まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

とりあえず、そろそろ支離滅裂になってきます(まてこら
いや、きちんとかいてたらおもいっきり鬱々状態に自身もなるもので~
日付指定をすることによって、読み手にいろいろと想像してもらおう。
という何とも他人任せの方法にはいるとおもわれます(自覚あり
何しろヒカルが入院しているサイトの裏側ではいろいろとドラマ(?)がありましたからねぇ(汗
まあ、そのあたりを含めて了解した人のみ、今後数話しお付き合いくださいなv
ヒカルが入院&復活&プロ復帰、のあたりはさらっと流す予定ではありますので。
あしからず…
何はともあれゆくのですv

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ふと思い出す。
あの記念すべきあの日…佐為と初めて出会ったあの日のことを。
あれから二年あまり。
ずっと共にどんな時も一緒にいたのに。
佐偽。
お前、いったいどこにいったんだ?
認めたくない。
さよならも、何もいわずに別れがくるなんて。
だから…絶対にみつけだしてやる。
お前が俺をみつけたように、今度は俺がお前をみつけだすっ!

星の道しるべ   ~佐為の行方~

「どうしたんだ?ヒカル?こんな朝早く。というかお前、今日は仕事だったんじゃぁ……」
確か昨日から一泊二日で仕事にいっていたはずである。
なのにどうしてもう戻ってきているのであろうか。
しかも着たとたんに倉の中にとはいるとは。
「何か一昨日忘れものでもしたんか?」
怪訝そうにヒカルにといかける平八であるが。
そのまま倉の二階にと駆け上がるヒカルの姿。
「…嘘…だろ?」
目の前にある碁盤にはあったはずの染みがない。
もののみごとに。
綺麗さっぱりと。
部屋でいつものように碁をうっていただけなのに。
たしかに佐為はもうすぐ逝く…とはいっていたが、そんな馬鹿なことがあるはずがない。
だって…だって佐為はまだ大丈夫だから仕事はきちんとしなければ?
と自分をそういってあの泊まりこみの仕事にいくように、といってきたじゃないか。
それに何よりも何もいわずにいなくなる、なんて信じられない。
佐為はそんな性格では絶対にない。
ずっとともにいた仲なのだから。
「ヒカル。何しとるんだ?さっきから。あんまりうろうろしとるとお化けがでるぞ?」
…っ!
「でてほしいんだよっ!」
「はぁ?」
まさかそうくる、とはおもわなかった。
「心残りがなくなってなんか絶対にない!成仏なんてありえないっ!」
ならば、どこに?
佐為がいるとすれば……
「棋院!棋院かもっ!」
まさかいくら何でもいきなり消える、なんて…
ついさっきまで一緒に碁を打っていたのは事実、なのだから。
人は逝くとき思いでの場所に姿を表すことがある。
そのことをヒカルは知っている。
想いでの場所。
とおもってぱっと思い浮かんだのは日本棋院。
佐為にはおそらくお墓などというものは存在しない。
あのとき夢が真実ならば佐為の遺体は見つかることはなかったはずなのだから。
「あ、おい!ヒカル!」
そのままだっと二階から駆け降りてそのまま外にとむかってゆくヒカルであるが。
そんなヒカルをあわてて呼び止めている平八の言葉もまったく今のヒカルにはとどかない。
家の中にはどこにも気配はなかった。
それゆえにそのまま棋院にとむかってゆくヒカルの姿。
「なんだったんだ?あいつ?さっさとかえっちゃって……」
さらに顔色がものすごく悪かったのもきにかかる。
しばし残された平八はただただ首をかしげてゆく。

五月の五日。
木曜日。
「あれ?進藤君?どうかしたの?」
ふとヒカルの姿に気づいて声をかける。
「あ、篠田先生」
ふとききなれた声に振り向けばそこには院生師範の篠田の姿が。
「って、君?大丈夫?ものすごく顔色わるいよ?」
まるで今にもヒカルは倒れそうなほどに顔色がわるい。
そもそも、たしか彼はまだ一泊二日の仕事にでむいていたはずであったはず。
なのにどうして先にもどってきているのだろう?
「…体調わるいのに仕事してさらに悪化したんじゃない?」
ここしばらくのヒカルの様子がおかしい、というのは篠田も噂できている。
だからこそ心配せずにはいられない。
「ちょっと探してて……」
佐為を。
ぐっと最後の言葉は声にならずにのどからでない。
「あ、あの。先生。幽霊がでそうな場所ってどこかありませんか?」
手合いの間にも、幽玄の間にもいなかった。
精神を統一して気配をさぐったけども見当たらなかった。
だけどももしかしたら見落としているのかもしれない。
「幽霊?…さあ?たしかに棋院は古いからでてもおかしくないけどね。
  幽霊ではないけど、古いものなどがおいてある場所ならあるよ?
  そういえば君、まだいったことなかったっけ?せっかくきたんだし。案内しようか?」
「お願いします」
何やら切羽つまったような感じをうける。
ひしひしと。
病院にいったら?
といってもまだ世間は祭日。
救急病院にいったとしてもおそらく確実な結果は得られないであろう。
「この奥だよ」
「え?この奥?この奥には何もないはずなんじゃぁ?」
篠田に連れていかれたのはとある階の奥深い場所。
「ところが。部屋があるんだ。ちょっとまってね」
いいつつも持っていた鍵で扉を開く。
たしかに倉庫の奥のほうに小さなドアがあり、その先に部屋があるらしい。
「この部屋のことはしらなったの?」
「あ。はい」
そんな会話をしていると、扉の鍵がゆっくりと開かれる。
「ちょっとまってね。今電気をつけるから」
棋院の奥のほうにあるので朝だとはいえ窓もない部屋なのでかなり薄暗い。
それゆえにパチリと電気をつける。
電気をつけて明るくなった小さな部屋の中にみえるのはところせましと置いてある数々の本。
「…なに、これ?本?」
「ああ。棋譜だよ。昔の棋譜。当時のものがのこってるんだ。一番古いのは本因生家集だよ」
「幽霊がでそうな部屋。ってこういうことか」
たしかに古いものには念がこもる。
だけどもここに佐為の気配は感じられない。
「まあね。幽霊はどこにもいないけど。せっかくだし。何かだしてあげようか?」
「あ、別にいいです」
今はそんなときではない。
「せっかくなんだし。みてみれば?」
「あ…じゃぁ、虎次郎の」
もしかしたら彼の棋譜をみれば佐為のことが何か情報がつかめるかもしれない。
「虎…?ああ、秀策、ね。え~と…秀策はたしか家栄、だったかなぁ?」
いいつつも、ひとつの棚を調べだす篠田であるが。
ここにはさまざまな想いがこもっている気配はあるものの、だけども意識がある存在はいない。
「うわっ!?」
「って、進藤君。気をつけて。古いものだからね」
ふと棚に手をのばすと数冊が棚からおちてくる。
「虎次郎の棋譜は…そういえばまともなのはみたことないな~」
「え?今出版されてるのもみたことないの?」
「いや。それはありますけど」
それかほかは佐為が教えてくれたさまざまな一局がヒカルにとってはすべてである。
過去をしり、現在をしり、そして未来をしる。
新たな定石を生み出すには何ごとも勉学が必要です。
佐為はいつもそういっていた。
「ああ。あった。はい。すんだら事務室にいるからよびにおいで。
  だけどほんと、気分がわるいんだったら無理しないほうがいいよ?」
はたからみてもものすごくヒカルの顔色はわるい。
「あ、はい。すいません。大丈夫です」
篠田に手渡された二冊の本。
そのまま部屋にあった机のイスにとすわり、それを手にするヒカル。
ここにかかれているものはおそらく佐為がすべてうったものであろう。
虎次郎はすべて公式の手合いを佐為に打たせていたのだから。
今の佐為と昔の佐為。
それをみることにより何かつかめるかもしれない。
そんなことをおもいつつ、ヒカルは本をぱらり、とめくってゆく。

「ありがとうございました」
「だいじょうぶかい?」
何やらさらに顔色がわるくなっている。
だからこそ気にかけずにはいられない。
「はい。どうもありがとうございました」
過去があり今がある。
佐為の言葉の意味が棋譜をみてよくわかった。
彼…虎次郎がいっていた意味も当時の棋譜をみてよくわかった。
「本当に、無理しないほうがいいよ?」
無理なんてしていない。
これは自分の問題。
そんな篠田にかるく笑みを浮かべてお礼をいい、ヒカルは一度、家にともどってゆく。
…因島にと向かうために。
自分との想いでの場所にはいなかった。
ならば可能性があるのは虎次郎、ゆかりの地。
佐為の気配すらつかめなかったのだからそれにもうかけるしかない。
もしかしたら虎次郎とコンタクトがとれれば佐為のことがわかるかもしれない。
これはかけ。
霊場めぐり、は伊達ではない。
そういった類の存在とコンタクトをとる方法をもヒカルはあのとき身につけた。
絶対につかまえてやる。
突然何もいわずに消える、なんてそんなのは嫌すぎる。
こんな別れ方なんて…認められないから。
「あ、ヒカル!ちょっと!…もう、何なのかしら?あの子ったら?」
朝もはやくにもどってきたとおもったら、いきなり義父の家にいったらしい。
さらにそれから棋院にむかい、家にもどったとおもったら何か荷物をもってまた出て行った。
事情をしらない母親からすればただただ首をかしげるしかない。
そもそもあんなに顔色がわるいのに、いったい息子は何をやっているのだろう。
最近、ヒカルがあまり寝ていなかったことは知っている。
中三になったこともあり、そのあたりの関係かしら?
ともおもい、もしかしたらクラスで何かあったのかもしれない。
と学校にも問い合わせてみたが思い当たる節も担当にはない、とのこと。
ゆえに手詰まり感はいなめない。
だがしかし、別方面の可能性に思い当たらないのは…
それは美津子があまりその手の力を信じようとしていないがゆえ、なのかもしれない。

「因島…かぁ。今日中にはむり、だよな。だけど佐為がどこにいったかくらいのヒントはみつかるかもしれないし」
だからこそすばやく用意をして家をでた。
パッパッパ~!
「ん?」
「よお!どこにいくんだ!?のっけてやろうか!?」
何やらクラクションの音がしてふと振り向けばそこにはタクシーが一台ほど。
運転席から顔をのぞかせていってくる男性が一人。
そういえば、とおもう。
去年の夏休み。
佐為と一緒にいったとき、彼も同行していたことを。
「河合さん。仕事?あ、そうだ!河合さん、東京駅までのっけてってよ!」
とりあえず一泊旅行ということもあり、
ある程度は必要かもしれない、というので珍しく母はヒカルにカードを手渡していた。
それゆえに郵便局で自在にお金は引き出せる。
「あん?東京駅だぁ?どこかにいくのか?まあ、今は連休だしなぁ。よっしゃ、のってけ!代金は別にいらねぇぞ」
ヒカルとはヒカルが院生になった当初からの付き合いでもあることから、彼もまたヒカルをかなりかっている。
しかもそののち、初快挙などをなしとげていればなおさらにのめりこんでしまう、というもの。
「そういえば、今年の若獅子戦は十四日から、だったっけな?」
タクシーに乗り込み行先をつげると河合がそんなことをいってくる。
若獅子戦?
ああ、そういえばもうそんな時期なんだ。
そのことすらすっかり失念していた。
そもそも先月からいろんなことがありすぎる。
そして今、まさにとんでもない事態がおこっている。
「というか。おまえ、顔色わるいぞ?大丈夫なのか?そんなんで旅行なんてして。どこいくんだ?」
ヒカルはまるで今にも倒れそうなほどに顔色はわるい。
それゆえに心配しつつも車を走らしつつもといかける。
本来ならば第二土曜日は院生手合い日なのであるが、五月は別。
五月の連休もあることながら手合い日はそちらのほうにと回されている。
そしてまた若獅子戦もあることながら院生手合いの週や日が変わっているのも事実である。
「あ。うん。ちょっと因島に……」
「因島だぁ!?お前去年もいっただろうが。しかし、いいなぁ。俺もいきてえぜ。
  何しろこの休み期間一度も休みなしだしなぁ。よぉし!きめた!ちょっと営業所によってこの車、おいてくらぁ」
「は?!」
河合が何をいっているのか理解不能。
それゆえに思わず間のぬけた声をだすヒカルであるが、
「一緒にいってやるっていってんだよ!そんな顔色のわるいお前一人でなんていかせられるかっ!」
そもそも、顔色もかなりわるいのに因島にいく、などと何かプロの世界であったのかもしれない。
だからこそ一人にするわけにはいかない。
いくらプロになった、とはいえヒカルはまだ子供。
子供なのだから突拍子もないことをしでかさない、ともかぎらない。
それゆえに会社に理由をいい、ヒカルとともに河合もまたついてゆくことに。
会社とてダメです、とは言いにくい。
そもそもヒカルはあの塔矢行洋とつながりが深い。
明から河合の話をきいた行洋はよく彼の会社のタクシーを指名しているのも事実。
…上得意とつながりがある人物を会社としても邪険にするわけには…いかないのだから。

プァッ!
十一時半発、のぞみ二十五号。
朝一の始発の新幹線で家にと戻り、またこうして新幹線にのるなどヒカルとしてもおもってもいなかった。
福山にて三時十九分発のこだまに乗り換えて新尾道にと向かうヒカルたち。
新尾道につくのは三時二十八分。
「ぷわ~!やっぱり昼間っからのビールはいいねぇ!お、今日の富士さんは一段と美しいねぇ」
はぁ~。
横にすわっている河合のその声に思わずため息。
「河合さん、さわがないでよ」
「バカやろう。旅っていうのもはたのしまなきゃよ。というかお前もほら、みてみろ。少しは気がまぎれるぜ?」
どうも体調がわるいせいで顔色が悪い、というのではなさそうである。
何かこう、心配ごとがあり顔色がわるくなっている。
伊達に大人になっていない。
そのあたりのことくらいは河合でもわかる。
どこかあぶなっかしいヒカルを一人でいかせるわけにもいかず、
しかも時刻なども調べずに行き当たりばったりの行動だったらしい。
それゆえにすばやく携帯電話で電車の時間を割り出した。
「ついてきただけなのに」
おもわず毒ついてしまうのはヒカルとしても仕方ないであろう。
そもそも、連休中なので自由席はあいていなかったので指定席を購入した。
偶然に席があいていたのはかなり助かったが。
周囲はほとんど満席状態。
その中で騒がれてはヒカルとしても肩身が狭い、というもの。
「お。そろそろ乗り換えだぞ」
「あ。うん」
佐為…いるよな?
あそこに。
佐為はあのとき、あの場所を懐かしい。
といっていた。
ほんの小さな可能性。
だけども今のヒカルにはその可能性にかけるしか…手はないのだから。
たしかに次の停車駅は福山らしい。
そこから乗り換えて新尾道まで。
去年の夏には佐為も一緒だったのに。
今はいるべきはずの存在は…いない。

因島行きバス。
新幹線を下りればどうやらちょうど時刻が重なっていたらく外にでるとすでにバスはバス乗り場にとやってきている。
「あ!あのバス!いそごう!河合さん!」
「あ、おい!…ったく、ガキはすぐに走りやがる」
新尾道駅にとあるバスの停留所。
その一角に出発待ちのバスの姿を認めて走り出すヒカル。
そのままそのバスにと乗りこんで、ヒカルは因島へと向かってゆく。
瀬戸内しまなみ海道。
それを通りバスは一路因島へ。
バスを下りて歩いて十五分のところに本因坊秀策の記念館はある。
記念館に佐為がいるかはわからない。
だけどもいるとすればあいつのことだからおろおろしてるか、懐かしさにひたってるかもしれないな。
そんなことをふとおもう。
確かあそこには佐為が虎次郎とともに生活したという生家も再現されていた。
「……さすがに人、多いいなぁ~」
五月五日は秀策の…桑原虎次郎の誕生日。
それゆえに以前きたときよりもかなりの人だかり。
この日ばかりは予約制、とはいってもほぼ一般開放している記念館。
石切神社、秀策記念館。
「……だめだ……」
正面からはいり、精神を統一。
かすかに昔のものなのであろう、佐為の痕跡らしきものは感じ取ることはできた。
だが、佐為自身の姿や気配はつかめない。
本因坊秀策記念碑を中心にちょこまかととにかくひたすらに動き回ってひたすらに佐為の姿をもとめるヒカル。
「佐為…?佐為ってば!」
「?何やってんだ?あいつ?お~い、記念館にはいれるってよ」
さすがに本日はひとが多く、因島のボランティア団体がそれぞれ説明係りとしてついてくれるらしい。
因島は町をあげてこの町を囲碁のまちとして盛り上げようとしている。
その意気込みがこういったところにもひしひしと感じ取れる心づかいである。
……佐為は…いない。
もしかしたら、ともおもったのに。
「……虎次郎の碁盤の前にもいないなんて……」
「?」
どうもヒカルは誰かをさがしているっぽい。
しかし、呼び出しすらしない、というのもふにおちない。
「あら。君、よくしってるわね。秀策先生の幼名。そうよ。その碁盤は秀策先生が母親と打っていた碁盤だけど。
  でも珍しいわね。秀策先生の幼名をしっているなんて」
というか普通幼名でよぶひとなどはっきりいっていない。
そもそも、彼を幼名でよぶのは世界中を探しても佐為とヒカルくらいであろう。
「いえね。こいつこの春から新初段になったぱかりのプロの棋士なんですよ。
  どうしてもここにきたいっていうからね。オレがね。つれてきてやったんです」
「まあ、それはそれは。若いのに大したものですねぇ。それは秀策先生もきっとお喜びのことでしょう」
ヒカルと河合についた案内係りの女性はどうやらヒカルのことを知らないらしい。
囲碁関係の雑誌などをみていればおそらくすぐにわかるであろうに。
ここにきている人々の中にもヒカルを知っている人々は多々といる。
…が、彼らの目には今のヒカルは【視えて】いないのが実情。
佐為が消えたことによりヒカルを取り巻く【能力】…【霊力】がさまざまに影響し、
周囲からヒカルの姿を認識させることを完全にと閉ざしている。
河合が何ともないのは彼もまたヒカルとは付き合いが長いゆえ、である。
何しろ彼はヒカルが佐為とともにいたときからの付き合い、なのだから。
「お墓はあちらになります」
まさか以前もきたことがある子供、だとは思わずに案内係りのものはヒカルたちを墓にと案内してゆく。

……佐為。
いたら返事してくれっ!佐為!
虎次郎。…お願い、佐為にあわせてっ!
墓の前でひたすらに精神統一。
来る途中に佐為からきいたことがある虎次郎の好物と花を忘れずに勝ってきた。
ハタからみれば胸に手をあてて熱心にお参りしている子供。
そうとしか映らない。
佐為の手ごたえはないものの、虎次郎にはつながりがとれるかもしれない。
そんな期待と…不安。
佐為。
もしいるんだったら返事しろ!
俺が視えたらもどってこい!佐為!
ぼんやりとヒカリを感じるもののコンタクトを【とる】のはどうやら【ここ】では無理らしい。
「ねえ?ここの住職さんたちは?」
「ああ。今日は子供の日ということもあって忙しいからねぇ。ほとんどで払ってるわよ?」
「…そう」
彼らに聞けば何かわかるかも。
そう期待していただけにいないとわかりおもわずうなだれる。
彼らは佐為の名前を知っていた。
そして、佐為の存在にも気づいていた。
姿は確認できていなかったにしろ、【いる】ことがわかっていたものなど…そうはいない。
「よっしゃ!次は竹原の宝泉寺にいくぞ!」
「?宝泉寺?そっか。いこ。河合さん」
たしかそこはかつて佐為が虎次郎と訪れていた寺のはず。
一度佐偽とともに塔矢や和谷、そして芦原とともにいったことがあるがゆえにヒカルは知っている。
ヒカルは気づいていなかったが、ヒカルが精神統一をしていた間。
河合が案内係りの女性にいろいろと話しをしていたらしい。
まあ、ヒカルからすればその会話の内容にまったくもって興味はさらさらないのだが。

宝泉寺には当時、江戸時代。
実際に虎次郎が…佐為が打っていた碁盤と碁石がのこっている。
「やっぱりいく度きてもいいよな~。って、お前何うろうろしてんだよっ!?」
碁盤はそっちのけでヒカルは寺の中を右往左往。
少しでも佐為の痕跡が感じられる…それに関してはヒカルのもつ【形見の石】が反応するので判断がつく。
とにかくひたすらに佐為の姿をもとめて精神集中。
……いない。
何で?どうして?どうして、こんな…っ!
大丈夫だ。
そういったじゃないか。
佐為。
あのとき、あの数日前に。
大丈夫だから仕事にはいきなさいって。
なのに…どうして~っ!
「あとは糸埼八幡宮と慈観寺…くらいか・・・・・」
佐為が虎次郎とともに行動し、思いでがのこっているはずの地は。
一度、去年の夏に徹底してゆかりの地を巡ったからこそどこにいけばいいのかはわかる。
「あ、お母さんに電話しなきゃ」
「おいおい。まだ秀策めぐりすんのか?おめ~?」
だんだん顔色もわるくなっている、というのに。
「河合さんはもどっててもいいよ?」
「ぬかせっ!おまえひとりじゃあぶなっかしくてほっとけるか!
  第一、今からもどっても東京につくのは深夜だしな」
どうやら明日も行動しないと手がかりはつかめそうにない。
すでに暗くなっていることもある。
それゆえにピット携帯を手にし家にと連絡をいれるヒカル。

「ヒカル!?あんた、顔色もすぐれないのにどこにいってるの!?早くもどりなさいっ!」
き~んっ!
携帯から聞こえてくる母親の声。
気になって祖父の家に連絡しても、きていない、といわれ。
棋院にきいてみてもすぐにきても棋院をあとにしたらしい。
念のため明子に連絡をいれてみたが連絡がつかなかった。
すでに夜の七時を回っている以上、美津子の心配も至極もっとも。
「え?早くかえりなさい。っていわれても、今、ひろしま……」
「って、何でそんなことにいってるの!?あんたはっ!」
おもいっきり耳元でさけばれて思わず携帯から距離をおく。
「だから。今からもどっても遅くなるし。まだ用があるからこっちで一泊していくから……」
「・・・やれやれ」
どうやらこいつ、親にいわずに思い立ってきていたみたいだな。
ヒカルのそんな携帯電話の会話をききつつもそんなことを思う河合。
「え?ちがうよ。俺一人じゃない。大人の人も一緒?…はぁ?誘拐!?ってちがうって!」
・・・・・・・・・・・・・・・
「って、かせいっ!」
何やら親の心配はわかる。
わかるが…勘違いで誘拐犯にされてはたまったものではない。
それゆえにヒカルの手から携帯電話を奪い取り、
「誰が誘拐だ!え!?おもりしてやってるくらいだぜ!?顔色もわるいのにこいつがいくってきかないしっ!」
「か、河合さんっ!」
喧嘩腰の河合におもわずおたおたしてしまうのはしょうがないであろう。
「ん?何だ?ああ、こいつのオヤジってか?あん?オレ?オレはタクシーの運転手だよ。
  こいつとは碁会所で知り合ってる仲だ!うたがうなら奥さんにきいてみろよっ!
  去年の夏、こいつと一緒に旅行した一人っていえばわかるからっ!ん?おう!東京からずっと一緒ダ!   …はん?しるかっ!こいつが秀策ゆかりの知を回るとかいうんで、ほっとけないんでついてきただけ…
  …って、はぁぁ!?秀策とは何か、だって!?アホか!?てめぇ!昔の碁の名人だよっ!
  そいつゆかりの場所を去年の夏と同じく回ってるの。何で急に、ってオレがしるかっ!」
というか、子供はすでに囲碁界のプロ棋士だ、というのに、…父親が本因坊秀策すらしらない、とはおもわなかった。
これにはあきれかえるしかない河合である。
たしかに、ヒカルからヒカルの両親は囲碁界に感心がまったくない。
とは聞いたことがあったはあったが…ここまでとはおもわなかった。
美津子としても顔色もよくなく体調もよろしくない息子が暗くなってももどらずにかなり心配していたところへの電話。
気が動転してしまい、誘拐!?と思ってしまったのは…たしかに心情を考えれば責められないかもしれないが。
だがしかし、考えが極端すぎる、という感は否めない。
「ほらよ」
「あ。うん。ごめん。父さん。うん、一泊してく」
「ヒカル。男の子は冒険心も必要だが。きちんと言わないと母さんも心配するだけだぞ?体の調子は大丈夫なのか?」
ヒカルの父、正夫からしてみれば男の子。
しかも中学三年生の思春期真っ盛りという息子。
自分にもそんな時期があったので一応理解はしているつもり。
しかし、それでも連絡というものは必要である。
とくにこんなご時世ならばなおさらに。
「うん。ごめんなさい。…はい」
父親の言葉をききつつも、ひとまず謝り電話をきる。
「さってと。じゃあ、泊まるホテルでもさがすか!」
五月の五日の祭日。
といっても明日からは普通は暦通りの平日である。
前日の四日ならばどこのホテルもほぼ満室であるが。
五日ともなれば話は別。
結構五月五日の夜、というのはどこのホテルも満室で部屋など取れない。
とおもっている人々が多いであろうが、実際はこの日はどこのホテルでもかなりあいているものなのだから。

五月六日。金曜日。
じゅ~……
あのとき、佐為が昔食べた品物を思い出していたことを思い出す。
広島名物お好み焼き。
おいしいはずなのに、今のヒカルは何も感じない。
「どうした?さっさと食えよ。午前中に二か所を駆け足で回ったんだ。しかも朝早くから。
  腹がへってないわけじゃねえんだろ?」
ガツガツと目の前でお好み焼きをたべつつも、河合がヒカルにといってくる。
ヒカルたちの目の前には鉄板の上でやかれているお好み焼きが二枚ほど。
結局ヒカルは夕べもほとんど寝ていない。
いや、寝られなかった。
もしかしたらこれは悪い夢で目がさめたら…と淡い期待を抱き目をつむっても、
目を開いたそこに見慣れた…かわいい、としかいいようのなかった佐為のね姿が視えないとなれば。
これは精神的にもかなりつらいものがある。
佐為はかつて、虎次郎とともに糸埼八幡宮へと船で海を渡り碁を打ちに通っていた。
そして、慈観寺。
すべてを探しつくしたのに何の手がかりすらもみつからない。
「……もしかしたら、やっぱりまだ東京にいるんじゃぁ……」
そもそも、佐為は一人で遠出などはできなかったはずである。
何かのはずみでヒカルとかなり離れることができたとしても、こんなに遠く。
しかも広島までこられるだろうか?
それに途方にくれて部屋に戻っている可能性も…なくはない。
心のどこかでそれはない、という理性が働くが、信じたくはないヒカルである。
佐為をみつけたら、今度は佐為と二人でここにくるのもわるくない。
あのときは他の人たちがいたからあまり佐為とさわげなかったけども、
佐為と昔話をしつつ馬鹿騒ぎをするのも……悪くない。
「まあ、お前はじっくり昼飯をくってるんだな」
ガタ。
先に食べ終わった河合がそういうと席を立ちあがる。
「?どこいくの?」
「さっき碁会所の管番がそこにあったろ?せっかくだから広島のやつらとちょっとうってくらぁ。
  ここの金ははらっといてやるよ。適当な時間に迎えにきてくれよ?」
いいつつ店をでてゆく河合の姿が目にはいる。
そうだよね。
ちゃんとたべないと。
佐為が知ったらこういうんだ。
『ヒカル!あなたはもう!いいですか!?モノを食べられるだなんてとってもすばらしいことなのですよ!?』
と。
あのとき、おもいっきりオムスビを良手にもって言ってきたので思わず爆笑してしまっだか。
あれは佐為が明子のおかげで千年ぶりにご飯が食べられるようになって間がないときのことだった。
それに何よりも残したりしたら佐為による延々としたお説教がついてきていた。
…今はそれでもいいから…会いたい……

碁、とかかれている一文字の看板のその下には囲碁クラブ、とかかれてある。
「河合さんには悪いけど腕をひっぱってでもさっさと帰ろう。佐為がまってるかもしれないし」
そう思い、お好み焼きを食べ終わり河合が向かったという碁会所にとヒカルは足をむけることに。
ガラッ。
「てやんでぃっ!冗談じゃねえや!何だよ!五万円っていうのはっ!」
「?河合さん?」
店にはいると同時に聞こえてくる河合の叫び声。
外にまでも響いてくるほどの大声である。
「賭けよう、いうたんはあんたじゃろうが。こう片手ひろげてのぉ。こりゃあ五万ってことじゃろうが」
「ふざけんなっ!五千円にきまってるじゃろ!?」
何やらそんな会話が聞こえてくる。
どっちもどっち。
そもそも、賭けって…河合さぁん……
おもわず目を点にして溜息ひとつ。
「ならはじめからはっきりそう言えいや。五十円でもうってやったけぇ」
「ごじ…!?なめやがって!」
「・・・か、かわいさん?」
どうやら雰囲気があまりよくない。
それゆえにおそるおそる入口付近からそんな河合の名前をよぶ。
と。
「ん?坊主。あのグラサンのあんちゃんのつれ、か?」
「え。はい」
どうやら客の一人なのかこの店のマスターなのかはわからないが、一人の男性がヒカルに気づいて声をかけてくる。
「あとでいうといたれ。巨人ファンやいうのは広島では隠しとけ、ちゅうてな。
  まあ野球の話をうったんは周平のほうじゃけど」
どうやら河合と言い合いをしている相手の名前は周平、というらしい。
広島カープは広島ひとにとっていわば象徴的なもの。
かつて焼け野原の中で希望を与えてくれた特別な球団。
「はぁ~!?やきゅう~!?」
おもわずあきれて叫ぶヒカル。
「広島カープをなめた口をたたきよったけぇのぉ。周平じゃのうてもからむぞ。あれは」
「……大人って……」
おもわずヒカルがそうつぶやくのは仕方ないであろう。
「なら五千円おいていけえや。安い勉強代じゃ」
「勉強代、だぁ!?べらぼうめぇ!もうひと勝負だ!次勝ってチャラにしてやる!」
「やめとけ。やめとけ。ワシのっからもみきわめられんのか」
しかもいいつつも相手はご飯をかきこんでいる。
完全に河合が手玉にとられているのが傍目からでもわかる。
しかし、こんなバカげた喧嘩につきあうつもりはヒカルにはさらさらない。
「河合さんっ!」
「ん?」
名前を呼ばれてようやくヒカルに気づき、入口付近にいるヒカルにと視線をむけてくる河合。
そしてまた、言い合っていた周平、という人物もヒカルのほうを思わず振り向く。
「何やってんのに!喧嘩してるならかえるよっ!」
「もうちょっとまってろ!あと一局うつからよっ!」
そんな会話をしている二人を交互にみつつも、
あの子は……
しばらくヒカルを凝視する。
「ほら、さっさと石を片づけろ!もう一局いくぞ!」
そんな河合の言葉をさらっとかわし、
「あんたぁ。もうええわ」
いいつつも箸を手にしたまましっし、っと手で相手を払う動作をする。
「な、何だとぉ!?てめぇ!」
河合がそんな相手につっかかろうとする最中。
「そこのボウズ。わしとうたんね?ボウズがかったらこいつの五千円。チャラにしといたら」
いきなり話しをヒカルにとふってくる。
「・・・は?オレ?」
いきなり話しをふられてきょとん、とするしかないヒカルである。
そんな相手の言葉をきき、
「ははは!あいつと勝負、だぁ!?ガキにしかみえないが、あいつはなぁ!」
相手の力がわからないのはどっちだか。
それゆえに笑いながらあざけり説明しようとする河合のセリフを途中で遮り、
「しっとるよ。プロの進藤、じゃろ?」
「「え!?プロ!?」」
ざわっ。
周平、と呼ばれた人物の言葉にその場にいたほかの客たちからですらどよめきがおこる。
「しっててよくでかい口たたくなぁ。おめぇ」
おもわずそんな相手にたいして呆れた声をかける河合の気持ちは何もまちがっていないであろう。
「塔矢行洋との新初段シリーズ、週刊碁でみたぜ。ひでぇ碁じゃったのぉ。
  プロならわしたちアマをがっかりさせんなや」
しかも、ヒカルが投了したのは盤面上からみればどうみてもヒカルが十五目以上勝っていた局面である。
ぱっと見た目は先までよめば白圧倒的有利にみえなくもなかったが。
あのまま続けていても黒は死ぬ。
というのがあの場にいた当事者以外の関係者たちの意見である。
「おじさん、だれ?」
何で知ってるんだろう?
オレのこと?
そう思いつつおもわずヒカルが首をかしげるが。
ヒカルは自分がけっこう有名である、ということにまったくもっていまだに無自覚のままである。
「今年、開かれる国際アマ大会の日本代表になった男じゃけぇ。アマのNo1じゃな。周平は」
そんなヒカルのよこにいた人物がヒカルに説明してくるが。
まさかこの子供がプロなどとはおもいもしなかった。
どうみてもまだ中学生くらいの子ども、だというのに。
「関西のプロとな。互戦でうっとるで。のう。五千円は安いかいものじゃろうが」
しかしそれは相手の棋力にプロがあわせているからできる一局、でもある。
「くっ」
そんな相手の言葉にくっとはをくいしばり、きっとヒカルのほうを見つめつつ、
「おい!代打だ!!一発こいつにかましてやれ!」
「だ…だいだぁぁ!?」
何やら断れる雰囲気ではなさそうである。
早くかえりたいのに。
そんなヒカルの想いとは対照的に河合の方はといえばかなりムキにとなっている。
そしてまた、周平、とよばれる人物がプロとうつ、というので気づけば他の客たちも全員よってくる。
全員、といっても数名程度なのであるが。
しょうがない。
一局うつか。
とっとと終わらせて、とっとと帰ろう。
そうおもいつつも、溜息まじりにそちらによってゆくヒカルの姿。
「ところで。こっちへは何の用できんさった?」
パチパチ。
目の前ではヒカルと周平という男性の一局がすでに先ほどはじまっている。
「息抜き、よ。本因坊秀策を訪ねて広島をぐるっとな。お墓もいったんだぜ?」
そんな河合の説明に首をかしげ、
「?秀策の墓なら東京にもあるじゃろうに。わざわざ?」
さきほどヒカルに説明してきた男性が首をかしげつついってくる。
…え?
いつもならは局面に一点集中するヒカルなのだが今はそれができない。
それゆえに後でかわされる会話がいやでも耳にとはいってくる。
「本当!?東京にも!?」
おもわずばっと振り向きつつも相手の顔をすがるようにとみつめるヒカル。
この子、何かものすごい青白い子、だよな。
さっきもおもったけど。
そんなことを相手はおもうが。
そんなことはヒカルにとっては関係ない。
それは初耳、である。
そんなことは佐為もいっていなかった。
していれば一緒に墓参りでもしてみませんか、と佐為のことだからいってきそうなものなのに。
「秀策は子供のうちは因島、じゃったが。お城碁をうつようになってからは江戸くらし、じゃけぇ」
それはヒカルも聞いている。
佐為もそれまでずっと京の都で生活していたこともありかなり都まじりの公家独特の話し方。
それであったのであるが虎次郎とともに江戸で生活してゆくうちに江戸口調を覚えた、といっていた。
「故郷とは別に弟子たちが江戸にも墓をたてたんじゃ。しらんかったんか?」
「・・・東京に!?」
佐為は何もいわなかった。
だがしかし、虎次郎の死後に建てられたのであれば佐為も知らなくても不思議ではない。
もし、もしもヒカルと離れることができ、なおかつ佐為がそのことをしったとしたら……
「虎次郎の!?東京のどこですか!?」
おもわず相手にすがるような視線をむけて必至にといかけるヒカルに対し、
「んなことどうでもいいだろ!?お前は対局に集中していろっ!」
どうやら一局よりもそちらのほうに気をとられている河合がヒカルにそんなことをいってくる。
「そんとおりじゃ。ハジをかきたくなかったらのぉ」
河合の言葉をうけて対局相手の周平という人物すらそんなことをいってくるが。
そういう彼はすでにひたいに脂汗をながしている。
何しろまだ序盤の数手だ、というのに圧倒的な力の差を感じている最中、である。
「東京の…そうだよ。虎次郎の墓…そうか。広島、なんて遠いところ、あいつ一人じゃこれないはず……」
「?」
あいつ?
何やら一人ぶつぶつつぶやくヒカルをみてその場にいた誰もがおもわず顔を見合し首をかしげる。
きっとそこだ!
佐為は!
やっぱり東京にいるんだ!佐為は!
「ねえ。虎次郎の墓って、東京のどこにあるの!?」
「おめぇはぁぁ!うちきったらきいてやるよ!」
河合とすれば相手をギャフン、といわせたい。
それゆえにヒカルにそんなことをいっくてる。
ヒカルの様子からして何だかただならぬものを感じなくもないがそれとこれとは話が別、である。
何しろ男の意地がかかっている一局でもあるのだから。
佐為!
早く…早く、帰りたい。
早く…東京に!
すうっ。
そうと決まれば…迷わない。
きっと意識を盤面にのみ一点集中。
どきっ。
「な…何だ?」
「お、おい、この子…」
「顔つきが……」
誰の目からみてもわかる。
雰囲気、表情、何もかもが一変した。
それこそ雰囲気だけで威圧されるほどに。
それと同時にまったく時間をおかずに打ち込みはじめるヒカルの姿。
「へっ。ノータイムでうってきたか。…くっ…」
誰の目からみてもわかる早打ち碁。
しかも相手が打てばすぐさまに打ちこみする、という一秒もかけない早打ち。
「ば…バカヤロウ!何早打ちなんかやってんだ!?んなことやったらすぐにミスがでるじゃないか!」
わめく河合の声はヒカルにはとどいていない。
「な…何かえらくスピードアップ、してきたの?」
「なめられたんか?周平さん?」
「お…おどし。じゃろ?はは。周平相手にそんなことを」
何かおちゃらけでもしないと、ヒカルから発せられる雰囲気に…息がつまる。
それほどまでにヒカルからは圧倒的なまでの威圧感を感じてしまう。
「おどしだぁ?バカヤロ。そんなことするやつじゃねぇよ」
そんな彼らにたいして河合が思わず毒づくが。
そう、ヒカルはそんなタイプ、ではない。
「しかし…こんな打ち方じゃがまったくもってスキがない。…子供でもさすがプロ、じゃ」
というか圧倒的にヒカルが優位、である。
「スミをあっという間にとられて地合いがおくれた。
時間を使って考えている自分よりも相手の子どものほうが一歩先が視えているようである。
どんどん大差はひらいてゆくばかり。
「どうしたどうした」
圧倒的なまでにヒカル有利の局面。
それゆえに相手にチャチャをいれる河合であるが。
「あ、あわてんなっ!カープの底力は後半戦ででるんじゃけえっ!」
そういい返すもののあせってしまう。
あせってはいけない、とわかっていても気がせってしまう。
ならば、と相手のミスを誘おうとして打ち込みするが、瞬時にうけられ殺される。
周平が一手を打ちこみすればヒカルが間髪いれずに打ってくる。
ヒカルの意識は局面のみに一点集中。
今のヒカルには周囲の関係ない雑音や会話すらまったくもって耳にははいっていない。
このあたりは、佐為もかつてにたようなものがあったこともあり、似た者同士ですねぇ。
と佐為がしみじみと苦笑したことがあったほど。
つまりは佐為すらも認めていた集中力がそこにある。
「こ…こいつは卑怯者じゃ。早打ち碁で周平を動揺させとる」
一人がそんなことをおもわずいうが。
「アホぬかけ。普通その前に自分がミスするわっ!」
そんな一人に別の一人が突っ込みをいれる。
気持ちはわからくもない。
彼らの中では周平は別格、そううつっていた。
それなのに、ノータイムで打ち込みしてくるヒカルに、彼らの周平は手も足もでない状態なのだから。
「考えてる時間ゼロで、何でうてるんや?一瞬の判断だけでうっとる?」
「いや、考える時間はある。ホレ。周平が考えとる時間。そんときに自分も考えられるだけ考えとるんじゃ」
たしかに対局相手の周平はかなり一手に時間をかけている。
「こ…こいつ、本当にバケやがったぜ。さらに一皮めくれてやがる……」
おもわず河合ですらごくりと生つばをのみこみつつも誰にともなくつぶやく打ち方。
「く…くそ!」
周平が石をもつと同時、ヒカルもまた石をもち、彼が打ちこめばすぐにそれに見合う手をうってきて殺さる。
よっし。
ここに回ればもう形勢はうごかない!
パチッ!
ヒカルがとどめの一手を盤面上にと打ちこんでゆく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、まけました」
よっし!
佐為!どうだって!?
すごかったですねぇ。ヒカル。上達しましたねぇ。
そういってくる声の主は振り向いたそこには…いない。
「な…なんね?」
いきなり振り向かれ、ちょうどその視線の先にいた客の一人が戸惑いの声をだすが。
すっとそれと同時にヒカルの顔色が瞬く間に悪化したことには誰も気づいてなどいない。
「…そっか…いないんだった。…そうさ。あいつはきっと、東京に…あ、あの!虎次郎の東京のお墓はどこですか!?」
切羽つまったようなヒカルの問いかけ。
「あ、ああ。巣鴨の…何ゆうたかの?ああ、本妙寺じゃ」
戸惑いつつもとりあえず説明する一人の男性。
どうやらヒカルにとっては今の一局よりもそちらのほうがかなり重要、らしい。
「巣鴨…ありがとうございました!河合さん!かえろ!」
そのままざっと碁石を碁笥にと片づけて、荷物をもって立ち上がり、河合の手をとるヒカルに対し、
「・・・まてや!」
いきなりまったをかけてくる周平、とよばれていた人物の姿。
ちっ。
しまった。
勝ちがすぎたか!?
これ以上、ごたごたしたくないのに!
早く東京にいってお墓にいかないといけないのにっ!
ヒカルのそんな思いを知ってか知らずか、
「車で駅までおくっちゃる。きんさい!」
「…え?」
予想外のセリフにおもわずヒカルは一瞬、目をぱちくりとさせてゆく。

ブロロ…
山道を車が走ってゆく。
「おめえもいいとこあるじゃねぇか。それともこいつにペシャンコにされて降参ってか!?」
後部座席にすわりつつも運転席の周平にとちゃちゃをいれてくる河合に対し、
「ワシにペシャンコにされたんは誰じゃったかいのぉ。え~?」
すばやくかわして逆に河合をやりこめる。
「ちっ。おい。運転かわってやろうか?オレはタクシーの運転手なんだよ」
「アンタはここいらの道には疎いじゃろうが。すっこんどれや」
「何だとお!?」
何だか車の中でまで喧嘩が勃発しそうである。
「喧嘩はやめてよ!早くかえりたいんだ!オレ!」
「何だ。急いどるんか。ホンなら広島駅にまでいっちゃる!」
プオッ。
「おわっ!?」
ぎるるっ!
「わたたっ!」
山道でいきなり急カーブでハンドルをきるのは多少無理があるような気もしなくもない。
「お、オレの運転より乱暴だぜ!」
「似たようなもんだよっ!」
そんな河合のセリフに思わず突っ込みをいれるヒカルであるが。
「進藤君。今日は完敗じゃ。夏の国際アマ戦のときには状況するけぇ。そんときまた手合せしてくれんね」
「へんっ!お前に何か打たせてやるもんか!」
「うるさいっつうの!あんたは!」
「もう、ケンカはやめてってば~!」
佐為ともたわいのないことでよくいいあっていた。
それを思い出すから…つらい。
広島から東京まで。
今ある特急でいくならばのぞみくらいであろう。
一時三十七分発。のぞみ二十八号。
広島駅につけば一番近い時刻の新幹線はそれらしい。
すばやく切符をかって新幹線にと乗りこむヒカルと河合。
東京につくのが五時三十三分。
すでにかなり遅いが、そこからまた山手線沿いの巣鴨駅から国道十七号線沿いを歩いて十分。
それでも河合いわく、裏道などがあるのでタクシーでいったほうが電車よりも早いらしい。

「…あれでまだ中三、とはの。今後が楽しみじゃ」
進藤光には院生にして若獅子戦の初優勝を飾った、というあのときから目をつけていた。
週刊碁をあのときみるかぎり、かかれていたのは彼はあの塔矢名人の息子の友達らしい。
「いずれ、囲碁界はあいつと塔矢ジュニアを中心にまわりはじめるじゃろ」
そうはおもうが、それにしても…である。
「う~ん、じゃが、それにしても塔矢行洋との新初段シリーズ。
  進藤君のあのめちゃめちゃな打ちぶり。あれは…なんじゃったんかいのぉ?」
しかも、その一手はあの名人がうけたほどである。
彼は知らない、気づかない。
ハンデを自らに課してうつ、というその可能性に。
ヒカルたちを見送ったのちに車にのりこみつつもつぶやく周平の姿がしばし見受けられてゆくのであった。


本妙寺。
河合の所属しているタクシーの営業所は東京駅の近くに存在している。
それゆえに自分のタクシーをとりにいき、東京駅からはタクシーでの移動。
たまたま今日はまだ河合はアルコールを飲んでいなかったのが幸いしたらしい。
『……まったく、こまったひとですよね。佐為も』
ふと聞こえた。
墓の前で意識を集中しているときに、たしかに虎次郎とおもえしき声が。
「もう、いいか?まったく…何を…誰をさがしてんのかしんねぇけど。
  何か、なら棋院じゃねえのか?碁のことならば棋院だろ?」
ヒカルはどうやら何かを探しているらしい。
いくら鈍い河合でもそれくらいは理解できてくる、というのも。
ここ二日、ヒカルが何かをさがしまくるようにうろうろしていればなおさらに。
「…棋院はもう探した…心当たりも全部……」
何やらものすごく疲れているように見てとれる。
しかも二日前よりも更にやつれてみえるのは気のせいではないであろう。
「…ま、家までおくってってやるよ。のれよ」
たしかに、何かを、誰かを必死にさがしているのであろう。
それが何なのか、は河合にはわからない。
まるでいきなり連絡がとれなくなった【誰か】を必死にヒカルは探しているようにもみえなくもない。
…事実、そのとおりなのだが。
そのまま、河合の運転するタクシーにのり、ヒカルは家にと帰ってゆく……

「……ただいま」
家についたのはもう夜もかなり暗くなってから。
「遅いじゃないの!もっと早くにかえれなかったの!心配したのよ!」
顔をみればさらに顔色はわるくなっている。
「出かけるときにはちゃんと行先をいいなさい!そりゃ、あんたもいろいろとあるかもしれないけど。
  まだあんたは子供なんだからね、ヒカル!あと、明日いやでも病院につれていくからねっ!」
やっぱりほっといて、といわれてもほうっておけない。
あまりにも…様子がおかしい。
おかしすぎる。
そんな母の言葉を聞き流しながらも部屋へと向かう。
「…佐為!」
パチッ。
電気をつけるが、そこにはやはり誰もいない。
そう…だれも。
ずるっ。
そう認識すると同時に一気に疲労感がヒカルに襲いかかってくる。
そういえば、周平って人の対局…きつかったな……
いや。
そうではない。
対局がおわって振り返ったその先に佐為がいない。
それがここまできつい、なんて……
佐為……
どうして、どうして、どうして、どうして~!!!
ヒカルの悲痛の叫びを聞くものは…いない……


                                -第62話へー

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あとがきもどき:
薫:やはりこのわかれのシーンは原作でも涙もの、ですよねぇ。
  おそらく、私的にはヒカルが周平との対局がきつかった。
  とヒカルがいっているのは対局が、ではないとおもうんですよね。
  ふりかえったそこに佐為がいない、と思い知らされた瞬間でもあるとおもうんですよ。あれって。
  何しろ佐為がいなくなっての初めての対局、でもありますし。
  まだ子供でもあるヒカルの精神はかなりダメージをうけたんだとおもいます(しみじみと
  ってまたキリのいいばしょまでいったらまた60kこえてるし…
  こりゃ、当分、小話はおあづけ…かな?
  何はともあれではまた次回にて~♪

2008年9月14日(日)某日

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