まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、よき古き淑女のようにみえる明子夫人。
彼女の性格さんがこんなのだとギャップでたのしいv
というわけで、今回のネックは明子の挑発v(こらまて
一番気の毒なのはだれでしょう(笑
ともあれ、ゆくのですv
対局は次回になるかな~?うにゅ?

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sai。
しばらくぶりにネット上に復活した最強の打ちて。
だが、また四月にはいってすこしして、ぱたっと姿を見せなくなった。
saiがいたのは日本時間の四月の五日まで。
昼夜をとわずいた彼はまた姿をかき消した。
それゆえに、どうしても憶測せざるを得ない。
saiは、子供、もしくは自由がきかない体調に問題がある人物なのかも、というような憶測を……

星の道しるべ   ~提案と回り始めた歯車~

「心筋梗塞で倒れられた、と聞いてびっくりしましたが。大事にならずにほっとしました」
病室にて、ベットにいる塔矢行洋にと話しかけている一人の男性。
「ほんとに」
そしてまた男性に挟まれるようにすわっている女性もまたほっとしたように同意をしめす。
「やはり、長い間の疲労がたまってたんですよ。先生」
再びもう一人の男性が行洋に対していっているものの、
「…広瀬さんにまで心配をかけてしまって、申し訳ない」
見舞にきているのは、自身が経営している碁会所の常連である男性と、そして碁会所をまかせている女性と。
そして門下生の一人である緒方の三人。
そんな常連の男性…広瀬の言葉に申し訳なさそうにつぶやく行洋。
彼とて何が起こったのかよく理解できてはいない。
いきなりがくっと全身が重くなったかとおもうと、気づいたときには見知らぬ場所。
倒れて病院に運ばれたと聞かされてびっくりしたのは他ならない彼自身。
「私だけじゃありません。碁会所のお客さんは皆心配していましたよ?」
それはもう、大騒動。
「奥様からお電話をいただいたときにはもう、お店中大騒ぎでしたよ」
市河が以外に元気そうな行洋をみつつほっとしながらいってくる。
本当にこの数日は気が気でなかったのだから。
何しろ市川が働いている碁会所の経営者は塔矢行洋、その人でもあるのだから心配するのは当然のこと。
それでなくても有名人の彼が倒れた、というのでニュース速報で流れたほどである。
それほどまでに彼が倒れた、という事実は少なからず世間にショックを与えたのも事実。
「お店のお客さんが大騒ぎ。どころの騒ぎじゃないよ。そんなレベルなんかじゃない。市河さん。
  何しろ囲碁界に緊張がはしったよ。あの日は」
日本だけでなく海外にすら激震が走った。
それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎのごとくに。
情報が入り乱れ、大混乱となったのはつい数日前の水曜日の出来事。
「そういえば、あの日。って十段戦、第三局の前日だったんですよね?」
「そういえば。塔矢先生が倒れてしまって。挑戦者の緒方先生はどうされたんですか?」
市川につづき広瀬が素朴ともいえる疑問を投げかけてくる。
たしかに対局日前日であり、塔矢名人が目覚めたのは倒れた翌日。
棋院側がどのような対応をしたのかという詳しいことまでは市川や広瀬は知る由もない。
ちょうど市川達がもってきた花を活けるために明子を病室をあとにしているので、
今、この病室の中にはいない。
いるのはベットの上の塔矢行洋と、そしてお見舞いにきている市川、広瀬、緒方の三人。
きっちりと明子がそれとなく盛り塩を部屋の四隅においてあるので、
病院、という特殊な場においても簡単な【場】は保たれている。
最も、一般の人々には到底分らない感覚なのだが……
「先生の状況は追って連絡してもらう。ということで。私や関係者はみな、対局地の愛媛に向かいました。
  お体も心配だが対局の可能性もある。翌日塔矢先生の不戦敗が決るまで盤の前で先生を待ちました」
その間も不安がなかった、といえばウソになる。
逆に元気にやってくるのでは、という期待と、二度と会えない、対局できないのではないか、という不安。
それらが入り混じった短いようで長い時間であった。
「もっと近い静岡あたりや都内ならばいけたんだけどね。目がさめて時計をみてそうおもった」
まさか丸一日以上、意識がなかったとは。
そんなことは今まで行洋は人生においてかつて一度しか経験したことがない。
そのときは明子の能力でことなきをえたのだが。
妻・明子との付き合いはそれがきっかけ、でもあるのだ。
「まあ」
「先生。そんなむちゃをいわんでくださいっ」
そんな行洋のセリフに呆れたような声をだす市川と、あせっていっている広瀬の二人。
「先生。次の大局は五日後です。大丈夫なんですか?」
次の木曜日にまた、別の地方で対局はとりおこなわれる。
今のところ、十段戦の結果は三戦中二戦防衛、一戦不戦勝という結果。
「もちろん。医者にはかなり渋い顔をされたがね。はは」
むちゃをいわないでください!
といってきたのが記憶にあたらしい。
しばし病院の特別室の個室において彼らのそんな会話が繰り広げられてゆく。

「…?誰かきてるのかな~?佐偽?」
『さあ?壁とおってのぞいてみましょうか?』
「心臓にわるいから遠慮しとく」
特別室の前でピタリと足をとめて思わず佐偽と会話をしているヒカルである。
と。
「あら。進藤君。佐偽さん」
「あ。おばさん」
『明子殿』
部屋の前で立ちつくしているヒカルに気づいて明子がその手に花瓶をもったまま声をかけてくる。
「あ、ごめんなさい。ちょっと手がふさがってるから。開けてもらえるかしら?」
「あ、はい」
明子にいわれ、ひとまずトビラをかるくノックして手がふさがっている明子の代わりに扉をあける。
「こんにちわ~…あ、おばさん、どうぞ」
「ありがと」
そのまま両手で花瓶をしっかりともったまま、中にと入ってゆく明子。
うわ~。すっげぇ病室。
ヒカルはこの特別室に移ったことはきかされてはいても、病室の中に入るのは初めて。
病院、といったらほとんど普通の個室、または大部屋くらいしかヒカルは今までかかわりがない。
それゆえにそんなことを思ってましうのは仕方ない。
「ん?進藤じゃないか」
「進藤くん?」
そんなヒカルの姿をみてふと気付いたように声をかけてくる緒方と市川。
「あ。では我々はそろそろおいとましますか。市川さん」
ヒカルと明子の姿をみてそんなことをいいだす広瀬に対し、
「あ、いや。俺すぐに帰りますから。ちょっとおじさんの様子がきになってたから……」
「今は明も彼の家で寝泊まりさせてもらってるんですよ。
  あの子も一人で家にいてもおちつかないでしょうし。仲がいい子のところだと少しは気がまぎれるでしょうしね」
わたわたしつつものどおりのいかない説明をするヒカルに代わり、花瓶をおきつつ三人に説明している明子であるが。
「しかし。君がお見舞いにくるとは以外だな。今日、学校は?」
たしかすでに学校は始まっているはずである。
「あ、今日はお昼までだったから」
それに何よりもヒカルもまたきになっていた。
佐偽はそれ以上にきになっていたらしく、ものすごくふさぎこんで心配していた。
「そんな言い方ないですよ。緒方先生。せっかくきてくれたのに」
そんな緒方に突っ込みをいれつつも、
「でも、君ももうプロ、なのよねぇ。あのとき、明君にかっちゃったんだもの。
  プロになれたのも当然よね」
「……その一局をみたかったよ。今だに明君は教えてくれないし。お客さんたちの中にちゃんと覚えている人はいないし」
そもそも、始めての一局は観戦している人などまったくもっていなかった。
二度めのときは途中で対局が中断されてしまい、最後までは打ち切っていない。
しかし何よりも石の持ち方すら知らなかった初心者としかおもえなかったヒカルが、
明相手にどんな碁を打ったのか、というのに緒方からすれば非常に興味をひかれている。
「あ、あはは……」
あれ、打ったの佐偽だしな~。
『ですね。塔矢と初めてうったのは私ですし』
くすっ。
視ればちらりと佐偽と目くばせして何か話しているヒカルたちの姿が目にとまりおもわずくすりと笑う明子。
「あ、あの。おばさんやお医者さんがいうには心臓発作で倒れた…って、体のほうはもう平気なんですか?
  どこか体が重いとか…アキラのやつも口にはださないけどかなり心配してたから」
手合せをすれば相手の心情はよくわかる。
気をおちつけるためとかいってヒカルとここ数日うつにはうったが、
明の筋には力がまったく見えなかった。
「今はもう何ともないよ。伊社には後せめて十日は入院していろ、とはいわれているがね」
「そもそも。行洋さんは無理しすぎなのよ。
  本当は一か月くらい静養は必要なのに。
  聞いてよ。進藤君。この人ったらね。お医者さんにわがままいいまくって、常に私がそばについて様子をみる。
  という条件のもと、十日という短い期間にまで少なくさせたのよ!?入院期間っ!」
「……おじさ~ん……お医者さんのいうことはき~たほ~が……」
何だかこのわがままぶりは佐偽によくにている。
明子の説明をきき、おもわずヒカルが思ってしまったのはなにも間違ってはいないであろう。
「そうですよ。先生。奥様や進藤君のいうとおり。一か月くらい静養してはどうですか?」
「そうそう。手合いの日はここから通えばいいんですよ」
ヒカルに続き、市川と広瀬も同意するかのごとくに言っている。
万が一のことを考えればそれがたしかに最善の方法である。
何しろ来月からはさらに海外での対局も塔矢行洋は予定がつまりまくっているのだから。
『このものも無理をしますね~。しかし気持ちはわかりますけど。でも元気そうで何よりです』
そんな彼の姿をみてほっとしていっている佐偽の姿。
まあ、たしかにじっとしているのは称にあわないのだろう。
それは佐偽にはよくわかる。
「それにですね。ここにいても好きなだけ対局できますし。ねえ、先生?」
「え?」
「ここで…ですか?」
「『?』」
緒方の言葉の意味は広瀬や市川だけでなく、ヒカルと佐偽にも理解不能。
「これだよ」
いって指し示されたのは小型のノートパソコン。
「院長の許可をもらって昨日、セットしたんだ」
「…ノートパソコン?」
「ネット碁を覚えれば先生も退屈しないかとおもってね。オレが進めた」
「まあ!塔矢先生がパソコンを覚えられたなんて!機械音…あ、失礼」
真実、行洋はねっから昔の人の間隔なので機械全体にかなりうとい。
機械音痴、といわれてもそれはそれで否定できない要素はあるであろう。
「いやいや。碁をうつだけなんだ。教わったのは」
こんなことにならなければまずやろうともおもわなかった。
そんな暇があるならばひたすら碁の勉強をしたほうが能率的。
そう思うのが彼、塔矢行洋、という人物である。
「そうですかぁ。先生までもがネット碁、をねぇ。う~ん、やっぱり私もやってみようかなぁ?」
家にパソコンはあるが自身は触ったことすらない。
「…ネット…ご?おじさんが?」
「碁をうつだけなら難しくはなかったよ。碁を打つのは得意だしね」
「はははは」
『?ヒカル?』
何だかいきなり考えこんだヒカルを心配して佐偽がヒカルにと声をかけてくる。
「市川さん、ではそろそろわれわれはこの辺で……」
「あ、そうね」
「私も京はこれで帰ります。先生」
いいつつも、ベットの横の三人掛けのソファーより立ち上がる広瀬、市川、緒方の三人。
「あ、奥様。ここにあるお見舞いの品、ご自宅におもちしていましょうか?私、車ですから」
「あら、市川さん。すいません。じゃあお願いしようかしら?たぶんお手伝いさんが来てるからあいてるとおもいますわ」
明子は基本的にこの病室に寝泊まりしているので、家には今はほとんどかえっていない。
着替えなどを取りにもどることはあるにしても。
塔矢邸は今は基本、お手伝いとして雇っている人に掃除などは任せてある。
「半分もとう」
「あ、すいません」
「では、失礼します」
それぞれにけっこう量がある見舞の品の荷物をもち、三人が三人とも病室をあとにしてゆく。

進藤がネット碁をやっていのるは知っている。
知ってはいるが…先ほどの進藤の様子、何かひっかかるな……
そんなことを緒方はおもいつつ、
「市川さんが塔矢先生の家にいくのならば、広瀬さんは私がおくりましょう」
「いや、これは申し訳ありません」
そんな会話をしつつもエレベーターにと乗りこむ三人の姿。

「まあ、よく来てくれた。すわりなさい。私が倒れたのは君と明の対局があった日だったね。邪魔をしてわかった」
「あ、いえ。それより大事にならなくて何よりですよ」
『本当。生きた心地がしませんでした』
お前はもう死んでるだろ~が。
佐偽の言葉におもわず心の中で突っ込みをいれる。
「進藤君はきいてすぐに美津子さんと駆けつけてくれたからね」
事実、棋院関係者の中でヒカルはほぼ最初、といっていいほどに。
ヒカルが聞いたのは明子から連絡があってすぐのこと。
それゆえに行動を先にヒカルが起こしたのは不思議ではない。
連絡をうけて棋院の中は大混乱におちいっていたのだから。
「だって、朝から【何か】は感じてたし。あの日は。
  あアキラは今日は地方で指導碁の仕事があるとかで帰りは遅くなるから。明日改めてくるっていってましたよ」
とりあえず、朝型アキラから聞いたことを二人にと伝えるヒカル。
「そういえば。今、明は君の家にいるんだってね。本当に迷惑をかけたね。
  明が対局を休んだ。と聞かされたときには驚いたが……
  平静に打つ自信がなかったのだろう。あの子にもずいぶん心配をかけたようだ」
ベットの上に半分おきあがりつつしみじみという行洋に対し、
『まあ、実際。あの日の塔矢の碁は崩れまくってましたしね』
「たしかに。気をおちつかさせようと、一局うったけど。あいつぼろぼろだったし」
『碁は結構そのものの精神の深い部分も一手、一手に現れますしね』
行洋のことばをうけて、しみじみと会話をしているヒカルと佐偽。
『まあ、気高い心をもつかれのこと。今はプライドとかいうんでしたっけ?
  とにかく彼のことですから。不様な一局を打つよりは休みを選んだのでしょうけど。
  もっとも、そこまで気がむいていたかどうかは別としても』
何しろプロ、といえども所詮はまだ子供、である。
しかも十五にもみたない子供。
昔でいってもその年齢ならばいまだに元服するかしないか、といった子供。
更に今の時代においては、元服、すなわち大人の仲間入りとみなされるのは、十八、もしくは二十歳という。
この年で冷静になれ、というのが多少無理がある。
「それより、おじさん。ネット碁、やるんですか?」
「この人ったらね。碁をうってないとおちつかないんですって」
『あ、それわかります。何かものすごく不安になるんですよね~』
「同意しないでほしいわ~。まったく。碁打ちの人って全員、今も昔もこうなのかしら。ねえ、進藤君?」
「あはは……」
佐偽の言葉に深く溜息をつきながらヒカルに問いかけてくる明子。
「?まあ、こうして入院でもしなければ覚えることもなかっただろうがね。昨日、明ともうったんだよ」
「あ~。そういやアレにはあせったな~」
外付けHDの中にはsaiの棋譜を集めたDVDが入っていた。
みられてもまずかったし、さらにいえすばロングイン画面に名前を二つ登録していた。
それゆえにクリックすれば二つの名前が示される。
saiがいるかどうかの検索するのにまちがってさ~!
とどうにかその場しのぎのごまかしでことなきをえたが。
アキラが打っている最中、ヒカルはひたすらにテキストをやっつけ、
佐偽は興味深そうに明のネットの一局をその後で眺めていた。
「君の家からつないでいたんだっけね。アレは」
「え?あ。そうです。俺は横で勉強していましたけど。テキストやってたし」
嘘ではない、嘘では。
「病院にいても打てるのは確かにありがたいね。だけど碁意思をもつ感触が手にのこらないのは、どうもな」
その言葉に佐偽が一瞬悲しそうな表情を浮かべたのをヒカルも明子も見逃してはいない。
佐偽はもちたくても持てないのだ。
肉体がないゆえに。
会話ができるのも、ヒカルと、そして明子のみ。
他にはその存在すら認識されてすらいない。
「まあ、私には向かないし。ここにいる間だけのてなぐさみだよ。はは」
そんな二人の表情の変化に気付くことなくそんなことをいってくる行洋。
「ここにいる間だけ…ですか?あ、あの、おじさんっ!」
『ヒカル?』
「何かね?」
「あ、あの!俺もネット碁をやっているのは知ってるとおもうんですけど。
  そのつながりで…おじさんととっても打ちたがってるやつがいるんですっ!」
『ヒカル?…何を……』
「…ネットでのそいつの名前は。S・A・I。sai。サイ、といいます」
『ヒカル!?』
いきなりといえばヒカルの告白におもわず目を見開く佐偽。
「…知ってるよ」
『え!?もしかして私のことを話されたんですか!?』
ふるふるふる。
佐偽の言葉をうけて首を横にふる明子。
「え?…何で?」
おばさんが話してないんならなんでしってるの?
ヒカルもてっきり明子が何らかしらの説明をしたのかとおもったのに。
「若い棋士たちのあいた゛では有名になっているからね。…君の知り合い、なのか?」
「え?知り合い…とゆ~か…何というか・・・…
  あ、あの!誰にも内緒にしといてくださいね!俺と佐偽のことは!
  佐偽は…ずっと先生とうちたがってて…でもそいつ、ネット碁しかできなくて……」
それ以外で佐偽にうたせようとおもえばどうしても変わりにうつヒカルがうっている。
そう対局者も、第三者もとらえるであろう。
だけど、それではダメ、なのだ。
あくまでも佐偽にヒカルは打たせてやりたいのだから。
藤原佐偽、として。
「なぜだ?なぜ隠れたがる?」
「ちがっ!そ~でなくて、だって佐偽は…っ!」
説明ができないのがむずかゆい。
「あなた。いいじゃないの。佐偽さんがあなたと打ちたがってるのは私もよ~く聞かされているしね」
言葉につまるヒカルに割ってはいるかのごとくに、しれっと会話に参加してくる明子の姿。
「って、おばさん!?」
そんな明子に思わずあせりをみせるヒカルであるが。
「いっても問題ないんじゃないのかしら。進藤君。今、ここには私たちしかいないしね。
  まあ、躊躇する気持ちもわかるけどね~。あ、でもこの人とうったりしたらこの人、負けるわね。ふふ♡」
明子はヒカルから佐偽が江戸時代に活躍した本因坊秀策と呼ばれていたうち手である、
というのを聞かされている。
そして佐偽からも。
公式手合いのすべてをうったのは、佐偽であることを知っているのだ。
現代においても今だに並ぶものがいない、といわれている伝説の碁の打ちて、伝説の棋聖。
「…明子。聞き捨てならんな。私が負ける、というのか?」
「あら?年季の差はものすごいもの♡」
「って、おばさ~ん!おじさんを挑発しないでよっ!というか何とかいってよっ!」
『私はここにいますっ!碁盤と碁石の用意を!いつでもうちますっ!』
・・・・・・・・・
「って、お前もむちゃいうな~!ここ病室!んなのあるかっ!」
「あなた。石をもちたくても、持てない人もいるのよ?
  何の気にしに言った言葉が相手を傷つけることもある。よく覚えておいて」
明子が挑発しているのにもわけがある。
明子は佐偽がどれほど碁を愛しているのか家にくるたびに佐偽と話すたびにわかっているつもりである。
そしてまた、わが身がないがゆえに自身で碁をうてない悲しみをも聞かされている。
『私はいつでもうてますっ!』
「だ・か・らっ!おまえが指示しても、打つのは俺…って……」
ついついエキサイトしてしまい、思わず佐偽といつもの調子でいいあうヒカル。
はっとここには明子だけでなく、行洋もいるのに気づいてはっと口元を押さえるがすでに遅い。
「――なるほど…な。明子。お前は前から知っていたのか?」
誰かが確実にいる。
進藤光の元に。
それがどうやら噂のsaiであることはおそらく間違いがないのであろう。
だからこその問いかけ。
「ええ。人に軽々といえることではないもの。ねぇ。進藤君?」
「…君の背後にいる、誰か。か。saiは」
「『え!?』」
行洋の言葉におもわず二人して叫ぶヒカルと佐偽。
しかし、普通に考えてもどうみても【誰か】と言い合っているようにしかヒカルの様子はみえない。
ヒカルをみてていれば、その手の知識があるものならば結果的にたどり着く答えでもある。
…最も、信じるか信じないかは別。
おかしい、気がくるっている、と感じるかは人それぞれだが……
基本的に一般的には後者の人々が世の中にはおおい。
それゆえにおいそれといえるものではない。
下手をすれば精神病院に入院させられてしまう可能性のほうが濃厚なこのご時世ならばなおさらに。
「……君の師匠、か?君には師匠はいない、ときいていたが」
それだけでそこまで結果にたどりつく行洋もたいしたものであるが。
「…え、あ。えっと。……そ~です…。あ、あの、だまっててください!おねがいしますっ!」
どうやらヒカルは背後の誰か、saiという人物に碁を教わっていたらしい。
ならば現実的に師匠がいないのもうなづけるものがある。
短期間で試験に合格できたのに、囲碁界の知識が皆無であったというのを考えれば、それはおそらく……
「……と。すると。あのとき打ったのはそのsai、という人なのか?」
あのとき。
それがいつのことを指し示しているのか思い当たり、こくり、と静かにうなづくヒカル。
どうしても佐偽に打たせてやりたかった。
自分の大切な一局であるにもかかわらず、である。
「――…何目、だ?」
あのとき気になっていたハンデの数。
だからこその問いかけ。
「……十五…です……」
ここまできて嘘をつく必要はないであろう。
事実、ここにはヒカルと佐偽、そして行洋と明子しかいないのだから。
「…十五…だと!?…わかった。こちらこそ願ってもない。うけよう。その対局」
「おじさん!?」
『行洋殿!?』
十五目、と聞いて一瞬目を丸くするものの、だがそれで納得もいった。
しかも、ヒカルの後にいるであろう視えない誰か。
つまりそのsaiはつまりそれほどまでに強い、ということ。
碁打ちの意地と好奇心が勝ったがゆえの結論。
強いものと打ちたい、と望むのは常に高みを目指す棋士なればこそ。
それになによりも妻がきっぱりと自分が負ける、と言い切った言葉も気にかかる。
「他言はせぬ。…が、名前くらいは教えてくれてもいいだろう。明子はしっているのだろう?」
「それは……俺以外、唯一おばさんは佐偽が視れているから……」
それはすなわち、他のものには視えてもおらず、また認識すらもされていない、ということ。
「進藤君が短期間で上達したのも佐偽さんの特訓あればこそ、だしね~」
「ま、こいつの指導は容赦ないもん。っておばさん!何いわせるのさっ!」
『そうですよ。明子どの。私はそれほどひどくしてませんよっ!…たぶん』
「どこがだっ!納得するまで寝らしてもくれないだろうがっ!おまえはっ!」
おもわず佐偽の言葉に突っ込みをいれるヒカルであるが。
「でも、何だか面白そうねぇ。対局日。ビデオにでも録画しておこうかしら?
  たしかパソコンとテレビって画面をテレビに映し出すことも可能だったはずよね。
  もしくはハンディカメラで録画しとくのも手よね。
  でも、たしかに進藤君を通して佐偽さんがうっても誰かが見たら大騒ぎになるのは目にみえてるしねぇ」
息子の明のときのように。
そしてまた、海王中との大会のときのように。
その点、ネット上ならば顔も名前もわからない闇の中。
過去と現代の打ちての対局、という奇跡にも等しいことすら可能となる。
「私もずっと思ってたのよね。進藤君とこの人の都合がつかないの。
  まるで何かが佐偽さんと主人を合わせないようにしているかのようで」
「あ、それは俺も。あまりにタイミングがわるすぎたし」
小学六年のときからいま、この中学三年まで。
あまりにもタイミングがわるすぎる。
偶然、だけで片づけられないものが絶対にある。
どうやら行洋の知らないところでヒカルはかなり深いところで妻と仲よくなっていたらしい。
今の今まで知らされていなかったことに多少すねつつも、
「対局日はいつがいい?」
「いつでも。あ、大手合いも当分ないですし。先生が大丈夫ならば明日だって」
その場合はどうにかして塔矢をごまかさなきゃ。
ぶつぶつとヒカルが何やらいっているのをみてとり、
「しかし。もう少しなれるまでまってくれないか?これは碁石をもつのとは勝手が違う」
実際にうつのとネットで打つのとでは感覚がまるで違う。
「あ~。たしかに。俺も始めはまちがえまくったし」
それで佐偽にいくら泣かれたことか。
ネット碁を始めた直後のことを思い出し思わず苦笑するヒカル。
「あ、じゃあ、いつがいいでしょうか?」
何だか佐偽からすれば信じられない展開になっている。
できるのですか?
このものとの本気の対局が……本当に実現する?
そう思うと体が一瞬硬直し、何も言えなくなっている佐偽。
「そう、だな。十段戦の大局が来週の木曜日。それが住んで一日おいた土曜日のあたりがいいか。
  あ、でも進藤君は学校かな?」
「やすみますっ!」
『ヒカル!?』
「だって…だってこの機会を逃したら本当に佐偽とおじさんを打たせてやれるのいつになるかわかんないしっ!」
ずっと佐偽が彼と本気で打ちたがっていたのをヒカルは知っている。
だからこそ迷いはない。
「あなた。真剣にうたないと絶対に負けるわよ~」
「……まあ、おじさんが負けたとき真剣じゃなかったから、っていわれても佐偽も満足できないだろうし……」
むむっ。
どうやら二人の会話をきいていると、明子もヒカルも本気で自分が負ける、と思っているらしい。
なぜネットのみなのか、以前、saiが打ったという一局を緒方に見せてもらったときから思っていた。
表にでてこないのもうさんくさい、とおもっていた。
…だが、すでにこの世の人でないのならば表に出ようにも出てこれるはずもない。
自分だけsaiの名前を知らない、というのも何だか癪にさわる。
それゆえに。
「無論。真剣にうつ。真の力は自分自身でうってわかるもの。もし私がやめたらプロをやめてもいい」
『!?』
「って、え…えええ~!?」
「あらあら♡」
「って、おばさん!笑ってないでとめてよっ!おじさんっ!そんなことされたらこまるよっ!」
驚愕に目を見開く佐偽とは対照的に、ころころと笑っている明子の姿が目にはいる。
一人、おもいっきりあわてたヒカルがあわてて明子に助けをもとめるが。
「この人は一度いいだしたらきかないもの~♡」
「【きかないもの】でなくて!とめてってば!そんなことされたら俺のせいになっちゃうじゃんっ!」
どうやらこの進藤光は自分が負ける、と本気で確信しているらしい。
「そりゃ、佐偽が唯一、現代において神の一手に一番近い人物、ってみとめてるおじさんだけど!
  それとこれとは話が別だしっ!」
何しろ佐偽が唯一、ライバル視している塔矢行洋である。
しかし、佐偽はヒカルをつうじてより高みにのぼっていっているのをヒカルはよ~~く知っている。
「君も明子も。どうやら本気でおもっているようだな。私が負けるかもしれない、と」
「お…俺は別に!」
おもってます、とは言いにくい。
というかそんなことをいったら絶対に引退する、という言葉をさらに強めそうなきがひしひしとする。
だからこそ断言できない。
「あら?私は負けてもおかしくない、とおもってるもの♡」
「だ・か・ら!おばさん!あおらないで~!!」
ヒカルの焦りは何のその。
「よかろう。そのsaiとやらに私が負けたら引退しよう。そのかわり、私が勝ったときには本名を明かしてもらおう」
「そんなことしてくれなんていってませんってば!おばさぁん!佐偽も!何とかいってよっ!」
『ヒカル…感謝しますっ!!』
ぴりっ。
ずっん。
佐偽の言葉とともに、瞬時の部屋の空気が張り詰めたような感じに一瞬のうちに変化する。
息苦しいほどの圧迫感。
「あらあら♡」
「おばさ~ん。おばさんも何とかいってよ!おばさんがあおるからとんでもないことになっちゃったしっ!」
ヒカルとしては佐偽と行洋を本気の対局をさせたかっただけ。
それがどうして引退云々、という話にならなければならないのだろう。
この空気は常に佐偽からよくヒカルは対局中に感じているのでさほど気にはならない。
人間、慣れ、とは怖いもの。
明子もその能力ゆえにさほど動揺することなくころころと笑っているままである。
「だってねぇ。うちの人も常にライバルを欲していたしね。明を羨ましがってもいたのよ?
  進藤君が現れてから。佐偽さんとならばおもしろいとおもうのよね。
  本当、この人にも佐偽さんの姿が視えていたら楽しいのにねぇ」
「ねぇ、でなくて!おばさんだって困るでしょう!?」
ヒカルとすればかなり困る。
自分の提案のせいでそんなことになればそれこそ世界的な大問題。
「あら?別に問題ないわよ?ビルの家賃などもあるし。株の所得もあるし。
  プロ収入以外でもかる~く生活できるもの」
……どうやら一般的な庶民の考えとはほど遠いいようである。
確かに、ヒカルは知らないが塔矢家はビルをいくつももっている。
さらにはタイトルの関係でそれなりの株をすら付き合いで所有もしている。
それに何よりり引退したとしても、行洋が碁を打つのをやめるようなことは絶対にない!
そう断言できるがゆえの明子の言葉。
「あるいみタイトル戦よねぇ。二人の対局って♡」
できうれば二日かけてうつくらいの八時間あってもおそらく足りないくらいであろう。
この二人の対局は。
「では、対局日は一週間後。開始は十時。持ち時間は…三時間ではたりないだろうな」
「そうねぇ。本因坊戦とかのタイトル戦って何時間だったかしら?」
「王座戦は三時間、だがな。本因坊戦や棋聖戦は二日制で八時間。リーグ戦では大体五時間…といったところか」
「ならきちんと八時間でいけばいいんじゃないのかしら?ねぇ、進藤君?」
言外に本因坊戦とはっきりいってかわりがない。
というか佐偽事態が元となった本因坊秀策のそれ、なのだから。
本因坊戦の挑戦は基本、七番勝負として行われ、
一局を二日かけて執り行われる。
一局にたいしてかかる時間は八時間ほど。
「では、持ち時間は八時間。コミはタイトル戦と同じく六目半。秒読み十分、でいいかな?」
タイトル戦並みの持ち時間、その設定にしなければあのときの一局が十五目だとすれば…
到底まともな対局は時間をきっちりととらなければうてるはずもない。
「タイトル戦並みにしてくれるのはうれしいですけど!宣言だけは撤回してくださいよ~!おじさ~んっ!」
もはやヒカルは涙声、である。
「なら、明のほうは私のほうで。そろそろ付き添いも泊まり込みでなくても大丈夫だし。
  家に戻って通いでも問題なさそうですしね。明がいたら進藤君も佐偽さんの代わりに打てないだろうし」
それはすなわち、霊であるがゆえに石を持てないからヒカルが変わりに打つしかない。
というのを指している。
「では、その日は面会をすべて断ってもらおう」
「って、おじさん!それにおばさんもつ!俺のことも考えてよ~!!
  五冠タイトル所持者がいきなり引退なんて!んなの俺のせいだってばれたら袋叩きだよ~!!」
いや、絶対にそれだけではすまない。
確実に。
「進藤君。ここは病院のしかも病室だから静かにね。それはそうと、佐偽さん。
  そろそろその気配、押さえてもらえませんか?普通の人は息をするのも息苦しくなりますし?」
今だに佐偽の表情は真剣そのもの。
「だからぁ!こんなの望んでお願いしたんじゃない~!お願だから撤回してくださいぃぃ~~!!」
佐偽の力をよく知っているヒカルだからこそ、譲れないものもある。
しばし、病室において絶叫するヒカルの姿が見受けられてゆく……


「しかし、明子。何もいわないのか?」
勝手に負けたら引退、という条件を打ちだした、というのに。
引き留めるどころか逆にあおってきた妻。
「あなたは引退しても絶対に碁はやめないでしょう?
  それにあなたには少し休息が必要よ」
「……その言い回し、本気で私がまける、とおもってるな。お前は……」
「そうよ?」
きっぱり即答。
「……sai、とはいったい……」
かつて研究会のときに門下生がいっていた。
saiはまるで現代によみがえった本因坊秀策のような気がする…と。
ネット上ではまことしやかにその噂が真実味を増してきている、とも。
きっぱり言い切られてさまざまなことを考える。
ヒカルの手筋も秀策のそれにはじめは色濃かった。
それはアキラに並べてもらう一局、一局においても把握ができていた。
さらにいえば初めて彼と対局したときに、打ったあの一局。
たしかにあのときも古い定石、という感じをうけたのも真実。
……まさか、とはおもうがな。
姿の視えない碁の打ちて。
詳しくは教えてはもらえないが、【sai】の霊格はかなり高く、
明子ですら裏ワザをつかってようくその声と姿を認識できる状態になっているらしい。
その裏ワザがどんなものなのかは行洋にはわからない。
名前も、【サイ】とは本名らしいが苗字は教えても教えてはもらえなかった。
しかし、歴代の碁打ちでサイ、という名前の持ち主は…行洋は知らない。
まあ、記録に残っていないので仕方がない、といえば仕方がないのだが……
かろうじてのこっていた書類も長い年月の間にあった戦乱ですべてもえていればなおさらに。
ヒカルが家にともどった病室にてしばし明子と行洋。
この夫婦の会話がおりなされてゆく光景がしばし見受けられてゆく――

「……sai、か」
パソコンの前でふとつぶやく。
未だにネット上で騒がれているネット上の棋士、sai。
ここ最近、彼の名前をぱたっと見ない。
彼…saiが子供かもしれない、というのをきいて進藤光が思い浮かんだのも事実。
しかし、違う。
saiの強さはそんなものではない。
ネットでことごとく中押し手前で負けているからこそ断言できる。
進藤光はsaiではない。
それだけは確実。
しかし…どうしても頭から離れないのは…塔矢名人と進藤光の新初段シリーズ。
ふと、師のネット上での対局を観戦していて思い出すのはsaiのこと。
チャット上で確認できたのだが、少し前にものすごく久しぶりにsaiは思いだしたように出現したらしい。
日本時間の十一時半から三時。
つまり真夜中の間に。
それが何を意味するのか、彼…緒方にはわからない。
しかし、なぜだかそれがひっかかるのも…事実……


                                -第56話へー

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あとがきもどき:
薫:うにゅう。この調子だと…周囲のお話やってたら対局はまだまだ先?うにゅぅ(汗
  そういえば、これやってる最中にネオアンジェのアニメもそろそろクライマックス。
  というか、マティアス死ぬの?!じょーたい。
  小説で気のどくすぎる、といってたのがわかるような気がひしひしと。
  私のほうの二次さんは、マティアスさんは今後も活躍してもらないといけないんですけどね(苦笑
  たぶん、次の次になるかな?行洋と佐偽の対局は。
  何はともあれではまた次回にてv


さてさて、今回は佐偽が肉体を得たのちのお話をばv
世界にまきこおる佐偽旋風(笑
何はともあれ、小話、ゆくのですv

世界囲碁選手権・富士通杯。
普通はプロ棋士対象であるにしろ、アマチュアでも参加は可能。
とはいえアマの場合は地区ごとに行われる予選を通過しなければいけないのではあるが。
「しかし、私なんかが参加しててほんとにいいんですかね~?ヒカル?」
「だけど、佐偽だって世界の人たちとうってみたいっていってたし。いいんじゃない?」
いともあっさりと代表にきまってしまったのはさすが、としかいいようがない。
「ね~。美希」
「さい。がんばれ~」
二歳になった娘はたどたどしい言葉ながらもばちくりとした大きな瞳でいってくる。
全世界からたったの24名ほど抜粋されたすご腕の棋士たち。
この中でプロ資格をもたないのはおそらく佐偽のみ、である。
まあ、佐偽の場合はいつでも資格所得はみとめますよ~、と棋院のほうが打診してきてはいるのだが…
何しろ世界各国から佐偽をぜひとも自国の棋士に!
という動きがあればなおさらに。
それでも、その二十四名の中にヒカル、そして佐偽。
さらにはアキラと行洋が入り混じっているのはさすがとしかいいようがない。
佐偽がでることを聞きつけた行洋も一般にまじって参加してもののみごとに勝ち抜いた。
日本からでたのであれば佐偽と本戦であたらない、と踏んだ行洋が中国に働きかけて実現したのだが。
その執念はおしてしるべし。
ネット上の最強の棋士、saiが出る、というのでこのたびの富士通杯は世界的にも盛り上がっている。
しかもすべて中押しで勝ち進んで入ればなおさら、である。
その容姿からしても大衆することうけおいな佐偽である。
注目をあびないほうがどうかしている。
時間があれば我先に、と一人でもおおく佐偽に対局の申込が殺到しているこの状態。
何しろかなり目をひく夫婦というか家族である。
それゆえに、日本の最強夫婦!として取り上げる雑誌などもすくなくない。
やはり、というか決勝戦に勝ち進んだのは、佐偽と行洋。
決勝戦は一番勝負で執り行われ、そして持ち時間は三時間である。
「何か、あのときの一局おもいだすよね。佐偽」
「そうですね。あのときはネット上で、でしたけど」
コミは六目半。
秒読みは残り十分から。
この世界にほこる最強棋士同士の対局を世界が息をころして見守っているのも事実。
それでも上位三名を日本が独占、という形になってしまっているのはさすがであろう。
ちなみに、ヒカルとアキラは三位どまりであり、アキラは父にまけ、ヒカルは佐偽にまけたのだが。
夫婦、親子対決!といって三位戦のときには騒がれたものである。
「本当。佐偽さんも棋士になればいいのにね~」
「だけど、それやったら佐偽がぜったい全部のタイトルとるよ?」
「…それも怖いかも……」
ヒカルの言葉が冗談ではなく本気になりそうなので笑い飛ばせない。
父、塔矢行洋も佐偽の復活をしり、より高みにのぼり明からみても信じられないほどに力を伸ばしている。
気力や精神面、というものはどうしても手筋に影響する。
ましてや絶対に手合せしたく、負けられない相手がでてくればなおさらに。
のんびりとそんな会話をしつつも、主賓席において二人の対局を見守るヒカルとアキラとそして美希。
今、これより初、ともいえる世界公認の公式手合いの中、佐偽と行洋の一局が執り行われてゆく。
そして、これは世界にさらに旋風をまきおこす布石になる、ということを誰もが理解している一局でもあるのだ。
だが、人々は知らない。
この一局は古の伝説の棋聖、とよばれている本因坊秀策と現代の最高の打ちて、
といわれてはばからない人物の対局である、ということは……


以上、小話、でしたv
上記、アマチュアも参加可能なのかは本当はわかりません。
ですけど、まあ地区予選がある、みたいなことがかかれていたのであえてそうしてみたり(笑
ではでは~♪

2008年9月8日(月)某日

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