人は相変わらずのようですねぇ~』
ヒカルは佐為から不思議な空間にいたことを聞かされた。
その空間の中で一時ヒカルにもあった、といっていた。
自分が逝ったことを自覚していたがゆえにヒカルに自らの扇を託した。
自分のかわりにヒカルにあとを託してもらうつもりで。
ヒカルのもつ扇の中に自らがつかっていた扇の気配を感じて佐為は目をまるくしていたが。
もともとそれは佐為のもの。
ゆえに、佐為には扇がよく似あう。
扇の器に組み込んでいたそれを取り出し佐為にと戻したのが今朝がたのこと。
ちなみにその不思議な空間で石の持ち方を教わったらしい。
教わったのは子供でしたけど。
そういった佐為の言葉にふとヒカルの脳裏にあのときの不思議な女の子の姿がぱっと浮かんだが。
佐為はそれ以上はいわなかった。
といっても、佐為の姿が視えない存在と対局すれば、石が勝手にうごいているようにしかみえない。
つまりは、石がふわふわと碁笥からうかんで碁盤におかれているように映るのだ。
それはちょっと…視えているものならばともかくそうでないものには精神上よろしくない。
『ヒカル、ヒカル!あそこあそこ!』
…どうでもいいけど、お前、おちつけよ~
そう心の中で話しかけるがどうしても内心苦笑してしまう。
かわらないな。
それが何よりもうれしい。
戻ってきた佐為は以前と違い、ある程度はヒカルから離れることが可能らしい。
ゆえに対局場にはいるなり、物珍しさからか会場内部をいったりきたり。
そんな佐為を視ているとはらはらして緊張どころでは絶対にない。
しかも、すかっとさまざまな機材をすり抜けていればあせってしまうのも道理である。
どうしても、素通りするとわかっていても、ぶつかるっ!
とおもってしまうのは仕方がない。
それはひとの心理であるのだから。
「あ。中国チーム、もう来てる」
『中国?唐のものですか?あ、たしか北宋でしたっけ?』
どうも中国、といえば佐為の頭の中では唐の国、というイメージが未だに根強いらしい。
…いつの時代だ!いつのっ!
思わず佐為の言葉に思わず心に中で突っ込みをいれてしまうのは仕方ない。
ヒカルが一番後ろなのでヒカルの百面相に気づいているものはいない。
ゆえに塔矢にも社にもヒカルのそんな変化は気づかれていない。
最も、社は緊張してそれどころではないのだが。
『ねえねえ。ヒカル?この碁盤の上にあるコレ、何ですか??』
すかっ、すかっ。
碁盤の上に設置されているモニターカメラのようなものを不思議そうに見上げ、
手でてしてしとつかもうとするものの、おもいっきり素通りしている佐為の姿が目にとまる。
?何だろう?
ヒカルにも何なのかはわからない。
この場合はわかっていそうな人物に聞くのが一番、うん。
「テ…テレビカメラがはいってるんか?NHKやろか?」
会場の中をみわたしていくつもテレビカメラがあるのに気づきかたい声をだしている社。
「なあ、塔矢。あの碁盤の上のあれって何?」
とりあえず気になることをアキラにと問いかけるヒカルの姿。
「え?ああ、あれ?あれは盤面を映すカメラさ。大盤解説のモニターに映し出されるんだ」
朝からヒカルの雰囲気が…たしかに変わった。
昨日とも、そしてこの一年のものとも違い…しいていえば大海原のごとくに。
どこか求めていた何かを見つけたような…安堵の表情をしているような気がしなくもない。
そんな疑問を抱きつつもヒカルに説明してくる塔矢の姿。
…だって、さ。佐為。
『ほ~。こんな小さなものでそんなことができるのですか。へ~』
佐為からすれば不思議でたまらない。
そういえば、とおもう。
こういった機材がたくさんはいっている位置にきたことなど佐為とともにいた約数年間。
一度たりとてなかったのだ、と。
頼むから壊すなよ?
佐為があんなに触って霊力の影響か何かで壊れなきゃいいけどな……
てしてしと触れないのにさわろうとしては、手にした扇でつついている佐為をみてふとそんなことを思ってしまう。
まあ、まさか弁償しろ!とはばれないであろうからいわれないではあろうが……
しかし、その動作も何もかも佐為らしくて、じわじわとではあるが喜びが湧き上がり言い表せないものがある。
これが夢なら二度と覚めてほしくない、残酷なまでに幸せな…望んでいた現実。
「うわっ!?」
いきなり目の前にカメラがやってきてしかもパシャパシャと写真を撮られびっくりした声をだしている社。
「社。何カメラに驚いてるの?昨日のレセプションじゃあ平気だったろ?…進藤?」
何やらみれば、社はきょろきょろしまくり、ヒカルはヒカルで…どこかをみている。
『?レセ?何です?それ?』
昨日、いったろ?
まあ、お祭り前の馬鹿騒ぎだよ。
ん~、しいていえば全校集会のときのよ~なながったるしい話しばっかのやつ。
『あ~、あれはたしかに退屈でしたよねぇ。何がいいたいのかも不明でしたし』
佐為とてヒカルとともにいく度かそういった全校集会には顔をだしているので知っている。
「だ、誰がおどろいてるって!?え!?」
そんなアキラにあわてて言い繕う社の姿が視界に入るが。
どうみても驚いているのはまるわかり。
『?何かこっちの社ってこ、かなり緊張してますねぇ~』
どうでもいいけど、ひょこっとマタの間から見上げるようにして覗くのはやめてれくれ…佐為~……
おもわずコメカミに手をあてる。
みれば社も気になるのかきょろきょろと全身を見まわしたあげく、社のあしの間から見上げる格好の佐為の姿が目にとまる。
佐為らしい、といえば佐為らしいが…おもわずコメカミに手をあてるヒカルは間違ってはいないであろう。
何だか忘れかけていたここちよい疲労感が再びヒカルの中にと広がってゆく。
『しかし、ほんと。何かすごいですね。わ~い、大会、大会♪』
一人はしゃいでいる佐為が何ともかわいい。
「とりあえず。いっとくが取材の人々は対局が始まってもしばらくはいるからな。屋白。
  それと、今日の対局はそれぞれネット配信もされるらしい」
どうやら緊張している様子の社に説明しているアキラの姿。
『あ、ヒカルヒカル!ヒカルの名前、ありましたよ!ほら、はやくはやく!』
くすっ。
ヒカルの名前のかかれているネームプレートをみつけ、手まねきしている佐為。
だからこそおもわず笑みがこぼれだす。
たしかにみればそれぞれの席にはそれぞれのネームプレートが置かれている。
ヒカルは佐為がもどってきたという万感の思いのほうが強すぎて初めての国際大会だといっても緊張どころではない。
アキラもまた塔矢行洋の息子として培ってきた度胸がある。
ゆえに緊張などはしていない。
どくん、どくんっ。
一人、何の支えも経験もない社のみは初めての大会の空気に飲み込まれかけていたりするのだが。
大盤解説会は十時から。
対局の方は九時開始。
北斗杯。
一日目、一回戦の開始時刻はあとまじか―――

「時間になりました。陸力五段、塔矢三段。ニギリをおねがいします。
  このニギリで副将、三将の手番もきまります」
九時になりそれぞれがそれぞれの席にとつく。
会場にながれる開始の合図。
「お、ニギリだ。塔矢が白、か。すると進藤は黒。社は白だな」
「そうそう」
別の会場にてモニターをみていた客たちがその様子をみて声をあげる。
…黒をもったら負けたことないってそういやお前、前にいってたっけ?出会ったころ。
ふと自分の石が黒になったことをうけて初めてあったころのことを思い出す。
『そうですね。それは今もかわりませんけど』
ははは。
たしかに。
それゆえに心の中で思わず笑う。
というか佐為はやはり佐為で白でも黒でも関係なく…強い。
みててくれよ?佐為。
俺はこの一局、お前にみてもらうためにうつ!
どこまで俺が成長したか、お前にみてもらいたいんだ!
永夏のことも今はどうでもいい。
佐為に…自分の碁をみてもらいたい。
永夏のことはともあれそれから、である。

「お。ちょうど始まるところか」
「越智」
「伊角さん、和谷」
どうやら彼らとて興味はある。
ゆえに待ち合わせたわけでもなく関係者が全員初日からやってきているらしい。
彼らとてヒカルが院生時代からの付き合いである。
ゆえに気にならないほうがどうかしている。
すでにまだ始まったばかりだというのにひとはかなり集まっている。
「何だかやっぱりすごいなぁ」
おもわず感心した声をあげる本田に対し、
「ああ。進藤のやつ、緊張してなければいいけど」
席にとつきながらモニターをみてそうつぶやいている和谷。
「あいつが緊張?それはないだろ」
「あはは。ちがいない」
そんな和谷にすかさず突っ込みをめずらしくいれてきている越智。
彼らがそんな会話をしつつ席にとついたそんな中。
「広瀬さん。もうはじまっちゃってるよ!」
いいつつもパタパタと廊下を走る二人の男性。
「北島さん、そんなにあわてなくても。一局打ち終わるまでに長い時間がかかるんですから」
持ち時間は一時間半もある。
ゆえにそんなにいそがなくてもいきなり対局はおわったりはしない。
「広瀬さん!若先生の国際戦デビューなんだよ!?」
彼らとてアキラは小さなころから知っている。
だからこそずっと彼の成長を見守ってきていた。
その彼が初めての国際大会。
我が子、孫を見守る心境になってしまっても不思議ではない。
「ああ。あそこだ、あそこ」
ふとみれば、大盤解説会場という看板が目にはいる。
そんな会話をしつつ、塔矢家が経営している碁会所の常連である北島と広瀬は会場にと入ってゆく。
そんな彼らと入れ違うように、
「ああ、あそこだ。あそこ」
「…きちゃった。けどヒカルにおこられるかしら?」
きていいとも、いけないともいわれなかった。
が、やはり気になるのが親心。
「まあまあ、美津子さん、さ、はいろう」
義父・平八にいわれて会場にとはいってゆくヒカルの母・美津子。
ドキドキする。
こんなおおがかりな大会に息子がでる、ということも。
「ほぉ。大盤解説までまだ時間はあるのに。もうこんなにきてるのか」
たしかにすでに席は半分以上埋まっている。
「あら?あれは……」
ふと、座っている人々の中に見知った姿をみつけて声をだす美津子。
「どうした?美津子さん?」
「いえ、ヒカルの友達がいるんです。同じプロの。応援にきてくれたのかしら?」
「まあ、応援もあるじゃろうが勉強じゃろ。あ、ホラ、ヒカルがうつぞ?」
勉強、といわれても美津子にはよくわからない。
「え!?ど、どこですか!?」
平八にいわれて思わずきょろきょろと周囲をみわたす。
「ほら、あの真中のモニター。あ、手がひっこんじまった」
「・・・・・・・・・・・」
モニターには石がおかれた碁盤がうつっているのみ。
「さ、すわってみようか」
「は、はいっ!」
平八に促され、美津子もまた一応席にと座ってゆく。

北斗杯、検討室。
ごくっ。
「……化けた…な」
昨日のあの反応から発憤し、いくらかの成果がでるかもしれない。
そういう思いはたしかにあった。
北斗戦の第一局。
その初回は中国との対戦。
副将としてでている彼…進藤ヒカルの手は誰の目にも一目瞭然であるほどに研ぎ澄まされている。
「……こいつ……」
「…予想外の強さ、だな。塔矢アキラも…それに…こいつ……」
思わず画面にくぎづけになってしまう。
こいつ、本当に碁を始めてたったの二年か!?
彼を発奮させて、彼の実力をみてみたい。
そういう思いはたしかにあった。
だがまさか、それがこのような結果をもたらすとは予想外。
塔矢アキラは警戒していたが、それ以外にもこんな打ちてが…しかも無名なものがいるなど信じられない。
「進藤…何か心境の変化でもあったのかな?…うちかたがかなり落ち着いている」
まるで。
そう、まるで誰かに自分の力をみてもらいたいがごとくに間違えなく、それでいてよどみなく打ち込んでいる。
自分の成長をすべての力を発揮してみてもらいたいかのごとくに。
たりなかった勝負強さ。
それがいまの彼にはある。
「というかこいつ本当に初段か?」
思わずぐちが漏れてしまうのは仕方ないであろう。
画面に釘付けになってしまう。
日本などたかが簡単にひねりつぶせるとおもっていたというのに。
韓国の棋士からしてもそれは驚愕せざらざるをえない事実。
「しかし…あいつ秀作のことになったらひとが変わるな~」
彼がプロになる前に現役のブロが行っていた指導碁の展開を逆転負けさせたことがあるのを倉田は知っている。
あのときも、偽物の秀作の碁盤をひっこめるのを条件にして碁をうったらしい。
「つうか、陸力と塔矢との一戦だけじゃない。こいつ…できる……」
ただ、睨んでくるだけのガキではなかった。
ということか。
局面をみつつ思わずつぶやく。
「日本勢の全員、序盤の出だしはいいが……」
今後はどうなってゆくかわからない。
「というか。永夏君もやっかいな相手を本気にさせてくれたものだよね~」
は~
やはりはじめから本気で来ている。
「塔矢明は二連星。進藤光は初手、右上すみ小目。どちらも勝負手だ」
モニターをみて冷静にそういっている楊海に対し、
「?やっかい?楊海さん?」
韓国の安太善が不思議そうにといかける。
「ネットではあの子。進藤君。かなり有名なんですよ。
  あのsaiと同じくいまだに負けなし、ですからねぇ。はぁ~……」
溜息もでる、というもの。
「…saiと…おなじ?まさか、ちょっとまってくださいよ!?
  楊海さん、まさかあの進藤光ってこ、あのlaitoなんですか!?」
第二のsai。
もしくは同一人物か!?
と騒がれている人物である。
ゆえに驚愕して問わずにはいられない。
「そうだよ。何だ、林君、しらなかったの?」
この場にいるのは三カ国の団長、そして今対局していない韓国の棋士たち。
そしてそれに連なる関係者。
「ライト?何ですか?それは?」
「ハンドルネーム。ですよ。彼のネット上のね。
  うちの王星とうって、さらには再戦を申し込んで三時間半の持ち時間を設定したにもかかわらず、
  王が一時間以内で負けた、というつわものですよ。彼、進藤光君、はね」
ざわっ。
ちょっとまて。
かなりまて。
王星といえば中国でも今やNO1の棋士である。
その彼に…この、副将の日本の子どもが?
ざわざわと、検討室の中が何ともいえない空気にと包まれる。

ガチャリ。
とりあえず序盤の取材を済ませ検討室へ。
「大盤解説、以外とお客きてたよね」
「ええ」
そんな会話をしつつも検討室にと入る出版部の二人。
ガチャリと扉をはいってきた人物の姿をみつめ、そのまま席を立ちあがり、
「あ、あ。昨日はどうもすいませんでした。皆さんに不愉快な思いをさせたようで」
韓国語でそんな入ってきた人物…古瀬村達にと頭を下げる安太善の姿。
「サンフンさん、通訳してもらえますか?」
そんな彼の言葉をうけ、
「ヨンハが生意気なことを口にしてすいません、といってます」
古瀬村達にと日本語で通訳する。
「アンテソンさんが謝ることないですよ。
  でも、ヨンハ君はね。デカイ口をたたくのも器の大きさなんておもってるかもしれないけど。
  それでもし明日の塔矢君にまけたりしたら大恥ですよね。その時はおもいっきり笑わせてもらいますよ」
古瀬村もかなり大人げないというか子供である。
そんな彼の言葉をうけ、
「…ヨンハがまけるはずがない、っていいかえします?」
サンフンとよばれた人物が唖然としつつもテソンに問いかける。
「え?何ていったんですか?彼?」
日本語のできない人々にはわからない。
唯一わかる楊海はそんな会話をききつつもさらにまた溜息ひとつ。
ヤレヤレ。
今、でていった記者のせいでこの大事か。
古瀬村はいいはなち、そのまま検討室をあとにした。
そうおもうとさらに溜息もでるというもの。
「塔矢明君にしろ、進藤光君にしろ、大人たちが思ってる以上かもしれないな」
「?楊海さん?」
一瞬彼が何をいいたいのかその場にいる誰もがわからない。
「大局開始直後に、碁盤にむかう彼らをしばらくみていたが、塔矢君は塔矢行洋を彷彿させる雰囲気をもっていたよ」
「雰囲気だけじゃね。ハハ」
そうからかい半分にわらう一人の人物。
昨夜、多少ヨンハをタキツケテいた人物でもあるのだが。
「その塔矢が穏やかじゃない手をうってきたぞ!?」
たしかにモニターをみれば勝負手を放ってきているのが見て取れる。
「進藤君は、どっしりとして…まるで深い海の底のイメージうけたな。
  何があっても揺るがない、そんな雰囲気を」
ひとたび荒れ狂えばだれの手にも負えることのない自然。
それが、海。
すべては海にはじまり、そしてまた海にと還ってゆく。
「お!進藤のほうも!」
ごくっ。
どうやら、大将、副将戦とも…戦いの開始、らしい。

「……あの、何がどうなってるんですか?」
おもわず唖然としてモニターを眺めている人々といわず横にいる義父ともいわず、誰ともなく問いかける。
息子であるヒカルがうっているのはそれはわかる。
だけども見てもきれいさっぱり何もわからない。
しかもモニターに映し出されるのはヒカルの手、だけ。
囲碁に詳しくない美津子にはさっぱりわからない。
「中国相手に日本選手全員が頑張っているよ。とくにあの副将の進藤ってこ。ありゃ、大戦相手が気の毒だねぇ」
そんな美津子のつぶやきをきき、まったく見知らぬ人が彼女にと教えてくる。
「というか、実力の違いがはっきりとあらわれているよな。あれは。…あそこからひっくりかえすのは無理じゃないか?」
回りの人の言葉をきいていてもさっぱりわからない。
そもそも彼女は囲碁の囲の字もほとんど知らない。
息子がどうして興味をもって、しかもプロにまではいったのなかなんて。
ただ、同い年の子に負けてくやしいから。
ということは前にきいたことはある。
あるが……
「?あの?ヒカルがまけてるんですか?」
不安になりさらに問いかけるそんな彼女に対し、
「ちがうちがう。美津子さん。ヒカルが断然にかっておるよ。
  しかし…あやつそこまで力をつけていたのか。ほんと、子供の成長は怖いわい」
ヒカルが碁に興味を持ち始めたのは小学六年生の十月頃。
そして今、本来ならば中三で進学するための勉強に忙しいこの時期。
そんな中、すでに未成年ながらもブロになり確実にと腕をあげていっている自分の孫。
「でも、お義父さん。あの子どうして碁なんて興味をもったんでしょう?
  うちには碁を打てるのはお義父さんしかいないのに」
「ま、わしは孫の成長には目を見開くものがあるがな」
そもそもどうやってあそこまでの実力をつけたのかすらもはなはだ疑問。
救急車で運ばれた翌日、いきなり碁を覚えたから、といって家にとやってきたがそのときはてんで話にならなかった。
だが…それから一年もたたないうちにヒカルは院生試験をうけ、さらにはそのままプロ試験をうけて合格した。
信じられない上達の早さ。
しかもヒカルはどこの現役のプロにならって師事しているわけでもない。
ただ、基本を学ぶために囲碁教室に通っていたことはしってはいる。
そして中学で囲碁部にはいったものの、夏にはやめて院生に。
ほとんどプロになるかというような子供たちは周りの大人たちが熱心であることが多い。
だが、彼にはそんなことは一つもなかった。
では…なぜ?
家族が考えてもわからないものはわからない。
いえるのは、自分の孫が息子が世界に通用するほどの実力をつけてきている、ということだけ。

「……まいったな。進藤君だけじゃなく、塔矢明まで予想以上の強さだ」
特に進藤光のほうはほぼ白のほうは全滅状態である。
もはや終わっている碁、といっても過言でない。
圧倒的な力の差がそこにはある。
「あた~、昨日王に進藤君がlaitoだっていったのまずかったかなぁ?
  士気たかめないと勝ち目ないから教えたのに」
中国団長の楊海のぼやきも仕方ないのかもしれない。
「しかもチャオも!社に頑張られてしまってる。まああの子が打ちやすそうにしてるとはいえ。
  倉田!社が今年プロになったぱかりって本当か!?」
思わず日本団長の倉田に確認してしまうのは間違っていない。
絶対に。
「なあ!あいつはこれが初大会なのに。本番に強いタイプなのかな?
  オレもここまで打てるとはおもってなかったよ。計算外だ。
  もうひとつの計算外は進藤だ。まさかここまでバケルとは……」
有無をいわさない強さがたしかにそこにある。
強い、とはおもっていたが、まさかこれほどまでとは……
というのが倉田の素直な感想。
ふっ。
「さすが秀英がライバル視していたやつ…か」
「というか!前より強くなってるよ!あいつ!三年前より!」
「そりゃ、三年たってるんだ」
「ああもうっ!こりゃ、中国は日本選手の前に惨敗じゃないかぁぁ~~!!」
一人、それぞれに画面に映し出されている盤面をくいいるようにみている最中何やら叫んでいる男性が一人。
「何?彼とうったことあるの?洪君?」
問いかけられ、
「え、はい。昔――」
いいつつもヒカルとのことを説明はじめる洪の姿が、その場においてしばしみうけられてゆく。

「塔矢君と陸力ルー・リー。大変な熱戦ですが。渡辺先生」
大盤解説の一人が渡辺にと他の二人の対局の検討を促してくる。
「そうですね。社君がなかなか面白い碁になっています。形勢はややまけていますが。
  がんばってくらいついています。まだまだわかりませんよ?
  この社君。関西棋院所属でプロになったのは最近、この三月から入段したばかりの子なんです。
  中国でもう活躍しはじめている趙石チャオ・シィ君相手にこれだけの碁をうてるとは大したものです。
  実力もさることながらその実力をこの舞台で出し切れるところがすごい。
  何しろ彼は大会という大会はこれがはじめてですからね」
おおっ。
どよっ。
そんな渡辺の解説をきき一部の人々がどよめき立つ。
「さて…進藤君のほうは……」
おもわず、ヒカルの名前をいわれてどきどきしてしまうのは母心、であろう。
「残念ですが、これはもう終わっている碁ですね。白がいかんとも押されています。
  このままですと黒の中押し勝ちでしょう」
盤面は黒、圧倒的有利の局面である。
「黒?黒はたしか進藤選手ですよね?」
相手の視界役の女性が確認するように渡辺にと問いかけるが。
「ええ。彼は塔矢明君とは同い年で、まあこの日本勢は全員同い年ですけど。
  しかも、その塔矢君と友達なんですよ。
  プロを交えたプロの卵といえる院生という人達と、若い棋士たちが集う若獅子戦という大会があるのですが。
  その並みいるプロの中で彼は院生という立場にも関わらずに初快挙を遂げた子でもあるんですよ」
「それってすごいんじゃないですか?まだプロでなかったんですよね?」
「ええ、もうそれは一昨年は大騒ぎでしたよ。何せ初めてのことでしたからね。
  並みいる段位をもつプロを押しのけて、ですから」
「へ~、すごいんですねぇ」
何やらステージでそんな会話が繰り広げられていたりするが。
「ま、力というか棋力はあいつ、塔矢よりたぶん上だしな」
「だな。しかし中国相手に…恐ろしいやつ……」
会場の席の一角でそんな会話をしている伊角と和谷。
「というか、中国の人がのまれてるんじゃない?」
ある意味的確なことを冷静に分析してそんなことをいっている越智。
まあ、当たらずとも遠からず、ではあろう。
そんな和谷達や何やらざわざわしているほかの客たちとは対照的に、
これってほんとうに息子のことをいっているの?
何だか美津子は知らない世界のことをいわれているようで夢見心地。
たしかにあのとき、テレビとかの取材はきたがいともあっさりと引き下がった。
あのときはそんなにすごいことなどとは夢にもおもっていなかったが。
どうやらステージ上にいる人物の話からするとそれはどうやらそうではなかったらしい。
といわれても、ピンとこないのも事実だが。
ヒカルがうっている、といわれても実感がないのも事実である。
何しろ顔も何もうつらずに、ただモニターに移るのは、手とそして石が並ぶ盤面だけ、なのだから。

進藤光。
確かに、昨晩聞かされた話しは嘘ではないのだろう。
ヒカルの対局相手、中国副将・世振ワン・シチェン
確かに、この強さは……
しかも、彼が依然ネットで対局したときよりも確実に実力はあがっている。
彼もまたその話をきいて彼とは対局したことがあるがゆえに…相手の力は一応はわかるつもり。
『ヒカル、強くなりましたね~』
ここ一年、佐為が知るヒカルと、今のヒカルは確かに違う。
それほどまでに進歩をみせていることが佐為にとっては誇らしくもあり、そしてうれしい。
何しろはじめは碁、何それ?状態の子どもである。
それがここまで成長したとなると…
ヒカルの不安が痛いほどに様子をみていても伝わってくるので、安心させるため、
対局中、ヒカルの肩にずっと片方の手をおき対局を後から観戦している佐為。
それがヒカルにさらなる力を…佐為が見守っている、みてくれている。
という力を生み出し、さらなる勇気を与えている。
ゆえに、思う存分力の限り打って佐為にこの一局を見てもらうためだけ、に打っているといって過言でない。
しかし、対局者としてはたまったものではない。
何しろ中国では進藤光の名前のシの字すらきいたことがなかった。
あるのは、塔矢行洋元名人の息子の塔矢明、の名前のみ。
日本の低年齢層など、アジアの諸国はみじんも気にかけていなかった。
それなのに……
楊海がいうには、彼もまたはじめは知らず、以前中国棋院に勉強にきていた伊角という日本人から聞いたということらしいが。
……くそっ!
投了?
いや、それはできない。
とにかくダメでもともと。
とにかく勝負手を打ちこんで、相手のスキをつくるしかない。
…悔いのないように。
しばし、局面をにらみあっての攻防が静かに続いてゆく……

「え~、ここまでくれば塔矢君ならば勝利をもぎとってくれるでしょう」
開始から一時間ほど経過。
ドキドキする中でもいつのまにか時刻は過ぎてゆく。
解説がなければほとんどのものにはモニター画面はみれても理解不能。
断言する渡辺の言葉に会場が一気にざわめきたつ。
さすが塔矢行洋の息子!期待にそってくれるねぇ!
などという声がほとんど聞かれるが。
誰一人として、塔矢明、という個人でいうものはいない。
そんな彼らの声をきいてふとおもう。
塔矢君は塔矢君なのに、どうして塔矢君のお父さんのことを持ちだすのかしら?
と。
美津子は囲碁の世界を知らないからそうおもえるのであり、
行洋のことを新聞で見知っている人たちからすれば期待はどうしても、塔矢行洋の息子。
という図りでしか絶対にみない。
そのことを美津子はよくわかっていない。
もっとも、それが明の孤独をいわば形勢しているものなのでもあるが……
「こうなってくるのが惜しいのが社君、ですね。ああ、ちょぅど今。投了しましたね」
たしかに何やら頭をさげている様子がモニターにと映し出される。
とはいえ頭の影だけで顔まではみえないが。
「さて…整地の結果…コミをいれて白十八目半、黒は二十一目。三目半たりませんでしたか。
  しかしかなり健闘いたしました。社選手。お、どうやら副将戦のほうも終局したようです。
  これは…また…二十目以上の差が開いてますね……しかし、相手の王選手もよくがんばりました!」
どよっ。
「お!ってことは日本の勝ちか?!」
「というか三将の社ってこだけがまけ?なさけないね~」
「しかし先ほどの解説にあったとおり、始めての大会らしいしねぇ」
わいわい、がやがや。
何やらそんな会話が会場内部において繰り広げられてゆく……

――どう!?佐為!
相手が投了を申し出てきておもわずぱっとななめ後ろを振り返る。
そこに手があることが何よりも心強い。
そしてその手の先には……
『ええ。よくがんばりましたね。ヒカル。それにこのものも……』
負けている局面でもあがいてどうにか挽回しようとしてきたあの粘り。
ゆえにこそ褒めずにはいられない。
悔しくない、といえばウソになる。
だけども…いつか、いつか自分も~!
ぎゅっ。
思わず握りしめた手に力をこめる。
【…進藤君。次に対局できるとき、私は今より強くなる、そして~!】
今度こそ君にかってみせる。
より高くを目指して。
そう決意させる内容がこの碁にはある。
「?ありがとうございました」
何やら中国語でいわれてもヒカルにはわからない。
相手に霊力を同調させていれば別であろうが、今のヒカルは佐為のことで頭がいっぱい。
ゆえにそこまで気はまわらない。
ふと横をみればどうやらまだ塔矢の大将戦がおわっていないらしい。
いってみる?佐為?
『はいっ♡』
…やっぱしっぽふってるようにみえるな。
キラキラとしたその表情もめまぐるしく目に見えてわかる感情による表情の変化も。
かつてのまま。
ヒカルと佐為が大将戦をのぞきに背後にたつことしばし。
「…黒、三十三目。白三十目。コミをいれて三十六目半。白番、三目半の勝ちですね」
記録係りのものがその内容を読み上げる。
「…ふぅ」
おわった。
全力をだしきった。
だけどもまだまだだ、ともおもう。
ぽんっ。
ふと背後から肩をたたかれ振り向くと、
「お疲れ。塔矢」
見慣れた顔が視界にはいりほっとする。
「進藤、結果は?」
対局中は外部の雑音はまったくきこえない。
ゆえに周囲で何をいわれてもわからない。
それはアキラもヒカルも共通する集中力。
塔矢にきかれてふとおもう。
……あれ?
「…え~と…あれ?何目差だったっけ?」
本気で思わずつぶやき腕組みして悩みだす。
佐為に見せるのを優先していたがゆえに、何目で勝ったとかまでおもってもいなかった。
ぱっと頭に局面を浮かべて…え~と…
思わず確認している最中。
『…ヒカルらしいというか…は~……』
何か後でおもいっきり盛大にため息をついている佐為の姿が横眼につく。
むっ。
わるかったなぁ。
そんなことまで考えてさっきのうってなかったんだからしかたないだろっ!
『それにしてもですねぇ…は~…』
この反応もまた懐かしくもあり、そしてまたおもわず子供じみてすねたくなってしまうのも仕方ない。

「大将戦も終了いたしました。一回戦は日本勢、塔矢・進藤で二勝。日本の勝利となります。
  二回戦は三時から同じ会場にて行われます。二回戦は中国対韓国戦になります」
会場中に結果報告と今後の連絡をかねたスピーチされてゆく。
「繰り返します、北斗杯、一日目、一回戦。日本対中国。ニ対0で日本の勝ちとなります。
  二回戦は三時より……」
いく度か聞き逃したもののためにリピート放送がなされてゆく。

「つうか、何とかすがりついたが…やっぱり負けか~…王世振。
  それでもって陸力も塔矢明に負け。一回戦は日本に負け、かぁ~」
二対一。
団体戦なので三人ひと組であるがゆえに二勝したものが勝ちとなる。
「しかし!絶対にヨンハ君が余計なことをいわなかったらここまでたぶん差はひらかなかったぞ!絶対に!」
そもそも、彼はネットでも相手の棋力にあわせて、さらにその上を目指す…という傾向がよくみられていた。
まあ、棋力をあわせつつも勝ちを収めていたのだが。
時には指導碁のような形をとりつつも。
それらは当時は佐為の指示によってヒカルが練習していたのだが。
それを彼らが知る由もない。
「う~ん……」
終局したのをうけておもわずうなってしまう。
進藤。
今日の一局…すごい、ばけてた。
まさかここまでバケルとは本当に予想外。
気負いも何もなく、それでいて力強く…まるで、過去に実在した本因坊秀策の碁。
それをおもいおこさせるような一局であった。
先日塔矢邸で行ったときの練習手合いの場で感じた危なっかしい鋭利的なモノもひっこんだ。
「…よし、きめたっ!」
今の一局をみるかぎり…あきらかにヒカルのほうが塔矢明をはるかに勝っている。
それは囲碁をたしなみ少しはわかるものならば誰でもわかること。
ゆえにこそ、倉田は決断する。
回りからどのようにいわれるのかを覚悟の上で。
「終局だ。とにかく。あいつらをさっさと会場から連れ出して、気持ちを切り替えさせてやらないと」
叫んでいても、文句をいっていてもどうにもならない。
まずは選手たちの気持ちの切り替えのほうが大切。
彼ら中国は午後からもまた対局が控えているのだから。

佐為。
本当に本当に!絶対にまたいきなりいなくなるようなことをするなよっ!
碁を打っている間も気が気ではない。
あのときのようにいきなり消えるのではないか。
と。
佐偽がうつのをみたかったが、佐偽が成長したヒカルをみせてほしい。
そういった。
だから、サイに自分をみてもらうためにも全力で力の限りに勝負に挑んだ。
…本当に、ヒカル。成長しましたね。
別れは彼にとって必要なことであった。
あのとき、あの少女にそういわれた。
彼の成長のためにはかかせないものであった、と。
だけども所詮、ヒカルはまだ未成年。
つまりは子供。
いくら大人と対等な世界だとはいえ精神面ではもろいところがある。
そもそも、ヒカルの家族にそこまで精神的なケアをできるものは一人たりとていない。
そもそも碁の世界のことなどまったく無知なのだから。
ゆえに、彼の…【藤原佐為】の存在は彼にとってはかなり大きい。
だからこそ、あの提案を受け入れた。
「ええ~!?三十目も差があったの!?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
は~……
会場の外にでてインタビュ~を古瀬村達にと求められた。
負けて悔しい思いをしてなかなか現実にもどれなかった社はそのことにて現実にとひきもとされる。
というか、いきなりヒカルが叫んだので驚いたのもあるのだが。
その直後、その場にいる全員がおもいっきり溜息をついたのはいうまでもない。
「…おま、まさか目算せずにうってたんかいっ!」
おもわずそんなヒカルに突っ込みをいれる社は間違っていない。
絶対に。
「あ…あはは。とにかく、最善の一手、一手を間違いなく打ち込むことに必至で~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
目算してなかったことにも驚愕であるが勝ち負けとかを気にせずにそれはうっていた、ということでもある。
棋力によっては当人が最善だ、とおもってもそれは最悪、という可能性もあるのだから。
「…きみ、らしいよ。まったく……」
ヒカルを昔からしっているがゆえに、おもわずコメカミに手をあてて呆れてつぶやく明の姿。
『ヒカル。あとから先ほどの一局の検討ですよ?』
とてもわくわくした。
久しぶりの対局の空気に心が躍った。
しかし、何よりも自分がいなかったこの一年にヒカルがここまで成長してくれていたのがうれしい。
うれしいが…
『しかし…ヒカルもまだまだあぶなっかしいですよね~……』
・・・・・・・久しぶりのとどめをサンキュ。
しみじみつぶやく佐為におもわずがくっときてしまう。
でもそれすらもずっと望んでいた言葉でもある。
佐為からみてみれは、どうやら今の一局はまだまだ危ないものであったようである。
「でも、すごかったですね!社君はあと一歩でしたけど!」
日本が勝ったこともあり、とてもうきうきしつつ取材になっていない取材を続けている古瀬村。
と。
「あ、いたいた、お~い!!」
そんな彼らの元に検討室からでて対局場のほうにとむかってきている倉田の姿が目にとまる。
「あ、倉田さん」
そんな彼の姿をみてアキラがつぶやくとほぼ同時。
「お疲れ~。メシにしようぜ」
いってヒカル、アキラ、社を見渡しつつ。
それから周囲に日本棋院の週刊囲碁の出版部の人間が二人。
彼ら以外いないことを確認し、
「それから、明日の韓国戦な。大将は進藤だから」
・・・・・・・・・・・・
さらっとなにげに爆弾発言してくる倉田。
そのまま、
「よっし!ひるたべにいくぞ!」
いってすたすたと歩き出す。
一瞬、いきなりのことに全員が意味がわからずというか唖然とし、おもわずはっと我にと戻り、
「ま、まって!?倉田さん!?本当にいいの!?」
たしかに臨んでいた。
その想いに代わりはない。
ないが……
「おお。今日のお前の碁にはあぶなっかしい鋭さが抜けていい碁だったからな。
  今までは精巧なガラス細工のごとくの危うさがあったが。
  その調子で明日へつづけ!期待してるからな。進藤」
いってポンとヒカルの肩をたたいてくる。
『おやまぁ』
そんな彼の言葉をうけて目をまるくしている佐為もいたりするのだが。
が。
「…ええぇぇ!?進藤君が大将!?」
何よりも真っ先に驚きの声をあげたのは、アキラでも社でもなく古瀬村。
ヒカルはそんな彼をみつめ思わずぱちくりした目をしている佐為と顔を見合わせる。
「な、何で!?塔矢君、でしょ!?」
倉田の言葉に驚くものの、アキラとしてもヒカルに対局させてやりたい、という思いはあった。
ゆえに今晩でもダメもとで倉田に頼んでみようかとすらおもっていた。
だがしかし、まさか先に宣言されるなどとは……
それゆえにアキラとしても驚きを隠しきれない。
「団長のオレがそうきめたの。明日の朝まで人にはいうなよ。さあ、昼飯くって、中韓戦、みようぜ!」
いってそのまますたすたと再び歩き出す。
しばしその場に呆然としたり、驚きにかたまるヒカルたちの姿が見受けられてゆくのであった……


                                -第75話へー

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あとがきもどき:
薫:ふふふふふvようやく復活、佐為ちゃんv
  そういえば、佐為って…お盆の迎え日とかにかえんないのかなぁ?
  でも佐為の本当の命日っていつ?やっぱりきちんと本当の意味で成仏した五月の五日?
  入水自殺した日…もいつなのか不明ですしねぇ。
  入水といえば、キャラクターブックにかかれていた、あの白い梟の話は印象ふかかったですね。
  あの子はおそらくあののち、佐為が汚名かけられて死んだ、というのがしんじられず、
  絶対に真実あばきだしそうな予感がします(笑
  まあ、私のこれにおいてはすでにもう汚名は当時に晴れてたんですけどね・・
  しかしすでに広まった噂というものはひとの口には角がたてられずにどうにもなんない~と。
  さて、んでは今回はまともな小話、です♪


「塔矢?あ、もしかして塔矢明君のお父さんですか?はじめまして。
  あ、あの、塔矢君大丈夫ですか?何か様子おかしかったから。
  私もきになってたけどお稽古あったからそのままかえっちゃって……」
佐為がなぜか相手を一刀両断というものにしたらしい。
聞けばあのようにしなければ相手の力を見くびっており、こちらの石が殺されそうになっていたとか。
そういわれてもヒカルにはまったくよく意味が呑み込めないのだが。
緒方という人物とともに囲碁サロンにと顔をだした。
そこには何やら多少厳格な雰囲気の男性が一人。
別にそういった雰囲気をもつ人に出会うのはヒカルは初めてではない。
そもそも、お茶にしろいけばなにしろ師たる人物たちはみなそのような雰囲気をもっている。
はじめはズボンをはいていることもあり、髪もショートなので男の子かとおもったが。
その物腰の柔らかさといい、話し方といい、すぐさま自分の間違いに気づきつつ、
「君が、か。あの明にかった、というのは」
「?」
勝ったのは佐為だよね。
『まあ、しかし私の姿は他には視えてませんからねぇ…ヒカルだけにしか……』
「あ、あの?塔矢君、大丈夫なんですか?」
「息子は心配ない。それより君の力が知りたい。…座りなさい」
「?あの?」
よく意味がわからない。
というか私の力って何?
え~と、佐為、この塔矢君のお父さん、何がいいたいの?
一瞬意味がわからずに佐為にと助けをもとめているヒカルの姿。
『ふむ。どうやらこのものは私の力をみてみたいようです。…ヒカル、すわってください。
  このものからは私とおなじ匂いがします』
・・・・・・・・・えええ!?このおじさんも幽霊!?
がくっ。
『ち、ちがいますよっ!』
相手のもつ空気に心地よい緊張を抱き始めていた佐為であるが、ヒカルのそのセリフにおもいっきりその場にずっこける。
あわてておきあがりつつも、ヒカルに訂正つっこみをいれてるが。
このあたりからしても佐為はかなりオチャメである。
「あ、それより。私、碁盤かりにきたんですけど~、えっと、市川のお姉さん、
  ここって碁盤のレンタルとかしてもらえませんか?」
とりあえず要件をすますのが先、である。
「君ねぇ…塔矢名人が……」
何やらさきほどの真白いスーツづくめの男性が何やらいってくるが。

名人とかいわれてもヒカルにはまったく意味がわからない。
この人、名人って名前なのかな。
かわってるなぁ。
その程度。
「え、えっと……」
ヒカルの問いかけに何といっていいものか。
そもそも、ここの経営者は目の前にいる人物、塔矢行洋である。
オーナーを無視して会話するわけには一従業員としては絶対にいかない。
「?碁盤?君の家には碁盤がないのかな?」
でなければ貸してくださいとかいってこない。
もしくは知りあいの誰かが必要なのかはわからないが。
「あ、はい。ちょっと必要になっちゃって。何でか大会にでることになっちゃって。
  よくわかんないうちに。家では紙に線かいたり、オセロ番でオセロの石ならべてるだけなので。
  あとはオハジキ利用したりして遊んでただけなので。他は…ネットくらい?
  だけど実際に石なんてもったの、この前、塔矢君と対局したときと、
  あと白川先生とかいう囲碁教室で数回もっただけだし。それだといけないかなぁ。って。
  それで借りにきたんです」
まあ、事実、ネット以外ではオセロの石ではおおきすぎるので、
とりあえずてごろな大きさともいえるオハジキの石を利用して使ってはいる。
…が、ヒカルはそれは俗にいう一色碁のようなものに近いということを理解していない。
それでもきちんと形が頭にはいるのだから、佐為とすればその才能が花開くのがとても楽しい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さらっというヒカルのそのセリフに、その場にいた誰もが無言。
「君、囲碁に興味もったのはいつごろからだね?」
「この前からです。とっても大切とおもえる友達がとても囲碁好き、と知りまして。
  それで私もおぼえようって。でも私なにもわからなくて。
  だからネットで囲碁教室とか検索したらたまたま白川先生のをみつけまして」
え~と。
かなり頭がいたくなってくるのは周囲の大人の気のせいであろうか?
この前覚えようとして、何もわからなくて。
それで、少し覚えただけであの明君にかった?
信じられない、というか信じがたい。
「まだ覚えようとおもって二週間もたってないのでわからないままですけどね。
  でも成り行きとはいえ大会とかいうのにでるんだとそうはいかないだろうから。
  本格的に本とかかって勉強しよっかな~、とかおもって」
別に本を買わなくても教える相手がいてくれるのでそれにこしたことはないのだが。
まあこの場合は嘘も方便である。
「いや、ちょっとかなりまって…君…」
おもわず、白づくめのスーツの男性がさらにコメカミに手をあてて険しい表情になっているが。
『しかし、ヒカルは本当に飲み込みははやいですよねぇ。私ですらびっくりしてしまいましたもん』
まったく知らなかったはずだというのに、さくっと石の形をおぼえるわ。
さらには一度打った棋譜は絶対にわすれないわ。
ついでにいえば、ちらっとみただけで一発でその棋譜の形を頭に暗記する。
まさに原石ともよべる逸材。
なぜ何もしらない彼女のもとに蘇ったのか佐為はわからなったが。
それを知ると同時に納得もした。
自分は彼女を鍛えてそして互いに高みを目指すために彼女の元によみがえったのだ、と。
「…ふむ。私と一局うってみてくれ。そうすれば碁盤はただでかしてあげよう」
「ほんとですか!?って、あれ?でもおじさんがレンタル料、だしてくれるんですか?」
がたたたっ!!
「き、きみねぇ!まがりなりにも塔矢名人にむかって!」
「?名人って変わった名前ですね?」
がらがらがっしやあっん!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
文句をいう客の言葉にとどめともいえるヒカルのセリフ。
「?あの?私、何かおかしなこと、いいました?」
「・・・ぷっ!!!!!あははは!いや、悪い悪い。
  レンタル料はきにしなくてもいい。ここは先生が経営されている場所だからね」
「経営?先生?あ、オーナーとかいう人なんですか?あ、だからこの前テレビにでてたのかな?」
いや違う。
絶対に違う。
思わずその場にいた誰もが突っ込みを心の中でいれるがそれを口にだせるものはいない。
どうやらあまりの無知さに厳格な雰囲気をもっていた塔矢明の父親。
となのった人物すら一瞬目をテンにして思わず笑いをこらえている姿が目にはいる。
「ちなみに、先生は、明君…塔矢明君の父親で、塔矢行洋名人。私は先生の門下生で緒方精次。君は?」
「あ、えっと。進藤光といいます。五年生です」
どうにか涙まででてきた笑いをこらえつつもヒカルにと説明する緒方となのった人物の姿。
『わたくしは藤原佐為ともうします』
こちらはこちらで丁寧にふかぶかと頭をさげている佐為。
だが、佐為が頭をさげてもその姿はヒカルにしか視えていないので意味がない。
「まあいい、君、進藤さん、だったね。そこにすわって」
「あ、はい」
「三子おいて」
「子?」
「・・・・・・・・・・・・・置き石という意味かわかるかね?」
『ヒカル。それはですね。私がいつもいっている石をいくつかおいてください。ということですよ』
わかっていないらしいヒカルにそういえば、呼び方を教えてなかったことに思い当たる。
そもそも、しょっぱなから起き石もなにもヒカルの力がみたくて全力で指導碁ばりばりにしてたのだから仕方ないが。
「あ、何となく。え~と、あ、でも石はどこにおいたらいいんですか?」
「好きなところにおくといい」
「えっと。じゃぁ、星がわかりやすいので、星v」
そのまま、とんとんとん、と盤面上の九つの星のうち三点にと石をおく。
ヒカルはわかっていないが、光のおきかたは、三連星、とよばれている置き方そのもの。
『?ヒカル、あなた三連星をしってたのですか?』
?何それ?
『…やはり、ほんとヒカルには絶対に秘められた力がありますよねぇ。楽しみですv』
わくわくする逸材に目を輝かすのは、どこまで自分が磨けるか、というのもあるが。
それ以上に、どこまで自分においついてこられるのか、という楽しみもある。
「では、はじめよう。おねがいします」
「あ、えっと。おねがいします。でも本当に無料でかしてもらえるんですか?わ~い!ありがとうございます!」
そこまでいって、はっと気づき。
「あ、でも母には内緒にしといてくださいね?絶対知ったら怒られるかも・・・・・・」
ふ。
この反応はいかにも子供らしい。
息子にはない、子供らしさ。
「他言はしない。では、君が先番だ」
「あ、はい。え~と……」
佐為、これって私がうつの?
それとも佐為がうつの?
『ヒカルはどちらがいいのですか?』
佐為、うちたいんでしょ?
『そりゃもう、ものすごく!』
なら、佐為、指示して。
『わかりました。いきますよ、ヒカル!』
うんっ!
そのまま、佐為に示されるように、ことんと、
その示された場所にと拙い手つきで石を運んでゆくヒカルの姿がしばし囲碁サロンの内部においてみうけられてゆくのであった……


のような感じでv
ヒカル、よくのどおりいかずに天然おおボケ連発中(笑
佐為もまたのりつつこみv(まて
まあ、こんな感じでなごやか(?!)に塔矢名人との初対局となったわけですが(苦笑
なので塔矢名人にもかぁぁぁぁなりヒカルは印象深く刻まれたのはいうまでもなし(爆
ではまた次回にてvv


2008年9月27日(土)某日

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