まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、ようやく佐偽VS塔矢行洋!
そういや、佐偽のイは、『為』だった(汗
でも全部やりなおすの面倒だからそのままで!(こらこらこら!
まあ、所詮は二次さん、多少の間違いはご勘弁~(陳謝
ひとまずトップさんにも間違いしてます、と明記しておこう(汗
名前登録のときにまちがえたからそのままになっちゃってるな~(遠い目…
ともあれ、ようやくネット対決です!
これがおわればまた涙?モノさんにいって、ようやく佐偽消滅の回にいけるのさ!
何はともあれ、ゆくのですv

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あらあら。
すこしばかりいたずら心をおこして検索してみた。
佐偽さん、かなり騒がれてるわねぇ。
佐偽、というかsaiで検索をかけてみれば、まあでてくるでてくる。
その話題がある内容はすでに一万件以上を超している。
おそらく海外のをふくめればかなりの数にのぼるのであろう。
しかも、何だか面白い掲示板を発見した。
どうやらそこは、ヒカルたちがネット碁をやっているサイトの掲示板、らしい。
明子は以前、明よりそのサイトのことを聞かされて知ってはいる。
せっかくでもあるし。
どうやら登録していなくても通りすがりとして書き込みもしていいらしい。
少しばかり考える。
だけどもあるいみ世紀の一局、である。
やはりたくさんの人にもみせてみたい。
それゆえに。
かちっ。
新規登録書き込みをクリックし。
【告知。日本時間四月十六日。土曜日。朝十時よりtoya koyo 対 saiの対局が決定しました】
ただの一言。
その一言のみを書き込みする明子の姿。
これにどれだけの人がくいつくかはわからない。
それでも、少しでも人々の目に触れる機会が増えたほうがいいのも事実。
この一局は人々の心の中においても記憶にとどまる一戦になるのであろうから。
金曜日の真夜中。
アキラが寝静まったころに家にあるノートパソコンを使い、書き込みしている明子である。
とりあえずテレビがおいてある部屋にとノートパソコンを移動させて、明日の準備をしている明子。
コードをつかいとりあえず、テレビ画面にノートパソコンの画面が出力されることを確認する。
テレビ画面に出力さえできれば、外部接続の録画も可能。
対局時間が八時間、と長いのであえてDVDのほうにと録画をすることに一応はきめてある。
この一局は夫にとっても心にのこる大切な一局になるであろうからこその明子の配慮。
明子のこの書き込みは、翌日、気づいた人々によってさらなる騒ぎを醸し出すことを、
このときの明子は知る由もない。

ざわざわざわ。
【嘘をつくなっ!】
【いや、わかんらんぞ!?】
わいわい。
日本時間二十四時を過ぎての書き込み。
そのスレッドに気づいた人々が世界を問わずに大騒動。
もしも事実ならばものすごいものがある。
それゆえにネット上はほぼ炎上状態となり果ててゆく……

星の道しるべ   ~投げらかけられた布石~

「今日いく予定のその研究会って何時までなのかしら?アキラさん」
「夕方までだけど。それより、お母さん、これって?」
テレビの前にどうしてノートパソコンがおいてあるのだろう。
「ああ、ちょっと調べものがあるから」
「ふ~ん……」
めずらしいな、とはおもうが母がネットでさまざまな料理を調べたりしているのもしっている。
それゆえにあまり深くは追及しない。
「そう。じゃあ、夕食はうちでたべるの?それとも食べてくるの?」
「連絡します。それより、お母さん、今日、病院は?」
いつもなら朝早くでかけるのに、今日に限って出かける支度をしている様子がさらさらない。
「お父さんがね。今日はこなくてもいいって」
「?こなくてもいい?」
父がそんなことをいうなどかなり珍しい。
「誰にも邪魔されずにネット碁をうちたいんですって」
朝食をすまし、かたずけをする母・明子の横で出かける支度をしている明。
父がそんなことをいってくるなど珍しい。
そもそも父はあまりネット碁は乗り気ではなかったはずなのに。
「…ふ~ん……」
もう退院するから、かな?
ともおもい、あまり深くは追及しないアキラ。
「まあ、明後日隊員なんだから、あまり無理しないといいんだけどね。
  本当に碁ばっかりなんだから、お父さんも、あなたも」
「うっ」
どうやら矛先が自分に向かってきそうである。
それゆえに。
「じゃぁ、いってきます」
一言いってそそくさと家をでてゆくアキラの姿。
君子危うきに近寄らず。
とは父の教えでもある。
そんなアキラの姿を見送りつつ、
「さて。と、今は便利なものがあるわよね~」
長時間専用録画テープにDVD。
ひとまず洗い物をすまして家の掃除、洗濯がまっている。
その前にまずはテレビとパソコンをつなぎ、テーブルの上にとパソコンをおき、
テレビ画面にパソコンの液晶画面部分を映し出す。
あとはテレビの録画を外部録画にすれば準備は完了。
「えっと。進藤君から聞いたネームと、パスワードをいれて…と」
念には念を。
ヒカルのハンドルネームをしっているものも多少はいる。
なのにその名前がないのにどこで観戦した、といわれても困るのでヒカルと相談の上決めたことがらる
そのままlaitoの名前でサイトに入り、あとは対局直前になればヒカルから二度、携帯がなる手筈になっている。
その場をすぐに録画ができる状態にし、
「さ、掃除、掃除…と」
そういいつつも、明子は部屋の掃除にととりかかってゆく。

ガタン…ン。
タタン、ガタタ…ン。
……早いな。明後日もう退院か。
何だか悪夢のような数日間ではあった。
先週、いきなり父・行洋が倒れた時には気が気ではなかった。
あのときのことは頭がパニックになっていてよくよく思い出せない。
何やら電車のホームからアナウンスが電車にのっているアキラにも聞こえてくるが、もの重いにふける明の耳には入ってこない。
あの日は本来ならば大手合いの初日。
進藤光との対局だった。
そのことすら吹き飛んでしまうほどの衝撃。
母が棋院に連絡をいれる、といったときようやく時刻が差し迫っていることに気がついた。
次に公式の場で対戦できるとすれば、来月の若獅子戦が一番近いであろう。
ヒカルの家に厄介になっている間にいくどか碁をうつにはうったが。
やはり気もそぞろになっていたためか自分でもわかるほどにひどい碁であった、と自覚している。
それでも何とか平常心をたもてたのは、やはりヒカルの心づかいというか存在もまた大きい。
……それにしても、お父さん。
今日は誰にも邪魔されずにネット碁をうちたい。なんて。
変に熱心だな?
そんな疑問を抱いたまま、アキラは電車にのって目的地に向かって移動してゆく。

キィ~。
「いらっしゃいませ」
棋院の近くにあるネットカフェ。
近くにあってもはいったのはこれがはじめて、である。
「初めてのかたですか?では身分証明書とこちらのほうに記入をおねがいいたします」
ネットカフェは一応会員制。
といってもすぐに入会は可能。
必要事項を過去こんで、今日の時間などを記入する。
「では、四時間以上のフリータイム、ですね。お席は個室でよろしいですか?」
「はい」
個室でも少し広めの部屋を希望する。
土曜日、とはいえ一応は平日。
祭日とかではない。
しかも時刻は朝の九時。
人の姿はいまだにまだら。
係りのものに案内されて、個室となっている部屋の一つに案内されるヒカルの姿。
「何か用事がありましたら、そちらの内線電話にておねがいします。ドリンクはフリーとなっております」
いって係りのものははなれてゆく。
たしかにそこには電話機がひとつ、壁にとかけられている。
「さってと、準備開始…と」
ばさばさ。
背中に背負っていたリュックをおろし、中からいろいろととりだすヒカル。
本日の一局のためにと用意していたもの。
マウスの横に対局時計を二つおき、二つほどセットする。
そしてまた、その横に本格的な棋譜表とボールペン。
せっかくなので一手、一手にかかる時間まで記入しておこう、とはひかるの判断。
佐偽はさきほどからずっと精神統一しているらしく話しかけられるような雰囲気ではない。
「あとは……」
何しろ持ち時間、八時間の大勝負。
緊張する一局になることは請負である。
しかも佐偽と行洋、である。
時をこえた世紀の対局、といっても過言でない。
フリーサービスとなっている飲み物をとりにいき、とりあえずパソコンの左側にとあるタナにとおく。
「よっし!」
いろいろ用意をしている最中、ふと気付けばいつのまにか時刻は十時近い。
「え~と…おじさんは…まだ、か。あ、おばさんに連絡いれないと」
ふと思い出して携帯をひとまずらなす。
しかし、どうしても気にかかっているのは行洋の言葉。
だけど、負けたら引退って本気なのかなぁ~……
本気かもな。ああもう!プライドたかすぎ!親も子も!
そんなことをおもいつつも、sai、の名前でロングイン。
「…って、平日なのに、何これ?」
何やらずらっと入室している人々の名前が並んでいる。
海外からの参加者もかなり多数。
今は真夜中のはずの海外の名前すら見受けられる。
ヒカルは知らないが、この数時間の間にこのサイトにきたものは、掲示板の書き込みをつけ。
それゆえに、だまされてもともと!とばかりに半信半疑ではいっている、という現状がある。
だが、そんなことをヒカルが知る由もない。
「…き、きたっ!」
画面に記される【toya koyo】。
かちっ。
その名前をみつけてヒカルはマウスを対局申込にと合わせてゆく。

「あら。えっと、観戦にして録画…と。あとはほっといてもいいわね」
それにしても本気で八時間に設定してるわね。あの人達。
おもわずあきれて苦笑せざるを得ない明子。
そのまま録画設定をしてほったらかしたまま、明子は掃除の続きを開始してゆく。

持ち時間は八時間。秒読み十分。手番は……
もし、もしも佐偽がかったら、本気でおじさんは引退する気なんだろうか?
五冠の棋士がいきなりいなくなるなんてそれこそ大騒ぎ。
まじでやばすぎる。
そんなヒカルの複雑極まりない思いも佐偽に伝わっているだろうに、佐偽は精神統一をしているまま。

「ひゅうっ!本当にきた!」
「おい!みてみろよっ!時間…八時間!?」
ざわっ。
ネットの前で、今か、今かと待ち構えていた人々は日本時間の十時きっかりに対局申込がなされた、
とある一局にくぎづけになってゆく。

先番、黒、塔矢行洋。
白、藤原佐偽。
世紀の一戦が、今まさにここに幕をあけてゆく。

ごくっ。
ネットを通じてもつたわってくる、新初段シリーズのときとおなじ、いやそれ以上の気迫。
佐偽の気迫に負けずともおとらない。
これが名人。
五冠を保持しているという塔矢行洋。
ゆっくりと示されてくる第一手。
すべては、今、始まった。
もう、引退も何もかもどうでもいい。
このすばらしい一局を誰よりも間近でヒカルはみられるのだ。
ちらりとみれば、佐偽もまた怖いほどの表情をしてもう一つある椅子にと丁寧に正座してすわっている。
ヒカルが一応、
佐偽のためにま後ろに椅子をおいていたがゆえに、それに正座して佐偽もまたきっと画面にと視線をむける。
おそらく今の佐偽にはヒカルの姿すら目にはいっていないであろう。
強いほどに流れ込んでくる佐偽の考え。
右上隅の星に打ちこまれた第一手。
とにかく、佐偽と心を同調させて打ち間違いは絶対にさけるっ!
そう心に固く誓うヒカル。
そして、できるだけ正確に、今後誰の目に触れても誇れる棋譜を残すこと。
それがきっと俺に課せられた使命。そう思いつつ、局面と佐偽に心をそわせつつも、
ヒカルはなるべく間違わないように棋譜の方にとマウスから手を話して手をすべらせてゆく。
佐偽が指示してヒカルが撃ち込み、そして棋譜をつけて行洋がうちこみ、それをうけて棋譜をつけて……
永遠に続くとおもわれる作業が、今ここに幕をあけてゆく。

ガチャ。
「ただいま~」
「義高!こんな朝にかえってくるなんてどういうこと!指導碁の仕事って夜にはおわってるんでしょう!
  夕べはお母さん、お風呂わかしてまってたんだからねっ!」
「あ~、ごめん。冴木さんとこいって碁をうってそのままとまったんだ」
「だから!そういうときは電話しなさい!と前からいってるでしょう!
  携帯にかけてもお前、電源きってるしっ!」
「仕事中はずっと電源をきってるからそのまま忘れちゃうんだよ。
  かけようとおもったときにはもう夜おそくてさ。ごめん」
がら。
母親と話しながらもとにかく自分の部屋にと逃げ込む和谷。
「朝ご飯は!?」
「もうたべた~!」
……ふ~……
心配してくれているのはわかる。
わかるが…息がつまる。
「あ~あ、俺も冴木さんみたいに下宿するかな~。それか一人暮らしか」
師匠から仕事をもらって記録係りの仕事をもっとやって、手合料もあるし。
それらを含めれば部屋代くらいは何とかなる、とおもう。
おもうが……
「ご飯の支度や洗濯がどうもな~」
洗濯はまあ今は全自動があるのでどうにかなるかもしれない。
だけども食事の支度、はどうしてもついてまわるのも事実である。
毎日コンピニ弁当などでは金銭的にも体力的にもおそらくもたない。
それに何よりもたかが中学、十五・六歳の子どもに世の中が部屋を貸してくれるはずもない。
「久しぶりにネット碁でもやるか」
いいつつも部屋においてあるデスクパソコンにとむかう和谷。
「義高~。今日はうちにいるの!?お昼や晩はうちでたべるのね!?」
「ああ、うちでくうっ!」
いいつつも、いつものサイトにロングイン。
「…ん?」
かちかち。
「…sai!?」
登録名にふとみつけるsaiの名前。
saiの名前をいつも無意識のうちに探しているのですぐに目につく。
「また偽saiか!?このやろっ!それとも…本物?!」
先日、復帰したこともあり、偽物、ともいい難い。
そしてふと、別の名前に視線をとめる。
「……toya koyo…?」
「・・・・・・・・・・塔矢行洋~!?」
おもわずあきれて何ともいえない声が和谷からもれだす。
「何だ何だ。塔矢名人の偽物まででてきたのか!?名人がネットなんてやるもんかっ!
  森下師匠と一緒で「あんなもん!」っていうタイプだぜっ!」
そのあたりはあの二人はよくにている。
というか今だに携帯すらもっていない棋士というのはおそらく森下棋士と塔矢名人くらいであろう。
「大体、名人はまだ入院中のはず。…ん?個室ならできなくもないか?………」
しばしそのことにおもいあたり考え込む。
あの名人がじっと入院、とはいえしているとはおもえない。
退屈だから、といってネットに手をだした…とも考えられなくもない。
「まさか、本物、なんてことは……あ、対局中になってる。って今日は他のみんなは観戦中!?
  誰のをみて…それに、こいつは誰と対局してるんだ?」
何だかいつもより異様にロングインしている人々の数がおおい。
しかもそのほとんどが観戦中、となっている。
「え~と……」
調べてみれば、toya koyo 対 sai。
この二人がどうやら打っているらしい。
「って、sai!?この二人がうってるのか!?」
よくよくみれば他のメンバーのすべてはこの局面を観戦しているらしい。
……ごくっ…
まさか……
何しも言い知れぬ予感、とはこういうことをいうのかもしれない。
思わずつばをのみこみつつも、観戦にカーソルを合わせ、二人の対局を観戦するためにクリックする。
パッ。
映し出された局面は今だに数手ほど。
どうやら始まってまだ間もないらしい。
「toya koyoとsaiだぁ?本物だったらすげ~一局だな」
おちゃらけたようにいうものの、
がばっ!
ふとおもわずパソコンをもって画面にくぎづけになってしまう。
「持ち時間八時間!?ネットで!?」
しかもコミは六目半。
秒読み十分。
まるで…まるでタイトル戦とまったく同じ設定、である。
ピッ。
そんな中、白の一手が示される。
……ごくっ。
「……もしかして、本当に名人?…もしかして…sai。なのか!?」
和谷の胸中に何ともいえない思いがわきあがるのは…推して知るべし。

トゥルルル…トゥルル……
う~ん……
ちらり、と時計をみれば真夜中の二時過ぎ。
「う~ん、まだ暗いじゃないか。何の電話だぁ?」
いいつつも眠い眼をこすりつつも枕もとの電話をとる。
「もしもし?ああ、オーイェルさん。この間はどうも。たのしい碁でしたね。
  で!こんな真夜中にどうしましたか?」
声が多少つんけんしてしまうのは仕方がない。
何しろ時刻は真夜中の二時をまわったあたり。
何か急用でもないかぎりはこんな時間にまず電話をしてなどこないだろう。
そんな用事に思い当たることがないがゆえにどうしても不機嫌になってしまうのは仕方がない。
「…え!?塔矢行洋がねっとにいる!?対局相手は…え!?」
おもわず眠気もぶっとぶ、とはまさにこのこと。
「saiだよ。sai!フランク!君が前に話してくれた!いやいや、本物かどうか私にはわからないが。
  しかし、ネットで持ち時間八時間だよっ!」
ばっ!
とにかくがばりと起き上がり、あわててパソコンを立ちあげる。
起動時間がいやに遅く感じてしまうのは仕方がない。
「あった!…sai、これだっ!」
たしかに持ち時間は…八時間。
オランダの時刻は夜中の二時。
だが、日本では今はそろそろお昼にさしかかるほど。
それゆえに真夜中だ、というのに彼もまたネット画面にくぎづけになってゆく。

「sai、だろ!ほらっ!」
「ひゅ~!本当だ!しかもtoyo koyoとうってる!」
「一緒にみようとおもって車をとばしてきたんだ。
  一緒に観戦しようとおもってね。持ち時間をみてみろ。八時間。時間はたっぷりすぎるほどある」
「ひゅ~!」
時間にもさらに驚きをかくしきれない。
「コーヒーを入れてくるよ」
「僕の分もたのむよ!いやぁ、驚いた。saiか、本当に!」
この間、久方ぶりに姿を表し、またぱたっとここ最近消えていた最強の打ちて。
「だとしたら、見物だろ?sai VS toya koyo」
「ヒュ~!エクセレント!」
「盤面はここまで平穏にきている。ここからどう進行するかな?」
時刻は今はここ、アメリカにおいては夜の八時過ぎ。
日本は今は昼ごろ…か。
どうしても、日本との時差は世界各国によって存在する。
対局している日本は今日は確か土曜日のはずである。
しばし、感心しつつもパソコンの前にくぎつけにと彼らはなってゆく……

これがsai。か。
たしかに、相手にとって不足なしっ!
どの棋士とも違う。
そう、今までにない強さをひしひしと管゛知る。
棋譜で知った強さよりもはるかに高みの位置にいるであろう、その強さ、を。
確かに一介のアマチュアレベルではない。
かといってここまでうてる存在に思い当たるものもいない。
…約、一名をのぞいて。
「私が負けたら引退する。という言葉を撤回するつもりはない。だが…私がかったときには正体を明かしてもらうぞ!」
この強さは確かに今いる棋士の誰にもあてはまらない。
世界中のどこを見渡しても当てはまらない。
彼、進藤光が初心者ながらに一気に力をつけたのもうなづける。
彼と妻の言い回しから…おそらく歴史に名を残しているうちの一人。
しかし、sai、という名前にはまったく心当たりはない。

パシッ。
……佐偽、完全に本気モードだ。
手にした扇を横におくと同時に佐偽の一手がつよく示される。
声をだしてこなくても佐偽が心で強く感じているがゆえにヒカルには一手の位置が感じ取られる。
ヒカルにはダイレクトに佐偽が思い描く盤上が脳裏に伝わり、
それゆえにヒカルはその場所に間違えることもなく一手をうちこみしてゆく。
ネットカフェの個室に何ともいえない緊迫した空気がただよってゆく。
個室の外や両隣にいるものすら身震いすら感じてしまう、ものすごい…威圧感。

……仕掛けてきたな。
相手の思惑はみてとれる。
……ならば……
佐偽の一手をうけてしばらく行洋もまた長考してをとめる。
一筋なわでは絶対にいかない相手、というのは数手でよくわかったがゆえに……

「驚きだ。saiがいるとは」
電話をうけてまさか、とはおもったが。
しかも相手はtoya koyo。
彼とは依然、自身もうった。
まちがいなく日本の塔矢名人本人だといいきれる。
その名人相手にsaiは…一歩もひけをとってはいない。
「やはり、あのsai、だ」
ピッ。
「名人の手がうごいた!これは…これは白の…saiの望む展開だろ!?
  名人が長考の末に出した答えが…これ!?」
ここ、中国と日本の時差は約一時間。
それゆえに日本はまだ昼前のはず。
しばしネット上に中国アマNo1のかれもまたくぎづけにとなってゆく。

「お望みどおりの展開のはず。だが……」
『なるほど。ボウシからジワジワせめることによって白が不利、黒が有利な形成になってゆく。ですか』
ずっとだまりこくっていた佐偽がぽつりと声をもらす。
それはネットを通じたそれぞれの場所で二人がつぶやくのはほぼ同時。
ごくっ。
「……はじめにsaiが仕掛けた一手が働きを失った……」
いつも圧倒的に強い佐偽を視ていたヒカルにとってはそれは驚くべきこと。
「だが、ボウシからジワジワせめることで気づけば形成は私にわるくないものになってゆく」
それぞれのネットの前で同じつぶやきをもらしている佐偽と行洋。
『やはり、このものは私とおなじ……』
「…神の一手を極めんとするものには違いがないな」
対局者同士が抱く思いはまったく同じ。
負けられないのもそれぞれに同じ。
ごくっ。
「……どうする気なんだ?佐偽?それに塔矢名人……」
いつもは、おじさん、と呼んでいるのに気づけば自然と名人、と呼んでいるヒカルである。
手数はそれほど進んではいない。
…が、開始からすでに二時間以上は経過している。
ヒカルの手元にはそれぞれが要した時間が示されている棋譜がマウスの横手においてある。
ごくっ。
のどがかわくのでお茶を一口、口にと含む。
集中しているがゆえにのどがかわく。
まして佐偽の、そして画面からはダイレクトに行洋の気迫がつたわってくればなおさらに。

ごくり。
カタカタと体の震えがとまらない。
「……塔矢名人だ。絶対に……」
「義高~。お昼できたわよ~!」
叫んでくる母親の声も、今の彼の耳にはとどかない。
「こんな…こんな流れになるなんて…想像もつかなかった」
sai、有利に事がすすめられている、とおもえたのに。
いざここにきてくればsaiが仕掛けた一手がいつのまにか働きを失っている。
「よしたか!!」
「すげえぜ!かっこいい!塔矢先生!!」
「よしたか!さっきからよんでるでしょ!昼ごはん!!」
「わかったよっ!!」

これが私の碁だ。
名人、塔矢行洋の。
容赦はせん!
必ず勝って正体を明かさせてみせるっ!
それゆえに気合もこもる。
『やはり…一筋縄ではいきませんか。なら……』
ぞわわわ~。
佐偽~~。
マジで怖いってば!!
佐偽のもつ気配がさらに圧迫感をましてゆく。
ヒカルですらぞくっと身震いしてしまうほどに。

「…ねえ、空気がいたくない?」
「うん。とくにあっちのほう」
ぞくりとし、息ができないほどの圧迫感がそこにある。
だけど見た限りは店の中に変化はない。
「個室も変化ないし…気のせい、かな?」
防犯カメラはこの店は個室全体といわず店全体が見渡せるようになっている。
個室にはいった未成年などが危険なサイトにいかないように見るのも仕事の一つ。
今、朝から個室にはいっている中学生が一人ほどいるにはいるが。
確認している限り、ず~~とおなじサイトと向き合っている。
画面的には何かのゲーム、なのであろう画面が表示されているまま。
この場に囲碁に詳しいものがいれば間違いなく注目したであろうが、だがいまこの場には囲碁に詳しいものは…いない。


「塔矢名人もさぁ。今回は大事にいたらなかったけど」
碁をうっていたらいつのまにか時刻は一時過ぎ。
それゆえに近くのコンビニでいろいろ買いこみつつもピザの宅配を注文した。
「来月からは海外棋戦も目白押しだし。またぶっ倒れてもおかしくないよな~」
「おいおい」
ここに息子がいるんだぞ~。
そんな仲間のセリフを苦笑しながらたしなめる。
「だから、オレたち若いのがタイトルの一つでも奪いとって、少しは楽にしてさしあげないと」
「ははは」
それができれば苦労はない。
「この間の十段戦は緒方さんが負けちゃったけど。今度の本因坊戦はとうとう倉田が挑戦者になった。
  オレたち若手もどんどん続かなきゃ」
今、タイトル保持者は高齢の人ばかり。
ゆえに日本の囲碁はおわった、とまで海外にいわれている始末である。
カチャ。
そんな会話をしていると、玄関が開く音。
「よぉ。やってるか~」
扉をあけて一人の男性が部屋の中にとはいってくる。
「おう。遅いじゃないか」
「手合い以外はオレ、昼まで寝てんだよ。午前中何やってたの?」
いいつつも、そのまま部屋の中にあがりこみ、彼らが囲んでいるテーブルの横にと腰をおろす。
アパートなので狭いがゆえにさほど広さはないがゆえに玄関とは目と鼻の先。
「中国の劉安と韓国の高永夏の一局を検討してた。春蘭杯の」
「あ~、あれね」
「こんにちわ」
「あれ?塔矢君。こんにちわ。塔矢君もきてたの?」
ふとみれば、何やらかなり珍しい子供の姿が目にはいる。
それゆえのといかけ。
「ああ。オレが声をかけた」
「進藤にも声をかけたんですけど。用事があるとかで……」
「らいしね。けど、さすがだぜ。塔矢君、するどい意見ばかりいってくるぜ。おそわることばかるだ」
「進藤?ああ、あの院生初若獅子戦優勝者であり、ブロ試験全勝合格者、のあの進藤光?塔矢君、友達なの?」
「ええ」
即答されてどこかなっとくしてしまう。
彼の友達ならばそんな成績をもっていても不思議ではない。
「そうか~。あ、そういえばさ。塔矢先生。おからだのほうはもういいの?」
ふと思い出したようにとアキラにといかける。
どうしてもそういった情報は錯誤してきちんとしたものははいってこない。
当事者がいるのならば当事者に確認するのがたしかに一番。
「はい」
「十段戦の第四局、みたろ?お前より元気だよ」
たしかに、入院しているというのにいともあっさりと挑戦者を撃退したのも事実。
「明後日には退院です。今日だってネット碁であそんでいるとおもいますよ?」
「ネット?」
「…あの、塔矢先生が?」
「先生が…ネット…やるの?」
塔矢名人の機械嫌いは囲碁界でもけっこう有名。
それゆえにきょとん、とした声をだすその場にいる明以外の全員の姿。
「な、何だかものすっごく以外だね~」
うんうん。
ものすっごく、というのにかなり実感がこもっているのは何も聞き間違いではないであろう。
「あ。いえ。病室でじっとしているのが退屈だろうから。って。緒方さんが進めてくださったらしいです」
「あ~、なるほど」
それでかなり納得がいった。
そんなこともなけれは間違いなく、あの塔矢名人がネットなんてやるはずもない。
「今やってるのかなぁ?パソコンあるじゃん。つけろよ」
「オレ、ネット碁はめったにやらないんだけどな~」
いいつつもパソコンにむかってゆくこの家の主である人物。
「じゃぁ、パソコンは何につかってるんだよ?」
一人のそんな質問に、
「棋譜整理にいいんだよ。ちょっとまって。えっと、サイトとハンドルネームは何?」
ネット碁、といえどもかなりのサイト数がある。
それゆえのといかけ。
「ワールド囲碁ネット。ハンドル名は本名です」
「ワールド囲碁ネット…と、あ、これか」
いいつつも、カタカタとサイトにアクセス。
「オレもパソコン、覚えようかな~」
悲しいかなこの場にいる若手の棋士たちはパソコンにあまり深くかかわりがない。
saiの噂も耳にはいっていないような棋士たちばかり。
「あった!toya koyo。うわっ!何これ!観戦者の数がすごすぎ!」
かるく万の位を突破している。
「そりゃ、塔矢行洋、だからさぁ!」
当人だ、とわかれば観戦している人々が多いのもうなづける。
「お、これか」
ピッ。
画面が表示されるまでかなり時間がかかったが。
それほどまでにこのサーバーが混雑している証拠でもある。
「お」
「おおっ!」
「すごい。な。これ。上辺の白はどうなってるの?」
「と、というか、手筋よめないんだけど……」
「左したの格好も面白いな」
今、目の前で打たれている一局。
下手な検討をするよりかなり興味がわく、というもの。
「形勢は…どうかな?」
「本当だ。これ、手順がまったくわからないや」
「というか、白、誰!?」
「げっ!おい!みろよ!持ち時間、八時間だぜ!?」
「まじ!?」
「ネットで!?」
ざわざわ。
たしかにみれば持ち時間は八時間。
秒読み十分。
まるでタイトル戦なみの時間設定である。
「というか、塔矢名人が黒、だろ?この白誰!?互戦で名人相手にここまで打てる相手って!?」
「本当だ。ただの打ちてじゃないな」
「いったい誰とうってるんだ?」
いいつつも、対局者の名前に全員が視線をむける。
……え?
……sai!?
その名前をみてしばしその場に硬直するアキラとは対照的に、
「相手の名前は…sai?」
「誰だ?」
「しるかよっ!」
「しるかよ。ってだけど当然プロの誰か、だろ?」
「そうだな。う~ん。あ、でも日本人、になってる」
みればsaiは日本人として登録がなされている。
「うわっ。みろよ。コミまでタイトル戦と同じ設定にしてあるぜ!」
ざわざわ。
しばし、ざわめきながらもそれでもなお画面にくぎづけにならずにはいられない。
「……まてよ。前、ネット碁やってるやつがネットにすごく強いやつがいるっていってたっけ……」
まるでネット上によみがえった本因坊秀策みたいなんだぜ!
と、一人の若手棋士がいっていたことを思い出す。
そのときはそんなバカな、と笑い飛ばしたのだが。
「…日本人で塔矢先生と互角…というかそれ以上の打ちてっているっけ?」
「いないだろ」
「じゃ、このsaiって誰なわけ!?」
ざわざわ。
もはや研究会どころではない。

「まったく。気分転換をかねて遊びにくるのはいいけど。少しは楽しそうにしたら?
  そりゃあまあ、負けたのは悔しいでしょうけど。私としてもおもしろくないの?」
聞いても無駄だとわかっていてもいわずにはいられない。
それでも自分の所にきてくれるのはありがたい。
「碁よりおもしろいものなどはないよ」
「ま、つまんない男」
返事は予測していたが、それが彼の魅力でもある。
「あまりひこずってたら負けちゃうわよ。応援してるんだからね。がんばってね」
まだ王座戦の本戦も残っている。
「タイトル戦の名前も知らないくせに」
だからこそ彼女のもとには気軽にこれる。
体の相性の良し悪しもあるにはあるが、それ以上に休める場所、というものはかなりありがたい。
そんな会話をかわしつつも、地下の駐車場にとむかってゆく。
バッン。
プロロ……
「本因坊戦は最終局でのがしたが、次の王座戦こそ!」
いいつつも、ぎゅっとハンドルを握りしめ、
「…帰る前にちょっと病院によって先生の様子でもみてくるか」
そんなことをふとおもい、車を病院へとむけてゆく。
――面会謝絶。
「…め…面会謝絶!?」
病院の特別室。
部屋の前まできて思わず立ち止まる。
一昨日まではたしかに元気そうだったというのに。
やはりまだ体の調子がよくないのに無理して対局したとかなのか!?
悪い予感がかけめぐる。
と。
カチャ。
緒方の前で部屋からでてくる一人の看護師。
その姿をみてはっと我にと戻り、
「あ、あの、すいませんっ!」
とにかく状況をしるためにと話しかける。
「はい?」
「塔矢先生…何かあったんですか!?まさか…!?」
「え?ああ。この札。ですか?心配いりませんよ。塔矢さんに昨日たのまれて出してるだけですから。
  今日は一日、ひとに邪魔されたくないんですって」
いわれて一瞬目を丸くし、
「……邪魔?」
いわれている言葉の意味がよくわからない。
「ええ。ネットで朝からずっと碁をうってるんですよ。もうものすごく集中されてね」
「…ネット…ゴ?」
どうやら体調が悪化した、とかではないらしい。
「今だってほら。食事をさげようとおもったんですけど。てつかずで…碁うちの人は皆こうなのかしら?」
いいつつも、食事を手に立ち去る看護師の姿が目にはいる。
面会謝絶にしてまで一体誰とうってるんだ?
そうおもってふと思い浮かんだのは進藤光の姿。
しかし、面会謝絶にしてまでうつ相手であろうか、とも思いなおす。
それに何より確か彼の学校は今日は通常通りに授業があるはずである。
それゆえに朝から、ということは間違いなく彼ではない。
くるりと向きをかえて、近くにあるであろう、以前ヒカルがよく言っていたというネットカフェ。
家よりそちらのほうがはるかに近い。
とにかくそちらに車をむけようとするが、車に乗り込んだ状態でふと思いとどまり携帯を取り出す緒方。
そのまま塔矢行洋に自らが教えたサイトに携帯からアクセスを開始する。
病院内部ではできないので、車の中での作業。
「面会謝絶にしてまで、いったい……」
ぴっ。
携帯画面に示されるトップページ。
面会謝絶の札は前もって頼まれたものだ、という。
だとすればこの対局は約束されたもの。
緒方はネット碁にはいってはいても、名人の碁のみを観戦していただけなので、
昨夜から騒ぎになっているあのことを知らない。
そもそ、昨日は夕方から外出していたのだから知る由もない。
そんな約束を、いつ、誰と?
「これだ!……え?」
…sai!?
「……くっ!」
プロロロ……
名前を確認し、とにかく車を飛ばす。
一刻でもはやく家にと戻るためめに。
携帯では…ラチがあかない。

「塔矢先生。手をとめたぜ?」
「というか、本気で白のsaiって誰だよっ!」
今までにみたこともない手筋の持ち主。
これは…この打ち方は……アキラの中である可能性が思い浮かぶ。
「何で?もうおおよせだろ?そこをふくらんでおけば手厚いんじゃない?」
「うん。俺もそうおもう」
この場にいる全員がパソコン画面にくぎづけになっている中。
「おい、ちょっと並べてみようぜ」
順番がわからずともひとまず並べることは可能。
手筋はわからずとも石の形はつくられる。
この対局は、今日、たまたま組まれたものではない。
お父さんは前もってsaiと……
アキラがそんなことをおもっている最中。
ぴっ。
「あ。塔矢先生、ノゾイタ!」
長考していた行洋の手が示される。
「ノゾキ?そっちから?」
「ここ、何だか辛すぎない?」
「いやいや。稼ぎながらここに手をもどさせようとしてるんじゃない?」
もはや他の大会の棋譜の検討などはどうでもいい。
この一局がいままさに、彼らの目の前で繰り広げられて入ればそちらを優先するのは当たり前。
「それもそうですが…ここのヨセを先手できめて、右辺にまわるつもりでは……」
アキラのそんなつぶやきに、
「フクラミもいい手だけど」
「っていうか、みあいでしょ?」
それぞれがそれぞれ意見がことなる。
それほどまでに細かく、それでいてものすごい一局であることには違いない。
「……塔矢君のいうとおりかもしれん」
パソコンの持ち主でもあるこの家の主の人物がおもわずぽそりとつぶやきをもらす。
「でも、黒は手厚く進めていればまけないんじゃない?だって名人だぜ?」
それでなくても世界のトップ、ともいえる相手がそうそう負けるはずがない。
「・・・形成は猛烈に細かく、白も黒もどっちもどっちだ。それに白のコミは六目半もある。
  …今はこの局面からいけば…白が勝っている。手厚く打つだけではこの相手には勝てない。
  そう名人は踏んだんだ。だからこそ白地は上から冷静に消し、判断の上に確実に地をとったのだろう」
それこそ自分たちでは及ばない考えで。
「ええ。saiは読みも、計算もずば抜けています。
  相手の手の内を全部読んだ上で碁を自分のものにする手を編み出してくる。かならず!」
実は、かたっぱしから佐偽が百人キリをしていたとき、こっそりアキラがまぎれていたことにヒカルは気づいていない。
「このままでは終わる、とは何もせずに終わるとはおもえない。saiは」
「塔矢君。saiを知ってるのかい?」
どうやら知っているような言い回しである。
それゆえに全員が明に視線をむけてくる。
「・・・一度、前に一度うったことがあります。…中押し負けしました」
ざわっ。
この場にいるものすべて、一応アキラの実力はしっているつもりである。
いやでも、名人とここまで打てるうち手ならばそれもうなづけなくもない。
お父さんは…お父さんはsaiと対局の約束をしていた。
ということはお父さんはsaiの正体を知っている?
しかし、父・行洋が入院中に病院の外にとでたのは十段戦の第四局のときのみ。
saiと対局の約束をしたのはそのとき?
もしくは、お見舞いにきたたくさんの人々。
まさかその中にsaiが?
はっ。
【なあなあ。塔矢。おじさんに無理しないで。っていってくれよ~】
【あ~。パス。先約があるんだ】
そうだ。
たしかに進藤はそういった。
少し気になったので、あのとき棋院で聞いてみた。
だがしかし、ヒカルは今日、何の仕事もはいってはいない。
そもそも、ヒカルはまだ棋士の仕事を一度もこなしたことすらない。
しかも、他に棋院の中で誰かの棋士の研究会が行われている、というわけでもないらしい。
ならば、先約、とは?
心のどこかで思っている一つの結論。
それは……
あの日、進藤はやけにため息をついていた。
対局中だ、というのにもかかわらず。
もし、もしも自分の考えが正しいとすれば……
ぐるぐるぐる。
アキラの中で思考がぐるぐるとめぐりめぐって混乱してしまう。
そんなアキラの心情をしるはずもなく、アキラを研究会に誘った先輩棋士たちはこぞって局面の検討を開始してゆく。


                                -第58話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、ようやくここまでこれたヒカゴさんでは避けてはとおれない行洋VS佐偽!
  ちなみに、きちんと時差は調べてやってるので誤差はないはずですよー。ええ(笑
  ようやく次回で決着ですv
  さてさて、では例のごとくに小話をばv


くっ。
何なんだ?
こいつは!?
悪手とおもったのに、うまい具合に誘導されてしまった。
気がつけば不利な局面。
しかも寄せにも間違いはみうけられない。
寄せは大切だから、と徹底的に佐偽がヒカルに教え込んでいるがゆえにヒカルは寄せでは間違いをしなくなっている。
小寄せはどんな形においても常に正しい道は一本のみ。
こいつ、本当に院生十六位か!?
順位は院生十六位、そう聞いたのに。
なぜ段位をもっている自分がこんな女の子にまけるんだ!?
大人の意地からしてもかなり屈辱的である。
それでも、すでにもう終わりはみえている。
「……ありません……」
そういうしかない自分がくやしい。
『ヒカル、やりましたね!あの局面でよくあのように手をもっていけましたね!』
悪手とおもわれた手をうまくさそってあいてを誘導し、自分のものとした。
あっちからせめていったら楽かな~、とおもってね。
にっこりと背後にいる佐偽にとほほ笑みかける。
と。
「進藤さん、勝ったんだ」
「あれ?塔矢君。塔矢君は?」
ふとななめ後ろをむいて微笑みかけたその場所になぜかつったっている塔矢明の姿が目にはいる。
そういえば、私の後で塔矢くんってうってたっけ?
そんなことをふとおもうが。
「僕はかったよ。次は進藤さんと、だね」
手筋がみえない局面である。
どんな碁だったのか興味がある。
それゆえに、
「今の一局の手、おしえてもらえない?進藤さん、みてもわかんないしさ」
「?別にいいけど?あ、ここで並べてもいいのかな?」
「…くっ」
がたっ。
小さな女の子に負けた、とあってはかなり屈辱的。
囲碁は年齢は関係ない。
実力があるものが上にいく。
塔矢明が自分を目にもかけていないのも気に障る。
実際に負けてしまった以上、あまり大きなことはいえはしない。
「あれ?相手のひと、どこかいっちゃった」
アキラと話している最中、相手の村上二段という人物は席をたってよそにといってしまった。
まだ局面すらかたずけてもいないうちに。
『おやおや。いけませんねぇ。囲碁は礼儀もわきまえなければ』
「あの人、礼儀がなってないのかなぁ?」
そんなことをいいつつも、とりあえず盤面の石を片づける。
「あ、僕が手伝うよ」
「うん。ありがとう」
じゃらじゃら。
石の片づけの手伝いの申し出はヒカルからしてもありがたい。
それゆえに素直にうけつつ、
「じゃ、えっと。はじめから、でいいのかな?ならべるの?」
「うん。じゃあ、僕が黒をうつよ。どこにうったのか示してくれる?」
「うん。わかった」
何かいつも佐偽とやってる方法とおなじだよね。
これって。
『そういえば、そうですね』
いつもは佐偽が示した場所にヒカルが石をおく。
今はヒカルが示した場所にアキラが石をおくこととなる。
くすっ。
そんなことをおもいつつ、アキラ相手に今の一局を並べてゆくヒカルの姿。

おや?
塔矢君、何やってるんだろう?
ふと、アキラの対局はおわったはずなのに院生の子らしき女の子と何やら碁をうっているアキラの姿が目にはいる。
たしか座っている相手の女の子はアキラが新初段シリーズのときに見に来ていた女の子、のような気がしなくもない。
「友達…なのかな?明君の」
彼に子供の友達がいる、とは今まであまり聞いたことがなかったが。
ふと、天野が首をかしげるのとほぼ同時。
ガシャァッン!
何ともいえない盛大な音が会場内部にと響き渡る。
「…あれ?…あれって、和谷君!?」
みれば、何やら伊角の対局のほうで院生仲間の和谷が騒いでいるらしい。
「何があったんだろ?」
がしゃがしゃ。
とりあえず急いで石をかたづけ、そちらにとかけよるヒカルであるが。
残された明はといえば、同じく石を片づけながらも。
「新しい手…か」
今、まさにヒカルが並べたあの手は、新たな定石に近いものがあった。
佐偽もそれははじめは悪手のようにみえたが誘った打ちこみ方で新たな定石の気配を感じとってはいた。
だからこそ、ヒカルの才能を伸ばしたくなる。
それに関してはアキラも佐偽も思いは同じ。
進藤光、という女の子はよくわからない。
ときどき稚拙な打ち方をしてくるかとおもえば、とてつもなく強いときもある。
どちらが本当の彼女なのかわからない。
それでも、稚拙なはずの打ち方のほうですらはっとする手をうってくる。
まるで…まるで、そうさまざまな新しい手を模索した打ち方をしているかのごとく、に。
それは実際はアキラの思いすごし、なのだが。
強すぎる佐偽の手をみているからこそそのように思ってしまうのも…事実である……



のような形でv
村上二段との対局さん。寄せさんでもヒカル、有利で勝利おさめました(笑
アキラはいまだに勘違い街道、まっしぐらv
でもヒカルも確実に実力つけてきているのでよけいにわからなくなってたり(苦笑
もっとも、ヒカルはいまだに佐偽がみとめてる囲碁が上手な親切な男の子。
という認識です(笑
では、また次回にて~♪

2008年9月10日(水)某日

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