まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回、ヒカルの碁の中でも絶対に避けてはとおれない佐為の自覚編ですね。
ちなみに、後の小話は別バージョンのプロ試験、予選のときの一場面をばv
これは、原作とことなり、行洋も、そしてアキラもsaiの正体にうすうすきづいてる(幽霊という事実)
という設定の上になりたっておりますvあしからずv
何はともあれゆくのですv

#####################################

私の千年の意味。
今、はっきりとわかった。
虎次郎のときには私に十分に碁をうたせてくれるものが必要であった。
だからこそ彼は私の声をきけたのだ。
そして…私の…わたしの役目は…私たちすらしのぎうる才能の持ちて。
それにすべての知識と棋力を引き渡すこと。
そうすることによって、長い、神の一手にちかづいてゆく。
人からひとへ。
生命はそうやってこれからもずっとつながれてゆくのだろう。
すべての想いと知識をも飲み込んで……

星の道しるべ   ~千年の答え~

「……先生が、この対局の約束を交わすとすれば……」
家にともどり、パソコンをすばやく立ち上げた。
念のためにヒカルの携帯にもかけてみたが電源がはいっていないらしかった。
「約束を交わしたとすれば、先生はその人物と直接あっている可能性が高い。
  先生はメールのやりとりができない」
それは携帯でもおなじこと。
そもそも、塔矢行洋は携帯をもたないことでも有名である。
「すると…あの十段戦。第四局のときに回りにいた誰か、か?」
そうおもうがそんな人物はおもいあたらない。
しかし、誰よりも可能性が今のところ高いのは……
「・・・進藤はsai。ではない。たしかに院生のころから騒がれてはいるが……
  若獅子戦のときのそれはsaiのそれではなかった。……だが。進藤がsai本人でなかったにしても。
  saiの知り合い、ということは考えられる」
ヒカルとsaiの対局をみたのは一度きり。
まるで…申し合わせたかのようにさくっとsaiはヒカルを…laitoを打ち捨てた。
たとえ進藤光でなかったとしても、とにかくいる。
saiとつながりのある人物が。
塔矢行洋とここまでの碁をうちながら、その素性は一切知られていない。
…sai。
いったい何ものなんだ?
緒方の中に何ともいえない思いが局面をみつつも去来してゆく――

「心当たりはないの?塔矢君?saiがだれなのか」
…saiに重なるのはヒカルが言っていた直感打ち。
まさにその手筋を打っていたときの進藤光。
だけどもsaiと彼の対局をもみて、ネットで対局した、という棋譜も見せられた。
だからこそ、わからない。
わからないからこそ……
「……心当たりは…あません……」
そう答えるよりすべはない。
「だけど、五冠で。囲碁界世界レベル共にNo1の実力、といって過言でない塔矢先生とこれだけタメはってんだ」
「ああ。ぜったいに有名な棋士だよな」
「中国か韓国のプロかも」
「う~ん」
「でも、登録は日本人、なんだろ?」
たしかに登録はJPN。日本、である。
ヒカルではない。
ヒカルも言っていた。
saiの強さは百戦錬磨の強さだ、と。
それはアキラとて認めている。
なのに…なのに、なぜ、昔の…『直感打ち』といいきったヒカルの手。
それとsaiが重なるのか。
そう、であったころの、進藤光に。
まるで…まるで、そう、視えない誰かに指示されてうっていたかのごとく……
『進藤君はお仲間だもの♡』
そういった母の言葉が脳裏をよぎる。
…まさか!?
saiは…saiは…進藤のそばにいる…・本当に視えない…誰か!?
突拍子もない考えかもしれない。
だけど、そう考えればすべてつじつまがあうのも…事実。
ヒカルが師もいないままに、周囲に詳しい人がいないままに自分とほぼ同格の実力をつけている。
ということすらも。

形勢は、途中から一気に白よし。
コミをいれなくても、である。
何とかおいついたことにはおいついたが…もはや大ヨセも終わりに近い。
ほんのわずかの気の緩み。
それすらこの相手には見せられない。
この相手には、絶対に。
ネット画面を通じてつたわってくるこの気迫は…あのときよりもはるかに強い。
この空気、この威圧感。
あのとき、新初段シリーズのあのときに感じた気配そのもの。
ピッ。
「……くっ……」
打ちこまれてみて今までこんな思いをしたことは…未だかつてない。
全身に噴き出る汗すらも自覚ができる。

ごくっ。
「…いい手だ」
「……この白は、取れないな」
「・・・気合の踏み込み、だね」
「…打たれてみると絶対の一手にみえる」
誰もが気付けなかった一手の重み。
それがいま、そこにある。
「形勢は…白、コミをいれたら有利?」
「いや、互角なんじゃあ?」

「…互角?いや、わずかに…名人が…悪い……」

それぞれがそれぞれ、世界各国にわたりパソコン画面の前にて、
佐偽と塔矢行洋の一局を人々はかたずをのんで見守ってゆく。
誰も終局図は…よむことは…できない……


……残すはこよせだけ。
終局まで読み切れば…コミを入れて二目半の負け。
ヨセはこれまでの攻防と違い一本道。
手順が複雑で間違えやすいものの正しい道は一本。
この者はおそらく間違うまい。
私と同じくもう終局図がみえていよう。
全力を出し切った。
それこそすべてをかけて。
なのに、なのに相手はさらにその上をいった。
…ピッ。
それゆえにこそ、投了、をクリックする。

「「えっ!?」」
世界中においてパソコン画面の前にくぎツケになっていた人々が思わず息をのみ声を発する。
「投了!?」
「塔矢先生!?」
「sai…saiが…かった!」
「「「・・・・・・・・」」」
口をあんぐりあけて、声をだせないものが大多数。
それぞれの場所において投了の表示をみて画面の前で叫ぶ人々。
「最後までよみきった?!ここで!?」
半コウ争いもまだのこっているのに。
まじ!?
ここで塔矢先生が投了、だなんて~!
バソコンの前でおもわずがたっと立ち上がりそんなことを叫んでいる和谷。
気付けばすでに時刻は十八時近い。
「義高!ドラヤキかってきたわよっ!」
そんな母の声が扉の向こうよりきこえてはくるが、今の彼にはそれに答える余裕はない。

「…名人が、これほど冷静沈着に事を運んだにもかかわらず、さらのその上をいったsai!」
おもわずぎりっと歯ぎしりをしてしまう。
「…あの局面で繰り出された一手。それからの打ちまわし…もう、名人に巻き返す手はないのか!?
  くそっ!いや、あるハズだ!」
そうはおもうが思いつかない。
しかもコヨセの正確な道順すら緒方には読み切れない。
…sai。
何ものなんだ!?sai!!
パソコンの画面の前でそうおもってもそこにはただネット、という顔のみえない深い闇があるのみ。

やっぱり、昔の進藤だ。
僕の中で一つの答えがでた。
昔の…あの進藤なんだ!
saiに重なるのは!
常にあのときからヒカルをみてきているからこそみえるものがある。
常識的に考えれば何の答えにもなっていないことはわかっている。
だけども、母の…明子のあの言葉、【仲間】。
もし、もしもヒカルのそばにそれほどまでの打ちてがいたら?
そういえば、あのとき…進藤は説明書きすらされていない秀策の書。
それが何歳のときのものか説明もうけないうちにと言い当てた。
そして…門外不出であった、というあの秀策が【誰か】と打った、という棋譜。
だが、すべては憶測で証拠はない。
だがおそらく…母、そして進藤光は知っている。
saiの正体、を。

…終わった…
全力をだして打ちきった。
そんな自分に彼、塔矢行洋は答え応じてくれた。
研ぎすまされた一手一手に肉体を持たぬわが身ですら旋律を覚えるよりも歓喜に震えた。
何よりも彼に十二分にこたえることができた自分が誇らしい。
…ありがとう。塔矢行洋。
そして…ありがとう、ヒカル。
……?
『ヒカル?』
心の中で強く、ヒカルもまた碁盤をイメージしているがゆえに、
佐偽とともに碁盤を前にしているイメージがこの一局のさなか、二人とも共通していた。
それぞれがひとつのイメージを共有している状態となり今回の一局をうっていたこの二人。
「…ここ」
『え?』
「塔矢先生。ここの切断にそなえたろ?」
『え。ええ』
「必要な一着だ、って誰でもおもうよな」
ヒカルでもそのとき、そうおもった。
「でも、その前に…隅にオキをうてば……」
『!!!?』
ヒカルの指摘に目を丸くする。
「白は押さえるしかない」
たしかにヒカルのいうとおり、である。
「これだけで実戦で得してるよね?」
『…!』
ヒカルにいわれてはっと気づく。
その手は…佐偽ですら失念していた。
「つまり、黒がこう、備えた手でスミにおいていれば…逆転してるだろ!そ~してこ~してこ~きたら。
  ほら!佐偽がまけてるしっ!」
『たしかに…ヒカルのいうとおり……』
「どう!?佐偽!」
ヒカル……
パシッ。
佐偽が何といってくるか期待にみちた子供の純真なまでのまなざし。
褒めてほしい。
というまなざし。
だが、それ以上にヒカルの頭上にみえる、ヒカリは…光は……
……今、わかった。神はこの一局をヒカルに見せるため、私に千年のときを長らえさせたのだ。
するっと佐偽に入ってくるつよき思いと…確信。
「?何いってんの?佐偽?」
ぷるっ。
「って、もれる~!!!佐偽!検討はあとな!トイレ、トイレ~!!!」
ふと気付けば十時から六時近く。
すでに八時間以上もトイレにいっておらず、また何も食べてはいない。
緊迫した一局がおわりほっとすると同時に押し寄せてくる尿意。
それゆえにぶるっと身震い一つしてヒカルはあわててトイレのほうへと向かってゆく。

「あ、空気かわった」
「あ、あの子、やっとでてきた」
朝から個室に入ったっきり一度もでてくる気配がなかった子供。
それゆえに従業員たちも気にかけてはいた。
もしも中で倒れたりでもしていてはたまったものではない。
それこそ監督不行き届き、といわれてしまう。
子供が個室からでてトイレのほうにいくと同時に、何ともいえない張り詰めたような空気が一瞬のうちに霧散する。
本日、このネットカフェにきた誰もがこの空気を感じ取り、息苦しさゆえに長居することはできなかった。
そんな中で唯一、八時間以上もいた子どもが印象にのこるのは仕方がない。

「ふ~、あぶなかった~。ってうわっ。もうこんな時間なんだ。とりあえずおじさんにお礼をいってかえろっか。佐偽」
『・・・・・・・・・・・』
「佐偽?」
『え?あ、すいません。ぼ~として……』
何だか佐偽の様子がおかしい。
心、ここにあらず、といった感じである。
「まあ、あんな一局うてばそ~なるか。とりあえず、席にもどろうぜ」
ふと気付けばお腹もすいている。
そういえば朝から何もたべていないことにようやく思い当たる。
ヒカルも又、佐偽達とおなじ穴のムジナ。
集中すれば飲食すらわすれてそのことにみにと没頭する。
そして…倒れるタイプ、である……
ぼ~
何やら佐偽はずっとぼ~としている。
そんな佐偽を首をかしげてながめつつも、
「えっと。たしかおじさん、チャットまでわかってないとかおばさんいってたし。とりあえず…」
カチャカチャ。
【おじさん。今日はありがとうございました。体のほう、平気ですか?
  気がついたら八時間休みなしでぶっつづけでしたけど……
  今日のところはかえります。明日、病室によりますね。それでは】
かちっ。
送信。
ガタガタ。
「さ。かえろっか。佐為。って佐為ってば!!」
ぼ~…
『え?あ、はいっ!』
「…?大丈夫か?とにかく片づけ終わったし。あまり遅くなっても困るからかえるぞ」
すでに気付けば時刻は十八時をまわっている。
珍しすぎるほどに心ここにあらずの佐為を気にかけつつも、とにかく個室を片づけて帰り支度を始めるヒカル。

ぴっ。
全力を出し切ったというのにその上、さらにその上をいった視えないうち手。
sai。
しばらくしてヒカルよりチャット画面が示されそこでようやく我にと戻る。
「…もう、こんな時間か」
「って!塔矢さん!!夕食もたべてないんですかっ!?」
ちょうど入れ違いに食事を下げようとはいってきた看護師が怒ったような、呆れた口調でいってくる。
みればたしかにいつのまにか夕食は運ばれてきていたらしい。
病院食、というのもは結構早い時間に規則正しく決められている。
「お昼もたべられてなかったでしょう!無理にでもたべてもらいますからねっ!」
キィン。
看護師の声が耳につく。
「わかった。わかりました。すいません」
すでにさめきった夕食に注意をされ、行洋はようやく手をだしてゆく。
今まで一度たりとて味わったことのない充実感。
それがいまの彼にはある。
ずっと求めていた。
全力で打ちあえる相手を。
明子はわかっていたのだろうか?
それはわからない。
わからないが…自分の碁はまだまだ完成されていない。
彼と…互角になるためには、もっと…もっと……!!

「saiが…saiが勝った!」
終局まで読み切れば二目半のsaiの価値。
だが、今確実に局面で読みとれるのはsaiが半目ほどかっている、ということのみ。
「saiか!」
「…塔矢名人との真剣勝負に……」
「sai…強えっ!」
それぞれがそれぞれ、すでに投了がしめされた画面の前で場所も時間もことなりおもわず叫ぶ。
「…あら?あ、おわってるわ~。あらら。やっぱりあの人、負けたのねぇ=」
約一名、ネットに釘付けになっている世界中の人々とは対照的ににこやかに夕食の支度をしつつもいっている女性。
「あの人。そういえば飲食もわすれて対局してたでしょうし。すこし顔を見にいきますか」
伊達に長年連れ添ってはいない。
いいつつも、論がしていたビデオとDVDを切る明子。
一応、同時録画をしているのでどちらかのデータが飛んでも応用はきく。
あの人のことだし。
きっと局面をみつつ検討するでしょうしね。
一応、特別室にはDVDのデッキモある。
すべてのデッキで一応DVDが見れるようにと作業をする。
一応、一度きり録画のDVDなのでそうそうは消えない、であろうが。
テープのほうは巻き戻したのちに爪を折る。
「四月十六日土曜日。佐為VS行洋。と」
かきかきかき。
それぞれにラベルを書き込み貼り付ける。
これらはおそらく永久保存版。
上書きやデータの取り消しはまず防がなければならない重要な品。
「そういえば。明さんはどうするかしら。…電話してみますか」
もしも、さきほどまでの対局をいっている研究会の場所でみているとすれば、おそらく戻ってはこないであろう。
ぴっ。
それもあるがゆえに、とりあえずつぶやきつつも、明子はアキラの携帯電話に連絡をいれてゆく。

「これがうてるんだぜ!この手が!」
「そう、ここの石!」
「黒だって!」
すでに今おわったばかりの局面を並べてそれぞれがそれぞれに活発に意見を交わし合う。
「というか、アマじゃないよ!絶対saiは!」
しかし、世界規模で考えても塔矢行洋とタメをはるうち手など…想像がつかない、というか尾も五日以内のも事実。
「…お父さん……」
今だにパソコン画面上には終局の面がのこったまま。
みればすでにsaiは退席したのかいなくなっている。

「sai…sai…かっ!」
ぎゅっ。
しらず力がこもりタパコの箱を握りつぶす。
誰かはわからない。
ないが…上を目指すものとしてことごとく中押し負けしていた相手の力量。
それがいままさに証明された。
そして、師の真の実力も。

「あら。ヒカル。おかえりなさい」
「あ、ただ今~。つかれた~」
何だかものすごく疲れた。
それはもう気力も体力もすべて枯渇しつきるほどに。
「お風呂にする?ごはんにする?今日はソーメンだけど」
台所のほうから母親である美津子が玄関に顔をだしながら声をかけてくる。
「本当?軽いもののほうが今日はいいや。とりあえず風呂にいく~」
家に戻ったのはすでに夜の八時近く。
それでも美津子は仕事、とおもっているので深くはきいてこない。
疲れた~。
という息子の顔に嘘はない。
それはそうであろう。
いくらプロになったとはいえヒカルはまだ子供、子供なのだ。
大人の仕事をする、というその気苦労は何となくだがいくら囲碁界の知識に無知な美津子でも理解は可能。
それゆえに文句をいうことなくヒカルを迎え、ねぎらいともいえる声をかける美津子である。
そのまま、ヒカルは部屋に戻るよりも先にまずはお風呂にとむかってゆく。

パシャ……
「ふ~……」
湯船につかり、体をすべて湯船の中にとおもいっきりつける。
じんわりとした温さがとてもここちよい。
生き返る、とはまさにこういうのをいうのかもしれない。
「佐為。お前前、いったよな。打てるものにしか一番深いところは視えない、って」
『・・・・・・・・・・・・・・』
「?何かさ。俺あの場にいてさ。お前の考えてることも意識を同調させてたせいか全部みえたし。
  何だか塔矢のおじさんの考えてることまで視えたんだ。何だか今日の対局の一番真中にいた、って感じなんだ」
『それは……』
たしかにいわれてみれば今日の一局は佐為が一手を口にだしていうことはなかった。
ヒカルの好意で佐為にあらかじめ意識を同調させ佐為の想いをくみ取り、
ヒカルは一手、一手をうっていた。
…それがその時、何を意味するのか。
などということは佐偽は一切思いもしなかった。
佐為と行洋。
二人の考えがダイレクトに伝わったがゆえに、ヒカルはあの一局の終局図までが視えていた。
「あとで棋譜のほうは終局まで打ちこんだ形で仕上げとこうな。あ、盤面の形のもつくっとくか」
いちいちパソコンであらたに作り直すより、それを書きあげてスキャナで取り込みほうがはるかに効率的にはよい。
「…って、佐為?どうしたんだ?お前なんだかおかしいぞ?今日の一局がおわってから……」
何だかず~と心、ここにあらず。
といった感じである。
ヒカルに強く伝わってこないのでヒカル的には重要なことだ、とはおもつっていない。
…そう、今はまだ。
『ヒカル…あの……』
佐為が何かいいかけるとほぼ同時。
あ~!!
びくっ。
いきなりのヒカルの大声にびっくりする。
こんなことは今までなかった。
すくなくとも大声をあげるほどの強い心の動揺があったはず。
なのに佐為はヒカルがなぜ大声をだしたのかすらわからない。
やはり……
あの時、先ほど感じたあれは……
それは佐為に真実をつきつけるのは十分すぎる理由。
「私が負けたら引退するってあれ!まさか…本気なの~!?」
佐為と行洋の対局に興奮していた綺麗さっぱりヒカルはその言葉を失念していた。
「ヒカル!何お風呂でわけいてるのっ!」
「あ、ごめんなさ~い!」
ざばっ。
「とにかく!佐為!今日はとっととねて!明日朝一で病院にいくぞ!病院!」
すでに髪も体もあらって湯船につかりゆったりしていた時にふと思い出す。
あわてて風呂からでてご飯を食べる。
「ごちそ~さま~!疲れてるからもう寝るね」
そういいつつご飯を食べたのちにすぐに二階の自室へと戻るヒカル。
ひとまず部屋にともどり、別の棋譜の様子に今日の一手目からそして…終局まで。
投了碁の形も色をかえてかきこんでゆき、
「とにかく。今日はお前もつかれたろ?明日は朝一で病院にいくぞ!佐為!」
『ヒカル。私は……』
「おやすみなさ~い」
気がたかぶってはいるが目をつむるとやはりかなり精神的に疲れていたらしい。
そのままヒカルは深い眠りへといざなわれてゆく。

感じる。
確実に。
時が…止まっていた時がうごきだした。
それこそ有無をいわさずに。
…時間は…もうあまりおそらくは残されてはいない。
なぜ?
なぜなのですか!?
なぜ?
私はまだ神の一手を極めてはいない。
それに何より…ヒカルと…ヒカルと離れたくないのに。
彼はこれからおそらくまだまだ伸びてゆくのであろう。
…今度は、私がヒカルをおいて逝ってしまうのか?
…虎次郎…あなたのときは……
残されていた虎次郎の手紙。
その時の気持ちがいま、佐為にも改めてわかってくる。
ヒカルに何といえば……
彼はまだ子供。
そう、まだ十五にもなっていない子供なのだ。
いきなり自分が消える、といっても納得いかないだろう。
佐為自身とて…信じられない。
真自宅はない。
どうして~っ!
それでも、ヒカルとの心のつながりが確実に…そう、確実に断ち切られている。
それを先ほど嫌というほどに思い知らされた。
別れたくない。
未来があるヒカルがうらやましい。
…これが、自決の道を選んだ私への罰、なのですか?神よっ!
見上げる空は満月。
「う~ん…佐為~…そ~きたか~…むにゃむにゃ……」
『ヒカル……』
横ではヒカルはすでに夢の中。
伝えなくてはならない。
自分もなっとくいかないのに残酷な事実を。
自分…藤原佐為はもうすぐ消える…逝くのだ、と。
これは佐為にしか伝えられないのだから……


「ふえ~。とにかく朝一で来たには来たけど。日曜でよかった~」
翌、四月十七日。日曜日。
朝一の病院経由のバスにと乗りこんだ。
今日、学校が休みで本当によかったとおもう。
とにかく急いだので手荷物は手提げカバン、ひとつのみ。
思いなおしてもらうために、一応昨日の棋譜ももってきてある。
また、逆転の一手となったであろう手筋を書き込んだ棋譜も。
「まさか、本気じゃないよなぁ?だってとんでもないぜ。いきなり五冠をもっている人が消える、なんて」
いいつつ溜息をつきながら、
「なあ?」
『…え?ええ…と……』

佐為の心はここにあらず、である。
「何だよ。他のこと考えてたのか?お前、昨日からおかしいぞ?あ~あ。
  あ~もう!頭悩ませるのはいつも俺だよっ!いくぞ!佐為!」
ヒカルには佐為が何を考えているのか知ろうとしても伝わってこない。
それゆえにまだ昨日の対局の疲れがのこっているのかな?
その程度におもい、とにかくそのまま病院にとはいってゆく。
コンコン。
「あら、どうぞ?」
気配でわかる。
誰が来たのかは。
「失礼しま~す。あ、おばさん。おはようございます」
みれば病室にはすでに明子がやってきているのがみてとれる。
「おはよう。…あら?佐為さん、どうかしたの?」
何だか佐為の顔色がすぐれない。
しかも気のせいか・・・佐為がもっていたまぶしい光が薄れているような気もしなくもない。
『明子殿……』
どうやら彼女には【何か】がわかるらしい。
「あ、そうそう。進藤君。佐為さん。今、この人にもいってたんだけど。
  昨日の一局。録画してあるから。今度ダビングしてあげるわね」
「本当!?おばさん!ぜひ!…って、今日きたのはそ~でなくて。あ、あのおじさん?
  おじさん昨日…投了しましたけど・・・引退なんか、しません、よね?ね?
  saiに負けたら引退する、ってあれはおじさんついいっちゃっただけでしょ?ね?」
そうだ、とと肯定してほしい。
「ちょっとそれを確かめたくて」
ヒカルとすればそのとおり、といってほしい。
切実に。
「一度口にしたことは守る」
・・・・・・・・・・・・・・
「だ~か~ら~!そんなむちゃをいわないでぇぇ!おばさんも何とかいってよぉぉ!」
一瞬だまりこみ、すぐさまおもいっきり叫び明子に救いをもとめるヒカル。
「それがねぇ。今、この人と話ししてたけど。この人本気よ♡」
「本気よ♡でなくてぇぇ!!」
ヒカルの叫びは何のその。
「saiがだれかはあえて選択しない。進藤君。君にも都合があるだろう。
  saiともう一度、ネットでうたせてくれ!ネットでいいから!名をあかせ、とはいわないからっ!」
ヒカルを通じてしか打てないのであれば、公の大会で打つのはおそらく不可能であろう。
「…もう一度?そっか。おじさんがネット碁つづけるならできるか……」
おじさんなら佐為と俺のこと誰にも内緒にしてくれるだろうし。
時間が会いさえすればいつでも佐為とおじさん、打たせてあげられるし。
そうすれば佐為もすっごく喜ぶだろうし。
ヒカルの考えは以前は佐為にもダイレクトに伝わってきたのに、今日はカスミがかかったかのように、
佐為につたわってこない。
だけどもヒカルが何を考えているのかはわかる。
伊達に二年以上も一緒にともにいたわけではない。
……もう、遅い。
遅いのですよ。ヒカル。
私には…もう、そんな時間はのこってはいまい。
自らの中で有無をいわさず情け容赦なくとまっていた時の砂が滑り落ち始めているのが判るからこそ。
佐為はうつむかずにはいられない。

「佐為さん?」
何だか佐為の様子がおかしい。
それゆえに首をかしげる明子とは対照的に、
「なら。saiと打てるんだったら引退とかなしにしてくれますか?」
「さっきもいったが。一度口にしたことは守る。
  次の対局を最後に私は身を引くつもりだ」
「・・・だ・か・ら!そんなこといわないでってば~!おばさ~んっ!」
「あらあら♡」
そんな二人のやりとりをにこやかに眺めている明子が対象的にはたからみてもうつりこむ。
「何。引退は私にはそれほど重要なことではないよ。むしろいい面もある。
  棋士という立場についてまわるしがらみや義務もすくなかろう。
  つまらぬ取材もうけなくてすむ。碁がうてなくなるわけではないのだから」
私にはこの身がある。
自ら打てない彼は…どんな思いで現世にいるのであろう。
「タイトル戦でなくても本気の碁はうてる。昨日の一局がまさにそうだ。
  正体を知らぬ相手との一局であれほどの碁が生まれるのだ。だから、進藤君。saiと、再び」
「そりゃ、いつでもおじさんのつごうのいいときにネット碁やりつづけられるのなら打たせられるけどそ!
  だけど、困るよっ!俺のせいになるしっ!それに、ほら、これっ!」
ばさばさ。
ばさり。
いって二枚の紙を行洋の前にとおくヒカル。
「おじさん、ここを押さえたけど、ここをこうしてたら、こうなるし。ね!?
  これだとおじさんの勝ち、でしよ?!だから、むちゃいわないでってばっ!」
置かれた紙は昨日の一局の棋譜。
たしかに見ればヒカルが書き込んだのであろう、異なる手がもう一枚の紙には示されている。
ヒカルが指摘している黒逆転の手は黒181でなく、黒209を先にとうつもの。
「これは……」
示されてわかるものがある。
昨日も、彼はあの一局をあの後検討してみたが、この手はまったく思い浮かばなかった。
「ね!だから、おじさん、撤回してよ~!!」
ヒカルからすれば必至、である。
自分のせいで五冠の棋士が引退…なんてシャレにもならない。
「あなた。私ちょっと席をはずしますね♡」
「ああ」
「って、おばさ~ん!」
「進藤君。この人の頑固さは筋金入りよ~♡」
がくっ。
どうやら明子はこの件に関しては協力してくれる気はさらさらなさそうである……

キィ。
バタン。
sai本人の見当はつかない。
だが、saiとつながりがあるやつはいる!身近に!
十段戦、四局のとき名人に接触した者か。
進藤光か、あるいは他の見舞客か・・・…
とにかく、名人がネット碁をやることをきき、対局の橋渡しをしたやつ!
そいつがだれなのか・・塔矢先生はしっている!
だからこそ朝も早くに病院へとやってきた。
病室のトビラをノックしようとして手がとまる。
何だか部屋の中がさわがしい。
よくよくきけば進藤光の声らしきものが聞こえてくる。
…進藤?
こんな朝早くに?
何をいっているのかは聞き取れない。
それゆえにそっと扉に手をかける緒方の姿。

「佐為がだれかなんておじさんなら教えてももんだいないからっ!だから撤回してよっ!
  おじさん!おじさんはそれでいいかもしんないけど。俺やだよ!困るよ!俺のせいになるじゃん!
  佐為とまた打ちたいんでしょ!おじさん!佐為だって同じだし!
  だから、さっきの言葉はひっこめてよ~!!」
ヒカルの声はほとんど泣き声に近い。
『!…ヒカル』
どうやら行洋を説得するのに気配に気づかなかったらしい。
ふと佐偽が第三者の姿に気づき、ヒカルに声をかける。
「え?何?」
佐為に呼ばれ、振り向いたヒカルのその視線の先にいるのは…緒方の姿。
「…お…おがた…さん?」
一瞬、ヒカルの思考が停止する。

「…sai…だと!?」
たしかにそういっていた。
緒方はヒカルがsaiがだれか知っている、というところはきいていない。
扉をあけたのはヒカルが何か撤回して!とかよくわからないことをいっていたところから。
「って、うわっ!?」
説得に必至になっていて気付かなかったとは…うかつ。
それゆえにおもいっきり驚くヒカルである。
「やはり…やはりか!おまえが先生とsaiの対局をくんだんだなっ!おまえがsaiと関係あるんだな!?」
「いや、ない!ないです!何にも!」
「ウソをつけ!今、お前は――」
「緒方君!」
どっん!
「さよならっ!」
とにかく逃げるが勝ち、である。
荷物をぱっとつかんでその場をかけだすヒカル。
「まて!進藤!」
そのままヒカルをおいかけて病室を飛びだす緒方。
「あなたたち!何をしてるんですか!ここは病院ですよっ!」
廊下を走る二人に注意している看護師一人。
エレベーターの前でヒカルにおいつき、そのままどんっ、とヒカルを壁にとおしつける。
「お前が組んだのか!?saiと先生の対局は!?」
「ち、ちがうよ!」
認めるわけにはいかない。
彼はかなりの現実主義者。
だからこそ…いえない。
「お前が、お前がsaiをしっているのなら!」
いいつつ、ぐいっとヒカルの胸倉をつかみ、
「オレにもうたせろっ!」
すごむようにヒカルに言い切る緒方の姿。
いつものネットの短い対局ではなく、昨日のようなきちんとした形で。
そのほか、大勢の一人としてではなく、緒方精次、として。
「お、おがた…さん?」
あまりの緒方の熱意というか迫力に一瞬たじろぐものの、
「え、えええと。し、しらない。しりません!
  俺はたしかにsaiとはうつけど、それはネットの上のことであって……
  それに、今日きたのは昨日、saiと打った塔矢先生とのネット碁をみてたから……」
いいつつも緒方の手を振りほどく。
ガアッ。
「…あれ?進藤?」
「塔矢!?」
うわ~!次から次へと~!
とにかく逃げるが勝ち、である。
今アキラが上がってきたエレベーターにと素早くアキラと入れ違いに乗り込むヒカル。
そのままエレベーターを閉じてその場を逃げ切るヒカルの姿。
「って、緒方さん?何が?」
今のヒカルの様子はただごとではなかった。
緒方さんに何かされたのだろうか?
そんな可能性すらアキラの脳裏に浮かんでしまうのは仕方がない。
「…進藤のやつが先生の病室にきていたんだ。オレがはいっていったら逃げ出しやがった。
  …あいつの話が少しだけ聞こえた。十中八九、進藤とsaiは知りあいだ!」
「!」
緒方の言葉にはっとするアキラ。
知り合い。
違う。
進藤とsaiはおそらく、おそらくは…一心同体の間柄の…視えないつきあい。
母がそのような能力をもっていなければアキラはぜったいに思いつきもしなかったであろう。
今の言葉でさらに確信が深まる明ではあるが口にだしていえる内容ではない。
「アイツはしらばってくれてるが、先生にきけばわかること!」
いいつつも緒方は病室にと再び向かってゆく。

「緒方君。明」
二人の姿をみてあわてて二枚の棋譜をそっと折りたたみ、布団の中のとしのばせる。
「先生!進藤なんですね!saiとの対局をもちかけてきたのは!」
やはり彼がここにきたのは昨日の一局をみたせいか。
先ほどの様子からそうではないか、とはおもったが。
だが。
「いいや」
「先生!?」
「彼は関係ないよ。昨日の朝、ネットでsaiが対局を申し込んできた。それだけだ」
生身の人間でないのならば表にだすのは避けたほうがよい。
saiと…そして進藤光のためにも。
それが彼、塔矢行洋の判断。
ヒカルとて自らの力ですでにプロ棋士の仲間入りをしているのだからなおさらに。
「どうやら二人とも、昨日の対局をみたようだな。塔矢行洋としてはずかしくない碁だっだう?どうだ?」
そういわれても言葉につまる。
たしかにすばらしい一局ではあったが、目の前の人物はまけたのだから。
「saiにはその上をいかれたがね」
さらにヒカルはそんな二人の上をいき、行洋ですら思わなかった一手を示した。
佐為も気づいてなかったようだけど。
と彼はそういっていた。
おそらく、彼の代わりに打つことにより、深い…より深いところが彼、進藤光の目には視えたのであろう。
「明君!君からもきいてくれ!君だってsaiの正体を知りたいはずだ!」
碁をうつものならば誰でもおそらく知りたがる。
「…お父さんが知らない、というのならばもうこれ以上、何をきいても無駄でしょう。緒方さん」
「・・・っ!」
明の答えに声を詰まらせる緒方。
緒方さんはsaiと進藤を別人、とおもっている。
たしかに別人かもしれないが。
明の考えが正しければ、saiは…ヒカルとともにいる【誰か】である。
母とおなじ力をもつというかれならば…そんなことがあってもおかしくない。
そうアキラ的には判断した。
それでも、言えることはただ一つ。
進藤光がすべての謎のカギをにぎっている。
ということ――
「…進藤にも先生にもシラを切られてはお手上げだ…ここまで、か」
溜息とともにソファーにともたれかかる緒方。
と。
カチャ。
「あら。明さん。おはよう。まあ、緒方さんもいらっしゃい。進藤君はかえったの?
  さっき進藤君がきてたんだけど……」
佐為さんのあの表情。
少し気になるのよね。
そんなことを思いつつも二人にと話しかけている明子。
「ああ。明子。これをいくつかコピーしてきてくれないか?」
「え。ええ。昨日のね。はいはい」
「「?」」
紙をおったまま二枚の紙を一つにし、明子にと手渡す行洋。
視る限りこれは原本。
ならばヒカルも控えはもっていないはず。
それにあれほどすばらしい一局をきちんと棋譜として残しておきたい、というのも本音。
行洋から棋譜をうけとり、明子は病院の一階にとあるコンビニにと足をむけてゆく。
「?お父さん?今の何ですか?」
「何。昨日の一局を棋譜にしたんだよ。せっかくきたんだ、明、それに緒方くん。
  君たちももってかえりたまえ」
いわれておもわず目をあわす。
たしかにそれはかなり嬉しい。
うれしいが…なぜここは病室。
どうしてそんなものがあるのだろう?
つまり、それは行洋が棋譜まで用意していた、ということになるのではないのか?
「少しつかれたよ。わるいけど少し横になりたいけど、いいかな?」
「あ、はい。いきましょう。緒方さん」
「あ、ああ」
このままここにいてもおそらく拉致はあかない。
そんなことをおもいつつも、明と緒方はひとまず病室から廊下にとでてゆくことに。


                                -第59話へー

Home   Top   Back    Next

#####################################

あとがきもどき:
薫:ようやく対局も完了ですvふふふふv
  これがおわったらしばらく鬱々じょ~たいの展開になりまくりますけどねぇ(汗
  まあ、とりあえず、アキラも、そして行洋も視えない誰か、ということにまでたどりついてはいるけども。
  視えないがゆえにわからない、といったような感覚でおります。
  まあ、明子がその手の能力がかなり高いので視えないけどそんなこともありえるのかも。
  という認識ですね。二人とも(まて
  次回は今回の対局をうけて急遽予定された研究会、ですv
  ではまた次回にてv
  さてさて、例のごとくに小話、いっきますvv


「…佐為~…何なの、何なの?あの人……」
ヒカルからしてももはや涙目。
『ヒカル。大丈夫ですか?平常心、平常心、ですよ?』
「そんなこといったって~……」
ヒカルの周りにはいままでこんなタイプの人などいたことはなかった。
「…明日実。なげとばしたらだめかな?あのひと?」
「…やめといたほうがいいとおもう」
おもわず涙目で横にいる奈瀬にそんなことをいっているヒカルである。
プロ試験予選初日。
おもいっきり見た目はクマ?!というような人物を目の当たりにしてヒカルはかなりびびっている。
おそらく近づいてこれらでもしたら反射的に投げ飛ばしてしまうことは請け負い。
「あの人、声おおきいね~。地声なのかなぁ?」
横で福井がそんなことをいってるが。
「…私、絶対そばによられたら無意識でなけとばしそう……」
「「そ、それは……」」
おもわずヒカルのセリフに言葉につまる奈瀬と福井である。
ヒカルがいちおう、段位にちかいほどの空手や柔道。
そういった実力をもっている、ということは彼らとて聞かされている。
どこかしら夢見がちのヒカルからしてみれば、かなり苦手なタイプ、といえるであろう。
「…あんなひととやりたくないよ~……」
『ヒカル。なら私が彼とあたったらうちましょうか?』
……精神統一するまでお願するかも……
それはズルかもしれない。
とはわかっている。
わかっているがこう何というか精神面上での苦手意識はどうにもならない。
盤面に集中ができるまでお願する、というのも一つの手、ではある。
「それでは、そろそろ時間なりました。予選をうける人々は会場にあつまってください」
院内にとながれる放送をうけ、ヒカルたちはそのまま対局場にとむかってゆく。

「い…いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ぶっん!!
『……あ゛…』
いきなりといえばいきなりだった。
いきなり肩を抱かれればいやでもそんな反応を示してしまうのは仕方がない。
ヒカルの初戦の相手はヒカルが苦手意識をもったひげもぐれの声のかなり大きな男性。
そんな彼がいきなり昼になったのをうけてヒカルを食事にさそおうとして肩をだいてくればなおさらに。
「というか。椿さん、それ、セクハラだよ~」
うんうん。
周囲にいた人々からはそんな声がもれだし同情の余地はない。
とはいえ小柄な少女が大の大人を投げ飛ばしたその光景はかなりインバクトは…でかい。
「は~、は~…は~……」
椿をなげとばしておいてヒカルの目にはすでに涙がたまっている。
それほどまでにこわかったのも事実。
「ヒカル、ヒカル。おちついてってば」
それでも丁寧に一応は碁盤のない場所に投げ飛ばしたヒカルはあるいみ理性は少しはあった。
ということなのであろう。
「あ~。君。相手は女の子なんだから。いきなり肩をだいたりしたら怖がるのはあたりまえだろ?
  進藤さん、大丈夫?」
どうやら投げ飛ばされた人物よりも人々はヒカルに注目しているらしい。
それは院生師範でありながらこんかいの予選の進行役の一人でもある篠田とて同じこと。
「・・・ったぁ。いきなり投げることはないだろ!?ああん!?」
「「今のはあんたが(あなた)がわるい!」」
ものの見事にきれいさっぱりとその場を目撃していた人々の声がかさなる。
「うっうっ。こわかったよ~!!」
それでなくても開始三十分も席をはなれていた相手。
動揺しまくっている中で迎えた昼の休憩。
それでその相手にいきなり肩をつかまれれば…驚いて投げ飛ばしてしまうヒカルはおそらく悪くはない。
『ヒカル。こわかったですね。よしよし』
「女の子の気持ちがわからない大人なんてさいって~!」
奈瀬が涙目になっているヒカルを抱き締めて頭をよしよしとなでている。
佐為もまたおろおろしつつもヒカルをなだめているのだが。
「しかし、きれいにきまりましたね~。一本背負い」
「あの子、かわいい顔してやりますね~」
ブロ試験予選初日である。
緊張していた人々はその何か痛快すぎる光景を目の当たりにしておもわず気がほぐれてくるのを感じ取る。
それはそうであろう。
普通、中学一年の少女に三十近い大の、しかも大男が投げ飛ばされる。
という光景は…みていてかなり痛快なものがあるのだから。



というわけで(笑
プロ試験予選のときの光景です(笑
椿相手に拒否反応しめしてついつい投げ飛ばしてしまったヒカルです(まて
んでもさすがに30近い、しかもぱっとみため不潔ともいえる男が少女の肩にと手をおく。
それで少女になげとばされる…という光景はかなり痛快、だとおもうのですよ(笑
椿からしてみればそんな気はまったくなかったんですけどね~
椿さん、セクハラですよ~(爆
ちなみに午後からぞわわっとくる悪寒をバネにしてヒカルは佐為仕込みの強さを発揮。
椿相手に勝利をおさめる、という裏設定(笑
椿も肩をだくなんてしなきゃ、ヒカルの精神不安定のままかててたのにね(苦笑
これでみんなの緊張がほぐれたのはお約束(笑
ではでは、また次回にてvv


2008年9月11日(木)某日

Home   Top   Back    Next