まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さってと。意識不明&入院生活が長かったこともあり。
悩みまくる次期はかなり少ないです(こらこらこら
というわけで、今回はヒカルの復帰まで~♪
というわけで、ゆくのですv
ちなみに、まえぶりの女の子は…いうまでもなく菫ちゃん(笑

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「すいません。今の状況ではまともに打てそうにないんです。何よりそんな碁をみせたくない……」
退院した、というヒカルからの棋院への電話。
「いいよ。ゆっくりと養生しなさい。体、お大事にね」
そう、としかいえないであろう。
彼らとて具合のわるいヒカルを仕事につれていったのがもしかしたら倒れた原因かもしれない。
そう思い当たることがあればなおさらに。
そのまま電話をきり、溜息ひとつ。
「やれやれ。将来有望視されてるんだけどねぇ。進藤君は。大丈夫かな?」
病気で気落ちする棋士もいないわけではない。
だからこそ心配せずにはいられない。
しばし、棋院の事務室においてそんな会話がなされてゆく――

さってと。
フォーローはひとまずしといたから。
あとはヒカルお兄ちゃん次第。
彼らは知らない。
この電話は実は、進藤光本人からではない、ということを……
だがしかし、声は光の声そのものであったのは…いうまでもない……

星の道しるべ   ~迷いと決意~

六月二十日。
月曜日。
「よかったわ。ヒカル。退院できて」
とはいっても様子見の在宅預かり。
毎週、週三度は病院に通うこととなる自宅養生。
しばらくは家と学校と病院、この三つをいったりきたり、になるらしい。
「…お母さん、俺、しばらく碁をやすんで勉強に専念するわ…碁をやめるわけじゃないけど・・・…」
そう、やめればおそらくそれは佐為が悲しむ、から……
「無理しなくてもいいのよ?ヒカル」
医者にも奇跡がおきただの何だのといろいろと言われたあげくの、ありえない、だの言われた末の隊員。
親としてはまた、あまり無理をされて倒れられてもたまったものではない。
ヒカルが倒れたのが毎晩遅くまで、受験勉強にともない囲碁の勉強。
この二つを両立させていたからだ、と思っていればなおさらに。
「そうそう。まずはゆっくりと養生するこった!」
ヒカルが退院、ときいて何よりも河合がほっとしたのはいうまでもない。
「そういえば、河合さん、いいの?仕事中でしょ?」
「ヤボはいいっこなし!いつかある程度回復したら石心にも顔をだせよ?みんな心配してんだかんな」
美津子としても代金はいらない、といわれればかなり助かるのも事実。
それゆえに好意にあまえているのであるが。
もっとも、ヒカルが意識不明のときには気が動転してしまい、自分で運転するどころではなかった。
というのもあるのだが。
「あ…あん」
いけば、佐為を思い出す。
あそこには佐為との思いでが多すぎる。
そんな会話をしつつも、ヒカルは病院から家にとタクシーにゆられてもどってゆく……

六月二十二、水曜日。
「あ、進藤。かえるの?」
「あ、うん」
帰ろうとしたところ、教室の出入り口で呼び止められて足をとめる。
「病み上がりで悪いけどさぁ。ちょっと頼みがあるんだけど。どうせヒマなんでしょ?」
む。
「どうせヒマ、って何だよ。金子」
「だって、今日は本当は手合い日でしょ?プロの手合いにいくまで回復してないんじゃあんたもヒマでしょうが」
ぐっ。
そういわれるとぐうの音もでない。
というかヒカルが退院してからまだ二日、である。
「ちょっと三谷とうってあげてくれない?」
「?三谷と?」
金子の言葉に一瞬何をいわれたのかわからずに首をかしげるヒカルに対し、
「大会参加するってあいつ一生懸命なのよ。練習相手がいないんだ。あたしじゃ力不足でさぁ」
いいたいことはわかる。
わかるが……
「わるいけど……」
「何でよ?」
「金子!くっだらねぇことたのんでんじゃねぇょ!こんな病み上がりのやつにこられても迷惑だってのっ!」
そんな金子の言葉をききつけて三谷がすばやく廊下のほうから口を挟んでくる。
今だにヒカルの顔色は悪いままだ、というのに。
いつまた倒れるかもしれない、という不安は教員たちにしろ生徒たちにしろ確かにもっているのも事実。
それゆえにヒカルと接したものは腫れものに障るようにここ二日扱っているのも事実である。
「あんたのためだけに頼んだんじゃないわよ。
  進藤があんたとうてば、あたしは夏目や小池をうってあげられるじゃない」
そんな三谷に対して説明している金子であるが。
「あれ?どうしたの?金子さん、三谷君、ヒカル!?」
何やらヒカルを探してきてみれば、何やら言い合いらしきものをしている二人の姿。
しかも中心にはどうやらヒカルがいるらしい。
「みんな、一生懸命なんだからさ。そうおもったんだけど。
  まあ、三谷がこうじゃしょうがないわね。囲碁部は囲碁部でがんばることにするわ。わるかったわね」
「あ。ヒカル。おばさん下にきてたよ?今日は病院でしょ?」
「げっ。ありゃ、そうだったんだ、わるかったわね。進藤」
まさか学校帰りに病院にたちよる、なんて夢にもおもっていなかった。
「金子!おまえなぁ!あいつをさそってもしうんっていわれて、そして部室で倒れたらどうする気だったんだよっ!」
三谷の言い分も最も。
「な~んかさ。進藤のやつ、悩んでるっぽくみえたからさぁ。こう何というか覇気がないようにもみえるし」
あるいみ事実、である。
金子はけっこうヒカルのことをよく見ている。
「あ、ヒカル。もしよかったら大会がこの日曜日にあるんだ。気が向いたら応援にきてみてね」
「藤崎!てめぇまでっ!」
「だって、ヒカルは、囲碁のことを考えているとき何か顔色、ものすっごくいいんだもん!」
その後、また悪くなるが。
「ま、あたしたち三年は中学最後の大会だからね。気合いれていこっ」
そんな彼らの会話をききつつも、
「あ、じゃ、俺、いくわ」
「うん。ヒカル、気をつけてね~!」
このままここにいてもいたたまれない。
囲碁部もまた佐為の想い出が…多すぎるから……


うろうろ、うろうろ、うろうろうろうろ……
「…来ちゃった。けど……」
気がついたら散歩にいってくる。
といって無意識のうちに足はここにむかっていた。
六月二十七日の日曜日。
このたびは北区の中学夏季囲碁大会は六月にずれこんだらしい。
そういえば、佐為ともここにきたっけ。
一度目は小学六年の佐為と出会ってまだ間もないとき。
二度めは中学の部活の大会として。
あのとき、…碁を打つのが楽しかった。
佐為もそんな俺をみてうれしそうにしてたっけ……
そんなことをおもいつつも、無意識のうちに吸い込まれるように建物の中にとはいってゆくヒカルの姿。
そのまま廊下をあるいてゆくことしばし。
ふときづけばすでに目の前には大会の会場の教室となっている部屋の前。
そのままそっと部屋の中をのぞいてみる。
…あれ?アカリのやつ…真中にすわってる。
三将は久美子、か。
あいつが副将、ねぇ。
そんなことをおもっていると、ふとみていると何やら手を止めて考えはじめるアカリの姿が目にとまる。
…何やってるんだ?あいつ?
そのまま、そっと部屋の中にとはいっていき、アカリの背後にと向かうヒカルであるが。
そっと声をかけずに背後からちらりと盤上をのぞきこむ。
うん。
簡単な死活だ。
あわてるな。
ゆっくりと考えろ。
ヒカルがそうおもっている最中。
パチッ。
アカリが気がついたらしくてヒカルが思っていたとおりの場所にと打ちこみしてゆく。
どうやらアカリも気づいたらしい。
ふとみれば男子の部の三谷達も対局中。
そちらのほうに足をむけてみようと一歩踏み出したその矢先、
「…あれ?進藤君?」
「…あ、海王の……」
ふと、ヒカルの姿に気がついてかけよってくる一人の男性。
「尹、だよ。もういいの?」
彼はアキラからヒカルが入院していたことを知っている。
それゆえに心配してヒカルにと問いかけるが、
「…って、そうでもなさそう、だね。まだ顔色がよくない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうしても佐為がいない、と思い知らされてしまうこの状態に慣れないのだから仕方がない。
ふと佐為の姿を探してはいないのを思い知らされさらに顔色がわるくなってしまう。
それはヒカルとて自覚していること。
「今日は葉瀬の子の様子をみに?」
「あ…えっと……」
何といえばいいのかわからない。
「でも、無理は禁物。だよ?ね?人生は長い。無理して命を縮めることはない」
…嫌でも逝かなければならなかった佐為のことがその言葉にぱっと重なる。
人生…佐為の人生って何だったんだろう?
汚名を着せられて、名前まで記録にすらのこっていなくて、歴史上からも抹殺されて……
そして、俺のせいで消えることになって……
答えは…どう考えてみてもみつからない……
そのまま尹とわかれ、ヒカルは海王中学をあとにしてゆく。

う~ん!
飛行機をおりて大きくのびをする。
「二か月ぶりの日本、だな」
中国にいた、といってもずっと中国棋院から一歩もでていなかったのも事実である。
「二百七十円、です」
いよいよ来週。
気曜日よりプロ試験が開始される。
売店で週刊碁の雑誌を購入する。
プロ試験、予選せまる。
元学生三冠の門脇も出場…か。
ぱらぱらと電車の中で雑誌をみてゆくとそんな記事が目にととびこんでくる。
みんなはどうしているだろう?
そう思い、先週の手合いの結果は……
「…え?」
進藤光、不戦負。
とかかれているその文字が目にと飛び込んでくる。
「ふせん…ぱい?」
それが信じられなくてしばし記事を食い入るようにみつめる伊角の姿が、
電車の中においてみうけられてゆく。

「!伊角さん!なぁんだ、ちっともかわってないなぁ。ヒゲでもはやしていれば修行帰りっぽいのにっ!」
伊角から電話をうけてやってきた和谷が伊角の姿をみた開口一番。
「電話もらってびっくりしたぜ。中国、どうだった?」
とりあえず近くの喫茶店にとそのまま入る。
といかける和谷に対し、伊角はじ~と和谷をみつめている状態。
「・・・何?」
楽平レエピン、大きくなったなぁ!」
「ああ!?」
いきなりいわれても意味がわからない。
「あはは。いや、悪い、悪い、実わな……」
いいつつも伊角は中国でのことを和谷に一から説明しはじめる。
しばらくのち。
「…ふ~ん。そんなことしてたんだ」
さすがというかまじめらしい伊角さんらしいというか。
それゆえに苦笑してしまうのは仕方ないであろう。
「ああ、で。そののち、楽平レエピンがオレにつきまとって勉強するようになったはいいけど。
  いつもオレをにらみつけてかみつくように横にいたんだ」
「ガキだな」
って、ガキか。
十一っていってたし。
「子供だけどさ。すごく強いんだぜ?でもその楽平レエピンと結局一番仲良くなったなぁ。正露丸のおかげで」
「はぁ!?正露丸!?」
なぜそんなモノが話題にのぼるのかがわからない。
楽平レエピンが腹痛起こしたときに日本からもってってた正露丸をやったんだ。
  ほら、お前って腹痛のとき正露丸ですぐになおってたじゃないか。
  お前にそっくりな彼ならきくかとおもって」
「どういう理屈だよっ!」
おもわず突っ込みをいれるのは間違ってはいない。
絶対に。
世の中そんな理があるはずもない。
「でも、それがピタっときいて仲良くなれたんだぜ?」
というよりは正露丸がつまりは万国共通してよくきく、ということであろう。
「んで、趙石ちゃおしいとかいうやつとの勝負はどうなったの?」
ぐっ。
痛いところをつかれてくる。
「…ま、まけた……楊海さんのMDプレイヤーはあの子に取られた…」
もっとも、それがあるからこそ子供だからゆえにムキになってきたのだが。
「で、でも、次にやったときにはオレがかったんだよ!その後も何どかかって……」
いって一息ついて注文していたジュースを一口。
「ピザも向こうで更新してさ。とにかく二か月の間にできるだけうって。
  中国のエースや次期エース達の中でさ。きびしいったら。でもそれでも何人にかはかてたし。
  自分の碁に自信がついたよ」
本来ならばなかなかこのご時世、中国国内でピザの延長はすんなりとはいかない。
ないが、伊角の目的が勉強、というのもありしかも理由が中国棋院に立ち寄るため。
それゆえに棋院責任者の口添えもあり伊角の長期滞在は実現した。
中国のNO1の王星を始めとしたつわものたち。
伊角は強い相手との戦いというものが今までほとんど抜けていた。
しいていえば院生時代、ヒカル…そのときは佐為だが。
佐為に指導碁をうってもらったのがあるいみつわものとの対局でもあった。
九星会においても対局はありはすれども、本当の意味での対局では、ない。
より強い強さをもつものとの対局の数は、基本的に比例して自らの糧となる。
「そっか。あ、そうだ。電話でいってたオレにききたいことって何?」
そういえば一番肝心な要件を思い出す。
それゆえに伊角にといかける和谷に対し、
「あ。そうそう。二か月ぶりにもどってきて週刊碁をよんだら。進藤が不戦敗になってたから。
  どうしたのかとおもってさ。病気?オレ、プロ試験前に一度進藤にはあっておきたかったんだ。
  だから……」
そっか。
ちょうど伊角さんが出かけたころに進藤のやつ倒れたんだったっけ?
そのことをふと思い出す。
「そっか。伊角さん、しらないんだ。進藤の不戦敗はその一局だけじゃないんだよ。
  五月からずっと、なんだ」
「え?」
一瞬目が点にとなり果てる。
「五月にさ、あいつ授業中にいきなり学校で倒れたらしくて…一か月近くずっと意識不明でさ。
  この六月の二十日にようやく退院したけど。まだ病院にはかよってるらしい。
  倒れた原因はわかんないらしい。何かあいつ悩んでるようだけど、それをオレたちには話さないし……
  ……何か碁をうちたくても打てない、みたいだな。そんな感じうける」
幾度かヒカルにあって感じた素直な感想。
何か迷い、苦しんでいる。
それ和谷達がきいてもヒカルは答えない。
「…そっか……」
何か。
があったのだろう。
和谷達にも話せない、自分の気持ちの中において、何か、が。
ともあれ、その原因をさぐるのが…先。

ピンポーン。
「すいません。突然おじゃましまして」
七月一日。
木曜日。
「いえいえ。もうあの子も学校からもどってくるころなんですけど…」
しばらく退院後、送り迎えをしていたがヒカルはそれすら断っているらしく、
普通に歩いて学校にいっているらしい。
チャイムがなって出てみれば、何やら見覚えのある青年が一人。
説明をうけて思い出す。
たしか院生とかいう碁の塾にいたヒカルの上級生、であることを。
それゆえに美津子は伊角を家にと招きいれ、ヒカルの部屋にと案内する。
勉強に打ち込んでいる子供の姿をみるのは嬉しい。
うれしいが…元気がなく顔色もわるい息子をみつづけるのは…母親、としてつらいものがある。
勉強よりも大切なものがあるのかもしれない。
それを美津子は最近身を持って味わっている。
だからこそ伊角を家にと招きいれた。
シンプルな部屋に似つかわしくない風景画の掛け軸がひとつ、壁にとかけられているのが目にとまる。
碁盤と景色のみで打ちてのいない、掛け軸がひとつ。
ちようどベットの向かい側の壁にとかけられているのが目にとまる。
これに描かれている佐為の姿は、霊力が高いものでなければ視ることができない。
そのことを彼、伊角はしらない。
「…埃は…たまってない……」
むしろ、日々きちんと拭いてはいるのであろう。
掛け軸の下に無造作におかれているキリの箱。
その箱の中には碁盤と碁笥がおさめられている。
置場的にはかなり邪魔でしかないような位置に感じなくもない置き方がきになるが。
「今、お茶をもってきますね」
「あ、おかまいなく」
いいつつ美津子は部屋をあとにしてゆく。

…びくっ。
人…影?
人の気配。
家の前にまできて気配を感じる。
それも二階の…自分の部屋から。
「……佐為っ!!」
そのままだっと家にと駆け込み二階へと駆け上がる。
「あ、ヒカ…もうっ!」
おかえりも、友達がきている、というひまもなく戻ってくるなり二階へと駆け上がったヒカル。
そんなヒカルに声をかけそびれ溜息を一つつくしかない美津子。
…あの子はかわった。
でも…なぜ?
考えても…美津子には…わからない……
バッン!
「・・・さっ…い…伊角さん…か……」
もしかしたら、という期待と不安。
部屋の扉を開け放ち佐為の名を呼ぼうとするヒカルの目にとびこんできたのは、佐為ではなく伊角の姿。
…たしかに、ヒカルの顔色は伊角の記憶にあるそのどれをとって比べてみても格段に悪い。
だが、今一瞬。
扉をあけたその一瞬、ぱっとその表情がかわり、そして急激に悪化したことを伊角は見逃してはいない。
まるで…まるで、そう。
【誰か】がいるとおもったのに、そこにいたのが別人でがっくりときてしまった、とでもいうように……
そんな印象をうけたのも事実。
「ヒカル!もう、お母さんが声をかけるまもなく駆け上がって!…どうしたの?」
……佐為、じゃぁなかった。
もしかしたら、と期待したのも事実。
「……誰かいる気配がしたから……」
戻ってきた。
そうおもいたかった。
「さっきみえられたのよ。今、あんたのお茶ももってくるわね」
「…俺はいい」
そういうヒカルの声に元気はない。
きちんと毎日学校にいきしかも勉強をもしているが退院してからずっとヒカルは万事この調子。
「どうぞ」
「あ、すいません。気をつかわせて」
「ごゆっくり」
とりあえずもってきていたお茶を伊角にと差し出す美津子はそのまま部屋をあとにしてゆく。
パタン。
ヒカルの母親が部屋をでてゆくのを見届け、あらためてヒカルに向き直り、
「久しぶりだな。進藤」
「…あ、うん」
ただいま。
佐為の掛け軸に心の中で声をかけても返事はない。
わかっている。
いるが…どうしても割り切れない。
退院したのち、毎日のようにこの掛け軸に話しかけるのがヒカルの日課となっている。
そうでもしなければ本当に気がくるってしまいそうなのだ。
「えっと…そえいえば、和谷がいってたような気がするけど。伊角さん中国にいってたんだってね」
しばらく掛け軸をじっとみつめつつもそのまま荷物をしたにとおく。
学校鞄は結構思い。
リュックサックだけでは入りきらない教科書類は学生鞄の中にといれてある。
「ああ、二か月間、向こうで勉強して昨日かえってきたんだ。
  それよりお前、大丈夫か?まだ顔色がわるいし。和谷にきいたら入院してた、ってもうびつくりして……
  退院してからも手合いも研究会も何もでていないんだって?」
ヒカルはおそらく自分と同じ。
囲碁をとても愛しているはずである。
だから…いくら病気だから、といってもそのことが伊角には信じられない。
自分ならば病気でも無理をしてでも手合いには必ずでる、と断言できればなおさらに。
「・・・・・・・・・・・・・」
「お前、塔矢をライバルだ、っていってたよな。まさかもう塔矢を追うのは無理だとおもって。
  それでやるきがおこんなくなってるとか?」
「……塔矢は関係ないよ。あいつも気にしてくれてる。けど…それより、もうむりって思って。ってどういうこと?」
「?知らないのか?それとも聞かされていないのか?あいつはとんでもないところで戦ってるぜ?」
「え?」
いいつつも荷物の中から週刊碁を取り出してヒカルに開いてみせる伊角。
「…昇段棋士?あ、もう塔矢三段になってたんだ」
聞いたようなきもしなくもないが……
「その上の今週の手合いの所をみてみろ。今日の日付だ」
いわれてそのまま視線を上にとむけてみれば、そこには
「えっと…萩原水晶彦九段と塔矢明三段。本因坊戦三次予選決勝。
  って三次予選決勝!?…そういや、予選がどうとかいってたけど……」
何か話されてきていたが、会話は耳にはいってこなかった。
はうっ。
どうやら、ここに来る前、棋院にて塔矢明に聞かされたことはあながち塔矢の杞憂ではなかったらしい。
【進藤。何かすごく悩んでるようなんです。
  でも僕には何もできなくて…話しをしてても心、ここにあらず、で…まるで…まるで……】
まるで、今のヒカルの様子はかつて、自分自身がヒカルを畏れ、一時碁を打つことすらままならなくなった時期。
そのときに…よく似ている。
『何か』、を進藤光は畏れている。
だからこそ、ヒカルの家による、といった伊角に対局前にアキラは託した。
…ヒカルのことを。

「…アキラのやつ。いつの間に……もう、こんなところまでいってたのか。
  今日勝てばトップ棋士八人の本因坊リーグ戦に仲間入り、だ。あいつ。
  しばらく対局していないうちにどこまで力をつけてるんだ?あいつ?」
きっと、佐為もこれをきいたらよろこんだだろうな。
そうおもうと悲しくなってくる。
喜んでくれるであろう人物は…もう、いない。
「……どうやら、情熱は残っているようだな。じゃあ、なぜ自ら打とうとしない!?」
「・・・っ!伊角さんには…伊角さんには…わかんないよっ!
  うったら…うったらもうあいつは…二度と……」
アイツ?
それがどうやら進藤光を立ち止まらせている原因。
原因となっている…【誰か】。
「…進藤。一局、うとう」
「ちょっ!?伊角さん!?俺はうたないよ!ほっといてよ!俺の心配より…」
自分の心配をしてほしい。
そんなヒカルの言葉をさえぎり、
「お前のことを心配していっているわけじゃない。オレの為にも一局、うってくれ。今日はそのためにきたんだ」
「……え?」
いきなりいわれて戸惑いの表情を浮かべるヒカル。
たしかに、ヒカルのためでもあり、そしてまた自分のためでもある。
何よりも伊角がここにきたのは、もともとは自分のため、でもあったのだから。
その付随としてヒカルのことをも頼まれたのにすぎない。
「…進藤。おぼえているか?去年のプロ試験。オレとお前との一局。
  …オレが、ハガシの反則をして投了した一局を」
「…あ……」
伊角の言葉に思い出す。
忘れようにもあれは忘れられない。
「…投了をためらったあの長い時間。反則をごまかせないかと考えた自分。苦い、記憶だ…」
あのとき、ヒカルには佐為がいた。
佐為が伊角になりきってあの一局を最後まで打ち終えることができたからこそ…ヒカルは前に進めた。
しかし、彼は…伊角さんは……
「進藤。お前とはあの一局が最後になってしまっている。
  今年のプロ試験が始まる前に、お前ときちんと一局、うちきりたい。オレをそこからスタートさせてくれ」
終わっていない、苦い記憶。
後悔してもしても悔やまれる一局ならば…ヒカルにも…ある。
あのとき、なぜ自分は眠ってしまったのだろう?
佐為と…佐為と打っていたのに。
……打ちかけの、一局。
二度と続きが示されることのない…一局。
それがずっとヒカルの心に重くのしかかっている。
「……伊角さん……」
気持ちはわかる。
痛いほどに。
だから…邪険にすることなどは…できはしない。
「オレ、中国にいってプロになりたい。という気持ちを強くしたんだ。
  若い棋士たちが一日。碁の勉強に明け暮れている中にいてオレもこの道を歩きたい、とおもったよ」
そう。
この道を歩いてゆく決意。
そして、それは……
「プロ試験はゴール、じゃない。目標ではあるけどゴールじゃんいんだ。道はずっと続いている。
  みんな戦いあってるが同じ方向に歩いているんだ。トップ棋士たちも、お前も、そしてオレたちも」
「……オレも……」
……それは、神の一手に続く永遠の道のり。
『…私は…私はまだ神の一手をきわめていないっ!』
「…あいつも…あいつもそう、いってた。なのに…極めてない。自分はまだきわめてない。って…なのにっ!!」
知らずヒカルの目から涙がこぼれおちる。
……打ちたいのに打てない。
それはその誰かの為。
おそらく、もう、その人は……
ヒカルの顔色が悪いのもそう考えればすべて納得はいく。
だが、あえて追及はしない。
「頼む。進藤。オレのために」
そして、お前のためにも。
「……伊角さんのために……」
・・・・・・・・・・・
しばらく無言の空気がただようものの、
「……わかった…」
静かに答えるヒカルの姿。
佐為。
伊角さんのため、なんだ。
お前があのとき、俺にしてくれたことを、俺は伊角さんに返さないといけない。
俺が打ちたいわけじゃない。
まっすぐ碁の道を歩こうとしている気持ちはお前にもわかるはず。
わかりすぎるわどに。
だって、お前、死んでも碁がうちたいがゆえにずっとこの世にとどまってた幽霊、だもんな。
…佐為。
もどってこい!…もどって…きてくれっ!!
ヒカルの悲痛な叫びは…届かない……


……進藤。
母にきいても詳しく教えてもらえない。
だけど、だからこそ僕にできることは…全力で勝負にいどんでゆくこと。
ただ、その一つのみ。
それこそが真実。
自分の姿が君の目にとまって君が立ち直るきっかけになるように。
そう。
あのとき、僕が君の一局をみて立ち直ったときのように……
本因坊戦、三次予選決勝である。
君がもっとも楽しみにしていた棋戦だから。
だから…僕は負けない、まけられないっ!
進藤!
立ち直ってもどってこい!
あとは君の気力次第。
そうきいた。
だからこそっ!!

ガチャ。
「ん?桑原先生!先生の対局はもうおわったのですか?」
「まさか。対局相手の真能が長考しているからな。一服しにきたんじゃよ。塔矢のセガレはどうじゃ?」
「乱戦です。両者ともども難しい」
「フム」
記者室にはいるといるはずのない桑原本因坊の姿をめにしておもわず声をかける天野である。
「しかし。塔矢君がもしも勝ったら快挙ですよ!十五歳、三段!プロ二年目の本因坊戦リーグイリ!
  今年の本因坊戦は倉田君がおしくも桑原先生。あなたにやぶれましたが。
  来年の挑戦者争いに塔矢君も加わってきたなら、いよいよ新しい波の到来、ですよ!」
そう、それこそ待ち望んでいた若い力、若い世代の到来。
「・・・しかし、進藤君。大丈夫ですかねぇ?もう退院したらしいですけど……
  桑原先生や緒方先生、それに塔矢行洋先生までもが注目していた、というのに……」
「なぁに。苦しみや迷いも、時には挫折も必要じゃて。天野さん、ワシは何の心配もしておらん。
  囲碁界やプロの世界のことをな~んもしらんかったというあやつをひきずりこんだ、
  という塔矢のセガレが全力で上をめざしておる限り、何の心配もいらんのだ。
  あやつは必ずもどってくる。自分が向かい合うべき相手の前に、な。
  その時は末恐ろしいことにさらにアヤツは成長しとろ~て」
それは確信。
「そんなもの、なんですか?そりゃ、進藤君は塔矢君ととっても仲がいいのはしってますけど。
  しかし、まるで進藤君が塔矢君の宿命のライバルのようにいわれるのですね」
「なぁに。あやつも、そして塔矢明自身もそうおもってるよ。天野さん。さて、そろそろいくか・・・の」
いいつつも一服をおえて記者室をあとにする桑原の姿。
そんな彼の姿を見送りつつも、
「進藤君。はやくもどってこいよ?」
しばし一人つぶやく天野の姿がその場においてみうけられてゆく。


進藤のやつが碁を打てないのは、失った【誰か】のため。
だけどもその人も望んでいない、と思うから。
「おねがいします」
「…おねがいします」
しずかに伊角とヒカルの一局がヒカルの部屋の中において開始されてゆく。
パチパチと部屋の中に響き渡る碁を打つ音。
右上はとられたけど、厚みでまさる。
まだ以前のような力づよさはない。
ないが…それでも進藤は妥協してきていない。
しかも的確によく読んできておりスキがない。
だけども、読み比べならば中国で鍛えたオレだって…負けは、しない。
パチっ。
そんなことをおもいつつ、伊角が一手を打ちこみする。
あ、反撃された。
サバキの筋にはいったか。
ダンゴ石にされておもしろくないけども、キリが一本はいるから形勢には響かない。
キカシを入れれば相手の石が浮いてくる。
……伊角さん、強くなってる。
そう、自分のちょっとした手にすかさずに反撃してくる。
二か月ぶりの打ち込みでどこか思考がまだしっかりとしていない自分にすら迷わずに打ち込みしてくる。
ここ、で、右辺の白模様を荒らせば……
そうおもい、その一手を繰り出すものの。
…は!?
自らの一手が佐為の一手と重なる。
まるで…まるで、佐為がいつも扇で示していた位置にヒカルが石をおいているかのごとくに。
「……佐――っ!」
思わず対局中だ、というのにはっと振り向く。
が、そこにその姿は…ない。
しばし、局面と自分の手を見つめつつ呆然としてしまう。
今、たしかに、無意識のうちに…自分は…自分は……
つう~…
「・・・?進藤?」
いきなり静かに涙を流し始めたヒカルをみて戸惑いの声をだす伊角にいうともなく、
「…この打ち方…あいつがうってたんだ…こんなふうに……こんなところに…あいつが……」
どこを探してもみつからなかった。
二度と見つからなかった、というのに。
失って気づくことはある。
佐為に師事をうけていた中でヒカルに佐為の打ち方は確実にと伝わっていた。
そのことにこのときはじめて自覚する。
思いつくかぎりの場所を探した、というのに、こんなとこに……
「進藤?お前……」
目の前でいきなり泣き出されて戸惑いを隠しきれない。
何かを、今の一手で感じたことはわかった。
では…何を?
きっと、それは…二度と会えない【誰か】の打ち筋に自らがうった手がよくにていたから。
そう、なのだろう。
…佐為が、いた。
「こんなところに…こんな身近に…あいつが……」
自分が向かう、盤の上に。
自分が打つその碁の中にこっそりと隠れていた。
まるで。
『わ~い、ヒカルにみつかっちゃった~』
とでもオチャメにもいっているかのごとくに。
佐為。
お前に会う、ただ一つの方法は…方法は…打つこと、だったのか?
……佐為……
「……進藤」
「……伊角さん。俺…俺、うってもいいのかもしれない。碁」
ごしごしと制服にて涙をぬぐう。
「何か…苦しんでいたみたいだな。今まで……」
それを聞かないのは彼の優しさ。
おそらくそれはヒカルの身近にいた【誰かの死】を意味しているのであろうから。
…人は、大切な人を失うと、迷い、戸惑い…そしてあがく。
それでもその悲しみから立ち直らなければいなけいのだ。
人生とは優しいものではないのだから。
そのいなくなった人の分まで。
「…打つよ。俺。これから何十局でも、何千局でも。伊角さんとも和谷とも越智とも塔矢とも!」
「ああ。オレも同じ道をあるきたい」
「…ありがとう。伊角さん。俺もここから再スタートだ。
  …忘れてた。あいつはやめるな、っていってたこと……」
自分がいなくなっても、ヒカル、あなたが私の代わりに……
そう、佐為はいっていた。
そんな佐為の言葉はヒカルはききたくなかったから、耳をふさいだ。
佐為がいなくなる。
なんて認めたくなかったから……
もしかしたら、きっと亡くした人は進藤にはいない、といわれていた進藤の【師匠】なのかもしれないな。
そう漠然とはおもうが、あえてきくことなく、
「続き…うとうか」
「ああ」
そういうヒカルの顔色は先ほどと違い、決意にあふれた若者らしい表情。
しばし、新たに力強い碁をうつ音が部屋の中にと響き渡ってゆく……


「ん?進藤君じゃないか。もう体のほうはいいのかい?」
「え、あ、あの、まだ対局って…!」
挨拶をしたいが時間がおしい。
それゆえに戸惑いつつもせっぱつまってといかける。
「ほほほ。小僧。お前のライバルなら五階におるぞ?」
「――はいっ!」
「って、桑原先生。彼は……」
桑原の言葉をきいてそのまま階段を駆け上がってゆくヒカルをみつつ、戸惑いつつも声をかけるが。
「大丈夫。じゃよ。目をみればわかる。…どうやら立ち直ったようじゃの」
「たしかに、顔色はわるくはありませんでしたけど……」
しかし、一か月も意識不明の重体であったことにはかわりがない。
それゆえに心配してしまうのも道理。
「のう。坂巻さん、しってるか?碁は二人でうつものなんじゃよ」
「知ってますよ。当たり前じゃないですか」
「…ふぅ。わかっとらんな」
わかってない。
そう、碁は二人でうつもの。
二人でひと組、一対、表と裏、光と闇のようにきっても切り離せない…もの。

「塔矢君。本因坊リーグ入り。おめでとう」
「ありがとうございます」
「……塔矢っ!」
「っ!?進藤!?」
「え?」
聞き覚えのある声に振り向けば、息を切らせているヒカルの姿が目にとまる。
「進藤君!?もう体は大丈夫なの!?」
そんなヒカルを気遣って天野が声をかけるものの、
「あ、これ棋譜!?みせて!」
いってばっと天野がもっていた棋譜を奪うようにしてざっと目を通す。
「勝ったの!?」
「…ああ。って、大丈夫…なの?進藤?それに、どうして。…何しにきたの?」
怖いけど聞かずにはいられない。
目を見ればわかるが、彼の口からきちんと聞きたいからあえてといかける。
「塔矢。俺。絶対に何があっても碁はやめない。ずっとこの道をあるく。
  これだけお前にいいたくてきた!」
……伊角さんっていったっけ?あの人。
どうやら進藤を立ち直らせてくれたらしい。
あとでお礼をいわないと。
そう心の中でおもいつつ、
「・・・わかった。おってこいっ!」
「ああ!」
いいつつも、二人でにっと笑うアキラとヒカル。

「碁は一人ではうてんのじゃ」
「だから、わかってますよ。そんなこと」
「二人、いるんじゃよ。一人の天才だけでは名局はうまれんのじゃ。
  等しく才たけたものが二人、いるんじゃよ。二人。二人そろって初めて、神の一手に……」
「ほぉ。神の一手、ですか。それはまた……」
棋院をでつつもそんな会話をしている桑原と坂巻。
「あやつも覚悟ができたようじゃ。終わりのない道を。…だが、このワシがおるうちは…楽はさせんぞ。小僧ども」
これからの囲碁界はあの二人を中心に確実にまわってくる。
それがわかるからこそ、自らもまた気合をいれる。
新しい時代は、すぐそこにまできている、とわかる、から……


七月七日、水曜日。
「え?お前、今日勝ったら三段、なの?」
「ああ」
「今日のお前の相手ってずっと病欠してるとかいう例のやつだろ?」
「ああ、だから不戦勝でラクラクってわけだ」
「ちぇっ」
ガァッ。
「「!?」」
そんな会話をしているとエレベーターが開き、おりてくる一人の少年。
「おはようございます」
いってそのまま対局場にとむかってゆく。
そんな彼の姿をみつつも、
「…進藤…きたのか……」
何ともいえない表情を浮かべてしまうのは仕方ないであろう。
「ちっ。何も進藤のやつ。今日からこなくてもいいのによ」
しかも、病み上がりのはずなのに、そうはみえなかった。
そんな会話をしていると、
「あ。進藤君がきてるんですか?」
「辻岡君」
ふと、二人の背後からひょいっと手合い場をのぞいて声をかけてくる別の男性が一人。
「ボクは次の大手合い、彼とあたるんです。よかった、彼とはうちたかったんだ」
「うちたかった?あいつに!?」
どう考ええても打つのを嫌がる相手、である。
恐ろしいほどに強い、と塔矢明並みにいわれていればなおさらに。
「ええ、何しろ彼は塔矢君が唯一、ライバルと認めている子らしいですしね。一局、手合せしてみたかったんですよ」
「……っ……」
それはあの若獅子戦のときに嫌というほどに村上は思い知らされたのも事実。
「おいおい。それってまじか!?」
さすがにそのライバル云々はきいたことがなかったらくして先ほど話していた男性の一人がそんなことをいってくる。
と。
「おはようございます」
「あ、塔矢君。おはよう」
「おはようございます。って、進藤!!今日からもう、いいのか?」
挨拶をすると同時に、手合い場に待ち望んでいた人物の姿をみとめてそちらにとかけよるアキラの姿。
どうでもいいが彼にとっては先輩達はどうでもいいらしい。
みるかぎり、ヒカルのことしか目にはいっていない、としか映らない。
事実、まあそうなのだが。
「うん。心配かけて…ごめん」
「いいよ。別に。それより!いくら病み上がりでも不様な碁はみせるなよ?」
「はは。がんばってみるさ。ここ数日、勘を取り戻すためにかなり打ったし」
「そりや、僕もつきあったけどさ。時間があわないからネットで」
『・・・・・・・・・・・・・・』
何やら他にも人がいる、というのにも関わらず、完全に二人の世界にとはいっているヒカルとアキラ。
「あれ?進藤君じゃないか!もう、体、いいの!?」
「いやぁ、入院してたってきいてびっくりしたよ!」
わらわらわら。
そんな会話をしている最中、ヒカルに気づいたほかの棋士たちもヒカルの周囲にと集まってくる。
彼らとて知りたかったのである。
院生にして若獅子戦に初優勝を飾った、進藤光の真の力、を。
「…ちっ」
「…そういや、お前、あの若獅子戦であいつと一回戦あたったんだよな?」
「…に、二か月もブランクのあるやつに負けてたまるかっ!」
あのとき。
勝てない、と思い知らされたのも…事実。
でも、それは子供だとなめてかかったから。
そう…自分自身に言い聞かせていたのも事実。
しかも、ヒカルは今日、病み上がりの、しかも二か月ぶりの手合い、である。
…プロ二段の意地、として負けるわけには…いかない。


                                -第64話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、さらっとながしたヒカルの苦悩の日々!
  入院時、退院してからもしばらくのち、悩んだのも事実ですけど。
  あえてそこには詳しくふれずにさくっとね(こらこらこら
  次回で復帰したヒカルの周囲と、そしてプロ試験の開始、かな?
  何はともあれではまた次回にてv
  さてさて、例のごとくに小話、いっきますv


「君!」
え?
囲碁サロンの前にまでやってきてしばらくみつめていたところ、いきなり声をかけられる。
佐為やあの子がここまで真剣になってる碁ってそんなに楽しいものなのかなぁ?
ともおもうが、だけども佐為を喜ばしたいのも事実である。
「君だよ!ちょっときて!」
「って、いきなり何するんですかぁっ!」
『おお!おみごと!』
いきなり腕をつかまれて反射的に足払い。
すばやくかがんで足をひっかけ、相手がひるんだところでばっと離れる。
投げ飛ばそうかともおもったが、周囲はアスファルト、である。
打ちどころがわるかったりすればおおごとにとなってしまう。
それゆえの臨機応変。
「…っとと。…お、女の子?い、いや、ごめん。ごめん。君、この前囲碁大会にいた子、だよね?」
手をつかんでわかったがまさかいきなり足払いをかけられる、とはおもっていなかった。
どうやらけっこう見た目よりも気のつよい子であるらしい。
「?囲碁大会?」
『あ。ヒカル。あれじゃないですか?ヒカルがつい口だしした』
でもあれは、佐為がいったから!
『でも口にだしたのはヒカルですよ?』
「だってあんな場所に打ちこみするなんてもったいないしっ!…って、あ、あのときの?
  あのときいた人ですか?え~と、あのときはすいませんでした」
とりあえずどうやらそのときの関係者、らしい。
それゆえに一応再び謝っておく。
「いや。まあ、それより。君に会いたいって人がいるんだ」

『?』
そんな真白いスーツをきている男性のセリフに思わず顔を見合すヒカルと佐為。
ぱっとみた目はヤさんのような気もしなくもないが、どうやら違うらしい。
「?あ、もしかして塔矢君ですか?あの子、大丈夫なのかなぁ?」
『あのとき、なめてかかってしまってつい一刀両断にしてしまいましたからねぇ…』
実力を測りかねて。
「?君、明君をしってるのかい?」
「アキラ?あ、あの子の名前だったっけ?確か?
  この前、囲碁サロンとかいう碁会所で二度ほどうったんですけど。
  何かものすごくショックうけてたみたいだし。何いっても反応なかったもので」
実際に、目の前で男の子が泣き崩れるところなど、あのときヒカルは初めてみたといっても過言でない。
ヒカルもかつて柔道やカラテなどでなかなか勝てなくて悔しい思いをしたことがあるので気持ち的にはわからなくもない。
だからこそ、あのとき、佐為に聞いて相手が気をつけるべきであった場所をいったのであるが。
「結局時間が時間だったから、急いでもどっちゃってそれっきりだし。
  あの日はお花のお稽古がある日だったし」
実際、あの日は午後からお花の稽古がある日でもあった。
それゆえに気にはなりはしたものの、そのまま立ち去ったのも事実である。
「…と、とにかく、きてくれ」
「…変なことしたら問答無用でなげとばしますよ?」
「…君ねぇ。…まあ、このご時世、そこまで警戒心がないと危険なのはわかるけど。
  来てほしいのはそこの囲碁サロンだよ」
「あ、それなら私も今むかってたんです~。碁盤かりれないかな~?とおもって」
「碁盤?」
「はい。碁会所だったら余ってるのないかな、とおもって。
  ちょっとしたことである大会にでることになっちゃったから、家には碁盤ないし」
「…君の家…ないの?」
「うち、そんなの母も父も興味もってませんし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
話しをきいていればどうやらあの明君にかったのもこの子のようだし。
あの一手を即答したのもうなづける。
が!
…家に碁盤もなくて家族も興味がない、というのはいったいどういうことなのだろう。
そんなことをおもいつつも、
「とにかく、君に会いたいって人がいるんだ。きてくれる?」
さきほどの足払いは見事であった。
しかも小学生の女の子に投げ飛ばされてはたまったものではない。
それゆえに口調をかえて緒方はヒカルを誘って七階にとある囲碁サロンへと足をむけてゆく。
そこで待ち構えているのが、塔矢明の父親で、囲碁界ではトップクラスの実力者をもつ、
といわれている塔矢行洋、という人物だ、と、このときのヒカルと佐為は知る由もない……


のような感じでv
アキラとの二度めの対局後。
創立祭がおわったのち。
一応なしくずしてきに大会にでることになってしまったので碁盤をかりにきているヒカルです(笑
小学生なのにあんた何やってるの!?
と祖父や両親にいわれるのがわかりまくってること、ですからねぇ。
なのでこっそり内緒でv(笑
ちなみに、制服はおもしろがった同級生が兄から借りてくれることになってたり(まてv
緒方さん、いきなり女の子の手をつかんだら、このご時世、チカンとかに間違われますよ(笑
ではでは~♪

2008年9月16日(火)某日

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