まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやく佐為の消滅シーンv
とはいえそういえばアニメの60話とちょうど同じになったのもあるいみびっくり(まて
まあ、そんなこんなでゆくのですv
ではではv

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ヒカル…大丈夫なのかなぁ?
いきなり学校を休んだとおもったら何でも霊場めぐりにいってくるらしい。
もしかしたらまたあの系統で何かがあったのかもしれない。
怖がりなアカリではあるがヒカルのことは何よりも心配ではある。
昔、ヒカルが死にかけたことがあるのをしっていればなおさらに心配にもなってしまう。
「だけど、明子おばさんと一緒っていうんだから、きっと大丈夫、だよね」
アカリは唯一、ヒカルから明子がヒカルとおなじ能力をもっている。
というのを聞かされている。
だからこそ、安心できる。
ヒカルの周囲にはその手のことに理解ある人がいままでいなかったのだからなおさらに……

星の道しるべ   ~運命の五月~

「ええ!?爺ちゃんの家の倉に泥棒がはいった!?」
五月。
結局明子とともにいった霊場めぐりでも何の進展もみうけられなかった。
唯一あったとすればヒカルの能力がさらに向上したこと。
ただ、それだけ。
とにかく何か方法はないか、と家にもどって模索していたヒカルに信じられない話しが舞い込んでくる。
五月三日の火曜日。
今日は学校は五月の連休ということもあり休みである。
ヒカルの学校は珍しく金曜日も休みにして大型連休の形をとっている。
つまりは、五月の三日の火曜日から八日の日曜日まで。
一応中学はお休みとなる。
何でもここ最近、都内でも多発している通り魔事件。
それに対する緊急対策会議が行われるとか何とかという理由らしいが。
「今さっき電話があってな。なぁに、おそらくものを取られただけで爺さんも婆さんも無事だよ」
いつも思うがこの父親はか~なりのんきなような気がすのはヒカルの気のせいではないだろう。
それでも、声は佐為に何となくだがよく似ているのだからかなり違和感を感じなくもない。
ヒカルが旅行からもどったのは五月の一日。
とりあえず二日の月曜日はきちんと学校にもいくにはいった。
…授業内容はあいかわらず頭にはいってはこなかったが。
『ヒカル。碁盤は!?碁盤は大丈夫でしょうか!?』
すでに佐為自身の心構えは…できた。
霊場めぐり。
それはかつて虎次郎もしてみたい、といっていたものでもあった。
ヒカルが一生懸命になればなるほど…佐為としては心苦しい。
自分でどうしようもないことだ。
と霊場めぐりで嫌と思い知らされた。
そしてまた、自分が普通のそこいらにいる幽霊と異なることも。
すべての力ある人々にいわれたのは、神格化している指導霊をどうにかするのはできない。
ということ。
そういわれても、佐為はヒカルにとっては普通の生きている人間よりも人間らしく。
神格化云々といわれても信じられないのも事実。
また佐為とて自分がそんなたいそうなものではない、と信じてもいる。
だからこそ戸惑ってしまう。
「俺。ちょっと爺ちゃん家にいってくる!」
もしかしたら碁盤にすべての謎があるのかもしれない。
何しろ佐為が死んでからずっと宿っていた碁盤である。
霊場めぐりをしても佐為を逝かせない方法は見つけられないままとくればなおさらに。
「あなたもいったら?休日なんだし」
そんな美津子の台詞に、
「それが、さっき携帯に電話で。休日出勤になってさ~」
「また、なの?働いてお給料があがるのは嬉しいけど。過労死は洒落にならないわよ?
  生命保険もそんなにないんだし」
「はは。気をつけるよ」
何やら両親はそんな会話をしているが。
…何か心配所が違う。
第三者がきけばそう突っ込むことは請負である。
ヒカルもいつもならば突っ込みをいれるのであるが、今のヒカルにそんな心のゆとりはない。
そんな両親を横目にヒカルは家を飛び出してゆく。

「よかった。碁盤は盗まれなかったんだね」
とりあえずほっと胸をなでおろす。
「よかないわいっ!壺に皿に掛け軸!昨日一晩でごっそりとやられたぞ!」
何゛ても最近、お倉破りが流行っているらしい。
普通の家は倉などがあってもまず鍵などかけていない。
「警察はよんだの?」
「当たり前だ!鑑識も一緒にきて指紋をあちこちとっていったわい。
  まあ、しかし。お前がきてくれるなんて嬉しいぞ。でもお前、調子大丈夫なのか?」
大丈夫ではない。
ないが仕方がない。
「お父さんはどうせガラクタばかりだからほっとけ。っていってたけどね」
「何をぉ~!?正夫のやつ~!」
どうもあの息子は昔からこういったものに感心がまったくない。
それゆえに思わず叫ぶ平八であるが。
「まったく。婆さんは婆さんで倉の整理ができてちょうどいい。とかぬかしおるし」
そんな会話をしつつも二階へとあがる。
「…やっぱり無理、か」
少し期待していた。
霊場めぐりの成果があるのではないか。
と。
しかし、前回みたときよりも確実に染みは薄くなっている。
「そうだ。ヒカル」
「何?」
ふと横をみれば佐為もまた首をふりつつうつむいている姿が視界にはいる。
「お前、明日は暇か?婆さんと二人で芝居を見に行くんだが。
  お前も気分転換をかねてつきあわんか?お前、前よりさらに顔色わるいぞ?」
たしかに、今のヒカルは極端に睡眠不足になっていることもあり、顔色はかなりよくない。
「あ~。ごめん。明日は泊まりの仕事なんだ」
本当はその仕事は休みたかったが。
責務は果たすべきだ、という佐為の言葉もあり仕方なくいくことにしているヒカルである。
五月の連休があければ明子の師でもあるというとある霊能者の手もあくらしい。
神社仏閣などでサジをなげられてもヒカルからしてはあきらめる気はさらさらない。
「泊まりの?そんなのがあるのか?」
「うん。何かさ。観光ホテルで一泊二日、なんだってさ。お客さんは…あれ?」
先月のはじめに聞いたはずなのに綺麗さっぱりと思いだせないヒカルに対し、
『…はぁ~。ヒカル、百五十人程度、ですよ。あと指導碁とかもあるらしいですよ』
溜息まじりに横から説明してくる佐為の姿。
こんな危なっかしいヒカルを一人残して逝くのは佐為としてもとても心残りがありすぎる。
佐為のことがあり、きれいさっぱり仕事の内容を失念していたヒカルは…責められはしないであろう。
「あ。そっか。たしか百五十人程度で指導碁とかやるんだって」
こんなときに仕事、という思いはいまだにヒカルの中には根強くあるが。
「ほ~。しかしお前、大丈夫なのか?」
孫の顔色をみるかぎりとても大丈夫そうにはみえないのだが。
何だかとても無理しているように傍目にはうつる。
実際にヒカルは無理をしているのだが。
佐為がヒカルが必至になればなるほど逆にヒカルに気をつかうので、
ヒカルは佐為に心配かけないように、となるべく気丈にふるまっている所がある。
「俺だけじゃなく他にも何人もプロがいくらしいし」
そうきいた記憶はあるが詳しくは覚えていないヒカルである。
だが、たかが子供にそんなに客はつかないだろうから、行った先でもいろいろと調べてみて……
説明しつつもヒカルがそんなことを思っているとね
「ほ~。まあ、せっかくきたんだ。気分転換を兼ねてうってくか?」
二階にあがっているヒカルにと一階から声をかけてくる平八の姿。
「え?」
できたらこのまま帰りたい。
『ヒカル。打ちましょう。彼とはそういえばまともにうったことはなかったですし』
佐為も自身が消えてしまう、と自覚した今、碁をうっているときのみは無心になれる。
「え?だけど、お前……」
『大丈夫。私はまだ大丈夫ですから。ですから』
ヒカルの心配もわかるが、まだ大丈夫。
それゆえにヒカルを安心させるようにとにこやかにほほ笑む佐為。
「……わかった。んじゃ、打とうか。爺ちゃん」
「そ~こなくっちゃなっ!」
ヒカルのそんな思いを知る由もなく、何やら喜ぶ平八の姿が、しばしみうけられてゆくのであった。


佐為が消える、といわれてはや十日余り。
いろいろと手をつくしてはいるが未だに打開策もないままに、
ヒカルは一般的にいう五月の大型連休にと突入した。
そういえば、と思う。
小学六年のときの九月に佐為と出会ったから…こうして貸切のバスに乗るなんて初めてではないだろうか?
似たようなものでは因島ゆきのバスに乗ったことはあったが。
パチ、パチ…
『3-5』
パチ。
ヒカルの顔色からもあまり体調がすぐれない、というのは客観的にも判断され、
それゆえにひとまずヒカルは窓際の席にとすわり、
ヒカルの前の席にはこういったときの出張用に契約している医者がひとまず控えている。
バスの中でもひたすらに、前の座席に備え付けてあるトレーをおろし、そこに飲み物をおいて、
窓際の少し広い場所に小さなマグネット碁盤をおいてひたすらに棋譜並べをしているようにと見えるヒカル。
実際は佐為と打っているのだが。
具合がわるくなったときようにヒカルは横になれるように、というのでとなりには誰もすわっていない。
それゆえにヒカルの横には佐為がちょこん、とこしかけていたりする。
こんなに顔色がわるいのに、仕事を優先するとは。
いやはや、子供だからとて大人たちにも見習わしたいものがある。
といってもあまり無理をされて倒れられてもかなり困るのだが。
碁をうっているときのヒカルの顔色は普通のときと比べても血色もよくみえるので、
あえて医者も止めることはないのだが。
少しでも佐為により多くの碁を打たせてやりたい。
だからこそ、この夏から始まる本因坊戦の一次予選からすべて佐為に…とおもっていたのに。
佐為こそがそのタイトルの元となった人物であるがゆえのヒカルの決意。
決意したあのときにはまさかこんなことになるなんて夢にもおもっていなかった。
それはおそらく佐為とておなじ。
パチパチとマグネット碁盤においてしばらく延々と碁をうつヒカルの姿がみうけられていき、
パスの中においては何やら大騒ぎのはじまっているプロ棋士達や参加者の姿が見受けられてゆく……

水明館。
歓迎、日本棋院囲碁ゼミナール御一行様。
バスと、そしてたどり着いたホテルの前にと掲げられている看板。
そのままバスを下りてロビーの中を進んでゆく。
ロビーの一角に、日本棋院ゼミナール受付、とかかれている看板と机が出されており、
とりあえずそこに向かって歩いてゆくヒカルと佐為。
ヒカルたちは一番最後にバスから降りているのでさほど混雑していないロビーをゆっくりとあるいてゆく。
「おはようございます」
「ああ。進藤君。おはよう。大丈夫なの?」
「ええ。仕事ですし」
多少顔色がよくないヒカルを気遣い声をかけてくる受付の男性。
佐為もすでにうけている仕事を放り出すなんていけませんつ!
とすっごく怒ったし……
そうでなければヒカルはまず来てはいない。
「そっか。でも無理は禁物だよ?はい。スケジュール表。部屋は303号室。
  長江君と横井君と同室だよ。何かあったら彼らにいってね」
いって渡される参加者名簿とスケジュール表。
……げ。
緒方さんもくるんだ。
あまんり近づかないでおこう。
それでなくても今絡まれたりでもしたら、ヒカルの精神はまずもたない。
虎次郎の名誉も何も関係なくすべてぶっちゃけて誰かに救いを求めたい。
…だが、それは佐為の、そして虎次郎のためにも絶対にしてはいけないことだ、とヒカルは理解している。
本日の公開対局は塔矢行洋が引退したことにより、
十段タイトル所持者がいないままでは示しがつかない。
というので今回挑戦していた緒方が棋院の臨時理事長会議で決まり、
不本意ながらに十段タイトルを所得した、という形となっている緒方精次十段と春木良子初段の対局。
「そういや、塔矢のおじさんが引退してから緒方さんが十段になったんだっけ?」
手渡されたメンバー表をみてふとおもう。
ここ十日ばかり佐為のことにばかり気をとられていてチェックをまったくしていなかった。
『らしいですね』
ヒカルが新聞をどことなくぼ~とみているとき佐為が指摘して、ヒカルは気づいたほどである。
対してそんな二人の対局の解説は、芦原弘幸四段と西川真美三段の二人らしい。
芦原と緒方はヒカルもしっているがあとのメンバーははっきりいってヒカルは面識はない。
宴会大ホールにて行われる囲碁ゼミナール。
「緒方先生はどんな碁でも打たれる本格派ですが。相手の春木さんは力戦派なんですよね」
「ここまでは春木さんならしい碁がうててるんじゃないでしょうか。相手が緒方先生でも気遅れしていませんよ?」
対局している横で大盤にて一手、一手を示しつつもそんなことをいっている解説者二人の姿。
「おや?春木さんのこの手に対して。緒方先生はここにうってきましたか。う~ん……」
一手が大盤に示され、それをみて思わず唸る。
「これなんか僕にいわせると疑問手、ですけどねぇ。ケチつけるとあとで緒方先生に何いわれるかわからないからなぁ」
いいつつも大盤をみてそんな解説をしている芦原に対し、
「あ~し~わ~ら~」
手元にあるマイクですかさず芦原に文句をいっている緒方の姿。
「って、ほらほら」
わはははは!
すかさずに突っ込みをうけたがゆえに冷や汗をながしつつもつぶやく芦原の言葉に。
会場からどっと笑い声が巻き起こる。
「指導碁の受付はこちらです」
「対局カードは勝者が提出してください」
ヒカルの指導碁のコーナーの席は隅っこ。
あまり目立たない位置なのが救いではある。
佐為が指導碁をうち、その後の検討と説明はヒカルがする。
不安なところは佐為に確認しつつの、二人ひと組での作業。
これがヒカルが考えた末にだした案。
一局でも多く、佐為に碁を打たせてやりたいがゆえのヒカルの提案。
ヒカルにとってもこれが初仕事だ、というのに。
今のヒカルにはそんなことすらどうでもいい。
少しでも佐為をよろこばせたい、碁をうっているときのみは不安も消えさるとくればなおさらに。

チッチッチッ……
噂は噂をよ呼ぶ、とはこういうことなのかもしれない。
佐為の指導碁はとてもわかりやすく、また確実に実となる一局。
そして、それをうけてまた検討するヒカルの言葉もとてもわかりやすい。
「だから、このサガリは今すぐにはきかないけど。他に狙いがあるんだってば。
  出るだけならばどうやっても出られるんだけど。それだけじゃ不満なんだってば」
ヒカルの指摘は一つ、ひとつわかりやすい。
それはかつて佐為がヒカルに一から教えた言葉でもある。
「ほ~」
「そういうことか」
中学生のプロ。
というのは年配の大人からしてみれば子供、そして孫のようなもの。
そんな子供がより丁寧に指導碁をうっってくれる、というのは客からしてみてもとても楽しい。
ほぼ時をおかずにやってくる希望者達。
ふと気付けば時刻はいつのまにか二十三時を回っている。
最も、ヒカルに人気が集まる理由の一つに、ヒカルが神社や寺などといった有名な場所やおおすめの場所。
そういった場所をしりませんか?
と検討のさなかに雑談の一つとして問いかけていることも関係している。
そういう場所が好きな年配者は十は結構いるものなのである。
「あんた、中学生でプロだって?たいしたまんだ。うちの孫にも見習わせたいよ」
下手な大人の指導娯りも確実にためになる。
「進藤光、君か。これから応援するからな」
「日本の棋戦もだけど」
大人たちはもはや【佐為】が指導碁をうっている、とは思わない。
ヒカルが打ったと当然みえる。
今打っているのは佐為です、といいそうになりつつもぐっとこらえて愛想笑いを浮かべるヒカル。
「先々は海外棋戦も頑張ってくださいよ」
「おお。今の日本は塔矢名人がいきなり引退したがゆえに他はみちゃいられない」
たしかに海外でおもに活躍していたのは塔矢行洋くらいであったらしいる
「俺。プロになる前に韓国の院生にかったことありますよ?」
とりあえず引退のことはヒカルにも佐為にも関わりがあることなので話題をさらっとかえるヒカル。
「韓国の院生の中で一番下のやつとかじゃないの?」
一人のそんな客の問いかけに、
「あいつは強いらしいよ。将来有望視されてるとかいってたし」
碁会所の人が。
そこまでは詳しくいわないがとりあえず話題転換は成功したらしい。
「強いんならもうその子もプロになってるんじゃないの?」
「え?どうなんだろ?」
いわれてみればたしかにそうなのかもしれないが。
『そういえば。ヒカルは海外の囲碁界について詳しくないですしねぇ。
  今からでも遅くはありません。覚えましょうか』
そんなヒカルの背後で佐為がしみじみといってくる。
「…そりゃ、海外のことには詳しくないけど…
  確かに。俺ですらプロになれてるんだから、秀英もプロになってるのかな?」
ヒカル的には常に佐為と打っていることもあり、
またヒカルの目標も佐為であるがゆえにどこか普通の基準と違っている。
佐為と打っているがゆえにヒカルは自分の実力ははっきりいってまだまだ、と自覚している。
それゆえにふつうの基準と異なりまくっていることにヒカルは今だに気づいていない。
「そうだよ」
別の一人がヒカルの言葉に同意を示すが、彼らとて海外のプロのことは詳しくはない。
ヒカルが名前を確実にいっていれば、中には知っているものも実はいたりするのだが。
洪秀英。
十四歳という若さでありながら韓国の九段をまかせたという新人の話は、
その手の新聞をみているものは大体知っている。
そんな会話をしている最中。
「こんな時間まで打ってるのか?もう夜もおそいぜ?」
「わっ!?緒方のおじさん!?」
いきなり声をかけられて振り向けばそこには避けまくっていたはずの緒方の姿が。
しかもあいているひとつのイスに有無を言わさずに座ってくる。
「おいおい。そんなに驚かなくてもいいだろう?それと!おじさんでなくておに~さん!だ!」
おもいっきり驚くヒカルにとおもいっきりすごんでいってくる緒方であるが。
「いや、先生。それ無理がありますって」
おもわずヒカルの周りにいた客の一人が突っ込みをいれてあわてて口元を押さえていたりする。
まあ、中学生のヒカルかみれば確かに三十を超えた大人は皆、おじさん、おばさん、とみえるのであろうが……
「緒方先生とのみにいってたんですか?」
ふと緒方とともにやってきた別の客にと周囲にいた参加者の男性が声をかけていたりする。
「ああ。ワシのおごりでな!」
「十段祝いをぱ~!とな!」
彼らとて十段位を所得した棋士と飲んだ、というのはけっこう話しの種になる。
それゆえの誘いでもある。
「緒方先生。塔矢先生は今、どうされてます?」
どうしても一般には情報ははいってこない。
それゆえに門下生でもある彼にとといかける別の一人。
「お忙しいですよ。門下に関係なく人が集まってきて打っているみたいですからね」
そんな参加者の言葉に一応きちんと答えている緒方であるが。
「へ~」
その言葉におもわず感心した声をだしている参加者たち。
しかし、うわ~、酒臭い。
ものすごいまでに緒方からはアルコールの匂いがプンプンと漂ってくる。
それこそ鼻につくほどに。
「現役のときより対局数が増えてたりしてね。ハハハハハ」
いいつつも、
「おい!進藤。グーをだしてみろ」
「?…グー?」
酔っ払いには逆らわないほうがいい。
ゆえに素直にグーを出すヒカルに対し、
「よし。オレの勝ちだ!ひとつオレのいうことをきけ!」
手を開いた状態でつきだしてきた緒方がそんなことをいってくる。
「はぁ!?」
これはジャンケンではない。
絶対に。
それゆえに呆れた声をもらすヒカルであるが。
くすくすくす。
「緒方先生、だいぶよっていらっしゃる」
くすくすとヒカルの周りにいた人々が笑ながらそんなことをいってくる。
たしかに、この酒臭さといい、相当にお酒がはいっていることには違いがない。
「おが……」
ずいっ。
緒方さん、といいかけるヒカルの前にずいっと顔をつきだし、
「saiとうたせろっ!」
びくっ。
その言葉にその場に固まるヒカル。
そりゃ、打たせてやりたいけど。
だけど……
「お、緒方さ…緒方先生?よってるね?ね!?」
酒がはいったような不抜けた碁を佐為にさせたくもない。
そんなヒカルの言葉に対し、
『……ヒカル。打ちましょう』
そんな様子をみていた佐為がそんなことをいってくる。
……え!?
だって、お前…緒方さん、こんなにお酒くさいのに!?
『だから、です。これだけ酒がはいっていれば大丈夫。ざれごとにしかなりません』
でも!それだとおまえがろくにうてないしっ!
お前だってそんな碁…打ちたくないだろ!?
今はずてにぎゅっと胸にかけている石をつかんでからでなければ、
こうして佐為と心で会話するのも難しくなってきている、というのに。
『…どんな碁になろうとも。病院でのこの者の重いに少しでも応えることになれば……』
佐為の言葉に胸騒ぎを感じるのはおそらく間違ってはいないであろう。
……お前、まさか、もうちゃんと打てる機会がないかもしれない、とかおもってないか!?
そうなんだな!?
『それは…っ!』
ヒカルの言うとおりである。
あるが。
……わかった。打たせる。
けど!それは!
おまえが満足する一局になんないから意地でも消えそうになるのを自力で何とかしようとするのが前提だかんなっ!
俺はまだ諦めてなんていないんだからお前もあきらめるなっ!
もしかしたら不抜けた一局が逆に佐為の現世へのつながりを強くするかもしれない。
たとえわずかでもその可能性があるのならば、ヒカルとて何もそれを不服とすることはない。
傍からみれば、酔っ払った、どうみても【ヤのつく職業】の大人としかみえない相手にすごまれて、
ぎゅっと胸を握りしめて戸惑っている子供。
そのようにしか周囲にいるほかの大人たちの目には映らない。
そんな中。
「え~。そろそろこの会場は占めますので。続けて打ちたい方は盤と石をお部屋のほうへおもちください」
じゃら。
大会進行の関係者の言葉に三めんしていた指導碁をそれぞれにと片づける。
「進藤!saiと…!」
さらに言いつのってくる緒方に対し、
「緒方さん、手をひろげてみせてよ」
「手?」
いわれるままに手をひろげる。
と。
「はい。俺の勝ち」
みればヒカルはチョキをだしている。
やられたからやりかえした。
傍からみれば子供らしいその切り返し、傍目にはそう映るであろう。
「おい」
そんなヒカルにさらにすごみをまして何かいいかける緒方であるが。
「俺の勝ちだから一つだけいうことをきいて。俺と今からうってよ。緒方さん」
「今から?」
ヒカルの言葉に怪訝そうな表情を浮かべる緒方であるが。
「おいおい。こんなよっぱらいの先生に打ってもらってもしょうがないぞ~」
「ははははは」
ヒカルの周囲にいた人々がそんな突っ込みをいれてくる。ヒカルの周囲にいた人々も、
会場を閉める、という言葉をきいてそれぞれ部屋にと戻るためにとその場を立ちさっていっていたりする。
「ま。お前で我慢しておくか」
いってがたん、と椅子から立ち上がり、
「よし。お前の部屋は三人部屋、だったな。オレの部屋にしよう。芦原がいるだけだから。
  盤と石は部屋にある。…お前との初手合い、か」
そ~いや、塔矢の家で緒方さんと出会ったことなかったっけ。
今さらながらにふとおもう。
でも…緒方のおじさん、こんなにのんでて…碁…打てるのかなぁ?
佐為と打ったら少しは酔いがさめるかな?
そんなことをおもいつつも、ヒカルはその場を片づけて緒方の後をついてゆくことに。
「?」
「どうかしたんですか?」
先ほど緒方と出かけていた、という人物が首をかしげているので興味をひかれて問いかける。
「いえね。緒方先生。ほとんどのんでらっしゃらないんですけどねぇ?」
たしかに、お酒の匂いはかなりしていたが。
それは緒方がなぜか道路で酒をかぶったからに他ならない。
緒方が飲んだのはロック一杯。
彼がかなりお酒に強いのは囲碁界においてはかなり有名。
「でも、あれはどうみてもよってらっしゃいましたよね?」
「新人をからかうつもり、ですかねぇ?」
そんな会話をしつつも彼らもまた部屋にと戻ってゆく……

ごめんね。
ヒカル。
私はもうすぐ逝く。
ヒカルの気持ちはわからなくもない。
だけどもこれはもうどうしようもないのも佐為もわかっている。
もしももうすぐ、自分が本当に逝く、と知ればヒカルは絶対に仕事を断ったであろうことも佐為は理解している。
だけども、消えゆく自分のために未来あるヒカルにそのようなことをさせるわけにはいかなかった。
何しろこのたびの仕事はヒカルにとっては初仕事なのだから。
悲しい嘘だと自分でも自覚している。
まだ大丈夫だから、とヒカルを説得した。
だけども…もう、時間は残されていないことを佐偽は自覚している。
だからこそ、緒方の申し出をうけた。
ヒカルと別れたくない。
その想いはかわらない。
虎次郎とも、わかれたくなかった。
なかったのに……
おそらく、連休明けにくるという力があるとかいう明子夫人の師たる人がくるまで…間に合わない。
そう自覚していればなおさらに。
絨毯が敷き詰められている廊下を歩く。
佐為とともに緒方の後をついてゆき、緒方の部屋にと移動するヒカルたち。
パチっ。
部屋に入ると同時に電気をつける。
「う…うう~ん……」
ふとみればすでに布団にはいっている芦原がいきなり明るくなったのをうけてもぞもぞと目を覚ます。
「寝てたのか。悪いな、明るくして」
「い~ですよ。別に…オレは明日は早朝から講座やるんで寝させてもらいますけど……」
いいつつも布団にさらに潜り込む芦原。
真夜中に起こされるかもしれない、というのは彼と同室になったときから覚悟していたこと。
パチ。
「窓際なら電気をつけなくても十分だろ」
いいつつも部屋の電気をけし、部屋に備え付けられている冷蔵庫からビールを取り出す。
「って、まだ飲むの?緒方さん?」
これ以上酔ったら佐為がきちんと打てないんだけど……
そんなことを思いつつも緒方に対して問いかけるヒカルに対し、
「どの道酔ってるんだ。同じさ。悪いがまともな碁はうてないかもしれんぞ。すわれよ」
窓際にとある机の上に碁盤と碁石が置いてある。
確かに月明かりで電気をつけずとも打てないことはない。
昔は電気などというものはなかった。
主に夜は月明かりのもと、佐為は碁をたしなんでいた。
緒方に促され、対面にある椅子にと腰をおろし、
「と、いうことは。俺が緒方さんにあっさり勝ってもおかしくないね」
とりあえず酔っている、というのを自覚させるためにとそんなことをいうヒカル。
どちらにしても佐為がうてば緒方には勝ち目はないのは明白。
「おいおい。今の俺に勝負を持ちかける気か?公式戦であがってこいよ」
緒方の言い分は最もであるが、ヒカルには自分は酔っている。
と認識させておいたほうがいい。
ヒカルの底知れぬ実力。
緒方はかつて塔矢行洋とヒカルが打った一局を目にしているがゆえの行動。
あのとき、佐為はヒカルに持碁にしたのをみせるためにと一局をうった。
そのときの局面を緒方はみている。
ゆえに、saiはヒカルではないか、という思いを今だに捨てきれないでいるのも事実。
そうでなくても確実にsaiとヒカルはつながりがあるのは確定事項。
「オレはお前を買ってるんだぜ?お前のあの新初段シリーズ。
  あの日、控え室でオレと桑原先生はカケをしていたんだ。どっちが勝つか。ってな。
  桑原先生がお前にかけたからオレは先生にかけたが、ホントいうとオレもお前にかける気だった」
「あはは。酔っ払いに何いわれてもなぁ」
あのとき、十五目のハンデを佐為にかしたから、満足いく一局、佐為、うてなかったんだよな……
ふとあのときのことを思い出す。
「コノヤロウ。…確かに、今日のオレは珍しく酔ってる。十段になった喜びが今頃になって少しづつ湧いてきたようだ」
実際には酔ってはいない。
だけども彼の本気を引き出すにはそうしたほうがいい、とは大人の事情。
ヒカルはまだ子供であるがゆえにそういった演技が見抜けるはずもない。
「……塔矢先生の引退でバタバタしたしな」
うっ。
そういわれるとヒカルとしてもかなりつらい。
さんざん撤回するように頼んだというのに結局塔矢行洋は現役引退してしまったのは事実である。
「十段にはなったが。世間がオレを認めるのは来年の防衛を果たした時だろう」
今回、たまたま挑戦者だったがゆえにラッキーで十段に昇格した人物。
そう世間的にはとらえていることを緒方は充分に理解している。
「今月には碁聖戦の挑戦者決定戦。それに勝てば五番勝負が来月。夏には名人戦もに詰まってくる。
  みてろ!一気に駆け上がってやる!オレの本当の戦いはこれからだ!」
いいつつも、残ったビールを一気のみ。
ちなみに発泡酒なのでさほどアルコール度は高くはない。
「なあ、進藤。さっきもいったが、saiとうたせろっ!」
ひっく。
炭酸を一気飲みしたがゆえに多少しゃっくりをしつつもヒカルにさらにすごむ緒方。
「俺で我慢してよ。緒方さん」
「…ふっ。まあいいか」
いいつつも、じゃらっと石をつかんで碁盤の上にとおく緒方。
それをうけてヒカルもまた石を二つほど碁盤の上にとおく。
「…十六。お前が先番だ」
偶数であったがゆえにヒカルが黒の先番である。
「お願いします」
「ああ」
静かに佐為と緒方の対局は幕をあけてゆく。

彼はたしかに力はある。
あるがどうしてもどこか危ういところもあるのも事実。
これが最後の一局となるであろう。
彼とまともにうてるのは。
そしてまた、自身がきちんと打てるのは。
それゆえに、ゆっくりと指導碁のように相手を導きながらも打ちこんでゆく佐為。
まるで子供をあやすように打ちだされる手。
「……」
言葉を失う、とはまさにこのこと。
酔った振りをしていたとはいえ実際は緒方は酔ってはいない。
そんな自分の目の前で繰り広げられた信じられない一局。
「……ここまで、だね。俺の勝ちだ。緒方先生、簡単な死活をまちがえたね」
指導碁にしていたというのに、死活をまちがえた手をうちだした緒方。
それは彼が動揺したがゆえなのだが、ヒカルからすれば酔っていたから、としかおもえない。
ジャラ、ジャラ。
いいつつもあまり局面を仰視されないうちにと局面を片づける。
「・・・ま、まて」
声がからからになるのを自覚しつつもかろうじて声をだす緒方に対し、
「緒方さん。やっぱりだいぶよってるよ。簡単な死活を間違えるなんてさ」
「・・・・・・・オレのミスはどうでもいい。それより…お前……」
そう。
ミスが問題、ではない。
「右上の…そんなところに打ちこんで…逆にオレの大石を攻めたてるなんて……」
それでも佐為は反撃の一手を導いていた。
それに緒方は気づかなかっただけ。
『そこにうてば彼も反撃の手はあったんですけどね……』
ふとみれば佐為も溜息まじりにそんなことをいっている。
「緒方さんならここにうつ、とおもったんだけど。今日はゆっくりねたほうがいいよ。明日も仕事でしょ?」
ヒカルの仕事は確かもう明日はなかったはずである。
それゆえに、すばやく碁石を片づけつつ、
「ちょっとかなり飲み過ぎてたみたいだね」
がしゃ。
いって碁笥をそこにおいて席を立ちあがる。
「…結局、オレが下手な碁をうって…結局崩れてしまった…か…」
ヒカルの指摘にさらに目を丸くするしかない。
たしかに、そこにうてば中押しでまけることなどはなかったはずである。
とはいえ力量の差は…歴然としている局面ではある。
佐為と打たせてあげた甲斐は緒方さんにはなかったかな?
佐為も力、はっきりいって出してない一局になってるし。
そんなことを思いつつも、
でも、佐為が打ってるなんて今の緒方さんに気づかれてもそれこそ面倒だけど。
「おやすみなさい」
いいつつも部屋のフスマに手をかける。
だけど…少しさみしいかな?
今打ったのは佐為だよ。
とものすごくいいたい。
佐為の存在を誰にも知らしめたい。
だけども…それは…できない。
「練達な打ち筋…そうだ…まるで…」
まるで、そう。
今の一局は……
「……saiと打ったような……」
どきっ。
一瞬緒方のつぶやきにどきりとし思わずその場に立ち止まる。
「…ふっ。馬鹿なことを……相当酔ってるぜ……」
そんな緒方の姿を確認し、
「おやすみなさい」
いってそのまま部屋をあとにするヒカルの姿。
緒方さん、少しは満足できたかな?
明日は緒方さんと顔を合わす前にとっとと帰ろう。
そして佐為が消えないですむ方法を早く探し出さないと!
そんなことを思いつつ、ヒカルは自分の部屋にと戻ってゆく。
ヒカルが部屋をでていったのを確認しつつもそちらに視線をうつし。
「あいつ…かなりのタヌキ、だな……」
自分が酔っている、とおもっていたからこそのこの打ち筋なのだろうが。
緒方自身ははっきりいって酔ってはいない。
酔っている、とふんだからこそこのように打ってきたのであろう。
子供とはおもえない練達な打ち筋。
自分と手合いしていても子供をあやすような悠久の時を感じさせる打ち方であった。
子供にこんな碁がうてるものか、ともおもうがいま実際にうったのはヒカルである。
緒方には佐為の姿は視えない。
だからこそヒカルが打った、としかおもえない。
まさかヒカルのそばに最強ともいえる幽霊がいてその彼が指示してうっています。
と常識から考えれば絶対におもいつかない真実を言い当てられるほうが…どうかしている。

『ヒカル?ねなくてもいいのですか?』
「今日は佐為につきあうよ」
外はいい月明かりだし。
月明かりのもと、佐為とこうして海を眺めつつうつのは悪くない。
すでに同室の二人はもう布団にと入っているらしい。
『しかし……』
「いいから!とにかく明日はもう俺の用事はないし。朝一で帰るぞ。それから方法を一緒にさがそうぜ」
ヒカルとともにいた時間の中で人間は睡眠をきちんと取らなければ生死にかかわる。
ということを佐為も習っている。
だからこそここしばらく、ヒカルが睡眠不足であることが佐為からすればとても心配。
自分はまだいい。
すでにもう一度は死んだ身なれども魂となりこうしているのは自らのわがままともいえるのだから。
そのわがままの猶予も…もうすぐつきる。
『ヒカル。では、ヒカルの手をもちますから。今日はともにうちましょうか?』
いいつつもそっとヒカルの手を握りしめる。
おそらくヒカルは不安なのであろう。
佐為と違い、ヒカルはまだ諦めていない。
しかも佐為がきちんといつ消える、というのをいっていないがゆえに不安も倍増してしまう。
「そう、だな。じゃ、うとうぜ!」
眠気よりも大切なことがある。
人は精神がたかぶっているときには眠気もふっとぶ。
今のヒカルは…常に気を張り詰めている状態、なのだから。

「おはようございます。緒方先生」
朝おきて進藤の姿をさがすがどこにもみあたらない。
昨日の一局を検討しまくった結果、たどり着いた答え。
やはり進藤光がsaiなのではないか。
という結論。
それを問いただしたかったのだが……
「進藤は?」
棋院関係者なら知っているはず。
それゆえにといかける。
「ああ、進藤君なら朝早くにかえりましたよ。もう自分の仕事はこれといってないから、と」
たしかに二日目は指導碁の仕事はない。
ゆえに別に先にもどっても問題はない。
ち。
あいつ、逃げたな。
緒方がそんなことを思っていると、
「そういえば。ききましたよ。緒方先生。進藤君から。昨夜はずいぶんと飲まれていたそうですね。
  二日酔いの薬、ありますよ?」
緒方が酔っていた、というのをきかされたときには驚いたが。
それゆえに緒方にとはなしかける棋院関係者。

ふわ~……
思わず大きな欠伸がでてしまう。
うとうととする新幹線の中で佐為にもたれかかるようにヒカルは少し久しぶりに眠りについた。
はたからみればヒカルが浮いているようにうつったであろうが、そこまで目にするものはまずいない。
「ただいま~」
「あら、ヒカル。早いのね。どうしたの?」
たしか一泊二日の仕事の予定、ときいていたのに。
「うん。別に二日目は俺の仕事ないから先にもどってきた」
「そうなの」
まあ、大人ばかりのところにいてもたしかに緊張するでしょうしね。
そんなことをおもいつつ、あえて美津子も深くはそれ以上はきいてこない。
五月五日……
そういえば。
とおもう。
暦をみてはっと目を見開いたのも事実。
「よいしょっと。とりあえず碁盤を出して…と」
新幹線でごとごとゆられている最中、少しねたので多少はすっきりした。
それでも少しねたせいか今までたまった疲労がでたような気がしなくもない。
「?佐為?」
『…ヒカル。私はもうすぐ逝きます…』
「だ・か・ら!そんな諦めの境地にたつなっ!おまえはっ!おまえらしくもないっ!
  とにかく、打とうぜ!打ってればお前の不安もきっと解消されるしっ。な?」
もう、時間は残されていない。
今日、この日になったのは運命なのかもしれない。
虎次郎の誕生日。
この日に私が消えるのも運命なのでしょうか?
ヒカルに伝えたいのに、ヒカルはきく気はないらしい。
本当にもう時間はない、というのに。
認めたくない気持ちはわかる。
佐為とて認めたくないのに。
だけども…もう、運命は…変えられない……
パチッ。
いつもは局面に集中できるのに、今日にかぎってそれができない。
異様に眠気が襲ってくる。
こんなことは今までに一度たりとてなかったような気がする。
そりゃ、長いこと碁をうっていて眠ってしまったことも多々とはあった。
それでもどうにか気力をふりしぼり、一手を打ちこむヒカルの姿。
虎次郎が私のために存在した、とするならば、私はヒカルのために存在していたのでしょう。
ならばヒカルもまた誰かのために存在しているはず。
その誰かもまた、別の誰かのために。
そうして積み重なった千年が、二千年が積み重なり、いずれは神の一手にと近づいてゆく。
ヒカル。
ねえ、ヒカル?
私の声がきこえていますか?
あなたにであえて本当に…たのしかっ……
「…って、いけない。ついねてた。佐為。お前の番……」
はっときづいて目の前をみる。
だがしかし、そこにいるはずの人物がいない。
「…さ…い?」
一瞬勘違いかともおもう。
ばっとあわてて周囲をみわたすがどこにも佐為の姿は見当たらない。
「さ…佐為!?まさか…そんな…佐為…佐為!?」
ばっん!
信じない。
信じたくない。
こんな…こんなに早く…何の打開策もないままにっ!
そうだ。
きっと部屋以外のところにいるにきまってる!
だって…だって佐為は俺にお別れの言葉をいっていない!
「って、ヒカル!何さわいでるの!?」
いきなり二階から降りてきてトイレやふろ場をのぞき始めたヒカルに思わず声をかける美津子。
まさか……
家の中をさんざん探しても見当たらない。
胸にかけている石をつかんで意識を集中すれども…気配がない。
ぞくっ。
言い知れぬ不安。
「…そ、そうだ!爺ちゃんちの碁盤!」
佐為はずっとあの碁盤にいた。
もしかしたらあの碁盤に引き寄せられた可能性も。
「ヒカル!?どこいくの!?」
「爺ちゃんちっ!」
バタッン!
そのままいきなり家の中をバタバタと何かを探すようにしたかとおもったら、いきなり家を飛び出すヒカル。
「…どうしたのかしら?あの子?それに体…大丈夫なのかしら?」
出かけたときの異様なまでの顔色が…気にかかる。
言い知れぬ不安をいだきつつも、美津子には何もできることなどは…ない……


                                -第61話へー

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あとがきもどき:
薫:とりあえず、とあるもう一つの日付は六月六日に決定ですv
  いあ、旧暦の五月五日、なもので(こらこらこら!
  さらにいえばどちらかといえば八月十日にしたかったのもあるんですけどねぇ。
  さすがにそれは本因坊戦の予選が遅くなりすぎかなぁ?とおもっていたり。
  まあ、そのあたりの日付もうろうろと変更しつつ今後も組み替えてゆく予定v
  ようやく佐為の消滅ですv
  プロローグの一部にようやくたどりつけましたv
  今後、しばらく鬱々展開になりますので、あしからず(汗
  どうも最近一話が長くなりすぎて小話がいれられないなぁ(汗
  何はともあれではまた次回にてv

2008年9月13日(土)某日

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