まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

何だかここ最近、これをひとまずノートに下書きさんをば。
それをやってったら恐ろしいことに対局の回が次ではなく次の次になりそうな予感がひしひしと…(汗
何だかなぁ……
とりあえず、メインイベントの第一陣はあと少し!というわけでのんびりまったりとがんばります…
何はともあれゆくのですv

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四月九日。土曜日。
「は~……」
「?進藤?どうかしたのか?」
「…いや、お前もお前のおじさんもさすが父子だな~、っておもってさ」
溜息も出る、というもの。
「?」
「それより。お前いつ家に戻ることになったの?」
土曜日の深夜。
アキラと一局をまじえつつも盛大に溜息をつきながらといかけるヒカル。
一局をうっている最中にそんなため息をつくなどヒカルからしてかなり珍しい。
それゆえに気になってといかけているアキラなのだが。
「ああ。父が無理いって退院を早くしたこと?とりあえず僕のほうは明日、家にもどることになったよ」
すでにつきっきりの看病は必要ないので通いの看病で十分らしい。
アキラとていつまでも進藤家にて面倒をみてもらうわけにはいかないから。
とは明子や行洋の談である。
だが、しかしヒカルはその裏に来週の対局が理由にあるのを知っている。
「…は~……」
ゆえにさらに溜息も大きくなる、というもの。
「なあなあ。塔矢。おじさんに無理しないで!っていってくれよ~」
「父はいいだしたらきかないよ」
「そこを何とかっ!」
まさか引退する、しない、といっていた、という訳にもいかず。
かといって何もいわずにもいられない。
「まあ、母も地方対局にはついていく。っていってたから大丈夫だとおもうよ?」
アキラはヒカルが父・行洋の体調を心配している、とおもっている。
ヒカルからすればそれ以上の大問題があるのだが。
「……はぁ~……」
そんなアキラのことばにまたまた溜息を盛大につく。
…しょ~がない。
ならばとれる手段は一つしかない。
かといって、アキラがいる間は行動を起こせない。
「でも、何だかさみしいな。君と毎日こうしてうてなくなる、というのも」
父が倒れてヒカルの家にと世話になっていた明。
結果として夜、ヒカルとほぼ毎日打っていたのも事実である。
おそらく今後はこうはいかないであろうことも明はわかっている。
学校の休み期間などにはいれば違ってくるであろうが……
二人がそんな会話をしている最中も、土曜の夜は静かに更けてゆく……

星の道しるべ ~toya koyo塔矢 行洋

アメリカ。
「いないじゃないか。toya koyo」
カチカチカチ。
話しをきいてネットを探索していた。
彼が現れた、というのはsaiがよく出没するサイトらしい。
「忙しいのさ。プロの手合いとかで!何せ塔矢名人だぜ?」
カチ。
彼らは一応、碁をたしなむものとして、塔矢行洋が倒れて入院した。
ということを一応は知っている。
入院先の個室からならばネット碁に参加できても不思議ではない。
「そのネットに現れたtoya koyoは本ものなのか?」
ひどく単純な質問である。
ネット上は闇の中。
どんな名前でも一人歩きをしてしまう。
それゆえの質問。
「本物だとも!あのichiryuに勝ったんだぜ?日本のプロの一柳に!」
一柳は日本の棋聖のタイトル保持者である。
それゆえに、それに勝つ、ということはそれと同等、いやそれ以上の実力をもっていなければできない。
…最も、saiはそんな彼相手にもいつも勝っているのだが……
「ichiryuが日本の一柳プロであることは今や有名な話だが。
  彼に勝ったということは、本当に塔矢名人なんだな。
  ネット碁はだんだん年々賑やかになっていくな。saiも先日またいきなりあらわれたし」
ここしばらく姿をみせなかった、というのに。
思い出したようにといきなりあらわれた。
偽物かとおもって観戦してみれば何のことはない。
おもいっきり本物で、あわてて対局をもうしこんだもののやはりその強さは間違えようがなかった。
「あの日、私は入っていなくてね。あとで知って悔しい思いをしたよ。
  しかし、今だに国際アマ戦の大会場でもネット上でも今だにsaiの話で大騒ぎさ。
  結局今だに何ものかもわからずじまいだしね」
あの日ははいっていなかった。
だからこそ口惜しいことこの上ない。
ここしばらく、saiはぱったりと姿をみせていなかったのだからなおさらに。
そして、噂になっているのがもう一人。
laito、といううち手の中にsaiの碁が見え隠れする、とネット上では最近評判になっている。
それは、佐偽が力試しをかねてヒカルにネットで打たせたのちに検討しまくっている。
というのを当然誰も知る由もない。

オランダ。
カシャ。
バチバチ。
ある建物の内部において石を打ちつける音と、時計の音とが鳴り響く。
「やあ。フランク。このクラブにくるのは久ぶりじゃないか」
ふと立ちあがった一人の男性のもとに近寄り話しかけてくる別の男性。
「オーイェルさん。いえね。ちょっと本業のほうが忙しかったものですから」
本業の大学の助教授の仕事が忙しく、こういった場所には来られなかった。
それゆえにかなり久しぶりではある。
こうした場で他の人々と碁を打ち交わすのは。
「オランダでNO1の君の顔がみれなくてさみしかったよ。一局私とうってくれたまえ」
本業は大学の助教授、という立場にありながらもオランダのアマプロ一位、という成績をこの彼はもっている。
「ええ。ぜひ」
コポコポ。
話しつつもひといきつくためにコーヒーをコップにと注ぎ込む。
この囲碁クラブにおいてはコーヒーはフリーであり、好きなときに好きなだけ飲める。
しかもさすがというべきか、好みにあわせて粉から落とすことも可能。
「ところで。塔矢行洋をみたぞ?」
コーヒーをいれつつも、ふと思い出したようにといってくる。
「え!?日本の塔矢名人!?オランダにきてるんですか!?」
オーイェル、と呼んだ人物のセリフに思わず身を乗り出して聞き返す。
そんな話はきいたことがない。
そもそも、確か彼はまだ入院しているはずである。
「ネットだよ。toya koyo」
その言葉にある程度納得し、
「なんだ。ネット、ですか。本物なんですか?」
ネット上ではどんな名前も利用ができる。
しかも誰もが知っている名前ならば誰かがいたずらで登録しても不思議はない。
「わからない。対戦していた相手はあまり強くなかったし。
  その一局のあとtoya koyoは去ってしまったからね」
名前をみつけて観戦していたものの、すぐに彼は去ってしまった。
「ふ~ん。偽物っぽいなぁ。そういえば前、saiの偽物もあらわれたっけ。すぐに消えたけど」
あのときは、かなり大騒ぎになったものであるが。
「sai?ああ、今ネット上でかなり騒ぎになっている人物だね。
  私も興味をもっていつもみてはいるがそんな名前はないよ?」
いつも気になって名前を探してみるがそんな名前はみあたらない。
別のサイトかともおもいみてみるがどうやらsaiは一つのサイトにしか現れないらしい。
となれば他のサイトをみてもそんな人物はいるはずもない。
「そうか。オーイェルさんはまだ知らないんですね。saiは強いですよ。
  それこそ塔矢名人ほど。いや、ひょっとしたらそれ以上に」
彼が知る限り、saiは負けなし。
それこそ百戦錬磨の強さである。
「塔矢名人以上!?誰なんだい?sai、とは?」
「それが今だに不明、何ですよね。JPN、と名乗っていましたが」
「日本人…ね」
どれだけ調べてもネットでsaiと対戦したものは山といるのに、誰も正体を知らない。
唯一まともなチャットを交わしたといったのもたしか日本人の子どもである。
その子は子供かもしれない。
そういっていた。
だが、子供にはたしてあんな打ち方ができるだろうか。
常識的に考えて答えは否。
諸外国のトップ棋士ですら対局してまけた、というその強さは子供のものではない。
中国のアマチュアNO1の人物は、かかわりがありそうな子供を発見した。
とはいっていたが。
ヒカルがかつて、アマチュア世界選手権において佐偽に指導碁をうたせまくっていたとき。
そのときに彼とはヒカルは対局したことがある。
だけどもそのときのその子供は院生で、その後きにかけていれば、
院生ながらもプロ混合の試合に初優勝し、さらには翌年のプロ試験には全勝合格したらしい。
それでも、新初段シリーズの棋譜を新聞で目にするかぎり、どうしてもsai本人ではない。
というのは明白ではあるが。
だが、何もわからない状況で唯一の糸、といっても過言でないであろう。


「どうもお世話になりました」
たかが数日。
されど数日。
「いえいえ。大事にならずによかったですわ」
翌日。
日曜日。
アキラがヒカルの家に滞在したのは、四月の六日から今日、十日まで。
日曜日の昼、明子が明を迎えにきて、アキラは自宅にと戻ることに。
これからは明子もまた家から病院にしばらくかようことになるらしい。
母親とともにアキラたちを玄関先で見送りつつも、彼らを完全に見送り部屋にと戻る。
『ヒカル?何をする気なんですか?』
パソコンを立ちあげ、めずらしくsaiの打った棋譜のすべてを保存しているDVDを取り出すヒカル。
それでもDVDもかなりの数にすでになっているのだが。
ヒカルはわざわざ確認せずともすべて頭の中に入っているので新たな棋譜を作成するとき以外。
もしくは、それらを保存するとき以外、それを取り出すことはまったくない。
佐偽からすれば、なぜ小さな丸い薄い板のようなものの中にいろいろと情報が記録されるのか。
今だによく理解できてはいないのだが……
紙をつかなずになぜ保存がきくのか、その仕組みを今だに聞いても理解できていないのが実情。
「とにかく!おじさんが負けたら引退する!っていうバカなことは撤回してもらわないと……」
『?どうするんですか?』
ヒカルのいいたいことがよくわからない。
「たぶん。おじさん。佐偽の強さがよくわかってないからあんなことをいってるんだとおもう。
  だからさ。いくつかの棋譜をもっていったら気がかわるかなぁ~…って」
とりあえず、フォルダごとに佐偽の意見をもとにそこそこ強かったりしたものの棋譜は分けてありる。
ことごとく中押し勝ちしているので終局までにいたったものはまずないが。
フォルダを利用しつつ、フォルダの中身をすべて印刷。
と選ぶにしてもコピー用紙の都合、というものもある。
普通に書いてもいいのだが、棋譜表の残りがすくない今現在、印刷のほうがはるかに能率的。
とりあえず、昔、初期のものと、最近のもの。
それらを抜粋して各五十枚程度づつ印刷する。
佐偽がネットやヒカルと打った碁はそんなモノではないのだが。
少なくとも勘違いしているであろう佐偽の実力、それだけは撤回できるはずである。
「あ、でも見せたら佐偽に都合がわるい?」
『いえ。むしろ相手が本気で来てくれるほうが私もいいですから』
佐偽とてせっかく実現するというあのものとの対局。
それが納得いくものにならないのは口惜しい。
やるからには全力で打ちきりたい。
それゆえにヒカルの提案を拒むはずもない。

パチ。
パチッ。
十段戦。
第四局。
四月十四日の木曜日。
「ここまでだ!緒方君、挽回ならずっ!」
局面をみていておもわずうなる。
「もうじき終局だな」
「名人、つよし!」
ホテルの客間の一つを控え室として、となりの部屋の様子をモニターにて映し出す。
そんな対局の様子をみている大人が数名。
「はじめは自分のペースで運べていただけに悔しいでしょうね。緒方さん」
「この一局を落とせば十段のタイトルは奪えないからねぇ」
しみじみとモニターをみつつそんな会話がなされているが。
「でも、緒方さんもここ最近、いい感じだし。タイトルとってもおかしくないですよね」
「本人もそうおもってるよ。戦う相手が師匠の塔矢名人だろうとな」
そうでなければ棋士は務まらない。
「緒方君はクールなようで顔にでるから面白い。
  胸を借りるつもりで、何て取材では答えたりしてるけど。十段の座を奪う気、満々さ」
そういっているのはこの中では一番賑やかな感じがする一人の男性。
「しかし。やはり塔矢先生の壁は厚い、ですねぇ」
「でも塔矢先生。先週倒れられた、というのにお元気ですねぇ。今も入院中でしょ?」
今日の対局は外泊許可を得て病院から直接やってきていることを彼らは知っている。
それゆえに感心せざるを得ない。
「奥さんも一緒にきてるしな」
しかもAEDを装備して、である。
この精神力には驚嘆する。
「なあに。発作がおさまればけろっとしているのが心臓さ」
いいつつも、手にした扇にてかるく肩をたたく。
「終わりましたね。六目半、ってとこだろう」
「さあ、検討、検討!」
これで三対一。
十段のタイトルは行洋は守り切ったこととなる。
十段のタイトル戦は五番勝負。
それゆえに残り一勝したとしても緒方はタイトルを奪うことはできない。
そんな会話をかわしつつも、対局が終わりをむかえたことにより、それぞれ隣の部屋にと彼らは向かってゆくことに。

「ここで緒方君、ちょっと手堅くいっちゃったよね」
いいつつも、盤面の一点を指し示す。
「塔矢さんの判断がまたいいんだ。そこから流れがかわっちまったよな」
「こっちに白から打たれるとつらい気がして……」
示されたその場所に対してつぶやく緒方。
「ここはこうツイて勝負にこられるかとおもってたよ」
「そうそう」
行洋のセリフにうなづくのは、扇をこの場で唯一手にしている彼らとおなじ棋士であり、
タイトルホルダーでもある一柳棋聖。
「そこが敗着、ですか」
彼らが指示した一点を感心してみつめるほかの人々。
普通ではなかなかわからない。
ゆえにこういったタイトル戦は常に他のタイトルホルダーを招いて検討することとなっている。
「そういうことかな。他はわるくない。いい碁だった」
いい碁、といわれても負けたことにはかわりがない。
「まあ、緒方君にしてみりゃあ、おしい一局か」
「・・・・・・・・・・・・」
今日勝てば最終戦でタイトル所得の可能性もあった。
何より入院中の師にはかなわない、と身をもって思い知らされ口惜しいことこの上ない。
「塔矢先生。おからだのほうはもういいんですか?」
悔しさをどうしても抑えることができない緒方とは対照的に、心配そうにとといかける別の一人。
「すこぶる元気だよ。今すぐ次の対局でもかまわないね」
次の一局も今度は天元の防衛戦が待ち構えている。
つい先日、倒れた人の言葉とは到底思えない。
「でも明日、もう病院にもどられるんですよね?」
日帰りは体にもよくない、というので一泊することを医者から勧められた。
ゆえに今日はこのホテルで一泊して、明日病院にもどることになっている。
「居心地がいいからいついてんだよ。塔矢さん。病院に。塔矢さん、ネット碁であそんでるんだから」
そんな彼らに代わりのように横から口を挟んでくる一柳。
「?ネット碁?」
いわれておもわず顔をみあわすその場にいるほかの人々。
「一昨日、ネットで塔矢行洋をみつけてさ。まさか本物とはおもわなかったね。
  だって塔矢さんがネットなんてやるとおもいかい?」
「おもいませんね~」
一同その言葉に同意してうんうんうなづく。
「なんだ、こいつ。天下の塔矢行洋を名乗りやがって。こわいもの知らずだな。ちょいといたぶってやれ。
  …って対局したら」
おちゃらけた様子のそんな彼の言葉に、
「へ~。一柳棋聖と塔矢名人がネット対決!」
おもわずびっくりしたようにいっている人々。
それはかなりものすごい対局である。
それこそタイトル戦とかわりはない。
「ちょいと甘い手をうったらもう容赦なし、でさ。『あ、塔矢さんだ、何やったんだ、こんなとこで!』…って。
  まあ、オレと碁をうってるんだけどね」
『ははは』
どっ。
一柳のセリフにその場にいる緒方と行洋以外の全員の笑い声が巻き起こる。
「チャットで話しかけたら奥さんが変わりに答えてくれましてね。
  塔矢さん、病室でネット碁をやってるんですよ。そりゃ居心地いいにきまってる!」
行洋はヒカルと同じくあまり会話には興味がない。
というか覚える気すらもない、といったほうが正しいか。
それゆえにその場にいた明子が変わりにその質問に答えたのだが。
「退院までのちょっとしたおもちゃ代わりですよ。気分転換にはなる。
  しかし、やはり私は碁石をもつほうが好きですしね」
それでも、もてなくても持てないものもいる……
その言葉は口にはださないが。
今ならば明子の言葉の意味がよくわかる。
こうして自分で石をもって対局すればなおさらに。
彼は…おそらくもう持ちたくてももてない、のだから。
「なぁんだ。今だけ、なの?もったいない」
行洋がこれからもネットをするのならばいつでも夜でも時間が空いたときに対局できるというのに。
それゆえに心底残念そうにという一柳。
ジャラジャラ…ガチャ。
そんな会話にまざることなく、碁石を碁笥にと片づけ、
「すいませんが、お先に失礼します」
そのまま完結に言葉をのべて部屋を立ち去る緒方の姿。
「あ!緒方さん!飲みにいくなのなら私も!」
そんな彼に若い人物が一人ほどあわててついていっていたりするのだが。
「ありゃ、相当悔しがってるな」
くすくすくす。
そんな緒方の姿を見送りつつもくすくす笑いながらいっている一柳。
ほんとうに緒方はわかりやすい。
だからこそ苦笑せずにはいられない。
「では、夜も更けてきましたので、先生」
「奥様もお部屋で心配しているでしょうから」
たしかにすでに夜も遅い。
「そうだな。この辺にしておこう」
「十段戦は三対一で塔矢先生の防衛、かぁ。先生、また明日」
とりあえず、十段タイトル防衛のインタビューは明日にとまわし、
それぞれ夜も更けたこともあり各自、部屋にと戻ってゆく。

同、木曜日。
「あれ?進藤?」
「あ、塔矢」
まさかここで彼に会うなどおもってもいなかった。
「今日、手合いか何か?」
「あ。ううん。ちょっと……」
せっかくだから、というので今までもっていなかった対局時計を二つ購入し、
ついでに棋譜もしっかりと購入しにきているヒカルである。
「棋譜表とかかいにきたんだ。お前は?」
「父のことがきになって。今日の結果を調べに」
「なるほど」
この様子だとあの棋譜、アキラにはおじさん、みせてないな。
そのことにまずひとまずほっとする。
日曜日の夜、ヒカルは家族とともに改めて行洋のお見舞いにいった。
そのとき、明子に印刷した佐偽の棋譜をことづけたのである。
…宣言を撤回してもらうべく。
今だに反応はないが、すくなくとも確かに今日の一局を見る限り引退の兆候は見られなかった。
「おれはさっきもらったし」
すでにもう外は暗い。
といっても時刻的には六時過ぎ程度で七時にいくかいかないか、といったところである。
今日の一戦はすでにおわり、今からおそらくあちらでは検討が開始されているころであろう。
「そうなんだ。あ、進藤。この土曜日。先輩たちの研究会に誘われたけど。君もいかないか?」
「あ~、パス。先約があるんだ」
嘘ではない、嘘では。
昼からになってでもいいから、アキラ的にはヒカルを誘いたかったのだが……
「そっか。なら仕方ないね」
他にもう誘われているのかな?
そう判断し、あえてつっこんではこないアキラである。
まあ、下手につっこんでこられてもヒカルからすればかなり困るのだが。
「ま、気がかわったら連絡してよ」
「わかった」
とりとめのない会話をし、その場にて棋院の前にて別れるヒカルたち。
「…こりゃ、家で打つのは危険、だなぁ~……」
学校にはすでに対局があるから、といって休みをもらった。
母もその日は早くから出かけるらしい。
だからこっそり家で…とでもおもっていたのだが。
「しょうがない。ネットカフェでやるか」
たしかこの近くにあったよな。
学校近くだと知り合いにあう可能性が高い。
たしかほとんどのネットカフェには長時間のサービスとしてフリータイム制があったはず。
「すこし、金額をみていくか」
そんなことを思いつつ、ヒカルは一度近くにあると記憶していたネットカフェにと足をむけ、
そののち、帰路にとついてゆく。

「あなたも元気そうだし。もうしこしこちらでのんびりしてもいいのに。急いで病院にもどらなくても」
あせりは体調にもあまりよくはない。
翌朝、すでに朝にあった十段戦の感想会もひとまずおわった。
「わるいな。このまま気を緩めたくはないんだ。次の対局のために」
「あらあら。あなた。そんなにピリピリしていたらコテンパに負けるわよ~♡」
「……明子……」
おもいっきり煽ってきていないか?
この妻は見た目よりもかなりおちゃめでもあることを行洋はよくしっている。
「ふふ。そういえば次のタイキョクは来週の金曜日に天元戦の防衛だったかしら?一局目の」
「そうだな……」
だが、今は防衛戦よりも重要な対局がそこにある。
確かにヒカルより言付かったというsaiの棋譜は圧倒的なまでの強さを示していた。
すべて中押し。
もしくは指導碁にしてもかなりのレベルのもの。
妻はそれほど囲碁のことに詳しくないはずなのにきっぱりとはっきり断言しているのも気にかかる。
すべては明日。
すべての謎に決着がつくのであろう。
そんなことをおもいつつ、行洋はタクシーにゆられながら駅にとむかってゆく。
病院にと戻るために。

「あ、先生」
ドアがノックされ、担当医がはいってくる。
どうやらもう回診の時間らしい。
「ああ、奥さん。どうも。おや?塔矢さんはまた今日ももう碁をうってるんですか!?
  昨日、丸一日かけて一局うってきて、昼ごろにお戻りになってお疲れでしょうに」
病院にもどったのはお昼近く。
そして行洋は病室にもどってすぐにネット碁を始めている。
「それが。昨日勝ったせいでしょうか?あまり疲れもないようです」
あおったのは自分とはいえ苦笑せざるをえない明子。
明子の口から真実をいうわけにもいかないので、今だに佐偽の真実は夫には話していない。
「ははは。それはそれは。しかし対局過多で精神疲労がたまって倒れたんですからね」
真実は違えども。
科学的な面からすればそのようにしか捉えられない。
だからこそ科学的にはそのように結論づけられているのも事実。
「今日くらい、のんびり休まれてはいかがですか?お疲れでしょうに」
医者の言葉は至極もっとも。
対局場は静岡という近場とはいえ遠出には変わりがない。
「それとも、ネット碁くらい塔矢さんには遊びなのかな?」
「遊びです」
きっぱりと即答するものの。
「……だが、負けられない対局もある」
だからこそ少しでもネット碁になれておきたい。
ミスは重大な命取りにつながりかねない。
「先生。明日ですが面会はすべて断ってもらえませんか?ひとに邪魔されずに碁をうちたいものですから」
「塔矢さん」
はぁ~。
溜息ひとつ。
「ヤレヤレ。安丸時がありませんなぁ。奥さんも御苦労なことだ」
まさか自分が煽っていますから、とはまずいえない。
それゆえに笑みだけ浮かべて答える明子。
「すいません。ちょっと手をとめてもらえますか?大丈夫だとはおもいますが、一応……」
いいつつも、行洋の脈などを回診する担当医。
脈拍などをとり、診察しおえ、
「お元気はお元気のようですね。碁打ちに碁をうつな。とはいえませんが。
  まあ少しは体をいたわってください」
仕事をやめろ、とはいえない。
医者もまた体調やら疲れがたまっているから、といって休める職業ではない。
激務ではあるが医者を志したものはそれなりの覚悟がある。
「では、退院は予定通り。明後日、ということで。明日は面会謝絶の札を出させておきます」
「ありがとうございました」
バタン。
そんな会話をしつつ、医師たちはそのまま部屋をあとにしてゆく。
そんな医師たちの姿を見送りつつ、
「お前も明日はこなくていい。明にもそういっておいてくれ」
「明は明日は若手が集まる勉強会にいく、とかいっていましたし。
  どのみちこれないとおもいますよ?明日の対局、録画しておきますね」
まるで、何かの力がまたまた働いたのかのごとくに。
珍しく明もまた先輩棋士たちから声がかかった。
このたびの対局の邪魔をさせないかのごとくに。
「…明子。お前、本当に楽しんでいるだろう?」
「あら?だって普通はありえない対局ですもの。ふふ。碁に詳しくなくても面白そうだとはおもいますわ♡」
今だに最強棋士として呼ばれている佐偽と、現代の最強棋士とまでいわれている行洋。
事情を知っていれば誰もが楽しみにするのは…道理である。
「あ、リンゴむきますね」
明子の言い回しから何かを感じなくはないが、おそらく問いただしても無駄。
それゆえに、パソコンにと向き直る行洋。
カチカチ。
しばしマウスをクリックする音が病室の中に響き渡ってゆく。

普通、ネットでの大局は基本設定持ち時間は三十分。
コミは五目半。
カチカチ。
…今、私とうっているこの【toya koyo】。
まさに日本の塔矢名人そのものの実力。
おそらく本人に違いない。
何とスピードのある早い碁だ。
アマとプロの差を完全にとつきつけられる。
彼とて中国のアマNo1の実力をもつ、李臨新、と名高い人物。
だが、まったく太刀打ちすらできない。
だからこそ画面の前で脂汗を流さずにはいられない。
対局している者とは別のパソコン画面の前。
ネットは世界共通。
どこにいても同じ画面をみることは可能。
「…toya koyoの前に、LLが…あの、李、臨新がなすすべもない……」
ビビ。
ピピピピッ。
画面にくぎづけになっているときに鳴り響く携帯の音。
「もしもし?」
「おはよう!私だ!オーイェルだよ!パソコンのスイッチをいれたまえ!toya koyoがいるぞ!」
「見てますよ。ええ。三十分前くらいから、ですけど。本物の塔矢行洋ですね。これは!」
電話をうけずともすでに局面をみていた。
と。
チリッン。
「おはようございます」
電話のさなか、部屋にはいってくる一人の生徒。
「だって、対局相手のLLがここまでやられるなんて。あ、LLはご存じないんですか?
  中国のアマNo1です。去年の国際アマ戦で優勝しました。彼とは少しばかり話しをしたことがあります」
それもsaiのことについて。
それゆえに携帯ナンバーを一応はとりかわしてもいたりする。
「あ、投了しましたね」
そんな会話をしている最中、示される投了の合図。
「おはよ~。って、どうしたの?」
「わかんない」
何やらパソコンの前で賑やかな師の姿。
それゆえに新たにきた生徒にたいしてそういうより他にはない。
「ええ。これからが楽しみです。じゃあ」
ピッ。
「?先生?何かあったんですか?」
「日本の塔矢紅葉がネットにいるんだよっ!君たちだって知っているだろ!党や名人!
  プロのネット碁参加はここ二年間で一気に増えてきているけど、とうとう彼までが現れた!すごいぞ!」
saiの噂をきいたプロ棋士たちがそんなバカなことがあるものか。
とタカをくくって興味半分で登録し…コテンパにやられて意地となってそのままいすわる。
というのがここ二年と少しばかりの間にネット上、というかこのサイトにおいてはそんな現象が起こっているのも事実。
「この三月の終わりにsaiが復活したとおもったら、次は彼まで!
  あ~!僕も対局を申し込みたいけど!僕なんかが申し込んでもいいんだろうか、わ~!どうしようっ!」
何しろ彼は世界選手権でもこぞって優勝をもぎとっているような人物である。
一ヶ国の、しかもアマNo1とはいえ格が違う。
彼はまだこのサイト内部専用のチャットルームというか掲示板にははいっていない。
さまざまな質問がなされ、それようにスレッドも分けられている。
…そこに、なぜ塔矢行洋がいま、ネット上にいるのか、という疑問が投げかけられており。
その答えが実は緒方によって書きこまれている。
何しろ塔矢名人が倒れて入院した、というのは日本だけでなく海外でも取り上げられたほど。
それを目にしたかどうかは別としても…である。
【塔矢名人は入院期間中、期間限定でネット碁をなされるつもりらしいです】
とは緒方が自らのハンドルネームを使い、答えた言葉。
それを目にしたものは、このチャンスを逃すまい、と力に自信があるものはこぞって対局を申し込んでゆく。

しばし、ネット上においてsaiに続き大混乱が引き起こされてゆくのであった……


「この第四局の碁もだけど。この時の名人戦。ここで塔矢のおじさんがうった碁はしびれるよな~」
新聞にも控え室の棋士たちも誰も思いつかなかった、とかいてある。
明日にむけて、行洋の棋譜の見直し検討をしているヒカルと佐偽。
『打っているものだからこそひらめくのです。ヒカル。
  端からみているのと打っているのとでは大きな違いがありますから』
「そんなもん?」
『ええ。端でみている者たちは対局者よりも冷静である、ということだけで深いところは視えていないのですよ。
  対局している者たちにしかみえません。この盤上の…宇宙よりも深い…より深いところは』
現代において宇宙、という言葉をきき、昔は星空よりも深い、と表現していたところを、
今では佐偽は宇宙、と表現するようになっている。
『…そして、相手の真の技量も直接に打って始めてみえる。ヒカルと打っていてもわかりますよ?
  あなたは昔と違って本当に力をつけてきていますからね。
  時々この私すらはっとする手まで打ってくるようになっていますし』
「でも、お前にいっつも一刀両断されてるけどな~」
『ふふ。でも本当にヒカル。だいぶかわし方がうまくなってますよ?』
最近では手加減せずに打たずともよくなっている程度には。
「ヒカル~!朱里ちゃんよ~!」
「何だろ?」
『さあ?』
「とにかく、いってみるか」
『ですね』
いいつつも、碁盤をそのままに部屋をあとにして階段をおりてゆく。
みればたしかに玄関先にアカリの姿。
「何だよ。アカリ。囲碁部はどうした?さぼりか?」
「サボリじゃないよ!今日は皆、他に用事があるっていうんだもん」
中三ともなればいろいろあるもの。
ましてや今の囲碁部は三年と一年のみ。
「だから、ヒカルに打ってもらおうとおもって」
「え~!?オレにぃ!?」
というか、明日は大一番があるのにっ!
「忙しいの?」
「あなのっ!俺は明日…!」
大事な対局がある。
そういいかけるヒカルの言葉をさえぎり、
『うったげましょうよ。ヒカル』
え!?
佐偽の思いもかけない言葉に思わず目を丸くする。
『私、打ちますよ。私、うちたいっ!』
「ヒカル。せっかくきてくれたのに何ですか」
「えっと…じゃあ、まあいいよ。あがれよ」
「本当?わ~い♡」
「あとで紅茶とケーキもっていくわね」
「すいません。おばさん」
つ~か、うちの親。
…年頃の男女二人きりにして何ともおもわね~の?
そりゃ、まあ佐偽もいるけどさ。
だけども佐偽のことはいまだにアカリや両親といった人々は知る由もない。
普通、歳頃の男の子の部屋に女の子が一人で上がりこむなど、多少は心配するであろうに。
それが幼馴染であるにしろ…である。
カチャ。
「相変わらず殺風景~って、あ、碁の勉強してたの?ごめん」
みれば部屋の中央にぽつん、とおかれている碁盤の上には碁石が並べられている。
「いいよ。棋譜並べをしていただけだし。お前、ちょっとは強くなったのか?」
「なったよ!金子さんに鍛えてもらってるんだから!
  ヒカルは最近忙しくて顔をのぞけてくれないけど。他のみんなも熱心だよ?」
ヒカルが囲碁部に顔をだしたときには、基本、佐偽が全員に指導碁を施しているのだが……
アカリたちはいまだに指導碁、というその事実にすら気付いていない。
「三谷君はあいかわらず、来たりこなかったり、だけどね。
  五月終わりの大会が私たち三年生には佐偽碁になるから。三谷君にはどうしても出てほしいけど」
その大会がいまのヒカルの始まりでもあった。
あのとき、アキラと対局し、負けたヒカルは院生の道を選び、そして今、プロとしてここにいる。
「九子、置いていいかな?」
「九子じゃ、お前なんかイチコロだよ。もっとおけよ。もっと」
『九子でいいですよ。ヒカル。それでちゃんとした碁にしますから』
「あ~。じゃあ、九子でいいよ。それでうつから」
でも、本当にいいのか?佐偽?あかりだぜ?あかり。
明日は塔矢のおじさんと打つっていうのに、こんな気のぬけたような碁をうってていいのか?
『アカリちゃんとうって、ピリピリした気持ちを落ち着かせるのもわるくありません』
ふ~。
まあ、そうかもしんないけどさ。
たしかに対局がきまってからの佐偽は空気が痛いほどに張り詰めていた。
いつもそばにいるヒカルだからこそそれくらいは理解している。
ま、お前がそういうんだったらいいけどさ。
「お願いします」
「お願いします」
『おねがいします』
パチ。
『十六の三』
パチパチ。
「ん~と……」
くすっ。
『ヒカルにもこんなころがありましたね~、私が現世にもどってからもう二年あまりになるんですね……』
佐偽?
『あ、すいません。明日のことを思うと』
初めて彼を目にしたときから自分と道を同じくするものだと思った。
同じ、神の一手を極めんとしている者だ、と。
この次打つときには互い戦で。
あの時言われた言葉。
それが、明日…かなう。
どれだけ近づけるのでしょうか。
神の一手に。
「え~!?うそ~!う~ん……」
『くすくす。本当、昔のヒカルのようですね~』
む。
コレはこんなに迷わなかったぞ!
『ええ。もう迷うどころかむちゃくちゃなところに打ってきてたりしましたよねぇ~』
……お前、今日、おかしいぞ?いきなり昔話なんかはじめてさ。
『なぜでしょうね。なぜだかヒカルに出会ったころを思い出してしまうのですよ。
  気がたかぶっているから、ですかねぇ?』
……?
何かを感じた。
――違和感。
その違和感の正体はヒカルにも佐偽にもわからない。
お前、今日は早く休んだほうがいいぞ。
明日に供えて。
いくら幽霊、とはいえ休息しないと精神がもたない。
肉体的な疲れはなくとも精神疲労は佐偽にもあるのだから。
と。
コンコン。
「はいるわよ~。ヒカル」
カチャ。
そんな会話をしている中、美津子がケーキと紅茶をもってヒカルの部屋にと入ってくる。
よくわからない違和感を感じつつも、ひとまずヒカルはしばし佐偽とともにアカリを相手に一局をうってゆく。

明日は、塔矢行洋との対局の日……


                                -第57話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて。ようやく行洋のネット参加、ですけどね~
  世紀の対局は、次の次、かな?
  まあ、ネット上は大騒ぎ~、ということで(笑
  緒方もたまたまsaiとおなじサイトさんを教えたがゆえにこの対局がなされることになってますが(笑
  何しろネットでうてる場所ってけっこうあるみたいですしね。
  原作のほうにはそんなの触れてませんが(笑
  さてさて、んでは次回に続きますv
  というわけで(何が?)例のごとくに小話をば♪


「ヒカルっていつもどうやって勉強してるの?」
「え?」
『ヒカルはいつも私と打ってますけど』
ん~。
でも佐偽は私にしか視えないし。
院生研修の手合いのさなか。
昼休みにご飯を食べにいっているときにと聞かれる台詞。
「え~と、家でいろいろと」
「それって、棋譜ならべとかしたりして?」
似たようなものになるのかなぁ?
いつも佐偽に指導碁やってもらってるし。
「あとは、ネット?」
「あ~。たしかにネットはいろいろ強い人とかいるしな~。そうだ。進藤」
「何?」
ハンバーガーをかじりつつも、きょとん、と話しかけてきた明日美や和谷に首をかしげてといかける。
「お前がその気があるんだったら。俺んとこの師匠の研究会にきてみるか?」
「けんきゅ~かい?なにそれ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
まさかそれすらも知らない、とはおもわなかった。
それゆえに思わず一緒にいた彼らも顔を見合わせ溜息ひとつ。
「あのね。ヒカル。い~い?説明するからよくきいて」
対局を重ねることによりヒカルの実力は確実に伸びてきている。
院生に入ったばかりと今を比べてもはるかに異なる。
自分と、ネットだけでそこまで棋力がのびるのかどうかはわからないが。
だが、事実は事実、である。
とりあえず、奈瀬よりしばし、ヒカルに研究会とは何か、ということがこんこんと説明されてゆく。

『今はそのようにいうんですね~』
聞けば佐偽の時代にもにたようなものはあったらしい。
「佐偽。うれしそうだね」
『そりゃ。強い人がいるんでしょ?たのしみですv』
決まってから佐偽の表情がとても喜びにみちていることにヒカルもうれしくなってくる。
「だけど、私も強くなってきてるのかなぁ?」
ひかるのギモンは至極もっとも。
しかし、ヒカルの基準はあくまでも佐偽であるがゆえにどうしてもどこか一般的な常識とズレが生じてしまう。
『ヒカルはかなり実力つけてきてますよ?』
日々、熱心であるがゆえにヒカルのの見込みは早い。
一度教えたことはすぐに吸収し、佐偽すらおどろかせるほどである。
ヒカルからすれば佐偽に喜んでほしくてそれゆえに必至で身につけようとするのだが。
つまり、教えるほうと教えられる側。
それらがぴったりと息があっているからこそ成長も著しい。
はじめのころは碁の基礎の基礎もしらなかった、というのに。
今では基礎は完全に把握され、打っていても楽しい手などを繰り出してくるのでとても楽しい。
まあ、それでも佐偽からしてみればまだまだあぶなっかしいところは多いいが。
それでも佐偽の協力もあり、確実に院生順位はのびてきているのも事実である。
ヒカルもまたいつも佐偽としか打ったことがないので他の子どもたちとうつのは新鮮そのもの。
基本のキの字を理解したがゆえに、基本をもとにアキラとともに対局したところ、
アキラはかなり驚愕したようであるが。
だがしかし、基本をしったからこそ稚拙になってしまう、ということもありえる。
というのはアキラだからこそわかる。
彼もまた幼き日、基本ばかりにとらわれて打ち方がのびないことがあった。
それまでのヒカルは囲碁をうてても基本をしらないがゆえに感覚でうっていたのであろう。
そうアキラ的には判断し、ヒカルにそのカラをやぶらせようとしている今日この頃。
たしかに対局を重ねるごとにその殻が薄くなっているのを常に感じればなおさらに。
「でも、何で塔矢君。よくうちにくるのかな~?そんなに佐偽とうちたいのかな?ね。佐偽」
ヒカルからすれば佐偽とふたりっきりの時間を邪魔されるようで何となく嫌なのだが。
『彼の周りには同い年くらいの碁の打ちてがいない、といってましたからね~』
それもあるであろう。
あるが、佐偽はアキラがヒカルをみる眼に何となく何かを感じてはいる。
アキラがみているのは佐偽でありながらヒカル、でもある。
それが常にそばにいる佐偽はよくわかっている。
たしかに、同い年くらいの対局相手がいることは何よりも精神的な励みとなる。
そして、裏切られたときの落胆も佐偽はかつて身にしみてしっている。
『それより、ヒカル。気をつけてくださいよ?』
ニュース、とかいう日々の世界でおこる事件事故。
それらをみるかぎり、今の世の中は平穏無事、というわけではなさそうである。
日本にいながら世界のことや他の地域のことを知れるテレビというしなにはかなり驚いたが。
最近では、通り魔とかいう理不尽な事件も多発しているらしい。
だからこそ佐偽もまた心配せずにはいられない。
何しろヒカルはだまっていてもかなり目立つかなりかわいい女の子、なのである。
しかも今は週に二度、離れた日本棋院に通っている状態。
遅くなるときには美津子が心配してヒカルの送り迎えをしている状況、なのではあるが。
それはそれ。
どうしてもその手の心配はつきない、というもの。
「大丈夫よ。佐偽は知らないだろうけど。私、けっこうつよいんだよ?」
佐偽と行動をともにするようになってそのような場面、というか力を示す場面に遭遇したことはない。
佐偽は話にはヒカルがそこそこ強い、というのはきいていても。
それがどこまで通用する強さなのか、ということはまったくもってわからない。
「明日の放課後はお茶のお稽古があるし。佐偽も好きだよね。お茶のおけいこ」
『そうですね』
ヒカルが着物をきるとどこかほっとする。
現代の服装は今だに佐偽は何となく別の場所にきたような錯覚にと囚われてしまう。
何しろかわりすぎている。
平安の世、そして江戸時代。
今の現代はその面影がまったくない。
そんな中で着物をヒカルがきることにより、ここはやはり日本なのだ、とほっとするのも事実である。
棋院の一階のロビーにおいて、そんな会話をしているヒカルと佐偽。
とりあえず待ち合わせは棋院のロビー。
しばし、院生仲間の和谷義高という少年がくるのをその場でまっているヒカルの姿。
本日六階で研究会、とかいうものはおこなわれるらしい。
どんな人達がくるのかな~?
『しかし、どんな人達がくるんでしょうねぇ~』
ヒカルと佐偽の心のうちがもののみごとに同調する。
このあたりは、かなり似た者同士の二人、といっても過言では…ない。


みたいな感じで。
こののち、緒方に研究会に誘われます(笑
いきたいけどお稽古があるのでむり~、という結果になるのですが(こらこら
いあ、曜日があわないのですよ、曜日が~
ひかる、かなりお稽古ごともってますし(苦笑
佐偽と出会ってからヒカル、髪を伸ばしはじめてたりするのはお約束~
昔の人って髪が長いですしね。
佐偽も短い髪は見慣れてないこともあり、また佐偽の髪がさらさらと綺麗なのであこがれもあり。
女の子、というものは好きな人のマネをしたくなるものなのですよ。
ふふふふふ♪
とりあえず、幽霊、実体後、交互のように時間は錯誤しつつものんびりと小話はゆくのですv
そろそろ若獅子戦にもふれるかな?
おもしろいので例の棋士にはまけてもらいましょうv(鬼畜さんv
んではではv

2008年9月9日(火)某日

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